特許第6243225号(P6243225)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6243225サーモグラフ試験方法及びこの試験方法を実行するための試験装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243225
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】サーモグラフ試験方法及びこの試験方法を実行するための試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/72 20060101AFI20171127BHJP
【FI】
   G01N25/72 K
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-503106(P2013-503106)
(86)(22)【出願日】2011年4月7日
(65)【公表番号】特表2013-524229(P2013-524229A)
(43)【公表日】2013年6月17日
(86)【国際出願番号】EP2011055386
(87)【国際公開番号】WO2011124628
(87)【国際公開日】20111013
【審査請求日】2014年2月12日
【審判番号】不服2016-5511(P2016-5511/J1)
【審判請求日】2016年4月14日
(31)【優先権主張番号】10003756.3
(32)【優先日】2010年4月8日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512259156
【氏名又は名称】インスティトゥート ドクトル フェルスター ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176418
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 嘉晃
(72)【発明者】
【氏名】トラックスラー ゲルハルト
(72)【発明者】
【氏名】パルフィンガー ヴェルナー
【合議体】
【審判長】 伊藤 昌哉
【審判官】 福島 浩司
【審判官】 渡戸 正義
(56)【参考文献】
【文献】 実公平07−004559(JP,Y2)
【文献】 特開平05−066209(JP,A)
【文献】 特開2006−337232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01N25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験対象の表面付近の欠陥の局所的解像検知及び識別のためのサーモグラフ試験方法であって、
欠陥により影響を受ける欠陥領域と欠陥がない前記試験対象の材料との間に熱的不均衡を生じさせ、欠陥領域の欠陥がない周辺領域は加熱されないか又は前記欠陥領域より強く加熱されないように、前記試験対象の部分を加熱するステップと、
各々がサーモグラフ画像により記録された前記試験対象の表面領域における局所温度分布を表す、横方向の熱流が前記局所的に加熱された欠陥領域から、横方向に前記欠陥領域の前記周辺領域に流れたことが明らかになったときに始まる熱伝播段階内にある時間間隔で連続する一連のサーモグラフ画像を記録するステップと、
前記サーモグラフ画像から、局所解像プロファイルである位置的に適正に割り当てられた温度プロファイルを特定するステップと、
を含み、前記温度プロファイルにおける異なる位置は、前記それぞれの位置において前記温度を表す測定された変数の値をそれぞれ割り当てられ、各々の位置的に適正に割り当てられた温度プロファイルは、前記試験対象の前記表面の前記同じ測定領域に割り当てられ、さらに、
前記温度プロファイルによって記録される前記測定領域の多数の測定地点について前記温度プロファイルから温度値の経時的変化を求めるステップと、
前記測定領域における前記横方向の熱流を特徴付ける少なくとも1つの評価基準に基づいて前記経時的変化を評価するステップと、
を含み、
前記評価において、前記温度プロファイル内の前記温度値の少なくとも1つの局所最大を探索し、
前記評価において、前記温度プロファイル内の前記温度値の局所最大の前記領域における熱容積濃度値を求め、熱容積濃度値の経時的変化を評価し、
前記熱容積濃度値は、隣接する周辺領域と比較した、直接局所温度最大における熱量の比率の尺度であることを特徴とするサーモグラフ試験方法。
【請求項2】
前記評価において、前記熱容積濃度値の経時的変化を評価することに加えて、前記局所最大の前記領域における温度値の前記振幅の経時的変化を評価することを特徴とする、請求項1に記載のサーモグラフ試験方法。
【請求項3】
前記評価において、少なくとも3、好ましくは4から20までの、位置的に適正に割り当てられた温度プロファイルを一緒に評価することを特徴とする、請求項1から請求項2のいずれかに記載のサーモグラフ試験方法。
【請求項4】
細長い試験対象を試験するために、前記試験対象と好ましくは前記試験対象の長手方向に対して平行に延びる移動方向に前記サーモグラフ画像を記録するための記録装置との間に相対運動が生成され、前記サーモグラフ画像により記録された前記表面領域は前記運動方向に対してオフセットされ、直接連続して記録されたサーモグラフ画像の前記表面領域は、好ましくは重なり領域において重なることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれかに記載のサーモグラフ試験方法。
【請求項5】
前記記録装置は、静止形態で設けられ、前記細長い試験対象は前記記録装置に対して移動されることを特徴とする、請求項4に記載のサーモグラフ試験方法。
【請求項6】
欠陥らしい異常を有する表面詳細を含有する、少なくとも第1の見つけ出された画像詳細の識別のために一連のサーモグラフ画像から、第1の時点において記録された第1のサーモグラフ画像を分析するステップと、
前記第1のサーモグラフ画像からある時間間隔をおいた後の第2の時点において記録された第2のサーモグラフ画像において、前記第1の画像詳細に対応する第2の画像詳細を自動的に見つけるステップと、
を含み、
前記第1の画像詳細及び前記第2の画像詳細は、欠陥らしい異常を特定するために、前記温度プロファイル内の前記温度値の局所最大探索ることで見つけ出されることを特徴とする、請求項4から請求項5のいずれかに記載のサーモグラフ試験方法。
【請求項7】
自動探索のために、前記第2のサーモグラフ画像において前記欠陥らしい異常を含有する前記表面詳細の予想される位置が、前記試験対象と前記記録装置との間の相対速度、前記運動の方向、及び前記第1の時点と前記第2の時点との間で経過した前記時間に基づいて特定され、好ましくは、前記相対速度、特に前記試験対象の前記速度が測定されることを特徴とする請求項4、請求項5又は請求項6に記載のサーモグラフ試験方法。
【請求項8】
試験対象の表面付近の欠陥の局所的解像検知及び識別のためのサーモグラフ試験装置であって、
欠陥により影響を受ける欠陥領域と欠陥がない前記試験対象の材料との間に熱的不均衡を生じさせ、欠陥領域の欠陥がない周辺領域は加熱されないか又は前記欠陥領域より強く加熱されないように、前記試験対象(180)の部分を加熱するための加熱装置(120)と、
ある時間間隔で連続する一連の少なくとも2つのサーモグラフ画像を記録するための少なくとも1つの記録装置(120)と、
前記サーモグラフ画像のサーモグラフ・データを評価するための評価装置と、
を含み、
前記試験装置は、請求項1から請求項7のいずれかに記載の前記方法を実行するように構成されることを特徴とするサーモグラフ試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験対象の表面付近の欠陥の局所的解像検知及び識別のためのサーモグラフ試験方法、及びその試験方法を実行するのに適した試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性材料の半製品、例えば金属のビレット、棒鋼、棒、管、若しくはワイヤなどは、高級最終製品の出発原料としての役割を担い、非常に高い品質要件を満たさなければならないことが多い。材料の欠陥、特に、ひび、空隙、若しくは材料における他の不均質性のような表面近くの欠陥に対する試験は、これら製品の品質管理の重要な部分を形作る。この試験の際には、一般的に、高い局所解像度を用いてできるだけ完全に材料の表面を試験しようと尽力され、この試験は、製造チェーンのできるだけ早期に可能な場所で実行され、試験の結果に基づいて、発見された欠陥のタイプに応じて、その欠陥がさらにプロセスを進めるのに重要ではないかどうか、又は研削など再加工により少なくとも修理できるか、又は材料を廃棄すべきかなどを判断する。
【0003】
渦電流技術又は漂遊磁束技術等の、こうした試験に用いられることが多い磁気的方法とは別に、近年では、サーモグラフ試験方法もまた、試験対象の表面付近の欠陥の局所的解像検知及び識別のために用いられている。
【0004】
既知のサーモグラフ試験方法において、導電性試験対象、例えばビレット鋼は、圧延後に、高周波交流電流下にある誘導コイルを通過して、試験対象の表面近くに電流を誘導する。励磁起周波数に依存する表皮効果のために、試験片の表面近傍における電流密度は、試験対象内部よりも大きい。誘導された電流の断面内にある、例えばひびなどの微細構造障害は、電気抵抗として動作し、試験片の材料において最も小さい(電気)抵抗の経路を見出そうとする電流の向きを変えさせる。このことは、より高い電流密度と、従って欠陥の領域における電流の「狭窄」における、より大きな電力損失とをもたらす。局所的に限定されるが、微細構造障害(microstructural disturbance)に直接隣接する影響を受ける領域が、影響を受けない周辺領域と比較してより高い温度を呈するため、微細構造障害の領域において生じる電力損失は、発生する熱により認められる。熱感知カメラ又は熱放射に対して敏感な他の好適な記録装置を用いて、表面付近の欠陥の存在を、記録装置により記録される表面領域内の局所温度値に基づいて、局所的に解像する方法で検知することができる。記録された表面領域の視覚的表示も与えられ、サーモグラフにより特定された異常は、下流の評価システムにより自動的に評価される。
【0005】
特許文献1は、サーモグラフ試験方法及びその試験方法を実行するために組み立てられた試験装置を開示する。この試験装置は、例えばビレット鋼など、誘導コイルを通って流れる金属の試験対象の表面領域を加熱するための誘導コイルと、通過するビレット鋼の温度プロファイルを測定するための1つ又は複数の赤外線カメラとを有する。測定結果は、発見される欠陥にマーク付けするために、カラー・マーキング・システムを作動させるために用いられる。赤外線カメラにより記録されたサーモグラフ画像(熱画像)を評価するため、この説明により、熱画像を分析し、所定の閾値を超える温度差を識別し、これらを欠陥として報告する評価ソフトウェアが提供される。評価ソフトウェアは、閾値を超える温度差の長さ及びサイズの両方に関して、欠陥を評価する。評価ソフトウェアは、欠陥リストから最小欠陥長を下回る長さの欠陥を除去することができ、こうした欠陥がそれ以上欠陥として見つからないようにする。しかしながら、欠陥は最小欠陥長を下回るが、温度差のサイズは閾値を上回り、それが温度差の最大サイズを上回る場合でも、こうした欠陥は、やはり欠陥として報告される。このように、欠陥は、欠陥長及び周辺領域に対する温度差に応じて識別される。
【0006】
周辺領域に対して2Kより大きい温度プロファイルの上昇は、一般的に欠陥とみなされるが、閾値温度はより低くなるように選択することもできる。周辺領域に対して5K又はそれより大きい温度差は、欠陥として明確に識別される。
【0007】
実際には、評価される温度プロファイルは、一般的に、感知できるほどの振幅の干渉信号が上に重なる。干渉の可能性のある源は、試験対象表面の放射の程度の局所的変動、周辺領域からの反射、及び試験片の表面上の異物など、実際の試験運転において一般的に不可避な環境を含む。例えば、正方向プロファイル上の縁部は周辺領域と比較して温度が高いことが多いので、試験片の幾何学的形状により誤表示が生じることもある。典型的には、周辺表面と比較して、ひび様の欠陥で生じる温度差は、1K乃至10Kの規模のオーダーである。また干渉の振幅も、この規模のオーダーとなり得ることが分かっている。従って、干渉の振幅を低減させるための全ての可能な手段を講じてもなお、干渉が、微細構造的傷すなわち欠陥と誤って分類されるのを排除することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許第10 2007 055 210 A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が対処する問題は、従来技術と比較して、サーモグラフ信号の評価における改善した干渉の抑圧を提供する、サーモグラフ試験方法及びその方法を実行するために好適なサーモグラフ試験装置を提供するものである。特に、実際の欠陥と、他の干渉に起因する擬似欠陥とを区別する際に選択性を改善することが意図される。好ましくは、欠陥の検知及び識別の信頼性が高められた状態で、導電性材料の細長い対象の表面全体を試験することが意図される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この問題及び他の課題を解決するために、本発明は、請求項1に記載の特徴を有するサーモグラフ試験方法と、請求項10に記載の特徴を有するその方法を実行するために組み立てられたサーモグラフ試験装置とを提供する。従属請求項において有利な進展が特定される。全ての請求項の表現は、記載の内容を参照している。
【0011】
試験方法において、試験対象の試験される部分は、加熱装置の作用に曝される。以下、このことは略して「加熱(heating up)」とも呼ばれる。この場合、加熱エネルギーは、欠陥により影響を受ける欠陥領域すなわち傷のある場所と欠陥がない試験片の材料との間に熱的不平衡が生じるように誘導される。傷のある場所、つまりこの場合の欠陥領域は、例えばひびなどの実際の傷と、直接隣接する周辺領域とを含む。欠陥のない周辺領域は、加熱装置の作用下で温度を保持することができる、つまり加熱されないか、又は、傷のある場所よりも激しく加熱されないということである。
【0012】
金属ビレット、棒鋼、棒、ワイヤ等のような導電性試験対象の場合、例えば加熱プロセスのために、誘導方法を用いることができる。試験対象の欠陥領域への熱エネルギーの入力は、超音波を用いて行うこともできる。
【0013】
熱伝播段階において、一連の2又はそれ以上のサーモグラフ画像が、互いに時間間隔をおいて記録される。熱伝播段階は、局所的に加熱された欠陥領域から周辺領域への熱流となったときに始まる。熱伝播段階は、加熱プロセスに続く冷却段階まで継続し、多くの場合冷却段階に一致する。しかしながら、加熱段階と冷却段階との間に厳しい境界がないことが多い。熱エネルギーは、加熱プロセス中に既に伝播できるので、依然として、熱伝播段階の開始は、局所的加熱の段階と時間的に重なり得る。
【0014】
サーモグラフ画像のそれぞれは、この場合、熱伝播の際の異なる時点においてサーモグラフ画像により記録された試験対象の表面領域における局所温度分布を表す。例えば熱感知カメラなどの、サーモグラフ画像を記録するために設けられた記録装置及び試験対象が静止状態にあるとき、異なる時点で記録された試験対象の表面領域は同一であり得る。試験対象と記録装置との間に相対運動がある場合、表面領域は、互いに対して空間的にオフセットされる。
【0015】
位置的に適正に割り当てられた温度プロファイルは、一連のサーモグラフ画像から決定されるが、互いに位置的に適正に割り当てられた温度プロファイルの各々は、試験対象の表面の同じ測定領域に割り当てられる。「測定領域」という用語は、ここでは試験対象の座標システム内に固定位置を有する一次元又は二次元で広がる領域を指す。多くの測定位置が、測定領域内に存在する。
【0016】
「温度プロファイル」という用語は、温度プロファイル内の異なる位置又は場所が、それぞれの位置における温度を表す測定変数の値をそれぞれ割り当てられた、局所的解像プロファイルを指す。温度プロファイルは、温度プロファイル内の位置への温度値の依存を説明する、位置関数として理解することができる。温度プロファイルは、スペクトル線変化図のように、多少狭い、ほとんど線形の領域に関するものであり得る。また、温度プロファイルは、2Dプロファイルつまり領域プロファイルに関するものであることもあり、次いで、所定の形状及びサイズの一片の領域における温度値の局所分布は、温度プロファイルにより説明される。温度プロファイルの異なる位置に割り当てられた測定変数は、「温度値」と呼ぶことができる。このことは一般に、直接温度を測定することを必要としないが、例えば、それぞれの位置により放射される熱放射の強度つまり振幅を測定することを必要とし、これをサーモグラフィにおいて通例の手段によりプロファイル位置の局所温度に変換することができる。
【0017】
この方法で、多数の温度プロファイル(少なくとも2つ)が決定され、冷却プロセス中の異なる時点における同一の測定領域内の温度の局所変化を表す。次いで、温度値の経時的変化が、温度プロファイルによって記録された測定領域の多くの測定位置について、温度プロファイルから定量的に求められ、局所温度値の経時的発現が、測定領域の多数の測定位置について得られるようにする。次いで、経時的変化は、測定領域における熱流を特徴付けるのに適した少なくとも1つの評価基準に基づいて評価される。
【0018】
本方法において、温度プロファイルにより表わされる温度の局所的変化に関する温度プロファイルのみならず、その経時変化も分析される。温度プロファイルのシーケンス又は一連の温度プロファイルが、表面における所定の測定領域及び所定の時間範囲について取得される。本方法の本質的な態様は、熱流、すなわち温度プロファイルの経時的発現の動的挙動及びその評価又は解釈を含んでいることである。
【0019】
従って、別の形態によると、好適な試験対象の表面付近の欠陥の検知及び識別のための局所解像熱流サーモグラフィの変形の使用が提案され、試験片の表面に見られる温度の局所分布の経時的発現が、特定され、評価される。とりわけ、このことは、横方向の熱流を定量的に記録し評価することを含む。
【0020】
従来技術と比較すると、本方法は、欠陥に起因する温度効果と熱流により生じたものではない効果とを区別する改善された能力を可能にするので、例えばひび又は微細構造障害などの欠陥の分類がずっと確実に行われる。さらに、決定的である、プロファイル内の温度信号の振幅又は強度だけではなく、温度信号が時間軸においてどのように動的に挙動するかにもよるため、信号振幅が小さい場合でも、サーモグラフ情報を評価する能力が改善される。このことにより、干渉振幅(探している欠陥に起因しないもの)が有用な信号振幅より大きい場合でも、干渉抑制が相当改善される。本明細書においては、有益信号振幅とは、微細構造障害により生ずる信号振幅を指す。
【0021】
本試験方法により、熱の突然の局所的に限定された流入後の時空間的熱伝播を記録し、定量的に評価することができる。簡単に言えば、時空間的熱伝播は、潜在的欠陥の領域内に集まった熱が、時間と共に試験対象の材料の、周辺のより低温の領域に流れ込むように発生する。この流れ込みは、励磁時における温度プロファイルの振幅が時間と共に減少する限りにおいて、横方向表面の温度分布により明らかにされるが、励磁位置の直接近傍において温度が顕著に上昇する。従って、これらの条件下においては、温度プロファイルの形状は、時間と共に特徴的に変化する。一方、例えば表面反射など、最も頻繁に生じる干渉の影響は、その局所的特性については経時的に全く変化しないか、又は僅かな変化のみであり、及び/又は典型的な熱流挙動からは明確に逸脱する経時的変化(例えば、反射の短い閃光)を示す。従って、こうした干渉の影響は、その典型的な時空間的挙動に基づいて、実際の欠陥と明確に区別することができる。実際に、幾つかの干渉の影響は、動的時空間的挙動により温度プロファイルにおいて明らかにされるが、これは、干渉によって影響を受けない熱伝導性材料内の欠陥の周辺領域で生じる時空間的熱伝播とは一般的に明確に異なる。従って、温度プロファイルの時空間的挙動を、固体における熱伝播又は熱拡散の原理の側面から分析する評価は、従来の方法と比較して、より改善された選択性及び干渉抑制を提供する。
【0022】
従って、評価は、記録されたサーモグラフ・データとシグネチャとの比較の評価を含むものとしても説明され、シグネチャは、特に熱の局所的集中の後で、熱的平衡を再確立しようとする固体における時空間的熱伝播の記述である。
【0023】
予備評価ステップにおいて、欠陥に起因し得るが必ずしもそうではない、欠陥らしい異常が温度プロファイルにおいて明らかにあるかどうかについて、温度プロファイルを自動的に分析することが好ましい。欠陥らしい異常の識別において、温度プロファイルの内の温度値の局所最大を探すことが好ましい。ここで、局所最大は、局所最大を直接取り囲む領域におけるプロファイル位置における温度よりも明らかに高い温度の、温度プロファイル内の場所に対応する。例えばひび試験において、識別ステップは、他のより低温の周辺領域において、実質的に狭く高温の場所を見つけることが意図される。この識別ステップにおいては、例えば周辺領域の一方の側から周辺領域の他方の側までの短い距離にわたって、言わば、局所最大を、温度が急激に又は段階的に上昇又は下降するものと仮定する縁部位置と区別するために、適切な画像処理フィルタ・ルーチンを用いることができる。一般的に、この目的のために、異なる基準に基づいて動作する2つ又はそれ以上のフィルタ・ルーチンを用いて、局所最高温度に明らかに起因する画像位置(ピクセル又はピクセル群)を識別することができる。
【0024】
次に、評価は、局所温度最大値が見つかった領域に集中することができる。方法の変形において、温度プロファイルの温度値の局所最大の領域における温度値の振幅の経時的変化を、評価基準として評価する。これは、例えば、局所最大の領域及びその近傍における冷却速度を求めるために用いることができる。他の影響を受けない周辺領域内の、ひびなどの微細構造障害がある領域における冷却速度は、熱拡散の原理により良好に説明することができ、結果として、信頼できる評価基準として使用できることが分かっている。従って、ひび及び他の欠陥は、典型的な冷却速度のみに基づいて、欠陥に起因しない障害と区別できることが多い。
【0025】
代替的に又は付加的に、評価において、温度プロファイル内の温度値の局所最大の領域における熱容積濃度値(heat volume concentration value)を求めることができ、かつ、熱容積濃度値の経時的変化を評価することができる。熱容積濃度値は、局所最大の熱量が、直接取り囲む領域と比べてどのように関連するかの尺度である。この熱容積濃度値が時間と共に低下する場合、例えばひびの周辺領域で典型的なように、熱は周辺領域に流れ込む。一方、局所最大が微細構造障害又はひびに起因しない場合、熱濃度値は、著しく異なる挙動を示すことがあり、加熱プロセスが終了した後、熱濃度値が初めは上昇し続けることさえもあり得る。次いで、これは、局所温度最大は、ひび等に起因しないことの表示である。
【0026】
好ましい実施形態においては、計算された特性変数としての経時的変化の評価のために適切な時間関数を十分な精度で求めることができるように、時間的に互いに連続して記録された少なくとも3つの温度プロファイルを一緒に評価し、適切な数の補間場所を取得する。一般的に、4乃至10の温度プロファイルが一緒に評価され、時間範囲内に十分な数の補間位置があり、欠陥とアーチファクトとを確実に区別できる。
【0027】
代替的に又は時間関数から特徴変数を求めて評価することに加えて、画像要素(ピクセル)又は画像要素の群(ピクセル群)に基づいて、温度プロファイル内の温度値の経時的変化を行うことも可能である。次いで、その結果、時空間的シグネチャに得るために、相関関係がもちこまれる。一般的に、信号特性と固体における熱伝播の理論的原理との比較のための寸法の数字又はデータを可能にする信号評価のあらゆる変形を適用することができる。例えば、時空間のスペクトル線変化図、シーケンスの記録、領域片、任意の所望のピクセル構成又はピクセル・パターンを用いることができる。重要なことは、空間的及び時間的側面を統合して検討すること又はこれらを含ませることであり、それなくしては、欠陥の確率について信頼できる記載を作成することはほとんどできない。
【0028】
試験対象及びサーモグラフ画像を記録するための記録装置の両方が静止している試験装置において本試験方法を用いることができる。このことは、時間的に連続して記録されたサーモグラフ画像における同じ測定領域は、サーモグラフ画像における同じ画像領域(同じ画像座標)にそれぞれ対応するので、温度プロファイル相互の位置的に適正な割り当てをかなり単純化する。
【0029】
しかしながら、好ましい実施形態において、本試験方法は、例えば、棒鋼、管、ワイヤ又は同様なものなどの細長い試験対象を試験するために用いられる。細長い試験対象を試験するために、試験対象とサーモグラフ画像を記録するための記録装置との間で、細長い試験対象の長手方向に対して便宜的に平行に延びる、移動方向に平行な相対運動が生成される。この場合、記録装置は静止しており、試験対象は記録装置に対して動かされることが好ましい。相対運動は、時間的に連続して記録されたサーモグラフ画像によりそれぞれ記録された表面領域が、移動方向に平行な特定の距離だけオフセットして配置されるように生成される。この場合、時間的に直接連続して記録された表面領域は、試験中の表面の各々の位置が、2つ又はそれ以上のサーモグラフ画像により記録されるように部分的に重なり合うことが好ましい。その結果、長手方向に移動する細長い試験対象の表面全体の試験が可能になる。試験片の表面の各位置が、例えば4乃至20、又はそれ以上のサーモグラフ画像など、3つ又はそれ以上のサーモグラフ画像において存在し、この位置は、相対運動のために、サーモグラフ画像の各々における異なる地点(画像位置)にあることが好ましい。
【0030】
異なるサーモグラフ画像の温度プロファイルの位置的に適正な割り当ては、移動する試験対象の試験における特定の問題を提示する。本方法の変形において、一連のサーモグラフ画像の、第1の時点で記録された第1のサーモグラフ画像は、画像処理により分析され、欠陥らしい異常をもつ第1の表面詳細のサーモグラフ・データを含有する、少なくとも第1の選択済み画像詳細を識別する。次いで、同一の表面詳細が、第1の画像詳細に対応する第2の画像詳細において自動的に見つけられる。第2の画像詳細は、第1のサーモグラフ画像からある時間間隔をおいた後の第2の時点で記録された、第2のサーモグラフ画像内に位置する。次いで、第1及び第2の画像詳細のサーモグラフ・データの統合評価が行われ、位置的に適正な割り当てを実現する。
【0031】
自動探索のために、表面詳細が第1の時点と第2の時点との間を移動方向にカバーしている経路を特定するために、第2のサーモグラフ画像における欠陥らしい異常を含有する表面詳細の予想位置が、試験対象と記録装置との間の測定された、若しくは幾つかの他の既知の相対速度と、第1の時点と第の時点との間で経過した時間間隔とに基づいて特定されることが好ましい。このことにより、第2のサーモグラフ画像の評価を、初めから、その時以前に記録された第1のサーモグラフ画像の分析において欠陥らしい異常が見つけられた表面詳細に集中して行うことが可能になる。
【0032】
欠陥らしい異常を見つけるために、第1のサーモグラフ画像において少なくとも1つの線形又は面状の温度プロファイル内の温度値の局所最大を探すことが望ましい。この目的のために、好適な画像処理フィルタ・ルーチンを用いることができる。
【0033】
本発明はまた、試験対象の表面付近の欠陥の空間解像検知及び識別のための、方法を実行するために設定されたサーモグラフ試験装置にも関連する。この試験装置は、
欠陥により影響を受けた欠陥領域と欠陥がない試験片の材料との間に熱的不均衡を生じさせるように試験対象の部分を加熱するための加熱装置と、
ある時間間隔で連続する少なくとも2つの一連のサーモグラフ画像を記録するための少なくとも1つの記録装置と、
サーモグラフ画像のサーモグラフ・データを評価するための評価装置と、
を含み、
この評価装置は、温度プロファイルにより記録された測定領域の多数の測定位置について温度プロファイルからの温度値の経時的変化を特定するため、かつ、測定領域における熱流を特徴付ける少なくとも1つの評価基準に基づいて経時的変化を評価するために、サーモグラフ画像から位置的に適正に割り当てられた温度プロファイルを特定するよう構成される。
【0034】
記録装置は、その画像情報が一緒に評価される多数の画像列を有する、熱放射に敏感な領域スキャンカメラであることが好ましい。
【0035】
上記の及びさらなる特徴は、特許請求の範囲からだけでなく、説明及び図面からも明らかとなり、ここで個々の特徴は、いずれの場合も、本発明の実施形態及び他の分野において、それ自体で又は小結合の形態の複数として実現し、有利で本質的に保護可能な実施形態を構成する。例示的な実施形態は、図面において示され、以下により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】貫流方法による導電性材料の細長い試験対象のサーモグラフ試験用の試験装置の実施形態を示す。
図2】試験対象の移動方向に対して直角に記録された温度プロファイルの一例を示す。
図3A】拡大された状態で示され、欠陥を含む、選択された画像詳細と共に、熱探知カメラの記録領域内にある動く試験対象の加熱部分の概略的な平面図を示す。
図3B】表面の同じ領域上の、異なる時点で記録された温度プロファイルの位置的に適正な統合評価のための方法の説明である。
図4A】温度の局所温度最大の領域における温度プロファイルの部分の、ひびに起因しない障害の領域における温度プロファイルの位置的に適正に割り当てられた詳細を示す。
図4B】温度の局所温度最大の領域における温度プロファイルの部分の、表面付近のひびの領域における対応する温度プロファイルの位置的に適正に割り当てられた詳細を示す。
図5A】局所温度最大の領域における熱流を特徴付ける、ひびに起因しない障害に対する特徴変数の経時的変化を示す。
図5B】局所温度最大の領域における熱流を特徴付ける、表面付近のひびに対する特徴変数の経時的変化を示す。
図6A】反射に起因する局所温度最大をもつ温度プロファイルからの詳細を示す。
図6B図6Aに示される局所温度最大の領域における温度の局所変化の経時的発現を示す。
図6C】局所最大の領域における熱流を特徴付ける2つの特徴変数の経時的発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1は、貫流方法による導電性材料の細長い試験対象の表面全体を試験するための、サーモグラフ試験装置100の実施形態の概略図を示す。本例の場合において、試験対象180は、矩形の断面を有する鋼ビレットであり、これは圧延装置(図示せず)からもたらされ、例えばローラコンベヤなどの搬送装置(図示せず)を用いて、長手方向軸182に対して平行に延びる移動方向184(矢印)において、0.1m/秒から1.5m/秒までの範囲からの概ね一定の貫流速度Vpで搬送される。熱間圧延後、鋼ビレットは明るい表面ではなく、いわゆる「黒皮」表面を有し、その表面温度は、典型的には0°Cから50°Cまでの間である。従って、サーモグラフ試験及びそれにより記録されたサーモグラフ・データの評価は、試験片の表面185を顕微鏡レベルで試験することにより説明される。対応する試験が、試験対象の他の3つの表面についても同時に実施される。
【0038】
試験装置は、加熱装置の有効領域に入る試験対象の部分を加熱するための誘導加熱装置110を有し、欠陥に影響を受ける欠陥領域と欠陥のない試験対象の材料との間で熱的不平衡が生じるようにする。加熱装置は、貫流方向に対して直角に位置合わせされたコイル平面をもつ、試験対象用の平型貫流コイルとして設計された誘導コイル112を含む。誘導コイルは、交流電圧発生器115に電気的に接続され、この交流電圧発生器は、その作動のために、試験装置の中央制御装置130に接続される。誘導コイル112が適切な周波数の交流電圧で励磁されると、渦電流が試験対象の表面付近の領域に誘導され、試験対象が誘導コイルを貫流する際に、表面付近の領域を周囲温度より高く加熱する。加熱プロセスは、通常、表面の欠陥の無い領域においては、相対的に均一である。しかしながら、ひび、割れ、空隙又は同様なものなどの微細構造障害が誘導された電流の断面に生じた場合、これらは電気抵抗として作用し、電流を偏向させる。このことは、より高い電流密度を生じさせ、結果的に電流の狭窄において電力損失をもたらす。局所的に限定されるが、微細構造障害に直接隣接する欠陥に影響を受けた領域は、障害のない周辺領域と比較してより温度が高いため、この微細構造障害における電力損失は、熱の付加的な発生により明らかにされる。従って、より離れた周辺領域のより低い温度レベルに対して、局所的加熱がみられる。ひびの領域と、それに直接隣接する障害のない周辺領域の材料との間の典型的温度差は、約1Kから10Kまでの大きさのオーダーであることが多い。これらの局所的な温度上昇とその時空間的発現は、表面付近の欠陥の局所的解像検知及び識別のための試験方法に用いられる。
【0039】
本例の場合において、発電機は、最大150kWの電力出力を有し、10kHz乃至350kHzの範囲の交流電圧周波数が用いられる。これ以外の仕様をもつ加熱装置も同様に用いることができる。例えば、交流電圧発電機は、最大出力が数MWの電力出力で運転することができるが、これは、例えばより大きい寸法(例えば800mmより大きい直径)の試験対象の場合に有利である。周波数範囲は、測定作業に適合させることができる。例えば、渦電流の貫入深度は、周波数が上昇すると減少し、結果的に測定量が減少するので、最大1MHzの周波数は、表面付近の特に小さい欠陥を見つけるのに有用であり得る。より高い周波数もまた、周辺領域に対して欠陥領域を素早く局所的に加熱するので、高電気抵抗及び1に近い磁気貫入性をもつ導電性鋼を試験する際にも有利である。
【0040】
加熱装置は、試験対象/欠陥を含む全体システムを熱的不均衡の状態にする。本試験方法及び本試験装置を用いて、位置領域及び時間領域の両方において、システムが熱的均衡の状態に抵抗する状況を観察することができる。
【0041】
この目的のために、試験装置は、最大毎秒100画像(毎秒100フレーム)の高頻度画像で二次元サーモグラフ画像を記録する、熱放射に敏感な局所解像記録装置120を有する。以下で「熱感知カメラ」とも呼ばれる記録装置は、中央制御装置130に接続されて、画像の記録を制御し、サーモグラフ画像において取得されたサーモグラフ・データの引き継ぎ及び評価を行う。この制御装置内には、異なる基準に基づいてサーモグラフ画像から特定されるサーモグラフ・データの評価の目的のために設定されるコンピュータベースの画像処理システムが統合される。このような熱感知カメラは、局所温度値に基づいて又は局所的に特定された熱放射に基づいて、微細構造障害の存在及びその特性の一部の視覚表現を提供し、関連した評価システム内の好適な画像処理手段を用いてこれら異常を自動的に評価することができる。
【0042】
熱感知カメラ120は、領域スキャンカメラであり、ここでは画像フィールド122とも呼ばれ、本例の場合、外側縁を超えて、それに面する試験片の表面185の全幅をカバーする、矩形の記録領域122を有する。本例の場合、熱感知カメラ120は、解像度640×512ピクセル(画像要素)でサイズ270mm×216mmの画像フィールド122をカバーする。この場合の画像要素(ピクセル)は、試験片の表面185上の直径0.5乃至0.8mmの比較的小さい矩形の表面詳細に対応する。領域スキャンカメラにより記録されるサーモグラフ画像は、試験対象の長手方向(y方向)に対して実質的に直角に延びる多くの線と、長手方向に実質的に平行に(すなわちy方向に)延びる列とからなる。サーモグラフ画像は、特に長手方向の傷を確実に検出するために、列ごとに評価される。熱感知カメラの列と関連付けられた直形性質の狭い測定領域124は、欠陥188に対して横断方向に延びる。この測定領域は、測定線と呼ばれることも多い。
【0043】
図1に示される時間tの時点で、表面付近の欠陥188は、長手方向ひびの形態であり、誘導コイル112に面した記録領域の入り側の近傍において、試験対象の長手方向に多かれ少なかれ平行に延びる。その後の時間t>t及びt>tの時点における同じ長手方向ひびの位置は、点線で表示され、全く同一の欠陥又は全く同一の表面詳細は、異なる時点において熱感知カメラの記録領域122に配置することができるが、サーモグラフ画像内の画像位置は、貫流速度Vに依存する移動方向184における特定の距離、及びある時間間隔において連続して生じるサーモグラフ画像の記録時間の間の時間間隔によって、移動方向184においてそれぞれ互いに対してオフセットされることを示す。
【0044】
熱感知カメラに使用される画像記録頻度は、試験片の表面185の各表面部分が、例えば、互いに時間間隔をおいて記録された少なくとも5、又は少なくとも10、又は少なくとも15などの、多数のサーモグラフ画像の異なる位置で現れるように、試験対象の貫流速度に適合される。
【0045】
制御装置に接続された表示及び操作ユニット140は、サーモグラフ画像から特定されたデータ及び関係を表示することができる画面を有する。キーボード及び/又は他の入力手段を用いて、試験装置は、様々な試験作業のために便利に設定し、オペレータにより操作することができる。
【0046】
また、所定の時間に試験対象の運動速度Vを求めるための速度測定装置150も、制御装置130に接続される。本例の場合、この装置は、位置エンコーダとして働き、レーザ照射を用いて非接触式に動作する。他の実施形態において、例えば、試験片の表面上を転がる車輪を備えた接触型位置エンコーダを提供することができる。
【0047】
サーモグラフ試験方法の精度は、サーモグラフによって記録された試験片の表面の放射の程度の変動により大きく影響を受け得る。結果物としての負の影響をできるだけ最小にするために、誘導コイルを通過する前に加湿装置160を用いて、試験片の表面を例えば水などの液体で均一に濡らすなど、試験片の測定面の放射の程度の積極的な均質化が行われる。この技術は、主として、放射の程度の局所変動に起因する擬似表示の発生を回避するために、最大50°Cの表面温度において有効であることが分かっている。
【0048】
試験装置により異常が明らかに欠陥と識別されると、制御装置130に接続された自動マーキング装置170を用いて、染料などを噴霧することにより欠陥にマーク付けすることができ、試験片の障害のある表面の可能な再加工又は意図的にひどく障害のある部分の分離が可能である。
【0049】
以下では、高貫流速度で試験装置を貫流する試験対象の表面付近の欠陥の局所解像検知及び識別のための試験装置を用いて実行することができる試験方法の好ましい変形を説明する。試験対象の表面に近い領域は、誘導コイル112により誘導加熱され、局所最高温度は、ひび及び他の微細構造障害の領域において発生する。試験対象の対応する部分が誘導コイルを通過した後、これらの領域は再び冷却される。記録装置120は、運動の方向において誘導コイルの直後に設けられ、この冷却段階において表面領域を記録する。
【0050】
第1の方法のステップにおいて、記録領域122内に移動された試験片の表面の部分における熱的異常が識別される。この目的のために、入り側に割り当てられた対応する列が評価され、例えば、測定線124に沿った貫流方向に対して直角な、局所解像温度プロファイル(線プロファイル)を得ることができる。図2は、例としてこのような温度プロファイルを示す。運動の方向(y方向)に対して直角に、x方向に延びる線形測定領域内の測定場所の位置POSが、画像フィールドの列の対応するピクセル(画像要素)の数を示すことにより、X軸上に示される。y軸は、場所に割り当てられた熱的放射の振幅AMPを示し、本例の場合、絶対表面温度を摂氏で示す。外側縁(概ねピクセル番号90と540)の間の表面温度は、55℃から60℃までの間の範囲にあり、局所的に数Kだけ変化することが明らかである。温度プロファイルは、概ねピクセル番号150における第1の局所温度最大ST及び概ねピクセル番号495における第2の局所温度最大DEFの2つの異常を含む。両方の局所温度最大において、直接の周辺領域に対する温度差ΔTは、およそ6乃至7Kである。評価は、後により詳しく説明するが、第1の局所温度最大STは、ひびその他の微細構造障害に起因しない干渉によるものであり、第2の局所温度最大DEFは、実際に表面付近のひびにより生じたことを示す。温度差ΔTの大きさは、実際の微細構造障害と、微細構造障害に起因しない他の異常とを区別するための確実な基準ではないことが明らかである。
【0051】
各サーモグラフ画像は、x方向において局所的に解像する多数のこうした温度プロファイルを含む。局所温度最大の発生は、画像処理評価ソフトウェアによって自動的に記録され、好適なフィルタ・ルーチンを用いて、温度プロファイル内のピクセル又はピクセル群の値を隣接するピクセル又はピクセル群の温度値と比較し、この比較に基づいて、そのような局所温度最大を明瞭に識別し、それらを、例えば縁部における急激な温度低下などの他のアーチファクトと区別することができる。フィルタ処理において、評価ソフトウェアは、それぞれ多数の隣接する温度プロファイルを含む、運動の方向に対して横断方向に延びるストリップ内で列ごとに動作する。図3は、欠陥188を含むこうしたストリップ125を示す。この評価において、長手方向におけるひび様の欠陥の存在の確率は、ストリップ内に多数の隣接する温度プロファイルにおいて、顕著な高さの局所温度最大がおよそ同じピクセル地点で生じる場合に増大する。
【0052】
試験方法は、空間的温度プロファイル、つまり局所温度分布を表すこうした温度プロファイルの評価に基づくのみでなく、それらの経時的変化の分析にも基づく。この組み合わせは、ここでは時空間的分析(spatial−temporal analysis)とも呼ばれる。この目的のために、単一の温度プロファイルを分析するだけでは十分でなく、代わりに、互いにある時間間隔で記録された多数の温度プロファイルが、表面の同じ測定領域に対して、位置的に互いに適正に設定され、温度分布の発現の動的時空間的挙動を分析することができる。
【0053】
ここで説明される試験方法の実施形態において、パターン検知の特別な変形を用いて、後で記録されるサーモグラフ画像における欠陥を表す可能性がある、前の時点のサーモグラフ画像において識別された異常を位置的に適正に再配置し、それにより、熱感知カメラに対する試験対象の運動にも関わらず、同じ測定領域から多数の温度プロファイルの時系列を取得する可能性がもたらされる。この目的のために、早期における第1のサーモグラフ画像の、特定の表面詳細と関連したストリップ125が列ごとに評価され、異常の存在、特に局所温度最大について分析される。個々の列の温度データに基づいて、異常を校正する局所温度最大の領域を内包する、隣接領域が計算される。欠陥188を内包する選択された矩形の画像詳細128は、図3の左のストリップ125内及び右の拡大表示内に示される。選択された画像詳細128の局所座標、すなわちサーモグラフ画像内の位置は、第1のサーモグラフ画像の記録時において欠陥188を含有する試験対象の関連した表面部分の位置を示す。空間的に隣接するピクセルを含む選択された画像詳細内に含有される画像情報は、画像処理ソフトウェにおいてはバイナリ・ラージ・オブジェクト(BLOB)として取り扱うことができ、後で記録されるサーモグラフ画像内に再配置することができる。
【0054】
欠陥188の周りの領域の、データ構造が表す「パターン」に基づいて、時間間隔をおいて記録された後のサーモグラフ画像において、同じパターンを探し、探したパターンの計算に対する第1のサーモグラフ画像の分析に用いられた表面詳細にできるだけ位置的に適正に対応する画像詳細を見出す。特定の表面詳細に対応する画像詳細を、少なくとも5乃至10の連続して記録されたサーモグラフ画像において探し、次にその画像情報を一緒に評価することが好ましい。
【0055】
後に記録されたサーモグラフ画像における検索によりカバーされる領域を空間的に限定し、それにより評価をスピードアップするために、後に記録されたサーモグラフ画像において欠陥らしい異常を含有する表面詳細の予想される位置が、速度測定システム150を用いて測定された、試験対象の運動速度V、移動方向184、及びサーモグラフ画像の個々の記録時間の間に経過した時間間隔に基づいて特定され、各々の場合について、関心のある表面詳細が、それぞれ第1の分析と後でそれぞれ得られたサーモグラフ画像の記録時間との間でカバーした距離を、これからそれぞれ計算する。貫流速度が僅かに変動する場合でも、関心のある表面部分又はこの部分と関連したデータは、このように位置エンコーダの測定精度(ここでは、例えば約±1mm)の範囲の精度で再び発見できることが分かっており、これは、本例の場合、試験片の表面における約±2ピクセルの大きさのオーダーの位置決め精度に対応する。次いで、ソフトウェアを用いて、トラッキングにより、すなわちパターン認識により、位置的に適正な重ね合わせのための最終修正を計算により行い、これにより、試験片の表面において約±1ピクセル又は±0.5mmの有効位置精度を達成することができる。
【0056】
この手法は、実際には、通常、試験条件が理想的ではないという事実を考慮に入れる。例えば、試験材料と搬送システムとの間の滑りの結果、試験材料の曲がり及び/又はロールに巻き取られる際の試験材料の速度低下、並びにその後の速度上昇によって速度の変動がもたらされる場合があり、他の場合は位置の不正確さをもたらす。結果として生じる試験に対する問題は、速度測定、この測定に基づく欠陥により影響を受ける可能性がある表面部分の探索、及びその後の表面パターンの探索(トラッキング)の組み合わせにより回避される。
【0057】
次いで、時間的に連続して記録された画像詳細の各々において、潜在的欠陥の場所を超えて延びる1つ又はそれ以上の温度プロファイルを特定し、一緒に評価することができる。図3Bに示すように、温度プロファイルの場所がそれぞれ選択された画像部分内の同じ地点に位置し、位置的に適正に割り当てられた各々の温度プロファイルの各々が、試験対象の表面の同じ線状の測定領域に対応する場合、この測定領域は、潜在的な欠陥の位置を超えて延びる。このことを説明するために、図3Bの左側に、同じ表面詳細と関連付けられ、異なる時点t、t>t及びt>tにおいて記録された3つの画像詳細128、128’及び128”が示され、x方向に欠陥を超えて延びる温度プロファイルが、画像詳細の各々において特定される。右側の図の部分において、時間的に連続して記録された温度プロファイルが一緒に示され、x軸はx方向における位置POS(x)を示し、y軸は温度Tを示す。このように、動く試験対象上で、潜在的な欠陥の領域における時空間的熱伝播を非常に正確に特定することができる。
【0058】
温度プロファイルの各々は、欠陥に対して横断方向に延びる領域を表し、この領域において、欠陥は概ね中央に位置する。温度プロファイルの各々は、局所温度最大を有し、周辺領域に対するそのレベルは、時間の経過と共に低減し(例えば、温度差ΔTにより定量化される)、一方、位置ドメインにおける、例えば最大の半分のところの最大幅により与えられる局所温度最大の幅は、時間の経過と共に増大する。従って、時間的に連続して記録された、これらの位置的に適正に割り当てられた局所温度プロファイルにより、潜在的な欠陥の領域における時空間的熱伝播に関する定量的結論を導き出すことが可能により、以下のように評価することができる。
【0059】
図4は、図4A及び図4Bのそれぞれにおいて、多数の位置的に適正に割り当てられた温度プロファイルを一緒に示し、図の上部に示された温度プロファイルは、それぞれその下に示された温度プロファイルより前の時点に記録されたものである。図4Aは、障害STについての典型的な温度プロファイルを示すが、これは、およそピクセル番号7において局所温度最大をもたらすものの、表面付近のひびに起因するものではない。図4Bは、比較のために、ひび様欠陥DEFの領域からの位置的に適正に割り当てられた温度プロファイルを示し、ここでも局所温度最大はピクセル番号7の領域内にある。位置的に適正に割り当てられた温度プロファイルは、次いで、評価基準に基づいて分析され、温度プロファイルの時空間的発現により、温度分布の時空間的発現が、ひび若しくは他の微細構造障害の領域において、熱流により生じる予想される動的挙動に対応するかどうか、又は他の法則に従っているかどうかについて、比較的確実な結論を導くことが可能になる。
【0060】
評価基準又は特徴変数の1つは、温度プロファイル内の局所温度最大の位置における温度値の振幅AMPMである。熱伝播の動的挙動を評価するのに非常に信頼性が高いと分かっている別の特徴変数は、温度プロファイル内の温度値の局所最大領域における熱濃度値KONZである。図5は、図5Aにおいて、ひびに起因しない障害STに対する振幅AMPM、及び種々の時間増分tにおける濃度値KONZの経時的変化を示し、図5Bにおいては、表面付近のひびDEFに対する同じ時間窓における同じ特徴変数の経時的変化を示す。周辺領域に対する局所最大の位置における温度の周辺領域の温度差ΔTは、それぞれy軸上に示される。
【0061】
多数の試験において、ひびの領域においては、冷却速度つまり局所温度最大の位置における温度の経時的変化及び濃度の損失の両方とも比較的大きく、かつ、ひび又は他の微細構造障害に起因しない障害の領域において示され得る対応する値とは極めて異なることが分かっている。振幅AMPMにより表される温度最大、つまり局所最大の位置における温度については、加熱段階の完了後すなわち冷却プロセス中は、連続的に低下し、しかも低下速度は比較的大きいことが分かっている。本例の場合、連続して記録された少なくとも5つのサーモグラフ画像の領域における冷却速度が、冷却速度に対する所定の閾値より大きい場合は、ひびが存在する確率が高いと仮定される。熱容積濃度値KONZは、隣接する周辺領域と比較した、直接局所温度最大における熱量の比率の尺度である。熱濃度値が時間と共に低下する場合、これは、とりわけ、熱が周辺領域に向けて側方に流れていることの表示である。これは、例えばひびを有する場合であり、従って、観察された信号がひびの近傍の固体における熱伝播により生じたことのサインであると考えられる。
【0062】
一方、図5Aに基づいて説明される、ひびに起因しない障害の例の場合、熱容積濃度KONZは、ひびの場合よりも初めから低く、さらに、熱容積濃度値は、最初に、観察時間の初めにおいて上昇し、その後次第に低下する。最大振幅AMPMも最初に上昇し、その後比較的低い冷却速度で低下するが、これはひびの領域において予想される冷却速度よりも明らかに低い(図5B)。
【0063】
欠陥がある場合に熱流により生じる典型的挙動から熱容積濃度の時空間的挙動の他の変形が生じる場合もあり、ひび又は類似のものに起因しない障害の表示として用いることができる。例えば、熱容積濃度値は、比較的長時間にわたって概ね一定のままにとどまることができ、又は不均衡に上昇又は低下するように見える。
【0064】
これらの例は、温度プロファイルの時空間的発現の分析及び定量的評価により、温度プロファイル内に最初に見つかった局所温度最大の異なる原因を確実に区別することが可能になる。最初に見つかった異常の場合、図4B及び図5Bに関連して説明した特徴が原則として当てはまる場合、原因はひびとして分類され、適切な場合は、対応する表面部分がマーキング装置170によりマーク付けされる。他方、時空間分析が、ひび、空隙及び他の微細構造障害の典型ではない挙動を示す場合(例えば、図4A及び図5Aを参照されたい)、ひびは示されない。このように、高い信頼性をもって擬似表示を回避することができる。時空間的熱伝播を潜在的欠陥の領域内に含ませることは、検知における干渉の抑制及びサーモグラフ信号を用いた欠陥の識別に決定的に寄与する。
【0065】
図6に基づいて、例として、時空間的熱伝播の分析がどのように干渉抑制に寄与するかが説明される。この目的のため、図6Aは、温度プロファイルの詳細を示し、この温度プロファイルは、例えばピクセル455の領域内に、周辺領域に対して少なくとも10Kの温度差ΔTを有する極めて明確な局所温度最大を含有する。幾つかの従来の試験システムの場合、こうした表示は、自動的に深いひびの存在の明らかなサインと考えられ、これに応じて試験対象がマーク付けされ、おそらく廃棄される。しかしながら、熱伝播の時空間的分析は、ひびの心配はないことを示す。図6Bにおいて、異なる時点に対する局所最大の領域から位置的に適正に割り当てられた温度プロファイルを示す。図4のプロファイルと比較した特別な特徴は、最大の振幅を有するプロファイルが、前の時点tにおいて記録された明らかに小さい振幅を有するプロファイルよりも、後の時点(t>t)に記録されたことである。図6Cに示すように、異常は、局所最大の振幅(AMPM)及び熱容積濃度値(KONZ)の特徴変数の経時的変化から見て取ることもできる。両方の値は、時間と共に上昇するが、このことは、局所的に加熱されたひびの領域における熱伝播により説明することができない。本例の場合、図6Aに示される強力な局所温度最大は、試験片の表面の対応する位置における反射に起因し得る。温度プロファイルの経時的発現は、いずれの点でも、ひびの典型的な伝播挙動を示さないので、従って、こうした反射は、ひびとして分類されない。他方、反射が、従来のシステムによっては、ひびとして誤って解釈される可能性が高い。
【0066】
例としてここに説明された特徴変数に代るものとして又はこれに付加して、他の特徴変数を評価基準として用いることもできる。例えば、冷却速度の経時的変化など説明された時間関数の派生物も、この目的のために用いることができる。熱伝播は、本質的に、熱拡散方程式の解により説明できるので、ガウス曲線又は誤差関数を当てはめることにより、局所最大の領域における温度プロファイルの経時的発現を定量化することができ、これらの場合、うまく当てはめることによって、熱流により支配される熱伝播が存在するとの仮定が可能になるが、うまく当てはめられないと、他の原因が示唆される。また、温度プロファイルに対して、近似関数として多項式を当てはめ、多項式係数を分析することにより、探している欠陥(例えばひび)と重要ではない干渉(例えば反射)とを区別することができる。
【符号の説明】
【0067】
100:サーモグラフ試験装置
110:誘導加熱装置
112:誘導コイル
115:交流発電機
120:局所解像記録装置、熱感知カメラ
122:記録領域
124:測定線
125:ストリップ
128、128’、128”:画像詳細
130:制御装置
140:表示及び操作ユニット
150:速度測定装置
160:加湿装置
170:マーキング装置
182:長手方向軸
184:移動方向
185:試験片の表面
188:欠陥
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C