(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243026
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ−電解質ポリマーの安定な組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 33/14 20060101AFI20171127BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20171127BHJP
C08F 120/10 20060101ALI20171127BHJP
C08F 220/10 20060101ALI20171127BHJP
C08F 293/00 20060101ALI20171127BHJP
C08F 4/00 20060101ALI20171127BHJP
H01B 1/24 20060101ALI20171127BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20171127BHJP
H01L 31/0224 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
C08L33/14
C08K3/04
C08F120/10
C08F220/10
C08F293/00
C08F4/00
H01B1/24 A
H01B5/14 A
H01L31/04 266
【請求項の数】13
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-527164(P2016-527164)
(86)(22)【出願日】2014年10月29日
(65)【公表番号】特表2016-539217(P2016-539217A)
(43)【公表日】2016年12月15日
(86)【国際出願番号】FR2014052751
(87)【国際公開番号】WO2015063417
(87)【国際公開日】20150507
【審査請求日】2016年6月29日
(31)【優先権主張番号】13.60685
(32)【優先日】2013年10月31日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(73)【特許権者】
【識別番号】505041416
【氏名又は名称】セントレ ナショナル ドゥ ラ レシェルシェ サイエンティフィーク
(73)【特許権者】
【識別番号】514058706
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ボルドー
(73)【特許権者】
【識別番号】513277212
【氏名又は名称】アンスティチュ ポリテクニーク ドゥ ボルドー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ナヴァロ, クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】スマール, ウィリアン
(72)【発明者】
【氏名】ムムタズ, ムハンマド
(72)【発明者】
【氏名】クルテ, エリク
(72)【発明者】
【氏名】ブロション, シリル
(72)【発明者】
【氏名】ハジオアノウ, ジョルジュ
【審査官】
藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/034848(WO,A1)
【文献】
特開2010−033889(JP,A)
【文献】
特表2016−535140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
・IPC
C08L 33/14
C08F 4/00
C08F 120/10
C08F 220/10
C08F 293/00
C08K 3/04
H01B 1/24
H01B 5/14
H01L 31/0224
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと電解質(コ)ポリマーを含む組成物であって、本電解質(コ)ポリマーが式I:
に対応するモノマーを含む組成物。
【請求項2】
(コ)ポリマーがホモポリマーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(コ)ポリマーが統計コポリマーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
(コ)ポリマーがブロックコポリマーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
カーボンナノチューブが単層である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
カーボンナノチューブが多層である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
コポリマーが制御ラジカル重合により調製される、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
コポリマーがニトロキシド制御ラジカル重合により調製される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
ニトロキシドがN−tert−ブチル−1−ジエチルホスホノ−2,2−ジメチルプロピルニトロキシドである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
コポリマーがRAFT制御ラジカル重合により調製される、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
RAFT剤が以下の式2:
2:
[式中、Rは、1から22個の炭素原子を含むアルキル基を表す]
に対応する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物を使用して得られる導電透明電極。
【請求項13】
OLED(有機発光ダイオード)又は光起電有機電池の分野における、請求項12に記載の透明電極の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブと電解質ポリマーとの安定な組成物に関するものであり、この電解質ポリマーはホスホニルイミド若しくはスルホニルイミド官能基、又はリン酸官能基の存在によって特徴づけられる。本発明はまた、このようなカーボンナノチューブと電解質ポリマーとの組成物を含む透明電極の製造にも関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は、高機能材料や電子機器などの多様な分野で非常に有望な材料である。カーボンナノチューブは、単層及び多層ナノチューブの形態で存在している。残念ながら既存のカーボンナノチューブは、例えば支持体上に堆積されるとき、特に光の透過を許容しない凝集体の形態であるため、単独で使用するのが難しい。しかし、ナノチューブフィブリルのサイズ及びカーボンナノチューブの固有導電率を考えると、カーボンナノチューブは透明電極を製造するための優れた候補である。
【0003】
電解質ポリマーは、有機トランジスタ製造(A. Malti, M. Berggren, X. Crispin, Appl. Phys. Lett. 2012, 100, 183-302.)、マグネタイト粒子の安定化(P.L. Golas, S. Louie, G.V. Lowry, K. Matyjaszewski, R.D. Tilton, Langmuir2010, 26, 16890-16900)のためのイオン導電体(K. Murata, S. Izuchi, Y. Yoshihisa, Electrochimica Acta 2000, 45, 1501)としてのリチウム電池、又は導電性ポリマー合成用のドーパント及び安定剤(F. Louwet, L. Groenendaal, J. Dhaen, J. Manca, J.V. Luppen, E. Verdonck, L. Leenders, Synth. Met. 2003, 135-136, 115.)のような多様な用途に幅広く使用されている。
【0004】
本出願人らは、ホモポリマー又はブロック若しくは非ブロックコポリマーの形態の、イミド若しくはスルホニルイミド官能基又はリン酸官能基を含むイオン性モノマーの特定の組み合わせが、水溶液中でのCNTの良好な分散を可能にすること、また、このような分散体を用いて得られるフィルムは、水が蒸発すると、透過率と導電性の非常に良好な妥協点を提供することを発見した。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、カーボンナノチューブと電解質(コ)ポリマーとを含む組成物に関し、本電解質(コ)ポリマーは式I:
に対応するモノマーを含む。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明において使用されるカーボンナノチューブは、単層、二層又は多層であってよい。
【0007】
本発明において使用される電解質(コ)ポリマーは、式(I)に対応する種を含む。該電解質(コ)ポリマーは、式(I)に対応する種のホモポリマー、式(I)に対応する種の少なくとも一を含むコポリマー、又は少なくとも一のブロックが式(I)に対応する一又は複数の種を含むブロックコポリマーである。
【0008】
電解質ポリマーは式(I)に対応する種の少なくとも一を含むコポリマーであり、式(I)に対応する種の割合が、コポリマーの重量に対して50質量%超、好ましくは80重量%超、より好ましくは90重量%超である。残りのモノマー種は、ラジカル重合に供することができる任意の可能なタイプのモノマーから成る。
【0009】
電解質ポリマーがブロックコポリマーであるとき、それはジブロック、トリブロック又はマルチブロックのコポリマーであってよいが、ただし、ブロックの少なくとも一が式(I)に対応する一又は複数の種を含み、その他のブロックが(メタ)アクリレート(典型的にはアクリル酸又はメタクリル酸)、アクリルアミド、メタクリルアミド、スチレン、N−ビニルピロリドン、4−ビニルビリジン、より具体的にはメチルメタクリレート、メタクリル酸及びスチレンから選択されうるモノマーを含む。
【0010】
制御ラジカル重合であれ別の方法であれ、ラジカル重合を可能にする任意の化学現象が用いられうる。好ましくはニトロキシド制御ラジカル重合又はRAFT(ラジカル付加開裂移動)、より好ましくはRAFTが使用される。
【0011】
したがって、本発明の第一の態様によれば、制御ラジカル重合は、以下の安定なフリーラジカル(1):
から誘導されるアルコキサミンを最初に用いて実施され、
式中、ラジカルR
Lは15.0342g/molを超えるモル質量を有する。ラジカルR
Lは、15.0342を超えるモル質量を有する限り、塩素、臭素又はヨウ素などのハロゲン原子であっても、直鎖状、分岐状又は環状の飽和又は不飽和炭化水素系の基(例えば、アルキルラジカル又はフェニルラジカル)であっても、又はエステル基-COOR、又はアルコキシ基-OR、又はホスホン酸エステル基-PO(OR)
2であってもよい。一価のラジカルR
Lはニトロキシドラジカルの窒素原子との相対位置βにあるといわれる。式(1)の炭素原子及び窒素原子の残りの原子価位置は、種々のラジカル、例えば、水素原子、1から10個の炭素原子を含む炭化水素系ラジカル(アルキル、アリール又はアリールアルキルラジカルなど)に結合していてもよい。式(1)の炭素原子と窒素原子が二価のラジカルを介して環を形成するように結合することも除外されない。しかし、式(1)の炭素原子と窒素原子の残りの原子価位置は、好ましくは一価のラジカルに結合している。ラジカルR
Lは、好ましくは、30g/molを超えるモル質量を有する。ラジカルR
Lは、例えば、40から450g/molのモル質量を有してもよい。例として、ラジカルR
Lは、ホスホリル基を含むラジカルであってもよく、場合により前記ラジカルR
Lは、以下の式:
により表され、
式中、R
3及びR
4(これらは同一でも異なっていてもよい)は、アルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アリール、アラルキルオキシ、ペルフルオロアルキル及びアラルキルラジカルから選択され、1から20個の炭素原子を含みうる。R
3及び/又はR
4はまた、塩素又は臭素又はフッ素又はヨウ素原子のようなハロゲン原子であってもよい。ラジカルR
Lはまた、フェニルラジカル又はナフチルラジカルについては少なくとも一の芳香環を含んでもよく、場合によって後者は、例えば1から4個の炭素原子を含むアルキルラジカルで置換されている。
【0012】
より具体的には、以下の安定なラジカルから誘導されるアルコキサミンが好ましい。:
− N−tert−ブチル−1−フェニル−2−メチルプロピルニトロキシド
− N−tert−ブチル−1−(2−ナフチル)−2−メチルプロピルニトロキシド
− N−tert−ブチル−1−ジエチルホスホノ−2,2−ジメチルプロピルニトロキシド
− N−tert−ブチル−1−ジベンジルホスホノ−2,2−ジメチルプロピルニトロキシド
− N−フェニル−1−ジエチルホスホノ−2,2−ジメチルプロピルニトロキシド
− N−フェニル−1−ジエチルホスホノ−1−メチルエチルニトロキシ、
− N−(1−フェニル−2−メチルプロピル)−1−ジエチルホスホノ−1−メチルエチルニトロキシド
− 4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ
− 2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノキシ
【0013】
制御ラジカル重合で使用されるアルコキサミンは、モノマーの配列の良好な制御を可能することができなくてはならない。それゆえ、アルコキサミンは、特定のモノマーの良好な制御を可能にするわけではない。例えば、TEMPOから誘導されるアルコキサミンは限られた数のモノマーしか制御できず、2,2,5−トリメチル−4−フェニル−3−アザヘキサン 3−ニトロキシド(TIPNO)から誘導されるアルコキサミンの場合も同様である。一方、式(1)に対応するニトロキシドから誘導される他のアルコキサミン、とりわけ式(2)に対応するニトロキシドから誘導されるもの、さらに具体的にはN−tert−ブチル−1−ジエチルホスホノ−2,2−ジメチルプロピルニトロキシドから誘導されるものは、これらのモノマーの制御ラジカル重合を多数のモノマーにまで拡大することが可能である。
【0014】
加えて、アルコキサミンの開始温度(opening temperature)も経済的要因に影響を及ぼす。工業的な問題を最小にするためには低い温度を用いるのが好ましい。したがって、式(1)に対応するニトロキシドから誘導されるアルコキサミン、とりわけ式(2)に対応するニトロキシドから誘導されるもの、より具体的にはN−tert−ブチル−1−ジエチルホスホノ−2,2−ジ-メチル-プロピルニトロキシドから誘導されるもの、TEMPO又は2,2,5−トリメチル−4−フェニル−3−アザヘキサン 3−ニトロキシド(TIPNO)から誘導させるものが好ましい。
【0015】
本発明の第二の態様(こちらが好ましい方法であるが)によれば、制御ラジカル重合はRAFTを介して、より具体的には以下の式2:
2:
[式中、Rは、1から22個の炭素原子、好ましくは10から18個の炭素原子を含むアルキル基を表す]
に対応するRAFT剤を用いて行われる。
【0016】
ブロックコポリマーの合成は、最初にマクロ開始剤の高分子電解質ブロックを調製することにより実施され、次いで第二段階で、第二ブロックのモノマーを重合してもよく、任意選択的に、他のモノマーを考慮して他のブロックを合成するための他の工程を伴ってもよい。マクロ開始剤ブロックはまた、任意の他の化学現象(アニオン性、カチオン性、開環、重縮合)によって調製することもでき、種(I)を含むモノマーのその後のプライミングを可能にする一又は二の末端基を含む。
【0017】
したがって、例えばジブロックコポリマーの場合は親水性−親水性、親水性−疎水性、アニオン性−中性、アニオン性−アニオン性、アニオン性−カチオン性又はカチオン性−中性のジブロックというように、多数の組み合わせを得ることができる。
【0018】
このような電解質ポリマーは、1:10から10:1、好ましくは1:10から1:1の範囲の電解質ポリマー−CNTの質量比で、単層又は多層カーボンナノチューブを分散させるために実用に供される。これらの組成物の水性分散体は安定である。水性分散体は、例えばスプレーコーティング、又は広い面にはロールツーロールといった技法により、薄膜フィルムの形態で配置することができる。これらの調製物由来のフィルムは、優れた電気伝導性、高い光透過率、優れた熱安定性及び優れた機械的特性を有する。このようなフィルムは、有利には、光電子工学、特にOLED(有機発光ダイオード)又は光起電有機電池の分野で、透明電極としてインジウムチタン酸化物(ITO)に取って代わりうる。
【0019】
また、このような電解質ポリマーは、燃料電池に有用な膜の製造においてイオン導電体として又はCNT以外の粒子のための安定剤として、単独、すなわちCNTなしでも使用されうる。