【実施例】
【0175】
本発明をさらに以下の8件の具体的な実施例を通じて説明し、本発明の内容をよりよく理解できるようにする。しかしながら本発明の内容は以下に説明する実施例に限定されない。特に言及しない限り、実施例において用いる試薬及び溶液はいずれも企業から購入したものである。
【0176】
本発明の試験に関連するDNA配列
【0177】
【表1】
【表2】
【0178】
オリゴマーであるヌクレオチド鎖であって修飾塩基を有するものを実験に用いたが、ABI EXPEDIATE核酸固相合成器を用いて合成されたものである。合成に用いたホスホラミダイト単量体は米国Glen Reserchから購入したものである。オリゴマーであるヌクレオチド鎖であって通常の塩基のみ含有するものを実験に用いたが、Sangon Biotech Co., Ltd(上海)によって合成されたものである。
【0179】
[実施例1]
【0180】
化合物I、II、及びIIIの代表的な化合物の合成
【0181】
人工合成された9塩基のオリゴマーであるヌクレオチド鎖であって5fC塩基を含有するオリゴ番号1番のものを三種の化合物i、ii、及びiiiを代表する化合物i−1、ii−1、及びiii−1と反応させた結果、3つの構造I、II、及びIIIに関する代表する3つの産物である化合物I−1、II−1、及びIII−3を得た。反応において、化合物iを代表する化合物はエチルアセトアセテート及びメチルアセトアセテートであり;化合物iiを代表する化合物はマロノニトリルであり;化合物iiiを代表する化合物は1,3-インダンジオンである。
【0182】
個別の反応経路は以下のとおりである。
【0183】
【化31】
【0184】
化合物i−1は代表的な化合物、エチルアセトアセテート又はメチルアセトアセテートである。オリゴ番号1番、すなわち5fC-9塩基DNAオリゴマーであるヌクレオチド鎖を適当量のアルカリメタノール溶液に溶解した。その後、過剰モルのエチルアセトアセテート又はメチルアセトアセテートを直接添加した。均一に混合した後、さらに攪拌しながら37度で24時間反応を行い、化合物I−1と同一の化合物を得た。反応において、エチルアセトアセテート又はメチルアセトアセテートの2位の活性メチレンが5fCのホルミルと縮合した。また同時に分子内反応が起きて、その間にシトシン環の4-アミノがエステル結合のエタノール/メタノール部位を置換した。以上により環形成されて、化合物I−1が生じた。MALDI-TOF質量スペクトルによって特定されたところによれば、残留している原料のピークがないことが示された、m/z
(ob): 2763.5→m/z
(ob): 2829.8/2829.5(
図1のA、B、及びCに示す)。
【0185】
化合物ii−1は代表的な化合物、マロノニトリルである。オリゴ番号1番、すなわち5fC-9塩基DNAオリゴマーであるヌクレオチド鎖を弱酸性水溶液に溶解する。同時に高濃度の水溶性原液を用いて、大過剰モルのマロノニトリルを添加した。均一に混合した後、さらに攪拌しながら37度で24時間反応を行い、化合物II−1と同一の化合物を得た。反応において、マロノニトリルの2位の活性メチレンが5fCのホルミルと縮合した。その後、分子内付加反応を通じて、シトシン環の4-アミノがマロノニトリルとともに環を形成した。以上により化合物II−1が生じた。MALDI-TOF質量スペクトルによって特定されたところによれば、残留している原料のピークがないことが示された、m/z
(ob): 2763.5→m/z
(ob): 2812.5(
図1のA及びDに示す)。
【0186】
化合物iii−1は代表的な化合物、1,3-インダンジオンである。1,3-インダンジオンと5fC DNAとの反応はアルカリメタノール溶液又は弱酸性水溶液中で行うことができる。適当量のオリゴ番号1番、すなわち5fC-9塩基DNAオリゴマーであるヌクレオチド鎖を溶解した。大過剰モルの黄色い固形の1,3-インダンジオンを同時に添加して(アルカリメタノール溶液中に)溶解した。又は飽和させた(弱酸性水溶液中にて)。均一に混合した後、さらに攪拌しながら37度で24時間反応を行い、化合物III−1を得た。反応において、マロノニトリルの2位の活性メチレンが5fCのホルミルと縮合した。その後、分子内付加反応を通じて、シトシン環の4-アミノがマロノニトリルとともに環を形成した。以上により化合物III−1が生じた。MALDI-TOF質量スペクトルによって特定されたところによれば、残留している原料のピークがないことが示された、m/z
(ob): 2763.5→m/z
(ob): 2874.7(
図1のA及びEに示す)。
【0187】
図1中のMALDI-TOF質量スペクトルの結果は、残留している原料のピークが検出されないことを示しており、反応効率が極めて高いことを表している。
【0188】
本発明により提供される反応は非常に選択性が高い。係る反応は5fCのみに対して特異的である。また他のシトシン又はシトシン誘導体の副反応は起きない。
図2に示すように、マロノニトリルを代表として、他の4種のシトシン(C、5mC、5mhC、及び5caC)を含有するDNA配列(それぞれ、オリゴ番号2番、オリゴ番号3番、オリゴ番号4番、及びオリゴ番号5番)と反応させた。MALDI-TOF質量スペクトルによって特定されたところによれば、他のシトシン又はシトシン誘導体は反応しないことが示された。また対応する分子量の増加は反応後の5fC-9塩基DNA配列にのみ観察された(5hmCのグループの第二のピークは精製の不完全な試料に起因する)。これにより、非常に高い反応選択性が示された。
【0189】
[実施例2]
【0190】
ジエチルマロネートでの「5fC環-保護による亜硫酸水素ナトリウム配列決定法」の実施
【0191】
ジエチルマロネートは活性メチレン化合物iに分類される。目標となる化合物I−2はアルカリメタノール溶液中での(下記模式図に示されるような)ジエチルマロネートと5fCとの二段階の縮合反応を通じて得られる。オリゴ番号1番、すなわち5fC-9塩基DNAオリゴマーであるヌクレオチド鎖とジエチルマロネートとの反応の工程は以下の通りである:DNAオリゴマーであるヌクレオチド鎖を適量、アルカリメタノール溶液に溶解した。その後、過剰モルのジエチルマロネートを直接添加した。均一に混合した後、さらに攪拌しながら37度で24時間反応を行い、化合物I−2を得た。反応において、ジエチルマロネートの2位の活性メチレンが5fCのホルミルと縮合した。また同時に分子内反応が起きて、その間にシトシン環の4-アミノがエステル結合のエタノール部位を置換し;また同時にアルカリメタノール溶液中では、環形成に供されないエステル結合のエステル交換反応が起きて、メトキシカルボニル基が形成されたことで、環形成を通じて化合物I−2が生成した。MALDI-TOF質量スペクトルによって特定されたところによれば、残留している原料のピークがないことが示された、m/z
(ob): 2763.5→m/z
(ob): 2845.4(
図1のA及びFに示す)。
【0192】
【化32】
【0193】
5fC塩基を含有する77塩基長のオリゴ番号6番の二重鎖DNA配列をジエチルマロネートと反応させた。オリゴ番号6番の配列、フォワード鎖は2個の5fC塩基を有しており、配列中で5fC塩基を太字で表す(5-C
5fGC
5fG-3、C
5fは太字)。またリバース鎖は5fC塩基を有していないが、5fC塩基に対応する配列はGである(5-CG*CG*-3、G*は太字)。亜硫酸水素ナトリウム処理後、オリゴ番号7番及びオリゴ番号8番の2個のプライマーによってPCR増幅を行った。リバース側の配列決定用プライマーであるオリゴ番号9番を配列決定時に用いた。このため解読結果中の5-CG*CG*-3配列中のG
*のシグナルが5fCのシグナルに対応していた。反応条件は上記と同じであった。メタノールを蒸発乾燥させた後、反応産物をエタノール沈殿で回収した。
【0194】
回収したDNA試料をPCR反応で直接増幅させた。またはQIAGENのEpiTect Fast Bisulfite Conversion Kitで試料を処理した後PCRで増幅させた。その後、反応産物を配列決定して、亜硫酸水素ナトリウム処理に対して耐性があるか否かを特定した。
図3A及び3Bの配列決定結果に示されるようにジエチルマロネートによる反応後に産物が直接に増幅され、配列決定されたとき、5fC塩基のシトシンは、はっきりとしたグアニンGシグナルとして相補的に読み出された。一方で、亜硫酸ナトリウム処理の後では、試料配列中の通常のシトシンがウラシルUに変換されたのでPCRで増幅されてチミンTとなり、アデニンAのシグナルとして読みだされた。しかしながら、ジエチルマロネートによる反応後の5fC*の産物は亜硫酸ナトリウム処理に対して耐性があったことからPCR工程においてシトシン塩基と相補したため、配列決定ではグアニンGシグナルとして読み出された。これは環形成反応がシトシンの4-アミノを保護し、また通常のPCR工程においてこのようなシトシンがCとして読み出されることに影響を与えないことを表している。亜硫酸水素ナトリウム処理において、保護された5fCは脱アミノ化されずまた加水分解されなかった。しかしながら、他の通常のシトシンは亜硫酸水素ナトリウム処理において脱アミノ化され、加水分解された。また配列決定でTとして解読された。反応前後における亜硫酸水素ナトリウム配列決定結果を比較することで、一塩基の分解能での5fCの配列位置を特定できる(
図3A及び3B)。
【0195】
係る方法では、シトシンの4-アミノを環形成反応で保護した。すなわち、シトシンの脱アミノ化及び加水分解を妨げた。環形成反応前の5fC位置を脱アミノ化し、加水分解でき、かつこれにより配列決定でTとして解読できる場合と比較することで、配列中の5fC塩基の位置が特定できる。係る方法は「5fC環形成-保護による亜硫酸水素ナトリウム配列決定法」ということができる。
【0196】
[実施例3]
【0197】
iv型の代表的な化合物AI(式iv−1)により5fC塩基を含有する核酸を特異的に濃縮する
【0198】
1,3-インダンジオンの反応部位は5-員環中のカルボニル基間のメチレンである。このため、ベンゼン環構造の3、4、5及び6位を修飾しても、化合物の性質に特別な影響はない。そこで、5-(2-アジドエチル)-1,3-インダンジオン(化合物AI)を合成し、5fC塩基を含有する核酸を特異的に濃縮することをとした。
【0199】
5-(2-アジドエチル)-1,3-インダンジオン(化合物AI)の合成経路は以下である。
【0200】
【化33】
【0201】
4-(2-クロロエチル)-ベンゾイルクロリドの合成:
【0202】
4-(2-クロロエチル)-安息香酸(10 g、108 mmol)を50 mLのSOCl
2に混合して、数滴のDMFを添加した。混合物を加熱して12時間還流した。その後、過剰なSOCl
2を蒸発させることで、黄色い液体(10.8 g、96%)を得た。係る液体を次の反応工程に直接用いた。
【0203】
5-(2-クロロエチル)-1,3-インダンジオン(5-(2-クロロエチル)-1H-インデン-1,3(2H)-ジオン)の合成
【0204】
AlCl
3(14 g、106 mmol、1当量)及び200 mlのCH
2Cl
2を500 mLの乾燥二口フラスコに加えた。4-(2-クロロエチル)-ベンゾイルクロリド(21.6 g、106 mmol)を窒素防護化でCH
2Cl
2溶液に添加した。その後、再蒸留したマロニルジクロリド(16.5 g、117 mmol、1.1 当量)を0℃でゆっくりと溶液中に滴下することで、こげ茶色の液体を得た。反応を室温で12時間行った。反応後、溶液を氷中に注ぎ、その後HCl溶液(10%、250 mL)を添加して、1時間、激しく撹拌した。その後、溶液をCHCl
3で抽出した(3×400 mL)。抽出物を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィーに供し、石油エーテル/ジクロロメタン2:1で溶出することで、明るい黄色の固体(7.9 g、36%)を得た。1H NMR (300MHz, CDCl3) δ 7.93 (d, J=7.8 Hz, 1H), 7.83 (s, 1H), 7.71 (d, J=7.8 Hz, 1H), 3.80 (t, J=6.6 Hz, 2H), 3.25 (t, J=6.6 Hz, 2H), 3.24 (s, 2H)。
【0205】
5-(2-アジドエチル)-1,3-インダンジオン(5-(2-アジドエチル)-1H-インデン-1,3(2H)-ジオン)、すなわちAIの合成
【0206】
NaN
3
(2.3 g、36 mmol、2当量)を100 mLの乾燥DMSOに溶解し、5-(2-アジドエチル)-1,3-インダンジオン(3.7 g、18 mmol)を添加した。80℃で20分間反応を行った。反応後、300 mLの水を溶液に添加した。その後、溶液をジエチルエーテルで抽出した(3×400 mL)。抽出物を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィーに供し、石油エーテル/ジクロロメタン1:1で溶出することで、明るい黄色の固体(680 mg、18 %)を得た。1H NMR (300MHz, CDCl3) δ 7.94 (d, J=7.8 Hz, 1H), 7.82 (s, 1H), 7.70 (d, J=7.8 Hz, 1H), 3.62 (t, J=6.6 Hz, 2H), 3.24 (s, 2H), 3.06 (t, J=6.6Hz, 2H), 13C NMR (75MHz, CDCl3) δ 197.6, 197.1, 147.4, 144.1, 142.4, 136.7, 123.8, 123.4, 51.9, 45.6, 35.9; MS(ESI) [M+H]
+, 216.2。
【0207】
合成した化合物AIと5fCの核酸配列との間での特異的な反応を用いることで5fC塩基を有するDNA試料を選択的に分離して濃縮することができる。かかる工程を
図4に示した。核酸試料中の5fC塩基は化合物AIと反応した。すなわちアジドが特異的に導入された。さらにジスルフィド結合を伴うビオチンがクリック−ケミストリーにより反応産物のアジドとアルキニルとの間に特異的に導入された。これにより、二段階の反応を通じて、ビオチン基が5fC塩基に選択的にまた効果的に導入された。その後、ストレプトアビジンとビオチンとの間の強い結合を用いて選択的な濃縮を行い、また配列決定試験等といった次の操作のために5fCを有するDNA配列を分離した。
図5に示すのは、一つの5fCを有するオリゴ番号1番と化合物AIとの反応の各工程で得られた産物のMALDI-TOF質量スペクトルであり、高い反応効率を表している。
【0208】
3つの人工合成された二重鎖DNA試料をマウス胚性幹細胞のゲノムDNA試料に対して2 pg/(1μgのgDNA)の分量で含ませた。試料を上述の実験工程を通じて濃縮した。濃縮の効果はリアルタイム蛍光定量PCRで検出した。3つの配列をそれぞれ用いた:オリゴ番号10番、一つの5fC部位を有する、これに対してはオリゴ番号13番/14番のプライマーの組をqPCRにおいて用いた;オリゴ番号11番、対照配列、PCRで得た、100% dATP、100% dTTP、100% dGTP、70% dCTP、15% d5mCTP、10% d5hmCTP、5% d5caCTPからなり、5fCを有しない、これに対してはオリゴ番号15番/16番のプライマーの組をqPCRにおいて用いた;及びオリゴ番号12番、参照配列、四種の基本塩基だけ有する、これに対してはオリゴ番号17番/18番のプライマーの組をqPCRにおいて用いた。濃縮率の比を「ΔCt」法で算出した。
【0209】
濃縮結果を
図6に示す。5fCを有するDNA断片が化合物AIにより選択的に濃縮できることを見出すことができた。一つの5fC塩基のみ有するDNA配列の濃縮率は100倍以上に達した。しかしながら、対照群において、15%の5mC、10%の5hmC、又は5%5caCを含有するDNA配列は濃縮されなかった。
【0210】
同様の濃縮工程をエチル6-アジド3-オキシヘキサノエートで行った。
図7に示すように、エチル6-アジド3-オキシヘキサノエートは5fCを有する核酸とアルカリメタノール溶液中で特異的に反応した。すなわち5fCを有する核酸はアジドで標識された。さらに親和性基、例えばビオチンをアルキニルとアジドとの間のクリック反応によって核酸に導入した。親和性基により5fCを有する核酸の濃縮及び分離が可能となった。
【0211】
[実施例4]
【0212】
1,3-インダンジオン及びその誘導体による「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」の実施
【0213】
1,3-インダンジオンは本発明の化合物iiiの代表的な化合物に属する。5fC塩基を含有する76塩基長のオリゴ番号19番のDNA配列を1,3-インダンジオン誘導体―化合物AIと反応させた(合成経路及びその利用について実施例3を参照)。使用した配列には2つの5fC塩基が含まれていた(5-C
5fGC
5fG-3、C
5fは太字)。反応前後の試料をオリゴ番号8番及びオリゴ番号20番で直接増幅した。また増幅産物をオリゴ番号9番で配列決定した。リバース側の配列決定用プライマーを用いたため、配列5-CG*CG*-3(G*は太字)のG*のシグナルが配列決定において5fC部位のシグナルに相当していた。反応条件は上記と同一であった。反応産物をエタノール沈殿で回収した。
【0214】
「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」を化合物AIで実施した。その結果を
図8A及び8Bに示す。化合物AIとの反応前において、二つの5fC塩基はグアニンGシグナルとして読み出された。反応後において二つの5fC塩基部位はPCRにおいてチミンTとして読み出された。このため、リバース側の配列決定用プライマーを用いた時、5fCの位置はアデニンAシグナルとして読み出された。また他のシトシンの対応する領域には影響がなかった。反応前後の配列情報を比較することで、C-T変異シグナル(フォワードプライマー配列決定)又はG-A変異シグナル(リバースプライマー配列決定)が5fCの位置として見出された。このようにして、一塩基の分解能でゲノム中の5fCの配列情報をまた容易に検出できた。
【0215】
係る方法では、5fCが化合物AIと反応した。すなわち5fCの反応産物はPCR増幅中にチミンTとして読み出された。C-T不整合部位が安定的に読み出されることで、反応前後の結果の比較を通じて、5fCの配列位置を直接に特定できる。かかる5fC配列決定方法を「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」ということができる。
【0216】
[実施例5]
【0217】
マロノニトリル反応による「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」の実施
【0218】
マロノニトリルは本発明の化合物iiの代表的な化合物に属する。5fC塩基を含有する76塩基長のオリゴ番号21番のDNA配列をマロノニトリルと反応させた(合成経路及びその利用について実施例3を参照)。使用した配列には一つだけ5fC塩基が含まれていた(5-C
5fGCG-3、C
5fは太字)。反応前後の試料をオリゴ番号8番及びオリゴ番号20番で直接増幅した。また増幅産物をオリゴ番号9番で配列決定した。このため、解読結果中の配列5-CGCG*-3(G*は太字)のG*のシグナルが5fCのシグナルに相当していた。反応条件は上記と同一であった。反応産物をエタノール沈殿で回収した。
【0219】
反応前後の配列をそれぞれPCR反応で直接増幅した。増幅産物に対してリバースプライマーで配列決定を行って、
図9A及び9Bに示される結果を得た。マロノニトリルとの反応前において、5fC塩基はグアニンGシグナルとして読み出された。反応後において5fC塩基部位はPCRにおいてチミンTとして読み出された。このため、リバース側の配列決定用プライマーを用いた時、5fCの位置はアデニンAシグナルとして読み出された。反応前後の配列情報を比較することで、C-T変異シグナル(フォワードプライマー配列決定)又はG-A変異シグナル(リバースプライマー配列決定)が5fC塩基の位置として見出された。このようにして、一塩基の分解能で核酸中の5fCの配列情報をさらに容易に検出できた。
【0220】
係る方法では、5fCがマロノニトリルと反応した。すなわち5fCの反応産物もまたPCR増幅中にチミンTとして読み出された。かかる5fC配列決定方法もまた「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」と分類することができる。
【0221】
[実施例6]
【0222】
マロニル酸ニトリルの反応産物の蛍光性による5fCの濃度の特異的な測定
【0223】
ThermoのNanodrop micro-ultraviolet spectrophotometerを用いて、オリゴ番号1番の試料(-AGA TC
5fGTAT-3)を反応後に定量したときに、化合物i、ii、及びiiiのいずれも試料に対して新たに紫外吸収ピークを呈するようにできることが分かった。
図10に示すように、オリゴ番号1番のマロノニトリルとの反応産物は約330 nmの新たな紫外吸収ピークを呈する;オリゴ番号1番の1,3-インダンジオンとの反応産物は約310 nmの新たな紫外吸収ピークを呈する;オリゴ番号1番のエチルアセトアセテート又はメチルアセトアセテートとの反応産物は約350 nmの新たな紫外吸収ピークを呈する;またオリゴ番号1番のジエチルマロネートとの反応産物は約345 nmの新たな吸収ピークを呈する。新たな紫外吸収は複合多環式誘導体の形成によって検出できることから、反応産物は新たな傾向を生じることができる。実際に反応産物の新たな蛍光が蛍光分光光度計で検出できた。ここでは、マロノニトリルと5fC塩基との反応産物のみを例として用いて説明する。上述の他の活性メチレン含有化合物については、ここではこれ以上説明しない。
【0224】
マロノニトリルと5fC塩基DNAとの反応産物は良好な蛍光を呈する。
図11に示すように、オリゴ番号1番を原料として用いて、マロノニトリルと反応させた。また蛍光分光光度計により、得られた反応産物を(化合物Iの範囲内にある)最大励起波長328 nmかつ最大発光波長370 nmの新たな産物と判別した。
【0225】
反応産物を定量して、濃度勾配を有する標準溶液を調製した。また、原料オリゴ番号1番の試料溶液を調製して同一の濃度勾配を得た。各種濃度勾配の二種の溶液の蛍光強度を同一条件で測定した。二種の溶液の蛍光強度の差異は原料の強度を反応産物から減算することで算出し、反応前後の蛍光強度の純増量を得た。
図12A及び12Bに示すように、反応産物の濃度の増加に伴い、蛍光強度の純増量も比例した増加した(
図12A)。蛍光強度の純増量を縦軸に、対応する濃度を横軸にして標準曲線をプロットしたところ、優れた直線的相関が見られた。検出の下限は10 nMにまで達していた(
図12B)。
【0226】
これらの反応産物における蛍光活性化効果を用いることで5fCの濃度を定量出来る。また、これを用いて核酸中の5fC塩基を標識できる。
【0227】
[実施例7]
【0228】
化合物AIの反応がTaqαI制限酵素による基質配列の認識に及ぼす影響
【0229】
TaqαIは5-TCGA-3回文配列を有する二重鎖DNAを切断できる。また第二塩基のシトシンは5位が修飾(5mC、5hmC、5fC、5caC)されていてもよい(Shinsuke Ito, et al., Science, 2011, 333:1300-1303)。上述の三種の化合物と5-TC
5fGA-3配列中の5fC塩基との反応を用いることで、5fC塩基の化学的性質が変化した。これはTaqαIの基質配列を認識する能力に変化があったもの考えられる。ここでは、化合物AIと5fC塩基との反応産物のみを例として用いる説明する。他の上記活性メチレン化合物についてはここではこれ以上説明しない。
【0230】
使用した二重鎖DNAはオリゴ番号22番である。そのフォワード鎖は5-TC
5fGA-3配列を有する。また逆方向の鎖には5fC塩基が含まれていない。参照配列はオリゴ番号23番である。5fC塩基を全く有していない点を除いて、その配列はオリゴ番号22番と一致する。化合物AIをオリゴ番号22番と反応させた。クリックケミストリーによりビオチンをオリゴ番号22番と共役させた。また完全に標識された二重鎖のオリゴ番号22番の反応産物の配列を濃縮後にDTTで溶出した。その後、参照配列のオリゴ番号23番、反応前のオリゴ番号22番、及び反応させ溶出したオリゴ番号22番の配列を同時にTaqαIで1時間消化した。また4%アガロースゲルにロードして、配列が完全に消化されているかどうかを電気泳動で判定した。用いたオリゴ番号22番又はオリゴ番号23番の配列の中央に5-TC
5fGA-3又は5-TCGA-3が位置しているので、消化の前の配列の大きさは70 bpであり、完全に消化された産物の大きさは35 bpである。
【0231】
図13に示すように、対照群において、5-TCGA-3(オリゴ番号23番)又は5-TC
5fGA-3(オリゴ番号22番)の二重鎖を含有する試料は完全に消化される。一方で、実験群において、5-TC
5fGA-3(オリゴ番号22番)と化合物AIとの反応及び濃縮により得られる試料は消化されない。これは反応産物がTaqαIによる基質の認識に影響を与えることを示す。
【0232】
[実施例8]
【0233】
化合物AIに基づく「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」によるマウス胚性幹細胞ゲノムDNA中の5fC塩基の検出
【0234】
生物学的試料(例えばゲノムDNA)において本発明の方法により5-ホルミルシトシンの分布情報と一塩基の分解能の配列情報とを検出できることを確認するために、ここで化合物AIに基づく「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」を用いて実証する。特に、上記実施例3及び4をマウス胚性幹細胞(mESC)のゲノムDNA試料に対して応用する。
【0235】
事前に処理した野生型mESCのゲノムDNAを化合物AIで24時間反応させた。DNAを回収し、クリック反応でビオチン基と共役させた。標識を有するDNA配列をストレプトアビジン磁気ビーズで分離し濃縮した。DNA断片であったその中に5fC塩基が分布しているDNA断片を得た。得られた試料を用いて第二世代の配列決定用ライブラリーの構築し、PCR増幅を行い、その後、ハイスループットの配列決定を行った。配列決定の結果を元のゲノム配列と比較した。これにより、mESCゲノム中の5fC塩基の分布情報及び5fC塩基の一塩基の分解能の配列情報を観察できる。
【0236】
図14に示すように、ゲノムDNAの3つの試料に対して順に配列決定を行ったが、その中には未反応の試料、反応後濃縮していない試料、及び濃縮した試料が含まれている。未反応の試料及び濃縮前の試料において有意な濃縮分布は見られなかったと考えられる。一方で有意な濃縮ピークが濃縮した試料の5fCの分布領域で観察された。結果から化合物AIに基づく5fC塩基含有DNA配列の濃縮が可能であることが分かった。またハイスループット配列決定データと組み合わせることで、ゲノム上の5fCの分布情報の分析に用いることができると分かった。
【0237】
5fC塩基は化合物AIとの反応後にはPCR増幅においてシトシンTとして読み出されることから、ハイスループットの配列決定により解読された配列中のC-T不整合部位の検出を通じて、一塩基の分解能における5-ホルミルシトシンの位置を検出することができる。
図15は濃縮されたピークにおける代表的なC-T不整合位置を示す。各配列は一つのC-T不整合位置を有する濃縮ピークとして読み出されると考えられる。またゲノムと比較することで4個のC-T不整合位置が得られたと考えられる。ここで、3個の丸で囲んだ不整合位置はCpG対(dyad)の箇所に存在していたと考えられる。このため、「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」により実際の生物学的試料中の5fCの位置を一塩基の分解能で検出することができる。
【0238】
上記「5fC環保護による亜硫酸水素ナトリウム配列決定法」と「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」との二つの方法を組み合わせることで、配列決定による解読における一塩基の分解能による全てのシトシンの解読情報を
図16に示す表でまとめることができる。通常の配列決定では、5種の全てのシトシンはシトシンCとして読み出される;通常の亜硫酸水素ナトリウム配列決定では、5-メチルシトシン及び5-ヒドロキシメチルシトシンはCとして読み出され、一方でシトシン、5-ホルミルシトシン及び5-カルボキシルシトシンはチミンTとして読み出される。本発明によって提供される「5fC環保護による亜硫酸水素ナトリウム配列決定法」では、5fC塩基は保護されて、亜硫酸水素ナトリウム配列決定では、Tとして読み出される。このため、通常の亜硫酸水素ナトリウム配列決定法の結果と比較することで5fCの位置が特定できる。さらに、本発明の「5fC環形成による促進型の亜硫酸水素ナトリウム配列決定法」では、直接PCR増幅と配列決定を通じて、5fC塩基がチミンTとして読み出される。通常の配列決定の結果と比較することで、C-T不整合位置が一塩基の分解能の5fCの配列位置となる。