(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車輪を駆動するモータと、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECUと、直流電力を前記モータの駆動に用いる交流電力に変換するインバータを含むパワー回路部および前記ECUの制御に従って少なくとも前記パワー回路部を制御するモータコントロール部を有するインバータ装置とを備えた電気自動車において、
前記モータコントロール部は、
前記モータの特性のパラメータを記憶するパラメータマップと、
前記ECUからのトルク指令に対して、前記パラメータマップに記憶されたパラメータを用い、電圧方程式によりオープンループ制御で制御量を生成するオープンループ制御部と、
前記ECUからのトルク指令に対して前記インバータ内部にて生成された指令電流値の偏差を無くす制御を行う電流フィードバック制御部と、
前記オープンループ制御部で生成された制御量と、前記電流フィードバック制御部で生成された制御量とから生成された制御量により前記モータを制御するハイブリッド制御部と、を有し、
前記オープンループ制御部で生成される電圧値による制御量のうち、磁石軸であるd軸方向の制御量をVdo,前記d軸方向に直交するq軸方向の制御量をVqoとし、
前記電流フィードバック制御部で生成される電圧値による制御量のうち、前記d軸方向の制御量をVdc,前記q軸方向の制御量をVqcとすると、
前記ハイブリッド制御部にて生成させる制御量Vd,Vqは下記方程式により表される、電気自動車の制御装置。
Vd=αdo×Vdo+αdc×Vdc
Vq=γqo×Vqo+γqc×Vqc
(但しα,γは係数、αdo+αdc=1,γqo+γqc=1とする)
【背景技術】
【0002】
従来、モータを制御する技術として、例えば、電流フィードバック制御方法、電流オープン制御方法が提案されている。
【0003】
従来技術1(特許文献1)<電流フィードバック制御方法>
車両の操縦者によるアクセルペダルの操作に応じて出力トルクTの制御目標トルク指令を決定し、次に決定された制御目標トルク指令に基づき、モータの出力トルク方程式T=p×{Ke×Iq+(Ld−Lq)×Id×Iq}を利用し、さらに、実験計測などによりd,q各軸インダクタンスを予め得ておき、d,q各軸インダクタンスの値を用い、電流ベクトル(Id,Iq)の制御目標になる電流指令ベクトルを決定する。決定した電流指令ベクトルに基づきモータの一次電流Iaをそのd,q各軸成分毎に制御する。制御方法としては、PIフィードバック制御により、前記電流指令ベクトルに従い実際のモータの実測電流ベクトル(Id,Iq)の値を一致させる。これにより、前記制御目標トルク指令をモータの実出力トルクTとして実現する方法が提案されている。
【0004】
従来技術2(特許文献2)<電流オープンループ制御方法>
コスト削減のため、電流センサを全て除去し、モータの回路方程式に従いオープンループ制御(フィードフォワード制御)を行う方法が提案されている。提案制御方法では、トルクTと電流指令ベクトルを対応するようなアシストマップを予め作成し、電圧回路方程式を用いて駆動電圧を算出する。d,q各軸インダクタンスは既知のパラメータとして扱われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術1では、モータの電流変化などの影響で、d,q各軸インダクタンスが不所望に変化してしまう可能性がある。このため、電流制御において、オーバーシュートなどの問題が発生するため、トルク制御の精度が落ちる。
従来技術2では、モータの電流変化の影響で、d,q各軸インダクタンスが不所望に変化してしまう可能性があるため、オープンループ制御のみではトルク制御の精度が落ちる。
【0007】
この発明の目的は、電気自動車において、車輪駆動用のモータを精度良くトルク制御することができる電気自動車の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前提構成となる電気自動車の制御装置は、車輪2を駆動するモータ6と、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECU21と、直流電力を前記モータ6の駆動に用いる交流電力に変換するインバータ31を含むパワー回路部28および前記ECU21の制御に従って少なくとも前記パワー回路部28を制御するモータコントロール部29を有するインバータ装置22とを備えた電気自動車において、
前記モータコントロール部29は、
前記モータ6の特性のパラメータを記憶するパラメータマップと、
前記ECU21からのトルク指令に対して、前記パラメータマップに記憶されたパラメータを用い、電圧方程式によりオープンループ制御で制御量を生成するオープンループ制御部37と、
前記ECU21からのトルク指令に対して前記インバータ内部にて生成された指令電流値の偏差を無くす制御を行う電流フィードバック制御部38と、
前記オープンループ制御部37で生成された制御量と、前記電流フィードバック制御部38で生成された制御量とから生成された制御量により前記モータ6を制御するハイブリッド制御部39とを有することを特徴とする。
【0009】
この構成によると、モータコントロール部29は、例えば、モータ力行および回生制御時、ECU21から与えられるトルク指令等による加速・減速指令に基づき、パワー回路部28を制御し、モータ6の出力をトルク制御により実施する。モータコントロール部29におけるオープンループ制御部37は、ECU21からのトルク指令に対して、パラメータマップに記憶されたパラメータを用い、電圧方程式によりオープンループ制御で制御量を生成する。電流フィードバック制御部38は、ECU21からのトルク指令に対してインバータ内部にて生成された指令電流値の偏差を無くす制御を行う。
【0010】
ハイブリッド制御部39は、オープンループ制御部37で生成された制御量と、電流フィードバック制御部38で生成された制御量とから生成された新しい制御量によりモータ6を制御する。例えば、電流変化などの外乱の影響により、モータ6のd,q各軸インダクタンス、モータ誘起電圧定数実効値Keが変化してしまう可能性があるため、オープンループ制御方法の場合は、予め決定したマップからのパラメータを使用すると、トルク制御の精度が落ちる可能性がある。その制御精度が落ちた部分を電流フィードバック制御部38がフィードバック制御で補うこととする。このようにモータ6のトルク制御の精度向上を図ることができる。
【0011】
この発明における第1の発明の電気自動車の制御装置は、前記前提構成において、前記オープンループ制御部37で生成される電圧値による制御量のうち、磁石軸であるd軸方向の制御量をVdo,前記d軸方向に直交するq軸方向の制御量をVqoとし、
前記電流フィードバック制御部38で生成される電圧値による制御量のうち、前記d軸方向の制御量をVdc,前記q軸方向の制御量をVqcとすると、
前記ハイブリッド制御部39にて生成させる制御量Vd,Vqは下記方程式により表され
る。
Vd=αdo×Vdo+αdc×Vdc
Vq=γqo×Vqo+γqc×Vqc
(但しα,γは係数、αdo+αdc=1,γqo+γqc=1とする)
【0012】
制御パラメータ(αdo,αdc,γqo,γqc)を調整する制御パラメータ調整部34を設けても良い。制御パラメータ調整部34は、例えば、時々刻々と変化するモータ回転数およびトルクに応じて、制御パラメータを適宜に調整する。ハイブリッド制御部39は、前記調整された制御パラメータにより、オープンループ制御と電流フィードバック制御の比率を適正に制御し得る。
【0013】
前記モータ6の特性のパラメータが定められた高速または高トルク領域にて、前記制御パラメータにおけるαdo、γqoの値を、αdc、γqcの値より小さく設定し、前記モータ6の特性のパラメータが定められた低速または低トルク領域にて、前記制御パラメータにおけるαdo、γqoの値を、αdc、γqcの値より大きく設定しても良い。
前記高速または高トルク領域、前記低速または低トルク領域は、それぞれ、台上試験および実車試験による結果に基づき定められる。
【0014】
この発明における第2の発明の電気自動車の制御装置は、前記前提構成において、前記モータ6の前記パラメータマップは複数のマップからなり、前記オープンループ制御部37は、前記パラメータマップからパラメータを取得するとき、車両の状況に応じて、各マップからそれぞれパラメータを取得し、これらパラメータの平均値を計算し使用す
る。
前記車両の状況とは、例えば、前記車両が急加速、急減速の状態、モータ力行または回生制御時、登坂路の走行時か否かなどを指す。
オープンループ制御部37は、時々刻々と変化する車両の状況に応じて、各マップからそれぞれ取得したパラメータの平均値を例えば補間制御などにより計算する。これにより、マップの記憶領域を確保できると共に、演算処理負荷の軽減を図れる。
【0015】
前記ハイブリッド制御部39は、力行制御時または回生制御時に、前記オープンループ制御部37で生成された制御量と、前記電流フィードバック制御部38で生成された制御量とから生成された制御量により前記モータ6を制御するものとしても良い。モータ6の力行制御時、回生制御時のいずれにおいても、ハイブリッド制御部39は、オーバーシュートなどの問題を発生することなくトルク制御の精度の向上を図れる。
【0016】
前記モータ6は、一部または全体が車輪内に配置されて前記モータ6と車輪用軸受4と減速機7とを含むインホイールモータ駆動装置8を構成するものとしても良い。
【発明の効果】
【0017】
この発
明における第1の発明の電気自動車の制御装置は、車輪を駆動するモータと、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECUと、直流電力を前記モータの駆動に用いる交流電力に変換するインバータを含むパワー回路部および前記ECUの制御に従って少なくとも前記パワー回路部を制御するモータコントロール部を有するインバータ装置とを備えた電気自動車において、前記モータコントロール部は、前記モータの特性のパラメータを記憶するパラメータマップと、前記ECUからのトルク指令に対して、前記パラメータマップに記憶されたパラメータを用い、電圧方程式によりオープンループ制御で制御量を生成するオープンループ制御部と、前記ECUからのトルク指令に対して前記インバータ内部にて生成された指令電流値の偏差を無くす制御を行う電流フィードバック制御部と、前記オープンループ制御部で生成された制御量と、前記電流フィードバック制御部で生成された制御量とから生成された制御量により前記モータを制御するハイブリッド制御部とを
有し、前記オープンループ制御部で生成される電圧値による制御量のうち、磁石軸であるd軸方向の制御量をVdo,前記d軸方向に直交するq軸方向の制御量をVqoとし、前記電流フィードバック制御部で生成される電圧値による制御量のうち、前記d軸方向の制御量をVdc,前記q軸方向の制御量をVqcとすると、前記ハイブリッド制御部にて生成させる制御量Vd,Vqは下記方程式により表される、
Vd=αdo×Vdo+αdc×Vdc
Vq=γqo×Vqo+γqc×Vqc
(但しα,γは係数、αdo+αdc=1,γqo+γqc=1とする)
ため、電気自動車において、車輪駆動用のモータを精度良くトルク制御することができる
。
この発明における第2の発明の電気自動車の制御装置は、前記前提構成において、前記モータの前記パラメータマップは複数のマップからなり、前記オープンループ制御部は、前記パラメータマップからパラメータを取得するとき、車両の状況に応じて、各マップからそれぞれパラメータを取得し、これらパラメータの平均値を計算し使用するため、電気自動車において、車輪駆動用のモータを精度良くトルク制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の第1の実施形態に係る電気自動車の制御装置を
図1ないし
図7と共に説明する。なお以下の説明は電気自動車の制御方法についての説明をも含む。
図1は、この実施形態に係る電気自動車を平面図で示す概念構成のブロック図である。同
図1に示すように、この電気自動車は、車体1の左右の後輪となる車輪2が駆動輪とされ、左右の前輪となる車輪3が従動輪の操舵輪とされた4輪の自動車である。駆動輪および従動輪となる車輪2,3は、いずれもタイヤを有し、それぞれ車輪用軸受4,5を介して車体1に支持されている。
【0020】
車輪用軸受4,5は、
図1にてハブベアリングの略称「H/B」を付してある。駆動輪となる左右の車輪2,2は、それぞれ独立の走行用のモータ6,6により駆動される。モータ6の回転は、減速機7および車輪用軸受4を介して車輪2に伝達される。これらモータ6、減速機7、および車輪用軸受4は、互いに一つの組立部品であるインホイールモータ駆動装置8を構成しており、インホイールモータ駆動装置8は、一部または全体が車輪2内に配置される。減速機7は例えばサイクロイド減速機からなる。各車輪2,3には、電動式のブレーキ9,10が設けられている。また左右の前輪となる操舵輪である車輪3,3は、転舵機構11を介して転舵可能であり、操舵手段12により操舵される。
【0021】
図2は、同電気自動車のインバータ装置等の概念構成のブロック図である。
同
図2に示すように、この電気自動車は、自動車全般の制御を行う電気制御ユニットであるECU21と、このECU21の指令に従って走行用のモータ6の制御を行うインバータ装置22とを有する。ECU21は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、並びに各種の電子回路等で構成される。ECU21は、トルク配分手段21aと、力行・回生制御指令部21bとを有する。
【0022】
トルク配分手段21aは、アクセル操作手段16の出力する加速指令と、ブレーキ操作手段17の出力する減速指令と、操舵手段12からの旋回指令とから、左右輪の走行用のモータ6,6に与える加速・減速指令をトルク指令値として生成し、インバータ装置22へ出力する。トルク配分手段21aは、ブレーキ操作手段17の出力する減速指令があったときに、モータ6を回生ブレーキとして機能させる制動トルク指令値と、前記電動式のブレーキ9,10を動作させる制動トルク指令値とに配分する機能を持つ。回生ブレーキとして機能させる制動トルク指令値は、前記左右輪のモータ6,6に与える加速・減速指令をトルク指令値に反映させる。ブレーキ9,10を動作させる制動トルク指令値は、ブレーキコントローラ23へ出力する。
力行・回生制御指令部21bは、加速(力行)・減速(回生)の切換えを行うための指令フラグを、後述するモータコントロール部29のモータ力行・回生制御部33に与える。
【0023】
インバータ装置22は、各モータ6に対して設けられたパワー回路部28と、このパワー回路部28を制御するモータコントロール部29とを有する。パワー回路部28は、バッテリ19の直流電力をモータ6の力行および回生に用いる3相の交流電力に変換するインバータ31と、このインバータ31を制御するPWMドライバ32とを有する。モータ6は、3相の同期モータ等からなる。このモータ6には、同モータのロータの電気角としての回転角度を検出する回転角度センサ36が設けられている。インバータ31は、複数の半導体スイッチング素子で構成され、PWMドライバ32は、入力された電流指令をパルス幅変調し、前記各半導体スイッチング素子にオンオフ指令を与える。
【0024】
モータコントロール部29は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成され、その基本となる制御部としてモータ力行(駆動)・回生制御部33と、制御パラメータ調整部34とを有する。モータ力行・回生制御部33は、上位制御手段であるECU21から与えられるトルク指令等による加速(力行)・減速(回生)指令に従い、電流指令に変換して、パワー回路部28のPWMドライバ32に電流指令を与える手段である。加速(力行)・減速(回生)の切換は、ECU21の力行・回生制御指令部21bからの指令フラグにより行う。モータ力行・回生制御部33は、力行制御手段33aと、回生制御手段33bとを有し、力行・回生制御指令部21bからの指令フラグにより力行制御手段33aおよび回生制御手段33bのいずれか一方が選択的に用いられる。
【0025】
モータ力行・回生制御部33は、ECU21から与えられるトルク指令、および力行・回生制御指令部21bからの指令フラグにより、インバータ内部に予め設定したトルクマップを用い、モータ6に指令電流値を生成する。モータ力行・回生制御部33は、この指令電流値の生成に伴い、モータ6の特性のパラメータマップからパラメータ(R,Ld,Lq,Ke)も生成する。
R:モータ抵抗
Ld:モータのd軸インダクタンス
Lq:モータのq軸インダクタンス
Ke:モータ誘起電圧定数実効値
そこで制御パラメータ調整部34により、2種類の制御方法の割合で電流制御を行うこととする。前記2種類の制御方法は、電圧方程式によるオープンループ制御方法と、電流フィードバック制御方法である。モータコントロール部29は、制御パラメータ調整部34で制御パラメータ(αdo,αdc,γqo,γqc)を調整することで、オープンループ制御と電流フィードバック制御との比率を制御し得る。なお前記電流フィードバック制御方法では、モータ6のロータの回転角を回転角度センサ36から得て、ベクトル制御等の回転角に応じた制御を行う。
【0026】
力行制御手段33aおよび回生制御手段33bは、それぞれオープンループ制御部37と、電流フィードバック制御部38と、ハイブリッド制御部39とを有する。オープンループ制御部37は、ECU21からのトルク指令に対して、モータ6の前記パラメータマップに記憶されたパラメータ(R,Ld,Lq,Ke)を用い、前記電圧方程式によりオープンループ制御で制御量を生成する。電流フィードバック制御部38は、ECU21からのトルク指令に対してインバータ内部にて生成された指令電流値の偏差を無くす制御を行う。ハイブリッド制御部39は、オープンループ制御部37で生成された制御量と、電流フィードバック制御部38で生成された制御量とから生成された新しい制御量によりモータ6を制御する。
なおECU21、インバータ装置22、ブレーキコントローラ23、操舵手段12と4者間の信号転送は、コントローラー・エリア・ネットワーク(CAN)通信で行われている。
【0027】
図3は、この電気自動車のIPMモータの概念構成図である。
図3(a)に示すように、車輪を駆動するモータがIPMモータつまり埋込磁石型同期モータの場合は、磁石軸であるd軸方向よりそれと直交するq軸方向の磁気抵抗が小さくなるため、突極構造となり、d軸インダクタンスLdよりq軸インダクタンスLqが大きくなる。
この突極性により、磁石トルクTm以外にリラクタンストルクTrが併用でき、高トルクおよび高効率とすることもできる。
磁石トルクTm:回転子の永久磁石による磁界と巻線による回転子磁界と吸引反発して発生するトルクである。
リラクタンストルクTr:巻線による回転磁界に回転子の突極部が吸引されて発生するトルクである。
【0028】
モータが発生する総トルクTは下記のようになる。
T=p×{Ke×Iq+(Ld−Lq)×Id×Iq}
=Tm+Tr
p:磁極対
Ld:モータのd軸インダクタンス
Lq:モータのq軸インダクタンス
Ke:モータ誘起電圧定数実効値
【0029】
図3(b)に示すように、IPMモータに流す1次電流Iaを、トルク生成電流q軸電流Iqと、磁束生成電流d軸電流Idとに分離し、それぞれ独立に制御できるベクトル制御手法が周知である。
Id=−Ia×sinβ
Iq=Ia×cosβ
β:電流進角
【0030】
図4は、この電気自動車のモータコントロール部のトルク制御系のブロック図である。
図2も参照しつつ説明する。
モータコントロール部29は、モータ駆動電流を制御する手段であって、電流指令部40を含む。この電流指令部40は、モータ6に印加する駆動電流を回転角度センサ36で検出した検出値と、ECU21の配分手段21aで生成した加速・減速指令によるトルク指令値とから、インバータ内部に予め設定したトルクマップを用い、モータ6を駆動する相応の指令電流値を生成する。電流指令部40は、前記指令電流値を生成するのに伴い、モータ6のパラメータマップからパラメータ(R,Ld,Lq,Ke)も生成する。
【0031】
ハイブリッド制御部39は、指令電流値に対して、制御パラメータ調整部34から得られた制御パラメータ(αdo,αdc,γqo,γqc)によりオープンループ制御および電流フィードバック制御の2種類の制御方法の割合で電流制御を行う。制御パラメータ調整部34は、制御パラメータ(αdo,αdc,γqo,γqc)を調整すると共に、PI制御のゲインパラメータも調整する。
【0032】
前記トルクマップに関しては、アクセル信号とモータ6の回転数とに応じて、最大トルク制御マップから、相応なトルク指令値を算出する。電流指令部40は、算出された前記トルク指令値に基づき、モータ6の1次電流(Ia)と電流位相角(β)の指令値を生成する。電流指令部40は、これら1次電流(Ia)と電流位相角(β)の値に基づき、d軸電流(界磁成分)O_Idと、q軸電流(トルク成分)O_Iqの二つの指令電流を生成する。
そこでハイブリッド制御部39は、d軸電流O_Idとq軸電流O_Iqの二つの指令電流に対して、オープンループ制御方法である制御方法1と、電流フィードバック制御方法である制御方法2で得られた制御量の割合でモータ6の実際電流Id,Iqを制御する。
【0033】
制御方法1:オープンループ制御方法である。
オープンループ制御部37は、モータ6のパラメータマップに記憶されたパラメータ(R,Ld,Lq,Ke)を用い、下記の電圧方程式により、制御量VdoとVqoを生成する。
Vdo=R×O_Id−ω×Lq×O_Iq
Vqo=R×O_Iq+ω×Ld×O_Id+Ke×ω
R:モータ抵抗
ω:モータ角速度(rad/s)
【0034】
モータ6のパラメータマップは、台上試験および実車試験による結果に基づき作成される。パラメータ(R,Ld,Lq,Ke)は、実測値であって、温度変化、電流変化、モータ回転数変化などの情報を考慮した上での測定値である。パラメータマップを、例えば、インバータ装置22に設けられた記録手段であるROM46に記録する。記録されたパラメータマップは複数のマップからなり、オープンループ制御部37は、前記パラメータマップからパラメータを取得するとき、車両の状況に応じて、各マップからそれぞれパラメータを取得し、これらパラメータの平均値を計算し使用する。
【0035】
前記「車両の状況」とは、例えば、車両が急加速、急減速の状態、モータ力行または回生制御時、登坂路の走行時か否かなどを指す。
オープンループ制御部37は、時々刻々と変化する車両の状況に応じて、各マップからそれぞれ取得したパラメータの平均値を例えば補間制御などにより計算する。これにより、マップの記憶領域を確保できると共に、演算処理負荷の軽減を図れる。
【0036】
制御方法2:電流フィードバック制御方法である。
電流PI制御部(電流フィードバック制御部)38は、電流指令部40から出力されたd軸電流O_Id、q軸電流O_Iqの値と、モータ電流および回転子角度から3相・2相変換部42で計算された2相電流Id,Iqとから、PI制御による電圧値による制御量Vd,Vqを算出する。3相・2相変換部42では、電流センサ43で検出されるモータ6のu相電流(Iu)とw相電流(Iw)の検出値から、次式Iv=−(Iu+Iw)で求められるv相電流(Iv)を算出し、Iu,Iv,Iwの3相電流からId,Iqの2相電流に変換する。この変換に使われるモータ6の回転子角度は、回転角度センサ36から取得する。電流フィードバック制御で生成される制御量はVdcとVqcとする。
【0037】
発明方法:制御方法1,2で生成された制御量の割合で新しい制御量Vd,Vqを生成する。ハイブリッド制御部39にて生成された新しい制御量Vd,Vqによりモータ6を制御する。前記ハイブリッド制御部39にて生成させる制御量Vd,Vqは下記方程式により表される。
Vd=αdo×Vdo+αdc×Vdc
Vq=γqo×Vqo+γqc×Vqc
(但しα,γは係数、αdo+αdc=1,γqo+γqc=1とする)
【0038】
制御パラメータ調整部34は、制御パラメータ(αdo,αdc,γqo,γqc)およびPI制御ゲイン(比例ゲインと積分ゲイン)を調整する。例えば、電流変化などの外乱の影響により、モータ6のd,q各軸インダクタンス、モータ誘起電圧定数実効値Keが変化してしまう可能性があるため、オープンループ制御方法の場合は、予め決定したマップからのパラメータを使用すると、トルク制御の精度が落ちる可能性がある。その制御精度が落ちた部分を電流フィードバック制御部38がPIフィードバック制御で補うこととする。
【0039】
台上試験および実車試験による結果に基づき、制御パラメータ(αdo,αdc,γqo,γqc)マップおよびPI制御ゲイン調整用マップを作成することとする。
制御パラメータ調整部34によるマップの調整方法としては、例えば、モータパラメータマップのモータパラメータ(R,Ld,Lq,Ke)は高速または高トルク領域において、変動が大きいことに対して、制御パラメータマップの制御パラメータにおけるαdo、γqoの値を、αdc、γqcの値より小さく設定する。逆に、モータパラメータが低速および低トルク領域では、制御パラメータにおけるαdo、γqoの値を、αdc、γqcの値より大きく設定する。
【0040】
2相・3相変換部44は、ハイブリッド制御部39で生成され入力された2相の制御量Vd,Vqと、回転角度センサ36で得たモータ6の回転子角度θとから、3相のPWMデューティVu,Vv,Vwに変換する。電力変換部45は、PWMデューティVu,Vv,Vwに従ってインバータ31をPWM制御し、モータ6を駆動する。
【0041】
図5は、この電気自動車の制御装置のモータパラメータマップMaを概略示す図である。同図に示すように、モータの回転数NおよびトルクTに応じて、モータパラメータマップMaからモータのパラメータを取得し、モータを駆動する。但し、
図5において、
Rot_0,Rot_1,…,Rot_m:各々の回転数
Trq_0,Trq_1,…,Trq_n:各々のトルク
である(
図6についても同じ)。
図6は、この電気自動車の制御装置の制御パラメータマップMbを概略示す図である。同図に示すように、モータの回転数NおよびトルクTに応じて、制御パラメータマップMbから制御パラメータを取得し、モータを駆動する。
【0042】
図7は、この電気自動車におけるモータのN-T線図である。
同図は、モータのN-Tの第1象限と第4象限とを表す線図である。前記第1象限は、力行制御の実施領域であり、正トルクが発生する。前記第4象限は、回生制御の実施領域であり、負トルクが発生する。
【0043】
作用効果について説明する。
モータコントロール部29は、モータ力行および回生制御時、ECU21から与えられるトルク指令等による加速・減速指令に基づき、パワー回路部28を制御し、モータ6の出力をトルク制御により実施する。力行制御手段33aまたは回生制御手段33bにおけるオープンループ制御部37は、ECU21からのトルク指令に対して、パラメータマップMaに記憶されたパラメータを用い、電圧方程式によりオープンループ制御で制御量を生成する。電流フィードバック制御部38は、ECU21からのトルク指令に対してインバータ内部にて生成された指令電流値の偏差を無くす制御を行う。
【0044】
ハイブリッド制御部39は、オープンループ制御部37で生成された制御量と、電流フィードバック制御部38で生成された制御量とから生成された新しい制御量によりモータ6を制御する。例えば、電流変化などの外乱の影響により、モータ6のd,q各軸インダクタンス、モータ誘起電圧定数実効値Keが変化してしまう可能性があるため、オープンループ制御方法の場合は、予め決定したマップからのパラメータを使用すると、トルク制御の精度が落ちる可能性がある。その制御精度が落ちた部分を電流フィードバック制御部38がフィードバック制御で補うこととする。このようにモータ6のトルク制御の精度向上を図ることができる。
【0045】
制御パラメータ調整部34は、例えば、時々刻々と変化するモータ回転数およびトルクに応じて、制御パラメータを適宜に調整する。ハイブリッド制御部39は、前記調整された制御パラメータにより、オープンループ制御と電流フィードバック制御の比率を適正に制御し得る。
ハイブリッド制御部39は、力行制御時または回生制御時に、オープンループ制御部37で生成された制御量と、電流フィードバック制御部38で生成された制御量とから生成された新しい制御量によりモータ6を制御し得る。モータ6の力行制御時、回生制御時のいずれにおいても、ハイブリッド制御部39は、オーバーシュートなどの問題を発生することなくトルク制御の精度の向上を図れる。
【0046】
他の実施形態として、マップは、例えば、ECUに設けられた記録手段に記録されても良い。
前記実施形態では、後輪がインホイールモータ装置で駆動される電気自動車に適用した場合につき説明したが、この発明は、車輪2を個別のモータで駆動する形式として、インホイールモータ形式に限らず、オンボード形式等の車輪外のモータで駆動される電気自動車にも適用することができる。さらに、4輪とも個別のモータで駆動される電気自動車や、1台のモータで複数の車輪を走行駆動する電気自動車にも適用することができる。