【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の特許文献1に記載された技術は、製造時に温度変化に対応した複数の補正データを記憶しておき、この補正データを用いて温度変化による影響を軽減することができるものの、多数多様の温度変化による補正データを予め用意しておくことは困難であると共にシェーディングの原因は温度変換に限られものではなく充分なシェーディング補正を行うことが困難であるという課題があった。
【0006】
この課題を具体的に説明すると、スキャナ装置の主な回路構成は、照射部と、前記照射部から照射して対象物から反射した光を受光するロッドレンズ・レンズアレイ・セルフォクスレンズと、CMOS型イメージセンサとを組み合わせた光学系と、暗(光が当たっていない状態)での暗レベル波形をオフセット補正するためのオフセット補正回路と、1画素毎にレベルをクランプ又は1ライン単位で空き画素のレベルを用いてクランプする有効レベルを保持するサンプルホールド回路と、前記サンプルホールド回路でホールドした信号を増幅するプログラマブルアンプ回路と、アナログ信号をディジタル変換するA/D変換回路とを備え、前記オフセット補正回路が、イメージセンサが読み取った原稿読取レベル波形から前記暗レベル波形を減算してオフセット補正し、前記オフセット補正した原稿読取レベル波形を前記白レベル波形により除算して読み取り波形の正規化を行うように構成されている。
【0007】
前記暗レベル補正は、イメージセンサ出力は、暗(光が当たっていない状態)でも「0」とならないと共に、イメージセンサ毎に暗状態での出力レベルにバラツキがあるためオフセットを持たせて「0」以下にならないように調整するためであり、前記白レベル補正は、イメージセンサ出力が均一な白を見せても出力は一定とならない(大きいものでは±30%程度が仕様)ため、基準となる白を記憶して補正するためである。
【0008】
この白レベル補正は、前記白不均一性が、実際には、ほぼ連続性があるが、1画素毎にランダムであっても特定の形状でも規定内なら仕様を満たすことができるものの、「隣接する画素の連続性」をあてにすることはできない特性があり、この白不均一性には次に挙げる複数の要因が考えられる。
【0009】
この白不均一性の要因としては、(1)センサ画素の製造プロセス時に不純物が形成され、特異的に感度が異なるセンサ画素内の不純物による原因と、(2)密着センサ用のCMOSイメージセンサは一般的に複数のセンサチップ(素子)を連結して構成するため、センサチップによっては内部の回路構成に起因して特定の部位で特異的な感度を示す場合があり、この特異的な感度がチップ単位で繰り返しの特徴パターンを繰り返すセンサチップ内の感度不均一による原因と、(3)長尺状光源の場合、長手方向に均一の照明をすることは困難であり、照明むらが生じることや、縮小光学系の場合、中央と周辺部で光学系に起因する明度むらが生じることに起因する光源・光学系の不均一による原因と、(4)密着センサの場合、ロッドレンズを並べたレンズ[セルフォック(登録商標)レンズ]を用いるため、その周期で正弦波状の不均一性(
図2の生産時白レベル波形bの如く鋸状)が現れ、例えば、スキャナや複合機で用いられる日本板硝子株式会社製のSLAシリーズの場合、レンズのピッチは約0.3mm、600dpi(0.04233mm/画素)のイメージセンサの場合、およそ7画素周期の正弦波となり、レンズにより異なるが数%〜十数%となるレンズアレイによる不均一性による原因とがあり、更に、基準となる白レベル不均一性も一定ではなく変動するため、前記した特許文献1記載の温度変化に対応した解決手段のみでは、充分なシェーディング補正を行うことが困難であるという課題があった。
【0010】
前記白レベル不均一性の変動は、(1)長期的な光源の光量低下及びシェーディング変化による光源自体の経時的要因と、(2)光源が蛍光管の場合、短期間にシェーディング変化を含む大きな変動が生じ、密着センサで一般的に用いられているLEDの場合は短期間(1回の連続読み取りバッチ程度)の変化は無視できるが、1日の中では無視できない変化となる光源・センサの温度特性的要因と、(3)複数のセンサチップ(素子)を連結して構成したレンズアレイの温度変化に起因する微小伸縮による正弦波パターンの位相変動による温度的要因が考えられ、特に前記(3)のレンズアレイの温度要因は、スキャナや複合機で用いられる日本板硝子株式会社製のSLAシリーズの場合、レンズのピッチが約0.3mm、長手方向の長さがA3スキャナの場合は約300mmであり、例えば、75um(伸縮率0.025%)の微小変動で1/4の位相ずれが発生し、この位相ずれはレンズの固定方法及び温度により微小変動の仕方は予測が困難である。
【0011】
また、従来技術による暗レベル及び白レベルの不均一性を補正して正規化するシェーディング補正として、原稿を読み取る直前などに照明をオフにした状態でイメージセンサのデータを読み取って暗レベル波形(
図2の暗レベル波形a)を記憶し、基準となる白を読み取って白レベル波形(
図2の動作時白レベル波形c)を記憶し、「(入力−暗レベル)÷白レベル」の演算を行い、この演算結果を補正値として紙等の文字記号を読み取る原稿読取レベル波形(
図2の原稿読取レベル波形d)を得る技術が知られているが、装置内の白基準は紙原稿のクズ他により汚れ、白部材に黒い汚れが生じた際には読み取り画像が明るくなる(出力画像に白い縦筋が現れ、
図4の原稿読取レベル波形dにノイズによるエラー99が生じる)ことや、白部材に明るい汚れが生じた場合は読み取り画像が暗くなる(出力画像に黒い縦筋が現れる)ことがあり、これらを回避するためにセンサ又は白部材を移動しながら複数の白を取得する複数白基準を設ける方法や、隣接画素を参考にして汚れ画素を検出し補間する隣接補間方法や、生産時に汚れのない白レベルを記憶して保管する生産時白基準補間方法が考えられるが、複数白基準を設ける方法は移動機構が必要となり、隣接補間方法は前記の白レベル不均一性のため精度が保証されず、生産時白基準補間方法は白レベル不均一性の変動が吸収できずに画像に現れることや、特にレンズアレイの位相ずれが吸収できずに縦筋状の周期パターンが現れ、周期パターンであるために非常に目立ちやすくなる課題を招くものであった。
【0012】
このようにシェーディングの要因は多種多様であり且つ白レベル不均一性も変動し、従来技術においてはこれら多種多様のシェーディングに対応することが困難であるという課題があった。
【0013】
本発明の目的は、前述の従来技術による課題しようとするものであり、各種要因により生じるシェーディング補正を行うことができるシェーディング補正方法及びその方法を適用したスキャナ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するために本発明は、原稿に記載された画像をイメージセンサにより光学的に走査するスキャナ装置であって、
装置内の白基準及び紙原稿等の画像を読み込むためのイメージセンサと、
装置製造時にイメージセンサを用いて読み込んだ製造時白レベル波形を記憶する製造時白レベル波形メモリと、
前記イメージセンサにより読み込んだディジタル画像信号をディジタル画像信号に変換するアナログ回路及びA/D変換器と、
照明を消した状態でのイメージセンサにより読み込んだ暗レベル波形を記憶する暗レベル波形メモリと、
前記暗レベル波形メモリに記憶した暗レベル波形を用いてアナログ回路及びA/D変換器から出力される画像信号波形から暗レベル波形を減算して暗レベル補正を行う
暗補正画像信号波形を出力する暗レベル補正回路と、
前記暗レベル補正回路から出力された暗補正を行った画像信号波形から前記製造時白レベル波形メモリに記憶した製造時白レベル波形を除算した白レベル補正を行う第1除算回路と、
前記
第1除算回路から出力された画像信号波形の低周波成分のみを出力することにより光源やセンサ感度の経時変化及び温度特性による大局的な変化成分の画像信号波形を出力するローパスフィルタ回路と、
前記
第1除算回路から出力された白レベル補正後像信号波形を入力としてローパスフィルタ回路から出力された画像信号波形の位相及び振幅を同期させて低周波の成分や汚れの成分から分離したレンズ周期パターンの位相ずれによる周期パターンを出力させる位相・振幅同期回路と、
前記位相・振幅同期回路から出力される位相ずれ周期パターンとローパスフィルタ回路から出力された大局的変化成分画像信号波形とを乗算させて出力する第1乗算回路と、
前記第1乗算回路により乗算させた位相ずれ周期パターンと大局的変化成分画像信号波形とを含む乗算画像信号波形から前記製造時白レベル波形メモリに記憶した製造時白基準レベル波形を乗算した補正白レベル波形を出力する第2乗算回路と、
前記第2乗算回路から出力された補正白レベル波形を記憶する補正白レベル波形メモリと、
前記暗レベル補正回路から出力された暗補正画像信号波形から前記
製造時白レベル波形メモリから出力された補正白レベル波形を除算して出力する
第2除算回路とを備えたことを第1の特徴とする。
【0015】
また、本発明は、請求項1記載のスキャナ装置において、前記位相・振幅同期回路が、周期パターンの位相ずれによる信号波形の周期パターンのみを抽出するため、波形から交流成分を抽出する交流成分抽出機能と、前
記交流成分抽出機能により抽出した交流成分波形の振幅の緩やかな変動をピークホールド及びローパスフィルタにより抽出する緩振幅変動抽出機能と、位相を合わせた正弦波を位相同期回路により合成する正弦波合成機能とを有することを第2の特徴とする。
【0016】
本発明の請求項3記載の発明は、装置内の白基準及び紙原稿等の画像を読み込むためのイメージセンサと、装置製造時にイメージセンサを用いて読み込んだ製造時白レベル波形を記憶する製造時白レベル波形メモリと、前記イメージセンサにより読み込んだディジタル画像信号をディジタル画像信号に変換するアナログ回路及びA/D変換器と、照明を消した状態でのイメージセンサにより読み込んだ暗レベル波形を記憶する暗レベル波形メモリと、前記暗レベル波形メモリに記憶した暗レベル波形を用いてアナログ回路及びA/D変換器から出力される画像信号波形から暗レベル波形を減算して暗レベル補正を行う
暗補正画像信号波形を出力する暗レベル補正回路とを備え、原稿に記載された画像をイメージセンサにより光学的に走査するスキャナ装置のスキャナ方法であって、
前記暗レベル補正回路から出力された暗補正を行った画像信号波形から前記製造時白レベル波形メモリに記憶した製造時白レベル波形を除算した白レベル補正を行う第1除算工程と、
前記
第1除算工程により出力された画像信号波形の低周波成分のみを出力することにより光源やセンサ感度の経時変化及び温度特性による大局的な変化成分の画像信号波形を出力するローパスフィルタ工程と、
前記
第1除算工程により出力された白レベル補正後像信号波形を入力としてローパスフィルタ工程により出力された画像信号波形の位相及び振幅を同期させて低周波の成分や汚れの成分から分離したレンズ周期パターンの位相ずれによる周期パターンを出力させる位相・振幅同期工程と、
前記位相・振幅同期工程により出力される位相ずれ周期パターンとローパスフィルタ工程により出力された大局的変化成分画像信号波形とを乗算させて出力する第1乗算工程と、
前記第1乗算工程により乗算させた位相ずれ周期パターンと大局的変化成分画像信号波形とを含む乗算画像信号波形から前記製造時白レベル波形メモリに記憶した製造時白基準レベル波形を乗算した補正白レベル波形を出力する
第2乗算工程と、
前記
第2乗算工程により出力された補正白レベル波形を記憶する補正白レベル波形メモリ工程と、
前記暗レベル補正
回路から出力された暗補正画像信号波形から前記
補正白レベル波形メモリ工程により出力された補正白レベル波形を除算して出力する
第2除算工程とによってシェーディング補正を行うことを第3の特徴とする。
【0017】
また、本発明は、請求項3記載のシェーディング補正方法において、前記位相・振幅同期工程が、周期パターンの位相ずれによる信号波形の周期パターンのみを抽出するため、波形から交流成分
波形を抽出する交流成分抽出工程と、前記交流成分抽出工程により抽出した交流成分波形の振幅の緩やかな変動をピークホールド及びローパスフィルタにより抽出する緩振幅変動抽出工程と、位相を合わせた正弦波を位相同
期回路により合成する正弦波合成工程とを含むことを第4の特徴とする。