(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
画像計測方法の例として光干渉断層法(optical coherence tomography、略称OCT)がある。OCTは、対象物を経由した信号光と参照光との干渉光を検出して対象物の断層像を形成する技術である。OCTは、高解像度の画像を高速かつ非侵襲的に取得できるという利点から、医療分野などにおいて用いられている。
【0003】
この技術における主要な進歩としてフーリエドメインOCT(Fourier domain OCT、略称FD−OCT)がある。FD−OCTでは、フーリエ変換法を利用することにより、従来のタイムドメインOCT(time domain OCT、略称TD−OCT)と比較して、数十倍から数百倍の測定速度を達成できる。
【0004】
FD−OCTには、干渉光をスペクトル分解して検出するスペクトラルドメインOCT(spectral domain OCT、略称SD−OCT)と、波長掃引光源を用いて様々な波長の干渉光を得るスウェプトソースOCT(swept source OCT、略称SS−OCT)がある。
【0005】
一般に、画像計測方法は、電磁波などを用いて対象物の内部形態を表すアナログデータを収集し、収集されたデータをデジタル化して得られる信号を処理することで対象物を画像化する。これを実現する画像計測装置には、データ収集システム(data acquisition system、略称DAS)などのデジタル信号処理システムが搭載される。
【0006】
アナログ信号のサンプリングおよびA/D変換は、サンプリングクロック信号をトリガーとして実行される。フーリエ変換法を利用した画像計測方法では、サンプリングクロック信号の安定性が計測結果に大きく影響する。以下、サンプリングクロック信号を単にクロック信号と称することがある。
【0007】
例示として、FD−OCTの場合を説明する。FD−OCTにおいて検出されるスペクトル、つまりスペクトラルインターフェログラム(spectral interferogram、干渉スペクトル)は次式のように表される。
【0008】
【数1】
【0009】
ここで、kは波数、s(k)は光源のスペクトル、zは信号アームと参照アームの光路長差、I
Rは参照ミラーによる参照光の後方反射の強度、I
Sは対象物を経由した信号光の強度、φ
0(z)は初期位相項をそれぞれ表す。一般に、I
R、I
Sは低周波数信号または背景成分(DC成分)であり、容易に除去できる。それにより、式(1)は次のように簡略化される。
【0010】
【数2】
【0011】
ここで、A(z)=s(k)・2√(I
RI
S)は、対象物の深度zにおける後方散乱光の強度に比例した干渉信号の振幅を表す。式(2)に基づいてI(k)のフーリエ変換を行うことにより、深度zにおける対象物の後方散乱プロファイル、つまりAラインプロファイルを再構成することができる。
【0012】
SS−OCTにおいて深度z=d1、d2、d3に対応するスペクトラルインターフェログラムの波形の理想的な形態、および、それらをフーリエ変換して得られる信号の理想的な形態を
図1に示す。一方、実際に取得される信号の例を
図2に示す。この信号1000には、実際の信号に相当する信号成分1001だけでなく、アーティファクト成分(サイドピーク)1002が含まれている。アーティファクト成分1002は、ダイナミックレンジを制限するものであり、画質低下の原因となる。
【0013】
図3に示すように、クロック信号2000には、トリガーのタイミングを示すタイミング成分2001だけでなく、ノイズ成分(クロックノイズ)2002が含まれている。
図2に示すアーティファクト成分1002は、このようなクロックノイズ2002によって生じる。
【0014】
クロック信号の生成方法について説明する。たとえばSS−OCTでは、k−空間においてスペクトラルインターフェログラムを線形にサンプリングするために、専用のクロック信号が用いられる。このクロック信号を生成するための構成を
図4に示す。
【0015】
波長掃引光源3010から出力された光は、光ファイバー3020を介して干渉計3030に入力される。干渉計3030は、所定の光路長差を有している。すなわち、光遅延部3033は、たとえばファイバーストレッチャーにより構成され、光ファイバー3032および3034を介する経路と、光ファイバー3035を介する経路との間に光路長差を設ける。
【0016】
干渉計3030に入力された光は、ファイバーカプラ3031により二分される。一方の光は、光ファイバー3032を介して光遅延部3033に導かれて所定の位相遅延量を受け、光ファイバー3034を介してファイバーカプラ3036に導かれる。他方の光は、光ファイバー3035を介してファイバーカプラ3036に導かれる。ファイバーカプラ3036は、2つの光を干渉させる。生成される干渉光は、位相遅延量に相当する周波数を有する。この干渉光は、光ファイバー3040を介して光検出器3050により検出される。
【0017】
光検出器3050から出力された信号は、光ファイバー3060を介して増幅器3070に入力される。増幅器3070は、光検出器3050からの出力信号を増幅する。増幅器3070から出力される信号が、
図5に示すクロック信号4000となる。クロック信号4000は、k−空間におけるスペクトラルインターフェログラムの線形サンプリングのトリガー信号として用いられる。
【0018】
上記のように、干渉計3030は一定の光路長差Δzを有する。光路長差Δzは、サンプリング解像度の要求に応じて設定される。サンプリング解像度Δkは、光路長差Δzの逆数として定義される:Δk=1/Δz。
【0019】
また、サンプリング点に対応するクロック信号S
nは次のように表される:S
n=A・cos(2π・Δz・k
n+φ)=A・cos(2π・n+φ)=A・cos(φ)。この式から分かるように、スペクトラルインターフェログラムのサンプリングは、クロック信号S
nの瞬時位相が一定となる点において行われることが望ましい。特に、信号の振幅や光の強度の影響を受けないことを考慮すると、クロック信号のゼロクロス点が最も望ましいと考えられる。
図6における符号4010j(j=1,2,3,・・・・)は、クロック信号4000のゼロクロス点を示す。これらゼロクロス点4010jは、クロック信号4000の立ち上がりエッジ(rising edge)におけるゼロクロス点である。この場合、クロック信号S
nにおけるφの値は、φ≡3π/2となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明の実施形態の一例について、図面を参照しながら説明する。なお、この明細書に記載された文献の記載内容を以下の実施形態に援用することが可能である。以下、この発明をSS−OCTに適用した場合について詳述するが、フーリエ変換法を用いる任意の画像計測方法および画像計測装置に対して同様の手法を適用することが可能である。
【0026】
〈実施形態の概要〉
詳細は後述するが、発明者らは、クロック信号のノイズに起因する画像アーティファクトの発生位置と強さがクロックノイズの性質(周波数分布および強さ)により決定されることを見出した。実施形態では、当該事項に基づくものであり、アーティファクトを定量的に抑制するためのクロックノイズ抑制方法を提案する。この方法によれば、画像計測に要求されるダイナミックレンジに応じてアーティファクトを抑制することが可能である。
【0027】
〈原理〉
実施形態で使用される記号を次のように定義する。
n:N個のサンプリング点のインデックス(n=1,2,3,・・・,N)
A
S:スペクトル干渉信号の振幅
S
n:サンプリングされた信号
f
signal:信号S
nの周波数
Δk:サンプリング間隔(波数表現)
k
n:サンプリング点(波数表現)
A
noise:メインクロックに正規化されたクロックノイズの振幅
f
noise:クロックノイズの周波数
I
noise:クロックノイズの強度、I
noise=20log
10(A
noise)(dB)
f
sample:クロック信号の周波数
I
artifact:メインシグナルピークに正規化されたアーティファクトの強度(単位 dB)
R
dynamic:システムのダイナミックレンジ
D
max:画像化範囲における最大深度
Z
max:深度方向における有効画像化範囲
I
noise,thresh:アーティファクトを抑制するためのクロックノイズの閾値(単位 dB)
Z
signal:画像における信号深度
【0028】
理想的なケースにおいて、波数kが時間に関して線形にスキャンされた場合、SS−OCTのスペクトラルインターフェログラムS(k)=A
S・cos(2π・Z
signal・k+φ)は、時間tに関して次式のように収集される:S(t)=A
S・cos(2π・f
signal・t+φ)。ここで、時間tは波数kに比例し、周波数f
signalは深度Z
signalに比例する。ナイキスト・シャノンの標本化定理によれば、最大画像化深度D
maxは、クロック信号の周波数f
sample(つまりサンプリング周波数)の半分の値「f
sample/2」により決定される。
【0029】
深度Z
signalの信号散乱面からのSS−OCT信号のN個のサンプリング点の収集にDASが用いられる場合、サンプリングされた信号を次のように表すことができる:S
n=A
S・cos(2π・Z
signal・k
n+φ)。ここで、n=1,2,3,・・・,Nであり、k
n=nΔkであり(Δk:サンプリング間隔の波数表現)、φは初期位相である。S
nをフーリエ変換することにより、Aラインプロファイル(軸方向プロファイル)が得られる。横方向に沿う異なる位置について収集された複数のAラインプロファイルを用いて、対象物の2次元断層像を形成することができる。
【0030】
クロックノイズが画像に与える影響について説明する。クロックノイズの周波数をf
noise、振幅をA
noiseとすると、サンプリング点k
nは、次式のように非線形になる:k
n=[n+A
noisecos(2π・n・f
noise/f
sample)]・Δk。また、サンプリングされた信号は次式のようになる:S
n=A
S・cos[2π・Z
signal(n+A
noisecos(2π・n・f
noise/f
sample))・Δk+φ]。ここで、n=1,2,3,・・・,Nである。サンプリング点k
nの非線形性は、画像アーティファクトに相当するノイズを発生させる(
図2のサイドピーク1002を参照)。
【0031】
サンプリングされた信号S
nの式から分かるように、アーティファクトの発生位置と強さは、次の3つのパラメーターによって与えられる。
(1)Z
signal:信号深度
(2)A
noise:クロックノイズの振幅
(3)f
noise:クロックノイズの周波数
【0032】
これらパラメーターがアーティファクトに及ぼす影響について説明する。
図7は、Z
signal=0.9D
max、0.6D
max、0.3D
maxの場合における、クロックノイズ強度とアーティファクト強度との関係を示す。なお、f
noise=0.05f
sampleに設定されている。
図7から次のことが分かる。
(1)Z
signalがD
maxに近づくほど、つまり信号深度が深くなるほど、アーティファクトが強くなる。
(2)アーティファクトの強さは、クロックノイズの振幅(強度)A
noiseに比例する。
【0033】
図8は、クロックノイズ周波数とアーティファクト強度との関係を示す。なお、Z
signal=0.6D
max、A
noise=0.1に設定されている。
図8から次のことが分かる。
(3)f
noiseは、Z
signalやA
noiseと比較してアーティファクトへの影響は小さい。ただし、アーティファクト強度は、f
noiseの変化に応じて約3dBの幅で周期的に変化する。
【0034】
実施形態に係る画像計測方法は、上記考察により得られた知見1,2に基づく。
1.アーティファクトの強度はクロック信号のノイズの強度に比例する
2.計測範囲の最深層からの信号がアーティファクトに最も影響を及ぼす
【0035】
〈画像計測方法〉
実施形態に係る画像計測方法の例を
図9に示す。この方法は5段階の処理を含む。
(S1)システムの性能要求(動作条件)を入力する
(S2)システムにおける、クロックノイズに対するアーティファクトの依存性を求める
(S3)クロックノイズの閾値を決定する
(S4)クロック信号のノイズ特性を特定する
(S5)クロックノイズの閾値に基づきクロックノイズを除去する
なお、ステップ5のクロックノイズ除去より前の処理、たとえばステップ5のフィルター生成までの処理は、実際の画像計測より以下、各段階の処理を説明する。
【0036】
(S1:性能要求の入力)
システムのダイナミックレンジR
dynamicと、有効画像化範囲Z
maxとを入力する。この処理は、たとえば、図示しない入力デバイスを用いて行われる。なお、これらパラメーターが一定の場合には、この処理を行う必要はない。また、ダイナミックレンジR
dynamic等が対象物の種別や他のパラメーターに依存する場合には、事前に決定されたそれらの関係に基づいてダイナミックレンジR
dynamic等の値を自動設定するように構成することができる。
【0037】
(S2:クロックノイズとアーティファクトとの関連を求める)
アーティファクトの強度I
artifactと、クロックノイズの強度I
noiseとの対応を示す情報(強度情報)を求める。強度情報は、たとえば、クロックノイズの強度I
noiseに対するアーティファクトの強度I
artifactの変化を示すグラフとして表される。このグラフは、実際に測定を行うことによって取得できる。また、サンプリングされた信号S
nの式に基づくシミュレーションを行うことによって、このグラフを取得することも可能である:S
n=A
S・cos[2π・Z
signal(n+A
noisecos(2π・n・f
noise/f
sample))・Δk+φ]。
【0038】
図7に示すように、有効画像化範囲Z
maxの最大深度位置での信号がアーティファクトに最も影響を及ぼす。よって、この最大深度位置での信号に基づいて強度情報を求めることが望ましい。このようにして得られるグラフの例を
図10に示す。
【0039】
(S3:クロックノイズの閾値を決定する)
ステップ1で入力された動作条件(ダイナミックレンジR
dynamic)を用いてクロックノイズの閾値I
noise,threshを決定することができる。また、ステップ2で取得されたグラフを用いて閾値I
noise,threshを決定することができる。
図11Aおよび
図11Bを参照しつつ、このステップの処理の例を説明する。
【0040】
まず、ステップ1で入力されたダイナミックレンジR
dynamicに基づいて、アーティファクト強度の基準値I
0を設定する(
図11Aを参照)。基準値I
0は、たとえば次式により設定される:I
0=−R
dynamic。
【0041】
次に、前段階で設定された基準値I
0と、ステップ2で取得されたグラフ(
図10を参照)とに基づいて、閾値I
noise,threshを決定する。具体的には、このグラフにおいて、基準値I
0に対応するクロックノイズ強度の値を特定し、これを閾値I
noise,threshとする(
図11Bを参照)。この閾値I
noise,threshは、クロック信号におけるノイズの許容値を示す。
【0042】
(S4:クロック信号のノイズ特性を特定する)
クロック信号のノイズ特性の特定は、たとえば、スペクトルアナライザーを用いて取得されるクロック信号のパワースペクトルに基づいて行うことができる。具体的には、まず、スペクトルアナライザーを用いてクロック信号のスペクトルを測定する。次に、そのスペクトルに基づいて、サンプリング周波数以外のノイズの分布を特定する。そして、特定されたノイズの強度を閾値I
noise,threshと比較する(
図12を参照)。
【0043】
(S5:クロックノイズを除去する)
ステップ4におけるノイズの強度と閾値I
noise,threshとの比較に基づいて、クロックノイズを除去する。この処理は、たとえば
図13に符号Fで示すような透過特性を有するフィルターを用いて実行される。フィルターFは、ノイズが発生している周波数域においてはノイズの強度を閾値I
noise,thresh以下に低減し、クロック信号に相当する周波数域においては強度を低減させないように設定されている。
【0044】
このステップで用いられるフィルターは、単一のフィルターまたは複数のフィルターの組み合わせからなる。ここで用いられるフィルターは、ハイパスフィルター、バンドパスフィルターおよび/またはノッチフィルターを含む。具体例として、100〜500MHz帯を透過させるバンドパスフィルターを適用することができる。
【0045】
ノイズがコモンモードノイズである場合、或いはノイズがコモンモードノイズを含む場合には、バランスド検出器(balanced photo detector、平衡検出器)が効果的に用いられる。
【0046】
〈画像計測装置〉
上記画像計測方法を実現する画像計測装置の実施形態を説明する。
【0047】
[構成]
実施形態に係る画像計測装置の構成例を
図14および
図15に示す。ここではSS−OCTを用いた装置について説明するが、SD−OCTを用いた装置やOCT以外の画像化法を用いた装置についても、同様の構成を適用することが可能である。これら装置の相異は、画像化法に関する一般的な相異に過ぎない。たとえば、SS−OCTでは波長掃引光源と光検出器とが用いられるのに対し、SD−OCTでは広帯域光源とスペクトル検出器とが用いられる。
【0048】
〔全体構成〕
画像計測装置100は、波長可変レーザー等の波長掃引光源101を有する。波長掃引光源101は、高速で連続的に波長を変えながら光を出力する。波長掃引光源101から出力された光は、光ファイバー102を経由してファイバーカプラ103に導かれる。ファイバーカプラ103は、4本の光ファイバー102、104、111および112を接続している。光ファイバー102により導かれた光は、ファイバーカプラ103により信号光と参照光とに分割される。信号光は、対象物に照射される光であり、測定光、サンプル光などとも呼ばれる。参照光は、所定の参照経路を介して信号光に合成される。この実施形態では、対象物は被検眼Eの眼底Efである。
【0049】
信号光は、光ファイバー104に導かれてそのファイバー端から出射し、コリメーター105により平行光束となる。平行光束となった信号光は、スキャナー106を経由し、レンズ107および108により眼底Efに集束される。スキャナー106は、眼底Efに対する信号光の照射位置を変更する。スキャナー106としては、ガルバノスキャナー、ポリゴンミラー、共振スキャナー、音響光学変調器、回転プリズム、振動プリズムなどが用いられる。光ファイバー104、コリメーター105、スキャナー106、レンズ107および108が形成する光路は、信号光路あるいはサンプルアームなどと呼ばれる。
【0050】
眼底Efに照射された信号光は、眼底Efの様々な組織により散乱される。この散乱光のうちの後方散乱光は、信号光路を介してファイバーカプラ103に戻ってくる。さらに、この後方散乱光は、光ファイバー112によりファイバーカプラ113に導かれる。後方散乱光は、眼底Efの深さ方向の情報を含んでいる。
【0051】
一方、ファイバーカプラ103により生成された参照光は、光ファイバー111によってファイバーカプラ113に導かれる。参照光の経路は参照光路あるいは参照アームなどと呼ばれる。
【0052】
ファイバーカプラ113は、4本の光ファイバー111、112、114aおよび114bを接続している。ファイバーカプラ113の分岐比はたとえば1:1である。信号光と参照光は、ファイバーカプラ113により合成されて干渉光を生成する。この干渉光は、信号光に含まれる眼底Efの深さ方向の情報を引き継いでいる。検出器115は、光ファイバー114aおよび114bにより導かれた干渉光を検出する。検出器115は、たとえば、2つのフォトディテクタを有し、これらによる検出結果の差分を出力するバランスド検出器である。
【0053】
検出器115は、干渉光を検出する度に、その検出結果(検出信号)をデータ収集システム(DAS)116に送る。データ収集システム116は、検出器115から順次に入力される検出信号を収集する。また、データ収集システム116は、アナログの検出信号をサンプリングする処理や、サンプリングされた信号をデジタル信号に変換する処理などを実行する。これらの処理は、クロック信号をトリガーとして実行される。データ収集システム116は、取得されたデジタル信号を、たとえば一連の波長掃引毎に、つまりAライン毎にまとめて演算制御部120に送る。
【0054】
データ収集システム116に入力されるクロック信号は、クロック生成部118とノイズ処理部119により生成される。クロック生成部118には、波長掃引光源101から出力された光が光ファイバー117を介して入力される。クロック生成部118は、この光に基づいてクロック信号を生成する。クロック生成部118は、たとえば、
図4に示す干渉計3030、光ファイバー3040、光検出器3050、光ファイバー3060および増幅器3070を含んで構成される。それにより、
図5に示すようなクロック信号が生成される。
【0055】
クロック生成部118により生成されたクロック信号は、ノイズ処理部119に入力される。このクロック信号にはノイズが含まれている。ノイズ処理部119は、クロック生成部118により生成されたクロック信号のノイズを、あらかじめ設定された閾値以下に低減する。この閾値としては、前述した閾値I
noise,threshを適用することが可能である。ノイズ処理部119は、たとえば
図13に符号Fで示すような透過特性を有するフィルターにより、クロックノイズを低減する。
【0056】
ノイズ処理部119によりノイズが低減されたクロック信号は、データ収集システム116に入力される。データ収集システム116は、このクロック信号をトリガーとして、検出器115から入力された検出信号(アナログ信号)のサンプリングを行う。さらに、データ収集システム116は、検出信号からサンプリングされたデータに基づいてデジタルデータを生成する。生成されたデジタルデータは、演算制御部120に入力される。
【0057】
演算制御部120は、各種の演算処理、および、装置各部の制御を実行する。演算制御部120は、たとえば、マイクロプロセッサーと記憶装置とを含む。この記憶装置には、画像計測装置100のダイナミックレンジ(R
dynamic)と、有効画像化範囲(Z
max)とがあらかじめ記憶される。演算制御部120は、閾値決定部121および画像データ生成部122を有する。
【0058】
閾値決定部121は、あらかじめ取得された強度情報に基づいて、ノイズ処理部119によるクロックノイズ低減処理に供される閾値を決定する。強度情報は、前述のように、クロック信号のノイズの強度と画像アーティファクトの強度との対応を示す。強度情報は、たとえば演算制御部120の記憶装置にあらかじめ記憶される。
【0059】
閾値決定部121は、基準値設定部1211と、ノイズ強度取得部1212とを有する。基準値設定部1211は、たとえば
図9のステップ3で説明したように、記憶装置に記憶されているダイナミックレンジ(R
dynamic)に基づいて、アーティファクト強度の基準値(I
0)を設定する。基準値(I
0)としては、たとえば、ダイナミックレンジ(R
dynamic)の値に負号を付した値が設定される:I
0=−R
dynamic。
【0060】
ノイズ強度取得部1212は、基準値設定部1211により設定された基準値(I
0)に対応するノイズの強度を強度情報に基づいて取得する。この処理は、たとえば
図9のステップ3で説明したように、強度情報において基準値(I
0)に対応するクロックノイズ強度の値を特定することにより実行される。この処理により特定された値が閾値(I
noise,thresh)として用いられる。
【0061】
画像データ生成部122は、SS−OCTの原理を用いることで、データ収集システム116から入力されるデジタルデータに基づき各Aラインプロファイル(Aライン像)を再構成する。さらに、画像データ生成部122は、信号光のスキャンパターンに応じて複数のAラインプロファイルを一列に配列させることによりBスキャン像(2次元断層像)を形成する。また、画像データ生成部122は、信号光のスキャンパターンに応じて複数のBスキャン像を配列させてスタックデータを生成し、このスタックデータに補間処理等の画像処理を施すことにより、ボリュームデータを生成することができる。
【0062】
ユーザインターフェイス(マンマシンインターフェイス)130は、表示デバイス、入力デバイス、操作デバイス等を含む。表示デバイスとしては、LCDなどが用いられる。入力デバイスや操作デバイスとしては、画像計測装置100に設けられた各種ハードウェアキー(スイッチ、ボタン、ノブ、ジョイスティック等)がある。
【0063】
画像計測装置100に接続された装置に設けられたハードウェアキー(たとえばコンピューターに設けられたキーボード、ポインティングデバイス等)を、入力デバイスや操作デバイスとして用いることもできる。また、上記表示デバイスや上記コンピューターに表示されるソフトウェアキーを、入力デバイスや操作デバイスとして用いることも可能である。
【0064】
〈作用・効果〉
実施形態の作用および効果について説明する。
【0065】
実施形態に係る画像計測方法は、クロック生成ステップと、ノイズ低減ステップと、データ取得ステップと、デジタルデータ生成ステップと、画像データ生成ステップとを含む。クロック生成ステップでは、クロック信号を生成する。ノイズ低減ステップでは、生成されたクロック信号のノイズを、あらかじめ設定された閾値以下に低減する。データ取得ステップでは、対象物の内部形態を表すアナログデータを取得する。デジタルデータ生成ステップでは、ノイズが低減されたクロック信号に基づきアナログデータをサンプリングしてデジタルデータを生成する。画像データ生成ステップでは、生成されたデジタルデータに対してフーリエ変換を含むデータ処理を施すことにより対象物の画像データを生成する。
【0066】
実施形態に係る画像計測方法は、閾値決定ステップを含んでいてよい。閾値決定ステップでは、あらかじめ取得されたクロック信号のノイズの強度と画像アーティファクトの強度との対応を示す強度情報に基づいて、ノイズ低減ステップで用いられる閾値を決定する。
【0067】
閾値決定ステップは、次の2つのステップを含んでいてよい。第1のステップでは、あらかじめ設定されたダイナミックレンジの値に基づいて、画像に発生するアーティファクト(画像アーティファクト)の強度の基準値を設定する。この基準値として、ダイナミックレンジの値に負号を付した値を用いることができる。第2のステップでは、設定された基準値に対応するノイズの強度を、強度情報に基づいて取得する。取得されたノイズの強度が閾値として設定される。
【0068】
あらかじめ設定された計測深度方向の画像化範囲の最大深度位置における信号に基づいて強度情報を生成することが可能である。これは、
図7に示すように、画像化範囲の最大深度位置での信号がアーティファクトに最も影響を及ぼすことを考慮したものである。
【0069】
クロック信号のノイズ成分の周波数域の信号強度を閾値以下に低減し、かつ信号成分の周波数域の信号強度を低減させないフィルターを用いて、ノイズ低減ステップを実行することが可能である。
【0070】
データ取得ステップにおいてSS−OCTを用いることが可能である。具体的には、SS−OCTを用いたデータ取得ステップでは、波長掃引光源から出力された光を信号光と参照光とに分割し、対象物を経由した信号光と参照光との干渉光を生成し、この干渉光を検出してアナログ信号を取得する。
【0071】
データ取得ステップにおいてSD−OCTを用いることが可能である。具体的には、SD−OCTを用いたデータ取得ステップでは、広帯域光源から出力された光を信号光と参照光とに分割し、対象物を経由した信号光と参照光との干渉光を生成し、この干渉光をスペクトル分解し、そのスペクトル分布を検出してアナログ信号を取得する。
【0072】
実施形態に係る画像計測方法によれば、クロック信号のノイズに起因する画像アーティファクトを抑制することが可能である。
【0073】
また、強度情報やダイナミックレンジに基づき閾値を求めることができるので、アーティファクトを定量的に低減することが可能である。
【0074】
また、画像化範囲の最大深度位置における信号に基づいて強度情報を生成することにより、アーティファクトを効果的に低減することが可能である。
【0075】
実施形態に係る画像計測装置(100)は、クロック生成部(118)と、ノイズ処理部(119)と、データ取得部(
図14の光学系およびデータ収集システム116)と、画像データ生成部(122)とを有する。クロック生成部は、クロック信号を生成する。ノイズ処理部119は、生成されたクロック信号のノイズを、あらかじめ設定された閾値以下に低減する。データ取得部は、対象物の内部形態を表すアナログデータを取得し、ノイズが低減されたクロック信号に基づきアナログデータをサンプリングしてデジタルデータを生成する。画像データ生成部122は、生成されたデジタルデータに対してフーリエ変換を含むデータ処理を施すことにより対象物の画像データを生成する。
【0076】
ノイズ処理部119により用いられる閾値は、たとえば、あらかじめ取得されたクロック信号のノイズの強度と画像アーティファクトの強度との対応を示す強度情報に基づいて決定される。
【0077】
実施形態に係る画像計測装置は、閾値決定部(121)をさらに有していてよい。閾値決定部121は、ノイズ処理部119により用いられる閾値を強度情報に基づいて決定する。
【0078】
閾値決定部121は、基準値設定部1211と、ノイズ強度取得部1212とを有していてよい。基準値設定部1211は、あらかじめ設定されたダイナミックレンジの値に基づいて画像アーティファクトの強度の基準値を設定する。この基準値として、ダイナミックレンジの値に負号を付した値を用いることができる。ノイズ強度取得部1212は、この基準値に対応するノイズの強度を強度情報に基づいて取得する。取得されたノイズの強度が閾値として設定される。
【0079】
あらかじめ設定された計測深度方向の画像化範囲の最大深度位置における信号に基づいて強度情報を生成することが可能である。これは、
図7に示すように、画像化範囲の最大深度位置での信号がアーティファクトに最も影響を及ぼすことを考慮したものである。
【0080】
ノイズ処理部119は、たとえば、クロック信号のノイズ成分の周波数域の信号強度を閾値以下に低減し、かつ信号成分の周波数域の信号強度を低減させないフィルターを用いることで、クロック信号のノイズを低減する。
【0081】
データ取得部は、SS−OCTを用いて対象物の計測を行うことが可能である。その場合、画像計測装置は、波長掃引光源と、干渉光学系と、光電変換素子とを有する。波長掃引光源(101)は、高速で連続的に波長を変えながら光を出力する。干渉光学系は、波長掃引光源(101)から出力された光を信号光と参照光とに分割し、対象物を経由した信号光と参照光との干渉光を生成する。
図14に示す構成例では、干渉光学系は、光ファイバー102、ファイバーカプラ103、光ファイバー104、コリメーター105、スキャナー106、レンズ107および108、光ファイバー111および112、ファイバーカプラ113、並びに、光ファイバー114aおよび114bを含む。光電変換素子は、干渉光学系により生成された干渉光を検出してアナログ信号を生成する。
図14に示す構成例では、検出器115が光電変換素子に相当する。
【0082】
データ取得部は、SD−OCTを用いて対象物の計測を行うことが可能である。その場合、画像計測装置は、広帯域光源と、干渉光学系と、分光器とを有する。広帯域光源は、広帯域光を出力する。広帯域光源としては、たとえばスーパールミネッセントダイオード(SLD)が用いられる。
図14に示す構成例において、広帯域光源は、波長掃引光源101に替えて配置される。干渉光学系は、広帯域光源から出力された光を信号光と参照光とに分割し、対象物を経由した信号光と参照光との干渉光を生成する。この干渉光学系は、たとえば
図14と同様の構成を有する。分光器は、干渉光学系により生成された干渉光をスペクトル分解し、そのスペクトル分布を検出してアナログ信号を生成する。分光器は、干渉光をスペクトル分解する光学素子(たとえば回折格子)と、スペクトル分解された干渉光を検出する光電変換素子(たとえばラインセンサー)とを含む。
図14に示す構成例では、検出器115として分光器が用いられる。
【0083】
実施形態に係る画像計測装置によれば、クロック信号のノイズに起因する画像アーティファクトを抑制することが可能である。
【0084】
また、強度情報やダイナミックレンジに基づき閾値を求めることができるので、アーティファクトを定量的に低減することが可能である。
【0085】
また、画像化範囲の最大深度位置における信号に基づいて強度情報を生成することにより、アーティファクトを効果的に低減することが可能である。
【0086】
〈変形例〉
以上に説明した実施形態は単なる例示に過ぎず、発明の範囲を限定することを意図するものではない。この発明を実施しようとする者は、この発明の要旨の範囲内において、任意の変形を施すことができる。これら実施形態やその変形は、この発明の範囲およびその均等の範囲に含まれる。以下、変形の一例を示す。
【0087】
アーティファクトの抑制効果を確保するには、k−空間線形性を保持すること、つまり波長空間においてスペクトラルインターフェログラムを線形にサンプリングすることが重要である。波長掃引光源の波長変調の非線形性などに起因して、k−空間における線形性が劣化することがある。そうすると、クロック信号が周波数空間において広帯域信号となり、クロックノイズ特定処理に不利に作用することがある。その場合、クロックノイズ特定処理の前に、k−空間においてクロック信号が線形になるように、補間処理や再サンプリングを行うことが望ましい。クロック信号にk−空間線形性を与える方法には、ソフトウェアによる方法と、ハードウェアによる方法とがある。
【0088】
ソフトウェアによる方法の例として、クロック信号の瞬時位相の線形化を行うことにより、クロック信号の補間や再サンプリングを行うことが可能である。
【0089】
ハードウェアによる方法の例として、クロック信号の2倍以上の周波数を持つ他の信号を用いて、クロック信号を再サンプリングすることが可能である。
【0090】
このような補間処理や再サンプリングの効果を
図16Aおよび
図16Bに示す。
図16Aは、k−空間線形性の有無によるクロック信号の波形の相異を示す。
図16Aに実線で示す波形は、k−空間線形性を持たないクロック信号の波形を示す。一方、破線で示す波形は、この実線で示すクロック信号を上記処理で補正して得られた、k−空間線形性を有するクロック信号の波形である。
図16Bは、k−空間線形性の有無によるクロック信号の周波数分布の相異を示す。
図16Bに実線で示す波形は、k−空間線形性を持たないクロック信号の周波数分布を示す。一方、破線で示す波形は、この実線で示すクロック信号を上記処理で補正して得られた、k−空間線形性を有するクロック信号の周波数分布である。f
sampleが、このクロック信号の周波数を示す。