【実施例】
【0022】
図1は、本発明の一例が適用されるCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)法による研磨加工を実施するための研磨加工装置10の要部をフレームを取り外して観念的に示している。この
図1において、研磨加工装置10には、研磨定盤12がその垂直な軸心C1まわりに回転可能に支持された状態で設けられており、その研磨定盤12は、定盤駆動モータ13により、図に矢印で示す1回転方向へ回転駆動されるようになっている。この研磨定盤12の上面すなわち被研磨体(GaN単結晶材料)16が押しつけられる面には、研磨パッド14が貼り着けられている。一方、上記研磨定盤12上の軸心C1から偏心した位置には、GaNウェハ等の被研磨体16を吸着或いは保持枠等を用いて下面において保持するワーク保持部材(キャリヤ)18がその軸心C2まわりに回転可能、その軸心C2方向に移動可能に支持された状態で配置されており、そのワーク保持部材18は、図示しないワーク駆動モータにより或いは上記研磨定盤12から受ける回転モーメントにより
図1に矢印で示す1回転方向へ回転させられるようになっている。ワーク保持部材18の下面すなわち上記研磨パッド14と対向する面にはGaN単結晶基板である被研磨体16が保持され、被研磨体16が所定の荷重で研磨パッド14に押圧されるようになっている。また、研磨加工装置10のワーク保持部材18の近傍には、滴下ノズル22および/またはスプレーノズル24が設けられており、図示しないタンクから送出された酸化性水溶液である研磨液(ルブリカント)20が上記研磨定盤12上に供給されるようになっている。
【0023】
なお、上記研磨加工装置10には、研磨定盤12の軸心C1に平行な軸心C3まわりに回転可能、その軸心C3の方向および前記研磨定盤12の径方向に移動可能に配置された図示しない調整工具保持部材と、その調整工具保持部材の下面すなわち前記研磨パッド14と対向する面に取り付けられた図示しないダイヤモンドホイールのような研磨体調整工具(コンディショナー)とが必要に応じて設けられており、かかる調整工具保持部材およびそれに取り付けられた研磨体調整工具は、図示しない調整工具駆動モータにより回転駆動された状態で前記研磨パッド14に押しつけられ、且つ研磨定盤12の径方向に往復移動させられることにより、研磨パッド14の研磨面の調整がおこなわれてその研磨パッド14の表面状態が研磨加工に適した状態に常時維持されるようになっている。
【0024】
上記研磨加工装置10によるCMP法の研磨加工に際しては、上記研磨定盤12およびそれに貼り着けられた研磨パッド14と、ワーク保持部材18およびその下面に保持された被研磨体16とが、上記定盤駆動モータ13およびワーク駆動モータによりそれぞれの軸心まわりに回転駆動された状態で、上記滴下ノズル22および/またはスプレーノズル24から研磨液20が上記研磨パッド14の表面上に供給されつつ、ワーク保持部材18に保持された被研磨体16がその研磨パッド14に押しつけられる。そうすることにより、上記被研磨体16の被研磨面すなわち上記研磨パッド14に対向する面が、上記研磨液20による化学的研磨作用と、上記研磨パッド14内に内包されてその研磨パッド14から自己供給された研磨砥粒26による機械的研磨作用とによって平坦に研磨される。この研磨砥粒26には、たとえば平均粒径80nm程度のシリカが用いられる。
【0025】
上記研磨定盤12上に貼り着け付けられた研磨パッド14は、硬質発泡ポリウレタン樹脂から成る研磨砥粒遊離型研磨パッド、或いは、研磨砥粒26を収容した独立気孔或いは連通気孔を有するエポキシ樹脂或いはPES樹脂から成る研磨砥粒固定型研磨パッドであり、たとえば300(mmφ)×5(mm)程度の寸法を備えている。
図2は、その研磨砥粒固定型(研磨砥粒内包型)研磨パッドの一例を示し、連通気孔30を備えた母材樹脂32と、その母材樹脂32の連通気孔30に充填され、一部は母材樹脂32に固着して状態或いは一部が母材樹脂32から分離した状態の多数の研磨砥粒26とを備えて円板状に形成されている。この研磨砥粒固定型(研磨砥粒内包型)研磨パッドは、たとえば、32容積%程度の研磨砥粒26と33容積%程度の母材樹脂32と、残りの容積を占める連通気孔30とから構成されている。
図2は、その研磨パッド14の組織を走査型電子顕微鏡によって拡大して示す模式図であり、スポンジ状或いは編み目状に形成された母材樹脂32の連通気孔30は研磨砥粒26よりも同等以上の大きさに形成されており、その連通気孔30内には多数の研磨砥粒26が保持されている。その母材樹脂32と前記研磨砥粒26とが必要十分な結合力により相互に固着されている。本実施例の研磨パッド14は、たとえばコロイダルシリカなどを含有したスラリによることなく、遊離砥粒を含まない研磨液20の供給によってCMP法による研磨加工を可能とするものである。
【0026】
以上のように構成された研磨加工装置10における研磨加工に際しては、研磨定盤12およびそれに貼り付けられた研磨パッド14と、ワーク保持部材18およびその下面に保持された被研磨体16とが、定盤駆動モータ13および図示しないワーク駆動モータによりそれぞれの軸心まわりに回転駆動された状態で、上記滴下ノズル22から、たとえば過マンガン酸カリウム水溶液などの酸化性の研磨液20が上記研磨パッド14の表面上に供給されつつ、ワーク保持部材18に保持された被研磨体16がその研磨パッド14の表面に押しつけられる。そうすることにより、上記被研磨体16の被研磨面すなわち上記研磨パッド14に接触する対向面が、上記研磨液20による化学的研磨作用と、上記研磨パッド14により自己供給された研磨砥粒26による機械的研磨作用とによって平坦に研磨される。
【0027】
[実験例1]
以下、本発明者等が行った実験例1を説明する。先ず、
図1に示す研磨加工装置10と同様に構成された装置を用い、以下に示す遊離砥粒研磨条件にて、硬質ポリウレタンから成る研磨砥粒遊離型研磨パッドと研磨砥粒とを用いるとともに、酸化還元電位については過マンガン酸カリウムおよびチオ硫酸カリウムを用い、pHについては硫酸と水酸化カリウムを用いて、pHおよび酸化還元電位Ehが相互に異なるように調整され、且つ研磨砥粒が12.5重量%となるように分散された14種類の酸化性の研磨液について、10mm×10mm×0.35mmのGaN単結晶板である試料1〜試料14の研磨試験をそれぞれ行った。
【0028】
[遊離砥粒研磨条件]
研磨加工装置 :エンギスハイプレス EJW−380
研磨パッド :硬質発泡ポリウレタン製 300mmφ×2mmt(ニッタハース社製のIC1000)
研磨パッド回転数 :60rpm
被研磨体(試料) :GaN単結晶板(0001)
被研磨体の形状 :10mm×10mm×0.35mmの板が3個
被研磨体回転数 :60rpm
研磨荷重(圧力) :52.2kPa
研磨液供給量 :10ml/min
研磨時間 :120min
コンディショナー :SD#325(電着ダイヤモンドホイール)
【0029】
図3には、各試料1〜試料14に用いられた砥粒の種類、砥粒の平均粒径(nm)、砥粒の硬さ(ヌープ硬度)、研磨液の酸化還元電位Eh(水素電極基準電位)、および水素イオン濃度pHと、研磨結果である研磨レートPR(nm/h)および表面粗度Ra(nm)とが示されている。これら各試料1〜試料14のうち、表面粗さRaが2.3nm以下の研磨面が得られ、且つ研磨レートが7nm/h以上の研磨レートが得られる試料1、2、4〜6、8〜1
4について好適な研磨結果が得られた。
【0030】
図4は、上記好適な結果が得られた試料1、2、4〜6、8〜1
4に用いた研磨液の酸化還元電位Eh(水素電極基準電位)および水素イオン濃度pHの領域を、研磨液の酸化還元電位Eh(水素電極基準電位)および水素イオン濃度pHを示す二次元座標において示している。この領域は、酸化還元電位がEhmin(式(1)で定められる値)mV〜Ehmax(式(2)で定められる値)mVの範囲であり、且つpHが0.1〜6.5の範囲で特定される。式(1)は試料4を示す点と試料8を示す点とを結ぶ直線であり、式(2)は試料11を示す点と試料13を示す点とを結ぶ直線である。
Ehmin(mV)=−33.9pH+750 ・・・(1)
Ehmax(mV)=−82.1pH+1491 ・・・(2)
【0031】
[実験例2]
以下、本発明者等が行った実験例2を説明する。先ず、
図1に示す研磨加工装置10と同様に構成された装置を用い、以下に示す固定砥粒研磨条件にて、砥粒内包研磨パッドを用いるとともに、酸化還元電位については過マンガン酸カリウムおよびチオ硫酸カリウムを用い、pHについては硫酸と水酸化カリウムを用いて、pHおよび酸化還元電位Ehが異なるように調整された16種類の酸化性の研磨液について、10mm×10mm×0.35mmのGaN単結晶板である試料15〜試料30の研磨試験をそれぞれ行った。この研磨加工において、各試料15〜試料30に用いられる砥粒内包研磨パッドは、独立気孔を有する母材樹脂と、その母材樹脂に一部が固着し或いは一部が母材樹脂から分離した状態でその独立気孔内に収容された研磨砥粒とを有するものであり、たとえばシリカ(ρ=2.20)或いはアルミナ(ρ=3.98)が10体積%、母材樹脂としてのエポキシ樹脂(ρ=1.15)が55体積%、独立気孔が35体積%から構成されている。また、試料31〜32に用いられる砥粒内包研磨パッドは、連通気孔を有する母材樹脂と、その母材樹脂内に収容された研磨砥粒とを有するものであり、たとえばシリカ(ρ=2.20)が32体積%、母材樹脂としてのポリエーテルサルホン(PES)樹脂(ρ=1.35)が33体積%、連通気孔が35体積%から構成されている。砥粒内包研磨パッドは、たとえば500×500×2mmのシート状に成形し、300mmφの円形に切り出されたものである。
【0032】
[固定砥粒研磨条件]
研磨加工装置 :エンギスハイプレス EJW−380
研磨パッド :砥粒内包パッド 300mmφ×2mmt
研磨パッド回転数 :60rpm
被研磨体(試料) :GaN単結晶板(0001)
被研磨体の形状 :10mm×10mm×0.35mmの板が3個
被研磨体回転数 :60rpm
研磨荷重(圧力) :52.2kPa
研磨液供給量 :10ml/min
研磨時間 :120min
コンディショナー :SD#325(電着ダイヤモンドホイール)
【0033】
図5および
図6には、各試料15〜試料32に用いられた砥粒の種類、砥粒の平均粒径(nm)、砥粒の硬さ(ヌープ硬度)、研磨液の酸化還元電位Eh(水素電極基準電位)、および水素イオン濃度pHと、研磨結果である研磨レートPR(nm/h)および表面粗度Ra(nm)とが示されている。これら各試料15〜試料32のうち、表面粗さRaが2.3nm以下の研磨面が得られ、且つ研磨レートが7nm/h以上の研磨レートが得られる試料16、17、19〜24、27、29〜32について好適な研磨結果が得られた。
【0034】
図7は、上記好適な結果が得られた試料16、17、19〜24、27、29〜32に用いた研磨液の酸化還元電位Eh(水素電極基準電位)および水素イオン濃度pHの領域を、研磨液の酸化還元電位Eh(水素電極基準電位)および水素イオン濃度pHを示す二次元座標において示している。この領域は、酸化還元電位がEhmin(式(3)で定められる値)mV〜Ehmax(式(4)で定められる値)mVの範囲であり、且つpHが0.12〜5.7の範囲で特定される。式(3)は試料19を示す点と試料22を示す点とを結ぶ直線であり、式(4)は試料21を示す点と試料27を示す点とを結ぶ直線である。
Ehmin(mV)=−27.2pH+738.4 ・・・(3)
Ehmax(mV)=−84pH+1481 ・・・(4)
【0035】
その他一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて用いられるものである。