特許第6243184号(P6243184)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243184
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】土壌の放射性セシウム除染方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/28 20060101AFI20171127BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   G21F9/28 Z
   G21F9/12 501A
   G21F9/12 501K
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-215024(P2013-215024)
(22)【出願日】2013年10月15日
(65)【公開番号】特開2014-115273(P2014-115273A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2016年8月31日
(31)【優先権主張番号】特願2012-250693(P2012-250693)
(32)【優先日】2012年11月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】金子 信博
(72)【発明者】
【氏名】中森 泰三
(72)【発明者】
【氏名】黄 ▲よう▼
【審査官】 南川 泰裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−117508(JP,A)
【文献】 特開2009−178074(JP,A)
【文献】 特許第5054246(JP,B1)
【文献】 特開2013−171017(JP,A)
【文献】 特開2013−150973(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/027652(WO,A1)
【文献】 B Rafferty, et al.,Decomposition in two pine forests: the mobilisation of 137Cs and K from forest litter,Soil Biol. Biochem.,NL,Elsevier,1997年 3月 7日,Vol.29 No.11/12,pp.1673-1681
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/00−9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウッドチップ、落葉、及び、おが屑からなる群から選択される1種又は2種以上であるセルロース体を包含する、少なくとも土壌表面との接地面に開口部を有する袋体を、除染対象の土壌表面に設け、前記袋体内のセルロース体に土壌中の放射性セシウムを取り込ませた後、前記袋体を回収する土壌の放射性セシウム除染方法。
【請求項2】
前記開口部を有する袋体が、網状の袋体である請求項1に記載の土壌の放射性セシウム除染方法。
【請求項3】
前記セルロース体は、除染対象の土壌周辺の木材を材料とする請求項1又は2に記載の土壌の放射性セシウム除染方法。
【請求項4】
前記袋体内に、さらに添加物が含まれている請求項1〜のいずれか一項に記載の土壌の放射性セシウム除染方法。
【請求項5】
前記回収した袋体を、そのまま焼却し、又は、袋体からセルロース体を取り出してセルロース体のみ焼却し、生じた熱エネルギーを回収する請求項1〜のいずれか一項に記載の土壌の放射性セシウム除染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌の放射性セシウム(134Cs、137Cs)除染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
東京電力福島第一原子力発電所事故による放射性物質(特に放射性セシウム)により、環境が広域に汚染された。このうち、森林地帯では、特に土壌表面部分の汚染が顕著となっている。
【0003】
森林地帯の除染については、種々の方法が検討されており、例えば、森林の伐採による汚染木の除去、落葉の除去、汚染された森林から収穫された建築材、薪、炭、椎茸原木、ウッドチップとしての利用を所定期間制限する方法等がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】B.RAFFERTY, et al. “DECOMPOSITION IN TWO PINE FORESTS: THE MOBILISATION OF 137Cs AND K FROM FOREST LITTER” Soil Biol. Biochem. Vol.29, No.11/12, pp.1673-1681, 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の森林地帯の広範囲に渡って除染剤を散布する方法や森林を伐採する等の方法では、除染する規模が大きすぎて効率が悪いという問題がある。汚染された森林からの建築材、薪、炭、椎茸原木、ウッドチップとしての利用を所定期間制限する方法では、時間が経過するほど立木が土壌から放射性セシウムを吸収し、木材の汚染が進んでしまうという問題や、伐採の停止により将来の資源確保が困難になる或いは萌芽能力を失うという問題がある。そこで、安価で効率良く着実に森林地帯の土壌を除染することが可能な方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは研究を重ねたところ、菌類が放射性セシウムをある程度吸収する性質があることから(非特許文献1)、詳細は後述するが、特に糸状菌(カビ・キノコ類)が土壌から放射性セシウムを吸収する性質を利用し、この糸状菌に放射性セシウムを吸収させた後、効率良く糸状菌を回収することで、上記課題が解決されることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、ウッドチップ、落葉、及び、おが屑からなる群から選択される1種又は2種以上であるセルロース体を包含する、少なくとも土壌表面との接地面に開口部を有する袋体を、除染対象の土壌表面に設け、前記袋体内のセルロース体に土壌中の放射性セシウムを取り込ませた後、前記袋体を回収する土壌の放射性セシウム除染方法である。
【0008】
本発明に係る土壌の放射性セシウム除染方法は一実施形態において、前記開口部を有する袋体が、網状の袋体である。
【0010】
本発明に係る土壌の放射性セシウム除染方法は更に別の一実施形態において、前記セルロース体は、除染対象の土壌周辺の木材を材料とする。
【0011】
本発明に係る土壌の放射性セシウム除染方法は更に別の一実施形態において、前記袋体内に、さらに添加物が含まれている。
【0012】
本発明に係る土壌の放射性セシウム除染方法は更に別の一実施形態において、前記回収した袋体を、そのまま焼却し、又は、袋体からセルロース体を取り出してセルロース体のみ焼却し、生じた熱エネルギーを回収する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、安価で効率良く着実に森林地帯の土壌を除染することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の土壌の放射性セシウム除染方法の一概念図である。
図2】実施例1に係るリターバッグの土壌表面への設置形態を示す外観写真である。
図3】実施例1に係る月数−濃度グラフ(落葉の重量に対するセシウム濃度)、及び、月数−セシウム量グラフである。
図4】実施例1に係るカビ現存量 −セシウム(137Cs)濃度グラフである。
図5】実施例2に係るウッドチップの外観写真である。
図6】実施例2に係るウッドチップを包含させたネットの土壌表面への設置形態を示す外観写真である。
図7】実施例2に係る月数−濃度グラフ(ウッドチップの重量に対するセシウム濃度)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
キノコの放射性セシウム濃度が高いことからわかるように、カビ(糸状菌)の多くは土壌や落葉の放射性セシウムを菌体に濃縮する。キノコの量は森林の中ではわずかであるため、キノコを集めても除染の効果は小さいが、土壌中にはキノコに比べてはるかに多くの菌体が存在する。そこで、菌体が付着した有機物を土壌から回収することで効率良く多くの放射性セシウムを回収することができる。
【0016】
伐採直後の木材には、ほとんどカビが浸入しておらず、このような木材を林地に設置すると、急速にカビが生える。木材はカビが好むセルロースやリグニンに富むが、その他の栄養塩類量は少ないため、カビは窒素やリン、カリウム等の必要な栄養塩類を土壌から集め、自分の体を作る。カビは不足しているカリウムを土壌から吸収する際に、化学的性質が非常に似ている放射性セシウムを取り込むと考えられている。
【0017】
本発明の土壌の放射性セシウム除染方法は、このような理論を踏まえて創作されたものであり、セルロース体を包含する、少なくとも土壌表面との接地面に開口部を有する袋体(バッグ)を、除染対象の土壌表面に設け、袋体内のセルロース体に土壌中の放射性セシウムを取り込ませた後、袋体を回収することを特徴としている。図1に、このような本発明の土壌の放射性セシウム除染方法の一概念図を示す。
【0018】
セルロース体を包含する、少なくとも土壌表面との接地面に開口部を有する袋体を、除染対象の土壌表面に設けると、土壌に生息していたカビが、セルロースを求めて袋体内へ開口部から浸入し、セルロース体に付着する。浸入したカビは、セルロースを養分として吸収する一方で、カリウムを求めて菌糸を袋体内から土壌へ伸ばす。カビは、伸ばした菌糸からカリウムを吸収しようとするが、このとき、カリウム以外にも、化学的性質が非常に似ている放射性セシウムを土壌から吸収する。袋体を土壌に所定期間放置して、袋体内のセルロース体に付着したカビに土壌から放射性セシウムを十分吸収させた後、袋体を回収する。袋体を利用することで、回収作業も容易となる。回収した袋体は、そのまま焼却してもよいし、袋体からセルロース体を取り出してセルロース体のみ焼却し、袋体は再利用してもよい。袋体内のセルロース体には、放射性セシウムが集積されており、焼却すると、それぞれ放射性セシウムを含む飛灰と沈殿灰とが生じる。飛灰はフィルター等で回収し、沈殿灰は最終処理場にて別途処理する。また、この焼却により生じたエネルギーは、発電や熱利用等に活用することができる。このような方法によって、従来の除染方法に比べて、安価で効率良く着実に森林地帯の土壌を除染することができる。
【0019】
袋体を土壌へ設置しておく期間としては特に限定されないが、例えば、セルロース体に付着したカビが放射性セシウムを吸収する量の変化が一定に近づいた時期までとしてもよい。また、設置期間を2ヶ月から6ヶ月、或いはさらに1年程度とすることができる。このような期間であれば、汚染された土壌から放射性セシウムを十分吸収することができ、且つ、まだカロリーが十分残っている間にセルロース体を回収して燃料として利用することができる。
【0020】
袋体としては、少なくとも土壌表面との接地面に開口部を有するものであれば特に限定されないが、網状の袋体であるのが好ましい。網状であれば、土壌中のカビが浸入しやすく、且つ、浸入した後に土壌へ菌糸を伸ばしやすい。また、袋体内のセルロース体に付着したカビが生息しやすい。網状の袋体としては、例えば、一般に、果物や穀物の保存袋のようなネット、或いは、洗濯物を入れるネットで利用されている材料(例えば樹脂材料)を用いたネット等が挙げられる。袋体の大きさは、特に限定されないが、例えば、セルロース体を入れたときに人が担いで運搬しやすい重さとなるような大きさとすることができる。
【0021】
袋体の設置形態は、特に限定されないが、より土壌との接地面が大きくなるように、例えば平板状となるような形態で設けることが好ましい。
【0022】
袋体に入れるセルロース体は、例えば、ウッドチップ、落葉、及び、おが屑からなる群から選択される1種又は2種以上とすることができる。このような材料を用いると、土壌中のカビが袋体内に浸入しやすく、また、森林資源を有効に利用することができる。また、セルロース体は、除染対象の土壌周辺の木材を材料とすると、汚染された木材をそのまま利用するため、より効率的に森林地帯の除染をすることができる。セルロース体の大きさは特に限定されないが、土壌のカビが付着しやすい大きさとすることが好ましい。特に木材を用いる場合は、ウッドチップに加工することが好ましい。このようにチップ状にすることで表面積が大きくなり、通気性が良好となることで、カビの菌糸の生育を最適化することができる。ウッドチップを用いる場合は、例えば、チップの長径が1〜10cmとしてもよい。
【0023】
袋体内には、さらに様々な用途に応じて添加物を含有させてもよい。
【0024】
本発明の土壌の放射性セシウム除染方法によれば、様々な効果が得られる。以下にその例を挙げる:
(1)決定打の無い森林除染の実施について、人家の周りや林道沿いから順に作業を進めることができ、着実に且つ迅速に除染作業を進めることができる。
(2)特殊な装置や技術を必要とせず、簡易な設備で容易に除染を行うことができる。
(3)森林資源の利用を停止しないことで、森林管理を継続し、林業を維持することができる。
(4)決定打の無いバイオマスの利用を災害復興策と組み合わせて実施することができる。
(5)除染対象となる森林の樹種や林齢、或いは、除染活動を行う季節にかかわらず、実施することができる。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の実施例を示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0026】
(実施例1:落葉を包含させたリターバッグを用いたセシウム動態観察試験)
まず、図2に示すように、セルロース体として落葉を16g入れた、メッシュのリターバッグ(縦横25cm×25cm)を複数体用意し、除染対象の森林の土壌表面に敷き詰めた。
次に、0ヶ月経過後(設置時)、4ヶ月経過後、6ヶ月経過後、8ヶ月経過後、10ヶ月経過後、及び、12ヶ月経過後のリターバッグを回収してプラスチック製容器に密閉して冷却保存した。
保存した落葉中のセシウム(134Cs、137Cs)について、月数−濃度グラフ(落葉の重量に対するセシウム濃度)、及び、月数−セシウム量グラフを作成した(図3)。
また、保存した落葉の、PLFA(リン脂質の脂肪酸組成)から求めたカビ現存量−セシウム(137Cs)濃度グラフを作成した(図4)。
図4に示すように、カビの現存量が多くなれば多くなるほど、セシウムが多く吸収されていることがわかった。この結果、土壌からのセシウム吸収には、カビの存在が有効であることが確認された。
【0027】
(実施例2:ウッドチップを包含させたネットを用いたセシウム動態観察試験)
まず、図5に示すようなウッドチップを10kg程度包含させたネットを複数体用意し、図6に示すように除染対象の森林の土壌表面に敷き詰めた。当該ネットは、森林土壌表面において、1m2当たり3体設置できた。
次に、0ヶ月経過後(設置時)、1ヶ月経過後、及び、2ヶ月経過後のネットを回収してウッドチップの放射性セシウム濃度を測定した。
得られたセシウム(134Cs、137Cs)について、月数−濃度グラフ(ウッドチップの重量に対するセシウム濃度)を作成した(図7)。
図7に示すように、134Cs、137Csのいずれのセシウムも、2ヶ月という短期間であっても良好に土壌表面から回収できていることがわかった。
【0028】
(実施例3:落葉の有無に関するセシウム動態観察試験)
実施例2の試験において、土壌表面に落葉が有るか無いかによってセシウムの回収率がどのように影響されるかについて試験を行った。
まず、落葉が敷き詰められた土壌表面に対し、実施例2と同様の試験方法によって、ウッドチップを包含したネットを用いたセシウムの回収・抽出を行った。また、落葉が無い土壌表面に対し、実施例2と同様の試験方法によって、ウッドチップを包含したネットを用いたセシウムの回収・抽出を行った。これら2種類の試験は、隣接する土壌表面に対して同時に行った試験であり、外部環境としては同条件であると見なして良い。また、抽出して検討するセシウムとしては、半減期が長い137Csを採用した。
この結果、落葉を敷き詰めた土壌表面に対する試験では、137Csの回収率が2.5%であったのに対し、落葉を敷き詰めていない土壌表面に対する試験では、137Csの回収率が4.6%であった。これにより、本発明の除染方法は、土壌表面の落葉をあらかじめ除去しておいた方が、除染効率が良くなることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7