【実施例】
【0043】
実施例1:椎間板プロテーゼのコーティング
本実施例は、本発明の実施形態による椎間板プロテーゼのコーティングを例示する。椎間板プロテーゼは、ボール・オン・ソケット形式のTiAl6Nb7合金製である。このコーティングプロセスは、ハイブリッドプラズマ活性化金属有機蒸着/物理蒸着(PA−MOCVD/PVD)を用いる。
【0044】
本実施例で使用した材料としては、ボール・オン・ソケット形式のTiAl6Nb7合金製の椎間板プロテーゼ、5cm(2インチ)DCマグネトロン(Advanced Energy、Fort Collins,USA)スパッタリングシステム、EMAG Emmi−Sonic 60 HC超音波洗浄槽(Naenikon,Switzerland)、及び1:1エタノール/アセトン溶媒混合液を含む洗浄液が挙げられる。
【0045】
本実施例で使用した椎間板プロテーゼのコーティング手順は以下の工程により行った。
工程(a):椎間板プロテーゼを1:1のエタノール/アセトン混合液を含む洗浄溶媒の超音波洗浄槽に入れた。椎間板プロテーゼを10分間45キロヘルツの周波数で溶媒中で超音波処理した。
【0046】
工程(b):工程(a)で得た洗浄した椎間板プロテーゼを5cm(2インチ)のDCマグネトロンの真空チャンバに挿入した。5cm(2インチ)のDCマグネトロンは、Ta及びTiのDCマグネトロンカソード、RF基板バイアス、及び気体並びに気化媒体用マスフローコントローラアレイ(MKS Instruments,Norristown,USA)、及びポンプ(Pfeiffer Vacuum GmbH,Asslar,Germany)を備えている。真空チャンバをポンプで1×10
−5Pa未満の圧力に下げて真空にした。
【0047】
工程(c):Taマグネトロン標的は、0.5Paのアルゴン雰囲気及び200WのDCスパッタリング力でDCマグネトロンを5分間作動することによってスパッタ洗浄した。
【0048】
工程(d):13.56MHzのRF電力、2.4Paのアルゴン雰囲気、及び−600Vの調節されたRF自己バイアスを用いてRF電源を60分間作動させることによって椎間板プロテーゼの表面をスパッタ洗浄した。
【0049】
工程(e):このスパッタ洗浄した椎間板プロテーゼ上に、実行中の−300VのRF自己バイアス、200WのTaマグネトロン電力、400nmのTa蒸着速度による60分間のイグニションによって、タンタル(Ta)中間層を蒸着した。
【0050】
工程(f):マグネトロン放電を停止した。
【0051】
工程(g):1.0Paでトルエン雰囲気からDLC蒸着し、椎間板プロテーゼに、アセチレンへの段階的移行とともに、−300Vの作動RF電力を印加した(作動圧2.5Pa、RF自己バイアス−600V、層の合計厚さ3マイクロメートル)。
【0052】
本実施例に記載の手順に従ってコーティングした椎間板プロテーゼは、卓越した機械特性(高い硬度)、光学特性(高い光学バンドギャップ)、電気特性(高い電気抵抗率)、化学特性(不活性)、及びトライボロジー特性(低摩擦及び磨耗係数)を有するDLCコーティングを有していた。一実施形態では、コーティングした椎間板プロテーゼのDLCコーティングは、それぞれ、Ta/DLCの界面で12GPaで始まり、表面で23GPaで終わる硬度勾配、及びそれぞれ、Ta/DLCの界面で120GPaで始まり、表面で230GPaで終わる弾性率勾配を有していた。
【0053】
実施例2:股関節プロテーゼのコーティング
本実施例は、本発明の実施形態による股関節プロテーゼのコーティングを例示する。股関節プロテーゼは、ボール・オン・ソケット形式のTiAl6Nb7合金製である。このコーティングプロセスは、ハイブリッドプラズマ活性化化学蒸着/物理蒸着(PA−CVD/PVD)を用いる。
【0054】
本実施例で使用した材料としては、ボール・オン・ソケット形式のTiAl6Nb7合金製の股関節プロテーゼ、5cm(2インチ)DCマグネトロン(Advanced Energy,Fort Collins,USA)スパッタリングシステム、EMAG Emmi−Sonic 60 HC超音波洗浄槽(Naenikon,Switzerland)、及び1:1エタノール/アセトン溶媒混合液を含む洗浄液が挙げられる。
【0055】
本実施例で使用した股関節プロテーゼのコーティング手順は以下の工程により行った。
工程(a):TiAl6Nb7合金製の股関節プロテーゼを1:1のエタノール/アセトン混合液を含む洗浄液の超音波洗浄槽に入れた。股関節プロテーゼを10分間45キロヘルツの周波数で溶媒中で超音波処理した。
【0056】
工程(b):工程(a)で得た洗浄した股関節プロテーゼを5cm(2インチ)のDCマグネトロンの真空チャンバに挿入した。5cm(2インチ)のDCマグネトロンは、Ta及びTiのDCマグネトロンカソード、RF基板バイアス、及び気体並びに気化媒体用マスフローコントローラアレイ(MKS Instruments,Norristown,USA)、及びポンプ(Pfeiffer Vacuum GmbH,Asslar,Germany)を備えている。真空チャンバをポンプで1×10
−5Pa未満の圧力に下げて真空にした。
【0057】
工程(c):股関節プロテーゼを0.5Paのアルゴン雰囲気及び200Wの電力で5分間スパッタ洗浄した。
【0058】
工程(d):13.56MHzのRF電力、2.4Paのアルゴン雰囲気、及び−600Vの調節されたRF自己バイアスを用いるRF電源を90分間動作することによって、股関節プロテーゼの表面をスパッタ洗浄した。
【0059】
工程(e):このスパッタ洗浄した股関節プロテーゼ上に、−300Vの実行中のRF自己バイアス、200WのTaマグネトロン電力、400nmのTa蒸着速度によるTaマグネトロンのイグニションによって、Ta中間層を45分間蒸着した。
【0060】
工程(f):マグネトロン放電を停止した。
【0061】
工程(g):2.5Paのアセチレン雰囲気から、−600VのRF自己バイアスで1分間、Ta中間層でコーティングした工程(e)で得た股関節プロテーゼにDLC蒸着を行った。
【0062】
工程(h):80℃に熱したTTIPバブラーを通じて、1分間、毎分10標準立法センチメートル(scrm)のアルゴン流量で、アルゴンキャリアガス/チタンテトライソプロポキシド(TTIP)の流れをアセチレン放電中に導入した。
【0063】
工程(i):工程(g)及び(h)を10回繰り返し、次いで、コーティングされた股関節プロテーゼを真空チャンバから取り出した。
【0064】
本実施例に記載の手順に従ってコーティングした椎間板プロテーゼは、卓越した機械特性(高い硬度)、光学特性(高い光学バンドギャップ)、電気特性(高い電気抵抗率)、化学特性(不活性)、及びトライボロジー特性(低摩擦及び磨耗係数)を有するDLCコーティングを有していた。一実施形態では、本実験に従った手順は、1つのモノリシックなDLC層のみを有するプロテーゼより薄い副層を有するおかげで、より可とう性に優れた、DLC/Ti酸化物でドープされたDLCの多層コーティングを有する股関節プロテーゼを提供した。
【0065】
本明細書の広義の発明概念から逸脱しないで上に示されかつ記載された例示的な実施形態に対して変更を行うことができることが当業者により認識されるであろう。従って、本発明は図示されかつ記載された例示的な実施形態に限定されないが、請求項により定義されるように本発明の精神及び範囲内の修正を網羅するように意図されることが理解される。例えば、例示的な実施形態の具体的な特徴は請求項に係る発明の一部であってもよいしそうでなくてもよく、また開示された実施形態の特徴は組み合わされてもよい。用語「側」、「右」、「左」、「下方」、及び「上方」は、参照する図面内での方向を指定する。用語「内方に」及び「外方に」は、それぞれ、外科デバイスを使用する外科医に向かう方向及びその外科医から離れる方向を指す。本明細書に特段の明記がない限り、用語「a」、「an」、及び「the」は1つの要素に限定されるものでなく、「少なくとも1つの」を意味するものとして読まれるべきである。
【0066】
本発明の図面及び記載の少なくともいくつかは本発明の明確な理解のために適切である要素に焦点を合わせるように簡略化されてきたことは理解されるべきであるが、一方明確にするために、当業者が認める他の要素を取り除くことはまた本発明の一部分を構成してもよい。しかしながら、このような要素が当該技術分野において周知であるため、及びそれらが本発明のよりよい理解を必ずしも容易にするわけでないため、このような要素の記載は本明細書に提供されない。
【0067】
更に、本明細書に明記されている工程の特定の順序に依拠しないことの範囲内において、工程の特定の順序は請求項に対する制限と解釈されるべきでない。本発明の方法を対象とした請求項は、書かれた順序における工程の実行に限定されるべきでない、また当業者は工程が変わり得るものであってかつ本発明の精神及び範囲内に依然留まり得ることを容易に認識できる。
【0068】
〔実施の態様〕
(1) 外科用インプラントであって、
金属基板と、
前記金属基板に隣接して配置された、α−タンタルとアモルファスタンタルとを含むタンタル中間層と、
前記タンタル中間層に隣接して配置された少なくとも1つのダイヤモンド様カーボン(「DLC」)層と、を含み、
前記タンタル中間層は金属基板側とDLC側との間に位相勾配を有し、
前記DLC層は硬度値及び弾性率値を有し、前記硬度値は前記タンタル側から離れるにつれて増加する勾配を有し、前記弾性率値は前記タンタル側から離れるにつれて増加する勾配を有する、外科用インプラント。
(2) 前記金属基板がチタン又はチタン系合金である、実施態様1に記載の外科用インプラント。
(3) 前記金属基板がコバルト系合金である、実施態様1に記載の外科用インプラント。
(4) 前記金属基板が鋼である、実施態様1に記載の外科用インプラント。
(5) 前記タンタル中間層が、1nm〜2μmの範囲の厚みを有する、実施態様1に記載の外科用インプラント。
【0069】
(6) 前記アモルファスタンタルが、前記金属基板側から前記DLC側にかけて増加する位相勾配を有する、実施態様5に記載の外科用インプラント。
(7) 前記タンタル中間層が、α−タンタルの成長を促進する化合物又は元素を更に含む、実施態様1に記載の外科用インプラント。
(8) 前記化合物が、独立して、チタン化合物、ニオブ化合物、タングステン化合物、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、前記元素が、独立して、チタン、ニオブ、タングステン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、実施態様7に記載の外科用インプラント。
(9) 前記タンタル中間層が、タンタル化合物のナノ粒子を更に含む、実施態様5に記載の外科用インプラント。
(10) 前記タンタル中間層が、タンタルカーバイドとタンタルのナノ複合体である、実施態様9に記載の外科用インプラント。
【0070】
(11) 前記硬度値の勾配が、12GPaから22GPaまで増加する、実施態様1に記載の外科用インプラント。
(12) 前記弾性率値の勾配が、120GPaから220GPaまで増加する、実施態様11に記載の外科用インプラント。
(13) 前記少なくとも1つのDLCが、DLC副層と金属ドープDLC副層とを含む複数の交互の副層を備える、実施態様1に記載の外科用インプラント。
(14) 前記金属ドープDLC副層がチタンでドープされる、実施態様13に記載の外科用インプラント。
(15) 実施態様1に記載の外科用インプラントの製造方法であって、
真空システムに金属基板を挿入することと、
約−200ボルトから約−2000ボルトまでの範囲のRF自己バイアスでAr
+衝撃を行うことによって前記金属基板を洗浄することと、
タンタル源からのタンタル蒸着中に前記基板にRF自己バイアスを印加することによってタンタル中間層を蒸着することにおいて、前記RF自己バイアスが−50ボルトから−600ボルトの範囲である、ことと、
第2のRF自己バイアスで92g/モル〜120g/モルの範囲の分子量を有する炭化水素を導入することによってDLC層を蒸着することにおいて、前記第2のRF自己バイアスは−50ボルトから−600ボルトまで段階的増分で変化する、ことと、を含む、外科用インプラントの製造方法。
【0071】
(16) 前記段階的増分が5ボルト段階(5 volt step)から50ボルト段階(50 volt step)までの範囲である、実施態様15に記載の外科用インプラントの製造方法。
(17) 前記炭化水素が、独立して、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、実施態様16に記載の外科用インプラントの製造方法。
(18) 第3のRF自己バイアスでアセチレン雰囲気を導入することを更に含み、前記第3のRF自己バイアスは第2の段階的増分で−50ボルトから−600ボルトまで変化する、実施態様15に記載の外科用インプラントの製造方法。
(19) 前記第2の段階的増分が5ボルト段階から50ボルト段階までの範囲である、実施態様18に記載の外科用インプラントの製造方法。
(20) 外科用インプラントの製造方法であって、
(a)真空システムに金属基板を挿入する工程と、
(b)約−200ボルトから約−2000ボルトまでの範囲のRF自己バイアス、好ましくは−600ボルトのRF自己バイアスでAr
+衝撃によって前記金属基板を洗浄する工程と、
(c)タンタル蒸着中に基板にRF自己バイアスを印加することによってタンタル中間層を蒸着する工程において、前記RF自己バイアスが−50ボルトから−600ボルトの範囲である、工程と、
(d)RF自己バイアスでアセチレン雰囲気を導入することによってDLC層を蒸着する工程において、前記RF自己バイアスは第1の期間にかけて段階的増分で−50ボルトから−600ボルトまで変化する、工程と、
(e)前記第1の期間の後に、第2の期間にかけて前記アセチレン雰囲気中に有機チタン源を導入する工程と、
(f)工程(d)及び(e)を最高10回まで繰り返す工程と、を含む、外科用インプラントの製造方法。
【0072】
(21) 前記段階的増分が5ボルト段階から50ボルト段階までの範囲である、実施態様20に記載の外科用インプラントの製造方法。