特許第6242616号(P6242616)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242616
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】抵抗溶接用電極
(51)【国際特許分類】
   B22F 5/00 20060101AFI20171127BHJP
   B23K 11/30 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   B22F5/00 J
   B23K11/30 320
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-142198(P2013-142198)
(22)【出願日】2013年7月6日
(65)【公開番号】特開2015-14036(P2015-14036A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年6月10日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229173
【氏名又は名称】日本タングステン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】毛利 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】三島 彰
(72)【発明者】
【氏名】上野 修司
(72)【発明者】
【氏名】向江 信悟
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−066483(JP,A)
【文献】 特開平04−004984(JP,A)
【文献】 特開平01−096063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00〜8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも被溶接材と接触する部分を、
周期律表の4a〜6a族金属の炭化物、窒化物、ホウ化物のいずれか1種または2種以上の混合物または相互の固溶体を90体積%以上100体積%以下と、タングステンまたはモリブデンを合計で5体積%未満(0体積%を除く)とを含む焼結体であって、前記タングステンまたはモリブデンが金属として存在している焼結体で構成した抵抗溶接用電極。
【請求項2】
前記焼結体が、さらに焼結助剤を10体積%以下(0体積%を除く)含む、請求項1に記
載の抵抗溶接用電極。
【請求項3】
スポット溶接、プロジェクション溶接、熱カシメ、シーム溶接、突合せ溶接のいずれかの
方法で、アルミニウム、銅、マグネシウム、チタン、真鍮、メッキ鋼板のいずれかの抵抗
溶接に使用する請求項1から請求項2のいずれか1項に記載の抵抗溶接用電極の使用方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の電極間に挟まれた2以上の部材に通電することにより、2以上の部材の材料自体や界面の高い電気抵抗を利用して溶接を行なう「抵抗溶接」に用いる抵抗溶接用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗溶接用の電極(以下、単に「電極」とも表現する)としては、現在までに様々な材質が提案されている。
【0003】
抵抗溶接用電極として最も用いられる機会が多いのは、クロム銅、アルミナ分散銅、ベリリウム銅などの銅合金である。銅合金は、電気抵抗率が極めて低く、また熱伝導率が高く温度の上昇および下降が速いために生産性が高くでき、例えば鉄材やステンレス材などの接合される2以上の被溶接材(以下「ワーク」とも表現する)との反応が大きくはなく、抵抗溶接用電極として広く用いられている。
【0004】
しかしながら、被溶接材が鉄材やステンレス材ではなく、アルミニウム、マグネシウム、チタン、亜鉛や真鍮などを抵抗溶接すると、ワークと電極との反応が顕著になり、使用可能回数が極めて少なくなる。この際、ワークと電極との反応性生物によって電気抵抗率が変化して、接合品質にムラが生じる問題が生じる。アルミニウムのように、大気中の酸素を取り込んで表面に酸化膜を容易に作るような金属は、ワーク同士が溶着しにくいという問題点もある。
【0005】
また、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛などは、鉄材と比べて低融点なために、短時間で大電流を流して溶接する必要がある。電極はどのような材質でも、使用していくうちに表面にクラックが入るが、さらに被溶接材がアルミニウムなどの場合には、被溶接材と電極との反応が激しく、溶接後に電極とワークとが一体化して、電極がワークを持ち上げる「ピックアップ」と呼ばれる現象も発生する。この現象は、電極の表面状態が荒くなるほど起き易く、使用中に発生し始めるために、製造ラインでは連続稼動の大きな弊害となり望ましくない。
【0006】
これらの問題を解決するために、現在まで様々な提案がなされている。
【0007】
銅材と並んで抵抗溶接用電極材料として用いられるのがW(タングステン)およびタングステンを基とする材料である。
【0008】
タングステンは電気抵抗率が低い上に融点が高く、硬さや他の機械的物性地も有しているために、抵抗溶接用電極としての特性に優れており、多くの種類が用いられている。
【0009】
特許文献1には、Cu又はCu合金からなる抵抗溶接用電極の溶接面に、Wを基材とする芯材を埋設した電極で、W中に2a族元素,4a族 元素,5a族元素,6a族元素,希土類元素の酸化物,窒化物,炭化物,ホウ化物から選ばれる融点が2400℃以上の微粒子が、0.5〜10体積%分散したスポット溶接用電極が開示されている。この構成とすることにより、大電流下で加圧を伴う条件でスポット溶接するような場合にあっても、めっき金属との溶着,合金化を抑え、亀裂の発生を防止することが可能であると記載されている。
【0010】
特許文献2には、横断面平均粒子径が50μm以上で結晶粒子が1.5以上のアスペクトを有するWまたはMo中に2a族、4a族、5a族、6a族元素などの酸化物、窒化物、炭化物およびホウ化物の微粒子が0.5〜10質量%分散したヒュージング溶接用電極が開示されている。この構成により、耐久性が高められたヒュージング電極が得られると記載されている。
【0011】
特許文献3には、銅などの基材上にCo、Ni、W、Zrなどの母材金属中に酸化物、窒化物、炭化物などの粒子が分散した、代表的に1〜300μmの厚さを持つ被覆層を有する抵抗溶接用電極が開示されている。抵抗溶接用電極母材とワークの溶着が改善され、特に亜鉛メッキ鋼板のスポット溶接に適していると記載されている。
【0012】
特許文献4には、基材部を銅系材料、先端部をセラミック粉末、側周面をZrB、TiB、WC、Moとし、合せて焼成することで一体化するスポット溶接電極が開示されている。この電極の使用により、亜鉛メッキ鋼板の溶接も鉄材と同様に、耐久性高く行なうことができると記載されている。
【0013】
特許文献5には銅の抵抗溶接用電極上に中間層としてNi、Co、Cr、Moなどからなる層、更にその上にWなどの金属に酸化物、炭化物、窒化物などの粒子を分散した表面層を有する電極が開示されている。この電極構造とすることにより、溶着が抑えられ、電極は変形しにくく、価格も抑えられるとの記載がある。実施例には亜鉛メッキ鉄板をワークとした例が示されている。
【0014】
特許文献6には、銅または銅合金の基材上にTi、Zr、Hfなどの中間層、中間層状に周期律表4a、5a、6a族金属の炭化物、窒化物などからなる表面層を被覆した抵抗溶接用電極が開示されている。
【0015】
銅材やタングステンを基材とした抵抗溶接用電極は以上のように多く提案されているが、以下に示す問題点を未だ有している。
(1)被覆層を設けていない抵抗溶接用電極は、ワークがアルミニウムや亜鉛などの反応しやすい材料を含む場合は、耐溶着性が十分ではない。そのために十分な寿命が得られておらず、ピックアップ現象の問題も解決されていない。また、電極の交換頻度が高く、溶接装置の稼働率が十分でない
(2)被覆層を設けた抵抗溶接用電極は、被覆層の亀裂や溶着が進展した時点で寿命となり、再研磨などの手法で再生ができない。よって、電極としては高価なものとなる
(3)銅はもちろんタングステンも電気抵抗率が非常に低い。銅の電気抵抗率は1.7×10−6(Ω・cm)、タングステンは同5.3×10−6(Ω・cm)程度である。この程度の電気抵抗率であれば、電極部分は殆ど発熱することなく、ワークの接合部分で殆どの発熱が生じる。その際、電極温度も上がるが、これはワークの熱が電極に伝わるためである。この際に、ワークの電気抵抗が低ければ 電極〜ワーク〜電極 間で発熱が十分起こらずに、溶接が十分にできない。できたとしても、一般的な条件より遙かに大きな電圧が必要となる。そのために、装置の交換を必要とされることもあり、容易に現在の使用中の装置への導入は容易ではない。
【0016】
また、抵抗溶接の種類としては、円形状の比較的狭い範囲のみを溶接するスポット溶接、重ね合わせたワークを連続的な線状に溶接するシーム溶接、あらかじめ被溶接材の一部に突起を形成してその部分に通電させ溶接を行なうプロジェクション溶接、突合せ抵抗溶接、ヒュージング溶接とも呼ばれる熱カシメ溶接などが挙げられる。これらの溶接方法は相違があるが、いずれの方法で行なう場合でも「適当な電気抵抗」「被溶接材との低い反応性」が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2006−102775号公報
【特許文献2】特開2008−073712号公報
【特許文献3】特開平02−117780号公報
【特許文献4】特開昭64−078683号公報
【特許文献5】特開昭60−231597号公報
【特許文献6】特開昭62−089583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、以下に記載の課題を解決する。
(1)例えばワークがアルミニウムのような、従来の電極と溶着や反応しやすい場合でも、溶着や反応しにくい電極を得る
(2)再研磨などの手段により、電極寿命を被覆電極と比較して大幅に伸ばす
(3)電極自体を発熱させることにより、溶接に必要な温度を得ること
(4)従来のCuなどの電極を使用する場合と比較して、電極の耐摩耗性を向上し、電極寿命を延ばす。また、それに伴い溶接装置の稼働率を高める
【課題を解決するための手段】
【0019】
従来の抵抗溶接用電極として用いられている金属材料よりも、通電による発熱が大きく(すなわち電気抵抗率が高く)、ワークとなる金属成分と反応しにくい材料を抵抗溶接用電極として用いることで解決する。
【0020】
この条件に合う材料として、本発明では周期律表の4a、5a、6a族金属(Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W)の炭化物、窒化物、ホウ化物およびいずれかの固溶体のうち1種または2種以上からなるセラミックスを選択した。
【0021】
これらは電気抵抗率がタングステンに比べて高く、通電時に抵抗溶接用電極自体が発熱して、その熱をワークに伝導することによってワークを抵抗溶接に必要な温度まで加熱することが可能となる。
【0022】
前記材料の電気抵抗率は単体で5×10−6〜1×10−3(Ω・cm)の範囲に入る。また、2種以上を混合する場合でも、混合物の値がこの範囲に入る。
【0023】
前記材料はセラミック質であり、金属成分、特に抵抗溶接のワークとされることが多いFe、Al、Ti、Ni、Cu、Zn、Mgと反応性が低い。反応性が低いので、溶接の際のワークとの溶着が起こりにくく、前述のピックアップのような生産性を落とす現象も発生しにくい。
【0024】
ワークとの反応のほかに気をつけるべき反応は、空気中に多く含まれる酸素、窒素、水等との反応である。前記材料は、これらの成分との反応が小さい。そのために、熱を帯びた状態でも変質が少なく、安定した電気抵抗および発熱量が得られる
【0025】
また、例えば特許文献3に示された技術のように、金属製の電極上に耐溶着性の高い薄膜を形成する方法と異なり、研削等による再研磨が可能である。そのために、電極1ケあたりのコストが下がる。
【0026】
さらに、前記材料は硬さが高く、耐摩耗性が高い。そのために、ワークとの接触による摩耗量が少なく、電極寿命を延ばすことができる。
【0027】
周期律表の4a、5a、6a族金属(Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W)の炭化物、窒化物、ホウ化物およびいずれかの固溶体については、種類が多いためにその一例を下に挙げるが、いずれも金属との反応性が低く、電気抵抗率が前記範囲に入る点は共通している。
【0028】
単体金属の窒化物 TiN、ZrN、HfN、NbN、TaN、CrN、CrN、MoN、MoN、WN、WN、Wなど
単体金属の炭化物 TiC、ZrC、HfC、VC、TaC,Cr、MoC、WC、WCなど
単体金属のホウ化物 TiB、ZrB、HfB、Cr、CrB、NbB、Nb、NbB、WB、WB、W、MoB、Mo、MoB、MoB、Moなど
複合窒化物 (Ti・Ta)N、(Ti・Mo)N、(Ti・W)Nなど
単体の炭窒化物 TiCN、ZrCNなど
複合炭窒化物 (Ti・Mo)CN、(Ti・W)CNなど

これらの窒化物、炭窒化物やホウ化物等は1種でもよいし、複数でもよい。固溶体でもよいし、混合物でも構わない。
以下説明のために、以上の金属窒化物、金属炭窒化物、金属ホウ化物などをまとめて「金属化合成分」と表現する。
【0029】
この金属化合成分を電極材として用いることにより、ワーク成分と溶着しにくく、安定した発熱を長期間にわたって得られる抵抗溶接用電極が得られる。金属化合成分は一様に硬さがタングステンよりも高いために、タングステン単体の抵抗溶接用電極と比較して硬さおよび耐摩耗性が高まる。
金属化合成分は、前述の通りワークや雰囲気中の酸素と反応しにくい。しかしながら、高温化で比表面積が著しく大きければ、それらと反応するようになる。そのために、電極中の開気孔は望ましくない。開気孔から進入した金属や酸素が内部で反応して、電極を消耗させるためである。開気孔は相対密度が90%、より望ましくは95%程度(言い換えれば気孔率が10%、5%以下)あればほぼ存在しなくなる。よって、電極の相対密度は90%以上がよく、95%以上がより好ましい。
【0030】
一方、金属化合成分は、銅はもちろん金属であるタングステンなどと比較して、破壊靱性値が低い。KCで表した破壊靱性値は3〜6程度であり、使用中の衝撃などにより割れ、欠けが十分防げない場合もある。そのために、金属化合成分で電極材とする場合は、応力の集中をなくし、エッジなどのコーナー部を極力設けない電極形状が好ましい。このためには、平面の一部を溶接面として使用したり、曲面取りの大きさを大きくした形状としたり、溶接面以外は金属の中に埋設する構造としたりするのが望ましい。
【0031】
電極の組成としては、金属化合成分は少なくとも90体積%を必要とする。言い換えれば、10体積%未満であれば第2の成分を含んでいてもよい。第2の成分は金属化合成分に対して焼結助剤などの働きを有する成分、例えばアルミナ、スピネル、マグネシア、イットリアなどを含むことが好ましい。この第2成分が10体積%を超えると、電極が脆くなったり、電気伝導率が大きく変化したり、あるいは脱落した成分がワーク面に付着したりするおそれがある。
【0032】
また、第2成分として電極の5体積%未満のタングステンまたはモリブデンを選択することにより、破壊靱性と熱伝導率を向上させることもできる。前記の焼結助剤などと合せて添加してもよい。
【0033】
本発明の抵抗溶接用電極は少なくとも溶接面が前記組成を有する焼結体である。たとえば、特許文献3の様に窒化物セラミックスのような薄膜をつける方法は有効であるが、薄膜が剥離する危険性が高い上に、一定回数の溶接後に使用不可となればその電極は廃棄する他無く、コスト的に不利である。一方、本願発明の電極の少なくとも溶接面は焼結体であるために、焼結体の大きさを大きくすることで使用後にごく表面層のみを削り取る作業(再研磨)を行って再利用することができる。そのために、一度製造した電極はサイズが極端に小さくなるか、再研磨により焼結体部分が無くなるまで使用することができ、コスト削減に寄与する。
【0034】
抵抗溶接用電極は前記材質の材料の焼結体を溶接面およびその付近にのみ用いて他の部分はシャンク部と組合せることも可能であるし、焼結体でシャンク部まで形成する構造でもよい。なお、後述のシャンク部を用いる場合は、溶接面を含む前記材質の部分は「チップ部」と表現する。図2にはこれらの模式図を示す。図2(2)には電極の溶接面を含むチップ部にのみ前記材料からなるチップ部1を用いた模式図を、図2(1)にはシャンク部を含む抵抗溶接用電極全体を前記材料にて形成した例を示す。
【0035】
シャンク部2は様々な材料が使用可能であるが、銅(純銅および添加物を加えた銅)、アルミニウム、鉄系材料などを用いることが好ましい。これらの材質は電気抵抗率が低く、通電によってシャンク部で発熱が殆ど起こらない。また、金属であり溶接時などに欠損が起こりにくい。大気中の酸素や水と反応しないか、反応してもごく表層部のみにとどまる。所望のシャンク形状を得るための鋳造、機械加工などが容易であり、素材も安価である。
【0036】
チップ部とシャンク部とを接合する場合は、埋設固着や真空ロウ付けなどの手段を行なうことができる。
【0037】
埋設固着とは、チップ部と低融点の金属(シャンク材料を指す)と接した状態で昇温し、溶融した低融点の金属がチップ部表面の一部または全部と接触した状態とし、そのまま降温してチップ部と固化した低融点金属を一体化する方法である。固化した低融点金属の部分に必要な加工を加え、所望の形状とした部分がシャンク部となる。埋設固着ではなく鋳ぐるみ、鋳包みなどと呼ばれることもある。
【0038】
真空ロウ付けは、真空雰囲気とした炉中にて、ロウ材を用いてチップ部とシャンク部を接合する方法である。ロウ材としては活性ロウ材と呼ばれるAgCuSnTiなどのロウ材を用いて行なうのがよい。
【0039】
また、図2(3)に示すように、電極の長さ方向に凹凸をつけ、凹部にシャンク部材料2を進入させることにより、チップ部1が抜けない構造とすることも有効である。このような構造であれば、チップ部1とシャンク部2の電極の接合が完全でなくとも、チップ部1が抜け落ちるような不具合が生じない。この構造の製造に適しているのは後述の埋設固着法である。

本発明の抵抗溶接用電極は、様々な抵抗溶接の形態に用いることができる。例として、円形状の比較的狭い範囲のみを溶接するスポット溶接、重ねた板を線状に連続的に溶接するシーム溶接、あらかじめ被溶接材の一部に突起を形成してその部分に通電させ溶接を行なうプロジェクション溶接、突合せ抵抗溶接、ヒュージング溶接とも呼ばれる熱カシメ溶接などが挙げられる。これらに限らず、「一対の電極と、その電極間に挟まれた2以上の被溶接材とに電流を掛け、温度を上げて、被溶接材同士を接合する」どのような溶接方法にも用いることが可能である。
【発明の効果】
【0040】
本発明の抵抗溶接用電極は、ワーク(被溶接物)との反応が極めて小さい。そのために本発明の抵抗溶接用電極を使用すると以下の効果がある。
(1)反応生成物の電極への付着による電気抵抗の変化が極めて少ない。よって、電流の印加による安定的な抵抗発熱を得られる。ワークの不良発生率が抑えられ、電流値や電極の調整も少なく済む
(2)反応生成物による溶接面の減耗が極めて少ないために、繰り返し溶接しても電極の形状変化が少ない。よって、従来の電極より長寿命を得られる
(3)ワークとの接触、加圧による機械的な摩耗が抑制できる。よって、従来の電極よりも長寿命が得られる
(4)抵抗発熱を大きくでき、ワークの溶接時に形成される「ナゲット」が従来の電極よりも大きく形成しやすくなる
本発明の電極は、少なくとも溶接面に焼結体を使用している、そのために
(5)溶接面およびその周辺のわずかな量の再研磨により、電極を繰り返し使用することが可能であり、コスト面で有利である
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】スポット溶接に本発明の抵抗溶接電極を用いる形態の要部の模式図
図2】本発明の抵抗溶接用電極の形態の一例 (1)電極全体を金属化合成分で構成 (2)チップ部のみを金属化合成分で構成 (3)チップ部とシャンク部が解離しにくい形状の模式図
図3】突合せ溶接に本発明のクランプ電極を用いる形態の要部の模式図
【発明を実施するための形態】
【0042】
抵抗溶接用電極の少なくとも電極本体が被溶接材に当接する面を金属化合成分焼結体とし、種々の抵抗溶接方法にて従来使用されている銅材の抵抗溶接用電極、W材の抵抗溶接用電極と合せて抵抗溶接試験を行い、電極寿命を調査した。
その結果、ワークとの溶着性が改善されてワークの外観品質が高く、ワークの接合強度を高い抵抗溶接用電極が得られた。また、抵抗溶接用電極の長寿命化に有効であることを確認した。
【0043】
本発明の抵抗溶接用電極は以下の方法にて得られる。
【0044】
まず、粉末状の金属化合成分を乾式または湿式で混合する。粉末の粒子径は特に問わないが、入手しやすい0.2〜10μm程度の粉末を用いるのが好ましい。配合量は金属化合成分を90〜100体積%、これに焼結助剤等を加える場合は10体積以下とする。
【0045】
混合には、ボールミル、アトライタ、らいかい機、スターミルなど公知の装置にて行なえばよい。こうして混合粉末が得られる。
【0046】
次に、混合粉末をプレス成形する。プレス成形は金型プレス機、CIP(冷間静水圧)装置、乾式ラバープレス機など公知のプレス装置を使い、50〜500MPaの圧力にて混合粉末をプレス成形する。必要であれば、その後に旋盤やフライス盤、マシニングセンタなどで成形体の中間加工を行なう。こうして成形体を得る。
【0047】
得られた成形体を焼結する。金属化合成分はいずれも難焼結材であり、焼結には高い温度が必要となる。成分比率や金属化合成分の種類にもよるが、焼結温度は1500〜2200℃が適当である。第2成分として適当な焼結助剤を添加している場合は、下限が1300℃程度に下がる場合もある。また、焼結時の雰囲気は真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、窒素ガス雰囲気、水素ガス雰囲気などの非酸化雰囲気とする必要がある。これは、金属化合成分はいずれも焼結温度で酸素を含む雰囲気であれば、表面から酸化して化学変化を起こし、異なる酸化物などを生成するからである。焼結後、冷却して焼結体を得る。
【0048】
以上にプレス後に焼結する工程の例を示したが、混合粉末をカーボン型内に詰め、温度を1300〜2100℃まで上げた状態で1〜30MPaの圧力にて加圧して焼結体を得るホットプレス法でも焼結体を得ることができる。
【0049】
また、カプセルHIP(熱間静水圧プレス)法によっても製造可能である。カプセルHIPを行なう場合は、チタンなどのカプセルに金属化合物の粉末を詰め、蓋をしてカプセル内を脱気したうえで、50〜200MPa、1400〜1700℃程度の温度でHIP焼結することにより得られる。
【0050】
得られた焼結体に必要であれば機械加工、電気加工を施して所望の形状とする。電極全体を以上に説明した材料で形成する場合はこれで完成となる。
【0051】
一方、前記材料で電極のチップ部を製造する場合は、この後にシャンク部との接合が必要となる。
【0052】
シャンク部は前述のように主に金属材料で形成するが、チップ部との一体化には大きく分けて2つの手段がある。
【0053】
一つはチップ部とシャンク部をそれぞれ製造した後に、両者を接合する方法である。この方法として代表的なのはロウ付けによる接合である。ロウ材は活性ロウ材を使用するために、低酸素分圧下で行う炉中ロウ付けが適している。活性ロウ材を使用することで、Wの含有量が少ない焼結体であっても、シャンク部と接合することが可能である。
【0054】
もう一つは、埋設固着(または鋳ぐるみ、鋳づつみと呼ばれることもある)による一体化である。埋設固着とは、チップ部と低融点の金属(シャンク材料を指す)とを加熱し、溶融した低融点の金属がチップ部表面の一部または全部と接触した状態とし、そのまま降温してチップ部と固化した低融点金属を一体化する方法である。固化した低融点金属の部分に必要な加工を加え、所望の形状とした部分がシャンク部となる。
【0055】
いずれかの方法にてチップ部とシャンク部とを一体化した後、仕上げ加工をして完成する。
【0056】
金属化合成分は破壊靱性値が低く、金属からなる電極と比較して、亀裂の入りやすい条件では欠けや割れが進展しやすい。そのために、溶接面は平面とする、曲率の大きな曲面取りを施す、溶接面以外の部分をシャンク中に埋めた形状とする、段差やエッジ部分を設けないなど、欠けや割れが生じないような形状の工夫を行なうことが好ましい。
【0057】
得られた抵抗溶接用電極を実際に使用した結果を、以下の実施例にて詳細に評価する。
【実施例】
【0058】
(実施例1)スポット溶接用電極に使用した実施例
板厚0.3mmの3枚のマグネシウム板をワーク4として、3枚を一体にする溶接試験を行った。電極20は、溶接面3の直径が8mm、全体直径が20mmのDR形(ドームラジアス形)で、溶接面直径6mmの部分に曲率半径40mmの円弧と他の部分に曲率半径8mmの円弧を付与した。製法は下記の試料1に記載した、チップ部1とシャンク部2からなる電極である。
【0059】
試料1
チップ1の材質:TiN 100体積%(成形プレス圧150MPa、焼結温度2000℃、焼結雰囲気 Arガス)
シャンク2の材質:純銅(C1020)
チップ1とシャンク2の接合方法:950℃、Ar雰囲気にて埋設固着
【0060】
電極の要部の模式図を図1に示す。上下1対の電極20にて被溶接材であるマグネシウム板4を溶接する。
試料1の電極にて、表1に示す条件で連続打点の溶接を行った。そして、形成されたナゲット径を測定し、ナゲット径が3mmを下回るものを溶接不良として、電極寿命を求めた。また、ワークの溶接表面の面あれを観察した。
溶接を始めて1万ショットを過ぎた時点でマグネシウム板4の溶接部に段差が生じ始めたために、試験を終了した。調査した全てのワーク4のナゲット径は3mmを超えていた。チップ部1を観察したところ、チップ1の一部に欠けが生じていた。なお、観察は500ショットおきに行なった。
【0061】
次に、表1に示すように、チップの材質を様々変更した電極についても同様の試験を行った。
【0062】
それぞれのチップ材質と試料1と同様の試験を行った結果を合せて同表に示す。
【0063】
また、比較として従来電極であるクロム銅を用いた試料を*比較試料No.101、タングステンで作製したチップ材を用いたものを*比較試料No.102とする。
【0064】
【表1】
表1中で「*」のつく試料は、本発明の範囲外の比較試料である
【0065】
試験の結果より以下のことが分かった。
公知の抵抗溶接用電極であるクロム銅*比較試料No.101は120ショットの時点で早くもワークとの溶着が発生し、再研磨が必要となった。
【0066】
同じく公知の抵抗溶接用電極であるタングステン*比較試料No.102は、電極全体に黄色の酸化物粉末が付着し、溶接面を含む露出部分全体に電極形状に変化(損耗)が見られた。再研磨により使用可能であるが、損耗により電気抵抗が変わるために、通電条件を調整する作業は煩雑となった。
【0067】
本発明の範囲である試料No.1〜18は従来のクロム銅電極、タングステン電極と比較すると、いずれも大幅に寿命を伸ばすことができた。いずれの電極でもタングステン電極の7倍以上の5000ショット以上の寿命であり、試料No.1を含めもっとも寿命が長いものは10000ショット程度の寿命であった。
いずれの電極も、寿命は電極に大きな亀裂による割れ、または欠けが生じることにより達していた。また、電極にはマグネシウムとの溶着は殆ど生じていなかった。
【0068】
試料16は金属化合成分(95体積%TiN)に焼結助剤としてのAlを5体積%加えた実施例である。この電極も焼結助剤を添加していない試料と同程度の寿命を有していた。焼結助剤に使用するAlや他の助剤成分を添加することにより、電極製造時の焼結温度を下げることができ、製造に適していた。但し、10体積%を超える量添加すれば、電気抵抗に影響がでるために望ましくない。
【0069】
試料17は金属化合成分に焼結助剤としてのMgOと、タングステンを添加した組成を有する。タングステンの添加により使用中の電極表面に若干の酸化物の付着が見られたが、添加量が多くないためにそのまま使用を継続できた。また、寿命時の欠けの程度は他の放電加工用電極よりも小さい規模であった。
【0070】
試料18は金属化合成分に2体積%のタングステンを添加した組成を有する。タングステンの添加により、使用中の電極表面に若干の酸化物の付着が見られたが、添加量が多くないためにそのまま使用を継続できた。また、寿命時の欠けの程度は他の放電加工用電極よりも小さい規模であった。

【0071】
(実施例2)突合わせ溶接にして用いた実施例
直径が10mmである2本の棒状のアルミニウム材6の端面同士を突き合わせ、端面同士7を溶接する「突合せ溶接」にクランプ電極30として使用した例を示す。装置の要部の模式図を図3に示す。クランプ電極30は、アルミニウム材6の溶接する端面7からおよそ10mm離れた箇所を略円周上にクランプする。2本のアルミニウム材6をそれぞれ電極30にてクランプし、両電極間に電流を流すことにより、もっとも発熱の大きい突合せ面7両側のアルミニウム材6を抵抗溶接する。
溶接条件は表2に示したとおりである。
【0072】
クランプ電極30は内径が約10mm、肉厚が10mm、幅が20mmのリング状に一部切り欠きを有する構造とし、アルミニウム材に巻きつくように装着し、ねじ止めにて隙間無く固定した。
クランプ電極30の材質は以下のものを用い、これを試料No.51とした。
【0073】
試料No.51
電極材質:98体積%VC+2体積%Y(5atmアルゴンガス加圧焼結 焼結温度1900℃)
【0074】
【表2】
【0075】
試料51のクランプ電極にて、突合せ溶接を行なった。電極寿命は溶接したアルミニウム材を引張試験機にかけ、溶接面に沿って破断したものを不良と判断した。また、クランプ電極についても観察し、大きな欠け、電極の割れやワークとの溶着が大きくなった場合はそこで寿命とした。
【0076】
試料51のクランプ電極を用いてこの試験を行ったところ、5000ショット終了時まで、問題なく使用ができた。5000ショット時点でクランプ電極にはアルミニウム材をクランプしている部分に欠けが生じて、使用不可能となった。欠けが生じるまでの前記引張り試験では、アルミニウム材は溶接面以外から破断していた。
【0077】
次に、クランプ電極の材料を、試料1のVC+Yより表3に示す材料に変更して同様の試験を行った。その結果を表3に示す。
【0078】
【表3】
表3中で「*」のつく試料は、本発明の範囲外の比較試料である
【0079】
表3の結果より次のことが分かった。
まず、本発明の金属化合成分を用いた試料No.51〜69の電極は、いずれを用いた場合でも従来のクロム銅やタングステンの電極と比較して寿命が著しく長かった。
【0080】
また、試料No.51、52、53、55、57、61、62、64、67の様に焼結助剤を10体積%以下含んだ試料は、焼結体を緻密にさせやすく、また、気孔が少ないために電極欠けの程度が大きくなかった。一方、試料No.54、56、58、59、60、63、65、66のような焼結助剤を含まない試料は、一定の寿命を示したが、気孔が残りやすく、それが電極割れの基点になりやすかったと考えられる。なお、表3ではアルミニウムの棒をクランプできる程度の破損を「欠け」、更に大きく、例えば2つに割れるような破損を「割れ」と記載し区別している。
【0081】
試料No.68は、金属化合成分であるZrNに、焼結助剤である酸化マグネシウムとタングステンを加えた電極の例である。この電極も欠けの程度は小さかった。焼結助剤とあわせてタングステン添加の効果が出ていると考える。
また、試料69は、金属化合成分であるTiBにモリブデンを加えた電極の例である。この電極も試料No.68と同様に、寿命が十分長く、欠けの程度も小さかった。
【符号の説明】
【0082】
10 抵抗溶接用電極
20 スポット溶接用電極
30 クランプ電極
1 チップ部
2 シャンク部
3 溶接面
4 ワーク(被溶接材)
5 ナゲット
6 棒状のアルミニウム材ワーク
7 アルミニウム材の端面
8 電源装置
9 導線
図1
図2
図3