【文献】
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2004) vol.101, no.27, p.10090-10094
【文献】
CHOI,K.S. et al,Role of Hck in the pathogenesis of encephalomyocarditis virus-induced diabetes in mice,J Virol,2001年,Vol.75, No.4,p.1949-57
【文献】
Int. J. Clin. Pract. (2008) vol.62, issue 5, p.799-809
【文献】
Lipids Health Dis. (2009) vol.8, 3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】アポリポタンパク質CIIIとのインキュベーションにより、β細胞におけるCa
v1チャネルの密度および導電率の両方が増大することを示す図。(A)対照のビヒクル溶液またはアポリポタンパク質CIII(ApoCIII)のうちいずれかとともにインキュベートされたマウス膵島β細胞の原形質膜パッチにおいて検出された単位(unitary)Ca
v1チャネル電流の例。(B)対照のビヒクル(n=33)またはApoCIII(n=32)のいずれかに曝露されたマウス膵島β細胞に付随する原形質膜パッチにおいて測定された、単位Ca
v1チャネルの平均数、開確率、平均閉時間および平均開時間。(C)対照のRINm5F細胞またはApoCIIIで処理された細胞のいずれかに付随する原形質膜パッチにおいて記録された単位Ca
v1チャネル電流の例。(D)対照のRINm5F細胞(n=34)またはApoCIIIとともにインキュベートされた細胞(n=35)の原形質膜パッチにおいて検出された単位Ca
v1チャネルの平均数、開確率、平均閉時間および平均時期間。対照群に対し、
*はP<0.05および
**はP<0.01である。
【
図2】アポリポタンパク質CIIIとのインキュベーションにより全細胞Ca
2+電流が増大し、Ca
v1チャネル遮断薬であるニモジピンとの共インキュベーションによりRINm5F細胞におけるアポリポタンパク質CIIIとのインキュベーションの影響が無効になることを示す図。(A)対照のビヒクル溶液とともにインキュベートされた細胞(細胞容量:10.1pF)およびアポリポタンパク質CIII(ApoCIII)で処理された細胞(細胞容量:11.1pF)からの実例の全細胞Ca
2+電流のトレース。(B)対照細胞(白丸、n=26)およびApoCIIIで処理された細胞(黒丸、n=26)における平均Ca
2+電流密度‐電圧関係。対照群に対し、
*はP<0.05および
**はP<0.01である。(C)ニモジピン(Nim)と共にインキュベートされた細胞(細胞容量:10pF)およびApoCIIIとともにNimに曝露された細胞(Nim/ApoCIII)(細胞容量:11.9pF)からの実例の全細胞Ca
2+電流のトレース。(D)Nimで処理された細胞(白丸、n=20)およびNim/ApoCIIIと共にインキュベートされた細胞(黒丸、n=21)における平均Ca
2+電流密度‐電圧関係。Nim単独群に対し、
*はP<0.05および
**はP<0.01である。
【
図3】PKAまたはSrcキナーゼの阻害はRINm5F細胞におけるアポリポタンパク質CIII誘導性の全細胞Ca
2+電流の増大をわずかに低減するが、PKCの阻害は影響を及ぼさないことを示す図。(A)対照のビヒクル溶液とともにインキュベートされた細胞(細胞容量:8.5pF)、アポリポタンパク質CIII(ApoCIII)で処理された細胞(細胞容量:8.2pF)およびApoCIII+PKA阻害剤H‐89に曝露された細胞(ApoCIII/H‐89、細胞容量:8.4pF)からの実例の全細胞Ca
2+電流のトレース。(B)対照細胞(白丸、n=37)、ApoCIIIで処理された細胞(黒丸、n=36)、およびApoCIII/H‐89で処理された細胞(黒三角、n=36)における平均Ca
2+電流密度‐電圧関係。対照群に対し、
*Pは<0.05および
**はP<0.01である。(C)対照細胞(細胞容量:12.5pF)、ApoCIIIとインキュベートされた細胞(細胞容量:12.0pF)、ならびにApoCIIIおよびPKC阻害剤であるカルホスチンCを用いた共処理(cotreatment)に供された細胞(ApoCIII/CalpC、細胞容量:12.1pF)において記録された実例の全細胞Ca
2+電流のトレース。(D)対照細胞(白丸、n=33)、ApoCIIIで処理された細胞(黒丸、n=33)およびApoCIII/CalpCに曝露された細胞(黒三角、n=33)における平均Ca
2+電流密度‐電圧関係。対照群に対するApoCIII群について、
*はP<0.05および
**はP<0.01である。対照群に対するApoCIII/CalpC群について、
+はP<0.05および
++はP<0.01である。(E)対照細胞(細胞容量:9.5pF)、ApoCIIIとインキュベートされた細胞(細胞容量:9.2pF)、ならびにApoCIIIおよびSrcキナーゼ阻害剤であるPP2に曝露された細胞(ApoCIII/PP2、細胞容量:10.0pF)において得られた実例の全細胞Ca
2+電流のトレース。(F)対照細胞(白丸、n=40)、ApoCIIIとインキュベートされた細胞(黒丸、n=40)およびApoCIII/PP2とインキュベートされた細胞(黒三角、n=40)における平均Ca
2+電流密度‐電圧関係。対照群に対するApoCIII群について、
**はP<0.01である。対照群に対するApoCIII/PP2群について、
+はP<0.05である。
【
図4】PKA、PKCおよびSrcキナーゼの複合的阻害はRINm5F細胞におけるアポリポタンパク質CIII誘導性の全細胞Ca
2+電流の増大を中和し、この中和作用を得るためにはPKAおよびSrcキナーゼの共阻害で十分であることを示す図。(A)ビヒクルとインキュベートされた細胞(対照、細胞容量:7.9pF)、アポリポタンパク質(ApoCIII)処理後の細胞(細胞容量:7.0pF)、ならびにH‐89、カルホスチンCおよびPP2のタンパク質キナーゼ阻害剤カクテルの存在下でApoCIIIに曝露された細胞(ApoCIII/H‐89/CalpC/PP2、細胞容量:7.2pF)において記録された実例の全細胞Ca
2+電流のトレース。(B)対照細胞(n=35)、ApoCIIIに曝露された細胞(n=34)、およびApoCIII/H‐89/CalpC/PP2に曝露された細胞(n=35)における平均Ca
2+電流密度‐電圧関係。対照群およびapoCIII/H‐89/CalpC/PP2群に対し、
*はP<0.05である。(C)対照細胞(細胞容量:8.5pF)、ApoCIII処理後の細胞(細胞容量:8.2pF)、ならびにタンパク質キナーゼ阻害剤H‐89およびPP2の存在下でApoCIIIに曝露された細胞(ApoCIII/H‐89/PP2、細胞容量:8.7pF)からの実例の全細胞Ca
2+電流のトレース。(D)対照細胞(n=26)、ApoCIIIに曝露された細胞(n=26)、およびApoCIII/H‐89/PP2に曝露された細胞(n=27)における平均Ca
2+電流密度‐電圧関係。対照群に対し、
*はP<0.05および
**はP<0.01である。ApoCIII/H‐89/PP2群に対し、
+P<0.05である。
【
図5】アポリポタンパク質CIIIとのインキュベーションによりβ細胞Ca
v1チャネルの発現は変化しないことを示す図。(A)対照のビヒクルまたはアポリポタンパク質CIII(ApoCIII)とのインキュベーションに供され、それぞれ抗Ca
v1.2抗体、抗Ca
v1.3抗体および抗GAPDH抗体をプローブとして調査されたRINm5F細胞ホモジネートの代表的なイムノブロット。(B)ApoCIIIとのインキュベーションに供されたRINm5F細胞ホモジネートにおけるCa
v1.2サブユニット(斜線カラム、n=6)およびCa
v1.3サブユニット(黒カラム、n=6)の、対照(白カラム、n=6)と比較した相対存在量を示すイムノブロットの定量化。対照細胞およびApoCIIIとともにインキュベートされた細胞の間のCa
v1.2およびCa
v1.3サブユニットの全体的な相対存在量に有意差はなかった(P>0.05)。
【
図6】β1インテグリンのノックダウンは、RINm5F細胞におけるアポリポタンパク質CIII誘導性の全細胞Ca
2+電流の増大を無効にすることを示す図。(A)β1インテグリンsiRNA#1、陰性対照のsiRNA(NC siRNA)、およびβ1インテグリンsiRNA#2でトランスフェクトされた細胞における、β1インテグリンおよびGAPDHの免疫反応バンドの代表的ブロット。(B)NC siRNA(白カラム、n=6)、β1インテグリンsiRNA#1(斜線カラム、n=6)、およびβ1インテグリンsiRNA#2(黒カラム、n=6)でトランスフェクトされたRINm5F細胞におけるβ1インテグリンタンパク質のイムノブロットの定量化。NC siRNAに対し、
**はP<0.01である。(C)それぞれ、モックトランスフェクションおよび対照ビヒクルとのインキュベーション(NO siRNA/対照、細胞容量:12.1pF)、NC siRNAトランスフェクションおよび対照ビヒクル処理(NC siRNA/対照、細胞容量:11.4pF)、NC siRNAトランスフェクションおよびアポリポタンパク質CIII(ApoCIII)とのインキュベーション(NC siRNA/ApoCIII、細胞容量:12.1pF)、β1インテグリンsiRNAトランスフェクションおよびビヒクル溶液への曝露(β1インテグリンsiRNA/対照、細胞容量:11.9pF)、ならびにβ1インテグリンsiRNAトランスフェクションおよびApoCIIIへの曝露(β1インテグリンsiRNA/ApoCIII、細胞容量:12.4pF)が行われた後の個々の細胞において記録された実例の全細胞Ca
2+電流のトレース。(D)NO siRNA/対照(黒丸、n=29)、NC siRNA/対照(白丸、n=28)、NC siRNA/apoCIII(黒三角、n=28)、β1インテグリンsiRNA/対照(白三角、n=29)、およびβ1インテグリンsiRNA/ApoCIII(黒四角、n=29)に供された細胞におけるCa
2+電流密度‐電圧関係。NO siRNA/対照、NC siRNA/対照およびβ1インテグリンsiRNA/対照に対し、
*はP<0.05および
**はP<0.01である。β1インテグリンsiRNA/ApoCIIIに対し、
+はP<0.05である。
【
図7】PKA、PKCまたはSrcキナーゼの阻害は、基本条件下のRINm5F細胞における全細胞Ca
2+電流を変化させないことを示す図。(A)対照のビヒクル処理された細胞(細胞容量:8.8pF)、およびH‐89に曝露された細胞(細胞容量:8.5pF)からの実例の全細胞Ca
2+電流のトレース。(B)対照細胞(白丸、n=20)およびH‐89とともにインキュベートされた細胞(黒丸、n=20)における平均Ca
2+電流密度‐電圧関係。(C)対照細胞(細胞容量:10.4pF)およびカルホスチンCとのインキュベーションに供された細胞(CalpC、細胞容量:11.0pF)において記録された実例の全細胞Ca
2+電流のトレース。(D)対照細胞(白丸、n=29)およびCalpCに曝露された細胞(黒丸、n=29)における平均Ca
2+電流密度‐電圧関係。(E)対照細胞(細胞容量:9.0pF)およびPP2で処理された細胞(細胞容量:9.1pF)において得られた実例の全細胞Ca
2+電流のトレース。(F)対照細胞(白丸、n=20)およびPP2とともにインキュベートされた細胞(黒丸、n=19)における平均Ca
2+電流密度‐電圧関係。
【
図8】PKA、PKCおよびSrcキナーゼの複合的阻害またはPKAおよびSrcキナーゼの共阻害は基本条件下のRINm5F細胞における全細胞Ca
2+電流に影響を及ぼさないことを示す図。(A)対照のビヒクル溶液とともにインキュベートされた細胞(細胞容量:10.8pF)、ならびにH‐89、カルホスチンCおよびPP2で構成されたタンパク質キナーゼ阻害剤カクテルで処理された細胞(H‐89/CalpC/PP2、細胞容量:9.7pF)において得られた実例の全細胞Ca
2+電流のトレース。(B)対照細胞(白丸、n=30)およびH‐89/CalpC/PP2で処理された細胞(黒丸、n=30)における平均Ca
2+電流密度‐電圧関係。(C)対照のビヒクル処理された細胞(細胞容量:9.4pF)ならびにタンパク質キナーゼ阻害剤H‐89およびPP2で処理された細胞(H‐89/PP2、細胞容量:9.1pF)において得られた実例の全細胞Ca
2+電流のトレース。(D)対照細胞(白丸、n=24)およびH‐89/PP2で処理された細胞(黒丸、n=24)における平均Ca
2+電流密度‐電圧関係。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
引用された参照文献はすべて、参照により全体が本願に援用される。本願においては、別途記載のないかぎり、利用される技法は、いくつかの有名な参照文献、例えば:「分子クローニング:実験の手引き(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」(サムブルック(Sambrook)ら、1989年、コールドスプリングハーバー研究所出版社(Cold Spring Harbor Laboratory Press))、「遺伝子発現技術(Gene Expression Technology)」(D.ゴッデル(D. Goeddel)編「酵素学方法論(Methods in Enzymology)」、1991年、第185巻、米国カリフォルニア州サンディエゴ、アカデミックプレス(Academic Press))、「酵素学方法論(Methods in Enzymology)」の「タンパク質精製のガイド(Guide to Protein Purification)」((M.P.ドイツァー(M.P. Deutshcer)編、1990年、アカデミックプレス・インコーポレイテッド);「PCRプロトコール:方法論および応用のためのガイド(PCR Protocols: Guide to Methods and Applications)」(イニス(Innis)ら、1990年、米国カリフォルニア州サンディエゴ、アカデミックプレス)、「動物細胞の培養:基本技術の手引き(Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique)」第2版、(R.I.フレシュニーR.I. Freshney)、1987年、米国ニューヨーク州ニューヨーク、リス・インコーポレイテッド(Liss, Inc.))、E.J.マレー(E.J. Murray)編、「遺伝子導入および発現のプロトコール(Gene Transfer and Expression Protocols)」、p.109−128、ザ・ヒューマナプレス・インコーポレイテッド(The Humana Press Inc.)、米国ニュージャージー州クリフトン)、ならびにアンビオン1998年カタログ(Ambion 1998 Catalog)、米国テキサス州オースティン、アンビオン(Ambion))のうちいずれかにおいて見出すことができる。
【0021】
本明細書中で使用されるように、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈が明らかにそうでないことを述べていない限り、複数の指示物を含む。本明細書中で使用される「および、ならびに(and)」は、明示的にそうでないとされる場合を除き、「または、もしくは(or)」と互換的に使用される。
【0022】
本発明の任意の態様のすべての実施形態は、文脈が明らかにそうでないことを述べていない限り、組み合わせて使用されうる。
第1の態様では、本発明は、糖尿病の発症抑制および治療のうち少なくともいずれかを行うための候補化合物を同定する方法であって、
(a)インスリン分泌細胞の第1集団を、1つ以上の試験化合物の存在下において、Ca
v1チャネルの密度および導電率のうち少なくともいずれかを増大させるのに有効な量のアポリポタンパク質CIII(ApoCIII)と接触させるステップと;
(b)インスリン分泌細胞の第1集団のCa
v1チャネルの密度および導電率のうち少なくともいずれかにおけるApoCIII誘導性の増大を対照と比較して阻害する、陽性の試験化合物を同定するステップであって、陽性の試験化合物は、糖尿病の発症抑制および治療のうち少なくともいずれかを行うための候補化合物である、ステップと
を含む方法を提供する。
【0023】
本発明者らは、ApoCIIIとのインキュベーションが単一チャネルレベルにおいてCa
v1チャネルの開確率および密度の著しい増大を引き起こすことを発見した。この処理は全細胞Ca
2+電流を著しく増大させ、Ca
v1チャネル遮断薬であるニモジピンはこの増大を完全に無効化した。本発明者らはさらに、PKAおよびSrcキナーゼの共阻害は同じ中和作用をもたらすのに十分であること、ならびにβ1インテグリンのノックダウンはApoCIIIがβ細胞Ca
vチャネルを過剰活性化するのを防止することを発見した。したがって、本発明者らは、Ca
2+依存性の膵臓β細胞の死を抑制するための、したがって糖尿病の抑制および治療のうち少なくともいずれかのための標的を特定した。よって、本発明のこの態様の方法は、Ca
2+依存性の膵臓β細胞の死の抑制するため、したがって糖尿病の発症抑制および治療のうち少なくともいずれかを行うための化合物を同定するために使用可能である。
【0024】
本明細書中で使用されるように、「apoCIII」は、配列番号2(ヒト)(NCBI受入番号CAA25233)、配列番号4(ラット)(NCBI受入番号AA40746)、もしくは配列番号6(マカク)(NCBI受入番号CAA48419)において示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、または該タンパク質の機能的等価物を指す。
【0025】
apoCIIIは、例えばシグマ・ケミカル・カンパニー(Sigma Chemical Company)(米国ミズーリ州セントルイス)から入手可能な、ほぼ精製されたapoCIIIであってよく、ここで「ほぼ精製された」とは、そのin vivoにおける正常な細胞環境から取り出されることを意味する。別例として、apoCIIIは、1型糖尿病由来の血清のような混合物中に存在していてもよいし、該混合物中から下記に記載されるもののような標準的技法を使用して部分的または完全に精製されてもよい。好ましい実施形態では、ほぼ精製されたapoCIIIが使用される。
【0026】
下記に議論されるように、同じアミノ酸配列を有するがグリコシル化パターンにおいて異なる、3つの既知のヒトapoCIIIアイソフォームが存在する。したがって、好ましい実施形態では、グリコシル化されたapoCIIIが用いられ、グリコシル化は好ましくはシアリル化である。別の好ましい実施形態では、モノシアリル化またはジシアリル化されたapoCIIIが使用される。そのようなグリコシル化物は、例えばシグマ・ケミカル・カンパニーから購入されてもよいし、下記に記載されるもののような標準的技法を使用して、部分的または完全に精製されてもよい。
【0027】
任意の適切なインスリン分泌細胞、例えば、限定するものではないが膵臓β細胞などが使用されうる。本明細書中で使用されるように、「膵臓β細胞」は膵臓β島細胞を含有する任意の細胞集団である。該細胞は、任意の哺乳類生物種から得ることが可能であるし、アッセイがin vivoで行われる場合は哺乳類生物種の体内に存在していてもよい。そのような膵臓β島細胞集団には、膵臓、単離された膵ランゲルハンス氏島(「膵島」)、単離された膵臓β島細胞、およびインスリン分泌細胞株が含まれる。膵臓の単離のための方法は当分野において良く知られており、また膵島を単離する方法は、例えば、セヴァン(Cejvan)ら、ダイアベティス(Diabetes)、2003年、第52巻、p.1176−1181;サンブラ(Zambre)ら、バイオケミカル・ファーマコロジー(Biochem. Pharmacol.)、1999年、第57巻、p.1159−1164、およびファーガン(Fagan)ら、サージェリー(Surgery)、1998年、第124巻、p.254−259、ならびにこれらの文献中において引用された参照文献に見出すことができる。インスリン分泌細胞株はアメリカン・ティシュー・カルチャー・コレクション(American Tissue Culture Collection)(「ATCC」)(米国メリーランド州ロックヴィル)から入手可能である。膵臓β細胞が使用されるさらなる実施形態では、該細胞は、95%を超えるβ細胞を膵島内に含有しているob/obマウスから得られるが、市販でも入手可能である。
【0028】
Ca
v1チャネルの密度および導電率のうち少なくともいずれかの測定は、当分野において標準的な方法、例えば、限定するものではないが単一チャネルおよび全細胞のパッチクランプ測定(セルアタッチ式およびパーフォレイテッド全細胞式のパッチクランプ技法)などによって実行されうる。本明細書中で使用されるように、「Ca
v1チャネルの密度および導電率のうち少なくともいずれかの増大」とは、アッセイの過程において、試験化合物の非存在下で見られるよりも大きく増大することを指す。該方法は、その化合物が試験化合物の非存在下で見られるよりも大きくCa
v1チャネルの密度および導電率のうち少なくともいずれかの増大を促進する限りは、Ca
v1チャネルの密度および導電率のうち少なくともいずれかにおいてベースラインよりも特定の量だけ増大する必要はない。好ましい実施形態では、増大は、標準的な統計解析によって判断されるような統計的に有意な増大である。
【0029】
膵臓β細胞をapoCIIIと接触させるステップは、細胞を1つ以上の試験化合物と接触させるステップの前、後、または同時に、行うことができる。接触は、in vitroで行われても、in vivoで(例:実験動物モデルにおいて)行われてもよい。本発明の候補同定法のうちのいずれかの方法を実行するために、任意の適切な培養条件が使用されうる。1つの実施形態では、細胞はApoCIIIと少なくとも6時間接触せしめられる。別の実施形態では、細胞は、1mM〜15mMのグルコース;好ましくは3mM〜12mM;好ましくは約11mMのグルコースを含む培地中で増殖せしめられる。さらなる実施形態では、細胞はおよそ37℃で(好ましくは、5%CO
2などの加湿インキュベータ内で)培養されてから、ほぼ室温においてCa
v1チャネルの密度および導電率のうち少なくともいずれかの記録がなされる。上記およびその他の適切なアッセイ条件は、本明細書中の教示を基にすれば十分に当業者のレベルの範囲内にある。
【0030】
1つの実施形態では、候補化合物は、1型糖尿病の発症抑制および治療のうち少なくともいずれかを行うための候補化合物である。別の実施形態では、候補化合物は、2型糖尿病の発症抑制および治療のうち少なくともいずれかを行うための候補化合物である。本発明はさらに、上記スクリーニング方法によって同定された化合物、および治療を必要とする対象者を治療するための該化合物の使用、を提供する。
【0031】
別の実施形態では、該方法は、膵臓β細胞のCa
v1チャネルの密度および導電率のうち少なくともいずれかにおけるapoCIII誘導性の増大を阻害する試験化合物の大規模合成をさらに含む。
【0032】
試験化合物がポリペプチド配列を含む場合、そのようなポリペプチドは化学合成されてもよいし、組換え発現されてもよい。組換え発現は、上記に開示されるように、当分野で標準的な方法を使用して遂行することができる。そのような発現ベクターはバクテリアまたはウイルスの発現ベクターを含むことが可能であり、そのような宿主細胞は原核生物であっても真核生物であってもよい。固相技法、液相技法、もしくはペプチド縮合技法の良く知られた技法、またはこれらの任意の組合せを使用して調製された、合成ポリペプチドは、天然または非天然のアミノ酸を含むことができる。ペプチド合成に使用されるアミノ酸は、標準的なBoc(Nα‐アミノが保護されたNα‐t‐ブチルオキシカルボニル)アミノ酸樹脂であって標準的な脱保護、中和、カップリングおよび洗浄プロトコールが用いられてもよいし、または標準的な塩基に不安定なNα‐アミノが保護された9‐フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)アミノ酸であってもよい。FmocおよびBocいずれのNα‐アミノ保護アミノ酸も、シグマ(Sigma)、ケンブリッジ・リサーチ・バイオケミカル(Cambridge Research Biochemical)、またはその他の当業者によく知られた化学企業から入手可能である。加えて、ポリペプチドは当業者によく知られたその他のNα‐保護基を用いて合成されてもよい。固相ペプチド合成は、当業者によく知られた技法によって行うことが可能であり、また自動合成装置の使用などによって提供されてもよい。
【0033】
試験化合物が抗体を含む場合、そのような抗体はポリクローナル抗体であってもよいし、モノクローナル抗体であってもよい。該抗体は、ヒト化型、完全なヒト型、またはネズミ科動物型の抗体であってよい。そのような抗体は、良く知られた方法、例えばハーロー(Harlow)およびレーン(Lane)、「抗体;実験の手引き(Antibodies; A Laboratory Manual)」、1988年、コールドスプリングハーバー研究所(Cold Spring Harbor Laboratory)、米国ニューヨーク州コールドスプリングハーバー、に記載された方法によって作製可能である。
【0034】
試験化合物が核酸配列を含む場合、そのような核酸も同様に、化学合成されてもよいし、組換え発現されてもよい。組換え発現の技法は当業者には良く知られている(例えば上述のサムブルック(Sambrook)ら、1989年、を参照)。核酸はDNAであってもRNAであってもよく、一本鎖でも二本鎖でもよい。同様に、そのような核酸は、当分野の標準的技法を使用して、手動反応または自動反応によって化学合成または酵素的に合成することが可能である。化学合成されるかまたはin vitroの酵素的合成によって合成された場合、核酸は細胞内への導入に先立って精製されてもよい。例えば、核酸は、溶媒もしくは樹脂を用いた抽出、沈殿、電気泳動、クロマトグラフィー、またはこれらの組合せによって混合物から精製されうる。別例として、核酸は、試料の処理工程による損失を回避するために精製を伴わないかまたは最低限しか精製せずに使用されてもよい。
【0035】
試験化合物がポリペプチド、抗体、または核酸以外の化合物を含む場合、そのような化合物は、有機化学合成を行なうための当分野の様々な方法のうちのいずれかにより作製されうる。
【0036】
1つの実施形態では、対照は、インスリン分泌細胞の第2集団を、1つ以上の試験化合物の非存在下において、Ca
v1チャネルの密度および導電率のうち少なくともいずれかを増大させるのに有効な量のアポリポタンパク質CIII(ApoCIII)と接触させるステップを含む。この実施形態(本明細書中に開示された他の対照のうち任意のものと組み合わせて使用可能である)は、例えば、細胞の第2集団を、試験化合物がその中に溶解される調合物と類似または同一である調合物、例えばバッファーなどと接触させることを含むことができる。
【0037】
1つの実施形態では、対照は、インスリン分泌細胞の対照集団を、1つ以上の試験化合物の存在下において、Ca
v1チャネルの密度および導電率のうち少なくともいずれかを増大させるのに有効な量のApoCIIIと接触させるステップと、インスリン分泌細胞の該対照集団を、Ca
v2チャネルおよびCa
v3チャネルのうち少なくともいずれかの遮断薬、例えば、限定するものではないが、ω‐アガトキシンIVA、ω‐コノトキシンGIVAおよびSNX482(Ca
v2チャネル遮断薬);ならびにミベフラジルおよびNNC55‐0396(Ca
v3チャネル遮断薬)とさらに接触させるステップとを含み、Ca
v2チャネルおよびCa
v3チャネルのうち少なくともいずれかの遮断薬のインスリン分泌細胞の対照集団においてCa
v1チャネルの密度および導電率のうち少なくともいずれかにおけるApoCIII誘導性の増大をインスリン分泌細胞の第1集団と比較して強く阻害する陽性の試験化合物は、糖尿病の発症抑制および治療のうち少なくともいずれかを行うための候補化合物である。この実施形態では、Ca
v2チャネルおよびCa
v3チャネルのうち少なくともいずれかの遮断薬は、Ca
v2チャネルおよびCa
v3チャネルのうち少なくともいずれかに選択的であり、かつCa
v1チャネル遮断薬としての役割は果たさない。本明細書中の教示に基づいて、所与のアッセイで有用に使用されうる任意のCa
v2チャネルおよびCa
v3チャネルのうち少なくともいずれかの遮断薬の量を決定することは、当業者のレベルの範囲内にある。
【0038】
別の実施形態では、対照は、インスリン分泌細胞の対照集団を、1つ以上の試験化合物の存在下において、Ca
v1チャネルの密度および導電率のうち少なくともいずれかを増大させるのに有効な量のApoCIIIと接触させるステップと、インスリン分泌細胞の対照集団を、Srcキナーゼ阻害剤およびPKA阻害剤のうち少なくともいずれかとさらに接触させるステップとを含み、インスリン分泌細胞の第1集団においてCa
v1チャネルの密度および導電率のうち少なくともいずれかにおけるApoCIII誘導性の増大を、Srcキナーゼ阻害剤およびPKA阻害剤のうち少なくともいずれかのインスリン分泌細胞の対照集団と比較して強く阻害する陽性の試験化合物は、糖尿病の発症抑制および治療のうち少なくともいずれかを行うための候補化合物である。典型的なSrcキナーゼ阻害剤には、PP1アナログ、PP2、および以下の実施例において開示される化合物が挙げられる。典型的なPKA阻害剤には、アデノシン3’,5’‐サイクリックモノホスホロチオエート‐R、H‐7、H‐8、H‐9、H‐89、および以下の実施例において開示される化合物が挙げられる。
【0039】
以下の実施例において示されるように、本発明者らは、ApoCIIIがPKAおよびSrcキナーゼのインテグリン依存性の共活性化を通じてβ細胞のCa
v1チャネルを過剰活性化することを発見した。したがって、PKAおよびSrcのうち少なくともいずれかの阻害剤は、本発明の陽性の候補化合物を下方制御(down‐regulate)するはずである。PKAおよびSrcキナーゼのうち少なくともいずれかの任意の適切な阻害剤、例えば、限定するものではないが以下の実施例において開示されたものが、使用されうる。本明細書中の教示に基づいて、所与のアッセイで有用に使用されうる任意のSrcキナーゼ阻害剤およびPKA阻害剤のうち少なくともいずれかの量を決定することは、当業者のレベルの範囲内にある。
【0040】
さらなる実施形態では、対照は、インスリン分泌細胞の対照集団を、1つ以上の試験化合物の存在下において、Ca
v1チャネルの密度および導電率のうち少なくともいずれかを増大させるのに有効な量のApoCIIIと接触させるステップと、インスリン分泌細胞の該対照集団を、β1インテグリンの発現または活性を阻害する分子とさらに接触させるステップとを含み、インスリン分泌細胞の第1集団においてCa
v1チャネルの密度および導電率のうち少なくともいずれかにおけるApoCIII誘導性の増大をβ1インテグリン阻害剤のインスリン分泌細胞の対照集団と比較して強く阻害する陽性の試験化合物は、糖尿病の発症抑制および治療のうち少なくともいずれかを行うための候補化合物である。以下の実施例において示されるように、本発明者らは、ApoCIIIがPKAおよびSrcキナーゼのβ1インテグリン依存性の共活性化を通じてβ細胞Ca
v1チャネルを過剰活性化することを発見した。したがって、β1インテグリンの阻害剤は、本発明の陽性の候補化合物を下方制御(down‐regulate)するはずである。任意の適切なβ1インテグリン阻害剤、例えば、限定するものではないが以下の実施例において開示されたものが使用されうる(抗体、アンチセンス、siRNA、shRNAなど)。本明細書中の教示に基づいて、所与のアッセイで有用に使用されうる任意のβ1インテグリン阻害剤の量を決定することは、当業者のレベルの範囲内にある。
【0041】
当業者には当然のことであろうが、単一の対照、例えば限定するものではないが上記に開示された対照のうちいずれかが、本発明の方法を実行するのに使用されてもよい。別例として、各実施形態が異なる対照細胞集団を利用する複数の対照実施形態が使用されてもよい(2個、3個またはそれ以上の実施形態、例えば限定するものではないが上記に開示された対照のうち任意のもの)。
【0042】
第2の態様では、本発明は、糖尿病の発症抑制および治療のうち少なくともいずれかを行うための候補化合物を同定する方法であって、
(a)インスリン分泌細胞の第1集団を、1つ以上の試験化合物の存在下において、Ca
v1チャネルの密度および導電率のうち少なくともいずれかを増大させるのに有効な量のApoCIIIと接触させるステップと;
(b)インスリン分泌細胞の第1集団におけるβ1インテグリンの発現または活性を対照と比較して阻害する陽性の試験化合物を同定するステップであって、陽性の試験化合物は、糖尿病の発症抑制および治療のうち少なくともいずれかを行うための候補化合物である、ステップと
を含む方法を提供する。
【0043】
1つの実施形態では、対照は、インスリン分泌細胞の第2集団を、1つ以上の試験化合物の非存在下において、Ca
v1チャネルの密度および導電率のうち少なくともいずれかを増大させるのに有効な量のApoCIIIと接触させるステップを含む。この実施形態は、例えば、細胞の第2集団を、試験化合物がその中に溶解される調合物と類似または同一である調合物、例えばバッファーなどと接触させることを含むことができる。
【0044】
本発明の第1の態様のすべての実施形態は、文脈が明らかにそうでないことを述べていない限り、この第2の態様において使用されうる。
1つの実施形態では、対照は、インスリン分泌細胞の第2集団を、試験化合物の非存在下においてApoCIIIと接触させることを含む。この実施形態は、例えば、細胞の第2集団を、試験化合物がその中に溶解される調合物と類似または同一である調合物、例えばバッファーなどと接触させることを含むことができる。
【0045】
第3の態様では、本発明は、糖尿病の発症抑制および治療のうち少なくともいずれかを行うための候補化合物を同定する方法であって、
(a)インスリン分泌細胞の第1集団を、1つ以上の試験化合物の存在下において、Ca
v1チャネルの密度および導電率のうち少なくともいずれかを増大させるのに有効な量のApoCIIIと接触させるステップと;
(b)インスリン分泌細胞の第1集団におけるPKAおよびSrcキナーゼのうち少なくともいずれかの活性化を対照と比較して阻害する陽性の試験化合物を同定するステップとを含み、
陽性の試験化合物は、糖尿病の発症抑制および治療のうち少なくともいずれかを行うための候補化合物である、方法を提供する。
【0046】
1つの実施形態では、該方法は、PKAおよびSrcキナーゼのうち少なくともいずれかのβ1インテグリンを介した活性化の阻害剤を同定することを含む。
1つの実施形態では、対照は、インスリン分泌細胞の第2集団を、1つ以上の試験化合物の非存在下において、Ca
v1チャネルの密度および導電率のうち少なくともいずれかを増大させるのに有効な量のApoCIIIと接触させるステップを含む。この実施形態は、例えば、細胞の第2集団を、試験化合物がその中に溶解される調合物と類似または同一である調合物、例えばバッファーなどと接触させることを含むことができる。
【0047】
本発明の第1の態様のすべての実施形態は、文脈が明らかにそうでないことを述べていない限り、この第3の態様において使用されうる。
さらなる態様では、本発明は、糖尿病の治療または発症抑制を行うための方法であって、投与を必要とする対象者に、糖尿病の治療または発症抑制を行うために有効な量のPKAおよびSrcキナーゼの阻害剤を投与することを含む方法を提供する。典型的なSrcキナーゼ阻害剤には、PP1アナログ、PP2、および以下の実施例において開示される化合物が挙げられる。典型的なPKA阻害剤には、アデノシン3’,5’‐サイクリックモノホスホロチオエート‐R、H‐7、H‐8、H‐9、H‐89、および以下の実施例において開示される化合物が挙げられる。
【0048】
別の態様では、本発明は、糖尿病の治療または発症抑制を行うための方法であって、投与を必要とする対象者に、有効な量の、β1インテグリンの発現および活性のうち少なくともいずれかの阻害剤を投与することを含む方法を提供する。様々な実施形態において、阻害剤は、抗β1インテグリン抗体、抗β1インテグリンアプタマー、β1インテグリンsiRNA、β1インテグリンshRNA、およびβ1インテグリンのアンチセンスオリゴヌクレオチドで構成される群から選択される。
【0049】
さらに別の態様では、本発明は、糖尿病の治療または発症抑制を行うための方法であって、投与を必要とする対象者に、有効な量の、膵臓β細胞のApoCIII活性化の阻害剤を投与することを含む方法を提供する。
【0050】
本明細書中で使用されるように、apoCIII活性化の「阻害剤」には、apoCIIIのDNAのRNAへの転写を低減する化合物、apoCIII RNAのタンパク質への翻訳を低減する化合物、およびapoCIIIタンパク質の機能を低減する化合物が含まれる。そのような阻害は、完全阻害でも部分阻害でもよいが、apoCIIIの発現および活性のうち少なくともいずれかが低減される結果、細胞内カルシウム濃度を増大させる能力の低減をもたらすような阻害である。そのような阻害剤は、apoCIIIに結合する抗体;apoCIII活性を妨げることができるアプタマー;apoCIIIのタンパク質、DNAまたはmRNAを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド;apoCIIIのタンパク質、DNAまたはmRNAを標的とする低分子干渉RNA(siRNA)または短ヘアピンRNA(shRNA)、および、apoCIII活性を妨げることができるその他の化学物質または生体化合物、で構成される群から選択される。
【0051】
上記治療態様の各々の1つの実施形態では、該方法は糖尿病を治療するための方法である。この実施形態では、対象者は1型または2型糖尿病であると診断済みである。本明細書中で使用されるように、「糖尿病」は、膵臓によるインスリンの生産が不十分であるかまたは行われない結果、高レベルの血糖がもたらされることを特徴とする。
【0052】
本明細書中で使用されるように、「糖尿病の治療」とは、下記すなわち:(a)糖尿病または糖尿病合併症の重症度を低減すること;(b)糖尿病合併症の発症を抑制または防止すること;(c)糖尿病合併症または糖尿病に特徴的な症状の悪化を阻止すること;(d)糖尿病合併症または糖尿病に特徴的な症状の再発を抑制または防止すること;(e)以前症状を有していた患者において糖尿病合併症または糖尿病に特徴的な症状の再発を抑制または防止すること、のうち1つ以上を行うことを意味する。
【0053】
糖尿病に特徴的な症状には、例えば、限定するものではないが、血糖レベルの上昇、インスリン産生の減少、インスリン抵抗性、タンパク尿、および糸球体クリアランスの低下が含まれる。本発明の方法に従って治療されうる糖尿病合併症には、例えば、限定するものではないが、神経の合併症(糖尿病性神経障害など)および平滑筋細胞制御不全に関連した合併症(例えば、限定するものではないが勃起機能不全、膀胱機能不全ならびに血管合併症、例えば、限定するものではないがアテローム性動脈硬化症、卒中および末梢血管疾患)が含まれる。
【0054】
別の実施形態では、該方法は糖尿病の発症抑制のための方法である。この態様では、対象者は1型または2型糖尿病のリスクを有し、利点は糖尿病および糖尿病合併症のうち少なくともいずれかの発症を抑制することである。糖尿病を発症するリスクを有する任意の対象者、例えば、限定するものではないが、メタボリック症候群、糖尿病に関する既知の遺伝的リスク要因、糖尿病の家族歴、および肥満のうち1以上を備えた対象者が治療されうる。
【0055】
さらなる実施形態では、糖尿病および糖尿病合併症のうち少なくともいずれかを治療または発症抑制するための方法は、対照と比較してapoCIIIを過剰発現していると同定された個体を治療することをさらに含む。apoCIII発現の増大は糖尿病合併症の発症に先行し、したがって本実施形態は、本発明の方法を使用する治療に適した患者の早期発見を可能にする。
【0056】
本明細書中で使用されるように、「過剰発現」とは任意の量の対照を上回るapoCIII発現である。任意の適切な対照、例えば、糖尿病に罹患していないことが分かっている対象者のapoCIII発現レベル、またはあらかじめ決定された同様の患者試料集団に由来する標準化されたapoCIII発現レベルを、使用することが可能である。対照に比べて多量に増大したapoCIII発現は「過剰発現」と考えられ;様々な実施形態において、過剰発現は対照と比較して少なくとも10%、20%、50%、100%、200%またはそれ以上増大したapoCIII発現を含む。好ましい実施形態では、apoCIII発現は血液試料または血清試料中において検出される。血清中のapoCIIIのレベルを評価する1つの実施形態では、アルブミンは、例えばMontage(登録商標)アルブミン枯渇キット(Albumin Deplete Kit)(ミリポア(Millipore))またはAlbuSorb(商標)(バイテックサポートグループ(Biotech Support Group))の使用など標準的技法を使用して血清試料から除去される。収集された血清試料は次いで一晩凍結乾燥され、sep‐Pak(登録商標)C18で処理されうる。溶出されたタンパク質は凍結乾燥され、その後100μLの0.1%TFAに溶解され、ACE C18 10cm×0.21cmカラムで20−60%として処理されて、apoCIIIが溶出する曲線について曲線下面積を求めることが可能である。ApoCIIIは、任意の適切な技法、例えば、限定するものではないがMALDI質量分析法などを使用して、同定されてもよい。
【0057】
本明細書中で使用されるように、「対象者」または「患者」という用語は、治療が望まれる任意の対象者、例えばヒト、ウシ、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、昆虫、ウマ、ニワトリなどを意味する。最も好ましくは、対象者はヒトである。
【0058】
治療薬は、任意の適切な経路によって、例えば、限定するものではないが、経口、局所、非経口、鼻腔内、肺、または直腸内経路により、従来の無毒な薬学的に許容可能な担体、アジュバントおよびビヒクルを含有する投与単位製剤に含めて、投与されうる。本明細書中で使用されるような非経口という用語には、経皮、皮下、血管内(例えば、静脈内)、筋肉内、または髄腔内への注射または注入技法などが含まれる。加えて、本発明の化合物および薬学的に許容可能な担体を含む医薬製剤が提供される。治療薬は、1つ以上の無毒な薬学的に許容可能な担体、希釈剤およびアジュバントのうち少なくともいずれか、ならびに必要に応じてその他の活性成分を伴って存在しうる。治療薬は、経口使用に適した形態であってよく、例えば、錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性もしくは油性の懸濁剤、分散可能な散剤もしくは果粒剤、乳剤、硬カプセル剤もしくは軟カプセル剤、またはシロップ剤もしくはエリキシル剤としての形態であってよい。
【0059】
用量域は、化合物の選択、投与経路、製剤の性質、対象者の病状の性質、および担当医の判断に応じて変化する。例えば、経口投与は静脈内注射による投与よりも高用量を必要とすると予想されるであろう。当分野において十分理解されているように、これらの用量レベルの変動は、最適化のための標準的な日常的実験を使用して調整することができる。
【0060】
実施例1.アポリポタンパク質CIIIはPKAおよびSrcキナーゼのβ1インテグリン依存性の共活性化によりβ細胞Ca
v1チャネルを過剰活性化する
概要
アポリポタンパク質CIII(ApoCIII)はトリグリセリド加水分解の阻害剤としての役割を果たすのみならず、炎症過程および膵臓β細胞の電位依存性Ca
2+(Ca
v)チャネルの過剰活性化のような糖尿病に関連する病理学的事象に関与する。しかしながら、ApoCIIIがβ細胞Ca
vチャネルを過剰活性化する分子メカニズムについては何も知られていない。本発明者らは今回、ApoCIIIがCa
v1チャネルの開確率および密度を増大させたことを実証する。ApoCIIIは全細胞Ca
2+電流を増大させ、Ca
v1チャネル遮断薬であるニモジピンはこの増大を完全に無効にした。ApoCIIIのこの作用は、PKA、PKCまたはSrcキナーゼの個々の阻害によってはあまり影響を受けなかった。しかしながら、PKA、PKCおよびSrcキナーゼの複合的阻害によりApoCIIIの該作用は中和され、またPKAおよびSrcキナーゼの共阻害によって同様の結果が得られた。さらに、β1インテグリンのノックダウンはApoCIIIがβ細胞Ca
vチャネルを過剰活性化するのを防止した。これらのデータは、ApoCIIIがPKAおよびSrcキナーゼのβ1インテグリン依存性の共活性化によりβ細胞Ca
v1チャネルを過剰活性化することを示している。
【0061】
序論
電位依存性カルシウム(Ca
v)チャネルは膵臓β細胞の生理および病態生理において極めて重要である(ヤン(Yang)およびベルグレン(Berggren)、2005年;ヤン(Yang)およびベルグレン(Berggren)、2006年)。該チャネルはインスリン分泌の調節において中心的位置を占めるだけでなく、タンパク質リン酸化、遺伝子発現および細胞周期の調節を通じてβ細胞の発生、生存および増殖にも関与する(ヤン(Yang)およびベルグレン(Berggren)、2005年;ヤン(Yang)およびベルグレン(Berggren)、2006年)。β細胞Ca
vチャネルの機能および密度は、他の種類の細胞とも共通するかまたはβ細胞に特異的であるかいずれかの広く様々なメカニズム、例えばチャネルのリン酸化、他の分子との相互作用、およびグルコース代謝によるシグナル伝達による調節を受ける(カテラル(Catterall)、2000年;ヤン(Yang)およびベルグレン(Berggren)、2005年;ヤン(Yang)およびベルグレン(Berggren)、2006年)。Ca
vチャネルが正常に機能しないと、β細胞の機能不全が引き起こされ、最も一般的な代謝性疾患である糖尿病という形で現れるように死を招くことすらある(ヤン(Yang)およびベルグレン(Berggren)、2005年;ヤン(Yang)およびベルグレン(Berggren)、2006年)。実際、Tリンパ球を介した自己免疫性の攻撃は1型糖尿病におけるβ細胞の死に重大な役割を果たす。加えて、1型糖尿病の血清中の因子は、β細胞Ca
vチャネルの過剰活性化を通じて非生理的な量のCa
2+を膵臓β細胞内に侵入せしめ、結果としてβ細胞のアポトーシスをもたらす。疑いなく、このプロセスは自己免疫性の攻撃に加えてさらに疾患の発症を高める(ヤン(Yang)およびベルグレン(Berggren)、2005年;ヤン(Yang)およびベルグレン(Berggren)、2006年)。そのような因子は2型糖尿病の血清中にもみられ、該血清中においても1型糖尿病の血清中と同じように作用する。(ユンッティ‐ベルグレン(Juntti‐Berggren)ら、1993年;ユンッティ‐ベルグレン(Juntti‐Berggren)ら、2004年;ソル(Sol)ら、2009年)。実際、β細胞の量の減少およびβ細胞Ca
vチャネルの過剰な活性化は、後藤‐柿崎ラットにおけるような2型糖尿病の状態の下で出現する(カトウ(Kato)ら、1996年)。
【0062】
アポリポタンパク質CIII(ApoCIII)の増加は、β細胞Ca
vチャネルの過剰活性化を介してβ細胞を破壊に至らしめる糖尿病誘発性の血清因子として作用することが実証されている(ユンッティ‐ベルグレン(Juntti‐Berggren)ら、2004年;ソル(Sol)ら、2009年)。さらに、本発明者らは最近、ApoCIIIのin vivo抑制が、ヒトの1型糖尿病のラットモデルであるBioBreedingラットにおける糖尿病の発症を遅延させることを示した(ホルムバリ(Holmberg)ら、2011年)。通常は、ApoCIIIは血漿の構成成分である。ApoCIIIは主に肝臓内で、またわずかに腸内でも合成される。肝臓および腸の細胞はこのアポリポタンパク質を血中に放出し、該タンパク質は血中ではカイロミクロン、超低比重リポタンパク質(LDL)および高比重リポタンパク質(HDL)の表面に位置している(ギャガバデジ(Gangabadage)ら、2008年;ヨング(Jong)ら、1999年)。ApoCIIIは、各々が約10残基を含有している6個の両親媒性αヘリックスを形成する、79個のアミノ酸残基からなる。ApoCIIIのNMR法による三次元構造および運動性は、該タンパク質の天然における脂質との結合状態を模倣した硫酸ドデシルナトリウムミセルとの複合体を形成した状態で、解像がなされている。6個の両親媒性αヘリックスは、集合して硫酸ドデシルナトリウムミセル表面の周囲に巻き付いたネックレス状の鎖となる(ギャガバデジ(Gangabadage)ら、2008年)。定説的に言えば、ApoCIIIは、リポタンパク質リパーゼの阻害により、また、リポタンパク質リパーゼおよびリポタンパク質受容体が存在する場である負に荷電した細胞表面に、トリグリセリドに富むリポタンパク質が結合するのを妨害することにより、トリグリセリド加水分解の有効な阻害剤としての役割を果たす(ギャガバデジ(Gangabadage)ら、2008年;ヨング(Jong)ら、1999年)。ApoCIIIは、スカベンジャー受容体クラスBタイプI(SR‐BI)に結合することによりLDLおよびHDLからのコレステリルエステルの選択的取込みを妨げ、LDL受容体へのアポリポタンパク質Bの結合を防止することによりコレステロールに富むLDLのエンドサイトーシスを妨げる(クラベイ(Clavey)ら、1995年;ユアール(Huard)ら、1995年;シュウ(Xu)ら、1997年)。高い血漿中ApoCIII濃度は肥満における異脂肪血症の特徴であって1型および2型いずれの糖尿病においても観察される一方(チャン(Chan)ら、2002年;ユンッティ‐ベルグレン(Juntti‐Berggren)ら、2004年;スンドステン(Sundsten)ら、2008年)、血漿中ApoCIII濃度の低いアシュケナージ系ユダヤ人の一群は年齢を重ねても心臓血管の健康および高いインスリン感受性を維持し、かつ並外れた長寿に達する(アツモン(Atzmon)ら、2006年)。
【0063】
脂質代謝における定説的な役割に加えて、ApoCIIIは細胞シグナル伝達において多岐にわたる役割も果たしている。ApoCIIIは、スカベンジャー受容体クラスBタイプI(SR‐BI)、トール様受容体2(TLR2)および未だ特徴解析されていない結合部位であって対応するシグナルを該部位の下流のエフェクター(例えばβ1インテグリン、百日咳毒素感受性Gタンパク質、NF‐κBおよびプロテインキナーゼ)に中継する結合部位など、異なる細胞表面受容体に結合することができる(ファング(Fang)およびリウ(Liu)、2000年;カワカミ(Kawakami)ら、2006年;カワカミ(Kawakami)ら、2007年;シュウ(Xu)ら、1997年)。しかしながら、ApoCIIIがβ細胞のCa
vチャネルを過剰に活性化する分子メカニズムについては何も知られていない。本研究において、本発明者らは、ApoCIIIがPKAおよびSrcキナーゼのβ1インテグリン依存性の共活性化を通じてβ細胞Ca
v1チャネルを上方制御することを実証する。
【0064】
結果
アポリポタンパク質CIIIは、β細胞におけるCa
v1チャネルの密度および導電率を増大させる
本発明者らのかつての研究から、ApoCIIIとのインキュベーションはマウス膵島β細胞における全細胞Ca
2+電流を著しく増大させることが明らかとなっている(ユンッティ‐ベルグレン(Juntti‐Berggren)ら、2004年)。いかなる種類のβ細胞Ca
vチャネルが影響を受け、密度または導電率のいずれが影響を受けるかを明確にするために、本発明者らは、ApoCIIIとのインキュベーション後のマウス膵島β細胞(
図1A)およびRINm5F細胞(
図1C)において、持続的開口を伴う大きな単位(unitary)Ba
2+コンダクタンスを特徴とする、単位Ca
v1チャネル電流を分析した。マウス膵島β細胞の実験では、本発明者らは、ApoCIIIで処理された細胞の原形質膜パッチにおいて、対照細胞の原形質膜パッチよりも、より多層の(more layers of)単位Ba
2+電流によって反映されるより多くのCa
v1チャネルを観察した(
図1A)。ApoCIIIで処理された細胞(n=32)の単位Ca
v1チャネルの平均数、開確率および平均開時間は、対照ビヒクルに曝露された細胞(n=33)よりも有意に大きかった(
図1B)。ApoCIIIとともにインキュベートされた細胞のパッチにおいて記録された単位Ca
v1チャネルの平均閉時間は、対照のパッチにおける平均閉時間よりも有意に短かった(
図1B)。同様に、ApoCIIIの類似の作用はインスリン分泌性のRINm5F細胞のCa
v1チャネルについても生じた。ApoCIIIとともにインキュベートされた細胞の原形質膜パッチは、ビヒクルで処理された細胞の原形質膜パッチと比較してより多くのCa
v1チャネルを提供した(
図1C)。前者のCa
v1チャネルは、後者のCa
v1チャネルよりも高頻繁で開口した(
図1C)。ApoCIIIとのインキュベーション群(n=35)は、ビヒクル溶液とのインキュベーション群(n=34)と比較して、有意にCa
v1チャネルのチャネル数を増大させ、開確率を高め、平均開時間を延長し、かつ平均閉時間を短縮させた(
図1D)。該データは明らかに、ApoCIIIがβ細胞Ca
v1チャネルの密度および導電率の両方を増大させたことを示している。
【0065】
Ca
v1チャネルの薬理学的除去は、β細胞Ca
vチャネルのアポリポタンパク質CIII誘導性の過剰活性化を防止する
単一チャネル分析によるCa
v1チャネルに対するApoCIIIの作用の検証は、必ずしもApoCIIIがCa
v1チャネルのみを攻撃するということを意味するものではない。該作用が他の種類のCa
vチャネルについても生じるかどうかを調べるために、本発明者らは、Ca
v1チャネル遮断薬であるニモジピンの非存在下および存在下におけるApoCIIIとのインキュベーション後のRINm5F細胞における全細胞Ca
2+電流を分析した。ApoCIIIとともにインキュベートされた細胞の全細胞Ca
2+電流は、ビヒクル溶液で処理された細胞よりも大きかった(
図2A)。ApoCIII群において10〜30mVの電圧範囲で観察された全細胞Ca
2+電流密度は、対照群よりも有意に高かった(
図2B)。極めて対照的なことに、全細胞Ca
2+電流は、対照細胞と、ニモジピン存在下においてApoCIIIとともにインキュベートされた細胞との間で同様であった(
図2C)。この2つの処理群の間で全細胞Ca
2+電流密度に有意差はなかった(
図2D)。該データは、ApoCIIIが専らβ細胞Ca
v1チャネルに影響を及ぼすことを確認するものである。
【0066】
アポリポタンパク質CIIIはPKAおよびSrcキナーゼの共活性化を介してβ細胞Ca
vチャネルを過剰活性化する
ApoCIIIによるβ細胞Ca
v1チャネルの開確率の増大、およびApoCIIIシグナル伝達におけるプロテインキナーゼの媒介的役割は、ApoCIIIが何らかのプロテインキナーゼの上流にシグナルを送ってβ細胞Ca
vチャネルを過剰活性化することを示唆している(グイ(Gui)ら、2006年;カワカミ(Kawakami)ら、2006年;リュックシュロス(Rueckschloss)およびアイゼンバーグ(Isenberg)、2004年;ウェイクス‐エドワーズ(Waitkus‐Edwards)ら、2002年;ウー(Wu)ら、2001年)。したがって、本発明者らは、β細胞Ca
vチャネルのApoCIII誘導性の過剰活性化におけるPKA、PKCおよびSrcキナーゼの関与について調査した。
【0067】
第1に、本発明者らは、RINm5F細胞におけるβ細胞Ca
vチャネルのApoCIII誘導性の過剰活性化に対するPKA阻害剤H‐89の影響について調べた。対照細胞において記録された全細胞Ca
2+電流は、ApoCIIIで処理された細胞よりも大きく、ApoCIIIに加えてH‐89とともにインキュベートされた細胞において記録された全細胞Ca
2+電流は中間の大きさであった(
図3A)。ApoCIIIで処理された細胞(黒丸、n=36)において測定された平均Ca
2+電流密度は、10〜50mVの範囲の電圧において、ビヒクル対照細胞(白丸、n=37)より有意に高かった(
図3B)。しかしながら、ApoCIIIおよびH‐89で共処理された細胞(黒三角、n=36)は、Ca
2+電流密度の点ではApoCIIIで処理された細胞または対照細胞のいずれとも有意な差はなかった(
図3B)。さらに、H‐89処理は、基本条件下すなわちApoCIIIの非存在下におけるCa
2+電流密度に影響を及ぼさなかった(
図7AおよびB)。これらの結果は、PKA阻害がβ細胞Ca
vチャネルのApoCIII誘導性の過剰活性化をわずかに低減したことを示す。
【0068】
第2に、本発明者らは、RINm5F細胞におけるβ細胞Ca
vチャネルのApoCIII誘導性の過剰活性化に対するPKC阻害剤カルホスチンC(CalpC)の影響について試験した。本発明者らは、ApoCIIIとともにインキュベートされた細胞およびApoCIII/CalpCで共処理された細胞が同様の全細胞Ca
2+電流を示し、該電流はビヒクルで処理された細胞において得られる全細胞Ca
2+電流よりも大きいことを観察した(
図3C)。電圧範囲10〜50mVにおけるApoCIIIで処理された細胞(黒丸、n=33)および20〜50mVの電圧範囲におけるApoCIII/CalpCに曝露された細胞(黒三角、n=33)の平均Ca
2+電流密度は、ビヒクル対照細胞(白丸、n=33)と比較して有意に増大した(
図3D)。Ca
2+電流密度に関してはApoCIIIで処理された細胞とApoCIII/CalpCで共処理された細胞との間に差はない(
図3D)。更に、対照ビヒクルに曝露された細胞は、Ca
2+電流密度に関してCalpCで処理された細胞と同様であった(
図7CおよびD)。該データは、PKCの阻害がβ細胞Ca
vチャネルのApoCIII誘導性の過剰活性化に影響を及ぼさないことを実証している。
【0069】
第3に、本発明者らは、RINm5F細胞におけるβ細胞Ca
vチャネルのApoCIII誘導性の過剰活性化に対するSrcキナーゼ阻害剤PP2の影響について評価した。本発明者らは、ビヒクル溶液とのインキュベーション後の細胞およびApoCIIIとともにインキュベートされた細胞において、それぞれ小さな全細胞Ca
2+電流および大きな全細胞Ca
2+電流を観察した(
図3E)。ApoCIIIおよびPP2に曝露された細胞は、全細胞Ca
2+電流に関し、ビヒクル対照細胞とApoCIIIで処理された細胞との間であった(
図3E)。ApoCIIIで処理された細胞(黒丸、n=40)において電圧範囲10〜50mVで定量された全細胞Ca
2+電流密度は、ビヒクル対照細胞(白丸、n=40)において測定されたものと比較して有意に増大していた(
図3F)。ApoCIIIおよびPP2の共処理に供された細胞(黒三角、n=40)は、電圧範囲20〜40mVにおいてビヒクル対照細胞(白丸、n=40)よりも有意に大きなCa
2+電流を示した。しかしながら、ApoCIII/PP2で共処理された細胞とビヒクル溶液とともにインキュベートされた細胞との間のCa
2+電流密度の差は、ApoCIIIで処理された細胞とビヒクル対照細胞との間の差ほど顕著ではない(
図3F)。さらに、ビヒクルで処理された細胞(白丸、n=20)およびPP2とともにインキュベートされた細胞(黒丸、n=19)は、同程度のCa
2+電流密度を示した(
図7EおよびF)。これらの結果は、Srcキナーゼの阻害がβ細胞Ca
vチャネルのApoCIII誘導性の過剰活性化を減少させる傾向を有することを示唆している。
【0070】
β細胞Ca
vチャネルのApoCIII誘導性の過剰活性化に対するPKA、PKCまたはSrcキナーゼ阻害剤の影響が微小および皆無であることから、本発明者らは上記すべてのキナーゼのより複合的な阻害が適用された場合に何が起こるかと考えた。この疑問を解決するために、本発明者らは、RINm5F細胞のβ細胞Ca
vチャネルのApoCIII誘導性の過剰活性化に対するプロテインキナーゼ阻害薬カクテルH‐89、CalpC、およびPP2の影響について特徴解析を行った。ApoCIIIで処理された細胞において大きな全細胞Ca
2+電流が見られた一方、ビヒクル対照細胞ならびにH‐89、CalpCおよびPP2の存在下でApoCIII処理された細胞においてはより小さな全細胞Ca
2+電流が生じた(
図4A)。ApoCIII処理群(黒丸、n=35)は、電圧範囲10〜50mVにおいて、ビヒクル対照群(白丸、n=35)ならびにH‐89、CalpCおよびPP2とともにApoCIII処理された群(黒三角、n=34)と比較して、Ca
2+電流密度が有意に増大した。H‐89、CalpCおよびPP2の存在下でApoCIIIに曝露された細胞におけるCa
2+電流密度のプロファイルは、ビヒクル対照細胞のプロファイルに類似していた(
図4B)。更に、プロテインキナーゼ阻害薬カクテルH‐89、CalpCおよびPP2を用いた対照細胞の処理は、基本条件下、すなわちApoCIIIの非存在下での全細胞Ca
2+電流に対しては有意な影響を及ぼさなかった(
図8AおよびB)。これらの結果は、PKA、PKCおよびSrcキナーゼの複合的阻害がβ細胞Ca
vチャネルのApoCIII誘導性の過剰活性化を有効に除去することを実証している。
【0071】
全細胞Ca
2+電流に対するPKAまたはSrcキナーゼの阻害剤単独での作用が微小であることから、PKAおよびSrcキナーゼの共阻害はβ細胞Ca
vチャネルのApoCIII誘導性の過剰活性化を防止するのに十分であるかという疑問が必然的に生じた。本発明者らは、H‐89およびPP2の共処理後のRINm5F細胞における全細胞Ca
2+電流を分析することにより、この疑問の答えを出した。本発明者らは、ApoCIIIで処理された細胞の全細胞Ca
2+電流が、対照細胞またはH‐89およびPP2の存在下でのApoCIII処理に供された細胞より大きいことを観察した(
図4C)。ApoCIII群(黒丸、n=26)において、対照群(白丸、n=26)またはH‐89およびPP2の存在下でApoCIIIとのインキュベーションに供された群(黒三角、n=27)と比較して有意に高い全細胞Ca
2+電流の密度が出現した(
図4D)。さらに、対照細胞の全細胞Ca
2+電流は、H‐89およびPP2で処理された細胞で観察されたものに類似していた(
図8CおよびD)。該データは、ApoCIIIがPKAおよびSrcキナーゼの共活性化を介して全細胞Ca
2+電流を増大させることを明らかにしている。
【0072】
アポリポタンパク質CIIIはβ細胞Ca
v1チャネルの発現に影響を及ぼさない
ApoCIIIとの終夜インキュベーションはβ細胞Ca
v1チャネルの発現に影響を及ぼす可能性がある。この可能性について試験するために、本発明者らは、ApoCIIIとのインキュベーション後のRINm5F細胞におけるβ細胞Ca
v1チャネルの発現を分析した。本発明者らは、抗Ca
v1.2抗体、抗Ca
v1.3抗体および抗GAPDH抗体によりそれぞれ明瞭なCa
v1.2、Ca
v1.3およびGAPDHの免疫反応バンドが検出されることを見出した。対照試料およびApoCIIIで処理された試料は、同様の強度のCa
v1.2、Ca
v1.3およびGAPDH免疫反応性を示した(
図5A)。
図5Bは、ApoCIIIとのインキュベーションに供されたRINm5F細胞ホモジェネートにおけるCa
v1.2サブユニット(斜線カラム、n=6)およびCa
v1.3サブユニット(黒カラム、n=6)の、ビヒクルとのインキュベーション(白カラム、n=6)と比較した相対存在量に、有意差がなかったことを示している(P>0.05)。該データは、ApoCIIIとのインキュベーションはβ細胞Ca
v1チャネルの発現をタンパク質レベルでは変化させなかったことを明らかにしている。
【0073】
アポリポタンパク質CIIIはβ1インテグリンを介してβ細胞Ca
vチャネルを上方制御する
β1インテグリンは、ApoCIIIと、PKAおよびSrcキナーゼを含むいくつかのプロテインキナーゼとの間の媒介物としての役割を果たすことが確認されている(グイ(Gui)ら、2006年;カワカミ(Kawakami)ら、2006年;リュックシュロス(Rueckschloss)およびアイゼンバーグ(Isenberg)、2004年;ウェイクス‐エドワーズ(Waitkus‐Edwards)ら、2002年;ウー(Wu)ら、2001年)。このことは、ApoCIIIがPKAおよびSrcキナーゼの共活性化を介してβ細胞Ca
vチャネルを過剰活性化したという本発明者らの結果と併せて、β1インテグリンがβ細胞Ca
vチャネルのApoCIII誘導性の過剰活性化を媒介する可能性を提示している。本発明者らは、RINm5F細胞の全細胞Ca
2+分析と組み合わせてRNA干渉を行うことにより、この可能性について調査した。2つのβ1インテグリンsiRNAを用いたトランスフェクションはβ1インテグリンの発現をタンパク質レベルで有意に減少させることが判明した(
図6AおよびB)。本発明者らはさらに、陰性対照のsiRNAトランスフェクションおよびApoCIIIへの曝露に供された細胞(NC siRNA/apoCIII)において検出された全細胞Ca
2+電流は、様々な処理が施された他の細胞より大きいことも示した(
図6C)。前記の処理には、モックトランスフェクションおよび対照ビヒクルとのインキュベーション(NO siRNA/対照)、陰性対照siRNAトランスフェクションおよび対照ビヒクルへの曝露(NC siRNA/対照)、β1インテグリンsiRNAトランスフェクションおよびビヒクル溶液を用いた処理(β1インテグリンsiRNA/対照)、ならびにβ1インテグリンsiRNAトランスフェクションおよびApoCIIIとのインキュベーション(β1インテグリンsiRNA/ApoCIII)が含まれた。NC siRNA/apoCIII後の細胞(黒三角、n=28)は、電圧範囲10〜40mVにおいて、NO siRNA/対照(n=29)、NC siRNA/対照(n=28)、β1インテグリンsiRNA/対照(n=29)、およびβ1インテグリンsiRNA/ApoCIII(n=29)と比較してCa
2+電流密度の有意な増大を示した(
図6D)。NC siRNA/apoCIIIとβ1インテグリンsiRNA/apoCIIIとの間のCa
2+電流密度の差は、NC siRNA/apoCIIIと他の処理との間の差より小さかった(
図6D)。総合すると、これらの結果は、ApoCIIIがβ細胞Ca
vチャネルを過剰活性化するためにβ1インテグリンに極めて依存していることを実証している。
【0074】
考察
Ca
vチャネルの全体的な導電率は、細胞の原形質膜中の機能的チャネルの密度および活性に依存する。1型糖尿病の血清およびその因子ApoCIIIによる全細胞Ca
2+電流の増大は、β細胞原形質膜の機能的Ca
vチャネルの密度上昇および導電率増大のうち少なくともいずれかに起因する可能性がある(ユンッティ‐ベルグレン(Juntti‐Berggren)ら、1993年;ユンッティ‐ベルグレン(Juntti‐Berggren)ら、2004年)。しかしながら、1件(ユンッティ‐ベルグレン(Juntti‐Berggren)ら、1993年)を除く全ての研究(ユンッティ‐ベルグレン(Juntti‐Berggren)ら、2004年;リスティチ(Ristic)ら、1998年;ヤン(Yang)およびベルグレン(Berggren)、2005年;ヤン(Yang)およびベルグレン(Berggren)、2006年)は、これまでのところ全細胞レベルについてしかCa
vチャネルに対する1型糖尿病の血清の作用を検討していない。ユンッティ‐ベルグレン(Juntti‐Berggren)らによる研究では、1型糖尿病の血清によるβ細胞Ca
vチャネル活性の増大が、単一チャネルおよび全細胞レベルの両方において特徴解析された(ユンッティ‐ベルグレン(Juntti‐Berggren)、1993年)。残念ながらこの研究では、1型糖尿病の血清がβ細胞原形質膜における機能的Ca
vチャネルの密度を変化させることができるかどうかは解析されなかった(ユンッティ‐ベルグレン(Juntti‐Berggren)、1993年)。本発明者らはかつて、ApoCIIIが1型糖尿病の血清因子としての役割を果たしてβ細胞Ca
vチャネルを過剰活性化することを明らかにしたが、全細胞パッチクランプ分析しか実施されなかった(ユンッティ‐ベルグレン(Juntti‐Berggren)、2004年)。疑いなく、ApoCIIIで処理された細胞における単一Ca
vチャネルの生物物理学的特性の詳細な検討が、このアポリポタンパク質によるβ細胞Ca
vチャネルの過剰活性化について機械論的に詳細な分析を行うために実行されるべきである。興味深いことに、本研究におけるセルアタッチモードの単一チャネル記録から、ApoCIIIとのインキュベーションは個々のβ細胞Ca
v1チャネルの活性を増大させるだけでなく、β細胞原形質膜の記録エリア内の機能的Ca
v1チャネルの数も増加させることが明らかである。単一Ca
v1チャネルの活性の増大は、平均開時間の延長および平均閉時間の短縮に起因する開確率の増大として観察される。機能的Ca
v1チャネルの数の増加は、より多くのレベルの単一Ca
v1チャネルのコンダクタンスが出現することによって確認される。
【0075】
インスリン分泌性のRINm5F細胞はCa
v1、Ca
v2およびCa
v3チャネルを備えている(ヤン(Yang)およびベルグレン(Berggren)、2005年;ヤン(Yang)およびベルグレン(Berggren)、2006年)。本発明者らは、ApoCIIIがCa
v1チャネルを選択的に過剰活性化するのか、またはこのインスリン分泌細胞内の上記3種のCa
vチャネル全てに無差別に影響を及ぼすのかについて調査した。β細胞Ca
vチャネルのApoCIII誘導性の過剰活性化は、Ca
v1チャネルの薬理学的除去の後には生じ得ないことが判明した。これは、β細胞の生理および病態生理において他の種類のCa
vチャネルを上回る重要な役割を果たしている主要なCa
vチャネル種であるCa
v1チャネルを、ApoCIIIが選択的に過剰活性化することを意味している。ApoCIIIによるβ細胞Ca
v1チャネルの選択的な過剰活性化は、Ca
2+依存性のβ細胞死におけるこのリポタンパク質の病態生理学的役割を説明するものである(ユンッティ‐ベルグレン(Juntti‐Berggren)、2004年;ヤン(Yang)およびベルグレン(Berggren)、2005年;ヤン(Yang)およびベルグレン(Berggren)、2006年)。
【0076】
PKAおよびPKCのような一連のプロテインキナーゼは、Ca
vチャネルを有効にリン酸化してこれらのチャネルのリン酸化誘発性の構造変化により開チャネル密度および活性の増大をもたらすことができる(カテラル(Catterall)、2000年;カヴァラリ(Kavalali)ら、1997年;ヤン(Yang)およびチェン(Tsien)、1993年)。ApoCIIIによる機能的Ca
vチャネルの数および開確率の増大はプロテインキナーゼによって媒介されるということも考えられる。ApoCIIIは単球細胞においてβ1インテグリンを通じてPKCを活性化することが実証されている(カワカミ(Kawakami)ら、2006年)。更に、β1インテグリンの活性化は、PKA、PKCおよびSrcキナーゼの刺激を通じてニューロン、心室筋細胞および血管平滑筋細胞のCa
v1チャネルを上方制御することもできる(グイ(Gui)ら、2006年;リュックシュロス(Rueckschloss)およびアイゼンバーグ(Isenberg)、2004年;ウェイクス‐エドワーズ(Waitkus‐Edwards)ら、2002年;ウー(Wu)ら、2001年)。これらの成分はすべてβ細胞中に存在しており(ボスコ(Bosco)ら、2000年;カンテンガ(Kantengwa)ら、1997年;ムカイ(Mukai)ら、2011年;ニコロバ(Nikolova)ら、2006年;ヤン(Yang)およびベルグレン(Berggren)、2006年)、ApoCIIIがβ1インテグリン‐PKA/PKC/Srcキナーゼカスケードを使用してβ細胞Ca
vチャネルを過剰活性化することを示唆しているかもしれない。実際に、本研究は、PKA、PKCおよびSrcキナーゼの複合的阻害がβ細胞Ca
vチャネルのApoCIII誘導性の過剰活性化を事実上無効化すること、ならびにPKAおよびSrcキナーゼの共阻害がこの作用をなすのに十分であることを示している。しかしながら、PKA、PKCまたはSrcキナーゼを個々に阻害しても、β細胞Ca
vチャネルのApoCIII誘導性の過剰活性化に対し、少しはあるにしても微小な作用しか生じなかった。従って、本発明者らは、ApoCIIIは並行するPKA経路およびSrc経路に依存してβ細胞Ca
vチャネルを上方制御すると結論する。
【0077】
β細胞Ca
vチャネルのApoCIII誘導性の過剰活性化が生じるには、終夜のインキュベーションを必要とする。故に、その作用はCa
vチャネルの発現の増大によって説明がつくとも考えられる。したがって、本発明者らは、ApoCIIIとの終夜インキュベーション後のRINm5F細胞におけるCa
v1.2サブユニットおよびCa
v1.3サブユニットの免疫反応性を定量した。しかしながら、このインキュベーションはβ細胞Ca
v1チャネルの発現に影響を及ぼさなかった。したがって本発明者らは、ApoCIIIがβ細胞Ca
v1チャネルの発現を高めるという可能性を除外した。
【0078】
膜貫通受容体β1インテグリンは、他のインテグリンと非共有結合により結合して一連のヘテロダイマーを形成する。該ヘテロダイマーは、多数の可溶性タンパク質および表面結合タンパク質を認識して細胞‐細胞間、細胞‐細胞外マトリックス間および細胞‐病原体間の相互作用を媒介する(ルオ(Luo)ら、2007年)。β1インテグリンは、ある種の細胞においてはApoCIIIの下流およびPKA/PKC/Srcキナーゼの上流に位置している(グイ(Gui)ら、2006年;カワカミ(Kawakami)ら、2006年;リュックシュロス(Rueckschloss)およびアイゼンバーグ(Isenberg)、2004年;ウェイクス‐エドワーズ(Waitkus‐Edwards)ら、2002年;ウー(Wu)ら、2001年)。このことから本発明者らは、ApoCIII‐β1インテグリン‐PKA/PKC/Srcキナーゼ経路が、β細胞内においてこのアポリポタンパク質がCa
v1チャネルを過剰活性化するメカニズムとして作用しているかどうかについて調べた。興味深いことに、β1インテグリンのノックダウンは、ApoCIIIの非存在下におけるβ細胞Ca
vチャネル活性には影響を及ぼさないが、β細胞Ca
vチャネルのApoCIII誘導性の過剰活性化を有意に無効化する。この結果は、β1インテグリンがβ細胞Ca
v1チャネル活性に対するApoCIIIの作用を媒介するにあたって重要な役割を果たすことを明白に確証している。
【0079】
結論として、本発明者らの研究結果は、ApoCIIIが、β1インテグリン依存的な方式で並列するPKA経路およびSrcキナーゼ経路を通じてβ細胞Ca
v1チャネルを選択的に過剰活性化することを実証している。β細胞Ca
v1チャネルのApoCIII誘導性の過剰活性化は、β細胞原形質膜中の機能的Ca
v1チャネルの密度増大および活性上昇を特徴とする。疑いなく、この新規なシグナル伝達経路は、糖尿病に関連するCa
2+依存的β細胞死の防止のための画期的新薬発見の基盤として役立つ潜在性を有している。
【0080】
実験手順
細胞の培養および処理
成体の雄および雌のマウスからランゲルハンス島を単離し、単一β細胞となるように分散させた。約70%コンフルエントのRINm5F細胞をトリプシン処理した。得られた細胞懸濁液をペトリ皿または12ウェルプレートに播種した。細胞は、10%ウシ胎児血清、2mMのL‐グルタミンおよび100U/100μg/mlのペニシリン/ストレプトマイシン(インビトロジェン(Invitrogen)、米国カリフォルニア州カールスバード)が補足されたRPMI1640培地中で培養し、加湿された5%CO
2インキュベータで37℃に維持した。該細胞を一晩増殖させ、次いでsiRNAトランスフェクションに供した。パッチクランプ分析については、細胞に、RPMI培地中それぞれ終濃度20μg/ml、0.5μM、0.1μM、0.1μMおよび5μMのApoCIII、PKA阻害剤H‐89(カルビオケム(Calbiochem)、米国カリフォルニア州ラ・ホーヤ)、PKC阻害剤カルホスチンC(カルビオケム)、Srcキナーゼ阻害剤PP2(カルビオケム)およびCa
v1チャネル遮断薬ニモジピン(カルビオケム)を用いた終夜処理を施した。ApoCIIIは0.1%のトリフルオロ酢酸(TFA)に溶解させて1mg/mlの保存溶液を作り、H‐89、カルホスチンC、PP2およびニモジピンはジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させてそれぞれ5mM、1mM、1mMおよび10mMの保存溶液を形成した。0.002%TFAおよび0.03%DMSOのうち少なくともいずれかをビヒクル対照として使用した。
【0081】
siRNAの設計およびトランスフェクション
ラットのβ1インテグリンを標的とする2対の21量体siRNA二重鎖(β1インテグリンsiRNA#1、ID127971およびβ1インテグリンsiRNA#2、ID127972)を設計し、アプライド・バイオシステムズ/アンビオン(Applied Biosystems/Ambion)(米国テキサス州オースティン)によって化学合成した。これらの配列を、その特異性を確認するためにBLAST探索に供した。いかなる遺伝子産物も標的としないSilencer(登録商標)Select陰性対照siRNA(4390843)、およびヒト、マウスおよびラットの細胞内のGAPDHを効率的にサイレンシングするSilencer(登録商標)Select GAPDH陽性対照siRNA(4390849)は、アプライド・バイオシステムズ/アンビオン(米国テキサス州オースティン)から購入した。RINm5F細胞を、Lipofectamine(商標)RNAiMAX(商標)を用いてリバーストランスフェクションした。簡潔に述べると、陰性対照siRNA、β1インテグリンsiRNA#1またはβ1インテグリンsiRNA#2をLipofectamine(商標)RNAiMAX(商標)と混合した後に室温で20分間インキュベートした。続いて、細胞を該siRNA/Lipofectamine(商標)RNAiMAX混合物に加えた後に穏やかに撹拌し、加湿された5%CO
2インキュベータ内で37℃に維持した。72時間後、トランスフェクションされた細胞を約70%コンフルエントまで増殖させ、イムノブロットアッセイまたは様々な処理に供した。
【0082】
SDS‐PAGEおよびイムノブロット解析
様々に処理された後のRINm5F細胞を、50mM HEPES、150mM NaCl、1mM EGTA、1mM EDTA、10%グリセロール、1%トリトンX‐100、1mM PMSFおよびプロテアーゼインヒビターカクテル(ロシュ・ダイアグノスティックス(Roche Diagnostics)、ドイツ連邦共和国マンハイム)で構成されている溶解バッファー(pH7.5)中に溶解した。溶解産物は細胞残屑と核を除去するために800×gで4℃にて10分間遠心分離処理された。得られた試料のタンパク質濃度は、バイオラッド(Bio‐Rad)のタンパク質測定試薬(バイオラッド(Bio‐Rad)、米国カリフォルニア州ハーキュリーズ)を用いて測定した。その後、該試料は、SDSサンプルバッファー中96℃で3分間加熱することにより変性させ、硫酸ドデシルナトリウム‐ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS‐PAGE)およびイムノブロット解析に供した。簡潔に述べると、50、90または180μgのタンパク質を、4%アクリルアミドの濃縮用ゲル(pH6.8)および8%アクリルアミドの分離用ゲル(pH8.8)で構成された不連続ゲル中で分離した。その後、分離されたタンパク質を疎水性のポリビニリデンジフルオリド膜(Hybond(商標)‐P;GEヘルスケア(GE Healthcare)、スウェーデン国ウプサラ)にエレクトロブロットした。該ブロットは、50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、150mM NaClおよび0.05%Tween(登録商標)20(pH7.5)を含有する洗浄用バッファー中で5%脱脂粉乳とともに1時間インキュベーションすることによってブロッキングした。その後、該ブロットを、アフィニティ精製されたウサギポリクローナル抗体であってそれぞれβ1インテグリン(1:500;ミリポア(Millipore)、米国マサチューセッツ州ビレリカ)、Ca
v1.2(1:200)およびCa
v1.3(1:200)に対する抗体とともに4℃で一晩インキュベートし、またそれぞれマウスモノクローナル抗体であってグリセルアルデヒド‐3‐リン酸デヒドロゲナーゼに対する抗体(GAPDH、1:4000;アプライド・バイオシステムズ/アンビオン、米国テキサス州オースティン)とともに室温で1時間、インキュベートした。洗浄用バッファーですすいだ後、該ブロットを、二次抗体(ワサビペルオキシダーゼ結合型ヤギ抗ウサギIgGまたはワサビペルオキシダーゼ結合型ヤギ抗マウスIgGのいずれか;1:50,000;バイオラッド(Bio‐Rad)、米国カリフォルニア州ハーキュリーズ)とともに室温で45分間インキュベートした。免疫反応バンドを、ECL plus(商標)ウェスタンブロッティング検出システム(GEヘルスケア、スウェーデン国ウプサラ)を用いて視覚化した。
【0083】
電気生理学的機能
様々に処理された後のマウス膵島細胞およびRINm5F細胞を、単一チャネルおよび全細胞のパッチクランプ測定に供した。セルアタッチモードおよびパーフォレイテッド全細胞モードのパッチクランプ構成を使用した。電極はホウケイ酸ガラスキャピラリーから作製され、口焼き(ファイヤーポリッシュ)され、先端付近にSylgard(登録商標)を用いたコーティングを施した。電極のうちいくつかは、単一チャネル測定のために、(mM単位で)110のBaCl
2、10のTEA‐Clおよび5のHEPES(Ba(OH)
2を用いてpH7.4)を含有する溶液で充填された。その他の電極は、全細胞電流の記録のために、(mM単位で)76のCs
2SO
4、1のMgCl
2、10のKCl、10のNaClおよび5 HEPES(CsOHを用いてpH7.35)、ならびにアムホテリシンB(0.24mg/ml)からなる溶液で充填された。電極抵抗は、電極溶液で充填され、かつ浴槽液に浸漬された時に4〜6MΩの範囲であった。電極のオフセット電位はギガシール形成に先立って浴槽液中で補正された。単一チャネル記録は、(mM単位で)125のKCl、30のKOH、10のEGTA、2のCaCl
2、1のMgCl
2および5のHEPES‐KOH(pH7.15)を含有する、脱分極用の外部記録液の中に浸された細胞を用いて実施した。この溶液は細胞内電位を0mVとするために使用した。パーフォレイテッド全細胞電流測定については、細胞を、(mM単位で)138のNaCl、5.6のKCl、1.2のMgCl
2、10のCaCl
2、5のHEPES(pH7.4)を含有する溶液中に浸漬した。単一チャネル電流および全細胞電流は、それぞれAxopatch(商標)200B増幅器(モレキュラー・ディバイシーズ(Molecular Devices)、米国カリフォルニア州フォスターシティ)およびEPC‐9パッチクランプ増幅器(HEKAエレクトロニーク(HEKA Elektronik)、ドイツ連邦共和国ランブレヒット/プファルツ)を用いて、室温(約22℃)で記録した。単一チャネルおよび全細胞の電流データの取得および分析は、それぞれソフトウェアプログラムpCLAMP(登録商標)10(アクソン・インスツルメンツ(Axon Instruments))およびソフトウェアプログラムPatchMaster/FitMaster(HEKA)を使用して行った。全細胞電流の大きさは細胞容量によって正規化された。
【0084】
統計解析
データはすべて平均±SEMとして示されている。統計的有意差は一元配置分散分析とその後の最小有意差(LSD)検定によって決定された。2群が比較された時、対応のないスチューデントt検定またはマン・ホイットニーU検定を使用した。有意水準は0.05または0.01に設定した。