(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1当接面又は前記第2当接面の少なくとも一方は、前記翼根ばねの挿入方向に沿って前記第1当接面と前記第2当接面との間隔が徐々に狭くなるようなテーパ状であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の翼根ばね挿入治具。
前記間隔調節機構は、前記第1当接面と前記第2当接面との間隔は、前記第1当接面及び前記第2当接面によって圧縮された前記翼根ばねの高さが前記翼溝の前記底面と前記翼根部との間の前記隙間よりも大きくなるよう設定するように構成されたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の翼根ばね挿入治具。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービン、ガスタービン、圧縮機等の回転機械は、一般的に、回転部材であるロータに設けられたロータディスクに放射状に動翼を植設し、このロータを静止部材である静翼が固定されたケーシング内に収納した構成を有する。ロータディスクにはその外周に複数の翼溝が形成されており、この翼溝に動翼の翼根部が係合することによって動翼はロータディスクに支持される。
【0003】
回転機械の定格運転時には、ロータが高速で回転するので動翼には大きな遠心力が作用し、この径方向外方に向かう遠心力によって動翼は翼溝に押し付けられて拘束される。これにより、ロータディスクに対する動翼の移動や倒れは生じず、動翼は規定位置に保持される。
一方、回転機械の起動時やターニング時等の低速回転時には、それ程大きな遠心力が動翼に作用するわけではないので、自重による重力やそのモーメントの影響によって動翼にがたつきが生じる。そのため、動翼の翼根部や翼溝に摩耗や変形が引き起こされる。併せて、動翼の重心位置が変化するため軸振動が誘発され、摩耗や変形がさらに進行すると定格運転時にも動翼が規定位置からずれた位置で保持されるようになり軸振動が発生することがある。
【0004】
そこで、このような問題の改善策として、動翼の翼根部と翼溝との間に翼根ばねを介装した構成が知られている。翼根ばねは、動翼を翼溝の径方向外方に押し上げて翼根部を翼溝に密着させ、動翼を拘束するようになっている。
ロータディスクの翼溝への動翼の取り付け時には、まず翼溝に動翼の翼根部を挿入した後、翼根部と翼溝との間の隙間に翼根ばねを打ち込んで挿入する。特許文献1には、翼根ばねの挿入方向における前端部を先細りになるテーパ形状とし、翼溝への翼根ばねの打ち込みを容易に行えるようにすることも記載されている(特許文献1の
図12参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載されるように、翼根ばねのテーパ形状を利用して翼溝に翼根ばねを打ち込んで挿入する場合、翼根ばねは翼溝への挿入時に最大でテーパ形状の高さに相当する分だけ変形する(縮む)。そして、翼根ばねの変形量に基づく弾性力が動翼の翼根部に作用し、翼根部が翼溝に押し付けられる。しかし、翼根ばねに形成できるテーパ形状の高さには限りがあるから大きな押し付け力を得るためには翼根ばねのばね定数を大きくする必要がある。
ここで、ばね定数が大きい翼根ばねは、変形量(縮み量)に対する弾性力の変化率が大きい。よって、ばね定数が大きい翼根ばねの弾性力は動翼の翼根部や翼溝や翼根ばねの製作公差の影響を受けやすく、翼根部の翼溝への押し付け力のバラツキが発生しやすい。そのため、製作公差の影響により翼根ばねの変形量(縮み量)が設計値よりも小さい場合であっても所望の押し付け力が得られるように、余裕をみて、より大きなばね定数の翼根ばねを用いる必要がある。
したがって、特許文献1に記載の手法では、製作公差の影響も考慮に入れて余裕をみた大きなばね定数の翼根ばねの使用を余儀なくされる場合があり、この場合には翼根ばねの翼溝への挿入のために大きな力を与えなければならず、翼根ばねをハンマーで強く叩いたり、油圧ジャッキで翼根ばねを押し込んだりする必要がある。よって、翼根ばねの翼溝への挿入作業を効率的に行うことが難しい。また、ハンマーで強く翼根ばねを叩くことで、翼根ばねが損傷するおそれがある。
【0007】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態は、翼根ばねの翼溝への挿入作業を効率的に行い得る翼根ばね挿入治具及び翼根ばね挿入方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る翼根ばね挿入治具は、
回転機械のロータディスクに形成された翼溝の底面と、前記翼溝に係合する動翼の翼根部との間の隙間に翼根ばねを挿入するための翼根ばね挿入治具であって、
前記翼根ばねのうち前記動翼側に位置する面に当接する第1当接面を有する第1部材と、
前記第1当接面に対向して設けられて、前記翼根ばねのうち前記翼溝の前記底面側に位置する面に当接する第2当接面を有する第2部材と、
前記第1当接面と前記第2当接面の間隔を調節して、前記第1部材と前記第2部材とで前記翼根ばねを圧縮するための間隔調節機構と、を備え、
前記第1部材は、前記翼根ばねの挿入方向に沿って延在して、前記翼根ばねの一対の湾曲形状の側部の間に位置する凹部に係合するように構成された凸部を有する。
なお、前記翼根ばね挿入治具は、前記第1当接面と前記第2当接面とで前記翼根ばねを押圧して、前記翼根ばねの高さが該翼根ばねの自然高さよりも小さくなるように前記翼根ばねを圧縮するように構成されていてもよい。ここで、翼根ばねの高さとは、翼根ばねの動翼接触面からロータ接触面までの距離のことであり、翼根ばねの自然高さとは、翼根ばねに荷重を加えていない時の翼根ばねの高さのことである。
【0009】
上記挿入治具を用いれば、挿入治具の第1当接面と第2当接面とで翼根ばね押圧することで翼根ばねを予め圧縮できるから、動翼の翼根部と翼溝との隙間に容易に翼根ばねを挿入することが可能となる。
また、翼根ばねのテーパ形状だけを利用して翼溝に翼根ばねを打ち込んで挿入する場合に比べて翼根ばねの変形量(縮み量)を大きくすることも可能であるから、比較的小さいばね定数の翼根ばねが使用可能になる。通常、翼根ばねの製造に際しては、製作公差の影響で発生しうる翼根ばねの変形量が最小の製品であっても、必要押し付け荷重が得られるような押し付け荷重目標値(安全率を含んでもよい)が設定される。ここで、ばね定数が大きい翼根ばねは、変形量(縮み量)に対する弾性力の変化率が大きく、ばね定数が小さい翼根ばねに比べて製作公差の影響を受けやすい。よって、ばね定数が大きい翼根ばねは、ばね定数が小さい翼根ばねに比べて、押し付け荷重目標値は大きく設定される。したがって、製作公差の影響で発生しうる翼根ばねの変形量が最大の製品の押しつけ力を比べると、ばね定数が大きい場合の方がばね定数が小さい場合に比べて大幅に大きくなる。よって、ばね定数が大きい翼根ばねを採用すると、製品によっては翼根部と翼溝との間の隙間への翼根ばねの挿入に大きな力が必要になる。これに対して、ばね定数が小さい翼根ばねは、変形量(縮み量)に対する弾性力の変化率が小さいので、製作公差の影響を受けにくい。そのため、製作公差の影響で発生しうる翼根ばねの変形量が最小の製品において必要押し付け荷重が得られるような押し付け荷重目標値は、ばね定数が大きい翼根ばねに比べて小さく設定される。したがって、製作公差の影響で発生しうる翼根ばねの変形量が最大の製品の押しつけ力は、ばね定数が大きい場合に比べて大幅に小さくなる。よって、ばね定数が小さい翼根ばねを採用することにより、翼根部と翼溝との間の隙間への翼根ばねの挿入に大きな力を必要としなくなり、翼根ばねを隙間に容易に挿入できるようになる。
【0010】
また、間隔調節機構によって、第1部材と第2部材とで翼根ばねを挟んだ状態で第1部材と第2部材との間の距離を変化させることで、第1当接面と第2当接面との間隔を容易に調節できる。よって、翼根ばねの縮み量を適切に調節することができ、翼根ばね挿入治具を用いた翼根ばねの挿入作業を効率的に行うことができる。
【0011】
さらに、上述のとおり、前記第1部材の前記凸部は、前記翼根ばねの挿入方向に沿って延在して、前記翼根ばねの一対の湾曲形状の側部の間に位置する凹部に係合するように構成されている。このため、翼根ばね挿入治具によって翼根ばねを圧縮する際、翼根部と接触することになる翼根ばねの動翼接触面に第1部材の凸部を当接させて、翼根ばねの動翼接触面を凹ませることで、翼根ばねの翼溝への挿入がより一層容易になる。
【0012】
幾つかの実施形態において、前記第1当接面又は前記第2当接面の少なくとも一方は、前記翼根ばねの挿入方向に沿って前記第1当接面と前記第2当接面との間隔が徐々に狭くなるようなテーパ状であってもよい。
この場合、翼根ばね挿入方向に沿って翼根ばねを治具内で動かして第1当接面と第2当接面との間を通過させる過程で、第1当接面及び第2当接面によって翼根ばねが押圧されて圧縮される。また、第1当接面又は第2当接面の少なくとも一方のテーパ形状の設定により、第1当接面と第2当接面の間隔の狭まる量に応じて定まる翼根ばねの縮み量を適切に調節できる。さらに、第1当接面又は第2当接面の少なくとも一方を第1当接面と第2当接面との間隔が徐々に狭くなるようなテーパ状とすることで、翼根ばねを動翼の翼根部と翼溝との隙間に円滑に挿入することが可能である。
【0013】
一実施形態において、翼根ばね挿入治具は、前記第1当接面及び前記第2当接面とともに前記翼根ばねが収納される空間を形成する一対の側壁面をさらに備え、前記翼溝の周囲の前記ロータディスクのディスク端面に前記翼根挿入治具の治具端面を当接させたとき、前記翼溝と平行になるように前記一対の側壁面が前記治具端面に対して傾斜していてもよい。
上記翼根ばね挿入治具は、ロータディスクの端面に当接させた状態において翼溝と平行になるような一対の側壁面を有しているので、翼根ばねを設置した挿入治具の端面をロータディスクのディスク端面に当接させ、翼根ばねの後端部を押圧することにより、側壁面によって翼根ばねが翼溝と翼根部の隙間に適切に案内され、翼根ばねを円滑に挿入することが可能となる。
【0014】
一実施形態において、前記第1当接面と前記第2当接面との間隔は、前記第1当接面及び前記第2当接面によって圧縮された前記翼根ばねの高さが前記翼溝の前記底面と前記翼根部との間の前記隙間よりも大きくなるように設定されてもよい。
翼根ばねは、弾性限界点を超えた領域で使用できれば、同一のばね定数であっても、より大きな押し付け力が得られる。ところが、翼根ばねは、弾性限界点を超えて変形した後、翼根ばねに作用する圧縮力が解放されると、翼根ばねが塑性変形してしまい、翼根ばねの本来の機能を果たせなくなる。そのため、弾性限界点を超えた領域で翼根ばねを使用するためには、翼溝の底面と翼根部との間の隙間に挿入された状態で最も変形量(縮み量)が大きいことが必要である。そこで、治具内における翼根ばねの縮み量を規定する第1当接面と第2当接面との間隔を、第1当接面及び第2当接面による圧縮後の翼根ばねの高さが翼溝の底面と翼根部との間の隙間以下とならない範囲に設定することで、弾性限界点を超えた領域で翼根ばねを使用することが可能になる。
【0015】
一実施形態において、翼根ばね挿入治具は、前記第1部材及び前記第2部材の少なくとも一方の前記翼根ばねと当接する部位に設けられたローラをさらに備えてもよい。
このように、前記第1部材及び前記第2部材の少なくとも一方の前記翼根ばねと当接する部位にローラを設けることによって、翼根ばねを翼溝と翼根部の隙間に挿入する際に、翼根ばねと翼根ばね挿入治具との間に生じる摩擦を低減し、翼根ばねを隙間に円滑に挿入することが可能となる。
【0016】
一実施形態において、翼根ばね挿入方法は、
回転機械のロータディスクに形成された翼溝の底面と、前記翼溝に係合する動翼の翼根部との間の隙間に翼根ばねを挿入する翼根ばね挿入方法であって、
翼根ばね挿入治具の第1部材と第2部材とで前記翼根ばねを挟圧して、前記翼根ばねの高さが自然高さよりも小さくなるように前記翼根ばねを圧縮するステップと、
前記翼根ばねが圧縮された状態で、前記翼根ばねを前記翼溝に挿入するステップと、を備え、
前記翼根ばねを挿入するステップでは、前記翼根ばね挿入治具の前記第1部材に形成された凸部を、前記翼根ばねの前記翼根ばねの一対の湾曲形状の側部の間に位置する凹部に係合させた状態で、前記翼根ばねを挿入方向に動かす。
上記翼根ばね挿入方法によれば、翼根ばねの高さが自然高さよりも小さくなるように翼根ばねを圧縮した状態で翼根ばねを翼溝に挿入するようにしたので、翼根ばねの翼溝への挿入が容易になる。
また、翼根ばねのテーパ形状だけを利用して翼溝に翼根ばねを打ち込んで挿入する場合に比べて翼根ばねの変形量(縮み量)を大きくすることも可能であるから、比較的小さいばね定数の翼根ばねが使用可能になる。ばね定数が小さい翼根ばねは、ばね定数が高い翼根ばねに比べて、変形量(縮み量)に対する弾性力の変化率が小さいので、製作公差の影響を受けにくく、翼根部の翼溝への押し付け力のバラツキが発生しにくい。そのため、製作公差の影響により翼根ばねの変形量(縮み量)が設計値よりも小さい場合であっても所望の押し付け力が得られるために必要な翼根ばねのばね定数は比較的小さくても足りる。よって、動翼の翼根部と翼溝との隙間への翼根ばねの挿入が一層容易になる。
さらに、挿入するステップにおいて、第1部材の凸部を翼根ばねの凹部に係合させた状態で翼根ばねを挿入方向に動かすようにしたので、翼根ばねの翼溝への挿入がより一層容易になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、翼根ばねを予め圧縮することで、動翼の翼根部と翼溝との隙間に容易に翼根ばねを挿入することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0020】
以下の実施形態では、一例として、回転機械であるガスタービンのタービン部に対して本実施形態に係る翼根ばね挿入治具及び挿入方法を適用した場合について説明する。ただし、本発明はガスタービンの空気圧縮機、蒸気タービン、ジェットエンジン等の他の回転機械にも適用できる。
【0021】
最初に、動翼1及びロータディスク6と翼根ばね11の一例について説明する。なお、
図1は動翼及びロータディスクの間の隙間に翼根ばねを挿入した状態を示す斜視図で、
図2は翼根ばねを示す斜視図である。
図1に示すように、タービン動翼である動翼1は、翼面を形成する翼部2と、翼部2のロータディスク側端部に設けられた翼根部4とを有する。ロータディスク6は、翼根部4に対応した形状の翼溝8を有しており、この翼溝8はロータ軸方向に沿って延在している。動翼1は、翼溝8に翼根部4が係合することによってロータディスク6に支持される。翼根部4が翼溝8に係合した状態で翼根部4と翼溝8との間には隙間10が形成され、この隙間10に翼根ばね11が挿入される。翼根ばね11は、動翼1をロータディスク6に対して径方向外方に向けて押し上げる役割を果たす。
【0022】
図2に示すように、翼根ばね11は、翼根部4に接触する動翼接触面12と、翼溝8に接触するロータ接触面16とを有する長尺の板ばねであってもよい。例えば、翼根ばね11は、開口18を挟んで形成される一対のロータ接触面16と、ロータ接触面16に略平行に配置された動翼接触面12とが、湾曲形状を有する一対の側部17を介して一体的に形成される。また、動翼接触面12も湾曲形状を有していてもよく、
図2では翼根部4の端部形状に沿うように、3つの湾曲部を有するように形成された動翼接触面12を例示している。
【0023】
次に、
図3乃至
図6を参照して、本実施形態に係る翼根ばね挿入治具20について詳細に説明する。ここで、
図3は翼根ばね挿入治具を示す斜視図であり、
図4は翼根ばね挿入治具を示す
図3のA−A線断面図で、
図5はばね収納体を示す
図4のB方向矢視図で、
図6は蓋体を示す
図4のC方向矢視図である。なお、
図3及び
図4では翼根ばね11は点線で示している。
【0024】
図3及び
図4に示すように、翼根ばね挿入治具20は、第1当接面30Sを有する蓋体(第1部材)30と、第1当接面30Sに対向する第2当接面22Sを有するばね収納体(第2部材)22とを含む。蓋体30の第1当接面30Sは、翼根ばね挿入治具20への翼根ばね11の装着時、翼根ばね11の動翼接触面12に当接するようになっている。一方、ばね収納体22の第2当接面22Sは、翼根ばね挿入治具20への翼根ばね11の装着時、翼根ばね11のロータ接触面16に当接するようになっている。
翼根ばね挿入治具20による翼根ばね11の変形量(縮み量)は、第1当接面30Sと第2当接面22Sとの間隔H
1によって規定される。幾つかの実施形態では、翼根ばね挿入治具20は、第1当接面30Sと第2当接面22Sとの間隔H
1を調節する後述の間隔調節機構を有する。
【0025】
一実施形態では、ばね収納体22は、第2当接面22Sを形成する底部24と、底部24に対して略垂直に設けられて互いに対向した一対の側壁部26,26とを含む。側壁部26,26は、翼根ばね11が収納される空間28を第1当接面30S及び第2当接面22Sとともに形成する側壁面26S,26Sをそれぞれ有する。空間28は、ばね収納体22に蓋体30を取り付けた状態では、ばね収納体22の両端側(翼根ばね挿入方向に対して両端側)の端面22a,22bに開口する。なお、空間28の翼根ばね挿入方向の長さは翼根ばね11の長手方向の長さよりも短くなるように構成されていてもよく、この場合には、翼根ばね挿入治具20から突出した翼根ばね11の後端部をハンマーで叩くなどによりロータディスク6側に向けて翼根ばね11を押圧可能になり、翼根ばね11の挿入作業が容易になる。また、
図4及び
図5に示すように、ばね収納体22には、空間28を挟んで両側(ここでは側壁部26,26)にそれぞれ、少なくとも1つのボルト穴29,29が設けられていてもよい。さらに、ロータディスク6の端面の直交方向に対して翼溝8が傾斜している場合、ばね収納体22の一方の端面22aをロータディスク6の端面に当接させたときに側壁面26S,26Sが翼溝8と平行になるように、側壁面26S,26Sが端面22aに対して傾斜していてもよい。これにより、翼根ばね挿入治具20内に翼根ばね11を収納して、翼根部4と翼溝8との隙間10に翼根ばね11を挿入する際に、側壁面26S,26Sによって翼根ばね11が翼溝8と翼根部4の隙間10に適切に案内される。
【0026】
図3、
図4及び
図6に示すように、蓋体(第1部材)30は、第1当接面30Sを有し、ばね収納体(第2部材)22の上面を覆うように配置される。蓋体30には、ばね収納体22のボルト穴29,29に対応した位置に、ボルト穴34,34が設けられていてもよい。また、蓋体30には、翼根ばね11に当接する部位に、翼根ばね11の挿入方向に延在する凸部32が設けられていてもよい。この場合、凸部32によって第1当接面30Sの少なくとも一部を形成してもよい。なお、後述する構成では、凸部32を設けた場合について詳細に説明しているが、凸部32が設けられていない構成としてもよいことは勿論である。上記したように、ばね収納体22の側壁面26S,26Sが端面22aに対して傾斜している場合には、凸部32の長手方向も側壁面26S,26Sに平行になるように端面22aに対して傾斜させる。
【0027】
図4を参照して、間隔調節機構は、蓋体30の第1当接面30Sとばね収納体22の第2当接面22Sとの間隔H
1を、翼根ばね11の自然高さH
0よりも小さくなるように調節する。ここで、
図1に示すように、翼根ばね11の高さとは、翼根ばね11の動翼接触面12からロータ接触面16までの距離のことであり、翼根ばね11の自然高さH
0とは、翼根ばね11に荷重を加えていない時の翼根ばね11の高さのことである。
図4に示す例では、間隔調節機構は、蓋体30のボルト穴34,34及びばね収納体22のボルト穴29,29に挿入されるボルト38を含む。蓋体30をばね収納体22に当接させた状態で、ボルト38により蓋体30をばね収納体22に締め付けることで、蓋体30の第1当接面30Sとばね収納体22の第2当接面22Sとの間隔H
1が翼根ばね11の自然高さH
0よりも小さくなる。なお、蓋体30の凸部32とばね収納体22の底部24との間に挟み込まれて圧縮された翼根ばね11を翼根部4と翼溝8との間の隙間10に挿入しやすくするために、この間隔H
1は、翼根部4と翼溝8との間の隙間10に対応して設定されてもよい。
【0028】
上述のように、翼根ばね挿入治具20は、第1当接面30Sと第2当接面22Sとで翼根ばね11を押圧することで翼根ばね11の自然高さH
0よりも小さい高さまで圧縮されるように構成されている。そのため、翼根ばね11を予め圧縮することが可能になり、翼根ばね11の挿入作業が容易になる。
【0029】
ここで、本実施形態に係る翼根ばね挿入方法の一例を説明する。なお、
図7は翼根ばねの挿入方法を説明する図である。
最初に、ばね収納体22の空間28内に翼根ばね11を収納した状態で蓋体30を翼根ばね11の上からかぶせて、ボルト38をボルト穴34,29に挿入し、締め付けることによって蓋体30をばね収納体22に固定する。このとき、翼根ばね11は、その自然高さH
0より圧縮された状態、すなわち蓋体30の第1当接面30Sとばね収納体22の第2当接面22Sとの間隔H
1の高さまで圧縮されて弾性力を内在した状態で保持される。
そして、
図7に示すように、翼根ばね挿入治具20の端面22aをロータディスク6の端面6aに当接させ、挿入治具20から突出した翼根ばね11の後端部をハンマー40で叩いて翼根ばね11を翼根部2と翼溝8との間の隙間10に挿入する。このとき、翼根ばね11が途中まで挿入されたら翼根ばね挿入治具20を取り外して、再度ハンマー40で翼根ばね11の後端部を叩き、翼根ばね11の後端まで隙間10に挿入するようにしてもよい。
【0030】
本実施形態によれば、蓋体30の凸部32とばね収納体22の底部24とに挟まれて圧縮された翼根ばね11を、翼根部2と翼溝8との間の隙間10に挿入するようにしたので、容易に翼根ばね11を挿入することが可能となる。
【0031】
また、翼根ばね11のテーパ形状だけを利用して翼溝8に翼根ばね11を打ち込んで挿入する場合に比べて翼根ばね11の変形量(縮み量)を大きくすることも可能であるから、比較的小さいばね定数の翼根ばね11が使用可能になり、動翼1の翼根部2と翼溝8との隙間10への翼根ばね11の挿入が一層容易になる。
ここで、
図11を用いて、翼根ばね11のばね定数が小さいと翼根ばね11を挿入し易くなる理由を説明する。なお、
図11は、異なるばね定数を有する2つの翼根ばね11の製品頻度と押し付け荷重の関係を示すグラフである。このグラフに示されるように、通常、翼根ばね11の製造に際しては、製作公差の影響で発生しうる翼根ばねの変形量が最小の製品(隙間10が最も大きい製品)であっても、安全率を加味した必要押し付け荷重F
minが得られるような押し付け荷重目標値を設定する。ここで、ばね定数が大きい翼根ばね11は、ばね定数が小さい翼根ばね11に比べて、変形量(縮み量)に対する弾性力の変化率が大きく、その弾性力は製作公差の影響を受けやすい。よって、ばね定数が大きい翼根ばね11は、ばね定数が小さい翼根ばね11に比べて、押し付け荷重の目標値は大きく設定される。したがって、製作公差の影響で発生しうる翼根ばねの変形量が最大の製品(隙間10が最も小さい製品)の押しつけ力F
1,F
2を比べると、ばね定数が大きい場合の方がばね定数が小さい場合に比べて格段に大きくなる。よって、ばね定数が大きい翼根ばね11を採用すると、製品によっては隙間10への翼根ばね11の挿入に大きな力が必要になる。これに対して、ばね定数が小さい翼根ばね11は、変形量(縮み量)に対する弾性力の変化率が小さいので、製作公差の影響を受けにくい。そのため、製作公差の影響で発生しうる翼根ばねの変形量が最小の製品(隙間10が最も大きい製品)において、安全率を加味した必要押し付け荷重F
minが得られるような押し付け荷重目標値は、ばね定数が大きい翼根ばねに比べて小さく設定される。したがって、製作公差の影響で発生しうる翼根ばねの変形量が最大の製品の押しつけ力F
2は、ばね定数が大きい場合の押しつけ力F
1に比べて大幅に小さくなる。よって、ばね定数が小さい翼根ばね11を採用することにより、翼根部4と翼溝8との間の隙間10への翼根ばね11の挿入に大きな力を必要としなくなり、翼根ばね11を隙間10に容易に挿入できるようになる。
【0032】
また、幾つかの実施形態では、第1当接面30S又は第2当接面22Sの少なくとも一方は、翼根ばね11の挿入方向に沿って第1当接面30Sと第2当接面22Sとの間隔H
1が徐々に狭くなるようなテーパ状に形成される。
図8は治具テーパ部を有する翼根ばね挿入治具を示す断面図である。
図8に示す例示的な実施形態では、翼根ばね挿入治具20は、蓋体30のうち翼根ばね11の動翼接触面12に当接する第1当接面30Sを含む領域に治具テーパ部36が設けられている。
この場合、翼根ばね挿入方向に沿って翼根ばね11を翼根ばね挿入治具20内で動かして第1当接面30Sと第2当接面22Sとの間(空間28内)を通過させる過程で、第1当接面30S及び第2当接面22Sによって翼根ばね11が押圧されて圧縮される。空間28内の通過時における翼根ばね11の縮み量は、第1当接面30Sと第2当接面22Sとの間隔H
1の狭まった量に応じて定まり、最終的な翼根ばね11の高さは治具テーパ部36が設けられた領域における第1当接面30Sと第2当接面22Sとの間の最小間隔H
1minによって決定される。このように、治具テーパ部36が設けられた領域の通過により、翼根ばね11の高さが翼根ばね11の自然高さH
0よりも小さくなるので、翼根ばね11を予め圧縮することが可能になり、翼根ばね11の挿入作業が容易になる。
また、第1当接面30S又は第2当接面22Sの少なくとも一方を間隔H
1が徐々に狭くなるようなテーパ状とすることで、第1当接面30Sと第2当接面22Sとの間の翼根ばね11の通過がスムーズになり、翼根ばね11の挿入作業がより一層容易になる。
【0033】
また、一実施形態において、
図9に示すように、第1当接面30Sと第2当接面22Sとの間隔H
1は、第1当接面30S及び第2当接面22Sによって圧縮された翼根ばね11の高さ(≒H
1)が翼溝8の底面と翼根部4との間の隙間10の間隔Hよりも大きくなるように設定されてもよい(即ち、H
1>H)。この場合、翼根ばね11は、翼根部4と翼溝8との間の隙間10に挿入された時に弾性限界点を超えた領域で使用されるようにしてもよい。なお、
図9はばねテーパ部を有する翼根ばねに適用される翼根ばね挿入治具を示す断面図である。
翼根ばね11は、弾性限界点を超えた領域で使用できれば、同一のばね定数であっても、より大きな押し付け力が得られる。ところが、翼根ばね11は、弾性限界点を超えて変形した後、翼根ばね11に作用する圧縮力が解放されると、翼根ばね11が塑性変形してしまい、翼根ばね11の本来の機能を果たせなくなる。そのため、弾性限界点を超えた領域で翼根ばね11を使用するためには、翼溝8の底面と翼根部4との間の隙間10に挿入された状態で最も変形量(縮み量)が大きいことが必要である。そこで、翼根ばね挿入治具20の使用時に蓋体30の第1当接面30Sとばね収納部22の第2当接面22Sとの間隔を、例えば間隔調節機構や治具テーパ部36により、翼溝8の底面と翼根部4との間の隙間10よりも大きい範囲(すなわちH
1>Hの範囲)で調節することで、弾性限界点を超えた領域で翼根ばね11を使用することが可能になる。
なおこのとき、蓋体30の第1当接面30Sとばね収納部22の第2当接面22Sとの間隔H
1を、翼溝8の底面と翼根部4との間の隙間10の間隔Hよりも大きい範囲とするので、翼根ばね11が隙間10に挿入しにくくなる可能性もある。そこで同図に示す例では、翼根ばね11のロータディスク側端部に、翼根ばね挿入方向に向けて縮径するばねテーパ部17が設けられていてもよい。なお、ばねテーパ部17における翼根ばね11の最小高さH
2は、翼溝8の底面と翼根部4との間の隙間10の間隔H以下とする。
このように、翼根ばね挿入治具20の使用時に、翼溝8の底面と翼根部4との間の隙間10の間隔Hよりも大きい範囲で、蓋体30の第1当接面30Sとばね収納部22の第2当接面22Sとの間の隙間H
1を調節することで、塑性変形の領域で翼根ばね11を使用することが可能になる。
【0034】
また、
図10(A)及び(B)に示すように、翼根ばね挿入治具20は、蓋体(第1部材)30及びばね収納体(第2部材)22の底部24の少なくとも一方の翼根ばね11と当接する部位にローラ23を設けてもよい。なお、
図10はローラを有する翼根ばね挿入治具を示す図であり、(A)は翼根ばね挿入治具の断面図で、(B)はばね収納体の平面図である。
同図では、ローラ23をばね収納体22の底部24に複数設けた例を示している。このローラ23は、回転方向が翼根ばね挿入方向に一致するように設置する。
このように、翼根ばね挿入治具20の翼根ばね11と当接する部位にローラ23を設けることによって、翼根ばね11を翼溝8と翼根部4の隙間10に挿入する際に、翼根ばね11と翼根ばね挿入治具20との間に生じる摩擦を低減し、翼根ばね11を隙間10に円滑に挿入することが可能となる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはいうまでもない。
【0036】
特に、
図4に示す例示的な実施形態では、第1当接面30Sが凸部32を有する一方で第2当接面22S及び側壁面26S,26Sは平面であるが、翼根ばね11が収納される空間28を形成する第1当接面30S、第2当接面22S及び側壁面26S,26Sは任意の形状のものを採用しうる。
例えば、翼根ばね11の形状に応じて、第1当接面30S、第2当接面22S及び側壁面26S,26Sを、平面や曲面からなる形状、あるいは、平面又は曲面に凸部又は凹部を設けた形状としてもよい。