特許第6242641号(P6242641)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242641
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】電動ブレーキ装置システム
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/00 20060101AFI20171127BHJP
   B60T 8/28 20060101ALI20171127BHJP
   B60T 8/26 20060101ALI20171127BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20171127BHJP
   H02K 7/102 20060101ALI20171127BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   B60T8/00 Z
   B60T8/28 A
   B60T8/26 Z
   B60T13/74 G
   H02K7/102
   H02K7/116
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-196534(P2013-196534)
(22)【出願日】2013年9月24日
(65)【公開番号】特開2015-63154(P2015-63154A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】増田 唯
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−137082(JP,A)
【文献】 特開2010−158956(JP,A)
【文献】 特開2006−194356(JP,A)
【文献】 特開平06−327190(JP,A)
【文献】 特開平05−147516(JP,A)
【文献】 特開昭58−008453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12 − 8/96
B60T 13/00 − 13/74
H02K 7/102
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、この電動モータの回転運動を直線運動に変換する直動機構と、この直動機構に駆動されて車両の車輪にブレーキ荷重を与えるブレーキ部材とを有する電動ブレーキ装置を、前記車両に複数備え
これら複数の電動ブレーキ装置の前記ブレーキ荷重と前記電動モータの損失との相関を互いに異ならせ、
前記複数の電動ブレーキ装置の前記ブレーキ荷重を制御するブレーキ制御装置を備え
前記車両の速度を検出する車速検出手段を備え
前記ブレーキ制御装置は、前記車速検出手段で検出される車速に応じて、前記複数の電動ブレーキ装置のブレーキ荷重の配分比率を決定するブレーキ荷重配分比率決定手段を備え、
このブレーキ荷重配分比率決定手段は、
車速が閾値より大である通常走行状態における、ブレーキ荷重の総和Fを発揮する際の電動モータ損失Pcに対して、
車速が前記閾値以下となる一定値以下であるみなし停車状態における、ブレーキ荷重の総和Fを発揮する際の電動モータ損失Pc´が、Pc´≦Pcとなるよう、
前記車速検出手段で検出される車速から判断される前記みなし停車状態における、前記複数の電動ブレーキ装置のブレーキ荷重の配分比率を決定し、
前記複数の電動ブレーキ装置が、前記ブレーキ荷重の総和である総ブレーキ荷重Fを静的に維持するときの電流損失について、損失係数αおよび総ブレーキ荷重Fの二乗Fに比例する一つ以上の第1の電動ブレーキ装置群と、損失係数αおよび総ブレーキ荷重Fの二乗Fに比例する一つ以上の第2の電動ブレーキ装置群とを備え、
前記ブレーキ荷重配分比率決定手段は、
前記みなし停車状態における第1の電動ブレーキ装置群のブレーキ荷重Fおよび第2の電動ブレーキ装置群のブレーキ荷重Fの配分比率について、F:F=α:αとなるように決定する電動ブレーキ装置システム。
【請求項2】
請求項記載の電動ブレーキ装置システムにおいて、前記第1の電動ブレーキ装置群の損失係数α、第2の電動ブレーキ装置群の損失係数αについて、α<αであり、前記第1の電動ブレーキ装置群が前輪に配置され、第2の電動ブレーキ装置群が後輪に配置される電動ブレーキ装置システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電動ブレーキ装置システムにおいて、前記車両が前記車輪1回転あたり定められたパルス信号を発生する車輪速センサを備え、前記ブレーキ荷重配分比率決定手段は、前記車輪速センサによるパルス信号が一定時間以上発生しないとき、前記みなし停車状態と判定する判定手段を有する電動ブレーキ装置システム。
【請求項4】
電動モータと、この電動モータの回転運動を直線運動に変換する直動機構と、この直動機構に駆動されて車両の車輪にブレーキ荷重を与えるブレーキ部材とを有する電動ブレーキ装置を、前記車両に複数備え、
これら複数の電動ブレーキ装置の前記ブレーキ荷重と前記電動モータの損失との相関を互いに異ならせ、
前記複数の電動ブレーキ装置の前記ブレーキ荷重を制御するブレーキ制御装置を備え、
前記車両の速度を検出する車速検出手段を備え、
前記ブレーキ制御装置は、前記車速検出手段で検出される車速に応じて、前記複数の電動ブレーキ装置のブレーキ荷重の配分比率を決定するブレーキ荷重配分比率決定手段を備え、
このブレーキ荷重配分比率決定手段は、
車速が閾値より大である通常走行状態における、ブレーキ荷重の総和Fを発揮する際の電動モータ損失Pcに対して、
車速が前記閾値以下となる一定値以下であるみなし停車状態における、ブレーキ荷重の総和Fを発揮する際の電動モータ損失Pc´が、Pc´≦Pcとなるよう、
前記車速検出手段で検出される車速から判断される前記みなし停車状態における、前記複数の電動ブレーキ装置のブレーキ荷重の配分比率を決定し、
前記車両が前後加速度を検出する加速度センサを備え、前記ブレーキ荷重配分比率決定手段は、前記加速度センサによる前後加速度を発生しない車速から、前後加速度の積算値を減算した値が定められた値以下となったとき、前記みなし停車状態と判定する判定手段を有する電動ブレーキ装置システム。
【請求項5】
請求項記載の電動ブレーキ装置システムにおいて、前記みなし停車状態で、前記車両を加速させる指令入力が検知されたとき、または、前記車両を加速させる前後加速度が検出されたとき、前記ブレーキ荷重配分比率決定手段は、前記複数の電動ブレーキ装置のブレーキ荷重の配分比率を、通常の配分比率に変更する通常時配分比率変更手段を有する電動ブレーキ装置システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータの回転運動を直動機構を介して直線運動に変換して、車輪にブレーキ荷重を与える電動ブレーキ装置を車両に複数設けた電動ブレーキ装置システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動ブレーキとして、以下のものが提案されている。
1.遊星ローラねじ機構を使用した電動式直動アクチュエータが提案されている(特許文献1)。
2.ブレーキペダルを踏み込むことで、モータの回転運動を直動機構を介して直線運動に変換して、ブレーキパッドをブレーキディスクに押圧接触させて制動力を負荷する(特許文献2)
【0003】
制動力配分方法として、以下のものが提案されている。
3.プロポーショニングバルブによる、制動状態に応じた油圧ブレーキの制動力配分方法が提案されている(特許文献3)。
4.減速度に基づく制動力配分方法が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−194356号公報
【特許文献2】特開平6−327190号公報
【特許文献3】特開平5−147516号公報
【特許文献4】特開昭58−8453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記1,2のような電動モータで制御する電動ブレーキ装置では、電動モータの回転数が零付近の低速領域で使用するため、例えば、赤信号にて車両を停車しているような場合、ブレーキ荷重を発揮している時間のうち、大半の時間において車両は停車しているため、消費電力の大半は電動モータの電流損失である。
制動力配分方法を定めた前記3,4の技術では、4輪車両のブレーキの前後配分は、車両の重量や重心等から適切な制動特性となるよう決定される。また理想となる制動力配分は、車両の減速度や、積載の状態等によって変化する。このように車両の状況によって変化する制動力配分とすると、電動モータの電流損失を最小化を図ることが難しい。
【0006】
電動ブレーキ装置において、単位ブレーキ力当たりの電流損失は、モータトルク、減速比等によって決定される。前述のように、車両の状況によって理想となる制動力配分は変化するうえ、電動ブレーキ装置の設計において、搭載スペースや慣性モーメントが制約となることから、電流損失の最小化と制動力配分の最適化を両立させることは困難な場合がある。
【0007】
この発明の目的は、電流損失の最小化と制動力配分の最適化を両立させることができる電動ブレーキ装置システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前提構成の電動ブレーキ装置システムは、
電動モータ2と、この電動モータ2の回転運動を直線運動に変換する直動機構4と、この直動機構4に駆動されて車両の車輪にブレーキ荷重を与えるブレーキ部材とを有する電動ブレーキ装置A1,A2を、前記車両に複数備え
これら複数の電動ブレーキ装置A1,A2の前記ブレーキ荷重と前記電動モータ2の損失との相関を互いに異ならせ、
前記複数の電動ブレーキ装置A1,A2の前記ブレーキ荷重を制御するブレーキ制御装置9を備え
前記車両の速度を検出する車速検出手段44を備え
前記ブレーキ制御装置9は、前記車速検出手段44で検出される車速に応じて、前記複数の電動ブレーキ装置A1,A2のブレーキ荷重の配分比率を決定するブレーキ荷重配分比率決定手段38を備え、
このブレーキ荷重配分比率決定手段38は、
車速が閾値より大である通常走行状態における、ブレーキ荷重の総和Fを発揮する際の電動モータ損失Pcに対して、
車速が前記閾値以下となる一定値以下であるみなし停車状態における、ブレーキ荷重の総和Fを発揮する際の電動モータ損失Pc´が、Pc´≦Pcとなるよう、
前記車速検出手段44で検出される車速から判断される前記みなし停車状態における、前記複数の電動ブレーキ装置A1,A2のブレーキ荷重の配分比率を決定することを特徴とする。
前記みなし停車状態は、車速が零のときつまり車両が停車中の状態および車両が極低速領域の状態も含む。
【0009】
この構成によると、複数の電動ブレーキ装置A1,A2は、ブレーキ荷重と電動モータ2の損失との相関を互いに異ならせた電動ブレーキ装置とする。車速検出手段44は、車両の速度を検出する。ブレーキ制御装置9は、複数の電動ブレーキ装置A1,A2のブレーキ荷重を制御する。このブレーキ制御装置9におけるブレーキ荷重配分比率決定手段38は、車速検出手段44で検出される車速に応じて、複数の電動ブレーキ装置A1,A2のブレーキ荷重の配分比率を決定する。
【0010】
判定手段38aは、車速検出手段44として、例えば、車両に設けられる車輪速センサ44aによるパルス信号が一定時間以上発生しないとき、前記みなし停車状態と判定する。
車速が一定値以下(車速数km/h以下)のみなし停車状態、例えば、赤信号にて車両を停車させるような場合、ブレーキ荷重を発揮している時間のうち、大半の時間において車両は停車している。この場合、制動力配分は略任意に決定できるため、電流損失を最小化する制動力配分とすることで、電動ブレーキ装置A1,A2の消費電力を低減することができる。
車速が閾値より大となる通常走行状態では、車両の重量、重心位置、減速度等の車両特性に基づく制動力配分とし、停車中等、車速が一定値以下であるみなし停車状態では、Pc´≦Pcとなるように、複数の電動ブレーキ装置A1,A2のブレーキ荷重の配分比率を決定する。このように電流損失の最小化と制動力配分の最適化を両立させることができる。前記閾値は、実車試験等により、例えば車速数十km/h以上に定められる。
【0011】
この発明における第1の発明の電動ブレーキ装置システムは、前記前提構成において、前記複数の電動ブレーキ装置A1,A2が、前記ブレーキ荷重の総和である総ブレーキ荷重Fを静的に維持するときの電流損失について、損失係数αおよび総ブレーキ荷重Fの二乗Fに比例する一つ以上の第1の電動ブレーキ装置群と、損失係数αおよび総ブレーキ荷重Fの二乗Fに比例する一つ以上の第2の電動ブレーキ装置群とを備え、
前記ブレーキ荷重配分比率決定手段38は、
前記みなし停車状態における第1の電動ブレーキ装置群のブレーキ荷重Fおよび第2の電動ブレーキ装置群のブレーキ荷重Fの配分比率について、F:F=α:αとなるように決定する。
前記F+F=総ブレーキ荷重Fである。
この場合、みなし停車状態で、ブレーキ荷重Fおよびブレーキ荷重Fは、電動ブレーキ装置A1,A2の電流損失が最小となる比率に変更される。つまりF:F=α:αのとき、総ブレーキ荷重Fを維持する際の電流損失が最小となる。
【0012】
前記第1の電動ブレーキ装置群の損失係数α、第2の電動ブレーキ装置群の損失係数αについて、α<αであり、前記第1の電動ブレーキ装置群が前輪45,45に配置され、第2の電動ブレーキ装置群が後輪43,43に配置されるものとしても良い。
【0013】
前記車両が前記車輪1回転あたり定められたパルス信号を発生する車輪速センサ44aを備え、前記ブレーキ荷重配分比率決定手段38は、前記車輪速センサ44aによるパルス信号が一定時間以上発生しないとき、前記みなし停車状態と判定する判定手段38aを有するものとしても良い。この場合、判定手段38aは、車輪速センサ44aによるパルス信号が一定時間以上発生しないとき、前記みなし停車状態と判定する。この判定結果により、ブレーキ荷重配分比率決定手段38は、総ブレーキ荷重Fを維持する際の電流損失が最小となるように、複数の電動ブレーキ装置A1,A2のブレーキ荷重の配分比率を決定する。
【0014】
この発明における第2の発明の電動ブレーキ装置システムは、前記前提構成において、前記車両が前後加速度を検出する加速度センサ40を備え、前記ブレーキ荷重配分比率決定手段38は、前記加速度センサ40による前後加速度を発生しない車速から、前後加速度の積算値を減算した値が定められた値以下となったとき、前記みなし停車状態と判定する判定手段38aを有する。この場合、判定手段38aは、加速度センサ40による前後加速度を発生しない車速から、前後加速度の積算値を減算した値が定められた値以下となったとき、前記みなし停車状態と判定する。この判定結果により、ブレーキ荷重配分比率決定手段38は、電流損失が最小となるように、複数の電動ブレーキ装置A1,A2のブレーキ荷重の配分比率を決定する。
【0015】
前記みなし停車状態で、前記車両を加速させる指令入力が検知されたとき、または、前記車両を加速させる前後加速度が検出されたとき、前記ブレーキ荷重配分比率決定手段38は、前記複数の電動ブレーキ装置A1,A2のブレーキ荷重の配分比率を、通常の配分比率に変更する通常時配分比率変更手段38bを有するものとしても良い。通常時配分比率変更手段38bは、車両がみなし停車状態から通常走行状態に移行すると、複数の電動ブレーキ装置A1,A2のブレーキ荷重の配分比率を、通常の配分比率に変更する。例えば、車両の重量、重心位置、減速度等の車両特性に基づく制動力配分とすることで、制動距離の短縮を図り、制動時の車両の安定性を高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明における第1の発明の電動ブレーキ装置システムは、電動モータと、この電動モータの回転運動を直線運動に変換する直動機構と、この直動機構に駆動されて車両の車輪にブレーキ荷重を与えるブレーキ部材とを有する電動ブレーキ装置を、前記車両に複数備え、これら複数の電動ブレーキ装置の前記ブレーキ荷重と前記電動モータの損失との相関を互いに異ならせ、前記複数の電動ブレーキ装置の前記ブレーキ荷重を制御するブレーキ制御装置を備え、前記車両の速度を検出する車速検出手段を備え、前記ブレーキ制御装置は、前記車速検出手段で検出される車速に応じて、前記複数の電動ブレーキ装置のブレーキ荷重の配分比率を決定するブレーキ荷重配分比率決定手段を備える。
このブレーキ荷重配分比率決定手段は、車速が閾値より大である通常走行状態における、ブレーキ荷重の総和Fを発揮する際の電動モータ損失Pcに対して、車速が前記閾値以下となる一定値以下であるみなし停車状態における、ブレーキ荷重の総和Fを発揮する際の電動モータ損失Pc´が、Pc´≦Pcとなるよう、前記車速検出手段で検出される車速から判断される前記みなし停車状態における、前記複数の電動ブレーキ装置のブレーキ荷重の配分比率を決定する。前記複数の電動ブレーキ装置が、前記ブレーキ荷重の総和である総ブレーキ荷重Fを静的に維持するときの電流損失について、損失係数αおよび総ブレーキ荷重Fの二乗Fに比例する一つ以上の第1の電動ブレーキ装置群と、損失係数αおよび総ブレーキ荷重Fの二乗Fに比例する一つ以上の第2の電動ブレーキ装置群とを備え、前記ブレーキ荷重配分比率決定手段は、前記みなし停車状態における第1の電動ブレーキ装置群のブレーキ荷重Fおよび第2の電動ブレーキ装置群のブレーキ荷重Fの配分比率について、F:F=α:αとなるように決定する。このため、電流損失の最小化と制動力配分の最適化を両立させることができる
この発明における第2の発明の電動ブレーキ装置システムは、前記前提構成において、前記車両が前後加速度を検出する加速度センサを備え、前記ブレーキ荷重配分比率決定手段は、前記加速度センサによる前後加速度を発生しない車速から、前後加速度の積算値を減算した値が定められた値以下となったとき、前記みなし停車状態と判定する判定手段を有するため、電流損失の最小化と制動力配分の最適化を両立させることができる。

【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明の第1の実施形態に係る電動ブレーキ装置システムの各電動ブレーキ装置の断面図である。
図2】同電動ブレーキ装置の減速機構の拡大断面図である。
図3】同電動ブレーキ装置システムの制御系のブロック図である。
図4】ブレーキ荷重を静的に保持する際の、各電動ブレーキ装置の電流損失を示す図である。
図5】第1,第2の電動ブレーキ装置を用いた制動中および停車後の動作を示す図である。
図6】同電動ブレーキ装置システムのブレーキ比率と電流損失との相関を示す図である。
図7】電動ブレーキ装置システムの制御動作を段階的に示すフローチャートである。
図8】この発明の電動ブレーキ装置システムを搭載した電気自動車を概略示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の第1の実施形態に係る電動ブレーキ装置システムを図1ないし図7と共に説明する。以下の説明は、この電動ブレーキ装置システムの制動力制御方法についての説明も含む。この電動ブレーキ装置システムは、図3に示すように、複数の電動ブレーキ装置A1,A2と、ブレーキ制御装置9と、車両の速度を検出する車速検出手段44とを備える。この電動ブレーキ装置システムが、例えば、4輪の電気自動車等の車両に搭載される。前記複数の電動ブレーキ装置A1,A2は、後述するようにブレーキ荷重と電動モータ2の損失との相関を互いに異ならせた電動ブレーキ装置としている。
【0019】
図1は、電動ブレーキ装置システムの各電動ブレーキ装置A1,A2の断面図である。
各電動ブレーキ装置A1,A2は、ハウジング1と、電動モータ2と、この電動モータ2の回転を減速する減速機構3と、直動機構4と、ロック機構5と、ブレーキロータ6と、ブレーキパッド(ブレーキ部材)7とを有する。ハウジング1の開口端に、径方向外方に延びるベースプレート8が設けられ、このベースプレート8に電動モータ2が支持されている。ハウジング1内には、電動モータ2の出力によりブレーキロータ6、この例ではディスクロータ6に対して制動力を負荷する直動機構4が組み込まれている。ハウジング1の開口端およびベースプレート8の外側面は、カバー10によって覆われている。
【0020】
直動機構4について説明する。
直動機構4は、減速機構3で出力される回転運動を直線運動に変換して、ブレーキロータ6に対してブレーキパッド7を当接離隔させる機構である。この直動機構4は、スライド部材11と、軸受部材12と、環状のスラスト板13と、スラスト軸受14と、転がり軸受15,15と、回転軸16と、キャリア17と、すべり軸受18,19とを有する。ハウジング1の内周面に、円筒状のスライド部材11が、回り止めされ且つ軸方向に移動自在に支持されている。スライド部材11の内周面には、径方向内方に所定距離突出して螺旋状に形成された螺旋突起11aが設けられている。この螺旋突起11aに、後述する複数の遊星ローラ20が噛合している。
【0021】
ハウジング1内におけるスライド部材11の軸方向一端側に、軸受部材12が設けられている。この軸受部材12は、径方向外方に延びるフランジ部と、ボス部とを有する。ボス部内に転がり軸受15,15が嵌合され、これら各軸受15,15の内輪内径面に回転軸16が嵌合されている。よって回転軸16は、軸受部材12に軸受15,15を介して回転自在に支持される。
【0022】
スライド部材11の内周には、前記回転軸16を中心に回転可能なキャリア17が設けられている。キャリア17は、軸方向に互いに対向して配置されるディスク17a,17bを有する。軸受部材12に近いディスク17bをインナ側ディスク17bといい、ディスク17aをアウタ側ディスク17aという場合がある。一方のディスク17aのうち、他方のディスク17bに臨む側面には、この側面における外周縁部から軸方向に突出する間隔調整部材17cが設けられる。この間隔調整部材17cは、複数の遊星ローラ20の間隔を調整するため、円周方向に間隔を空けて複数配設されている。これら間隔調整部材17cにより、両ディスク17a,17bが一体に設けられる。
【0023】
インナ側ディスク17bは、回転軸16との間に嵌合されたすべり軸受18により、回転自在に支持されている。アウタ側ディスク17aには、中心部に軸挿入孔が形成され、この軸挿入孔にすべり軸受19が嵌合されている。アウタ側ディスク17aは、すべり軸受19により回転軸16に回転自在に支持される。回転軸16の端部には、スラスト荷重を受けるワッシャが嵌合され、このワッシャの抜け止め用の止め輪が設けられる。
【0024】
キャリア17には、複数のローラ軸21が周方向に間隔を空けて設けられている。各ローラ軸21の両端部が、ディスク17a,17bにわたって支持されている。すなわちディスク17a,17bには、それぞれ長孔から成る軸挿入孔が複数形成され、各軸挿入孔に各ローラ軸21の両端部が挿入されてこれらローラ軸21が径方向に移動自在に支持される。複数のローラ軸21には、これらローラ軸21を径方向内方に付勢する弾性リング22が掛け渡されている。
【0025】
各ローラ軸21に、遊星ローラ20が回転自在に支持され、各遊星ローラ20は、回転軸16の外周面と、スライド部材11の内周面との間に介在される。複数のローラ軸21に渡って掛け渡された弾性リング22の付勢力により、各遊星ローラ20が回転軸16の外周面に押し付けられる。回転軸16が回転することで、この回転軸16の外周面に接触する各遊星ローラ20が接触摩擦により回転する。遊星ローラ20の外周面には、前記スライド部材11の螺旋突起11aに噛合する螺旋溝が形成されている。
キャリア17のインナ側ディスク17bと、遊星ローラ20の軸方向一端部との間には、ワッシャおよびスラスト軸受(いずれも図示せず)が介在されている。ハウジング1内において、インナ側ディスク17bと軸受部材12との間には、環状のスラスト板13およびスラスト軸受14が設けられている。
【0026】
減速機構3について説明する。
図2に示すように、減速機構3は、電動モータ2の回転を、回転軸16に固定された出力ギヤ23に減速して伝える機構であり、複数のギヤ列を含む。この例では、減速機構3は、電動モータ2のロータ軸2aに取付けられた入力ギヤ24の回転を、ギヤ列25,26,27により順次減速して、回転軸16の端部に固定された出力ギヤ23に伝達可能としている。
【0027】
ロック機構5について説明する。
ロック機構5は、直動機構4の制動力弛み動作を阻止するロック状態と許容するアンロック状態とにわたって切換え可能に構成されている。前記減速機構3に、ロック機構5が設けられている。ロック機構5は、ケーシング(図示せず)と、ロックピン29と、このロックピン29をアンロック状態に付勢する付勢手段(図示せず)と、ロックピン29を切換え駆動するアクチュエータであるリニアソレノイド30とを有する。前記ケーシングは、ベースプレート8に支持され、このベースプレート8には、ロックピン29の進退を許すピン孔が形成されている。
【0028】
リニアソレノイド30によりロックピン29を進出させて、ギヤ列26における出力側の中間ギヤ28に形成された係止孔(図示せず)に係合し、中間ギヤ28の回転を禁止することで、ロック状態にする。リニアソレノイド30をオフにすると、前記付勢手段による付勢力により、ロックピン29を前記ケーシング内に退入させて前記係止孔から離脱させ、中間ギヤ28の回転を許すことで、ロック機構5をアンロック状態にする。
【0029】
図3は、電動ブレーキ装置システムの制御系のブロック図である。複数の電動ブレーキ装置A1,A2を搭載する車両には、電気制御ユニットであるECU31が設けられている。ブレーキ制御装置9は、上位制御手段である前記ECU31におけるブレーキコントローラ37と、ECU31から与えられるトルク指令による減速指令に従い、電流指令に変換して各電動モータ2,2を個別に制御する個別ブレーキ制御部33,33とを有する。ECU31は、駆動制御部34と、一般制御部35と、ブレーキコントローラ37とを有する。駆動制御部34は、加速指令と減速指令と旋回指令とから、図示外の走行用のモータに与える加速・減速指令を生成する。一般制御部35は、ブレーキペダル32のストロークに応じて変化するセンサ32aの出力に応じて減速指令を生成し、この減速指令をブレーキコントローラ37へ出力する機能、および、エアコンなどの各種の補機システム(図示せず)等を制御する機能を有する。ECU31は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成される。
【0030】
ブレーキコントローラ37は、一般制御部35から出力される減速指令に従って、各電動ブレーキ装置A1,A2に制動指令を与える手段である。このブレーキコントローラ37は、ブレーキ荷重配分比率決定手段38と、アンチロックブレーキシステム(略称:ABS)39とを備える。ブレーキ荷重配分比率決定手段38は、車速検出手段44で検出される車速に応じて、複数の電動ブレーキ装置A1,A2のブレーキ荷重の配分比率を決定する。このブレーキ荷重配分比率決定手段38は、判定手段38aと、通常時配分比率変更手段38bと、みなし停車状態配分比率変更手段38cとを有する。
【0031】
判定手段38aは、車速検出手段44で検出される車速が「みなし停車状態」か否かを判定する。車両の停車中または車速が一定値以下(例えば数Km/h以下)であるとき、判定手段38aはみなし停車状態と判定する。前記車速検出手段44として、例えば、車輪1回転あたり定められたパルス信号を発生する車輪速センサ44aを適用しても良い。判定手段38aは、車両に設けられる車輪速センサ44aによるパルス信号が一定時間以上発生しないとき、前記みなし停車状態と判定する。
【0032】
通常時配分比率変更手段38bは、次の(1),(2)の条件を全て満たすとき、複数の電動ブレーキ装置A1,A2のブレーキ荷重の配分比率を、通常の配分比率に変更する。
(1)みなし停車状態である。
(2)車両を加速させる指令入力が検知されたとき、または、加速度センサ40等で車両を加速させる前後加速度が検出されたとき。
前記通常の配分比率とは、車両の重量、重心位置、減速度等の車両特性に基づく制動力配分比率とする。この配分比率は、実車試験やシミュレーション等により適宜に定められる。例えば、通常の走行中は、複数の電動ブレーキ装置A1,A2のブレーキ荷重の配分比率を、前記のような車両特性に基づく制動力配分比率とする。
【0033】
みなし停車状態配分比率変更手段38cは、判定手段38aで前記みなし停車状態と判定されると、第1の電動ブレーキ装置A1群のブレーキ荷重Fとし、第2の電動ブレーキ装置A2群のブレーキ荷重Fとすると、F:F=α:αとなるように、ブレーキ荷重F、Fの配分比率が決定される。この例では、第1の電動ブレーキ装置A1群が前輪にそれぞれ配置され、第2の電動ブレーキ装置A2群が後輪にそれぞれ配置される。但し、αは第1の電動ブレーキ装置A1群の損失係数、αは第2の電動ブレーキ装置A2群の損失係数である。またα<αと定められている。
【0034】
ここで図4は、ブレーキ荷重を静的に保持する際の、各電動ブレーキ装置の電流損失を示す図である。電動ブレーキ装置の電流損失は、直動機構および減速機の効率、減速比(等価リード)、およびモータトルクの二乗に比例する。すなわち、電流損失は、前記効率、減速比等を含んだ係数αと、ブレーキ加重Fの二乗Fとの積算になる。但し、摩擦ヒステリシスによる正効率・逆効率の影響は除外する。図4によると、第1,第2の電動ブレーキ装置は、同じブレーキ荷重に対して、第2の電動ブレーキ装置よりも第1の電動ブレーキ装置の電流損失が小さくなるように、ブレーキ荷重と電動モータの損失との相関を互いに異ならせている。
【0035】
図5は、第1,第2の電動ブレーキ装置を用いた制動中および停車後の動作を示す図である。図3も参照しつつ説明する。図5(a)に示すように、車両の制動開始から停車するまでの間、通常時配分比率変更手段38bは、複数の電動ブレーキ装置A1,A2のブレーキ荷重の配分比率を、通常の配分比率に変更する。例えば、図5(b)に示すように、ブレーキ荷重の総和である総ブレーキ荷重Fにおける、第1の電動ブレーキ装置A1のブレーキ荷重Fと、第2の電動ブレーキ装置A2のブレーキ荷重Fは、車両特性からなる配分比率に決定される。この配分比率は、前述したように、車両の重量、重心位置、減速度等から算出される理想制動配分曲線に基づいて決定される。
【0036】
図5(a)に示すように、車速が0Km/hとなる車両停車後、つまりみなし停車状態と判定された後、図5(b),(c)に示すように、みなし停車状態配分比率変更手段38cにより、ブレーキ荷重FおよびFは、電動ブレーキ装置A1,A2の電流損失が最小となる配分比率に変更される。
図6は、電動ブレーキ装置システムのブレーキ比率と電流損失との相関を示す図である。同図は、総ブレーキ荷重Fが一定のときにおける、ブレーキ荷重Fとブレーキ荷重Fの配分比率と電流損失との相関を示す。同図によると、F:F=α:αのとき、総ブレーキ荷重Fを維持する際の電流損失が最小となる。
【0037】
図5(a)乃至(c)に示すように、通常の走行中は、通常時配分比率変更手段38b(図3)によって車両特性からなる制動力配分比率とし、車両停車後では、みなし停車状態配分比率変更手段38c(図3)によってPc´≦Pcとなるように、車両停車後の複数の電動ブレーキ装置A1,A2のブレーキ荷重の配分比率を決定する。
Pc:車速が閾値より大における、ブレーキ荷重の総和Fを発揮するときの電動モータの電流損失。
Pc´:車速が一定値以下であるみなし停車状態における、ブレーキ荷重の総和Fを発揮するときの電動モータの電流損失。
【0038】
図7は、電動ブレーキ装置システムの制御動作を段階的に示すフローチャートである。図3も参照しつつ説明する。例えば、車両の電源41を投入する条件で本処理を開始し、ブレーキコントローラ37が、一般制御部35から減速指令である総ブレーキ荷重Fを取得する(ステップS1)。次に、判定手段38aによりみなし停車状態か否かを判定する(ステップS2)。みなし停車状態との判定で(ステップS2:Yes)、みなし停車状態配分比率変更手段38cは、F:F=α:αとなるように、ブレーキ荷重F、Fの配分比率を決定する(ステップS3)。
【0039】
前記判定手段38aによるみなし停車状態でないとの判定で(ステップS2:No)、通常時配分比率変更手段38bは、例えば、加速度センサ40から車両の減速度を取得する(ステップS4)。なお、車速検出手段44で検出される車速を微分して減速度を求めても良い。次に、通常時配分比率変更手段38bは、理想制動配分曲線よりブレーキ荷重F、Fの配分比率を決定する(ステップS5)。その後本処理を終了する。
【0040】
以上説明した電動ブレーキ装置システムによると、ブレーキ制御装置A1,A2におけるブレーキ荷重配分比率決定手段38は、車速検出手段44で検出される車速に応じて、複数の電動ブレーキ装置A1,A2のブレーキ荷重の配分比率を決定する。
例えば、赤信号にて車両を停車させるような場合、ブレーキ荷重を発揮している時間のうち、大半の時間において車両は停車している。この場合、制動力配分は略任意に決定できるため、電流損失を最小化する制動力配分とすることで、電動ブレーキ装置A1,A2の消費電力を低減することができる。
【0041】
つまり車両停車中、F:F=α:αとなるように、ブレーキ荷重F、Fの配分比率を決定することで、ブレーキ荷重Fを維持する際の電流損失が最小となり、消費電力を低減し得る。
例えば、通常の走行中は、車両の重量、重心位置、減速度等の車両特性に基づく制動力配分とすることで、制動距離の短縮を図り、制動時の車両の安定性を高めることができる。
このように電流損失の最小化と制動力配分の最適化を両立させることができる。
【0042】
他の実施形態として、車両が前後加速度を検出する加速度センサ40を備え、ブレーキ荷重配分比率決定手段38の判定手段38aは、前記加速度センサ40による前後加速度を発生しない車速から、前後加速度の積算値を減算した値が定められた値以下となったとき、みなし停車状態と判定しても良い。前記定められた値は、実車試験やシミュレーション等により得られる。
前記各実施形態では、電動ブレーキ装置をディスクブレーキに適用しているが、ディスクブレーキのみに限定されるものではない。電動ブレーキ装置をドラムブレーキに適用しても良い。
【0043】
図8は、いずれかの電動ブレーキ装置システムを搭載した電気自動車を概略示す図である。この電気自動車は、車体42の左右の後輪43,43が駆動輪とされ、左右の前輪45,45が従動輪とされた2輪駆動であり、左右の各駆動輪にそれぞれ独立して駆動力を与える駆動用モータ(図示せず)を備えている。
【0044】
左右の前輪45,45および左右の後輪43,43には、運転者によるブレーキペダル32の操作により、これら前輪45,45および後輪43,43にそれぞれブレーキ荷重を与える第1,第2の電動ブレーキ装置群A1,A2が設けられている。ブレーキ制御装置9におけるブレーキ荷重配分比率決定手段が、検出される車速に応じて、第1,第2の電動ブレーキ装置群A1,A2のブレーキ荷重の配分比率を決定することで、電流損失の最小化と制動力配分の最適化を両立させることができる。
【符号の説明】
【0045】
2…電動モータ
4…直動機構
7…ブレーキパッド(ブレーキ部材)
9…ブレーキ制御装置
38…ブレーキ荷重配分比率決定手段
38a…判定手段
38b…通常時配分比率変更手段
38c…みなし停止状態配分比率変更手段
40…加速度センサ
43…後輪(車輪)
44…車速検出手段
44a…車輪速センサ
45…前輪(車輪)
A1,A2…第1,第2の電動ブレーキ装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8