(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パンの挿通孔に通した消火ノズルをボルト等でパンに固定したり、消火ノズルとパンを一体に形成すると、消火ノズルとパンとの間に隙間が生じない。このため、室内に噴射されたハロンを隙間から漏洩させることなく、室内に留めることができる。
しかしながら、上記のようにボルト等で固定、あるいは一体形成されることで、消火ノズルおよびパンが相対変位を許容せずリジッドに結合されていると、例えば、室内に持ち込まれた物品の爆発により生じた風圧が設置部材に作用した際に、設置部材およびパンを介し、ノズルに対して過大な荷重が加えられる。
【0005】
本発明は、爆発等による過大な荷重に対しても、消火ノズルが破損することなく、消火機能を担保することができる航空機の消火設備、および消火設備を備えた航空機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、区画を形成する設置部材に設けられるノズル装置を備える航空機の消火設備であって、ノズル装置は、設置部材に設けられるノズル設置部に形成された挿通孔の内側に通され、供給源から供給される消火剤を区画内に向けて吐出するノズルと、ノズルとノズル設置部との間の隙間を塞ぐ蓋部材と、を備えることを
基本的な構成とする。
【0007】
本発明によれば、ノズルとノズル設置部との間の隙間が蓋部材により塞がれるため、ノズルから吐出された消火剤が隙間から漏洩することなく、区画内に留まる。そのため、区画内の消火剤の濃度が必要な濃度にまで高まり、消火に至る。
【0008】
また、本発明では、ノズルとノズル設置部との間に隙間があり、その隙間が蓋部材により塞がれているだけなので、ノズルとノズル設置部とがリジッドに結合されていない。
そのため、爆風などによる衝撃荷重が設置部材に作用した際に、ノズル設置部がノズルに対して相対変位するので、ノズルに対して過大な荷重が入力されない。
したがって、ノズルの破損を免れるので、爆発が生じた後でも、消火設備の消火機能を担保することができる。
本発明における「塞ぐ」は、必ずしも、気密に塞ぐことを意味しない。したがって、微小な孔や開口が形成された蓋部材も、本発明における蓋部材として用いることができる。
また、本発明における「吐出する」は、「噴射する」ことを包含する。
【0009】
本発明の消火設備では、蓋部材は、ノズル設置部およびノズルの一方に固定され、ノズル設置部は、ノズル設置部およびノズルの他方と蓋部材との間の摩擦力を超える荷重により、ノズルに対して変位されることが好ましい。
このように、ノズル設置部およびノズルの一方およびその一方に固定された蓋部材と、ノズル設置部およびノズルの他方とを相対変位させれば、蓋部材自体に大きい変形量を持たせなくても、ノズル設置部およびノズルの相対変位量を確保できる。
したがって、変形量が大きい大型で複雑な形態の蓋部材を用いることなく、ノズルとノズル設置
部の間を塞ぐだけの小型で単純な形態の蓋部材を用いることができる。そのため、ノズル装置の重量およびコストを抑えることができる。
【0010】
本発明の消火設備では、蓋部材が可撓性を有することが好ましい。
蓋部材の可撓性により、ノズルおよびノズル設置部に蓋部材を押し付けることができるので、ノズルおよびノズル設置部の間の隙間を気密に塞ぐことができる。そうすると、区画内の消火剤濃度を迅速に高め、スムーズに消火することができる。
【0011】
本発明の消火設備では、蓋部材は、ノズルが挿入される保持孔が形成されるリップ部と、挿通孔の周囲に固定されるフランジ部と、を備えることが好ましい。
そうすると、可撓性を有する蓋部材のリップ部により、ノズルの外周を締め付けることができるので、隙間を気密に塞ぐことができる。
また、フランジ部により、蓋部材をノズル設置部に容易に固定することができる。
【0012】
本発明の消火設備では、蓋部材は、可撓性を有するゴム系材料と、ゴム系材料よりも耐火性が高い繊維基材とを含む複合材から形成されることが好ましい。
そうすると、火炎の熱によりゴム系材料が融解したとしても繊維基材が残存するので、隙間からの消火剤の漏洩を防ぐことができる。また、隙間を通じた火炎の突き抜け防止にも寄与できる。
【0013】
本発明の消火設備では、蓋部材は、可撓性を有するゴム系材料を含む材料から形成されるとともに、ゴム系材料よりも耐火性が高い材料から形成された可撓性を有するバックアップ部材を内蔵し、バックアップ部材は、ノズルの外周に沿って環状またはC字状に形成されることが好ましい。
そうすると、蓋部材の主材に含まれたゴム系材料などが火炎の熱により融解したとしても、バックアップ部材により蓋部材の可撓性を担保できる。
バックアップ部材としては、例えば、スプリング、メッシュなどを用いることができる。
【0014】
また、本発明の消火設備では、蓋部材は、可撓性を有するゴム系材料を含む材料から形成されるとともに、ゴム系材料よりも耐火性が高い材料から形成された可撓性を有するバックアップ部材を内蔵し、バックアップ部材は、少なくとも隙間に対応する位置に配置されることが好ましい。
そうすると、ゴム系材料が融解した後も残存するバックアップ部材により、隙間からの消火剤の漏洩を防ぐことができるとともに、隙間を通じた火炎の突き抜け防止にも寄与できる。
【0015】
本発明の消火設備では、ノズル設置部は、設置部材に一体化される固定具であることが好ましい。
固定具として、ノズルの先端側を取り囲むパンを用いることができる。
【0016】
本発明の航空機は、上記の消火設備を備えることを特徴とする。
ここで、上記の消火設備は、航空機に形成されるいずれの区画の消火に用いるものであってもよい。
特に、荷物に紛れて爆発物が持ち込まれる可能性が高い区画である荷物室を消火するために好ましく用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、爆発等による圧力が設置部材に作用した際でも、設置部材を介して過大な荷重が消火ノズルに入力されることなく、消火機能を担保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態では、航空機の荷物室(カーゴルーム)内の火災を消火する消火設備を例示する。
本実施形態の航空機では、
図1(a)に示すように、客室11よりも後方に荷物室12が配置される。荷物室12は、円筒状をした胴体の後端側の部分に該当する。
図1(a)および(b)には、胴体の図示しないスキンおよび骨組(フレームおよびストリンガ)の内側に設けられるライナ13が示される。ライナ13により、荷物室12の室内空間(区画)が形成される。
【0020】
ライナ13は、
図1(b)に示すように、円弧状に連続する壁・天井用ライナ131と、平面状に形成される床用ライナ132と、前側の壁面をなすライナ133と、後側の壁面をなすライナ(図示しない)とからなる。床用ライナ132とスキンとの間には配管、配線等が設けられる。
これらのライナは、所定の耐火性を有する材料から形成される。本実施形態のライナは、ガラス繊維を含有する繊維強化樹脂(GFRP;Glass Fiber Reinforced Plastics)から形成される。
【0021】
荷物室12内の火災を消火する消火設備10は、消火剤の供給源である高圧タンク16Aおよび低圧タンク16Bと、これらのタンク16A,16Bに接続された消火配管17と、消火配管17を通じて消火剤が供給される複数のノズル装置20とを備える。
【0022】
高圧タンク16Aおよび低圧タンク16Bには、ハロン1301、ハロン1211、ハロン2402等のハロン系消火剤や、HFC−227ea、HFC−23等のハイドロフルオロカーボン系消火剤などが封入される。高圧タンク16A内の消火剤の圧力は、低圧タンク16B内の消火剤の圧力よりも高い。高圧タンク16Aは急速に消火剤を供給し、初期消火を図るために用いられ、低圧タンク16Bは、高圧タンク16Aよりも長時間、消火剤を継続して供給し、消火を完了するために用いられる。
これらのタンク16A,16Bは、荷物室12の後方に位置する防火壁18と、防火壁18よりも後方に設けられる与圧隔壁(図示しない)との間に設置される。
【0023】
消火配管17は、タンク16A,16Bの位置から、ライナ131の外周を通り、前側へと延出する本管171と、本管171からノズル装置20に向けて分岐する支管172とを備える。
本管171および支管172は、図示しないブラケットおよびクランプにより、胴体のフレームやストリンガに固定される。
なお、本管171および支管172は、フレームやストリンガと干渉する部分が曲がっているが、単純化して図示している。
ノズル装置20は、本実施形態では6つあり、ライナ131の天井部分に所定の間隔をおいて設けられる。
【0024】
各ノズル装置20は、
図2に示すように、消火剤を噴出するノズル21と、ノズル21が組み付けられるパン22(ノズル設置部、固定具)と、ノズル21およびパン22の間の隙間Sを塞ぐ蓋部材30とを備える。
ノズル21は、ライナ131に形成された円形の開口131Aを介して荷物室12内に向けて消火剤を噴射する。
なお、開口131Aの代わりに、ライナの端部に形成される切欠や、ライナとライナとの間の隙間から消火剤が噴射されてもよい。
ノズル21は、消火配管17の支管172に対して垂直に接続される。ノズル21の先端部には、周方向に間隔をおいて複数の噴射孔213が形成される。
【0025】
ノズル21およびパン22は、所定の耐熱性、耐火性を有するステンレス鋼などの金属材料から形成される。蓋部材30も、後述するように所定の耐熱性、耐火性を有する材料から形成される。
【0026】
パン22は、ライナ131の開口131Aに対応する開口241を有するパン本体24と、パン本体24の外周に連続する周縁部25とを有する。
パン22は、開口131Aの周囲でライナ131の裏側に伏せた状態で配置される。
【0027】
パン本体24は、ノズル21が通される挿通孔23を有しており、挿通孔23からノズル21が突出する部分を取り囲む。挿通孔23にノズル21を通すことができるように、挿通孔23の開口径は、ノズル21の外径よりも大きく設定されている。そのため、ノズル21とパン22との間には隙間Sが生じる。
周縁部25は、周方向の複数箇所に配置されるボルト251およびナット252により、ライナ131に締結される。これによってパン22がライナ131に固定される。
【0028】
蓋部材30は、ノズル21の外周と挿通孔23の内周との間の隙間Sを下方から塞ぐ。
蓋部材30は、内周側に位置するリップ部31と、外周側に位置するフランジ部32とを有する。
【0029】
リップ部31は、隙間Sに対応する位置に配置される。リップ部31は、パン本体24の内側に配置されており、隙間Sを上方から投影した範囲の全体に亘り存在する。リップ部31の外径は、挿通孔23の径よりも一回り大きい。
リップ部31の中央には、ノズル21が挿入される保持孔310が形成される。
リップ部31は、フランジ部32よりも厚肉に形成されており、厚み全体に亘り、ノズル21の外周を保持する。
【0030】
フランジ部32は、
図3に示すように、リップ部31の周縁に連続し、挿通孔23の周囲の複数箇所に形成された孔320(
図3(a))に挿入されるボルト321と、ナット322により、挿通孔23の周囲のパン本体24の内側に固定される。フランジ部32の下側には、フランジ部32の周方向に沿ってリング状のリテーナ323が重ねられることが好ましい。このリテーナ323により、フランジ部32がパン本体24に対して周方向全体に亘って十分に押し付けられる。なお、リング状のリテーナに代えて、各ボルト321にそれぞれ座金を設けることもできる。
【0031】
蓋部材30は、隙間Sを封止するために可撓性を有することが好ましい。
蓋部材30には、例えば、セラミック(ガラスも含む)などの繊維から緻密に形成された繊維基材にゴム系材料を含浸または塗布した複合材を用いることができる。あるいは、ゴム系材料から形成された板と繊維基材とが積層された複合材を用いることもできる。
上記の繊維基材により、蓋部材30に耐火性が付与され、ゴム系材料により、蓋部材30に可撓性が付与される。
繊維基材は、必要な耐火性を満足するように、糸(繊維)の太さ、織り方、厚みなどが選択される。
【0032】
上記複合材における繊維基材の材料としては、例えば、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、アルミナシリカ系繊維、カーボン系繊維、カルシア繊維、マグネシア繊維、チタニア繊維、ジルコニア繊維、ボリア繊維、Fe
2O
3の繊維等を好適に用いることができる。
また、上記複合材におけるゴム系材料としては、例えば、ニトリルゴム、シリコーンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、フルオロシリコーンゴム、天然ゴム、エチレン・プロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム等を好適に用いることができる。これらのゴム系材料の大部分は100℃以上の熱に耐えるので、火炎に晒されることなくスムーズに消火が行われれば、形状および可撓性を維持する。
【0033】
ノズル装置20は、例えば下記のようにして組み立てられる。
まず、消火配管17にノズル21を固定しておく。
また、ライナ131の裏側に、パン22をボルト251およびナット252により固定しておく。
そして、荷物室12の壁および天井にライナ131を取り付ける。このとき、パン22の挿通孔23内にノズル21が通される。
【0034】
次に、ノズル21およびパン22に蓋部材30を装着することで、ノズル21とパン22との間の隙間Sを塞ぐ。
このとき、蓋部材30の保持孔310内にノズル21を挿入する。保持孔310の内径はノズル21の外径よりも少し小さく設定されているので、ノズル21により蓋部材30が押し拡げられる。すると、蓋部材30が含有するゴム系材料の弾性力により、ノズル21の外周に蓋部材30が押し付けられる。そのため、ノズル21の外周と保持孔310の内周との間の摩擦力により、ノズル21が蓋部材30に保持される。
【0035】
保持孔310内にノズル21を挿入すると、ノズル21およびパン22に対して蓋部材30が位置決めされる。そして、フランジ部32にリテーナ323を重ね、ボルト321およびナット322により、蓋部材30をパン22に締結する。そうすると、蓋部材30のフランジ部32がパン本体24の内側に押し付けられる。
なお、ノズル21およびパン22が規定の位置から少しずれている場合でも、そのずれが蓋部材30の可撓性により吸収されるので、蓋部材30を介してノズル21およびパン22を容易に組み付けることができる。
【0036】
本実施形態では、パン22の内側に蓋部材30が配置されるので、上記のように、ライナ131を壁および天井に取り付けた後、ノズル21およびパン22に蓋部材30を装着することができる。そうすると、パン22の挿通孔23から突出したノズル21に対して蓋部材30を容易に位置決めして装着することができる。
一方、本実施形態では、ライナ131を取り付ける前にパン22に蓋部材30を装着しておき、ライナ131を取り付ける際に蓋部材30をノズル21に装着することもできる。
仮に、パン22の外側に蓋部材が配置されるとすると、ライナ13
1を取り付ける前に、あるいはライナ131を一旦取り外してから、パン22に蓋部材を装着する必要があるが、本実施形態によれば組立の手順が制限されない。
【0037】
上記のようにして、ノズル装置20が組み立てられると、蓋部材30がノズル21およびパン22に密着するので、ノズル21とパン22との間の隙間Sが気密に塞がれる(封止される)。
【0038】
本実施形態の消火設備10は、図示しない火災検知装置により、荷物室12内で火災が発生したことが検知されると自動的に作動する。
消火設備10は、まず、高圧タンク16Aのバルブを開き、消火配管17を通じて各ノズル装置20に消火剤を急速に供給する。次に、消火設備10は、低圧タンク16Bのバルブを開き、各ノズル装置20に消火剤を継続して供給する。
蓋部材30により隙間Sが塞がれているため、ノズル装置20のノズル21から噴射された消火剤は、隙間Sから漏洩することなく、荷物室12内に留まる。そのため、荷物室12内の消火剤の濃度が迅速に高まり、消火剤によって燃焼反応が阻害されるので、消火に至る。
【0039】
もし、蓋部材30に火炎が到達、あるいは接近することで、蓋部材30に含まれるゴム系材料が融解しても、繊維基材が隙間Sに対応する位置に存在する。その繊維基材により隙間Sを通じたガスの出入りが妨げられるので、消火に必要な濃度となるまで消火剤を荷物室12内に留めることができる。また、火炎が隙間Sを通じてライナ131の裏側に突き抜けるのを防止することにも寄与できる。
本実施形態では、リップ部31の内部に繊維基材が厚く配置されるので、気密性の確保、および火炎の突き抜け防止の観点で、隙間Sを実質的に塞ぐことができる。
【0040】
ところで、荷物室12には、荷物として爆発物が持ち込まれるおそれがある。その爆発物が爆発すると、爆風による圧力がライナ131に作用する。
ここで、仮に、ノズル21とパン22とがボルトで固定されていたり、一体に形成されていたりすることでリジッドに結合されているとする。その場合、ノズル21およびパン22の相対変位が許容されないので、ライナ131に作用した圧力が、ライナ131に固定されたパン22を介し、ノズル21に対して過大な荷重として入力される。
【0041】
それによってノズル21が破損したり、消火配管17が折れたりして消火機能を喪失することを避けるために、本実施形態では、ノズル21と、ライナ131に固定されるパン22とをリジッドに結合していない。ノズル21およびパン22は、相対変位可能に組み付けられる。
【0042】
ここで、ノズル21およびパン22の間に介在する蓋部材30は、パン22に固定されるとともに、保持孔310内に挿入されたノズル21を保持する。この蓋部材30は、ノズル21の外周と保持孔310の内周との間の摩擦力を超える荷重が加わると、ノズル21に対してノズル21の軸線方向に沿って変位する。このことにより、パン22とノズル21との間の相対変位を確保できる。
【0043】
本実施形態では、上述のようにパン22とノズル21とがリジッドに結合されておらずに切り離されており、蓋部材30はパン22に固定されている。
このため、爆風による圧力により、ライナ131、パン22、および蓋部材30がライナ131の内側から外側に向けて、ノズル21に対して変位するので、ノズル21に対して過大な荷重が入力されない。
【0044】
本実施形態によれば、爆発による圧力がライナ131に作用した際に、ライナ131を介して過大な荷重がノズル21に入力されないので、ノズル21や、ノズル21に接続された消火配管17等が破損することなく、爆発が生じた後でも、消火設備10の消火機能を担保することができる。
したがって、爆発に続いて生じうる火災にも有効に対処できる。
【0045】
本実施形態では、上述したように、パン22に蓋部材30が固定されており、蓋部材30とノズル21との間の摩擦力を超える荷重により、パン22がノズル21に対して変位される。
このように構成すると、蓋部材30に大きい変形量を持たせなくても、パン22およびノズル21の相対変位量を確保できる。そのため、例えば蓋部材を蛇腹状に形成する場合と比べて、蓋部材を小型化できる。したがって、ノズル装置20の重量を低減できる。
【0046】
次に、
図4を参照し、上記のノズル装置20に適用しうる蓋部材の実施形態について説明する。
上記実施形態で説明した構成と同様の構成には同じ符号を付している。
図5についても同様である。
蓋部材40は、リップ部31およびフランジ部32を備えており、所定の耐火性を有する材料から形成されたスプリング41をリップ部31に内蔵する。
蓋部材40は、リップ部31にスプリング41を内蔵することを除いて、上記実施形態の蓋部材30と同様に形成することができる。つまり、蓋部材40は、ガラスやシリカ、アルミナ等の繊維から緻密に形成された繊維基材にゴム系材料を含浸させた複合材などを用いて形成することができる。
【0047】
スプリング41は、コイルばねであり、単体では直線状に延在するが、リング状に撓められた状態で、リップ部31の内部にリップ部31の全周に亘り配置される。このスプリング41は、リップ部31に形成される中空部に配置される。
本実施形態の蓋部材40は、スプリング41を間に挟む2枚の耐火布(繊維基材から形成)401,402から構成される。耐火布401は、フランジ部32に沿って平坦に配置される。耐火布402は、スプリング41に沿って湾曲して配置される。蓋部材40はこれらの耐火布401,402をゴム引きコーティングすることで作られる。
【0048】
スプリング41は、リップ部31の内部でノズル21の外周に沿って形成されており、保持孔310内に挿入されるノズル21によって径方向に押し拡げられる。すると、スプリング41は、弾性力により、複合材を介してノズル21の外周を押し付ける。スプリング41の弾性力とゴム系材料の弾性力とによって複合材の表面とノズル21の外周とが密着する。
【0049】
スプリング41は、ゴム系材料よりも高い耐火性を有する金属材料などから形成される。金属材料としては、鉄を含む合金材料(代表的なものとしてステンレス鋼)、ニッケルを含む合金材料、鉄およびニッケルを含む合金材料、ニッケル、鉄、およびクロムを含む合金材料などを好適に用いることができる。
【0050】
火炎の熱により、あるいは火炎に直接曝されることで蓋部材40が非常に高温となって、蓋部材40が含有するゴム系材料が可撓性を失ったとする。
その場合でも、スプリング41が弾性力を維持するので、ノズル21の外周に蓋部材40が十分に押し付けられる。
このため、蓋部材40の封止機能が担保されるので、荷物室12内の消火剤の濃度を迅速に高め、早期に消火を完了することができる。
さらに、ゴム系材料が融解しても残存する繊維基材とスプリング41により、隙間Sを通じて火炎がライナ131の裏側に突き抜けることを防止することができる。
【0051】
スプリング41は、上述のように、蓋部材40をノズル21の外周に押し付けることと、火炎突き抜け防止の目的から、蓋部材40において少なくとも隙間Sに対応する位置に設けられることが望まれる。
【0052】
蓋部材40のリップ部31には、上記のスプリング41に代えて、所定の耐火性を有する材料から形成されたメッシュ42(
図5)が内蔵されていてもよい。
【0053】
メッシュ42は、微細な線材から環状またはC字状のチューブやパッドの形態に緻密に形成されており、可撓性を有する。このメッシュ42は、リップ部31の内部でノズル21の外周に沿って配置されており、保持孔310内に挿入されるノズル21によって径方向に押し拡げられる。
メッシュ42は、ゴム系材料よりも高い耐火性を有する金属材料やセラミック材料などから形成される。金属材料としては、鉄を含む合金材料(代表的なものとしてステンレス鋼)、ニッケルを含む合金材料、鉄およびニッケルを含む合金材料、ニッケル、鉄、およびクロムを含む合金材料などを好適に用いることができる。
【0054】
火炎の熱により、あるいは火炎に直接曝されることで蓋部材40が含有するゴム系材料の可撓性が失われた場合でも、メッシュ42の弾性力により、蓋部材40の封止機能を担保することができるとともに、繊維基材とメッシュ42により、隙間Sを通じて火炎がライナ131の裏側に突き抜けることを防止することができる。
【0055】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
本発明における蓋部材は、可撓性を有していなくてもよい。例えば、セラミックのパウダーを含むペーストを隙間Sに充填して硬化させたものを蓋部材として用いることもできる。その蓋部材の表面にフッ素系樹脂(例えば、テフロン(登録商標))などの摩擦係数が小さい材料を用いてコーティングし、ノズル設置部またはノズルと、蓋部材との間の滑りをよくすることも可能である。
【0056】
また、パン22がライナ131に一体に形成されていてもよい。その場合、ノズル21は、ライナ131の一部であるパン(ノズル設置部)に形成された挿通孔23に通される。
本発明における蓋部材は、ノズルの外周とノズル設置部(パン等の固定具)との間に生じる隙間を塞ぐ限りにおいて、種々の形態をとることができる。
蓋部材は、パン22の外側から隙間を塞ぐように構成されていてもよい。また、蓋部材が隙間に挿入されていてもよい。
本発明における蓋部材は、パン22ではなくノズル21に固定され、パン22の挿通孔23の内周に押し付けられるように構成することもできる。その場合は、パン22と蓋部材との間の摩擦力を超える荷重により、蓋部材およびノズル21に対してパン22が相対変位される。この場合も、上記実施形態と同様の効果が得られる。
また、本発明は、蓋部材を蛇腹状に形成し、ノズル21とパン22との間の相対変位を蛇腹による変形量で吸収することも許容する。
【0057】
本発明は、航空機の客室の下方に配置される荷物室の消火設備にも適用することができる。
また、本発明は、航空機の荷物室の他に、例えば、航空機のエンジンを収容するエンジン室や、補助動力装置を収容する補助動力装置室など、航空機が備える各種の区画の消火設備にも適用することができる。
さらに、本発明は、航空機に限らず、例えば、船舶、鉄道、建物などの各種区画の消火設備にも適用することができる。