【実施例1】
【0016】
図1は、搬送経路計画システム1のハードウェア構成図の例を示す。搬送経路計画システム1は、記憶装置2、入力装置3、出力装置4、演算装置5を有する。演算装置5はデータ読み込み部6、空間ネットワーク生成部7、経路探索部8、結果出力部9を有する。データ読み込み部6は除去可能な障害物の読み込み部20を有し、空間ネットワーク生成部7は、作業可能空間識別部21と、準備作業特性値算出部22を有し、経路探索部8は、変数初期化部30、始点ノードでの被曝線量算出部31、探索ノード算出部32、準備作業による被曝線量算出部33、搬送作業による被曝線量算出部34、累積作業被曝線量算出部35、終点ノード検出部36、経路再構成部37を有する。
【0017】
図2は、演算装置5が行う演算処理のフローの例を示す。データ読み込み部6による読み込み処理S90、空間ネットワーク生成部7によるネットワーク生成処理S91、経路探索部8による経路探索処理S92、結果出力部9による結果出力処理S93の順に演算処理を実行する。なお、本発明を実施するシステムの構成は本例に限定する必要はなく、例えば、演算装置が行う各処理の実行プログラムを記憶装置2に記憶しておき、演算装置5は当該プログラムを読み込み、演算処理を実施することもできる。また、処理プログラムをハードウェア上に実装することにより実行することも可能である。また、例えば記憶装置2に加えて、光学記録媒体や磁気記録媒体などの外部記憶媒体やネットワークで接続されたデータベースを含む構成であれば、処理プログラムや入力データをこれらの外部記憶媒体やデータベースに記憶しておき、これを読み込むことにより演算処理を行うこともできる。
【0018】
次に、データ読み込み部6が読み込むデータの例を説明する。これらのデータは入力装置3を介して入力してもよいし、記憶装置2に予め保存しておいてもよいし、その組み合わせでもよい。
【0019】
図3は、プラント内部の構造物などの障害物データ40の例を示す。本例では障害物ID40aごとに、各障害物の形状を、三角形の面の集合で表すSTL(Stereo Lithography)形式で定義したデータの例を示す。各面ID40bは(x1、y1、z1)40c、(x2、y2、z2)40d、(x3、y3、z3)40eの三頂点で定義される三角形の平面とその法線ベクトル(nx、ny、nz)40fで表現される。ただし、本実施例における障害物の形状を表すデータ形式は本例に限るものではない。例えば、各障害物の形状を、障害物を構成する部品を外包する直方体の集合で表すことも可能である。障害物データ40は、除去可能な障害物と、除去不可能な障害物の両方を含み、除去可能な障害物については、除去できるまとまりで障害物IDが定義されているものとする。
【0020】
図4は、プラント内部の空間放射線量率のデータ41の例を示す。プラント内の空間座標(x、y、z)41aにおける空間線量率41bが定義されているものとする。
【0021】
図5は、構造物の除去工数データ42の例を示す。除去可能な障害物ごとに、除去する作業、すなわち準備作業特性値として準備作業に必要な作業時間42cと人数42bが定義されているものとする。本データの障害物ID42aは障害物データ40の、障害物ID40aと対応するものとする。
【0022】
図6は、ボクセルサイズデータ43の例を示す。ボクセルサイズデータ43は、空間ネットワーク生成部7で生成するネットワークデータを構成するノードに対応するボクセルのサイズを指定するものである。
【0023】
図7は、搬送物データ44の例を示す。搬送物ID44aごとに放射線量率Do44b、質量44g、搬送物の寸法を示す幅W:44d、奥行きL:44e、高さH:44fを指定するものである。
【0024】
図8は、搬送手段の特性値データ45の例を示す。本例では、搬送手段45aとして台車小45c、台車大45d、クレーン45bの3種としており、使用優先順位45eとして、クレーン45bを1位、台車小45cを2位、台車大45dを3位とする。また、移動方向45fとして、水平方向の移動に台車45c又は45d、鉛直方向の移動にクレーン45bを用いる例を示す。搬送経路の方向を移動方向45fと、搬送可能な質量すなわち可搬質量45gと、搬送物の寸法44cである幅44d、奥行き44e、高さ44fの最大値を可搬寸法45hとそれぞれ比較する。このとき、各搬送手段45b、45c、45dの使用優先順位45eの順比較し、移動方向45f、可搬質量45g、可搬寸法45hの条件を満たす搬送手段を選択する。
【0025】
搬送手段の変更には、前段取り、後段取りが発生する。例えば、台車45c又は45dであれば前段取り作業として荷積み作業、後段取り作業として荷下ろし作業があり、クレーン45bであれば、前段取り作業として玉かけ作業と吊り上げ作業、後段取り作業として吊り下し作業と吊り具撤去作業がある。各搬送手段45b、45c、45dには、それぞれ直進移動速度45i、直進移動における搬送物からの被曝係数k:45j、方向転換時間45k、前段取り作業時間45l、後段取り作業時間45m、運搬作業に必要な人数45n、回転半径45oが定義される。方向転換、前段取り、後段取りは、搬送物の質量が小さいほど作業が容易であると考えられることから、本例では、各作業に要する時間は搬送物の質量44gに比例するよう指定している。
【0026】
また、台車45c又は45dの場合は作業者が台車45c又は45dを押すため、作業者は常に搬送物の近くにおり搬送物の被曝がある。一方、クレーン45bの場合は方向転換・前段取り・後段取り作業では作業者が必要になるが、直進移動では作業者は搬送物の近くにいる必要はなく搬送物からの被曝を回避することができる。そのため、本例では、直進移動における搬送物からの被曝係数k:45jをクレーン45bでは0、台車45c、45dでは1とした。回転半径45oは当該搬送手段を用いて方向転換する場合の軌道の半径を示す。
【0027】
図9は、搬送の始点・終点座標データ46の例を示す。搬送物ID46a(
図7の搬送物ID44aに相当)ごとに搬送の始点(xs、ys、zs)46bと終点(xe、ye、ze)46cの三次元座標を指定するものである。
【0028】
次に、空間ネットワーク生成部7が行う処理について記述する。
図10は、空間ネットワーク生成処理S91の詳細フローの例を示す。本処理の概略を、2次元の例で
図15A〜
図15Cを用いて説明する。
【0029】
図15Aの50aは障害物データ40で定義された障害物を平面図にした例を示す。粗いハッチングした長方形は除去可能な障害物501、細かいハッチングを施した長方形は除去不可能な障害物502を示し、白い部分は準備作業なしで搬送に用いることができる空間とする。
【0030】
図15Bの50bはプラント内部の空間をボクセルという小空間に分割した例を示す。本例では2次元のため、ボクセル50bは長方形で表される。同図の白い長方形は準備作業が不要な空間512、粗いハッチングを施した部分は準備作業を要する空間513、細かいハッチングを施した部分は搬送に用いることができない空間514を示す。
【0031】
図15Cの50cは
図15Bのボクセル50bの単位で分割した空間をもとに生成したネットワークの例を示す。丸はボクセル単位で分割した空間50bの各長方形に対応するノード521であり、ノード521を結ぶエッジ522はノード521の隣接関係を示す。ノード521の白丸5211とハッチングした丸5212は
図15Bのボクセルに分割した空間50bと同様にそれぞれ準備作業が不要な空間と必要な空間に対応する。ボクセル50bの細かいハッチングの長方形514は搬送に用いることができない空間のため、
図15cのネットワーク50c上にノード521は生成されない。
【0032】
図11と
図12は、空間ネットワーク生成処理S91によって作成されるノードデータ47とエッジデータ48の例をそれぞれ示しており、
図15Cの50cのようなネットワークは
図11のノードデータ47と
図12のエッジデータ48で定義することができる。
【0033】
本実施例では、ボクセルの大きさ(ボクセルサイズ43)は同一であるとする。この理由を、
図22Aと
図22Bを用いて説明する。同図は、同一空間に対するボクセル分割の例をXZ面の2次元で示す。
図22Aは同一の大きさのボクセル52aに分割した例、
図22Bは障害物がない空間のボクセル52bを大きくし、不均一な大きさのボクセルに分割した例を示す。ハッチングを施した長方形52cは障害物とし、
図22Aの経路52a0、
図22Bの経路52b0はともにボクセル52a又は52bの中心点をつないで構成できる二つの白丸52a1と52a2、及び52b1と52b2を結ぶ最短経路を示す。黒丸52a3、52a4及び52b3、52b4、52b5は曲がり角を示す。
【0034】
図22Aの経路52a0では曲がり角は52a3と52a4の二つであるのに対し、
図22Bの経路52b0ではボクセル52bの大きさが不均一であるため、ボクセル52bの中心点を直線で結ぶ経路を生成すると曲り回数が三つに増えており、軸に平行でない斜めの直線52b6があることがわかる。
【0035】
搬送においては、搬送経路の進行方向によって搬送手段が変更されたり、同一搬送手段でも方向転換をする場合は時間を要したりする場合がある。また、例えばクレーンを使った場合鉛直方向の搬送と水平方向の搬送を組み合わせられない、つまり斜め上下に搬送できないなどの制約がある場合がある。
【0036】
図22Bに示した経路52b0では、z軸方向を鉛直方向とした場合、経路は斜め上下の移動を含むため、クレーンでは搬送できない問題が生じる。また、同図が水平面内である場合でも、
図22Bに示した経路52b0では不必要な曲がり角を生じ、方向転換のための作業時間を過剰に評価してしまう問題がある。これらの問題を回避するため、本実施例では、各ボクセルのサイズはすべて同一とする。
【0037】
図10に詳細を示した
図2のフロー図における空間ネットワーク生成ステップS91を空間ネットワーク生成部7が行う処理手順を具体的に説明する。
図10に示したフロー図で、ステップS100では、障害物データ40と、ボクセルサイズデータ43から、プラント内部の空間をボクセルという小空間に分割する空間分割処理を行う。当該処理では、プラント全体の空間をボクセルサイズ43で指定したサイズのボクセルに分割する。例えば、プラント全体が幅10メートル、奥行き10メートル、高さ10メートルで、ボクセルサイズデータ43が1メートルの場合、幅、奥行き、高さをそれぞれ10分割し、分割された立方体をボクセルとする。
【0038】
次に、ステップS101では、障害物有無判定処理を行う。ここではステップS100で分割した各ボクセルの座標と、障害物データ40で定義された各障害物の座標を比較し、各ボクセルに障害物が含まれるか否かを判定する。ボクセルが障害物を一つも含まない場合は、搬送に利用できる空間として
図11に示すようなノードID47fを定義し、対応する代表座標47aと紐づける。さらに、ボクセルに含まれる障害物の障害物IDが、障害物の除去工数データ42に含まれている場合は、当該障害物は除去可能な障害物であるとして、障害物IDで紐づけられる準備作業工数47dと、含まれる障害物ID47eを、当該ボクセルに対応するノードID47fに紐づける。
【0039】
ステップS102では、区間放射線量マッピング処理を行う。空間放射線量率データ41の座標データ41aと、ボクセルの代表座標データ47aを比較し、各ボクセル座標47aに最も近い座標41aに定義された空間放射線量率を当該ボクセルの空間放射線量率47cとする。空間放射線量率データ41で定義された座標間隔が、ボクセルよりも細かい場合、例えば、空間放射線量率データ41aで定義された点の内、当該ボクセルに含まれる点の空間放射線量率の平均値や中央値などの代表値を当該ボクセルの空間放射線量率47cとすることも妥当である。
【0040】
一方、空間放射線量率データ41で定義された座標間隔が、ボクセルよりも粗い場合で、実際には空間放射線量率がなだらかに変化する場合は、ボクセルの座標47aに近い複数の空間放射線量率の座標41aを用いて、ボクセルの座標47aに距離が近い座標41aの空間放射線量率の重みが大きくなるように重み付け平均等をとって当該ボクセルの空間放射線量率47cとすることもできる。
【0041】
ステップS103では、各ボクセルのx、 y、 z軸方向それぞれに対して代表座標47aから最も近い障害物までの距離(cx、cy、cz)を干渉余裕47bとして算出する。
【0042】
ステップS104では、
図12に示すように、移動可能な隣接する二つのボクセルに対応するノードIDの組み合わせの間にエッジを定義するエッジデータ48を生成する。ステップS100からS104の処理の結果、
図11に示すようなノードデータ47と
図12に示すようなエッジデータ48が生成される。
【0043】
図15Aの例において、
図19Aの50aに「始」「終」で示すように始点と終点が指定された場合、
図19Aの太線の実線50a1や点線50a2で示す経路が探索されうる。
図19Aの50aと
図19Bの50cの太線の実線50a1と50c1及び点線50a2と50c2はそれぞれ対応している。経路探索部8では、
図19Bに示すようなネットワークデータ50cを用いて、始点から終点を結ぶ経路のうち、累積被曝線量が最小となる経路を探索する。
【0044】
経路探索部8が行う処理について記述する。
図13は、
図2で説明したフロー図の経路検索処理S92の詳細な処理フローの例を示す。経路探索部8で行う経路検索処理では、搬送手段の特性値データ45、搬送物データ44、搬送始点・終点座標データ46、ノードデータ47、エッジデータ48、搬送対象物の搬送物ID;44aを入力とする。本処理は例えばダイクストラ法を使って最小の被曝線量で始点から終点に到達する経路を算出する。その具体的な手順を説明する。S110は変数初期化部30、S111は始点ノードの被曝線量算出部31、S112とS114は探索ノード算出部32、S115は準備作業による被曝線量算出部33、S116とS117は搬送作業による被曝線量算出部34、S118は累積作業被曝線量算出部35、S113は終点ノード検出部36、S119は経路再構成部37によりそれぞれ実行される。
【0045】
ステップS110では、搬送手段の特性値データ45、搬送物データ44、搬送始点・終点座標データ46、ノードデータ47、エッジデータ48、搬送対象物の搬送物ID;44aを入力し、ノードデータ47に定義されたすべてのノードに対して、探索用ノードを定義する。
図14は探索用ノードデータ49の例を示す。探索用ノードデータ49の探索用ノードID:49aは、ノードID:49bと、当該探索用ノードに到達する一つ前のノードIDである前ノードID:49c、始点ノードから前ノードIDを通って最小の被曝線量で当該ノードに到達する経路の被曝線量である累積作業被曝線量D;49dで構成される。本データはノードID49bと前ノードID49cの組み合わせにより一意となり、ノードデータ47の各ノードに対して、エッジデータ48で定義されたエッジに対応する前ノードID49cが存在するため、探索用ノードID:49aの数は、ノードID:iに対するエッジの数をN (i)とすると、すべてのiに関してN (i)を加算した総和となる。
【0046】
ステップS110では、すべての探索用ノードID:49aについてノードID49bと前ノードID49cを定義したのち、累積作業被曝量D:49dを初期値に初期化する。ダイクストラ法では、初期値には、例えば変数がとりうる最大値を用いる。 次に、ステップS111では、
図11に示したノードデータ47の中から、
図9の搬送始点終点座標データ46b及び46cから搬送対象物の搬送物ID46aに該当する始点・終点座標を取得し、搬送始点座標を含む始点ノードのノードIDを算出し、当該ノードIDのすべての探索用ノードについて、累積作業被曝線量をゼロに初期化する。
【0047】
ステップS112では、探索用ノードデータ49において、算出済みの累積作業被曝線量49dが最小となる探索用ノード49aを選択する。
【0048】
ステップS113では、ステップS112で選択した探索用ノードのノードID49bが終点座標を含む終点ノードのIDか否か、すなわち経路探索終了か否かを判定する。終点座標を含むノードIDの場合(S113の判定でYesの場合)は、S121に進み、それ以外の場合(S113の判定でNoの場合)はS114で、前回算出したノードとエッジでつながっている隣接ノードを算出する。すべての隣接ノードについて、それぞれの探索用ノードのうち、S112で選択した探索用ノード49aのノードID49bを前ノードID49cとする探索用ノードを対象にステップS115からS119を行う。
【0049】
ステップS115では、
図11に示したノードデータ47から当該探索用ノード49aのノードID49bに該当するノードID47fの干渉余裕47bを抽出し、
図7に示した搬送物データ44の搬送対象物の搬送物ID44aの寸法44cと比較し、当該ノードの干渉余裕47bにおいて搬送物を搬送可能であるかを判定する干渉余裕判定処理を行う。本処理を、
図20を用いて説明する。
【0050】
図20は対象の空間と搬送物をxy平面上に示した例である。白い部分2001が搬送できる空間、ハッチングを施した部分2002が障害物空間とする。ここで、探索中のノードに搬送物2010の中点2011を配置した時、当該ノードの干渉余裕において搬送物2010を搬送可能であるかを判定する。このとき、搬送物2010の姿勢を仮定する必要がある。例えば、
図7の搬送物データ44で定義した寸法44cを小さい順に並べたものをW’、L’、H’とする。
図20では平面で示しているため、ここではW’とL’を図中に示す。各ノードの干渉余裕は
図11のノードデータ47の干渉余裕47bと比較する。
【0051】
図20ではxy平面図を示しているため、
図11の干渉余裕47bのうちのcxとcyを図中に示す。この場合、cyの方がcxより小さいため、2×cyとW’、2×cxとL’をそれぞれ比較し、搬送物2010の寸法44cが干渉余裕47bの2倍より小さければ、搬送可能と判定する。3次元の場合も同様に、寸法44cと干渉余裕47bをそれぞれ、小さい順にソートし、対応する順位同士で寸法と干渉余裕の2倍の値を比較することができる。W’、L’、H’のいずれも対応する向きの干渉余裕の2倍の値より小さい場合には当該ノードにおいて搬送物2010を搬送可能であると判定する。一方、いずれかが対応する向きの干渉余裕47bの2倍の値より大きい場合は当該ノードにおいて搬送物2010を搬送不可能と判定し、当該ノードは探索対象から除外する。
【0052】
S116からS119では、対象とする各探索用ノードID:49aについて、累積作業被曝線量D:49dの算出を行う。対象とする探索用ノードID:49aをn、S112で算出したその前の探索用ノードID:49aをn’とし、探索用ノードID :49aであるnでの累積作業被曝線量をD(n)として(数2)のように定義し、前の探索用ノードの累積作業被曝線量からの増分ΔDは(数1)のように定義する。
ΔD=(Ds+k×Do)×ts×pt+(Ds+Do)×(tc+td)×pt+Ds×wp ・・・(数1)
D(n)=D(n’)+ΔD ・・・(数2)
Dsはノードデータ47cで定義された各ノードの空間被曝線量率(空間線量率)を示す。Doは
図7の搬送物データ44で定義された搬送物の放射線量率44bを示す。
【0053】
kは直線移動における搬送物からの被曝有無を示す係数であり、
図8に示すように、搬送手段にごとに搬送手段の特性値データ45で定義されている。tsは前のノードからの直線移動に要する時間を示し、当該ノードと前のノードの座標から当該ノードと前のノードの距離xを算出し、xを
図8に示した搬送手段の特性値データ45で定義された直進移動速度45iで除算することにより算出できる。このとき、前のノードと当該ノードとの位置関係から定義される移動方向45fに応じて搬送手段45aを選択する。
【0054】
tcは方向転換に要する時間を示し、搬送手段の特性値データ45で方向転換時間45kとして定義される。tdは搬送手段の変更に伴う前段取り作業時間45lと後段取り作業時間45mの総和となる。例えば、
図8に示した搬送手段の特性値データ45の場合、移動方向45fが水平方向の移動から鉛直方向の移動に変更する点においては、台車45c又は45dからクレーン45bに乗り換えるため、台車45c、45dの後段取り作業時間45mとクレーン45bの前段取り作業時間45lの総和となる。
【0055】
ptは、作業に要する人数を示し、
図8の搬送手段の特性値データ45に、人数45nとして定義されている。wpは当該ノードを搬送に用いるための準備作業に要する工数を示し、
図11のノードデータ47に準備作業工数wp:47dとして定義されている。
【0056】
(数1)において、第一項の(Ds+k×Do)×ts×ptは搬送作業の中の直進移動による被曝線量、第二項の(Ds+Do)×(tc+td)×ptは搬送作業の中の方向転換と搬送手段変更に伴う被曝線量、第三項のDs×wpは準備作業による被曝線量を示す。
【0057】
本実施例において、クレーンでの直進移動では作業者は搬送物とともに移動しないものとし、第一項において搬送物の被曝線量に係数kを積算することにより、搬送物からの被曝を加算しないようにしている。また、このとき直線移動の間の作業者の被曝量は厳密にはクレーンでの直線移動開始地点から終了地点までの作業者の移動経路に依存するが、本例ではこの作業者の移動経路の被曝線量率を搬送経路の空間被曝線量率で近似することとする。ただし、本発明の実施形態は本例に限るものではなく、例えば、クレーン移動の開始地点から終了地点の組み合わせごとに対応する作業者の移動経路、時間およびその被曝線量を予め入力しておき、その値を用いることもできる。
【0058】
始点ノードの探索用ノードにおいては、前ノードでの累積被曝線量を0とし、累積被曝線量DはΔDと等しい。さらに、始点ノードにおいては移動距離がないため、(数1)の第一項及び第二項はゼロになり、第三項のみとなる。
【0059】
なお、被曝線量の算出式は(数1)に限定する必要はなく、例えばより正確に直線の移動に伴う被曝線量としては前ノードの空間線量率と当該ノードの空間線量率の平均をとることもできる。また、搬送手段の変更に伴う段取り時間と作業に必要な人数はそれぞれ該当する搬送手段の特性を用いて乗算し、和をとることも妥当である。
【0060】
S116の準備作業による被曝線量算出処理では(数1)の第三項のDs×wpを、
図11に示したノードデータ47から当該ノードについて算出する。このとき、S112で選択した探索用ノード、すなわち探索中の探索用ノードの一つ前の探索用ノードの除去済み障害物ID49eを参照し、当該ノードに含まれる障害物ID47eがすでに含まれている場合は、本処理の算出結果をゼロとする。これにより、複数のノードにまたがる障害物を除去するときの被曝線量の重複加算を防ぐことができる。当該探索用ノードの除去済み障害物ID49aには、その前までに除去済みの障害物IDすなわちS112で選択した探索用ノードに含まれる除去済みの障害物ID49eと当該ノードに含まれる障害物ID47eとの和集合を登録する。
【0061】
S117の搬送手段変更・方向転換有無判定処理では、対象とする探索用ノードと、S112で選択した探索用ノードの前ノードIDから、対象の探索用ノードを起点として二つ前までのノードIDを取得する。これにより、一つ前のノードを中心としてその前後のノードIDが特定される。
【0062】
図10のフロー図で説明した空間ネットワーク生成処理のS100において、各ノードが対応するボクセルの大きさをすべて同一にすることにより、注目するノードと前後のノードの座標から前後の進行方向とその搬送手段が特定できる。これにより、一つ前のノードを中心として搬送手段変更と方向転換の有無を判定できる。この判定結果に基づき、(数1)におけるtc及びtdを該当する搬送手段の特性値データ45から取得する。一つ前のノードを中心として搬送手段変更と方向転換がない場合はtcとtdはそれぞれゼロになる。
【0063】
S118では
図11のノードデータ47で定義された当該ノードにおける空間被曝線量率Ds:47c、
図7の搬送物データ44で定義された搬送物の放射線量率Do:44b、当該ノードと前のノードの座標および
図8の搬送手段の特性値データ45で定義された各搬送手段における直進移動速度45iから前のノードからの直線移動に要する時間ts、搬送手段の特性値データ45に定義されている直進移動における搬送物からの被曝係数kおよび搬送作業に要する人数pt:45mを算出し、これらの変数とS116で算出したtc及びtdから、搬送作業による被曝線量を表す(数1)の第一項及び第二項の (Ds+k×Do)×ts×pt+(Ds+Do)×(tc+td)×ptを算出する。
【0064】
S119ではS116とS118の結果を(数1)および(数2)に従って合算し、当該探索用ノードIDの累積作業被曝線量を算出する。さらに、探索用ノードデータ49における当該探索用ノードIDの算出済み累積作業被曝線量Dと比較し、小さい方を当該探索用ノードIDの累積作業被曝線量Dとして登録する。算出済みの累積作業被曝線量がない場合、S110において、変数がとりうる最大値で累積作業被曝線量Dを初期化しておくことにより、小さい方を登録する処理によりS118で算出した累積作業被曝線量を算出できる。
【0065】
S119の処理が終わった後、S120でS114で算出したすべての隣接ノードについてS115からS119までの処理を行ったか否かを判定し、未処理の隣接ノードがある場合(NOの場合)には、S114に戻り、すべての隣接ノードについて処理を終了した場合(YESの場合)にはS112に戻る。
S121では、終点ノードの探索用ノードから順に前ノードIDをたどり、終点ノードから始点ノードまでの経路を再構成する。終点ノードを注目ノードの初期値として、注目ノードの隣接ノードのうち、注目ノードの累積作業被曝線量Dが最小になる隣接ノードを選択し、次の注目ノードとして順次前のノードIDをたどっていくことにより、経路を再構成できる。
【0066】
S122では、軌道生成・干渉チェックを行う。本処理の概略を、2次元の例で
図21を用いて説明する。同図に太枠で示す経路51aはS121で再構成された経路の例を示す。本処理では経路51aに沿って搬送物51bを搬送するための軌道51cを生成する。本例では、直進時は選択したノードの中心を通り、方向転換時に
図8に示した搬送手段の特性値データ45で定義された回転半径45oに従って幾何学的に軌道51cを生成するものとする。
【0067】
なお、本発明における軌道生成方法は本例に限るものではなく、例えばより正確に軌道を生成するため、剛体の動的運動モデルを用いる方法も妥当である。本処理では、生成した軌道51cに沿って搬送物51bを移動させるシミュレーションを行い、障害物51eとの干渉有無を判定する干渉チェックを行う。本例では、このシミュレーションの結果、例えば搬送物51dの状態では、障害物51eと干渉する例を示している。このとき、干渉する障害物51eの障害物IDを取得し、この障害物IDが障害物の除去工数データ42に含まれ除去可能な場合は、当該障害物IDを除去する障害物ID終点ノードの除去済み障害物ID49eに追加し干渉なしとする。シミュレーションの結果、搬送物と干渉する障害物の障害物IDが
図5の障害物の除去工数データ42に含まれない場合は、干渉有りと判定する。
【0068】
S123では、S122の結果干渉があった場合(YESの場合)はS124に進む。干渉がない場合(NOの場合)は、S125へ進んで、S110からS122の処理の結果として、搬送経路データ60、除去する障害物データ61、累積作業被曝線量データ62を出力して、経路探索処理を終了する。除去する障害物データ61は、終点ノードの探索用ノードに登録された
図14の除去済み障害物ID49eから取得する。
【0069】
S124では、ネットワーク変更処理を行う。S122の結果、干渉があった場合(S123の判定でYESの場合)、当該経路では搬送できないため、干渉が発生する場所に相当するノードノードID49bに有する探索用ノードID49aを
図14の探索用ノードデータ49から除去し、S110に戻る。本処理により、この後の探索では、S122で干渉が発生した場所を通らない経路を探索することができる。
【0070】
結果出力部9が行う処理について記述する。処理結果出力部9は経路探索部8における経路探索の結果生成される搬送経路データ60、除去する障害物データ61、累積作業被曝線量データ62を出力装置4に出力する処理(S125)である結果出力処理を実行する。
【0071】
図16は、S125で出力する搬送経路データ60の例を示す。60aは、搬送経路データである始点から終点までに経由する点の座標を示す。本例では、方向転換や搬送手段変更のある点すなわち曲がり角の点を経由点として表示する。60bは搬送経路情報をプラントデータとともに図示した例である。点線が搬送経路を示す。
【0072】
図17は、S125で出力する除去する障害物データ61の例を示す。61aは除去する障害物の障害物IDを示す。61bは該当する障害物をプラントの3次元データ上に示した例であり、本例では斜線でハッチングした障害物が除去する障害物を示す。
【0073】
図18は、S125で出力する累積作業被曝線量データ62の例を示す。本例では、上段に準備作業の時間を障害物IDごとに黒のブロックで表示し、中段に搬送作業に要する作業時間を搬送手段ごとに段取り時間を白、搬送時間を黒のブロックで表示し、下段に作業時間に対する累積作業被曝線量を線グラフで表示している。
【0074】
以上に記載した搬送経路計画システムにより、準備作業と搬送作業の累積の被曝線量を最小となる搬送経路と当該経路を使った搬送に必要な準備作業を提示することができる。
【0075】
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。