(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243091
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】消火剤の製造方法および消火剤
(51)【国際特許分類】
A62D 1/06 20060101AFI20171127BHJP
A62C 19/00 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
A62D1/06
A62C19/00
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-535848(P2017-535848)
(86)(22)【出願日】2016年12月5日
(86)【国際出願番号】JP2016086105
(87)【国際公開番号】WO2017094918
(87)【国際公開日】20170608
【審査請求日】2017年7月3日
(31)【優先権主張番号】特願2015-238108(P2015-238108)
(32)【優先日】2015年12月5日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509351937
【氏名又は名称】森田 準
(74)【代理人】
【識別番号】100118728
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 圭二
(72)【発明者】
【氏名】森田 準
【審査官】
池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−037901(JP,A)
【文献】
特開2012−157589(JP,A)
【文献】
特開平09−253231(JP,A)
【文献】
特開平08−257157(JP,A)
【文献】
特開2012−024255(JP,A)
【文献】
特開2013−075129(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/158340(WO,A1)
【文献】
特開2014−054317(JP,A)
【文献】
特開2012−157673(JP,A)
【文献】
中国特許第102614618(CN,B)
【文献】
特許第3081531(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62D 1/00− 9/00
A62C 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消火用具に使用する消火剤の製造方法であって、
50℃〜70℃の水に塩化アンモニウム(A)とリン酸水素二アンモニウム(B)を加えて溶解する工程と、重炭酸ナトリウム(C)を加えて溶解する工程と、を有し、
前記消火剤に含まれる水分570重量部に対して、塩化アンモニウム(A)が20重量部〜30重量部、リン酸水素二アンモニウム(B)が75重量部〜90重量部、重炭酸ナトリウム(C)が75重量部〜90重量部である消火剤の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の消火剤の製造方法であって、
最初に570重量部より少ない所定量の水に(A)、(B)および(C)の各成分を溶解させ、全ての成分を溶解させた後に各成分の成分量に対して消火剤に含まれる水分が570重量部になるまで水分を加える工程を備えた消火剤の製造方法。
【請求項3】
消火用具に使用する消火剤の製造方法であって、
50℃〜70℃の水に塩化アンモニウム(A)を加えて溶解する工程と、リン酸水素二アンモニウム(B)を加えて溶解する工程と、重炭酸ナトリウム(C)を加えて溶解する工程と、尿素(D)を加えて溶解する工程と、硫酸アンモニウム(E)を加えて溶解する工程と、ケイ酸ナトリウム(F)を加えて溶解する工程と、を有し、
前記消火剤に含まれる水分570重量部に対して、塩化アンモニウム(A)が20重量部〜30重量部、リン酸水素二アンモニウム(B)が75重量部〜90重量部、重炭酸ナトリウム(C)が75重量部〜90重量部、尿素(D)が10重量部〜15重量部、硫酸アンモニウム(E)が55重量部〜70重量部、ケイ酸ナトリウム(F)が10重量部〜20重量部である消火剤の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の消火剤の製造方法であって、
最初に570重量部より少ない所定量の水に(A)、(B)、(C)、(D),(E)および(F)の各成分を溶解させ、全ての成分を溶解させた後に各成分の成分量に対して消火剤に含まれる水分が570重量部になるまで水分を加える工程を備えた消火剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の消火剤の製造方法であって、
更に水成膜消火剤を加える工程を備えた消火剤の製造方法。
【請求項6】
水570重量部に対して、塩化アンモニウムを20重量部〜30重量部と、リン酸水素二アンモニウムを75重量部〜90重量部と、重炭酸ナトリウムを75重量部〜90重量部と、を含む消火剤。
【請求項7】
水570重量部に対して、塩化アンモニウムを20重量部〜30重量部と、リン酸水素二アンモニウムを75重量部〜90重量部と、重炭酸ナトリウムを75重量部〜90重量部と、尿素を10重量部〜15重量部と、硫酸アンモニウムを55重量部〜70重量部と、ケイ酸ナトリウムを10重量部〜20重量部と、を含む消火剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消
火用具に使用でき、消
火能力の高い消火剤の製造方法および消火剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消火用具と呼ばれる製品は多様化してきている。その背景には、床置き式消火器は扱いが難しく、重いために、実際の火災時に使用するのが困難である等の理由がある。一方、代表的なエアゾール式消火具は、誰でも簡単に使用することができるが、大きくなった炎には対応しにくい。
【0003】
また、取り扱いが簡単な消火器として、所定の温度により膨張する無機系発泡剤を含有する消火薬剤を、その膨張圧力により破裂可能な包装容器に封入してあり、該包装容器が火災に対して反応し、該包装容器の破壊とともに、消火薬剤を飛散、拡散して消火する消火器も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この消火器に使用される消火剤の成分は、さまざまな組成物により構成されており、例えば特許文献1には、消火剤の成分として、尿素(CO(NH
2)
2)、塩化アンモニウム(NH
4Cl)、無水炭酸ソーダ(Na
2CO
3)、硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−37901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1には、消火剤の製造方法が開示されておらず、一般的にも消火剤の製造方法については、各社がノウハウとして秘密にしているものが多い。
【0007】
また、消火剤の成分は、全ての成分が安全とは限らず、子供や高齢者が誤飲した場合に問題となる可能性もある。
【0008】
そこで、本発明は、人体にも悪影響のない安全な消火剤であり、且つ、消火剤に添加される薬剤の作用が最大限に発揮されるように処理された消火能力の高い消火剤の製造方法および消火剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、消火用具に使用する消火剤の製造方法であって、50℃〜70℃の水に塩化アンモニウム(A)とリン酸水素二アンモニウム(B)を加えて溶解する工程と、重炭酸ナトリウム(C)を加えて溶解する工程と、を有する。
【0010】
本発明の消火剤の製造方法は、前記消火剤に含まれる水分570重量部に対して、塩化アンモニウム(A)が20重量部〜30重量部、リン酸水素二アンモニウム(B)が75重量部〜90重量部、重炭酸ナトリウム(C)が75重量部〜90重量部である。
【0011】
本発明の消火剤の製造方法は、最初に570重量部より少ない所定量の水に(A)、(B)および(C)の各成分を溶解させ、全ての成分を溶解させた後に各成分の成分量に対して消火剤に含まれる水分が570重量部になるまで水分を加える工程を備える。
【0012】
本発明は、消火用具に使用する消火剤の製造方法であって、50℃〜70℃の水に塩化アンモニウム(A)を加えて溶解する工程と、リン酸水素二アンモニウム(B)を加えて溶解する工程と、重炭酸ナトリウム(C)を加えて溶解する工程と、尿素(D)を加えて溶解する工程と、硫酸アンモニウム(E)を加えて溶解する工程と、ケイ酸ナトリウム(F)を加えて溶解する工程と、を有する。
【0013】
本発明の消火剤の製造方法は、前記消火剤に含まれる水分570重量部に対して、塩化アンモニウム(A)が20重量部〜30重量部、リン酸水素二アンモニウム(B)が75重量部〜90重量部、重炭酸ナトリウム(C)が75重量部〜90重量部、尿素(D)が10重量部〜15重量部、硫酸アンモニウム(E)が55重量部〜70重量部、ケイ酸ナトリウム(F)が10重量部〜20重量部である。
【0014】
本発明の消火剤の製造方法は、最初に570重量部より少ない所定量の水に(A)、(B)、(C)、(D),(E)および(F)の各成分を溶解させ、全ての成分を溶解させた後に各成分の成分量に対して消火剤に含まれる水分が570重量部になるまで水分を加える工程を備える。
【0015】
本発明の消火剤の製造方法は、更に水成膜消火剤を加える工程を備える。
【0016】
本発明は、水570重量部に対して、塩化アンモニウムを20重量部〜30重量部と、リン酸水素二アンモニウムを75重量部〜90重量部と、重炭酸ナトリウムを75重量部〜90重量部と、を含む消火剤を提供する。
【0017】
本発明は、水570重量部に対して、塩化アンモニウムを20重量部〜30重量部と、リン酸水素二アンモニウムを75重量部〜90重量部と、重炭酸ナトリウムを75重量部〜90重量部と、尿素を10重量部〜15重量部と、硫酸アンモニウムを55重量部〜70重量部と、ケイ酸ナトリウムを10重量部〜20重量部と、を含む消火剤を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の消火剤の製造方法および消火剤によれば、上記(A)から(F)の成分を使用することによって、人体に影響のない安全な消火剤を提供できる。とりわけ、従来の消火剤では、重炭酸アンモニウムを使用していたが、本発明は、消火剤に重炭酸ナトリウムと塩化アンモニウムを使用することで更に消火速度が向上した。
【0019】
本発明の消火剤の製造方法および消火剤によれば、製造された消火剤を、例えば樹脂やガラス製の衝撃で破壊する容器に封入して、火災に投げ割ることにより消火剤を拡散させることは容易である。また、本発明の消火剤をこれらの容器に封入した消火用具は、使用に際して特別な訓練を必要としないので簡便性がある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の第1の実施例を説明する。
【0021】
最初に70℃程度の任意の量の水(570mlより少ない量の水)に塩化アンモニウム25gを加え(入れ)、撹拌して溶解する。ここで、塩化アンモニウム(NH
4Cl)は、触媒として利用されると共に、消火剤の凝固点降下に利用される。
【0022】
次に、この溶液に、リン酸水素二アンモニウム(別名:リン酸二アンモニウム)80gを加え(入れ)て溶解し、重炭酸ナトリウム80gを加え(入れ)、反応・溶解させる。
【0023】
続いて、重炭酸ナトリウムの溶解反応により温度降下したこの溶液を、再度70℃まで加温する。
【0024】
リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)と重炭酸ナトリウム(NaHCO
3)は、消火の際、燃焼により炭酸ガス(CO
2)とアンモニア(NH
3)に熱分解される。炭酸ガスは燃焼物への酸素を遮断し、燃焼物の酸化を中和して抑える作用がある。アンモニアは中和、冷却作用で燃焼物の再燃焼を防止して、周囲への延焼を防ぐことができる。
【0025】
次に、70℃まで再加温した溶液に、尿素15gを加え(入れ)て溶解する。そして、硫酸アンモニウム60gを加え(入れ)溶解させ、ケイ酸ナトリウム15gを加え(入れ)てから溶液の温度を70℃まで加温する。
【0026】
そして、この溶液の全体量が570mlになるまで水を加え、消火剤が得られる。上記の各溶解工程において、溶液の温度は、50℃〜70℃に維持することが好ましい。
【0027】
尿素(CO(NH
2)
2)も、消火の際、燃焼により炭酸ガス(CO
2)とアンモニア(NH
3)に熱分解される。尿素を含む本消火剤は、炭酸ガスによる燃焼物への酸素遮断作用とアンモニアの中和、冷却作用により、燃焼物を消火し、燃焼物の周囲への延焼を防止する。
【0028】
ケイ酸ナトリウム(Na
2SiO
3)は別名水ガラスと呼ばれ、燃焼物の表面に広がり、ガラス様被膜を形成して再燃焼を防止することができる。また、硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)は、木材や紙などの発火点を上昇させる効果を有するので、消火後の再燃焼を防止することができる。
【0029】
最後に、製造した消火剤570mlに対して30mlの水成膜消火剤を加える。水成膜消火剤は、合成界面活性剤を基材とする泡消火薬剤で、フッ素系界面活性剤が添加され、このフッ素系界面活性剤の表面張力低下能により油面上に膜を形成する。実施例では、例えば3%希釈用の水成膜消火剤原液を使用する。
【0030】
このようにして製造された消火剤は、容器に充填して使用される。消火剤が充填される容器は、消火剤の品質が変化することなく安定して保存でき、消火剤により腐食されることのない容器であれば、金属、樹脂、ガラス製等の様々な容器を用いることができる。
【0031】
実施例において、本発明の消火剤は、水570mlに対して、塩化アンモニウムを20g〜30gと、リン酸水素二アンモニウムを75g〜90gと、重炭酸ナトリウムを75g〜90gと、尿素を10g〜15gと、硫酸アンモニウムを55g〜70gと、ケイ酸ナトリウムを10g〜20gと、を含むことが好ましい。
【0032】
また、本発明の消火剤は、水570mlに対して、塩化アンモニウムを20g〜30gと、リン酸水素二アンモニウムを75g〜90gと、重炭酸ナトリウムを75g〜90gと、を含んでいればよく、他の成分を含んでいてもよい。
【0033】
次に、本発明の第2の実施例を説明する。
【0034】
最初に50℃程度の水に塩化アンモニウム25gを加え(入れ)、撹拌して溶解する。ここで、塩化アンモニウム(NH
4Cl)は、触媒として利用されると共に、消火剤の凝固点降下に利用される。
【0035】
次に、この溶液に、リン酸水素二アンモニウム80gを加え(入れ)て溶解し、重炭酸ナトリウム80gを加え(入れ)、反応・溶解させる。
【0036】
続いて、この溶液を約50℃まで加温する。
【0037】
リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)と重炭酸ナトリウム(NaHCO
3)は、消火の際、燃焼熱により炭酸ガス(CO
2)とアンモニア(NH
3)に熱分解される。炭酸ガスは燃焼物への酸素を遮断し、燃焼物の酸化を中和して抑える作用がある。アンモニアは中和、冷却作用で燃焼物の再着火を防止して、周囲への延焼を防ぐことができる。
【0038】
次に、約50℃まで加温した溶液に、尿素15gを加え(入れ)て溶解する。そして、硫酸アンモニウム60gを加え(入れ)溶解させ、ケイ酸ナトリウム15gを加え(入れ)てから、この溶液を約50℃まで加温する。
【0039】
そして、この溶液の全体量が570mlになるまで水を加え、消火剤が得られる。
【0040】
尿素(CO(NH
2)
2)も、消火の際、燃焼により炭酸ガス(CO
2)とアンモニア(NH
3)に熱分解される。尿素を含む本消火剤は、炭酸ガスによる燃焼物への酸素遮断作用とアンモニアの中和、冷却作用により、燃焼物を消火し、燃焼物の周囲への延焼を防止することができる。
【0041】
ケイ酸ナトリウム(Na
2SiO
3)は、別名水ガラスと呼ばれ、燃焼物の表面にガラス様被膜を形成して再燃焼を防止することができる。また、硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)は、木材や紙などの発火点を上昇させる効果を有するので、消火後の再燃焼を防止することができる。
【0042】
最後に、製造した消火剤570mlに対して30mlの水成膜消火剤を加える。水成膜消火剤は、合成界面活性剤を基材とする泡消火薬剤で、フッ素系界面活性剤が添加され、このフッ素系界面活性剤の表面張力低下能により油面上に膜を形成する。実施例では、例えば3%希釈用の水成膜消火剤原液を使用する。
【0043】
このようにして製造された消火剤は容器に充填されて使用される。消火剤が充填される容器は、消火剤の品質が変化することなく安定して保存でき、消火剤により腐食されることのない容器であれば、金属、樹脂、ガラス等の様々な容器を用いることができる。
【0044】
本発明の製造方法の第1の実施例および第2の実施例によれば、人体に影響のない安全な消火剤が提供できる。そして、重炭酸ナトリウムを使用することにより、更に消火速度が向上した。
【0045】
以下に、従来の重炭酸アンモニウム(NH
4HCO
3)を使用した場合と、本発明の重炭酸ナトリウム(NaHCO
3)を使用した場合の消火速度について示す。
【0047】
従来の重炭酸
アンモニウムを使用した消火剤は、500mlの水に、塩化ナトリウムを10gと、リン酸水素二アンモニウムを60gと、重炭酸アンモニウムを60gと、尿素を30gと、硫酸アンモニウムを45gと、を含み、20mlの界面活性剤を加えている(特開2005−288059号公報参照)。
【0048】
本発明の消火剤と従来の重炭酸
アンモニウムを使用した消火剤を用いて、同条件で消火速度について比較検証を行った(表1参照)。本発明の消火剤は、従来の消火剤で25秒を要した消火時間を15秒まで短縮することができた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明により製造された消火剤は、衝撃で破壊する容器に充填し、火災が起こったときに火元をめがけて投げ割る消火用具に使用される。