【課題を解決するための手段】
【0019】
前章に記載の問題は、特許請求の範囲で定義されるような太陽光グレージングユニットに関する本発明によって解決される。本革新は、強化されたマスキング作用、角度的な色の安定性、エネルギー性能、および機械的安定性を有する着色積層グレージング(好ましくは、排他的ではないが、ガラスから作られる)を扱う。
【0020】
着色積層グレージングシステムが
図3に図示されており:
− 外側ガラスの裏側(
図3aおよび
図4a)、2つのガラス窓間にカプセル化されたポリマ膜の裏側もしくは前側(
図3bおよび
図4b)、または内側ガラスの前側(
図3cおよび
図4c)に堆積された、カプセル化された干渉性の着色多層コーティングと、
− テキスチャ付きまたはテキスチャなしの拡散性の外面と、
− 熱またはPVTの応用例で内側ガラスの裏側に施された任意選択の反射防止コーティングとの組合せとして説明することができる。
【0021】
太陽熱またはPVTシステムは、積層グレージングの後ろに取り付けられ、または積層グレージングに直接接着されるが、PVシステムは、積層グレージング内に完全に統合される。
【0022】
1.着色コーティング
着色コーティングを堆積させる基板の選択は、非常に重要である。太陽エネルギーシステムの最大効率を確保するために、基板は、高い日射透過率を提示しなければならず、したがって、太陽ロールガラス(solar roll glass)、極白色フロートガラス(extra−white float glass)(鉄の含有率が非常に低い)、またはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、フッ化炭素ポリマ(PFA、FEP、ETFE、PTFE...)などの高分子材料に対する可能性が制限される。表面の平坦性もまた、特にファサードの応用例にとって重要な問題である。干渉性コーティングの色の変動は不可視のはずなので、着色コーティングの堆積の場合、ガラスの性質の選択においてさらなる自由を与える極白色フロートガラスおよび高分子材料は、太陽ロールガラスより好ましい。
【0023】
透過層の多層干渉性スタックからなる着色コーティングは、高い日射透過率T
solを有していなければならない。したがって、コーティング内の吸収を最小にするべきであるため、好ましくは、誘電体酸化物が選択される。様々な可能性の中でも、SiO
2、Al
2O
3、MgO、ZnO、SnO
2、HfO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5、およびTiO
2などの材料は、たとえば、本明細書に記載する本発明に完全に適している。
【0024】
可視反射率R
visは、グレージングに当たる光が後方反射する割合であり、グレージングのマスキング特性に関する情報を提供する。このとき、この値は、太陽エネルギーシステムの技術的部材の良好なマスキング作用を可能にするのに十分なほど高いが、良好な日射透過率を確保するのに十分なほど低くなければならない。このとき、マスキング作用と太陽光デバイスの性能との間で良好な妥協点を見つけなければならない。本発明の文脈では、R
visは、4%より高くしなければならない。
【0025】
色の強度は、下式によって示される色の飽和度によって与えられる:
【数4】
上式で、a
*およびb
*は、昼光照明CIE−D65下のCIE色座標である。よく見える色を提供するために、色飽和度は、法線に近い反射角で8より高くなければならない。非常に飽和度の低い寒色および暖色にそれぞれ対応する灰色および茶色には、例外が設けられる。
【0026】
本明細書では、色の安定性に関して、4分の1波長の干渉スタックを修正して非対称の設計を得ることによって、2004年のPCT出願と比較すると改善がなされている。そのような修正の結果、大きい単一の反射ピークまたはいくつかの小さい反射ピークを特徴とする反射率曲線が得られた。このとき、多層コーティングは、反射率曲線の形状の関数として、以下のいずれかによって定義される色を反射する:
− 太陽スペクトルの可視部分内に位置する単一の反射率ピークの最大強度の波長。たとえば、
図5は、コーティングに対する黄緑色の支配色に対応する最大強度λ
max=570nmの法線入射(視角0°)における反射率曲線を表す。
− または、可視スペクトル領域内に位置する2つ以上の反射率ピークの波長の組合せ。たとえば、
図6は、スペクトルの可視部分内でそれぞれ413nm、534nm、および742nmに位置する3つのピークを有する法線入射における反射率曲線を示す。その結果得られる当該コーティングの支配色は、λ
D=500nm(緑色)に位置する。
【0027】
視角を増大させると、スペクトルの大部分の特徴は、λ
maxの位置、したがってコーティングの支配色の修正を含めて、より小さい波長へシフトする。例として、様々な反射角θ
r(0°〜85°)において黄緑色のコーティングと緑色のコーティングとの両方に対して得られる反射率曲線が、それぞれ
図7(a)および
図7(b)に与えられている。
【0028】
着色グレージングに良好な角度的な色の安定性を提供することは、建物の統合にとって非常に重要である。色の変動を回避または制限するために、強い努力がなされてきた。色の安定性の原理は、次のように説明することができる。概して、層の色Mは、その反射率曲線がどのような形状であっても、いくつかの色の混合と見なすことができる。
【0029】
より明確にするために、太陽スペクトルの可視部分内に2つの反射ピークを有し、これらの反射ピークの波長および色がそれぞれλ
1、C
1およびλ
2、C
2であることを特徴とする架空の着色層に関して説明する(
図8a参照)。色Mは、支配色M
Dによって定義され、支配色M
Dの波長λ
MDは、λ
1とλ
2との間に含まれ、その位置は、両反射ピークの相対強度に依存する(
図8b参照)。視角を増大させると、反射ピークはより短い波長へシフトする。点Mの位置を保持するために、C
1からC
1’へのシフトは、C
2からC
2’への同等のシフトならびに両ピークの相対強度の修正によって補償しなければならない。少なくとも、点Mは、線MM
Dによって定義される色区分上で維持しなければならない。その場合、コーティングの支配色は同じままである。この補償は、干渉性の着色コーティングスタックを構成する個々の層の材料の性質および厚さを注意深く選択することによって実現することができる。
【0030】
この原理から、3つ以上の反射ピークを特徴とするより複雑な設計を推定することができる(
図9参照)。
【0031】
この原理に基づく緑色の着色設計が、実施例2、実施例3、および実施例4に与えられている(
図10、
図11、
図12、
図13、
図14、
図15、ならびに表2、表3、および表4参照)。異なる反射角に対するこれらの3つのコーティングのCIE−D65イルミナント下の(x,y)色座標、可視反射率R
vis、日射透過率T
sol、主波長λ
MD、ならびに色M
Dおよび色飽和度C
ab*が与えられている。各設計に対する対応する色変動の図も示されている。各設計に対して、色および反射率のわずかな変動だけが(特に、最高60°のθ
rの場合)、高い日射透過率と組み合わせて観測される(最高60°で80%を上回る)。これらのコーティング設計に対して観測される支配色の波長の変動(実施例2の場合、0°〜60°で9nmの変動)は、2004年のPCT出願の設計(実施例1)のほぼ4分の1である。
【0032】
2004年のPCT出願[6]と比較した本明細書における別の利点は、比較的厚いSiO
2コーティングが、堆積速度のより速い他の酸化物によって置き換えられたことである。実際に、多層干渉性スタックは、産業規模では、インライン式のマグネトロンスパッタリングによって堆積される。低コストの生産のためには、副層の数および個々の層の厚さを制限しなければならない。
【0033】
様々な反射色(青色、黄緑色、黄色がかった橙色、灰色、および茶色)を有するコーティング設計の他の例が、実施例5〜9に与えられている(
図16〜25および表5〜9参照)。
【0034】
2.拡散面
着色積層グレージングの外面には、拡散面処理が施される。ガラス基板は、極白色フロートガラスまたは太陽ロールガラスとすることができる。極白色フロートガラスには、より良好な平坦性を有するという利点があり、ファサードの応用例にとって好ましい。また、どちらのタイプのガラスも、多種多様なテキスチャおよびパターンが外面に施された状態で市販されている。この種のガラスは、何らかの起伏を付加するため、屋根の応用例の場合はタイルの外観に近づけるために使用することができる。
【0035】
エッチング処理は、着色フィルタのマスキング作用を補強する拡散光透過率をもたらすために施される。また、エッチング処理には、建築家によって望まれることが多い無光沢の表面を作成し、グレア作用を防止するという利点がある。
【0036】
また、エッチング溶液の適当な組成物を選択することによって、処理済みのガラス表面上の好ましいマイクロ/ナノ構造により、反射防止特性を生じさせることができる。たとえば、緩衝溶液中における酸エッチングによるガラス表面の処理[13]によって、マイクロメートルの島とナノメートルの開口部とを組み合わせてどちらも均一に分散させた特定の構造が得られる。このようにしてその結果得られた低反射率のガラス表面は、本明細書に記載する太陽光の応用例に完全に適している。
【0037】
文献[14〜15]に基づいて、二フッ化水素アンモニウム(ABF)、水(H
2O)、イソプロパノール(IPA)、糖(スクロース、フルクトースなど)の成分のいくつかから構成されたエッチング溶液が開発された。これらの溶液は、広範囲の組成物にわたって、処理時間が20分未満の場合に特に効果的である。
【0038】
妥当な濃度範囲を有する効果的な溶液の例を以下に与える:
− 溶液1:10〜30重量%/20〜40重量%/残余という比率を有するABF/IPA/水の混合物。
− 溶液2:15〜25重量%/15〜40重量%/残余という比率を有するABF/スクロース/水の混合物。
【0039】
反射防止特性のため、処理済みのガラス表面に対して優れた透過率が得られる。処理済みのガラス表面で測定した半球の法線透過率は、未処理のガラスの場合が92%であるのに対して、約95%である(
図26参照)。
【0040】
図27a)および
図27b)は、それぞれABF/IPAベースのエッチング溶液(ABF/IPA/H
2O=30/10/60)およびABF/スクロースベースのエッチング溶液(ABF/スクロース/H
2O=18/18/64)によって構築されたガラス表面のSEM写真を提示する。どちらの写真も、同じエッチング時間(15分)および同じ倍率で撮影されたものである。第1の場合(
図27a)、表面は比較的平滑であり、表面全体に存在するナノ孔の接合部に由来するいくつかのマイクロ規模の凹凸を提示している。第2の場合(
図27b)、表面ははるかに粗い構造を特徴とし、ある種の角錐によって高密度で覆われている。これらの角錐は、約10μmの高さを有し、寸法がしばしば約100μm〜120μmの底面積は異なるタイプの多角形によって定義されており、顕著なナノ構造の側壁を有する。このとき、測定される日射透過率の利得は、マイクロ規模のパターニングとナノ規模の粗さ修正とを組み合わせたことに起因する反射防止特性によって説明することができる。
【0041】
3.焼き戻しおよび積層
コーティングの堆積およびエッチング後、異なるガラス窓は焼き戻しされる。着色コーティング(酸化物から作られる)と拡散面(主にSiO
2)とはどちらも非常に良好な熱安定性を提示するため、この熱処理の実行に対する制限はない。
【0042】
次いで、ガラス窓と、必要な場合は他の要素(コーティングされたポリマ膜、結晶シリコンセル...)とが、積層によってともに接合される。積層ポリマは、好ましくは、排他的ではないが、EVA(エチレン−ビニル−酢酸)などのエラストマ架橋生成物またはPVB(ポリビニルブチラール)などの熱可塑性生成物である。これらの生成物は、高い日射透過率、低い屈折率、およびガラスまたはポリマ窓に対する良好な接着性を特徴とする。
【0043】
両方の処理を組み合わせて行い、ファサードの応用例に対する安全性要件を満足させるだけでなく、いくつかの利点を提供する。まず、積層は、選択された構成(
図3および
図4参照)に応じてコーティングおよびエッチングに対して異なる供給連鎖を有する可能性を提供することができ、したがって大幅な時間の節約を提供することができる。さらに、着色コーティングをカプセル化して、熱収集器上に取り付けたときにグレージングの内側で水が凝縮することによるあらゆる色変化を回避する。
【0044】
別の利点は、積層グレージングの良好な機械強度であり、それによって次のことが提供される:
− 太陽熱またはPVTシステムより大きいグレージングを使用して、それをグレージングの裏面に直接接着し、したがって完全に隠すことが可能である。着色コーティングはカプセル化されているため、接着された収集器の枠に沿っていかなる色変化も生じさせることなく、そのような収集器を得ることができる(干渉性コーティングが積層ポリマまたは接着剤に直接接触している場合に当てはまる)。したがって、熱、PV、およびPVTシステムは、まったく同じ外観を有する。
− 太陽光デバイスを機械的に固定するためにガラスを使用することが可能である。
【0045】
これらの能力により、屋根およびファサードの設置に対してかなりの柔軟性を提供する多価の生成物を生成することが可能になる。例として、
図28は、着色積層グレージングの後ろに接着される熱太陽光システムの取付けに対する可能な変形形態を提示する。
図28a)では、太陽熱収集器は、収集器の枠より大きい積層グレージングの裏面に接着される。本明細書では、太陽熱収集器は、グレージングが重複した屋根上に取り付けられ、2つの重複するグレージング間の封止の存在によって防水が提供される。住居用のファサードまたはガラスファサードを有する大きな建物に対する通風孔付きのファサードにおける太陽熱収集器の取付けに対する異なる変形形態を、それぞれ
図28(b)および
図28(c)に示す。本明細書では、釣り金物、重複する翼部、封止などは、建築家の要望、建物のタイプおよび要件、国の地域文化などに適合可能とすることができる。
【0046】
当然ながら、同じ取付け構成は、光起電デバイスだけでなく、複合型(熱デバイスとPVデバイスとの組合せ)の屋根およびファサードの設置にも可能である。
【0047】
4.任意選択の反射防止コーティング
太陽熱デバイスの日射透過率を増大させるために、内側ガラスの裏側に反射防止コーティングを施すことができる(
図3参照)。
【0048】
実際には、ガラスの両側の反射率が4%になるため、最高品質のガラスに対して約92%という最大透過率の値を実現することができる。最善の場合、低い屈折率(1.52未満)を特徴とする反射防止コーティングを施すことによって、ガラス側の反射率を約3%低減させることができる。
【0049】
このとき、理論的には、着色積層グレージングの日射透過率を約3%増大させることができ、したがって干渉性の着色コーティングの存在による透過率の損失を補償することができる。
【0050】
参照文献
[1]H.A.McLeod、「Thin Film Optical Filters」、American−Elsevier、New York、1969年
[2]「International Commission on Illumination CIE.1986.Colorimetry」、CIE Publication 15.2.、第2版、ISBN3−900−734−00−3、Vienna
[3]「CIE Technical Report(2004) Colorimetry」、第3版、Publication 15、2004年
[4]M.Munari ProbstおよびC.Roecker、「Towards an improved architectural quality of building integrated solar thermal systems(BIST)」、Solar Energy、vol.81、2007年9月、1104〜1116頁
[5]A.Schuler、C.Roecker、J.L.Scartezzini、J.Boudaden、I.R.Videnovic、R.S.−C.Ho、P.Oelhafen、「Sol.Energy Mater」、Sol.Cells 84(2004年)、241頁
[6]J.Boudaden、R.S.C.Ho、P.Oelhafen、A.Schuler、C.Roecker、J.−L.Scartezzini、Solar Energy Materials & Solar Cells 84、225頁(2004年).
[7]A.Schuler、C.Roecker、J.Boudaden、P.Oelhafen、−J.L.Scartezzini、Solar Energy 79、122頁(2005年)
[8]A.Schuler、J.Boudaden、P.Oelhafen、E.De Chambrier、C.Roecker、J.−L.Scartezzini、Solar Energy Materials & Solar Cells 89、219頁(2005年)
[9]A.Schuler、PCT国際公開WO3004/079278A1(2004年)
[10]H.Niederprum、H.G.Klein、J.−N.Meussdoerffer、米国特許第4055458号(1977年).
[11]N.Enjo、K.Tamura、米国特許第4582624号(1986年)
[12]G.E.Blonder、B.H.Johnson、M.Hill、米国特許第5091053号(1992年)
[13]D.C.Zuel、J.−H.Lin、米国特許第5120605号(1992年)
[14]S.H.Gimm、J.H.Kim、米国特許第5281350号(1994年)
[15]H.Miwa、米国特許第7276181B2号(2007年)