特許第6243123号(P6243123)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6243123角層状態の評価方法、及び化粧料の角層改善効果についての評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243123
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】角層状態の評価方法、及び化粧料の角層改善効果についての評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20171127BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20171127BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20171127BHJP
   G01N 33/52 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   G01N33/50 Q
   A61K8/02
   A61Q19/00
   G01N33/52 A
   G01N33/52 B
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-8590(P2013-8590)
(22)【出願日】2013年1月21日
(65)【公開番号】特開2014-139540(P2014-139540A)
(43)【公開日】2014年7月31日
【審査請求日】2016年1月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】八木 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩井 一郎
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−202969(JP,A)
【文献】 特開2005−249672(JP,A)
【文献】 特開2006−349372(JP,A)
【文献】 特開2009−036555(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/109319(WO,A1)
【文献】 特開2011−021001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
A61K 8/02
A61Q 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
角層シートに対してフルオレセイン、ローズベンガル、及びそれらの塩からなる群から選ばれる染料の水溶液を接触させる工程、
上記染料を洗浄する工程
角層シートにおける上記染料の染色強度を測定する工程、及び
染色強度が強いほど、角層が荒れていると決定する工程
を含む、美容目的の角層の荒れ状態の評価方法。
【請求項2】
前記角層状態の決定が、角層透明度、角層細胞間脂質の構造、及び角層の水分含量を統合的に評価することである、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記決定が、標本からの染色強度との比較、又は比色表との比較に基づき行われる、請求項1又は2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記角層シートが、テープストリップにより調製された角層シートである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
皮膚に対する美容処置後にテープストリップにより取得された角層シートに対して、フルオレセイン、ローズベンガル、及びそれらの塩からなる群から選ばれる染料を接触させる工程、
上記染料を洗浄する工程、
前記角層シートにおける角層シートにおける上記染料の染色強度を測定する工程、及び
染色強度に基づき、美容処置による角層改善効果を決定する工程
を含む、美容処置の評価方法。
【請求項6】
前記決定が、美容処置前のテープストリップにより取得された角層シートに対して、染料で染色を行い、美容処置前後の角層シートについて染色強度を比較することに基づく、請求項5に記載の評価方法。
【請求項7】
前記美容処置が、化粧料の塗布である、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
角層シートに対して候補化粧料を適用する工程、
角層シートを乾燥させる工程、
角層シートに対して、フルオレセイン、ローズベンガル、及びそれらの塩からなる群から選ばれる染料の水溶液を接触させる工程、
上記染料を洗浄する工程、
角層シートにおける上記染料の染色強度を測定する工程、及び
染色強度が低いほど、候補化粧料の角層改善効果が高いと決定する工程
を含む、角層改善効果についての候補化粧料の評価方法。
【請求項9】
前記角層シートが、培養角層シートである、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角層状態の評価方法に関する。また、本発明は、化粧料又は美容処置の角層改善効果について評価する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料を選択する上で、皮膚の状態を正確に知ることは非常に重要であり、より好ましい皮膚状態を保つため、皮膚状態に応じて化粧料や美容方法を選択することが必要となる。皮膚状態の評価には、リビスコメーターやキュートメーターなどを用いて皮膚の柔軟性を測定することや、皮膚水分蒸散量(TEWL)の計測、マイクロスコープによる肌理の測定、テープストリップによる角層評価などが行われている(非特許文献1、2、3、特許文献1)。この中で、テープストリップによる角層評価は、容易に採取可能で、肌状態を適切に評価するのに有効と考えられており、角質細胞の形状、面積、核の有無に加えて、βシート構造を染色可能なコンゴーレッドを用いて角層を染色して観察することにより、皮膚の柔軟性を鑑別する方法が開示されている(特許文献2)。
【0003】
βシート構造の多寡により表される皮膚柔軟性は、角層状態の1つの指標ではあるが、柔軟性以外にも、角層状態を示す種々の特性、例えば透明度や角層細胞間脂質の構造、角層バリア機能などがある。しかし、テープストリップされた角層から、これらの情報について簡便に測定する方法については十分な研究がなされておらず、また肌荒れ状態を簡便に鑑別可能な方法も確立されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−033201号公報
【特許文献2】特開2007−263655号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】小山内宰ら:アンチエイジングシリーズ皮膚の抗老化最前線、第150頁〜第161頁
【非特許文献2】高橋元次ら:アンチエイジングシリーズ皮膚の抗老化最前線、第114頁〜第133頁
【非特許文献3】(株)インテグラル:Fragrance Journal,35(2),67頁〜69頁(2007年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、角層状態をより簡便に評価する方法を提供することを課題とする。さらに、本発明は、角層状態を簡便に評価する方法を用いて、角層改善効果についての候補化粧料又は美容処置を評価する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
荒れた角層では、角層透明性が低く、バリア機能も低く、細胞間脂質が乱れていることが知られており、これらの指標を用いて角層状態を評価することは可能であるが、これらの指標の測定には、それぞれ特殊な装置が必要であった。そこで、本発明者らは、角層状態をより簡便に評価する方法を提供すべく鋭意研究を行った。その結果、角層シートをフルオレセインやローズベンガルで染色すると、荒れた角層の場合に染色強度が高くなることを見出し(図1及び図2)、フルオレセインやローズベンガルを用いた染色は、一見健常に見える皮膚であっても、その状態を識別できるほどに感度が優れている点を見出し(図3)、角層シートの角層状態を評価することが可能になった。さらに、この角層状態の評価法を用いることで、角層改善効果についての候補化粧料又は美容処置を評価する方法を提供した。
【0008】
より具体的に、本発明は以下の発明に関する:
[1] 以下の:
角層シートに対してフルオレセイン、ローズベンガル、及びそれらの塩からなる群から選ばれる染料の水溶液を接触させる工程、
上記染料を洗浄する工程、
角層シートにおける上記染料の染色強度を測定する工程、
を含む、角層状態の評価方法。
[2] 前記角層状態の評価が、角層透明度、角層細胞間脂質の構造、及び角層の水分含量を評価することである、項目[1]に記載の評価方法。
[3] 前記評価が、標本からの染色強度との比較、又は比色表との比較に基づき行われる、項目[1]又は[2]に記載の評価方法。
[4] 前記角層シートが、テープストリップにより調製された角層シートである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
[5] 以下の:
角層シートに対して候補化粧料を適用する工程、
角層シートを乾燥させる工程、
角層シートに対して、フルオレセイン、ローズベンガル、及びそれらの塩からなる群から選ばれる染料の水溶液を接触させる工程、
上記染料を洗浄する工程、及び
角層シートにおける角層シートにおける上記染料の染色強度を測定する工程
を含む、角層改善効果についての候補化粧料の評価方法。
[6] 前記角層シートが、培養角層シートである、項目[5]に記載の方法。
[7] 以下の
皮膚に対する美容処置後に取得された調製角層シートに対して、フルオレセイン、ローズベンガル、及びそれらの塩からなる群から選ばれる染料の水溶液を接触させる工程、
上記染料を洗浄する工程、及び
前記調製角層シートにおける調製角層シートにおける上記染料の染色強度もしくは蛍光強度を測定する工程
を含む、角層改善効果についての美容処置の評価方法。
[8] 前記評価が、美容処置前のテープストリップにより取得された角層シートに対して、染料で染色を行い、美容処置前後の角層シートについて蛍光強度を比較することに基づく、項目[7]に記載の評価方法。
[9] 前記美容処置が、化粧料の塗布、スチームの適用又はマッサージである、項目[8]に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、フルオレセイン、ローズベンガル、及びそれらの塩からなる群から選ばれる染料を用いて角層シートにおける角層状態を評価することが可能になる。角層状態の評価が可能になることにより、候補化粧料又は美容処置の適用前後における角層状態を評価することで、角層改善効果を確認することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、水で湿潤された培養角層シートをゆっくり乾燥して得た健常角層モデルと、凍結乾燥して得た肌荒れ角層モデルに対しフルオレセイン染色を行い撮影した画像を示す。
図2図2は、10%SDS処理を行って肌荒れを誘発した皮膚からテープストリップにより取得した肌荒れ角層シートと、SDS処理を行っていない部位の皮膚から取得した健常角層シートに対しフルオレセインを行った結果を示す。皮膚の状態(図2A)と、フルオレセイン染色時の蛍光輝度を表したグラフ(図2B)を示す。
図3図3は、上腕内側の皮膚からテープストリップにより取得した角層シートと、頬の皮膚から取得した角層シートに対しフルオレセイン染色後の蛍光輝度を表したグラフを示す。
図4図4は、in vivoで皮膚を湿潤させ、次いで低湿度(10%)又は高湿度(90%)で乾燥させた後に、テープストリップにより取得した角層シートに対しフルオレセイン染色を行い撮影した画像(図4A)、並びにこの画像において、12視野を選択して計測した蛍光輝度を表すグラフ(図4B)を示す。
図5図5は、皮膚からテープストリップにより取得された角層を水で浸潤し、湿度90%でゆっくり乾燥させた場合と、シリカゲルを用いて急速に乾燥させた場合において、各種染料で染色を行って得られた染色強度を表すグラフを示す。染料としては(A)フルオレセイン、(B)ローズベンガル、(C)コンゴーレッド、(D)サフラニンを用いた。
図6図6は、角層シートを、水、3%エリスリトール(ER)、及び3%POE(14)POP(7)ジメチルエーテルに浸漬させた後に、シリカゲルを入れた密閉容器中、湿度0%で乾燥させた場合におけるフルオレセイン染色による蛍光輝度を表すグラフを示す。対照として、水については湿度90%で乾燥させた場合の結果も示す。
図7図7は、角層シートを、0%、0.1%、1%、3%、10%のPOE(14)POP(7)ジメチルエーテル中に浸漬した後に、シリカゲルを入れた密閉容器中、湿度0%で乾燥させた場合におけるフルオレセイン染色による蛍光輝度を表すグラフを示す。対照として、角層シートを、水で浸潤後、湿度90%で乾燥させた場合を100として示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、角層シートに対してフルオレセイン、ローズベンガル、及びそれらの塩からなる群から選ばれる染料水溶液を接触させる工程、染料を洗浄する工程、角層シートにおける染料の染色強度を測定する工程を含む角層状態の評価方法に関する。角層状態は、角層透明度、角層細胞間脂質の構造化の程度、及び角層水分量からなる群から選ばれる少なくとも1又はその任意の組合せにより表すことができる。本発明は、フルオレセイン、ローズベンガル、及びそれらの塩からなる群から選ばれる染料で角層シートを染色した場合に、染色強度が、角層状態、すなわち角層透明度、角層細胞間脂質の構造化の程度、及び角層水分量からなる群から選ばれる少なくとも1又はその任意の組合せの指標となることを見出したことに基づいている。したがって、角層状態は、角層シートの染色強度に応じて評価することができ、染色が強いほど角層状態が悪く、荒れた状態と評価され、角層透明度の低下、角層細胞間脂質の構造の乱れ、並びに角層水分量の減少が起きていると判定される。角層状態の評価は、比色表や染色強度の基準値との比較、或いは対照となる標品の染色強度との比較により行うことができる。対照となる標品は、例えば健常な角層シートに対してSDSなどの肌荒れ誘発剤の溶液の希釈系列を塗布し一定時間インキュベートすることにより作成される肌荒れを誘発した角層シートであってもよいし、又は一定濃度の肌荒れ誘発剤含有溶液を塗布し、時間を振ってインキュベートすることにより作成される肌荒れを誘発した角層シートであってもよい。
【0012】
本明細書において、角層シートとは、角層が含まれていれば任意のものであってよく、生体の皮膚からテープストリップなどの手法を用いて調製した角層シート(以下、調製角層シートという)や、細胞培養物から得られた角層シート(以下、培養角層シートという)等を指す。角層状態の評価方法や美容処置の評価方法において用いる角層シートは、調製角層シートが好ましく、より好ましくはテープストリップにより採取された調製角層シートである。テープストリップにより採取された調製角層シートは、単にテープストリップにより調製された角層又は角層細胞を指すこともある。候補化粧料の評価方法に用いる角層シートは、大規模かつ均一にスクリーニングする観点からは、培養角層シートが好ましい。培養角層シートは、皮膚の三次元モデル培養を行うことにより取得することができるが、市販の培養表皮、例えば株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングから市販される培養表皮から取得された角層シートであってもよい。
【0013】
角層シートを溶液に湿潤した後、急速に乾燥させた場合に、角層の透明度が低下し、バリア機能が低下し、そして細胞間脂質の構造が乱れることが本発明者らにより見出されており(特願第2011−283045号)、急速に乾燥させた後の角層シートを、肌荒れ角層のモデルとすることができる。本発明は、溶液に湿潤後、急速乾燥した肌荒れモデルの角層シートを、水溶性染料で染色した場合に、染色強度が有意に高いことを発見し、染色強度が、肌荒れ、すなわち角層の透明度、バリア機能、及び細胞間脂質の構造の指標となることを見出したことに基づいている。
【0014】
本明細書において、染料とは、角層状態の評価に用いられる染料であれば任意のものであってよく、天然染料、合成染料、又は蛍光染料のいずれかを用いることもできる。蛍光染料とは蛍光を発する染料を指し、蛍光とは、電磁波により励起された物質から放出された特定波長の光のことを指す。本発明の角層状態の評価に用いられる染料は、水に溶解することで、水が入りやすい構造、例えば肌荒れにより角層のバリア機能の低い細胞中に浸透することにより、肌荒れ角層において強く染色されると考えられるが、このメカニズムに限定されることを意図するものではない。一方で、コンゴーレッドなどの染料は、水溶性を有するもののケラチン線維を染めることが知られており(特許文献2)、角層状態の評価には使用することができない。このように染料の種類に応じた染色特異性が存在する場合、角層状態の評価には使用できないため、染色特異性が低いことが望まれる。さらに生体の角層に使用する観点から、当然に高い安全性が望まれる。本発明の角層状態の評価に用いられる染料には、安全性、水溶性及び低い染色特異性が求められ、蛍光染料としてこれらの性質の1以上を満たす観点から例えば、フルオレセイン又はそれらの塩、さらにはそれらの誘導体が、蛍光染料以外の染料としてローズベンガル又はそれらの塩、さらにはそれらの誘導体、が挙げられる。染料の塩としては、任意の塩を用いることができるが、安全性、水溶性及び低い染色特異性のうちの1以上の性質を満たす観点から、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などが好ましい。
【0015】
本発明において、角層シートに対し染料水溶液を接触させる工程は、角層シートと染料水溶液が接触すれば任意の様式により行われてもよく、例えば染料水溶液中に角層シートを浸漬することにより行われてもよいし、又は角層シートに対して染料水溶液を滴下又は塗布することにより行われてもよい。
【0016】
水溶性染料の洗浄工程は、通常、水などの溶媒により染料を洗い流す工程であるが、溶媒に限られず、溶液、例えば水溶液が用いられてもよい。洗浄は、任意の回数行われてもよく、好ましくは1〜3回行われるが、それ以上の回数が行われてもよい。
【0017】
染色強度の測定は、通常、染料により染色された角層シートを光学顕微鏡などを用いて観察し、市販の画像処理ソフトを用いて観察画像を数値化することによって行うことができる。一方で、蛍光染料を用いて染色を行った場合、蛍光輝度を計測することにより染色強度を測定することができる。蛍光輝度の測定は、通常、蛍光染料により染色された角層シートに対し、紫外線を含む電磁波を照射して発生した蛍光を測定することにより行われ、ルミノメーターや蛍光顕微鏡などの蛍光測定器によって測定が行われる。一方で、太陽光や蛍光灯の光には通常紫外線が含まれており、可視光下でも蛍光を確認できることから、可視光下で目視により蛍光強度が分類されてもよいが、蛍光の確認にはブラックライトなどの紫外線発生器をもちいることが好ましい。蛍光顕微鏡を用いて蛍光強度を測定する場合、蛍光を発する部位と蛍光を発しない部位とが存在することから、ランダムに複数の視野を選択して蛍光量を測定する必要があり、そのような処理は、蛍光顕微鏡に付属している画像処理ソフトを用いて行うこともできる。
【0018】
本発明の別の態様では、本発明は、角層状態の評価方法を応用した、角層改善効果についての候補化粧料の評価方法にも関する。より具体的に、候補化粧料の評価方法は、以下の工程:角層シートに対して候補化粧料を適用する工程、角層シートを乾燥させる工程、角層シートに対して、フルオレセイン、ローズベンガル、及びそれらの塩からなる群から選ばれる染料の水溶液を接触させる工程、染料を洗浄する工程、及び角層シートにおける染料の染色強度を測定する工程を含む。この評価方法により、種々の候補化粧料が角層改善効果を有するか否かについて製品評価スクリーニングが可能となる。また、乾燥条件の設定により、化粧料が使用環境に適しているか否かを判定することになり、製品開発を容易にすることができる。
【0019】
本明細書において、角層改善効果とは、角層において、角層透明度の改善、角層細胞間脂質の構造の整序化、又は角層水分量の低下のいずれか1つ又は2以上の組合せがもたらされることをいう。候補化粧料が、このような角層改善効果を有するか否かを判定することにより、候補化粧料がより美しく健康な肌に寄与するか否かについて判定することができる。
【0020】
上記候補化粧料の評価方法における角層シートに対して候補化粧料を適用する工程は、候補化粧料中に角層シートを浸漬することにより行われてもよいし、角層シートに対して外用により行われうる方法、例えば候補化粧料を滴下又は塗布により、又は貼付やパックにより行われてもよい。
【0021】
上記候補化粧料の評価方法における角層シートの乾燥工程の条件は、候補化粧料を使用する環境に合わせて適宜選択することができる。本発明者らにより、水に湿潤した角層が、乾燥する過程に応じて、角層状態が変化することが見出されており(特願第2011−283045号)、湿潤した角層がゆっくりと乾燥することにより、角層透明度の改善、細胞間脂質の整序化が生じると考えられている。そこで、乾燥条件を環境に合わせて選択することができ、例えば乾燥地域で販売予定の化粧料については低湿度、高温多湿地域で販売予定の化粧料については高湿度及び高温の条件を選択することで、その地域においても角層改善効果を有する化粧料の選択が可能になる。また、化粧料を適用する環境は、販売地域の季節によっても大きく変わるものである。したがって、本発明のより好ましい実施態様では、販売地域の各季節、例えば乾期又は雨期、又は春夏秋冬などの季節に応じて化粧料が適しているかを評価することが可能になる。より優れた角層改善効果を有する候補化粧料をスクリーニングするために、シビアな条件、例えば高温低湿度条件を選択することもでき、また体温を考慮して温度を選択することもある。選択する温度の範囲としては、例えば10℃〜45℃、より好ましくは下限値として、10℃、15℃、及び20℃、上限値として20℃、25℃、30℃、35℃、37℃、及び40℃から選ばれる温度範囲が選択される。湿度は、任意の湿度が選択されてよいが、例えば50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、100%が選択されてもよい。乾燥時間については特に限定はなく、候補化粧料の液体が消失するのに十分な時間が選択されてもよいし、一定の時間、例えば1分、2分、5分、10分、15分、30分、1時間、2時間、3時間、4時間が適宜選択されてもよい。
【0022】
本発明の別の態様では、本発明は、角層状態の評価方法を応用した、角層改善効果についての美容処置の評価方法にも関する。より具体的に、美容処置の評価方法は、以下の工程:皮膚に対する美容処置後にテープストリップにより取得された角層シートに対して、フルオレセイン、ローズベンガル、及びそれらの塩からなる群から選ばれる染料を接触させる工程、染料を洗浄する工程、及び前記角層シートにおける角層シートにおける染料の染色強度を測定する工程を含む、角層改善効果についての美容処置の評価方法に関する。この評価方法により、適用された美容処置が、角層状態、特に角層透明度や細胞間脂質の構造の整序化、及び/又は角層水分量の低下に寄与するか否かを評価することができる。好ましくは、美容処置前にテープストリップにより取得された角層シートにおける染色強度と、美容処置後にテープストリップにより取得された角層シートにおける染色強度を比較することにより評価が行われてもよい。この場合、染色強度が減少した場合、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上減少した場合に、美容処置が角層改善効果を有することを判定することができる。
【0023】
美容処置としては、特に限定されないが、例えば化粧料の塗布、マッサージの適用、スチームの適用などの美容に有効と考えられている任意の処置が含まれる。美容処置は、一回の処置であってもよいし、数日から数週間にわたって行われる継続的な処置であってもよい。美容処置は個人的に行われてもよいし、美容室や、化粧品の販売店、エステサロンなどで行われてもよく、美容処置の評価方法もまた美容室や、化粧品の販売店、エステサロンなどで行われる。
【0024】
本明細書において化粧料とは、皮膚に適用される化粧料をいい、例えば化粧水、乳液、美容液、クリーム、ファンデーションなどをいうが、これらに限定されず、皮膚の改善を直接の目的とするものではないが、皮膚に塗布されるもの全てを含むことを意図し、例えば、日焼け止め剤、虫除け剤、脱毛剤、育毛剤、シェービングローション、アフターシェービングローションなども包含するものとする。化粧料に含まれる成分には、基剤として水、エタノール、グリセリン、ポリエチレングリコールなどのアルコール類が含まれ、保湿剤としてグリシン、ベタイン、ピロリドンカルボン酸Naなどのアミノ酸類、フルクトース、マルチトール、マンニトール、トレハロースなどの糖類、さらに有効成分としてヒアルロン酸、コラーゲン、セラミドなど、そして賦形剤としてクエン酸ナトリウム、クエン酸、乳酸ナトリウム、防腐剤として安息香酸塩、ソルビン酸などが含まれているが、これらに限定されるものではない。
【0025】
本明細書において候補化粧料とは、角質改善効果について調査が行われる化粧料のことをいい、製品として販売されている化粧料の他、開発段階の化粧料も含み、さらに化粧料の開発において化粧料用に選択された溶液であってもよい。例えば、化粧料に用いるある物質の角質改善効果を調べるため、当該物質のみを含む水溶液であってもよい。本明細書の実施例では、アクアインプール(登録商標)、エリスリトールの水溶液が用いられているが、これらの水溶液に限定されるべきではなく、糖類、多価アルコール、アミノ酸類、有機酸、例えばトレハロース、マンニトール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、グルコサミンなどの保湿剤、増粘剤、若しくは緩衝剤として含まれる成分、又は有効成分などの任意の水溶液が用いられてもよいし、溶媒として水以外を含む溶液が使用されてもよい。POE(14)POP(7)ジメチルエーテルは、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合体ジメチルエーテルであり、水にも油分にも溶解する性質を有していることから、水性基剤としても油性基剤としても使用可能な物質である。POE POPジメチルエーテルの一般式は、以下の通り:
【化1】
である。本発明で用いたPOE(14)POP(7)ジメチルエーテルは、m=14、n=7であるが、m、nは任意の整数のものが用いられてもよい。
【0026】
本発明において、皮膚バリア機能は、経皮水分蒸散量(TEWL)によって評価される。TEWLは、角層を介した水の蒸散量を意味し、TEWLが低いほど、角層の皮膚バリヤ機能は高く、TEWLが高くなるにつれ、角層の皮膚バリヤ機能は低くなる。皮膚バリヤ機能と肌荒れとの関係は、特許文献2に記載されている。
【0027】
以下、具体例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
実施例1:培養角層シートのフルオレセイン染色
三次元培養皮膚LabCyte EPI−MODEL(株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング)から培養角層シートを調製し、培養角層シートを水で湿潤させた後に、恒温層(MTH−2200)を用いて培養角層シートを湿度60%、32℃ で8時間インキュベーションすることにより乾燥させて、健常角層モデルとした。一方、水で湿潤させた後に凍結乾燥装置(VD−80、TAITEC製)を用いて−20℃に凍結し、同装置で2時間凍結乾燥させて、肌荒れ角層モデルとした。乾燥後の培養角層シートに対し、0.2w/v%ウラニン(フルオレセイン・ナトリウム)溶液(和光純薬工業(株))中に5分間浸漬し、水洗後、青色光(TANDA PROFESSIONAL CLEAR製、Light therepy treatment)を照射し、写真撮影を行った(図1)。得られた画像を、画像処理ソフト(Image J)にて緑色の成分を抽出して表した。
【0029】
実施例2:SDS塗布による肌荒れ皮膚からテープストリップされた角層シートのフルオレセイン染色
上腕屈側部に対して、10%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)に浸した2.5×2.5cmの不織布を用いた1時間のオクルージョン塗布を2日間行い、肌荒れを誘導した(図2A)。その7日後にテープストリップにより角層シートを剥離し、スライドガラスに固定した。一方、SDSで処理していない部位も同様に剥離してスライドガラスに固定した。固定された角層シートを、0.2w/v%ウラニン溶液(和光純薬工業(株))で5分間浸漬し、水洗後、蛍光顕微鏡(オリンパスBX51)で蛍光輝度を観察して、画像を取り込んだ。取り込んだ画像を解析ソフトを用いて、ゆがみ補正を実施し、2値化を実施して、蛍光輝度を計算した。12視野のデーターを平均化したグラフを図2Bに示す。肌荒れ部位から取得した角層シートでは蛍光輝度が有意に高かった(p<0.001)。
【0030】
実施例3:上腕内側部と頬からテープストリップにより取得した角層シートのフルオレセイン染色
4名の男性の頬部、及び上腕内側部からテープストリップで角層シートを剥離し、スライドガラスに固定した。これに0.2w/v%ウラニン溶液(和光純薬工業(株))で5分間浸漬し、水洗後、蛍光顕微鏡(オリンパスBX51)で蛍光輝度を観察して、画像を取り込んだ。取り込んだ画像を解析ソフトを用いて、ゆがみ補正を実施し、2値化を実施して、蛍光輝度を計算した。各々6視野のデーターを平均化したグラフを図3に示す。頬部及び上腕内側部は、いずれも肌荒れが生じていなかったが、日常生活で外気や紫外線に晒される頬は、上腕内側部に比較して角層状態が悪化していると考えられる。頬部から取得した角層シートは、上腕内側部に比較して蛍光輝度が有意に高く(p<0.05)、本発明の方法により、目に見える肌荒れ状態のみならず、目に見えない程度の肌荒れの状態を鑑別できることが明らかになった。
【0031】
実施例4:in vivoで皮膚を水で湿潤後、低湿度(10%)又は高湿度(90%)で乾燥させた皮膚から取得したヒト角層シートに対するフルオレセイン染色
上腕屈側部(両腕)に対して、水に浸した2.5×2.5cmの不織布を2時間オクルージョン塗布した。不織布を外し、湿度10%,温度22℃の恒温室に入室し、片腕は硝酸カリウムの過飽和塩を入れたビニール袋に肩から入れ、1時間滞在した。硝酸カリウムの過飽和塩を入れたビニール袋の内部の湿度は、およそ90%であった。その後、実験室(湿度25%)に戻り、1時間滞在後、角層剥離テープで両腕の処理部位から角層シートを剥離し、スライドガラスに固定した。固定した角層シートに0.2w/v%ウラニン溶液(和光純薬工業(株))で5分間浸漬し、水洗後、蛍光顕微鏡(オリンパスBX51)で蛍光輝度を観察して、画像を取り込んだ(図4A)。取り込んだ画像を、解析ソフトを用いて、ゆがみ補正を実施し、2値化を実施して、蛍光輝度を計算した。各々12視野のデーターを平均化したグラフを図4Bに示す。低湿度(10%)で乾燥させた皮膚角層は高湿度(90%)で乾燥させた皮膚角層より蛍光輝度が有意に高かった。(P<0.01)
【0032】
実施例5:テープストリップにより取得された角層シートを水で浸潤後、湿度90%で乾燥させた場合と、シリカゲルを用いて乾燥させた場合における染色
前腕屈側部から角層剥離テープを用いて2枚角層シートを採取し、スライドガラスに固定した。これらを水に1時間浸漬後、一枚は硝酸カリウムの過飽和塩を入れた密閉容器の中で、2時間乾燥させた。この場合の湿度は約90%となる。別の一枚は、乾燥させたシリカゲルを入れた密閉容器の中で、2時間乾燥させた。この場合の湿度は0%となる。これらの角層シートを0.2w/v%ウラニン溶液(和光純薬工業(株))で5分間浸漬し、水洗後、蛍光顕微鏡(オリンパスBX51)で蛍光輝度を観察して、画像を取り込んだ。取り込んだ画像を解析ソフトを用いて、ゆがみ補正を実施し、2値化を実施して、蛍光輝度を計算した。各々12視野のデーターを平均化したグラフを図5A)に示す。テープストリップにより取得した角層シートに対し水を浸漬させ、シリカゲルを用いて急速乾燥することにより、肌荒れ角層シートモデルを作成可能であり、その場合に蛍光の輝度の変化を計測することができた。シリカゲルで乾燥させた角層は高湿度で乾燥させた角層より蛍光輝度が有意に高かった(P<0.001)。
同様の実験を別の染料を、0.2w/v%ローズベンガル溶液(和光純薬工業)、0.2w/v%サフラン水溶液(和光純薬工業)、0.2w/v%コンゴーレッド水溶液(和光純薬工業)それぞれを用いて行った。上記方法にて作成した角層シートをそれぞれの染料水溶液に5分間浸漬し、水洗後、光学顕微鏡(オリンパスBX40)を用いて観察し、その画像を取り込んだ。取り込んだ画像を画像解析ソフトで2値化し、色強度を計算した。各々12視野のデータを平均値化したグラフを図5 B)、C)、D)に示す。ローズベンガル染色では、シリカゲルで乾燥させた角層が高湿度で乾燥させた角層より染色強度が高い傾向が認められた。(p<0.1)一方、サフラニン染色、コンゴーレッド染色では乾燥による差異を評価することができなかった。
【0033】
実施例6:角層改善効果についての候補化粧料のスクリーニング
前腕屈側部から角層剥離テープを用いて取得した角層シートをスライドガラスに固定し、固定された各角層シートを、対照として水(2枚)、候補化粧料として3%エリスリトール水溶液(ER)、及び3%アクアインプール1407水溶液(AQ)に1時間浸漬した。その後、水に浸漬した1枚の角層シートを湿度0%、室温で乾燥し、もう1枚を湿度90%、室温で2時間乾燥した。ER及びAQに浸漬した角層シートを湿度0%、室温で2時間乾燥した。これらの角層シートを0.2w/v%ウラニン溶液(和光純薬工業(株))で5分間浸漬し、水洗後、蛍光顕微鏡(オリンパスBX51)で蛍光輝度を観察して、画像を取り込んだ。取り込んだ画像を解析ソフトを用いて、ゆがみ補正を実施し、2値化を実施して、蛍光輝度を計算した。各々12視野のデーターを平均化したグラフを図6に示した。ERに浸漬した角層シートでは蛍光輝度が、水で浸漬した角層シート(湿度0%で乾燥)と同程度であった一方で、AQに浸漬した角層シートでは、水で浸漬した角層シート(湿度0%で乾燥)に比較して蛍光輝度が有意に低下し、その蛍光輝度は、水で浸漬し、湿度90%でゆっくり乾燥させた角層シートに近い値であった。この実験により、3%アクアインプール1407水溶液が角層改善効果を有することが分かり、本実験系により候補化粧料をスクリーニングできることが示された。
【0034】
実施例7:アクアインプール1407水溶液の濃度依存的な角層改善効果
前腕屈側部から角層剥離テープを用いて取得した角層シートをスライドガラスに固定し、固定された各角層シートを、対照として水、そして候補化粧料としてアクアインプール1407(AQ)の濃度を0%、0.1%、1%、3%、及び10%の濃度になるようにした水溶液に1時間浸漬した。その後、水に浸漬した角層シート湿度90%、室温で2時間乾燥した。AQに浸漬した角層シートを、シリカゲルを入れた密閉容器内(湿度0%)で2時間乾燥した。これらの角層シートを0.2w/v%ウラニン溶液(和光純薬工業(株))で5分間浸漬し、水洗後、蛍光顕微鏡(オリンパスBX51)で蛍光輝度を観察して、画像を取り込んだ。取り込んだ画像を、解析ソフトを用いて、ゆがみ補正を実施し、2値化を実施して、蛍光輝度を計算した。各々12視野のデーターを平均化し、水に浸漬し、湿度10%で乾燥させた角層シートの蛍光輝度を100として図7に示した。アクアインプール1407は、濃度依存的に蛍光輝度を低下させることができ、3%及び10%において、0%(すなわち水で浸潤し、湿度0%で乾燥)に対し有意に低下していることが示された。濃度依存的に蛍光輝度を低下させることから、アクアインプール1407が確かに角層改善効果を有しており、角層改善効果を有する化粧料として有用である点が示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7