特許第6242611号(P6242611)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242611
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】界面活性剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/02 20060101AFI20171127BHJP
   B01F 17/42 20060101ALI20171127BHJP
   B01F 17/02 20060101ALI20171127BHJP
   B01F 17/14 20060101ALI20171127BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20171127BHJP
   C08F 2/30 20060101ALI20171127BHJP
   C08F 2/20 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   C08L71/02
   B01F17/42
   B01F17/02
   B01F17/14
   C08K5/06
   C08F2/30 Z
   C08F2/20
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-139985(P2013-139985)
(22)【出願日】2013年7月3日
(65)【公開番号】特開2015-13921(P2015-13921A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100124707
【弁理士】
【氏名又は名称】夫 世進
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 亜沙子
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−249391(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/108588(WO,A1)
【文献】 特開平06−248005(JP,A)
【文献】 特開平04−055401(JP,A)
【文献】 特開平04−053802(JP,A)
【文献】 特開平04−050204(JP,A)
【文献】 特開2013−245239(JP,A)
【文献】 特開2005−023263(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/058046(WO,A1)
【文献】 特開昭63−240932(JP,A)
【文献】 特開昭63−023726(JP,A)
【文献】 特表2000−500796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 17/42
B01F 17/44
C08F 2/20
C08F 2/30
C08L 71/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される反応性界面活性剤(X)1種又は2種以上と、下記一般式(II)で表される多官能性化合物(Y)1種又は2種以上とを含有することを特徴とする界面活性剤組成物。
【化1】
【化2】
但し、一般式(I)及び一般式(II)中、Dは下記化学式D−1又はD−2のいずれかで表される重合性の不飽和基を表し、これらの式中、Rは水素原子又はメチル基を表し;Aは炭素数2〜4のアルキレン基又は置換アルキレン基を表し;Tは、水素原子、又は(CH)a−SOM、−(CH−COOM、−PO、−P(U)OM、及び−CO−CH−CH(SOM)−COOMから選択されたアニオン性親水基を表し;n1は、Tが水素原子の場合10〜1,000の範囲にある付加モル数を表し、Tがアニオン性親水基の場合3〜1,000の範囲にある付加モル数を表し、n2は0〜1,000の範囲にある付加モル数を表し、(AO)n1鎖部分はオキシエチレン基を70〜100モル%含有する(ポリ)オキシアルキレン鎖であり、これらの式中、a及びbはそれぞれ0〜4の数を表し、Uは前記一般式(I)又は一般式(II)からTを除いた残基を表し、Mはそれぞれ、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム残基、又はアルカノールアミン残基を表し;一般式(I)中、m1は1〜2の範囲にある置換基数を表し、m2は1〜3の範囲にある置換基数を表し;一般式(II)中、m3は2〜3の範囲にある置換基数を表す。
【化3】
【請求項2】
前記一般式(I)で表される反応性界面活性剤(X)と前記一般式(II)で表される多官能性化合物(Y)とに含まれる、前記化学式D−1により表される重合性の不飽和基と前記化学式D−2により表される重合性の不飽和基とのモル比である(D−1)/(D−2)の値が2より大きいことを特徴とする、請求項1に記載の界面活性剤組成物。
【請求項3】
前記一般式(I)で表される反応性界面活性剤(X)に含まれる、前記化学式D−1により表される重合性の不飽和基と前記化学式D−2により表される重合性の不飽和基とのモル比である(D−1)/(D−2)の値が2より大きく、かつ前記一般式(II)で表される多官能性化合物(Y)に含まれる、前記化学式D−1により表される重合性の不飽和基と前記化学式D−2により表される重合性の不飽和基とのモル比である(D−1)/(D−2)の値が2より大きいことを特徴とする、請求項2に記載の界面活性剤組成物。
【請求項4】
前記反応性界面活性剤(X)の総含有量に対する多官能性化合物(Y)の総含有量の割合(Y/X)が質量比でY/X=1/1〜1/100の範囲内であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の界面活性剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の界面活性剤組成物を含有してなることを特徴とする乳化重合用乳化剤。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の界面活性剤組成物を含有してなることを特徴とする懸濁重合用分散剤。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の界面活性剤組成物を含有してなることを特徴とする非水系分散剤。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の界面活性剤組成物を含有してなることを特徴とする樹脂改質剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル重合性基を有する反応性界面活性剤を含有してなる界面活性剤組成物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
界面活性剤は、乳化、分散、洗浄、湿潤、起泡等の幅広い性能を有している。それらの諸性能を利用して、従来から塗料、印刷インキ、接着剤等の製品の製造時に使用され、また製品の安定化や作業性等の点で欠かすことができない成分として製品中に含有されている。特に最近は界面活性剤を使用した末端商品の高性能化への動きが活発化してきているが、それに伴って、界面活性剤に起因する塗膜、印刷面、接着皮膜等の耐水性等の性能の悪化が指摘されている。
【0003】
例えば、乳化重合用乳化剤としては、従来から石けん類やドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルやポリオキシエチレンアルキルエーテル等の非イオン性界面活性剤が利用されているが、これらの乳化剤を用いたポリマーディスパージョンから得られたポリマーフィルムでは、使用した乳化剤が遊離の状態でポリマーフィルム中に残留するため、フィルムの耐水性や接着性が劣る等の問題点がある。また、懸濁重合において製造されたポリマーにおいても、懸濁重合用分散剤による同様の現象が指摘されている。そこで、上記の問題点の改善策として、共重合性の不飽和基を有する反応性界面活性剤が数多く提案されている(例えば特許文献1〜3)。
【0004】
しかしながら、従来技術で提案されている、共重合性の不飽和基としてアクリル基又はメタクリル基を有する反応性乳化剤は、モノマーとの共重合性は優れているものの、乳化重合時の重合安定性が悪化するという問題を有する。例えば、乳化重合中の凝集物が多く、生成粒子が粗く、経時的安定性が劣る等の問題点を有している。共重合性の不飽和基としてアリル基を有する反応性乳化剤は、モノマー種や重合条件により、反応性乳化剤とモノマーとの共重合性が劣る場合があり、ポリマーディスパージョンから得られたポリマーフィルムも、耐水性、接着性において充分満足し得るものが得られないという問題や、ポリマーディスパージョンの泡立ちから工程トラブルを引き起こすといった問題を残している。特に乳化重合時のモノマーとしてスチレンを含む場合に上記問題を生じることが多く、商業生産においてこれらの問題の改善が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−183998公報
【特許文献2】特開昭63−319035公報
【特許文献3】特開平04−050204公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、乳化体や分散体の泡立ちを抑制し、例えば乳化重合用乳化剤として使用した場合に、重合安定性が高く、塗膜、印刷面、接着皮膜等の耐水性等の諸特性をより向上させうる、反応性界面活性剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の反応性界面活性剤組成物は、下記の一般式(I)で表される反応性界面活性剤(X)1種又は2種以上と、下記の一般式(II)で表される多官能性化合物(Y)1種又は2種以上を含有するものとする。
【化1】
【化2】
【0008】
但し、一般式(I)及び一般式(II)中、Dは下記化学式D−1又はD−2のいずれかで表される重合性の不飽和基を表し、これらの式中、Rは水素原子又はメチル基を表し;Aは炭素数2〜4のアルキレン基又は置換アルキレン基を表し;Tは、水素原子、又は(CH)a−SOM、−(CH−COOM、−PO、−P(U)OM、及び−CO−CH−CH(SOM)−COOMから選択されたアニオン性親水基を表し、n1は、Tが水素原子の場合10〜1,000の範囲にある付加モル数を表し、Tがアニオン性親水基の場合3〜1,000の範囲にある付加モル数を表し、n2は0〜1,000の範囲にある付加モル数を表し、(AO)n1鎖部分はオキシエチレン基を70〜100モル%含有する(ポリ)オキシアルキレン鎖であり、これらの式中、a及びbはそれぞれ0〜4の数を表し、Uは前記一般式(I)又は一般式(II)からTを除いた残基を表し、Mはそれぞれ、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム残基、又はアルカノールアミン残基を表し;一般式(I)中、m1は1〜2の範囲にある置換基数を表し、m2は1〜3の範囲にある置換基数を表し;一般式(II)中、m3は2〜3の範囲にある置換基数を表す。
【化3】
【0009】
上記本発明の界面活性剤組成物において、一般式(I)で表される反応性界面活性剤(X)と一般式(II)で表される多官能性化合物(Y)とに含まれる、化学式D−1により表される重合性の不飽和基と化学式D−2により表される重合性の不飽和基は、両者のモル比である(D−1)/(D−2)の値が2より大きいことが好ましい。
【0010】
また、一般式(I)で表される反応性界面活性剤(X)に含まれる、化学式D−1により表される重合性の不飽和基と化学式D−2により表される重合性の不飽和基とのモル比である(D−1)/(D−2)の値が2より大きく、かつ一般式(II)で表される多官能性化合物(Y)に含まれる、化学式D−1により表される重合性の不飽和基と化学式D−2により表される重合性の不飽和基とのモル比である(D−1)/(D−2)の値が2より大きいことがより好ましい。
【0011】
上記反応性界面活性剤(X)の総使用量に対する多官能性化合物(Y)の総使用量の割合(Y/X)が質量比でY/X=1/1〜1/100の範囲であるものが好適に用いられる。
【0012】
本発明の界面活性剤組成物は、例えば、乳化重合用乳化剤、懸濁重合用分散剤、非水系分散剤、樹脂改質剤として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、界面活性剤に起因する乳化体や分散体の泡立ちを抑制し、また塗膜、印刷面、接着皮膜等の耐水性等の諸特性を著しく向上させることができるため、乳化重合用乳化剤、懸濁重合用分散剤、非水系分散剤、樹脂改質剤等に好適に用いられる界面活性剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の形態について以下に説明する。
【0015】
[反応性界面活性剤(X)]
本発明で使用する反応性界面活性剤(X)次の一般式(I)で表され、式(I)中、Dは下記化学式D−1又はD−2のいずれかで表される重合性の不飽和基を表し、これらの式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。
【化4】
【化5】
【0016】
化学式D−1及びD−2におけるRは水素原子又はメチル基を表すので、Dは具体的には、1−プロペニル基又は2−メチル−1−プロペニル基又は(メタ)アリル基を表す。Dとしては、これら1−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、又は(メタ)アリル基がいずれか単独で存在していてもよく、混合物として存在していてもよいが、1−プロペニル基であることが好ましい。
【0017】
上記化学式D−1及び化学式D−2で表される基Dの置換基数m1は、平均値で1〜2の範囲内にあることが好ましい。上記Dの置換基数を表すm1が1の場合のDの置換位置はオルト位(2位又は6位)であることが好ましく、上記Dの置換基数を表すm1が2の場合のDの置換位置はオルト位及びパラ位(2位又は6位と4位)であることが好ましい。また、化学式D−1で表される基と化学式D−2で表される基とのモル比である(D−1)/(D−2)の値が2より大きいことが好ましい。
【0018】
また、置換基数m2は平均値で1〜3の範囲にあることが好ましく、1〜2の範囲にあることがより好ましい。
【0019】
また、一般式(I)における(AO)n1鎖部分は、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドとして、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン(1,4−ブチレンオキサイド)の1種又は2種以上の付加重合体であり、重合形態は特に限定されず、1種類のアルキレンオキサイドの単独重合体、2種類以上のアルキレンオキサイドのランダム共重合体、ブロック共重合体、又はそれらランダム付加体とブロック共重合の組み合わせのいずれであってもよい。
【0020】
上記アルキレンオキサイドとしてはオキシエチレン基が特に好ましい。2種類以上のアルキレンオキサイドを選択する場合には、その1種類はエチレンオキシドを選択することが好ましく、(AO)n1鎖部分は、好ましくはオキシエチレン基を50〜100モル%、より好ましくは70〜100モル%含有する(ポリ)オキシアルキレン鎖である。
【0021】
n1はアルキレンオキシドの付加モル数を表し、平均値で、0〜1,000の範囲の数であり、好ましくは0〜100の範囲の数である。より詳細には、一般式(I)におけるXが水素原子の場合には、付加モル数n1は10〜50の範囲の数であることが好ましい。また、Tがアニオン性親水性基の場合には、付加モル数nは好ましくは0〜50の範囲の数であり、より好ましくは3〜30の範囲の数である。
【0022】
一般式(I)で表わされる反応性界面活性剤(X)において、(AO)n1鎖中のオキシアルキレン基の含有量及び付加モル数n1は、界面活性剤の親水性又は疎水性の程度を可変とするが、例えば乳化重合用乳化剤として使用する場合は、目的とするポリマーディスパージョンの特性、ポリマーフィルムの特性に応じて、又は使用するモノマーや用途に応じて、(AO)n1の鎖部分の組成を適切に設計することが好ましい。
【0023】
また、一般式(I)におけるTは、水素原子、又は(CH−SOM、−(CH−COOM、−PO、−P(U)OM、−CO−CH−CH(SOM)−COOM(式中、a、bは、それぞれ0〜4の数を表し、Uは上記一般式(I)からTを除いた残基を表す。)で表されるアニオン性親水基等である。上記のアニオン性親水基を表す式(I)中、Mは水素原子、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属原子、又はアンモニウム、アルカノールアミン残基を表す。アンモニウムとしては、例えば、アンモニアのアンモニウム、又はモノメチルアミン、ジプロピルアミン等のアルキルアミンのアンモニウム等が挙げられ、アルカノールアミン残基としては、例えば、モノエタノールアミン残基、ジエタノールアミン残基、トリエタノールアミン残基等が挙げられる。これらのアニオン性親水基の中でも、−SOM、−PO又はP(U)OMで表わされる基が好ましい。なお、上記−POは、上記一般式(I)からTを除いた残基Uとのモノエステル体を表し、−P(U)OMは、上記一般式(I)からTを除いた残基Uとのジエステル体を表す。これらは、上記の如く、それぞれ単独組成で本発明に用いることもでき、混合物として本発明に用いることもできる。
【0024】
以下、本発明の反応性界面活性剤の製造方法の一連の工程について詳述する。本発明の反応性界面活性剤の中間体である、芳香環に重合性基を有するフェノール誘導体を得る方法としては、フェノールとハロゲン化アリルを公知の方法で反応させ、その後、アルカリ存在下でクライゼン転位させることにより芳香環に重合性基を有するフェノール誘導体を得る方法がある。これを中間体として、ついでアルキレンオキサイドの付加を行うことにより、目的とする非イオン性の反応性界面活性剤を得ることができる。また、更にその非イオン性の化合物を公知の方法によりアニオン性親水性基を導入して目的のアニオン性親水性基を有する反応性界面活性剤を得ることができる。なお、本発明における合成経路は特に限定されるものではなく、上記以外の方法も利用できる。以下に一連の反応工程を説明する。
【0025】
上記一般式(I)において、Dで表わされる重合性の不飽和基は、上記の如く、1−プロペニル基又は2−メチル−1−プロペニル基又は(メタ)アリル基であるが、これらのうち、(メタ)アリル基はフェノールの(メタ)アリル化反応により導入される。一方、1−プロペニル基又は2−メチル−1−プロペニル基を有するものは、スチレン化フェノールの(メタ)アリル化反応の後、アルカリの存在下で1−プロペニル基又は2−メチル−1−プロペニル基へ転位させることにより導入することができる。スチレン化フェノールの1−プロペニル基導入について、次の方法を例示するが、本発明はこの合成法に限定されるものではない。すなわち、ハロゲン化アリルとスチレン化フェノールを、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの塩基性物質とともに反応させ、更に100℃程度に加熱することにより、スチレン化アリルフェノールを得る。この段階にて、ハロゲン化アリル及び塩基性物質の量を調整することにより、スチレン化フェノールに対しアリル基の2置換体を得ることができる。以下に一般式を示して本反応をより詳細に説明する。まず、以下の反応式(i)〜(iv)に従って、スチレン化ジアリルフェノールが得られる。
【化6】
【0026】
上記反応式(i)〜(iv)で示した反応により、ジアリル体を含む反応組成物を得ることできる。これら反応組成物を水酸化アルカリの存在下で加熱することにより、アリル基が1−プロペニル基に転位して、主たる目的物のスチレン化プロペニルフェノールが得られるが、反応条件によっては未転位のスチレン化アリルフェノールを一定量含む組成物を得ることができる。
【0027】
以後、上記反応式(iv)で得られるスチレン化ジアリルフェノールを例にとって、次工程以降を説明する。得られたスチレン化ジアリルフェノールに、公知の方法で所定量のアルキレンオキシドを付加することにより、上記の通り、目的物の一つである、本発明の一般式(I)におけるDが1−プロペニル基であり、Dで表わされる重合性の不飽和基の置換基数が2であり、Tが水素原子である非イオン性の反応性界面活性剤が得られる。
【0028】
一般式(I)のTがアニオン性親水基の場合は、上記の方法で得られた化合物にさらにアニオン性親水基の導入反応を行う。アニオン性親水基を表わす式中、−(CH−SOMにおけるaが0で表わされるアニオン性親水基を導入するための反応条件は特に限定されず、例えば、スルファミン酸、硫酸、無水硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸等を反応させることにより製造することができる。また、−(CH−SOMにおいて、aが1〜4の数で表わされるアニオン性親水基を導入するための反応条件も特に限定されるものではなく、例えば、プロパンサルトン、ブタンサルトン等を反応させることにより製造できる。
【0029】
アニオン性親水基を表わす式中、−(CH−COOMで表わされるアニオン性親水基を導入するための反応条件も特に限定されず、例えば、ヒドロキシル基を酸化するか、もしくは、モノハロゲン化酢酸を反応させてカルボキシル化を行うか、又は、アクリロニトリル、アクリル酸エステルを反応させ、アルカリでケン化を行うことにより製造できる。
【0030】
アニオン性親水基を表わす式中、−PO及び/又はP(U)OM(式中、Uは上記一般式(I)からTを除いた残基を表す。)で表わされるアニオン性親水基を導入するための反応条件も特に限定されず、例えば、五酸化二リン、ポリリン酸、オルトリン酸、オキシ塩化リン等を反応させることにより製造できる。リン酸エステル基をアニオン性親水基とする場合、製造方法によってはモノエステル型の化合物とジエステル型の化合物が混合体として得られるが、これらは分離してもよいし、そのまま混合物として使用してもよい。また、水の存在下で反応させ、モノエステル化合物の含有割合を高めて使用することもできる。
【0031】
アニオン性親水基を表わす式中、−CO−CH−CH(SOM)−COOMで表されるアニオン性基を導入するための反応条件も特に限定されず、例えば無水マレイン酸を反応させてモノエステル化を行い、無水亜硫酸ナトリウムを反応させてスルホン化を行うことにより製造することができる。また、アニオン性親水化を行った場合は、その後に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリや、アンモニア、アルキルアミン又はモノエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアルカノールアミン等で中和を行ってもよい。
【0032】
但し、上記反応性界面活性剤(X)のTは、水素原子であってもよく(この場合、Xは非イオン性)、1種又は2種以上のアニオン性親水基であってもよく(この場合、Xはアニオン性)、それらの混合物であってもよい。
【0033】
なお、上記反応性界面活性剤(X)は、本発明で限定した要件を満たすものであれば市販品であっても試作品であってもよい。
【0034】
[多官能性化合物(Y)]
本発明で使用する多官能性化合物(Y)は次の一般式(II)で表され、式(II)中、Dは下記化学式D−1又はD−2のいずれかで表される重合性の不飽和基を表し、これらの式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。
【化7】
【化8】
【0035】
化学式D−1及びD−2におけるRは水素原子又はメチル基を表すので、Dは具体的には、1−プロペニル基又は2−メチル−1−プロペニル基又は(メタ)アリル基を表す。Dとしては、これら1−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、又は(メタ)アリル基がいずれか単独で存在していてもよく、混合物として存在していてもよいが、1−プロペニル基であることが好ましい。上記化学式D−1及び化学式D−2で表される基Dの数m3は、平均値で、2〜3の範囲内であることが好ましい。上記Dの置換基数を表すm3が2の場合は、Dの置換位置はオルト位(2位及び6位)であることが好ましく、上記Dの置換基数を表すm3が3の場合は、Dの置換位置はオルト位及びパラ位(2位、4位及び6位)であることが好ましい。また、化学式D−1及び化学式D−2でそれぞれ表される基は、両者のモル比である(D−1)/(D−2)の値が2より大きいことが好ましい。
【0036】
また、一般式(II)における(AO)n2鎖部分は、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドとして、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン(1,4−ブチレンオキサイド)の1種又は2種以上の付加重合体であり、重合形態は特に限定されず、1種類のアルキレンオキサイドの単独重合体、2種類以上のアルキレンオキサイドのランダム共重合体、ブロック共重合体、又はそれらランダム付加体とブロック共重合の組み合わせのいずれであってもよい。
【0037】
上記アルキレンオキサイドとしてはオキシエチレン基が特に好ましい。2種類以上のアルキレンオキサイドを選択する場合には、その1種類はエチレンオキシドを選択することが好ましく、(AO)n2鎖部分は、好ましくはオキシエチレン基を50〜100モル%、より好ましくは70〜100モル%含有する(ポリ)オキシアルキレン鎖である。
【0038】
n2はアルキレンオキシドの付加モル数を表し、平均値で、0〜1,000の範囲の数であり、好ましくは0〜100の範囲の数である。より詳細には、一般式(I)におけるXが水素原子の場合には、付加モル数n2は10〜50の範囲の数であることが好ましい。また、Tがアニオン性親水性基の場合には、付加モル数n2は好ましくは0〜50の範囲の数であり、より好ましくは3〜30の範囲の数である。
【0039】
一般式(II)で表わされる多官能性化合物(Y)において、(AO)n2鎖中のオキシエチレン基の含有量及び付加モル数n2は、乳化剤の親水性又は疎水性の程度を可変とするが、乳化重合用乳化剤として使用する場合は、目的とするポリマーディスパージョンの特性、ポリマーフィルムの特性に応じて、又は使用するモノマーや用途に応じて(AO)n2の鎖部分の組成を適切に設計することが好ましい。
【0040】
また、一般式(II)におけるTは、水素原子、又は(CH−SOM、−(CH−COOM、−PO、−P(U)OM、−CO−CH−CH(SOM)−COOM(式中、a、bは、それぞれ0〜4の数を表し、Uは上記一般式(II)からTを除いた残基を表す。)で表されるアニオン性親水基等である。上記のアニオン性親水基を表す式中、Mは水素原子、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属原子、又はアンモニウム、アルカノールアミン残基を表す。アンモニウムとしては、例えば、アンモニアのアンモニウム、又はモノメチルアミン、ジプロピルアミン等のアルキルアミンのアンモニウム等が挙げられ、アルカノールアミン残基としては、例えば、モノエタノールアミン残基、ジエタノールアミン残基、トリエタノールアミン残基等が挙げられる。これらのアニオン性親水基の中でも、−SOM、−PO又はP(U)OMで表わされる基が好ましい。なお、上記−POは、上記一般式(II)からTを除いた残基Uとのモノエステル体を表し、−P(U)OMは、上記一般式(II)からTを除いた残基Uとのジエステル体を表す。これらは、上記の如く、それぞれ単独組成で本発明に用いることもでき、混合物として本発明に用いることもできる。
【0041】
なお、上記反応性界面活性剤(X)の総使用量に対する多官能性化合物(Y)の総使用量の割合(Y/X)は、質量比でY/X=1/1〜1/100の範囲であることが好ましく、より好ましくはY/X=1/5〜1/50の範囲とする。
【0042】
上記一般式(I)において、Dで表わされる重合性の不飽和基は、上記の如く、1−プロペニル基又は2−メチル−1−プロペニル基又は(メタ)アリル基であるが、これらのうち、(メタ)アリル基はフェノールの(メタ)アリル化反応により導入される。一方、1−プロペニル基又は2−メチル−1−プロペニル基を有するものは、フェノールの(メタ)アリル化反応の後、アルカリの存在下で1−プロペニル基又は2−メチル−1−プロペニル基へ転位させることにより導入することができる。フェノールの1−プロペニル基導入について、次の方法を例示するが、本発明はこの合成法に限定されるものではない。すなわち、ハロゲン化アリルとフェノールを、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの塩基性物質とともに反応させ、更に100℃程度に加熱することにより、アリルフェノールを得る。この段階にて、ハロゲン化アリル及び塩基性物質の量を調整することにより、フェノールに対するアリル基の置換数を調整でき、2置換体を得ることができる。以下に一般式を示して本反応をより詳細に説明する。以下の反応式(v)〜(viii)に従って、ジアリルフェノールが得られる。
【化9】
【0043】
加えて、このとき、フェノール、ハロゲン化アリルの仕込み比率や触媒の量、反応温度等の反応条件を調整することにより、下記反応式(ix)の反応が進み、トリアリル体等が得られる。
【化10】
【0044】
上記反応式(v)〜(ix)に示された反応により、ジアリル体やトリアリル体等を含む反応組成物を得ることできる。これら反応組成物を水酸化アルカリの存在下で加熱することにより、アリル基が1−プロペニル基に転位して、主たる目的物のプロペニルフェノールが得られるが、反応条件によっては未転位のアリルフェノールを一定量含む組成物を得ることができる。
【0045】
以後、上記反応式(viii)で得られるジアリルフェノールを例にとって、次工程以降を説明する。得られたジアリルフェノールに、公知の方法で所定量のアルキレンオキシドを付加することにより、上記の通り、目的物の一つである、本発明の一般式(I)におけるDが1−プロペニル基であり、Dで表わされる重合性の不飽和基の置換基数が2であり、Tが水素原子である非イオン性の反応性界面活性剤が得られる。
【0046】
一般式(I)のTがアニオン性親水基の場合は、上記の方法で得られた化合物にさらにアニオン性親水基の導入反応を行う。アニオン性親水基を表わす式中、−(CH−SOMにおけるaが0で表わされるアニオン性親水基を導入するための反応条件は特に限定されず、例えば、スルファミン酸、硫酸、無水硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸等を反応させることにより製造することができる。また、−(CH−SOMにおいて、aが1〜4の数で表わされるアニオン性親水基を導入するための反応条件も特に限定されるものではなく、例えば、プロパンサルトン、ブタンサルトン等を反応させることにより製造できる。
【0047】
アニオン性親水基を表わす式中、−(CH−COOMで表わされるアニオン性親水基を導入するための反応条件も特に限定されず、例えば、ヒドロキシル基を酸化するか、もしくは、モノハロゲン化酢酸を反応させてカルボキシル化を行うか、又は、アクリロニトリル、アクリル酸エステルを反応させ、アルカリでケン化を行うことにより製造できる。
【0048】
アニオン性親水基を表わす式中、−PO及び/又はP(U)OM(式中、Uは上記一般式(I)からTを除いた残基を表す。)で表わされるアニオン性親水基を導入するための反応条件も特に限定されず、例えば、五酸化二リン、ポリリン酸、オルトリン酸、オキシ塩化リン等を反応させることにより製造できる。リン酸エステル基をアニオン性親水基とする場合、製造方法によってはモノエステル型の化合物とジエステル型の化合物が混合体として得られるが、これらは分離してもよいし、そのまま混合物として使用してもよい。また、水の存在下で反応させ、モノエステル化合物の含有割合を高めて使用することもできる。
【0049】
アニオン性親水基を表わす式中、−CO−CH−CH(SOM)−COOMで表されるアニオン性基を導入するための反応条件も特に限定されず、例えば無水マレイン酸を反応させてモノエステル化を行い、無水亜硫酸ナトリウムを反応させてスルホン化を行うことにより製造することができる。また、アニオン性親水化を行った場合は、その後に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリや、アンモニア、アルキルアミン又はモノエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアルカノールアミン等で中和を行ってもよい。
【0050】
また、上記多官能性化合物(Y)の親水基は非イオン性であってもよく、アニオン性であってもよく、カチオン性であってもよい。また、それらを任意の配合比で混合して使用することができる。
【0051】
本発明の界面活性剤組成物は、従来の反応性界面活性剤が用いられる用途である乳化重合用乳化剤、懸濁重合用乳化剤、樹脂改質剤(撥水性向上、親水性調整、相溶性向上、帯電防止性向上、防曇性向上、耐水性向上、年接着性向上、染色性向上、造膜性向上、耐候性向上、耐ブロッキング性向上等)、繊維加工助剤等に使用することができる。
【0052】
本発明の界面活性剤組成物を乳化重合用乳化剤として使用する場合、従来の乳化重合を行う方法を特に限定なく用いることができ、モノマーの投入方法にもとづいて分類される一括重合法、モノマー滴下法、エマルション滴下法、シード重合法、多段階重合法、パワーフィード重合法などから適宜選択することができる。また、使用される重合開始剤は特に限定されず、例えば、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキシド等を使用できる。重合促進剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、硫酸第1鉄アンモニウム等が使用できる。また、連鎖移動剤として、α−メチルスチレンダイマー、n−ブチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類、四塩化炭素、四臭化炭素などのハロゲン化炭化水素などを用いてもよい。
【0053】
また、本発明の界面活性剤組成物を用いた乳化重合に適用されるモノマーは特に限定されず、種々のものに適用可能である。例えばアクリレート系エマルション、スチレン系エマルション、酢酸ビニル系エマルション、SBR(スチレン/ブタジエン)エマルション、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン)エマルション、BR(ブタジエン)エマルション、IR(イソプレン)エマルション、NBR(アクリロニトリル/ブタジエン)エマルション等の製造に使用でき、2種以上のモノマーを混合して乳化重合することもできる。
【0054】
(メタ)アクリレート系エマルションを構成するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル)同士、(メタ)アクリル酸(エステル)/スチレン、(メタ)アクリル酸エステル)/酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル)/アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸(エステル)/ブタジエン、(メタ)アクリル酸(エステル)/塩化ビニリデン、(メタ)アクリル酸(エステル)/アリルアミン、(メタ)アクリル酸(エステル)/ビニルビリジン、(メタ)アクリル酸(エステル)/(メタ)アクリル酸アルキロールアミド、(メタ)アクリル酸(エステル)/N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸(エステル)/N,N−ジエチルアミノエチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0055】
スチレン系エマルションのモノマーとしては、スチレン単独の他、例えば、スチレン/アクリロニトリル、スチレン/ブタジエン、スチレン/フマルニトリル、スチレン/マレインニトリル、スチレン/シアノアクリル酸エステル、スチレン/酢酸フェニルビニル、スチレン/クロロメチルスチレン、スチレン/ジクロロスチレン、スチレン/ビニルカルバゾール、スチレン/N,N−ジフェニルアクリルアミド、スチレン/メチルスチレン、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン、スチレン/アクリロニトリル/メチルスチレン、スチレン/アクリロニトリル/ビニルカルバゾール、スチレン/マレイン酸等が挙げられる。
【0056】
酢酸ビニル系エマルションのモノマーとしては、酢酸ビニル単独の他、例えば、酢酸ビニル/スチレン、酢酸ビニル/塩化ビニル、酢酸ビニル/アクリロニトリル、酢酸ビニル/マレイン酸(エステル)、酢酸ビニル/フマル酸(エステル)、酢酸ビニル/エチレン、酢酸ビニル/プロピレン、酢酸ビニル/イソブチレン、酢酸ビニル/塩化ビニリデン、酢酸ビニル/シクロペンタジエン、酢酸ビニル/クロトン酸、酢酸ビニル/アクロレイン、酢酸ビニル/アルキルビニルエーテル、VeoVa9(MOMENTIVE製 ネオノナン酸ビニルエステル)、VeoVa10(MOMENTIVE製 ネオデカン酸ビニルエステル)等が挙げられる。
【0057】
ハロゲン化オレフィン系の重合に供されるモノマーとしては、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化ビニル/マレイン酸(エステル)、塩化ビニル/フマル酸(エステル)、塩化ビニル/酢酸ビニル、塩化ビニル/塩化ビニリデン、塩化ビニリデン/酢酸ビニル、塩化ビニリデン/安息香酸ビニル等が挙げられる。
【0058】
フッ素含有モノマーとしては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン、パーフルオロブチルエチレン、2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロブチ)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート等が挙げられる。
【0059】
これらのモノマーは1種のみ使用してもよく、2種以上使用してもよい。なお、本明細書で上記のようにモノマーについて「A/B」等と記載するときは、「/」でつながれたそれら一群のモノマーの併用を表すものとする。
【0060】
また、乳化重合時の重合安定性の向上や後工程における顔料、フィラー類の混和性向上、基材へのぬれ性向上などを意図して、本発明で解決すべき課題に対して悪影響を及ぼさない範囲でラジカル重合性の重合性基を持たない一般的な界面活性剤の1種又は2種以上を併用することもできる。併用する界面活性剤は特に限定されないが、例えば、非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンベンジル化フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンクミルフェニルエーテル、脂肪酸ポリエチレングリコールエーテル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられ、アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸セッケン、ロジン酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩の他、上記ポリオキシアルキレン鎖を有する非イオン界面活性剤の硫酸エステル塩、リン酸エステル塩、エーテルカルボン酸塩、スルホ琥珀酸塩等も好適に使用できる。また、カチオン性界面活性剤としては、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、セチルトリメチルアンモニウム塩、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0061】
さらに、乳化重合時の重合安定性を向上させる目的で、公知の保護コロイド剤を併用することができる。併用できる保護コロイド剤の一例としては、完全けん化ポリビニルアルコール(PVA)、部分けん化PVA、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0062】
また、重合開始剤の種類及びその添加量は特に限定されないが、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩が望ましく、過酸化水素、過酸化ベンゾイルなどの過酸化物を用いることができる。また、必要に応じて、低い温度で重合反応を開始できるレドックス系重合開始剤として、過硫酸塩とアルカリ金属の亜硫酸塩、重亜硫酸塩などの還元剤を組み合わせて用いることもできる。
【0063】
また、本発明で解決すべき課題に対して悪影響を及ぼさない範囲、必要に応じて、乳化重合工程において使用される分子量調整剤を適宜使用することができる。分子量調整剤としては、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、チオサリチル酸等のメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルチウラムジスルフィド等のスルフィド類、ヨードホルム等のハロゲン化炭化水素、ジフェニルエチレン、p−クロロジフェニルエチレン、p−シアノジフェニルエチレン、α−メチルスチレンダイマー等を用いることができる。
【0064】
上記のように本発明の界面活性剤組成物を乳化重合用乳化剤として使用する場合、得られるポリマーディスパージョンは、常法に従い、塗料や粘着剤としての塗膜形成や沈殿剤による固形ポリマーの回収に用いられる。すなわち、得られたポリマーディスパージョンを、常温下、或いは必要に応じて加熱により乾燥させることによりポリマーフィルムが得られる。また、沈殿剤として従来から使用されている酸や塩を添加し、撹拌して、ポリマーを凝集させ、ろ過等を行うことにより、固形ポリマーの回収を行うことができる。
【0065】
本発明の界面活性剤組成物は、上記のように乳化重合用乳化剤として使用する以外に、懸濁重合用分散剤、非水系分散剤、樹脂改質剤等に広く使用可能である。その場合の適用対象、使用方法、使用量等は特に限定されず、従来技術に準じて決定すればよい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例により限定されるものではない。なお、文中「%」等の割合は、特に記載がない限り質量基準である。また、構造式中、EOはオキシエチレン基を、POはオキシプロピレン基を表す。
【0067】
1.反応性界面活性剤(X)
実施例で用いる反応性界面活性剤(X)を以下の条件にて合成した。
【0068】
(反応性界面活性剤の合成例1)
撹拌機、温度計、還流管を備えた反応容器に、スチレン化フェノール(モノスチレン化フェノール:ジスチレン化フェノール:トリスチレン化フェノール=72:27:1の混合物)230g(1.0モル)、NaOH40g(1.0モル)およびアセトン210gを仕込み、撹拌しながら内温を40℃に昇温した。次にアリルクロライド76g(1.0モル)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに40℃に2時間保ち、反応を行った。反応生成物を濾過し、副生したNaClを除去した後、減圧下にアセトンを除去し、アリルスチレン化フェニルエーテル314gを得た。このスチレン化アリルフェニルエーテルをオートクレーブに仕込み、200℃で5時間撹拌保持した。この段階で転位反応が起こり、スチレン化アリルフェノールとした。このスチレン化アリルフェノール290gをオートクレーブに移し、水酸化カリウムを触媒とし、圧力1.5kg/cm、温度130℃の条件にて、エチレンオキサイド2200g(50モル)を付加させて、下記構造式で表される反応性界面活性剤〔1〕を得た。
【化11】
【0069】
(反応性界面活性剤の合成例2)
アリルクロライドの量を76g(1.0モル)から91g(1.2モル)に増やし、エチレンオキサイドの量を880g(20モル)から440g(10モル)に減らした他は反応性界面活性剤の合成例1に準じて反応を行い、中間体Aを得た。次にこの中間体Aの730g(1モル)を、撹拌機、温度計、還流管を備えた反応容器に仕込み、反応装置内の雰囲気を窒素で置換後、温度110℃の条件にてスルファミン酸97g(1モル)を反応させた後、精製して下記構造式で表される反応性界面活性剤〔2〕を得た。
【化12】
【0070】
(反応性界面活性剤の合成例3)
撹拌機、温度計、還流管を備えた反応容器に上記中間体A730g(1モル)と無水リン酸94g(0.33モル)を仕込み、撹拌しながら80℃で5時間リン酸化を行った後、苛性ソーダで中和して、下記構造式で表されるモノエステルとジエステルの混合物である反応性界面活性剤〔3〕を得た。本組成物をNMRにて確認したところ、モノエステル/ジエステルの比率は51/49であった。
【化13】
【0071】
(反応性界面活性剤の合成例4)
撹拌機、温度計、還流管を備えた反応容器に上記中間体A730g(1モル)を仕込んだ。次に撹拌しながらモノクロル酢酸ナトリウム128g(1.1モル)及び水酸化ナトリウム44g(1.1モル)を40℃にした反応容器内に3時間をかけて添加した。その後、40℃にて撹拌しながら17時間反応させた後、精製して下記構造式で表される反応性界面活性剤〔4〕を得た。
【化14】
【0072】
(反応性界面活性剤の合成例5)
エチレンオキサイド440g(10モル)を付加させる前に、プロピレンオキサイド175g(3モル)を先に付加させた以外は反応性界面活性剤〔2〕に準じて反応を行い、次の一般式(I)で表される反応性界面活性剤〔5〕を得た。
【化15】
【0073】
2.多官能性化合物(Y)
以下の条件にて合成した多官能性化合物を供試した。
【0074】
(多官能性化合物の合成例1)
撹拌機、温度計、還流管を備えた反応容器に、フェノール94g(1.0モル)、NaOH40g(1.0モル)およびアセトン210gを仕込み、撹拌しながら内温を40℃に昇温した。次にアリルクロライド152g(2.0モル)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに40℃に2時間保ち、反応を行った。反応生成物を濾過し、副生したNaClを除去した後、減圧下にアセトンを除去し、アリルフェニルエーテル134gを得た。このアリルフェニルエーテルをオートクレーブに仕込み、200℃で5時間撹拌保持した。この段階で転位反応が起こり、2−アリルフェノールとした。この2−アリルフェノール134gをオートクレーブに移し、水酸化カリウムを触媒とし、圧力1.5kg/cm、温度130℃の条件にて、エチレンオキサイド44g(1モル)を付加させて、下記構造式で表される多官能性化合物〔1〕を得た。
【化16】
【0075】
(多官能性化合物の合成例2)
エチレンオキサイドの量を44g(1モル)から440g(10モル)に増やした他は、多官能性化合物の合成例1に準じて次の一般式(II)で表される多官能性化合物〔2〕を得た。
【化17】
【0076】
(多官能性化合物の合成例3)
エチレンオキサイドの量を44g(1モル)から2200g(50モル)に増やした他は、多官能性化合物の合成例1に準じて次の一般式(II)で表される多官能性化合物〔3〕を得た。
【化18】
【0077】
(多官能性化合物の合成例4)
撹拌機、温度計、還流管を備えた反応容器に、多官能性化合物の合成例2で得られた多官能性化合物〔2〕614g(1モル)を仕込み、反応装置内の雰囲気を窒素で置換後、温度110℃の条件にてスルファミン酸97g(1モル)を反応させた後、精製して次の一般式(II)で表される多官能性化合物〔4〕を得た。
【化19】
【0078】
(多官能性化合物の合成例5)
アリルクロライドの量を152g(2モル)から228g(3モル)に増やした他は、多官能性化合物の合成例4に準じて次の一般式(II)で表される多官能性化合物〔5〕を得た。
【化20】
【0079】
(多官能性化合物の合成例6)
撹拌機、温度計、還流管を備えた反応容器に、多官能性化合物の合成例2で得られた多官能性化合物〔2〕614g(1モル)を仕込んだ。これを撹拌しながら無水リン酸94g(0.33モル)を仕込み、撹拌しながら80℃で5時間リン酸化を行った。苛性ソーダで中和して、次の一般式(II)で表される多官能性化合物〔6〕を得た。本組成物をNMRにて確認したところ、モノエステル/ジエステルの比率は51/49であった。
【化21】
【0080】
(多官能性化合物の合成例7)
エチレンオキサイド440g(10モル)を付加させる前に、プロピレンオキサイド175g(3モル)を先に付加させた以外は多官能性化合物〔4〕に準じて反応を行い、次の一般式(II)で表される反応性界面活性剤〔7〕を得た。
【化22】
【0081】
3.ポリマーディスパージョンの調製
(使用例1)スチレン/アクリル酸ブチル系ポリマーディスパージョンの調製
モノマーとしてスチレン123.75g、アクリル酸ブチル123.75g、アクリル酸2.5gを、表1に示した量の反応性界面活性剤及び多官能性化合物及びイオン交換水105gをホモミキサーで混合して混合モノマー乳濁液を調製した。これとは別に、撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管及び滴下漏斗を備えた反応器に、イオン交換水122g、炭酸水素ナトリウム0.25gを仕込んだ。滴下漏斗に上記事前調製した混合モノマー乳濁液のうち36gを仕込み、反応器に一括添加し、80℃に昇温させた。その後、15分間撹拌を継続した後に、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5gをイオン交換水20gに溶解して加えて重合を開始させた。次いで、重合開始剤の添加15分後より3時間かけて、混合モノマー乳濁液の残りの324gを滴下して重合させた。さらに、続けて2時間熟成した後、冷却してアンモニア水でpHを8に調整して本発明の評価実験に供するポリマーディスパージョンを得た。
【0082】
(使用例2)アクリル酸2−エチルヘキシル/アクリル酸ブチル系ポリマーディスパージョンの調製
上記使用例1において、モノマー成分のうち、スチレンをアクリル酸2−エチルヘキシルに変更した以外は使用例1と同様の操作で乳化重合を行い、本発明の評価実験に供試するポリマーディスパージョンを得た。
【0083】
4.ポリマーディスパージョン及びそのポリマーフィルムの評価試験
上記使用例1及び使用例2の各実施例及び比較例において得られたポリマーディスパージョン及びポリマーフィルムについて、以下の評価試験を行った。使用例1の結果を表1に、使用例2の結果を表2に示す。
【0084】
(1)ポリマーディスパージョン評価
[重合安定性]
ポリマーディスパージョンを80メッシュの金網で乳化重合工程中に生成した凝集物をろ過して、ろ過残渣を水洗後、105℃で2時間乾燥し、その質量をディスパージョンの固形分に対する割合(wt%)で示した。なお、本測定において凝集物量が小さい程、乳化重合工程における重合安定性が高いことを意味する。
【0085】
[平均粒子径]
ポリマーディスパージョンの一部を取り、動的光散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、製品名MICROTRAC UPA9340)にて粒子径を測定した。
【0086】
[機械的安定性]
ポリマーディスパージョンの50gを秤取し、マーロン型試験機にて荷重10kg、回転数1,000rpmで5分間処理し、生成した凝集物を80メッシュの金網でろ過し、残渣を水洗後、105℃で2時間乾燥し、その質量をディスパージョンの固形分に対する割合(wt%)で示した。なお、本測定において凝集物量が小さいほど、高せん断条件下におけるポリマーディスパージョンの安定性が高いことを意味する。
【0087】
[消泡性]
ポリマーディスパージョンを水で2倍に希釈したもの30mlを100mlネスラー管に入れ、30回倒立させてから静置して5分後における泡の量(ml)を測定した。
【0088】
[反応性界面活性剤の共重合率]
ポリマーディスパージョンの一定量を秤取し、過剰のメタノールを加えた。このメタノール希釈溶液の遠心分離処理を行い、ポリマーと上澄み液に分けた。次いでその上澄みを回収し、減圧蒸留後に得られた残渣のHPLC測定から反応性界面活性剤の共重合率を測定した。
【0089】
(2)ポリマーフィルム評価
[耐水白化性]
得られたポリマーディスパージョンを市販のガラス板に膜厚120μm(dry)になるように塗布し、20℃×65%RHの雰囲気下で24時間乾燥させたものを60℃のイオン交換水に浸漬し、12ポイントの印刷文字の上にガラス板を置き、ポリマーフィルムを通して文字を透かして見たときに、その文字が見えなくなるまでの日数を測定した。その結果を、以下の基準に基づいて評価した。
◎ : 10日以上
○ : 5日以上10日未満
△ : 1日以上5日未満
× : 1日未満
【0090】
[吸水率](使用例1のみ)
得られたポリマーディスパージョンを市販のガラス板に膜厚120μm(dry)になるように塗布し、20℃×65%RHの雰囲気下で24時間乾燥させ、ポリマーフィルムをガラス板から注意深く剥がし、そのポリマーフィルムを5cm×5cmの大きさに切り出し、ポリマーフィルム質量(初期質量)を測定した。次いで、これを60℃のイオン交換水に浸漬し、48時間後、水からポリマーフィルムを取り出し、表面の水分を清浄なろ紙で軽くふき取った後、ポリマーフィルム質量(浸漬後質量)を測定し、下記計算式にてフィルムの吸水率を求めた。
吸水率(wt%)={(浸漬後ポリマーフィルム質量−初期ポリマーフィルム質量)/初期ポリマーフィルム質量}×100
【0091】
[耐水粘着保持力](使用例2のみ)
5cm幅に切ったPETフィルム上に使用例2において得られたポリマーディスパージョンを25μm(dry)の厚さに塗工し、熱処理した後SUS板に貼り付け、ローラ圧着した。20℃、60%RH環境下で24時間静置後、25℃環境下で24時間イオン交換水に浸漬した後に取り出した。その後、接着面が5cm×5cmとなるようにフィルムを剥がし、フィルムの端に200gの錘を吊り下げて、錘が落下するまでの時間(秒)を測定した。その結果を、以下の基準に基づいて評価した。
◎ : 360秒以上
○ : 300秒以上360秒未満
△ : 240秒以上300秒未満
× : 240秒未満
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
表1,2に示された結果から、反応性界面活性剤(X)と多官能性化合物(Y)とを併用した各実施例では、消泡性に優れ、重合安定性や機械的安定性の高いポリマーディスパージョンが得られ、またそのポリマーディスパージョンから得られるポリマーフィルムは耐水性に優れることが分かる。