(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示のIII族窒化物半導体について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
(III族窒化物半導体について)
本開示のIII族窒化物半導体は、RAMO
4基板と、当該基板上に形成されたバッファ層と、バッファ層上に形成されたIII族窒化物結晶とを含む構造を有する。本開示のIII族窒化物半導体は、バッファ層が、InおよびIII族元素の窒化物を含むことを特徴とする。
【0013】
前述のように、RAMO
4基板上にIII族窒化物結晶を直接作製した場合、RAMO
4基板の構成元素の一部が、エピタキシャル成長中にIII族窒化物結晶に混入しやすい。そのため、III族窒化物の結晶性が低下しやすいとの課題が存在する。これに対し、本開示のように、RAMO
4基板上に、InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含むバッファ層を有すると、III族窒化物結晶中に、RAMO
4基板由来の元素が混入し難くなる。つまり、高品質なIII族窒化物結晶を有するIII族窒化物半導体とすることができる。
【0014】
以下、本開示の一実施形態に係るIII族窒化物半導体について、RAMO
4基板としてScAlMgO
4基板を用いた場合を例に説明するが、本開示に適用可能なRAMO
4基板は、ScAlMgO
4基板に限定されない。
【0015】
本開示の一実施形態に係るIII族窒化物半導体の概略断面を
図1に示す。III族窒化物半導体1は、ScAlMgO
4結晶からなるScAlMgO
4基板101と、ScAlMgO
4基板101上に形成され、InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含むバッファ層102と、バッファ層102上に形成されたIII族窒化物結晶103と、を有する。
【0016】
ここで、ScAlMgO
4基板101は
、ScAlMgO
4単結晶からなる基板である。ScAlMgO
4単結晶は、岩塩型構造のScO
2層と、六方晶構造のAlMgO
2層とが交互に積層された構造を有し、グラファイトや六方晶BNと同様の(0001)面(劈界面)にて劈開する性質を有する。本実施形態のIII族窒化物半導体のIII族窒化物結晶103は、当該ScAlMgO
4基板101の劈開面上にヘテロエピタキシャル成長させることで得られる。
【0017】
ScAlMgO
4は、III族窒化物であるGaNとの格子不整合度{(GaNの格子定数−ScAlMgO
4の格子定数)/GaNの格子定数}が−1.8%と小さい。格子不整合度の小ささは結晶欠陥低減に有効である。また、ScAlMgO
4とGaNとの熱膨張係数差{(GaNの熱膨張係数−ScAlMgO
4の熱膨張係数)/GaNの熱膨張係数}も、−10.9%程度と十分に小さい。したがって、このようなScAlMgO
4基板101を用いることで、低欠陥のIII族窒化物結晶103が形成される。
【0018】
本開示のIII族窒化物半導体における、ScAlMgO
4基板101の厚みは特に制限されず、III族窒化物半導体の用途に応じて適宜選択されるが、100〜1000μm程度であることが好ましく、300〜600μmであることがより好ましい。ScAlMgO
4基板101の厚みが当該範囲であると、ScAlMgO
4含有基板101の強度が十分に高まりやすく、III族窒化物結晶103の作製時に割れ等が生じ難い。また、ScAlMgO
4基板101の形状は、特に制限されないが、工業的な実用性を考慮すると、直径50〜150mm程度のウェハー状が好ましい。
【0019】
また、バッファ層102は、InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含む層であり、後述の実施例で示すように、InGaNで表わされる組成の化合物からなるアモルファス、単結晶または多結晶の層とすることができる。また、後述の実施例にも示すように、バッファ層102は、Alをさらに含むことが好ましく、InAlGaNで表わされる化合物からなるアモルファス、単結晶または多結晶の層であることがより好ましい。バッファ層102は、堆積時にアモルファス又は多結晶の状態である場合が多いが、バッファ層102上にIII族窒化物結晶103を形成する際に、その温度でバッファ層102のアモルファス又は多結晶が、再結晶及び粒成長により単結晶化することもある。
【0020】
InAlGaNをバッファ層102に用いることでScAlMgO
4基板101とIII族窒化物結晶103との格子不整合度を下げることが可能となる。
図2にGaN単結晶、InN単結晶、およびAlN単結晶のa軸の格子定数とバンドギャップエネルギーとの関係を示す。
図2の縦軸はバンドギャップエネルギー(eV)を示し、横軸はa軸格子定数(Å)を示す。また、点線にてScAlMgO
4のa軸の格子定数を示す。ScAlMgO
4のa軸の格子定数はGaN単結晶、InN単結晶、AlN単結晶のa軸格子定数が形作る三角形を通過している。つまり、バッファ層102におけるAl、In、Ga、Nのそれぞれの組成を調整することで、バッファ層102の格子定数をScAlMgO
4基板101の格子定数と近似させることができ、ひいてはScAlMgO
4基板101とIII族窒化物結晶103との格子不整合度を小さくできる。
【0021】
ここで、III族窒化物結晶中にScAlMgO
4基板由来のMgが拡散すると、III族窒化物結晶の結晶性の悪化、伝導度制御性低下などの問題が引き起こされやすい。これに対し、バッファ層102中のInの比率が増加すると、ScAlMgO
4が含むMgの拡散が効果的に防止される。ただし、バッファ層102中のInの比率が過度に増加すると、
図2に示すように、ScAlMgO
4基板101とバッファ層102との格子不整合度、ひいてはScAlMgO
4基板101とIII族窒化物結晶103との格子不整合度が増加する要因ともなる。そのため、III族窒化物結晶103の結晶性を保ちつつ、Mg拡散の抑制する上ではバッファ層102中のIn組成に上限が存在する。
【0022】
さらに、LED、LDデバイスの作製においてはバッファ層102中のIn組成を高くしすぎると、バンドギャップの縮小による吸収損失が発生してしまう。
【0023】
そこで、例えばIII族窒化物半導体を、一般に広く使用されている445nmの発光波長のLED、LDデバイスに用いたときに、吸収損失が小さくなるよう、バンドギャップエネルギーを設定することができる。すなわち、バッファ層102のバンドギャップエネルギーが2.8eV以上となるようIn組成を設定することができ、この場合、バッファ層102中のIn組成の上限は、50atm%以下とすることが好ましい。
【0024】
なお、In組成50atm%のInAlGaNとScAlMgO
4基板101との格子不整合度は約3.4%であり、ScAlMgO
4基板101とGaNとの格子不整合度である−1.8%よりも大きな値となる。しかしながら、In組成50atm%のInAlGaNはScAlMgO
4に対して格子定数が大きいが、このような値であれば、III族窒化物結晶103にクラック発生等が生じ難い。つまり、III族窒化物結晶103の結晶性に大きな問題を生じさせ難い。更に、サファイア基板とIII族窒化物結晶103との格子不整合度が約13.8%であることを鑑みると、当該InAlGaNとScAlMgO
4基板101との格子不整合度(約3.4%)は十分小さな値といえる。なお、バッファ層102におけるAlの組成は、82atm%以下であることが格子不整合度を小さくできるとの観点から好ましく、3atm%であることがより好ましい。
【0025】
また、バッファ層102とScAlMgO
4基板101との界面における欠陥密度は、上記格子不整合度とサファイア基板の欠陥密度とから求めることができる。具体的には、上記バッファ層102の格子不整合度は最大約3.4%である。これに対し、サファイア基板とGaNとの界面欠陥密度は1.0×10
11cm
2程度であり、格子不整合度は約13.8%である。そこで、これらの値から、バッファ層102とScAlMgO
4基板101との界面における欠陥密度は、最大でも6.0×10
9cm
−3程度{(1.0×10
11)/(13.8/3.4)
2}とすることができる。
【0026】
以上のことから、In組成が50atm%以下のInAlGaNを含むバッファ層102とすることで、吸収損失が小さく、III族窒化物結晶103へのMg拡散が十分に抑制された高品質なIII族窒化物半導体が得られる。なお、参考文献(AlInN系3元混晶の成長とInN/AlInN MQWs構造の作製評価、寺嶋他、電子情報通信学会技術研究報告.ED,電子デバイス 105(325),29−34,2005−10−06)にて報告されているInAlNのボーイングパラメーターを加味すると、バンドギャップエネルギーが2.8eVになる場合のIn組成は約40atm%である。したがって、バッファ層102をInAlGaNからなる層とする場合、In組成は40atm%以下であることが、より望ましいと考えられる。In組成をこのような範囲とすることで、エネルギーの吸収損失を抑制し、格子不整合度を小さくすることができる。
【0027】
次に、バッファ層102のIn組成の下限値について説明する。
図3に本実施形態のIII族窒化物のIII族窒化物半導体において、バッファ層中のIn含有量(組成)と、Mg濃度が1桁変化するIII族窒化物結晶103(ここでは、GaN)の厚みとの関係を示す。
図3の縦軸はIII族窒化物結晶103において、Mg濃度が1桁変化する厚み(nm)を表わし、横軸はバッファ層102中のIn組成(atm%)を表わす。
図3において、バッファ層102の厚みは20nmと全プロットで一定である。
図3より、In組成0.5atm%以上とすることで、Mg濃度が1桁変化するIII族窒化物結晶103(GaN厚み120nm以下とすることができる。デバイス作製におけるIII族窒化物結晶103の厚みは通常、数ミクロン程度である。これを考慮すると、Mg濃度が1桁変化するIII族窒化物結晶103の厚みが120nm以下であれば、III族窒化物結晶103の表面(
図1の103aで表される領域)にMgがほとんど現れない。つまり、バッファ層102に含まれるIn組成の下限を0.5atm%以上とすることで、十分にMg拡散の抑制効果を発揮することができ、III族窒化物半導体の上部に作製するデバイスへの影響を抑制できると考えられる。
【0028】
以上から、本実施形態において、バッファ層102は、Inを0.5atm%以上50atm%以下含むことが望ましい。また、バッファ層102の厚みは、5nm以上かつ1000nm以下であるのが望ましく、10nm以上100nm以下であることがさらに望ましい。
【0029】
一方、III族窒化物結晶103は、ScAlMgO
4基板101の劈開面上にバッファ層102を介してヘテロエピタキシャル成長することで形成される層であり、III族元素(例えばGa、Al、In、Tl、B、Sc等)の窒化物の結晶からなる層であり、好ましくはGaNである。
【0030】
ここで、III族窒化物結晶103におけるMg濃度は、III族窒化物結晶103の表面(
図1において103aで表される領域)とIII族窒化物結晶103のバッファ層102側の領域とで異なることが望ましい。III族窒化物結晶103のバッファ層102側の領域(III族窒化物結晶103のバッファ層102との界面近傍)とは、III族窒化物結晶103の厚み方向のうちバッファ層102側の10%程度の領域をいう。具体的には、III族窒化物結晶103の表面103aにおけるMg濃度が、III族窒化物結晶103のバッファ層102との界面近傍におけるMgの濃度より低いことが好ましく、III族窒化物結晶103の表面103aにおけるMg濃度が、III族窒化物結晶103とバッファ層102との界面におけるMgの濃度より1桁以上低いことが好ましい。III族窒化物結晶103内にドーピング等により不純物を添加しない場合は、不純物濃度が低いほど好ましいが、例えば、III族窒化物結晶103の表面103aにおけるMg濃度が、III族窒化物結晶103とバッファ層102との界面におけるMgの濃度より1桁以上かつ4桁以下低くてもよい。III族窒化物結晶103の表面のMg濃度、および、III族窒化物結晶103とバッファ層102との界面近傍のMg濃度は、それぞれ、SIMS分析(2次イオン質量分析)にて特定することができる。なお、Mgは、一般式RAMO
4で表される材料を構成するMの元素の一例である。すなわち、III族窒化物結晶103の表面103aにおける前記一般式にてMで表わされる元素の濃度が、III族窒化物結晶103のバッファ層102側の領域における前記Mで表される元素の濃度より低いことが望ましい。また、III族窒化物結晶103の表面103aにおける前記Mで表される元素の濃度が、III族窒化物結晶103とバッファ層102との界面において前記Mで表される元素の濃度より1桁以上低いことが好ましい。III族窒化物結晶103とバッファ層102との界面は、例えばSIMS分析において、(III族窒化物結晶103の厚み方向に)III族窒化物結晶103の表面103aからバッファ層102側へ向かってInの濃度勾配が急激に上昇する部分として特定することができる。なお、Mは、本来、RAMO
4基板からIII族窒化物結晶103側へ向かって拡散しようとするものであるから、III族窒化物結晶103中のMの濃度は、バッファ層102側から表面103a側に向かうにつれ減少する。このため、III族窒化物結晶103の厚み方向における表面103aに位置する領域のMの濃度は、バッファ層102側に位置する領域のMの濃度よりも低い。
【0031】
以上のように、本開示のIII族窒化物半導体では、III族窒化物のエピタキシャル成長時のScAlMgO
4基板101を構成する元素のIII族窒化物結晶103への拡散が、バッファ層102によって防止される。このため、高品質なIII族窒化物結晶103が得られる。また特に、III族窒化物中にMgが拡散すると、結晶性の悪化、伝導度制御性低下などの問題が引き起こされやすいが、本開示のIII族窒化物半導体では、ScAlMgO
4が含むMgの拡散が効果的に防止される。したがって、III族窒化物結晶103の結晶性の悪化及び伝導度制御性低下などが抑制される。また、バッファ層102によれば、種基板となるScAlMgO
4基板101を構成する元素の拡散が防止されるだけでなく、ヘテロエピタキシーにおける格子ミスフィットも改善される。
【0032】
(III族窒化物半導体の製造方法について)
本開示のIII族窒化物半導体の製造方法は特に制限されない。例えばバッファ層102およびIII族窒化物結晶103は、MOCVD法(MetalOrganic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長法)により、ScAlMgO
4基板101上に、III族窒化物をエピタキシャル成長させる方法とすることができる。
【0033】
MOCVD法によりバッファ層102やIII族窒化物結晶103を形成する場合、III族元素源として、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)、トリメチルアルミニウム(TMA)等を用いることができる。また、窒素源としてはアンモニア(NH
3)ガスを用いることができる。さらに、MOCVD法を行う際のキャリアガスとして、水素または窒素を用いることができる。
【0034】
MOCVD法を実施する前に、ScAlMgO
4基板101は、例えば1100℃にて10分間、水素雰囲気中にて熱クリーニングを行うことが好ましい。熱クリーニングを行うと、基板表面のカーボン系の汚れ等が除去される。クリーニング後に、ScAlMgO
4基板101の表面温度を、例えば425℃に下げる。そして、ScAlMgO
4基板101上に、MOCVD法にてInおよびIn以外のIII族元素の窒化物を堆積させて、バッファ層102を形成する。バッファ層102の形成は、通常400℃以上700℃未満の比較的低温で行うことができる。バッファ層102をこのような低温で形成すると、バッファ層102がアモルファスもしくは多結晶状の層となり、当該バッファ層102上に形成されるIII族窒化物結晶103に格子欠陥が生じ難くなる。バッファ層102の厚みおよび組成は、成膜時間及び原料の比率にて調整する。
【0035】
バッファ層102の成膜後、ScAlMgO
4基板101の温度を例えば1125℃へと昇温させ、III族窒化物をエピタキシャル成長させてIII族窒化物結晶103を得る。III族窒化物結晶103の厚みや組成についても、成膜時間および原料の比率により調整する。III族窒化物結晶103の形成温度は、700℃以上1300℃以下とすることができる。このような温度で、III族窒化物をエピタキシャル成長させると、格子欠陥の少ないIII族窒化物結晶103が得られやすくなる。
【0036】
(その他)
なお、本開示のIII族窒化物半導体では、上述のScAlMgO
4基板101を一般式RAMO
4で表されるほぼ単一結晶材料で構成してもよい。上記一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素(原子番号67〜71で表される元素)から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlから選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、MはMg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdから選択される一つまたは複数の二価の元素を表す。なお、ほぼ単一結晶材料とは、エピタキシャル成長面を構成するRAMO
4が90atm%以上含まれ、かつ、任意の結晶軸に注目したとき、エピタキシャル成長面のどの部分においてもその向きが同一であるような結晶質固体をいう。ただし、局所的に結晶軸の向きが変わっているものや、局所的な格子欠陥が含まれるものも、単結晶として扱う。なお、Oは酸素である。ただし、上記の通り、RはSc、AはAl、MはMgとするのが望ましい。
【0037】
また、前述のように、バッファ層102やIII族窒化物結晶103を構成するIII族元素は、ガリウム(Ga)が特に好ましいが、例えば、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、タリウム(Tl)等を1種類のみ用いてもよく、2種類以上併用しても良い。例えば、III族窒化物結晶103を構成する材料として、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、およびインジウム(In)からなる群から選択される少なくとも一つを用いても良い。この場合、製造されるIII族窒化物結晶103の組成は、Al
sGa
tIn
{1−(s+t)}N(ただし、0≦s≦1、0≦t≦1、s+t≦1)で表される。また、III族窒化物結晶103には、ドーパント材等を共存させてもよい。前記ドーパントとしては、特に限定されないが、酸化ゲルマニウム(例えばGe
2O
3、Ge
2O等)等が挙げられる。
【0038】
また、III族窒化物結晶103を形成する際の、エピタキシャル成長方法としてはMOCVD法の他に、HVPE法、OVPE法、スパッタ法、MBE法などを用いてもよい。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
実施例1として、ScAlMgO
4基板101と、当該ScAlMgO
4基板101上に形成され、3atm%のInを含み、かつ膜厚20nmの非晶質または多結晶のInGaNからなるバッファ層102と、当該バッファ層102上に形成され、GaNの単結晶からなる膜厚2μmのIII族窒化物結晶103と、を有するIII族窒化物半導体を作製した。なお、III族窒化物半導体は、前述の製造方法により作製し、III族窒化物結晶103成膜時の成長速度は3μm/時とした。
【0040】
実施例1のIII族窒化物半導体では、Inを含むバッファ層102によって、ScAlMgO
4基板101中のMgが、III族窒化物結晶103中に拡散することが抑制されている。
【0041】
(比較例)
上記実施例1において、Mgの拡散が抑制されていることを確認するため、比較用のIII族窒化物半導体を準備した。比較用のIII族窒化物半導体(以下、「比較用半導体」とも称する)の構成を
図4に示す。当該比較用半導体200として、ScAlMgO
4基板101と、当該ScAlMgO
4基板101上に形成された、Inを含まない膜厚20nmのGaNアモルファス層202と、当該GaNアモルファス層202上に形成され、膜厚2μmのGaNからなるIII族窒化物結晶203と、を有するIII族窒化物半導体を作製した。比較用半導体200のIII族窒化物結晶203は、GaNアモルファス層202を介して、ScAlMgO
4基板101上にエピタキシャル成長により形成された層である。
【0042】
(実施例1および比較例の比較)
比較用半導体について、SIMS分析(2次イオン質量分析)を行った結果を
図5に示す。当該SIMS分析によれば、ScAlMgO
4基板101からIII族窒化物結晶203中へのMg拡散が確認できる。
図5の縦軸は、SIMS分析で測定されたMgの強度(arb.Units)、すなわちMgの濃度を示し、横軸はIII族窒化物結晶203の表面203a側からの深さ(μm)を示す。ここでは、III族窒化物結晶203の、GaNアモルファス層202近傍の領域のデータを測定するために、膜厚2μmのIII族窒化物結晶203を表面203aからエッチングすることで0.25μmまで厚みを減らした後に、SIMS分析を実施している。
図5のグラフに示すように、比較用半導体200のIII族窒化物結晶203では、ScAlMgO
4基板101に近いほどMg濃度が高くなっている。つまり、比較用半導体200では、ScAlMgO
4基板101からIII族窒化物結晶203へのMg拡散が生じている。そして、当該比較用半導体200では、III族窒化物結晶203のMg強度が最も高い位置から、Mg強度がその1/10となるまで、厚み177nm程度必要であった。
【0043】
一方、実施例1のIII族窒化物半導体について、SIMS分析した結果を
図6に示す。
図6の左側の縦軸はMgの強度(arb.Units)を示し、右側の縦軸は、Inの強度(cts/sec)を示す。また、横軸はIII族窒化物結晶103の表面103a側からの深さ(μm)を示す。ここではIII族窒化物結晶103のバッファ層102近傍の領域のデータを測定するために、膜厚2μmのIII族窒化物結晶103を表面103aからエッチングすることで0.25μmまで厚みを減らした後に、SIMS分析を実施している。実施例1のIII族窒化物半導体においても、III族窒化物結晶103において、ScAlMgO
4基板101に近いほどMg濃度が高くなっている。つまり、III族窒化物結晶103中へのMg拡散が確認される。ただし、III族窒化物結晶103のMg強度が最も高い位置から、Mg強度がその1/10となるまでに必要な厚みが、約31nmであり、比較用半導体より、大幅にMgの拡散が抑制されているといえる。
【0044】
これらの結果から、バッファ層102にInおよびIn以外のIII族元素(Ga)の窒化物(InGaN)を含むことで、ScAlMgO
4基板101上に形成するIII族窒化物結晶103へのMg拡散を抑制できることが明らかである。したがって、本実施形態のIII族窒化物半導体では、III族窒化物結晶103(GaNエピタキシャル膜)の結晶性が良好であり、当該III族窒化物半導体によれば、伝導度制御性向上などが容易に可能となるといえる。
【0045】
ここで、
図7に実施例1のIII族窒化物結晶103の室温における表面103aのカソードルミネッセンス(CL)評価結果を示す。ここでは、実施例1のIII族窒化物結晶103の厚みは2μmである。CLにおける加速電圧は5kV、照射電流は5nAとした。
図7において、暗点として観測される領域が、結晶に転位が生じている箇所といえる。当該評価結果から転位を見積もったところ、転位密度は6.0×10
7cm
−2であった。一方、従来のサファイア基板を種基板としてその上にエピタキシャル成長させたIII族窒化物結晶体の転位密度は通常1×10
10〜1×10
11cm
−2程度である。つまり、実施例1では、転位密度の少ないIII族窒化物結晶103が得られていることがわかる。
【0046】
なお、実施例1のIII族窒化物半導体では、ScAlMgO
4基板101とIII族窒化物結晶103(GaN)との格子不整合度が約−1.4%である。当該格子不整合度を、バッファ層102の組成を調整することで、一般的なGaNとScAlMgO
4基板との格子不整合度−1.8%の10分の1程度に調整できれば、転位密度を1.0×10
6cm
−2{(6.0×10
7)/(−1.4/−0.18)
2}程度まで低減することが可能である。
【0047】
(実施例2)
実施例2として、ScAlMgO
4基板101と、当該ScAlMgO
4基板101上に形成され、1.5atm%のInを含み、かつ膜厚20nmの非晶質または多結晶のInGaNからなるバッファ層102と、当該バッファ層102上に形成され、GaNの単結晶からなる、膜厚2μmのIII族窒化物結晶103と、を有するIII族窒化物半導体を作製した。
【0048】
図8に、第2の実施形態のSIMS分析結果を示す。
図8の左側の縦軸はMgの強度(arb.Units)を示し、右側の縦軸は、Inの強度(cts/sec)を示す。また、横軸はIII族窒化物結晶103の表面103aからの深さ(μm)を示す。ここでは、III族窒化物結晶103のバッファ層102近傍の領域のデータを測定するために、膜厚2μmのIII族窒化物結晶103を表面103aからエッチングすることで0.25μmまで厚みを減らした後に、SIMS分析を実施している。実施例2においても、III族窒化物結晶103において、ScAlMgO
4基板101に近いほどMg濃度が高くなっている。つまり、III族窒化物結晶103中へのMg拡散が確認される。ただし、III族窒化物結晶103のMg強度が最も高い位置から、Mg強度がその1/10となるまでに必要な厚みが、約53nmであることから、前述の比較用半導体と比較して、大幅にMgの拡散が抑制されているといえる。つまり、バッファ層102のIn組成が1.5atm%の場合でも、Mgの拡散抑制効果が得られることがわかる。
【0049】
(実施例3)
実施例3として、ScAlMgO
4基板101と、当該ScAlMgO
4基板101上に形成され、3atm%のInを含み、かつ膜厚10nmの非晶質または多結晶のInGaNからなるバッファ層102と、当該バッファ層102上に形成され、GaNの単結晶からなる、膜厚2μmのIII族窒化物結晶103と、を有するIII族窒化物半導体を作製した。
【0050】
図9に、第3の実施形態のSIMS分析結果を示す。
図9の左側の縦軸はMgの強度(arb.Units)を示し、右側の縦軸は、Inの強度(cts/sec)を示す。また、横軸はIII族窒化物結晶103の表面103aからの深さ(μm)を示す。ここでは、バッファ層102近傍の領域のデータを測定するために、膜厚2μmのIII族窒化物結晶103を表面103aからエッチングすることで0.25μmまで厚みを減らした後に、SIMS分析を実施している。実施例3でも、III族窒化物結晶103において、ScAlMgO
4基板101に近いほどMg濃度が高くなっている。つまり、III族窒化物結晶103中へのMg拡散が確認される。ただし、III族窒化物結晶103のMg強度が最も高い位置から、Mg強度がその1/10となるまでに必要な厚みが、約80nmであることから、前述の比較用半導体と比較して、大幅にMgの拡散が抑制されているといえる。つまり、バッファ層102の厚みが10nmと比較的薄い場合でも、Mgの拡散抑制効果が得られる。
【0051】
(実施例4)
第4の実施形態のIII族窒化物半導体は、ScAlMgO
4基板101と、当該ScAlMgO
4基板101上に形成され、1atm%のIn及び3atm%のAlを含み、かつ厚み10nmの非晶質または多結晶のInGaAlNからなるバッファ層102と、当該バッファ層102上に形成されたGaNの単結晶からなる、膜厚2μmのIII族窒化物結晶103と、を有する。
【0052】
図10に第4の実施形態のSIMS分析結果を示す。
図10の左側の縦軸はMgの強度(arb.Units)を示し、右側の縦軸は、Inの強度(cts/sec)を示す。また、横軸はIII族窒化物結晶103の表面103aからの深さ(μm)を示す。ここでは、III族窒化物結晶103のバッファ層102近傍の領域のデータを測定するために、膜厚2μmのIII族窒化物結晶103を表面103aからエッチングすることで0.25μmまで厚みを減らした後に、SIMS分析を実施している。実施例4でも、III族窒化物結晶103において、ScAlMgO
4基板101に近いほどMg濃度が高くなっている。つまり、III族窒化物結晶103中へのMg拡散が確認される。ただし、III族窒化物結晶103のMg強度が最も高い位置から、Mg強度がその1/10となるまでに必要な厚みが、約33nmであり、Al添加によりMg拡散に大きな影響はなかった。
なお、実施例1〜4において、Mgは、本来、ScAlMgO
4基板101からIII族窒化物結晶103側へ向かって拡散しようとするものであるから、III族窒化物結晶103中のMgの濃度は、バッファ層102側から表面103a側に向かうにつれ減少する。このため、III族窒化物結晶103の表面103aのMgの濃度は、バッファ層102側に位置する領域のMgの濃度よりも低くなる。