【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る風車翼の損傷検知方法は、
少なくとも1枚の風車翼を備える風車ロータにおける前記風車翼の損傷検知方法であって、
前記風車翼の各々に取り付けられ、且つ、長手方向において屈折率が周期的に変化する回折格子部を有する光ファイバセンサに光を入射する光入射ステップと、
前記回折格子部からの反射光を検出する光検出ステップと、
前記光検出ステップで検出した前記反射光の波長の経時変化から前記波長の変動量を示す波長変動指標を取得する取得ステップと、
前記取得ステップで算出された前記波長変動指標に基づいて、風車翼の損傷の有無を検知する検知ステップと、を備える。
【0007】
回折格子部を有する光ファイバセンサでは、回折格子部からの反射光の波長は、回折格子部における歪と温度の両方の影響を受ける。すなわち、光ファイバセンサへ入射された光の初期波長と、回折格子部からの反射光の波長との差は、回折格子部に生じる歪に依存するとともに、光ファイバの温度に依存する。ここで、初期波長とは、回折格子部に荷重が働いておらず、歪みが発生していない状態での光の波長を意味する。回折格子部に生じる歪(即ち風車翼に生じる歪)ε
zは、次の式(A)で表される。
ただし、式(A)において、pは波長−歪換算係数、λ
oは反射波の波長、λ
iは初期波長、αは温度係数、ΔTは光ファイバ温度と基準温度の差分(温度変化)をそれぞれ表す。すなわち、歪ε
zは、検出された波長λ
oの項を、温度ΔTの項で補正することで算出される。
上記式(A)より、異なる2つの時点t
1及びt
2のそれぞれにおける歪ε
z1及びε
z2の変化量ε
z1−ε
z2は、下記式(B)のようになる。
ただし、初期波長λ
iは固定値であり、温度変化ΔTはt
1とt
2との間の期間において実質的に不変であれば上記式(B)の右辺第2項はゼロである。例えば風車ロータの回転周期(通常はおよそ4〜7秒)のような短い期間においては、光ファイバ温度は変化しない(ΔT
1≒ΔT
2)と考えてよい。よって、この場合には下記式(C)が成立する。
式(C)により示されるように、歪の変化量は反射波の変動量(λ
o1−λ
o2)に依存し、光ファイバ温度又は温度変化には依存しない。例えば、季節の違い等により光ファイバセンサの周囲の外気温に差がある場合、光ファイバセンサにより計測される歪の大きさε
z自体は温度の変化の影響を受け得る。例えば、外気温の差のため光ファイバ温度に差がある場合において、実際には歪量が同一であっても、温度係数αの精度や光ファイバセンサの個体差に起因して、上記式(A)によるε
zの計算結果に差が出る可能性がある。一方、光ファイバセンサの周囲の外気温に差があったとしても、歪の変化量ε
z1−ε
z2は、式(C)からわかるように温度の影響を受けない。
上記(1)の方法では、波長の変動量を示す波長変動指標に基づいて風車翼の損傷の有無を検知するので、光ファイバセンサでの反射波の波長の計測値(即ち歪の計測値)に対する温度による影響を実質的に排除することができる。このため、温度が変化する環境下においても精度良好な損傷検知が可能である。
【0008】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、前記取得ステップでは、前記経時変化における前記波長の極大値と前記波長の極小値との差を前記波長変動指標として算出する。
光ファイバセンサでの反射光の波長の経時変化における極大値と極小値との差は、反射光の波長が該極大値となった時刻と該極小値となった時刻との間の期間における反射光の波長の変動の大きさを示す。よって、上記(2)の方法によれば、反射光の波長の極大値と極小値との差を波長変動指標として、風車翼の損傷を検知することができる。
【0009】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)の方法において、前記取得ステップでは、前記風車ロータの回転周期に対応して繰り返して交互に現れる前記極大値と前記極小値との差を前記波長変動指標として算出する。
風車ロータの回転に伴って風車翼のアジマス角が変化すると、風車翼の高度も変化する。また、一般的に、高度が高いほうが風速は大きい。このため、風車の運転中、風車ロータの回転に伴い、風速に応じて風車翼に作用する風荷重が周期的に変化するため、風車翼の歪も周期的に変化するとともに、風車翼の歪を示す光ファイバセンサでの反射光の波長も同様に周期的に変化する。上記(3)の方法によれば、風車ロータの回転周期に対応して繰り返して交互に現れる極大値と極小値に基づいて、風車翼の損傷を検知に用いる波長変動指標をより的確に算出することができる。
【0010】
(4)幾つかの実施形態では、上記(2)又は(3)の方法において、前記取得ステップでは、前記風車ロータの回転周期をTとしたとき、前記極大値または前記極小値である第1極値が現れた時点から期間t(但し、0.1T≦t≦0.5T)が終了するまでは、前記第1極値の次の第2極値の認定を行わない。
風により風車翼に作用する荷重は、典型的には、風車翼が最上部に位置するときに最も大きく、風車翼が最下部に位置するときに最も小さい。このため、風車ロータの回転周期をTとしたとき、風車ロータの回転に伴う反射波の波長の極大値および極小値は、およそT/2毎に現れる。しかしながら、この風車ロータの回転に伴う極大値又は極小値以外にも、例えば風速の経時的な変動等により局所的な極大値又は極小値が現れることがある。光ファイバセンサの反射光の波長の経時変化から風車ロータの回転にともなう極大値及び極小値を的確にとらえるためには、このような局所的な極値を排除できることが望ましい。
上記(4)の方法によれば、風車ロータの回転に伴う極大値及び極小値が1回ずつ現れるT/2の期間において、第1極値(極大値又は極小値)が現れた時点から所定の期間tが終了するまでは、第1極値の次の第2極値(極小値又は極大値)の認定を行わないようにしたので、期間tにおいて発生する局所的な極大値又は極小値を排除して波長変動指標をより的確に算出することができる。
【0011】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、前記取得ステップでは、規定長さの期間における前記波長の標準偏差を前記波長変動指標として算出する。
光ファイバセンサでの反射光の波長の規定長さの期間における標準偏差は、該期間における反射光の波長のばらつきの大きさ、すなわち変動の大きさを示す。よって、上記(5)の方法によれば、該期間における光ファイバセンサでの反射光の波長の標準偏差を波長変動指標として、風車翼の損傷を検知することができる。
【0012】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(5)の何れかの方法において、前記検知ステップでは、前記波長変動指標の大きさ又は変化率が規定範囲を逸脱したとき、前記風車翼の損傷を検知する。
波長の変動量を示す波長変動指標の大きさや変化率は、歪の大きさやその変化率に応じて変化する。また、歪の大きさはやその変化率は、風車翼に発生した損傷の進行の程度により変化する。よって、上記(6)の方法のように、波長変動指標の大きさ又は変化率の規定範囲を予め設定しておくことで、風車翼の損傷を検知することができる。
【0013】
(7)幾つかの実施形態では、上記(2)〜(6)の何れかの方法において、前記風車ロータの回転周期以上の長さの期間における、前記取得ステップで算出した前記波長変動指標の平均値を算出する時間平均算出ステップをさらに備え、
前記検知ステップでは、前記時間平均算出ステップで算出された前記平均値に基づいて、前記風車翼の損傷を検知する。
上記(7)の方法では、風車ロータの回転周期以上所定の期間における波長変動指標の平均値を用いる。このため、該期間よりも短い期間において、例えば突風などに起因して突発的に歪が増大する等して波長変動指標が急激に増大しても、平均化した波長変動指標を用いるため、より的確に風車翼の損傷を検知することができる。
【0014】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)の方法において、
前記取得ステップで算出された前記波長変動指標が有効データであるか無効データであるかを判定するデータ有効性判定ステップをさらに備え、
前記時間平均算出ステップでは、前記データ有効性判定ステップで有効データであると判定された前記波長変動指標のみを用いて前記平均値を算出する。
上記(8)の方法では、波長変動指標として適した有効データであると判定された波長変動指標のみを用いて平均値を算出するので、より的確に風車翼の損傷を検知することができる。
【0015】
(9)幾つかの実施形態では、上記(8)の方法において、前記データ有効性判定ステップでは、前記波長の値が前記光ファイバセンサの異常を示すものであるとき、又は、前記取得ステップで算出された前記波長変動指標が、前記波長の極大値と、該極大値よりも大きい前記極小値との差から得られたものであるときに、前記波長変動指標は無効データであると判定する。
ここで、波長変動指標の算定に用いられる波長の極大値は、波長変動指標の算定に用いられる波長の極小値よりも大きいのが通常である。ところが、風車翼のピッチ制御や急激な風速変化の影響により、前記極小値が前記極大値よりも大きくなってしまうケースが起こり得る。
上記(9)の方法では、波長変動指標の算出対象である波長の値が前記光ファイバセンサの異常を示すものであるとき、又は、前記極小値が前記極大値よりも大きくなってしまうケース(すなわち、波長変動指標の算出が正常に行われなかったとき)では、これらの波長変動指標を無効データであると判定する。よって、正常に算出された有効データである波長変動指標のみを用いて平均値を算出するので、より的確に風車翼の損傷を検知することができる。
【0016】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(9)の何れかの方法において、前記検知ステップにおいて、前記波長のうち、風速が風速規定範囲内であるときに取得した波長のみを用いて前記風車翼の損傷を検出する。
風車翼に加わる荷重は風速に依存するから、光検出ステップで検出される反射光の波長及び取得ステップで取得される波長変動指標は、反射光の波長を検出するときの風速に応じて値がばらつく。上記(10)の方法では、風速が風速規定範囲内であるときに検出した反射光の波長及び該波長に基づく波長変動指標のみを用いて風車翼の損傷を検出するので、風速に対する反射光の波長及び波長変動指標のばらつきの影響を低減することができ、風車翼の損傷検知をより的確に行うことができる。
【0017】
(11)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(10)の何れかの方法において、
前記風車ロータは複数の風車翼を備え、
前記複数の風車翼のうち1枚の検出対象風車翼の前記波長変動指標と、他の風車翼のうち1枚以上の比較対象風車翼の前記波長変動指標を反映した基準値との差分を算出する差分算出ステップをさらに備え、
前記検知ステップでは、前記差分算出ステップで算出される前記差分の経時変化に基づいて、前記検出対象風車翼の損傷を検知する。
上記(11)の方法によれば、複数の風車翼のうち1枚の検出対象風車翼の波長変動指標と、他の風車翼のうち1枚以上の比較対象風車翼の波長変動指標を反映した基準値との差分を風車翼の損傷の検知に用いるので、風速の変化等の運転状態による損傷検知に対する影響を排除することができる。このため、風車翼の損傷による異常をより的確に検知することが可能となる。
【0018】
(12)幾つかの実施形態では、上記(12)の方法において、
前記風車ロータは3枚以上の風車翼を備え、
前記風車翼の各々を前記検出対象風車翼として前記差分算出ステップを繰り返すことで、前記風車翼の各々について前記差分を算出し、
前記検知ステップでは、前記風車翼の各々についての前記差分に基づいて、損傷がある風車翼を特定する。
複数の風車翼のうち何れかの風車翼に損傷が生じると、その風車翼が検出対象風車翼であるか否かによって、前記差分の大きさ又は変化率が影響を受ける。したがって、上記(12)の方法のように、各風車翼を検出対象風車翼として繰り返し算出した各風車翼についての前記差分の大きさ又は前記差分の変化率から、損傷がある風車翼を特定することができる。
【0019】
(13)本発明の少なくとも一実施形態に係る風車は、
少なくとも1枚の風車翼を備える風車ロータと、
前記風車翼の各々に取り付けられ、且つ、長手方向において屈折率が周期的に変化する回折格子部を有する光ファイバセンサと、
前記光ファイバセンサに光を入射するための光入射部と、
前記回折格子部からの反射光を検出するための光検出部と、
前記風車翼の損傷を検知するための損傷検知部と、を備え、
前記損傷検知部は、前記光検出部で検出された前記反射光の波長の経時変化から前記波長の変動量を示す波長変動指標を取得し、前記波長変動指標に基づいて、風車翼の損傷の有無を検知するように構成される。
【0020】
回折格子部を有する光ファイバセンサでは、回折格子部からの反射光の波長は、回折格子部における歪と温度の両方の影響を受ける。すなわち、光ファイバセンサへ入射された光の初期波長と、回折格子部からの反射光の波長との差は、回折格子部に生じる歪に依存するとともに、光ファイバの温度に依存する。回折格子部に生じる歪(即ち風車翼に生じる歪)ε
zは、上記式(A)で表される。
また、上記式(A)より、異なる2つの時点t
1及びt
2のそれぞれにおける歪ε
z1及びε
z2の変化量ε
z1−ε
z2は、上記式(B)のようになる。温度変化ΔTはt
1とt
2との間の期間において実質的に不変であれば上記式(B)の右辺第2項はゼロである。よって、この場合には上記式(C)が成立する。
式(C)により示されるように、歪の変化量は反射波の変動量(λ
o1−λ
o2)に依存し、光ファイバ温度又は温度変化には依存しない。
上記(13)の構成では、波長の変動量を示す波長変動指標に基づいて風車翼の損傷の有無を検知するので、光ファイバセンサでの反射波の波長の計測値(即ち歪の計測値)に対する温度による影響を実質的に排除することができる。このため、温度が変化する環境下においても精度良好な損傷検知が可能である。
【0021】
(14)幾つかの実施形態では、上記(13)の構成において、前記損傷検知部は、前記経時変化における前記波長の極大値と前記波長の極小値との差を前記波長変動指標として算出するように構成される。
光ファイバセンサでの反射光の波長の経時変化における極大値と極小値との差は、反射光の波長が該極大値となった時刻と該極小値となった時刻との間の期間における反射光の波長の変動の大きさを示す。よって、上記(14)の構成によれば、反射光の波長の極大値と極小値との差を波長変動指標として、風車翼の損傷を検知することができる。
【0022】
(15)幾つかの実施形態では、上記(13)の構成において、前記損傷検知部は、規定長さの期間における前記波長の標準偏差を前記波長変動指標として算出するように構成される。
光ファイバセンサでの反射光の波長の規定長さの期間における標準偏差は、該期間における反射光の波長のばらつきの大きさ、すなわち変動の大きさを示す。よって、上記(15)の構成によれば、該期間における光ファイバセンサでの反射光の波長の標準偏差を波長変動指標として、風車翼の損傷を検知することができる。