特許第6242920号(P6242920)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242920
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】気相および液体−気体相ニトリル化法
(51)【国際特許分類】
   C07C 253/22 20060101AFI20171127BHJP
   C07C 255/03 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 255/07 20060101ALI20171127BHJP
   B01J 23/745 20060101ALI20171127BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20171127BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20171127BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20171127BHJP
【FI】
   C07C253/22
   C07C255/03
   C07C255/07
   B01J23/745 Z
   B01J35/10 301J
   B01J35/10 301G
   B01J37/04 101
   !C07B61/00 300
【請求項の数】15
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-558432(P2015-558432)
(86)(22)【出願日】2014年2月19日
(65)【公表番号】特表2016-513119(P2016-513119A)
(43)【公表日】2016年5月12日
(86)【国際出願番号】EP2014053213
(87)【国際公開番号】WO2014128154
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2016年11月24日
(31)【優先権主張番号】1351432
(32)【優先日】2013年2月20日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デュボワ,ジャン−リュック
(72)【発明者】
【氏名】メッキ−ベラッダ,アドリアン
(72)【発明者】
【氏名】アウロー,アリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ベンニーチ,シモーナ
【審査官】 奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−090250(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0178658(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 253/22
B01J 23/745
B01J 35/10
B01J 37/04
C07C 255/03
C07C 255/07
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相または気−液混合相において連続して動作する反応器中で、180から400℃の温度範囲で固体触媒の存在下アンモニアを反応させることにより、場合により不飽和である脂肪酸または脂肪酸エステルをニトリル化する方法であって、前記固体触媒は
− 酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化タンタルおよび酸化スズから選択される少なくとも1種の金属酸化物との混合物として、
− 少なくとも1種の金属酸化物を含むものであり、前記金属酸化物の金属は周期律表の8族に属し、
前記8族に属する金属の金属酸化物が、全金属酸化物の混合物の体積に対して0.1から0.6の体積比で存在する方法。
【請求項2】
前記触媒が、周期律表の8族に属する金属の金属酸化物として、少なくとも酸化第二鉄を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒が、酸化第二鉄(Fe)および五酸化ニオブ(Nb)を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記触媒が、酸化第二鉄(Fe)および酸化アルミニウム(Al)を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒が、酸化第二鉄(Fe)および酸化ジルコニウム(ZrO)を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記方法の反応剤が、以下の式
CH=CH−(CH−COOR
[式中、nは整数7または8を表し、およびRは水素原子又は1から4個の炭素原子を有するアルキル基のいずれかを表す。]
を有するω−不飽和酸またはエステルである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
反応温度が、200から300℃の範囲である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
− 酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化タンタルおよび酸化スズから選択される少なくとも1種の金属酸化物との混合物として、
− 少なくとも1種の金属酸化物を含み、前記金属酸化物の金属は、周期律表の8族に属するものである
固体触媒であって、
前記8族に属する金属の金属酸化物が、全金属酸化物の混合物の体積に対して0.1から0.6の体積比で存在し、
前記触媒の比表面積が10から500m/gの範囲であることを特徴とする、
固体触媒。
【請求項9】
周期律表の8族に属する金属の金属酸化物が酸化第二鉄である、請求項8に記載の触媒。
【請求項10】
酸化第二鉄(Fe)および五酸化ニオブ(Nb)を含む、請求項9に記載の触媒。
【請求項11】
酸化第二鉄(Fe)および酸化アルミニウム(Al)を含む、請求項9に記載の触媒。
【請求項12】
酸化第二鉄(Fe)および酸化ジルコニウム(ZrO)を含む、請求項9に記載の触媒。
【請求項13】
前記触媒が、細孔容積の20%未満が、2nm未満の直径を有する細孔内にあるような細孔径分布によって特徴付けられる、請求項8から12のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項14】
請求項8から13のいずれか一項に定義された触媒の調製方法であって、前記金属酸化物の機械的混合ステップを含む方法。
【請求項15】
脂肪酸エステルまたは脂肪酸のニトリル化方法のための、請求項8から13のいずれか一項に定義された触媒の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に至った仕事は、プロジェクトNo.241718EUROBIOREFの下のフレームワークプログラム7(FP7/2007〜2013)との関連で、欧州連合からの資金援助を受けた。
【0002】
本発明は、金属酸化物の混合物に基づく特定の固体触媒を用いて脂肪酸エステルまたは脂肪酸から出発する、気相中および液−気混合相中でのニトリル化(nitrilation)のための方法に向けられている。本発明はまた、特定の触媒、その製造方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
植物油または動物油から抽出された脂肪酸からニトリルおよび/または脂肪族アミンを製造する方法は公知である。この方法は、Kirk−Othmer百科事典第2巻、第4版、411頁に記載されている。脂肪族アミンは、いくつかの段階で得られる。最初のステップは、それぞれ、脂肪酸のメチルエステルまたは脂肪酸を生成する植物油または動物脂肪のメタノリシスまたは加水分解からなる。脂肪酸のメチルエステルは次いで加水分解され脂肪酸を形成する。次に、脂肪酸は、アンモニアとの反応によってニトリルに転化され、得られたニトリルを水素化することにより最終的にアミンに転化される。
【0004】
環境の観点からの現在の変化により、化学の分野では、再生可能資源に由来する天然原料の開発が好ましいとされつつある。これが、これらのニトリルを製造するための原料として脂肪酸/脂肪酸エステルを使用する方法を工業的に開発するためにいくつかの研究開発が再開された理由である。
【0005】
本発明は、使用される反応剤(場合によっては不飽和である)に依存して、酸官能基またはエステル官能基をニトリル化する方法に関する。
【0006】
脂肪酸からニトリルを合成するための反応スキームは次のように要約することができる。
【0007】
【化1】
【0008】
本発明の目的に対し、用語「ニトリル化」は脂肪酸または脂肪酸エステルとアンモニアとの反応を意味するよう意図され、それぞれ、COHまたはCOR官能基のCN官能基への転化をもたらされる。この反応がアンモニアを取込むことから、このニトリル化反応はアンモニア化とも呼ばれている。
【0009】
この反応スキームに基づいて2つのタイプの方法がある。即ち液体−気体(通常はバッチ)法および気相(通常は連続的)法である。
【0010】
液相バッチ法では、脂肪酸または脂肪酸の混合物は、通常は金属酸化物であり、最も一般的には酸化亜鉛である触媒と共に充填される。この反応媒体は攪拌しながら約150℃まで引き上げられ、その後、気体アンモニアを導入し始める。第1のステップでは、アンモニウム塩またはアンモニウム石鹸が形成される。次いで、反応媒体の温度をアンモニア導入下約250℃〜300℃に引き上げる。アンモニウム塩はアミドに転化され、最初の水分子が放出される。そして、第2のステップで触媒を使用して、アミドはニトリルに転化され、第二の水分子が形成される。形成された水は連続して反応器から除去される一方、反応しないアンモニアおよび少量の最も軽質な脂肪鎖が同伴される。液相法は、バッチ反応器を使用し、非常に長い反応時間、特に数時間、を必要とする。
【0011】
気相(連続)法では、供給原料は気化され、触媒の存在下、温度が250℃と600℃との間であるアンモニアと接触させられる。この触媒は、一般に、Zr、Ta、Ga、In、Sc、Nb、Hf、Fe、ZnもしくはSn等の金属の単独のもしくは混合物としての酸化物またはアルミナ、酸化トリウム、特にドープされたアルミナからなる金属酸化物の群から選択される。気相法は約300℃の温度で連続的に行われ、これらの条件下で接触時間は触媒上で約数秒である。それにもかかわらず、公知の触媒においては、温度が低下するとすぐに、転化率は降下し、従って高い転化率に戻すために平均接触時間を延ばすことが必要である。
【0012】
これらの反応は、それらの様々な形でUllmann百科事典第A2巻、20頁、Kirk−Othmer百科事典第2巻、第4版、411〜412頁に記載されており、特に花王により出願された多数の特許の対象となっている。チタン触媒の存在下で脂肪酸から脂肪族ニトリルを液相合成することを記載する、米国特許第6005134号明細書、同第6080891号明細書および同第7259274号明細書を挙げることができる。同じ出願人および同じタイプの方法に関し、ニオブ触媒を用いる特願平11−117990号(1999年4月26日)およびジルコニウム触媒を用いる特願平9−4965号(1997年1月14日)が注目され得る。グリセリドの液相ニトリル化を記載する米国特許第4801730号明細書およびニトリルの気相合成に向けられた1991年3月13日のライオン(株)名義の特許出願(特許第4283549号)も挙げることができる。
【0013】
出願人が行ってきた研究に際し、出願人は、ニトリル化ステップがω-不飽和酸に行われる場合は特に、ニトリル化ステップが重要な役割を果たしていることに気付いた。これは鎖末端の二重結合の位置(従ってほとんど保護されていない)が、二重結合の移動の結果としての異性体の形成を引き起こすからである。これらの現象を観察すると、この欠点は対応する酸よりもエステルとの協力によって大幅に制限することができ、この方法を「より穏やかな」条件下で実行することができることを見出した。これは、エステルの沸点は対応する酸の沸点より低いために、エステルによってより高い蒸気圧を達成することが可能であるからである。また、連続操作反応器中で、気相または液−気混合相で反応を実行することにより、触媒と接触する反応剤の滞留時間が従来の液(バッチ)相よりもはるかに短いことにより、この方法の間の異性化を制限できる。
【0014】
しかし、エステルから出発しても、反応は異性体の形成をもたらすことが注記されている。
【0015】
次のステップがメタセシスまたはヒドロホルミル化ステップである場合は、特に、このニトリル化ステップを制御することが重要である。これは、前記ステップが二重結合の転化に関連するからである。従って、ニトリル化反応によって脂肪鎖上の異なる位置に二重結合を有するいくつかのニトリルの形成がもたらされる場合、メタセシスまたはヒドロホルミル化反応は決まってニトリルの望ましくない異性体上のこのメタセシスまたはヒドロホルミル化から生じる望ましくない副生成物をもたらす。結果として、このタイプの合成に関して、二重結合が炭素鎖上を移動しないことが必須である。
【0016】
さらに、より良好な転化率およびより良好な収率をもたらす操作条件を探索する必要性が依然として存在する。
【0017】
実際、反応温度が低下すると、アミド、即ち、中間体化合物、のレベルがより多くなることが観察されている。
【0018】
同様に、反応剤がメチルエステルである場合、N−メチル化アミドが中間体化合物として生じ、この中間体アミドの形成によってニトリル化が阻止されることが観察された。また、この不純物はこのようにして得られたニトリルの潜在的な用途を制限する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第6005134号明細書
【特許文献2】米国特許第6080891号明細書
【特許文献3】米国特許第7259274号明細書
【特許文献4】特願平11−117990号
【特許文献5】特願平9−4965号
【特許文献6】米国特許第4801730号明細書
【特許文献7】特許第4283549号明細書
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Kirk−Othmer百科事典第2巻、第4版、411〜412頁
【非特許文献2】Ullmann百科事典第A2巻、20頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
このように、反応剤が飽和または不飽和の酸またはエステルであろうとなかろうと、より効率的な気相または液−気混合相のニトリル化法が求められている。求められた目的は、使用される反応剤が不飽和である場合、二重結合の移動に起因する副生成物の含有量を低下させ、使用される反応剤がメチルエステルである場合、中間体アミドのメチル化に起因する副生成物の含有量を減少させ、中間体アミドの含有量を減少させつつ、優れた転化率および優れた収率をもたらす方法を得ることである。
【0022】
最後に、使用エネルギーおよび触媒の点でより安価な方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の課題は、気相または液−気混合相において連続して動作する反応器中で、180から400℃の温度範囲で固体触媒の存在下アンモニアを反応させることにより、場合により不飽和である脂肪酸または脂肪酸エステルをニトリル化する方法であって、前記固体触媒は
− 酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化タンタルおよび酸化スズから選択される少なくとも1種の金属酸化物との混合物として、
− 少なくとも1種の金属酸化物を含むものであり、前記金属酸化物の金属は周期律表の8族に属し、
前記8族に属する金属の金属酸化物が、全金属酸化物の混合物の体積に対して0.1から0.6の体積比で存在する方法である。
【0024】
実際に、これらの特定の触媒の使用により、非常に短い平均接触時間で反応剤のニトリル化がもたらされることが観察された。例えば、1.5ml(触媒1〜2g)のアンモニアのベッドについて、1.6g/hのラウリン酸のニトリル化が200から300℃の範囲の温度で4.5秒で行われる。これらの反応速度論はバッチ反応器内での液相のニトリル化に必要な8から10時間と比較されるべきである。そのような操作条件下でのこのニトリル化反応の収率および転化率のように、比較的低い温度で得られるこれらの反応速度論は驚くべきことである。
【0025】
また、比較的低温で短い接触時間の間のメチルウンデシレン酸のニトリル化反応の間の二重結合の異性化が起こらなかったことが観察された。二重結合は酸またはエステルの炭素鎖に沿って移動するのに必要な時間またはエネルギーを持っていないようである。
【0026】
最後に、200℃および250℃の両方において、このニトリル化反応に関しては、たとえば、酸化鉄および酸化ジルコニウムのペアおよびジルコニア単独に対し、はるかに良い収率が観察された。Fe/ZrO混合物はジルコニア単独よりもはるかに安いので、この結果はこの方法が経済的に有利であることを示す。
【0027】
本発明はまた、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化タンタルおよび酸化スズから選択される少なくとも1種の金属酸化物との混合物として、少なくとも1種の金属酸化物を含む固体触媒であって、前記金属酸化物の金属は周期律表の8族に属し、前記8族に属する金属の金属酸化物が、全金属酸化物の混合物の体積に対して0.1から0.6の体積比で存在する固体触媒に関する。
【0028】
本発明は、この触媒を製造する方法およびニトリル化方法におけるこの触媒の使用にも関する。
【0029】
本発明の他の特徴、態様、目的および利点は、以下に続く明細書および実施例を読むと一層明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の体積比の値に関連して期待される効果の証拠を表す図である。
図2】本発明の体積比の値に関連して期待される効果の証拠を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
また、表現「aとbとの間」によって示される値のあらゆる範囲は、aを超えb未満の値の範囲を表し(すなわち、境界aおよびbは排除される)、一方表現「aからb」によって示される値のあらゆる範囲はaからbまでの値の範囲を意味する(つまり、厳しい境界aおよびbを含む)。
【0032】
本発明の目的にとって、用語「気−液混合相」は連続相としての液体および分散相としての気体または分散相としての液体および連続相としての気体を含む気−液混合流体を用いる方法を意味するよう意図される。液体が固定床内の触媒上に下降するモードにおいては、トリクルベッド構成があり、液体が上昇し、触媒が固定床内にあるモードにおいては、浸漬ベッド構成がある。反応器は流動床モードで動作させることもできる。この構成では、触媒は気体の流れによってだけでなく、液体原料の気化によって発生する大量の気体によっても、流動を保つ。
【0033】
ニトリル化方法
本発明は、気相または気−液混合相において連続して動作する反応器中で、180から400℃の温度範囲で、固体触媒の存在下アンモニアを反応させることにより、場合により不飽和である脂肪酸または脂肪酸エステルをニトリル化する方法であって、該固体触媒は、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化タンタルおよび酸化スズから選択される少なくとも1種の金属酸化物との混合物として、少なくとも1種の金属酸化物を含み、前記金属酸化物の金属は周期律表の8族に属し、前記8族に属する金属の金属酸化物が、全金属酸化物の混合物の体積に対して0.1から0.6の体積比で存在する方法に関する。
【0034】
本発明によるニトリル化方法の反応剤は脂肪酸またはエステルとすることができ、これらは場合により不飽和であり、好ましくはω−不飽和である。
【0035】
本発明の目的に対し、用語「脂肪」とは、8から36個の炭素原子を含む飽和または不飽和の直鎖状の炭素鎖を含む酸またはエステルを意味するよう意図される。好ましくは、本発明の方法に有用な酸およびエステルは、以下の式を有する。
CH=CH−(CH−COOR
式中、nは整数7または8を表し、およびRは水素原子又は、1から4個の炭素原子を有するアルキル基のいずれかを表す。
【0036】
好ましくは、本発明の方法は、供給原料として1分子あたり10個の炭素原子または11個の炭素原子のいずれかを含むω−不飽和酸またはエステルを使用する。最初のもの、特に9−デセン酸メチルは、会社ELEVANCE Renewable Sciencesによってエステルの形で販売されている。2番目のもの、特10−ウンデセン酸メチルは、ヒマシ油に基づく方法との関係で、アルケマ社により製造されており、メチルウンデシレネートは熱分解後に得られる。
【0037】
ニトリル化ステップは連続的に動作する反応器中、即ち、反応剤が気体、固体または液体起源であるかどうかにかかわらず、反応剤が、連続的に所定の流量に従って反応器内に導入される(そして製品が抽出される)反応器中で行われる。
【0038】
脂肪酸およびエステルのニトリル化方法は、180から400℃の範囲、好ましくは200から300℃の範囲、より好ましくは200から250℃の範囲の反応温度で行われる。場合により不飽和である脂肪酸またはエステルの供給原料は気化され、導入温度が150から600℃の範囲であるアンモニアと接触する際、180から350℃の範囲の温度にされる。
【0039】
反応器内の圧力は0.1から110気圧(絶対)、好ましくは0.5から5気圧、さらにより好ましくは1から3気圧の範囲にすることができる。
【0040】
反応剤のNH/脂肪酸エステルまたはNH/脂肪酸のモル比は1から50、好ましくは3から30、さらにより好ましくは5から20の範囲にすることができる。
【0041】
純粋な気相中
第1の実施形態では、2つの反応剤を気体状態(純粋な気相)で反応器に導入することができる。
【0042】
場合により不飽和である脂肪酸または脂肪酸エステルは気化され、0.1から10気圧(絶対)、好ましくは0.5から5気圧、さらにより好ましくは1から3気圧の範囲の圧力下、導入温度が150から600℃であるアンモニアと接触する際、180から350℃の範囲の温度にされる。
【0043】
反応剤を導入するための流量は、固体触媒との接触時間が1秒から300秒までの範囲であるようにされる。この場合には、接触時間は以下のように計算される比によって決定される:{触媒体積(リットル)×3600}/{[(エステルまたは酸の流量(モル/h)+アンモニアの流量(モル/h)]×22.4}=接触時間(秒)
【0044】
混合相中
好ましくは、混合相ニトリル化方法は脂肪酸を用いて行われる。
【0045】
他の実施形態(混合相)では、アンモニアは気体の形態で導入され、一方、酸は、場合により予熱後に、液体の一部が接触して気化される加熱された触媒床の上にフィルム(トリクルベッド)の形態で流れるように決定された流量で、少なくとも部分的に液体の形で触媒床に近い反応器内に導入される。反応または一連の反応は、触媒表面と接触して、またはそのすぐ近くにおいて起こる。この「トリクルベッド」技術は石油産業で周知であり、広く使用されている。アンモニアの流れは酸の流れに対し並流または向流であり得る。
【0046】
酸導入の流量は、反応器内の液相の平均接触時間が1時間未満、好ましくは30分未満であるようにされる。この接触時間は、次の計算:触媒体積(リットル)/酸の流量(毎時25℃での液体リットル)によって決定され、即ち液空間速度の逆数である。
【0047】
この実施形態では、並流モード、即ち、気体流および液体の流れが降下しているか、向流モード、即ち、気体の流れは上昇し、液体の流れは下降するモード、で作業することができる。後者の変形例が本発明の方法では好ましい。気体が上昇し、酸が下降する向流の型は、形成ニトリルの加水分解を制限するため特に有利であり得る。これは、この構成では、アンモニアは底部で注入され、水およびアルコールは頂部から出て、酸は頂部で入り、ニトリルは底部で出るからである。従って、底部では、ニトリルおよびアンモニアの濃度が高く、頂部では水およびアルコールの濃度が高く、アンモニアの濃度はより低い。よって、平衡、特にニトリルの加水分解(酸を復元する)の平衡をシフトすることができる。
【0048】
触媒
また、本発明の主題は固体触媒に関する。
【0049】
本発明に従う固体触媒は酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化タンタルおよび酸化スズから選択される少なくとも1種の金属酸化物との混合物として、少なくとも1種の金属酸化物を含み、前記金属酸化物の金属は周期律表の8族に属し、前記8族に属する金属の金属酸化物が、全金属酸化物の混合物の体積に対して0.1から0.6の体積比で存在する。
【0050】
好ましくは、周期律表の8族に属する金属の金属酸化物は酸化鉄である。これは、特に、FeO、FeおよびFeから選ばれる。周期律表の8族に属する金属の好ましい金属酸化物は酸化第二鉄、即ちFeである。
【0051】
好ましくは、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化タンタルおよび酸化スズから選択される金属酸化物は、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムおよび酸化ニオブから選択される。より特定的には、それらは酸化アルミニウム、即ち、Al、酸化ジルコニウム、即ち、ZrOおよび酸化ニオブ、即ち、Nbから選択される。
【0052】
これらの酸化物のいくつかは特定の結晶形態で存在する。好ましくは、使用されるアルミナは、商品名AL−3996でBASFにより販売されている、または会社AXENSおよびSasolにより販売されているガンマ−アルミナである。
【0053】
使用されるジルコニア(ZrO)は会社Norpro−StGobain、第一希元素株式会社、およびMELから販売されており、酸化ニオブ(Nb)は会社StarckおよびCBMMによって販売されており、鉄III酸化物水和物は、特にSigma−Aldrich社(FeO(OH))(触媒グレード、30〜50メッシュ破砕および篩かけ)により販売されている。
【0054】
好ましくは、本発明に従う固体触媒は、以下の組み合わせ、即ち五酸化ニオブ支持体(Nb)上の酸化第二鉄(Fe);酸化アルミニウム支持体(Al)上の酸化第二鉄(Fe);酸化ジルコニウム支持体(ZrO)上の酸化第二鉄(Fe)を含む。
【0055】
周期律表の8族に属する金属の金属酸化物の体積とすべての酸化物の混合物の体積との比は0.1から0.6である。
【0056】
好ましくは、酸化鉄/酸化アルミニウムペアの体積比は0.2から0.5である。
【0057】
好ましくは、酸化鉄/酸化ジルコニウムペアの体積比は0.2から0.5である。
【0058】
好ましくは、酸化鉄/酸化ニオブペアの体積比は0.2から0.5、特に0.25から0.4である。
【0059】
好ましくは、本発明に従う触媒は、10から500m/gの範囲、好ましくは40から300m/gの範囲、より好ましくは40から250m/gの範囲、特に40から200m/gの範囲の比表面積によって特徴付けられる。用語「BET(Brunauer、EmmettおよびTeller)比表面積」は材料1グラム当たりの利用可能な表面積を意味するよう意図される。この測定は検査される固体表面における気体の吸着に基づく。比表面積の測定は、ASTM D3663−84に従って行われる。
【0060】
好ましくは、触媒は、細孔容積の20%未満が、2nm未満、好ましくは3.5nm未満、さらにより好ましくは7nm未満の直径を有する細孔内にあるような細孔径分布によって特徴付けられる。細孔径は、細孔容積分布測定のための方法ASTM D4222−83(窒素吸着)および細孔径分布計算のための方法ASTM D4641−87に従って計算される。
【0061】
触媒は、ビーズ、押出物、ペレット、円筒形、またはポリローブ(polylobe)の形態で、または1以上の孔を有する中空円筒の形態で、または尾根に沿って切り欠きを有する円筒(これは粒子体積に対する粒子の外部表面積の比を大きくするため)の形態であってもよい。この基準は拡散的な制限を低減するために重要である。
【0062】
好ましくは、固定床触媒に対し、粒子は、それらの工業用途において1から8mm、好ましくは3から5mmのサイズを有する(この寸法はそれらの最大長さによる)。
【0063】
好ましくは、流動床触媒に対し、粒子は、それらの工業用途において40から300μmの平均サイズ、好ましくは80から150μmの平均サイズを有し、触媒は好ましくはマイクロビーズの形態である。
【0064】
触媒調製方法
触媒を調製する方法としていくつかの方法が適切であり得る。即ち、塩または塩の混合物の共沈;一般的に塩、酸化物または水酸化物の形の前駆体の混合;1つの化合物の、別の化合物による含浸、例えば、酸化鉄の前駆体を含む溶液による、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムまたは酸化ニオブの含浸;反応性粉砕、ここで2つの酸化物が高エネルギー粉砕によってよく混合され、それにより新たな化合物が形成される;または微粒化である。様々な形態の酸化物の前駆体を、特に、酸化物、硝酸塩、炭酸塩、塩化物、硫酸塩(オキシ硫酸塩を含む)、リン酸塩、有機金属化合物、酢酸塩またはアセチルアセトネートの形態で使用することができる。好適例では、オキシ硫酸ジルコニウムからの触媒の調製により、本発明の方法に適した触媒が得られる。
【0065】
本発明に係る金属酸化物の混合は、好ましくは機械的混合である。
【0066】
本発明の一実施形態によれば、酸化物は別々に、細かく、好ましくはその最大長に応じて1から8mmの範囲の粒径を達成するように粉砕され、次いで体積を測定して混合され、均質化される。
【0067】
最後に、本発明は、脂肪酸または脂肪酸エステルのニトリル化方法における上記で定義された触媒の使用に関する。
【0068】
以下の実施例は、本発明を説明するのに役立つが、本発明を全く限定するものではない。
【実施例】
【0069】
実施例で使用される触媒は以下の特性を有し、該特性は以下の表1に示される。
【0070】
【表1】
【0071】
実施例1:ラウリン酸メチルエステルについての試験
ラウリン酸メチルエステルについて試験を実施した。
【0072】
手順
アセンブリは、蠕動ポンプを介して液体状態のエステルが連続的に供給される蒸発室からなっていた。乾燥窒素の制御された流れが、エステルを同伴し、それを下の触媒床に搬送する。アンモニアの制御された流れは、ステンレス鋼フリット上に保持された直径8mm×30mmの円筒である触媒床で、エステル+窒素の流れに出会う。流出する流れは、ラウリン酸化合物(ニトリル、アミド、酸、メチルアミド等)を回収するために最初150〜170℃で凝結され、2度目は12℃で、次いで−77℃(ドライアイストラップを使用して)にされ、軽質化合物を凝結する。凝結物を除去し、エステル、ニトリル、および場合によりアミドおよびN−メチルアミドの濃度が算出されるGC−FIDおよびGC−MSにより分析する。
【0073】
金属酸化物を、別々に微粉砕し、次いで体積を測定して合わせ、均質化した。
【0074】
結果
1.FeおよびAl触媒を用いて
3つの異なる触媒、即ち、アルミナ単独Al、酸化鉄単独FeおよびFe/(Al+Fe)体積比0.5のAlおよびFeの混合物、を用いてこの実験を実施した。
【0075】
平均滞留時間は4.5秒である。転化率およびニトリル化の観点並びにN−メチル化副生成物の形成に関する結果を以下の表に、それぞれモル百分率で表した。
【0076】
1.1 200℃において
【0077】
【表2】
【0078】
比較的低い温度である200℃においてすら、本発明に従う触媒の混合物は、アルミナ単独で得られた値に対して計算して71%のニトリル化の増加をもたらし、酸化鉄単独で得られた値に対して計算して211%のニトリル化の増加をもたらすことが注目される。さらに、N−メチルアミドは形成されない。
【0079】
また、アルミナ単独に対して得られた結果と比較すると、転化量およびニトリル化量の間で得られた差がずっと小さく、このため本発明に従う触媒を用いて得られた低い副生成物含有率を示すことが注目される。
【0080】
1.2 250℃において
結果を下の表3および図1に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
これらの結果は、単独の触媒と比較して本発明に従う触媒に対し転化含有率およびニトリル化含有率における明確な改善を示す。
【0083】
結果として、この非常に短い滞留時間のために、200℃で得られた傾向、即ち、転化率およびニトリル化の点で良好な結果が示され、これら2つの値の間の差が非常にわずかであり、そのことは低い副生成物含有率を示す。N−メチルアミドの形成は制限され、純粋な化合物に対するよりも金属酸化物の混合物に対し低い。
【0084】
最後に、図1は本発明の体積比の値に関連して期待される効果の証拠を提供する。
【0085】
2.FeおよびZrO触媒を用いて
3つの異なる触媒、即ち、ジルコニア単独ZrO、酸化鉄単独FeおよびFe/(ZrO+Fe)体積比0.5のZrOおよびFeの混合物、を用いてこの実験を実施した。
【0086】
平均滞留時間は4.5秒である。転化率およびニトリル化の観点での結果を以下の表に、それぞれモル百分率で表した。
【0087】
2.1 200℃において
結果を以下の表4に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
また、本発明の触媒の混合物は、単独で使用された金属酸化物と比較しニトリル化の増加をもたらすことが注目される。
【0090】
2.2 250℃において
結果を以下の表5および図2に示す。
【0091】
【表5】
【0092】
これらの結果は、単独の触媒と比較して本発明に従う触媒に対し転化含有率およびニトリル化含有率における明確な改善を示す。
【0093】
結果として、この非常に短い滞留時間のために、転化率およびニトリル化の点で良好な結果が観察され、これら2つの値の間の差が非常にわずかであり、そのことは低い副生成物含有率を示す。
【0094】
最後に、図2は本発明の体積比の値に関連して期待される効果の証拠を提供する。
【0095】
実施例2:ウンデセン酸メチルエステルについての試験
Al支持体上のFe触媒を用いてウンデセン酸のメチルエステルに対し試験を実施した。手順は上記実施例1で示されたものと同じである。
【0096】
結果
3つの異なる触媒、即ち、アルミナ単独Al、酸化鉄単独FeおよびFe/(Al+Fe)体積比0.5のAl/Fe混合物、を用いてこの実験を実施した。
【0097】
平均滞留時間は4.5秒である。転化率およびニトリル化の観点での結果を以下の表に、それぞれモル百分率で表した。
【0098】
2.1 200℃において
結果を以下の表6に示す。
【0099】
【表6】
【0100】
比較的低い温度である200℃においてすら、本発明に従う触媒の混合物は、驚くべき予想外のニトリル化の増加をもたらすことが注目される。
【0101】
2.2 250℃において
結果を以下の表7に示す。
【0102】
【表7】
【0103】
これらの結果は、単独の触媒と比較して、本発明に従う触媒に対し、ニトリル化含有率における明確な改善を示す。
【0104】
これらの試験は、上記定義した混合物の比で先に定義した金属酸化物の混合物を含む、本発明の特定の触媒によって提供される予想外の驚くべき効果を示す。観察された転化率、観察されたニトリルの量は、単一の金属酸化物を含む触媒を用いて得られたものよりも高い。接触時間が非常に短く、数秒、即ち4.5秒と評価されていることはより一層驚くべきことである。
図1
図2