(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、中間層とオーバーレイとの間の密着性が不足するという問題があった。すなわち、中間層とオーバーレイとの間をへき開する破壊が進行することによって、オーバーレイが中間層から剥離するという問題があった。
本発明は、前記課題にかんがみてなされたもので、軟質層の密着性を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の目的を達成するため、本発明の摺動部材およびすべり軸受は、マトリクス中に、マトリクスよりも軟らかい軟質材料で構成される軟質粒子が析出した基層と、軟質材料によって基層の表面上に形成された軟質層と、を備えるそして、基層と軟質層との界面において軟質粒子の両端を接続する直線のうち、当該両端を結ぶ連続したエッジから1μm以内に存在していない部分の長さの割合の平均値が70%以上である。
【0006】
基層に析出していた軟質粒子と同一の軟質材料の軟質層が当該軟質粒子と接合するため、基層に対する軟質層の密着性を高めることができる。軟質粒子はもともと基層にて析出しているため、軟質層と接合する軟質粒子がアンカーとなって基層に対する軟質層の密着性を高めることができる。特に、軟質層のうちのエピタキシャル成長部は、軟質粒子の軟質材料がエピタキシャル成長した部分であるため、基層の軟質粒子と強固に結合する。このようにエピタキシャル成長部と基層の軟質粒子とが強固に結合した部分は、基層と軟質層との界面を貫通するように形成されるため、基層と軟質層との界面における剥離の進行を阻止でき、基層に対する軟質層の密着性を向上させることができる。基層と軟質層との界面において軟質粒子の両端を接続する直線のうち、当該両端を結ぶ連続したエッジから1μm以内に存在していない部分の長さの割合の平均値が70%以上である場合に、基層に対する軟質層の密着性を向上させることができる。
【0007】
基層は、少なくともマトリクスと軟質粒子とを含む層であればよく、例えば裏金によって支持されてもよい。軟質材料は、マトリクスよりも軟らかい材料であればよく、基層が形成される際にマトリクス中に析出可能な材料であればよい。例えば、ライニングにおいて、マトリクスにおける軟質材料の固溶限よりも大量に軟質材料が含まれてもよい。軟質層は、基層との界面において、基層のマトリクスと接合する部分と、基層の表面に露出した軟質粒子と接合する部分とを含む。これらのうち、基層の表面に露出した軟質粒子と接合する部分において、軟質粒子から軟質材料がエピタキシャル成長したエピタキシャル成長部が形成される。
【0008】
基層のマトリクスはCu合金であり、軟質材料はBiであってもよい。BiはCu合金よりも軟らかいため、Biの軟質層を形成することにより、なじみ性を確保できる。なお、Cu合金とは、Cuを主成分として有する合金である。また、BiはCuにほぼ固溶しないため、Biの軟質粒子をCu合金にて析出させることができる。ただし、基層のマトリクスはCu合金に限られず、相手軸の硬さや相手軸に作用する荷重等に応じてマトリクスの材料が選択されればよい。また、軟質材料はマトリクスよりも軟らかく、かつ、マトリクス中に析出可能な材料であればよく、例えばPb,Sn,Inであってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)第1実施形態:
(1−1)摺動部材の構成:
(1−2)計測方法:
(1−3)摺動部材の製造方法:
(2)他の実施形態:
【0011】
(1)第1実施形態:
(1−1)摺動部材の構成:
図1は、本発明の一実施形態にかかる摺動部材1の斜視図である。摺動部材1は、裏金10とライニング11とオーバーレイ12とを含む。摺動部材1は、中空状の円筒を直径方向に2等分した半割形状の金属部材であり、断面が半円弧状となっている。2個の摺動部材1が円筒状になるように組み合わせることにより、すべり軸受Aが形成される。すべり軸受Aは内部に形成される中空部分にて円柱状の相手軸2(エンジンのクランクシャフト)を軸受けする。相手軸2の外径はすべり軸受Aの内径よりもわずかに小さく形成されている。相手軸2の外周面と、すべり軸受Aの内周面との間に形成される隙間に潤滑油(エンジンオイル)が供給される。その際に、すべり軸受Aの内周面上を相手軸2の外周面が摺動する。
【0012】
摺動部材1は、曲率中心から遠い順に、裏金10とライニング11とオーバーレイ12とが順に積層された構造を有する。従って、裏金10が摺動部材1の最外層を構成し、オーバーレイ12が摺動部材1の最内層を構成する。裏金10とライニング11とオーバーレイ12とは、それぞれ円周方向において一定の厚みを有している。裏金10の厚みは1.3mmであり、ライニング11の厚みは0.2mmであり、オーバーレイ12の厚みは10μmである。オーバーレイ12の曲率中心側の表面の半径(摺動部材1の内径)40mmである。以下、内側とは摺動部材1の曲率中心側を意味し、外側とは摺動部材1の曲率中心と反対側を意味することとする。オーバーレイ12の内側の表面は、相手軸2の摺動面を構成する。
【0013】
裏金10は、Cを0.15wt%含有し、Mnを0.06wt%含有し、残部がFeからなる鋼で形成されている。なお、裏金10は、ライニング11とオーバーレイ12とを介して相手軸2からの荷重を支持できる材料で形成されればよく、必ずしも鋼で形成されなくてもよい。
【0014】
ライニング11は、裏金10の内側に積層された層であり、本発明の基層を構成する。ライニング11は、Snを10wt%含有し、Biを8wt%含有し、残部がCuと不可避不純物とからなる。ライニング11の不可避不純物はMg,Ti,B,Pb,Cr等であり、精錬もしくはスクラップにおいて混入する不純物である。不可避不純物の含有量は、全体で1.0wt%以下である。
【0015】
図2Aは、摺動部材1の断面模式図である。なお、
図2Aにおいて、摺動部材1の曲率は無視することとする。ライニング11において、Cu−Sn合金で構成されるマトリクス11a中にBi粒子11bが析出している。Bi粒子11bは、Cu−Sn合金よりも軟らかく、本発明の軟質粒子を構成する。また、Biは本発明の軟質材料を構成する。硬質のCu−Sn合金をライニング11のマトリクス11aとして採用することにより、摺動部材1の強度および耐摩耗性を向上させることができる。
【0016】
ライニング11の断面におけるBi粒子11bの平均円相当径は100μmであった。すなわち、ライニング11の断面におけるBi粒子11bの平均面積は2500×πμm
2であった。また、ライニング11の断面におけるBi粒子11bの面積割合は10%であった。ライニング11におけるBi粒子11bの分布は、均一、かつ、方向依存性を有さないため、ライニング11とオーバーレイ12との界面XにおけるBi粒子11bの平均円相当径と平均面積と面積割合とは、任意の断面におけるBi粒子11bの平均円相当径と平均面積と面積割合と同じと見なすことができる。
【0017】
オーバーレイ12は、ライニング11の内側の表面上に積層された層であり、本発明の軟質層を構成する。ライニング11の内側の表面は、ライニング11とオーバーレイ12との界面Xを構成する。オーバーレイ12は、Biと不可避不純物とからなる。オーバーレイ12の不可避不純物はSn,Fe,Pb等であり、オーバーレイ12のめっき液等から混入する不純物である。不可避不純物の含有量は、全体で1.0wt%以下であり、Biの含有量は99%以上である。
【0018】
オーバーレイ12は、エピタキシャル成長部12bと独自成長部12aとを含む。エピタキシャル成長部12bは、ライニング11の内側の表面に露出したBi粒子11bを起点としてエピタキシャル成長したBiの結晶で構成される部分である。従って、エピタキシャル成長部12bにおけるBiの結晶粒構造(結晶粒の大きさや配列方向)は、ライニング11のBi粒子11bにおけるBiの結晶粒構造と同じとなる。ライニング11のBi粒子11bにおけるBiの結晶粒構造は、ライニング11中にてBi粒子11bが析出する際の結晶成長条件によって決定される。
【0019】
エピタキシャル成長部12bは、ライニング11の内側の表面上に露出したBi粒子11bがエピタキシャル成長した部分であるため、ライニング11のBi粒子11bと強固に結合する。エピタキシャル成長部12bとライニング11のBi粒子11bとが強固に結合して一体化した部分は、ライニング11とオーバーレイ12との界面Xを貫通するように形成される。
【0020】
図2Bは、オーバーレイ12がライニング11から剥離する様子を模式的に示す図である。同図に示すように、ライニング11とオーバーレイ12とが界面Xにて剥離する破壊Eが生じた場合でも、当該破壊Eの進行をエピタキシャル成長部12bとライニング11のBi粒子11bとが結合した部分にて阻止できる。従って、ライニング11とオーバーレイ12の密着性を向上させることができる。
【0021】
図3A,3Bは、摺動部材1の摺動面に摩擦力を作用させた場合のアコースティックエミッションの程度を示すグラフである。
図3A,3Bの横軸はオーバーレイ12に作用させた垂直荷重を示し、第1縦軸(右側の軸)は摩擦力を示す。
図3A,3Bに示すように、摩擦力(破線)は垂直荷重に対して概ね比例する。
図3A,3Bの第2縦軸(左側の軸)はアコースティックエミッションの程度を示し、値が大きいほどアコースティックエミッションの程度が大きいことを示す。アコースティックエミッションの程度は、オーバーレイ12に摩擦力を作用させた際に生じた音の音圧に対応する。
【0022】
図3Aはエピタキシャル度の平均値が70%の摺動部材1(実施形態)の摺動面に摩擦力を作用させた場合のアコースティックエミッションの程度を示し、
図3Bはエピタキシャル度の最大値が10%の摺動部材1(比較例)の摺動面に摩擦力を作用させた場合のアコースティックエミッションの程度を示す。アコースティックエミッションとは、摺動面に作用させた摩擦力によって生じた摺動部材1の内部の破壊が原因となって発せられた音波である。アコースティックエミッションの主要因となる摺動部材1の内部の破壊は、おもに、ライニング11とオーバーレイ12とが界面Xにて剥離する破壊であると考えられる。オーバーレイ12を構成するBiは、ライニング11のマトリクスを構成するCuに固溶せず、かつ、Cuと化合物を形成しないため、オーバーレイ12とライニング11とが界面Xにおいて剥離しやすいからである。エピタキシャル度とは、ライニング11とオーバーレイ12とが界面Xにおけるエピタキシャル成長部12bの占有率が大きいほど大きくなる指標であり、詳細は後述する。
【0023】
図3A,3Bを比較すると、エピタキシャル度の平均値が70%である
図3Aの摺動部材1においてはアコースティックエミッション(実線)がほぼ発生していないのに対して、エピタキシャル度の平均値が50%未満である
図3Bの摺動部材1(比較例)においてはアコースティックエミッションが発生していた。従って、エピタキシャル度が大きい場合に、界面Xにおけるライニング11とオーバーレイ12との剥離を防止し、オーバーレイ12とライニング11との密着性を良好とすることができる。
【0024】
独自成長部12aは、マトリクス11aの表面上に形成された核を起点として成長したBiの結晶で構成される部分である。従って、独自成長部12aにおけるBiの結晶粒構造は、オーバーレイ12をライニング11の表面上に積層する際の結晶成長条件によって決定される。そのため、エピタキシャル成長部12bの結晶粒構造と、独自成長部12aのそれぞれの結晶粒構造は、互いに異なる結晶成長条件によって決定される。従って、オーバーレイ12は、互いに結晶粒構造が異なるエピタキシャル成長部12bと独自成長部12aとによって構成されることとなる。
【0025】
エピタキシャル成長部12bと独自成長部12aとは互いに異なるBiの結晶粒構造を有するため、エピタキシャル成長部12bと独自成長部12aとの間で結晶粒構造が不連続となる境界Y(
図2B、太線)が形成される。本実施形態において、エピタキシャル成長部12bと独自成長部12aとの境界Yは、オーバーレイ12内において摺動部材1の内側に向けて凸形状となっている。
【0026】
エピタキシャル成長部12bと独自成長部12aとの境界Yにおいては、Biの結晶粒界も不連続となる。従って、
図2Bに示すように、独自成長部12aにおいて結晶粒界を劈開させるような疲労破壊Dが生じた場合でも、エピタキシャル成長部12bと独自成長部12aとの境界Yを疲労破壊Dが貫通することを防止できる。本実施形態において、エピタキシャル成長部12bと独自成長部12aとの境界Yは、オーバーレイ12内(ライニング11とオーバーレイ12との界面Xよりもオーバーレイ12側)に存在しているため、疲労破壊Dの伝播がライニング11のBi粒子11bの内部まで及ぶことを防止できる。従って、ライニング11の機械特性が損なわれることを防止できる。
【0027】
(1−2)計測方法:
上述した実施形態において示した各数値を以下の手法によって計測した。 摺動部材1の各層を構成する元素の質量は、ICP発光分光分析装置(島津社製ICPS−8100)によって計測した。
【0028】
ライニング11におけるBi粒子11bの平均円相当径を以下の手順によって計測した。まず、ライニング11の任意の断面(相手軸2の回転軸方向に垂直な方向に限らない)を粒子径2μmのアルミナ粒子で研磨した。ライニング11の断面のうち面積が0.02mm
2となる任意の観察視野範囲(縦0.1mm×横0.2mmの矩形範囲)を電子顕微鏡(日本電子製 JSM−6610A)によって500倍で撮影することにより、観察画像(反射電子像)の画像データを得た。そして、観察画像を画像解析装置(ニレコ社製 ルーゼックスII)に入力し、観察画像に存在するBi粒子11bの像を抽出した。Bi粒子11bの像の外縁にはエッジ(明度や彩度や色相角が所定値以上異なる境界)が存在する。そこで、画像解析装置によって、エッジによって閉じられた領域をBi粒子11bの像として観察画像から抽出した。
【0029】
そして、Bi粒子11bの像を観察画像から抽出し、画像解析装置によって、観察視野範囲に存在するすべてのBi粒子11bの像について投影面積円相当径(計測パラメータ:HEYWOOD)を計測した。投影面積円相当径とは、Bi粒子11bの断面積と等しい面積を有する円の直径であり、Bi粒子11bの像の面積と等しい面積を有する円の直径を倍率に基づいて現実の長さに換算した直径である。さらに、すべてのBi粒子11bの投影面積円相当径の算術平均値(合計値/粒子数)を平均円相当径として計測した。さらに、Bi粒子11bの平均円相当径と等しい直径を有する円の面積に、観察視野範囲に存在するBi粒子11bの個数を乗算することにより、ライニング11の断面上に存在するBi粒子11bの総面積を算出した。そして、Bi粒子11bの総面積を観察視野範囲の面積で除算することにより、Bi粒子11bの面積割合を計測した。なお、投影面積円相当径が1.0μm未満の場合、投影面積円相当径の信頼度や物質の特定の信頼度が低くなるため、Bi粒子11bの平均円相当径等を算出する際に考慮しないこととした。
【0030】
エピタキシャル度を以下の手順によって計測した。まず、摺動部材1の直径径方向の断面をクロスセクションポリッシャで研磨した。ライニング11の断面のうち面積が0.02mm
2となる任意の観察視野範囲(縦0.1mm×横0.2mmの矩形範囲)を電子顕微鏡によって7000倍の倍率で撮影することにより、観察画像を得た。
図4A,4Bは、観察画像を示す写真である。
図4Aに示すように、観察画像のうちBi粒子11bが界面Xに存在する部分を目視によって観察した。さらに、
図4Bに示すように、界面X上におけるBi粒子11bの両端を接続する線分L(破線)を作成し、当該線分Lの長さを計測した。
【0031】
次に、線分Lのうち、当該線分Lから1μm以内の範囲においてエッジが存在している部分と、当該線分Lから1μm以内の範囲においてエッジが存在していない部分B(矢印)とを判別し、当該エッジが存在していない部分Bの長さを線分Lの長さで除算した値であるエピタキシャル度を算出した。界面Xに存在する複数のBi粒子11bのそれぞれについてエピタキシャル度を算出した。
【0032】
なお、
図3Aにアコースティックエミッションの程度を示した摺動部材1(実施例)におけるエピタキシャル度の最小値は50%であり、最大値は95%であり、平均値は70%であった。一方、
図3Bにアコースティックエミッションの程度を示した摺動部材1(比較例)におけるエピタキシャル度の最大値は10%であった。なお、線分Lの両端を結ぶ連続したエッジがエピタキシャル成長部12bと独自成長部12aとの境界Y(一点鎖線)を意味する。エピタキシャル成長部12bと独自成長部12aとでは、Bi結晶粒の大きさや結晶粒の配列方向が異なるため、エピタキシャル成長部12bと独自成長部12aとの間にエッジが観察されることとなる。なお、エッジは観察画像を取り込んだ画像解析装置によって検出してもよい。
【0033】
(1−3)摺動部材の製造方法:
まず、裏金10と同じ厚みを有する低炭素鋼の平面板を用意した。
次に、低炭素鋼で形成された平面板上に、ライニング11を構成する材料の粉末を散布した。具体的に、上述したライニング11における各成分の質量比となるように、Cuの粉末とBiの粉末とSnの粉末とを低炭素鋼の平面板上に散布した。ライニング11における各成分の質量比が満足できればよく、Cu−Bi,Cu−Sn等の合金粉末を低炭素鋼の平面板上に散布してもよい。粉末の粒径は、試験用ふるい(JIS Z8801)によって150μm以下に調整した。
【0034】
次に、低炭素鋼の平面板と、当該平面板上に散布した粉末とを焼結した。焼結温度を700〜1000℃に制御し、不活性雰囲気中で焼結した。焼結後、冷却した。
【0035】
冷却が完了すると、低炭素鋼の平面板上にCu合金層が形成される。このCu合金層には、冷却中に析出した軟質のBi粒子11bが含まれることとなる。
次に、中空状の円筒を直径方向に2等分した形状となるように、Cu合金層が形成された低炭素鋼をプレス加工した。このとき、低炭素鋼の外径が摺動部材1の外径と一致するようにプレス加工した。
【0036】
次に、裏金10上に形成されたCu合金層の表面を切削加工した。このとき、裏金10上に形成されたCu合金層の厚みがライニング11と同一となるように、切削量を制御した。これにより、切削加工後のCu合金層によってライニング11が形成できる。切削加工は、例えば焼結ダイヤモンドで形成された切削工具材をセットした旋盤によって行った。切削加工後のライニング11の表面は、ライニング11とオーバーレイ12との界面Xを構成する。
【0037】
次に、ライニング11の表面上に軟質材料としてのBiを電気めっきによって10μmの厚みだけ積層することにより、オーバーレイ12を形成した。電気めっきの手順は以下のとおりとした。まず、電解液中にてライニング11の表面に直流電流を流すことにより、ライニング11の表面を脱脂した。次に、ライニング11の表面を水洗した。さらに、ライニング11の表面を酸洗することにより、ライニング11の表面から陽極酸化によって形成した酸化膜以外の不要な酸化物を除去した。その後、ライニング11の表面を、再度、水洗した。以上の前処理が完了すると、めっき浴に浸漬させたライニング11に電流を供給することにより電気めっきを行った。Bi濃度:10〜50g/L、有機スルホン酸:25〜100g/L、添加剤:0.5〜50g/Lを含むめっき浴の浴組成とした。めっき浴の浴温度は、25℃とした。さらに、ライニング11に供給する電流は直流電流とし、その電流密度は0.5〜5.0A/dm
2とした。
【0038】
以上のように電気めっきを行うことにより、ライニング11とオーバーレイ12との界面Xに存在するBi粒子11bからBiがエピタキシャル成長し、オーバーレイ12においてエピタキシャル成長部12bが形成された。オーバーレイ12の積層が完了した後に、水洗と乾燥を行うことにより、摺動部材1を完成させた。さらに2個の摺動部材1を円筒状に組み合わせることにより、すべり軸受Aを形成した。
【0039】
(2)他の実施形態:
前記実施形態においては、エンジンのクランクシャフトを軸受けするすべり軸受Aを構成する摺動部材1を例示したが、本発明の摺動部材1によって他の用途のすべり軸受Aを形成してもよい。例えば、本発明の摺動部材1によってトランスミッション用のギヤブシュやピストンピンブシュ・ボスブシュ等を形成してもよい。むろん、摺動部材1は、軸以外の相手材が摺動する部材であってもよい。また、ライニング11のマトリクスはCu合金に限られず、相手軸2の硬さに応じてマトリクスの材料が選択されればよい。また、軟質材料はマトリクスよりも軟らかく、かつ、マトリクス中に析出可能な材料であればよく、例えばPb,Sn,Inであってもよい。