【課題を解決するための手段】
【0010】
この問題及び他の課題を解決するために、本発明は、請求項1に記載の特徴を有するサーモグラフ試験方法と、請求項10に記載の特徴を有するその方法を実行するために組み立てられたサーモグラフ試験装置とを提供する。従属請求項において有利な進展が特定される。全ての請求項の表現は、記載の内容を参照している。
【0011】
試験方法において、試験対象の試験される部分は、加熱装置の作用に曝される。以下、このことは略して「加熱(heating up)」とも呼ばれる。この場合、加熱エネルギーは、欠陥により影響を受ける欠陥領域すなわち傷のある場所と欠陥がない試験片の材料との間に熱的不平衡が生じるように誘導される。傷のある場所、つまりこの場合の欠陥領域は、例えばひびなどの実際の傷と、直接隣接する周辺領域とを含む。欠陥のない周辺領域は、加熱装置の作用下で温度を保持することができる、つまり加熱されないか、又は、傷のある場所よりも激しく加熱されないということである。
【0012】
金属ビレット、棒鋼、棒、ワイヤ等のような導電性試験対象の場合、例えば加熱プロセスのために、誘導方法を用いることができる。試験対象の欠陥領域への熱エネルギーの入力は、超音波を用いて行うこともできる。
【0013】
熱伝播段階において、一連の2又はそれ以上のサーモグラフ画像が、互いに時間間隔をおいて記録される。熱伝播段階は、局所的に加熱された欠陥領域から周辺領域への熱流となったときに始まる。熱伝播段階は、加熱プロセスに続く冷却段階まで継続し、多くの場合冷却段階に一致する。しかしながら、加熱段階と冷却段階との間に厳しい境界がないことが多い。熱エネルギーは、加熱プロセス中に既に伝播できるので、依然として、熱伝播段階の開始は、局所的加熱の段階と時間的に重なり得る。
【0014】
サーモグラフ画像のそれぞれは、この場合、熱伝播の際の異なる時点においてサーモグラフ画像により記録された試験対象の表面領域における局所温度分布を表す。例えば熱感知カメラなどの、サーモグラフ画像を記録するために設けられた記録装置及び試験対象が静止状態にあるとき、異なる時点で記録された試験対象の表面領域は同一であり得る。試験対象と記録装置との間に相対運動がある場合、表面領域は、互いに対して空間的にオフセットされる。
【0015】
位置的に適正に割り当てられた温度プロファイルは、一連のサーモグラフ画像から決定されるが、互いに位置的に適正に割り当てられた温度プロファイルの各々は、試験対象の表面の同じ測定領域に割り当てられる。「測定領域」という用語は、ここでは試験対象の座標システム内に固定位置を有する一次元又は二次元で広がる領域を指す。多くの測定位置が、測定領域内に存在する。
【0016】
「温度プロファイル」という用語は、温度プロファイル内の異なる位置又は場所が、それぞれの位置における温度を表す測定変数の値をそれぞれ割り当てられた、局所的解像プロファイルを指す。温度プロファイルは、温度プロファイル内の位置への温度値の依存を説明する、位置関数として理解することができる。温度プロファイルは、スペクトル線変化図のように、多少狭い、ほとんど線形の領域に関するものであり得る。また、温度プロファイルは、2Dプロファイルつまり領域プロファイルに関するものであることもあり、次いで、所定の形状及びサイズの一片の領域における温度値の局所分布は、温度プロファイルにより説明される。温度プロファイルの異なる位置に割り当てられた測定変数は、「温度値」と呼ぶことができる。このことは一般に、直接温度を測定することを必要としないが、例えば、それぞれの位置により放射される熱放射の強度つまり振幅を測定することを必要とし、これをサーモグラフィにおいて通例の手段によりプロファイル位置の局所温度に変換することができる。
【0017】
この方法で、多数の温度プロファイル(少なくとも2つ)が決定され、冷却プロセス中の異なる時点における同一の測定領域内の温度の局所変化を表す。次いで、温度値の経時的変化が、温度プロファイルによって記録された測定領域の多くの測定位置について、温度プロファイルから定量的に求められ、局所温度値の経時的発現が、測定領域の多数の測定位置について得られるようにする。次いで、経時的変化は、測定領域における熱流を特徴付けるのに適した少なくとも1つの評価基準に基づいて評価される。
【0018】
本方法において、温度プロファイルにより表わされる温度の局所的変化に関する温度プロファイルのみならず、その経時変化も分析される。温度プロファイルのシーケンス又は一連の温度プロファイルが、表面における所定の測定領域及び所定の時間範囲について取得される。本方法の本質的な態様は、熱流、すなわち温度プロファイルの経時的発現の動的挙動及びその評価又は解釈を含んでいることである。
【0019】
従って、別の形態によると、好適な試験対象の表面付近の欠陥の検知及び識別のための局所解像熱流サーモグラフィの変形の使用が提案され、試験片の表面に見られる温度の局所分布の経時的発現が、特定され、評価される。とりわけ、このことは、横方向の熱流を定量的に記録し評価することを含む。
【0020】
従来技術と比較すると、本方法は、欠陥に起因する温度効果と熱流により生じたものではない効果とを区別する改善された能力を可能にするので、例えばひび又は微細構造障害などの欠陥の分類がずっと確実に行われる。さらに、決定的である、プロファイル内の温度信号の振幅又は強度だけではなく、温度信号が時間軸においてどのように動的に挙動するかにもよるため、信号振幅が小さい場合でも、サーモグラフ情報を評価する能力が改善される。このことにより、干渉振幅(探している欠陥に起因しないもの)が有用な信号振幅より大きい場合でも、干渉抑制が相当改善される。本明細書においては、有益信号振幅とは、微細構造障害により生ずる信号振幅を指す。
【0021】
本試験方法により、熱の突然の局所的に限定された流入後の時空間的熱伝播を記録し、定量的に評価することができる。簡単に言えば、時空間的熱伝播は、潜在的欠陥の領域内に集まった熱が、時間と共に試験対象の材料の、周辺のより低温の領域に流れ込むように発生する。この流れ込みは、励磁時における温度プロファイルの振幅が時間と共に減少する限りにおいて、横方向表面の温度分布により明らかにされるが、励磁位置の直接近傍において温度が顕著に上昇する。従って、これらの条件下においては、温度プロファイルの形状は、時間と共に特徴的に変化する。一方、例えば表面反射など、最も頻繁に生じる干渉の影響は、その局所的特性については経時的に全く変化しないか、又は僅かな変化のみであり、及び/又は典型的な熱流挙動からは明確に逸脱する経時的変化(例えば、反射の短い閃光)を示す。従って、こうした干渉の影響は、その典型的な時空間的挙動に基づいて、実際の欠陥と明確に区別することができる。実際に、幾つかの干渉の影響は、動的時空間的挙動により温度プロファイルにおいて明らかにされるが、これは、干渉によって影響を受けない熱伝導性材料内の欠陥の周辺領域で生じる時空間的熱伝播とは一般的に明確に異なる。従って、温度プロファイルの時空間的挙動を、固体における熱伝播又は熱拡散の原理の側面から分析する評価は、従来の方法と比較して、より改善された選択性及び干渉抑制を提供する。
【0022】
従って、評価は、記録されたサーモグラフ・データとシグネチャとの比較の評価を含むものとしても説明され、シグネチャは、特に熱の局所的集中の後で、熱的平衡を再確立しようとする固体における時空間的熱伝播の記述である。
【0023】
予備評価ステップにおいて、欠陥に起因し得るが必ずしもそうではない、欠陥らしい異常が温度プロファイルにおいて明らかにあるかどうかについて、温度プロファイルを自動的に分析することが好ましい。欠陥らしい異常の識別において、温度プロファイルの内の温度値の局所最大を探すことが好ましい。ここで、局所最大は、局所最大を直接取り囲む領域におけるプロファイル位置における温度よりも明らかに高い温度の、温度プロファイル内の場所に対応する。例えばひび試験において、識別ステップは、他のより低温の周辺領域において、実質的に狭く高温の場所を見つけることが意図される。この識別ステップにおいては、例えば周辺領域の一方の側から周辺領域の他方の側までの短い距離にわたって、言わば、局所最大を、温度が急激に又は段階的に上昇又は下降するものと仮定する縁部位置と区別するために、適切な画像処理フィルタ・ルーチンを用いることができる。一般的に、この目的のために、異なる基準に基づいて動作する2つ又はそれ以上のフィルタ・ルーチンを用いて、局所最高温度に明らかに起因する画像位置(ピクセル又はピクセル群)を識別することができる。
【0024】
次に、評価は、局所温度最大値が見つかった領域に集中することができる。方法の変形において、温度プロファイルの温度値の局所最大の領域における温度値の振幅の経時的変化を、評価基準として評価する。これは、例えば、局所最大の領域及びその近傍における冷却速度を求めるために用いることができる。他の影響を受けない周辺領域内の、ひびなどの微細構造障害がある領域における冷却速度は、熱拡散の原理により良好に説明することができ、結果として、信頼できる評価基準として使用できることが分かっている。従って、ひび及び他の欠陥は、典型的な冷却速度のみに基づいて、欠陥に起因しない障害と区別できることが多い。
【0025】
代替的に又は付加的に、評価において、温度プロファイル内の温度値の局所最大の領域における熱容積濃度値(heat volume concentration value)を求めることができ、かつ、熱容積濃度値の経時的変化を評価することができる。熱容積濃度値は、局所最大の熱量が、直接取り囲む領域と比べてどのように関連するかの尺度である。この熱容積濃度値が時間と共に低下する場合、例えばひびの周辺領域で典型的なように、熱は周辺領域に流れ込む。一方、局所最大が微細構造障害又はひびに起因しない場合、熱濃度値は、著しく異なる挙動を示すことがあり、加熱プロセスが終了した後、熱濃度値が初めは上昇し続けることさえもあり得る。次いで、これは、局所温度最大は、ひび等に起因しないことの表示である。
【0026】
好ましい実施形態においては、計算された特性変数としての経時的変化の評価のために適切な時間関数を十分な精度で求めることができるように、時間的に互いに連続して記録された少なくとも3つの温度プロファイルを一緒に評価し、適切な数の補間場所を取得する。一般的に、4乃至10の温度プロファイルが一緒に評価され、時間範囲内に十分な数の補間位置があり、欠陥とアーチファクトとを確実に区別できる。
【0027】
代替的に又は時間関数から特徴変数を求めて評価することに加えて、画像要素(ピクセル)又は画像要素の群(ピクセル群)に基づいて、温度プロファイル内の温度値の経時的変化を行うことも可能である。次いで、その結果、時空間的シグネチャに得るために、相関関係がもちこまれる。一般的に、信号特性と固体における熱伝播の理論的原理との比較のための寸法の数字又はデータを可能にする信号評価のあらゆる変形を適用することができる。例えば、時空間のスペクトル線変化図、シーケンスの記録、領域片、任意の所望のピクセル構成又はピクセル・パターンを用いることができる。重要なことは、空間的及び時間的側面を統合して検討すること又はこれらを含ませることであり、それなくしては、欠陥の確率について信頼できる記載を作成することはほとんどできない。
【0028】
試験対象及びサーモグラフ画像を記録するための記録装置の両方が静止している試験装置において本試験方法を用いることができる。このことは、時間的に連続して記録されたサーモグラフ画像における同じ測定領域は、サーモグラフ画像における同じ画像領域(同じ画像座標)にそれぞれ対応するので、温度プロファイル相互の位置的に適正な割り当てをかなり単純化する。
【0029】
しかしながら、好ましい実施形態において、本試験方法は、例えば、棒鋼、管、ワイヤ又は同様なものなどの細長い試験対象を試験するために用いられる。細長い試験対象を試験するために、試験対象とサーモグラフ画像を記録するための記録装置との間で、細長い試験対象の長手方向に対して便宜的に平行に延びる、移動方向に平行な相対運動が生成される。この場合、記録装置は静止しており、試験対象は記録装置に対して動かされることが好ましい。相対運動は、時間的に連続して記録されたサーモグラフ画像によりそれぞれ記録された表面領域が、移動方向に平行な特定の距離だけオフセットして配置されるように生成される。この場合、時間的に直接連続して記録された表面領域は、試験中の表面の各々の位置が、2つ又はそれ以上のサーモグラフ画像により記録されるように部分的に重なり合うことが好ましい。その結果、長手方向に移動する細長い試験対象の表面全体の試験が可能になる。試験片の表面の各位置が、例えば4乃至20、又はそれ以上のサーモグラフ画像など、3つ又はそれ以上のサーモグラフ画像において存在し、この位置は、相対運動のために、サーモグラフ画像の各々における異なる地点(画像位置)にあることが好ましい。
【0030】
異なるサーモグラフ画像の温度プロファイルの位置的に適正な割り当ては、移動する試験対象の試験における特定の問題を提示する。本方法の変形において、一連のサーモグラフ画像の、第1の時点で記録された第1のサーモグラフ画像は、画像処理により分析され、欠陥らしい異常をもつ第1の表面詳細のサーモグラフ・データを含有する、少なくとも第1の選択済み画像詳細を識別する。次いで、同一の表面詳細が、第1の画像詳細に対応する第2の画像詳細において自動的に見つけられる。第2の画像詳細は、第1のサーモグラフ画像からある時間間隔をおいた後の第2の時点で記録された、第2のサーモグラフ画像内に位置する。次いで、第1及び第2の画像詳細のサーモグラフ・データの統合評価が行われ、位置的に適正な割り当てを実現する。
【0031】
自動探索のために、表面詳細が第1の時点と第2の時点との間を移動方向にカバーしている経路を特定するために、第2のサーモグラフ画像における欠陥らしい異常を含有する表面詳細の予想位置が、試験対象と記録装置との間の測定された、若しくは幾つかの他の既知の相対速度と、第1の時点と第の時点との間で経過した時間間隔とに基づいて特定されることが好ましい。このことにより、第2のサーモグラフ画像の評価を、初めから、その時以前に記録された第1のサーモグラフ画像の分析において欠陥らしい異常が見つけられた表面詳細に集中して行うことが可能になる。
【0032】
欠陥らしい異常を見つけるために、第1のサーモグラフ画像において少なくとも1つの線形又は面状の温度プロファイル内の温度値の局所最大を探すことが望ましい。この目的のために、好適な画像処理フィルタ・ルーチンを用いることができる。
【0033】
本発明はまた、試験対象の表面付近の欠陥の空間解像検知及び識別のための、方法を実行するために設定されたサーモグラフ試験装置にも関連する。この試験装置は、
欠陥により影響を受けた欠陥領域と欠陥がない試験片の材料との間に熱的不均衡を生じさせるように試験対象の部分を加熱するための加熱装置と、
ある時間間隔で連続する少なくとも2つの一連のサーモグラフ画像を記録するための少なくとも1つの記録装置と、
サーモグラフ画像のサーモグラフ・データを評価するための評価装置と、
を含み、
この評価装置は、温度プロファイルにより記録された測定領域の多数の測定位置について温度プロファイルからの温度値の経時的変化を特定するため、かつ、測定領域における熱流を特徴付ける少なくとも1つの評価基準に基づいて経時的変化を評価するために、サーモグラフ画像から位置的に適正に割り当てられた温度プロファイルを特定するよう構成される。
【0034】
記録装置は、その画像情報が一緒に評価される多数の画像列を有する、熱放射に敏感な領域スキャンカメラであることが好ましい。
【0035】
上記の及びさらなる特徴は、特許請求の範囲からだけでなく、説明及び図面からも明らかとなり、ここで個々の特徴は、いずれの場合も、本発明の実施形態及び他の分野において、それ自体で又は小結合の形態の複数として実現し、有利で本質的に保護可能な実施形態を構成する。例示的な実施形態は、図面において示され、以下により詳細に説明される。