(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242789
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】ガス製品を取得する方法および装置
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20171127BHJP
C10K 1/14 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 220
C10K1/14
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-517494(P2014-517494)
(86)(22)【出願日】2012年6月14日
(65)【公表番号】特表2014-523802(P2014-523802A)
(43)【公表日】2014年9月18日
(86)【国際出願番号】EP2012002516
(87)【国際公開番号】WO2013004335
(87)【国際公開日】20130110
【審査請求日】2015年6月11日
(31)【優先権主張番号】102011107814.6
(32)【優先日】2011年7月1日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】391009659
【氏名又は名称】リンデ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Linde Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ホアスト ヴァイス
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー ブランドル
【審査官】
田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭55−111821(JP,A)
【文献】
特開昭56−002826(JP,A)
【文献】
特開昭57−111203(JP,A)
【文献】
特開昭60−156528(JP,A)
【文献】
米国特許第04552572(US,A)
【文献】
特表2011−525860(JP,A)
【文献】
特開2007−260673(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0266853(US,A1)
【文献】
特開昭53−131972(JP,A)
【文献】
特開2009−221575(JP,A)
【文献】
特表2012−500713(JP,A)
【文献】
米国特許第04938783(US,A)
【文献】
米国特許第04198388(US,A)
【文献】
特開昭50−035202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/00−53/96
C10K1/14
C01B3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理的にガス洗浄する方法であって、その際に水素、一酸化炭素、二酸化炭素ならびに炭素オキシスルフィドおよび/または硫化水素を含む供給ガスを、二酸化炭素で予め負荷された洗浄剤に対して向流で第1の洗浄区間に導通し、当該供給ガスから硫黄成分をできる限り選択的に分離しかつ脱硫されたガス混合物を製造する、前記方法において、脱硫されたガス混合物の部分量だけから、第2の洗浄区間において、負荷されていない洗浄剤での洗浄により、二酸化炭素を分離し、その際に得られた、二酸化炭素で予め負荷された洗浄剤の全部を第1の洗浄区間において、洗浄剤として使用することを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記洗浄剤は、二酸化炭素で飽和されて第1の洗浄区間内に流入することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第1の洗浄区間において、洗浄剤から、少なくとも1つの冷却工程中で、溶液熱が取り去られることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記冷却は、洗浄剤が第1の洗浄区間内に流入する温度とは最大5℃だけ異なる温度で、洗浄剤が第1の洗浄区間から流出する程度に実施されることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
第2の洗浄区間に供給されなかった、脱硫されたガス混合物の一部分が膨張タービン内で仕事をして膨張されることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
仕事をする膨張の際に冷却され脱硫されたガス混合物を、硫黄成分を逆洗浄して洗浄剤を再生する際に使用される、硫黄不含の洗浄剤流の冷却に使用することを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
第2の洗浄区間内に供給されない、脱硫されたガス混合物の一部分は、燃料としてガスタービンに供給されるかまたはメタノール製出のための合成ガスとして使用されることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
洗浄剤として、メタノールまたはジメチル−ポリエチレングリコールエーテルまたはN−メチル−2−ピロリドンが使用されることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理的にガス洗浄する方法であって、その際に水素、一酸化炭素、二酸化炭素ならびに炭素オキシスルフィドおよび/または硫化水素を含む供給ガスを、二酸化炭素で予め負荷された洗浄剤に対して向流で第1の洗浄区間に導通し、当該供給ガスから硫黄成分を十分に選択的に分離しかつ脱硫されたガス混合物を製造する、前記方法に関する。
【0002】
さらに、本発明は、前記方法を実施する装置に関する。
【0003】
上位概念に記載された種類の方法は、久しく公知技術水準であり、数十年来、当業者に公知である。前記方法は、ガスを吸収しかつ溶液中に維持する、液体の性質を利用するが、その際に前記性質を化学的に結びつけることはしない。いかにして良好にガスを液体によって吸収するのかは、以下のように溶解度係数によって表わされる:液体中のガスがよりいっそう良好に溶解されていればいるほど、当該ガスの溶解度係数は、ますます大きくなる。溶解度係数は、温度依存性であり、かつ一般に温度が低下すると上昇する。
【0004】
ガス成分を物理的洗浄によってガス混合物から溶出するために、最小洗浄剤量W
minが必要とされ、この最小洗浄剤量W
minは、次式で極めて良好に算出されうる:
W
min=V/(ρ・λ
i)
上記式中、Vは、分解すべきガス混合物の全体量を意味し、ρは、ガス混合物において占める圧力を意味し、およびλ
iは、使用される洗浄剤に対して洗い落とされるガス成分の溶解度係数を意味する。ガス混合物の成分の溶解度係数が十分強く区別されるという前提のもとに、洗浄剤の量を相応して適合させることによって、1つの洗浄工程において、最大の溶解度係数を有するガス成分をできる限り残りのガス成分とは無関係に分離する、すなわち選択的に除去することが可能である。洗浄剤の量がより大きいと、同じ原理により、以下の洗浄工程において、同様の溶解度係数を有する、さらなるガス成分またはガス成分の群が選択的に洗い流されうる。
【0005】
公知の物理的ガス洗浄は、液体メタノールが洗浄剤よりも0℃を遙かに下回る温度で使用されるメタノール洗浄である。前記の物理的ガス洗浄は、殊に二酸化炭素および硫黄成分を合成粗製ガスから分離し、こうして水素および一酸化炭素からなるガス混合物を得るために使用される。"Gas Separation & Purification",December 1988,Vol.2,第171〜176頁には、水素、一酸化炭素および二酸化炭素ならびに硫黄成分から炭素オキシスルフィドおよび硫化水素を含む合成粗製ガスから、2つの連続した洗浄工程において、二酸化炭素および硫黄成分を選択的に洗い流すメタノール洗浄が記載されている。このために、合成粗製ガスは、第1の洗浄区間と第2の洗浄区間が上下に配置されている吸収塔内に導かれる。二酸化炭素を分離するために、第1の洗浄区間内で硫黄成分が、既に二酸化炭素の分離の際に二酸化炭素で予め負荷されたメタノールの一部分と一緒に洗い流される一方で、第2の洗浄区間内で負荷されていないメタノールが使用される。硫黄成分は、メタノールに対して溶解度係数を示し、この溶解度係数は、二酸化炭素の溶解度係数よりも数倍だけ大きいので、硫黄成分の分離には、第2の洗浄区間内で二酸化炭素で負荷された洗浄剤の量の一部分だけが必要とされる。
【0006】
物理的ガス洗浄によって発生されたガス混合物は、燃料としてガスタービンに供給されるので、硫黄成分のできるだけ完全な除去を達成しようと努力すべきであり、それというのも、前記硫黄成分は、一面でガスタービンの損傷をまねくであろうし、他面、排ガスにおける有効な排出標準を維持しなければならないからである。
【0007】
同時に、二酸化炭素を十分に完全にガス混合物中にそのままにしておくことは、望ましい。それというのも、二酸化炭素は、減速材および作業媒体としてガスタービンにおいて必要とされるからである。硫黄成分の分離に必要とされる最小量の負荷されていないメタノールを洗浄剤として使用することにより、合成粗製ガスを洗浄工程において清浄にすることは、公知技術水準である。その際には、明らかに減少された二酸化炭素含量を有する、できる限り硫黄を含まないガス混合物が生じる。それというのも、硫黄成分の他に二酸化炭素も著量で洗浄剤によって吸収されるからである。したがって、硫黄を含まないガス混合物は、ガスタービンにおける使用に限定されてのみ適している。
【0008】
よって、本発明の課題は、公知技術水準の欠点を克服する、冒頭に記載された種類の方法ならびに装置を記載することである。
【0009】
この課題は、方法について言えば、脱硫されたガス混合物の部分量だけから、第2の洗浄区間において、負荷されていない洗浄剤での洗浄により、二酸化炭素を分離し、その際に得られた、二酸化炭素で予め負荷された洗浄剤の全部を第1の洗浄区間において洗浄剤として使用することによって解決される。
【0010】
例えば、吸収塔の場合に、ガスと洗浄剤とを向流で洗浄区間に導通させると、第1の洗浄区間の境界として、1回目に、流入する洗浄剤とガスとの間に熱力学的平衡および物理的平衡が生じる範囲が規定される。したがって、洗浄剤が前記境界を通過する際に、洗浄剤は、第1の洗浄区間内に入り、他方で、ガスは、第1の洗浄区間を離れる。
【0011】
使用される洗浄剤量は、当該洗浄剤量が第1の洗浄区間における硫黄成分の完全な分離に必要とされる最小量に相当するように有利に選択される。前記洗浄剤は、第2の洗浄区間において、特に、当該洗浄剤が二酸化炭素で飽和されて第1の洗浄区間内に導入されうる限り予め負荷される。かかる洗浄剤は、二酸化炭素吸収能を有しないかまたは極めて僅かな二酸化炭素吸収能だけを有するので、第1の洗浄区間における供給ガスから二酸化炭素は、洗い流されないかまたは極めて僅かな二酸化炭素だけが洗い流され、それによって十分に供給ガスの二酸化炭素濃度に相応する、二酸化炭素濃度を有する脱硫されたガス混合物が取得される。したがって、第2の洗浄区間内に転送されないガス混合物は、高い二酸化炭素含量を有する、水素および一酸化炭素を含む、硫黄不含の生成物として引き渡すことができ、かつ例えばガスタービン用の燃料として利用されうるかまたはメタノール合成ガスとして利用されうる。
【0012】
任意に、供給ガス中に含まれる二酸化炭素量は、硫黄成分の単なる分離によって、脱硫されたガス混合物が生じる程度の大きさであるが、このガス混合物の二酸化炭素含量は、直接に生成物として利用しうるには、大きすぎる。かかる場合には、第1の洗浄区間内に、二酸化炭素が必ずしも完全には負荷されていない洗浄剤を導入することは、好ましく、その結果、硫黄成分の他に、二酸化炭素も供給ガスから分離される。
【0013】
第1の洗浄区間において、硫黄成分を吸収する場合には、溶液熱が放出され、この溶液熱は、溶解度係数の温度依存性に基づいて、必要とされる洗剤量を増加させる。したがって、第1の洗浄区間において使用される洗浄剤の予めの負荷は減少し、その結果、第1の洗浄区間において、大量の二酸化炭素が吸収され、それによってほとんど二酸化炭素を含まない生成ガスが製造される。このことを回避させるために、第1の洗浄区間における洗浄剤から、少なくとも1つの冷却工程において溶液熱が取り去られる、本発明による方法の実施態様が設けられている。特に、この冷却は、洗浄剤が第1の洗浄区間内に流入する温度とは最大5℃だけ異なる温度で、洗浄剤が第1の洗浄区間から流出する程度に実施される。
【0014】
公知技術水準と異なる、本発明による方法の利点は、殊に、液体メタノールおよび低温液体メタノールが洗浄剤として使用される場合に特に多大である。しかし、前記方法は、別の洗浄剤、例えばジメチル−ポリエチレングリコールエーテル(DMPEGとして公知)またはN−メチル−2−ピロリドン(NMPとして公知)を用いて実施されてもよい。
【0015】
物理的ガス洗浄の経済性は、ガス洗浄が実施される圧力で増加する。したがって、メタノール洗浄の洗浄区間は、約50バールの圧力で運転され、その結果、そこで製造されたガス生成物は、比較が可能な高い圧力で存在する。この種のガス生成物を例えばガスタービンにおける燃料ガスとして使用すべき場合には、前記圧力を減少させることが必要である。それというのも、ガスタービンの燃料ガスは、典型的には、約25バールの圧力でのみ供給されうるからである。したがって、本発明による方法の好ましい実施態様には、第2の洗浄区間に供給されなかった、脱硫されたガス混合物の一部分が
膨張タービン内で
仕事をして膨張されることが設けられている。この場合には、脱硫されたガス混合物の冷却も生じる。
【0016】
脱硫されたガス混合物の
仕事をする膨張の際に発生される冷気を利用するために、冷却され脱硫されたガス混合物を、例えば硫黄成分を逆洗浄して洗浄剤を再生する際に使用される、硫黄不含の洗浄剤流の冷却に使用することが提案されている。
【0017】
さらに、本発明は、水素、一酸化炭素、二酸化炭素ならびに硫黄成分を含む供給ガスから、第1の洗浄区間が第2の洗浄区間の下方に配置されている吸収塔を有する物理的ガス洗浄器によって、硫黄成分と二酸化炭素とを分離する装置であって、前記吸収塔が当該吸収塔の下方範囲内に供給ガスを供給するためのガス供給管を有し、かつ当該吸収塔の塔頂部に、硫黄成分および二酸化炭素によって清浄にされたガス混合物を取り出すための取出し装置ならびに第2の洗浄区間内に負荷されていない洗浄剤を供給するための洗浄剤供給管を有する、上記装置に関する。
【0018】
課された課題は、装置について言えば、第1の洗浄区間と第2の洗浄区間との間にガス側方取出し管が配置され、当該ガス側方取出し管を介して、第1の洗浄区間において脱硫されたガス混合物が取り出されうることによって解決される。
【0019】
予め負荷された洗浄剤の二酸化炭素含量を意図的に調節できるようにするために、本発明には、洗浄剤供給管が様々なレベルに配置された少なくとも2つの導入管位置を有し、当該導入管位置に負荷されていない洗浄剤の量を分配することができることが設けられている。
【0020】
本発明は、さらに図につき、前記吸収塔のガス側方取出し管と結合された拡張タービンを有し、当該拡張タービン内で脱硫されたガス混合物が、
仕事をして膨張されうることが提案されている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】ガス製品を取得する本発明による方法を実施する、本発明による装置の1つの実施例を示す略図。
【0022】
以下、本発明を
図1において略示された実施例につき詳説する。
【実施例】
【0023】
導管1を介して、水素、一酸化炭素、硫黄成分および二酸化炭素を含む合成粗製ガスを、2つの洗浄区間W1およびW2が上下に配置されている吸収塔Aの下方範囲内に導入する。吸収塔Aを通る合成粗製ガスの方法で、当該合成粗製ガスは、最初に洗浄区間W1内に達し、当該洗浄区間を通り、物理的に作用する洗浄剤に対して向流で導かれる。例えば、メタノールにかかわる洗浄剤は、既に二酸化炭素で予め負荷されており、その結果、主に硫黄成分が合成粗製ガスから分離され、他方で、二酸化炭素は、できる限り全部が気相中に残留する。硫黄成分の吸収の際に遊離する溶液熱の少なくとも一部分を導出するために、洗浄剤は、チムニートレイKを介して取り出され、導管2を介して熱交換器Eに導通され、当該熱交換器で異質冷気と衝突するように冷却される。その二酸化炭素濃度が、基本的に合成粗製ガス1の二酸化炭素濃度である、洗浄区間W1において脱硫されたガス混合物の一部分は、ガス側方取出し管3を介して取り出され、
膨張タービン(図示されていない)
内で仕事をして膨張後に生成物として引き渡され、例えば燃焼ガスとしてガスタービンに供給される。脱硫されたガス混合物の残りの一部分は、第2の洗浄区間W2内に達し、当該洗浄区間で負荷されていない洗浄剤4での洗浄に掛けられる。第2の洗浄区間W2において、脱硫されたガス混合物から二酸化炭素が取り除かれ、その結果、広範囲に、水素および一酸化炭素からなるガス混合物は、さらなる生成物として導管5を介して吸収塔Aの塔頂部から取り出されうる。洗浄区間W2において、二酸化炭素で負荷された洗浄剤は、全部が洗浄区間W1中にさらに導入され、当該洗浄区間W1で洗浄剤として、合成粗製ガスからの硫黄成分の分離に使用される。吸収塔Aは、洗浄区間W2中の洗浄剤ができる限り二酸化炭素で予め負荷される程度に運転される。このことを運転条件が変動する場合も常に達成されうるようにするために、洗浄剤4の量は、調整機関aおよびbを用いて2つの導管6および7に分配されることができかつ様々なレベルで洗浄区間W2中に導入されうる。
【符号の説明】
【0024】
1 合成粗製ガス、 1、2、5、6、7 導管、 3 ガス側方取出し管、 4 洗浄剤、 A 吸収塔、 E 熱交換器、 K チムニートレイ、 W1、W2 洗浄区間、 a、b 調整機関