特許第6243009号(P6243009)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243009
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】GaN単結晶材料の研磨加工方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20171127BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20171127BHJP
   B24B 37/24 20120101ALI20171127BHJP
【FI】
   H01L21/304 622D
   H01L21/304 622F
   H01L21/304 622W
   H01L21/304 622C
   B24B37/00 H
   B24B37/24 C
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-511608(P2016-511608)
(86)(22)【出願日】2015年3月26日
(86)【国際出願番号】JP2015059526
(87)【国際公開番号】WO2015152021
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2016年11月22日
(31)【優先権主張番号】特願2014-74202(P2014-74202)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】大森 恒
(72)【発明者】
【氏名】高橋 舞子
【審査官】 山口 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−010835(JP,A)
【文献】 特開2007−103457(JP,A)
【文献】 特開2007−299979(JP,A)
【文献】 特開2008−068390(JP,A)
【文献】 特開2011−129752(JP,A)
【文献】 特開2012−253259(JP,A)
【文献】 特開2006−179647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
37/24
B24D 3/32
C08L 63/00
81/06
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨液および複数の研磨砥粒の存在下において研磨砥粒固定型研磨パッドを用いて結晶材料の表面を平滑に研磨するためのCMP法による研磨加工方法であって、
前記結晶材料は、GaNの単結晶であり、
前記研磨液は、酸化還元電位がEhmin(式(3)で定められる値)mV〜Ehmax(式(4)で定められる値)mVであり、且つpHが0.12〜5.7である酸化性の研磨液であることを特徴とする研磨加工方法。
Ehmin(mV)=−27.2pH+738.4 ・・・(3)
Ehmax(mV)=−84pH+1481 ・・・(4)
【請求項2】
前記研磨砥粒固定型研磨パッドは、独立気孔または連通気孔を有する母材樹脂を有し、
前記複数の研磨砥粒は、前記母材樹脂に形成された独立気孔または連通気孔内に一部が固着し或いは一部が該母材樹脂から分離した状態で該母材樹脂内に収容されている
ことを特徴とする請求項の研磨加工方法。
【請求項3】
前記研磨砥粒固定型研磨パッドの母剤樹脂は、エポキシ樹脂またはポリエーテルサルホン(PES)樹脂から構成されたものである
ことを特徴とする請求項の研磨加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaN単結晶材料の一面を、能率良く鏡面に研磨する研磨加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路のような電子デバイスはシリコン単結晶基板上に構築される場合が多いが、比較的大きな電力の制御機能が求められるパワーデバイス等では、さらに電気特性が良好な窒化ガリウムGaNから成る単結晶基板を上記シリコン単結晶基板に替えて用いることが期待されている。このような窒化ガリウムGaNから成る単結晶基板を用いたパワーデバイスは、大きな電力量を扱うことができて、発熱が少なく小型化できるので、モータや発電機の回転数やトルクを制御する制御素子として、ハイブリッド車両や燃料電池車両等に好適に用いられる。また、窒化ガリウムGaNから成る単結晶基板は、高周波特性に優れ、無線通信局、中継局、移動局などへの展開が期待されている。
【0003】
一般に、超LSIの製造では半導体ウェハに多数のチップを形成し、最終工程で各チップサイズに切断するという製法が採られている。最近では超LSIの製造技術の向上に伴い集積度が飛躍的に向上し、配線の多層化が進んでいる為、各層を形成する工程においては、半導体ウェハ全体の平坦化(グローバルプラナリゼーション)が要求される。そのような半導体ウェハ全体の平坦化を実現する手法のひとつとして、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)法という研磨方法が挙げられる。このCMP法とは、定盤上に貼られた不織布あるいは発泡パッドなどの研磨パッドにウェハを押しつけて強制回転させ、そこに微細な研磨粒子(遊離砥粒)を含有したスラリ(細かい粉末がたとえばアルカリ水溶液などの液体中に分散している濃厚な懸濁液)を流して研磨をおこなうものである。かかるCMP法によれば、液体成分による化学的研磨と、研磨砥粒による機械的研磨との相乗効果によって比較的精度の高い研磨加工がおこなわれる。
【0004】
しかし、そのような従来のCMP法では、研磨加工に相当な時間が費やされていた。また、研磨粒子にダイヤモンド砥粒を用いた遊離砥粒加工を行なった場合、ある程度の加工能率は得られるが、表面粗さはたとえばRa=10nm程度に粗くなる。これに対して、シリカ砥粒を用いて遊離砥粒研磨加工を行なった場合、表面粗さは細かくなるが、加工能率が低下するとともに、原因不明のスクラッチ傷が発生し易いという不具合があった。
【0005】
これに対し、SiC単結晶基板を研磨する研磨加工方法が提案されている。たとえば、特許文献1に記載された研磨加工方法がそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−068390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の研磨加工方法は、研磨液の水素イオン濃度pHおよび酸化還元電位Ehの範囲において、高い研磨能率が得られ且つSiC単結晶基板の表面粗度を低く得られる特有の研磨加工条件を見出したものである。しかしながら、そのような研磨加工条件は、SiC単結晶基板よりも一層研磨加工が困難な窒化ガリウムGaNから成る単結晶基板に対してそのまま適用することが不適当であり、この窒化ガリウムGaNから成る単結晶基板を能率良く表面粗度を低くすることが難しかった。
【0008】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、一層難加工材料である窒化ガリウムGaNから成る単結晶基板を、CMP法による研磨において十分な研磨効率や研磨性能が得られる研磨加工方法を提供することにある。
【0009】
本発明者は、かかるCMP法による難加工材料の研磨法を開発すべく鋭意研究を継続した結果、研磨液および研磨粒子の存在下において研磨パッドを用いて結晶材料の表面を平滑に研磨するためのCMP法による研磨加工方法に際して、その研磨液に酸化剤を溶解して酸化性を付与すると、その研磨液の酸化還元電位EhおよびpHの範囲において、前記難加工材料である窒化ガリウムGaNから成る単結晶基板に対する研磨能率や研磨性能が格段に優れたものとなる特有の領域が、研磨砥粒固定型研磨パッドにおいて存在することを見出した。本発明はこの知見に基づいて為されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、第発明の要旨とするところは、(d)研磨液および複数の研磨砥粒の存在下において研磨砥粒固定型研磨パッドを用いて結晶材料の表面を平滑に研磨するためのCMP法による研磨加工方法であって、(e)前記結晶材料は、GaNの単結晶であり、(f)前記研磨液は、酸化還元電位がEhmin(式(3)で定められる値)mV〜Ehmax(式(4)で定められる値)mVであり、且つpHが0.12〜5.7である酸化性の研磨液であることにある。
Ehmin(mV)=−27.2pH+738.4 ・・・(3)
Ehmax(mV)=−84.0pH+1481 ・・・(4)
【発明の効果】
【0013】
発明によれば、CMP法による研磨加工において、GaNの単結晶である結晶材料の表面が、酸化還元電位がEhmin(式(3)で定められる値)mV〜Ehmax(式(4)で定められる値)mVであり、且つpHが0.12〜5.7である酸化性の研磨液の存在下において研磨砥粒固定型研磨パッドを用いて研磨されるので、低い表面粗度を得つつ、高い研磨能率が好適に得られる。
【0016】
ここで、好適には、前記研磨砥粒固定型研磨パッドは、独立気孔または連通気孔を有する母材樹脂を有し、前記複数の研磨砥粒は、前記母材樹脂に形成された独立気孔または連通気孔内に一部が固着し或いは一部が分離した状態で該母材樹脂内に収容されているものである。このようにすれば、母材樹脂の連通気孔内に研磨砥粒が内包されているので、一層高い研磨能率と、低い表面粗度が得られる。また、研磨砥粒の消費量が少なくなり、高価な研磨砥粒を用いることができる。
【0017】
また、好適には、前記研磨砥粒固定型研磨パッドの母剤樹脂は、エポキシ樹脂またはポリエーテルサルホン(PES)樹脂から構成されたものである。このようにすれば、一層高い研磨効率が得られる。しかし、たとえばポリフッ化ビニル、フッ化ビニル・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素系合成樹脂や、ポリエチレン樹脂、およびポリメタクリル酸メチルの内、少なくとも1つを含む合成樹脂等であっても好適に用いられる。
【0018】
また、好適には、前記研磨砥粒は、ダイヤモンド、CBN(立方晶窒化ホウ素)、B4C(炭化ホウ素)、炭化ケイ素、シリカ、セリア、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マンガン酸化物、炭酸バリウム、酸化クロム、および酸化鉄の内、少なくとも1つを含むものである。このようにすれば、良好な表面粗度を得ることができる被研磨体に応じた硬度を備えた研磨砥粒を用いることができるという利点がある。上記研磨砥粒は、好適には、その平均粒径が0.005〜10(μm)の範囲内であり、たとえばシリカとしては、たとえばヒュームドシリカ(煙シリカ:四塩化ケイ素、クロロシランなどを水素および酸素の存在のもとで高温燃焼させて得られるシリカ微粒子)などが好適に用いられる。また、好適には、上記研磨砥粒の上記研磨パッドに対する体積割合は20〜50(%)の範囲内であり、重量割合は51〜90(%)の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一適用例の研磨加工方法を実施する研磨加工装置の構成を概念的に示す斜視図である。
図2図1に示す研磨パッドの表面組織を走査型電子顕微鏡によって拡大した様子を説明する模式図である。
図3】実験例1において、試料1〜試料14の研磨において用いられた砥粒、砥粒径、砥粒の硬さ(ヌープ硬度)、研磨液の酸化還元電位、およびpHと、得られた研磨レートPR(nm/h)および表面粗さRaの値をそれぞれ示す図表である。
図4図3の試料1〜試料14の研磨における研磨液の酸化還元電位、およびpHをプロットし、且つ、良好な研磨が得られる領域を示す二次元座標である。
図5】実験例2において、試料15〜試料30の研磨において用いられた砥粒、砥粒径、砥粒の硬さ(ヌープ硬度)、研磨液の酸化還元電位、およびpHと、得られた研磨レートPR(nm/h)および表面粗さRaの値をそれぞれ示す図表である。
図6】実験例2において、試料31〜試料32の研磨において用いられた砥粒、砥粒径、砥粒の硬さ(ヌープ硬度)、研磨液の酸化還元電位、およびpHと、得られた研磨レートPR(nm/h)および表面粗さRaの値をそれぞれ示す図表である。
図7図5および図6の試料15〜試料32の研磨における研磨液の酸化還元電位、およびpHをプロットし、且つ、良好な研磨が得られる領域を示す二次元座標である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の1適用例を図面と共に詳細に説明する。
【実施例】
【0022】
図1は、本発明の一例が適用されるCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)法による研磨加工を実施するための研磨加工装置10の要部をフレームを取り外して観念的に示している。この図1において、研磨加工装置10には、研磨定盤12がその垂直な軸心C1まわりに回転可能に支持された状態で設けられており、その研磨定盤12は、定盤駆動モータ13により、図に矢印で示す1回転方向へ回転駆動されるようになっている。この研磨定盤12の上面すなわち被研磨体(GaN単結晶材料)16が押しつけられる面には、研磨パッド14が貼り着けられている。一方、上記研磨定盤12上の軸心C1から偏心した位置には、GaNウェハ等の被研磨体16を吸着或いは保持枠等を用いて下面において保持するワーク保持部材(キャリヤ)18がその軸心C2まわりに回転可能、その軸心C2方向に移動可能に支持された状態で配置されており、そのワーク保持部材18は、図示しないワーク駆動モータにより或いは上記研磨定盤12から受ける回転モーメントにより図1に矢印で示す1回転方向へ回転させられるようになっている。ワーク保持部材18の下面すなわち上記研磨パッド14と対向する面にはGaN単結晶基板である被研磨体16が保持され、被研磨体16が所定の荷重で研磨パッド14に押圧されるようになっている。また、研磨加工装置10のワーク保持部材18の近傍には、滴下ノズル22および/またはスプレーノズル24が設けられており、図示しないタンクから送出された酸化性水溶液である研磨液(ルブリカント)20が上記研磨定盤12上に供給されるようになっている。
【0023】
なお、上記研磨加工装置10には、研磨定盤12の軸心C1に平行な軸心C3まわりに回転可能、その軸心C3の方向および前記研磨定盤12の径方向に移動可能に配置された図示しない調整工具保持部材と、その調整工具保持部材の下面すなわち前記研磨パッド14と対向する面に取り付けられた図示しないダイヤモンドホイールのような研磨体調整工具(コンディショナー)とが必要に応じて設けられており、かかる調整工具保持部材およびそれに取り付けられた研磨体調整工具は、図示しない調整工具駆動モータにより回転駆動された状態で前記研磨パッド14に押しつけられ、且つ研磨定盤12の径方向に往復移動させられることにより、研磨パッド14の研磨面の調整がおこなわれてその研磨パッド14の表面状態が研磨加工に適した状態に常時維持されるようになっている。
【0024】
上記研磨加工装置10によるCMP法の研磨加工に際しては、上記研磨定盤12およびそれに貼り着けられた研磨パッド14と、ワーク保持部材18およびその下面に保持された被研磨体16とが、上記定盤駆動モータ13およびワーク駆動モータによりそれぞれの軸心まわりに回転駆動された状態で、上記滴下ノズル22および/またはスプレーノズル24から研磨液20が上記研磨パッド14の表面上に供給されつつ、ワーク保持部材18に保持された被研磨体16がその研磨パッド14に押しつけられる。そうすることにより、上記被研磨体16の被研磨面すなわち上記研磨パッド14に対向する面が、上記研磨液20による化学的研磨作用と、上記研磨パッド14内に内包されてその研磨パッド14から自己供給された研磨砥粒26による機械的研磨作用とによって平坦に研磨される。この研磨砥粒26には、たとえば平均粒径80nm程度のシリカが用いられる。
【0025】
上記研磨定盤12上に貼り着け付けられた研磨パッド14は、硬質発泡ポリウレタン樹脂から成る研磨砥粒遊離型研磨パッド、或いは、研磨砥粒26を収容した独立気孔或いは連通気孔を有するエポキシ樹脂或いはPES樹脂から成る研磨砥粒固定型研磨パッドであり、たとえば300(mmφ)×5(mm)程度の寸法を備えている。図2は、その研磨砥粒固定型(研磨砥粒内包型)研磨パッドの一例を示し、連通気孔30を備えた母材樹脂32と、その母材樹脂32の連通気孔30に充填され、一部は母材樹脂32に固着して状態或いは一部が母材樹脂32から分離した状態の多数の研磨砥粒26とを備えて円板状に形成されている。この研磨砥粒固定型(研磨砥粒内包型)研磨パッドは、たとえば、32容積%程度の研磨砥粒26と33容積%程度の母材樹脂32と、残りの容積を占める連通気孔30とから構成されている。図2は、その研磨パッド14の組織を走査型電子顕微鏡によって拡大して示す模式図であり、スポンジ状或いは編み目状に形成された母材樹脂32の連通気孔30は研磨砥粒26よりも同等以上の大きさに形成されており、その連通気孔30内には多数の研磨砥粒26が保持されている。その母材樹脂32と前記研磨砥粒26とが必要十分な結合力により相互に固着されている。本実施例の研磨パッド14は、たとえばコロイダルシリカなどを含有したスラリによることなく、遊離砥粒を含まない研磨液20の供給によってCMP法による研磨加工を可能とするものである。
【0026】
以上のように構成された研磨加工装置10における研磨加工に際しては、研磨定盤12およびそれに貼り付けられた研磨パッド14と、ワーク保持部材18およびその下面に保持された被研磨体16とが、定盤駆動モータ13および図示しないワーク駆動モータによりそれぞれの軸心まわりに回転駆動された状態で、上記滴下ノズル22から、たとえば過マンガン酸カリウム水溶液などの酸化性の研磨液20が上記研磨パッド14の表面上に供給されつつ、ワーク保持部材18に保持された被研磨体16がその研磨パッド14の表面に押しつけられる。そうすることにより、上記被研磨体16の被研磨面すなわち上記研磨パッド14に接触する対向面が、上記研磨液20による化学的研磨作用と、上記研磨パッド14により自己供給された研磨砥粒26による機械的研磨作用とによって平坦に研磨される。
【0027】
[実験例1]
以下、本発明者等が行った実験例1を説明する。先ず、図1に示す研磨加工装置10と同様に構成された装置を用い、以下に示す遊離砥粒研磨条件にて、硬質ポリウレタンから成る研磨砥粒遊離型研磨パッドと研磨砥粒とを用いるとともに、酸化還元電位については過マンガン酸カリウムおよびチオ硫酸カリウムを用い、pHについては硫酸と水酸化カリウムを用いて、pHおよび酸化還元電位Ehが相互に異なるように調整され、且つ研磨砥粒が12.5重量%となるように分散された14種類の酸化性の研磨液について、10mm×10mm×0.35mmのGaN単結晶板である試料1〜試料14の研磨試験をそれぞれ行った。
【0028】
[遊離砥粒研磨条件]
研磨加工装置 :エンギスハイプレス EJW−380
研磨パッド :硬質発泡ポリウレタン製 300mmφ×2mmt(ニッタハース社製のIC1000)
研磨パッド回転数 :60rpm
被研磨体(試料) :GaN単結晶板(0001)
被研磨体の形状 :10mm×10mm×0.35mmの板が3個
被研磨体回転数 :60rpm
研磨荷重(圧力) :52.2kPa
研磨液供給量 :10ml/min
研磨時間 :120min
コンディショナー :SD#325(電着ダイヤモンドホイール)
【0029】
図3には、各試料1〜試料14に用いられた砥粒の種類、砥粒の平均粒径(nm)、砥粒の硬さ(ヌープ硬度)、研磨液の酸化還元電位Eh(水素電極基準電位)、および水素イオン濃度pHと、研磨結果である研磨レートPR(nm/h)および表面粗度Ra(nm)とが示されている。これら各試料1〜試料14のうち、表面粗さRaが2.3nm以下の研磨面が得られ、且つ研磨レートが7nm/h以上の研磨レートが得られる試料1、2、4〜6、8〜1について好適な研磨結果が得られた。
【0030】
図4は、上記好適な結果が得られた試料1、2、4〜6、8〜1に用いた研磨液の酸化還元電位Eh(水素電極基準電位)および水素イオン濃度pHの領域を、研磨液の酸化還元電位Eh(水素電極基準電位)および水素イオン濃度pHを示す二次元座標において示している。この領域は、酸化還元電位がEhmin(式(1)で定められる値)mV〜Ehmax(式(2)で定められる値)mVの範囲であり、且つpHが0.1〜6.5の範囲で特定される。式(1)は試料4を示す点と試料8を示す点とを結ぶ直線であり、式(2)は試料11を示す点と試料13を示す点とを結ぶ直線である。
Ehmin(mV)=−33.9pH+750 ・・・(1)
Ehmax(mV)=−82.1pH+1491 ・・・(2)
【0031】
[実験例2]
以下、本発明者等が行った実験例2を説明する。先ず、図1に示す研磨加工装置10と同様に構成された装置を用い、以下に示す固定砥粒研磨条件にて、砥粒内包研磨パッドを用いるとともに、酸化還元電位については過マンガン酸カリウムおよびチオ硫酸カリウムを用い、pHについては硫酸と水酸化カリウムを用いて、pHおよび酸化還元電位Ehが異なるように調整された16種類の酸化性の研磨液について、10mm×10mm×0.35mmのGaN単結晶板である試料15〜試料30の研磨試験をそれぞれ行った。この研磨加工において、各試料15〜試料30に用いられる砥粒内包研磨パッドは、独立気孔を有する母材樹脂と、その母材樹脂に一部が固着し或いは一部が母材樹脂から分離した状態でその独立気孔内に収容された研磨砥粒とを有するものであり、たとえばシリカ(ρ=2.20)或いはアルミナ(ρ=3.98)が10体積%、母材樹脂としてのエポキシ樹脂(ρ=1.15)が55体積%、独立気孔が35体積%から構成されている。また、試料31〜32に用いられる砥粒内包研磨パッドは、連通気孔を有する母材樹脂と、その母材樹脂内に収容された研磨砥粒とを有するものであり、たとえばシリカ(ρ=2.20)が32体積%、母材樹脂としてのポリエーテルサルホン(PES)樹脂(ρ=1.35)が33体積%、連通気孔が35体積%から構成されている。砥粒内包研磨パッドは、たとえば500×500×2mmのシート状に成形し、300mmφの円形に切り出されたものである。
【0032】
[固定砥粒研磨条件]
研磨加工装置 :エンギスハイプレス EJW−380
研磨パッド :砥粒内包パッド 300mmφ×2mmt
研磨パッド回転数 :60rpm
被研磨体(試料) :GaN単結晶板(0001)
被研磨体の形状 :10mm×10mm×0.35mmの板が3個
被研磨体回転数 :60rpm
研磨荷重(圧力) :52.2kPa
研磨液供給量 :10ml/min
研磨時間 :120min
コンディショナー :SD#325(電着ダイヤモンドホイール)
【0033】
図5および図6には、各試料15〜試料32に用いられた砥粒の種類、砥粒の平均粒径(nm)、砥粒の硬さ(ヌープ硬度)、研磨液の酸化還元電位Eh(水素電極基準電位)、および水素イオン濃度pHと、研磨結果である研磨レートPR(nm/h)および表面粗度Ra(nm)とが示されている。これら各試料15〜試料32のうち、表面粗さRaが2.3nm以下の研磨面が得られ、且つ研磨レートが7nm/h以上の研磨レートが得られる試料16、17、19〜24、27、29〜32について好適な研磨結果が得られた。
【0034】
図7は、上記好適な結果が得られた試料16、17、19〜24、27、29〜32に用いた研磨液の酸化還元電位Eh(水素電極基準電位)および水素イオン濃度pHの領域を、研磨液の酸化還元電位Eh(水素電極基準電位)および水素イオン濃度pHを示す二次元座標において示している。この領域は、酸化還元電位がEhmin(式(3)で定められる値)mV〜Ehmax(式(4)で定められる値)mVの範囲であり、且つpHが0.12〜5.7の範囲で特定される。式(3)は試料19を示す点と試料22を示す点とを結ぶ直線であり、式(4)は試料21を示す点と試料27を示す点とを結ぶ直線である。
Ehmin(mV)=−27.2pH+738.4 ・・・(3)
Ehmax(mV)=−84pH+1481 ・・・(4)
【0035】
その他一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて用いられるものである。
【符号の説明】
【0036】
10:研磨加工装置
12:研磨定盤
14:研磨パッド(研磨砥粒遊離型研磨パッド、研磨砥粒固定型研磨パッド)
16:被研磨体(GaN単結晶基板)
20:研磨液
26:研磨砥粒
30:連通気孔
32:母材樹脂
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7