(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242806
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】N−アルキル(メタ)アクリルアミドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 231/02 20060101AFI20171127BHJP
C07C 233/09 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
C07C231/02
C07C233/09 B
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-547803(P2014-547803)
(86)(22)【出願日】2012年11月20日
(65)【公表番号】特表2015-502375(P2015-502375A)
(43)【公表日】2015年1月22日
(86)【国際出願番号】EP2012073115
(87)【国際公開番号】WO2013092076
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2015年10月14日
(31)【優先権主張番号】102011089363.6
(32)【優先日】2011年12月21日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390009128
【氏名又は名称】エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ディアク ブレル
(72)【発明者】
【氏名】ベネディクト ラウクス
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン マウル
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ペーター
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ツィマー
【審査官】
安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/072480(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/021956(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/126086(WO,A1)
【文献】
特開2006−176455(JP,A)
【文献】
特開2007−230966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C231,C07C233
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
[式中、R
1は、H基又はCH
3基を表し、R
2は、水素又は1〜12個のC原子を有する線状、分枝状又は環状のアルキル基又はアリール基を表
し、R3は、1〜12個のC原子を有する線状、分枝状又は環状のアルキル基を表す]のN−アルキル(メタ)アクリルアミドの製造方法において、
装入された(メタ)アクリル酸無水物を、式(2)
R
2R
3NH (2)
[式中、R
2及びR
3は上記の意味を有する]のアルキルアミンの水溶液と反応させ、生じたアミドを分離し、前記反応を−5℃〜40℃で、0.5〜6barの圧力で行い
、反応容器の冷却温度は、反応溶液中でのN−アルキル(メタ)アクリルアミドの結晶化温度を上回
り、かつ装入物及びアルキルアミンの水溶液を反応の前に10〜−5℃に予め冷却することを特徴とする、N−アルキル(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【請求項2】
N−アルキル(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリル酸の生成された溶液を水で希釈し、引き続きアルカリ性溶液で中和し、沈殿したN−アルキル(メタ)アクリルアミドを分離することを特徴とする、請求項1に記載のN−アルキル(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【請求項3】
反応並びに中和及び沈殿を、それぞれ別個の容器中で行うことを特徴とする、請求項2に記載のN−アルキル(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【請求項4】
前記反応中で反応されるべきアルキルアミンを、50〜90%の水溶液の形で、前記(メタ)アクリル酸無水物に添加することを特徴とする、請求項1に記載のN−アルキル(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【請求項5】
前記反応を、不活性ガス下で作用する水溶性重合禁止剤の存在下で行うことを特徴とする、請求項1に記載のN−アルキル(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【請求項6】
中和後に、生じる結晶懸濁液をミルで粉砕した後、遠心分離器で分離することを特徴とする、請求項2に記載のN−アルキル(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【請求項7】
前記反応器に、外部型の熱交換器及び循環ポンプが装備されていることを特徴とする、請求項1に記載のN−アルキル(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル酸無水物を相応するアルキルアミンと反応させることによるN−アルキル(メタ)アクリルアミドの製造方法に関する。
【0002】
N−アルキル(メタ)アクリルアミドの製造は公知である。従来から、リッター反応(Ritter Reaktion)が、ニトリル及びカルベニウムイオンを形成できる基質、例えば第3級アルコール又は第2級アルコールから、強鉱酸の存在で、アミドの製造のために利用されている。DE 3131096はこの方法を利用している。この欠点は、溶剤として機能する酸を中和しなければならず、大量の塩が生じることである。更に、この生成物は有害な不純物、例えばメタクリルアミドを有する。
【0003】
DE 4027843は、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルを脂肪族及び芳香族アミンと反応させることによるN−置換(メタ)アクリル酸アミドの連続的製造方法を記載している。この反応は、触媒なしで行えるが、苛酷な条件下で>150℃及び約160barの圧力で行われる。
【0004】
EP 2358664で請求された、メタクリル酸無水物をイソプロピルアミンと反応させることによるN−イソプロピルメタクリルアミドの製造方法は、好ましい態様の場合に、不活性の有機溶剤の存在を必要とし、このことがリサイクルのための清浄化コストと結びついている。溶剤を用いない態様の場合には、大量の反応熱が発生し、この反応熱が生成物の変色を引き起こすことがある。
【0005】
WO 2010/021956は、同様に、相応する酸無水物とアルキルアミンとから出発するN−アルキル(アルキル)アクリルアミドの製造を開示している。ここでは、装入されたアミンに無水物を添加することを請求している。この製造方法は、同様に著しい反応熱と結びついていて、この反応熱が既に言及した変色を引き起こすことがある。更に、著しく有害なケーキングを生じることがないプロセスウィンドウは狭い。
【0006】
従って、本発明の課題は、上述の欠点を有することがなく、かつ特に生成物を高い収率及び高い純度で製造し、この生成物は温和な反応条件下で、好ましくは1〜10bar及び20〜100℃で、かつ障害のない手順で生じる、N−アルキル(メタ)アクリルアミドを製造する代替の方法を提供することである。
【0007】
上記課題並びに個々に詳細には述べられていないが、先行技術の行われた検討から容易に推論できるか又は導き出すことができる他の課題は、請求項1の特徴を有する方法により解決される。本発明による方法の好ましい態様は、請求項1を引用する複数の請求項において保護される。
【0008】
本発明は、一般式(1)
【化1】
[式中、R
1は、H基又はCH
3基を表し、R
2及びR
3は、水素又は、1〜12個のC原子を有する、線状、分枝状又は環状のアルキル基又はアリール基を表す]のN−アルキル(メタ)アクリルアミドの製造方法に関する。この反応は、装入された(メタ)アクリル酸無水物を、式(2)
R
2R
3NH (2)
[式中、R
2及びR
3は、上述の意味を有する]のアルキルアミンの水溶液と反応させ、かつ生じたアミドを分離することにより行う。(メタ)アクリル酸無水物の表示は、メタクリル酸無水物も、アクリル酸無水物も意味する。意外にも、この方法は、WO2010/021956とは反対に、どんな時でも、ケーキングの形又は反応壁への堆積の形で制御されない沈殿物を生じさせないことが見出された。
【0009】
第1級アミンとして、第1級の場合により置換された脂肪族アミン、例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、イソプロピルアミン、イソブチルアミン及びベンジルアミン並びにアリルアミン及びアンモニアが挙げられる。更に、第1級の脂環式アミン、例えばシクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロペンチルアミン及びシクロヘキシルアミンを使用することができる。第1級の芳香族アミンは、アニリン、異性体のアミノトルエン(単独又は混合した形)、及び異性体のキシリジン(単独又は混合した形)を使用することができる。これらの化合物は、場合により1個又はそれ以上のハロゲンにより置換されていてもよい。
【0010】
第2級アミンとして、同様に、場合により1個又はそれ以上のハロゲンによって置換されていてもよい、脂肪族、脂環式又は芳香族アミンを使用することができる。特に、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、ジブチルアミ
ンが好ましい。
【0011】
重合可能な化合物の製造が問題となるので、この反応は、重合禁止剤の存在で行わなければならない。この反応は空気酸素又は保護ガス下で行うことができる。前者の場合に、相応する爆発保護限界を保持しなければならず、かつ空気酸素下で作用する禁止剤を使用しなければならない。本発明による方法は、好ましくは保護ガス下で、特に好ましくは窒素下で進行するため、この場合には酸素の遮断下でも作用する重合禁止剤だけを使用することができる。このような重合禁止剤として、例えば4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、N,N′−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、トリアジン、フェナジン、フェノチアジン、メチレンブルー又は立体障害フェノールが、この分野では一般に公知である。これらの化合物は、個別に又は混合した形で使用することができ、かつ一般に市場で入手可能である。更なる詳細について、通常の専門文献、特にRoempp-Lexikon Chemie; J. Falbe, M. Regitz編; Stuttgart, New York; 第10版(1996);見出語「酸化防止剤」及びこの箇所で引用された文献箇所が指摘される。特に、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル又は4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール(単独又は混合した形)が好ましい。通常の濃度は、この場合、全反応混合物を基準として1〜2000ppm、好ましくは20〜200ppm、特に好ましくは40〜80ppmが使用される。
【0012】
本発明による方法の場合に、(メタ)アクリル酸無水物を、場合により外部型の熱交換器及び循環ポンプを備えた適切な撹拌反応器中に装入し、重合禁止剤を添加し、30℃以下に、好ましくは10〜−5℃に冷却する。この反応器は保護ガス、好ましくは窒素でパージされる。アミンの水溶液を、貯蔵容器中に準備し、同様に30℃未満に、好ましくは10〜−5℃に冷却する。水溶液中のアミンの濃度は、50〜90%、好ましくは60〜80%、特に好ましくは65〜75%であることができる。(メタ)アクリル酸無水物対アミンのモル比は、0.8:1.2〜1.2:0.8、好ましくは1:1である。(メタ)アクリル酸無水物へのアミン水溶液の計量供給は、発熱反応の最初の反応温度が25℃を越えて高まらないような、好ましくは15℃を越えて高まらないような速度で行う。さらなる計量供給は、転化率に対するこの反応器内部温度が40℃の最大値にまで上昇して、かつこの反応容器の冷却のために使用される冷却液の温度がどんな時も反応溶液中の生じるアミンの結晶化温度を下回ることがないように行われる。この反応器圧力は、この場合、0.5〜6bar、好ましくは0〜1barに維持される。
【0013】
中和のために、この反応溶液は、好ましくは撹拌機を備えた他の容器中に移される。この中和は、アルカリ性溶液を用いて、好ましくはNaOH溶液又はKOH溶液を用いて、特に好ましくはアンモニア溶液を用いて行われる。予め、この反応溶液を場合により水又は遠心分離母液で希釈することができる。中和を始める前に、反応溶液を20℃未満に、好ましくは15℃未満に冷却する。アルカリ性溶液の供給は、どんな時でも60℃を、好ましくは50℃を上回ることがないように行わなければならない。中和の後に、沈殿した生成物結晶を有するこのバッチを、10℃未満に、好ましくは5℃に、特に好ましくは−5℃に冷却する。
【0014】
中和されたバッチから固体を回収するために、当業者に信頼された固液分離法、例えば濾過又は遠心分離を用いることができる。本発明による方法では、場合により前工程の粉砕工程を伴う遠心分離が好ましい。結晶懸濁液を粉砕するために、例えば懸濁液ミル又は湿式ミル(例えばFryma社)を使用することができる。遠心分離は、10℃未満、好ましくは5℃未満、特に−5℃未満で行われる。N−アルキル(メタ)アクリルアミドの収率は、通常では、N−アルキル(メタ)アクリル酸無水物を基準として80〜85%である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】N−イソプロピルメタクリルアミド(NIPMAA)の製造の略図を示す。
【0016】
この実施例は本発明による方法を説明するが、これを制限するものではない。
【0017】
実施例1:
N−イソプロピルメタクリルアミド(NIPMAA)の製造を、
図1に従って行う。メタクリル酸無水物800kgを撹拌反応器(1)中に装入し、4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール135g及び4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル115gを添加した後に−5℃に冷却する。この反応器(1)を窒素でパージする。圧力保持を1.3barに設定する。70%のイソプロピルアミン溶液437kgを、ポンプ(2)を介して、冷却することができる貯蔵容器(4)中に圧送する。計量供給ポンプ(3)を介して、イソプロピルアミンを反応器(1)に、反応の間の反応温度が−5〜40℃の間にあるように計量供給する。この反応の間に、反応器内容物をポンプ(5)で熱交換器(6)を通して循環させる。この反応熱を、反応器(1)及び熱交換器(6)の塩水冷却器(7)を通して排出する。イソプロピルアミン量の添加が行われた後に、20〜40℃、好ましくは35〜40℃で15分の後反応を行う。この反応の後に生じる、メタクリル酸中のNIPMAAのスラリーは、粘度低下のためにVE−水(脱塩水)1100kgで希釈した。この希釈されたバッチを、ポンプ(5)で撹拌容器(8)中に移し、25%のアンモニア溶液355kgで撹拌しながら中和した。この中和の際に、大部分のNIPMAAが沈殿し、生成されたアンモニウムメタクリラートは溶液中に残留する。NIPMAA分離のために、この懸濁液を、結晶スラリー(Kristallmaische)の緩衝のために使用される緩衝貯蔵容器(9)を介して排出する。この緩衝貯蔵容器(9)は冷却されている(最大−5℃まで)。この緩衝された懸濁液を、ミル(10)を経由して遠心分離器(11)に導入する。VE水容器(14)を経由して、冷たいVE水(約5℃)を準備し、この冷たいVE水は、必要な純度を得る目的で、結晶の洗浄のために遠心分離器(11)中で使用する。NIPMAAの他に主にアンモニウムメタクリラートを有する水性の母液は、ポンプ(12)を用いて(8)又は(9)に圧送して戻される。この遠心分離の完了時に、この母液は完全に容器(13)に捕集される。NIPMAA貯蔵容器(15)中でのNIPMAAの収率は、メタクリル酸無水物を基準として84%である。
【0018】
このバッチを反応段階で著しく冷却しすぎる場合、反応器壁で及び熱交換器中で結晶及び沈着物が生じ、これによりこの反応を中断しなければならない。これとは反対に反応温度が記載された限界値を上回る場合には、品質低下を招く変色及び収率の損失が生じる。同様の問題は、相応するアミンを装入する場合及び(メタ)アクリル酸無水物を計量供給する場合に生じる。
【0019】
本発明による方法により製造されたN−アルキル(メタ)アクリルアミドは、公知のように、多様な適用において使用するためのポリマー及びコポリマーに変換することができる。
【符号の説明】
【0020】
番号 名称
1 撹拌反応器
2 ポンプ
3 計量供給ポンプ
4 貯蔵容器
5 ポンプ
6 熱交換器
7 塩水冷却器
8 撹拌容器
9 緩衝貯蔵容器
10 ミル
11 遠心分離器
12 ポンプ
13 容器
14 VE水容器
15 NIPMAA貯蔵容器