(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物についての前記組成式において、x、y及びzが、不等式0.3≦x/(y+z)≦1.3及びy≧zを満たすことを特徴とする請求項2に記載の非水電解質電池。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施の形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
【0011】
(第1の実施形態)
第1の実施形態によると、正極と負極と非水電解質とを具備した非水電解質電池が提供される。正極は正極活物質層を含む。正極活物質層は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を含む。負極は負極活物質層を含む。負極活物質層は、スピネル型チタン酸リチウムを含む。非水電解質は、イオン伝導率が25℃において7mS/cm以上10mS/cm以下である。容量比p/nは1.4以上1.8以下の範囲内にある。厚みの比T
p/T
nは1.05以上1.3未満の範囲内にある。比P
p/P
nが0.55以上0.8未満の範囲内にある。ここで、pは正極の単位面積当たりの容量である。nは負極の単位面積当たりの容量である。T
pは正極活物質層の厚みである。T
nは負極活物質層の厚みである。P
pは、正極活物質層の厚み1μm当たりの正極活物質層の空隙率である。P
nは、負極活物質層の厚み1μm当たりの負極活物質層の空隙率である。
【0012】
非水電解質電池の出力を高める方策としては、イオン伝導性に優れた非水電解質を用いることが挙げられる。しかしながら、本発明者らは、研究開発を行っている中で、イオン伝導性に優れた非水電解質は、酸化分解などを受けやすく、非水電解質電池の膨れ及び劣化の原因となり得ることを見出した。
【0013】
この問題に対し、本発明者らは、イオン伝導性に優れた非水電解質の酸化分解を抑える方策として、正極の容量を負極の容量に対して大きくし、非水電解質電池の充放電における正極の充電率を低く保つことを検討した。このような方策によると、正極の電位が高くなり過ぎることを防ぐことができ、その結果、正極の電位を原因とした非水電解質の酸化分解を抑えることができることが分かった。
【0014】
このような方策によって、電池を互いに直列に接続して構成した電池ユニットの平均作動電圧を、鉛蓄電池を含んだ電池ユニットとの作動電圧適合性に優れるように調整することができる。
【0015】
しかしながら、正極容量と負極容量との比(容量比p/n)が1を大きく超えるような電池においては、正極からのLiの脱離量が少ない状態で充放電サイクルが繰り返されることになり得る。このような状態で充放電サイクルが繰り返される非水電解質電池は、容量比p/nが1程度である非水電解質電池と比較して、充放電サイクル後の入出力特性が低下することが分かった。本発明者らは、鋭意調査した結果、この問題の原因は、正極及び負極中の電解質にLiイオン濃度の偏りが過度に生じてしまい、それにより、電極活物質層の厚み方向(集電体とセパレータとの対向方向)に充電深度の分布(正極活物質層内のLiイオン濃度の偏り)が生じ、その結果、正極活物質の結晶構造劣化が進行したことにあることを明らかとした。
【0016】
更に、本発明者らは、正極及び負極活物質層の充放電深度の偏りは、イオン伝導率がより高い非水電解質を用いた非水電解質電池においてより顕著になることを見出した。
【0017】
これらの知見を踏まえて、発明者らは、正極容量が負極容量に対して大きな非水電解質電池においてイオン伝導率の高い非水電解質を使いこなすには、正極及び負極中の電解質におけるLiイオンの移動のバランスをとることが特に重要であることに着目した。そして、発明者らは、この着想に基づいて鋭意研究した結果、第1の実施形態に係る非水電解質電池を実現した。
【0018】
第1の実施形態に係る非水電解質電池は、先に示した構成を有することにより、正極活物質の結晶構造劣化を抑えて優れた寿命特性を示すことができると共に、優れたレート特性を示すことができる。その理由を以下に詳細に説明する。
【0019】
まず、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を正極において用いた第1の実施形態に係る非水電解質電池は、高いエネルギー密度を示すことができる。
【0020】
また、スピネル型構造を有するチタン酸リチウムは、1.0V(vs.Li/Li+)以上の電位で、リチウムの吸蔵及び放出反応を起こすことができる。そのため、スピネル型構造を有するチタン酸リチウムを負極において用いた非水電解質電池は、充放電、特に急速充放電に伴う金属リチウムの析出を抑えることができる。よって、負極にスピネル型チタン酸リチウムを用いる第1の実施形態に係る非水電解質電池は、優れた寿命特性及び優れた急速充放電特性を示すことができる。
【0021】
そして、第1の実施形態に係る非水電解質電池は、正極の単位面積当たりの容量pの負極の単位面積当たりの容量nに対する容量比p/nが1.4以上1.8以下の範囲内にあることにより、充放電サイクルにおいて、正極の電位が高くなり過ぎることを防ぐことができる。それにより、第1の実施形態に係る非水電解質電池は、イオン伝導率が25℃において7mS/cm以上10mS/cm以下である非水電解質の酸化分解を防ぐことができる。
【0022】
更に、第1の実施形態に係る非水電解質電池は、以下の理由で、正極活物質層中と負極活物質層中に充放電深度の偏りが生じるのを防ぐことができる。
【0023】
まず、正極活物質層の厚みT
pの負極活物質層の厚みT
nに対する厚みの比T
p/T
nが1.05以上1.3未満の範囲内にあることは、正極活物質層の厚みT
pと負極活物質層の厚さT
nとの差が小さいことを意味する。厚みの比T
p/T
nが1.05以上1.3未満の範囲内にある第1の実施形態に係る非水電解質電池では、正極集電体の表面から正極活物質層の表面(例えば、セパレータに接する面)までの距離が、負極集電体の表面から負極活物質層の表面(例えば、セパレータに接する面)までの距離と同等であるということができる。
【0024】
充放電中、正極活物質層に含浸した非水電解質及び負極活物質層に含浸した非水電解質を含めた、非水電解質電池に含まれる非水電解質全体において、正極活物質層と負極活物質層とが向き合っている方向でのLiイオンの拡散が生じ得る。よって、集電体表面から活物質層表面までの距離が同等である正極及び負極では、Liイオンの拡散距離も同等となる。
【0025】
第1の実施形態に係る非水電解質電池は、正極と負極とでLiイオンの拡散距離を同等にすることができるので、拡散距離の違いによる正極と負極との間での電解質中のLiイオン濃度の偏りを抑制することができる。
【0026】
次に、比P
p/P
nを0.55以上0.8未満の範囲内に調整することによって、以下に説明する理由により、電極界面近傍での微視的な領域における正極と負極との間の電解質中のLiイオン濃度の偏りを抑制することができる。ここで、P
pは正極活物質層の厚み1μm当たりの正極活物質層の空隙率である。また、P
nは負極活物質層の厚み1μm当たりの負極活物質層の空隙率である。各電極活物質層の厚み1μm当たりの空隙率は、各電極活物質層の空隙率を各電極活物質層の厚みで除することによって求められる。
【0027】
先に説明したように、電池の充放電サイクル中は、正極活物質層の厚み方向及び負極活物質層の厚み方向にLiイオンの拡散が生じ得るが、更に微視的な電極界面での反応(例えば、正極活物質表面と電解質との界面での反応、及び負極活物質表面と電解質との界面での反応)に着目したところ、正極と負極との間でのLiイオン濃度の偏りは、電極活物質の種類と非水電解質の存在比率とからより強く影響を受けることが分かった。具体的には、以下のとおりである。まず、スピネル型チタン酸リチウムは、正極に含まれるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物よりも寿命特性に優れており、比表面積を高くしやすい。また、界面反応抵抗が小さく、Liの挿入、脱離反応に伴う過電圧が小さい。研究を重ねた結果、このようなスピネル型チタン酸リチウムを含んだ負極活物質層を具備した負極は、充放電の際に必要とする電極活物質層の厚み1μm当りの非水電解質の量が、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を含む正極よりも相対的に大きいことが分かった。また、充放電の際に電極活物質層の表面近傍において活物質が利用することができる非水電解質の量は、電極活物質層における空隙量と相関があることが分かった。
【0028】
更に、充放電の反応により吸蔵及び放出されたLiイオンは、電極中の電解質を通って移動するが、この際の移動のし易さは、電極活物質層における空隙量と相関があることが分かった。
【0029】
電極活物質層の厚み1μm当たりの空隙率の比P
p/P
nが0.55以上0.8未満である第1の実施形態に係る非水電解質電池は、正極活物質層の表面近傍の空隙量と、負極活物質の表面近傍の空隙量と、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の反応性と、スピネル型チタン酸リチウムの反応性との間のバランスに優れ、その結果、電極界面近傍での微視的な領域における正極と負極との間のLiイオン濃度の偏りを抑制することができる。また、電極の厚み方向に対する移動度のバランスを取ることで、巨視的な観点からもLiイオン濃度の偏りを抑制することができる。
【0030】
つまり、第1の実施形態に係る非水電解質電池は、巨視的及び微視的の何れの観点でも、正極と負極との間での電解質中のLiイオン濃度の偏りを抑制することができる。
【0031】
このように、第1の実施形態に係る非水電解質電池は、イオン伝導率が25℃において7mS/cm以上10mS/cm以下である非水電解質の酸化分解を抑えながら、正極と負極との間でのLiイオン濃度の偏りを抑制することができる。これらの結果、第1の実施形態に係る非水電解質電池は、優れた寿命特性及び優れたレート特性を示すことができる。
【0032】
一方、先に説明したように、正極と負極との間で電解質中のLiイオン濃度の偏りは、正極活物質層又は負極活物質層中の電極反応の進行の差を引き起こす。
【0033】
電極反応の進行の差によって、充放電中に、正極活物質層又は負極活物質層のいずれかに電池の通常作動範囲を超えて過放電状態、又は過充電状態となった領域が出現する。このような領域があると、過電圧が生じ、その結果、レート特性が低下する。特に、正極のLi脱離量の少ない状態で充放電サイクルに供される非水電解質電池では、電極反応の進行の差によって正極活物質の結晶構造劣化が進行し得る。更に、このような非水電解質電池では、正極界面で電解液の副反応を増大させてしまうおそれがある。副反応が生じると、界面被膜が成長し、正極抵抗が増大するおそれがある。正極抵抗が増大すると、充放電サイクルにおいて正極活物質にかかる負荷が増大する。その結果、寿命特性の低下が加速する。
【0034】
例えば、厚みの比T
p/T
nが1より小さい非水電解質電池では、負極活物質層の拡散距離が正極活物質層の拡散距離よりも長くなり、正極と負極との間でのLiイオン濃度の偏りが大きくなる。具体的には、負極側の電解質中では移動距離が長いため反応に必要なLiイオンの量が不足し易くなる又は過剰になり易くなり、負極電極層中の充放電の進行に偏りが生じる。その結果、このような非水電解質電池では、例えば、レート特性が低下する。
【0035】
また、厚みの比T
p/T
nが1以上1.05未満である非水電解質電池では、空隙率の比を好ましい範囲に調整した場合に、正極と負極との間でのLiイオン濃度の偏りが大きくなる。Liイオン濃度のバランスを取るためには、拡散距離と共に、空隙率の比による移動度の差も加味する必要がある。
【0036】
一方、厚みの比T
p/T
nが1.3以上である非水電解質電池では、正極活物質層の拡散距離が負極活物質層の拡散距離よりも長くなり過ぎてしまい、正極と負極との間でのLiイオン濃度の偏りが大きくなる。具体的には、正極側の電解質中では移動距離が長いため反応に必要なLiイオンの量が不足し易くなる又は過剰になり易くなり、正極電極層中の充放電の進行に偏りが生じる。正極活物質層内の電解質中のLiイオン濃度の偏りが大きくなる。その結果、このような非水電解質電池では、正極が過充電状態、又は過放電状態になり易く、寿命特性が低下する。正極において過電圧が生じ、レート特性が低下する。
【0037】
また、電極活物質層の厚み1μm当たりの空隙率の比P
p/P
nが0.55より小さい非水電解質電池では、正極活物質層の空隙量が相対的に少なくなる。このような非水電解質電池では、正極側の電解質層、すなわち正極活物質層に含浸されている非水電解質が相対的に少なく、充放電の際、正極においてLiイオンの授受が十分に行えなくなる。それゆえに、このような非水電解質電池は、充放電中に正極活物質層におけるLiイオン濃度の偏りが増大し、レート特性と寿命特性とが低下する。
【0038】
一方、電極活物質層の厚み1μm当たりの空隙率の比P
p/P
nが0.8以上である非水電解質電池では、負極活物質層の空隙量が相対的に少なくなる。このような非水電解質電池では、負極側の電解質層、すなわち負極活物質層に含浸されている非水電解質が不足し、充放電の際、負極においてLiイオンの授受が十分に行えなくなる。それゆえに、このような非水電解質電池は、充放電中に負極活物質層におけるLiイオン濃度の偏りが増大し、レート特性が低下する。
【0039】
そして、容量比p/nが1.4未満である非水電解質電池は、充電状態が高い状態において、正極の電位が高くなるのを十分に抑えることができない。一方、容量比p/nが1.8より大きい非水電解質電池は、充放電に寄与しない正極量が多すぎて、高いエネルギー密度を示すことができない。
【0040】
加えて、非水電解質の25℃でのイオン伝導率が7mS/cm未満である非水電解質電池は、非水電解質によるレート特性の向上を実現することができない。一方、非水電解質の25℃でのイオン伝導率が10mS/cmを超える非水電解質電池は、正負極の電解質中のLiイオン濃度のバランスを調整する効果が無くなり、酸化に対する耐性が低下するため寿命特性が低下する。
【0041】
厚みの比T
p/T
nは、1.08以上1.20未満であることが好ましい。厚みの比T
p/T
nがこの範囲内にある非水電解質電池は、正極活物質層と負極活物質層のLiイオンの実質的な拡散距離の差を更に小さくすることができ、その結果、正極と負極との間でのLiイオンの偏りを更に小さくすることができる。厚みの比T
p/T
nは、1.1以上1.15未満であることがより好ましい。
【0042】
電極活物質層の厚み1μm当たりの空隙率の比P
p/P
nは、0.6以上0.78未満であることが好ましい。電極活物質層の厚み1μm当たりの空隙率の比P
p/P
nがこの範囲内にある非水電解質電池は、電極活物質層の表面近傍の空隙量と、負極活物質の表面近傍の空隙量と、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の反応性と、スピネル型チタン酸リチウムの反応性との間のバランスにより優れ、正極と負極との間でのLiイオンの偏りを更に小さくすることができる。電極活物質層の厚み1μm当たりの空隙率の比P
p/P
nは、0.63以上0.77未満であることがより好ましい。
【0043】
容量比p/nは、1.4以上1.7以下であることが好ましい。容量比p/nがこの範囲内にある非水電解質電池は、正極電位を抑制でき、電解液の分解を防げると共に、正極と負極の拡散のバランスを揃え易くなる。容量比p/nは、1.4以上1.6以下であることがより好ましい。容量比p/nがこの範囲内にある非水電解質電池は、正極容量が多過ぎることによるエネルギー密度の低下を抑制することができる。
【0044】
非水電解質のイオン伝導率は、25℃において、7mS/cm以上9mS/cm以下であることが好ましい。25℃でのイオン伝導率がこの範囲内にある非水電解質を用いることにより、より優れたレート特性を実現することができる。非水電解質のイオン伝導率は、25℃において、7.5mS/cm以上8.5mS/cm以下であることがより好ましい。
【0045】
第1の実施形態に係る非水電解質電池は、例えば、2.4V以下の作動電圧範囲を示すことができる。ここで、作動電圧範囲は、満充電状態の容量に対して90%以上の容量を発現することができる電圧範囲である。すなわち、2.4V以下の作動電圧範囲を示す非水電解質電池は、充電上限電圧を2.4Vに設定しても、満充電状態の容量に対して90%以上の容量を充放電することができる。なお、非水電解質電池のこのような満充電状態とは、以下のような手順で定義される。非水電解質電池を、25℃に保持された恒温槽内で、1Cの定電流で電圧が2.8Vになるまで充電する。次いで、この非水電解質電池の電圧を、そのまま2.8Vに3時間保持する。その後、非水電解質電池を、30分間開回路状態で放置する。次に、非水電解質電池を1Cの定電流で電圧が1.4Vになるまで放電する。以上に説明した定電流充電、開回路状態での放置及び定電流放電の1サイクルを、1回の充放電サイクルとする。測定対象の非水電解質電池に対し、この充放電サイクルを3回繰り返す。3サイクル目の充電後の非水電解質電池を、満充電状態の非水電解質電池とする。
【0046】
非水電解質電池の作動電圧範囲は、例えば、正極活物質の種類、負極活物質の種類及び容量比p/nを複合的に調整することで制御することができる。例えば、実施例に示す幾つかの方法によれば、2.4V以下の作動電圧範囲を示すことができる非水電解質電池を実現することができる。
【0047】
特に、スピネル型チタン酸リチウムは、充放電末期を除く広い範囲の充電状態において、充電状態の変化に伴う電位の変化が小さい。一方で、スピネル型チタン酸リチウムは、満充電状態に近い充電状態では、充電状態の変化に伴って、大きな電位変化を示すことができる。そのため、スピネル型チタン酸リチウムは、広い充電状態に亘る電位の平坦部分と、充電末期における、充電状態に伴う電位変化が急峻な部分とを含む充放電曲線を示すことができる。第1の実施形態に係る非水電解質電池は、例えばスピネル型チタン酸リチウムのこのような充放電特性を利用して、2.4V以下の作動電圧範囲を示すことができる。
【0048】
2.4V以下の作動電圧範囲を示すことができる非水電解質電池を互いに直列に接続して構成した電池ユニットは、鉛蓄電池を含んだ電池ユニットとのより優れた電圧適合性を示すことができる。
【0049】
第1の実施形態に係る非水電解質電池は、例えば、1.2以上2.4V以下の作動電圧範囲を示すことができる。
【0050】
次に、第1の実施形態に係る非水電解質電池をより詳細に説明する。
第1の実施形態に係る非水電解質電池は、正極と、負極と、非水電解質とを具備する。
【0051】
正極は、正極活物質層を含む。正極は、正極集電体を更に含むことができる。正極活物質層は、正極集電体の両面又は片面上に形成され得る。正極集電体は、表面に正極活物質層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、例えば正極リードとして働くことができる。
【0052】
正極活物質層は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を含む。リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、例えば、組成式Li
1-aNi
xCo
yMn
zO
2で表すことができる。上記組成式中、0≦a≦1、x>0、y>0、z>0であり、x、y及びzが不等式0.1≦x/(y+z)≦1.3を満たす。
【0053】
上記組成式中、aは、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の充電状態に応じて0≦a≦1の範囲内で変化し得る変数である。
【0054】
リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の組成式Li
1-aNi
xCo
yMn
zO
2において、y及びzは、それぞれ独立して、0.2以上0.45以下の範囲内にあることが好ましい。好ましい態様のリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、高いエネルギー密度を実現することができ、更に、結晶が安定な充電状態の領域が広い。xは、0.4以上0.6以下の範囲内にあることが好ましい。yは、0.25以上0.35以下の範囲内にあることがより好ましい。zは、0.2以上0.35以下にあることがより好ましい。
【0055】
他の好ましい態様では、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の上記組成式において、x、y及びzが、不等式0.3≦x/(y+z)≦1.3及びy≧zを満たす。
【0056】
他の更に好ましい態様では、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の上記組成式において、x、y及びzが、不等式0.6≦x/(y+z)≦1及びy≧zを満たす。
【0057】
リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、正極活物質層において、正極活物質として働くことができる。正極活物質層は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物以外の更なる正極活物質を含むこともできる。或いは、正極活物質層は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物以外の更なる活物質を含まなくても良い。
【0058】
更なる正極活物質としては、例えば、リチウムニッケル複合酸化物及びリチウムコバルト酸化物を挙げることができる。
【0059】
リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、正極活物質層が含む正極活物質の80重量%〜100重量%を占めることが好ましく、90重量%〜100重量%を占めることがより好ましい。
【0060】
正極活物質は、例えば、粒子の形態で正極活物質層に含まれることができる。正極活物質の粒子は、粒度分布の中心粒径が3.0μm以上9.0μm以下の範囲にあることが好ましい。正極活物質の粒子は、粒度分布の中心粒径が4.0μm以上7.0μm以下の範囲にあることがより好ましい。粒度分布は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置で測定することができる。
【0061】
正極活物質層は、結着剤と導電剤とを更に含むことができる。例えば、正極活物質層は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の正極活物質と、導電剤と、結着剤とからなっていてもよい。
【0062】
正極活物質層の空隙率は40%以下であることが好ましい。正極活物質層の空隙率が40%以下であると、正極活物質界面に電解質が存在し、正極活物質層中のLiイオンの拡散が保たれると共に、活物質粒子同士が適度に近接し、電子伝導性が確保される。正極活物質層の空隙率は、30%以上35以下であることがより好ましい。
【0063】
また、正極活物質層の密度は、2.9g/cm
3以上であることが好ましい。正極活物質層の密度が2.9g/cm
3以上であると、活物質粒子同士が適度に近接し、電子伝導性が確保される。正極活物質層の密度は、3.0g/cm
3以上3.4g/cm
3以下であることがより好ましい。
【0064】
正極活物質層の厚みは、例えば、正極スラリーの塗布量及び正極活物質層の密度に影響される。正極活物質層の空隙率は、例えば、正極活物質の粒子径、導電剤の混合比率、結着剤の混合比率、及び正極活物質層の密度によって影響される。正極活物質層の密度は、例えば、電極プレスの圧延条件によって制御することができる。
【0065】
負極は、負極活物質層を含む。負極は、負極集電体を更に含むことができる。負極活物質層は、負極集電体の両面又は片面上に形成され得る。負極集電体は、表面に負極活物質層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、例えば負極リードとして働くことができる。
【0066】
負極活物質層は、スピネル型チタン酸リチウムを含む。スピネル型チタン酸リチウムは、例えば、組成式Li
4+lTi
5O
12(lは、充放電状態に応じて、0以上3以下の範囲で変化する)で表すことができ、スピネル型の結晶構造を有することができる。
【0067】
スピネル型チタン酸リチウムは、負極において、負極活物質として働くことができる。
負極活物質は、例えば、粒子の形態で負極活物質層に含まれることができる。負極活物質の粒子は、粒度分布の中心粒径が0.5μm以上2.5μm以下の範囲にあることが好ましい。負極活物質粒子は、粒度分布の中心粒径が0.6μm以上2.0μm以下の範囲にあることがより好ましい。粒度分布は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置で測定することができる。
【0068】
負極活物質層は、結着剤と導電剤とを更に含むことができる。例えば、負極活物質層は、スピネル型チタン酸リチウムの負極活物質と、導電剤と、結着剤とからなっていてもよい。
【0069】
負極活物質層の空隙率は55%以下であることが好ましい。負極活物質層の空隙率が55%以下であると、負極活物質界面に電解質が存在し、負極活物質層中のLiイオンの拡散が保たれると共に、活物質粒子同士が適度に近接し、電子伝導性が確保される。負極活物質層の空隙率は、30%以上45%以下であることがより好ましい。
【0070】
また、負極活物質層の密度は、1.8g/cm
3以上であることが好ましい。負極活物質層の密度が1.8g/cm
3以上であると、活物質粒子同士が適度に近接し、電子伝導性が確保される。負極活物質層の密度は、1.9g/cm
3以上2.3g/cm
3以下であることがより好ましい。
【0071】
負極活物質層の厚みは、例えば、負極スラリーの塗布量及び負極活物質層の密度に影響される。負極活物質層の空隙率は、例えば、負極活物質の粒子径、導電剤の混合比率、結着剤の混合比率、及び負極活物質層の密度によって影響される。負極活物質層の密度は、例えば、電極プレスの圧延条件によって制御することができる。
【0072】
正極と負極とは、正極活物質層と負極活物質層と間にセパレータを介在させて対向させて、電極群を形成することができる。
【0073】
このようにして形成される電極群の構造は、特に限定されない。例えば、電極群は、スタック構造を有することができる。スタック構造は、先に説明した正極及び負極を間にセパレータを挟んで積層した構造を有する。或いは、電極群は捲回構造を有することもできる。捲回構造は、先に説明した正極及び負極を間にセパレータを挟んで積層し、かくして得られた積層体を渦巻状に捲回した構造である。
【0074】
非水電解質は、例えば、このような電極群に含浸された状態で保持され得る。
【0075】
第1の実施形態に係る非水電解質電池は、上記電極群及び非水電解質を収納するための外装体を更に具備することができる。
【0076】
また、第1の実施形態に係る非水電解質電池は、上記正極リードに電気的に接続された正極集電タブ、及び、上記負極リードに電気的に接続された負極集電タブを更に具備することもできる。正極集電タブ及び負極集電タブは、上記外装体の外に引き出されて、正極端子及び負極端子として働くこともできる。或いは、正極集電タブ及び負極集電タブは、正極端子及び負極端子のそれぞれに接続することもできる。
【0077】
次に、第1の実施形態に係る非水電解質電池が具備することができる各部材の材料について、詳細に説明する。
【0078】
(1)正極
正極集電体としては、例えば、アルミニウム、銅などの金属箔を使用することができる。
【0079】
正極活物質層が含むことができる導電剤は、先に説明したように、カーボン材料を含むことが好ましい。カーボン材料としては、例えば、アセチレンブラック、ケチェンブラック、ファーネスブラック、グラファイト及びカーボンナノチューブなどを挙げることができる。正極活物質層は、例えば、上記カーボン材料の1種若しくは2種以上を含むことができるし、又は他の導電剤を更に含むこともできる。
【0080】
正極活物質層が含むことができる結着剤は、特に限定されない。例えば、結着剤として、スラリー調製用の混合用溶媒によく分散するポリマーを用いることができる。このようなポリマーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン及びポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0081】
正極活物質層における正極活物質、導電剤及び結着剤の含有量は、正極活物質層の重量を基準として、それぞれ、80重量%以上98重量%以下、1重量%以上10重量%以下及び1重量%以上10重量%以下であることが好ましく、90重量%以上94重量%以下、2重量%以上8重量%以下及び1重量%以上5重量%以下であることがより好ましい。
【0082】
(2)負極
負極集電体としては、例えば、アルミニウム、銅などの金属箔を使用することができる。
【0083】
負極活物質層が含むことができる導電剤及び結着剤は、それぞれ、正極活物質層が含むことができるそれらと同様のものを用いることができる。
【0084】
負極活物質層における負極活物質、導電剤及び結着剤の含有量は、負極活物質層の重量を基準として、それぞれ、80重量%以上98重量%以下、1重量%以上10重量%以下及び1重量%以上10重量%以下であることが好ましく、90重量%以上94重量%以下、2重量%以上8重量%以下及び1重量%以上5重量%以下であることがより好ましい。
【0085】
(3)セパレータ
セパレータは、特に限定されるものではない。例えば、微多孔性の膜、織布、不織布、これらのうち同一材または異種材の積層物などを用いることができる。セパレータを形成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合ポリマー、エチレン−ブテン共重合ポリマー、セルロースなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0086】
(4)非水電解質
非水電解質は、例えば、非水溶媒と、この非水溶媒中に溶解した電解質とを含むことができる。
【0087】
非水電解質のイオン伝導率は、例えば、非水溶媒の種類、並びに電解質の種類及び濃度の影響を受ける。非水溶媒が2種以上の非水溶媒を含んだ混合溶媒である場合、非水電解質のイオン伝導率は、非水溶媒の混合比率の影響も受ける。その理由を、以下に説明する。
【0088】
溶液の比電気伝導率は、一般的に、溶液中のイオンの濃度と、溶液中でのイオンの移動度との積にほぼ比例するということができる。
【0089】
溶媒に溶解させる電解質の量を増やすと、解離により生じたイオンの濃度が増大し、イオン伝導性は増加する。しかしながら、溶媒中に溶解する電解質の濃度が高くなりすぎると、全てが解離できなくなり、実際のイオン濃度にロスが生じる。特に、非水電解質電池用の非水電解質のように、1M以上の高い濃度で塩を溶解させる場合、実際のイオン濃度には到達していないものと思われる。
【0090】
一方、電解質濃度の増加に伴い、非水電解質の粘度は増加する。電解質の濃度を高くし過ぎると、イオンの移動度は低下すると考えられる。電解質の解離が十分に進行する領域であれば、移動度の減少をイオン濃度の増加で補うことができるため、イオン伝導性の向上が見込める。しかしながら、電解質濃度が大きくなり過ぎると、イオン濃度が余り増えずに、移動度だけが低下し、その結果イオン伝導性が低下する。
【0091】
また、非水電解質の粘度は、例えば、非水溶媒の種類にも依存する。特に、非水溶媒が2種以上の非水溶媒を含んだ混合溶媒である場合、非水電解質の粘度は、非水溶媒の混合比率にも依存する。
【0092】
非水溶媒としては、例えば、環状カーボネート及び鎖状カーボネートを用いることができる。
【0093】
例えば、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートなどの環状カーボネートは、比誘電率が高く、電解質からLiイオンを多く解離させることができる。そのため、環状カーボネートを用いることにより、Liイオン濃度を増加させることができる。一方、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートなどの環状カーボネートは、高い粘度を示し得るため、イオンの移動度を低下させる。
【0094】
それに対し、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジメチルカーボネートなどの鎖状カーボネートは、環状カーボネートとは逆に、比誘電率が低く、粘度も低い。
【0095】
従って、環状カーボネート及び鎖状カーボネートを適宜混合させることにより、比誘電率及び粘度が調整された非水溶媒を調製することができる。
【0096】
また、非水電解質のイオン伝導性は、電解質の種類に依存する。電解質としては、例えば六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を用いることができる。
【0097】
そして、先に説明したように、非水溶媒に溶解させる電解質の濃度によっても、非水電解質の粘度及びLiイオン濃度は変化する。
【0098】
例えば、以下に説明する実施例において説明するように調製した非水電解質は、7mS/cm以上10mS/cm以下の範囲内にある25℃でのイオン伝導率を示すことができる。
【0099】
第1の実施形態に係る非水電解質電池が具備する非水電解質は、25℃でのイオン伝導率が7mS/cm以上10mS/cm以下の範囲内にあるものであれば、特に限定されない。
【0100】
例えば、非水溶媒として、先に挙げた環状及び鎖状カーボネート以外の非水溶媒を用いることもできる。用いることができる非水溶媒としては、テトラヒドロフラン、2メチルテトラヒドロフラン、ジオキソランのような環状エーテル;ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、エチレングリコールジエチルエーテルのような鎖状エーテル;酢酸エステルとその誘導体のようなカルボン酸エステル、アセトニトリル、及びスルホランが挙げられる。
【0101】
また、電解質として、六フッ化リン酸リチウム以外の電解質を用いることもできる。六フッ化リン酸リチウム以外の電解質としては、例えば、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF
6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF
3SO
3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CF
3SO
2)
2)、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)、亜リン酸水素リチウム(LiH
2PO
3)、亜リン酸水素二リチウム(Li
2HPO
3)、リン酸リチウム(Li
2PO)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO
2F
2)、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)、リチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミドなどのリチウム塩、及び、これらの混合物が含まれる。電解質は、六フッ化リン酸リチウムを含んでいることが好ましく、六フッ化リン酸リチウムが電解質の90mol%以上を構成していることが好ましい。
【0102】
また、非水電解質は、任意の添加剤を含むことができる。添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネイト(VC)、フルオロビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、フルオロメチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、プロピルビニレンカーボネート、ブチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、ジプロピルビニレンカーボネート、ビニレンアセテート(VA)、ビニレンブチレート、ビニレンヘキサネート、ビニレンクロトネート、カテコールカーボネート、プロパンスルトン、及びブタンスルトンが挙げられる。添加剤は、例えば、5%以下の濃度で非水溶媒に溶解させることができる。
【0103】
(5)外装体
外装体としては、例えば金属製容器又はラミネートフィルム製容器を用いることができるが、特に限定されない。
【0104】
外装体として金属製容器を用いることにより、耐衝撃性及び長期信頼性に優れた非水電解質電池を実現することができる。外装体としてラミネートフィルム製容器を用いることにより、耐腐食性に優れた非水電解質電池を実現することができると共に、非水電解質電池の軽量化を図ることができる。
【0105】
金属製容器は、例えば、壁厚が0.2mm以上1mm以下の範囲内にあるものを用いることができる。金属製容器は、壁厚が0.3〜0.8mm以下であることがより好ましい。
【0106】
金属製容器は、Fe、Ni、Cu、Sn及びAlからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいることが好ましい。金属製容器は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金等から作ることができる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛、ケイ素等の元素を含む合金が好ましい。合金中に鉄、銅、ニッケル、クロム等の遷移金属を含む場合、その含有量は1重量%以下にすることが好ましい。これにより、高温環境下での長期信頼性及び放熱性を飛躍的に向上させることができる。
【0107】
ラミネートフィルム製容器は、例えば、厚さが0.1以上2mm以下の範囲内にあるものを用いることができる。ラミネートフィルムの厚さは0.2mm以下であることがより好ましい。
ラミネートフィルムは、金属層と、この金属層を挟み込んだ樹脂層を含む多層フィルムが用いられる。金属層は、Fe、Ni、Cu、Sn及びAlからなる群より選択される少なくとも1種を含む金属を含むことが好ましい。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔若しくはアルミニウム合金箔が好ましい。樹脂層は、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の高分子材料を用いることができる。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行って外装材の形状に成形することができる。
【0108】
外装材の形状としては、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、ボタン型等が挙げられる。外装材は、用途に応じて様々な寸法を採ることができる。例えば、第1の実施形態に係る非水電解質電池が携帯用電子機器の用途に用いられる場合は、外装材は搭載する電子機器の大きさに合わせて小型のものにすることができる。或いは、二輪乃至四輪の自動車等に積載される非水電解質電池である場合、容器は大型電池用容器であり得る。
【0109】
(6)正極集電タブ、負極集電タブ、正極端子及び負極端子
正極集電タブ、負極集電タブ、正極端子及び負極端子は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金から形成することが望ましい。
【0110】
<製造方法>
第1の実施形態に係る非水電解質電池は、例えば、以下の手順で作製することができる。
【0111】
まず、正極及び負極を作製する。
正極は、例えば、以下の方法によって作製することができる。まず、正極活物質と導電剤と結着剤とを適切な溶媒に投入して、混合物を得る。続いて、得られた混合物を撹拌機に投入する。この攪拌機において、混合物を撹拌して、スラリーを得る。かくして得られたスラリーを、上記正極集電体上に塗布し、これを乾燥させて、次いでプレスする。かくして、正極を作製することができる。
【0112】
負極は、例えば、以下の手順により作製することができる。まず、負極活物質と、導電剤と、結着剤とを混合する。かくして得られた混合物を溶媒に投入してスラリーを調製する。このスラリーを負極集電体に塗布し、乾燥させ、次いでプレスする。かくして、負極を作製することができる。
【0113】
ここで、正極の単位面積当たりの容量p、並びに正極活物質層の厚みT
p及び空隙率は、例えば、正極活物質の種類、正極活物質層における導電剤及び/又は結着剤の混合比率、スラリーの塗布量、及びプレス条件などの様々な要因の影響を大きく受ける。同様に、負極の単位面積当たりの容量n、並びに負極活物質層の厚みT
n及び空隙率も、正極のそれらと同様に、例えば、負極活物質の種類、負極活物質層における導電剤及び/又は結着剤の混合比率、スラリーの塗布量、及びプレス条件などの影響を大きく受ける。
【0114】
そのため、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含む正極と、スピネル型チタン酸リチウムを含む負極とを用いて非水電解質電池を作製する際、単純に正極と負極との容量比p/nが1.4以上1.8以下の範囲内になるように設計しただけでは、先に例を挙げた様々な要因による影響のため、上記容量比p/nに加えて、1.03以上1.15未満の範囲内にある厚みの比T
p/T
n及び0.6以上0.8未満の範囲内にある空隙率の比P
p/P
nを満たす非水電解質電池を実現することはできない。
【0115】
第1の実施形態に係る非水電解質電池は、例えば、以下の実施例において説明するように、正極の製造条件及び負極の製造条件を組み合わせて調整することにより、製造することができる。
【0116】
次に、かくして得られた正極及び負極と、セパレータとを用いて、電極群を作製する。次に、作製した電極群を外装体に収容する。次に、外装体を一部を残して封止する。次に、外装体の封止せずに残した部分を通して、外装体内に非水電解質を入れる。これにより、電極群に非水電解質を含浸させる。最後に、非水電解質の注入孔を封止することにより、非水電解質電池を得ることができる。
【0117】
<各測定方法>
次に、非水電解質電池についての、容量比p/n、電極活物質層の厚み、及び電極活物質層の厚み1μm当たりの空隙率の算出方法を説明する。
【0118】
まず、検査対象の非水電解質電池を用意する。対象の非水電解質電池は、定格容量の80%以上の容量を有する電池とする。電池の容量維持率は、以下の方法により判断する。まず、電池を公称充電終止電圧まで充電する。充電の電流値は定格容量から求めた1Cレートに相当する電流値とする。公称充電終止電圧に達した後、その電圧を3時間に亘って保持する。充電及び電圧保持後、電池を、1Cのレートで公称放電終止電圧まで放電する。上記の充放電を計3サイクル行い、追加3サイクル目に得られた放電容量を記録する。得られた放電容量の定格容量に対する比率を容量維持率と定義する。
【0119】
次に、電池の構成要素が解体時に大気成分や水分と反応することを防ぐために、例えば、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス内のような不活性ガス雰囲気内に電池を入れる。次に、このようなグローブボックス内で、非水電解質電池を開く。例えば、ラミネート型の非水電解質電池の場合、正極集電タブ及び負極集電タブのそれぞれの周辺にあるヒートシール部を切断して、非水電解質電池を切り開くことができる。切り開いた非水電解質電池から、電極群を取り出す。取り出した電極群が正極リード及び負極リードを含む場合は、正極と負極とを短絡させないように注意しながら、正極リード及び負極リードを切断する。
【0120】
次に、取り出した電極群を解体して、正極、負極及びセパレータに分解する。その後、正極の重量を測定する。その後、正極を例えば3cm四方などに切り取り、正極試料を得る。電池の充電状態はいずれの状態であっても構わない。
【0121】
次に、切り取った正極試料の重量を測定する。測定後、切り取った正極試料を作用極とし、対極、参照極にリチウム金属箔を用いた2極式あるいは3極式の電気化学測定セルを作製する。作製した電気化学測定セルを、充電終止電位4.3V(vs.Li/Li
+)まで充電する。その後、その電圧を3時間に亘って保持する。この際の電流値は、電池から取り出した正極の重量に対する切り取った正極試料の重量の比率に、電池の定格容量を掛けたものとする。充電及び電圧保持後、充電と同じ電流値で放電終止電位3.0V(vs.Li/Li
+)になるまで放電を行う。上記の充放電を計3サイクル行い、追加3サイクル目に得られた放電容量を記録する。ここで記録した放電容量を正極試料の面積で割ることにより、正極の単位面積当たりの容量pを算出することができる。
【0122】
次に、電気化学測定セルから正極試料を取り出し、溶媒で洗浄する。溶媒としては、鎖状カーボネート(ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなど)やアセトニトリルを用いることができる。洗浄後、不活性ガス雰囲気を保ったまま真空状態にし、正極試料を乾燥させる。正極試料の乾燥は、例えば、50℃の真空下で10時間行うことができる。
【0123】
次いで、乾燥させた正極試料の厚みを測定する。厚さの測定は、マイクロメータ、ダイヤルゲージといった機器を用いても良いし、レーザー顕微鏡や走査型電子顕微鏡などを用いて電極断面観察画像から算出しても良い。
【0124】
次に、正極試料において、正極活物質層を正極集電体から剥ぎ取る。この際、正極集電体の表面が露出するように剥ぎ取る。次に、正極活物資層を剥ぎ取って残った正極集電体の厚みを、先と同様の方法で測定する。
【0125】
以上のようにして得られた電極厚みから、正極集電体の厚みを引いたものを、正極活物質層の厚みT
pとする。また、顕微鏡類を用いて電極断面観察を行った場合は、その段階で正極活物質層と正極集電体の厚みを直接求めても良い。なお、正極集電体の両面に正極活物質層が形成されている場合、2つの正極活物質層の厚みの合計を正極活物質層の厚みT
pとする。
【0126】
次に、正極集電体から剥ぎ取った正極活物質層サンプルの重量を測定する。秤量したサンプルを細孔分布測定装置内に導入し、空孔率を測定する。細孔分布測定装置は例えば島津製作所社製アサップ2020を使用し、吸着ガスとして窒素ガスを用いる。
【0127】
かくして、得られた空隙率を正極活物質層の厚みT
pで除することで、正極活物質層の厚み1μm当たりの正極活物質層の空隙率P
pが得られる。
【0128】
以上と同様の手順で、先に説明した手順で非水電解質電池から取り出した負極を用いて、負極の単位面積当たりの容量n、負極活物質層の厚みT
n、及び負極活物質層の厚み1μm当たりの空隙率P
nを測定することができる。なお、負極の単位面積当たりの容量nを測定する際は、充電終止電位を1.0V(vs.Li/Li
+)とし、放電終止電位を2.5V(vs.Li/Li
+)とする。
【0129】
以上のようにして得られた正極の単位面積当たりの容量pを負極の単位面積当たりの容量nで除することにより、容量比p/nを算出することができる。
【0130】
次に、非水電解質電池が具備する非水電解質のイオン伝導率の測定方法を説明する。
【0131】
まず、先に説明した手順で、検査対象の非水電解質電池を準備し、これを解体する。次に、解体した電池から非水電解質を抽出する。非水電解質が電極群中に充分含浸されている場合は、遠心分離などの方法を用いて電解液を抽出しても良い。これらの作業は、水分及び酸素が除去された環境で行う。アルゴンガスが充填されたグローブボックス内などが好ましい。
【0132】
得られた非水電解質について、市販の伝導率計(例えば東亜DKK株式会社製、電気伝導率計CM−42X)などを用いてイオン伝導率を測定する。
【0133】
なお、伝導率計では、測定対象の溶液におけるイオンの電導率を測定する。したがって、伝導率計で測定した電気伝導率は、イオン伝導率と読み替えることができる。
【0134】
また、非水電解質が少なく、市販の伝導率計のプローブが設置できない場合は、電極面積が既知の金属板を一定の間隔を空けて配置し、ホイートストンブリッジなどを用いてイオン伝導率を測定する。
【0135】
次に、
図1〜
図5を参照しながら、第1の実施形態に係る非水電解質電池の例を更に詳細に説明する。
【0136】
図1は、第1の実施形態に係る一例の非水電解質電池の概略切欠き斜視図である。
図2は、
図1に示すA部の概略断面図である。
図3は、
図1に示す非水電解質電池が具備する正極の概略平面図である。
図4は、
図3に示す正極の線分IV−IVに沿った概略断面図である。
図5は、
図1に示す非水電解質電池が具備する負極の概略断面図である。
【0137】
図1〜
図5に示す第1の例の非水電解質電池1は、
図1及び
図2に示す電極群2と、
図1及び
図2に示す容器3と、
図1及び
図2に示す正極集電タブ4と、
図1に示す負極集電タブ5とを具備している。
【0138】
図1及び
図2に示す電極群2は、複数の正極6と、複数の負極7と、1枚のセパレータ8とを備える。
【0139】
正極6は、
図2〜
図4に示すように、正極集電体61と、この正極集電体61の両面に形成された正極活物質層62とを備えている。また、
図2及び
図3に示すように、正極集電体61は表面に正極活物質層62が形成されていない部分63を含んでおり、この部分63は正極リードとして働く。
図3に示すように、正極リード63は、正極活物質層62よりも幅の狭い狭小部となっている。また、2つの正極活物質層62は、
図4に示すように、それぞれ、同様の厚みT
p1及びT
p2を有している。正極6の正極活物質層62の厚みT
pは、和(T
p1+T
p2)で表される。
【0140】
負極7は、
図2及び
図5に示すように、負極集電体71と、この負極集電体71の両面に形成された負極活物質層72とを備えている。また、図示はしていないが、負極集電体71は表面に負極活物質層72が形成されていない部分を含んでおり、この部分は負極リードとして働く。また、2つの負極活物質層72は、
図5に示すように、それぞれ、同様の厚みT
n1及びT
n2を有している。負極7の負極活物質層の厚みT
nは、和(T
n1+T
n2)で表される。
【0141】
図2に示すように、セパレータ8は九十九折にされている。九十九折にされたセパレータ8の互いに対向する面によって規定される空間には、正極6又は負極7がそれぞれ配置されている。それにより、正極6と負極7とは、
図2に示すように、正極活物質層62と負極活物質層72とがセパレータ8を間に介在させて対向するように積層されている。かくして、電極群2が形成されている。
【0142】
電極群2の正極リード63は、
図2に示すように、電極群2から延出している。これらの正極リード63は、
図2に示すように、1つにまとめられて、正極集電タブ4に接続されている。また、図示はしていないが、電極群2の負極リードも電極群2から延出している。これらの負極リードは、図示していないが、1つにまとめられて、
図1に示す負極集電タブ5に接続されている。
【0143】
このような電極群2は、
図1及び
図2に示すように、容器3に収納されている。
【0144】
容器3は、アルミニウム箔31とその両面に形成された樹脂フィルム32及び33とからなるアルミニウム含有ラミネートフィルムから形成されている。容器3を形成するアルミニウム含有ラミネートフィルムは、折り曲げ部3dを折り目として、樹脂フィルム32が内側を向くように折り曲げられて、電極群2を収納している。また、容器3は、
図1及び
図2に示すように、その周縁部3bにおいて、正極集電タブ4を挟み込んでいる。同様に、容器3は、周縁部3cにおいて、負極集電タブ5を挟み込んでいる。それにより、正極集電タブ4及び負極集電タブ5は、容器3から、互いに反対の向きに延出している。
【0145】
容器3は、正極集電タブ4及び負極集電タブ5を挟み込んだ部分を除くその周縁部3a、3b及び3cが、互いに対向した樹脂フィルム32の熱融着によりヒートシールされている。
【0146】
また、非水電解質電池1では、正極集電タブ4と樹脂フィルム32との接合強度を向上させるために、
図2に示すように、正極集電タブ4と樹脂フィルム32との間に絶縁フィルム9が設けられている。また、周縁部3bにおいて、正極集電タブ4と絶縁フィルム9とが熱融着によりヒートシールされており、樹脂フィルム32と絶縁フィルム9とが熱融着によりヒートシールされている。同様に、図示していないが、負極集電タブ5と樹脂フィルム32との間にも絶縁フィルム9が設けられている。また、周縁部3cにおいて、負極集電タブ5と絶縁フィルム9とが熱融着によりヒートシールされており、樹脂フィルム32と絶縁フィルム9とが熱融着によりヒートシールされている。すなわち、
図1〜
図3に示す非水電解質電池1では、容器3の周縁部3a、3b及び3cの全てが熱シールされている。
【0147】
容器3は、図示していない非水電解質を更に収納している。非水電解質は、電極群2に含浸されている。
【0148】
図1〜
図5に示す非水電解質電池1では、
図2に示すように、電極群2の最下層に複数の正極リード63をまとめている。同様に、図示していないが、電極群2の最下層に複数の負極リードをまとめている。しかしながら、例えば
図4に示すように、電極群2の中段付近に複数の正極リード63及び複数の負極リード73を、それぞれ1つにまとめて、正極集電タブ4及び負極集電タブ5のそれぞれに接続することができる。
【0149】
以上に説明した第1の実施形態によると、正極と負極と非水電解質とを具備した非水電解質電池が提供される。正極の正極活物質層は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の正極活物質を含む。負極の負極活物質層はスピネル型チタン酸リチウムを含む。非水電解質は、イオン伝導率が25℃において7mS/cm以上10mS/cm以下である。この非水電解質電池は、容量比p/nが1.4以上1.8以下の範囲内にあり、厚みの比T
p/T
nが1.05以上1.3未満の範囲内にあり、空隙率の比P
p/P
nが0.55以上0.8未満の範囲内にある。これらのおかげで、第1の実施形態に係る非水電解質電池は、非水電解質の酸化分解を抑えることができると共に、正極と負極との間でLi濃度の偏りが生じるのを防ぐことができる。その結果、第1の実施形態に係る非水電解質電池は、優れたサイクル寿命と優れたレート特性とを示すことができる。
【0150】
(第2の実施形態)
第2の実施形態よると、バッテリーシステムが提供される。このバッテリーシステムは、第1の電池ユニットと、第1の電池ユニットに並列に接続された第2の電池ユニットとを具備する。第1の電池ユニットは、鉛蓄電池を含む。第2の電池ユニットは、第1の実施形態に係る非水電解質電池を含む。
【0151】
第1の実施形態に係る非水電解質電池は、先に説明したように、優れたレート特性を示すことができる。また、鉛蓄電池を含む第1の電池ユニットと、第1の実施形態に係る非水電解質電池を含む第2の電池ユニットとは、互いに並列に接続されている。そのため、第2の実施形態に係るバッテリーシステムに大電流が流れた場合、第1の実施形態に係る非水電解質電池を含んだ第2の電池ユニットが、大電流の大部分を受け入れることができる。それにより、鉛蓄電池を含む第1の電池ユニットにかかる負荷を低減でき、結果として第1の電池ユニットの劣化を防ぐことができる。さらに、第1の実施形態に係る非水電解質電池は優れたサイクル寿命特性を示すこともできる。その結果、第2の実施形態に係るバッテリーシステムは、優れたサイクル寿命特性及び優れたレート特性を示すことができる。
【0152】
次に、第2の実施形態に係るバッテリーシステムをより詳細に説明する。
【0153】
第1の電池ユニットは、1つ又は複数の鉛蓄電池を含むことができる。複数の鉛蓄電池を含む場合、これらの鉛蓄電池は、直列に、並列に又はこれらの組み合わせの接続形態で、互いに電気的に接続されることができる。すなわち、第1の電池ユニットは、複数の鉛蓄電池を含む組電池でもよい。
【0154】
第2の電池ユニットは、第1の実施形態に係る非水電解質電池を具備する。第2の電池ユニットは、1つ又は複数の非水電解質電池を具備することができる。複数の非水電解質電池を具備する場合、そのうちの少なくとも1つが第1の実施形態に係る非水電解質電池であればよい。複数の非水電解質電池を含む場合、これらの非水電解質電池は、直列に、並列に又はこれらの組み合わせの接続形態で、互いに電気的に接続されることができる。すなわち、第2の電池ユニットは、複数の非水電解質電池を含む組電池でもよい。
【0155】
第1の実施形態に係る非水電解質電池は、例えば、先に説明したように、2.4V以下の作動電圧範囲を示すことができる。そして、第1の実施形態に係る非水電解質電池のうち、2.4V以下の作動電圧範囲を示すことができる非水電解質電池は、鉛蓄電池との優れた電圧適合性を示すことができる。
【0156】
したがって、第2の実施形態に係るバッテリーシステムのうち、第2の電池ユニットに含まれる非水電解質電池が2.4V以下の作動電圧範囲を示すことができるバッテリーシステムは、例えば第1の電池ユニットと第2の電池ユニットとの電圧を適合させるための部材なしでも構成することができる。
【0157】
次に、第2の実施形態に係るバッテリーシステムの一例を、図面を参照しながら、具体的に説明する。
【0158】
図7は、第2の実施形態に係るバッテリーシステムの概略回路図である。
【0159】
図7に示すバッテリーシステム100は、第1の電池ユニット110及び第2の電池ユニット120を具備する。
【0160】
第1の電池ユニット110は、複数の鉛蓄電池から構成された組電池である。第2の電池ユニット120は、
図1〜
図5を参照しながら説明した複数の非水電解質電池1から構成された組電池である。第2の電池ユニット120では、複数の非水電解質電池1が互いに直列に接続されている。第2の電池ユニット120の公称電圧は、第1の電池ユニット110のそれと同様である。
【0161】
図7に示すバッテリーシステム100では、第1の電池ユニット110と第2の電池ユニット120とが、回路開閉手段130を介して並列に接続されている。
【0162】
回路開閉手段130は、図示しない半導体スイッチを備える。半導体スイッチは、金属−酸化物−半導体接合電界効果トランジスタ(MOS−FET)を含み、これを介する電子の通電及びその遮断の切り替えを行うことができる。半導体スイッチを介する電子の通電及びその遮断の切り替えは、電気制御手段(ECU)131によって制御される。
【0163】
第1の電池ユニット110の端子間電圧は、図示しないセンサによりモニタされ、その情報が電子制御手段131へと送られる。
【0164】
図7に示すバッテリーシステム100は、電気負荷140及びオルタネータ150を更に具備している。電気負荷140及びオルタネータ150は、回路開閉手段130を介して、第1の電池ユニット110及び第2の電池ユニット120に並列接続されている。
【0165】
オルタネータ150は、機械的エネルギーを電気的エネルギーに変換する交流発電機である。オルタネータ150は、図示しない整流器に交流電流を送ることができる。この整流器は、受け取った交流電流を直流電流に変換して、この直流電流をバッテリーシステム100に流す働きを有する。オルタネータ150からの送電電圧は、図示しないセンサによりモニタされ、その情報が電子制御手段131に送られる。
【0166】
図7に示すバッテリーシステムは、第1の電池ユニット110及び第2の電池ユニット120を保護するための保護制御手段160を更に具備している。保護制御手段160は、例えば、第2の電池ユニット120の端子間電圧をモニタする手段(図示しない)を含むことができる。例えば、第2の電池ユニット120の端子間電圧が第1の電池ユニット110の使用可能電圧範囲から外れた場合、保護制御手段160は、回路開閉手段130に接続された電子制御手段131に信号を送り、半導体スイッチを「遮断」状態にして、第1の電池ユニット110と第2の電池ユニット120との間の通電を防ぐことができる。
【0167】
図7に示すバッテリーシステム100は、例えば、自動車用バッテリーシステムである。
【0168】
自動車用バッテリーシステムであるバッテリーシステム100では、電気負荷140は、例えば、空調設備及び照明設備を含む。
【0169】
自動車用バッテリーシステムであるバッテリーシステム100では、オルタネータ150が、自動車のエンジンに機械的に接続されている。また、オルタネータ150は、制動系統にも接続されており、自動車の制動の際に生じるエネルギーを回生エネルギーに変換することができる。
【0170】
次に、自動車用バッテリーシステムであるバッテリーシステム100における送電の例を説明する。
【0171】
(1)エンジン作動時
自動車のエンジンが作動している間、オルタネータ150が発電を行い、かくして生じた電気が、図示しない整流器により直流に変換され、電気負荷140に送られる。
【0172】
エンジンの作動中、オルタネータ150からの送電電圧が第1の電池ユニット110によって許容される範囲内にある場合、電子制御手段131は、半導体スイッチの状態をオルタネータ150と第1の電池ユニット110との間で「通電」状態にし、オルタネータ150で生じた電気を第1の電池ユニット110に送る。
【0173】
エンジンの作動中、オルタネータ150からの送電電圧が第1の電池ユニット110によって許容される範囲から外れている場合、電子制御手段131は、半導体スイッチの状態をオルタネータ150と第1の電池ユニット110との間で「遮断」状態にし、オルタネータ150からの第1の電池110への送電を遮断する。
【0174】
同様に、エンジンの作動中、オルタネータ150からの送電電圧が第2の電池ユニット120によって許容される範囲内にある場合、電子制御手段131は、半導体スイッチの状態をオルタネータ150と第2の電池ユニット120との間で「通電」状態にし、オルタネータ150で生じた電気を第2の電池ユニット120に送る。
【0175】
エンジンの作動中、オルタネータ150からの送電電圧が第2の電池ユニット120によって許容される範囲から外れている場合、電子制御手段131は、半導体スイッチの状態をオルタネータ150と第2の電池ユニット120との間で「遮断」状態にし、オルタネータ150からの第2の電池120への送電を遮断する。
【0176】
なお、エンジンの作動中、オルタネータ150からの送電電圧が第1の電池ユニット110及び第2の電池ユニット120の何れにも許容される範囲内にある場合、オルタネータ150からの電気は、第1の電池ユニット110及び第2の電池ユニット120の両方に流れる。この場合、第1の電池ユニット110及び第2の電池ユニット120のうち抵抗の低い方の電池ユニット、具体的には第2の電池ユニット120に優先的に流れる。それにより、第1の電池ユニット110への電気負荷を小さくすることができる。
【0177】
(2)自動車制動時
自動車が制動されると、オルタネータ150は、エンジン作動時よりも大きな電流を瞬間的にバッテリーシステム100に流す。この際、電子制御手段131は、半導体スイッチの状態をオルタネータ150と第2の電池120との間で「通電」状態にする一方で、オルタネータ150と第1の電池ユニット110との間で「遮断」状態にする。
【0178】
バッテリーシステム100では、第2の電池ユニット120は、急速充放電が可能な非水電解質電池1の組電池である。そのため、第2の電池ユニット120は、自動車の制動時にオルタネータ150で生じた大電流を受け入れることができる。
【0179】
第1の電池ユニット110が含む鉛蓄電池は、大電流での電気エネルギーが入力されると、劣化しやすい傾向がある。しかしながら、バッテリーシステム100では、以上のように、自動車制動時に入力される大電流は、優れた入力特性を示すことができる非水電解質電池1を含む第2の電池ユニット120が引き受けることができる。そのため、バッテリーシステム100は、制動時に得られたエネルギーを効率よく回生できながらも、鉛蓄電池を含む第1の電池ユニット110の劣化、ひいてはバッテリーシステム100全体の劣化を防ぐことができる。
【0180】
(3)エンジン停止時
エンジン停止時は、オルタネータ150は発電しないので、オルタネータ150からの送電は行われない。その代わりに、第1の電池ユニット110又は第2の電池ユニット120が、電気負荷140への送電を担う。この際、保護制御手段160が、電子制御手段131に信号を送って回路開閉手段130を制御して、第1の電池ユニット110及び第2の電池ユニット120のそれぞれの電圧を使用可能電圧範囲内に維持することができる。
【0181】
第2の実施形態に係るバッテリーシステムは、第1の実施形態に係る非水電解質電池を含む第2の電池ユニットを具備する。従って、第2の実施形態に係るバッテリーシステムは、優れたサイクル寿命と優れたレート特性とを示すことができる。
【0182】
(実施例)
以下に実施例を説明する。
【0183】
[実施例1]
実施例1では、以下の手順により、
図1〜
図5に示す非水電解質電池1と同様の構造を有する実施例1の非水電解質電池を作製した。
【0184】
[正極の作製]
正極活物質として、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi
0.5Co
0.3Mn
0.2O
2)の粉末を準備した。正極活物質の粒度分布の中心粒径は6.0μmであった。また、導電剤として、アセチレンブラックと、グラファイトとを準備した。また、結着剤として、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を準備した。準備したリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物粉末、アセチレンブラック、グラファイト及びPVdFを、87重量%:5.0重量%:3.0重量%:5.0重量%の重量比で、N−メチルピロリドンに添加して混合した。かくして、正極スラリーを調製した。
【0185】
次に、撹拌後に得られた正極スラリーを、塗工装置で、厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に塗布した。この際、アルミニウム箔に、スラリーを塗布しない部分を残した。次に、得られた塗膜を乾燥させた。次に、乾燥させた塗膜を、ロールプレス機にて、正極厚みが47μmとなり且つ正極活物質層の密度が3.0g/cm
3となるように圧延した。最後に、スラリーを塗布しなかった部分を打ち抜いて
図3に示すような正極リードとしての狭小部を成形した。かくして、複数の正極を作製した。
【0186】
[負極の作製]
負極活物質として、スピネル型のチタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12)の粉末を準備した。負極活物質の粒度分布の中心粒径は1.0μmであった。また、導電剤として、アセチレンブラックと、グラファイトとを準備した。また、結着剤として、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を準備した。準備したチタン酸リチウム、アセチレンブラック、グラファイト及びPVdFを、91重量%:3.0重量%:3.0重量%:3.0重量%の重量比で、N−メチルピロリドンに添加して混合した。かくして、負極スラリーを調製した。
【0187】
次に、撹拌後に得られた負極スラリーを、塗工装置で、厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に塗布した。この際、アルミニウム箔に、スラリーを塗布しない部分を残した。次に、得られた塗膜を乾燥させた。次に、乾燥させた塗膜を、ロールプレス機にて、負極厚みが44μmとなり且つ負極活物質層の密度が2.1g/cm
3となるように圧延した。最後に、スラリーを塗布しなかった部分を打ち抜いて負極リードとしての狭小部を成形した。かくして、複数の負極を作製した。
【0188】
作製した正極の正極活物質層の厚みT
pの負極活物質層の厚みT
nに対する比T
p/T
nは、1.11であった。
【0189】
[電極群の作製]
まず、厚さが30μmの帯状の微多孔膜セパレータを準備した。次に、このセパレータを九十九折にした。次に、
図2を参照しながら先に説明したように、九十九折にしたセパレータの互いに対向する面によって規定される空間に、正極と負極とがセパレータを挟んで対向するように、正極及び負極を挿入した。この際、複数の正極リードと複数の負極リードが積層体から互いに反対方向に延出するようにした。最後に、得られた積層体に対して図示していない巻き止めテープを貼り、電極群とした。電極群の放電容量が0.5Ahとなるように、電極面積及び積層数を調整した。
【0190】
[電極群への正極集電タブ及び負極集電タブの接続]
正極集電タブと負極集電タブとをアルミニウムを用いて作製した。続いて、複数の正極の正極リードを1つにまとめて、正極集電タブに接続した。同様に、複数の負極の負極リードを1つにまとめて、負極集電タブに接続した。このようにして、正極集電タブ及び負極集電タブを、正極と負極とからの集電をそれぞれ簡便に行える様、電極群から互いに反対の向きに延出するように設置した。
【0191】
[容器の作製]
容器として、アルミニウム含有ラミネートフィルムを用いた。用いたアルミニウム含有ラミネートフィルムは、
図2に示した容器3と同様の構造を有していた。具体的には、用いたアルミニウム含有ラミネートフィルムは、アルミニウム箔と、このアルミニウム箔を挟み込む2枚の樹脂フィルムから構成されていた。
【0192】
このアルミニウム含有ラミネートフィルムを上記電極群が納まる形状に成型した。このように成形したアルミニウム含有ラミネートフィルム内に、
図1及び
図2を参照しながら先に説明したように、電極群を収納した。この際、
図2に示すように、容器の1つの周縁部において、互いに向き合う樹脂フィルムの間に正極集電タブを挟み込んだ。同様に、容器のもう1つの周縁部において、互いに向き合う樹脂フィルムの間に負極集電タブを挟み込んだ。正極集電タブと樹脂フィルムとの間、及び、負極集電タブと樹脂フィルムとの間には、それぞれ、絶縁フィルムを配した。
【0193】
続いて、3つの周縁部において対向した樹脂フィルムを一部を開口部として残して熱融着して固定した。同時に、正極集電タブを挟み込んだ周縁部において、樹脂フィルムとこれに対向した絶縁フィルムとを熱融着して固定し、且つ正極集電タブとこれに対向した絶縁フィルムとを熱融着して固定した。同様に、負極集電タブを挟み込んだ周縁部において、樹脂フィルムとこれに対向した絶縁フィルムとを熱融着して固定し、且つ負極集電タブとこれに対向した絶縁フィルムとを熱融着して固定した。かくして注液前セルを作製した。
【0194】
[非水電解質の注液]
エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとを体積比3:7で混合して、非水溶媒を調製した。この非水溶媒に、1mol/lの濃度で六フッ化リン酸リチウムを電解質として溶解させた。かくして、非水電解質を調製した。調製した非水電解質は、25℃でのイオン伝導率が7.58mS/cmであった。
【0195】
この非水電解質を先に説明した注液前セルに注入した。非水電解質の注液は、容器の周縁部のうち熱融着させずに残しておいた開口部を介して行った。
【0196】
[非水電解質電池の作製]
容器の周縁部のうち熱融着させずに残しておいた開口部において、互いに向き合う樹脂フィルム同士を熱融着させた。かくして、実施例1の非水電解質電池を得た。
【0197】
[評価]
以上のようにして作製した実施例1の非水電解質電池について、充放電サイクル前後の抵抗値、レート特性及び充放電サイクル特性を以下の手順により評価した。
【0198】
(充放電サイクル前の抵抗値の測定)
実施例1の非水電解質電池を、25℃に保持された恒温槽内で、0.5Aの定電流で電圧が2.4Vになるまで充電した。次いで、この非水電解質電池の電圧を、そのまま2.4Vに3時間保持した。その後、実施例1の非水電解質電池を、30分間開回路状態で放置した。次に、実施例1の非水電解質電池を0.5Aの定電流で電圧が1.4Vになるまで放電した。以上に説明した定電流充電、開回路状態での放置及び定電流放電の1サイクルを、1回の充放電サイクルとした。実施例1の非水電解質電池について、この充放電サイクルを3回繰り返した。3サイクル目の放電時に得られた容量を基準容量とした。実施例1の非水電解質電池の基準容量は0.5Ahだった。
【0199】
その後、実施例1の非水電解質電池を、基準容量に対して充電率50%まで充電した。その後、実施例1の非水電解質電池を25℃環境下で放電した。ここでの放電は、10Cレートで10秒間実施した。
【0200】
この際の抵抗を以下のようにして測定した。まず、電流印加前の電圧をV
0とした。一方、10秒放電時の電圧をV
10とした。電圧V
0及び電圧V
10のそれぞれの値、並びに10Cレートに相当する電流値I
10Cの値を、下記式(1)のV
0、V
10及びI
10Cのそれぞれに代入して、10秒抵抗R
10secを算出した。
【0201】
R
10sec =|V
10−V
0|/I
10C (1)
このようにして算出した10秒抵抗値R
10secを、サイクル前の抵抗値R
sとした。R
sは30mΩであった。
【0202】
(レート特性試験)
実施例1の非水電解質電池を、25℃に保持された恒温槽内で、0.5Aの定電流で電圧が2.4Vになるまで充電した。次いで、この非水電解質電池の電圧を、そのまま2.4Vに3時間保持した。その後、この非水電解質電池を、30分間開回路状態で放置した。次いで、この非水電解質電池を、5.0Aの定電流で電圧が1.4Vになるまで放電した。この放電での放電容量を基準容量で除した値を、レート容量維持率とした。
【0203】
(充放電サイクル特性試験)
実施例1の非水電解質電池に対して、45℃の環境下で充放電サイクルを500回繰り返して行った。具体的には、充放電サイクル試験を以下の手順で行った。まず、実施例1の非水電解質電池を、2.5Aの定電流で電圧が2.4Vになるまで充電した。次いで、実施例1の非水電解質電池を、電圧を2.4Vに保持した状態で定電圧充電に供し、電流値が0.25Aに達した時点で充電を停止した。次に、実施例1の非水電解質電池を、10分間開回路状態で放置した。次に、実施例1の非水電解質電池を、2.5Aの定電流で電圧が1.4Vになるまで放電に供した。以上に説明した定電流充電、定電圧充電、開回路での放置、及び定電流充電の1サイクルを、1回の充放電サイクルとした。実施例1の非水電解質電池に対し、この充放電サイクルを、500回繰り返し行った。
【0204】
500回の充放電サイクルを行った後、実施例1の非水電解質電池を以下の手順で3回の追加充放電サイクルに供した。まず、実施例1の非水電解質電池を、25℃に保持された恒温槽内で、0.5Aの定電流で電圧が2.4Vになるまで充電した。次いで、この非水電解質電池の電圧を、そのまま2.4Vに3時間保持した。その後、実施例1の非水電解質電池を、30分間開回路状態で放置した。次いで、実施例1の非水電解質電池を、0.5Aの定電流で電圧が1.4Vになるまで放電した。以上に説明した定電流充電、定電圧保持、開回路での放置、及び定電流放電の1サイクルを、1回の追加充放電サイクルとした。この追加充放電サイクルを、3回繰り返して行った。3回目の追加充放電サイクルでの放電時に得られた容量の基準容量に対する比を、サイクル容量維持率とした。実施例1の非水電解質電池のサイクル容量維持率は95%であった。
【0205】
(充放電サイクル後の抵抗値の測定)
充放電サイクル特性を評価した実施例1の非水電解質電池を、3回目の追加充放電サイクルでの放電時に得られた放電容量の50%になるように充電した。この状態の実施例1の非水電解質電池の10秒抵抗R
10secを、充放電サイクル前の抵抗値の測定と同様の手順で、上記式(1)を用いて算出した。このようにして算出した10秒抵抗値R
10secを、サイクル後の抵抗値R
fとした。
【0206】
(抵抗上昇率Tの算出)
実施例1の非水電解質電池のサイクル前の抵抗値R
sの値と、サイクル後の抵抗値R
fの値とを、下記式(2)におけるR
sとR
fとにそれぞれ代入して、サイクル前後の抵抗上昇率Tを算出した。
【0207】
T=(R
f−R
s)/R
s (2)
[正極の容量及び空隙率の測定]
抵抗上昇率測定後の実施例1の非水電解質電池について、以下の手順で、正極容量を測定した。非水電解質電池の解体方法の詳細については、以下のとおりである。
【0208】
まず、実施例1の非水電解質電池をアルゴン雰囲気のグローブボックスに入れた。次いで、この非水電解質電池を解体した。解体した非水電解質電池から、電極群を取り出した。取り出した電極群から、正極及び負極を取り出した。
【0209】
次いで、取り出した正極の重量を測定した。次に、正極から2cm×2cmの大きさの切片を切り取り、正極試料とした。この正極試料の重量を測定した。次いで、ガラスセル内に、この正極試料を作用極とし配置し、対極にリチウム金属を配置した。これらの電極間に厚さが30μmの帯状の微多孔膜セパレータを配置した。非水電解質としては、非水溶媒としてエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを1:1で混合したものを用い、電解質として1mol/lの六フッ化リン酸リチウムを用いた非水電解液を調製した。この非水電解液を先のガラスセル内に注液し、ビーカーセルを作製した。
【0210】
このビーカーセルを、作用極である正極試料の電位が4.3V(vs.Li/Li
+)になるまで、0.3mAの定電流で充電した。その後、このビーカーセルの電圧を4.3Vに3時間保持した。次いで、ビーカーセルを30分間開回路状態で放置した。次いで、ビーカーセルを、正極試料の電位が3.5V(vs.Li/Li
+)になるまで、0.3mAの定電流で放電した。この際の放電容量を、正極試料の容量として記録した。この容量を電極面積である4cm
2で除したものを、正極の単位面積当たりの容量pとした。
【0211】
容量測定後、ビーカーセルを解体して、正極試料を取り出した。この正極試料を用いて、先に説明した手順に従い、正極活物質層の空隙率の測定を行った。実施例1の非水電解質電池の正極活物質層の空隙率は32%であった。
【0212】
[負極の容量及び空隙率の測定]
上記手順により解体した非水電解質電池から取り出した負極の重量を測定した。この負極から、2cm×2cmの大きさの切片を切り取り、負極試料とした。この負極試料の重量を測定した。次いで、この負極試料を用いて、正極についてのビーカーセルの作製と同様の手順で、負極についてのビーカーセルを作製した。
【0213】
このビーカーセルを、作用極である負極試料の電位が1.0V(vs.Li/Li
+)になるまで、0.3mAの定電流で充電した。その後、このビーカーセルの電圧を、1.0Vに3時間保持した。次いで、ビーカーセルを30分間開回路状態で放置した。次いで、ビーカーセルを、負極試料の電位が2.5V(vs.Li/Li
+)になるまで、0.3mAの定電流で放電した。この際の放電容量を、負極試料の容量として記録した。この容量を電極面積である4cm
2で除したものを、負極の単位面積当たりの容量nとした。
【0214】
容量測定後、ビーカーセルを解体して、負極試料を取り出した。この負極試料を用いて先に説明した手順に従い、負極活物質層の空隙率の測定を行った。実施例1の非水電解質電池の負極活物質層の空隙率は38%であった。
【0215】
(容量比p/n及び空隙率の比P
p/P
nの算出)
先のようにして測定した正極の単位面積当たりの容量pを、同じく先のようにして測定した負極の単位面積当たりの容量で除することにより、容量比p/nを算出した。実施例1の非水電解質電池の容量比p/nは1.4であった。
【0216】
また、正極活物質層の空隙率を正極活物質層の厚みT
pで除することにより、正極活物質層の厚み1μm当たりの正極活物質層の空隙率P
pを算出した。同様に、負極活物質層の空隙率を負極活物質層の厚みT
nで除することにより、負極活物質層の厚み1μm当たりの負極活物質の空隙率P
nを算出した。かくして算出した各電極活物質層の厚み1μm当たりの空隙率を用いて、空隙率の比P
p/P
nを算出した。実施例1の非水電解質電池の空隙率の比P
p/P
nは、0.762であった。
【0217】
[実施例2]
実施例2では、以下の点以外は実施例1と同様の手順により、実施例2の非水電解質電池を作製した。
【0218】
まず、実施例2では、圧延後の正極の厚みが50μmとなり且つ正極活物質層の密度が3.0g/cm
3となるように、正極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の正極を作製した。
【0219】
また、実施例2では、圧延後の負極の厚みが46μmとなり且つ負極活物質層の密度が2.0g/cm
3となるように、負極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の負極を作製した。
【0220】
そして、実施例2では、用いる正極の枚数、用いる負極の枚数、正極活物質層の面積、及び負極活物質層の面積を調節して、実施例1の非水電解質電池と同様の容量を示す実施例2の非水電解質電池を作製した。
【0221】
[実施例3]
実施例3では、以下の点以外は実施例1と同様の手順により、実施例3の非水電解質電池を作製した。
【0222】
まず、実施例3では、圧延後の正極の厚みが54μmとなり且つ正極活物質層の密度が2.9g/cm
3となるように、正極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の正極を作製した。
【0223】
また、実施例3では、圧延後の負極の厚みが46μmとなり且つ負極活物質層の密度が2.0g/cm
3となるように、負極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の負極を作製した。
【0224】
そして、そして、実施例3では、用いる正極の枚数、用いる負極の枚数、正極活物質層の面積、及び負極活物質層の面積を調節して、実施例1の非水電解質電池と同様の容量を示す実施例3の非水電解質電池を作製した。
【0225】
[実施例4]
実施例4では、以下の点以外は実施例1と同様の手順により、実施例4の非水電解質電池を作製した。
【0226】
まず、実施例4では、圧延後の正極の厚みが63μmとなり且つ正極活物質層の密度が2.7g/cm
3となるように、正極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の正極を作製した。
【0227】
また、実施例4では、圧延後の負極の厚みが53μmとなり且つ負極活物質層の密度が1.8g/cm
3となるように、負極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の負極を作製した。
【0228】
そして、実施例4では、用いる正極の枚数、用いる負極の枚数、正極活物質層の面積、及び負極活物質層の面積を調節して、実施例1の非水電解質電池と同様の容量を示す実施例4の非水電解質電池を作製した。
【0229】
[実施例5]
実施例5では、以下の点以外は実施例1と同様の手順により、実施例5の非水電解質電池を作製した。
【0230】
まず、実施例5では、圧延後の正極の厚みが51μmとなり且つ正極活物質層の密度が2.9g/cm
3となるように、正極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の正極を作製した。
【0231】
また、実施例5では、圧延後の負極の厚みが46μmとなり且つ負極活物質層の密度が2.0g/cm
3となるように、負極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の正極を作製した。
【0232】
そして、実施例5では、用いる正極の枚数、用いる負極の枚数、正極活物質層の面積、及び負極活物質層の面積を調節して、実施例1の非水電解質電池と同様の容量を示す実施例5の非水電解質電池を作製した。
【0233】
[実施例6]
実施例6では、以下の点以外は実施例1と同様の手順により、実施例6の非水電解質電池を作製した。
【0234】
まず、実施例6では、圧延後の正極の厚みが51μmとなり且つ正極活物質層の密度が2.8g/cm
3となるように、正極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の正極を作製した。
【0235】
また、実施例6では、圧延後の負極の厚みが46μmとなり且つ負極活物質層の密度が2.0g/cm
3となるように、負極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の負極を作製した。
【0236】
そして、実施例6では、用いる正極の枚数、用いる負極の枚数、正極活物質層の面積、及び負極活物質層の面積を調節して、実施例1の非水電解質電池と同様の容量を示す非水電解質電池を作製した。
【0237】
[実施例7]
実施例7では、以下の点以外は実施例1と同様の手順により、実施例7の非水電解質電池を作製した。
【0238】
まず、実施例7では、圧延後の正極の厚みが53μmとなり且つ正極活物質層の密度が2.8g/cm
3となるように、正極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の正極を作製した。
【0239】
また、実施例7では、圧延後の負極の厚みが46μmとなり且つ負極活物質層の密度が2.0g/cm
3となるように、負極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の負極を作製した。
【0240】
そして、実施例7では、用いる正極の枚数、用いる負極の枚数、正極活物質層の面積及び負極活物質層の面積を調節して、実施例1の非水電解質電池と同様の容量を示す実施例7の非水電解質電池を作製した。
【0241】
[実施例8]
実施例8では、以下の点以外は実施例1と同様の手順により、実施例8の非水電解質電池を作製した。
【0242】
まず、実施例8では、圧延後の正極の厚みが48μmとなり且つ正極活物質層の密度が3.2g/cm
3となるように、正極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の正極を作製した。
【0243】
また、実施例8では、圧延後の負極の厚みが46μmとなり且つ負極活物質層の密度が2.2g/cm
3となるように、負極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の負極を作製した。
【0244】
そして、実施例8では、用いる正極の枚数、用いる負極の枚数、正極活物質層の面積、及び負極活物質層の面積を調節して、実施例1の非水電解質電池と同様の容量を示す実施例8の非水電解質電池を作製した。
【0245】
[実施例9]
実施例9では、実施例1で用いた非水電解質の代わりに以下の手順で調製した非水電解質を用いたこと以外は実施例1と同様の手順により、実施例9の非水電解質電池を作製した。
【0246】
まず、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジメチルカーボネートとを体積比3:3:4で混合して、非水溶媒を調製した。次に、この非水溶媒に、1mol/lの濃度で六フッ化リン酸リチウムを電解質として溶解させて、非水電解質を得た。調製した非水電解質は、25℃でのイオン伝導率が8.12mS/cmであった。
【0247】
[実施例10]
実施例10では、実施例1で用いた非水電解質の代わりに以下の手順で調製した非水電解質を用いたこと以外は実施例1と同様の手順により、実施例10の非水電解質電池を作製した。
【0248】
まず、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを体積比3:7で混合して、非水溶媒を調製した。次に、この非水溶媒に、1mol/lの濃度で六フッ化リン酸リチウムを電解質として溶解させて、非水電解質を得た。調製した非水電解質は、25℃でのイオン伝導率が8.69mS/cmであった。
【0249】
[実施例11]
実施例11では、以下に説明するように正極を作製したこと以外は実施例1と同様の手順により、実施例11の非水電解質電池を作製した。
【0250】
まず、実施例11では、正極活物質として、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2)の粉末を準備した。また、実施例1と同様に、導電剤としてのアセチレンブラック及びグラファイトと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを準備した。準備したリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物粉末、アセチレンブラック、グラファイト及びPVdFを、87重量%:5.0重量%:3.0重量%:5.0重量%の重量比で、N−メチルピロリドンに添加して混合した。かくして、正極スラリーを調製した。
【0251】
次に、撹拌後に得られた正極スラリーを、塗工装置で、厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に塗布した。この際、アルミニウム箔に、スラリーを塗布しない部分を残した。次に、得られた塗膜を乾燥させた。次に、乾燥させた塗膜を、ロールプレス機にて、正極の厚みが46μmとなり且つ正極活物質層の密度が3.0g/cm
3となるように圧延した。最後に、スラリーを塗布しなかった部分を打ち抜いて
図3に示すような正極リードとしての狭小部を成形した。かくして、複数の正極を作製した。
【0252】
[実施例12]
実施例12では、以下に説明するように正極を作製したこと以外は実施例1と同様の手順により、実施例12の非水電解質電池を作製した。
【0253】
まず、実施例12では、正極活物質として、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2)の粉末を準備した。正極活物質の粒度分布の中心粒径は6.0μmであった。また、実施例1と同様に、導電剤としてのアセチレンブラック及びグラファイトと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを準備した。準備したリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物粉末、アセチレンブラック、グラファイト及びPVdFを、87重量%:5.0重量%:3.0重量%:5.0重量%の重量比で、N−メチルピロリドンに添加して混合した。かくして、正極スラリーを調製した。
【0254】
次に、撹拌後に得られた正極スラリーを、塗工装置で、厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に塗布した。この際、アルミニウム箔に、スラリーを塗布しない部分を残した。次に、得られた塗膜を乾燥させた。次に、乾燥させた塗膜を、ロールプレス機にて、正極の厚みが50μmとなり且つ正極活物質層の密度が3.0g/cm
3となるように圧延した。最後に、スラリーを塗布しなかった部分を打ち抜いて
図3に示すような正極リードとしての狭小部を成形した。かくして、複数の正極を作製した。
【0255】
[比較例1]
比較例1では、以下の点以外は実施例1と同様の手順により、比較例1の非水電解質電池を作製した。
【0256】
まず、比較例1では、圧延後の正極の厚みが34μmとなり且つ正極活物質層の密度が3.4g/cm
3となるように、正極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の正極を作製した。
【0257】
また、比較例1では、圧延後の負極の厚みが50μmとなり且つ負極活物質層の密度が1.8g/cm
3となるように、負極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の負極を作製した。
【0258】
そして、比較例1では、用いる正極の枚数、用いる負極の枚数、正極活物質層の面積、及び負極活物質層の面積を調節して、実施例1の非水電解質電池と同様の容量を示す比較例1の非水電解質電池を作製した。
【0259】
[比較例2]
比較例2では、以下の点以外は実施例1と同様の手順により、比較例2の非水電解質電池を作製した。
【0260】
まず、比較例2では、圧延後の正極の厚みが43μmとなり且つ正極活物質層の密度が2.6g/cm
3となるように、正極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の正極を作製した。
【0261】
また、比較例2では、圧延後の負極の厚みが42μmとなり且つ負極活物質層の密度が2.3g/cm
3となるように、負極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の負極を作製した。
【0262】
そして、比較例2では、用いる正極の枚数、用いる負極の枚数、正極活物質層の面積、及び負極活物質層の面積を調節して、実施例1の非水電解質電池と同様の容量を示す比較例2の非水電解質電池を作製した。
【0263】
[比較例3]
比較例3では、以下の点以外は実施例1と同様の手順により、比較例3の非水電解質電池を作製した。
【0264】
まず、比較例3では、圧延後の正極の厚みが50μmとなり且つ正極活物質層の密度が3.4g/cm
3となるように、正極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の正極を作製した。
【0265】
また、比較例3では、圧延後の負極の厚みが46μmとなり且つ負極活物質層の密度が2.0g/cm
3となるように、負極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の負極を作製した。
【0266】
そして、比較例3では、用いる正極の枚数、用いる負極の枚数、正極活物質層の面積、及び負極活物質層の面積を調節して、実施例1の非水電解質電池と同様の容量を示す比較例3の非水電解質電池を作製した。
【0267】
[比較例4]
比較例4では、以下の点以外は実施例1と同様の手順により、比較例4の非水電解質電池を作製した。
【0268】
まず、比較例4では、圧延後の正極の厚みが56μmとなり且つ正極活物質層の密度が3.0g/cm
3となるように、正極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の正極を作製した。
【0269】
また、比較例4では、圧延後の負極の厚みが44μmとなり且つ負極活物質層の密度が2.1g/cm
3となるように、負極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の負極を作製した。
【0270】
そして、比較例4では、用いる正極の枚数、用いる負極の枚数、正極活物質層の面積、及び負極活物質層の面積を調節して、実施例1の非水電解質電池と同様の容量を示す比較例4の非水電解質電池を作製した。
【0271】
[比較例5]
比較例5では、以下の点以外は実施例1と同様の手順により、比較例5の非水電解質電池を作製した。
【0272】
まず、比較例5では、圧延後の正極の厚みが46μmとなり且つ正極活物質層の密度が3.3g/cm
3となるように、正極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の正極を作製した。
【0273】
また、比較例5では、圧延後の負極の厚みが46μmとなり且つ負極活物質層の密度が2.0g/cm
3となるように、負極スラリーの塗布量及びロールプレス機での圧延条件をそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、複数の負極を作製した。
【0274】
そして、比較例5では、用いる正極の枚数、用いる負極の枚数、正極活物質層の面積、及び負極活物質層の面積を調節して、実施例1の非水電解質電池と同様の容量を示す比較例5の非水電解質電池を作製した。
【0275】
[比較例6]
比較例6では、実施例1で用いた非水電解質の代わりに以下の手順で調製した非水電解質を用いたこと以外は実施例1と同様の手順により、比較例6の非水電解質電池を作製した。
【0276】
まず、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比3:7で混合して、非水溶媒を調製した。次に、この非水溶媒に、1mol/lの濃度で六フッ化リン酸リチウムを電解質として溶解させて、非水電解質を得た。調製した非水電解質は、25℃でのイオン伝導率が6.69mS/cmであった。
【0277】
[比較例7]
比較例7では、以下に説明するように正極を作製したこと以外は実施例1と同様の手順により、比較例7の非水電解質電池を作製した。
【0278】
まず、比較例7では、正極活物質として、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(LiNi
0.8Co
0.15Mn
0.05O
2)の粉末を準備した。また、実施例1と同様に、導電剤としてのアセチレンブラック及びグラファイトと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを準備した。準備したリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物粉末、アセチレンブラック、グラファイト及びPVdFを、87重量%:5.0重量%:3.0重量%:5.0重量%の重量比で、N−メチルピロリドンに添加して混合した。かくして、正極スラリーを調製した。
【0279】
次に、撹拌後に得られた正極スラリーを、塗工装置で、厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に塗布した。この際、アルミニウム箔に、スラリーを塗布しない部分を残した。次に、得られた塗膜を乾燥させた。次に、乾燥させた塗膜を、ロールプレス機にて、正極の厚みが46μmとなり且つ正極活物質層の密度が3.0g/cm
3となるように圧延した。最後に、スラリーを塗布しなかった部分を打ち抜いて
図3に示すような正極リードとしての狭小部を成形した。かくして、複数の正極を作製した。
【0280】
[比較例8]
比較例8では、以下の点以外は実施例1と同様の手順により、比較例8の非水電解質電池を作製した。
【0281】
まず、比較例8では、負極活物質として、グラファイトを用いた。また、比較例8では、導電助剤としてカーボンブラックを、結着剤として、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いた。比較例8では、グラファイト、カーボンブラック及びPVdFを、90重量%:5重量%:5重量%の重量比で、N−メチルピロリドンに添加して混合した。かくして、負極スラリーを調製した。
【0282】
次に、撹拌後に得られた負極スラリーを、塗工装置で、厚さ10μmの銅箔の両面に塗布した。次に、得られた塗膜を乾燥させた。次に、乾燥させた塗膜を、ロールプレス機にて圧延した。最後に、スラリーを塗布しなかった部分を打ち抜いて狭小部を成形した。かくして、複数の負極を作製した。
【0283】
また、正極及び負極の作製に際しては、正極と負極との容量比p/nが1.5となるように、正極スラリー及び負極スラリーの塗布量、並びに正極活物質層及び負極活物質層の密度を調整した。なお、負極の容量測定に当たっては、負極の充電終止電位を0.1V(vs.Li/Li
+)、放電終止電位を1.5V(vs.Li/Li
+)として、容量確認を行った。
【0284】
[評価及び測定]
実施例2〜12の非水電解質電池及び比較例1〜7の非水電解質電池について、実施例1の非水電解質電池について行ったものと同様の手順により、測定及び評価を行った。なお、比較例8の非水電解質電池についてのレート特性試験及び充放電サイクル特性試験においては、充電終止電圧を3.9V、放電終止電圧を3.0Vとして行った。
【0285】
実施例2〜12の非水電解質電池は、サイクル容量維持率が、90%以上であった。
【0286】
また、各非水電解質電池について、3回の充放電サイクルを行い基準容量を求めた。その後、充電終止電圧を2.8Vにし、3回の充放電サイクルを行い、満充電容量を求めた。各非水電解質電池について、基準容量の満充電容量に対する割合C
2.4Vを求めた。その結果、実施例1〜実施例12の非水電解質電池は、割合C
2.4Vが90%以上であった。
【0287】
実施例1〜12及び比較例1〜7の非水電解質電池についての各測定及び評価の結果を、以下の表1〜表3にまとめて示す。なお、表3においては、各非水電解質電池についてのレート特性、初期抵抗、サイクル後の抵抗、及び抵抗上昇率の結果を、比較例1の非水電解質電池のそれらを「1.00」とした相対値で示している。
【0291】
以上に示した結果から、実施例1〜12の非水電解質電池は、比較例1〜8の非水電解質電池よりも優れた寿命特性及び優れたレート特性を示すことができたことが分かる。
【0292】
実施例1〜4では、容量比p/nを1.4以上1.8以下の範囲内で変更した。これらの実施例1〜4の非水電解質電池は、互いに同様に、優れた寿命特性及び優れたレート特性を示すことができた。一方、比較例1及び2では、容量p/nが1.0であった。比較例1及び2の非水電解質電池では、充電の際に正極電位が上がり過ぎたと考えられる。
【0293】
実施例2、実施例5及び実施例6では、活物質層についての厚みあたりの空隙率の比Pp/Pnを0.55以上0.8未満の範囲内で変更した。また、実施例2、実施例7及び実施例8では、活物質層の厚みの比T
p/T
nを1.05以上1.3未満の範囲内で変更した。これらの実施例2、実施例5〜8の非水電解質電池は、互いに同様に、優れた寿命特性及び優れたレート特性を示すことができた。
【0294】
一方、比較例1〜3では、活物質層についての厚みあたりの空隙率の比Pp/Pnが0.55以上0.8未満の範囲から外れていた。また、比較例1〜2及び比較例4〜5では、活物質層の厚みの比T
p/T
nが1.05以上1.3未満の範囲から外れていた。その結果、比較例1〜5の非水電解質電池では、充放電サイクル中に、正極活物質層及び/又は負極活物質層中におけるLiイオン濃度の分布に大きな偏りが生じたと考えられる。
【0295】
実施例1、実施例9及び実施例10では、25℃におけるイオン伝導性が7mS/cm以上10mS/cm以下の範囲内で互いに異なる非水電解質をそれぞれ用いた。これらの実施例1、実施例9及び実施例10の非水電解質電池は、互いに同様に、優れた寿命特性及び優れたレート特性を示すことができた。
【0296】
一方、25℃におけるイオン伝導性が6.69mS/cmである非水電解質を用いた比較例6の非水電解質電池は、非水電解質のイオン伝導性が低かったため、レート特性及び寿命特性に乏しかった。寿命特性が乏しかった結果は、活物質層の厚みの比T
p/T
nを1.05以上1.3未満の範囲内にし、空隙率の比P
p/Pnを0.55以上0.8未満の範囲内に調整した場合に限っては、非水電解質のイオン伝導性を7mS/cm以上にしなければ、非水電解質におけるLiイオン濃度の偏りが増加してしまうことを意味している。
【0297】
実施例1、実施例11及び実施例12では、正極において、互いに異なる組成を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用いた。これらの実施例1、実施例11及び実施例12の非水電解質電池は、互いに同様に、優れた寿命特性及び優れたレート特性を示すことができた。
【0298】
一方、比較例7では、正極において、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用いなかった。比較例7の非水電解質電池は、正極活物質が異なったため、リチウムイオン濃度のバランスを取るための厚み及び空隙率の比が適正でなく、レート特性及び寿命特性に乏しかった。
【0299】
そして、比較例8では、容量比p/nを1.4以上1.8以下の範囲内にするために、正極及び負極の製造条件を調整したが、活物質層の厚みの比T
p/T
nが1.05以上1.3未満の範囲内にあり且つ活物質層の厚み1μm当たりの空隙率の比P
p/P
nが0.55以上0.8未満の範囲内にある非水電解質電池を得ることができなかった。また、比較例8の非水電解質電池は、表3から明らかなように、実施例1〜12の非水電解質電池よりも、レート特性及び寿命特性に劣っていた。
【0300】
また、表3に示したように、実施例1〜実施例12の非水電解質電池は、割合C
2.4Vが90%以上であった。つまり、実施例1〜実施例12の非水電解質電池は、2.4V以下の作動電圧範囲を示すことができる。このような非水電解質電池を互いに直列に接続して構成した電池ユニットは、鉛蓄電池を含んだ電池ユニットとの優れた電圧適合性を示すことができる。
【0301】
また、比較例3〜比較例6の非水電解質電池は、割合C
2.4Vが90%以上であったにも拘らず、レート特性及びサイクル特性が実施例よりも悪かった。このような電池では、鉛電池を含んだ電池ユニットとの電圧適合性が優れていたとしても、電池自体の特性が優れない。
【0302】
以上に説明した少なくとも1つの実施例及び実施形態によると、正極と負極と非水電解質とを具備した非水電解質電池が提供される。正極の正極活物質層は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の正極活物質を含む。負極の負極活物質層はスピネル型チタン酸リチウムを含む。非水電解質は、イオン伝導率が25℃において7mS/cm以上10mS/cm以下である。この非水電解質電池は、容量比p/nが1.4以上1.8以下の範囲内にあり、厚みの比T
p/T
nが1.05以上1.3未満の範囲内にあり、空隙率の比P
p/P
nが0.55以上0.8未満の範囲内にある。これらのおかげで、この非水電解質電池は、非水電解質の酸化分解を抑えることができると共に、正極と負極との間でLi濃度の偏りが生じるのを防ぐことができる。その結果、この非水電解質電池は、優れたサイクル寿命と優れたレート特性とを示すことができる。
【0303】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
1つの実施形態によると、正極と負極と非水電解質とを具備した非水電解質電池が提供される。正極は正極活物質層を含む。正極活物質層は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を含む。負極は負極活物質層を含む。負極活物質層は、スピネル型チタン酸リチウムを含む。非水電解質は、イオン伝導率が25℃において7mS/cm以上10mS/cm以下である。容量比p/nは1.4以上1.8以下の範囲内にある。厚みの比T