(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態を以下の順序で説明する。
A.実施形態:
A−1:全固体電池の構成:
A−2.正極電極層の詳細構成:
A−3.負極電極層の詳細構成:
A−4:固体電解質層の詳細構成:
A−5.保護層の詳細構成:
B.保護層に関する実験例:
B−1.概要:
B−2.全固体電池のサンプルの作製:
B−3.Li
4Ti
5O
12合材が用いられたサンプル1〜4に対する実験例:
B−4.硫黄合材が用いられたサンプル5〜7に対する実験例:
B−5.LiCoO
2合材が用いられたサンプル8〜10に対する実験例:
B−6.全固体電池のサンプルの観察:
C.変形例:
【0021】
A.実施形態:
A−1.全固体電池の構成:
図1は、本発明の一実施形態としての全固体電池10の断面を示す説明図である。全固体電池10は、電池本体15と、電池本体15を両側から挟持する一対の集電体50,60とを備える。電池本体15は、正極として機能する正極電極層20と、負極として機能する負極電極層30と、正極電極層20と負極電極層30の間に位置する導電性の固体電解質層40とを備える。電池本体15は、さらに、正極電極層20と固体電解質層40との間に設けられた第1保護層41と、負極電極層30と固体電解質層40との間に設けられた第2保護層42とを備える。
【0022】
集電体50,60は、導電性を有する板状部材であり、本実施形態では、ステンレス鋼(SUS)によって形成されている。ただし、集電体50,60は、他の導電性部材によって形成されていてもよい。例えば、集電体50,60は、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、及びこれらの合金から選択される導電性金属材料や、炭素材料等によって形成されていてもよい。
【0023】
A−2.正極電極層の詳細構成:
正極電極層20は、正極活物質と、硫化物系固体電解質と、導電性カーボンとを含有する材料をプレス成型することによって形成されている。本実施形態では、正極電極層20は、正極活物質としてLi
4Ti
5O
12を含有し、硫化物系固体電解質として、硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質を含有している。
【0024】
ただし、正極電極層20は、Li
4Ti
5O
12の代わりに、他の正極活物質を含有してもよい。例えば、正極電極層20は、正極活物質として、Li
4Ti
5O
12の代わりに、FeS
2を含有してもよい。
【0025】
硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質としては、例えば、Li
2S−P
2S
5系、LiI−Li
2S−P
2S
5系、LiI−Li
2S−B
2S
3系、若しくはLiI−Li
2S−SiS
2系の固体電解質、チオリシコン、及びLi
10GeP
2S
12等から選択される固体電解質を用いることができる。ここで、上記Li
2S−P
2S
5系の固体電解質としては、以下の化学式(1)によって表される固体電解質を用いることが好ましい。
xLi
2S−(1−x)P
2S
5 …(1)
(式中、xは、0.65≦x≦0.80である。)
【0026】
また、硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質は、イオン伝導率が高いことが好ましい。具体的には、硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質のイオン伝導率は、10
-5S/cm以上であることが好ましく、10
-4S/cm以上であることがさらに好ましい。
【0027】
また、硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質は、十分に柔らかいこと、すなわち、ヤング率が小さいことが望ましい。具体的には、硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質のヤング率は、0.08〜30GPaであることが好ましく、0.08〜20GPaであることがさらに好ましい。
【0028】
硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質膜のイオン伝導率及びヤング率を、上記の好ましい範囲内に含めるためには、上記の化学式(1)中のxを、0.65≦x≦0.80の範囲内の値とすればよい。ただし、上記の化学式(1)中のxを、上記の範囲外の値としてもよい。
【0029】
導電性カーボンとしては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック(例えばデンカブラック、デンカブラックは登録商標)、及びファーネスブラック(例えば、カボット社製のバルカン)を用いることができる。
【0030】
また、導電性カーボンの粒子径は、小さいことが好ましい。この理由は、導電性カーボンの粒子径が小さいほど、正極電極層20内における電子伝導性を十分に確保しつつ、正極電極層20の体積抵抗率を十分に小さくすることができるからである。したがって、導電性カーボンとしては、ケッチェンブラックあるいはアセチレンブラックを用いることが好ましい。
【0031】
A−3.負極電極層の詳細構成:
負極電極層30は、負極活物質と、硫化物系固体電解質とを含有する材料をプレス成型することによって形成されている。本実施形態では、負極電極層30は、負極活物質として、リチウム−アルミニウム合金(Li−Al合金)を含有し、硫化物系固体電解質として、硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質を含有している。
【0032】
硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質としては、例えば、正極電極層20に含有される上記の硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質を用いることができる。
【0033】
A−4.固体電解質層の詳細構成:
固体電解質層40は、酸化物系固体電解質材料によって形成された板状部材である。本実施形態では、固体電解質層40は、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質材料によって形成されている。
【0034】
酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質としては、例えば、以下の化学式(2)によって表されるナシコン型構造を有するリン酸化合物又はその一部を他の元素で置換した置換体、以下の化学式(3)によって表されるLi
7La
3Zr
2O
12系リチウムイオン伝導体等のガーネット型構造又はガーネット型類似の構造を有するリチウムイオン伝導体、以下の化学式(4)によって表されるLi−La−Ti−O系リチウムイオン伝導体等のペロブスカイト構造又はペロブスカイト類似の構造を有するリチウムイオン伝導体等を用いることができる。
【0035】
ナシコン型構造
Li
1+x+yM
xM’
2-x(P
1-yM”
yO
4)
3 …(2)
(式中、Mは、アルミニウム(Al)、イットリウム(Y)からなる群から選択される少なくとも1種であり、M’は、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)からなる群から選択される少なくとも1種であり、M”は、シリコン(Si)であり、xは、0<x<1の関係式を満たす値であり、yは、0≦y<0.5の関係式を満たす値である)
【0036】
ガーネット型構造
Li
7-xLa
3M
2O
12 …(3)
(式中、Mは、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)からなる群から選択される少なくとも1種であり、MがNb、Ta、Zrからなる群から選択される少なくとも1種である場合には、x=2であり、MがZrの場合は、x=0である)
【0037】
ペロブスカイト構造
Ln
2/3-xLi
3xTiO
3 …(4)
(式中、Lnは、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ニオブ(Nd)、サマリウム(Sm)からなる群から選択される少なくとも1種であり、xは、0.05≦x≦0.2の関係式を満たす値である)
【0038】
上記の化学式(2)によって表される酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質の中で、少なくともチタンを含む固体電解質は、安価である上に、リチウムイオン伝導性が優れている。上記の化学式(2)によって表される酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質の中で、少なくともチタンを含む固体電解質は、例えば、以下の化学式(2A)によって表される。
【0039】
Li
1+xAl
xM
2-x(PO
4)
3 …(2A)
[式中、Mは、少なくともチタン(Ti)を含む1種または2種以上の元素であり、Mが2種以上の元素である場合には、Mは、チタン(Ti)を含むとともに、ゲルマニウム(Ge)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含み、xは、0<x<1の関係式を満たす値である]
【0040】
さらに、上記の化学式(2A)におけるxは、0.2≦x≦0.5の関係式を満たす値であることが好ましい。このようにすれば、固体電解質層40におけるリチウムイオン伝導性をさらに向上させることができる。
【0041】
また、固体電解質層40は、緻密であることが好ましい。具体的には、固体電解質層40の理論密度に対する相対密度が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。ここで、相対密度は、アルキメデス法を利用して求めることができる。相対密度を80%以上とすることで、全固体電池10の内部抵抗を容易に低減することができる。
【0042】
また、固体電解質層40は、焼結体であることが好ましい。これにより、固体電解質層40の密度をより容易に向上させて、上記の相対密度を容易に実現することができる。焼結体である固体電解質層40は、例えば、固相反応法によって作製することができる。固相反応法は、酸化物、炭酸塩、硝酸塩などの粉末原料を、所望の組成となるように秤量・混合した後に焼成する方法である。ただし、固体電解質層40は、焼結体でなくてもよい。
【0043】
また、固体電解質層40は、イオン伝導率が10
-5S/cm以上であることが好ましく、10
-4S/cm以上であることがさらに好ましい。このようにすれば、全固体電池10の内部抵抗を低減することができる。
【0044】
本実施形態のように、固体電解質層40が酸化物系固体電解質によって形成されていれば、全固体電池10において、水分と反応して硫化水素を発生し得る硫化物系固体電解質の使用量を削減することができる。このため、全固体電池10の製造時及び使用時の安全性を高めることができる。
【0045】
A−5.保護層の詳細構成:
本実施形態の固体電解質層40に用いられる酸化物系固体電解質材料は、正極電極層20に含まれる正極活物質または負極電極層30に含まれる負極活物質に接触した場合に、酸化または還元による劣化が生じる場合がある。例えば、チタンを含む酸化物系固体電解質材料は、正極活物質または負極活物質に接触した場合に、還元による劣化が生じやすい。
【0046】
そこで、本実施形態では、硫化物系固体電解質材料によって形成されている第1保護層41が、正極電極層20と固定電解質層との間に設けられているとともに、硫化物系固体電解質材料によって形成されている第2保護層42が、負極電極層30と固体電解質層40との間に設けられている。したがって、本実施形態によれば、電気化学的に安定な硫化物系固体電解質材料によって形成されている第1保護層41及び第2保護層42によって、電気化学的に不安定な酸化物系固体電解質材料によって形成されている固体電解質層40が、正極活物質または負極活物質に接触することを抑制することができるので、固体電解質層40の酸化または還元による劣化を抑制することができる。この結果、酸化物系固体電解質材料によって形成されている固体電解質層40を用いた全固体電池10の充放電が可能となる。
【0047】
第1保護層41及び第2保護層42を形成する硫化物系固体電解質材料としては、例えば、以下の化学式(5)によって表される化合物を用いることができる。
yLi
2S−(1−y)P
2S
5 …(5)
[式中、Yは、0.65≦y≦0.80の関係式を満たす値である]
このようにすれば、電気化学的に安定な第1保護層41及び第2保護層42を実現することができるので、酸化または還元による固体電解質層40の劣化を抑制することができる。ただし、第1保護層41及び第2保護層42を形成する材料としては、他の硫化物系固体電解質材料を用いてもよい。
【0048】
このように、本実施形態によれば、硫化物系固体電解質材料によって形成されている第1保護層41及び第2保護層42を設けることによって、電気化学的に不安定な酸化物系固体電解質材料によって形成されている固体電解質層40の酸化または還元による劣化を抑制することができる。
【0049】
B.保護層に関する実験例:
B−1.概要:
本実験例では、保護層の有無と、全固体電池の充放電容量との関係を調べた。具体的には、正極側と負極側との両方に保護層を有する全固体電池のサンプルと、正極側と負極側とのうちのいずれか一方にのみ保護層を有する全固体電池のサンプルと、保護層を有さない全固体電池のサンプルとを作製し、全固体電池の各サンプルの充放電容量を調べた。また、各サンプルの内部抵抗についても調べた。なお、全固体電池のサンプルは、3種類の正極合材を用いて作製した。
【0050】
B−2.全固体電池のサンプルの作製:
[酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質の作製]
本実験例では、全固体電池の各サンプルにおける固体電解質層40を構成する酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質(Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3)を以下の手順によって作製した。まず、原料であるTiO
2、Li
2CO
3、(NH
3)
2HPO
4、及びAl
2O
3を、化学量論的組成で秤量した。秤量した原料を、アルミナポット内にジルコニアボールと共に投入し、エタノール溶媒中で15時間粉砕混合した。次いで、エタノールを気化させて900℃による熱処理(焼成)を2時間行った。
【0051】
熱処理後の試料にセラミック用バインダーを添加し、添加後の試料をアルミナポット内にジルコニアボールと共に投入し、エタノール溶媒中で15時間粉砕混合した。粉砕混合後の試料を乾燥させてエタノールを気化させ、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質の成形前粉末を得た。次いで、冷間静水等方圧プレス機を用いて、1.5t/cm
2の静水圧を成形前粉末に印加して、成形体を得た。得られた成形体に対して900℃による熱処理(焼成)を4時間行い、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質の焼結体(以下、「LATP焼結体」とも呼ぶ。)を得た。本実験例では、得られたLATP焼結体を各サンプルの固体電解質層40として用いた。
【0052】
上記のようにして、直径10mm、厚さ1.0mmのLATP焼結体を作製して、嵩密度をアルキメデス法によって測定したところ、嵩密度は2.92g/cm
3であった。
【0053】
また、LATP焼結体のイオン伝導率を、交流インピーダンス測定法によって測定したところ、25℃でのリチウムイオン伝導率は、4.1・10
-4S/cmであった。なお、このリチウムイオン伝導率の測定には、ソーラトロン社製の周波数応答アナライザ1255Bとポテンショ/ガルバノスタット1470Eとを組み合わせた電気化学測定システムを用いた。
【0054】
[硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質の作製]
本実験例では、各サンプルの電極層に混合される硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質を以下の手順によって作製した。まず、アルゴン雰囲気グローブボックス中で、原料であるLi
2SとP
2S
5を、モル比がLi
2S:P
2S
5=80:20となるように秤量した。秤量した原料を、遊星型ボールミルのジルコニアポット内にジルコニアボールと共に投入し、アルゴン雰囲気中、回転数540rpmで9時間メカニカルミリングを行った。以下では、メカニカルミリング後の試料を「硫化物ガラス」とも呼ぶ。
【0055】
この硫化物ガラスのイオン伝導率を交流インピーダンス測定法によって測定したところ、25℃でのリチウムイオン伝導率は4・10
-4S/cmであった。
【0056】
[電極合材の作製]
本実験例では、正極合材を3種類、負極合材を1種類作製した。
・正極合材1(Li
4Ti
5O
12合材)の作製:
アルゴン雰囲気、露点−60℃以下のグローブボックス中にて、Li
4Ti
5O
12、硫化物ガラス、ケッチェンブラックを、質量比がLi
4Ti
5O
12:硫化物ガラス:ケッチェンブラック=30:70:10となるように秤量した。秤量した原料を、遊星型ボールミルのジルコニアポット内にジルコニアボールと共に投入し、回転数200rpmで1時間混合を行なうことによって、正極合材1を作製した。
【0057】
・正極合材2(硫黄合材)の作製:
アルゴン雰囲気、露点−60℃以下のグローブボックス中にて、硫黄、硫化物ガラス、ケッチェンブラックを、質量比が硫黄:硫化物ガラス:ケッチェンブラック=50:50:8.33となるように秤量した。秤量した原料を、遊星型ボールミルのジルコニアポット内にジルコニアボールと共に投入し、回転数380rpmで1時間混合を行なうことによって、正極合材2を作製した。
【0058】
・正極合材3(LiCoO
2合材)の作製:
アルゴン雰囲気、露点−60℃以下のグローブボックス中にて、LiCoO
2、硫化物ガラスを、質量比がLiCoO
2:硫化物ガラス=70:30となるように秤量した。秤量した原料を、遊星型ボールミルのジルコニアポット内にジルコニアボールと共に投入し、回転数100rpmで1時間混合を行なうことによって、正極合材3を作製した。
【0059】
・負極合材(Li−Al合材)の作製:
Li−Al、硫化物ガラスを、質量比がLi−Al:硫化物ガラス=50:50となるように秤量し、乳鉢を用いて混合することによって、負極合材を作製した。
【0060】
[電極ペレットの作製]
本実験例では、3種類の正極ペレットと3種類の負極ペレットを作製した。ただし、3種類の負極ペレットは、用いる負極合材の量が異なっているだけであり、用いる負極合材は同じである。
【0061】
・正極ペレット1の作製:
正極ペレット1(Li
4Ti
5O
12合材プレス体)は、加圧成形可能な直径10mmの円形型内で、集電体として用いられるSUS基材と、正極合材1(約15mg)とをこの順番で積層し、360Mpaでプレス成形することにより作製した。
【0062】
・正極ペレット2の作製:
正極ペレット2(硫黄合材プレス体)は、加圧成形可能な直径10mmの円形型内で、集電体として用いられるSUS基材と、正極合材2(約15mg)とをこの順番で積層し、360Mpaでプレス成形することにより作製した。
【0063】
・正極ペレット3の作製:
正極ペレット3(LiCoO
2合材プレス体)は、加圧成形可能な直径10mmの円形型内で、集電体として用いられるSUS基材と、正極合材3(約15mg)とをこの順番で積層し、180Mpaでプレス成形することにより作製した。
【0064】
・負極ペレット1の作製:
負極ペレット1(Li−Al合材プレス体)は、加圧成形可能な直径10mmの円形型内で、集電体として用いられるSUS基材と、負極合材(約10mg)とをこの順番で積層し、360Mpaでプレス成形することにより作製した。
【0065】
・負極ペレット2の作製:
負極ペレット2(Li−Al合材プレス体)は、加圧成形可能な直径10mmの円形型内で、集電体として用いられるSUS基材と、負極合材(約50mg)とをこの順番で積層し、360Mpaでプレス成形することにより作製した。
【0066】
・負極ペレット3の作製:
負極ペレット3(Li−Al合材プレス体)は、加圧成形可能な直径10mmの円形型内で、集電体として用いられるSUS基材と、負極合材(約30mg)とをこの順番で積層し、360Mpaでプレス成形することにより作製した。
【0067】
[保護層の作製]
アルゴン雰囲気のグローブボックス中にて、硫化物ガラス、シリコーンを、質量比が硫化物ガラス:シリコーン=100:5となるように秤量して、トルエン溶媒中に混合した。混合した原料を、遊星型ボールミルのジルコニアポット内にジルコニアボールと共に投入し、回転数100rpmで1時間混合を行なうことによって複合化させて、保護層用ペーストを作製した。作製した保護層用ペーストを、LATP焼結体の表面に、片面約2mgずつ塗布することによって、保護層を作製した。ただし、保護層用ペーストを塗布する工程は、保護層を有するサンプルを作製する場合にのみ行なった。
【0068】
[全固体電池の作製]
全固体電池のサンプルを作製する際には、まず、正極ペレット、保護層、LATP焼結体、保護層、負極ペレットをこの順番で積層し、この積層体を集電体を介して約50Mpaの圧力で挟持することによって各構成部材を固定した。そして、加圧を解除し、集電体を含む積層体をアルミ板で挟むことによって、全固体電池のサンプルを作製した。ただし、保護層を有さないサンプルを作製する場合には、積層する工程において、保護層は省略した。
【0069】
各サンプルに使用された正極ペレット及び負極ペレットの種類は、以下のとおりである。
サンプル1〜4 :正極ペレット1(Li
4Ti
5O
12合材)
負極ペレット1(Li−Al合材、10mg)
サンプル5〜7 :正極ペレット2(硫黄合材)
負極ペレット2(Li−Al合材、50mg)
サンプル8〜10:正極ペレット3(LiCoO
2合材)、
負極ペレット3(Li−Al合材、30mg)
【0070】
また、各サンプルにおける保護層の有無は、以下のとおりである。
サンプル1 :負極電極層/保護層/LATP焼結体/保護層/正極電極層
サンプル2 :負極電極層/ /LATP焼結体/ /正極電極層
サンプル3 :負極電極層/保護層/LATP焼結体/ /正極電極層
サンプル4 :負極電極層/ /LATP焼結体/保護層/正極電極層
サンプル5 :負極電極層/保護層/LATP焼結体/保護層/正極電極層
サンプル6 :負極電極層/保護層/LATP焼結体/ /正極電極層
サンプル7 :負極電極層/ /LATP焼結体/ /正極電極層
サンプル8 :負極電極層/保護層/LATP焼結体/ /正極電極層
サンプル9 :負極電極層/保護層/LATP焼結体/保護層/正極電極層
サンプル10:負極電極層/ /LATP焼結体/ /正極電極層
【0071】
B−3.Li
4Ti
5O
12合材が用いられたサンプル1〜4に対する実験例:
本実験例では、全固体電池のサンプル1〜4の内部抵抗を、上述した電気化学測定システムを用いて、交流インピーダンス測定法によって測定した。
【0072】
さらに、本実験例では、全固体電池のサンプル1〜4の負極電極層1gあたりの充放電容量[mAh/g]を調べた。具体的には、全固体電池のサンプル1〜4を25℃の恒温相内に保管した上で、これらのサンプル1〜4に対して、定電流充放電試験を、放電カットオフ電位0.7V、充電カットオフ電位1.9V、電流密度1.28mA/cm
2の条件で2回繰り返して行ない、値がより安定する2サイクル目の充放電容量を求めた。
【0073】
図2は、全固体電池のサンプル1〜4における内部抵抗及び充放電容量を表形式で示す説明図である。
図3は、サンプル1及びサンプル2の定電流充放電試験の結果をグラフ形式で示す説明図である。
図2における評価の項目では、充放電容量が100mAh/g以上である場合に、最も高い評価として「A」を示し、充放電容量が100mAh/g未満、かつ、80mAh/g以上である場合に、2番目に高い評価として「B」を示し、充放電容量が80mAh/g未満である場合に、低い評価として「C」を示した。
【0074】
図3に示すように、正極としてLi
4Ti
5O
12合材が用いられた場合には、負極側と正極側の両方に保護層が設けられたサンプル1の充放電容量が最も高い値(116mAh/g)となり、評価はAとなった。一方、保護層が設けられていないサンプル2と、保護層が負極側と正極側のいずれか一方にのみ設けられているサンプル3、4では、充放電容量は低い値(6.1mAh/g、8.6mAh/g、7.3mAh/g)となり、評価はCとなった。したがって、正極としてLi
4Ti
5O
12合材が用いられた場合には、高い充放電容量を実現するために、硫化物系固体電解質材料によって形成された保護層を正極側と負極側の両方に設けることが好ましいことが理解できる。また、保護層が設けられているサンプルの方が、保護層が設けられていないサンプルよりも、内部抵抗が若干小さいという傾向が確認された。
【0075】
B−4.硫黄合材が用いられたサンプル5〜7に対する実験例:
本実験例では、全固体電池のサンプル5〜7の内部抵抗を、上述した電気化学測定システムを用いて、交流インピーダンス測定法によって測定した。
【0076】
さらに、本実験例では、全固体電池のサンプル5〜7の負極電極層1gあたりの充放電容量[mAh/g]を調べた。具体的には、全固体電池のサンプル1〜4を25℃の恒温相内に保管した上で、これらのサンプル1〜4に対して、定電流充放電試験を、放電カットオフ電位1.0V、充電カットオフ電位3.0V、電流密度1.28mA/cm
2の条件で2回繰り返して行ない、値がより安定する2サイクル目の充放電容量を求めた。
【0077】
図4は、全固体電池のサンプル5〜7における内部抵抗及び充放電容量を表形式で示す説明図である。
図5は、サンプル5及びサンプル7の定電流充放電試験の結果をグラフ形式で示す説明図である。なお、
図4における評価の基準は、
図2における評価の基準と同じである。
【0078】
図4に示すように、正極として硫黄合材が用いられた場合には、負極側と正極側の両方に保護層が設けられたサンプル5の充放電容量が最も高い値(699mAh/g)となり、評価はAとなった。さらに、負極側にのみ保護層が設けられたサンプル6の充放電容量も高い値(484mAh/g)となり、評価はAとなった。一方、保護層が設けられていないサンプル7の充放電容量は低い値(24mAh/g)となり、評価はCとなった。したがって、正極として硫黄合材が用いられた場合には、高い充放電容量を実現するために、硫化物系固体電解質材料によって形成された保護層を少なくとも負極側に設ければよいことが理解できる。また、保護層が設けられているサンプルの方が、保護層が設けられていないサンプルよりも、内部抵抗が若干小さいという傾向が確認された。
【0079】
B−5.LiCoO
2合材が用いられたサンプル8〜10に対する実験例:
本実験例では、全固体電池のサンプル8〜10の内部抵抗を、上述した電気化学測定システムを用いて、交流インピーダンス測定法によって測定した。
【0080】
さらに、本実験例では、全固体電池のサンプル8〜10の負極電極層1gあたりの充放電容量[mAh/g]を調べた。具体的には、全固体電池のサンプル8〜10を25℃の恒温相内に保管した上で、これらのサンプル1〜4に対して、定電流充放電試験を、放電カットオフ電位2.0V、充電カットオフ電位4.5V、電流密度0.064mA/cm
2の条件で2回繰り返して行ない、値がより安定する2サイクル目の充放電容量を求めた。
【0081】
図6は、全固体電池のサンプル8〜10における内部抵抗及び充放電容量を表形式で示す説明図である。
図7は、サンプル8及びサンプル9の定電流充放電試験の結果をグラフ形式で示す説明図である。なお、
図6における評価の基準は、
図2における評価の基準と同じである。
【0082】
図6に示すように、正極としてLiCoO
2合材が用いられた場合には、少なくとも負極側に保護層が設けられたサンプル8、9の充放電容量が高い値(102mAh/g、99mAh/g)となり、評価はAとなった。一方、保護層が設けられていないサンプル10の充放電容量は低い値(20mAh/g)となり、評価はCとなった。したがって、正極としてLiCoO
2合材が用いられた場合には、高い充放電容量を実現するために、硫化物系固体電解質材料によって形成された保護層を少なくとも負極側に設ければよいことが理解できる。また、保護層が設けられているサンプルの方が、保護層が設けられていないサンプルよりも、内部抵抗が若干小さいという傾向が確認された。
【0083】
B−6.全固体電池のサンプルの観察:
<観察1>
上記のサンプル2と同様に作製した全固体電池を、充放電試験を行なわずに1週間放置した後、分解して内部の観察を行った。LATP焼結体の表面うち、Li−Al合材と接触していた側は、濃い青色に変色していることが確認された。一方、LATP焼結体の表面のうち、Li
4Ti
5O
12合材と接触していた側は、薄い青色に変色していることが確認された。すなわち、正極合材としてLi
4Ti
5O
12合材が用いられ、正極側と負極側の両方に保護層が設けられていないサンプル2では、LATP焼結体の両面が変質していることが確認された。したがって、正極合材としてLi
4Ti
5O
12合材が用いられた場合には、保護層は、正極側と負極側の両方に設けることが好ましいことが理解できる。
【0084】
<観察2>
サンプル5の全固体電池を切断し、負極電極層(Li−Al合材)、保護層(LPS層)及びLATP焼結体の界面を電子顕微鏡によって観察した。
図8は、サンプル5の全固体電池の断面を電子顕微鏡によって観察した結果を写真として示す説明図である。このサンプル5では、保護層(LPS層)は、負極電極層とLATP焼結体とを隔てて存在しており、保護層の厚さは、約30μmであることが確認された。
【0085】
<観察3>
各サンプルにおけるLATP焼結体の表面の観察を行なった。LATP焼結体の表面のうち、保護層が設けられておらず、Li
4Ti
5O
12合材と接触した表面は、青紫色に変色したことが確認された。同様に、LATP焼結体の表面のうち、保護層が設けられておらず、Li−Al合材と接触した表面は、青紫色へ変色したことが確認された。なお、使用前(充放電実験前)におけるLATP焼結体の表面は白色であった。
【0086】
図9は、青紫色に変色したLATP焼結体(サンプル7)の表面をXRD(X‐ray diffraction)によって成分分析をした結果を示す説明図である。この
図9によれば、変色したLATP焼結体には、使用前(充放電実験前)のLATP焼結体には存在していなかったLi
3Ti
2(PO
4)
3が生成していることが確認された。この理由は、LATP焼結体におけるLiTi
2(PO
4)
3が、還元によって、Li
3Ti
2(PO
4)
3に変化したためであると考えられる。
【0087】
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施形態や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0088】
・変形例1:
上記実施形態において、第1保護層41と第2保護層42とのうちのいずれか一方を省略してもよい。
【0089】
・変形例2:
上記実施形態では、正極電極層20及び負極電極層30は、リチウムイオンの授受を行なう活物質を含有している。すなわち、上記実施形態では、全固体電池10において授受されるイオンとして、リチウムイオンが用いられている。ただし、正極電極層20及び負極電極層30は、リチウムイオンの授受を行なう活物質の代わりに、他のイオンの授受を行なう活物質を含有してもよい。
【0090】
例えば、正極電極層20及び負極電極層30は、リチウムイオンの授受を行なう活物質の代わりに、ナトリウムイオンの授受を行なう活物質を含有してもよい。この場合には、正極電極層20及び負極電極層30は、硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質の代わりに、硫化物系ナトリウムイオン伝導性固体電解質を含有すればよく、固体電解質層40は、酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質材料の代わりに、酸化物系ナトリウムイオン伝導性固体電解質材料によって形成されていればよい。
【0091】
すなわち、正極電極層20及び負極電極層30は、活物質によって授受が行なわれるイオンの種類に対応した硫化物系固体電解質を含有すればよく、固体電解質層40も、当該イオンの種類に対応した酸化物系固体電解質材料によって形成されていればよい。
【0092】
・変形例3:
上記実施形態において、固体電解質層40は、Li
1.5Al
0.5Ge
1.5(PO
4)
3(以下、「LAGP」とも呼ぶ)によって形成されていてもよい。LAGPは、リチウム金属と接触した場合に、還元による劣化が生じる材料である。しかし、上記実施形態では、保護層41、42が設けられているので、LAGPの還元による劣化を抑制することができる。
【0093】
すなわち、本発明は、正極活物質または負極活物質に接触した場合に、酸化または還元による劣化が生じる酸化物系固体電解質材料を、固体電解質層40の材料として用いた全固体電池に対して、特に適用することができ、より顕著な効果を得ることができる。
【0094】
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。