(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243212
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】術後癒着防止具
(51)【国際特許分類】
A61L 31/04 20060101AFI20171127BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
A61L31/04
A61L31/06 100
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-257406(P2013-257406)
(22)【出願日】2013年12月12日
(65)【公開番号】特開2015-112338(P2015-112338A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年10月14日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本胆道学会、「第49回日本胆道学会学術集会プログラム抄録」、第27巻第3号、平成25年8月31日発行 日本内視鏡外科学会、「日本内視鏡外科学会雑誌」、第18巻第5号、平成25年9月15日発行 平成25年9月19日に第49回日本胆道学会学術集会にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】803000056
【氏名又は名称】公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 建郎
【審査官】
小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−126235(JP,A)
【文献】
外科治療,2006年,Vol.94, No.1,p.119-121
【文献】
産婦の進歩,2010年,Vol.62, No.2,p.65-70
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面及び裏面の双方が接着性を有する癒着防止吸収性バリアフィルムと、前記癒着防止吸収性バリアフィルムの一方側の面にのみ積層されたポリクロロプレン、ブタジエンスチレンゴム、ブタジエンアクリロニトリルゴム、又は、ポリイソプレンから選択される合成ゴムからなるゴムシートと、からなる積層体からなり、前記ゴムシートは、前記積層体をロール状に形成するための支持材であるとともに、前記癒着防止吸収性バリアフィルムを目的部位に貼り付ける前の防水保護材である、ことを特徴とする術後癒着防止具。
【請求項2】
前記積層体がロール状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の術後癒着防止具。
【請求項3】
前記ゴムシートのヤング率が2.0〜8.0GPaであることを特徴とする請求項1又は2に記載の術後癒着防止具。
【請求項4】
前記ゴムシートの厚みが、0.15mm〜0.20mmであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の術後癒着防止具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開腹手術後の腹腔内癒着を防止する術後癒着防止具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、腹腔鏡下手術の普及に伴い腹腔鏡下胆嚢摘出術の既往のある患者に、再び腹腔鏡下手術を施行する機会が増えてきた。腹腔鏡下胆嚢摘出術は開腹術に比べて、癒着の強度が低く頻度は少ないが、新たに手術を行う際に胆嚢摘出部や肝十二指腸靱帯に癒着があり、手術操作に難渋する場合がある。
【0003】
開腹手術であれば、癒着防止目的に癒着防止吸収性バリアフィルムの貼付けが広く行われており、有用性が示されているが、腹腔鏡下手術の場合、癒着防止吸収性バリアフィルムの特性上、体腔内への挿入、貼付けには準備とコツが必要であり、デバイスを使用したり、技術を要したりする方法が報告されている。
【0004】
例えば非特許文献1には、所定大きさにカットしたセプラフィルム(登録商標)の端を鉗子で把持してセプラフィルムを筒状に巻き、その筒状に巻いたセプラフィルムをトロッカーを介して腹腔内に挿入する方法が記載されている。しかし、この手法では、体腔内において、目的部位周辺の臓器にセプラフィルムが付着しないように留意しながら操作する必要があるため、体腔内の目的部位に簡易にセプラフィルムを導入できるものとはいえない。
【0005】
また例えば非特許文献2には、レギュラーサイズのセプラフィルムからホルダーのみを取り出し、短軸方向に4分割してそれらのホルダーをsliderとして使用し、このsliderを半分に折り、所定大きさにカットしたセプラフィルムをこのsliderの間に挟む手法が記載されている。セプラフィルムを体腔内へ挿入する際には、半分に折ったsliderの折り目部分を鉗子で把持し、トロッカーの壁に沿わせて畳むように挿入していく。しかし、この手法では、体腔内において、半分に折り畳まれたsliderからセプラフィルムを取り出す際、sliderの端部を把持して所定方向にsliderを何回か移動させる必要があるため、体腔内の目的部位に簡易にセプラフィルムを導入できるものとはいえない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「癒着防止吸収性バリア セプラフィルム情報」セプラフィルム腹腔鏡下直接挿入法 科研製薬株式会社 2007年9月
【非特許文献2】「癒着防止吸収性バリア セプラフィルム情報」腹腔鏡下手術におけるセプラフィルムの体腔内搬入法〜Sliding technique〜 科研製薬株式会社 2012年1月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、開腹手術後の腹腔内癒着を防止する癒着防止吸収性バリアフィルムを、体腔内の目的部位に簡易に導入できる術後癒着防止具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる術後癒着防止具は、癒着防止吸収性バリアフィルムと、ゴムシートと、を積層して形成される積層体からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、癒着防止吸収性バリアフィルムを、体腔内の目的部位に簡易に導入できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態にかかる術後癒着防止具を模式的に説明する図である。
【
図2】本実施形態にかかる術後癒着防止具をロール状に形成した状態を説明する図である。
【
図3】セプラフィルムとゴムシートとの積層体の巻き始めの状態を説明する図である。
【
図4】ロール状の積層体をトロッカー内に挿入した状態を説明する図である。
【
図5】肝下面の空間にセプラフィルムを展開する状態を説明する図である。
【
図6】目的部位にセプラフィルムを貼り付ける状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0012】
図1は本実施形態にかかる術後癒着防止具を模式的に説明する図である。
図1に示されるように、本実施形態にかかる術後癒着防止具900は、癒着防止吸収性バリアフィルム100と、ゴムシート200と、を積層して形成される積層体からなる。
【0013】
癒着防止吸収性バリアフィルム100は、術後癒着を防止するフィルムであって、湿性組織に付着した後、周囲の水分を吸収してゲル化し、数日間創部にバリアとして存在することで癒着防止効果を発揮するフィルムである。
【0014】
癒着防止吸収性バリアフィルム100は、ヒアルロン酸ナトリウム及びカルボキシメチルセルロースを主成分とした生体吸収性の物質で形成されることが好ましい。癒着防止吸収性バリアフィルム100は、湿性組織に対する接着性が高いため、組織に対して縫合固定する必要はない。癒着防止吸収性バリアフィルム100は、特に限定されるものではないが、例えばセプラフィルム(登録商標)である。また、
図1では癒着防止吸収性バリアフィルム100は1枚のみが図示されているが、このような実施形態に限定されるものではなく、例えば癒着防止吸収性バリアフィルムを分割して複数枚をゴムシートの上にのせる形態も可能である。
【0015】
本実施形態にかかる術後癒着防止具900は生体内に搬入されるため、術後癒着防止具900に用いられるゴムシート200はラテックスアレルギーを発生させる可能性が低いものが好ましい。ラテックスアレルギーの原因物質は、天然ゴム製品から溶出する複数のタンパク質であると考えられている。そこで、術後癒着防止具900に用いられるゴムシート200は、合成ゴムからなることが好ましい。
【0016】
合成ゴムは、特に限定されるものではないが、例えば、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、ブタジエンスチレンゴム、ブタジエンアクリロニトリルゴム、ポリイソプレン、クロルスルホン化ポリエチレン、ポリイソブチレン、イソブチレンイソプレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、多硫化系合成ゴム、フッ素ゴム、及びシリコーンゴム等を用いることができ、特に好ましくはポリクロロプレンゴムである。
【0017】
ゴムシート200のヤング率は、特に限定されるものではないが、例えば2.0〜8.0GPaである。後述するように、本実施形態にかかる術後癒着防止具900を使用する際には、癒着防止吸収性バリアフィルム100とゴムシート200とからなる積層体を丸めてロール状に形成してそれをトロカール内に挿入するところ、ゴムシート200のヤング率が8.0GPaよりも大きいと、ロール状に形成しにくくなる虞があるからである。また、後述するように、ロール状の積層体を体内に挿入した後は、展開して癒着防止吸収性バリアフィルム100を体腔内の目的部位に貼り付けるところ、ゴムシート200のヤング率が2.0GPaよりも小さいと、ロール状の形状が記憶されて展開しにくくなる虞があるからである。
【0018】
ゴムシート200の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば0.15mm〜0.20mmとすることが可能である。ゴムシート200の厚みが20mmよりも大きいと、ゴムシート200の剛性が大きくなり、ロール状に形成しにくくなる虞があるからである。また、ゴムシート200の厚みが15mmよりも小さいと、ゴムシート200の剛性が小さくなり、ロール状の形状が記憶されて展開しにくくなる虞があるからであり、更にはゴムシート200が薄いため、癒着防止吸収性バリアフィルム100を外的衝撃からの保護が不十分となる虞があるからである。
【0019】
次に、本実施形態にかかる術後癒着防止具900の使用態様について説明する。
【0020】
図2は本実施形態にかかる術後癒着防止具をロール状に形成した状態を説明する図である。
図2に示されるように、本実施形態にかかる術後癒着防止具900を巻くことによりロール状に形成する。巻き始めは、ゴムシート200で癒着防止吸収性バリアフィルム100の端を挟みロール状に巻くことにより、ゴムシート200と癒着防止吸収性バリアフィルム100との位置ずれが発生しにくい。
【0021】
後述するようにロール状に形成した術後癒着防止具900はトロカール内に挿入されるので、ロール状に形成した術後癒着防止具900の外径は、トロカール内径よりも小さいものであれば特に限定されるものではなく、例えば7.0mm〜9.0mmである。
【0022】
そして、ロール状に形成した術後癒着防止具900をトロカール内に挿入し、空間が確保された体腔内部位に挿入して留置し、展開する。ゴムシート200にて癒着防止吸収性バリアフィルム100が防水保護されているため、周囲からの水分付着に特段の注意を払うことなく体腔内に挿入することが可能となる。
【0023】
次に、目的部位を覆うように癒着防止吸収性バリアフィルム100を貼り付け、ゴムシート200越しに癒着防止吸収性バリアフィルム100を目的部位に密着させる。ゴムシート200越しに癒着防止吸収性バリアフィルム100を目的部位に貼り付けるため、癒着防止吸収性バリアフィルム100が目的部位以外の箇所に貼り付く虞を低減させることができる。その後はゴムシート200を鉗子にて把持して、トロカールから体腔外へ取り出す。これにより、癒着防止吸収性バリアフィルムを、体腔内の目的部位に簡易に導入できる。
【0024】
本実施形態にかかる発明は、例えば腹腔鏡下胆嚢摘出手術に利用できるが、これのみに限定されず、他の腹腔鏡下手術、例えば腹腔鏡下幽門側胃切除術における肝下面や膵前面への貼付けや、腹腔鏡下イレウス解除術における剥離面への貼付け等にも応用することが可能である。
【実施例】
【0025】
癒着防止吸収性バリアフィルムとして、セプラフィルムを使用した。セプラフィルムを保護パッケージから取り出して2/3の大きさにカットした。ゴムシートとして、ラテックスフリーかつパウダーフリーのポリクロロプレン製の滅菌済手術用手袋(JIS 9107適合品、DermaTexII NO POWDER Sterile Surgical Gloves 医療機器承認番号:218ADBZX00006000)を使用し、この手術用手袋の手首部分を使用して、セプラフィルムの大きさよりも一回り大きなゴムシートを作成した。本実施例では腹腔鏡下胆嚢摘出手術にて適用した。
【0026】
図3に示すように、セプラフィルムをゴムシートの上にのせて、巻き始めはゴムシートでセプラフィルムの端を挟むようにし、10mmトロッカー内径よりも細くなるようにロール状に巻いた(以下、この筒状に巻いたゴムシートとセプラフィルムとの積層体をセプラロールとする)。セプラフィルムは薄いフィルム状で柔軟性に欠けるため、セプラフィルム開封後に、挿入に適した形に成形するまでには湿軟化時間を待つ必要があるが、本実施例ではゴムシートでセプラフィルムを補強しているため、開封後直ちにセプラロールの作成が可能であった。
【0027】
図4に示すように、気腹を中止し、セプラフィルムの破損を避けるため、鉗子をトロッカーのハウジングを通過させた状態でセプラロールを把持し、トロッカー内に挿入した。
【0028】
図5に示すように、再気腹を行い助弓下のトロッカーから挿入した鉗子又はツッペルを用いて、胆嚢摘出部、肝十二指腸靱帯前面が見えるように肝下面に空間を確保し、そこにセプラロールを挿入し留置し、展開した。体腔内挿入後のセプラロールはゴムの復元力から、わずかな鉗子の介助で展開し、瞬時にゴムシート上にセプラフィルムがのった状態となった。
【0029】
その後、
図6に示すように、鉗子にてセプラフィルムを肝下面の胆嚢摘出部、肝十二指腸靱帯を覆うように貼付け、ゴムシート越しに押しつけた。そしてゴムシートを鉗子にて把持し、トロッカーから体腔外へ取り出した。ゴムシートは柔軟性に富むため、鉗子にて把持すればストレスなくトロッカーから体腔外へ取り出すことができた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
開腹手術後の腹腔内癒着防止に利用できる。
【符号の説明】
【0031】
100:癒着防止吸収性バリアフィルム
200:ゴムシート
900:術後癒着防止具