(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、従来の二次電池であるニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、鉛電池に比較し、軽量であり且つ高い入出力特性を有することから、電気自動車やハイブリッド車用の電源として実用化されている。通常、この種の電池は、リチウムの可逆的なインターカレーションが可能なリチウムを含んだ正極と、炭素材料から成る負極とが、非水電解質を介して対向することにより構成されている。従って、この種の電池は放電状態で組み立てられ、充電しなければ放電可能状態とはならない。以下、正極としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)、負極として炭素材料、電解質としてリチウム塩を含んだ非水電解液が使用された場合を例に取り、その充放電反応について説明する。
【0003】
先ず、第一サイクル目の充電を行うと、正極に含まれたリチウムが電解液に放出され(下式1の右矢印方向)、その正極電位は貴な方向へ移行する。負極では、正極から放出されたリチウムが炭素材料に吸蔵され(下式2の右矢印方向)、その負極電位が卑な方向へ移行する。通常は、正極電位と負極電位の差、即ち電池電圧が、所定の値に到達した時点で充電終止となる。この値は、充電終止電圧と呼称されている。
そして放電させると、負極に吸蔵されたリチウムが放出され(下式2の左矢印方向)、負極電位は貴な方向へ移行し、そのリチウムは再び正極に吸蔵され(下式1の左矢印方向)、正極電位は卑な方向へ移行する。放電も、充電の場合と同様に、正・負極電位の差、即ち電池電圧が、所定の値に到達した時点で終止とされる。その値は、放電終止電圧と呼称されている。
以上のような充電及び放電の全反応式は、下式3のように示される。その後に続く第二サイクル目の充電以降は、リチウムが正極と負極の間を行き来することで充放電反応(充放電サイクル)が進行する。
【0004】
【数1】
【0005】
リチウムイオン二次電池の負極材料として使用される炭素材料は、一般に黒鉛系と非晶質系に大別される。黒鉛系炭素材料は、非晶質系炭素材料と比較し、単位体積あたりのエネルギー密度が高いという利点がある。従って、コンパクトでありながら大容量であることが要求される携帯電話やノート型パソコン用のリチウムイオン二次電池においては、負極材料として黒鉛系炭素材料が一般に用いられている。黒鉛は炭素原子の六角網平面が規則正しく積層した構造を有しており、充放電の際には結晶子のエッジ部でリチウムイオンの挿入離脱反応が進行する。
【0006】
前述の通り、この種の電池は、近年、自動車用、産業用、電力供給インフラ用の蓄電装置としても盛んに検討されているが、これら用途に利用される場合には、携帯電話やノート型パソコン用として利用される場合より、極めて高度な信頼性が要求される。ここで信頼性とは寿命に関する特性であり、充放電サイクルが繰り返された場合でも、又は所定の電圧に充電された状態で保存された場合でも、あるいは一定の電圧で充電され続けた場合(フローティング充電された場合)でも、充放電容量や内部抵抗が変化し難い(劣化し難い)特性を指す。
【0007】
一方、従来の携帯電話やノート型パソコンに利用されてきたリチウムイオン二次電池の寿命特性は、負極材料にも大きく依存することが一般的に知られている。その理由は、正極反応(式1)と負極反応(式2)の充放電効率を全く同じにすることが原理的に不可能で、その充放電効率は負極の方が低いからである。ここで充放電効率とは、充電に消費された電気容量に対する、放電が可能な電気容量の割合である。以下に、負極反応の充放電効率の方が低いことに起因して寿命特性が劣化する反応機構について詳述する。
【0008】
充電過程では、前述の通り、正極の中のリチウムが放出され(式1の右矢印方向)、負極に吸蔵される(式2の右矢印方向)が、その充電に消費される電気容量は、正・負極反応とも同一である。しかし充放電効率は負極の方が低いため、その後に続く放電反応(式1の左矢印方向、式2の左矢印方向)では、正極側に吸蔵可能なリチウム量、即ち充電する前の正極側に吸蔵されていたリチウム量よりも、負極から放出されるリチウム量の方が少ない状態で放電が終止する事態が生ずることとなる。その理由は、負極で充電に消費された電気容量のうちの一部が副反応及び競争反応に消費され、リチウムが吸蔵される反応、即ち放電可能な容量として吸蔵される反応に消費されなかったからである。
【0009】
正・負極において、このような充放電反応が別々に生ずる結果、放電終止状態の正極電位は、充放電前の元の電位よりも貴な方向へ移行する一方、負極電位も充放電前の元の電位よりも貴な方向へ移行することとなる。この原因は、正極の充電過程で放出されたリチウムの全てが放電のときに吸蔵されない(戻らない)ため、充電過程で貴な方向へ移行した電位が、放電過程で卑な方向へ移行するときも、正・負極の充放電効率の差に相当する分だけ、元の正極電位に戻ることが不可能となり、元の正極電位より貴な電位で放電が終止することとなる。前述の通りリチウム二次電池の放電は、電池電圧(即ち、正極電位と負極電位との差)が所定の値(放電終止電圧)に達した時点で完了するため、放電終止時点での正極の電位が貴になれば、その分負極電位も同様に貴な方向へ移行することになるからである。
【0010】
以上の通り、この種の電池は充放電サイクルを繰り返すと、正・負極の容量の作動領域が変化することで、所定の電圧範囲内(放電終止電圧と充電終止電圧の範囲内)で得られる容量が低下する問題が生じていた。このような容量劣化の反応機構は学会等でも報告されている(非特許文献1及び2)。
【0011】
一方、負極の充放電効率が低い理由については、前述の通り、負極で充電に消費された電気容量のうちの一部が副反応及び競争反応に消費され、リチウムが吸蔵される反応に消費されなかったからであるが、これらの副反応及び競争反応は、主に、黒鉛材料の粒子表面に露出する六角網平面積層体のエッジ面における電解液の分解反応によるものである。
【0012】
また、負極における副反応・競争反応が生じた場合、その反応生成物は常温で電解液に不溶の固体(一般的には不動態被膜と呼称されている)である。このため充放電サイクルの進行と共に、負極の黒鉛材料表面は、この反応生成物で被覆され、その被膜は厚く成長(堆積)する。この被膜は、Liイオンの可逆的なインターカレーション反応における抵抗成分となるため、被膜の成長は、電池としての内部抵抗の上昇を生じさせる。特にLiイオンの出入り口となる黒鉛材料表面の六角網平面積層体のエッジ面には被膜が形成・成長され易いため、充放電サイクルの進行と共に、電池の内部抵抗は上昇し、所定の電流で得られる見掛けの電池容量も、サイクルの進行と共に低下する問題が生じていた。
【0013】
このように充放電サイクルを繰り返すことによるリチウムイオン二次電池の容量劣化は、(1)負極における副反応・競争反応により正・負極容量の作動領域が変化すること、及び(2)その変化に伴い電池の内部抵抗が上昇し続けることの2つが原因となっていた。このため負極の黒鉛材料には、負極における副反応・競争反応が抑制され、且つ充放電サイクルの進行に伴う被膜の成長が抑制されるような機能が求められていた。
【0014】
このような要求を満たす負極の黒鉛材料として、一般的にはエッヂ面率の低いものが提案・利用されてきた。ここでエッヂ面率とは、黒鉛材料の表面積に対する「表面に存在するエッヂ面」の割合である。前述の通り、Liイオンの出入り口となるエッジ面には不働態被膜が形成され易く、かつ成長され易い。そして、不働態被膜が形成される副反応・競争反応が負極での充放電効率を低下させる原因となる。そのため、エッヂ面率が低いほど、黒鉛材料表面での不働態被膜の形成を伴う副反応・競争反応の発生量を低下させることが可能となるからである。
【0015】
一方、自動車用、産業用、電力供給インフラ用等利用されるリチウムイオン二次電池は、社会インフラとしての利用・普及が促進されるに従い、内部抵抗の低減が求められるようになってきた。一般にリチウムイオン二次電池の発熱量は、充放電の電流値と内部抵抗によって定まり、大電流の充放電も想定される用途では、内部抵抗が低いほど発熱量を抑制することが可能となるからである。発熱量の抑制が必要とされる理由は、(1)電池が発熱して高温に達する時間が長いほど寿命特性が低下する、即ち高度な信頼性の確保が困難となる、(2)電池に蓄えられた放電可能なエネルギーや電池が蓄えるべき充電エネルギーの一部が熱に変化して系外に放出されるため、充電や放電の効率が低下するからである。このような課題に対し、従来は電池の容量を増加させる、即ち単セルのサイズを大きくするか、又は単セルの並列接続数を増加することにより物理的に内部抵抗を低減してきたが、全く使用されない不要な(余分な)容量を確保するため、電池システムが必要以上に高コストとなる課題も生じていた。
【0016】
自動車用途で大電流の充放電も想定される例としては、加速、及び減速時が挙げられる。定速走行から加速する場合は、アクセルの踏み込み(ドライバーの加速要求)に対して電池は瞬時に応答する、即ち大電流で放電されても熱より失われるエネルギー量が少ない特性を求められる。逆に定速走行から減速する場合は、電池は、ブレーキ動作に対して瞬時に応答する、即ちブレーキ制動による回生エネルギー(大電流)で充電されても発熱により失われるエネルギーの割合が小さい特性も求められる。また電力供給インフラ用途では、電池は予測が困難な電力需要の急速な変動にも確実に追随する特性、即ち大電流で充放電されても発熱によるエネルギー損失の割合が低い特性も求められている。
【0017】
これらの特性に加えて、自動車用、産業用、電力供給インフラ用等で利用されるリチウムイオン二次電池は、前述の通り高度な信頼性も同時に要求されるため、内部抵抗の低減に対する要求と高度な信頼性に対する要求の両方を同時に満たすことは困難という問題が生じていた。高度な信頼性を確保するためには、負極としてエッヂ面率が低い黒鉛材料を使用する必要があり、内部抵抗の低減に対する要求を満たすためには、負極としての黒鉛材料にエッヂ面率が小さなものは使用できないからである。前述の通り黒鉛材料の表面に存在するエッヂ面は、充放電に伴い吸蔵・放出されるリチウムイオンの出入り口であることから、エッヂ面率が低い、即ち出入り口が少ない黒鉛材料を負極として使用した場合、電池の内部抵抗が高くなり易いからである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について、詳細に説明する。
本発明の人造黒鉛材料は、負極における副反応・競争反応が抑制され、且つ大電流で(速い速度で)充放電が可能(充放電反応の抵抗が低い)という特徴を有する。まず、負極における副反応・競争反応は、前述の通り主に電解液の分解反応である。電解液の分解反応は、負極の粒子表面に露出する六角網平面積層体のエッジ面で進行することから、電解液の分解反応を抑制するためには、表面に露出するエッジ面が少ないほど好ましい。また充放電反応(Liイオンの吸蔵・放出反応)の抵抗を低減するためには、電解質とエッヂ面の接触に関する相互作用が強いほど好ましい。電解質のリチウムイオンが黒鉛材料の結晶にインターカレーションする反応(充電反応に相当)や、黒鉛材料の結晶に吸蔵されたリチウムイオンが電解質に溶解する反応(放電反応に相当)が円滑に進行する(低抵抗の状態で進行する)ためには、電解質を構成する分子やポリマーが黒鉛材料表面の特にエッヂに接近し易い(エッヂに吸着し易い)ほど反応抵抗を低減できるからである。そのためには、エッヂに存在する局在電子の密度は高い方が好ましい。即ち、本発明の人造黒鉛材料は、粒子表面に露出するエッジ面が少なく、且つエッジ面に存在する局在電子密度が高いという特徴を有する黒鉛材料を規定するものであって、これらの黒鉛材料をリチウムイオン二次電池の負極として用いることにより、高い寿命特性を維持した状態で内部抵抗が低減されたリチウムイオン二次電池を提供できる。
【0028】
このような黒鉛材料は、粒子表面にエッジ面の露出が少なく、且つエッジ面に存在する局在電子密度が高いと言える。このような黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池では、負極における電解液の分解反応が抑制されるため、正・負極の作動領域に差が生じにくく、また、エッヂ面における局在電子密度が高いため、電解質を構成する分子やポリマーとの相互作用が強く、Liイオンの可逆的なインターカレーション反応の抵抗を低減することが可能となる。
【0029】
黒鉛材料において、粒子表面に露出するエッジ面の相対的な割合は、黒鉛材料のラマンスペクトルから得られる相対強度比、即ち、波長5145オングストロームのアルゴンイオンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、1580cm
−1±100cm
−1の波長領域に存在するピークの強度(IG)に対する1360cm
−1±100cm
−1の波長領域に存在するピークの強度(ID)の割合(=ID/IG)から一般的に把握することができる(非特許文献3)。
【0030】
また黒鉛材料の局在電子密度は、Xバンドを用いて測定された電子スピン共鳴の3200〜3400gauss(G)の範囲に出現する炭素由来の吸収スペクトルにおいて、温度280Kで測定された当該スペクトルの吸収強度(I280K)に対する、温度4.8Kでの吸収強度(I4.8K)の相対吸収強度比(I4.8K/I280K)から把握可能である。従って、本発明の黒鉛材料に規定された、ラマンスペクトルの相対強度比(ID/IG)の範囲と、ESR(電子スピン共鳴)スペクトルの吸収強度比であるI4.8K/I280Kの範囲は、粒子表面に露出するエッジ面が少なく、且つエッジ面に存在する局在電子密度が高い範囲を具体的に規定しているとも換言できる。
【0031】
ここで、ESR測定について説明する。ESR測定は、不対電子が磁場中に置かれたときに生じる準位間の遷移を観測する分光分析である。不対電子を持つ物質に磁場を与えると、ゼーマン効果により物質のエネルギー準位が二分される。測定は、マイクロ波照射下で磁場を掃引して行うが、印加する磁場が大きくなるに従ってエネルギーの分裂間隔である△Eが増大する。△Eが、照射したマイクロ波のエネルギーと等しくなった時に共鳴吸収が観測され、このときのエネルギーの吸収量を検知することによりESRスペクトルが得られる。ESRスペクトルは、通常一次微分スペクトルで得られ、一回積分すると吸収スペクトルになり、二回積分すると信号強度が得られる。このときの信号強度の大きさは、物質中の不対電子密度の大きさを表す指標となる。
【0032】
炭素材料中には、局在電子と伝導電子の2種の不対電子が存在する。即ち、炭素材料のESR測定では、これら2種の不対電子によるマイクロ波の共鳴吸収の和がESRスペクトルとして観測される。得られたESRスペクトルを二回積分して得られる信号強度は、伝導電子密度と局在電子密度を合計した不対電子密度の大きさを表す指標となる。 ここで、炭素材料中における伝導電子とは、六角網平面を形成する環の数とその結合形式に関係して自発的に発現する不対π電子であり、六角網平面内を自由に動くことが可能である(非特許文献4,5)。
【0033】
一方、局在電子とは、六角網平面積層体のエッジ面に存在する局在電子であり、不動の電子である。また、伝導電子による共鳴吸収の信号強度には温度依存性が無いのに対し、局在電子による共鳴吸収の信号強度は測定温度であるTに逆比例して増大する。例えば、4.2K≦T≦300Kの温度範囲における炭素材料のESR測定において、300Kから徐々に温度を下げて測定を行った場合、100K付近までは吸収強度の温度依存性が極めて小さく、ほぼ一定値が得られる。このことから300〜100Kの温度領域では、伝導電子がESR吸収の原因であると理論付けられている(非特許文献4)。100K以下の温度領域では、50K付近において局在電子によるマイクロ波の吸収が観測され始め、50K以下の低温領域では、Curie則に従い、局在電子による信号強度が測定温度であるTに逆比例して大きくなることが報告されている(非特許文献6)。
【0034】
これらのことから、温度280KでのESR吸収強度は、主として伝導電子のスピン量を反映し、4.8KでのESR吸収強度は、主として局在電子のスピン量を反映することが理解できる。従って測定温度4.8Kと280Kの2点のESR吸収強度比(I4.8K/I280K)は、伝導電子スピン量に対する局在電子スピン量の割合と見なされ、本発明では局在電子のスピン密度を定量的に把握可能な指標とした。
【0035】
本発明の人造黒鉛材料には、Xバンドを用いて測定された電子スピン共鳴法において、3200〜3400gauss(G)の範囲に出現する炭素由来の吸収スペクトルを有し、温度280Kで測定された当該スペクトルの吸収強度(I280K)に対する、温度4.8Kでの吸収強度(I4.8K)の相対吸収強度比(I4.8K/I280K)が5.0〜12.0である。相対吸収強度比(I4.8K/I280K)が5.0を下回るような黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池では、高度な信頼性や長寿命な特性を確保することは可能であるが、負極における可逆的なリチウムイオンのインターカレーション反応の抵抗が高過ぎるため、充放電サイクルの初期から内部抵抗が高く好ましくない。逆に相対吸収強度比が12.0を上回るような黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池は、充放電サイクルの初期において低い内部抵抗を実現できるが、充放電サイクルの進行に伴う内部抵抗の上昇率が高くなるため好ましくない。相対吸収強度比が12.0を上回るような黒鉛材料は、黒鉛材料表面に露出するエッヂ面の局在電子の局在電子密度が高過ぎるため、この局在電子が電解液の分解反応において触媒的に作用するからと考えられる。
【0036】
以上の通り、黒鉛材料のESR測定により得られる、温度280Kで測定されたスペクトルの吸収強度(I280K)に対する、温度4.8Kでの吸収強度(I4.8K)の相対吸収強度比(I4.8K/I280K)は5.0〜12.0に限定される。この範囲内の物性を有する黒鉛材料は、粒子表面のエッヂに存在する局在電子のスピン量が適切な範囲内である。そのため、当該黒鉛材料を負極に使用したリチウム二次電池は高度な信頼性(長寿命な特性)と内部抵抗低減の両立が可能となるという特徴を有する。またリチウムイオン二次電池に対しては、長寿命な特性を維持した状態で内部抵抗を低減できる特異的効果の付与が可能な負極黒鉛材料の範囲であるといえる。
【0037】
本発明の人造黒鉛材料は、波長5145オングストロームのアルゴンイオンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、1580cm
−1±100cm
−1の波長領域に存在するピークの強度(IG)に対する1360cm
−1±100cm
−1の波長領域に存在するピークの強度(ID)の割合(ID/IG)が0.05〜0.2である。リチウムイオン二次電池用負極の黒鉛材料として、前記ID/IGの関係を黒鉛材料をリチウムイオン二次電池の負極として検討した例がある(特許文献8)。またID/IGが0.3以下の黒鉛材料をリチウムイオン二次電池用負極材の原料とすることも提案されている(特許文献1)。
【0038】
ID/IGが0.2を超えるような黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池では、負極における電解液の分解反応速度が高く、正・負極の作動領域に差が生じ易くなる。そのため、高度な信頼性(長寿命の特性)を確保することが困難である。逆にID/IGが0.05を下回るような黒鉛材料は、ESR測定により得られる、温度280Kで測定されたスペクトルの吸収強度(I280K)に対する、温度4.8Kでの吸収強度(I4.8K)の相対吸収強度比(I4.8K/I280K)が5.0〜12.0を実現することができないため好ましくないと判断した。
【0039】
本発明の人造黒鉛材料において、黒鉛材料のX線広角回折によって得られる(112)回折線から算出された結晶子の大きさであるL(112)が5.0〜25nmの範囲である。L(112)が5nm未満の黒鉛材料は結晶組織の発達が不十分であり、このような黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池では容量が小さくなるため好ましくない(非特許文献9)。
【0040】
また25nmを上限とした理由は、25nmを超える大きさの黒鉛材料を得ることが非常に困難であり、実状に即さないからである。このためL(112)が5〜25nmに規定された理由は、本出願で規定される黒鉛材料が、リチウムイオン二次電池の負極として使用される一般的な黒鉛材料と同等な結晶子サイズ(同等な黒鉛化度)を有した黒鉛材料であることを明確にすべきと考えたからである。
【0041】
次に、本発明の人造黒鉛材料の製造方法について説明する。
【0042】
黒鉛材料の原料となるコークスを製造するためのプロセスとして、「原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理する」方法は、一般的に知られている。本発明者等は、原料油組成物の物性を限定することにより、このプロセスを利用して本願に係る第一の発明に規定された黒鉛材料を製造できることを見出した。
【0043】
一般に、黒鉛材料の製造方法として、生コークス又はか焼コークスを粉砕・分級し、粒度調整した後、炭化及び/又は黒鉛化して製造する方法が知られている。ここで、生コークスとは、原料油組成物をディレードコーカーで熱分解したものである。また、か焼コークスとは、生コークスを工業炉で熱処理し、水分や揮発分を除去して結晶構造を発達させたものを指すこととする。
【0044】
このような一般的な製造方法、即ち、単に生コークス又はか焼コークスを粉砕・分級した後に加熱処理するだけでは、本発明の人造黒鉛材料を得ることは不可能である。そこで本発明者等は、黒鉛材料の製造方法を検討した結果、粉砕される生コークス又はか焼コークスを構成する、無秩序に積層した六角網面の光学的異方性を高度化することにより、(1)粉砕で新たに生じた粒子表面の破断面、即ちエッヂ領域に、六角網平面を構成するSP2炭素とは別のSP3炭素が多く残存すること、及び(2)残存したSP3炭素は黒鉛化後も高い確率で残存し、且つ当該領域に存在する局在電子のスピン密度が高くなる黒鉛材料が得られることを見出した。
【0045】
粉砕される生コークス又はか焼コークスを構成する、無秩序に積層した六角網面の光学的異方性が高度な場合、即ち積層・隣接する六角網平面間の平行度が高い場合、六角網平面の割断的な粉砕エネルギーは分散し易い。すなわち、粉砕のエネルギーに対する抵抗力が強いため、粉砕後の破断面は凸凹の高低差が大きくなり、未組織炭素が一次元的に発達し易い。このようにして生成された未組織炭素は、黒鉛化後もエッヂ面と化学結合した状態で残存する確率が高く、未組織であるが故に存在する局在電子のスピン密度も高くなる。このようなエッヂ面の状態を有した黒鉛材料がリチウムイオン二次電池の負極として使用された場合、エッヂ面に存在する局在電子と電解質を構成する分子・ポリマーとの相互作用が強くなり、充放電反応、即ち可逆的なリチウムイオンのインターカレーション反応の抵抗が低くなる結果、内部抵抗が低減されたリチウムイオン二次電池が得られる。
【0046】
逆に生コークス又はか焼コークスを構成する六角網平面が低い光学的異方性の秩序で積層している場合、即ち積層・隣接する六角網平面間の平行度が低く、湾曲した領域等を含む場合、六角網平面の割断的な粉砕エネルギーは湾曲部に集中するため、粉砕後の破断面は凸凹の高低差が小さくなり、未組織炭素が一次元的に発達し難い。このようにして生成された未組織炭素は、黒鉛化後にエッヂ面と化学結合した状態である確率が低く、エッヂ面に存在する局在電子のスピン密度が低い状態の黒鉛材料しか得られない。このようなエッヂ面の状態を有した黒鉛材料がリチウムイオン二次電池の負極として使用された場合、エッヂ面に存在する局在電子と電解質を構成する分子・ポリマーとの相互作用が低く、充放電反応、即ち可逆的なリチウムイオンのインターカレーション反応の抵抗が高くなる結果、内部抵抗が高いリチウムイオン二次電池しか得られない。
【0047】
このような理由により、本発明の製造方法として、無秩序に積層した六角網面の光学的異方性が高度な生コークス、か焼コークスを粉砕・分級し、その後、炭化及び/又は黒鉛化する製造方法を採用した。
【0048】
従って、本発明の製造方法は、粉砕される生コークス又はか焼コークスを、高度な異方性領域で構成された組織とするための製造方法である。発明者らは、このような組織を有した生コークスを、量産に適したディレードコーキングプロセスによって製造するためには、原料となる原料油組成物の物性を制御すれば可能となることを見出し、本発明の製造方法を完成するに至った。
【0049】
以上のような物性を有する原料油組成物としては、前記の条件を満たすように二種類以上の重質油、及び軽質油をブレンドすることによって得ることができる。
【0050】
本発明の製造方法で用いる重質油の初留点は、200℃以上であり、好ましくは250℃以上である。好ましい上限値は、300℃である。初留点が200℃未満である場合には、コークスの収率が低下する場合がある。初留点は、JIS K 2254−6:1998に記載された方法に基づき測定することができる。
【0051】
本発明の製造方法で用いる重質油のアロマ成分は、50質量%以上であり、好ましくは70質量%である。好ましい上限値は、90質量%である。重質油のアロマ成分が、このような範囲であれば、良好なバルクメソフェーズを形成し、コーキング後に生成する生コークス、及びその後のか焼により生成するか焼コークスの組織は高度異方性が実現される。本発明での製造方法用いる重質油の硫黄分は、0.5質量%以下であり、好ましくは0.4質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以下である。好ましい下限値は、0.1質量%である。硫黄分が0.5質量%を超えると、コーキング後に生成する生コークスの組織の異方性が低下し易いからである。硫黄分は、JIS M 8813−附属2:2006に記載された方法に基づき測定することができる。
【0052】
本発明の製造方法で用いる重質油の窒素分は、0.2質量%以下であり、好ましくは0.15質量%以下であり、より好ましくは0.10質量%以下である。好ましい下限値は、0.01質量%である。窒素分が0.2質量%を超えると、コーキング後に生成する生コークスの組織の異方性が低下し易いからである。窒素分は、JIS M 8813−附属4:2006に記載された方法に基づき測定することができる。
【0053】
本発明の製造方法で用いる重質油としては、流動接触分解により、初留点、アロマ成分、硫黄分及び窒素分が上記した条件を満たす重質油を得ることが可能なものであれば特に限定されるものではなく、好ましくは15℃における密度が0.8g/cm
3以上である炭化水素油である。なお、密度は、JIS K 2249−1:2011に記載された方法に基づき測定された値である。このような重質油の原料油としては、常圧蒸留残油、減圧蒸留残油、シェールオイル、タールサンドビチューメン、オリノコタール、石炭液化油、及びこれらを水素化精製した重質油等が挙げられる。また、このような重質油の原料油は、上記以外に直留軽油、減圧軽油、脱硫軽油、脱硫減圧軽油等の比較的軽質な油を含有しても良く、好ましくは減圧軽油、例えば脱硫減圧軽油である。減圧軽油は、好ましくは、常圧蒸留残渣油を直接脱硫して得られる脱硫減圧軽油(好ましくは、硫黄分500質量ppm以下、15℃における密度0.8/cm
3以上)である。
【0054】
本発明において使用される軽質油は、好ましくは芳香族分の高い軽油である。このような軽油としてはコーカー軽油等が代表的である。このような軽油は芳香族性が高いため、重質油との相溶性に優れるからである。相溶性が向上すると、軽質油が重質油に均一に分散することによって、均一にガス発生が起こり、生コークスの組織は異方性が発達しやすくなる。
また、かかる軽質油を得るために用いるプロセスは特に限定されるものではない。例えば、ディレードコーキングプロセス、ビスブレーキングプロセス、ユリカプロセス、HSCプロセス、流動接触分解プロセス等が挙げられる。運転条件は特に限定されるものではないが、上記の重質油を原料としてコーカー熱分解装置を用い、好ましくは反応圧力を0.8MPa、分解温度を400〜600℃で処理する。
【0055】
本発明の製造方法で用いる軽質油の終留点は
、350℃以下である。好ましい下限値は、310℃である。終留点が
350℃を超えると、コークス化する留分が増加するため、コーキング後に生成する生コークスの異方性は低くなる。終留点は、JIS K 2254−4:1998に記載された方法に基づき測定することができる。本発明で用いられる軽質油のアスファルテン成分は、好ましくは1質量%未満であり、より好ましくは0質量%である。また、終留点が
350℃以下であるため実質上コーキングする成分をほとんど含まない。コーキングする成分を含むと、前述の通り、コーキング後に生成する生コークスの組織の異方性は低くなる。
【0056】
本発明の製造方法で用いる軽質油のアロマ成分は、重質油との相溶性の観点から、好ましくは40容量%以上であり、より好ましくは50容量%以上である。好ましい上限値は、70容量%である。なお、ここでいうアロマ成分の容量%は、社団法人石油学会により発行されている石油学会法JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠され測定されるコーカー軽油全量基準の全芳香族含有量の容量百分率(容量%)をいう。
【0057】
本発明の製造方法においては、2環以上の芳香族を有するアロマ成分が、好ましくは20容量%以上、さらに好ましくは45容量%存在する。2環を含む多環芳香族を有することによって、コーキング後に生成する生コークスの組織の異方性が向上するからである。
【0058】
本発明の製造方法で用いる軽質油の原料油としては、上記のプロセスにより得られる終留点が上記した条件を満たす軽質油を得ることが可能なものであれば特に限定されるものではなく、好ましくは15℃における密度が0.8g/cm
3以上である。軽質油を得るための流動接触分解は、一般的に上記した重質油を得るための流動接触分解と同一の条件下で行われる。
【0059】
このような特徴を有した原料油組成物は、コークス化され、生コークスが形成される。原料油組成物をコークス化する方法としては、ディレードコーキング法を用いる。より具体的には、コーキング圧力が制御された条件の下、ディレードコーカーによって原料油組成物を熱処理して生コークスを得る方法である。このときディレードコーカーの好ましい運転条件としては、圧力が0.1〜0.8MPa、温度が400〜600℃である。
【0060】
ディレードコーカーの運転圧力に好ましい範囲が設定されている理由は、軽質油成分より発生するガスの系外への放出速度を、圧力で制限することができるからである。メソフェーズを構成する異方性は、発生するガスで制御するため、発生ガスの系内への滞留時間は、前記異方性を決定するための重要な制御パラメータとなる。また、ディレードコーカーの運転温度に好ましい範囲が設定されている理由は、本発明の効果を得るために調整された原料油から、メソフェーズを成長させるために必要な温度だからである。
【0061】
このようにして得られた生コークス、又は生コークスをか焼することにより得られるか焼コークスは、所定の粒度となるように粉砕及び分級される。粒度としては、平均粒径として好ましくは30μm以下である。平均粒径は、レーザ回折式粒度分布計による測定に基づく。平均粒径が30μm以下である理由は、リチウムイオン二次電池の負極炭素材料として、一般的且つ好適に使用されている粒度だからである。さらに、好ましい平均粒径は5〜30μmである。平均粒径が5μmより小さい生コークスを炭化して得られる黒鉛材料の比表面積は極端に大きいため、このような黒鉛材料を使用し、リチウムイオン二次電池用負極の極板製造で用いられるペースト状の高粘性流体を作製する場合、必要となる溶媒量が莫大となるため好ましくない。
【0062】
炭化処理の方法は、特に限定されないが、通常は、窒素、アルゴン又はヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で最高到達温度900〜1500℃、最高到達温度の保持時間0〜10時間での加熱処理する方法を挙げることができる。また必要に応じて炭化工程を省略しても、最終的に製造される黒鉛材料の物性に与える影響は極めて小さい。
【0063】
黒鉛化処理の方法は、特に限定されないが、通常は、窒素、アルゴン又はヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で、最高到達温度2500〜3200℃、最高到達温度保持時間0〜100時間の加熱処理する方法を挙げることができる。また粉砕した生コークス、及び/又はか焼コークスを坩堝に封入し、アチソン炉やLWG炉のような黒鉛化炉で黒鉛化することも可能である。
【0064】
本発明の人造黒鉛材料は、リチウムイオン二次電池用の負極材料としてそのまま使用しても優れた特性を発揮させることができるが、天然黒鉛系材料と混合したときにも、寿命特性の改善や内部抵抗の低下を示すなどの優れた特有の効果を示す。ここで天然黒鉛系材料とは、天然から産出される黒鉛状物、前期黒鉛状物を高純度化したもの、その後、球状にしたもの(メカノケミカル処理を含む)、高純度品や球状品の表面を別の炭素で被覆したもの(例えば、ピッチコート品、CVDコート品等)、プラズマ処理をしたものなどをいう。本発明で使用するものは、鱗片状でも、球状にしたものでもよい。人造黒鉛と天然黒鉛の混合比は重量比で5:95〜80:20好ましくは10:90〜40:60である。
【0065】
次に、リチウムイオン二次電池の負極について説明するリチウムイオン二次電池用負極の製造方法としては特に限定されず、例えば、本発明の人造黒鉛材料、バインダー(結着剤)、必要に応じて導電助剤、有機溶媒を含む混合物(負極合剤)を、所定寸法に加圧成形する方法が挙げられる。また他の方法としては、本発明の人造黒鉛材料、バインダー、導電助剤等を有機溶媒中で混練・スラリー化し、当該スラリーを銅箔等の集電体上に塗布・乾燥したもの、すなわち負極合剤を圧延し、所定の寸法に裁断する方法も挙げることが出来る。
【0066】
バインダー、すなわち結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンテレート、スチレンーブタジエンラバー(以下、SBRとする場合がある)等を挙げることができる。負極合剤に含有されるバインダーの重量比率は、黒鉛材料100質量部に対して1〜30質量部程度を、電池の設計上、必要に応じて適宜設定すれば良い。
【0067】
導電助剤としては、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、又は導電性を示すインジウム−錫酸化物、又は、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子を挙げることができる。導電助剤の使用量は、黒鉛材料100質量部に対して1〜15質量部が好ましい。
【0068】
有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ピロリドン、N−メチルチオピロリドン、ヘキサメチルホスホアミド、ジメチルアセトアミド、イソプロパノール、トルエン等を挙げることができる。
【0069】
黒鉛材料、バインダー、必要に応じて導電助剤、有機溶媒を混合する方法としては、スクリュー型ニーダー、リボンミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー等の公知の装置を用いることができる。該混合物は、ロール加圧、プレス加圧することにより成形されるが、このときの圧力は100〜300MPa程度が好ましい。
【0070】
集電体の材質については、リチウムと合金を形成しないものであれば、特に制限なく使用することが出来る。例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を挙げることが出来る。また集電体の形状についても特に制限なく利用可能である。例えば、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを挙げることができる。また、多孔性材料、例えばポーラスメタル(発泡メタル)やカーボンペーパーなども使用可能である。
【0071】
前記スラリーを集電体に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、ダイコーター法など公知の方法を挙げることができる。塗布後は、必要に応じて平板プレス、カレンダーロール等による圧延処理を行うのが一般的である。また、シート状、ペレット状等の形状に成形された負極材スラリーと集電体との一体化は、例えば、ロール、プレス、もしくはこれらの組み合わせ等、公知の方法により行うことができる。
【0072】
次に、リチウムイオン二次電池について、説明する。本発明に係るリチウムイオン二次電池負極用黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池は、例えば、以上のようにして製造した負極と正極とが、セパレータを介して対向するように配置し、電解液を注入することにより得ることができる。
【0073】
正極に用いる活物質としては、特に制限はなく、例えば、リチウムイオンをドーピング又は可逆的なインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、又は導電性高分子材料を用いればよく、例示するのであれば、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、リチウム複合複酸化物(LiCoXNiYMZO
2、X+Y+Z=1、MはMn、Al等を示す)、及びこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの、リチウムバナジウム化合物、V
2O
5、V
6O
13、VO
2、MnO
2、TiO
2、MoV
2O
8、TiS
2、V
2S
5、VS
2、MoS
2、MoS
3、Cr
3O
8、Cr
2O
5、オリビン型LiMPO
4(ここで、MはCo、Ni、Mn、Feのうちのいずれか1種)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素等及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0074】
本発明において、好ましい正極の活物質は、鉄系またはマンガン系、さらに好ましい正極の活物質は、LiMn
2O
4、LiFePO
4である。格別に好ましくは、これらの活物質において、Mnの1原子に対して、Alが0.01から0.1原子程度混入されているものである。
【0075】
こうした正極を使用することによって、寿命末期のリチウムイオン電池においても安定的に使用することができる。
【0076】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微多孔性フィルム又はそれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、作製するリチウムイオン二次電池の正極と負極が直接接触しない構造にした場合は、セパレータを使用する必要はない。
【0077】
リチウムイオン二次電池に使用する電解液及び電解質としては公知の有機電解液、無機固体電解質、高分子固体電解質が使用できる。好ましくは、電気伝導性の観点から有機電解液が好ましい。
【0078】
有機電解液としては、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル等のエーテル、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄化合物、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のジアルキルケトン、テトラヒドロフラン、2−メトキシテトラヒドロフラン等の環状エーテル、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状炭酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の鎖状炭酸エステル、N−メチル2−ピロリジノン、アセトニトリル、ニトロメタン等の有機溶媒を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0079】
これらの溶媒の溶質としては、各種リチウム塩を使用することができる。一般的に知られているリチウム塩にはLiClO
4、LiBF
4、LiPF
6、LiAlCl
4、LiSbF
6、LiSCN、LiCl、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2等がある。
【0080】
高分子固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、ポリプロピレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、リン酸エステル重合体、ポリカーボネート誘導体及び該誘導体を含む重合体等が挙げられる。なお、上記以外の電池構成上必要な部材の選択についてはなんら制約を受けるものではない。
【0081】
リチウムイオン二次電池の構造は、特に限定されないが、帯状に成型された正極と負極とが、セパレータを介して渦巻状に巻回された巻回電極群を、電池ケースに挿入し、封口した構造や、平板状に成型された正極と負極とが、セパレータを介して順次積層された積層式極板群を外装体中に封入した構造とするのが一般的である。リチウムイオン二次電池は、例えば、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角形電池などとして使用される。
【0082】
本発明の黒鉛材料を負極材料として使用したリチウムイオン二次電池は、高度な信頼性(長期の寿命特性)を維持した状態で内部抵抗を低くすることが可能となるため、自動車用、具体的にはハイブリッド自動車用、プラグインハイブリッド自動車用、電気自動車用や、系統インフラの電力貯蔵用など産業用として利用することができる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0084】
[1.生コークスとその製造方法]
[生コークスA]
脱硫減圧残油(硫黄分500質量ppm、15℃における密度0.88g/cm
3)を流動接触分解し、流動接触分解残油(以下、「流動接触分解残油(A)」と記す。)を得た。得られた流動接触分解残油(A)の初留点は220℃、硫黄分は0.2質量%、窒素分は0.1質量%、アロマ成分は60質量%であった。次に、脱硫減圧残油(硫黄分500質量ppm、15℃における密度0.88g/cm
3)を流動接触分解し、ライトサイクル油(以下、「流動接触分解軽油(A)」と記す。)を得た。得られた流動接触分解軽油(A)の初留点は180℃、終留点は350℃、アスファルテン成分は0質量%、飽和分は47容量%、アロマ成分は53容量%であった。また、硫黄分が3.5質量%の常圧蒸留残油を、Ni−Mo触媒の存在下、水素化分解率が30%以下となるように水素化脱硫し、水素化脱硫油(以下、「水素化脱硫油(A)」と記す。)を得た。脱硫減圧残油(硫黄分500質量ppm、15℃における密度0.88g/cm
3)と、水素化脱硫油(A)(硫黄分が0.3質量%、窒素分が0.1質量%、アスファルテン成分が2質量%、飽和分が70質量%、15℃における密度が0.92g/cm
3)とを質量比1:2で混合した原料油を流動接触分解し、流動接触分解残油(以下、「流動接触分解残油(B)」と記す。)を得た。得られた流動接触分解残油(B)の初留点は220℃、硫黄分は0.5質量%、窒素分は0.1質量%、アロマ成分は78質量%であった。次に、流動接触分解残油(A)、流動接触分解残油(B)、および
流動接触分解軽油(A)を質量比5:2:3で混合した原料油を得た。この原料油をコークドラムに導入し、常圧、500℃で3時間熱処理を行い、コークス化した。
【0085】
[生コークスB]
原料油として、流動接触分解残油(A)、流動接触分解残油(B)、水素化脱硫油(A)、および流動接触分解軽油(A)を質量比5:2:1.5:1.5で混合したものを用いて、生コークスAの場合と同様にコークス化した。
【0086】
[生コークスC]
原料油として、ディレードコーキングプロセスで得られた分解軽油(硫黄分0.2質量%、15℃における密度0.92g/cm
3、飽和分36容量%、アロマ成分64容量%、アスファルテン成分0質量%、初留点220℃、終留点340℃(以下、「コーカー分解軽油(A)」と記す。))、流動接触分解残油(A)、流動接触分解残油(B)、および水素化脱硫油(A)それぞれを質量比1.5:5:2:1.5で混合したものを用いて、生コークスAの場合と同様にコークス化した。
【0087】
[生コークスD]
原料油として、コーカー分解軽油(A)、流動接触分解残油(A)、及び流動接触分解残油(B)を質量比3:5:2で混合したものを用いて、生コークスAの場合と同様にコークス化した。
【0088】
[生コークスE]
原料油として、流動接触分解残油(A)、流動接触分解残油(B)、および水素化脱硫油(A)を質量比5.5:2:2.5で混合したものを用いて、生コークスAの場合と同様にコークス化した。
【0089】
[生コークスF]
原料油として、軽油脱硫装置により得られた脱硫軽油(15℃における密度0.83g/cm
3、アロマ成分25容量%、アスファルテン成分0質量%、初留点170℃、終留点370℃(以下、「脱硫軽油(A)」と記す。))、流動接触分解残油(A)、及び流動接触分解残油(B)を質量比3:5:2で混合したものを用いて、生コークスAの場合と同様にコークス化した。
【0090】
[生コークスG]
原料油として、流動接触分解残油(A)、流動接触分解残油(B)、及び水素化脱硫油(A)を質量比7.5:2:0.5で混合したものを用いて、生コークスAの場合と同様にコークス化した。
【0091】
[生コークスH]
原料油として、流動接触分解残油(A)を用いて、生コークスAの場合と同様にコークス化した。
【0092】
[生コークスI]
原料油として、流動接触分解残油(B)を用いて、生コークスAの場合と同様にコークス化した。
【0093】
[生コークスJ]
原料油として、水素化脱硫油(A)を用いて、生コークスAと同様にコークス化した。
【0094】
[2.黒鉛材料の製造]
[実施例1]
生コークスAを機械式粉砕機(スーパーローターミル/日清エンジニアリング製)で粉砕し、精密空気分級機(ターボクラシファイヤー/日清エンジニアリング製)で分級することにより、平均粒子径12μmの生コークスの粉体を得た。生コークスの粉体の平均粒子径は、堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA950を用いて測定した。この粉体を黒鉛坩堝に投入し、誘導加熱式黒鉛化炉に設置して、80L/分の窒素ガス気流中、最高到達温度2900℃で黒鉛化した。このとき昇温速度は200℃/時間、最高到達温度の保持時間は3時間、降温速度は1000℃までが100℃/時間とし、その後窒素気流を保持させた状態で室温まで放冷させることにより黒鉛粉末を得た。
【0095】
[実施例2]
生コークスBを実施例1に記載した方法で粉砕、分級、及び黒鉛化し、黒鉛粉末を得た。
【0096】
[実施例3]
生コークスCを実施例1に記載した方法で粉砕、分級、及び黒鉛化し、黒鉛粉末を得た。
【0097】
[実施例4]
生コークスDを実施例1に記載した方法で粉砕、分級、及び黒鉛化し、黒鉛粉末を得た。
【0098】
[実施例5]
生コークスDを実施例1に記載した方法で粉砕、分級し、生コークスの粉体を得た。この粉体を処理対象物とし、高砂工業社製のローラーハースキルンで、窒素ガス気流下、処理対象物の最高到達温度が1200℃、最高到達温度保持時間が5時間となるように炭化した。得られた炭素材料を坩堝に投入し、実施例1に記載した方法で黒鉛化することにより、黒鉛粉末を得た。
【0099】
[実施例6]
生コークスBを実施例1に記載した方法で粉砕、分級し、生コークスの粉体を得た。この粉体を、実施例5に記載した方法で炭化、及び黒鉛化することにより、黒鉛粉末を得た。
【0100】
[実施例7]
生コークスAを実施例1に記載した方法で粉砕、分級し、生コークスの粉体を得た。この粉体を、実施例5に記載した方法で炭化、及び黒鉛化することにより、黒鉛粉末を得た。
【0101】
[実施例8]
リチウムイオン二次電池負極材用の球状天然黒鉛粉末と、実施例1で製造した黒鉛粉末を重量比で50:50に混合した混合粉を得た。なお球状天然黒鉛粉末の平均粒子径は21μm、窒素吸着比表面積は、2.1m
2/gであった。
【0102】
[実施例9]
実施例8で使用したリチウムイオン二次電池負極材用の球状天然黒鉛粉末と、実施例1で製造した黒鉛粉末を重量比で70:30に混合した混合粉を得た。
【0103】
[実施例10]
実施例8で使用したリチウムイオン二次電池負極材用の球状天然黒鉛粉末と、実施例1で製造した黒鉛粉末を重量比で85:15に混合した混合粉を得た。
【0104】
[比較例1]
生コークスEを実施例1に記載した方法で粉砕、分級、及び黒鉛化し、黒鉛粉末を得た。
【0105】
[比較例2]
生コークスFを実施例1に記載した方法で粉砕、分級、及び黒鉛化し、黒鉛粉末を得た。
【0106】
[比較例3]
生コークスGを実施例1に記載した方法で粉砕、分級、及び黒鉛化し、黒鉛粉末を得た。
【0107】
[比較例4]
生コークスHを実施例1に記載した方法で粉砕、分級、及び黒鉛化し、黒鉛粉末を得た。
【0108】
[比較例5]
生コークスIを実施例1に記載した方法で粉砕、分級、及び黒鉛化し、黒鉛粉末を得た。
【0109】
[比較例6]
生コークスJを実施例1に記載した方法で粉砕、分級、及び黒鉛化し、黒鉛粉末を得た。
【0110】
[比較例7]
実施例8で使用したリチウムイオン二次電池負極材用の球状天然黒鉛粉末を、そのままの状態で使用した(混合粉末を構成しなかった)。
【0111】
[3.黒鉛材料の結晶子の大きさL(112)の測定、及び算出]
得られた黒鉛材料に、内部標準としてSi標準試料を5質量%混合し、ガラス製試料ホルダー(25mmφ×0.2mmt)に詰め、日本学術振興会117委員会が定めた方法(炭素2006,No.221,P52−60)に基づき、広角X線回折法で測定を行い、炭素材料の結晶子の大きさLc(112)を算出した。X線回折装置は(株)リガク社製ULTIMA IVを使用した。測定条件としては、X線源はCuKα線(KβフィルターNiを使用)、X線管球への印可電圧及び電流は40kV及び40mAとした。得られた回折図形についても、日本学術振興会117委員会が定めた方法(炭素2006,No.221,P52−60)に準拠した方法で解析を行った。具体的には、測定データにスムージング処理、バックグラウンド除去の後、吸収補正、偏光補正、Lorentz補正を施し、Si標準試料の(422)回折線のピーク位置、及び半値幅を用いて、黒鉛材料の(112)回折線に対して補正を行い、結晶子サイズを算出した。なお、結晶子サイズは、補正ピークの半値幅から以下のScherrerの式(4)を用いて計算した。測定・解析は3回ずつ実施し、その平均値をL(112)とした。黒鉛材料のL(112)が測定された結果は、表1に示された通りである。
【0112】
【数2】
K:Scherrer定数(形状因子)、λ:使用X線管球の波長、
β:結晶子の大きさによる回折線の拡がり(半値幅)、θ:回折角 2θ/θ
【0113】
[4.ラマンスペクトルの測定]
光源をAr+レーザー(励起波長514.5 nm)としたラマン分光分析を行った。測定はマクロモードで、レーザーのスポット径は約100μmであり、レーザー照射範囲全体からの平均的な情報が得られるように設定した。測定装置はRamanor T−64000 (Jobin Yvon/愛宕物産)を使用した。測定配置は60°、レーザーパワーは10mWである。得られたラマンスペクトル図において、1580cm
−1±100cm
−1の波長領域に存在するピークの強度(IG)と1360cm
−1±100cm
−1の波長領域に存在するピークの強度(ID)の割合(ID/IG)を算出した。なお測定および解析は3回ずつ実施し、その平均値をID/IGとして算出した。実施例及び比較例に記載した黒鉛粉末のID/IGを算出した結果を、表1に示す。
【0114】
[5.ESRの測定]
黒鉛材料約1.5mgを試料管に入れ、ロータリーポンプで真空引きした後、試料管にHeガスを封入してESR測定を行った。ESR装置、マイクロ波周波数カウンター、ガウスメーター、クライオスタットは、それぞれBRUKER社製ESP350E、HEWLETT PACKARD社製HP5351P、BRUKER社製ER035M、OXFORD社製ESR910を用いた。マイクロ波はXバンド(9.47GHz)を用い、強度1mW、中心磁場3360G、磁場変調100kHzの条件により測定を行った。測定温度は4.8Kおよび280Kの2点とし、ESR測定を行った。実施例及び比較例で得られた黒鉛材料について、温度280Kで測定された吸収強度(I280K)に対する、温度4.8Kでの吸収強度(I4.8K)の相対吸収強度比(I4.8K/I280K)を算出し、表1に示す。信号強度は、ESRスペクトルを2回積分することにより求めた値である。尚、Xバンドを用いて測定される電子スピン共鳴法において出現する炭素由来のスペクトルは、いずれの実施例および比較例においても、3200〜3400gauss(G)の範囲に出現することを確認した。
【0115】
[6.電池の作製方法]
図1に、作製した電池の断面図を示す。
図1の電池10は、負極11、負極集電体12、正極13、正極集電体14、セパレータ15、アルミラミネート外装16から構成される電池である。正極13は、正極材料である平均粒子径10μmのコバルト酸リチウムLiCoO
2(日本化学工業社製のセルシードC−10N)と、結着剤のポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KF#1320)、およびアセチレンブラック(デンカ社製のデンカブラック)とを質量比で89:6:5に混合し、N−メチル−2−ピロリジノンを加えて混練した後、ペースト状にして、厚さ30μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、塗布部のサイズが、幅30mm、長さ50mmとなるように切断したシート電極である。このとき、単位面積当たりの塗布量は、コバルト酸リチウムの質量として、20mg/cm
2となるように設定した。このシート電極の一部は、シートの長手方向に対して垂直に正極合剤が掻き取られ、その露出したアルミニウム箔が塗布部の正極集電体14(アルミニウム箔)と一体化して繋がっており、正極リード板としての役割を担っている。負極11は、負極材料である前記実施例1〜7及び比較例1〜6で得られた黒鉛材料と、結着剤のポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KF#9310)とを質量比で92:8に混合し、N−メチル−2−ピロリジノンを加えて混練した後、ペースト状にして、厚さ18μmの銅箔の片面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、塗布部のサイズが、幅32mm、長さ52mmとなるように切断したシート電極である。このとき単位面積当たりの塗布量は、黒鉛材料の質量として、10mg/cm
2となるように設定した。このシート電極の一部はシートの長手方向に対して垂直に負極合剤が掻き取られ、その露出した銅箔が塗布部の負極集電体12(銅箔)と一体化して繋がっており、負極リード板としての役割を担っている。電池10は、正極13、負極11、セパレータ15、及びその他部品を十分に乾燥させ、露点−100℃のアルゴンガスが満たされたグローブボックス内に導入して組み立てた。乾燥条件は、正極13及び負極11が減圧状態の下150℃で12時間以上、セパレータ15及びその他部材が減圧状態の下70℃で12時間以上である。このようにして乾燥された正極13及び負極11を、正極13の塗布部と負極11の塗布部とが、セルロース系不織布(日本高度紙(株)製のTF40−50)を介して対向させる状態で積層し、ポリイミドテープで固定した。なお、正極13及び負極11の積層位置関係は、負極11の塗布部に投影される正極塗布部の周縁部が、負極塗布部の周縁部の内側で囲まれるように対向させた。得られた単層電極体を、アルミラミネートフィルムで包埋させ、電解液を注入し、前述の正極リード板および負極リード板がはみ出した状態で、ラミネートフィルムを熱融着することにより、密閉型の単層ラミネート電池を作製した。使用した電解液は、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートが体積比で3:7に混合された溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)が1mol/Lの濃度となるように溶解されたものである。
【0116】
[7.電池の試験方法]
得られた電池を25℃の恒温室内に設置し、以下に示す充放電試験を行った。先ず4mAの電流で、電池電圧が4.2Vとなるまで定電流で充電した。10分間休止の後、同じ電流で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電した。これらの充電、休止、および放電を1つの充放電サイクルとし、充放電サイクルを3回繰り返した。この充放電サイクルは、電池の異常を検知するための予備試験であるため、本実施例および比較例における充放電サイクル試験のサイクル数には含まれない。この予備試験により、本実施例および比較例で作製された電池は、全て異常がないことを確認した。その上で、以下の本試験を実施した。本試験として、充電電流を30mA、充電電圧を4.2V、充電時間を3時間とした定電流/定電圧充電を行い、10分間休止の後、同じ電流(30mA)で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電させた。これらの充電、休止、および放電を1つの充放電サイクルとし、同様の条件の充放電を3サイクル繰り返し、第3サイクル目の放電容量を「初期放電容量」とした。次に、充電電流を30mA、充電電圧を4.2V、充電時間を3時間とした定電流/定電圧充電を行い、10分間休止の後、75mAで電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電させた。このとき10分間休止後の開回路電圧(OCV)、及び放電開始3秒後の閉回路電圧(CCV)、放電開始3秒後の放電電流(I)から、ラミネート外装電池の直流抵抗(Rdc)を算出した。算出式は、Rdc=(OCV−CCV)/Iである。その後は、初期放電容量を求めた充放電サイクルと同条件の充放電サイクルにより、充放電を500サイクル繰り返した。サイクル特性を表す指標として、「初期放電容量」に対する「第500サイクル目の放電容量」の割合(%)を算出し、放電容量維持率(%)とした。初期放電容量(mAh)、直流抵抗(Rdc)(Ω)、第500サイクル目の放電容量(mAh)、第500サイクル目の放電容量維持率(%)を、表1に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
[8.試験結果に関する考察]
実施例1〜10、及び比較例1〜7で得られた黒鉛材料を負極に使用した電池の初期放電容量は同等であり、有意な差は認められないと判断できる。実施例1〜7、及び比較例1〜6で得られた黒鉛材料の結晶子の大きさL(112)は5〜25nmであることから、本電池の設計範囲内で、負極の結晶子の大きさに依存した作動容量の差は無いことが分かった。実施例1〜7で作製した黒鉛材料を負極材料として使用した電池の直流抵抗は1.51〜1.89Ω、500サイクル後の放電容量維持率は87.9〜91.9%であることから、本発明にかかる黒鉛材料を用いれば、比較例1〜6の結果と比較して、高い放電容量維持率、即ち長期の寿命特性(高度な信頼性)を維持した状態で、且つ内部抵抗を低減できることが分かった。
【0119】
一方、比較例1の黒鉛材料は、ラマンスペクトルの強度比(ID/IG)、及びESRの吸収強度比(I4.8K/I280K)とも実施例1〜7の黒鉛材料より低いことがわかった。比較例1の黒鉛材料を負極に使用した電池は、実施例1〜7の黒鉛材料並みのサイクル特性を確保できるものの、内部抵抗が高い結果となった。
【0120】
比較例2の黒鉛材料は、実施例1〜7の黒鉛材料と同様のラマンスペクトルの強度比(ID/IG)であるものの、ESRの吸収強度比(I4.8K/I280K)が実施例1〜7の黒鉛材料より低いことがわかった。比較例2の黒鉛材料を負極に使用した電池は、比較例1と同様に、実施例1〜7の黒鉛材料並みのサイクル特性を確保できるものの、内部抵抗が高い結果となった。
【0121】
比較例3の黒鉛材料は、ラマンスペクトルの強度比(ID/IG)が実施例1〜7の黒鉛材料より高く、ESRの吸収強度比(I4.8K/I280K)が実施例1〜7の黒鉛材料より低いことがわかった。比較例3の黒鉛材料を負極に使用した電池は、実施例1〜7の黒鉛材料を用いた電池と比較して、500サイクル後の容量維持率は低く、且つ内部抵抗が高い結果となった。
【0122】
比較例4の黒鉛材料は、実施例1〜7の黒鉛材料と同様のラマンスペクトルの強度比(ID/IG)であるものの、ESRの吸収強度比(I4.8K/I280K)が実施例1〜7の黒鉛材料より高いことがわかった。比較例4の黒鉛材料を負極に使用した電池は、実施例1〜7の黒鉛材料を用いた電池並みの低内部抵抗であるものの、500サイクル後の容量維持率が低い結果となった。
【0123】
比較例5の黒鉛材料は、実施例1〜7の黒鉛材料と同様のESRの吸収強度比(I4.8K/I280K)であるものの、ラマンスペクトルの強度比(ID/IG)が実施例1〜7の黒鉛材料より高いことがわかった。比較例5の黒鉛材料を負極に使用した電池は、比較例4と同様に、実施例1〜7の黒鉛材料を用いた電池並みの低内部抵抗であるものの、500サイクル後の容量維持率が低い結果となった。
【0124】
比較例6の黒鉛材料は、実施例1〜7の黒鉛材料と比較して、ラマンスペクトルの強度比(ID/IG)が高く、ESRの吸収強度比(I4.8K/I280K)も高いことがわかった。比較例6の黒鉛材料を負極に使用した電池は、比較例4及び比較例5と同様に、実施例1〜7の黒鉛材料を用いた電池並みの低内部抵抗であるものの、500サイクル後の容量維持率が低い結果となった。
【0125】
実施例8〜10は、リチウムイオン二次電池で一般的に使用されている球状天然黒鉛と、実施例1の黒鉛粉末との混合物で、各々混合比率が異なった場合である。これに対して比較例7は、当該球状天然黒鉛を単独で使用した場合である。実施例8〜10、及び比較例7のラミネート電池特性を比較すれば明らかな通り、球状天然黒鉛に本発明に係る人造黒鉛粉末を混合することにより、ラミネート電池の直流抵抗は低減可能、及び500サイクル後の容量維持率は向上可能であることが分かる。本発明に係る人造黒鉛は、他のリチウムイオン二次電池用黒鉛材料と混合した場合でも、本発明の効果が得られることも分かった。
【0126】
これらの結果から、内部抵抗が1.9Ω以下と低く、且つ500サイクル後に87%以上の高い放電容量維持率を達成するリチウムイオン二次電池を得るためには、負極に使用される黒鉛材料の物性として、(a)波長5145オングストロームのアルゴンイオンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、1580cm
−1±100cm
−1の波長領域に存在するピークの強度(IG)に対する1360cm
−1±100cm
−1の波長領域に存在するピークの強度(ID)の割合(=ID/IG)が0.05〜0.2であること、及び(b)Xバンドを用いて測定された電子スピン共鳴法において、3200〜3400gauss(G)の範囲に出現する炭素由来の吸収スペクトルを有し、温度280Kで測定された当該スペクトルの吸収強度(I280K)に対する、温度4.8Kでの吸収強度(I4.8K)の相対吸収強度比(I4.8K/I280K)が5.0〜12.0であることは、必要不可欠な条件であると言える。
【0127】
またこれらの結果から、内部抵抗が1.9Ω以下と低く、且つ500サイクル後に87%以上の高い放電容量維持率を達成するリチウムイオン二次電池を得るためには、負極に使用される黒鉛材料の製造方法として、終留点が
350℃以下である軽質油と、初留点が200℃以上であり、アロマ成分が50質量%以上であり、硫黄分が0.5質量%以下であり、窒素分が0.2質量%以下である重質油とを少なくとも含む原料油組成物がディレードコーキングプロセスによってコーキング処理される工程と、その後熱処理される工程と、を少なくとも含むことは、必要不可欠な条件であると言える。