(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような、活性炭成形体とフィルタとを一体化させるための工程は煩雑である上に、活性炭成形体とフィルタが別々の部材であることにより、複雑な構造となっていた。そこで、水道水中の臭気物質や有機化合物を除去する活性炭成形体が、粒子を除去するフィルタとしての役割を果たすことが期待される。
【0006】
しかしながら、特許文献1においては、活性炭成形体による粒子の除去性能への言及はない。特許文献2においても、強アルカリ性の液で使用する際における活性炭成形体の耐薬品性の向上と、そのような使用における活性炭成形体の強度維持を目的とすることについては開示されているが、粒子の除去性能への言及はない。
【0007】
また、特許文献3は、活性炭成形体による粒子の除去性能を付与する技術を開示するものである。特許文献3には、活性炭成形体に採用する活性炭の粒子径及び粒度分布を規定することで、活性炭成形体に濁り除去性能を付与できることが記載されている。しかしながら、特許文献3に記載された活性炭成形体の粒子除去性能は、家庭用の浄水器に使用する上で十分に満足できるものではない。
【0008】
更に、特許文献4には、中芯としての繊維層とその外周表面に成形した円筒状多層吸着材が開示されており、円筒状多層吸着材全体で、懸濁物質、着色成分、臭気成分、残留塩素を効率よく除去することが記載されている。特許文献4には、円筒状多層吸着材が、糸巻き層、円筒状吸着材層、繊維層で構成され、円筒状吸着材層は着色成分、臭気成分及び残留塩素を除去し、繊維層が懸濁成分(粒子状物質)を除去することが記載されている。しかしながら、繊維層は円筒状多層吸着材の最も内側にあるため、その濾過表面積は小さく、すぐ目詰まりしてしまうことが問題であった。つまり、特許文献4に記載された活性炭成形体の粒子除去性能も、家庭用の浄水器に使用する上で十分に満足できるものではなかった。
【0009】
このように、残留塩素等の臭気物質や有機化合物の除去性能に加えて、高い粒子状物質除去性能を有する活性炭成形体については得られていないのが現状である。すなわち、従来の活性炭成形体は、活性炭の吸着作用を利用した残留塩素等の臭気物質や有機化合物の除去する機能を有するが、満足できる粒子除去性能を有さない。従って、従来の活性炭成形体を浄水カートリッジに用いる際には、粒子状物質を除去することが可能なフィルタを別途用意せざるを得なかった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、残留塩素等の臭気物質や有機化合物の除去性能に加えて、高い粒子状物質除去性能を有する活性炭成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、中芯を使用した吸引法によって製造される活性炭成形体において、中芯の細孔径のモード径を特定の範囲とすることで、活性炭成形体に高い粒子除去性能を付与することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、複数の細孔を有する筒状の中芯と、粒子状活性炭とフィブリル繊維と水とを含むスラリー中に、両端を塞いだ状態で前記中芯を浸漬し、前記中芯の内側から前記スラリーを吸引することで、前記中芯の外周面に形成された活性炭層と、を含み、前記中芯の複数の細孔のモード径は、10〜80μmである活性炭成形体に関する。
【0013】
前記中芯の外周面の表面粗さRaは、5〜50μmであり、前記中芯の圧環強さは、5N/mm
2以上であることが好ましい。
【0014】
前記中芯の軟化温度は、200℃以上であることが好ましい。
【0015】
前記中芯は、JIS L0222で規定された不織布からなることが好ましい。
【0016】
前記活性炭層の外表面は、切削加工されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、残留塩素等の臭気物質や有機化合物の除去性能に加えて、高い粒子状物質除去性能を有する活性炭成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る活性炭成形体1の断面斜視図である。
図1に示すように、活性炭成形体1は円筒状である。活性炭成形体1は、中芯2と、活性炭層3と、を含む。
中芯2は、活性炭成形体1の内側に位置する。
活性炭層3は、円筒形状であって、活性炭成形体1の外側に位置する。
【0020】
本実施形態に係る活性炭成形体は、複数の細孔を有する筒状の中芯と、粒子状活性炭とフィブリル繊維と水とを含むスラリー(以下、活性炭スラリーと言う場合がある)中に、両端を塞いだ状態で前記中芯を浸漬し、前記中芯の内側から前記スラリーを吸引することで、前記中芯の外周面に形成された活性炭層と、を含み、前記中芯の複数の細孔のモード径は、10〜80μmである。
本実施形態に係る活性炭成形体の製造方法については、後段で詳述する。
【0021】
本実施形態における中芯の外周面に形成された複数の細孔のモード径は、10〜80μmである。中芯の外周面に形成された複数の細孔のモード径が80μmを超えると、中芯の内側から活性炭スラリーを吸引した際に、中芯を水とともに透過する微粉活性炭量が多くなり、浄水器に組み込んだ際に十分な粒子状物質除去性能が得られない。また、中芯の外周面に形成された複数の細孔のモード径が10μmより小さいと、中芯の内側からで活性炭スラリーを吸引した際に、中芯を水とともに透過する微粉活性炭量が少なくなり、浄水器に組み込んだ際に十分なろ過流量が得られず、且つ、目詰まりも早くなる。中芯の外周面に形成された複数の細孔のモード径は、20〜70μmがより好ましく、30〜60μmが更に好ましい。
【0022】
また、活性炭成形体は、吐水と止水の繰り返しにともなう圧力変化によって、圧縮と膨張を繰り返す。活性炭成形体は、圧縮と膨張を繰り返すことによって変形すると、微視的な内部構造が崩壊して、粒子状物質を除去する性能が低下する。活性炭成形体は、微視的な内部構造が崩壊すると、使用開始時から活性炭成形体が捕捉してきた粒子状物質を、かえって放出し始めてしまう。
本実施形態に係る活性炭成形体は、活性炭スラリーに両端を塞いだ状態で中芯を浸漬し、中芯の内側から活性炭スラリーを吸引することで活性炭層を形成し、活性炭層の形成後に中芯を引き抜くことなく一体の成形体としている。そのため、活性炭層と中芯の間に隙間が全くないため、活性炭成形体は、圧縮と膨張を繰り返すことによる変形が抑制され、微視的な崩壊が防止される。また、使用開始時から活性炭成形体が捕捉してきた粒子状物質が再放出されるおそれもなくなる。
【0023】
本実施形態に係る活性炭成形体の性能は、具体的には、現実の家庭での浄水器の使われ方を想定して、「20秒の吐水及び10秒の止水」というサイクルを繰り返して、濁り除去性能を測定することで評価できる。なお、中芯と、活性炭層と、を含む活性炭成形体において、吐水と止水を500回繰り返した際の濁度除去率を測定し、濁度除去率80%以上であれば、複数の細孔のモード径が10〜80μmである中芯を活性炭スラリー中に両端を塞いだ状態で浸漬し、その中芯の内側から活性炭スラリーを吸引することで活性炭層が形成されたものと認められる。
濁度除去率とは、粒子状物質除去性能の指標である。濁度除去率は、浄水カートリッジを通過した水のJIS S3201(2004)で規定される濁度が、試験原水の濁度である2度から、減少した割合を100分率で表した数値である。例えば、浄水カートリッジを通過した水の濁度が0度である場合の濁度除去率は100%である。
【0024】
ところで、上述したように特許文献3には、活性炭成形体に採用する活性炭の粒子径及び粒度分布を規定することで、活性炭成形体に粒子状物質除去性能を付与できることが記載されている。特許文献3に記載されている粒子状物質除去性能(濁り除去性能)は、JIS S3201(2004)に規定された濁り除去性能試験方法に準拠して評価されている。この濁り除去性能試験方法は、粘土鉱物の一種であるカオリンを粒子状物質である濁り成分として一定の濁度となるように添加して原水とし、この原水を検体フィルタでろ過して濁り成分(カオリン)の除去率を測定するものである。
【0025】
このJIS S3201には、検体フィルタに5時間以上連続的に濁り成分を含んだ水を供給することが規定されている。つまり、JIS S3201に規定された濁り除去性能試験は、検体フィルタのろ過流量が半減するまでのろ過寿命の測定も兼ねている。しかし、現実に家庭で浄水器を使用する際には5時間以上連続で水を流し続けることはほとんどなく。JIS S3201に規定された濁り除去性能試験は、便宜的に浄水器の寿命を比較評価するための加速試験にすぎない。
【0026】
そこで、特許文献3に記載の浄水フィルタを作製し、本実施形態に係る活性炭成形体の評価と同様に現実の家庭での浄水器の使われ方を想定して、「20秒の吐水及び10秒の止水」というサイクルを繰り返す方法により濁り除去性能及びろ過流量を測定した。
【0027】
その結果、吐水と止水を繰り返すことで、浄水フィルタの濁度除去率が徐々に低下した。このように、検体フィルタに5時間以上連続的に濁り成分を含んだ水を供給する、JIS S3201で規定された試験では観察できなかった、「次第に、濁り成分(粒子状物質)がフィルタを透過して漏出する」という現象が確認された。
粒子状物質が漏出する原因は、吐水と止水の繰り返しによる圧力変化によって、活性炭成形体が圧縮と膨張を繰り返して変形し、活性炭成形体の微視的な内部構造が崩壊してしまったためと考えられる。
【0028】
本実施形態において、中芯の外周面の表面粗さRaは、5〜50μmであり、且つ、中芯の圧環強さは、5N/mm
2以上であることが好ましい。これにより、粒子状物質の再放出をより効果的に抑制できる。
これは、活性炭成形体の製造プロセスにおいて、中芯の外周面にフィブリル繊維が一部入り込み、中芯と活性炭層の結合力が高まることに拠るものと考えられる。活性炭成形体は、中芯と活性炭層の結合力が高ければ、吐水と止水の繰り返しにともなう圧力変化が加わったとしても、圧縮と膨張が起こりにくくなる。
【0029】
中芯の外周面の表面粗さRaが5μmより小さいと、活性炭成形層の保形成分であるフィブリル繊維が中芯に十分入り込まず、中芯と活性炭層の結合力を高めるのが難しい傾向にある。また、中芯の外周面の表面粗さRaが50μmより大きいと、中芯に入り込んだフィブリル繊維が抜けやすくなり、やはり中芯と活性炭層の結合力を高めるのが難しい傾向にある。
【0030】
また、中芯の圧環強さは、5N/mm
2未満であると、吐水と止水の繰り返しにともなう圧力変化によって、活性炭成形体が圧縮と膨張を繰り返して変形し、中芯を配置しているにも関わらず粒子状物質が漏出してしまう場合がある。
【0031】
中芯としては、任意の材料を使用可能であるが、活性炭スラリーを吸引する際に変形しないこと、得られた活性炭成形体を浄水器に組み込み、ユーザーが実際に使用した際に変形しないこと、の要求を満たすことが必要になる。このような要求を満たす中芯の材料としては、多孔質セラミック、多孔質金属フィルタ、硬質不織布等が挙げられる。
【0032】
中芯の軟化温度は、200℃以上であることが好ましい。中芯の軟化温度を200℃以上とすることで、成形後の活性炭成形体の乾燥温度を高く設定でき、活性炭成形体をより短時間で製造できる。また、活性炭成形体の成形後の乾燥工程において、中芯の軟化に起因する活性炭成形体の変形を抑制することができる。中芯が200℃に加熱されても変形しなければ、中芯の軟化温度が200℃以上であると判断できる。一般的に、多孔質セラミックの軟化温度は、200℃以上であるので、多孔質セラミックからなる中芯を用いることが好ましい。
【0033】
本実施形態では、JIS L0222で規定された不織布からなる中芯を用いることも好ましい。中芯を不織布又はその加工品とすることで、活性炭成形体中のフィブリル繊維と中芯とが形成する中間層の結合力がより高まり、吐水と止水の繰り返しによる活性炭成形体の形状変化が更に抑制される。また、活性炭成形体からの粒子状物質の放出も抑制される。なお、不織布の加工品とは、厚さの薄いシート状不織布を複数積層後に熱溶融圧着させて成形したものや、厚いシート状不織布を一層丸めて円筒形状に成形したものである。
【0034】
本実施形態における活性炭スラリーの含有する粒子状活性炭としては、積算粒度分布での50%粒子径が50〜90μmのものを使用するのが好ましく、60〜80μmのものを使用するのがより好ましい。粒子径を調整するために、粒度分布の異なる2種以上の粒子状活性炭を混合させてもよい。粒子状活性炭の50%粒子径が50μmよりも小さいと、中芯の細孔径に関わらず活性炭成形体のろ過流量が低下し、目詰まりが早くなる傾向にある。また、粒子状活性炭の50%粒子径が90μmよりも大きいと、活性炭成形体が十分な粒子状物質除去性能を発揮できない傾向にある。
【0035】
粒子状活性炭としては、任意の出発原料から得られる活性炭を使用できる。具体的には、ヤシ殻、石炭、フェノール樹脂等を賦活させて活性炭としたものを使用できるが、ここに例示した以外の出発原料で製造した活性炭も使用できる。
【0036】
本実施形態における活性炭スラリーの含有するフィブリル繊維としては、粒子状活性炭を絡めて保形でき、且つ、中芯の表面と結合するものであれば、任意の繊維を使用できる。このようなフィブリル繊維としては、例えば、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、セルロース繊維が挙げられる。
【0037】
フィブリル繊維のろ水度は、200mL以下であることが好ましく、150mLであることがより好ましい。なお、ここに記載したろ水度とは、JIS P8121−2(2012)「パルプ−ろ水度試験方法−」で規定された試験方法によって測定されるろ水度である。
ろ水度とは、フィブリル繊維のろ過抵抗を示す尺度である。ろ水度の値が小さいほどフィブリル繊維のフィブリル化が進んで通水抵抗が大きくなり、ろ水度の値が大きい程フィブリル繊維のフィブリル化が進んでおらず通水抵抗は小さい。
本実施形態では、ろ水度の値が小さい場合には通水抵抗が大きくなり過ぎるが、この場合には活性炭成形体中のフィブリル繊維の配合量を減らすことで対応できる。従って、ろ水度が小さ過ぎることで発明の実施が困難になることはない。また、ろ水度の値が200mLより大きい場合には、フィブリル化度が低いために中芯と活性炭層との結合力が低くなり、複数回の吐水と止水の繰り返しによって濁り成分が漏出してしまう場合がある。
【0038】
本実施形態における活性炭スラリーの含有する粒子状活性炭とフィブリル繊維との質量比(粒状活性炭/フィブリル繊維)は、90/10〜97/3であることが好ましい。粒子状活性炭とフィブリル繊維との質量比(粒状活性炭/フィブリル繊維)が、90/10よりも小さいと、粒子状活性炭の配合量が少なすぎることから、活性炭成形体の残留塩素等の臭気物質の除去性能が低下する傾向にある。粒子状活性炭とフィブリル繊維との質量比(粒状活性炭/フィブリル繊維)が、97/3よりも大きいと、粒子状活性炭の配合量が多すぎることから、活性炭成形体の保形強度及び活性炭層と中芯との結合力が低下する傾向にある。
【0039】
活性炭スラリーには、配合物を粒子状活性炭とフィブリル繊維に加え、粒子状活性炭と同等の粒子径の材料を加えることができる。例えば、活性炭のみでは除去しきれないイオン成分を除去するために、活性炭スラリーにイオン交換性能を有する材料を配合してもよい。具体的には、ゼオライト、珪酸チタニウム、イオン交換樹脂等を活性炭スラリーに配合できる。これらイオン交換性能を有する材料を活性炭スラリーに配合することで、水中から溶解性鉛、ヒ素、硬度成分を更に除去することが可能になる。
【0040】
本実施形態では、活性炭層の外表面を、切削加工することが好ましい。つまり、成形後の活性炭成形体の外表面を、成形時の地肌がなくなるように切削加工することが好ましい。成形直後の活性炭成形体の外表面には、極薄い緻密な外表層が形成されている。この緻密な外表層が残っていると、活性炭成形体の外表面に粒子状物質が集中して堆積し、目詰まりが早くなってしまう。従って、活性炭層の極薄い緻密な外表層が無くなる様に切削加工すれば、活性炭成形体の粒子状物質の除去性能を向上させ、使用期間も延ばすことができる。切削加工の方法は、特に限定されない。切削加工の方法としては、旋盤や、ヤスリや、刃物などを用いて活性炭層の外表面を削る方法が例示される。
【0041】
本実施形態に係る活性炭成形体は、中芯を引き抜くことなく浄水カートリッジに用いることができる。
【0042】
続いて、活性炭成形体1の製造方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る活性炭成形体1の製造方法について示す図である。
まず、中芯2の中空の一端側を、ホース5を介して吸引装置6に接続する。この際、中芯2の他端側は封止しておく。吸引装置6に接続された中芯2を容器7に溜めた活性炭スラリー4中に浸漬し、真空ポンプ等の吸引手段によって吸引装置6を稼働させる。活性炭スラリー4のうち水が中芯2を透過し、活性炭及びフィブリル繊維の混合物が中芯表面に残留して徐々に堆積することで活性炭層3(
図1参照)が形成される。なお、吸引装置6に吸引された活性炭スラリー4のうち水は、排水路8を通じて排出される。
続いて、規定の厚さまで活性炭層3が形成された後に、中芯2を活性炭スラリー4から引き上げ、乾燥させることで、中芯2と活性炭層3とが一体化した活性炭成形体1(
図1参照)を得ることができる。活性炭成形体1は、混合したフィブリル繊維の保形効果によって、通常の使用において、巨視的な外観形状としては崩壊しない強度を得ることができる。
【0043】
活性炭スラリー4に中芯2を浸漬して吸引した際には、厳密には水だけでなく、配合した粒子状活性炭の中でも粒子径の小さい粒子状活性炭も、水とともに中芯2を透過して排出される。具体的には、中芯2の外周面に形成された細孔の細孔径よりも粒子径の小さい粒子状活性炭は、細孔を通過する。この、水とともに中芯を透過する微粉活性炭の量が少ない場合には、活性炭層3に含まれる微粉活性炭の量が多くなる。活性炭層3中の微粉活性炭の量が多い活性炭成形体を、浄水器フィルタとした場合には、活性炭層3中の粒子状活性炭によって形成される隙間が小さいことから、粒子状物質の除去性能は向上する。一方、活性炭層中の粒子状活性炭によって形成される隙間が小さいと、水のろ過流量は少なくなり、目詰まりが早くなる。
【0044】
また、水とともに中芯を透過する微粉活性炭量が多い場合には、活性炭成形体層に含まれる微粉活性炭量が少なくなる。すなわち、この活性炭成形体を浄水器フィルタとした際には、活性炭成形中の活性炭の粒子と粒子の間に形成される隙間が大きくなり、ろ過流量は多いものの、粒子状物質の除去性能が不十分なフィルタとなる。
【0045】
続いて、本実施形態に係る活性炭成形体を用いた浄水カートリッジの製造方法について説明する。
まず、本実施形態に係る活性炭成形体の外周面に透水性を有する不織布を巻く。更に、円筒形状の活性炭成形体の長手方向の一端側に、一端側の面を完全に閉塞できる円形状のキャップを装着させ、他端側にもう中心部分が開口した円形状のキャップを装着させることで、浄水カートリッジを製造することができる。この浄水カートリッジでは、円筒形状の活性炭成形体の外周面から内部の中空に水を通過させることによって、水を浄化することができる。
【実施例】
【0046】
本実施形態に係る活性炭成形体を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断りがない限り「部」、「%」及び「ppm」は、全て質量基準である。
【0047】
[実施例1]
活性炭成形体は、上述した
図2を用いて説明された方法により製造した。
まず、水に粒子状活性炭として、クラレケミカル株式会社製の「PGW100MD」を80質量部、クラレケミカル株式会社製の「PGW20MD」を15質量部(粒子状活性炭全体の積算粒度分布での50%粒子径:70μm)、フィブリル繊維として東洋紡株式会社製「ビィパル」(ろ水度:150mL)を固形分として5質量部となるように混合することで、活性炭スラリー4を得た。活性炭スラリー4は、容器7に投入した。この活性炭スラリー4中に、吸引ポンプ6にホース5を介して接続された、中芯2(細孔径のモード径:50μm、表面粗さRa:8μm、圧環強さ:10N/mm
2)を投入し、吸引ポンプ6を起動して活性炭スラリー4の吸引を開始し、外径φ25×長さ90mmの湿潤活性炭成形体を得た。なお、中芯は、SiO
2を主成分とした多孔質セラミックによって作製されたものである。
粒子状活性炭の積算粒度分布での50%粒子径は、株式会社日機装製「マイクロトラックNo.9320−X100」によって粒度分布を測定して求めた。
中芯2のモードは、Quantachrome社製の「Poremaster 33P」により水銀圧入法に基づいて径細孔径分布を測定して求めた。また、中芯の表面粗さRaは、株式会社ミツトヨ製の表面粗さ計「SJ−400」及び表面粗さ測定針の先端角度:60°の針を使用し、評価長さ:4mm、測針早さ0.5mm/分の条件で測定した。また、中芯の圧環強さは、株式会社米倉製作所「CATY」を用いて、JIS Z2507に規定された測定方法に基づき測定した。
なお、中芯2は、200℃に加熱しても軟化することはなかった。すなわち、中芯2の軟化温度は、200℃以上である。
【0048】
得られた湿潤活性炭成形体を120℃雰囲気に設定した乾燥機に入れて十分乾燥させ、円筒形状の活性炭成形体を得た。
この活性炭成形体は、旋盤を用いて表面を切削加工した。続いて、活性炭成形体の外周面に透水性を有する不織布を巻いた。更に、円筒形状の活性炭成形体の長手方向の一端側に、一端側の面を完全に閉塞できる円形状のキャップを装着させ、他端側にもう中心部分が開口した円形状のキャップを装着させることで、浄水カートリッジを得た。
【0049】
この浄水カートリッジをLIXIL株式会社製の浄水器内蔵水栓「JF−AB461SYX(JW)」に装着し、粒子状物質除去性能を測定した。なお、粒子状物質除去性能測定では、JIS S3201(2004)で規定されたカオリンを濁り成分(粒子状物質)とした濁度2度の水を試験原水とした。JIS S3201(2004)では、通水開始後少なくとも5時間は連続通水しなければならないが、今回は実際の家庭での浄水器使用状況を想定し、20秒の吐水及び10秒の止水のサイクルを繰り返した。吐水と止水を繰り返した回数が、500回、1000回、1500回、2000回の際の、濁度除去率及びろ過流量を測定した。濁度除去率は、上述した方法により、ろ過流量については、JIS S3201(2004)で規定される方法により測定した。試験結果を表1に示す。なお、濁度除去率が80%以上、ろ過流量が1.25L/分の浄水カートリッジであれば、一般家庭での使用にも十分耐えることができる。
【0050】
【表1】
【0051】
[実施例2]
実施例1において、硬質不織布(ポリエチレン製)からなる中芯(細孔径のモード径:40μm、表面粗さRa:42μm、圧環強さ:16N/mm
2)を用いた以外は実施例1と同様の方法により、浄水カートリッジを得た。
実施例1と同様の方法により濁り除去性能及びろ過流量を測定した結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
[実施例3]
実施例1において、硬質不織布(ポリエチレン製)からなる中芯(細孔径のモード径:30μm、表面粗さRa:1μm、圧環強さ:16N/mm
2)を用いた以外は実施例1と同様の方法により、浄水カートリッジを得た。
実施例1と同様の方法により濁り除去性能及びろ過流量を測定した結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
[実施例4]
実施例1において、硬質不織布(ポリエチレン製)からなる中芯(細孔径のモード径:70μm、表面粗さRa:60μm、圧環強さ:16N/mm
2)を用いた以外は実施例1と同様の方法により、浄水カートリッジを得た。
実施例1と同様の方法により濁り除去性能及びろ過流量を測定した結果を表4に示す。
【0056】
【表4】
【0057】
[実施例5]
実施例1において、活性炭成形体の表面を切削加工しなかった以外は実施例1と同様の方法により、浄水カートリッジを得た。
実施例1と同様の方法により濁り除去性能及びろ過流量を測定した結果を表5に示す。なお、吐水と止水の繰り返しが1500回の時点で濾過流量が下がり過ぎたことから、吐水と止水の繰り返しが2000回の時点での濁度除去率及びろ過流量については測定しなかった。
【0058】
【表5】
【0059】
[比較例1]
実施例1において、SiO
2を主成分とした多孔質セラミックからなる中芯(細孔径のモード径:5μm、表面粗さRa:12μm、圧環強さ:10N/mm
2、軟化温度:200℃以上)を用いた以外は実施例1と同様の方法により、浄水カートリッジを得た。
実施例1と同様の方法により濁り除去性能及びろ過流量を測定した結果を表6に示す。なお、吐水と止水の繰り返しが1500回の時点で濾過流量が下がり過ぎたことから、吐水と止水の繰り返しが2000回の時点での濁度除去率及びろ過流量については測定しなかった。
【0060】
【表6】
【0061】
[比較例2]
実施例1において、SiO
2を主成分とした多孔質セラミックからなる中芯(細孔径のモード径:100μm、表面粗さRa:40μm、圧環強さ:10N/mm
2、軟化温度:200℃以上)を用いた以外は実施例1と同様の方法により、浄水カートリッジを得た。
実施例1と同様の方法により濁り除去性能及びろ過流量を測定した結果を表7に示す。なお、吐水と止水の繰り返しが500回の時点で濁度除去率が下がり過ぎたことから、吐水と止水の繰り返しが1000回以降での濁度除去率及びろ過流量については測定しなかった。
【0062】
【表7】
【0063】
実施例1〜5並びに比較例1及び2の結果について表8にまとめる。
評価項目のうち、初期濁度除去性能は、吐水と止水の繰り返しが500回の時点での濁度除去率が80%以上である場合には評価を「○」とし、80%未満である場合には評価を「×」とした。繰返し濁度除去性能は、吐水と止水の繰り返しが2000回の時点での濁度除去率が80%以上である場合には評価を「○」とし、80%未満である場合には評価を「×」とした。実施例5及び比較例1は、吐水と止水の繰り返しが1500回の時点で十分に濁度除去率が高かったことから、繰返し濁度除去性能を「○」とした。比較例2は、初期濁度除去性能の評価が「×」であったことから、繰返し濁度除去性能についても「×」であると推測した。ろ過流量については、吐水と止水の繰り返しが2000回の時点でのろ過流量が1.25L/分以上である場合には評価を「○」とし、1.25L/分未満である場合には評価を「×」とした。実施例5及び比較例1は、吐水と止水の繰り返しが1500回の時点でろ過流量が下がりすぎていたことから、ろ過流量の評価を「×」とした。比較例2は、吐水と止水の繰り返しが500回の時点でのろ過流量が1.25L/分以上であり、濁度除去率が非常に低かったことから、吐水と止水の繰り返しが1500回の時点でのろ過流量も500回の時点でのろ過流量からほとんど低下しないと推測された。従って、比較例2のろ過流量の評価は「○」とした。
【0064】
【表8】
【0065】
表1〜4及び表6に示した結果から、実施例1〜4の活性炭成形体は、比較例1の活性炭成形体よりも、ろ過流量が高いことが分かった。また、表1〜4及び表7に示した結果から、実施例1〜4の活性炭成形体は、比較例2の活性炭成形体よりも、濁度除去率が高いことが分かった。これら結果から、外周面に形成された細孔のモード径が10〜80μmの中芯の表面に活性炭層を形成させた活性炭成形体は、ろ過流量が高く、濁度除去性能も良好になることが確認された。
【0066】
表1〜4に示した結果から、実施例1及び2の活性炭成形体は、実施例3及び4の活性炭成形体よりも、吐水と止水を1500回以上繰り返した際の濁度除去率が高いことが分かった。この結果から、外周面の表面粗さRaが5〜50μmの中芯の表面に活性炭層を形成することで製造した活性炭成形体は、吐水と止水を繰り返しても濁度除去率が下がり難く、浄水カートリッジの使用期間を長くできることが確認された。
【0067】
表1及び表5の結果から、実施例1の活性炭成形体は、実施例5の活性炭成形体よりもろ過流量が高いことが分かった。この結果から、活性炭層の外表面を切削加工することで、活性炭成形体のろ過流量を向上できることが確認された。