特許第6243013号(P6243013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許62430135−ホルミルシトシン特異的な化学標識法及びその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243013
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】5−ホルミルシトシン特異的な化学標識法及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C07H 21/04 20060101AFI20171127BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20171127BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20171127BHJP
   C07D 471/04 20060101ALI20171127BHJP
   G01N 33/58 20060101ALI20171127BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   C07H21/04 BCSP
   C12Q1/68 AZNA
   C12N15/00 A
   C07D471/04 118Z
   G01N33/58 A
   G01N33/50 P
【請求項の数】20
【全頁数】43
(21)【出願番号】特願2016-516881(P2016-516881)
(86)(22)【出願日】2014年9月26日
(65)【公表番号】特表2017-501108(P2017-501108A)
(43)【公表日】2017年1月12日
(86)【国際出願番号】CN2014087479
(87)【国際公開番号】WO2015043493
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2016年5月24日
(31)【優先権主張番号】201310452515.0
(32)【優先日】2013年9月27日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】500212103
【氏名又は名称】北京大学
【氏名又は名称原語表記】PEKING UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】イー チェンチー
(72)【発明者】
【氏名】シャー ボー
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ アンクン
【審査官】 中村 勇介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−263584(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/138644(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/017853(WO,A1)
【文献】 Michael J.Booth,Quantitative Sequencing of 5-Methylcytosine and 5-Hydroxymethylcytosine at Single-Base Resolution,SCIENCE,2012年 5月18日,Vol.336,pp.934-937
【文献】 Toni Pfaffeneder,The Discovery of 5-Formylcytosine in Embryonic Stem Cell DNA.,Angew. Chem,2011年,Vol.123,p.7146-7150
【文献】 Eun-Ang Raiber,Genome-wide distribution of 5-formylcytosine in embryonic stem cells is associated with transcription and depends on thymine DNA glycosylase,Genome Biology,2012年,Vol.13,p.1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 1/00−99/00
C12Q 1/00− 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体を特異的に化学標識する方法であって、
側鎖活性基を有する活性メチレン化合物R1-CH2-R2を5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体と反応させる工程を有し、ここで
脱水素縮合反応が、前記側鎖活性基を有する活性メチレン化合物と、前記5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体におけるシトシンの5-ホルミル基との間に生じ、
また同時に前記活性メチレン化合物の側鎖活性基と前記5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体におけるシトシンの4-アミノ基との間で分子内反応が起きることで、下記反応式に示されるように環が閉じられ:
【化1】
ここで、Rは、水素、ヒドロカルビル、-OH、-NH2、-CHO及び/又は-COOHを有するヒドロカルビル、リボシル又はデオキシリボシル、5'-若しくは3'-リン酸修飾リボシル又はデオキシリボシル、又は、リボ核酸又はデオキシリボ核酸が5-ホルミルシトシンの1位に対してグルコシド結合にて結合されることで形成される低分子化合物又は重合高分子化合物の5-ホルミルシトシン部分を除く構造であり;
前記ヒドロカルビルは、C1-C30の直鎖状若しくは分枝状アルキル、C1-C30の直鎖状若しくは分枝状アルケニル、C1-C30の直鎖状若しくは分枝状アルキニルであり;
は、シアノ、ニトロ、ホルミル、カルボニル化合物
【化2】
、並びにカルボン酸及びその誘導体である
【化3】

【化4】
、及び
【化5】
ら選択される電子吸引基であり;
はシアノ、ホルミル、カルボニル化合物
【化6】
、並びにカルボン酸及びその誘導体である
【化7】

【化8】
、及び
【化9】
ら選択される電子吸引基であり;
は、置換されていないC1-C30の直鎖状若しくは分枝状アルキル、アルケニル、又はアルキニル、又は-OH、-NH2、-CHO、-COOH及び/若しくはアジド又はビオチンで置換されたC1-C30の直鎖状若しくは分枝状アルキル、アルケニル、又はアルキニルであり;また
及びRは互いに独立しているか、または互いに結合することで直接的に環を形成している、またはC、N又はOの原子を介して結合することで間接的に環を形成している、
方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
Rは-CH3、-CH2CH3、-CHO、-CH2CHO、又は
【化10】
である、
方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法であって、
前記側鎖活性基を含有する活性メチレン化合物は式iに示す化合物iであり、
前記化合物iは5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体と一ステップで反応することで、式Iに示す化合物Iを生成し:
【化11】
ここで、R及びRはそれぞれ請求項1で述べたとおりであり;
は、ヒドロカルビル、又は-OH、-NH2、-CHO、及び/又は-COOHで置換されたヒドロカルビルを表し;
前記ヒドロカルビルはC1-C30の直鎖状若しくは分枝状アルキル、アルケニル、又はアルキニルである、
方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、
化合物iはメチルアセトアセテート、エチルアセトアセテート、ジエチルマロネート又はエチル6-アジド-3-オキシヘキサノエートである、
方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の方法であって、
前記側鎖活性基を有する活性メチレン化合物は式iiで表される化合物iiであり、
前記化合物iiは一ステップで5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体と反応して式IIで示される化合物IIを生成し:
【化12】
ここで、R及びRはそれぞれ請求項1で述べたとおりである、
方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、
前記化合物iiはマロノニトリルである、
方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の方法であって、
前記側鎖活性基を含有する活性メチレン化合物は式iiiで表される化合物iiiであり、
前記化合物iiiは5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体と一ステップで反応することで、式IIIで表される化合物IIIを生成する:
【化13】
ここで、Rはそれぞれ請求項1で述べたとおりであり;R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素、-OH、-NH2、-CHO、-COOH、-CN、-NO2、アジド又はヒドロカルビル、又は-OH、-O-、-NH2、-NH-、-CHO、-COOH、アジド及び/若しくはビオチンを有するヒドロカルビルであり;
前記ヒドロカルビルはC1-C30の直鎖状若しくは分枝状アルキル、アルケニル、又はアルキニルである、
または、
前記側鎖活性基をする活性メチレン化合物は、式ivに示される化合物であり、
【化14】
式ivにおいて、XはC1-C5の直鎖状若しくは分枝状のヒドロカルビル、又はC1-C5の直鎖状若しくは分枝状のヒドロカルビルであって、エーテル結合-O-及び/又はイミノ基-NH-を有するものを示し;
nは、1よりも大きい、若しくは1と等しい正の整数であり;また
Yはビオチン、アジド、C1-C20のアルキニルである、
方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、
前記化合物iiiは1,3-インダンジオン;若しくは式ivにおいて、Xが-CH2-であり、nが1から9の間の正の整数であり、またYがビオチン、アジド又はエチニルである、
方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、
式ivに示される化合物は、5-(2-アジドエチル)-1,3-インダンジオンである、
方法。
【請求項10】
式ivで示される化合物:
【化15】
ここで、XはC1-C5の直鎖状若しくは分枝状のヒドロカルビル、又はC1-C5の直鎖状若しくは分枝状のヒドロカルビルであって、エーテル結合-O-及び/又はイミノ基-NH-を有するものを示し;
nは、1よりも大きい、若しくは1と等しい正の整数であり;また
Yはビオチン、アジド、又はC1-C20のアルキニルである。
【請求項11】
式ivにおいて、Xが-CH2-、-O-CH2-CH2-、-CH2-O-CH2-、又は-CH2-CH2-O-である、
請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
式ivにおいて、Yがビオチン、アジド、エチニル又はシクロオクチニルである、
請求項10に記載の化合物。
【請求項13】
式ivにおいて、Xが-CH2-であり、nが1から9の間の正の整数であり、またYがビオチン、アジド又はエチニルである、
請求項10に記載の化合物。
【請求項14】
式ivに示される化合物は、5-(2-アジドエチル)-1,3-インダンジオンである、
請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
式I、II又はIIIで表される化合物から選択される化合物:
【化16】

【化17】
、又は
【化18】
ここで、R及びRはそれぞれ請求項1で定義したとおりであり;またR、R、R及びRは請求項7で定義したとおりである。
【請求項16】
請求項15に記載の化合物であって、下記式から選ばれる化合物:
【化19】

【化20】

【化21】

【化22】
、及び
【化23】
【請求項17】
5-ホルミルシトシン塩基を検出するためのキットであって、
請求項1に定義された前記側鎖活性基を有する活性メチレン化合物R1-CH2-R2及び
対応する反応溶液を備える、
キット。
【請求項18】
請求項17に記載のキットであって、
前記側鎖活性基を有する活性メチレン化合物R1-CH2-R2は、請求項3に定義された前記化合物i、請求項5に定義された前記化合物ii、請求項7に定義された前記化合物iii又はivである、
キット。
【請求項19】
請求項17又は18に記載のキットであって、

以下の4つのモジュールからなるキット1:
モジュール1:5fC反応モジュールであって、エチル6-アジド-3-オキシヘキサノエート試薬、及び対応する反応溶液を備える;
モジュール2:選択的濃縮モジュールであって、ビオチンに特異的に結合する磁気ビーズ、選別用緩衝液、及びアジドに対して選択的に反応しビオチン修飾する試薬を備える;
モジュール3:亜硫酸水素ナトリウム処理モジュールであって、亜硫酸水素ナトリウム処理試薬及び関連する回収材料を備える;並びに
モジュール4:特定PCR増幅モジュールは、5fCの反応産物を選別するための特定のDNAポリメラーゼ及び反応系を備える;

以下の3つのモジュールからなるキット2:
モジュール1:5fC反応モジュールであって、化合物AI(5-(2-アジドエチル)-1,3-インダンジオン)の試薬、及び対応する反応溶液を備える;
モジュール2:選択的濃縮モジュールであって、ビオチンに特異的に結合する磁気ビーズ、選別用緩衝液、及びアジドに対して選択的に反応しビオチン修飾する試薬を備える;並びに
モジュール3:特定PCR増幅モジュールであって、5fCの反応産物を選別するための特定のDNAポリメラーゼ及び反応系を備える;

以下の3つのモジュールからなるキット3:
モジュール1:5-ホルミルシトシンの免疫沈降濃縮モジュールであって、DNA免疫沈降試験のための5fC抗体及び対応する反応用緩衝液を備える。
モジュール2:5fC反応モジュールであって、マロノニトリル又は1,3-インダンジオンと、対応する反応溶液を備える;並びに
モジュール3:特定PCR増幅モジュールであって、5fCの反応産物を選別するための特定のDNAポリメラーゼ及び反応系を備える;並びに

以下の2つのモジュールからなるキット4:
モジュール1:5fC反応モジュールであって、エチル6-アジド-3-オキシヘキサノエート、又は5-(2-アジドエチル)-1,3-インダンジオン、及び対応する反応溶液を備える;並びに
モジュール2:選択的濃縮モジュールであって、ビオチンに特異的に結合する磁気ビーズ、選別用緩衝液、及びアジドに対して選択的に反応しビオチン修飾する試薬を備える;

から選択される、
キット。
【請求項20】
請求項15又は16のいずれかに記載の化合物の、以下の用途における使用:
1)核酸配列決定;
2)核酸分子における5-ホルミルシトシンの配列分布情報及び/又は一塩基の分解能を持つ配列情報の配列分析;
3)5-ホルミルシトシンの含有量の蛍光分光測定分析;
4)5-ホルミルシトシンのin vivo又はin vitro撮像技術;
5)核酸配列に対する特異的な標識;
6)請求項1に定義される5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体の含有量の測定;
7)直接又は間接に行う、5-ホルミルシトシン塩基を有する分子の濃縮;
8)核酸−タンパク質相互作用及び核酸−核酸相互作用の試験;又は
9)5-ホルミルシトシンに基づく分子診断。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学標識と、エピジェネティックな修飾塩基を検出する方法、これに関連する化合物の化学合成、及びこれに関連する反応及び化合物の利用とに関し、特に、5−ホルミルシトシン又はその1−置換誘導体に特異的な標識方法と、該方法に関連する化合物の、標識、検出、配列決定(シーケンシング)、撮像、診断及び治療並びにその他といった、関連する利用に関する。
【背景技術】
【0002】
エピジェネティクスの分野において、DNAメチル化及び脱メチル化を調べることは最も重要な問題である。遺伝子制御領域における過剰なメチル化は下流の遺伝子の不活性化をもたらす一方で、脱メチル化の過程では下流の遺伝子の発現の活性化を伴うことから、これらは対応する生物学的な過程に関連している。哺乳類では、DNA脱メチル化の過程で、TEN(Ten-Eleven Translocation)ファミリータンパク質の媒介する5−メトキシシトシン(5mC)の酸化が行われることで、徐々に5−ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)、5−ホルミルシトシン(5fC)及び5−カルボキシルシトシン(5caC)が生成される。またDNA脱メチル化の過程が塩基除去修復経路を通じて行われる。(Mamta Tahiliani, et al., Science, 2009, 324:931-935; Skirmantas Kriaucionis and Nathaniel Heintz, Science, 2009, 324:929-930; Toni Pfaffeneder, et al., Angewandte Chemie International Edition, 2011, 123: 7146-7150; Shinsuke Ito, et al., Science, 2011, 333:1300-1303; Yufei He, et al., Science, 2011, 333:1303-1307.)
【0003】
このようなエピジェネティックな基盤の生物学的機能を研究する上で重要な前提となるのは、これがゲノム中で局在する領域及びこれの特定配列情報を知ることである。亜硫酸水素塩配列決定法はDNAメチル化の分析法としてよく知られるが、5mCの配列情報を特定する際の分解能は一塩基である。通常の以上のシトシン(C)は亜硫酸水素ナトリウム処理によりウラシルに変換され、PCR増幅と配列決定によってTとして解読される。しかしながら、5mCはPCR増幅と配列決定の過程においてCとして解読される。これは電子供与性の働きをする5−メチルの存在により、亜硫酸水素ナトリウム処理の工程においても変換が生じにくいことによる。
【0004】
5hmC、5fC及び5caCは修飾塩基としてゲノム中で安定的に存在し得るものであり、特定の生物学的機能を有する場合がある。このため、これら3つのシトシン誘導体のゲノム中での局在が、これらの機能を探索する上で、非常に重要な情報であることが確認されている。しかしながら、5hmC、5fC及び5caCが存在することで重亜硫酸塩による配列決定は複雑になる。通常の重亜硫酸塩による配列決定では、5hmCはCとして解読される。5fC及び5caCは共にTとして解読される(Michael J.Booth, et al., Science, 2012, 336: 934-937.)。したがって、新しい配列決定法の開発することにより、これらの修飾塩基の位置を一塩基単位で特定することが必要とされている。5hmCに対する検出技術及び配列決定法の開発(Chunxiao Song, et al., Cell, 2011, 153:678-691; Adam B. Robertson, et al., Nucleic Acids Research, 2011, 39:e55; William A. Pastor, et al., Nature, 2011, 473:394-397; Chunxiao Song, et al., Nature Methods, 2012, 9:75-77; Michael J. Booth, et al., Science, 2012, 336:934-937; Miao Yu, et al., Cell, 2012, 149:1368-1380.)により、5hmCの生物学的機能はすでに、ある程度知られている。5fC及び5caCに対応する検出方法が探索されており(Eun-Ang Raiber, et al., Genome Biology, 2012, 13:R69; Li Shen, et al., Cell, 2013, 153:692-706; Chunxiao Song, et al., Cell, 2013, 153:678-691; Michael J. Booth, et al., Nature Chemistry, 2014, 6:435-440.)、高いスループットと一塩基単位の検出精度を実現できているものの、配列上の所在を低コストで検出するには成熟しているとは言えない。このため、5fC及び5caCの研究は比較的停滞している。
【0005】
近年、5-ホルミルシトシンに関連する化学反応の研究は主として、シトシン環上の5-ホルミル基に焦点が当てられている。研究者は5fCのホルミル基における化学反応を設計する際、ホルミル基がヒドロキシルアミン化合物のアミノと反応することでオキシムを合成し得ることに基づいて設計する(Shinsuke Ito, et al., Science, 2011, 333:1300-1303; Eun-Ang Raiber, et al., Genome Biology, 2012, 13:R69; Chunxiao Song, et al., Cell, 2013, 153:678-691.)。またこの反応はゲノム中の5fCを検出するために用いられる。蛍光基による5fCのラベル法はホルミルとアミノとの間の反応を用いて開発された(Jianlin Hu, et al., Chemistry-A European Journal, 2013, 19:2013-5840.)。ホルミル基がNaHH4で還元されることでヒドロキシメチルになる、このため5fCは還元されて5hmC部位となる。また5fC部位は重亜硫酸塩による配列決定工程においてCとして解読される。このため、5fC塩基の位置が一定の領域内で特定できる(Chunxiao Song, et al., Cell, 2013, 153:678-691; Michael J.Booth, et al., Nature Chemistry, 2014, 6:2014-440.)。これらの方法は初期の5fC検出方法であり、またこれらにより5fC塩基の研究が行われた。しかしながら、これらの方法ではバックグラウンドノイズが高く、費用が嵩み、操作が複雑であり、また一塩基の分解能で配列決定することが困難であるといった欠点に悩まされていた。このため、5fCを標識して検出するための新しい方法であって、選択性に優れ、効率の良い方法の開発が必要とされていた。またエピジェネティックな脱メチル化の研究の更なる推進に役立つ方法の開発が必要とされていた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は先行技術の有する欠点を克服するために、5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体に特異的な化学標識法であって、以下の工程を有するものに係る:
【0007】
活性メチレン化合物であって、側鎖活性基を有するものを5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体と反応させる。ここで脱水素縮合反応が、活性メチレン化合物であって側鎖活性基を有するものと、5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体におけるシトシンの5-ホルミル基との間に生じる。また同時に活性メチレン化合物の側鎖活性基と5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体におけるシトシンの4-アミノ基との間で分子内反応が起きることで、閉環構造となる。
【0008】
本発明の内容を明確に表すため、5-ホルミルシトシン、5-ホルミルシトシンの1-水素置換誘導体、5-ホルミルシトシンデオキシリボヌクレオシド及び5-ホルミルシトシンリボヌクレオシドの構造式を以下に示す。
【0009】
【化1】
【0010】
記述を簡単にするため、特に言及しない限り、5-ホルミルシトシン又は5fCの用語は5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体に関連する全てを表すものとする。この場合、5-ホルミルシトシンの1-置換誘導体は低分子化合物又は重合高分子化合物であって、ヌクレオシド若しくはデオキシヌクレオシド、ヌクレオチド又はデオキシヌクレオチド、リボ核酸(RNA、単鎖若しくは二重鎖)又はデオキシリボ核酸(DNA、単鎖若しくは二重鎖)と、5-ホルミルシトシン(対応する置換基Rは分子中の5-ホルミルシトシン部分以外の構造を表す)の1位との間でグルコシド結合にて結合させることで合成されるものでもよい。そのような結合の結果物としては、5-ホルミルシトシンリボヌクレオシド又は5-ホルミルシトシンデオキシリボヌクレオシド、5-ホルミルシトシンリボヌクレオチド又は5-ホルミルシトシンデオキシリボヌクレオチド、5-ホルミルシトシン塩基含有RNA又は5-ホルミルシトシン塩基含有DNAがある。上記リボシル−又はデオキシリボシル−含有誘導体に加えて、5-ホルミルシトシンの1-置換誘導体に係る置換基Rとしては、ヒドロカルビル、又は-OH、-NH2、-CHO及び/又は-COOHといった官能基で置換されたヒドロカルビル等がある。ヒドロカルビルはアルキル、シクロアルキル、アルケニル、又はアルキニル、好ましくはC1-C30の直鎖状若しくは分枝状アルキル、C1-C30の直鎖状若しくは分枝状アルケニル、C1-C30の直鎖状若しくは分枝状アルキニル、より好ましくはC1-C10の直鎖状若しくは分枝状アルキル、C1-C10の直鎖状若しくは分枝状アルケニル、C1-C10の直鎖状若しくは分枝状アルキニルである。置換基Rは例えば、-CH3、-CH2CH3、-CHO、-CH2CHO、
【化2】
等である。
【0011】
下記式は本発明の方法における一般的な化学反応式である。
【0012】
【化3】
【0013】
上記一般的な反応式において:
【0014】
反応原料の一つは上記5-ホルミルシトシン又は5-ホルミルシトシンの1-置換誘導体である。5-ホルミルシトシンの1-置換誘導体は低分子化合物又は重合高分子化合物であって、ヌクレオシド若しくはデオキシヌクレオシド、ヌクレオチド又はデオキシヌクレオチド、リボ核酸(RNA、単鎖若しくは二重鎖)又はデオキシリボ核酸(DNA、単鎖若しくは二重鎖)と、5-ホルミルシトシン(対応する置換基Rは分子中の5-ホルミルシトシン部分以外の構造を表す)の1位との間でグルコシド結合にて結合させることで合成されるものでもよい。そのような結合の結果物としては、各々5-ホルミルシトシンリボヌクレオシド又は5-ホルミルシトシンデオキシリボヌクレオシド、5-ホルミルシトシンリボヌクレオチド又は5-ホルミルシトシンデオキシリボヌクレオチド、5-ホルミルシトシン塩基含有RNA又は5-ホルミルシトシン塩基含有DNAがある。さらに5-ホルミルシトシンの1-置換誘導体に係る置換基Rとしては、水素、ヒドロカルビル、又は-OH、-NH2、-CHO及び/又は-COOHといった官能置換基で置換されたヒドロカルビル等がある。ヒドロカルビルはアルキル、シクロアルキル、アルケニル、又はアルキニル、好ましくはC1-C30の直鎖状若しくは分枝状アルキル、C1-C30の直鎖状若しくは分枝状アルケニル、C1-C30の直鎖状若しくは分枝状アルキニル、より好ましくはC1-C10の直鎖状若しくは分枝状アルキル、C1-C10の直鎖状若しくは分枝状アルケニル、C1-C10の直鎖状若しくは分枝状アルキニルである。置換基Rは例えば、-CH3、-CH2CH3、-CHO、-CH2CHO、
【化4】
等である。
【0015】
産物中の置換基Rは影響を受けず、その選択肢は原料のものと同一である。
【0016】
側鎖活性基を有する活性メチレン化合物において、Rはあらゆる電子吸引基から選択することができる。Rとしては、好ましくはシアノ、ニトロ、ホルミル、カルボニル化合物
【化5】
、カルボン酸及びその誘導体、例えば
【化6】

【化7】
、及び
【化8】
、等があり;また最も好ましくは、Rはシアノ、ホルミル、カルボニル化合物
【化9】
及びエステル化合物
【化10】
であるがこれらに限定されない。
【0017】
はあらゆる電子吸引基から選択することができる。Rとしては、好ましくはシアノ、ホルミル、カルボニル化合物
【化11】
、カルボン酸及びその誘導体、例えば
【化12】

【化13】
、及び
【化14】
、等があり;また最も好ましくは、Rはシアノ、ホルミル、カルボニル化合物
【化15】
及びエステル化合物
【化16】
であるがこれらに限定されない。
【0018】
上記Rとしては、ヒドロカルビル、又は-OH、-NH2、-CHO、-COOH及び/又はアジド、ビオチン等といった官能置換基で置換されたヒドロカルビル等がある。ヒドロカルビルはC1-C30の直鎖状若しくは分枝状アルキル、アルケニル、又はアルキニルが好ましく、最も好ましくはC1-C30の直鎖状アルキルであるが、これらに限定されない。
【0019】
上記の側鎖基R及びRは互いに結合することで環を直接形成し得る、又はC、N、O等の原子を介して結合することで間接的に環を形成し得る。
【0020】
本発明に係る標識方法及び関連化合物の設計では、5fC塩基シトシン環の5-ホルミル基及び4-アミノ基の双方を考慮する。またこれらを両方考慮して新たな5fC標識方法が開発された。活性メチレン及びホルミル基との間の縮合反応と、その後の、活性メチレン化合物の活性側鎖基R(ホルミル、カルボニル、シアノ、エステル結合等)と4-アミノ基との間の分子内反応によって環が閉じられる。係る技術思想に基づき、5-ホルミルシトシンが選択的に反応する、本発明のラベル法が開発された。また一連の関連する方法及び化合物の利用が開発された。これにより、核酸化学研究及びエピジェネティクス研究における効果的な分析手段を幅広く提供できる。
【0021】
本発明の一態様において、側鎖活性基を含有する活性メチレン化合物は下記一般式に示す化合物iである。化合物iは5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体と一ステップで反応することで下記一般式に示す化合物Iを生成する:
【0022】
【化17】
【0023】
上記化学反応式において:
【0024】
反応原料の一つは5-ホルミルシトシン又は5-ホルミルシトシンの1-置換誘導体であり、また置換された誘導体又は置換基Rの選択肢は上述の一般式におけるそれと同一であり;生成物において置換基Rは影響を受けず、その選択肢は反応原料中のそれと同一である。
【0025】
化合物iの活性側鎖基Rとして上述のあらゆる電子吸引基が選択できる。
【0026】
は、ヒドロカルビル、又は-OH、-NH2、-CHO、及び/又は-COOH等といった官能置換基で置換されたヒドロカルビル等を表す。ヒドロカルビルはC1-C30の直鎖状若しくは分枝状アルキル、アルケニル、又はアルキニルが好ましく、最も好ましくはC1-C10の直鎖状アルキルであるが、これらに限定されない。
【0027】
いくつかの態様において、原料として化合物i及び5-ホルミルシトシンを用いた式Iの化合物の合成の反応条件として、アルカリ有機溶液内、好ましくは炭酸カリウム又は水酸化ナトリウムのメタノール溶液内でもよく、反応温度は室温から50℃、好ましくは37℃でもよく;また反応時間は12-48時間、好ましくは24時間でもよい。反応収率は95%又はそれより大きい。反応においては、アルカリ条件下で、Rとカルボニル基との間の活性メチレンが5fC塩基の5-ホルミルの炭素原子に対して求核攻撃を行うことで、脱水縮合によりオレフィン結合が形成され;その後分子内反応が起きるが、ここでシトシン環内の4-アミノ基が化合物iのエステル結合を攻撃することで、側鎖としてRを有するアルコール化合物が除去されてアミドが生成され、環が形成される。
【0028】
一態様において、Rはアセチルであり、またRはメチル又はエチルである。すなわち化合物iはメチルアセトアセテート又はエチルアセトアセテートである。他の一態様において、Rはエトキシルカルボニルであり、またRはエチルである。すなわち化合物iはジエチルマロネートである。また他の一態様においてRはアジドブタノイルであり、またRはエチルである。すなわち化合物iはエチル6-アジド3-オキシヘキサノエートである。
【0029】
上記態様における化合物はいずれも「5fC環保護による亜硫酸水素ナトリウム配列決定法」において利用できることが示されており、ヌクレオチド配列決定において一塩基の分解能で5fC塩基の位置を特定できる
【0030】
本発明の第二の形態において、側鎖活性基を有する上記活性メチレン化合物は下記一般式iiで表される化合物iiである。化合物iiは下記一般式に表されるように一ステップで5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体と反応する:
【0031】
【化18】
【0032】
上記化学反応式において:
【0033】
反応原料の一つは5-ホルミルシトシン又は5-ホルミルシトシンの1-置換誘導体であり、また置換された誘導体又は置換基Rの選択肢は上述の一般式におけるそれと同一であり;生成物において置換基Rは影響を受けず、その選択肢は反応原料中のそれと同一である。
【0034】
はあらゆる電子吸引基から選択することができる。またその選択肢は上述のとおりである。
【0035】
いくつかの態様において、原料として化合物ii及び5-ホルミルシトシンを用いた式IIの化合物の合成の反応条件として、酸性から中性の水溶液内でもよく、好ましくは弱酸性水溶液内でもよく、最も好ましくはpH 5-7の弱酸性水溶液内でもよく;反応温度は室温から50℃、好ましくは37℃でもよく;また反応時間は12-48時間、好ましくは24時間でもよい。反応収率は98%又はそれより大きい。反応においては、Rとシアノ基との間の活性メチレンが5fC塩基の5-ホルミルに対して攻撃を行うことで、脱水縮合によりオレフィン結合が形成され;その後分子内反応が起きるが、ここでシトシン環内の4-アミノ基が化合物iiのシアノ基の炭素原子を攻撃することで、付加反応を通じて、環が形成される。
【0036】
一態様において、Rもシアノ基であり、すなわち化合物iiはメラノニトリルである。
【0037】
係る特定の態様において、メラノニトリル及び5fCの反応生成物はPCRにおいてチミンTとして読まれるので、「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」として利用することで、ゲノム上の5fC塩基の位置を直接特定できる。
【0038】
本発明の第三の形態において、側鎖活性基を含有する上記活性メチレン化合物は下記一般式iiiで表される化合物iiiである。化合物iiiは5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体と一ステップで反応することで、下記一般式IIIで表される化合物IIIを生成する:
【0039】
【化19】
【0040】
上記化学反応式において:
【0041】
反応原料の一つは5-ホルミルシトシン又は5-ホルミルシトシンの1-置換誘導体であり、また置換された誘導体又は置換基Rの選択肢は上述の一般式におけるそれと同一であり;生成物において置換基Rは影響を受けず、その選択肢は反応原料中のそれと同一である。
【0042】
、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子H又はヒドロカルビル、若しくは-OH、-O-、-NH2、-NH-、-CHO、-COOH及び/又はアジド、ビオチン等といった官能置換基を有するヒドロカルビル等から選択してもよい。R、R、R及びRはそれぞれ独立に-OH、-NH2、-CHO、-COOH、-CN、-NO2、アジド等から選択してもよい。ヒドロカルビルはC1-C30の直鎖状若しくは分枝状アルキル、アルケニル、又はアルキニルが好ましく、最も好ましくはC1-C10の直鎖状アルキルである。
【0043】
いくつかの態様において、原料として化合物iii及び5-ホルミルシトシンを用いた式IIIの化合物の合成の反応条件として、アルカリ有機溶液内、好ましくは炭酸カリウム又は水酸化ナトリウムのメタノール溶液内でもよく;反応温度は室温から50℃、好ましくは37℃でもよく;また反応時間は12-48時間、好ましくは24時間でもよい。反応条件として、また、酸性から中性の水溶液内でもよく、好ましくは弱酸性水溶液内でもよく、最も好ましくはpH 5-7の弱酸性水溶液内でもよく;反応温度は室温から50℃、好ましくは37℃でもよく;また反応時間は12-48時間、好ましくは24時間でもよい。反応収率は95%又はそれより大きい。反応においては、化合物iiiの五員環中の2つのジカルボニル基の間の活性メチレンがが脱水により5fC塩基の5-ホルミルと縮合し;その後分子内反応が起きるが、ここでシトシン環内のアミノ基が化合物iiiのカルボニル基を攻撃することで脱水縮合及び環形成によって共役された四環系化合物IIIが形成される
【0044】
一態様において、化合物iiiは1,3-インダンジオンである。
【0045】
好ましい例において、上記原料化合物iiiは下記一般式ivで表される化合物iiiの誘導体ivでもよい。
【0046】
【化20】
【0047】
式ivにおいて:
【0048】
Xはリンカー配列を成しており、官能基Yを提供するが、ここで:
【0049】
Xはリンカー配列を構築するための基本単位であり、XはC1-C5の直鎖状又は分枝状のヒドロカルビル、又はC1-C5の直鎖状又は分枝状のヒドロカルビルであって、エーテル結合 -O-及び/又はイミノ基 -NH-を有するものでもよく;好ましくは、Xは-CH2-、-O-CH2-CH2-、-CH2-O-CH2-、又は-CH2-CH2-O-でもよい。このように構成されたリンカー配列(X)は、上記基本構造単位Xを複数種類、任意の位置において、任意の順序で組み合わせたものでもよい。
【0050】
nは、1よりも大きい、又は1と等しい正の整数でもよい;
【0051】
Yは特別な官能基であり、ビオチン、アジド、アルキニル又はアルキニル誘導体から選択され、ここで、アルキニルはC2-C20のアルキニルが好ましく、またアルキニル誘導体は好ましくはC2-C20のあらゆるアルキニル誘導体であり;またYはより好ましくはビオチン、アジド、エチニル又はシクロオクチニルである。
【0052】
一態様において、Xは-CH2-でもよく、nは1から9の間の正の整数でもよく、またYはアジドでもよい。
【0053】
一態様において、化合物ivは5-(2-アジドエチル)-1,3-インダンジオンであり、短縮してアジドインダンジオン(AI)とも呼ばれ、Xはメチレン-CH2-であって、連続して連結された2個の単位(すなわちn=2)からなり、Yはアジドである。
【0054】
上記式iii又は式ivの化合物及び5fC塩基の反応生成物はPCRにおいてチミンTとして読まれるので、ゲノム中の5fC塩基の位置を直接検出するために用いることができる。
【0055】
本発明の他の目的は以下の新しい化合物であって、5-ホルミルシトシン特異的な上述の標識方法を提供することである:
【0056】
I.化合物、一般式が式Iで表されるもの:
【0057】
【化21】
【0058】
式Iにおいて、Rを除く構造を塩基類似体という。Rが係る塩基類似体の1位に結合している場合、リボシル又はデオキシリボシルでもよく、また5'-若しくは3'-リン酸修飾リボシル又はデオキシリボシルでもよい。また式Iの塩基類似体を除く構造は低分子化合物又は重合性高分子化合物でもよく、リボ核酸(RNA、単鎖若しくは二重鎖)又はデオキシリボ核酸(DNA、単鎖若しくは二重鎖)と、式Iの塩基類似体の1位との間でグルコシド結合にて結合させることで合成されるものでもよい。Rが水素、ヒドロカルビル、又は-OH、-NH2、-CHO及び/又は-COOHといった官能基で置換されたヒドロカルビル等を表してもよく;RはC1-C30の直鎖状若しくは分枝状アルキル、アルケニル、若しくはアルキニル、又は-OH、-NH2、-CHO及び/又は-COOHといった置換基を有するC1-C30の直鎖状若しくは分枝状アルキル、アルケニル、若しくはアルキニル等でもよく;最も好ましくは、Rは-CH3、-CH2CH3、-CHO、-CH2CHO、
【化22】
等である。
【0059】
はあらゆる電子吸引基から選択することができる。またRとしては、好ましくはシアノ、ホルミル、カルボニル化合物
【化23】
、カルボン酸及びその誘導体、例えば
【化24】

【化25】
、及び
【化26】
、等があり;また最も好ましくは、Rはシアノ、ホルミル、カルボニル化合物
【化27】
及びエステル化合物
【化28】
であるがこれらに限定されない。
【0060】
上記Rとしては、ヒドロカルビル、又は-OH、-NH2、-CHO、-COOH及び/又はアジドといった官能置換基で置換されたヒドロカルビル等がある。ここでヒドロカルビルはC1-C30の直鎖状若しくは分枝状アルキル、アルケニル、又はアルキニルが好ましく、最も好ましくはC1-C30の直鎖状アルキルであるが、これらに限定されない。
【0061】
II.化合物、その一般式が式IIで表されるもの:
【0062】
【化29】
【0063】
式IIにおいて、Rの選択肢は上記式Iと同じであり、Rの選択肢は上記式Iと同じである。
【0064】
III.化合物、一般式が式IIIで表されるもの:
【0065】
【化30】
【0066】
式IIIにおいて、Rの選択肢は式IのRと同一である。R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子H又はヒドロカルビル、若しくは-OH、-O-、-NH2、-NH-、-CHO、-COOH及び/又はアジド、ビオチンといった官能置換基を有するヒドロカルビル等から選択してもよい。R、R、R及びRはそれぞれ独立に-OH、-NH2、-CHO、-COOH、-CN、-NO2、アジド等から選択してもよい。ヒドロカルビルはC1-C30の直鎖状若しくは分枝状アルキル、アルケニル、又はアルキニルが好ましく、最も好ましくはC1-C10の直鎖状アルキルである。
【0067】
上記の新規化合物は上述の5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体に特異的な標識方法によって直接得ることができ、他の有機合成法によって得ることもできる。
【0068】
本発明のさらに他の目的は、本発明の5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体に特異的な化学修飾方法の様々な応用を標識、配列決定、検出、撮像、診断といった用途として提供することである。各応用としては以下の通りである。
【0069】
本発明において5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体に特異的な化学修飾を、側鎖活性基を含有する活性メチレン化合物又は側鎖活性基を含有する上記活性メチレン化合物を用いて行う応用とは以下である。
【0070】
(1)ゲノムにおける5-ホルミルシトシンの配列分布情報及び/又は一塩基の分解能を持つ配列情報の配列決定解析;
【0071】
(2)一塩基の分解能の配列決定による核酸分子中の5-ホルミルシトシンの配列位置の検出;
【0072】
(3)5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体の含有量の測定
【0073】
(4)直接又は間接に行う、5-ホルミルシトシン塩基を有するDNA又はRNA分子の濃縮;
【0074】
(5)ゲノムにおける5-ホルミルシトシンの分布情報及び/又は一塩基の分解能を持つ配列情報を検出するためのキットを調製するための設計;
【0075】
(6)核酸結合性タンパク質の特定する能力及び結合する能力又は核酸結合性タンパク質の酵素活性に対する影響を与える因子の検出、ここで、核酸結合性タンパク質には核酸ポリメラーゼ及び/又は制限酵素が含まれる;並びに
【0076】
(7)5-ホルミルシトシンを用いた分子診断に関連する用途。
【0077】
側鎖活性基を含有する上記活性メチレン化合物は主として上述の四種の化合物i、ii、iii、及びiv(すなわち上記化合物i、ii、iii、及びiv)を指す。
【0078】
上記ゲノムDNA試料又はRNA試料は、細胞培養物、動物組織、動物血液、ホルマリン固定組織、パラフィン包埋組織、並びに初期発生胚試料、一細胞等の微量試料より得たものでもよい。
【0079】
さらに他の本発明の目的は標識、配列決定、検出、撮像、診断等といった用途における5-ホルミルシトシンに関連する複合多環式化合物の様々な応用である。各応用は以下における応用である。
【0080】
(1)核酸配列決定;
【0081】
(2)核酸分子における5-ホルミルシトシンの分布情報及び/又は一塩基の分解能を持つ配列情報の配列検出;
【0082】
(3)5-ホルミルシトシンの含有量の蛍光分光測定分析;
【0083】
(4)5-ホルミルシトシンのin vivo又はin vitro撮像技術;
【0084】
(5)核酸配列に対する特異的な標識;
【0085】
(6)5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体の含有量の測定;
【0086】
(7)直接又は間接に行う、5-ホルミルシトシン塩基を有する分子の濃縮;
【0087】
(8)核酸−タンパク質相互作用及び核酸−核酸相互作用等の分析といった用途;及び
【0088】
(9)核酸修飾に関連する分子診断。
【0089】
上記5-ホルミルシトシンに関連する複合多環式化合物は上述の三種の化合物I、II、及びIIIを指す。
【0090】
5-ホルミルシトシンに関連する複合多環式化合物の上記応用には、現在利用可能な複合多環式化合物を直接使用する応用が含まれ、また、5-ホルミルシトシン及び/又はその1-置換誘導体と化合物i、ii、iii、及びivとの反応により間接的に得られる産物の使用による応用が含まれる。
【0091】
さらに本発明の他の目的は5-ホルミルシトシン塩基を検出するための様々なキットを提供することであり、これには側鎖活性基を有する上述の活性メチレン化合物(例えば化合物i、ii、iii、及びiv)及び対応する反応溶液を備えるものが含まれる。
【0092】
一態様において、上記キットはゲノム中の5-ホルミルシトシンの分布情報を一塩基の分解能で分析するために、及び/又は一塩基の分解能の配列情報を得るために用いてもよい。
【0093】
さらに本発明の他の目的は5-メチルシトシン(5mC)、5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)、及び5-カルボキシルシトシン(5caC)を含む他の修飾シトシン塩基の検出試験及び配列決定試験の方法を提供することである。他の修飾シトシン塩基の検出試験及び配列決定試験の方法はいずれも上述の5-ホルミルシトシンに対する様々な方法に基づく。公知の変換方法に基づき、他の修飾シトシンの5-メチルシトシンへの変換を行うことができ、これにより5-ホルミルシトシンに対応する方法で、標的とする修飾シトシンの検出試験及び配列決定試験を行うことができる。例えば5mCは特異的に選別されたオキシダーゼCcTET1によって酸化されることで、5fCの状態で留まることができ(Liang Zhang, et al, Journal of American Chemical Society, 2014, 136:4801-4804.);5hmCは無機化合物である過ルテニウム酸塩KRuO4によって特異的に酸化することで5fCとすることができ(Michael J. Booth, et al., Science, 2012, 336:934-937.);また理論的に、5-カルボキシルシトシンの検出試験及び配列決定試験は、5-カルボキシルシトシンを5-ホルミルシトシンに還元することで実施できる。
【発明の効果】
【0094】
本発明の標識方法及び関連する化合物の設計においては5fC塩基シトシン環の5-ホルミル基及びオルト4-アミノ基を考慮する。これらをいずれも考慮して新たな5fC標識方法を開発し、その結果反応の選択性を高めた。一連の関連する方法及び化合物の応用を開発し、これにより核酸化学研究及びエピジェネティクス研究における様々な効果的な分析方法を提供する。
【0095】
さらに、特異的に選別された活性メチレン化合物と5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体との反応を用い、核酸(DNA又はRNA)配列の配列決定、蛍光分光測定分析等といった技術と組み合わせることで、本発明は、5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体の特異的な標識及び特定的な濃縮の方法、並びに全ゲノムスケールにおいて5-ホルミルシトシンを一塩基の分解能で分析できる配列決定方法を確立した。公知の方法と組み合わせることで、本発明は5-メチルシトシン、5-ヒドロキシメチルシトシン、及び5-カルボキシルシトシンといった他の修飾シトシンの検出試験及び配列決定試験に用いることができる。さらにまた本発明の化合物は、蛍光標識、配列決定、細胞内撮像検出等といった用途で有用である。
【0096】
本発明の方法により高い背景ノイズ、一塩基の分解能で行う配列決定を実現することの困難性、高い費用等といった従来技術に存在する欠点を克服することができる。また、5-ホルミルシトシン又はその1-置換誘導体を高い選択性、高い特異性、高い効率及び低い費用をもって標識することができる。
【0097】
本発明によって提供される5-ホルミルシトシン塩基を検出するためのキットは容易にまた迅速に5-ホルミルシトシンの分布情報の全ゲノム分析を実施でき、5-ホルミルシトシンの全ゲノム配列情報に対して一塩基の分解能で行う配列決定試験を行うことができ、また低コストで5fC塩基を商業的に検出することを可能にする。
【0098】
さらに、本発明は化合物I、II、及びIIIを提供するが、これらは5fCシトシンから誘導される複合多環式(環の数≧2)化合物である。これらの化合物は良好な蛍光特性を有するので、核酸に関する分析に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
図1図1は実施例1において9塩基のDNAである5’-AGA TC5fG TAT-3’の質量分析の結果である。また9塩基のDNAと、化合物i、ii及びiiiの代表的な5個の例との反応により得られたものの分析結果である。
図2図2は実施例1におけるマロノニトリルとの反応前後における5種の9塩基のDNA配列に対する質量分析の結果である。ここで、各9塩基のDNA配列は一種のシトシンであって、他の9塩基のDNA配列中のものと異なるものを有する。係る結果は本発明に係る反応の選択性を示す。
図3図3A及び3Bは実施例2において「5fC環形成保護による亜硫酸水素ナトリウム配列決定法」を化合物iであるジエチルマロネートで行ったものである。ここで5fCは5fCの反応後に得られる産物を示す。
図4図4は5fC塩基を含有する核酸を化合物AIで特異的に濃縮する際の流れ図を示す。
図5図5は実施例3における化合物AIの特異的な濃縮の流れ図(左)とMALDI-TOF検出スペクトル(右)を示す。
図6図6は実施例3における、化合物AIによる、5fC塩基を含有するDNAの濃縮効率を示す。
図7図7は5fC塩基を含有する核酸を6-アジド3-オキシエチルヘキサノエートで特異的に濃縮する際の流れ図を示す。
図8図8A及び8Bは実施例4において、それぞれ、化合物AIの反応前後に得られた配列決定の結果である。これらは「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」が化合物AIによって実施されたことを示している。ここで、5fCは5fCの反応後に得られる産物を示す。
図9図9A及び9Bは実施例5において、それぞれ、マロノニトリルの反応前後に得られた配列決定の結果である。これらは「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」が化合物iiであるマロノニトリルによって実施されたことを示している。ここで、5fCは5fCの反応後に得られる産物を示す。
図10図10は実施例6において、9塩基のDNAである5’-AGA TC5fG TAT-3’がそれぞれ4種の化合物、マロノニトリル(A)、1,3-インダンジオン(B)、エチルアセテート(C)及びジエチルマロネート(D)によって反応して生成された新たな紫外吸収ピークを示すものであり、Thermo Nanodrop Micro-Ultraviolet Spectrophotometerによって示されるものである。
図11図11は実施例6における、5fC塩基とマロノニトリルとの反応によって生じる蛍光活性化効果を示す。
図12図12Aは実施例6における、1番オリゴ及びマロノニトリルの反応産物の異なる濃度における蛍光強度の純増量を示す。図において、下部から上部にかけて曲線によって表される濃度はそれぞれ順に10 nM、50 nM、100 nM、200 nM、500 nM及び1000 nMである。図12Bは反応産物の蛍光強度の純増の線形関係を表す図であり、その濃度と対比したものである。
図13図13は実施例7におけるTaqαIで消化されない化合物AIとの反応後の二重鎖DNAの配列である。
図14図14は実施例7における、マウス胚性肝細胞中のゲノムDNAの5fCの分布領域における化合物AIによる濃縮を示す。
図15図15は実施例7における、マウス胚性肝細胞中のゲノムDNA上における一塩基の分解能での5fCの位置の代表的な領域であって化合物AIに基づく「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定」によって現出したものを示す。
図16図16は「5fC環形成保護による亜硫酸水素ナトリウム配列決定」、「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定」、通常の配列決定及び亜硫酸水素ナトリウム配列決定の間での配列決定の解読結果の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0100】
本発明の新規化合物、合成方法及び反応条件、関連する化合物の応用並びに方法を以下に詳細に述べる。これにより本発明の内容を明確に表す。
【0101】
本発明は5-ホルミルシトシンに関連する複合多環式化合物に関する。
【0102】
いずれの複合多環式化合物も、本発明に係る化合物I、II、又はIIIに係る上述の三種の構造のいずれかの構造を有する。新規の構造の化合物I、II、及びIIIの合成方法は本発明の合成方法に限定されない。それらの合成方法が異なるか否かに依らず、本発明の三種の化合物に適用できる。
【0103】
本発明によって提供される三種の化合物は核酸の研究に利用できる。本発明の三種の化合物は所定の励起光条件下で蛍光を発する。このため新たな種類の蛍光塩基として用いることができ、核酸塩基構造の動力学的問題の研究、(タンパク質のような)他の分子と核酸との相互作用、核酸−核酸相互作用、核酸の存在する場合の化学的環境等の研究領域に応用できる。一方で、本発明によって提供される三種の蛍光塩基は5fCによって誘導される。利用において、5fCの対応するホスホラミダイト単量体はまず、標的となる蛍光塩基で置換することでDNAを合成できる。したがって、必要に応じて本発明の反応によって蛍光塩基を導入できる。このため、これら三種の蛍光塩基の利用可能性は、商業的に利用可能な他の非天然蛍光塩基に比べて高い。
【0104】
本発明の5-ホルミルシトシンに特異的な化学標識法に関連する応用
【0105】
1.5fC特異的な標識
【0106】
(1)5fCの直接標識
【0107】
5-ホルミルシトシンは本方法に依り直接に標識される。特に5-ホルミルシトシンは本発明の反応条件において、本発明の化合物と反応し得る。例えば新規のシトシン複合多環式誘導体に変換される。したがって、新しい化学的性質、例えば紫外吸収スペクトル及び蛍光発光スペクトルを備えるようになる。得られた産物の新しい化学的性質で5-ホルミルシトシンを標識することで、5-ホルミルシトシンを示すために用いてもよく、また、細胞内のエピジェネティクスの動的な変化を研究するための新しい標識方法を提供される。
反応産物I、II、又はIIIに特異的な吸収スペクトル又は蛍光発光スペクトルを用いることで、未知の核酸試料中の5-ホルミルシトシン塩基の定量分析を行うことができる。
【0108】
本発明の一態様において、マロノニトリルの、5fC塩基を有するデオキシリボヌクレオチドオリゴマー鎖との反応を用いて、濃度と蛍光強度を対比した検量線がプロットされたところ、適合の水準が高かった。未知の試料中の5fC反応産物の蛍光強度を測定することで5fC塩基の濃度を定量的に決定できる。
【0109】
(2)5fCの間接標識
【0110】
特定の官能基を有する活性メチレン化合物(側鎖活性基を有する活性メチレン化合物等)と5-ホルミルシトシンとの反応によって、5-ホルミルシトシンに対して特定の官能基を導入することができるので、間接的に5fCを標識することができる。蛍光分子の場合には、所定の励起光下における係る蛍光分子の蛍光発光スペクトルを用いて行う5fCの間接標識が行われる。また、アジド又はアルキニルを導入してもよく、これにより、さらにクリックケミストリーの原理を用いた5fCの間接標識が行われる。
【0111】
ここで、係るクリックケミストリーは主としてアジドとアルキニル又はアルキニル誘導体とによる[3+2]環化付加反応を指す。
【0112】
2.変化に関連する5-ホルミルシトシンの酵素学的効果
【0113】
5fC塩基の化学的性質はまた本発明における化学反応によって変化する。これはDNA及びRNAにおける5-ホルミルシトシン特異的な標識の結果として、生物試料中の5-ホルミルシトシンの化学的性質が変化することを表す。したがって、(核酸ポリメラーゼ、又は制限酵素といった)核酸結合性タンパク質の5fC-含有核酸に対する認識能力及び結合能力に影響を与える。このため関連するタンパク質の核酸基質を認識する能力に影響を与える場合がある。このような変化は特定の生物学的研究に用いることができる。
【0114】
一態様において、TaqαI制限酵素の基質配列上の5fC塩基を化合物ivで標識する。このため、TaqαIの酵素消化反応の活性に影響を与える。例えばTaqαIは化学反応により修飾されたT/C5fGA配列を消化できなくなる。
【0115】
酵素処理の効果は上述の5fCの化学修飾によって変化する。ここで使用される酵素には様々な制限酵素及びDNAポリメラーゼが含まれる。酵素試薬を供給する企業には例えばNEB、Thermo Scientific、TAKARA、Promega、Agilent等を含むがこれらに限定されない。
【0116】
3.5fCに対して特異的な濃縮
【0117】
(上述の側鎖活性基を備える活性メチレン化合物i、ii、iii、及びivから選択される)特定の官能基を有する活性メチレン化合物と5-ホルミルシトシンとの反応によって5-ホルミルシトシン中に特定の官能基を導入する。また係る特定の官能基の化学的性質を用いて5-ホルミルシトシンを有する核酸分子を特異的に濃縮する。例えば、アジドを活性メチレン化合物に導入し、また係るアジドによるクリックケミストリー反応をビオチン標識アルキニル又はアルキニル誘導体を用いて行う、このためビオチン標識が5-ホルミルシトシンに対して間接的に導入される;その後ストレプトアビジンとビオチンとの間の特異的な結合によって、5-ホルミルシトシンを有する核酸分子を選別する。それだけでなく、アルキニルもまた、活性メチレン化合物中に導入してもよい。ビオチンラベルのなされたアジド分子を利用することで係るアルキニルとのクリックケミストリー反応が行われ、上記と同一の方法でさらに濃縮がなされる。
【0118】
特定の態様において、5fCは1,3-インダンジオンのアジド誘導体―化合物AIによって特異的に標識される。得られた分子はさらにクリック反応によりビオチンで標識される。その後、ビオチンとストレプトアビジンとの間の特異的な結合を用いて、5fCを含有する核酸分子が濃縮される。同じ効果はエチルアセトアセテートのアジド誘導体、すなわちエチル6-アジド-3-オキシヘキサノエートを用いても得られる。
【0119】
4.ゲノム中の5fCの分布情報の検出
【0120】
5fCを特異的に濃縮するための上記方法によって、ゲノム中の5fCの分布情報の検出を行うことができる。5fC塩基に特異的な標識に基づいて、5fC塩基を有するゲノムDNA断片の濃縮及び精製を行う。その後、配列決定及び対応するゲノムとの配列比較によって、ゲノム中の5-ホルミルシトシンの分布情報、例えば遺伝子中における、制御領域、転写開始領域、遺伝子のエキソン領域及びイントロン領域、特徴的なヒストン被修飾領域等が分析できる。
【0121】
上記ゲノムDNA試料は細胞培養物、動物組織、動物の血液、ホルマリン固定組織、パラフィン包埋組織、及び胚の初期発生試料、一細胞等といった微量試料より得られる。
【0122】
5.一塩基の分解能での5fCの配列決定
【0123】
本発明の方法、すなわち、側鎖活性基を有する活性メチレン基と5fCとの間の特異的な反応、を一塩基の分解能での核酸試料の配列中の5fCの位置の検出に用いることができる。
【0124】
上記核酸試料はゲノムDNA試料又はRNA試料を指す。これらは細胞培養物、動物組織、動物血液、ホルマリン固定組織、パラフィン包埋組織、及び胚の初期発生試料、一細胞等といった微量試料より得られる。
【0125】
係る反応を用いて5fC塩基の配列決定を行うためのあらゆる技術が本発明に応用できる。
【0126】
(1)5fC環−保護による亜硫酸水素ナトリウム配列決定法
【0127】
5fC環−保護による亜硫酸水素ナトリウム配列決定法を行うには化合物iと5-ホルミルシトシンとを反応させる。係る技術の中核を成すのは、化合物iとの反応前後の試料のそれぞれに対して亜硫酸水素ナトリウム配列決定法を行うことである。未反応状態において試料中の5fC部位はTとして解読される。これに対して、5fCに対して係る反応を行った後においては、5fC塩基は配列決定によってCとして解読される。これは複合構造によって亜硫酸水素ナトリウム処理に対する耐性を付与することで、5fC塩基が「保護」されることによる。これらの二つの配列決定結果を比較することで、T-Cの不整合部位が見いだされ、一塩基の分解能で5fCの配列情報を特定できる。
【0128】
上記亜硫酸水素ナトリウム配列決定とは、核酸を弱酸性条件下で高濃度の亜硫酸水素ナトリウムにて処理することで、シトシン(及びその酸化物、すなわち5-ホルミルシトシン及び5-カルボキシシトシン)を加水分解して4-アミノを除去するとともに、最終的にウラシルに変換する。しかしながら、シトシンの2種の誘導体、すなわち5-メチルシトシン5mC及び5-ヒドロキシメチルシトシン5hmCはウラシルに変換されない。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅において、ウラシルはチミンTとして読み取られる。また、残る5mC及び5hmCはいずれも増幅されてCとなる。さらに配列決定によりCと解読された部位が5mCであるか、5hmCであるかが決定できる。
【0129】
特定の態様において、化合物iとしてジエチルマロネートを選択してもよい。反応前は配列中の5fC塩基は亜硫酸水素ナトリウム配列決定ではTとして解読される。一方で、反応後の5fCの産物は亜硫酸水素ナトリウム配列決定ではCとして解読される。
【0130】
(2)環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法
【0131】
「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」は、化合物ii及び5-ホルミルシトシンの間の反応を通じて行うことができる。係る技術の中核を成すのはPCR増幅の実施及び化合物iiによる反応の前後の試料のそれぞれに対する配列決定である。試料中の5fC部位は影響を受けないので、反応前に配列決定することでシトシンCとして解読される;一方で試料中の5fC部位は反応後の配列決定によりチミンTとして解読されるので、その配列決定の結果、Tとして提示される。これら2つの配列決定の結果を比較することで、C-T変異部位が見つかるので、一塩基の分解能で5fCの配列情報を特定できる。
【0132】
また「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」は、化合物iii及び5-ホルミルシトシンの間の反応を通じて行うこともできる。その工程は化合物iiを用いた場合と同様であり、化合物iiiによる反応前後の試料に対してそれぞれPCR増幅を行う。未反応の試料中の5fC部位はCとして解読される一方で、反応後の試料中の5fC部位はTとして解読される。二つの配列結果を比較することで、5fCの具体的な配列情報が特定できる。
【0133】
先に述べた(1)及び(2)の二つの配列決定方法に関する限り、関連する具体的な配列決定のための商業的なプラットフォームは以下のいずれかより選択してもよい:
【0134】
1)第一世代のジデオキシ塩基配列決定方法として、商業的に利用可能な配列決定プラットフォームにはABIの第一世代配列決定プラットフォームの一連の機器が含まれる;
【0135】
2)第二世代のハイスループット配列決定法として、商業的に利用可能な配列決定プラットフォームには以下が含まれる:Illumina(前Solexa)の一連の配列決定プラットフォーム、Miseq、Hiseq 2000、Hiseq 2500、NextSeq 500、Hiseq X等;ピロシーケンシング法を用いたRoche(前454)の配列決定プラットフォーム、例えばGS FLXが含まれるがこれに限定されない;及びABIのSOLiD配列決定プラットフォーム、例えばSOLiD 5500が含まれるがこれに限定されない;
【0136】
3)第三世代の一分子配列決定法として、商業的に利用可能な配列決定プラットフォームには以下が含まれる:Pacific BioscienceのSMRT配列決定プラットフォーム、例えばSMRT RSIIが含まれるがこれに限定されない;Oxford Nanopore Technologies のnanopore一分子配列決定プラットフォーム、例えばMniIONプラットフォーム;Helicos BiosciencesのHeliScopeプラットフォーム。
【0137】
(3)5fCの化学修飾に基づく第三世代の一分子配列決定
【0138】
5fC塩基の化学構造を化合物i、ii又はiiiで修飾をした上で、第三世代の一塩基配列決定法により、標的となる塩基を直接検出する。修飾された5fCを認識するタンパク質に対する化学的な性質を変化させることで、第三世代の一分子配列決定におけるタンパク質の塩基に対する結合の動力学的なパラメーターに影響を与える。すなわち、他の天然に存在する塩基と区別されるので、標的となる5fC塩基の位置を直接特定できる。
【0139】
係る第三世代の一分子配列決定プラットフォームとして、Pacific BioscienceのSMRT配列決定プラットフォーム、又はOxford Nanopore Technologies のnanopore一分子配列決定プラットフォームから選択してもよい。SMRT配列決定プラットフォームを用いた場合、5fC塩基の化学構造が化合物i、ii又はiiiによる修飾を受けた後において、ポリメラーゼの増幅効率に影響を与える。すなわち増幅に係る動力学的なパラメーターに影響を与えることで、5fCの位置が特定される。nanopre一分子配列決定プラットフォームを用いた場合、5fC塩基の化学構造が化合物i、ii又はiiiによる修飾を受けた後において、nanoporeタンパク質の塩基に対する結合の動力学的パラメーターに影響を与える。係る動力学的パラメーターを測定することで、係る塩基が修飾された5fC塩基であるか否かを決定できる。
【0140】
6.5-ホルミルシトシン配列用キット
【0141】
(1)「5fC環−保護による亜硫酸水素ナトリウム配列決定法」用キット1
【0142】
5-ホルミルシトシンをアジド含有化合物iで標識するための反応方法に基づいて、核酸試料中の5-ホルミルシトシンの配列情報を一塩基の分解能で分析するためのキット1を設計できる。エチル6-アジド-3-オキシヘキサノエートと5fCとの間の特異的な反応に基づき、クリックケミストリー反応を通じてビオチンを5fCに導入できるので、選択的に5fCを濃縮できる。亜硫酸水素ナトリウム配列決定法と組み合わせることで、化合物エチル6-アジド-3-オキシヘキサノエート処理の前後における配列決定結果を比較することにより5fC塩基の位置を決定できるので、「5fC環−保護による亜硫酸水素ナトリウム配列決定法」を可能にする。キット1は主として以下の4つのモジュールからなる:
【0143】
モジュール1:5fC反応モジュールは、エチル6-アジド-3-オキシヘキサノエート試薬、及び対応する反応溶液を備える。係るモジュールを用いて核酸試料中の5fC塩基と反応させることで5fC塩基をアジドで標識する。
【0144】
モジュール2:選択的濃縮モジュールは、ビオチンに特異的に結合する磁気ビーズ、選別用緩衝液、及びアジドに対して選択的に反応しビオチン修飾する試薬を備える。
【0145】
係るモジュールを用いて核酸試料中のアジド標識されたところにクリックケミストリーの[3+2]環状付加反応を行う。すなわち5fC塩基をさらにビオチンで標識する。さらに、磁気ビーズに共役したストレプトアビジンにビオチンを結合させて、磁石フレームで5fC塩基を有する核酸試料断片を分離精製する。
【0146】
モジュール3:亜硫酸水素ナトリウム処理モジュールは、亜硫酸水素ナトリウム処理試薬及び関連する回収材料を備える。
【0147】
係るモジュールを用いて濃縮した核酸試料断片を反応させる。すなわち通常のシトシン及び残存するカルボキシルシトシンを脱アミノ化し、加水分解してウラシルにする。
【0148】
モジュール4:特定PCR増幅モジュールは、5fCの反応産物を選別するための特定のDNAポリメラーゼ及び反応系を備える。
【0149】
係るモジュールは標識された上で亜硫酸水素ナトリウム処理された核酸試料を増幅するために用いる。これによりハイスループット配列決定を行う。
【0150】
(2)「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」用のキット2
【0151】
5-ホルミルシトシンをアジド含有化合物iiで標識するための反応方法に基づいて、核酸試料中の5-ホルミルシトシンの配列情報を一塩基の分解能で分析するためのキット2が設計される。一例として、化合物AIと5fCとの間の特異的な反応に基づき、クリックケミストリー反応を通じてビオチンを5fCに導入することで、選択的に5fCを濃縮する。化合物ivによる処理の前後の試料をPCR増幅するとともに配列決定する。配列決定結果を比較することにより5fC塩基の配列上の位置を決定できるので、「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」を可能にする。キット2は主として以下の3つのモジュールからなる:
【0152】
モジュール1:5fC反応モジュールは、化合物AI(5-(2-アジドエチル)-1,3-インダンジオン)の試薬、及び対応する反応溶液を備える。
【0153】
係るモジュールを用いて核酸試料中の5fC塩基と反応させることで5fC塩基をアジドで標識する。
【0154】
モジュール2:選択的濃縮モジュールは、ビオチンに特異的に結合する磁気ビーズ、選別用緩衝液、及びアジドに対して選択的に反応しビオチン修飾する試薬を備える。
【0155】
係るモジュールを用いて核酸試料中のアジド標識されたところにクリックケミストリーの[3+2]環状付加反応を行う。すなわち5fC塩基をさらにビオチンで標識する。さらに、磁気ビーズに共役したストレプトアビジンにビオチンを結合させて、磁石フレームで5fC塩基を有する核酸試料断片を分離精製する。
【0156】
モジュール3:特定PCR増幅モジュールは、5fCの反応産物を選別するための特定のDNAポリメラーゼ及び反応系を備える。
【0157】
係るモジュールは濃縮された核酸試料を増幅するために用いる。これによりハイスループット配列決定を行う。同時に、元の5fC部位がPCR増幅においてTとして読み取られるようにすることで、変異部位が導入され、「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」を行うことができる。
【0158】
(3)「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」用のキット3
【0159】
5-ホルミルシトシンをアジド含有化合物ii又はiiiで標識するための反応方法に基づいて、核酸試料中の5-ホルミルシトシンの配列情報を一塩基の分解能で分析するためのキット3が設計される。文献に記載の5-ホルミルシトシン特異的な抗体で選択的な濃縮を行う(Li Shen, et al., Cell, 2013, 153:692-706)。その後、マロノニトリルが5fCと反応することで、5fCからTへの変換がPCRによって行われる。増幅産物の配列決定結果を比較することにより5fC塩基の配列上の位置を決定できるので、「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」を可能にする。キット3は主として以下の3つのモジュールからなる:
【0160】
モジュール1:5-ホルミルシトシンの免疫沈降濃縮モジュールは、DNA免疫沈降試験のための5fC抗体及び対応する反応用緩衝液を備える。
【0161】
係るモジュールは5fC塩基を含有する核酸試料断片を直接濃縮するために用いる。
【0162】
モジュール2:5fC反応モジュールは、マロノニトリル又は1,3-インダンジオン(化合物iii)の試薬と、対応する反応溶液を備える。
【0163】
係るモジュールは核酸試料中の5fC塩基との反応に用いる。
【0164】
モジュール3:特定PCR増幅モジュールは、5fCの反応産物を選別するための特定のDNAポリメラーゼ及び反応系を備える。
【0165】
係るモジュールを用いてマロノニトリルで処理した核酸試料を増幅するとともに濃縮することで、ハイスループット配列決定を行う。同時に、元の5fC部位がPCR増幅においてTとして読み取られるようにすることで、変異部位が導入され、「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」を行うことができる。
【0166】
(4)5fCの標識による一分子配列決定用キット4
【0167】
5-ホルミルシトシンをアジドで標識された化合物i又はiii(化合物ivを含む)で標識するための反応方法に基づいて、第三世代の一分子配列決定プラットフォームと組み合わせて、核酸試料中の5-ホルミルシトシンの配列情報を一塩基の分解能で分析するためのキット4を設計する。エチル6-アジド-3-オキシヘキサノエート又は化合物AIと5fCとの間の特異的な反応に基づき、第三世代の一分子リアルタイム検出プラットフォームをさらに用いて特有の動力学的パラメーターを有する位置を見出すとともに、5fCで修飾された位置を特定することにより、5fC塩基の配列情報の一分子リアルタイム検出を行う。キット4は主として以下の2つのモジュールからなる:
【0168】
モジュール1:5fC反応モジュールは、エチル6-アジド-3-オキシヘキサノエート試薬(化合物i)、又は化合物AI(5-(2-アジドエチル)-1,3-インダンジオン、化合物iv)及び対応する反応溶液を備える。
【0169】
係るモジュールを用いて核酸試料中の5fC塩基と反応させることで5fC塩基をアジドで標識する。
【0170】
モジュール2:選択的濃縮モジュールは、ビオチンに特異的に結合する磁気ビーズ、選別用緩衝液、及びアジドに対して選択的に反応しビオチン修飾する試薬を備える。
【0171】
係るモジュールを用いてゲノム中のアジド標識されたところにクリックケミストリーの[3+2]環状付加反応を行う。すなわち5fC塩基をさらにビオチンで標識する。さらに、磁気ビーズに共役したストレプトアビジンにビオチンを結合させて、磁石フレームで5fC塩基を有する核酸試料断片を分離精製する。
【0172】
上記キット1、2、3、及び4の標的となる核酸試料はゲノムDNA試料又はRNA試料を指す。係る試料は細胞培養物、動物組織、動物血液、ホルマリン固定組織、パラフィン包埋組織、並びに初期発生胚試料、一細胞等の微量試料より得たものでもよい。
【0173】
7.5fC標識方法及び分子診断の用途における関連する化合物の利用
【0174】
5fC特異的な上記濃縮方法、及び関連する活性メチレン化合物であって、特定の化学標識を有するものを、生物学的試料中に5-ホルミルシトシンが含まれている場合の分子診断において用いる。TETタンパク質、5-ホルミルシトシン切り出しTDG等のような細胞中で産生される5-ホルミルシトシン関連タンパク質の活性及び発現量の変化はゲノム中の5-ホルミルシトシンの量及び配列分布に対して影響を与えると考えられる。生物学的試料中の5-ホルミルシトシンの量及び配列分布の変化を、上述の関連する5-ホルミルシトシンの標識、検出、及び配列決定法を用いて検出する。このため、疫学的な変化及び組織学的な変化のような疾患の診断及び疫学的な示唆のための参考データであって、臨床診断に有用なものを提供することができる。
【実施例】
【0175】
本発明をさらに以下の8件の具体的な実施例を通じて説明し、本発明の内容をよりよく理解できるようにする。しかしながら本発明の内容は以下に説明する実施例に限定されない。特に言及しない限り、実施例において用いる試薬及び溶液はいずれも企業から購入したものである。
【0176】
本発明の試験に関連するDNA配列
【0177】
【表1】
【表2】
【0178】
オリゴマーであるヌクレオチド鎖であって修飾塩基を有するものを実験に用いたが、ABI EXPEDIATE核酸固相合成器を用いて合成されたものである。合成に用いたホスホラミダイト単量体は米国Glen Reserchから購入したものである。オリゴマーであるヌクレオチド鎖であって通常の塩基のみ含有するものを実験に用いたが、Sangon Biotech Co., Ltd(上海)によって合成されたものである。
【0179】
[実施例1]
【0180】
化合物I、II、及びIIIの代表的な化合物の合成
【0181】
人工合成された9塩基のオリゴマーであるヌクレオチド鎖であって5fC塩基を含有するオリゴ番号1番のものを三種の化合物i、ii、及びiiiを代表する化合物i−1、ii−1、及びiii−1と反応させた結果、3つの構造I、II、及びIIIに関する代表する3つの産物である化合物I−1、II−1、及びIII−3を得た。反応において、化合物iを代表する化合物はエチルアセトアセテート及びメチルアセトアセテートであり;化合物iiを代表する化合物はマロノニトリルであり;化合物iiiを代表する化合物は1,3-インダンジオンである。
【0182】
個別の反応経路は以下のとおりである。
【0183】
【化31】
【0184】
化合物i−1は代表的な化合物、エチルアセトアセテート又はメチルアセトアセテートである。オリゴ番号1番、すなわち5fC-9塩基DNAオリゴマーであるヌクレオチド鎖を適当量のアルカリメタノール溶液に溶解した。その後、過剰モルのエチルアセトアセテート又はメチルアセトアセテートを直接添加した。均一に混合した後、さらに攪拌しながら37度で24時間反応を行い、化合物I−1と同一の化合物を得た。反応において、エチルアセトアセテート又はメチルアセトアセテートの2位の活性メチレンが5fCのホルミルと縮合した。また同時に分子内反応が起きて、その間にシトシン環の4-アミノがエステル結合のエタノール/メタノール部位を置換した。以上により環形成されて、化合物I−1が生じた。MALDI-TOF質量スペクトルによって特定されたところによれば、残留している原料のピークがないことが示された、m/z(ob): 2763.5→m/z(ob): 2829.8/2829.5(図1のA、B、及びCに示す)。
【0185】
化合物ii−1は代表的な化合物、マロノニトリルである。オリゴ番号1番、すなわち5fC-9塩基DNAオリゴマーであるヌクレオチド鎖を弱酸性水溶液に溶解する。同時に高濃度の水溶性原液を用いて、大過剰モルのマロノニトリルを添加した。均一に混合した後、さらに攪拌しながら37度で24時間反応を行い、化合物II−1と同一の化合物を得た。反応において、マロノニトリルの2位の活性メチレンが5fCのホルミルと縮合した。その後、分子内付加反応を通じて、シトシン環の4-アミノがマロノニトリルとともに環を形成した。以上により化合物II−1が生じた。MALDI-TOF質量スペクトルによって特定されたところによれば、残留している原料のピークがないことが示された、m/z(ob): 2763.5→m/z(ob): 2812.5(図1のA及びDに示す)。
【0186】
化合物iii−1は代表的な化合物、1,3-インダンジオンである。1,3-インダンジオンと5fC DNAとの反応はアルカリメタノール溶液又は弱酸性水溶液中で行うことができる。適当量のオリゴ番号1番、すなわち5fC-9塩基DNAオリゴマーであるヌクレオチド鎖を溶解した。大過剰モルの黄色い固形の1,3-インダンジオンを同時に添加して(アルカリメタノール溶液中に)溶解した。又は飽和させた(弱酸性水溶液中にて)。均一に混合した後、さらに攪拌しながら37度で24時間反応を行い、化合物III−1を得た。反応において、マロノニトリルの2位の活性メチレンが5fCのホルミルと縮合した。その後、分子内付加反応を通じて、シトシン環の4-アミノがマロノニトリルとともに環を形成した。以上により化合物III−1が生じた。MALDI-TOF質量スペクトルによって特定されたところによれば、残留している原料のピークがないことが示された、m/z(ob): 2763.5→m/z(ob): 2874.7(図1のA及びEに示す)。
【0187】
図1中のMALDI-TOF質量スペクトルの結果は、残留している原料のピークが検出されないことを示しており、反応効率が極めて高いことを表している。
【0188】
本発明により提供される反応は非常に選択性が高い。係る反応は5fCのみに対して特異的である。また他のシトシン又はシトシン誘導体の副反応は起きない。図2に示すように、マロノニトリルを代表として、他の4種のシトシン(C、5mC、5mhC、及び5caC)を含有するDNA配列(それぞれ、オリゴ番号2番、オリゴ番号3番、オリゴ番号4番、及びオリゴ番号5番)と反応させた。MALDI-TOF質量スペクトルによって特定されたところによれば、他のシトシン又はシトシン誘導体は反応しないことが示された。また対応する分子量の増加は反応後の5fC-9塩基DNA配列にのみ観察された(5hmCのグループの第二のピークは精製の不完全な試料に起因する)。これにより、非常に高い反応選択性が示された。
【0189】
[実施例2]
【0190】
ジエチルマロネートでの「5fC環-保護による亜硫酸水素ナトリウム配列決定法」の実施
【0191】
ジエチルマロネートは活性メチレン化合物iに分類される。目標となる化合物I−2はアルカリメタノール溶液中での(下記模式図に示されるような)ジエチルマロネートと5fCとの二段階の縮合反応を通じて得られる。オリゴ番号1番、すなわち5fC-9塩基DNAオリゴマーであるヌクレオチド鎖とジエチルマロネートとの反応の工程は以下の通りである:DNAオリゴマーであるヌクレオチド鎖を適量、アルカリメタノール溶液に溶解した。その後、過剰モルのジエチルマロネートを直接添加した。均一に混合した後、さらに攪拌しながら37度で24時間反応を行い、化合物I−2を得た。反応において、ジエチルマロネートの2位の活性メチレンが5fCのホルミルと縮合した。また同時に分子内反応が起きて、その間にシトシン環の4-アミノがエステル結合のエタノール部位を置換し;また同時にアルカリメタノール溶液中では、環形成に供されないエステル結合のエステル交換反応が起きて、メトキシカルボニル基が形成されたことで、環形成を通じて化合物I−2が生成した。MALDI-TOF質量スペクトルによって特定されたところによれば、残留している原料のピークがないことが示された、m/z(ob): 2763.5→m/z(ob): 2845.4(図1のA及びFに示す)。
【0192】
【化32】
【0193】
5fC塩基を含有する77塩基長のオリゴ番号6番の二重鎖DNA配列をジエチルマロネートと反応させた。オリゴ番号6番の配列、フォワード鎖は2個の5fC塩基を有しており、配列中で5fC塩基を太字で表す(5-C5fGC5fG-3、C5fは太字)。またリバース鎖は5fC塩基を有していないが、5fC塩基に対応する配列はGである(5-CG*CG*-3、G*は太字)。亜硫酸水素ナトリウム処理後、オリゴ番号7番及びオリゴ番号8番の2個のプライマーによってPCR増幅を行った。リバース側の配列決定用プライマーであるオリゴ番号9番を配列決定時に用いた。このため解読結果中の5-CG*CG*-3配列中のG*のシグナルが5fCのシグナルに対応していた。反応条件は上記と同じであった。メタノールを蒸発乾燥させた後、反応産物をエタノール沈殿で回収した。
【0194】
回収したDNA試料をPCR反応で直接増幅させた。またはQIAGENのEpiTect Fast Bisulfite Conversion Kitで試料を処理した後PCRで増幅させた。その後、反応産物を配列決定して、亜硫酸水素ナトリウム処理に対して耐性があるか否かを特定した。図3A及び3Bの配列決定結果に示されるようにジエチルマロネートによる反応後に産物が直接に増幅され、配列決定されたとき、5fC塩基のシトシンは、はっきりとしたグアニンGシグナルとして相補的に読み出された。一方で、亜硫酸ナトリウム処理の後では、試料配列中の通常のシトシンがウラシルUに変換されたのでPCRで増幅されてチミンTとなり、アデニンAのシグナルとして読みだされた。しかしながら、ジエチルマロネートによる反応後の5fC*の産物は亜硫酸ナトリウム処理に対して耐性があったことからPCR工程においてシトシン塩基と相補したため、配列決定ではグアニンGシグナルとして読み出された。これは環形成反応がシトシンの4-アミノを保護し、また通常のPCR工程においてこのようなシトシンがCとして読み出されることに影響を与えないことを表している。亜硫酸水素ナトリウム処理において、保護された5fCは脱アミノ化されずまた加水分解されなかった。しかしながら、他の通常のシトシンは亜硫酸水素ナトリウム処理において脱アミノ化され、加水分解された。また配列決定でTとして解読された。反応前後における亜硫酸水素ナトリウム配列決定結果を比較することで、一塩基の分解能での5fCの配列位置を特定できる(図3A及び3B)。
【0195】
係る方法では、シトシンの4-アミノを環形成反応で保護した。すなわち、シトシンの脱アミノ化及び加水分解を妨げた。環形成反応前の5fC位置を脱アミノ化し、加水分解でき、かつこれにより配列決定でTとして解読できる場合と比較することで、配列中の5fC塩基の位置が特定できる。係る方法は「5fC環形成-保護による亜硫酸水素ナトリウム配列決定法」ということができる。
【0196】
[実施例3]
【0197】
iv型の代表的な化合物AI(式iv−1)により5fC塩基を含有する核酸を特異的に濃縮する
【0198】
1,3-インダンジオンの反応部位は5-員環中のカルボニル基間のメチレンである。このため、ベンゼン環構造の3、4、5及び6位を修飾しても、化合物の性質に特別な影響はない。そこで、5-(2-アジドエチル)-1,3-インダンジオン(化合物AI)を合成し、5fC塩基を含有する核酸を特異的に濃縮することをとした。
【0199】
5-(2-アジドエチル)-1,3-インダンジオン(化合物AI)の合成経路は以下である。
【0200】
【化33】
【0201】
4-(2-クロロエチル)-ベンゾイルクロリドの合成:
【0202】
4-(2-クロロエチル)-安息香酸(10 g、108 mmol)を50 mLのSOCl2に混合して、数滴のDMFを添加した。混合物を加熱して12時間還流した。その後、過剰なSOCl2を蒸発させることで、黄色い液体(10.8 g、96%)を得た。係る液体を次の反応工程に直接用いた。
【0203】
5-(2-クロロエチル)-1,3-インダンジオン(5-(2-クロロエチル)-1H-インデン-1,3(2H)-ジオン)の合成
【0204】
AlCl3(14 g、106 mmol、1当量)及び200 mlのCH2Cl2を500 mLの乾燥二口フラスコに加えた。4-(2-クロロエチル)-ベンゾイルクロリド(21.6 g、106 mmol)を窒素防護化でCH2Cl2溶液に添加した。その後、再蒸留したマロニルジクロリド(16.5 g、117 mmol、1.1 当量)を0℃でゆっくりと溶液中に滴下することで、こげ茶色の液体を得た。反応を室温で12時間行った。反応後、溶液を氷中に注ぎ、その後HCl溶液(10%、250 mL)を添加して、1時間、激しく撹拌した。その後、溶液をCHCl3で抽出した(3×400 mL)。抽出物を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィーに供し、石油エーテル/ジクロロメタン2:1で溶出することで、明るい黄色の固体(7.9 g、36%)を得た。1H NMR (300MHz, CDCl3) δ 7.93 (d, J=7.8 Hz, 1H), 7.83 (s, 1H), 7.71 (d, J=7.8 Hz, 1H), 3.80 (t, J=6.6 Hz, 2H), 3.25 (t, J=6.6 Hz, 2H), 3.24 (s, 2H)。
【0205】
5-(2-アジドエチル)-1,3-インダンジオン(5-(2-アジドエチル)-1H-インデン-1,3(2H)-ジオン)、すなわちAIの合成
【0206】
NaN3
(2.3 g、36 mmol、2当量)を100 mLの乾燥DMSOに溶解し、5-(2-アジドエチル)-1,3-インダンジオン(3.7 g、18 mmol)を添加した。80℃で20分間反応を行った。反応後、300 mLの水を溶液に添加した。その後、溶液をジエチルエーテルで抽出した(3×400 mL)。抽出物を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィーに供し、石油エーテル/ジクロロメタン1:1で溶出することで、明るい黄色の固体(680 mg、18 %)を得た。1H NMR (300MHz, CDCl3) δ 7.94 (d, J=7.8 Hz, 1H), 7.82 (s, 1H), 7.70 (d, J=7.8 Hz, 1H), 3.62 (t, J=6.6 Hz, 2H), 3.24 (s, 2H), 3.06 (t, J=6.6Hz, 2H), 13C NMR (75MHz, CDCl3) δ 197.6, 197.1, 147.4, 144.1, 142.4, 136.7, 123.8, 123.4, 51.9, 45.6, 35.9; MS(ESI) [M+H]+, 216.2。
【0207】
合成した化合物AIと5fCの核酸配列との間での特異的な反応を用いることで5fC塩基を有するDNA試料を選択的に分離して濃縮することができる。かかる工程を図4に示した。核酸試料中の5fC塩基は化合物AIと反応した。すなわちアジドが特異的に導入された。さらにジスルフィド結合を伴うビオチンがクリック−ケミストリーにより反応産物のアジドとアルキニルとの間に特異的に導入された。これにより、二段階の反応を通じて、ビオチン基が5fC塩基に選択的にまた効果的に導入された。その後、ストレプトアビジンとビオチンとの間の強い結合を用いて選択的な濃縮を行い、また配列決定試験等といった次の操作のために5fCを有するDNA配列を分離した。図5に示すのは、一つの5fCを有するオリゴ番号1番と化合物AIとの反応の各工程で得られた産物のMALDI-TOF質量スペクトルであり、高い反応効率を表している。
【0208】
3つの人工合成された二重鎖DNA試料をマウス胚性幹細胞のゲノムDNA試料に対して2 pg/(1μgのgDNA)の分量で含ませた。試料を上述の実験工程を通じて濃縮した。濃縮の効果はリアルタイム蛍光定量PCRで検出した。3つの配列をそれぞれ用いた:オリゴ番号10番、一つの5fC部位を有する、これに対してはオリゴ番号13番/14番のプライマーの組をqPCRにおいて用いた;オリゴ番号11番、対照配列、PCRで得た、100% dATP、100% dTTP、100% dGTP、70% dCTP、15% d5mCTP、10% d5hmCTP、5% d5caCTPからなり、5fCを有しない、これに対してはオリゴ番号15番/16番のプライマーの組をqPCRにおいて用いた;及びオリゴ番号12番、参照配列、四種の基本塩基だけ有する、これに対してはオリゴ番号17番/18番のプライマーの組をqPCRにおいて用いた。濃縮率の比を「ΔCt」法で算出した。
【0209】
濃縮結果を図6に示す。5fCを有するDNA断片が化合物AIにより選択的に濃縮できることを見出すことができた。一つの5fC塩基のみ有するDNA配列の濃縮率は100倍以上に達した。しかしながら、対照群において、15%の5mC、10%の5hmC、又は5%5caCを含有するDNA配列は濃縮されなかった。
【0210】
同様の濃縮工程をエチル6-アジド3-オキシヘキサノエートで行った。図7に示すように、エチル6-アジド3-オキシヘキサノエートは5fCを有する核酸とアルカリメタノール溶液中で特異的に反応した。すなわち5fCを有する核酸はアジドで標識された。さらに親和性基、例えばビオチンをアルキニルとアジドとの間のクリック反応によって核酸に導入した。親和性基により5fCを有する核酸の濃縮及び分離が可能となった。
【0211】
[実施例4]
【0212】
1,3-インダンジオン及びその誘導体による「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」の実施
【0213】
1,3-インダンジオンは本発明の化合物iiiの代表的な化合物に属する。5fC塩基を含有する76塩基長のオリゴ番号19番のDNA配列を1,3-インダンジオン誘導体―化合物AIと反応させた(合成経路及びその利用について実施例3を参照)。使用した配列には2つの5fC塩基が含まれていた(5-C5fGC5fG-3、C5fは太字)。反応前後の試料をオリゴ番号8番及びオリゴ番号20番で直接増幅した。また増幅産物をオリゴ番号9番で配列決定した。リバース側の配列決定用プライマーを用いたため、配列5-CG*CG*-3(G*は太字)のG*のシグナルが配列決定において5fC部位のシグナルに相当していた。反応条件は上記と同一であった。反応産物をエタノール沈殿で回収した。
【0214】
「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」を化合物AIで実施した。その結果を図8A及び8Bに示す。化合物AIとの反応前において、二つの5fC塩基はグアニンGシグナルとして読み出された。反応後において二つの5fC塩基部位はPCRにおいてチミンTとして読み出された。このため、リバース側の配列決定用プライマーを用いた時、5fCの位置はアデニンAシグナルとして読み出された。また他のシトシンの対応する領域には影響がなかった。反応前後の配列情報を比較することで、C-T変異シグナル(フォワードプライマー配列決定)又はG-A変異シグナル(リバースプライマー配列決定)が5fCの位置として見出された。このようにして、一塩基の分解能でゲノム中の5fCの配列情報をまた容易に検出できた。
【0215】
係る方法では、5fCが化合物AIと反応した。すなわち5fCの反応産物はPCR増幅中にチミンTとして読み出された。C-T不整合部位が安定的に読み出されることで、反応前後の結果の比較を通じて、5fCの配列位置を直接に特定できる。かかる5fC配列決定方法を「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」ということができる。
【0216】
[実施例5]
【0217】
マロノニトリル反応による「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」の実施
【0218】
マロノニトリルは本発明の化合物iiの代表的な化合物に属する。5fC塩基を含有する76塩基長のオリゴ番号21番のDNA配列をマロノニトリルと反応させた(合成経路及びその利用について実施例3を参照)。使用した配列には一つだけ5fC塩基が含まれていた(5-C5fGCG-3、C5fは太字)。反応前後の試料をオリゴ番号8番及びオリゴ番号20番で直接増幅した。また増幅産物をオリゴ番号9番で配列決定した。このため、解読結果中の配列5-CGCG*-3(G*は太字)のG*のシグナルが5fCのシグナルに相当していた。反応条件は上記と同一であった。反応産物をエタノール沈殿で回収した。
【0219】
反応前後の配列をそれぞれPCR反応で直接増幅した。増幅産物に対してリバースプライマーで配列決定を行って、図9A及び9Bに示される結果を得た。マロノニトリルとの反応前において、5fC塩基はグアニンGシグナルとして読み出された。反応後において5fC塩基部位はPCRにおいてチミンTとして読み出された。このため、リバース側の配列決定用プライマーを用いた時、5fCの位置はアデニンAシグナルとして読み出された。反応前後の配列情報を比較することで、C-T変異シグナル(フォワードプライマー配列決定)又はG-A変異シグナル(リバースプライマー配列決定)が5fC塩基の位置として見出された。このようにして、一塩基の分解能で核酸中の5fCの配列情報をさらに容易に検出できた。
【0220】
係る方法では、5fCがマロノニトリルと反応した。すなわち5fCの反応産物もまたPCR増幅中にチミンTとして読み出された。かかる5fC配列決定方法もまた「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」と分類することができる。
【0221】
[実施例6]
【0222】
マロニル酸ニトリルの反応産物の蛍光性による5fCの濃度の特異的な測定
【0223】
ThermoのNanodrop micro-ultraviolet spectrophotometerを用いて、オリゴ番号1番の試料(-AGA TC5fGTAT-3)を反応後に定量したときに、化合物i、ii、及びiiiのいずれも試料に対して新たに紫外吸収ピークを呈するようにできることが分かった。図10に示すように、オリゴ番号1番のマロノニトリルとの反応産物は約330 nmの新たな紫外吸収ピークを呈する;オリゴ番号1番の1,3-インダンジオンとの反応産物は約310 nmの新たな紫外吸収ピークを呈する;オリゴ番号1番のエチルアセトアセテート又はメチルアセトアセテートとの反応産物は約350 nmの新たな紫外吸収ピークを呈する;またオリゴ番号1番のジエチルマロネートとの反応産物は約345 nmの新たな吸収ピークを呈する。新たな紫外吸収は複合多環式誘導体の形成によって検出できることから、反応産物は新たな傾向を生じることができる。実際に反応産物の新たな蛍光が蛍光分光光度計で検出できた。ここでは、マロノニトリルと5fC塩基との反応産物のみを例として用いて説明する。上述の他の活性メチレン含有化合物については、ここではこれ以上説明しない。
【0224】
マロノニトリルと5fC塩基DNAとの反応産物は良好な蛍光を呈する。図11に示すように、オリゴ番号1番を原料として用いて、マロノニトリルと反応させた。また蛍光分光光度計により、得られた反応産物を(化合物Iの範囲内にある)最大励起波長328 nmかつ最大発光波長370 nmの新たな産物と判別した。
【0225】
反応産物を定量して、濃度勾配を有する標準溶液を調製した。また、原料オリゴ番号1番の試料溶液を調製して同一の濃度勾配を得た。各種濃度勾配の二種の溶液の蛍光強度を同一条件で測定した。二種の溶液の蛍光強度の差異は原料の強度を反応産物から減算することで算出し、反応前後の蛍光強度の純増量を得た。図12A及び12Bに示すように、反応産物の濃度の増加に伴い、蛍光強度の純増量も比例した増加した(図12A)。蛍光強度の純増量を縦軸に、対応する濃度を横軸にして標準曲線をプロットしたところ、優れた直線的相関が見られた。検出の下限は10 nMにまで達していた(図12B)。
【0226】
これらの反応産物における蛍光活性化効果を用いることで5fCの濃度を定量出来る。また、これを用いて核酸中の5fC塩基を標識できる。
【0227】
[実施例7]
【0228】
化合物AIの反応がTaqαI制限酵素による基質配列の認識に及ぼす影響
【0229】
TaqαIは5-TCGA-3回文配列を有する二重鎖DNAを切断できる。また第二塩基のシトシンは5位が修飾(5mC、5hmC、5fC、5caC)されていてもよい(Shinsuke Ito, et al., Science, 2011, 333:1300-1303)。上述の三種の化合物と5-TC5fGA-3配列中の5fC塩基との反応を用いることで、5fC塩基の化学的性質が変化した。これはTaqαIの基質配列を認識する能力に変化があったもの考えられる。ここでは、化合物AIと5fC塩基との反応産物のみを例として用いる説明する。他の上記活性メチレン化合物についてはここではこれ以上説明しない。
【0230】
使用した二重鎖DNAはオリゴ番号22番である。そのフォワード鎖は5-TC5fGA-3配列を有する。また逆方向の鎖には5fC塩基が含まれていない。参照配列はオリゴ番号23番である。5fC塩基を全く有していない点を除いて、その配列はオリゴ番号22番と一致する。化合物AIをオリゴ番号22番と反応させた。クリックケミストリーによりビオチンをオリゴ番号22番と共役させた。また完全に標識された二重鎖のオリゴ番号22番の反応産物の配列を濃縮後にDTTで溶出した。その後、参照配列のオリゴ番号23番、反応前のオリゴ番号22番、及び反応させ溶出したオリゴ番号22番の配列を同時にTaqαIで1時間消化した。また4%アガロースゲルにロードして、配列が完全に消化されているかどうかを電気泳動で判定した。用いたオリゴ番号22番又はオリゴ番号23番の配列の中央に5-TC5fGA-3又は5-TCGA-3が位置しているので、消化の前の配列の大きさは70 bpであり、完全に消化された産物の大きさは35 bpである。
【0231】
図13に示すように、対照群において、5-TCGA-3(オリゴ番号23番)又は5-TC5fGA-3(オリゴ番号22番)の二重鎖を含有する試料は完全に消化される。一方で、実験群において、5-TC5fGA-3(オリゴ番号22番)と化合物AIとの反応及び濃縮により得られる試料は消化されない。これは反応産物がTaqαIによる基質の認識に影響を与えることを示す。
【0232】
[実施例8]
【0233】
化合物AIに基づく「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」によるマウス胚性幹細胞ゲノムDNA中の5fC塩基の検出
【0234】
生物学的試料(例えばゲノムDNA)において本発明の方法により5-ホルミルシトシンの分布情報と一塩基の分解能の配列情報とを検出できることを確認するために、ここで化合物AIに基づく「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」を用いて実証する。特に、上記実施例3及び4をマウス胚性幹細胞(mESC)のゲノムDNA試料に対して応用する。
【0235】
事前に処理した野生型mESCのゲノムDNAを化合物AIで24時間反応させた。DNAを回収し、クリック反応でビオチン基と共役させた。標識を有するDNA配列をストレプトアビジン磁気ビーズで分離し濃縮した。DNA断片であったその中に5fC塩基が分布しているDNA断片を得た。得られた試料を用いて第二世代の配列決定用ライブラリーの構築し、PCR増幅を行い、その後、ハイスループットの配列決定を行った。配列決定の結果を元のゲノム配列と比較した。これにより、mESCゲノム中の5fC塩基の分布情報及び5fC塩基の一塩基の分解能の配列情報を観察できる。
【0236】
図14に示すように、ゲノムDNAの3つの試料に対して順に配列決定を行ったが、その中には未反応の試料、反応後濃縮していない試料、及び濃縮した試料が含まれている。未反応の試料及び濃縮前の試料において有意な濃縮分布は見られなかったと考えられる。一方で有意な濃縮ピークが濃縮した試料の5fCの分布領域で観察された。結果から化合物AIに基づく5fC塩基含有DNA配列の濃縮が可能であることが分かった。またハイスループット配列決定データと組み合わせることで、ゲノム上の5fCの分布情報の分析に用いることができると分かった。
【0237】
5fC塩基は化合物AIとの反応後にはPCR増幅においてシトシンTとして読み出されることから、ハイスループットの配列決定により解読された配列中のC-T不整合部位の検出を通じて、一塩基の分解能における5-ホルミルシトシンの位置を検出することができる。図15は濃縮されたピークにおける代表的なC-T不整合位置を示す。各配列は一つのC-T不整合位置を有する濃縮ピークとして読み出されると考えられる。またゲノムと比較することで4個のC-T不整合位置が得られたと考えられる。ここで、3個の丸で囲んだ不整合位置はCpG対(dyad)の箇所に存在していたと考えられる。このため、「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」により実際の生物学的試料中の5fCの位置を一塩基の分解能で検出することができる。
【0238】
上記「5fC環保護による亜硫酸水素ナトリウム配列決定法」と「環形成による5fCからTへの変換促進型の配列決定法」との二つの方法を組み合わせることで、配列決定による解読における一塩基の分解能による全てのシトシンの解読情報を図16に示す表でまとめることができる。通常の配列決定では、5種の全てのシトシンはシトシンCとして読み出される;通常の亜硫酸水素ナトリウム配列決定では、5-メチルシトシン及び5-ヒドロキシメチルシトシンはCとして読み出され、一方でシトシン、5-ホルミルシトシン及び5-カルボキシルシトシンはチミンTとして読み出される。本発明によって提供される「5fC環保護による亜硫酸水素ナトリウム配列決定法」では、5fC塩基は保護されて、亜硫酸水素ナトリウム配列決定では、Tとして読み出される。このため、通常の亜硫酸水素ナトリウム配列決定法の結果と比較することで5fCの位置が特定できる。さらに、本発明の「5fC環形成による促進型の亜硫酸水素ナトリウム配列決定法」では、直接PCR増幅と配列決定を通じて、5fC塩基がチミンTとして読み出される。通常の配列決定の結果と比較することで、C-T不整合位置が一塩基の分解能の5fCの配列位置となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
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