特許第6242941号(P6242941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242941
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】III族窒化物半導体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20171127BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20171127BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20171127BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20171127BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   H01L21/205
   C23C16/34
   C30B29/38 D
   C30B25/18
   H01L21/20
【請求項の数】14
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-101456(P2016-101456)
(22)【出願日】2016年5月20日
(65)【公開番号】特開2017-208502(P2017-208502A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2016年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】上田 章雄
(72)【発明者】
【氏名】石橋 明彦
【審査官】 河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−544436(JP,A)
【文献】 特表2013−542608(JP,A)
【文献】 特開2012−227456(JP,A)
【文献】 特開2007−335484(JP,A)
【文献】 特開昭61−234547(JP,A)
【文献】 特開昭49−033556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/34
C30B 25/18
C30B 29/38
H01L 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式RAMOで表される単結晶体(一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素からなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlからなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdからなる群から選択される一つまたは複数の二価の元素を表す)からなるRAMO基板と、
前記RAMO基板上に形成され、InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含む層と、
前記InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含む層上に形成された、III族窒化物結晶と、を有し、
前記InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含む層は、前記一般式にてMで表される元素の、前記RAMO基板側から前記III族窒化物結晶側への拡散を抑制するための、バリア能を有する層である、
III族窒化物半導体。
【請求項2】
一般式RAMOで表される単結晶体(一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素からなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlからなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdからなる群から選択される一つまたは複数の二価の元素を表す)からなるRAMO基板と、
前記RAMO基板上に形成され、InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含む層と、
前記InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含む層上に形成された、III族窒化物結晶と、を有し、
前記InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含む層は、Inを0.5atm%以上含、III族窒化物半導体。
【請求項3】
前記RはSc、前記AはAl、前記MはMgである、
請求項1又は2に記載のIII族窒化物半導体。
【請求項4】
前記InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含む層は、Alを更に含む、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体。
【請求項5】
前記III族窒化物結晶は、GaNである、
請求項1〜4のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体。
【請求項6】
前記InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含む層の厚みは、5nm以上かつ1000nm以下である、
請求項1〜5のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体。
【請求項7】
前記III族窒化物結晶の表面における前記一般式にてMで表わされる元素の濃度が、前記III族窒化物結晶の前記InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含む層側の領域における前記Mで表される元素の濃度より低い、
請求項1〜6のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体。
【請求項8】
前記III族窒化物結晶の表面における前記Mで表される元素の濃度が、前記III族窒化物結晶と前記InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含む層との界面における前記Mで表される元素の濃度より1桁以上低い、
請求項7に記載のIII族窒化物半導体。
【請求項9】
前記InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含む層は、Inを1atm%以上3atm%以下含む、
請求項1〜8のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体。
【請求項10】
一般式RAMOで表される単結晶体(一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素からなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlからなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdからなる群から選択される一つまたは複数の二価の元素を表す)からなるRAMO基板を準備する工程と、
InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含む層を前記RAMO基板上に形成する工程と、
前記InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含む層上にIII族窒化物結晶を形成する工程と、を含み、
前記InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含む層は、前記一般式にてMで表される元素の、前記RAMO基板側から前記III族窒化物結晶側への拡散を抑制するための、バリア能を有する層である、III族窒化物半導体の製造方法。
【請求項11】
一般式RAMOで表される単結晶体(一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素からなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlからなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdからなる群から選択される一つまたは複数の二価の元素を表す)からなるRAMO基板を準備する工程と、
InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含む層を前記RAMO基板上に形成する工程と、
前記InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含む層上にIII族窒化物結晶を形成する工程と、を含み、
前記InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含む層は、Inを0.5atm%以上含、III族窒化物半導体の製造方法。
【請求項12】
前記InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含む層は、Alを更に含む、
請求項10又は11に記載のIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項13】
前記RはSc、前記AはAl、前記MはMgである、
請求項1012のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項14】
前記III族窒化物結晶は、GaNである、
請求項1013のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はIII族窒化物半導体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体はIII族元素であるGa、Al、Inなどの組成を変化させることで広いバンドギャップをカバーできることからLED(発光ダイオード)、LD(半導体レーザ)などの光半導体デバイス、高周波、高出力用途の電子デバイス等に広く使用されている。一般的にこれらのデバイスはサファイア基板上にIII族窒化物結晶をエピタキシャル成長させることで作製される。
【0003】
しかしながら、サファイア基板とIII族窒化物半導体であるGaN結晶との格子不整合度{(GaNの格子定数−サファイアの格子定数)/GaNの格子定数}は13.8%であり、エピタキシャル成長させたIII族窒化物結晶の欠陥密度が高い。したがって、当該III族窒化物半導体を用いたデバイスの特性が制限されるとの課題があった。
【0004】
このような課題に対し、上記III族窒化物結晶の欠陥密度の低減を目的とし、ScAlMgOからなる基板上にGaNをエピタキシャル成長させる技術が提案されている(特許文献1)。ScAlMgOは、GaNとの格子不整合度{(GaNの格子定数−ScAlMgOの格子定数)/GaNの格子定数}が−1.8%と小さい。そこで、ScAlMgOに代表される、RAMOで表される単結晶体(一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素からなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlからなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdからなる群から選択される一つまたは複数の二価の元素を表す)からなる基板(以下、「RAMO基板」とも称する)を、III族窒化物結晶のエピタキシャル成長用基板としたIII族窒化物半導体を、各種デバイスに展開することが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−178448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、RAMO結晶からなる基板をIII族窒化物半導体に用いると、基板の構成元素の一部が、III族窒化物の結晶内に混入してしまい、III族窒化物の結晶性を低下させてしまうとの課題がある。
【0007】
本開示は、以上の課題を解決すべくなされたものであり、高品質なIII族窒化物半導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示に係る態様は、一般式RAMOで表される単結晶体(一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素からなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlからなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdからなる群から選択される一つまたは複数の二価の元素を表す)からなるRAMO基板と、前記RAMO基板上に形成され、In及びIn以外のIII族元素の窒化物を含むバッファ層と、前記バッファ層上に形成された、III族窒化物結晶と、を有するIII族窒化物半導体を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、高品質なIII族窒化物半導体を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示のIII族窒化物半導体の概略断面図
図2】本開示の一実施の形態におけるIII族窒化物半導体のバンドギャップエネルギーと、格子定数との関係を示した図
図3】本開示の一実施の形態において、バッファ層中のIn含有量と、III族窒化物結晶のMg濃度が1桁変化する厚みとの関係を示した図
図4】比較例におけるIII族窒化物半導体の図
図5】比較例におけるIII族窒化物半導体内内でのMgの濃度変化を示した図
図6】実施例1におけるIII族窒化物半導体内でのMgの濃度変化およびInの濃度変化を示した図
図7】実施例1におけるIII族窒化物半導体の表面カソードルミネッセンスの結果を示した図
図8】実施例2におけるIII族窒化物半導体内でのMgの濃度変化およびInの濃度変化を示した図
図9】実施例3におけるIII族窒化物半導体内のMgの濃度変化およびInの濃度変化を示した図
図10】実施例4におけるIII族窒化物半導体内でのMgの濃度変化およびInの濃度変化を示した図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示のIII族窒化物半導体について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
(III族窒化物半導体について)
本開示のIII族窒化物半導体は、RAMO基板と、当該基板上に形成されたバッファ層と、バッファ層上に形成されたIII族窒化物結晶とを含む構造を有する。本開示のIII族窒化物半導体は、バッファ層が、InおよびIII族元素の窒化物を含むことを特徴とする。
【0013】
前述のように、RAMO基板上にIII族窒化物結晶を直接作製した場合、RAMO基板の構成元素の一部が、エピタキシャル成長中にIII族窒化物結晶に混入しやすい。そのため、III族窒化物の結晶性が低下しやすいとの課題が存在する。これに対し、本開示のように、RAMO基板上に、InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含むバッファ層を有すると、III族窒化物結晶中に、RAMO基板由来の元素が混入し難くなる。つまり、高品質なIII族窒化物結晶を有するIII族窒化物半導体とすることができる。
【0014】
以下、本開示の一実施形態に係るIII族窒化物半導体について、RAMO基板としてScAlMgO基板を用いた場合を例に説明するが、本開示に適用可能なRAMO基板は、ScAlMgO基板に限定されない。
【0015】
本開示の一実施形態に係るIII族窒化物半導体の概略断面を図1に示す。III族窒化物半導体1は、ScAlMgO結晶からなるScAlMgO基板101と、ScAlMgO基板101上に形成され、InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含むバッファ層102と、バッファ層102上に形成されたIII族窒化物結晶103と、を有する。
【0016】
ここで、ScAlMgO基板101はScAlMgO単結晶からなる基板である。ScAlMgO単結晶は、岩塩型構造のScO層と、六方晶構造のAlMgO層とが交互に積層された構造を有し、グラファイトや六方晶BNと同様の(0001)面(劈界面)にて劈開する性質を有する。本実施形態のIII族窒化物半導体のIII族窒化物結晶103は、当該ScAlMgO基板101の劈開面上にヘテロエピタキシャル成長させることで得られる。
【0017】
ScAlMgOは、III族窒化物であるGaNとの格子不整合度{(GaNの格子定数−ScAlMgOの格子定数)/GaNの格子定数}が−1.8%と小さい。格子不整合度の小ささは結晶欠陥低減に有効である。また、ScAlMgOとGaNとの熱膨張係数差{(GaNの熱膨張係数−ScAlMgOの熱膨張係数)/GaNの熱膨張係数}も、−10.9%程度と十分に小さい。したがって、このようなScAlMgO基板101を用いることで、低欠陥のIII族窒化物結晶103が形成される。
【0018】
本開示のIII族窒化物半導体における、ScAlMgO基板101の厚みは特に制限されず、III族窒化物半導体の用途に応じて適宜選択されるが、100〜1000μm程度であることが好ましく、300〜600μmであることがより好ましい。ScAlMgO基板101の厚みが当該範囲であると、ScAlMgO含有基板101の強度が十分に高まりやすく、III族窒化物結晶103の作製時に割れ等が生じ難い。また、ScAlMgO基板101の形状は、特に制限されないが、工業的な実用性を考慮すると、直径50〜150mm程度のウェハー状が好ましい。
【0019】
また、バッファ層102は、InおよびIn以外のIII族元素の窒化物を含む層であり、後述の実施例で示すように、InGaNで表わされる組成の化合物からなるアモルファス、単結晶または多結晶の層とすることができる。また、後述の実施例にも示すように、バッファ層102は、Alをさらに含むことが好ましく、InAlGaNで表わされる化合物からなるアモルファス、単結晶または多結晶の層であることがより好ましい。バッファ層102は、堆積時にアモルファス又は多結晶の状態である場合が多いが、バッファ層102上にIII族窒化物結晶103を形成する際に、その温度でバッファ層102のアモルファス又は多結晶が、再結晶及び粒成長により単結晶化することもある。
【0020】
InAlGaNをバッファ層102に用いることでScAlMgO基板101とIII族窒化物結晶103との格子不整合度を下げることが可能となる。図2にGaN単結晶、InN単結晶、およびAlN単結晶のa軸の格子定数とバンドギャップエネルギーとの関係を示す。図2の縦軸はバンドギャップエネルギー(eV)を示し、横軸はa軸格子定数(Å)を示す。また、点線にてScAlMgOのa軸の格子定数を示す。ScAlMgOのa軸の格子定数はGaN単結晶、InN単結晶、AlN単結晶のa軸格子定数が形作る三角形を通過している。つまり、バッファ層102におけるAl、In、Ga、Nのそれぞれの組成を調整することで、バッファ層102の格子定数をScAlMgO基板101の格子定数と近似させることができ、ひいてはScAlMgO基板101とIII族窒化物結晶103との格子不整合度を小さくできる。
【0021】
ここで、III族窒化物結晶中にScAlMgO基板由来のMgが拡散すると、III族窒化物結晶の結晶性の悪化、伝導度制御性低下などの問題が引き起こされやすい。これに対し、バッファ層102中のInの比率が増加すると、ScAlMgOが含むMgの拡散が効果的に防止される。ただし、バッファ層102中のInの比率が過度に増加すると、図2に示すように、ScAlMgO基板101とバッファ層102との格子不整合度、ひいてはScAlMgO基板101とIII族窒化物結晶103との格子不整合度が増加する要因ともなる。そのため、III族窒化物結晶103の結晶性を保ちつつ、Mg拡散の抑制する上ではバッファ層102中のIn組成に上限が存在する。
【0022】
さらに、LED、LDデバイスの作製においてはバッファ層102中のIn組成を高くしすぎると、バンドギャップの縮小による吸収損失が発生してしまう。
【0023】
そこで、例えばIII族窒化物半導体を、一般に広く使用されている445nmの発光波長のLED、LDデバイスに用いたときに、吸収損失が小さくなるよう、バンドギャップエネルギーを設定することができる。すなわち、バッファ層102のバンドギャップエネルギーが2.8eV以上となるようIn組成を設定することができ、この場合、バッファ層102中のIn組成の上限は、50atm%以下とすることが好ましい。
【0024】
なお、In組成50atm%のInAlGaNとScAlMgO基板101との格子不整合度は約3.4%であり、ScAlMgO基板101とGaNとの格子不整合度である−1.8%よりも大きな値となる。しかしながら、In組成50atm%のInAlGaNはScAlMgOに対して格子定数が大きいが、このような値であれば、III族窒化物結晶103にクラック発生等が生じ難い。つまり、III族窒化物結晶103の結晶性に大きな問題を生じさせ難い。更に、サファイア基板とIII族窒化物結晶103との格子不整合度が約13.8%であることを鑑みると、当該InAlGaNとScAlMgO基板101との格子不整合度(約3.4%)は十分小さな値といえる。なお、バッファ層102におけるAlの組成は、82atm%以下であることが格子不整合度を小さくできるとの観点から好ましく、3atm%であることがより好ましい。
【0025】
また、バッファ層102とScAlMgO基板101との界面における欠陥密度は、上記格子不整合度とサファイア基板の欠陥密度とから求めることができる。具体的には、上記バッファ層102の格子不整合度は最大約3.4%である。これに対し、サファイア基板とGaNとの界面欠陥密度は1.0×1011cm程度であり、格子不整合度は約13.8%である。そこで、これらの値から、バッファ層102とScAlMgO基板101との界面における欠陥密度は、最大でも6.0×10cm−3程度{(1.0×1011)/(13.8/3.4)}とすることができる。
【0026】
以上のことから、In組成が50atm%以下のInAlGaNを含むバッファ層102とすることで、吸収損失が小さく、III族窒化物結晶103へのMg拡散が十分に抑制された高品質なIII族窒化物半導体が得られる。なお、参考文献(AlInN系3元混晶の成長とInN/AlInN MQWs構造の作製評価、寺嶋他、電子情報通信学会技術研究報告.ED,電子デバイス 105(325),29−34,2005−10−06)にて報告されているInAlNのボーイングパラメーターを加味すると、バンドギャップエネルギーが2.8eVになる場合のIn組成は約40atm%である。したがって、バッファ層102をInAlGaNからなる層とする場合、In組成は40atm%以下であることが、より望ましいと考えられる。In組成をこのような範囲とすることで、エネルギーの吸収損失を抑制し、格子不整合度を小さくすることができる。
【0027】
次に、バッファ層102のIn組成の下限値について説明する。図3に本実施形態のIII族窒化物のIII族窒化物半導体において、バッファ層中のIn含有量(組成)と、Mg濃度が1桁変化するIII族窒化物結晶103(ここでは、GaN)の厚みとの関係を示す。図3の縦軸はIII族窒化物結晶103において、Mg濃度が1桁変化する厚み(nm)を表わし、横軸はバッファ層102中のIn組成(atm%)を表わす。図3において、バッファ層102の厚みは20nmと全プロットで一定である。図3より、In組成0.5atm%以上とすることで、Mg濃度が1桁変化するIII族窒化物結晶103(GaN厚み120nm以下とすることができる。デバイス作製におけるIII族窒化物結晶103の厚みは通常、数ミクロン程度である。これを考慮すると、Mg濃度が1桁変化するIII族窒化物結晶103の厚みが120nm以下であれば、III族窒化物結晶103の表面(図1の103aで表される領域)にMgがほとんど現れない。つまり、バッファ層102に含まれるIn組成の下限を0.5atm%以上とすることで、十分にMg拡散の抑制効果を発揮することができ、III族窒化物半導体の上部に作製するデバイスへの影響を抑制できると考えられる。
【0028】
以上から、本実施形態において、バッファ層102は、Inを0.5atm%以上50atm%以下含むことが望ましい。また、バッファ層102の厚みは、5nm以上かつ1000nm以下であるのが望ましく、10nm以上100nm以下であることがさらに望ましい。
【0029】
一方、III族窒化物結晶103は、ScAlMgO基板101の劈開面上にバッファ層102を介してヘテロエピタキシャル成長することで形成される層であり、III族元素(例えばGa、Al、In、Tl、B、Sc等)の窒化物の結晶からなる層であり、好ましくはGaNである。
【0030】
ここで、III族窒化物結晶103におけるMg濃度は、III族窒化物結晶103の表面(図1において103aで表される領域)とIII族窒化物結晶103のバッファ層102側の領域とで異なることが望ましい。III族窒化物結晶103のバッファ層102側の領域(III族窒化物結晶103のバッファ層102との界面近傍)とは、III族窒化物結晶103の厚み方向のうちバッファ層102側の10%程度の領域をいう。具体的には、III族窒化物結晶103の表面103aにおけるMg濃度が、III族窒化物結晶103のバッファ層102との界面近傍におけるMgの濃度より低いことが好ましく、III族窒化物結晶103の表面103aにおけるMg濃度が、III族窒化物結晶103とバッファ層102との界面におけるMgの濃度より1桁以上低いことが好ましい。III族窒化物結晶103内にドーピング等により不純物を添加しない場合は、不純物濃度が低いほど好ましいが、例えば、III族窒化物結晶103の表面103aにおけるMg濃度が、III族窒化物結晶103とバッファ層102との界面におけるMgの濃度より1桁以上かつ4桁以下低くてもよい。III族窒化物結晶103の表面のMg濃度、および、III族窒化物結晶103とバッファ層102との界面近傍のMg濃度は、それぞれ、SIMS分析(2次イオン質量分析)にて特定することができる。なお、Mgは、一般式RAMOで表される材料を構成するMの元素の一例である。すなわち、III族窒化物結晶103の表面103aにおける前記一般式にてMで表わされる元素の濃度が、III族窒化物結晶103のバッファ層102側の領域における前記Mで表される元素の濃度より低いことが望ましい。また、III族窒化物結晶103の表面103aにおける前記Mで表される元素の濃度が、III族窒化物結晶103とバッファ層102との界面において前記Mで表される元素の濃度より1桁以上低いことが好ましい。III族窒化物結晶103とバッファ層102との界面は、例えばSIMS分析において、(III族窒化物結晶103の厚み方向に)III族窒化物結晶103の表面103aからバッファ層102側へ向かってInの濃度勾配が急激に上昇する部分として特定することができる。なお、Mは、本来、RAMO基板からIII族窒化物結晶103側へ向かって拡散しようとするものであるから、III族窒化物結晶103中のMの濃度は、バッファ層102側から表面103a側に向かうにつれ減少する。このため、III族窒化物結晶103の厚み方向における表面103aに位置する領域のMの濃度は、バッファ層102側に位置する領域のMの濃度よりも低い。
【0031】
以上のように、本開示のIII族窒化物半導体では、III族窒化物のエピタキシャル成長時のScAlMgO基板101を構成する元素のIII族窒化物結晶103への拡散が、バッファ層102によって防止される。このため、高品質なIII族窒化物結晶103が得られる。また特に、III族窒化物中にMgが拡散すると、結晶性の悪化、伝導度制御性低下などの問題が引き起こされやすいが、本開示のIII族窒化物半導体では、ScAlMgOが含むMgの拡散が効果的に防止される。したがって、III族窒化物結晶103の結晶性の悪化及び伝導度制御性低下などが抑制される。また、バッファ層102によれば、種基板となるScAlMgO基板101を構成する元素の拡散が防止されるだけでなく、ヘテロエピタキシーにおける格子ミスフィットも改善される。
【0032】
(III族窒化物半導体の製造方法について)
本開示のIII族窒化物半導体の製造方法は特に制限されない。例えばバッファ層102およびIII族窒化物結晶103は、MOCVD法(MetalOrganic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長法)により、ScAlMgO基板101上に、III族窒化物をエピタキシャル成長させる方法とすることができる。
【0033】
MOCVD法によりバッファ層102やIII族窒化物結晶103を形成する場合、III族元素源として、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)、トリメチルアルミニウム(TMA)等を用いることができる。また、窒素源としてはアンモニア(NH)ガスを用いることができる。さらに、MOCVD法を行う際のキャリアガスとして、水素または窒素を用いることができる。
【0034】
MOCVD法を実施する前に、ScAlMgO基板101は、例えば1100℃にて10分間、水素雰囲気中にて熱クリーニングを行うことが好ましい。熱クリーニングを行うと、基板表面のカーボン系の汚れ等が除去される。クリーニング後に、ScAlMgO基板101の表面温度を、例えば425℃に下げる。そして、ScAlMgO基板101上に、MOCVD法にてInおよびIn以外のIII族元素の窒化物を堆積させて、バッファ層102を形成する。バッファ層102の形成は、通常400℃以上700℃未満の比較的低温で行うことができる。バッファ層102をこのような低温で形成すると、バッファ層102がアモルファスもしくは多結晶状の層となり、当該バッファ層102上に形成されるIII族窒化物結晶103に格子欠陥が生じ難くなる。バッファ層102の厚みおよび組成は、成膜時間及び原料の比率にて調整する。
【0035】
バッファ層102の成膜後、ScAlMgO基板101の温度を例えば1125℃へと昇温させ、III族窒化物をエピタキシャル成長させてIII族窒化物結晶103を得る。III族窒化物結晶103の厚みや組成についても、成膜時間および原料の比率により調整する。III族窒化物結晶103の形成温度は、700℃以上1300℃以下とすることができる。このような温度で、III族窒化物をエピタキシャル成長させると、格子欠陥の少ないIII族窒化物結晶103が得られやすくなる。
【0036】
(その他)
なお、本開示のIII族窒化物半導体では、上述のScAlMgO基板101を一般式RAMOで表されるほぼ単一結晶材料で構成してもよい。上記一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素(原子番号67〜71で表される元素)から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlから選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、MはMg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdから選択される一つまたは複数の二価の元素を表す。なお、ほぼ単一結晶材料とは、エピタキシャル成長面を構成するRAMOが90atm%以上含まれ、かつ、任意の結晶軸に注目したとき、エピタキシャル成長面のどの部分においてもその向きが同一であるような結晶質固体をいう。ただし、局所的に結晶軸の向きが変わっているものや、局所的な格子欠陥が含まれるものも、単結晶として扱う。なお、Oは酸素である。ただし、上記の通り、RはSc、AはAl、MはMgとするのが望ましい。
【0037】
また、前述のように、バッファ層102やIII族窒化物結晶103を構成するIII族元素は、ガリウム(Ga)が特に好ましいが、例えば、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、タリウム(Tl)等を1種類のみ用いてもよく、2種類以上併用しても良い。例えば、III族窒化物結晶103を構成する材料として、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、およびインジウム(In)からなる群から選択される少なくとも一つを用いても良い。この場合、製造されるIII族窒化物結晶103の組成は、AlGaIn{1−(s+t)}N(ただし、0≦s≦1、0≦t≦1、s+t≦1)で表される。また、III族窒化物結晶103には、ドーパント材等を共存させてもよい。前記ドーパントとしては、特に限定されないが、酸化ゲルマニウム(例えばGe、GeO等)等が挙げられる。
【0038】
また、III族窒化物結晶103を形成する際の、エピタキシャル成長方法としてはMOCVD法の他に、HVPE法、OVPE法、スパッタ法、MBE法などを用いてもよい。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
実施例1として、ScAlMgO基板101と、当該ScAlMgO基板101上に形成され、3atm%のInを含み、かつ膜厚20nmの非晶質または多結晶のInGaNからなるバッファ層102と、当該バッファ層102上に形成され、GaNの単結晶からなる膜厚2μmのIII族窒化物結晶103と、を有するIII族窒化物半導体を作製した。なお、III族窒化物半導体は、前述の製造方法により作製し、III族窒化物結晶103成膜時の成長速度は3μm/時とした。
【0040】
実施例1のIII族窒化物半導体では、Inを含むバッファ層102によって、ScAlMgO基板101中のMgが、III族窒化物結晶103中に拡散することが抑制されている。
【0041】
(比較例)
上記実施例1において、Mgの拡散が抑制されていることを確認するため、比較用のIII族窒化物半導体を準備した。比較用のIII族窒化物半導体(以下、「比較用半導体」とも称する)の構成を図4に示す。当該比較用半導体200として、ScAlMgO基板101と、当該ScAlMgO基板101上に形成された、Inを含まない膜厚20nmのGaNアモルファス層202と、当該GaNアモルファス層202上に形成され、膜厚2μmのGaNからなるIII族窒化物結晶203と、を有するIII族窒化物半導体を作製した。比較用半導体200のIII族窒化物結晶203は、GaNアモルファス層202を介して、ScAlMgO基板101上にエピタキシャル成長により形成された層である。
【0042】
(実施例1および比較例の比較)
比較用半導体について、SIMS分析(2次イオン質量分析)を行った結果を図5に示す。当該SIMS分析によれば、ScAlMgO基板101からIII族窒化物結晶203中へのMg拡散が確認できる。図5の縦軸は、SIMS分析で測定されたMgの強度(arb.Units)、すなわちMgの濃度を示し、横軸はIII族窒化物結晶203の表面203a側からの深さ(μm)を示す。ここでは、III族窒化物結晶203の、GaNアモルファス層202近傍の領域のデータを測定するために、膜厚2μmのIII族窒化物結晶203を表面203aからエッチングすることで0.25μmまで厚みを減らした後に、SIMS分析を実施している。図5のグラフに示すように、比較用半導体200のIII族窒化物結晶203では、ScAlMgO基板101に近いほどMg濃度が高くなっている。つまり、比較用半導体200では、ScAlMgO基板101からIII族窒化物結晶203へのMg拡散が生じている。そして、当該比較用半導体200では、III族窒化物結晶203のMg強度が最も高い位置から、Mg強度がその1/10となるまで、厚み177nm程度必要であった。
【0043】
一方、実施例1のIII族窒化物半導体について、SIMS分析した結果を図6に示す。図6の左側の縦軸はMgの強度(arb.Units)を示し、右側の縦軸は、Inの強度(cts/sec)を示す。また、横軸はIII族窒化物結晶103の表面103a側からの深さ(μm)を示す。ここではIII族窒化物結晶103のバッファ層102近傍の領域のデータを測定するために、膜厚2μmのIII族窒化物結晶103を表面103aからエッチングすることで0.25μmまで厚みを減らした後に、SIMS分析を実施している。実施例1のIII族窒化物半導体においても、III族窒化物結晶103において、ScAlMgO基板101に近いほどMg濃度が高くなっている。つまり、III族窒化物結晶103中へのMg拡散が確認される。ただし、III族窒化物結晶103のMg強度が最も高い位置から、Mg強度がその1/10となるまでに必要な厚みが、約31nmであり、比較用半導体より、大幅にMgの拡散が抑制されているといえる。
【0044】
これらの結果から、バッファ層102にInおよびIn以外のIII族元素(Ga)の窒化物(InGaN)を含むことで、ScAlMgO基板101上に形成するIII族窒化物結晶103へのMg拡散を抑制できることが明らかである。したがって、本実施形態のIII族窒化物半導体では、III族窒化物結晶103(GaNエピタキシャル膜)の結晶性が良好であり、当該III族窒化物半導体によれば、伝導度制御性向上などが容易に可能となるといえる。
【0045】
ここで、図7に実施例1のIII族窒化物結晶103の室温における表面103aのカソードルミネッセンス(CL)評価結果を示す。ここでは、実施例1のIII族窒化物結晶103の厚みは2μmである。CLにおける加速電圧は5kV、照射電流は5nAとした。図7において、暗点として観測される領域が、結晶に転位が生じている箇所といえる。当該評価結果から転位を見積もったところ、転位密度は6.0×10cm−2であった。一方、従来のサファイア基板を種基板としてその上にエピタキシャル成長させたIII族窒化物結晶体の転位密度は通常1×1010〜1×1011cm−2程度である。つまり、実施例1では、転位密度の少ないIII族窒化物結晶103が得られていることがわかる。
【0046】
なお、実施例1のIII族窒化物半導体では、ScAlMgO基板101とIII族窒化物結晶103(GaN)との格子不整合度が約−1.4%である。当該格子不整合度を、バッファ層102の組成を調整することで、一般的なGaNとScAlMgO基板との格子不整合度−1.8%の10分の1程度に調整できれば、転位密度を1.0×10cm−2{(6.0×10)/(−1.4/−0.18)}程度まで低減することが可能である。
【0047】
(実施例2)
実施例2として、ScAlMgO基板101と、当該ScAlMgO基板101上に形成され、1.5atm%のInを含み、かつ膜厚20nmの非晶質または多結晶のInGaNからなるバッファ層102と、当該バッファ層102上に形成され、GaNの単結晶からなる、膜厚2μmのIII族窒化物結晶103と、を有するIII族窒化物半導体を作製した。
【0048】
図8に、第2の実施形態のSIMS分析結果を示す。図8の左側の縦軸はMgの強度(arb.Units)を示し、右側の縦軸は、Inの強度(cts/sec)を示す。また、横軸はIII族窒化物結晶103の表面103aからの深さ(μm)を示す。ここでは、III族窒化物結晶103のバッファ層102近傍の領域のデータを測定するために、膜厚2μmのIII族窒化物結晶103を表面103aからエッチングすることで0.25μmまで厚みを減らした後に、SIMS分析を実施している。実施例2においても、III族窒化物結晶103において、ScAlMgO基板101に近いほどMg濃度が高くなっている。つまり、III族窒化物結晶103中へのMg拡散が確認される。ただし、III族窒化物結晶103のMg強度が最も高い位置から、Mg強度がその1/10となるまでに必要な厚みが、約53nmであることから、前述の比較用半導体と比較して、大幅にMgの拡散が抑制されているといえる。つまり、バッファ層102のIn組成が1.5atm%の場合でも、Mgの拡散抑制効果が得られることがわかる。
【0049】
(実施例3)
実施例3として、ScAlMgO基板101と、当該ScAlMgO基板101上に形成され、3atm%のInを含み、かつ膜厚10nmの非晶質または多結晶のInGaNからなるバッファ層102と、当該バッファ層102上に形成され、GaNの単結晶からなる、膜厚2μmのIII族窒化物結晶103と、を有するIII族窒化物半導体を作製した。
【0050】
図9に、第3の実施形態のSIMS分析結果を示す。図9の左側の縦軸はMgの強度(arb.Units)を示し、右側の縦軸は、Inの強度(cts/sec)を示す。また、横軸はIII族窒化物結晶103の表面103aからの深さ(μm)を示す。ここでは、バッファ層102近傍の領域のデータを測定するために、膜厚2μmのIII族窒化物結晶103を表面103aからエッチングすることで0.25μmまで厚みを減らした後に、SIMS分析を実施している。実施例3でも、III族窒化物結晶103において、ScAlMgO基板101に近いほどMg濃度が高くなっている。つまり、III族窒化物結晶103中へのMg拡散が確認される。ただし、III族窒化物結晶103のMg強度が最も高い位置から、Mg強度がその1/10となるまでに必要な厚みが、約80nmであることから、前述の比較用半導体と比較して、大幅にMgの拡散が抑制されているといえる。つまり、バッファ層102の厚みが10nmと比較的薄い場合でも、Mgの拡散抑制効果が得られる。
【0051】
(実施例4)
第4の実施形態のIII族窒化物半導体は、ScAlMgO基板101と、当該ScAlMgO基板101上に形成され、1atm%のIn及び3atm%のAlを含み、かつ厚み10nmの非晶質または多結晶のInGaAlNからなるバッファ層102と、当該バッファ層102上に形成されたGaNの単結晶からなる、膜厚2μmのIII族窒化物結晶103と、を有する。
【0052】
図10に第4の実施形態のSIMS分析結果を示す。図10の左側の縦軸はMgの強度(arb.Units)を示し、右側の縦軸は、Inの強度(cts/sec)を示す。また、横軸はIII族窒化物結晶103の表面103aからの深さ(μm)を示す。ここでは、III族窒化物結晶103のバッファ層102近傍の領域のデータを測定するために、膜厚2μmのIII族窒化物結晶103を表面103aからエッチングすることで0.25μmまで厚みを減らした後に、SIMS分析を実施している。実施例4でも、III族窒化物結晶103において、ScAlMgO基板101に近いほどMg濃度が高くなっている。つまり、III族窒化物結晶103中へのMg拡散が確認される。ただし、III族窒化物結晶103のMg強度が最も高い位置から、Mg強度がその1/10となるまでに必要な厚みが、約33nmであり、Al添加によりMg拡散に大きな影響はなかった。
なお、実施例1〜4において、Mgは、本来、ScAlMgO基板101からIII族窒化物結晶103側へ向かって拡散しようとするものであるから、III族窒化物結晶103中のMgの濃度は、バッファ層102側から表面103a側に向かうにつれ減少する。このため、III族窒化物結晶103の表面103aのMgの濃度は、バッファ層102側に位置する領域のMgの濃度よりも低くなる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本開示に係るヘテロ基板上のIII族窒化物は格子不整合が小さい。かつ、ヘテロ基板からの不純物拡散も抑制した高品質かつ高性能なIII族窒化物である。
【符号の説明】
【0054】
1 III族窒化物半導体
101 ScAlMgO基板
102 バッファ層
103 III族窒化物結晶
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10