特許第6243113号(P6243113)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社横河住金ブリッジの特許一覧 ▶ 株式会社横河ブリッジホールディングスの特許一覧 ▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6243113-耐疲労鋼を用いた伸縮装置 図000002
  • 特許6243113-耐疲労鋼を用いた伸縮装置 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243113
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】耐疲労鋼を用いた伸縮装置
(51)【国際特許分類】
   E01C 11/02 20060101AFI20171127BHJP
   E01D 19/06 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   E01C11/02 A
   E01D19/06
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-260481(P2012-260481)
(22)【出願日】2012年11月29日
(65)【公開番号】特開2014-105524(P2014-105524A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】509200613
【氏名又は名称】株式会社横河住金ブリッジ
(73)【特許権者】
【識別番号】000140384
【氏名又は名称】株式会社横河ブリッジホールディングス
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】松野 正見
(72)【発明者】
【氏名】利根川 太郎
(72)【発明者】
【氏名】一宮 充
(72)【発明者】
【氏名】誉田 登
【審査官】 須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−102410(JP,A)
【文献】 特開2008−223393(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3164031(JP,U)
【文献】 特開2010−174609(JP,A)
【文献】 特開2009−127219(JP,A)
【文献】 米国特許第03981601(US,A)
【文献】 特開2011−006943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 1/00−17/00
E01D 1/00−24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋軸方向に所定の遊間をおいて支持される隣接する橋桁上部の床版間に設ける橋梁の伸縮装置であって、前記遊間部を覆い直接輪荷重を支持する鋼製のフェイスプレートと、前記フェイスプレートを下から支持する橋軸と交差する方向のウェブプレートと、前記フェイスプレートの下面と前記ウェブプレートの背面に溶接されるずれ止め部材としての孔あき鋼板ジベルとを備え、前記フェイスプレートと前記ウェブプレートと前記孔あき鋼板ジベルが耐疲労鋼からなり、前記ウェブプレートと前記孔あき鋼板ジベルとが上下方向に延びる部材であり、前記フェイスプレート以外には水平方向の鋼材を設けないようにし、前記フェイスプレートの端部前記孔あき鋼板ジベルが溶接される部分を斜めに形成してあることを特徴とする橋梁の伸縮装置。
【請求項2】
前記孔あき鋼板ジベルの下端が前記ウェブプレートの下端以下となるようにしたことを特徴とする請求項1記載の橋梁の伸縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路橋の橋梁などに用いる地震あるいは温度変化による路面の移動を吸収する伸縮装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、道路橋の橋梁などに設ける伸縮装置の材料としては、鋼製、ゴム製などがある。例えば、鋼製の伸縮装置は、形状の自由度が大きいという利点があり、小遊間から大遊間まで様々な場合に用いられるが、鋼板を複雑に組み合わせて製作するため、加工費が高くなるという問題点がある。また、鋼部材の損傷理由の一つに疲労損傷が挙げられるが、直接輪荷重の影響を受ける伸縮装置も溶接構造であるため、例外ではなく、疲労耐久性について配慮を行う必要がある。このような背景から、必要最小限の部材で疲労耐久性に優れた伸縮装置が望まれている。
【0003】
伸縮装置に関する先行技術文献として、例えば特許文献1、2や非特許文献1〜7がある。
【0004】
特許文献1〜2には、橋梁の伸縮装置や伸縮装置の定着構造に関する発明が開示されている。非特許文献1〜3には、従来の鋼製の伸縮装置における疲労損傷に関して述べられている。非特許文献4〜6には、非特許文献1〜3などの損傷事例を考慮した伸縮装置の疲労耐久性に関する構造が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−143845号公報
【特許文献2】実用新案登録第3164031号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】西浩嗣、荒本貴司、酒井修平、小野修一、“鋼製フィンガージョイントの疲労試験”、土木学会第63回年次学術講習会(平成20年度)、pp.145-146
【非特許文献2】長尾千瑛、米川英雄、“東名高速道路(沼津〜富士間)における鋼製くし形伸縮装置の損傷に関する考察”、土木学会第63回年次学術講習会(平成20年度)、pp.143-144
【非特許文献3】S.Ono、S.Sakai&T.Imamura、“Fatigue evaluation of steel finger type expansion joints for highway”、IABMAS2010(The Fifth International Conference on Bridge Maintenance, Safety and Management)、pp.3447-3452
【非特許文献4】芦塚憲一郎、忽那幸浩、谷中聡久、岩崎雅紀“改良型伸縮装置の疲労耐久性に関する検討”、土木学会第58回年次学術講習会(平成15年度)、pp.1303-1304
【非特許文献5】忽那幸浩、芦塚憲一郎、小池洋平、岩崎雅紀、“改良型伸縮装置の定着強度特性に関する検討”、土木学会第58回年次学術講習会(平成15年度)、pp.1301-1302
【非特許文献6】芦塚憲一郎、谷中聡久、忽那幸浩、“改良型鋼製伸縮装置の定着部の強度と耐久性に関する検討”、橋梁と基礎(2004年10月)、pp.33-38
【非特許文献7】中西文雄、吉田哲也、渡辺喜紀、依田照彦、“孔あきジベルを用いたアルミ合金鋳物製伸縮装置に関する実験的研究”、土木学会第59回年次学術講習会(平成16年度)、pp.1043-1044
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の鋼製の伸縮装置では、非特許文献1〜3に記載されているように、フェイスプレートやウェブプレートなどに疲労損傷が見られ、車両走行の安全性に問題が生じる状態になることが考えられる。
【0008】
伸縮装置の疲労耐久性を向上させるためには、非特許文献4〜6のように伸縮装置を改良する必要があり、溶接の仕上げによる疲労等級の向上や板組み構成による応力低減などが考えられるが、製作費が高くなってしまう。
【0009】
また、薄肉の鋼部材で伸縮装置を構成するため、構造が複雑化し、部材数が多くなる。その結果、溶接量が増加し、疲労耐久性が低下してしまう可能性が考えられる。
【0010】
伸縮装置において、疲労耐久性を向上させるための前提条件として、コンクリートと確実に一体化できる構造である必要がある。
【0011】
本発明は、このような課題の解決を図ったものであり、橋梁の伸縮装置に耐疲労鋼を用いることによって、必要最小限の部材で疲労耐久性の高い鋼製の伸縮装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、橋軸方向に所定の遊間をおいて支持される隣接する橋桁上部の床版間に設ける橋梁の伸縮装置であって、遊間部を覆い直接輪荷重を支持する鋼製のフェイスプレートと、フェイスプレートを下から支持する橋軸と交差する方向のウェブプレートと、フェイスプレートの下面と前記ウェブプレートの背面に溶接されるずれ止め部材としての孔あき鋼板ジベルとを備え、フェイスプレートとウェブプレートと孔あき鋼板ジベルが耐疲労鋼からなり、前記ウェブプレートと前記孔あき鋼板ジベルとが上下方向に延びる部材であり、前記フェイスプレート以外には水平方向の鋼材を設けないようにし、前記フェイスプレートの端部前記孔あき鋼板ジベルが溶接される部分を斜めに形成してあることを特徴とするものである。
【0013】
耐疲労鋼は、母材の疲労き裂進展特性を向上させ、あるいは溶接継手の疲労き裂発生特性を向上させ、あるいは両特性を向上させて、溶接鋼構造物の疲労寿命を延伸させる鋼材である。一般に、適切な化学成分を有するスラブを、最適な冷却・圧延プロセスを経て製造される。
【0014】
従来では、造船、海洋構造物、建設機械などに使用されている耐疲労鋼を伸縮装置に用いることによって、伸縮装置の疲労耐久性を向上させることができる。
【0015】
鋼製直接輪荷重を支持するフェイスプレート、フェイスプレートを下から支持する橋軸と交差する方向のウェブプレート、フェイスプレートの下面とウェブプレートの背面に溶接されるずれ止め部材としての孔あき鋼板ジベルに耐疲労鋼を用いれば、従来のように疲労等級の高い継手を採用する必要がなく、伸縮装置としての必要最小限の部材で構成することができる。
【0016】
また、材料自体の疲労耐久性を向上させ、加工の少ない構造とすることで、疲労上の弱点である溶接自体を少なくすることもできる。必要最小限の部材で伸縮装置を構成するため、耐疲労鋼を使用してもコストが上がることはなく、製作工数を削減することができる。
【0017】
また、本発明の伸縮装置において、ウェブプレートと孔あき鋼板ジベルとを上下方向に延びる部材とし、フェイスプレート以外には水平方向の鋼材等水平方向の部材を実質的に設けないようにするとよい。
【0018】
本発明において、ウェブプレートと孔あき鋼板ジベルは上下方向に延ばすことが可能であり、例えば図2(b)、(c)に示したようにウェブプレートと孔あき鋼板ジベルの下端のどちらが下になっても構わない。
【0019】
また、図1に示したように、フェイスプレートを水平方向に設け、フェイスプレート以外は水平方向にならないように設置することによって、コンクリートを打設しやすく、コンクリートの充填性を高めることができる。また、コンクリートに埋設する鋼部材も鉛直に配置する方が好ましい。
【0020】
また、フェイスプレート端部の孔あき鋼板ジベルが溶接される部分は、斜めに形成するとよい。
【0021】
フェイスプレートの端部に孔あき鋼板ジベルの側部を溶接する場合において、フェイスプレートの端部を斜めに形成することによって、定着長を確保することができるとともにコンクリートの充填がスムーズとなる。
【0022】
本発明の伸縮装置では、孔あき鋼板ジベルの下端がウェブプレートの下端以下となるようにすることができる。
【0023】
例えば、図2(c)のように、孔あき鋼板ジベルの下端がウェブプレートの下端と同等の位置、またはそれ以下の位置にある場合、孔あき鋼板ジベルの下端で伸縮装置を支持することができ、伸縮装置を安定させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る耐疲労鋼を用いた伸縮装置は、以上のような構成からなるので、次のような効果が得られる。
【0025】
(1) 耐疲労鋼を用いることにより、必要最小限の部材で疲労耐久性の高い鋼製伸縮装置を構成することができる。
【0026】
(2) 全て鋼板で構成し、フェイスプレート以外には水平方向の鋼材を設けずに組み立てることで、コンクリートの充填性を確保することができる。
【0027】
(3) フェイスプレートの端部を斜めに形成することで、ずれ止めの定着長を確保することができるとともにコンクリートの充填がスムーズとなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係る伸縮装置の一実施形態を示した概略斜視図である。
図2】本発明に係る伸縮装置の一実施形態を示したものであり、(a)は平面図、(b)は孔あき鋼板ジベルの下端がウェブプレートの下端よりも上である場合の断面図、(c)は孔あき鋼板ジベルの下端とウェブプレートの下端が同じ位置にある場合の断面図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の具体的な実施の形態について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0030】
図1は、本発明に係る伸縮装置1の一実施形態を概略的な斜視図で示したものである。図2は、本発明に係る伸縮装置1において、フェイスプレート2、ウェブプレート3、孔あき鋼板ジベル4の一実施形態を示したものであり、(a)は平面図、(b)は孔あき鋼板ジベル4の下端がウェブプレート3の下端より上にある場合の断面図、(c)は孔あき鋼板ジベル4の下端がウェブプレート3の下端と同じ位置にある場合の断面図を示している。
【0031】
図1、2に示したように、本発明に係る伸縮装置1は、フェイスプレート2、ウェブプレート3、孔あき鋼板ジベル4を備えており、フェイスプレート2、ウェブプレート3、孔あき鋼板ジベル4は耐疲労鋼からなっている。
【0032】
フェイスプレート2は、フィンガージョイントを用いており、水平方向に設置されている。
【0033】
ウェブプレート3は、フェイスプレート2の下面に鉛直方向に溶接されており、フェイスプレート2を下方から支持している。
【0034】
ウェブプレート3の側面には、ずれ止め部材として孔あき鋼板ジベル4が設置されている。孔あき鋼板ジベル4の設置間隔は、橋軸直角方向に200mm程度としており、孔あき鋼板ジベル4はフェイスプレート2とウェブプレート3に溶接されている。
【0035】
また、フェイスプレート2と孔あき鋼板ジベル4の溶接部は、フェイスプレート2と孔あき鋼板ジベル4の端部をそれぞれ斜めに加工しており、溶接部の定着長を確保し、溶着を安定させている。また、図1、2に示されるように、フェイスプレート2と孔あき鋼板ジベル4の端部が斜めに加工されていることで、フェイスプレート2の下面に打設されるコンクリートがスムーズに充填され、伸縮装置とコンクリートとを確実に一体化することができる。
【0036】
孔あき鋼板ジベル4には、鉄筋5を貫通させて設置し、コンクリートとの定着をより高めている。
【0037】
図2(b)には、孔あき鋼板ジベル4の下端がウェブプレート3の下端よりも上にある場合を示している。図2(c)には、孔あき鋼板ジベル4の下端がウェブプレート3の下端と同じ位置にある場合を示している。
【0038】
図2(c)の場合、伸縮装置1をウェブプレート3の下端と孔あき鋼板ジベル4の下端とで支えることができるため、下端に水平方向の部材がなくても伸縮装置1の安定性を向上させることができる。
【0039】
なお、明細書では、図2(b)、(c)の2つの例を示したが、孔あき鋼板ジベル4の下端がウェブプレート3の下端よりも下にあってもよい。
【0040】
本発明に係る伸縮装置1は、フェイスプレート2、ウェブプレート3、孔あき鋼板ジベル4に耐疲労鋼を用いることによって、疲労耐久性を向上させることができるため、図1、2に示したような必要最小限の部材で伸縮装置を構成することが可能である。
【0041】
また、全てを鋼板で構成し、フェイスプレート2以外には水平方向の部材を設けずに組み立てているため、コンクリートの充填性に優れており、コンクリートとの定着を確保しやすい。
【0042】
孔あき鋼板ジベル4の端部やフェイスプレート2の端部を斜めに形成することで、定着長を確保することができる。また、図1、2に示されるように、フェイスプレート2と孔あき鋼板ジベル4の端部が斜めに加工されていることで、フェイスプレート2の下面に打設されるコンクリートがスムーズに充填され、伸縮装置とコンクリートとを確実に一体化することができる。
【符号の説明】
【0043】
1…伸縮装置、
2…フェイスプレート、
3…ウェブプレート、
4…孔あき鋼板ジベル、
5…鉄筋
図1
図2