特許第6242955号(P6242955)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6242955ソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6242955
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】ソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/44 20060101AFI20171127BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20171127BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20171127BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20171127BHJP
   C04B 22/16 20060101ALI20171127BHJP
   C09K 17/10 20060101ALI20171127BHJP
   C09K 17/18 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   C09K17/44 P
   C04B28/02
   C04B24/26 E
   C04B22/10
   C04B22/16 A
   C09K17/10 P
   C09K17/18 P
【請求項の数】10
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2016-143129(P2016-143129)
(22)【出願日】2016年7月21日
【審査請求日】2016年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】390036515
【氏名又は名称】株式会社鴻池組
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516219451
【氏名又は名称】AKテクノ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509199018
【氏名又は名称】成幸利根株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】蔵野 彰夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 治郎
【審査官】 柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−232600(JP,A)
【文献】 特開2004−175989(JP,A)
【文献】 特開2011−026167(JP,A)
【文献】 特開2012−240903(JP,A)
【文献】 特開2010−159183(JP,A)
【文献】 特開2008−037891(JP,A)
【文献】 特開2007−217255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00
C04B 22/00
C04B 24/00
E02D 3/12
E02D 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土とセメント系懸濁液とを混合することによってソイルセメントを生成するにあたり、ソイルセメント流動化剤を添加することによって、ソイルセメントの流動性と流動性の保持時間を制御する方法であって、
前記ソイルセメント流動化剤が、水溶性重合体(A)と、炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)からなり、水溶性重合体(A)100質量部(固形分)に対する炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)合計添加割合が、100〜1500質量部であるとともに、前記ソイルセメント流動化剤の土1m当たりの添加量が、2〜40kgであることを特徴とするソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法。
【請求項2】
土とセメント系懸濁液とを混合することによってソイルセメントを生成するにあたり、ソイルセメント流動化剤を添加することによって、ソイルセメントの流動性と流動性の保持時間を制御する方法であって、
前記ソイルセメント流動化剤が、水溶性重合体(A)と、炭酸アルカリ金属塩(B)、重炭酸アルカリ金属塩(C)及びリン酸アルカリ金属塩(D)からなり、水溶性重合体(A)100質量部(固形分)に対する炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)の合計添加割合が、100〜1500質量部、リン酸アルカリ金属塩(D)の添加割合が1〜500質量部あるとともに、前記ソイルセメント流動化剤の土1m当たりの添加量が、2〜40kgであることを特徴とするソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法。
【請求項3】
前記ソイルセメント流動化剤の土1m当たりの添加量が、粘性土の場合8〜40kg、砂質土の場合4〜20kg、礫質土の場合2〜10kgであることを特徴とする請求項1又は2に記載のソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法。
【請求項4】
記炭酸アルカリ金属塩(B)と重炭酸アルカリ金属塩(C)の添加割合(質量比)が、(B):(C)=15:85〜85:15であることを特徴とする請求項1、2に記載のソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法。
【請求項5】
前記水溶性重合体(A)が、エチレン性不飽和結合を有する単量体に由来する構造単位であって、COO結合を有する構造単位を含み、重量平均分子量が50000以下のものであることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法。
【請求項6】
前記水溶性重合体(A)が、アクリル酸又はその塩に由来する構造単位を含む重合体であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法。
【請求項7】
前記炭酸アルカリ金属塩(B)が、炭酸ナトリウムであり、前記重炭酸アルカリ金属塩(C)が、重炭酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法。
【請求項8】
前記リン酸アルカリ金属塩(D)が、トリポリリン酸アルカリ金属塩、ヘキサメタリン酸アルカリ金属塩、テトラポリリン酸アルカリ金属塩、ピロリン酸アルカリ金属塩、第二リン酸アルカリ金属塩及び第三リン酸アルカリ金属塩から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載のソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法。
【請求項9】
地中で土とセメント系懸濁液とを混合することによってソイルセメントを生成するにあたり、ソイルセメント流動化剤を添加することによって、ソイルセメントの流動性と流動性の保持時間を制御する方法であって、前記水溶性重合体(A)と、炭酸アルカリ金属塩(B)、重炭酸アルカリ金属塩(C)及びリン酸アルカリ金属塩(D)のうちの少なくとも2種とからなる前記ソイルセメント流動化剤を、削孔機による削孔時と削孔機の引き上げ時に分割添加することとし、前記削孔時においては、前記ソイルセメント流動化剤の添加量が、ソイルセメントの流動性の保持時間として6〜9時間となるように調整し、前記引き上げ時においては、必要となるソイルセメントの流動性の保持時間に合わせて、前記ソイルセメント流動化剤の添加量を調整することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法。
【請求項10】
前記引き上げ時においては、必要となるソイルセメントの流動性の保持時間に合わせて、前記ソイルセメント流動化剤のうち、前記水溶性重合体(A)、リン酸アルカリ金属塩(D)、又は前記水溶性重合体(A)とリン酸アルカリ金属塩(D)とを添加し、その添加量を調整することを特徴とする請求項に記載のソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法に関し、特に、ソイルセメントに、ソイルセメント流動化剤を添加することによって、ソイルセメントの流動性と流動性の保持時間を制御する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ソイルセメントとは、土(以下、「対象土」ともいう。)にセメント系固化材あるいはこれに水を加えて混合したものである。このソイルセメントを利用する工法としては、地盤改良工法、山留め工法、基礎杭工法、埋め戻し工法等がある。
これらの工法では、通常、セメント系固化材と水とを事前に混合したセメント系懸濁液(「セメントミルク」又は「セメントスラリー」ともいわれる。)を土に添加する。
上記セメント系懸濁液には、必要に応じて、例えば、ブリージング等を抑制するために、ベントナイト又は水溶性高分子を添加する場合もある。
上記セメント系固化材(以下、単に「固化材」という。)としては、普通ポルトランドセメント、高炉セメント及び普通ポルトランドセメントと、高炉スラグ、石灰石粉、フライアッシュ、シリカ微粉末、炭酸カルシウム、石膏等とを混合して得られる混合セメントなどが用いられる。
上記セメント系懸濁液の添加量は、ソイルセメントの造成対象となる土の物性(土質やその含水状態等)や、ソイルセメントを利用する上記各工法の施工目的(目標強度等)に応じて決定される。
セメント系固化材の添加量は、通常、対象土1m当たりの添加量(kg)で示され、100〜500kgが一般的である。また、水・セメント比(以下、「W/C(%)」と記す。)は、60〜350%が一般的である。
セメント系懸濁液の添加量は、通常、対象土1m当たりのセメント系懸濁液の注入量(m)又は注入率(%)で示される。ここで、セメント系懸濁液の注入率(%)は、セメント系懸濁液の注入量(m)/対象土(m)×100で算出され、例えば、注入率100%とは、対象土1mに対し、1mのセメント系懸濁液が添加されることを表す。
【0003】
ソイルセメントを利用する工法としては、(1)原地盤(地中)でソイルセメントを造成する工法と、(2)地上でソイルセメントを造成する工法の2工法に大別される。
上記2工法のうち、特に、ソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の調整が求められる(1)の原地盤(地中)でソイルセメントを造成する工法及びその問題点について、以下に説明する。
【0004】
(1)の原地盤(地中)でソイルセメントを造成する工法としては、地盤改良工法、地中連続壁工法、基礎杭工法等が挙げられる。地盤改良工法としては、中層・深層混合処理工法及びジェットグラウト工法等が代表的である。地中連続壁工法としては、柱列式と等厚式の2方式があり、施工目的等に応じて、ソイルセメント山留め壁(土留め壁)工法又はソイルセメント遮水壁(止水壁)工法とも呼ばれる。基礎杭工法としては、鋼管ソイルセメント杭工法や鋼管の代わりにPHC杭などの既製杭を使用する工法等が代表的である。
【0005】
これらの工法では、原理的に、地盤に注入したセメント系懸濁液の体積(注入量)に等しい廃棄ソイルセメントスラリー(産業廃棄物としての汚泥)が発生することから、所要の流動性及び強度等が得られる範囲内において、セメント系懸濁液の注入量はできるだけ少ない方がコスト・環境面で好ましい。
【0006】
また、これらの工法においては、削孔時の撹拌トルクを低減(混合撹拌性を向上)するとともに、余剰の廃棄ソイルセメントスラリー(以下、「泥土」という。)を地中から地上へ排出し、更に地上の泥土ピットへ流入させなければならないため、ソイルセメントにはセルフレベリング性を示す高い流動性が必要とされ、具体的には、テーブルフロー値(TF)として、TF≧200mm(高流動性)が必要性とされる。
更に、これらの工法のうち、ソイルセメント地中連続壁工法及び鋼管ソイルセメント杭工法等においては、地中でソイルセメントを造成した後(削孔後)、そのソイルセメント中にH型鋼又は鋼管等の応力材を建て込むため、ソイルセメントにはテーブルフロー値TF≧150mmの流動性が必要とされる。
【0007】
以上述べたとおり、ソイルセメント地中連続壁工法及び鋼管ソイルセメント杭工法等においては、各工程に適した流動性とその流動性を所定時間保持することが必要であり、これを的確に調整・制御することが工事の成否を決めることになる。
特に、ソイルセメント地中連続壁工法は、H型鋼(応力材)をその自重にて建て込むことから、より高い流動性とその流動性を所定時間保持することが必要となる。
【0008】
そこで、上記対策として、セメント系懸濁液の注入量(注入率)を上げることにより、ソイルセメントの流動性を確保する方法と、ソイルセメント流動化剤を添加することにより、ソイルセメントの流動性を確保する方法の2方法がある。
【0009】
前者の方法は、一般的に広く適用されている方法である。しかし、この方法は、セメント系懸濁液の注入率が砂質土の場合で40〜80%、粘性土の場合で70〜120%となり、それに相当する廃棄ソイルセメントスラリーが発生し、その処理・処分が大きな社会問題となっている。
【0010】
一方、後者のソイルセメント流動化剤を添加する方法としては、特許文献1〜4に記載された技術が知られている。これらの技術は、ソイルセメント流動化剤により、土粒子とセメント粒子を分散させることでソイルセメントの粘性を下げ、ソイルセメントを高流動化することができ、セメント系懸濁液の注入率を下げることも可能であるとされている。
これらの技術は、ソイルセメント流動化剤の主剤(必須成分)とされる水溶性重合体として、以下の水溶性重合体を用いることを特徴とし、これらの水溶性重合体を見出したことを発明の論点としている。
特許文献1:カルボン酸又はその1価塩を主要構成単量体単位とする低分子量重合体
特許文献2:エチレン性不飽和モノカルボン酸及びエチレン性不飽和ジカルボン酸から選ばれた少なくとも1種の重合体及び共重合体及びそれらの水溶性塩の少なくとも1種を含む重合体成分
特許文献3:特定のリン酸エステル系重合体
特許文献4:(メタ)アクリル酸アルカリ土類金属塩(A)単位と共重合モノマー(B)単位から構成される共重合体(X)を含有する組成物であって、(メタ)アクリル酸アルカリ土類金属塩(A)単位が20〜85モル%、共重合モノマー(B)単位が15〜80モル%
しかし、これらの水溶性重合体は、特許文献1にも明記されているように、単独で使用した場合にはソイルセメントを流動化することができる反面、ソイルセメントの強度を低下させるという欠点がある。特に、ソイルセメントを高流動化し、その流動性を長時間保持させようとすればするほど、強度が著しく低下する。このため、特許文献1〜4の技術では、水溶性重合体(主剤)と共に、助剤として、炭酸アルカリ金属塩や重炭酸アルカリ金属塩、有機酸塩、ポリリン酸塩、糖類等を特定の割合・重量比で併用することを特徴としている。
更に述べると、特許文献2〜4の技術については、流動性と強度を満足させる経済的かつ的確な配合処方(主剤と助剤との添加比率、対象土1m当たりの添加量など)が開示されていないため、実際の施工に適用することが困難であると考えられる。
更に、ソイルセメントの流動性と流動性の保持時間(6〜48時間程度)を制御する具体的な方法が開示されていないため、以下に述べる、最近の課題を解決することは困難であるといえる。
【0011】
[ソイルセメントを利用する工法の最近の課題]
10〜15年ほど前までは、ソイルセメントを用いる各種工法のうち、例えば、ソイルセメント地中連続壁工法や鋼管ソイルセメント杭工法におけるソイルセメントの流動性(テーブルフロー値TF≧150mm)は、2〜4時間程度保つことができれば、大半の工事に対応することが可能であった。
【0012】
しかし、最近になって、特に、都市部の工事において、近隣住民の環境対策(騒音・振動に対する配慮)として、昼食時間帯の施工中断及び午後5時乃至6時以降の施工中止や道路渋滞及び入出場規制による関係車両の搬入・搬出遅延、また、それに伴う施工の中断等により、1工程(削孔開始〜応力材建込み完了まで)の所要時間が長くなることが多く、このような場合には、ソイルセメントの流動性を4時間以上、例えば、8時間前後まで延ばすことが要請されている。
【0013】
また、このような工事事情のほかに、都市部での土地の有効活用、公共インフラ整備での大深度工事では、1工程の施工が12時間又はそれ以上に及ぶこともあり、このような場合には任意の時間(例えば、6〜48時間(1工程の施工に要する時間)程度まで)、ソイルセメントの流動性を経済的かつ的確に保持、調整することができれば理想的(画期的)である。
【0014】
更に、削孔時のソイルセメントの流動性については、前述したように、テーブルフロー値TF≧200mm(高流動性)が必要とされ、その高流動性の保持時間(削孔開始から削孔完了までの時間)は、上記大深度工事を鑑みると、例えば、5〜40時間程度の任意の時間に調整できれば好ましいといえる。更に、ソイルセメントの流動性としては、長時間遅延させた場合でも、応力材建込み後、速やかに固化し、ソイルセメントの強度低下を抑え、所定強度が得られなければならない。
【0015】
以上述べたとおり、ソイルセメントの高流動性(TF≧200mm)を5〜40時間程度の任意の時間に保持、調整でき、更に、応力材建込み時の流動性(TF≧150mm)を6〜48時間程度の任意時間に保持、調整できれば、従来、特許文献1〜4に記載された技術において課題とされてきた、以下の(1)〜(4)の問題を解決することができる。
(1)流動性の保持時間(通常2〜4時間程度)に合わせて応力材を建込んでおり、次の施工でその隣を削孔した場合には、削孔時の撹拌及び高圧エアの影響により、良好に建込んだ応力材が揺れ動き、結果的に建込み精度が低下する。
(2)従来は、種々の理由で1工程(削孔開始〜応力材建込みまで)の時間が遅延した場合、応力材の高止まり(建込み不可)が発生し、再削孔を行うことが少なくない。
(3)例えば、1工程(削孔開始〜応力材建込みまで)の施工が早期に終わり、次の施工を行うことができる場合でも、施工終了時間規制がある場合は施工を断念したり、また、種々の施工遅延により、当日1工程を施工できず、翌日施工する場合は前日施工したソイルセメントが固化しているので再削孔を行ったりしなければならない。
(4)硬質地盤(例えば、N値≧50)や削孔長が40mを超える場合では、削孔に長時間(4〜8時間)を要するため、補助工法として先行して貧配合での削孔を行い、ソイルセメント地中連続壁工法の削孔時間を短縮するか、遅延剤添加による強度低下を抑えるため多量のセメント系懸濁液を用いて流動性を確保しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許第3554496号公報
【特許文献2】特許第4046720号公報
【特許文献3】特許第4644114号公報
【特許文献4】特許第5226143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記従来のソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法の有する問題点に鑑み、削孔時に必要なソイルセメントの高流動性(TF≧200mm)を、例えば、5〜40時間程度の任意の時間に保持、調整することができ、更に応力材建込み時に必要なソイルセメントの流動性(TF≧150mm)を、例えば、6〜48時間程度の任意の時間に保持、調整することができるとともに、その後速やかに固化し、ソイルセメントの強度を所定強度にすることができるソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、本発明のソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法は、土とセメント系懸濁液とを混合することによってソイルセメントを生成するにあたり、ソイルセメント流動化剤を添加することによって、ソイルセメントの流動性と流動性の保持時間を制御する方法であって、前記ソイルセメント流動化剤が、水溶性重合体(A)と、炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)からなり、水溶性重合体(A)100質量部(固形分)に対する炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)合計添加割合が、100〜1500質量部であるとともに、前記ソイルセメント流動化剤の土1m当たりの添加量が、2〜40kgであることを特徴とする。
また、同じ目的を達成するため、本発明のソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法は、土とセメント系懸濁液とを混合することによってソイルセメントを生成するにあたり、ソイルセメント流動化剤を添加することによって、ソイルセメントの流動性と流動性の保持時間を制御する方法であって、前記ソイルセメント流動化剤が、水溶性重合体(A)と、炭酸アルカリ金属塩(B)、重炭酸アルカリ金属塩(C)及びリン酸アルカリ金属塩(D)とからなり、水溶性重合体(A)100質量部(固形分)に対する炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)の合計添加割合が、100〜1500質量部、リン酸アルカリ金属塩(D)の添加割合が、1〜500質量部であるとともに、前記ソイルセメント流動化剤の土1m当たりの添加量が、2〜40kgであることを特徴とする。
ここで、炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)には、複塩であるセスキ炭酸アルカリ金属塩を含むものとする。
【0019】
この場合において、前記ソイルセメント流動化剤の土1m当たりの添加量が、粘性土の場合8〜40kg、砂質土の場合4〜20kg、礫質土の場合2〜10kgであることを特徴とする。
【0024】
また、前記炭酸アルカリ金属塩(B)と重炭酸アルカリ金属塩(C)を併用する場合、前記炭酸アルカリ金属塩(B)と重炭酸アルカリ金属塩(C)の添加割合(質量比)が、(B):(C)=15:85〜85:15であることを特徴とする。
【0025】
また、前記水溶性重合体(A)が、エチレン性不飽和結合を有する単量体に由来する構造単位であって、COO結合を有する構造単位を含み、重量平均分子量が50000以下のものであることを特徴とする。
【0026】
また、前記水溶性重合体(A)が、アクリル酸又はその塩に由来する構造単位を含む重合体であることを特徴とする。
【0027】
また、前記炭酸アルカリ金属塩(B)が、炭酸ナトリウムであり、前記重炭酸アルカリ金属塩(C)が、重炭酸ナトリウムであることを特徴とする。
【0028】
また、前記リン酸アルカリ金属塩(D)が、トリポリリン酸アルカリ金属塩、ヘキサメタリン酸アルカリ金属塩、テトラポリリン酸アルカリ金属塩、ピロリン酸アルカリ金属塩、第二リン酸アルカリ金属塩及び第三リン酸アルカリ金属塩から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする。
【0029】
また、地中で土とセメント系懸濁液とを混合することによってソイルセメントを生成するにあたり、ソイルセメント流動化剤を添加することによって、ソイルセメントの流動性と流動性の保持時間を制御する方法であって、前記水溶性重合体(A)と、炭酸アルカリ金属塩(B)、重炭酸アルカリ金属塩(C)及びリン酸アルカリ金属塩(D)のうちの少なくとも2種とからなる前記ソイルセメント流動化剤を、削孔機による削孔時と削孔機の引き上げ時に分割添加することとし、前記削孔時においては、前記ソイルセメント流動化剤の添加量が、ソイルセメントの流動性の保持時間として6〜9時間となるように調整し、前記引き上げ時においては、必要となるソイルセメントの流動性の保持時間に合わせて前記ソイルセメント流動化剤の添加量を調整することを特徴とする。
【0030】
更に、前記引き上げ時においては、必要となるソイルセメントの流動性の保持時間に合わせて、前記ソイルセメント流動化剤のうち、前記水溶性重合体(A)、リン酸アルカリ金属塩(D)、又は前記水溶性重合体(A)とリン酸アルカリ金属塩(D)とを添加し、その添加量を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明のソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法によれば、ソイルセメントの流動性を6〜48時間程度の任意時間に保持、調整することができるとともに、その後速やかに固化し、ソイルセメントの強度を所定強度にすることができる。
また、最近の公共工事は環境に配慮した工法を採用する事例が増えている。COの排出量の削減(製造時に大量のCOを発生するセメントの使用量の削減、運搬車両の削減)や泥土発生量の削減(処分場の受け入れ量の問題)が主な理由であり、如何に少ないセメント系懸濁液の注入量で流動性を長時間保持し、また、所定強度を確保できるかが求められている。本発明のソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法によれば、従来よりセメント系懸濁液の注入量を削減しても同等以上の流動性が得られ、更にその流動性を長時間に亘って保持することができるとともに、その後速やかに固化し、ソイルセメントの強度を目的強度にすることができるため、優れた環境負荷低減工法といえる。
これにより、従来、特許文献1〜4に記載された技術において課題とされてきた、以下のとおり、上記(1)〜(4)の問題点を解決することができる。
(1)流動性の保持時間(通常2〜4時間程度)に合わせて応力材を建込んでおり、次の施工でその隣を削孔した場合には、削孔時の撹拌及び高圧エアの影響により、良好に建込んだ応力材が揺れ動き、結果的に建込み精度が低下することに対して、例えば、朝に削孔した施工箇所も含め、夕方に一括して応力材を建込むことが可能となり、応力材の建込み精度不良がなくなる。
(2)従来は、種々の理由で1工程(削孔開始〜応力材建込みまで)の時間が遅延した場合、応力材の高止まり(建込み不可)が発生し、再削孔を行うことが少なくないことに対して、再削孔が必要になることを防止でき、余分なセメントミルクの注入及び泥土の発生を防止でき、コスト縮減及び工期短縮を図ることができる。
(3)例えば、1工程(削孔開始〜応力材建込みまで)の施工が14時に終わり、次の施工を行うことができる場合でも、施工終了時間規制がある場合は施工を断念したり、また、種々の施工遅延により、当日1工程を施工できず、翌日施工する場合は前日施工したソイルセメントが固化しているので再削孔を行ったりしなければならないことに対して、適宜、6〜24時間程度の任意の時間、流動性を保持することが可能であるため、このような施工断念や再削孔を解消でき、コスト縮減及び工期短縮を図ることができる。
(4)従来は硬質地盤(例えば、N値≧50)や削孔長が40mを超える場合では、削孔に長時間(4〜8時間)を要するため、補助工法として先行して貧配合での削孔を行い、ソイルセメント地中連続壁工法の削孔時間を短縮するか、遅延剤添加による強度低下を抑えるため多量のセメント系懸濁液を用いて流動性を確保しなければならなかったが、本発明は6〜24時間程度の任意の時間、流動性を保持することが可能であり、ソイルセメント強度を所定強度にすることができるためコスト縮減及び工期短縮を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明のソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法の実施の形態を、具体的に説明する。
【0033】
本発明のソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法は、土とセメント系懸濁液とを混合することによってソイルセメントを生成するにあたり、ソイルセメント流動化剤を添加することによって、ソイルセメントの流動性と流動性の保持時間を制御する方法であって、前記ソイルセメント流動化剤が、水溶性重合体(A)と、炭酸アルカリ金属塩(B)、重炭酸アルカリ金属塩(C)及びリン酸アルカリ金属塩(D)のうちの少なくとも2種とからなり、水溶性重合体(A)100質量部(固形分)に対する炭酸アルカリ金属塩(B)、重炭酸アルカリ金属塩(C)及びリン酸アルカリ金属塩(D)の添加割合が、それぞれ、100〜1500質量部、100〜1500質量部及び1〜500質量部で、かつ、炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)の合計添加割合が、100〜1500質量部とするものである。
ここで、炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)には、複塩であるセスキ炭酸アルカリ金属塩を含むものとする。
【0034】
[水溶性重合体(A)について]
上記水溶性重合体(A)は、水に溶解するものであれば、特に限定されず、例えば、エチレン性不飽和結合を有する単量体(ビニル系単量体)に由来する構造単位を含むビニル系(共)重合体又はその塩(以下、単に「ビニル系(共)重合体」という。)、ポリアルキレングリコール、多糖類等を用いることができる。本発明のソイルセメント用流動化剤組成物は、水溶性重合体(A)を1種のみを含んでよいし、2種以上を含んでもよい。
【0035】
上記ビニル系(共)重合体は、下記に示される親水性基の少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0036】
【化1】
【0037】
上記ビニル系(共)重合体に含まれる親水性基は、分子末端に位置していてよいし、側鎖に含まれていてもよい。
上記ビニル系(共)重合体は、上記親水性基の少なくとも1つを有するビニル系単量体に由来する構造単位(親水性基含有構造単位)を含むことが好ましい。この場合、親水性基含有構造単位の含有割合は、ビニル系(共)重合体を構成するすべての構造単位の合計を100質量%とした場合に、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上である。尚、上限値は100質量%である。
【0038】
また、上記ビニル系(共)重合体は、COO結合を含むことが好ましい。この場合、親水性基として例示した−COOMを含む重合体だけでなく、−COOM以外の親水性基と、COO結合とを含む重合体も好ましい。尚、COO結合は、以下に例示されるものを意味する。
【0039】
【化2】
【0040】
上記COO結合は、エチレン性不飽和結合に由来する主鎖を構成する炭素原子に直接結合されたものであってよいし、側鎖に含まれるものであってもよい。
【0041】
上記COO結合を含む親水性基含有構造単位を与えるビニル系単量体としては、アクリル酸及びその塩(アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸マグネシウム、アクリル酸カルシウム等)、メタクリル酸及びその塩(メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カリウム等)、エタクリル酸及びその塩、クロトン酸及びその塩、桂皮酸及びその塩、マレイン酸及びその塩(マレイン酸ナトリウム等)、メチルマレイン酸及びその塩、ジメチルマレイン酸及びその塩、フェニルマレイン酸及びその塩、マレイン酸ハーフエステル及びその塩、フマル酸及びその塩(フマル酸ナトリウム等)、フマル酸ハーフエステル及びその塩、イタコン酸及びその塩(イタコン酸ナトリウム等)、イタコン酸ハーフエステル及びその塩、シトラコン酸及びその塩、シトラコン酸ハーフエステル及びその塩等の、−COOM基を有する単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等の、酸無水物基を有する単量体;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、マレイン酸ジ−2−ヒドロキシエチル、マレイン酸ジ−4−ヒドロキシブチル、イタコン酸ジ−2−ヒドロキシプロピル等の、ヒドロキシル基を有する単量体;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシ3−クロロプロピルホスフェート、フェニル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートのリン酸エステル、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートのリン酸エステル等の、下記一般式(1)、(2)、(3)又は(4)で表されるリン原子含有単量体;1−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸及びその塩、2−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸及びその塩、2−(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸及びその塩、3−(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸及びその塩、2−(メタ)アクリロイルオキシブタンスルホン酸及びその塩、3−(メタ)アクリロイルオキシブタンスルホン酸及びその塩、4−(メタ)アクリロイルオキシブタンスルホン酸及びその塩、2−ヒドロキシスルホプロピル(メタ)アクリレート及びその塩、3−(メタ)アクリロキシ−2−(ポリ)オキシエチレンエーテルプロパンスルホン酸及びその塩、3−(メタ)アクリロキシ−2−(ポリ)オキシプロピレンエーテルプロパンスルホン酸及びその塩等の、下記一般式(5)又は(6)で表される硫黄原子含有単量体;下記一般式(7)、(8)、(9)又は(10)で表される硫黄原子含有単量体等が挙げられる。
【0042】
【化3】
【0043】
【化4】
【0044】
【化5】
【0045】
【化6】
【0046】
上記ビニル系(共)重合体を構成する、COO結合を含む親水性基含有構造単位を与えるビニル系単量体としては、−COOM基を有する単量体が好ましく、アクリル酸又はその塩が特に好ましい。
【0047】
また、COO結合を含まないが親水性基含有構造単位を与えるビニル系単量体としては、ビニルアルコール、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−4−ピロリドン、N−ビニル−3−メチルピロリドン、N−ビニル−5−メチルピロリドン、N−ビニル−3−ベンジルピロリドン、N−ビニル−3,3,5−トリメチルピロリドン、N−アクリロイルピペジリン、N−アクリロイルピロリジン、ビニルホルムアミド、ビニルアセトアミド等が挙げられる。
【0048】
上記ビニル系(共)重合体は、更に、親水性基を有さない構造単位を含んでもよい。このような構造単位を与えるビニル系単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート、ビニルアミン、アリルアミン、アミノスチレン、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルメチルアミン、アリルメチルアミン、メチルアミノスチレン、tert−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、N−エチルモルホリノ(メタ)アクリレート、ジメチルアミノスチレン、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、β−メチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン等が挙げられる。
【0049】
上記ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリブチレングリコール等が挙げられる。
【0050】
上記多糖類としては、ノニオン性セルロース、アニオン性セルロース、カチオン性セルロース等が挙げられる。
【0051】
上記水溶性重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、ソイルセメントの流動性、ソイルセメントが固化した場合の強度等の観点から、好ましくは50000以下、より好ましくは30000以下、更に好ましくは20000以下である。尚、重量平均分子量(Mw)の下限値は、通常、2000である。
【0052】
本発明に係る水溶性重合体(A)としては、ソイルセメントの流動性、ソイルセメントが固化した場合の強度等がより優れることから、−COOM基を有する単量体に由来する構造単位を含むビニル系(共)重合体が好ましく、アクリル酸又はその塩に由来する構造単位を含むビニル系(共)重合体が特に好ましい。上記水溶性重合体(A)がアクリル酸又はその塩に由来する構造単位を含むビニル系(共)重合体である場合、このビニル系(共)重合体に含まれる、アクリル酸又はその塩に由来する構造単位の割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。
【0053】
[炭酸アルカリ金属塩(B)、重炭酸アルカリ金属塩(C)及びリン酸アルカリ金属塩(D)について]
前記水溶性重合体(A)は、本発明のソイルセメント流動化剤の必須成分(主剤)であるが、これを単独で使用した場合にはソイルセメントに流動性を与えることができる反面、ソイルセメントの強度を低下させるという欠点がある。特に、ソイルセメントを高流動化し、その流動性を長時間保持させようとすればするほど、強度が著しく低下する。
そこで、上記水溶性重合体(A)の欠点を補うために、助剤として併用するのが炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)である。この併用により、ソイルセメントの強度を低下させることなく、土粒子(特に、シルトや粘土粒子)及びセメント粒子を分散させ、ソイルセメントに流動性を与え、かつ、プレーン配合(ソイルセメント流動化剤を添加しない配合。「ベース配合」ともいう。)と同等以上の強度を確保することが可能となる。
また、炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)の価格(純分価格)は、水溶性重合体(A)の約1/5〜1/10であるため、薬剤コストを大幅に縮減することが可能となる。
なお、炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)を単独で使用した場合には、ソイルセメントの強度をプレーン配合よりも高くすることはできるが、ソイルセメントを高流動化することはできない。
ここで、炭酸アルカリ金属塩(B)と重炭酸アルカリ金属塩(C)とを比較すると、以下のことがいえる。
炭酸アルカリ金属塩(B)又は重炭酸アルカリ金属塩(C)を、水溶性重合体(A)及びリン酸アルカリ金属塩(D)と併用する配合において、炭酸アルカリ金属塩(B)は、重炭酸アルカリ金属塩(C)に比べ、ソイルセメント造成時の流動性及び混合・撹拌性(撹拌トルク低減)に優れるとともに、ソイルセメントの強度が高くなる。一方、重炭酸アルカリ金属塩(C)は、炭酸アルカリ金属塩(B)に比べ、ソイルセメントの流動性保持時間がより長く、その後の固化性(速やかに固化すること)に優れる。
したがって、ソイルセメントを利用する工法の施工条件(基準配合、流動性保持時間、強度等の要求品質)に応じて炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)を使い分け、いずれか一方又は両方を用いることが好ましい。特に、その両方を下記のリン酸アルカリ金属塩(D)と併用することがより好ましく、本発明の効果を最も経済的かつ的確に発揮することができる。
一方、リン酸アルカリ金属塩(D)は、単独で使用した場合、及び水溶性重合体(A)と併用した場合でも、本発明の効果を発揮することはできない(後述の表6の実験例2−1の比較例2参照。)。
しかし、水溶性重合体(A)とともに、上記炭酸アルカリ金属塩(B)又は重炭酸アルカリ金属塩(C)、又はその両方と併用することで、リン酸アルカリ金属塩(D)の作用効果が生み出される。すなわち、その作用効果とは、ソイルセメントの強度を低下させることなく、ソイルセメントの流動性の保持時間を飛躍的に延ばすことが可能となる。このリン酸アルカリ金属塩(D)の作用効果は、従来公知の硬化遅延剤、例えば、グルコン酸塩やサッカロース等に比べて顕著に優れている(後述の表9−1の実験例3−1(その1)の実施例1〜3及び6〜8と、表9−2の実験例3−1(その2)の比較例5〜7参照。)。
ただし、ここで重要なことは、上記リン酸アルカリ金属塩(D)の作用効果は、本発明のソイルセメント流動化剤の各成分(A)、(B)、(C)及び(D)の添加割合(質量比)と、対象土1m当たりのソイルセメント流動化剤の添加量の両方が好ましい範囲でなければ達成することはできない。すなわち、本発明の効果は、本発明のソイルセメント流動化剤の各成分(A)、(B)、(C)及び(D)の添加割合(質量比)だけが好ましい範囲であっても、容易に達成できるものではない。したがって、従来技術(特許文献1〜4)より、容易に予想できるものではない。
【0054】
炭酸アルカリ金属塩(B)は、水溶性化合物であることが好ましい。水溶性の炭酸アルカリ金属塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム等が挙げられる。これらのうち、炭酸ナトリウムが特に好ましい。なお、ソイルセメント流動化剤が、炭酸アルカリ金属塩を含有する場合、炭酸アルカリ金属塩を1種のみ含んでよいし、2種以上を含んでもよい。
【0055】
重炭酸アルカリ金属塩(C)は、水溶性化合物であることが好ましい。水溶性の重炭酸アルカリ金属塩としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。これらのうち、炭酸水素ナトリウムが特に好ましい。なお、ソイルセメント流動化剤が、重炭酸アルカリ金属塩を含有する場合、重炭酸アルカリ金属塩を1種のみ含んでよいし、2種以上を含んでもよい。
【0056】
ここで、炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)を併用する場合には、複塩であるセスキ炭酸アルカリ金属塩を用いてもよい。
【0057】
本発明のソイルセメント流動化剤に含まれる炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)の添加割合(両方を用いる場合は両方を合計した添加割合)は、ソイルセメントの流動性及びその保持時間、その後の速やかな固化、強度等の観点から、水溶性重合体(A)100質量部に対して、100〜1500質量部であり、好ましくは100〜1000質量部、より好ましくは100〜800質量部である。
【0058】
上記リン酸アルカリ金属塩(D)は、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、第二リン酸、第三リン酸等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等が挙げられる。これらのうち、第二リン酸、第三リン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸等のナトリウム塩又はカリウム塩等が好ましく、トリポリリン酸、テトラポリリン酸及びヘキサメタリン酸のナトリウム塩が特に好ましい。なお、ソイルセメント流動化剤には、リン酸アルカリ金属塩(D)を1種のみ含んでよいし、2種以上を含んでもよい。
【0059】
ソイルセメント流動化剤におけるリン酸アルカリ金属塩(D)の添加割合は、ソイルセメントの流動性及びその保持時間、その後の速やかな固化、強度等の観点から、水溶性重合体(A)100質量部に対して、1〜500質量部であり、好ましくは1〜400質量部、より好ましくは1〜300質量部である。
【0060】
[ソイルセメント流動化剤の添加量について]
ソイルセメント流動化剤の添加量は、一般的に、対象土1m当たりの添加量で示す。ソイルセメントを利用する工法の中には、コンクリートやモルタル用混和剤の概念に基づきソイルセメントの強度低下乃至硬化不良防止の観点から、セメントとの質量比(=添加量/セメント×100)で示す場合もある。
ソイルセメントの流動化及び流動性の保持に要するソイルセメント流動化剤の添加量は、セメントの分散・固化遅延に要するよりも粘土やシルト等の土粒子の分散に要する方が多いため、対象土1m当たりの添加量で示した方が的確で好ましいといえる。
本発明のソイルセメント流動化剤の添加量は、対象土1m当たり、2〜40kgであることが好ましい。2kg未満の場合は、添加量の不足により、本発明の効果が得られない。一方、40kg超の場合は、過剰添加により、所定の流動性及び流動性の保持時間が得られず、更に、流動性保持後にソイルセメントが速やかに固化せず、強度が著しく低下することも少なくない。
上記の流動化剤添加量(2〜40kg)は、対象土の土質(粘土、シルト、砂、礫)及びその物性(湿潤密度、含水比、液性限界等)に応じて設定し、更に、ソイルセメントを利用する各工法の施工条件(基準配合:セメント量、水/セメント比、注入量及び要求品質等)に応じて調整するのが望ましい。
【0061】
以下に、ソイルセメント流動化剤の添加量を具体的に示す。
対象土が粘性土(シルト、粘土)である場合は、粘性土1m当たり、8〜40kgが好ましく、砂質土の場合は4〜20kgが好ましく、礫質土の場合は2〜10kgが好ましい。
また、対象土が粘性土、砂質土、礫質土の3土質で構成される場合の添加量は、上記の各土質の好ましい添加量と各土質の構成割合(容積比)とを加重平均して算出すればよい。例えば、各土質の混合割合が、粘性土:砂質土:礫質土=1:1:1である場合、土1m当たり、4.7〜23.3kgとなる。
【0062】
[ソイルセメント流動化剤の各成分の適正添加量について]
本発明の効果を発揮させるためには、ソイルセメント流動化剤の各成分(水溶性重合体(A)、炭酸アルカリ金属塩(B)、重炭酸アルカリ金属塩(C)及びリン酸アルカリ金属塩(D))の添加量がそれぞれ過不足なく、適正量であることが極めて重要である。
すなわち、本発明においては、上記の流動化剤の添加割合(水溶性重合体(A)100質量部に対する各助剤の質量比)と、対象土1m当たりの流動化剤各成分の添加量がともに適正でなければ本発明の効果は得られない。
以下に、粘性土1m当たりの流動化剤各成分の適正添加量を示す。
【0063】
水溶性重合体(A)の適正添加量は、1.1〜9.0kgであり、2.2〜7.5kgがより好ましい。ここで、水溶性重合体(A)の添加量が1.1kg未満の場合は、添加量の不足により、本発明の効果が得られないことが多い。一方、9.0kg超の場合は、過剰添加により、流動性の保持時間が必要以上に長くなったり、あるいは流動性保持後にソイルセメントが速やかに固化せず、強度が大幅に低下することも少なくなく、また、薬剤費が嵩むという問題がある。
【0064】
また、炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)の適正添加量(両方を用いる場合は両方を合計した添加量)は、5.0〜22.5kgであり、7.5〜17.5kgがより好ましい。ここで、炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)の添加量が5.0kg未満の場合は添加量の不足により、本発明の効果が得られないことが多い。一方、22.5kg超の場合は、過剰添加により、高流動性が逆に得られなくなったり、あるいは流動性の保持時間が逆に短くなることもあり、更に、流動性保持後にソイルセメントが速やかに固化せず、強度が大幅に低下することも少なくない。
【0065】
また、リン酸アルカリ金属塩(D)の適正添加量は、0.5〜5.0kgであり、1.0〜3.5kgがより好ましい。ここで、リン酸アルカリ金属塩(D)の添加量が0.5kg未満の場合は、添加量の不足により、本発明の効果が得られことが多い。一方、5.0kg超の場合は、過剰添加により、流動性の保持時間が必要以上に長くなったり(流動性の保持時間のコントロールが効かなくなったり)するとともに、流動性保持後にソイルセメントが速やかに固化せず、強度が大幅に低下することも少なくない。
【0066】
また、炭酸アルカリ金属塩(B)と重炭酸アルカリ金属塩(C)の両方を用いる(併用添加)場合の合計添加量は、5.0〜22.5kgが好ましく、7.5〜17.5kgがより好ましい。そして、炭酸アルカリ金属塩(B)と重炭酸アルカリ金属塩(C)の添加割合(質量比)は、(B):(C)=15:85〜85:15が好ましく、(B):(C)=35:65〜65:35がより好ましい。ここで、炭酸アルカリ金属塩(B)と重炭酸アルカリ金属塩(C)の合計添加量が5.0kg未満の場合は、添加量の不足により、本発明の効果が得られないことが多い。一方、22.5kg超の場合は、過剰添加により、高流動性が逆に得られなくなったり、あるいは流動性の保持時間が逆に短くなるとともに、流動性保持後にソイルセメントが速やかに固化せず、強度が大幅に低下することも少なくない。更に、炭酸アルカリ金属塩(B)と重炭酸アルカリ金属塩(C)の添加割合(質量比)が、(B):(C)=15:85〜85:15の範囲を超える場合は、(B)(C)併用添加の効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0067】
なお、上記の粘性土1m当たりのソイルセメント流動化剤各成分の適正添加量は、一般的な粘性土並びにソイルセメントを利用する各工法の一般的な施工条件を対象とするものであり、特殊条件においてはセメント系懸濁液の配合も含め、多少調整が必要である。また、対象土が砂質土、礫質土である場合の流動化剤各成分の適正添加量は、それぞれ、上記粘性土の場合の1/2、1/4である。
また、粘性土、砂質土及び礫質土の3土質が混ざり合った対象土の場合は、3土質の添加量を加重平均して適正添加量を求めればよい。
【0068】
[ソイルセメントの流動性保持時間の調整・制御方法について]
硬質地盤(例えば、N値≧50)を対象とする工事や削孔長が40mを超える大深度工事、あるいは都市部の工事等においては、種々の要因により、削孔開始から応力材建込みまで(1工程)の施工時間が8時間又はそれ以上に及ぶこともあり、これらの工事においては、ソイルセメントの流動性も含め、流動性の保持時間を効率よく的確に調整・制御することが求められる。そこで、従来技術では、一般的に、遅延剤を添加したセメント系懸濁液を多量に注入して流動性の保持時間を確保しているのが実情である。
本発明によれば、セメント系懸濁液の注入量を増やすことなく、ソイルセメントの流動性の保持時間を6〜24時間、又はそれ以上の48時間程度まで延ばすことも可能である。しかし、ここで、流動性の保持時間を安易に延ばした場合には、薬剤費がかさむとともに、流動性の保持時間のコントロールが効かなく恐れもある。したがって、流動性の保持時間を、例えば24時間に調整・制御する場合、下記の(1)及び(2)の方法を用いれば非常に有効である。
(1)ソイルセメント流動化剤の各成分を分割添加する方法
ソイルセメント流動化剤の各成分を、削孔機による削孔時と削孔機の引き上げ時に分割添加することとし、削孔時においては、ソイルセメント流動化剤の各成分の添加量がソイルセメントの流動性の保持時間として6〜9時間となるように調整し、引き上げ時においては、ソイルセメントの流動性の保持時間が24時間となるように流動化剤各成分の添加量を調整する。具体的には、対象土が一般的な粘性土である場合、削孔時の流動化剤各成分の添加量は、粘性土1m当たり、概ね、水溶性重合体(A)が1.1〜3.0kg、炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)が5.0〜10.0kg(両方を用いる場合は両方を合計した添加量)、リン酸アルカリ金属塩(D)が1.0〜2.0kgとし、引き上げ時の流動化剤各成分の添加量は、概ね、水溶性重合体(A)が1.1〜1.5kg、炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)が2.5〜7.5kg(両方を用いる場合は両方を合計した添加量)、リン酸アルカリ金属塩(D)が0.5〜1.0kgにすれば、概ね24時間の流動性保持が可能である。
(2)削孔時にソイルセメント流動化剤の各成分を添加し、引き上げ時に水溶性重合体(A)及びリン酸アルカリ金属塩(D)を添加する方法
削孔時においては、上記(1)の方法と同様に、ソイルセメントの流動性の保持時間が6〜9時間となるようにソイルセメント流動化剤の各成分を添加することとし、引き上げ時においては、流動性の保持時間が24時間となるように、ソイルセメント流動化剤のうち、水溶性重合体(A)、リン酸アルカリ金属塩(D)、又は水溶性重合体(A)とリン酸アルカリ金属塩(D)との添加量を調整する。具体的には、対象土が一般的な粘性土である場合、削孔時の流動化剤各成分の添加量は、粘性土1m当たり、概ね、水溶性重合体(A)が1.1〜3.0kg、炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)が7.5〜17.5kg(両方を用いる場合は両方を合計した添加量)、リン酸アルカリ金属塩(D)が1.0〜2.0kgとする。一方、引き上げ時の添加量は、ソイルセメント流動化剤のうち、水溶性重合体(A)のみを添加する場合は2.0〜4.0kg、リン酸アルカリ金属塩(D)のみを添加する場合は0.75〜1.5kg、又は水溶性重合体(A)とリン酸アルカリ金属塩(D)の両方を添加する場合は、それぞれ、1.1〜1.5kg、0.5〜1.0kgにすれば、概ね24時間の流動性保持が可能である。
上記の(1)及び(2)の方法により、ソイルセメント流動化剤各成分の添加量の調整を施工状況に応じて適時行うことができ、ソイルセメントの流動性保持時間の調整をより経済的かつ的確に行うことができる。
【0069】
ソイルセメント流動化剤の形状は、特に限定されず、固体混合物及び液状分散体のいずれでもよい。
【0070】
ソイルセメント流動化剤は、原料成分を混合することにより製造することができる。
炭酸アルカリ金属塩及び重炭酸アルカリ金属塩については、これらを、そのまま用いてもよいし、複塩であるセスキ炭酸アルカリ金属塩を用いてもよい。また、液状分散体とする場合には、例えば、一部又はすべての原料成分を、予め、水に溶解させてなる水溶液として用いることができる。
更に、ソイルセメント流動化剤の原料成分を、セメント系懸濁液あるいは土に個別に添加してもよい。
【0071】
[その他の添加剤について]
その他の添加剤として、対象土の土質(粘土、シルト、砂、礫)及びその物性(湿潤密度、含水比、液性限界等)、更に、各工法における施工条件(基準配合:セメント量、水/セメント比、注入量及び要求品質等)等に応じて、グルコン酸塩、トリエタノールアミン、サッカロース等のセメント用硬化遅延剤や硬化促進剤、ポリカルボン酸系、リグニンスルホン酸系、ナフタレン系等のAE減水剤や高性能起泡剤、発泡剤、消泡剤、増粘剤、分離低減剤、防錆剤、収縮低減剤、膨張剤、防凍剤、ポゾラン系混和剤等の従来公知の混和剤を含有することができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。また、下記において、ソイルセメント流動化剤(以下、単に「流動化剤」という)の添加量は、固形分(純分)の添加量を表す。
【0073】
[対象土について]
対象土(試料土)としては、以下に示す粘性土(1)〜(4)を、以下に示すように、各実験例において適宜使用した。
・粘性土(1):東京都江東区新砂三丁目地先で採取した、湿潤密度が1.817g/cm、含水比が36.5%の沖積粘性土(海成粘性土)。以下、この粘性土を「沖積粘性土A1」という。
・粘性土(2):東京都中央区勝どき一丁目地先で採取した、湿潤密度が1.706g/cm、含水比が47.1%の沖積粘性土(海成粘性土)。以下、この粘性土を「沖積粘性土A2」という。
・粘性土(3):茨城県つくば市柳橋地先で採取した、湿潤密度が1.700g/cm、含水比が49.6%の洪積粘性土(陸成粘性土)。以下、この粘性土を「洪積粘性土D1」という。
・粘性土(4):茨城県潮来市小泉南地先で採取した、湿潤密度が1.693g/cm、含水比が49.9%の洪積粘性土(陸成粘性土)。以下、この粘性土を「洪積粘性土D2」という。
【0074】
[セメント系懸濁液について]
以下に示す、流動化剤無添加のセメント系懸濁液C1〜C3をプレーン配合とし、以下に示すように、各実験例において適宜使用した。なお、流動化剤は、セメント系懸濁液C1〜C3(プレーン配合)の水に事前に添加、溶解して実験に供した。
・セメント系懸濁液C1:対象土1m当たり高炉セメントB種160kg、水368kg、水セメント比(以下、「W/C」という。)が230%、注入率が42.1%であり、沖積粘性土A1に対する配合である。
・セメント系懸濁液C2:対象土1m当たり高炉セメントB種170kg、水442kg、W/Cが260%、注入率が49.8%であり、沖積粘性土A2及び洪積粘性土D1に対する配合である。
・セメント系懸濁液C3:対象土1m当たり高炉セメントB種160kg、水480kg、W/Cが300%、注入率が53.3%であり、洪積粘性土D2に対する配合である。
【0075】
[ソイルセメントの作製]
上記の対象土とセメント系懸濁液を、ソイルミキサーのボウル(ステンレス製容器)に投入し、10分間混練してソイルセメントを作製した。なお、混練開始5分後に、一度、ソイルミキサーを止め、ゴムヘラでボウルの上下を練り返した後、再びソイルミキサーで5分間混練して、均質なソイルセメントを作製した。
【0076】
[ソイルセメントの流動性及び流動性の保持時間、固化性の測定について]
作製したソイルセメントの流動性及び流動性の保持時間、固化性(速やかに固化する性能)を測るため、JIS R 5201に準じて、テーブルフロー試験を行った。
テーブルフロー試験は、フローテーブルの中央に設置したフローコーンにソイルセメントを2層に詰める。各層は、全面に亘って突き棒で各々15回突く。そして、直ちにフローコーンを垂直方向に取り去り、15秒間に15回の落下運動を与え、ソイルセメントが広がった後の径を最大と認める方向と、これに直角な方向とで1mm単位まで測定し、この平均値をテーブルフロー値(TF)とした。
そして、ソイルセメントの流動性の保持時間は、ソイルセメントを作製してから、テーブルフロー値が150mm、又は200mmになるまでの時間とした。
また、固化性は、テーブルフロー値が150mmから120mmになるまでの所要時間を求め、その所要時間が8時間以内のものを「固化性:○」、8〜24時間のものを「固化性:△」、24時間を超えるものを「固化性:×」と評価した。
なお、テーブルフロー値が120mmとなったソイルセメント及び産廃泥土は、建て込んだ応力材固定用の吊り金具が外せ、ダンプトラックによる場外搬出・運搬が可能となる固化状態である。
【0077】
[一軸圧縮試験について]
作製したソイルセメントをφ50mm×H100mmのモールドに充填し、更にモールド上部をポリエチレンシートと輪ゴムで密封し、20℃にて28日間の気中養生を行った後、JIS A 1216に準じて、一軸圧縮強さを測定した。
【0078】
[実験例1]
実験例1は、水溶性重合体(A)と、炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)からなる流動化剤(以下、「ABC3剤系流動化剤」という)を用いた場合の室内配合試験例である。具体的には、下記の実験例1−1〜実験例1−4に区分して配合試験を行い、水溶性重合体(A)100質量部に対する炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)の添加割合(質量比)、対象土1m当たりの(A)、(B)、(C)の各剤添加量、更に(B):(C)の添加割合(質量比)が、ソイルセメントの流動性及び流動性の保持時間、固化性、強度に及ぼす影響を精査し、評価した。また、比較試験として、水溶性重合体(A)と炭酸アルカリ金属塩(B)の2剤、あるいは水溶性重合体(A)と重炭酸アルカリ金属塩(C)の2剤、あるいはプレーン配合の試験も適宜実施した。
【0079】
[実験例1−1]
上記の沖積粘性土A1と、セメント系懸濁液C1を用いてソイルセメントを作製した。流動化剤の具体的な配合内容と試験結果を表1及び表5に示す。
【0080】
[実験例1−2]
上記の沖積粘性土A2と、セメント系懸濁液C2を用いてソイルセメントを作製した。流動化剤の具体的な配合内容と試験結果を表2に示す。
【0081】
[実験例1−3]
上記の洪積粘性土D1と、セメント系懸濁液C2を用いてソイルセメントを作製した。流動化剤の具体的な配合内容と試験結果を表3に示す。
【0082】
[実験例1−4]
上記の洪積粘性土D2と、セメント系懸濁液C3を用いてソイルセメントを作製した。流動化剤の具体的な配合内容と試験結果を表4〜表5に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
【表4】
【0087】
【表5】
【0088】
[実験例1−1〜1−4の試験結果]
水溶性重合体(A)、炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)の組み合わせからなるソイルセメント流動化剤を用いることによって、上記の本発明の効果、特に、ソイルセメントを調製した時点から、テーブルフロー値が150mm未満となるまでの時間(流動性保持時間)が2〜4時間程度であった、従来のソイルセメントよりも更に長い6時間以上(6〜35時間)の流動性保持時間を有し、更に、テーブルフロー値が200mm未満となるまでの時間を5時間以上(5〜34時間)とすることができることを確認した。したがって、上記工法における施工が長時間に亘っても、不具合を抑制することができることが明らかである。
【0089】
[実験例2]
実験例2は、水溶性重合体(A)と、炭酸アルカリ金属塩(B)及びリン酸アルカリ金属塩(D)からなる流動化剤(以下、「ABD3剤系流動化剤」という。)、あるいは水溶性重合体(A)と、重炭酸アルカリ金属塩(C)及びリン酸アルカリ金属塩(D)からなる流動化剤(以下、「ACD3剤系流動化剤」という。)を用いた場合の室内配合試験例である。
具体的には、以下に示すように、実験例2−1〜実験例2−3に区分して配合試験を行い、水溶性重合体(A)100質量部に対する炭酸アルカリ金属塩(B)又は重炭酸アルカリ金属塩(C)の添加割合(質量比)、リン酸アルカリ金属塩(D)の添加割合(質量比)、対象土1m当たりの(A)、(B)又は(C)、(D)の各剤添加量が、ソイルセメントの流動性及び流動性保持時間、固化性、強度に及ぼす影響を精査し、評価した。
また、比較試験として、実験例2−1において、水溶性重合体(A)と炭酸アルカリ金属塩(B)に、従来公知の硬化遅延剤(グルコン酸塩)を配合した試験も実施し、本発明のリン酸アルカリ金属塩(D)との効果の差異を検証した。
【0090】
[実験例2−1]
上記の洪積粘性土D1と、セメント系懸濁液C2を用いてソイルセメントを作製した。流動化剤の具体的な配合内容と試験結果を表6に示す。
【0091】
[実験例2−2]
上記の沖積粘性土A2と、セメント系懸濁液C2を用いてソイルセメントを作製した。流動化剤の具体的な配合内容と試験結果を表7に示す。
【0092】
[実験例2−3]
上記の洪積粘性土D2と、セメント系懸濁液C3を用いてソイルセメントを作製した。流動化剤の具体的な配合内容と試験結果を表8−1〜表8−3に示す。
【0093】
【表6】
【0094】
【表7】
【0095】
【表8-1】
【0096】
【表8-2】
【0097】
【表8-3】
【0098】
[実験例2−1〜2−3の試験結果]
水溶性重合体(A)、炭酸アルカリ金属塩(B)及びリン酸アルカリ金属塩(D)、又は、水溶性重合体(A)、重炭酸アルカリ金属塩(C)及びリン酸アルカリ金属塩(D)の組み合わせからなるソイルセメント流動化剤を用いることによって、上記の本発明の効果、特に、ソイルセメントを調製した時点から、テーブルフロー値が150mm未満となるまでの時間(流動性保持時間)が2〜4時間程度であった、従来のソイルセメントよりも更に長い6時間以上(11〜84時間)の流動性保持時間を有し、更に、テーブルフロー値が200mm未満となるまでの時間を5時間以上(10〜77時間)とすることができることを確認した。したがって、上記工法における施工が長時間に亘っても、不具合を抑制することができることが明らかである。
【0099】
[実験例3]
実験例3は、水溶性重合体(A)と、炭酸アルカリ金属塩(B)、重炭酸アルカリ金属塩(B)及びリン酸アルカリ金属塩(D)からなる流動化剤(以下、「ABCD4剤系流動化剤」という。)を用いた場合の室内配合試験例である。
具体的には、以下に示すように、実験例3−1〜実験例3−3に区分して配合試験を行い、水溶性重合体(A)100質量部に対する炭酸アルカリ金属塩(B)、重炭酸アルカリ金属塩(C)及びリン酸アルカリ金属塩(D)の添加割合(質量比)、対象土1m当たりの(A)、(B)、(C)、(D)の各剤添加量、更に(B)と(C)の添加割合(質量比)が、ソイルセメントの流動性及び流動性保持時間、固化性、強度に及ぼす影響を精査し、評価した。また、比較試験として、実験例3−1及び実験例3−3において、リン酸アルカリ金属塩(D)の代わりに、従来公知の硬化遅延剤であるグルコン酸塩又はサッカロースを配合した試験も実施し、本発明のリン酸アルカリ金属塩(D)との効果の差異を検証した。
【0100】
[実験例3−1]
上記の洪積粘性土D1と、セメント系懸濁液C2を用いてソイルセメントを作製した。流動化剤の具体的な配合内容と試験結果を表9−1〜表9−3に示す。
【0101】
[実験例3−2]
上記の沖積粘性土A2と、セメント系懸濁液C2を用いてソイルセメントを作製した。流動化剤の具体的な配合内容と試験結果を表10に示す。
【0102】
[実験例3−3]
上記の洪積粘性土D2と、セメント系懸濁液C3を用いてソイルセメントを作製した。流動化剤の具体的な配合内容と試験結果を表11−1〜表11−2に示す。
【0103】
【表9-1】
【0104】
【表9-2】
【0105】
【表9-3】
【0106】
【表10】
【0107】
【表11-1】
【0108】
【表11-2】
【0109】
[実験例3−1〜3−3の試験結果]
水溶性重合体(A)、炭酸アルカリ金属塩(B)、重炭酸アルカリ金属塩(C)及びリン酸アルカリ金属塩(D)の組み合わせからなるソイルセメント流動化剤を用いることによって、上記の本発明の効果、特に、ソイルセメントを調製した時点から、テーブルフロー値が150mm未満となるまでの時間(流動性保持時間)が2〜4時間程度であった、従来のソイルセメントよりも長い6時間以上(10〜81時間)の流動性保持時間を有し、更に、テーブルフロー値が200mm未満となるまでの時間を5時間以上(8〜78時間)とすることができることを確認した。更に述べると、本試験結果より、本発明の効果は、上記の流動化剤各成分の添加割合と添加量(対象土1m当たり)の両方が好ましい範囲になければ発揮されないことを確認した。また、リン酸アルカリ金属塩(D)は、水溶性重合体(A)、炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)との併用において、従来公知の硬化遅延剤と比較して、強度低下を抑制しつつ、流動性の保持時間を飛躍的に延ばすことができることを確認した。したがって、施工が長時間に渡っても、不具合を抑制することができることが明らかである。
【0110】
以上、本発明のソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法について、固化性及び強度と併せて、複数の実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法は、削孔時に必要なソイルセメントの高流動性(TF≧200mm)を、例えば、5〜40時間程度の任意の時間に保持、調整することができ、更に応力材建込み時に必要なソイルセメントの流動性(TF≧150mm)を、例えば、6〜48時間程度の任意の時間に保持、調整することができるとともに、その後速やかに固化し、ソイルセメントの強度を所定強度にすることができるという特性を有していることから、ソイルセメントを利用する地盤改良工法、地中連続壁工法、基礎杭工法、埋め戻し工法等の各種工法の用途に好適に用いることができる。
【要約】
【課題】削孔時に必要なソイルセメントの高流動性(TF≧200mm)を、例えば、5〜40時間程度の任意の時間に保持、調整することができ、更に応力材建込み時に必要なソイルセメントの流動性(TF≧150mm)を、例えば、6〜48時間程度の任意の時間に保持、調整することができるとともに、その後速やかに固化し、ソイルセメントの強度を所定強度にすることができるソイルセメントの流動性と流動性の保持時間の制御方法を提供すること。
【解決手段】ソイルセメントの流動性と流動性の保持時間を制御するソイルセメント流動化剤が、水溶性重合体(A)と、炭酸アルカリ金属塩(B)、重炭酸アルカリ金属塩(C)及びリン酸アルカリ金属塩(D)のうちの少なくとも2種とからなり、添加する水溶性重合体(A)100質量部(固形分)に対する炭酸アルカリ金属塩(B)、重炭酸アルカリ金属塩(C)及びリン酸アルカリ金属塩(D)の添加割合が、それぞれ、100〜1500質量部、100〜1500質量部及び1〜500質量部で、かつ、炭酸アルカリ金属塩(B)及び重炭酸アルカリ金属塩(C)の合計添加割合が、100〜1500質量部とし、ソイルセメント流動化剤の土1m当たりの添加量は、2〜40kgの範囲とする。
【選択図】なし