【課題を解決するための手段】
【0019】
従来の抵抗溶接用電極として用いられている金属材料よりも、通電による発熱が大きく(すなわち電気抵抗率が高く)、ワークとなる金属成分と反応しにくい材料を抵抗溶接用電極として用いることで解決する。
【0020】
この条件に合う材料として、本発明では周期律表の4a、5a、6a族金属(Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W)の炭化物、窒化物、ホウ化物およびいずれかの固溶体のうち1種または2種以上からなるセラミックスを選択した。
【0021】
これらは電気抵抗率がタングステンに比べて高く、通電時に抵抗溶接用電極自体が発熱して、その熱をワークに伝導することによってワークを抵抗溶接に必要な温度まで加熱することが可能となる。
【0022】
前記材料の電気抵抗率は単体で5×10
−6〜1×10
−3(Ω・cm)の範囲に入る。また、2種以上を混合する場合でも、混合物の値がこの範囲に入る。
【0023】
前記材料はセラミック質であり、金属成分、特に抵抗溶接のワークとされることが多いFe、Al、Ti、Ni、Cu、Zn、Mgと反応性が低い。反応性が低いので、溶接の際のワークとの溶着が起こりにくく、前述のピックアップのような生産性を落とす現象も発生しにくい。
【0024】
ワークとの反応のほかに気をつけるべき反応は、空気中に多く含まれる酸素、窒素、水等との反応である。前記材料は、これらの成分との反応が小さい。そのために、熱を帯びた状態でも変質が少なく、安定した電気抵抗および発熱量が得られる
【0025】
また、例えば特許文献3に示された技術のように、金属製の電極上に耐溶着性の高い薄膜を形成する方法と異なり、研削等による再研磨が可能である。そのために、電極1ケあたりのコストが下がる。
【0026】
さらに、前記材料は硬さが高く、耐摩耗性が高い。そのために、ワークとの接触による摩耗量が少なく、電極寿命を延ばすことができる。
【0027】
周期律表の4a、5a、6a族金属(Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W)の炭化物、窒化物、ホウ化物およびいずれかの固溶体については、種類が多いためにその一例を下に挙げるが、いずれも金属との反応性が低く、電気抵抗率が前記範囲に入る点は共通している。
【0028】
単体金属の窒化物 TiN、ZrN、HfN、NbN、TaN、Cr
2N、CrN、Mo
2N、MoN、W
2N、WN
2、W
2N
3など
単体金属の炭化物 TiC、ZrC、HfC、VC、TaC,Cr
3C
2、MoC、WC、W
2Cなど
単体金属のホウ化物 TiB
2、ZrB
2、HfB
2、Cr
3B
2、CrB、NbB、Nb
3B
4、NbB
2、W
2B、WB、W
2B
5、Mo
2B、Mo
3B
2、MoB、MoB
2、Mo
2B
5など
複合窒化物 (Ti・Ta)N、(Ti・Mo)N、(Ti・W)Nなど
単体の炭窒化物 TiCN、ZrCNなど
複合炭窒化物 (Ti・Mo)CN、(Ti・W)CNなど
これらの窒化物、炭窒化物やホウ化物等は1種でもよいし、複数でもよい。固溶体でもよいし、混合物でも構わない。
以下説明のために、以上の金属窒化物、金属炭窒化物、金属ホウ化物などをまとめて「金属化合成分」と表現する。
【0029】
この金属化合成分を電極材として用いることにより、ワーク成分と溶着しにくく、安定した発熱を長期間にわたって得られる抵抗溶接用電極が得られる。金属化合成分は一様に硬さがタングステンよりも高いために、タングステン単体の抵抗溶接用電極と比較して硬さおよび耐摩耗性が高まる。
金属化合成分は、前述の通りワークや雰囲気中の酸素と反応しにくい。しかしながら、高温化で比表面積が著しく大きければ、それらと反応するようになる。そのために、電極中の開気孔は望ましくない。開気孔から進入した金属や酸素が内部で反応して、電極を消耗させるためである。開気孔は相対密度が90%、より望ましくは95%程度(言い換えれば気孔率が10%、5%以下)あればほぼ存在しなくなる。よって、電極の相対密度は90%以上がよく、95%以上がより好ましい。
【0030】
一方、金属化合成分は、銅はもちろん金属であるタングステンなどと比較して、破壊靱性値が低い。K
1Cで表した破壊靱性値は3〜6程度であり、使用中の衝撃などにより割れ、欠けが十分防げない場合もある。そのために、金属化合成分で電極材とする場合は、応力の集中をなくし、エッジなどのコーナー部を極力設けない電極形状が好ましい。このためには、平面の一部を溶接面として使用したり、曲面取りの大きさを大きくした形状としたり、溶接面以外は金属の中に埋設する構造としたりするのが望ましい。
【0031】
電極の組成としては、金属化合成分は少なくとも90体積%を必要とする。言い換えれば、10体積%未満であれば第2の成分を含んでいてもよい。第2の成分は金属化合成分に対して焼結助剤などの働きを有する成分、例えばアルミナ、スピネル、マグネシア、イットリアなどを含むことが好ましい。この第2成分が10体積%を超えると、電極が脆くなったり、電気伝導率が大きく変化したり、あるいは脱落した成分がワーク面に付着したりするおそれがある。
【0032】
また、第2成分として電極の5体積%未満のタングステンまたはモリブデンを選択することにより、破壊靱性と熱伝導率を向上させることもできる。前記の焼結助剤などと合せて添加してもよい。
【0033】
本発明の抵抗溶接用電極は少なくとも溶接面が前記組成を有する焼結体である。たとえば、特許文献3の様に窒化物セラミックスのような薄膜をつける方法は有効であるが、薄膜が剥離する危険性が高い上に、一定回数の溶接後に使用不可となればその電極は廃棄する他無く、コスト的に不利である。一方、本願発明の電極の少なくとも溶接面は焼結体であるために、焼結体の大きさを大きくすることで使用後にごく表面層のみを削り取る作業(再研磨)を行って再利用することができる。そのために、一度製造した電極はサイズが極端に小さくなるか、再研磨により焼結体部分が無くなるまで使用することができ、コスト削減に寄与する。
【0034】
抵抗溶接用電極は前記材質の材料の焼結体を溶接面およびその付近にのみ用いて他の部分はシャンク部と組合せることも可能であるし、焼結体でシャンク部まで形成する構造でもよい。なお、後述のシャンク部を用いる場合は、溶接面を含む前記材質の部分は「チップ部」と表現する。
図2にはこれらの模式図を示す。
図2(2)には電極の溶接面を含むチップ部にのみ前記材料からなるチップ部1を用いた模式図を、
図2(1)にはシャンク部を含む抵抗溶接用電極全体を前記材料にて形成した例を示す。
【0035】
シャンク部2は様々な材料が使用可能であるが、銅(純銅および添加物を加えた銅)、アルミニウム、鉄系材料などを用いることが好ましい。これらの材質は電気抵抗率が低く、通電によってシャンク部で発熱が殆ど起こらない。また、金属であり溶接時などに欠損が起こりにくい。大気中の酸素や水と反応しないか、反応してもごく表層部のみにとどまる。所望のシャンク形状を得るための鋳造、機械加工などが容易であり、素材も安価である。
【0036】
チップ部とシャンク部とを接合する場合は、埋設固着や真空ロウ付けなどの手段を行なうことができる。
【0037】
埋設固着とは、チップ部と低融点の金属(シャンク材料を指す)と接した状態で昇温し、溶融した低融点の金属がチップ部表面の一部または全部と接触した状態とし、そのまま降温してチップ部と固化した低融点金属を一体化する方法である。固化した低融点金属の部分に必要な加工を加え、所望の形状とした部分がシャンク部となる。埋設固着ではなく鋳ぐるみ、鋳包みなどと呼ばれることもある。
【0038】
真空ロウ付けは、真空雰囲気とした炉中にて、ロウ材を用いてチップ部とシャンク部を接合する方法である。ロウ材としては活性ロウ材と呼ばれるAgCuSnTiなどのロウ材を用いて行なうのがよい。
【0039】
また、
図2(3)に示すように、電極の長さ方向に凹凸をつけ、凹部にシャンク部材料2を進入させることにより、チップ部1が抜けない構造とすることも有効である。このような構造であれば、チップ部1とシャンク部2の電極の接合が完全でなくとも、チップ部1が抜け落ちるような不具合が生じない。この構造の製造に適しているのは後述の埋設固着法である。
本発明の抵抗溶接用電極は、様々な抵抗溶接の形態に用いることができる。例として、円形状の比較的狭い範囲のみを溶接するスポット溶接、重ねた板を線状に連続的に溶接するシーム溶接、あらかじめ被溶接材の一部に突起を形成してその部分に通電させ溶接を行なうプロジェクション溶接、突合せ抵抗溶接、ヒュージング溶接とも呼ばれる熱カシメ溶接などが挙げられる。これらに限らず、「一対の電極と、その電極間に挟まれた2以上の被溶接材とに電流を掛け、温度を上げて、被溶接材同士を接合する」どのような溶接方法にも用いることが可能である。
【発明の効果】
【0040】
本発明の抵抗溶接用電極は、ワーク(被溶接物)との反応が極めて小さい。そのために本発明の抵抗溶接用電極を使用すると以下の効果がある。
(1)反応生成物の電極への付着による電気抵抗の変化が極めて少ない。よって、電流の印加による安定的な抵抗発熱を得られる。ワークの不良発生率が抑えられ、電流値や電極の調整も少なく済む
(2)反応生成物による溶接面の減耗が極めて少ないために、繰り返し溶接しても電極の形状変化が少ない。よって、従来の電極より長寿命を得られる
(3)ワークとの接触、加圧による機械的な摩耗が抑制できる。よって、従来の電極よりも長寿命が得られる
(4)抵抗発熱を大きくでき、ワークの溶接時に形成される「ナゲット」が従来の電極よりも大きく形成しやすくなる
本発明の電極は、少なくとも溶接面に焼結体を使用している、そのために
(5)溶接面およびその周辺のわずかな量の再研磨により、電極を繰り返し使用することが可能であり、コスト面で有利である