特許第6242889号(P6242889)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6242889安定な水性エポキシ樹脂分散体を調製する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242889
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】安定な水性エポキシ樹脂分散体を調製する方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/03 20060101AFI20171127BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20171127BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   C08J3/03CFC
   C08L63/00 A
   C08L29/04 D
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-520353(P2015-520353)
(86)(22)【出願日】2013年6月24日
(65)【公表番号】特表2015-522090(P2015-522090A)
(43)【公表日】2015年8月3日
(86)【国際出願番号】US2013047274
(87)【国際公開番号】WO2014004357
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2016年6月9日
(31)【優先権主張番号】61/666,000
(32)【優先日】2012年6月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】特許業務法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リアン・チェン
(72)【発明者】
【氏名】リアン・ホン
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィット・エル・マロトキー
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−048045(JP,A)
【文献】 米国特許第03280734(US,A)
【文献】 米国特許第03772228(US,A)
【文献】 特表2003−500506(JP,A)
【文献】 特表2004−514038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00− 3/28
99/00
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
C09D 1/00− 10/00
101/00−201/10
C09J 1/00− 5/10
9/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)300〜10000g/eqのエポキシド当量および1500〜40000の分子量を有する第1エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物を準備すること;
ii)該エポキシ樹脂およびポリビニルアルコールの全重量に基づき、5.0wt.%以上の固体含有量を有する細かく分割した、または顆粒状のポリビニルアルコール分散剤組成物と、該エポキシ樹脂組成物を混合すること;
iii)水を準備すること;
iv)該エポキシ樹脂を溶融するのに十分な条件下で、半結晶性の該ポリビニルアルコール分散剤の存在下、該エポキシ樹脂組成物を水中で連続的に乳化すること;および
v)それにより高内相エマルションを作製すること、
を含む安定な水性エポキシ樹脂分散体を調製する、有機溶媒を用いない方法であって、該第一エポキシ樹脂、該半結晶性ポリビニルアルコールが、水を供給する前に、溶融ブレンド区域に共に供給される方法。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂組成物が、該エポキシ樹脂組成物の全重量に基づき、0.1wt.%〜50wt.%の、100〜300g/eqのエポキシド当量および200〜300の分子量を有する第2エポキシ樹脂をさらに含む請求項1記載の安定な水性エポキシ樹脂分散体を調製する方法。
【請求項3】
前記半結晶性PVOHの分子量が10kg/mol〜200kg/molである請求項1記載の安定な水性エポキシ樹脂分散体を調製する方法。
【請求項4】
前記半結晶性PVOHの平均粒径が0.1mm〜5mmである請求項1記載の安定な水性エポキシ樹脂分散体を調製する方法。
【請求項5】
前記分散剤組成物が共分散剤をさらに含み、該共分散剤がエトキシ化フェノールの硫酸塩、または7,000〜20,000の分子量を有する非イオン性分散剤である、請求項1記載の安定な水性エポキシ樹脂分散体を調製する方法。
【請求項6】
vi)さらなる水を準備すること;および
vii)前記高内相エマルションを該さらなる水と接触させ、それにより水性エポキシ樹脂分散体を作製すること、
をさらに含む請求項1において請求される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1次分散剤として、細かく分割されたまたは顆粒状のポリビニルアルコール(PVOH)を用いて、安定な水性エポキシ樹脂分散体を調製する方法、およびその方法で作製される安定な水性エポキシ樹脂分散体に関する。詳細には、この方法は溶媒を用いない、連続式押出成形機をベースにした分散方法である。
【背景技術】
【0002】
コーティング産業において安定な水性エポキシ樹脂分散体への需要は増大しており、これはその凝集能、揮発性有機化合物(VOC)の低含有量、および低粘度といった性能の組合せに起因する。
【0003】
従来のエポキシ樹脂の水性分散体は、エポキシをまず溶媒に溶解し、次に室温で従来の分散剤により分散し、最後に溶媒を分散体から取り除く方法か、または、高温で溶融したエポキシ樹脂および水性媒体および分散剤を、せん断力を印加しながら混合する、例えば転相によるバッチ式分散方法等の方法により製造されている。
【0004】
水性エポキシコーティング材料に対する市場の需要が増加していることから、高Mwエポキシ分散体を製造する研究努力が注目されている。しかしながら、これらの分散体は溶媒補助転相分散方法により調製され、環境に優しくない。高Mwエポキシ水性分散体を調製する、溶媒を用いない方法が必要とされている。
【0005】
つい最近、水性ポリビニルアルコール(PVOH)溶液を調製し、これを使用して、液体および高Mw固体エポキシ樹脂を、溶媒を使用せずにバッチ式または連続式法のいずれかで分散した。
【0006】
Warnerらの米国特許第4,123,403号は、連続式押出機分散法により調製された、制御された粒径および狭い粒径分散を有する水性ポリマーマイクロ懸濁液を開示している。Warnerらの開示においては、濃縮PVOH溶液を調製し、分散剤として使用して、バッチ式および連続式法の両方で、固体エポキシを水中で分散させた。しかしながら、この方法にはいくつか難点がある。半結晶性PVOHの水への溶解は非常に遅く、80℃で数時間かかり、溶液中のPVOH固体の高含有量は、溶媒を用いない方法では達成することができず、最終分散体において使用される水の量は制御することができなかった。さらに、溶解後PVOHは泡立ち、溶液の泡が消えるのには数日かかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,123,403号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、1マイクロメートルよりも小さな平均粒径を有する分散体等の、コーティング用途用の制御された平均粒径を有する水性エポキシ樹脂分散体を作製する効率的な方法を提供する問題の解決に努めた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、i)200〜10000g/eq、好ましくは300g/eq以上、より好ましくは450g/eq以上のエポキシド当量(EEW)および1500〜40000g/mol、好ましくは3000以上の平均分子量を有するエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物を準備すること;ii)エポキシ樹脂およびポリビニルアルコールの全重量に基づき、5.0wt.%以上20wt.%以下、好ましくは7wt.%以上、より好ましくは7〜15wt.%の量の半結晶性ポリビニルアルコールを含む、細かく分割した、または顆粒状の分散剤組成物と、エポキシ樹脂組成物を混合すること;iii)水をエポキシ樹脂および分散剤組成物と混合すること;およびiv)エポキシ樹脂を溶融するのに十分な条件下で、半結晶性ポリビニルアルコール分散剤の存在下、このエポキシ樹脂組成物を水中で連続的に乳化し、これにより高内相エマルションを作製すること、の工程を含む安定な水性エポキシ樹脂分散体を調製する、溶媒を用いない分散方法を提供する。
【0010】
この方法は、vi)さらなる水を準備すること;vii)上記の高内相エマルションをこのさらなる水と接触させること;viii)これにより水性エポキシ樹脂分散体を製造することをさらに含んでもよい。
【0011】
本発明の方法においては、水を供給する前に、第1エポキシ樹脂、半結晶性ポリビニルアルコールを、溶融ブレンド区域に共に供給することができる。
【0012】
エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂組成物の全量に基づき、0.1wt.%〜50wt.%の第2エポキシ樹脂をさらに含み、この第2エポキシ樹脂は、100〜300g/eqのエポキシド当量(EEW)および200〜300の分子量を有する。
【0013】
細かく分割された半結晶性PVOHの分子量は、10kg/mol〜200kg/molである。
【0014】
半結晶性PVOHの平均粒径は、0.1mm〜5mmである。
【0015】
分散剤組成物は、エトキシ化フェノールの硫酸塩、または7,000〜20,000の分子量を有する非イオン性分散剤から選択される共分散剤をさらに含む。
【0016】
本発明は、それにより作製される安定な水性エポキシ樹脂分散体さらに提供し、好ましくはこの分散体は1μm未満の平均粒径を有する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
他に指定されない限り、全ての温度単位および圧力単位は、室温および標準圧力(STP)である。記載される全ての範囲は、包括的かつ組合せ可能である。
【0018】
他に指定されない限り、エポキシ樹脂において、分子量は、ポリスチレン標準に基づき、静的光散乱(絶対法)と組み合わせたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により決定される重量平均分子量を指す。
【0019】
本明細書において使用される場合、「エポキシド当量」という語は、ASTM D‐1652(1997)(ペンシルベニア州ウェストコンショホッケンのASTMインターナショナル)により決定される値を指す。
【0020】
本明細書において使用される場合、「wt.%」という句は重量パーセントを意味する。
【0021】
本明細書において使用される場合、他に指定されない限り、「平均粒径」という句は、所定の粒子と同じ体積を有する球の直径に等しい体積粒径を指す。粒径分布は、Coulter LS13 320粒径分析計(カリフォルニア州ブレアのベックマン・コールター(Beckman Coulter)社)を使用して、製造業者推奨の方法に準拠して、レーザー散乱により測定してもよい。レーザー散乱による粒子からの散乱光および偏光散乱強度差を角度の関数として収集し、その後、粒径分布に変換した。
【0022】
本発明の安定な水性エポキシ樹脂分散体の調製は、水の存在下での、エポキシ樹脂、分散剤、半結晶性および部分的に加水分解されたポリビニルアルコール(PVOH)の、従来の機械的な分散を含む。適切な機械的分散の方法は、せん断することを含み、ならびに、所望であればエポキシ樹脂および半結晶性ポリビニルアルコール(PVOH)の融点(Tm)より高い温度で、または、せん断しながらエポキシ樹脂および半結晶性ポリビニルアルコールを加熱して溶融し、水性エポキシ樹脂ブレンド分散体を作製する温度で、エポキシ樹脂および分散剤と少量の水を加熱することを含み、必要であれば、生成する混合物をせん断しながら水性エポキシ樹脂を水で希釈して、1μm未満の平均粒径を有する水性エポキシ樹脂分散体を形成することを含んでもよい。我々はエポキシ樹脂分散体の平均粒径の制限を意図しないが、本発明の方法を使用することにより、0.5マイクロメートルよりも小さい平均粒径を有するエポキシ樹脂分散体を容易に調製することができ、これは従来方法では容易ではない。本発明の方法を使用することにより、異なる、大きな平均粒径を有するエポキシ樹脂分散体も調製することができ、例えば0.5〜1μm、1〜5μm等の平均粒径である。
【0023】
適切なせん断方法には、例えばニーダ、バンバリー(Banbury)ミキサ、単軸スクリュー押出機、または多軸スクリュー押出機内での方法を含む周知の方法での押出成形および溶融混練が含まれる。溶融混練は、エポキシ樹脂および半結晶性PVOHの溶融混練に通常使用される条件下で行ってもよい。好ましい溶融混練機は、例えば2以上のスクリューを有する多軸スクリュー押出機であり、このスクリューの任意の位置にニーディングブロックを追加することができる。所望であれば、押出機は、水または液体エポキシ樹脂等用の第1物質供給口、半結晶性PVOHおよび固体エポキシ樹脂等用の第2物質供給口、およびさらなる第3および第4物質供給口を、上流から下流へ混練する物質の流れる方向に沿ってこの順序で備えることができる。さらに、吸引孔を追加してもよい。一実施形態においては、分散体をまず約10〜約20重量%の水を含有するように希釈し、その後続いて、25重量%よりも多い水を含むようにさらに希釈する。さらなる希釈により、約30重量%以上の水を有する分散体を提供してもよい。
【0024】
安定な水性エポキシ樹脂分散体を調製する方法の例は、例えば米国特許第3,360,599号、同第3,503917号、同第4,123,403号、同第5,037,864号、同第5,539,021号、および国際公開第2005085331A号にも開示されている。溶融混練方法は、例えば米国特許第5,756,659号および同第6,455,636号に開示されている。
【0025】
本発明の方法は、エポキシ樹脂分散体の全重量に基づき、10wt.%以下の有機溶媒または一時的な可塑剤を含んでもよい。好ましくは、安定な水性エポキシ樹脂分散体は、どの有機溶媒も存在せずに形成し、これはエポキシ樹脂分散体の全重量に基づき、1000ppm未満、好ましくは500ppm未満の溶媒%であることを意味する。
【0026】
機械的分散体を形成する押出成形においては、第1エポキシ樹脂(本発明においては固体エポキシ樹脂)および半結晶性PVOHを、Schenck Mechatronフィーダ等のロス・イン・ウェイト・フィーダを経由して押出機の供給口に供給し、その後溶融ブレンドする。溶融ブレンド区域後、次に初期水流(IA)を押出機に注入し、その後溶融ブレンドしたエポキシ樹脂をIA存在下で乳化し、これにより高内相エマルション(HIPE)を作製する。第2エポキシ樹脂(本発明においては液体エポキシ樹脂)流を溶融ブレンド区域に注入して、乳化区域に入る前に第1エポキシ樹脂および半結晶性PVOHと溶融ブレンドしてもよい。共分散剤溶液を、初期水流(IA)と一緒に注射器で押出機へ加えてもよい。次にエマルション相を押出機の前方の希釈および冷却区域へ運搬し、ここでさらなる水を添加して、70重量パーセント未満の固体レベル含有量を有する水性エポキシ樹脂分散体を形成した。初期水流、希釈水、共分散剤溶液、および第2エポキシ樹脂を全て、Isco2重シリンジポンプ(500mL)、またはパーカー・ハネフィン社(Parker Hannifin Corporation)Zenith Pumps部門のギアポンプ等の、高圧容積型ポンプにより供給した。
【0027】
好ましくは、共分散剤が細かく分割されている場合、半結晶性PVOHと一緒に押出機へ供給する。
【0028】
1以上のエポキシ樹脂および半結晶性PVOHは、溶融形態で、回転子固定子ミキサ等の第1混合装置へ供給し、水、および任意に共分散剤と接触させ、それにより高内相エマルションを形成してもよい。それに続き、高内相エマルションはさらなる水と接触し、それにより本発明のエポキシ分散体を生成する。1以上のこのエポキシ樹脂は、例えば溶融ポンプにより溶融してもよい。
【0029】
本発明の意義の範囲内で、本明細書において使用する第1および第2エポキシ樹脂は、例えばポリヒドロキシ炭化水素等のモノマーポリヒドロキシ化合物またはヒドロキシル官能性オリゴマー等の、ポリヒドロキシ化合物のポリグリシジルエーテルである。好ましくは、ポリグリシジルエーテルは、2個以上のヒドロキシル基を有するオリゴマーまたはポリマー化合物である。通常、エポキシ樹脂は、例えばポリヒドロキシ炭化水素等のモノマーポリヒドロキシ化合物またはヒドロキシル官能性オリゴマー等の、ポリヒドロキシ化合物と、エピクロロヒドリン等のエピハロヒドリンの反応生成物である。ポリヒドロキシ炭化水素は、所望であれば、ハロゲン原子、エーテルラジカル、および低級アルキル等の1以上の非妨害性置換基で置換することができる。ポリヒドロキシ炭化水素の例としては、多価フェノールおよび多価アルコールが挙げられる。モノマーポリヒドロキシ化合物の非限定的な具体例としては、レゾルシノール、カテコール、ヒドロキノン、ビスフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールAP(1,1‐ビス(4‐ヒドロキシルフェニル)‐1‐フェニルエタン)、ビスフェノールF、ビスフェノールK、テトラブロモビスフェノールA、テトラメチルビフェノール、テトラメチルテトラブロモビフェノール、テトラメチルトリブロモビフェノール、テトラクロロビスフェノールA、4,4’‐スルホニルジフェノール、4,4‐オキシジフェノール、4,4’‐ジヒドロキシベンゾフェノン、9,9’‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)フルオリン、4,4’‐ジヒドロキシビフェニル、および4,4’‐ジヒドロキシ‐α‐メチルスチルベンである。ヒドロキシル官能性オリゴマーの例としては、フェノール‐ホルムアルデヒドノボラック樹脂、アルキルで置換したフェノール‐ホルムアルデヒド樹脂、フェノール‐ヒドロキシベンズアルデヒド樹脂、クレゾール‐ヒドロキシベンズアルデヒド樹脂、ジシクロペンタジエン‐フェノール樹脂、およびジシクロペンタジエンで置換したフェノール樹脂が挙げられる。ポリグリシジルエーテルは、所望の生成物を調製するような条件下で、好ましくはエピクロロヒドリンであるエピハロヒドリンを、ハロゲン化ポリヒドロキシ化合物を含むポリヒドロキシ化合物と反応させることにより調製することができる。このような調製は、当業者に周知である(例えば、米国特許第A‐5,118,729号の4〜7列、ならびにUllmann‘s Encyclopedia of Industrial Chemistry, Wiley−VCH Verlag, Weinheim, 2005内のPham, H.Q.およびMarks, M.J.著の「Epoxy resins」を参照のこと)。上述の基礎的な反応物の一部が、修飾された化合物により置換されているエポキシ樹脂等の修飾エポキシ樹脂も「エポキシ樹脂」という用語により包含される。エチレン不飽和エポキシ化合物を含むモノマー混合物のフリーラジカル重合により得られるオリゴマーおよびポリマーは、本明細書においてはエポキシ樹脂の規定で含まれない。
【0030】
本発明に従ってエポキシ樹脂の調製に使用するポリヒドロキシ化合物は、ポリヒドロキシ炭化水素、好ましくはビスフェノールAおよび/またはビスフェノールF等の芳香族ジヒドロキシ化合物である。フェノール‐ホルムアルデヒドノボラック等のオリゴマーまたはポリマー化合物をポリヒドロキシ化合物として使用してもよい。本発明において使用するエポキシ樹脂の好ましい例としては、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルのオリゴマーである、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(通常エピクロロヒドリンとビスフェノールAの反応生成物);ビスフェノールFのジグリシジルエーテルのオリゴマーである、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル(通常エピクロロヒドリンとビスフェノールFの反応生成物);ビスフェノールAとビスフェノールFのジグリシジルエーテルのオリゴマーである、ビスフェノールAとビスフェノールFの混合ジグリシジルエーテル(通常エピクロロヒドリンとビスフェノールAおよびビスフェノールFの混合物の反応生成物);フェノール‐ホルムアルデヒドノボラックのジグリシジルエーテルのオリゴマーまたはポリマーである、フェノール‐ホルムアルデヒドノボラックのジグリシジルエーテル(通常エピクロロヒドリンとフェノール‐ホルムアルデヒドノボラックの反応生成物);ならびに、例えば、エポキシ官能性界面活性剤(通常エポキシ官能性非イオン性界面活性剤もしくはエポキシ官能性陰イオン性界面活性剤)で修飾したビスフェノールA系エポキシ樹脂、および/またはポリ(アルキレングリコール)エポキシド(通常、ポリ(プロピレングリコール)エポキシドもしくはポリ(エチレングリコール)エポキシド)等のエポキシ樹脂等の修飾エポキシ樹脂が挙げられる。本発明の実施形態においては、熱硬化性エポキシ樹脂は、末端エポキシド基を有する、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンの直鎖非架橋ポリマーである。本明細書において使用してもよい熱硬化性エポキシ樹脂の具体例は、中程度の分子量の固体エポキシ樹脂であるD.E.R.(商標)664Uであり、これは100℃〜110℃の軟化点を有する、エピクロロヒドリンとビスフェノールAの固相反応生成物である(ミシガン州ミッドランドのザ・ダウ・ケミカル・カンパニー(The Dow Chemical Company))。
【0031】
本発明の第1エポキシ樹脂(固体エポキシ樹脂)は、200〜10000g/eq、好ましくは450〜7500g/eq、より好ましくは750〜5000g/eqのエポキシ当量を有し;かつ、その分子量は1500〜40000、好ましくは2000〜20000g/mol、より好ましくは3000〜15000g/molである。
【0032】
任意に、本発明のエポキシ樹脂組成物は第2エポキシ樹脂を含む。第2エポキシ樹脂は、一般に液体エポキシ樹脂として理解され、エポキシ樹脂組成物の全重量に基づき、0.1wt.%〜50wt.%、好ましくは5wt.%〜45wt.%、最も好ましくは10wt.%〜40wt.%である。第2エポキシ樹脂は、100g/eq〜300g/eq、より好ましくは150g/eq〜200g/eqのエポキシド当量を有し、および200〜600、より好ましくは300〜400の分子量がさらに使用される。エポキシド当量はASTM D1652(1997)に従って決定され、分子量はポリスチレン標準を使用してゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)に従って決定される。
【0033】
本発明に従って、分散剤は、細かく分割された半結晶性ポリビニルアルコール(PVOH)単独、または他の従来の共分散剤との組合せを含んでもよい。本発明で好ましく使用してもよい半結晶性PVOHは、2±0.5mPa‐s〜18±0.5mPa‐s(4%水溶液、20℃)以上の粘度DIN 53015(粘度測定‐ヘップラー(Hoeppler)製回転球粘度計を使用した粘度の測定)、87.7±1.0mol.%の加水分解度(けん化)、140±10mgKOH/gのエステル価DIN 53401(けん化価の決定)、10.8±0.8w/w%の残存アセチル含有量、および0.5%の最大灰分含有量(NaOとして算出)を有してもよく、例えば、クラレ・ヨーロッパ(Kuraray Europe GmbH)から市販され、シンガポールで製造されるPOVAL PVA205;およびドイツ、フランクフルト・アム・マインのクラレ・ヨーロッパ(Kuraray Europe GmbH)PVA/PVB部門からのMOWIOL(商標)4‐88、MOWIOL(商標)18‐88、MOWIOL(商標)23‐88 G2ポリビニルアルコールである。顆粒状形態のMOWIOL(商標)4‐88部分加水分解PVOH(ポリビニルアルコール)は、4±0.5mPa‐s(4%水溶液、20℃)の粘度DIN 53015、87.7±1.0mol.%の加水分解度(けん化)、140±10mgKOH/gのエステル価DIN 53401(けん化価の決定)、10.8±0.8w/w%の残存アセチル含有量、および0.5%の最大灰分含有量(NaOとして算出)を有する。顆粒状形態のMOWIOL(商標)18‐88部分加水分解PVOH(ポリビニルアルコール)は、18±2mPa‐s(4%水溶液、20℃)の粘度DIN 53015、87.7±1.0mol.%の加水分解度(けん化)を有する。細かい粉末形態のMOWIOL(商標)23‐88 G2部分加水分解PVOH(ポリビニルアルコール)は、23±1.5mPa‐s(4%水溶液、20℃)の粘度DIN 53015、87.7±1.2mol.%の加水分解度(けん化)を有する。POVAL(商標)PVA205部分加水分解PVOH(ポリビニルアルコール)は細かい顆粒状形態であり、5.0±0.4mPa‐s(4%水溶液、20℃)の粘度JIS K6726、87.7±1.0mol.%の加水分解度(けん化)を有する。
【0034】
分散剤の半結晶性ポリビニルアルコールは、エポキシ樹脂の全重量に基づき、半結晶性ポリビニルアルコールの固体含有量が2.5重量%以上、好ましくは5重量%〜15重量%、より好ましくは7.5重量%〜10重量%である量で使用してもよい。
【0035】
半結晶性PVOHのMwは5〜400kg/molであることが好ましく、より好ましくは10〜200kg/molであり、最も好ましくは20〜150kg/molである。
【0036】
他に指定されない限り、ポリビニルアルコールにおいて、PVOH分子量は、モル質量の平均重量(Mw)を意味し、再アセチル化試料において静的光散乱(絶対法)と組み合わせたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により決定される。
【0037】
半結晶性PVOHの平均粒径は、0.1〜5mmであることが好ましく、より好ましくは0.2〜2mmであり、最も好ましくは0.1〜1mmである。
【0038】
半結晶性PVOHの加水分解度は50〜99%であることが好ましく、より好ましくは60〜95%であり、最も好ましくは80〜90%である。
【0039】
本発明に適した共分散剤は、エポキシ分散体を調製する際、比較的高温(例えば、80〜150℃、好ましくは90〜130℃)で効率を維持する必要がある。
【0040】
適切な共分散剤の種類の例は、エトキシ化フェノールの硫酸塩であり、以下の式により表される:
【0041】
【化1】
【0042】
式中、Φは芳香族基置換フェノールであり、好ましくはジ‐およびトリスチレン化フェノールであり;nは10〜40、好ましくは14〜20であり;Zはナトリウム、カリウムまたはアンモニウムであり、好ましくはアンモニウムである。
【0043】
エトキシ化フェノールの好ましい硫酸塩、およびより好ましい硫酸塩の多くは市販されており、例えばエトックス・ケミカルズ・エルエルシー(Ethox Chemicals LLC)から市販されているE−SPERSE100、PEO(14)ジ‐およびトリスチレン化フェノール硫酸アンモニウム;E−SPERSE701、PEO(20)ジ‐およびトリスチレン化フェノール硫酸ナトリウムである。
【0044】
適切な共分散剤の種類の他の例は、7,000より大きく20,000以下の分子量を有することが特徴的な非イオン性分散剤である。好ましくは、この高温非イオン性分散剤は下記の構造を有する:
【0045】
【化2】
【0046】
式中、各fは20以上、好ましくは40以上、かつ100以下、好ましくは80以下であり;eは80以上、より好ましくは90以上であり、かつ400以下、より好ましくは200以下、最も好ましくは150以下である。Rはエポキシド官能基または水素である。
【0047】
市販の高温非イオン性分散剤の例としては、ATSURF108分散剤(インペリアル・ケミカル・インダストリーズ社(Imperial Chemical Industries PLC(ICI)))、PLURONIC F108分散剤(ビーエーエスエフ・コーポレーション(BASF Corp.))が挙げられ、それぞれ14,600(f=50;e=133、R=H)の分子量を有し、また、ポリエポキシEmulsifier551(ザ・ハンソン・グループ(The Hanson Group, LLC))(fおよびeは不明であるが、Rはグリシジルエーテル基)が挙げられる。
【0048】
共分散剤は、エポキシ樹脂の全重量に基づき、0.1〜10重量%、好ましくは0.1〜4重量%の量で使用する。
【0049】
下記の実施例は例証の目的でのみ提供され、後に続く請求の範囲を制限することを意図するものではない。他に指定されない限り、全ての部および百分率は重量によるものであり、全ての温度は℃で表され、全ての圧力は他にそうでないと指定されない限りバールまたは大気圧で表される。
【実施例】
【0050】
I.原料
実験で使用する分散剤を下記の表にまとめる。
【0051】
[表]
【0052】
実験で使用するエポキシ樹脂を下記の表にまとめる。
【0053】
[表]
【0054】
II.方法
エポキシ分散体1、および3〜5は、KWP(Krupp Werner & Pfleiderer社)ZSK25押出機(25mmスクリュー径、60L/D、450rpmで回転)を使用して、下記の手順に従って、下の表1〜4で報告される各水性分散体での調合成分で調製した。固体エポキシ樹脂および半結晶性PVOHポリマーをSchenck Mechatronロス・イン・ウェイト・フィーダを介して押出機の供給口へ供給後、溶融ブレンドし、次に初期水流存在下で乳化した。いくつかの場合においては、実施例4に示されるエポキシブレンド分散体で、液体エポキシ樹脂流を溶融区域に注入して、乳化区域に入る前に固体エポキシ樹脂および半結晶性PVOHと溶融ブレンドした。次にエマルション相を前方の押出機の希釈および冷却区域へと前方に運搬し、ここでさらなる水を添加して、70重量パーセント未満の固体レベル含有量を有する水性分散体を形成した。初期水、および希釈水を全て、ISCO2重シリンジポンプ(500mL)により供給した。押出機のバレル温度は110℃に設定した。分散体が押出機を出た後、分散体をさらに冷却し、200μmメッシュサイズの袋ろ過器を通してろ過した。
【0055】
分散体としてPVOH溶液を使用した比較用エポキシ分散体2は、Bersdorff押出成形機(25mmスクリュー径、36L/D、450rpmで回転)を使用して調製した。D.E.R.(商標)664Uエポキシをロス・イン・ウェイト・フィーダを介して供給した。押出成形機の溶融区域をエポキシ樹脂の軟化点(100℃)未満である75℃に維持して、供給口底部でのエポキシ樹脂フレークの固化、および溶融シールの破裂を防いだ。MOWIOL488溶液(27wt%固体)を1対の500mL Iscoシリンジポンプにより供給した。PVOH溶液は粘性が高すぎて吸引により充填することができず、ポンプと押出成形機の間の0.5インチ径の移送ラインを使用して空のIsco管に注ぎ、高圧になるのを防いだ。75℃の溶融区域温度、110℃の乳化区域温度、および110℃の希釈区域温度を使用して、未分散エポキシの量を最小にした。
【0056】
進行中、粒径分析用の少量の試料を定期的に収集した。粒径分析は、Beckman Coulter LS13 320レーザー光散乱粒子サイズ測定器(ベックマン・コールター社(Beckman Coulter Inc.))で、標準手順(ISO13320‐1)を使用して行った。流速、温度およびスクリュー速度等の工程パラメータを調節し、所望の分散体を作製した。分散pHは、Denver Instruments社製pHメーターを使用して測定した。固体分析は、オーハウス社(Ohaus)製MB45湿度分析計で行った。粘度はブルックフィールド社(Brookfield)製回転式粘度計で、所定の条件で測定した。
【0057】
実施例1:分散剤として固体PVOH供給対PVOH溶液供給
【0058】
【表1】
【0059】
一般的に、連続式押出成形機をベースにした分散方法においては、初期水流(IA)を調節して粒径を最小にする。PVOH溶液を使用して調製したエポキシ分散体と比較して、半結晶性PVOHを分散剤として直接供給すると、HIPE区域においてより少量の水を添加することで、より小さいエポキシ粒径を得ることができる。
【0060】
実施例2 分散体中のエポキシ粒径に及ぼすPVOHの粉末サイズの影響
数種のエポキシ樹脂分散体を調製し、表2にまとめた。最小粒径およびそれに対応するHIPE中の固体含有量を表に示す。POVAL(商標)PVA205はPVOHの細かい顆粒等級であり、化学性質に関してはMowiol(商標)488と非常に類似している。同じ量のPVOHで、0.43μmのより小さい粒径(表1の分散体1と比較して)が得られた。換言すれば、固体顆粒のより小さい粒径により、POVAL(商標)PVA205はMowiol(商標)488よりも、より効果的である。さらに、7%の少ないPOVAL(商標)PVA205を使用して、エポキシ分散体を調製することができる。
【0061】
【表2】
【0062】
実施例3 粒径に及ぼすPVOH Mwの影響
表3において、最小粒径を達成するために必要なHIPE中のIAは、PVOHの分子量にも依存し、換言すれば、分散剤として高分子量PVOHは乳化区域においてより多くの水を必要とする。再び、細かい粉末等級PVOH(MOWIOL(商標)2388G2)は分散体中でより小さいエポキシ粒子を作製した。
【0063】
【表3】
【0064】
実施例4 共分散剤を有さないエポキシブレンド分散体
エポキシブレンド分散体も、押出成形機をベースにした分散方法により調製した。この方法において記述した通り、液体エポキシを押出成形機に注入して、固体エポキシおよび半結晶性Mowiol(商標)488とその場で(in situ)溶融ブレンドし、その後乳化した。
【0065】
表4の分散体9は、下記の組成を有するエポキシブレンド分散体である。DER667E/DER331(75/25)は、2個の樹脂の重量比が75対25であることを意味する。
【0066】
さらに、半結晶性PVOHのみを使用することに加えて、共分散剤を分散方法において使用することができる(分散剤10)。
【0067】
【表4】