(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記要素データ構成部は、前記m個の要素データの仮定値から前記所定の情報に基づいて算出される前記n個の検出データの仮定値が、前記n個の検出データへ近づくように、前記m個の要素データの仮定値を前記所定の情報に基づいて修正するデータ構成処理を繰り返す
ことを特徴とする請求項1に記載の入力装置。
前記要素データ構成部は、前記第1処理において、一の前記区画における一の前記電極の前記重なり部分の前記面積比に応じた定数データを一の成分とし、前記m個の区画及び前記n個の電極に対応したm×n個の成分からなる第1変換行列に基づいて、前記m個の要素データの仮定値を成分とする行列を、前記n個の検出データの仮定値を成分とする行列に変換する
ことを特徴とする請求項3に記載の入力装置。
前記要素データ構成部は、前記第3処理において、一の前記区画における一の前記電極の前記重なり部分の前記面積比に応じた定数データを一の成分とし、前記m個の区画及び前記n個の電極に対応したm×n個の成分からなる第2変換行列に基づいて、前記n個の第1係数を成分とする行列を、前記m個の第2係数を成分とする行列に変換する
ことを特徴とする請求項3に記載の入力装置。
前記要素データ構成部は、前記第1処理において、一の前記区画における一の前記電極の前記重なり部分の前記面積比に応じた定数データを一の成分とし、前記m個の区画及び前記k個の電極に対応したm×k個の成分からなる第1部分変換行列に基づいて、前記m個の要素データの仮定値を成分とする行列を、前記k個の検出データの仮定値を成分とする行列に変換する
ことを特徴とする請求項7に記載の入力装置。
前記要素データ構成部は、前記第3処理において、一の前記区画における一の前記電極の前記重なり部分の前記面積比に応じた定数データを一の成分とし、前記m個の区画及び前記k個の電極に対応したm×k個の成分からなる第2部分変換行列に基づいて、前記k個の第1係数を成分とする行列を、前記m個の第2係数を成分とする行列に変換する
ことを特徴とする請求項7に記載の入力装置。
前記要素データ構成部は、初回の前記データ構成処理において、前記第1処理を省略し、前記n個の検出データの仮定値として所定のn個の初期値を用いて前記第2処理を行う
ことを特徴とする請求項3乃至5の何れか一項に記載の入力装置。
前記要素データ構成部は、初回の前記データ構成処理において、前記m個の要素データの仮定値として、直前に構成した少なくとも1組のm個の要素データに基づくm個の初期値を用いて前記第1処理を行う
ことを特徴とする請求項3乃至5の何れか一項に記載の入力装置。
前記要素データ構成部は、初回の前記データ構成処理における最初の前記部分データ構成処理において、前記第1処理を省略し、前記k個の検出データの仮定値として所定のk個の初期値を用いて前記第2処理を行う
ことを特徴とする請求項7乃至9の何れか一項に記載の入力装置。
前記要素データ構成部は、初回の前記データ構成処理における最初の前記部分データ構成処理において、前記第1処理における前記m個の要素データの仮定値として、直前に構成した少なくとも1組のm個の要素データに基づくm個の初期値を用いる
ことを特徴とする請求項7乃至9の何れか一項に記載の入力装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図18Aは、自己容量型センサのイメージセンシング方式の構成を示す図である。
図18Aに示すように、イメージセンシング方式では、操作面上に行列状に並べられた検出電極101の自己容量の変化を検出することにより、操作面上における自己容量変化の2次元的な分布を表す2次元データが得られる。そのため、操作面上に複数の物体が接触している場合でも、それぞれの正しい座標を計算できる。
【0006】
しかしながら、イメージセンシング方式では、行列の全要素と同じ数(
図18Aの例では12個)の電極を検出回路102に接続する必要があるため、プロファイルセンシング方式に比べて回路規模が大きくなる。また、検出電極の数が多くなると、全ての検出電極をスキャンするのに要する時間が長くなり、定期的なセンシング処理における1回あたりのスキャン時間やスキャンの回数を減らさなければならなくなるため、高感度の静電容量の検出が難しくなる。
【0007】
他方、
図18Bは、自己容量型センサのプロファイルセンシング方式の構成を示す図である。プロファイルセンシング方式では、一以上の方向(
図18Bの例では縦と横の2方向)に伸びる検出電極103が自己容量の検出に用いられる。そのため、イメージセンシング方式に比べて検出電極数が少なくなり、回路規模が小さくなる。検出電極の数が少ないことから、1回あたりのスキャン時間やスキャンの回数を増やせるため、静電容量の検出感度を高めやすい。また、検出電極のサイズが大きいことも、高感度の容量検出において有利である。
【0008】
しかしながら、プロファイルセンシング方式では、操作面上における自己容量変化の2次元的な分布を表す2次元データを得ることができない。そのため、複数の物体が操作面に接触している場合、実際には接触していない偽の座標(ゴースト)が物体の接触位置の座標として誤って認識されてしまうという問題がある。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、操作面への物体の近接に応じた静電容量の変化を検出するための電極の数を減らしつつ、操作面上における静電容量の2次元的な分布を表すデータを取得できる入力装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、操作面への物体の近接に応じた情報を入力する入力装置に関するものであり、この入力装置は、前記操作面を区分するm個の区画の各々と少なくとも1つが重なり部分を持つように前記操作面上に配設されたn個(nはmより小さい自然数を示す。)の電極と、前記操作面に近接する物体と前記n個の電極とが形成する第1静電容量に応じたn個の検出データを出力する静電容量検出部と、一の前記区画内に位置する一以上の前記電極の前記重なり部分がそれぞれ前記物体との間に形成する第2静電容量を合成した第3静電容量に応じた要素データを、前記m個の区画についてそれぞれ構成する要素データ構成部とを備える。前記n個の電極の各々は、前記重なり部分を持つ前記区画の組み合わせ、及び、同一の前記区画に含まれる前記重なり部分の面積の少なくとも一方において、他の前記電極と異なる。前記要素データ構成部は、前記m個の区画の各々において同一区画内に位置する個々の前記電極の前記重なり部分と当該重なり部分の全体との面積比に関する所定の情報と、前記静電容量検出部から出力される前記n個の検出データとに基づいて、前記m個の区画に対応するm個の前記要素データを構成する
【0011】
上記の構成によれば、一の前記区画内に位置する一の前記電極の前記重なり部分と前記物体との間に形成される前記第2静電容量は、当該重なり部分の面積にほぼ比例する。前記第3の静電容量は、前記第2静電容量を合成したものであるため、一の前記区画内に位置する全ての前記重なり部分の面積にほぼ比例する。従って、前記所定の情報に含まれる前記面積比に関する情報は、一の前記区画における一の前記電極の前記第2静電容量と前記第3静電容量との容量比に関する情報を与える。
また、一の前記電極と前記物体とが形成する前記第1静電容量は、当該一の電極に属する全ての前記重なり部分と前記物体との第2静電容量を合成したものとみなされるため、前記第1静電容量に応じた前記検出データは、1つ若しくは複数の前記区画における当該一の電極の前記第2静電容量に関する情報を与える。
そして、前記n個の電極の各々は、前記重なり部分を持つ前記区画の組み合わせが他の電極と異なるか、同一の前記区画に含まれる前記重なり部分の面積が他の電極と異なる。そのため、前記n個の電極について得られる前記n個の検出データは、前記m個の区画における各電極の前記第2静電容量に関する独立した情報をもたらす。
前記要素データ構成部では、前記n個の検出データに含まれる前記m個の区画の各電極の前記第2静電容量に関する情報と、前記所定の情報によって与えられる前記m個の区画の各電極の前記容量比に関する情報とに基づいて、前記m個の区画の前記第3静電容量に応じた前記m個の要素データが構成される。
従って、前記m個の区画より少ない前記n個の電極を用いて、前記m個の区画における前記物体との近接の状態を示す前記m個の要素データが得られる。
【0012】
好適に、前記要素データ構成部は、前記m個の要素データの仮定値から前記所定の情報に基づいて算出される前記n個の検出データの仮定値が、前記n個の検出データへ近づくように、前記m個の要素データの仮定値を前記所定の情報に基づいて修正するデータ構成処理を繰り返してよい。
前記データ構成処理を繰り返すことにより、構成される前記m個の要素データの精度が向上する。
【0013】
好適に、第1の発明に係る上記入力装置において、前記データ構成処理は、前記m個の要素データの仮定値を、前記所定の情報に基づいて、前記n個の検出データの仮定値に変換する第1処理と、前記n個の検出データの仮定値が前記n個の検出データと等しくなるために前記n個の検出データの仮定値に乗じるべき倍率を示すn個の第1係数を算出する第2処理と、前記n個の第1係数を、前記所定の情報に基づいて、前記m個の要素データに乗じるべき倍率を示すm個の第2係数に変換する第3処理と、前記m個の要素データの仮定値を、前記m個の第2係数に基づいて修正する第4処理とを含んでよい。
この場合、前記要素データ構成部は、前記第1処理において、一の前記区画における一の前記電極の前記重なり部分の前記面積比に応じた定数データを一の成分とし、前記m個の区画及び前記n個の電極に対応したm×n個の成分からなる第1変換行列に基づいて、前記m個の要素データの仮定値を成分とする行列を、前記n個の検出データの仮定値を成分とする行列に変換してよい。
また、この場合、前記要素データ構成部は、前記第3処理において、一の前記区画における一の前記電極の前記重なり部分の前記面積比に応じた定数データを一の成分とし、前記m個の区画及び前記n個の電極に対応したm×n個の成分からなる第2変換行列に基づいて、前記n個の第1係数を成分とする行列を、前記m個の第2係数を成分とする行列に変換してもよい。
上記の構成によれば、前記操作面に複数の物体が近接した場合でも、それぞれの物体の近接状態に対応した前記操作面上の前記第3静電容量の分布を忠実に表した前記m個の要素データが構成される。
【0014】
上記第1の発明に係る入力装置において、前記要素データ構成部は、初回の前記データ構成処理において、前記第1処理を省略し、前記n個の検出データの仮定値として所定のn個の初期値を用いて前記第2処理を行ってよい。
前記第1処理を省略することにより、処理速度が向上する。
【0015】
また、上記第1の発明に係る入力装置において、前記要素データ構成部は、初回の前記データ構成処理において、前記m個の要素データの仮定値として、直前に構成した少なくとも1組のm個の要素データに基づくm個の初期値を用いて前記第1処理を行ってよい。
直前に構成された要素データに基づく初期値を用いて前記第1処理を行うことにより、構成される前記m個の要素データの精度が向上する。
【0016】
好適に、第2の発明に係る上記入力装置において、前記n個の電極は、複数の電極群に分類されていてよい。前記要素データ構成部は、一の前記データ構成処理において、前記複数の電極群と一対一に対応する複数の部分データ構成処理を順に行ってよい。k個(kはnより小さい自然数を示す。)の前記電極からなる一の前記電極群に対応した一の前記部分データ構成処理において、前記要素データ構成部は、前記m個の要素データの仮定値から前記所定の情報に基づいて算出されるk個の検出データの仮定値が、前記k個の電極と前記物体とが形成する第1静電容量に応じたk個の検出データへ近づくように、前記m個の要素データの仮定値を前記所定の情報に基づいて修正してよい。
例えば、前記k個の電極からなる前記一の電極群に対応した前記一の部分データ構成処理は、前記m個の要素データの仮定値を、前記所定の情報に基づいて、前記k個の検出データの仮定値に変換する第1処理と、前記k個の検出データの仮定値が前記k個の検出データと等しくなるために前記k個の検出データの仮定値に乗じるべき倍率を示すk個の第1係数を算出する第2処理と、前記k個の第1係数を、前記所定の情報に基づいて、前記m個の要素データに乗じるべき倍率を示すm個の第2係数に変換する第3処理と、前記m個の要素データの仮定値を、前記m個の第2係数に基づいて修正する第4処理とを含んでよい。
この場合、前記要素データ構成部は、前記第1処理において、一の前記区画における一の前記電極の前記重なり部分の前記面積比に応じた定数データを一の成分とし、前記m個の区画及び前記k個の電極に対応したm×k個の成分からなる第1部分変換行列に基づいて、前記m個の要素データの仮定値を成分とする行列を、前記k個の検出データの仮定値を成分とする行列に変換してよい。
また、この場合、前記要素データ構成部は、前記第3処理において、一の前記区画における一の前記電極の前記重なり部分の前記面積比に応じた定数データを一の成分とし、前記m個の区画及び前記k個の電極に対応したm×k個の成分からなる第2部分変換行列に基づいて、前記k個の第1係数を成分とする行列を、前記m個の第2係数を成分とする行列に変換してよい。
上記の構成においても、前記操作面に複数の物体が近接した場合の前記第3静電容量の分布を忠実に表した前記m個の要素データが構成される。
【0017】
上記第2の発明に係る入力装置において、前記要素データ構成部は、初回の前記データ構成処理における最初の前記部分データ構成処理において、前記第1処理を省略し、前記k個の検出データの仮定値として所定のk個の初期値を用いて前記第2処理を行ってよい。
前記第1処理を省略することにより、処理速度が向上する。
【0018】
上記第2の発明に係る入力装置において、前記要素データ構成部は、初回の前記データ構成処理における最初の前記部分データ構成処理において、前記第1処理における前記m個の要素データの仮定値として、直前に構成した少なくとも1組のm個の要素データに基づくm個の初期値を用いてよい。
直前に構成された要素データに基づく初期値を用いて前記第1処理を行うことにより、構成される前記m個の要素データの精度が向上する。
【0019】
好適に、同一の前記区画内に位置する複数の前記電極の前記重なり部分は、互いに電気的に接続された複数の電極片をそれぞれ含んでよい。同一の前記区画内に位置する複数の前記電極片の各々は、異なる前記電極に含まれた前記電極片に隣接してよい。
これにより、前記区画内に含まれる各電極の前記重なり部分の前記第2静電容量と前記第3静電容量との比が、前記区画内における前記物体の近接位置に応じてばらつきを生じ難くなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、操作面への物体の近接に応じた静電容量の変化を検出するための電極の数を減らしつつ、操作面上における静電容量の2次元的な分布を表すデータを取得できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の実施形態に係る入力装置の構成の一例を示す図である。
図1に示す入力装置は、センサ部10と、処理部20と、記憶部30と、インターフェース部40を有する。本実施形態に係る入力装置は、センサが設けられた操作面に指やペンなどの物体を接触若しくは近接させることによって、その接触若しくは近接の位置に応じた情報を入力する装置である。なお、本明細書における「近接」とは、接触した状態で近くにあることと、接触しない状態で近くにあることを両方含む。
【0023】
[センサ部10]
センサ部10は、操作面に配設されたn個の電極E
1〜E
nと、この電極E
1〜E
nに指やペンなどの物体が近づくことによって物体と電極E
1〜E
nとの間に形成される静電容量(第1静電容量)を検出する静電容量検出部12を有する。
【0024】
n個の電極E
1〜E
nが配設された操作面は、後述する要素データ(P
1〜P
m)の構成単位となるm個(m>n)の区画A
1〜A
mに区分されている。以下では、電極E
1〜E
nの任意の1つを代表して「電極E」や「電極E
i」(1≦i≦n)と記す場合がある。また、区画A
1〜A
mの任意の1つを代表して「区画A」や「区画A
j」(1≦j≦m)と記す場合がある。
【0025】
電極E
1〜E
nは、区画A
1〜A
mに比べて少ないが、各区画Aにおいて1以上の電極Eが重なり部分を持つように配設されている。
【0026】
また、電極E
1〜E
nは、重なり部分を持つ区画Aの組み合わせがそれぞれ異なるように配設される。例えば電極E
1が区画
A1及び
A2に重なり部分を持つ場合、他の電極Eは(
A1,
A2)以外の組み合わせの区画Aにおいて重なり部分を持つように配設される。なお、重なり部分を持つ区画Aの組み合わせが同一となる電極Eが複数存在する場合には、それらの電極Eにおいて、少なくとも一部の区画内における重なり部分の面積が異なるようにしてもよい。
すなわち、電極E
1〜E
nは、区画A
1〜A
mとの重なり方のパターンがそれぞれ異なるように操作面上に配設される。
【0027】
静電容量検出部12は、各電極Eを順番に駆動して、電極Eと物体との間に形成される静電容量(第1静電容量)に応じた電荷をサンプリングし、そのサンプリング結果に応じた検出データを出力する。
【0028】
静電容量検出部12は、具体的には、駆動回路と、静電容量−電圧変換回路(CV変換回路)と、A/D変換回路を含む。駆動回路は、処理部20の制御に従って電極E
1〜E
nを順番に選択し、当該選択した電極Eに所定振幅のパルス電圧を繰り返し印加して、電極Eと物体との間に形成される静電容量(第1静電容量)を繰り返し充電又は放電する。CV変換回路は、この充電又は放電に伴って電極Eにおいて伝送される電荷(若しくはこれに比例する電荷)を参照用のキャパシタに移送して蓄積し、参照用のキャパシタに発生する電圧に応じた信号を出力する。A/D変換回路は、処理部20の制御に従って、CV変換回路の出力信号を所定の周期でデジタル信号に変換し、検出データとして出力する。
以降の説明では、電極E
iと物体との静電容量(第1静電容量)に応じて静電容量検出部12から出力される検出データを「S
i」(1≦i≦n)とする。静電容量検出部12は、n個の電極E
1〜E
nに対応したn個の検出データS
1〜S
nを出力する。
【0029】
[処理部20]
処理部20は、入力装置の全体的な動作を制御する回路であり、例えば、記憶部30に格納されるプログラムの命令コードに従って処理を行うコンピュータや、特定の機能を実現するロジック回路を含んで構成される。処理部20の処理は、その全てをコンピュータにおいてプログラムに基づいて実現してもよいし、その一部若しくは全部を専用のロジック回路で実現してもよい。
【0030】
図1の例において、処理部20は、タイミング制御部21と、要素データ構成部22と、座標計算部23を有する。
【0031】
タイミング制御部21は、センサ部10における検出のタイミングを制御する。具体的には、タイミング制御部21は、静電容量検出部12における検出対象の電極Eの選択とパルス電圧の発生、電荷のサンプリング、A/D変換による検出データの生成が適切なタイミングで行われるように、静電容量検出部12を制御する。
【0032】
要素データ構成部22は、静電容量検出部12から出力されるn個の検出データS
1〜S
nに基づいて、m個の区画A
1〜A
mの各々における電極Eと物体との静電容量に応じたm個の要素データP
1〜P
mを構成する。
【0033】
すなわち、要素データ構成部22は、一の区画A
jに位置する一以上の電極Eの重なり部分がそれぞれ物体との間に形成する第2静電容量CE
ijを合成した第3静電容量CA
jに応じた要素データP
jを、m個の区画A
1〜A
mについてそれぞれ構成する。
【0034】
m個の区画A
1〜A
mの各々における、同一区画A
j内に位置する個々の電極E
iの重なり部分E
ijと当該重なり部分の全体との面積比に関する情報(定数データK
ij)は、n個の電極E
1〜E
nの配設パターンによって決まる既知の情報である。要素データ構成部22は、この面積比に関する既知の情報と、静電容量検出部12から出力されるn個の検出データS
1〜S
nとに基づいて、m個の区画A
1〜A
mに対応するm個の要素データP
1〜P
mを構成する。
【0035】
図2は、区画A
jにおける電極E
iの重なり部分E
ijと、その重なり部分E
ijが物体との間に形成する静電容量CE
ijを図解した図である。
図2における「E
ij」は、区画A
jに対して電極E
iが持つ重なり部分を示す。また「CE
ij」は、電極E
iの重なり部分E
ijが指等の物体1との間に形成する静電容量(第2静電容量)を示す。
【0036】
区画A
jに含まれる電極Eの重なり部分の全体と物体1との間に形成される静電容量を「第3静電容量CA
j」とした場合、この第3静電容量CA
jの変化ΔCA
jは、区画A
jにおける各電極の第2静電容量変化ΔCE
ijを加算したものとほぼ等しくなるため、次の式で表される。
【0038】
式(1)において、区画A
jと電極E
iとが重なり部分を持たない場合は、第2静電容量変化ΔCE
ijをゼロとしている。
【0039】
電極E
iと物体との間に形成される静電容量を「第1静電容量CE
i」とした場合、この第1静電容量CE
iの変化ΔCE
iは、電極E
iに属する全ての重なり部分E
ijの第2静電容量の変化ΔCE
ijを加算したものとほぼ等しくなるため、次の式で表される。
【0041】
一つの重なり部分E
ijと物体との間に形成される第2静電容量CE
ijは、この重なり部分E
ijの面積にほぼ比例する。また、区画A
jに含まれる電極Eの重なり部分の全体と物体1との間に形成される第3静電容量CA
j(式(1))は、区画A
jに含まれる全電極Eの重なり部分の面積にほぼ比例する。従って、同一区画A
j内に位置する一つの電極E
iの重なり部分E
ijと全ての重なり部分との面積比に関する既知の定数データK
ijは、次式において表すように、第2静電容量変化ΔCE
ijと第3静電容量変化ΔCA
jとの比を表す。
【0043】
式(3)の関係を用いると、式(2)は次式のように表される。
【0045】
式(4)は、行列を用いて次式のように表される。
【0047】
検出データS
1〜S
nが第1静電容量変化ΔCE
1〜ΔCE
nに比例し、要素データP
1〜P
mが第3静電容量変化ΔCA
1〜ΔCA
mに比例するものとすると、式(5)は次式のように改めることが可能である。
【0049】
式(6)の左辺におけるn×mの行列(第1変換行列K)は、n個の電極E
1〜E
nの配設パターンによって決まる既知の情報である。
【0050】
ここで、m個の要素データP
1〜P
mの仮定値を「仮要素データPA
1〜PA
m」とし、n個の検出データS
1〜S
nの仮定値を「仮検出データSA
1〜SA
n」とする。仮検出データSA
1〜SA
nは、式(6)と同様に、第1変換行列Kと仮要素データPA
1〜
PAmを用いて次式のように表される。
【0052】
要素データ構成部22は、m個の仮要素データPA
1〜PA
mから既知の情報(第1変換行列K)に基づいて式(7)のように算出されるn個の仮検出データSA
1〜SA
nが、静電容量検出部12において出力されるn個の検出データS
1〜S
nへ近づくように、m個の仮要素データPA
1〜PA
mを既知の情報(定数データK
ij)に基づいて修正するデータ構成処理を繰り返す。
【0053】
m個の仮要素データPA
1〜PA
mを修正するために繰り返し実行されるデータ構成処理は、具体的には、4つの処理(第1処理〜第4処理)を含む。
【0054】
まず第1処理において、要素データ構成部22は、m個の仮要素データPA
1〜PA
mを、既知の情報(第1変換行列K)に基づいて、n個の仮検出データSA
1〜SA
nに変換する(式(7))。
【0055】
次に第2処理において、要素データ構成部22は、仮検出データSA
1〜SA
nが検出データS
1〜S
nと等しくなるために仮検出データSA
1〜SA
nに乗じるべき倍率を示す第1係数α
1〜α
nを算出する。第1係数α
iは、次の式で表される。
【0057】
第2処理における第1係数α
1〜α
nの計算は、行列を用いて次式のように表される。
【0059】
次に第3処理において、要素データ構成部22は、m個の仮要素データPA
1〜PA
mに乗じるべき倍率を示すm個の第2係数β
1〜β
mを算出する。要素データ構成部22は、区画パターンと電極パターンにより決まる既知の情報(定数データK
ij)に基づいて、n個の第1係数α
1〜α
nをm個の第2係数β
1〜β
mに変換する。
【0060】
式(3)の関係から、一つの区画A
jにおける電極E
iの重なり部分E
ijの第2静電容量CE
ijは、その区画A
jの全体の第3静電容量CA
jに対して、定数データK
ijに相当する割合を有する。従って、区画A
jの要素データP
j(第3静電容量CA
j)に乗じる倍率は、電極E
iの検出データS
i(第1静電容量CE
i)に対して、定数データK
ijに比例した寄与をもたらすと推定できる。このことから、一つの区画A
jにおける第2係数β
jは、各電極E
iの第1係数α
iに定数データK
ijの重み付けを与えて平均化した値に近似できる。第2係数β
jは、この近似によって、次式のように表される。
【0062】
式(10)は、行列を用いて、次式のように表される。
【0064】
式(11)の左辺におけるm×nの行列(第2変換行列)は、n個の電極E
1〜E
nの配設パターンによって決まる既知の情報であり、第1変換行列K(式(5))の転置行列である。
【0065】
次に第4処理において、要素データ構成部22は、第3処理で得られたm個の第2係数β
1〜β
mに基づいて、現在の仮要素データPA
1〜PA
mを新しい仮要素データPA’
1〜PA’
mに修正する。
【0067】
第4処理における仮要素データPA’
1〜PA’
mの計算は、行列を用いて次式のように表される。
【0069】
以上が、要素データ構成部22の説明である。
【0070】
座標計算部23は、要素データ構成部22によって構成された要素データP
1〜P
mに基づいて、物体(指)が近接した操作面上の座標を計算する。例えば、座標計算部23は、要素データP
1〜P
mにより表される二次元データを2値化して、物体が近接していることを示すデータが集合した領域を、個々の物体の近接領域として特定する。そして、座標計算部23は、特定した領域の横方向と縦方向のそれぞれについてプロファイルデータを作成する。横方向のプロファイルデータは、操作面の縦方向における一群の要素データP
jの和を1列毎に算出し、その要素データP
jの和を操作面の横方向の順番に配列したものである。縦方向のプロファイルデータは、操作面の横方向における一群の要素データP
jの和を1行毎に算出し、その要素データP
jの和を操作面の縦方向の順番に配列したものである。座標計算部23は、この横方向のプロファイルデータと縦方向のプロファイルデータのそれぞれについて、要素データP
jのピークの位置や重心の位置を演算する。この演算により求められた横方向の位置と縦方向の位置が、操作面上において物体が近接した座標を表す。座標計算部23は、このような演算により求めた座標のデータを、記憶部30の所定の記憶エリアに格納する。
【0071】
[記憶部30]
記憶部30は、処理部20において処理に使用される定数データや変数データを記憶する。処理部20がコンピュータを含む場合、記憶部30は、そのコンピュータにおいて実行されるプログラムを記憶してもよい。記憶部30は、例えば、DRAMやSRAMなどの揮発性メモリ、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリ、ハードディスクなどを含んで構成される。
【0072】
[インターフェース部40]
インターフェース部40は、入力装置と他の制御装置(入力装置を搭載する情報機器のコントロール用ICなど)との間でデータをやり取りするための回路である。処理部20は、記憶部30に記憶される情報(物体の座標情報、物体数など)をインターフェース部40から図示しない制御装置へ出力する。また、インターフェース部40は、処理部20のコンピュータにおいて実行されるプログラムを不図示のディスクドライブ装置(非一時的記録媒体に記録されたプログラムを読み取る装置)やサーバなどから取得して、記憶部30にロードしてもよい。
【0073】
ここで、上述した構成を有する
図1に示す入力装置の動作について、
図3のフローチャートを参照して説明する。例えば入力装置は、
図3のフローチャートに示す動作を一定周期ごとに反復し、操作面上における物体の近接位置の情報を取得する。
【0074】
ST100:
処理部20は、センサ部10の静電容量検出部12から、操作面上における各電極Eの第1静電容量変化ΔCE
iを示す検出データS
1〜S
nを取得する。
【0075】
ST105:
処理部20は、ステップST100において取得した検出データS
1〜S
nが、操作面に物体が近接したことを示す所定の閾値を超えているか否か判定する。閾値を超える検出データS
iが含まれる場合、処理部20は次のステップST110に移行し、閾値を超える検出データS
iが含まれない場合は処理を終了する。
【0076】
ST110:
処理部20の要素データ構成部22は、ステップST100において取得したn個の検出データS
1〜S
nに基づいて、m個の要素データP
1〜P
mを構成する。
【0077】
ST115:
処理部20の座標計算部23は、ステップST110において構成されたm個の要素データP
1〜P
mに基づいて、操作面に近接した各物体の座標を計算する。
【0078】
図4は、
図3に示すフローチャートにおける要素データP
1〜P
mの構成処理(ST110)について説明するためのフローチャートである。
【0079】
ST200:
要素データ構成部22は、後述のループ処理において用いられる仮要素データPA
1〜PA
mの初期値を取得する。要素データ構成部22は、例えば予め記憶部30に格納された定数データを初期値として取得する。
【0080】
ST205:
要素データ構成部22は、ステップST200において取得した初期値を用いて、仮要素データPA
1〜PA
mから算出される仮検出データSA
1〜SA
nが検出データS
1〜S
nへ近づくように、仮要素データPA
1〜PA
mを修正する処理(データ構成処理)を繰り返す。ステップST205のデータ構成処理には、4つのステップ(ST220,ST225,ST230,ST235)が含まれる。
【0081】
まずステップST220において、要素データ構成部22は、既知の情報(第1変換行列K)に基づいて、仮要素データPA
1〜PA
mを仮検出データSA
1〜SA
nに変換する(式(7))。
【0082】
次にステップST225において、要素データ構成部22は、仮検出データSA
1〜SA
nが検出データS
1〜S
nと等しくなるために仮検出データSA
1〜SA
nに乗じるべき倍率を示す第1係数α
1〜α
nを算出する(式(8),(9))。
【0083】
更にステップST230において、要素データ構成部22は、n個の第1係数α
1〜α
nを、既知の情報(第2変換行列K
T)に基づいて、m個の仮要素データPA
1〜PA
m要素データに乗じるべき倍率を示すm個の第2係数β
1〜β
mに変換する(式(10),(11))。
【0084】
そしてステップST235において、要素データ構成部22は、ステップST230で得られたm個の第2係数β
1〜β
mに基づいて、現在の仮要素データPA
1〜PA
mを新しい仮要素データPA’
1〜PA’
mに変換する(式(12),(13))。
【0085】
ST240:
データ構成処理(ST205)が完了すると、要素データ構成部22はそれまでの繰り返し回数を確認し、規定回数に達していない場合は、再びデータ構成処理(ST205)を繰り返す。繰り返し回数が規定回数に達した場合、要素データ構成部22は、最後のデータ構成処理(ST205)によって修正された仮要素データPA
1〜PA
mを、正規の要素データP
1〜P
mとして確定し、記憶部30の所定の記憶エリアに格納する。
【0086】
次に、本実施形態に係る入力装置において検出データS
1〜S
nから要素データP
1〜P
mを構成する処理の更に具体的な例について、
図5〜
図7を参照して説明する。
【0087】
図5Aは、センサ部10の操作面上に設定される区画パターンの一例を示す図である。
図5Aの例では、行列状のパターンによって6つの区画A
1〜A
6が設定されている。この行列パターンにおいて、縦方向は2行、横方向は3列となっている。本例では、この2×3個の区画A
1〜A
6に対応した2×3個の要素データP
1〜P
6が構成される。
【0088】
図5Bは、センサ部10の操作面上に配設される電極パターンの一例を示す図である。
図5Bの例では、2×3個の行列状の区画パターン中に5つの電極E
1〜E
5が配設される。電極E
1は横方向の3つの区画A
1〜A
3にまたがり、電極E
2は横方向の3つの区画A
4〜A
6にまたがる。電極E
3は縦方向の2つの区画
A1,
A4にまたがり、電極E
4は縦方向の2つの区画
A2,
A5にまたがり、電極E
5は縦方向の2つの区画
A3,
A6にまたがる。
【0089】
また、
図5Bの例において、1つの電極E
i(1≦i≦5)が1つの区画A
j(1≦j≦6)において占める面積は、区画A
jの全電極の面積に対して2分の1となっている。すなわち、各区画Aを2つの電極Eが2分の1ずつ占有している。
【0090】
図6は、
図5Bに示す電極パターンにおける個々の電極E
1〜E
5を図解した図である。
図6において示すように、各電極Eの重なり部分には、縦方向に伸びた複数の電極片EPが櫛状に設けられている。同一の区画Aに位置する複数の電極片EPの各々は、異なる電極Eの電極片EPに隣接している。すなわち、区画A内において、各電極Eが均一に分布するように配設されている。これにより、区画A内に含まれる各電極Eの重なり部分の静電容量(第2静電容量)と全電極の重なり部分の静電容量(第3静電容量)との比(式(3))が、区画A内における物体の近接位置に応じてばらつきを生じ難くなるため、構成される要素データP
jの精度を向上させることができる。
【0091】
図5,
図6に示す例では、区画A
jに含まれる1つの重なり部分E
ijの面積が区画A
jの全電極の面積に対してほぼ2分の1となっているため、この重なり部分E
ijの第2静電容量変化ΔCE
ijは、区画A
jの全電極の第3静電容量変化ΔCA
jに対してほぼ2分の1になる。すなわち、電極E
iの重なり部分E
ijが存在する区画A
jでは、式(3)に示す定数データK
ijの値が「1/2」になる。
【0092】
そのため、電極E
1の第1静電容量変化ΔCE
1は、区画A
1〜A
3における第3静電容量変化ΔCA
1〜ΔCA
3の各2分の1を足し合わせたものにほぼ等しくなる(
図6A)。
また、電極E
2の第1静電容量変化ΔCE
2は、区画A
4〜A
6における第3静電容量変化ΔCA
4〜ΔCA
6の各2分の1を足し合わせたものにほぼ等しくなる(
図6B)。
同様に、電極E
3の第1静電容量変化ΔCE
3は、区画A
1,A
4における第3静電容量変化ΔCA
1,ΔCA
4の各2分の1を足し合わせたものにほぼ等しくなる(
図6C)。
電極E
4の第1静電容量変化ΔCE
4は、区画A
2,A
5における第3静電容量変化ΔCA
2,
ΔCA5の各2分の1を足し合わせたものにほぼ等しくなる(
図6D)。
電極E
5の第1静電容量変化ΔCE
5は、区画A
3,A
6における第3静電容量変化
ΔCA3,ΔCA
6の各2分の1を足し合わせたものにほぼ等しくなる(
図6E)。
以上をまとめると、次式のようになる。
【0094】
式(14−1)〜(14−5)を行列に書き直すと、次のようになる。
【0096】
検出データS
1〜S
5が第1静電容量変化ΔCE
1〜ΔCE
5に比例し、要素データP
1〜P
6が第3静電容量変化ΔCA
1〜ΔCA
6に比例するものとすると、式(15)は次式のように改めることが可能である。
【0098】
式(15),(16)は、先に説明した式(5),(6)に対応する。式(15),(16)における左辺の5×6の行列(第1変換行列K)は、
図5に示す区画パターン及び電極パターンによって決定される。式(16)に示す連立方程式は、変数の個数が方程式より多いため、逆行列によって容易に解を求めることはできない。
【0099】
ここで具体的な処理の例として、要素データP
1,P
2,…,P
6の値が「1」,「2」,…,「6」である場合において、
図4に示すフローにより検出データS
1,S
2,…,S
5から要素データP
1,P
2,…,P
6を構成する処理を説明する。
この場合、検出データS
1,S
2,…,S
5の値は次式のように算出される。
【0101】
要素データ構成部22は、この5個の検出データS
1〜S
5と、
図5に示す区画パターン及び電極パターンによって決定される既知の情報(5×6の第1変換行列K)とに基づいて、6個の要素データP
1〜P
6を構成する。
まず要素データ構成部22は、ステップST200で取得した仮要素データPA
1〜PA
6の初期値を、仮検出データSA
1〜SA
5に変換する(ST220)。仮要素データPA
1〜PA
6の初期値を全て「1」とした場合、ループ処理の第1回目における仮検出データSA
1〜SA
5は次式のように計算される。
【0103】
次に要素データ構成部22は、仮検出データSA
1〜SA
5が実際の検出データS
1〜S
5と等しくなるために仮検出データSA
1〜SA
5に乗じるべき倍率を示す第1係数α
1〜α
5を算出する(ST225)。第1係数α
1〜α
5は、次式のように計算される。
【0105】
更に要素データ構成部22は、仮要素データPA
1〜PA
6に乗じるべき倍率を示す第2係数β
1〜β
6を算出する。すなわち、要素データ構成部22は、区画パターンと電極パターンにより決まる既知の情報(定数データK
ij)に基づいて、第1係数α
1〜α
5を第2係数β
1〜β
6に変換する。
【0106】
区画A
1の全電極は、電極E
1と電極E
3によって二等分されている。従って、区画A
1の全電極の第3静電容量変化ΔCA
1(要素データP
1)に第2係数β
1を乗じた場合、電極E
1の第1静電容量変化ΔCE
1(検出データS
1)と電極E
3の第1静電容量変化ΔCE
3(検出データS
3)に対して、それぞれ同じ程度の変化をもたらすと考えられる。式(19−1)及び(19−3)から、電極E
1の第1係数α
1が「2」と計算され、電極E
3の第1係数α
3が「2.5」と計算されているので、第1係数α
1,α
3をこれらの計算値に近づけるための第2係数β
1の値は、第1係数α
1の「2」と第1係数α
3の「2.5」にそれぞれ同じ重み付けを与えて平均化した値に近似できる。
同様に、第2係数β
2は第1係数α
1と第1係数α
4の平均値に、第2係数β
3は第1係数α
1と第1係数α
5の平均値に、第2係数β
4は第1係数α
2と第1係数α
3の平均値に、第2係数β
5は第1係数α
2と第1係数α
4の平均値に、第2係数β
6は第1係数α
2と第1係数α
5の平均値にそれぞれ近似できる。
以上をまとめると、次式のようになる。
【0108】
式(20−1)〜(20−6)を行列に書き直すと、次のようになる。
【0110】
式(21)は、先に説明した式(11)に対応する。式(21)における右辺の6×5の行列(第2変換行列)は、式(18)における左辺の5×6の第1変換行列を転置させたものである。この第2変換行列も、
図5に示す区画パターン及び電極パターンによって決定される。
【0111】
第2係数β
1〜β
6が得られると、要素データ構成部22は、現在の仮要素データPA
1〜PA
6にそれぞれ第2係数β
1〜β
6を乗じることによって、修正された仮要素データPA’
1〜PA’
mを算出する。仮要素データPA’
1〜PA’
mは、それぞれ次式のように計算される。
【0113】
図7は、上述した例においてループ処理を10回繰り返した場合に得られる仮要素データPA
1〜PA
6の計算値を示す図である。この結果から分かるように、
図4に示すデータ構成処理を繰り返し実行することによって、仮要素データPA
jは元のデータに近づく。
【0114】
以上説明したように、本実施形態に係る入力装置によれば、一の区画A
j内に位置する一の電極E
iの重なり部分E
ijと物体との間に形成される第2静電容量変化ΔCE
ij(
図2)は、重なり部分E
ijの面積にほぼ比例する。第3静電容量変化ΔCA
jは、第2静電容量変化ΔCE
ijを合成したものであるため(式(1))、一の区画A
j内に位置する全電極の重なり部分の面積にほぼ比例する。従って、区画A
j内に位置する一つの電極E
iの重なり部分E
ijと、区画A
j内に位置する全電極の重なり部分との面積比に関する定数データK
ijは、区画A
jにおける一の電極E
iの第2静電容量変化ΔCE
ijと第3静電容量変化ΔCA
jとの容量比(ΔCE
ij/ΔCA
j)に関する情報を与える。
また、一の電極E
iと物体とが形成する第1静電容量変化ΔCE
iは、一の電極E
iに属する全ての重なり部分と物体との第2静電容量変化ΔCE
ijを合成したものとみなされるため(式(2))、第1静電容量変化ΔCE
iに応じた値を持つ検出データS
iは、1つ若しくは複数の区画Aにおける電極E
iの第2静電容量変化ΔCE
ijに関する情報を与える。
そして、電極E
1〜E
nの各々は、重なり部分を持つ区画Aの組み合わせが他の電極Eと異なるか、同一の区画Aに含まれる重なり部分の面積が他の電極Eと異なる。そのため、電極E
1〜E
nについて得られる検出データS
1〜S
nは、区画A
1〜A
mにおける各電極E
iの第2静電容量変化ΔCE
ijに関する独立した情報をもたらす。
要素データ構成部22では、これらの情報、すなわち、検出データS
1〜S
nに含まれる各区画A
j及び各電極E
iの第2静電容量変化ΔCE
ijに関する情報と、既知の定数データK
ijによってもたらされる各区画A
j及び各電極E
iの容量比(ΔCE
ij/ΔCA
j)に関する情報とに基づいて、区画A
1〜A
mの第3静電容量変化ΔCA
1〜ΔCA
mに応じた要素データP
1〜P
mが構成される。
【0115】
従って、m個の区画A
1〜A
mより少ないn個の電極E
1〜E
nを用いて、m個の区画における物体との近接の状態を示すm個の要素データP
1〜P
mを得ることができるため、従来のイメージセンシング方式に比べて電極数を減らしつつ、操作面上における静電容量の2次元的な分布を表すデータを取得することができる。
【0116】
電極数が少なくなることによって、回路規模を小さくできるとともに、一定のセンシング期間内における静電容量検出のスキャン時間やスキャン回数を増やして静電容量の検出感度を高めることが可能となる。
また、複数の区画Aをまたいで電極Eが配設されることにより、電極Eの面積が大きくなり、静電容量の検出感度を高めることができる。
【0117】
更に、操作面上における静電容量の2次元的な分布を表すデータを取得できるため、複数の物体が操作面に近接した場合でも、従来のプロファイルセンシング方式のようなゴーストを生じることなく、各物体の位置を正しく検出することができる。
【0118】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
図8は、本実施形態に係る入力装置における要素データの構成処理の変形例を説明するための図である。
【0119】
図4の例において、要素データ構成部22は、初回のデータ構成処理(ST205)を行うときに、ステップST200で取得された仮要素データPA
1〜PA
mの初期値から仮検出データSA
1〜SA
nを計算する(ST220)。しかしながら、この計算結果は検出データS
1〜S
nに拠らず常に一定であるため、要素データP
1〜P
mを構成する度に計算しなくてもよい。そこで、
図8に示すフローチャートの例では、初回のデータ構成処理(ST205)を行うときに、仮検出データSA
1〜SA
nの計算ステップ(ST220)が省略される。
【0120】
すなわち、要素データ構成部22は、初回のデータ構成処理(ST205)を行うときに仮検出データSA
1〜SA
nの計算ステップ(ST220)を行わず、記憶部30等から仮検出データSA
1〜SA
nの所定の初期値を取得する(ST210,ST215)。要素データ構成部22は、2回目のデータ構成処理(ST205)を行うときには、前回のデータ構成処理(ST205)により修正された仮要素データPA
1〜PA
mに基づいて、仮検出データSA
1〜SA
nを計算する(ST220)。
【0121】
このように、初回のデータ構成処理(ST205)を行うときに仮検出データSA
1〜SA
nの計算ステップ(ST220)を省略することで、処理速度を向上できる。
【0122】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
本実施形態に係る入力装置の構成は、ステップST110における要素データP
1〜P
mの構成処理(
図3)に相違がある点を除いて、第1の実施形態に係る入力装置と同じである。そこで、以下では、要素データP
1〜P
mの構成処理における相違点を中心に説明する。
【0123】
図9は、第2の実施形態に係る入力装置における要素データの構成処理について説明するためのフローチャートである。
【0124】
ST300:
要素データ構成部22は、後述のデータ構成処理(ST305)において用いられる仮要素データPA
1〜PA
mの初期値を取得する。要素データ構成部22は、例えば予め記憶部30に格納された定数データを初期値として取得する。
【0125】
ST305:
要素データ構成部22は、ステップST300において取得した初期値を用いて、仮要素データPA
1〜PA
mから算出される仮検出データSA
1〜SA
nが検出データS
1〜S
nへ近づくように、仮要素データPA
1〜PA
mを修正するデータ構成処理を繰り返す。
【0126】
本実施形態に係る入力装置の1つの特徴は、この繰り返し実行されるステップST305のデータ構成処理が、更に複数の部分データ構成処理(ST310)に分かれている点にある。本実施形態において、n個の電極E
1〜E
nは、複数の電極群(サブセット)に分類される。複数の部分データ構成処理(ST310)は、この複数の電極群と一対一に対応する。個々の部分データ構成処理(ST310)は、
図4における4つのステップ(ST220,ST225,ST230,ST235)に類似した処理を含む。
【0127】
要素データ構成部22は、1回のデータ構成処理(ST305)において、この複数の部分データ構成処理(ST310)を順番に行う。全ての電極群(サブセット)についての部分データ構成処理(ST310)を行うと、要素データ構成部22は、1回のデータ構成処理(ST305)を完了する(ST320)。1回のデータ構成処理(ST305)が完了すると、要素データ構成部22はそれまでのデータ構成処理(ST310)の繰り返し回数を確認し、規定回数に達していない場合は、再びデータ構成処理(ST305)を繰り返す
(ST325)。繰り返し回数が規定回数に達した場合、要素データ構成部22は、最後のデータ構成処理(ST305)によって修正された仮要素データPA
1〜PA
mを、正規の要素データP
1〜P
mとして確定し、記憶部30の所定の記憶エリアに格納する。
【0128】
図10は、
図9に示すフローチャートにおける1回の部分データ構成処理(ST305)の一例を示すフローチャートである。この例では、一の部分データ構成処理(ST305)に対応する一の電極群を、k個の電極E
q〜E
rの集まりとする(1≦q≦r≦n,r−q=k)。
【0129】
ST405:
要素データ構成部22は、
m個の仮要素データPA
1〜PA
mを、k個の電極E
q〜E
rに対応するk個の
仮検出データS
Aq〜S
Arに変換する。この変換は、次の式で表される。
【0131】
式(23)における左辺のk×mの行列(第1部分変換行列)は、式(5)等におけるn×mの行列(第1変換行列K)の部分行列である。
【0132】
ST415:
要素データ構成部22は、ステップST405において算出した仮検出データSA
q〜SA
rが検出データS
q〜S
rと等しくなるために仮検出データSA
q〜SA
rに乗じるべき倍率を示す第1係数α
q〜α
rを算出する。この計算は、次の式で表される。
【0134】
ST420:
要素データ構成部22は、m個の仮要素データPA
1〜PA
mに乗じるべき倍率を示すm個の第2係数β
1〜β
mを算出する。すなわち、要素データ構成部22は、区画パターンと電極パターンにより決まる既知の情報(定数データK
ij)に基づいて、k個の第1係数α
q〜α
rをm個の第2係数β
1〜β
mに変換する。
【0135】
一つの区画A
jにおける第2係数β
jは、ステップST415で算出されたk個の第1係数α
q〜α
rに定数データK
qj〜K
rjの重み付けを与えて平均化した値に近似できる。第2係数β
jは、この近似によって、次式のように表される。
【0137】
式(25)は、行列を用いて、次式のように表される。
【0139】
式(26)の左辺におけるm×kの行列(第2部分変換行列)は、n個の電極E
1〜E
nの配設パターンによって決まる既知の情報である。このm×kの第2部分変換行列において第j行の各成分(K
qj〜K
rj)に乗ぜられている係数γ
jは、1行の成分の和が「1」となるように調整するための係数である。
【0140】
以上説明した本実施形態に係る入力装置においても、第1の実施形態と同様に、m個の区画A
1〜A
mより少ないn個の電極E
1〜E
nを用いて、m個の区画における物体との近接の状態を示すm個の要素データP
1〜P
mを得ることができる。そのため、従来のイメージセンシング方式に比べて電極数を減らしつつ、操作面上における静電容量の2次元的な分布を表すデータを取得することができる。
【0141】
また、本実施形態に係る入力装置では、一部の電極(E
q〜E
r)に対応する検出データ(S
q〜S
r)のみに基づいた仮要素データPA
1〜PA
mの修正が段階的に行われる。そのため、第1の実施形態に係る入力装置に比べて、第1係数α
iから第2係数β
jへの変換(式(26))における平均化の効果が弱くなり、一回の修正による仮要素データPA
1〜PA
mの変化量が大きくなる。そのため、第1の実施形態に係る入力装置に比べて少ない繰り返し回数で仮要素データPA
1〜PA
mが最終値に収束し易くなる。
【0142】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
図11は、第2の実施形態に係る入力装置における要素データの構成処理の変形例を説明するための図である。また
図12は、
図11に示す変形例の部分データ構成処理(ST315)について説明するためのフローチャートである。
【0143】
図9,
図10の例において、要素データ構成部22は、初回のデータ構成処理(ST305)における最初の部分データ構成処理(ST310)を行うときに、ステップST300で取得された仮要素データPA
1〜PA
mの初期値から仮検出データSA
q〜SA
rを計算する(ST405)。しかしながら、この計算結果は検出データS
q〜S
rに拠らず常に一定であるため、要素データP
1〜P
mを構成する度に計算しなくてもよい。そこで、
図11,
図12に示すフローチャートの例では、初回のデータ構成処理(ST305)における最初の部分データ構成処理(ST315)を行うときに、仮検出データSA
q〜SA
rの計算ステップ(ST405)が省略される。
【0144】
すなわち、要素データ構成部22は、初回のデータ構成処理(ST305)における最初の部分データ構成処理(ST315)を行うときに仮検出データSA
q〜SA
rの計算ステップ(ST405)を行わず、記憶部30等から仮検出データSA
q〜SA
rの所定の初期値を取得する(ST400,ST410)。要素データ構成部22は、2回目以降の部分データ構成処理(ST315)を行うときには、前回の部分データ構成処理(ST315)により修正された仮要素データPA
1〜PA
mに基づいて、仮検出データSA
q〜SA
rを計算する(ST405)。
【0145】
このように、初回のデータ構成処理(ST305)における最初の部分データ構成処理(ST315)を行うときに仮検出データSA
q〜SA
rの計算ステップ(ST405)を省略することで、処理速度を向上できる。
【0146】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
本実施形態は、センサ部10の電極パターンに関するものであり、その他の構成については上述した実施形態に係る入力装置と同様である。
【0147】
図13は、第3の実施形態に係る入力装置における1区画分の電極パターンの一例を示す図である。本実施形態に係る電極パターンは、1区画内に4つの電極(E
a,E
b,E
c,E
d)の重なり部分が集まっている。各電極は、1区画内でそれぞれ渦巻状の相似なパターンを持つ。4つの渦巻状のパターンは、互いに重なることなく1区画の内部を密に埋めている。
【0148】
電極の渦巻状パターンは、隣接する一の区画から一の区画へ直線状に配列される。その配列方向は、縦方向、横方向、左下から右上へ伸びる方向、右下から左上へ伸びる方向の4つに分類される。
図14は、この4方向に伸びる電極E
a,E
b,E
c,E
dを1本ずつ抜き出して図解した図である。1本の電極がわたる区画の数は、各方向とも12個である。図の例では、12×12の行列状に並べられた区画が形成される。同じ電極に属する1つの渦巻状パターンと別の渦巻状パターンは、例えばビアを介して基板の内層の配線により接続される。
【0149】
図15は、1つの区画において4つの方向に伸びる電極が交わることを示した図である。
図15において示すように、各区画は4つの方向に伸びる電極の交点上に位置する。1つの区画に対して指等が近接すると、その区画に含まれる4つの電極にはほぼ均等に静電容量の変化が生じる。
【0150】
図16は、
図13〜
図15に示すような電極パターンを持つセンサ部10によって得られた検出データに基づいて要素データを構成する過程の一例を示す図である。
図16の例では、操作面を3つの指で触れた時の144個の要素データを、48個の検出データに基づいて構成している。144個の仮要素データの初期値を全て「1」としてデータ構成処理を繰り返していくと、回を重ねるごとに3つの指によるピークが表れてくるのが分かる。10回目のデータ構成処理を経ると、ほぼ元データに近い仮要素データが構成されている。
【0151】
以上説明したように、本実施形態によれば、4つの方向へ直線状に伸びる4種類の電極が行列状に配列された区画においてそれぞれ交差しており、各区画の中では、渦巻状の相似な形状を持つ4種類の電極が密に組み合わされて隙間なく区画を埋めている。
そのため、区画の行数と列数がそれぞれ増えた場合、区画の数は行数と列数の積に応じて増大するのに対して、電極の数は行数若しくは列数に比例して増大するのみとなる。そのため、区画の行数及び列数が増えるほど、全体の区画数と電極数との差は大きくなる。すなわち、従来のイメージセンシング方式に比べて電極数が大幅に少なくなる。これにより、一定時間当たりの電極のスキャン時間やスキャン回数を増やすことができるため、静電容量の検出感度を高めることができる。
また、1区画内における4つの電極の分布が均一になるため、区画内の物体の近接位置が変化しても4つの電極の静電容量にばらつきが生じ難くなり、構成される要素データの精度を向上させることができる。
【0152】
なお、本発明は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、種々のバリエーションを含んでいる。
【0153】
上述した実施形態では、繰り返し実行するデータ構成処理の初期値として固定値を用いる例を挙げたが、本発明はこれに限定されない。本発明の他の実施形態では、データ構成処理の初期値として、直前に構成した少なくとも1組の要素データ群(P
1〜P
m)を用いてもよい。
例えば、
図4のステップST200や
図9のステップST300において、仮要素データPA
1〜PA
mの初期値として、前回構成された要素データP
1〜P
mや、前回の分を含む一連の要素データ群の平均値、一連の要素データ群を用いて推定される値などを用いてもよい。
【0154】
図17は、初期値を元データに近いものに変更して
図16と同様な要素データの構成を行った場合を示す図である。
図16と
図17を比較すると、
図16の場合は、3回目において3本の指がはっきり表れていないが、
図17は3回目でほぼ元データと同じ仮要素データが得られている。このように、元データに近い初期値を推測することができれば、要素データの構成精度と収束速度を向上できる。元データを推測する方法としては、例えば、直近に得られた要素データから指の移動方向、移動速度などを元に推測する方法がある。「一瞬前の指の近くに今の指がある可能性が高い」ことや、「一方向に一定速度で指が動いていれば、その方向の特定の位置に現在の指がある可能性が高い」こと利用して、直近に得られた要素データから元データを推測し、初期値として利用してもよい。