(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、有色樹脂装飾層と薄膜金属層とが接しているので、装飾が平面的になる。そのため、数多くの工程を必要とする割には、必ずしも意匠性の高い装飾を実現できていないという課題がある。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、意匠性の高い立体的な装飾が施された物品の表面構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明に係る物品の表面構造は、当該物品表面の曲面に沿う第1色のベース層と、上記ベース層上に積層された透明の中間層と、上記中間層上に積層された第2色の表面層と、を備える。そして、上記表面層には、上記中間層を露出させる開口が設けられている。
【0008】
上記構成によれば、開口の下に位置するベース層が中間層を通じて視認される。ここで、ベース層と表面層との間に中間層を介在させることにより、ベース層と表面層との間に奥行き方向の距離を生じる。また、ベース層の表面には、表面層の影が投影される。その結果、ユーザは、第1色及び第2色で構成された装飾に、立体感(奥行き感)を感じることができる。
【0009】
(2) 好ましくは、上記第2色は、上記第1色より光の反射率の低い色である。
【0010】
これにより、装飾の立体感がさらに強調される。
【0011】
(3) 好ましくは、上記中間層の厚みは、10μm〜50μmである。
【0012】
中間層を薄くし過ぎると、ユーザが装飾の立体感を感じ難くなる。一方、中間層を厚くし過ぎると、中間層を透過する光量が減少し、ユーザが第1色を認識し難くなる。すなわち、中間層の厚みは、上記の範囲内において、中間層の光透過率或いは第1色の色によって適宜選択されるのが望ましい。
【0013】
(4) 本発明に係る物品の表面加工方法は、第1色のベース層を物品表面の曲面に沿って形成する工程と、透明の中間層を上記ベース層上に積層する工程と、第2色の表面層を上記中間層上に積層する工程と、上記中間層を露出させる開口を上記表面層に形成する工程とを含む。
【0014】
(5) 好ましくは、上記表面層にレーザ光を照射することによって、上記開口を形成する。
【0015】
上記構成によれば、開口の位置精度が向上すると共に、開口のエッジをシャープにすることができる。その結果、物品の表面が複雑な曲面であっても、高精細な装飾を施すことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、開口を有する表面層とベース層との間に透明な中間層を介在させることにより、意匠性の高い立体的な装飾が施された物品の表面構造を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態が、適宜図面が参照されながら説明される。なお、本実施の形態は、本発明に係る釣竿の一態様にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で実施態様が変更されてもよいことは言うまでもない。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る釣竿10の模式図である。
図1は、魚がヒットした状態の釣竿10を示している。釣竿10は、
図1に示されるように、複数の節12、13、14と、複数のガイド部材15とを備える。釣竿10は、例えば、炭素繊維強化プラスチックやガラス繊維強化プラスチック等で形成されている。釣竿10は、例えば船釣りに使用される振出式のものである。但し、釣竿10は、船釣り以外に使用されるものであってもよいし、振出式でなく継ぎ式であってもよい。
【0021】
節12〜14は、釣竿10を構成する細長棒状の部材である。節12〜14は、釣竿10の先端側から順に第1番節12、第2番節(図示せず)と呼ばれ、最も後端の節は、特に元節14と呼ばれる。元節14に連続する前節は、特に元上節13と呼ばれる。各節12〜14は筒状に形成されている。各節12〜14は、例えば、カーボン繊維を含侵させた樹脂シート(所謂、カーボンプリプレグ)を螺旋状に巻回して焼成する公知の方法によって製造することができる。
【0022】
ガイド部材15は、各節12〜14に設けられている。各ガイド部材15は、釣用リール11から繰り出される釣糸19が挿通される挿通孔(不図示)を有する。各ガイド部材15は、釣糸19を釣竿10の外周面に沿って長手方向に案内するためのものである。すなわち、
図1に示された釣竿10は、所謂アウターガイドタイプの釣竿である。なお、釣竿10は、筒状に形成された各節の内部に釣糸19を通す所謂インナーガイドタイプの釣竿であってもよい。
【0023】
釣竿10の先端部(すなわち、節12の先端部)は、穂先部41と呼ばれる。穂先部41は、釣竿10のユーザが魚のアタリを釣竿10の湾曲の変化で捉える際に、当該ユーザによって視認される部分である。穂先部41は、例えば、金属色で塗装されている。具体的には、穂先部41は、塗装された部材の表面を金属の質感に再現することができる所謂メタリックカラーの塗料で塗装されている。
【0024】
釣竿10の基端部(すなわち、元節14の基端部)は、バット部44と呼ばれる。バット部44は、元節14の一部である。バット部44は、元節14の基端近傍に設けられたリアグリップ45と、リアグリップ45よりも先端側に設けられたフロントグリップ46と、リアグリップ45及びフロントグリップ46の間に設けられたリールシート47とを備える。リアグリップ45及びフロントグリップ46は、ゴムなどの高摩擦係数の部材で形成されている。釣竿10が使用される際、リアグリップ45及びフロントグリップ46の少なくとも一方が、釣竿10のユーザによって把持される。
【0025】
リールシート47は、釣用リール11を釣竿10に保持するためのものである。リールシート47は、元節14を覆い且つ元節14の長手方向に沿って摺動可能な可動フード49と、可動フード49よりも釣竿10の基端側に設けられた固定フード48と、可動フード49の摺動をロックするロック部(不図示)とを備える。可動フード49は、釣用リール11に設けられた脚の一方側を保持する。固定フード48は、釣用リール11に設けられた脚の他方側を保持する。可動フード49及び固定フード48の双方が釣用リール11の脚を保持した状態において、ロック部によって可動フード49が摺動不可能な状態とされることにより、固定フード48と可動フード49とが協働して釣用リール11をリールシート47に位置決め固定する。
【0026】
上記構成の釣竿10において、節14の表面(
図1の例では、ガイド部材15の近傍)には、「SHIMANO(登録商標)」の文字が表されている。
図2は、当該文字が施された部分の断面図である。当該部分には、
図2に示されるように、炭素繊維強化プラスチック21、巻糸層22、ベース層23、中間層24、及び表面層25が積層されている。炭素繊維強化プラスチック21は、釣竿10(元節14)を構成する筒形状である。巻糸層22は、炭素繊維強化プラスチック21の表面に糸(或いは、組紐)を筒状に巻回したものである。すなわち、巻糸層22の表面は、曲面である。なお、
図2では、説明のためにベース層23、中間層24、及び表面層25の厚みを模式的に厚く図示しているが、実際には巻糸層22の厚みより十分に薄い。
【0027】
ベース層23は、巻糸層22に塗布された第1色の塗料である。第1色は、不透明色である。第1色の具体例は特に限定されないが、例えば、シルバーメタリック等のメタリックカラーである。また、第1色は、後述する第2色より光の反射率が高いことが望ましい。さらに、第1色は単一色に限定されず、複数の色が混在していてもよい。ベース層23の厚みは、例えば、5μm〜10μm程度である。なお、ベース層23は塗料の層に限定されない。例えば、巻糸層22の表面を覆うアルミ箔等の第1色のシートをベース層23としてもよい。
【0028】
中間層24は、ベース層23上に積層される透明、より好ましくは無色透明の層である。中間層24を構成する材料は特に限定されないが、例えば、紫外線硬化樹脂等を採用することができる。中間層24の厚みは、例えば、10μm〜50μm程度であり、より好ましくは、30μm〜50μm程度である。
【0029】
表面層25は、中間層24上に積層される第2色の塗料である。第2色は、不透明色である。第2色は、第1色と異なる色であって、例えば、黒、赤、青、白等の任意の色を採用することができる。また、第2色は単一色に限定されず、複数の色が混在していてもよい。さらに、第2色は、第1色より光の反射率が低いことが望ましい。表面層25の厚みは、例えば、5μm〜10μm程度である。なお、表面層25は塗料の層に限定されない。例えば、中間層24の表面を覆う第2色に着色されたシートを表面層25としてもよい。
【0030】
また、表面層25には、1以上の開口26が形成されている。開口26は、表面層25を厚み方向に貫通している。すなわち、中間層24は、開口26を通じて露出されている。すなわち、ベース層23及び中間層24が本発明に係る物品の表面構造の概ね全域に形成されているのに対して、表面層25は、当該表面構造の一部に選択的に形成されている。なお、本実施形態における開口26は、
図2の「SHIMANO」の文字に沿って設けられるが、本発明はこれに限定されない。すなわち、文字部分に沿って表面層25が形成されており、文字の周りが開口26であってもよい。
【0032】
次に、
図3及び
図4を参照して、本実施形態の表面加工方法を説明する。
図3は、表面加工方法の手順を示すフローチャートである。
図4は、
図3の各工程に対応する断面の状態を示す図である。なお、
図4では、炭素繊維強化プラスチック21及び巻糸層22の図示を省略している。
【0033】
まず、
図4(A)に示されるように、巻糸層22の表面に沿ってベース層23を積層する(S11)。ベース層23は、例えば、巻糸層22の表面に第1色の塗料を吹き付けて形成してもよいし、巻糸層22の表面にしごき塗装を施して形成してもよい。また、複数の色で第1色を構成する場合には、所定の順序で各色の塗装を行えばよい。なお、曲面である巻糸層22の表面に概ね均一な厚みでベース層23が形成されるので、ベース層23の表面は曲面となる。
【0034】
次に、
図4(B)に示されるように、ベース層23上に中間層24を積層する(S12)。中間層24は、例えば、ベース層23の表面に付着させた液体状の紫外線硬化樹脂に対して、紫外線(波長が100〜400nmの光線)を照射することによって形成することができる。なお、所定の厚みの中間層24を得るために、上記の手順を複数回繰り返してもよい。また、曲面であるベース層23の表面に概ね均一な厚みで中間層24が形成されるので、中間層24の表面は曲面となる。
【0035】
次に、
図4(C)に示されるように、中間層24上に表面層25を積層する(S13)。表面層25は、例えば、中間層24の表面に第2色の塗料を吹き付けて形成してもよいし、中間層24の表面にしごき塗装を施して形成してもよい。また、複数の色で第2色を構成する場合には、所定の順序で各色の塗装を行えばよい。なお、この工程が終了した後の表面層25は、中間層24の概ね全域を覆っている。また、曲面である中間層24の表面に概ね均一な厚みで表面層25が形成されるので、表面層25の表面は曲面となる。
【0036】
次に、
図4(D)に示されるように、表面層25に開口26を形成する(S14)。これにより、
図2に示される表面構造が形成される。開口26は、例えば、表面層25にレーザ光を照射することによって形成することができる。本実施形態では、表面層25の表面に対して垂直にレーザ光を照射するが、本発明はこれに限定されない。また、レーザ光の種類は特に限定されないが、例えば、YAGレーザ、CO
2レーザ等を採用することができる。さらに、レーザ光の波長、エネルギー密度、及び照射時間等は、表面層25を構成する材料、表面層25の厚み等によって適宜選択すればよい。
【0038】
本実施形態の表面構造を
図2の破線の矢印で示される向きに見たユーザは、開口26の下に位置するベース層23を中間層24を通じて視認する。これにより、ユーザは、第1色及び第2色で構成された装飾を認識することができる。ここで、ベース層23と表面層25との間に中間層24を介在させることにより、ベース層23と表面層25との間に奥行き方向(
図2の上下方向)の距離を生じる。また、ベース層23表面には、
図2に示されるように、表面層25の影27が投影される。その結果、ユーザは、第1色及び第2色で構成された装飾に立体感(奥行き感)を感じることができる。なお、装飾の立体感を強調するためには、第2色を第1色より光の反射率の低い色にするのが望ましい。
【0039】
なお、ユーザが感じる立体感は、中間層24及び表面層25の厚みの影響を受ける。例えば、中間層24を薄くし過ぎると、ユーザが装飾の立体感を感じ難くなる。一方、中間層24を厚くし過ぎると、中間層24を透過する光量が減少し、ユーザがベース層23の第1色を認識し難くなる。さらに、表面層25を厚くし過ぎると、開口26を形成するためのレーザ光の出力を高くする(或いは、レーザ光の照射時間を長くする)必要が生じ、当該レーザ光がベース層23及び中間層24に影響を与えるおそれがある。そこで、中間層24及び表面層25の厚みは、上述の範囲に設定されるのが望ましい。
【0040】
さらに、本実施形態によれば、表面層25にレーザ光を照射することによって開口26を形成するので、開口26の位置精度が向上すると共に、開口26のエッジをシャープにすることができる。その結果、物品の表面が複雑な曲面であっても、高精細な装飾を施すことができる。
【0042】
本実施形態では、巻糸層22上にベース層23を積層した例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1色に着色された糸を炭素繊維強化プラスチック21に巻回することによって形成された巻糸層22そのものをベース層23としてもよい。或いは、炭素繊維強化プラスチック21の表面を第1色で着色してもよいし、炭素繊維強化プラスチック21そのものをベース層23としてもよい。この場合、炭素繊維強化プラスチック21の色が第1色となり、巻糸層22は省略される。
【0043】
また、本実施形態の表面層25は、本発明に係る物品の表面構造を構成する3つの層のうちの最も外側を構成する層であって、釣竿10の最表面である必要は必ずしもない。すなわち、本発明は、表面層25上にさらに他の層が積層されることを妨げない。例えば、表面層25上に無色透明の保護層(不図示)が積層されてもよい。
【0044】
また、本実施形態では、釣竿10の表面に文字を表す例を示したが、本発明に係る物品の表面構造によって表現されるのは文字に限定されない。すなわち、本発明に係る物品の表面構造は、文字(数字を含む)、記号、図柄、模様等、複数の色によって構成されるあらゆる装飾を表現することができる。
【0045】
さらに、本実施形態では、釣竿10の表面に装飾を施す例を説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明は、例えば、釣用リール11、ヘラ竿のグリップ等の釣具の表面に適用することができる。また、本発明は、自転車のフレーム、ゴルフクラブのシャフト或いはヘッド等のあらゆる物品の表面に適用することができる。