特許第6242815号(P6242815)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6242815電源ネットワークから自動車のバッテリを充電するための車載保安システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242815
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】電源ネットワークから自動車のバッテリを充電するための車載保安システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 27/18 20060101AFI20171127BHJP
【FI】
   G01R27/18
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-556121(P2014-556121)
(86)(22)【出願日】2013年1月18日
(65)【公表番号】特表2015-520837(P2015-520837A)
(43)【公表日】2015年7月23日
(86)【国際出願番号】FR2013050116
(87)【国際公開番号】WO2013117836
(87)【国際公開日】20130815
【審査請求日】2016年1月13日
(31)【優先権主張番号】1251168
(32)【優先日】2012年2月8日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】メリエンヌ, リュドヴィック
(72)【発明者】
【氏名】ケッフィ−シェリフ, アフマド
(72)【発明者】
【氏名】リポル, クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】コナテ, クリストフ
【審査官】 荒井 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−085248(JP,A)
【文献】 特表2015−531855(JP,A)
【文献】 特開昭59−200974(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0077055(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0298466(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源ネットワーク(2)から自動車のバッテリ(3)を充電するための保安システム(1)であって、
前記システム(1)は、前記自動車に搭載され、かつ
前記電源ネットワーク(2)の周期Tを測定するための手段(4)と、
前記電源ネットワーク(2)に電流パルスを注入するための注入手段(5)と、
接地と前記電源ネットワーク(2)の中性点との間の電圧を測定する手段(6)と、
測定された前記電圧を、高周波においてフィルタリングするためのアナログフィルタ(7)と、
アナログフィルタリングされた前記電圧を、低周波においてフィルタリングするためのデジタルフィルタ(8)と、
デジタルフィルタリングされた前記電圧と前記電流パルスの振幅とに基づいて、前記接地と前記電源ネットワーク(2)の中性点との間の抵抗を決定するための手段(9)とを備え、
前記デジタルフィルタ(8)は、電圧の測定回数をNとしたとき、時間間隔T+T/Nだけ離間したN個の電圧の測定値に基づいて平均値を決定する平均値フィルタを含み、
前記注入手段(5)は、前記電源ネットワーク(2)に前記電流パルスを時間間隔T+T/Nごとに注入する、
ことを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記アナログフィルタが、カットオフ周波数が800Hzと1.2kHzとの間にあり、減衰係数が0.6と0.8の間にある、二次アナログフィルタであることを特徴とする、請求項1に記載のシステム(1)。
【請求項3】
前記アナログフィルタが、カットオフ周波数が1kHzであり、減衰係数は0.7であり、二次アナログフィルタであることを特徴とする、請求項2に記載のシステム(1)。
【請求項4】
前記電流パルスが、少なくとも0.8msを超える持続時間と、18mAと22mAとの間にある最大振幅とを有することを特徴とする、請求項2又は3に記載のシステム(1)。
【請求項5】
前記電流パルスが、1msの持続時間と、20mAである最大振幅とを有することを特徴とする、請求項4に記載のシステム(1)。
【請求項6】
測定された接地抵抗が所定の閾値より低い場合にのみ前記電源ネットワーク(2)からの前記バッテリ(3)の充電を活動化できる保安コマンド手段(10)を備えることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム(1)。
【請求項7】
前記所定の閾値が、20オームと600オームとの間にある抵抗値に一致することを特徴とする、請求項6に記載のシステム(1)。
【請求項8】
前記所定の閾値が、200オームである抵抗値に一致することを特徴とする、請求項7に記載のシステム(1)。
【請求項9】
電源ネットワーク(2)から自動車のバッテリ(3)を充電するための保安方法であって、
前記電源ネットワーク(2)の周期Tが測定され、
前記電源ネットワーク(2)に電流パルスが注入され、
各パルスに応答して地と前記電源ネットワーク(2)の中性点との間の電圧の測定が行われ、
測定された前記電圧が、高周波においてアナログフィルタリングされ、
アナログフィルタリングされた前記電圧が、低周波においてデジタルフィルタリングされ、
デジタルフィルタリングされた前記電圧と前記電流パルスの振幅とに基づいて、前記接地と前記電源ネットワーク(2)の中性点との間の抵抗が決定され、
前記デジタルフィルタリングが、電圧の測定回数をNとしたとき、時間間隔T+T/Nだけ離間したN個の電圧の測定値に基づいて平均値を決定し、前記電源ネットワーク(2)に前記電流パルスを時間間隔T+T/Nごとに注入すること、を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記アナログフィルタリングが、カットオフ周波数が800Hzと1.2kHzとの間にあり、減衰係数が0.6と0.8との間にある、二次フィルタリングを含むことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アナログフィルタリングが、カットオフ周波数が1kHzであり、減衰係数が0.7である、二次フィルタリングを含むことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記電流パルスが、少なくとも0.8msを超える持続時間と、18mAと22mAとの間にある最大振幅とを有することを特徴とする、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記電流パルスが、1msの持続時間と、20mAである最大振幅とを有することを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のバッテリを充電するための車載デバイスの使用者の安全確保に関し、特に、自動車のバッテリを充電するためのデバイスに結合される電源ネットワークの接地の質の推定に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車のバッテリの充電中には、強力な電流が、電源ネットワークを通って自動車のバッテリに向かって流れる。自動車を適正に充電できるようにするため、これらの電流は、電源ネットワークの制約を満たすようにチョッピングされる。
【0003】
電流のチョッピングは、電源ネットワークの接地接続を通して逃がされなければならない漏れ電流の発生につながる。この接地接続は、自動車のシャシに接続され、したがって全ての不要な電流に対する経路を提供する。
【0004】
十分に安全な充電を確実にするために、接地接続の質を良好にすること、即ち接地経路の等価抵抗を、人間が自動車のシャシに触れたときに示す抵抗と比較して低くすることが必要である。この接地接続がないと、接触電流現象が発生し得る。人間が自動車のシャシに偶然触れた場合、充電器と接地との間の接続を確立するのが人体となり、したがって付加された制御デバイスが一切ない状態では、危険となる可能性のある全ての漏れ電流が流れるのは、その人間を通してということになる。
【0005】
質の悪い接地、即ち人間の抵抗と等しい抵抗の接地によっても、漏れ電流の一部が個人の身体を通して流れ得る。実際に、充電している自動車のシャシに個人が偶然触れたならば、この場合には、漏れ電流が同じ抵抗を有する2つの並列の経路を有することになり、したがって漏れ電流の半分がその個人を通して流れて接地に戻されることになる。
【0006】
接触電流が発生し得ないことを確実にするためには、自動車のバッテリを充電する前に、接地接続の抵抗値をある一定の閾値より低くすることを確実にしておくことが必要である。
【0007】
接地と電源ネットワークの中性点との間の抵抗を推定可能にするために、電流パルスを直接接地経路に注入し、ネットワーク中性点を介してループさせて戻し、中性点と接地との間の電圧を測定することができる。
【0008】
理想的な場合では、接地に注入される電流が測定されると共に、オームの法則に従って注入される電流の像である電圧が測定される。次に、測定された電圧を測定された電流で除すことによって抵抗の値を求める。
【0009】
残念ながら、中性点と接地との間の電圧が大幅に外乱を受けるために、正しい結果をこのように容易に求めることはできない。実際、既に上記したように、電気器具はある一定の量の漏れ電流を発生する。これらの電流は接地を通しても流れるので、その電流が中性点と接地との間の電圧の測定値に外乱を与える。
【0010】
例えば、駐車場に充電ポイントが設けられた住宅の場合、近隣の駐車場で動作する全てのバッテリ充電装置により大きく外乱を受ける環境において抵抗を推定する必要がある。これらの外乱電流に、中性点と接地との間の電圧に経時的な変動を引き起こす電源ネットワークに関連する不具合が加わり得る。
【0011】
これらの外乱の全てについてある一定のデータが知られている。低周波、特に1kHz未満の周波数においては、これらの外乱は、電源ネットワークの高調波、即ち50Hz、100Hz等において生成され、実効電圧について7V、電流について6.6mAの最大振幅を有する。これらの外乱レベルは、EDF標準によって定義される。より高い周波数においては、EDF標準では、外乱電流の振幅は1.5kHzにおける6.6mAと15kHzにおける66mAとの間で連続的に変化し、そこから最大150kHzまでは電流の振幅は66mAのままであると予測している。
【0012】
最後に、最終的な制約は、接地に何らかの電流を送り込むことは不可能であるという事実から生ずる。回路が接続されたネットワークをトリップさせないことは特に重要である。したがって、大きすぎる振幅及び/又は長すぎる継続時間のパルスを送り込むことは不可能である。
【0013】
したがって、目指すべき課題は、最大周波数10kHzで動作するプロセッサを自動車の車載システムに埋め込まなければならないという義務によって課される制約を遵守しながら、あらゆる誤りの原因にもかかわらず、接地抵抗の推定に成功することである。
【0014】
接地抵抗の推定を行う装置は市場に存在している。これらの装置は、その消費電力が自動車で利用可能な程度よりかなり高く、また各自動車に搭載することを考えるには高額過ぎる。
【0015】
しかし、これらの装置は、個人の安全確保を管理する目的のためには構成されていない。実際、それらの装置は、接地抵抗の値に関する情報を提供するべく構成されているに過ぎない。
【0016】
特許出願CN201 508 392には、中性点−接地電圧において1つの周波数を除去することを可能にする、接地抵抗の測定方法が記載されている。しかし、他の高調波によって生ずる外乱は除去されず、接地−中性点電圧の測定値に、その結果として接地抵抗の決定に更なる外乱を与える。
【0017】
特許出願EP1 482 317には、接地−中性点電圧の測定値の信号対雑音比を改善するように非常に大きい振幅の電流を注入する方法が記載されている。しかし、その方法は、接地における高い電流ピークに耐えられる適切な環境を必要とし、したがって、通常は33mA超の電流に対してトリップする国内のネットワークのトリップデバイスより10倍〜1000倍大きい漏れに耐えられるトリップデバイスを備えた工場においてしか適用できない。
【0018】
特許出願EP642 027には、接地と中性点との間の電圧の注入に依拠した方法が記載されている。しかし、そのような方法の実施には、自動車に組み込まれ、ネットワークに電圧を印加できるようにするにはあまりに大きすぎるサイズのシステムが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、電源ネットワークによる外乱をフィルタリングすることを可能にする、車上の接地抵抗の推定方法を用いる自動車の車載システムを用いて、これらの欠点を軽減することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一態様によれば、一実施形態による電源ネットワークから自動車のバッテリを充電するための保安システムが提示される。前記システムは、前記自動車に搭載され、かつ前記電源ネットワークの周波数を測定するための手段と、前記電源ネットワークに電流パルスを注入するための手段と、接地と前記電源ネットワークの中性点と間の電圧を測定する手段と、測定された前記電圧を、高周波においてフィルタリングするためのアナログフィルタと、前記アナログフィルタでフィルタリングされた前記電圧を、低周波においてフィルタリングするためのデジタルフィルタと、前記デジタルフィルタでフィルタリングされた前記電圧と前記電流パルスの振幅とに基づいて、前記接地と前記電源ネットワークの中性点と間の抵抗を決定するための手段とを備える。
【0021】
本発明の一般的特徴によれば、前記デジタルフィルタは、前記電源ネットワークの周波数を測定するための前記手段によって決定された前記電源ネットワークの周期をTとしたとき、時間間隔T+T/Nをおいて測定されたN個の電圧の測定値に基づいて平均値を決定する平均値フィルタを含む。
【0022】
したがって、50Hzの従来型の電源ネットワークでは、40回の測定についての平均値をとった場合、その平均値フィルタは、2つの測定の間の時間間隔20.5msで行われた40回の電圧測定に基づいて平均値を決定することになる。
【0023】
高周波は、2kHz超、特に5kHz超の周波数を含む。低周波は、5kHz未満、特に50Hz〜2kHzの間にある周波数を含む。
【0024】
60Hzの周波数の電源ネットワークでは、40回の電圧測定に基づく平均値をとった場合、測定は、最も近い0.1msの値に丸めると17.1msの時間間隔をおいて行われることになる(T=16.7ms)。
【0025】
好ましくは、前記アナログフィルタが、3kHzの周波数において−20dBの減衰が得られるように、カットオフ周波数は800Hzと1.2kHzの間にあり、好ましくは1kHzであり、減衰係数は0.6と0.8との間にあり、好ましくは0.7である、二次アナログフィルタである。
【0026】
そのような特徴を有するアナログフィルタを選択することにより、測定値をとるために電源ネットワークに注入される電流パルスの持続時間を可能な限り短くすることが可能となる。電流パルスの持続時間の短縮により、電流パルスの振幅を大きくし、したがって信号対雑音比を改善することが可能となる。
【0027】
有利にも、アナログフィルタの前記透過帯域を前提とすると、測定された電圧が注入されるパルスの電流の真の像となるため、即ちアナログフィルタの応答時間を考慮に入れたものとなるために、電流パルスは、少なくとも0.8ms超の、好ましくは1msの持続時間と、18mAと22mAとの間にあり、好ましくは20mAである最大振幅とを有する。
【0028】
前記車載保安システムは、測定された接地抵抗が活動化閾値より低い場合にのみ前記電源ネットワークからの前記バッテリの充電を活動化できる保安コマンド手段を有利に備えることができる。
【0029】
したがって、電源ネットワークの接地が、活動化閾値より高い抵抗、即ち人体の抵抗と少なくとも等しいと考えられる抵抗を有する場合には、電源ネットワークは自動車のバッテリに結合されず、充電は開始されない。これは、接触電流が発生するリスクを回避するために行われる。
【0030】
これを行うために、前記活動化閾値は、20オームと600オームとの間にあり、好ましくは200オームである抵抗値に有利に一致し得る。
【0031】
本発明の別の態様によれば、一実施形態による電源ネットワークから自動車のバッテリを充電するための保安方法であって、接地と前記電源ネットワークの中性点と間の抵抗を推定し、前記電源ネットワークの周波数が測定され、前記ネットワークに電流パルスが注入され、各パルスに応答して前記接地と前記電源ネットワークの中性点と間の電圧の測定が行われ、測定された前記電圧が、高周波においてアナログフィルタでフィルタリングされ、前記アナログフィルタでフィルタリングされた前記電圧が、低周波においてデジタルフィルタでフィルタリングされ、前記デジタルフィルタでフィルタリングされた前記電圧と前記電流パルスの振幅とに基づいて、前記接地と前記電源ネットワークの中性点と間の抵抗が決定されることを特徴とする方法が提示される。
【0032】
本発明の一般的特徴によれば、前記デジタルフィルタによるフィルタリングが、前記電源ネットワークの周波数の測定に基づいて決定された前記電源ネットワークの周期をTとしたときの、時間間隔T+T/Nをおいて測定されたN個の電圧の測定値に基づく平均値の決定を含む。
【0033】
好ましくは、前記アナログフィルタによるフィルタリングが、カットオフ周波数は800Hzと1.2kHzとの間にあり、好ましくは1kHzであり、減衰係数は0.6と0.8との間にあり、好ましくは0.7である、二次アナログフィルタによるフィルタリングである。
【0034】
好ましくは、前記電流パルスが、少なくとも0.8ms超、好ましくは1msの持続時間と、18mAと22mAとの間にあり、好ましくは20mAである最大振幅とを有する。
【0035】
好ましくは、前記電源ネットワークに注入される前記電流パルスの持続時間が、少なくとも前記電源ネットワークの周期に一致する。
【0036】
有利にも、接地と中性点との間の電圧のN=40の測定を行って、電源ネットワークの初めの39個の高調波を除去することが可能である。
【0037】
好ましくは、測定された接地抵抗が活動化閾値より低い場合にのみ前記電源ネットワークが前記バッテリに結合される。
【0038】
本発明の他の利点及び特徴は、非限定的な実施形態及び実施態様の詳細な説明を、添付の図面とともに検討することによって一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】一実施形態による自動車のバッテリを充電するための車載保安システムを模式的に示す図である。
図2】一実施態様による電源ネットワークの接地抵抗を推定するための方法の流れ図である。
図3図1のシステムの2つのフィルタの作用を示す、振幅と位相の2つのボード線図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1は、本発明の一実施形態による保安システム1を示す。保安システム1は自動車に搭載され、バッテリを充電するとき電源ネットワーク2と自動車のバッテリ3との間に結合されるためのものである。
【0041】
システム1は、電源ネットワーク2の周波数を測定するための手段4とともに、電源ネットワーク2に電流パルスを注入するための手段5を備える。周波数を測定するための手段4は、電源ネットワーク2の周波数値を、電流パルスを注入するための手段5に供給するように、電流パルスを注入するための手段5に結合される。電流パルスを注入するための手段5は、パルスの最小持続時間を、電源ネットワーク2から信号の周期Tに調節する。50Hzの電源ネットワーク2の場合、電流パルスの最小持続時間は1msとなる。
【0042】
システム1は、接地と電源ネットワーク2の中性点と間の電圧を測定する手段6も備えており、これは、接地に注入されて電源ネットワーク2の中性点を介してループされて戻る各電流パルスに応答して、電圧の測定を行う。
【0043】
自動車のプロセッサは、最大周波数10kHzで動作する。5kHz超の周波数による外乱を、デジタルフィルタを用いてフィルタリングすることが全く不可能であることは、シャノンの定理から既に知られている。電圧測定値における高周波の外乱を除去可能とするために、システム1は、電圧を測定する手段6の出力に結合されているアナログフィルタ7を備える。
【0044】
この実施形態で用いられるアナログフィルタ7は、3kHzの周波数において−20dBの減衰を得るために、1kHzのカットオフ周波数と、0.7の減衰係数とを有する二次アナログフィルタである。他の任意のアナログフィルタ以外のそのような特徴を備えたフィルタを用いることも好ましい。それによって、注入される電流パルスの持続時間を可能な限り短縮することが可能となり、したがって注入される電流パルスの振幅を大きくすることが可能となるからである。
【0045】
システム1は、アナログフィルタ7の出力に結合されたデジタルフィルタ8を備える。デジタルフィルタ8によって、50Hzと2kHzとの間の電源ネットワーク2の高調波による外乱を除去することができる。2kHz超では、アナログフィルタが外乱を既に十分に減衰させている。
【0046】
アナログフィルタの前記透過帯域を前提とすると、測定された電圧が注入されるパルスの電流の真の像となるようにするために、注入される電流パルスの最小持続時間を、少なくとも、高周波におけるフィルタリングを効率的にするアナログフィルタの応答時間に一致するものとするのが好ましい。この目的のため、注入されるパルスの持続時間は、少なくとも、電源ネットワーク2の信号の周期に一致したものでなければならない。したがって、50Hzの周波数の電源ネットワーク3の場合、注入される電流パルスの最小持続時間は1msでなければならない。
【0047】
電流パルスの持続時間が長くなると、システムトリップの発生を回避するために電流パルスの振幅を小さくすることが必要になる。しかし、可能な最大の振幅のパルスを発信することは重要である。そのようなパルスはより高い電圧を発生し、したがって応答において雑音の中でより見えやすくなるからである。
【0048】
50Hzの電源ネットワーク2の場合の、1msのパルスでは、電流パルスの振幅は、システムのトリップのリスクなしで最大20mAに達し得る。50オームの抵抗を通る20mAのパルスは、50Vの雑音(電源ネットワークの高調波の雑音の合計)に埋めこまれる1Vの電圧を発生する。したがって、デジタル的に、電源ネットワーク2の高調波を可能な限り除去することが必要である。
【0049】
これを行うために、デジタルフィルタ8は、目的の周波数を大幅に減衰させる利点を有する平均値フィルタを含む。例えば、10ms離れた2つの点を格納し、その平均値をとることで、50Hzを完全に除去することが可能となる。
【0050】
デジタルフィルタは、電源ネットワーク2の電気的周期Tに関する情報を受け取るために、電源ネットワーク2の周波数を測定するための手段4に結合される。
【0051】
20msの電気的周期に等しく分散した40の電圧測定点を記録することによって、ネットワークの最大39番目の高調波まで、即ち50Hzで動作する電源ネットワーク2上の最大周波数1950Hzまでを除去することが可能となる。
【0052】
しかし、各々500μsの間隔をおいた1msのパルスを生成することは、20mAの振幅のパルスでは不可能である。それに関係なくこの平均値を検出できるようにするため、システムは、電気的周期Tにおいて行われる測定の数をNとしたときのd=T/Nに等しい測定シフトdに加えて、電源ネットワーク2の信号から電気的周期Tだけ各々の新しい測定をシフトさせることによって測定を行う。
【0053】
したがって、50Hzの電源ネットワークで40回の測定に基づいて求められる平均値の場合には、第1の測定はt=0においてなされ、第2の測定はt=20.5msにおいてなされるが、この時間間隔は、測定シフトd=20/40=0.5msの電気的周期T=1/50=20msの追加に一致する。この第2の測定は、雑音信号が周期T=20msで周期的であるため、第1の測定からわずか500μs後に実施される測定と同一となる。
【0054】
したがって、20.5ms間隔のパルスの末端において電圧測定値を40個取得し、これらの40回の測定において測定された電圧の平均値をとることによって、デジタルフィルタ8は、ネットワークの高調波での外乱を除去し、電源ネットワーク2に注入された電流パルスによる連続的な成分を抽出することを可能にする。
【0055】
したがって、デジタルフィルタでフィルタリングされた平均電圧は、接地と電源ネットワーク2の中性点と間の抵抗を決定するための手段9に供給される。接地抵抗の値は、前記平均電圧を、電源ネットワーク2に注入される電流パルスの振幅によって除すことによって決定される。
【0056】
システム1は保安コマンド手段10を備え、保安コマンド手段10は、その入力部が決定手段9に、その出力部が自動車のバッテリ3に結合される。決定された接地抵抗の値が500オームの閾値より低い場合には、自動車のバッテリ3との結合がなされ、充電が開始可能となる。そうでない場合には、バッテリ3は電源ネットワーク2に電気的に結合されず、充電は行われない。
【0057】
図2は、一実施態様による、自動車のバッテリを充電するために用いられる接地と電源ネットワークの中性点との間の抵抗を推定するための方法の流れ図を示す。
【0058】
第1ステップ210では、自動車のバッテリ3を再充電するために自動車に結合された電源ネットワーク2の周波数が測定される。
【0059】
続くステップ220では、電流パルスが電源ネットワーク2に注入される。パルスの持続時間は選択されたアナログフィルタ7によって決まり、アナログフィルタ自体も電源ネットワーク2の周期によって決められる。
【0060】
次にステップ230において、注入された各電源パルスの末端において、接地と電源ネットワーク2の中性点との間の電圧の測定が行われる。
【0061】
次のステップ240では、測定された電圧の各々が、高周波においてアナログフィルタでフィルタリングされる。
【0062】
次にステップ250において、測定値が取得され、次いでステップ260において実施された測定の回数が調べられる。40回の電圧測定が実施されていない場合には、ステップ220において次の電気的周期Tにおける新たな電流パルス注入から測定が再度開始されるが、このときステップ270で測定の時点がシフト時間d=T/Nだけシフトされる。即ち50Hzの電源ネットワーク2の場合にはd=0.5msとなる。
【0063】
40回目の測定が行われたならば、続くステップ280において、低周波におけるデジタルフィルタによるフィルタリングが行われるとともに、40個の測定電圧の平均値がとられ、最後にステップ290において、接地と中性点との間の抵抗が、平均電圧を電流パルスの振幅で除すことによって決定される。
【0064】
図3は、50Hzの電源ネットワーク2の周波数に対して、破線がアナログフィルタの作用の振幅と位相を示し、実線がデジタルフィルタの作用の振幅と位相を示す2つのボード線図を示す。
【0065】
保安システム1は、自動車の制約に適合されており、その保安システムが埋めこまれた自動車の車載バッテリの充電を開始する前に、家庭用ネットワークの接地の質を確認することができる。
図1
図2
図3