特許第6243235号(P6243235)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6243235-繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243235
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20171127BHJP
   B29B 15/10 20060101ALI20171127BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20171127BHJP
   D21F 1/24 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   C08J5/04CES
   B29B15/10
   B29B11/16
   D21F1/24
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-8881(P2014-8881)
(22)【出願日】2014年1月21日
(65)【公開番号】特開2015-137296(P2015-137296A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2017年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】595030354
【氏名又は名称】ケープラシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】林 浩正
(72)【発明者】
【氏名】花谷 誠二
(72)【発明者】
【氏名】山下 英明
【審査官】 福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−072154(JP,A)
【文献】 特開平09−094826(JP,A)
【文献】 特開平10−266087(JP,A)
【文献】 特開2005−265038(JP,A)
【文献】 特開2008−075185(JP,A)
【文献】 特開2013−197297(JP,A)
【文献】 特開昭54−006905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
B29B 15/08−15/14
C08J 5/04− 5/10
C08J 5/24
B29C 41/00−41/36
B29C 41/46−41/52
B29C 70/00−70/88
D21B 1/00−1/38
D21C 1/00−11/14
D21D 1/00−99/00
D21F 1/00−13/12
D21G 1/00−9/00
D21H 11/00−27/42
D21J 1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を不連続の繊維状補強材で強化した繊維強化熱可塑性樹脂シートを抄紙法によって製造する方法であって、
前記熱可塑性樹脂と前記繊維状補強材とを液状分散媒に分散させた分散液を、移動する多孔性支持体の抄造面上に連続的に供給しつつ、前記分散液を前記多孔性支持体の下側から吸引し前記分散液から前記液状分散媒を分離して前記多孔性支持体の下側に除去し、前記熱可塑性樹脂と前記繊維状補強材との混合物を前記抄造面上に残して抄紙体を連続的に得る抄紙工程を備え、
前記抄造面が水平面に対して移動方向に傾斜するように、前記多孔性支持体を水平面に対して斜め上方に向かって移動させ、
前記分散液の吸引を、前記抄造面の前記分散液との接液部分のうち移動方向下流側部分において行い、
前記抄造面の前記移動方向下流側部分への前記分散液の供給速度を、前記多孔性支持体の移動速度よりも遅くすることを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
前記分散液の供給速度と前記多孔性支持体の移動速度との比を0.8以下とすることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
前記分散液の吸引を、前記抄造面の前記分散液との接液部分のうち移動方向中央よりも下流側部分において行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂と繊維状補強材とを液状分散媒に分散させた分散液から抄紙法によって繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造する方法に係り、特に、繊維状補強材がランダム配向した繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂の成形上の特性を生かしつつ高強度、高剛性という特性を付与する手段として、繊維状補強材の添加による複合化技術が知られている。複合化技術により得られた繊維強化熱可塑性樹脂複合材は、軽量化と高強度及び高剛性が要求される種々の構造部材用の素材として使用される。これらの素材は、通常、マトリックスである熱可塑性樹脂の融点以上に熱せられた後に所定の形状に成形されるが、特にプレス機を用いた成形又は大型部品の成形に適する板状又はシート状の素材はスタンパブルシートと呼ばれ、その優れた機械的強度、成形加工性、量産性から自動車用構造部材や内装材を中心に需要が増加している。
【0003】
従来のスタンパブルシートの代表的な製造方法として、湿式法(抄紙法)がある。この製造方法は、微小気泡を含む界面活性剤含有水性分散媒中に熱可塑性樹脂と不連続の繊維状補強材とを分散させ、この分散液を移動する多孔性支持体(いわゆるワイヤメッシュであり、以下「メッシュベルト」と記すこともある)上で抄くことにより不織布状のウエブを調製し、このウエブを加熱加圧後に固化させてスタンパブルシートを製造する方法(特許文献1,2を参照)である。
【0004】
例えば、自動車部品のアンダーカバー等に使用するスタンパブルシートには、軽量、高強度という特性と共に、機械的強度の等方性が要求される。こうした特性を十分に発揮するためには、繊維状補強材のランダム配向化が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−158227号公報
【特許文献2】特公平2−48423号公報
【特許文献3】特開平9−94826号公報
【特許文献4】特開平8−72154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のスタンパブルシートの製造方法(特許文献1,2)においては、熱可塑性樹脂と繊維状補強材の混合物をメッシュベルト上に抄き取る際に、前記分散液をメッシュベルトの抄造面に対してその移動方向に流すため、抄き取った繊維状補強材は不可避的に前記分散液の流れの方向に沿って抄造面移動方向に配向することとなる。そのため、抄き取った混合物(ウエブと呼ばれる)中の繊維状補強材を十分にランダム配向させることは困難であり、その結果スタンパブルシートに機械的強度の異方性が発現するという問題点があった。
【0007】
抄造面の水平面に対する傾斜を変化させたり、移動するメッシュベルトの抄造面に対して前記分散液の流れを向流方向に形成させたりして、ウエブ中の繊維状補強材をランダム配向させる技術が提案されているが(特許文献3,4を参照)、繊維状補強材のランダム配向化は十分とは言えなかった。
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、繊維状補強材がランダム配向した繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明の一態様に係る繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法は、熱可塑性樹脂を不連続の繊維状補強材で強化した繊維強化熱可塑性樹脂シートを抄紙法によって製造する方法であって、前記熱可塑性樹脂と前記繊維状補強材とを液状分散媒に分散させた分散液を、移動する多孔性支持体の抄造面上に連続的に供給しつつ、前記分散液を前記多孔性支持体の下側から吸引し前記分散液から前記液状分散媒を分離して前記多孔性支持体の下側に除去し、前記熱可塑性樹脂と前記繊維状補強材との混合物を前記抄造面上に残して抄紙体を連続的に得る抄紙工程を備え、前記抄造面が水平面に対して移動方向に傾斜するように、前記多孔性支持体を水平面に対して斜め上方に向かって移動させ、前記分散液の吸引を、前記抄造面の前記分散液との接液部分のうち移動方向下流側部分において行い、前記抄造面の前記移動方向下流側部分への前記分散液の供給速度を、前記多孔性支持体の移動速度よりも遅くすることを特徴とする。
【0009】
この繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法においては、前記分散液の供給速度と前記多孔性支持体の移動速度との比を0.8以下としてもよい。また、前記分散液の吸引を、前記抄造面の前記分散液との接液部分のうち移動方向中央よりも下流側部分において行ってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法は、繊維状補強材がランダム配向した繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造装置の一例を説明する図である。
図2図1の製造装置の要部を模式的に示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法の一実施形態について、以下に詳細に説明する。
まず、本実施形態の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法に用いる原料である分散液について説明する。分散液は、熱可塑性樹脂と不連続の繊維状補強材とを液状分散媒に分散させたものである。液状分散媒としては、例えば、界面活性剤を含有する水が好ましい。界面活性剤を含有する水に、熱可塑性樹脂と繊維状補強材とを投入し、攪拌することにより空気の微小気泡を含ませ、分散液を調製する。
【0013】
不連続の繊維状補強材とは、繊維長が数ミリから数十ミリの、いわゆる短繊維補強材である。繊維長が短すぎると、繊維状補強材の十分な補強効果が得られにくい。一方、繊維長が長すぎると、繊維強化熱可塑性樹脂シートの成形時に熱可塑性樹脂の流動性が低くなり、成形性が低下する。繊維状補強材の種類は特に限定されるものではないが、例えば、ガラス繊維,金属繊維,炭素繊維等の無機繊維や、アラミド繊維等の有機繊維等があげられる。繊維状補強材は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて併用してもよい。
【0014】
また、熱可塑性樹脂は、粉末,繊維,フレーク等の形態のものを用いることができる。熱可塑性樹脂の種類は特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリアミド,ポリエステル,ポリスチレン,ポリ塩化ビニル等があげられる。熱可塑性樹脂は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて併用してもよい。
【0015】
熱可塑性樹脂と繊維状補強材との質量比は特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂と繊維状補強材の合計量中の繊維状補強材の比率を、例えば20質量%以上70質量%以下とすることが好ましい。繊維状補強材の比率が多すぎると、熱可塑性樹脂が繊維状補強材中に均一に含浸しにくくなると共に、繊維強化熱可塑性樹脂シートの成形時に熱可塑性樹脂の流動性が低下する傾向を示す。一方、繊維状補強材の比率が少なすぎると、繊維状補強材の補強効果が低下するおそれがある。
【0016】
次に、図1,2に示す繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造装置を用いて、分散液から抄紙法によって繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造する方法について説明する。なお、本実施形態においては、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン(以下「PP」と記す)を使用し、不連続の繊維状補強材としてガラス繊維(以下「GF」と記す)を使用した例について説明する。
【0017】
PPの粉末及びGFを、分散槽1内の界面活性剤を含有する水に所定の割合で投入し、攪拌して空気の微小気泡を含む分散液を調製する。この分散液を分散槽1からヘッドボックス2に送り込む。
ヘッドボックス2の下方には、一方向(図1,2の例では時計回り)に回転する無端ベルト状の多孔性支持体であるメッシュベルト3と、メッシュベルト3の裏面に接するサクションボックス4とが設置されている。
【0018】
無端ベルト状のメッシュベルト3は略長円形をなしており、その長軸が水平面に対して傾斜するように配されている(図1,2の例では右上がり状に配されている)。よって、メッシュベルト3を回転させると、メッシュベルト3の上面及び該上面に形成された平面状の抄造面3aは、水平面に対して斜め上方(図1,2の例では右斜め上方)に向かって移動することとなる。また、メッシュベルト3の上面及び抄造面3aは、水平面に対してメッシュベルト3の移動方向に傾斜することとなり、その傾斜角は仰角となる(図1,2の例では、右上がり状に傾斜することとなる)。
【0019】
一方、サクションボックス4は、メッシュベルト3の移動方向の上流側から下流側へ向かって複数(図1,2の例では6個)の小室4a〜4fに分割されており、第1室4aから第6室4fまでの各小室4a〜4fともに負圧とすることが可能となっている。さらに、各小室4a〜4fには、各小室4a〜4f内の圧力をバルブ開度によって調節して分散液の吸引量(液状分散媒である界面活性剤を含有する水の除去量)を制御するサクションバルブ7がそれぞれ設置されている。例えば、特定の小室のサクションバルブ7を全閉とすれば、抄造面3aのうち該小室に接する領域を実質的に封止して吸引不能とすることもできる。
【0020】
ヘッドボックス2に送り込まれた分散液は、移動するメッシュベルト3の上面(抄造面)3a上に連続的に供給される。メッシュベルト3の下側からのサクションボックス4の吸引により、分散液から液状分散媒及び微小気泡が分離(濾過)され、液状分散媒はメッシュベルト3の下側(裏面側)に除去される。そして、PPとGFの混合物がメッシュベルト3の抄造面3a上に残り、抄紙体であるウエブ8が抄造される(抄紙工程)。メッシュベルト3が回転し抄造面3aは移動するので、ウエブ8はメッシュベルト3上で連続的に抄造される。
【0021】
得られたウエブ8は乾燥機5で乾燥し(乾燥工程)、必要に応じてコイル状に巻き取る。乾燥方法は特に限定されるものではなく、加熱乾燥、減圧乾燥、送風乾燥、又はこれらの組み合わせを用いることができる。乾燥したウエブ8に熱プレス6を用いて加熱及び加圧を施し、溶融したPPを冷却固化させて緻密なシート状にし(シート化工程)、必要に応じて所望の長さに切断して、PPをGFで強化した繊維強化熱可塑性樹脂シート9を得る。
【0022】
本実施形態においては、分散液の吸引を、抄造面3aの分散液との接液部分(図2において長さをLと示した領域であり、ヘッドボックス2のほぼ全長に相当する領域)のうちメッシュベルト3の移動方向中央よりも下流側部分において行う。すなわち、メッシュベルト3の移動方向中央よりも上流側部分である小室4a〜4cにおいては、サクションバルブ7を閉状態として吸引を行わず、下流側部分である小室4d〜4fにおいてのみサクションバルブ7を開状態として吸引を行う。
【0023】
このとき、ヘッドボックス2内に供給された分散液の流速は、供給直後において最も速く、分散液が下流側に流れるに従って徐々に遅くなるが、ヘッドボックス2への分散液の供給(供給速度の調節)は、抄造面3aの前記下流側部分への分散液の供給速度VL (単位はm/min)がメッシュベルト3の移動速度VW (単位はm/min)よりも遅くなるように行われる。
【0024】
このように、供給される分散液の流速が速い前記上流側部分においては吸引を行わず、供給される分散液の流速が遅い前記下流側部分において吸引を行って、前記下流側部分において吸引濾過して抄造を行うので、GFの配向が抑制され、GFがランダム配向した繊維強化熱可塑性樹脂シート9を得ることができる。GFのランダム配向化により、繊維強化熱可塑性樹脂シート9の機械的特性に等方性が付与される。繊維状補強材を十分にランダム配向させるためには、抄造面3aの前記下流側部分への分散液の供給速度VL とメッシュベルト3の移動速度VW との比VL /VW を0.8以下とすることが好ましい。
【0025】
前記下流側部分においては吸引を行わず、前記上流側部分において吸引を行うと、分散液の流速が速い前記上流側部分において抄造が行われるため、繊維状補強材が配向しやすくランダム配向化が不十分となるおそれがある。また、液状分散媒の除去が不十分となりやすく、ウエブ8の含水率が高くなるため、繊維強化熱可塑性樹脂シート9の製造中にウエブ8の断紙が生じやすくなる。
【0026】
このような本実施形態の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法においては、抄造面3aにおける吸引領域の制御と該吸引領域への分散液の供給速度VL の制御とに加えて、抄造面3aを移動方向に上り勾配(仰角)とすることが、繊維状補強材のランダム配向化に大きく寄与している。すなわち、ヘッドボックス2内に供給された分散液の流速を、前記上り勾配によって容易に低下させることができるため、抄造面3aの前記下流側部分への分散液の供給速度VL をメッシュベルト3の移動速度VW よりも遅くさせることが容易となる。
【0027】
傾斜角(仰角)の大きさは特に限定されるものではないが、10°以上45°以下とすることが好ましく、15°以上20°以下とすることがより好ましい。繊維状補強材をランダム配向させるためには、傾斜角を10°以上とすることが好ましい。また、傾斜角を大きくするほど、メッシュベルト3の移動速度(すなわち抄造速度)を高めることが可能になり、ウエブ8の生産性が向上する傾向がある。ただし、実用上の見地から、傾斜角を45°以下とすることが好ましい。
【0028】
〔実施例〕
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。図1,2に示す繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造装置を用いて、繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造した。その際には、抄造面3aにおける吸引領域と、抄造面3aの前記吸引領域への分散液の供給速度VL とメッシュベルト3の移動速度VW との比VL /VW を、表1に示すように種々変更して抄紙を行った。なお、前記傾斜角(仰角)は17°に統一した。
【0029】
分散液に使用する熱可塑性樹脂は平均粒径0.5mmの粒状ポリプロピレンとし、不連続の繊維状補強材は直径11μm、平均長さ19mmのガラス繊維とした。また、液状分散媒としては、界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの0.08質量%水溶液を用いた。この水溶液に0.8質量%のポリプロピレンと0.6質量%のガラス繊維を添加して、分散液を調製した。
【0030】
この分散液をヘッドボックス2に送り、メッシュベルト3の抄造面3a(実効抄紙幅は表1に示す通り)上に、表1に示す供給流量(単位はL/min)で供給した。また、抄造速度(メッシュベルト3の移動速度VW )は表1に示す通りである。さらに、吸引領域のうち最も上流側部分(すなわち、移動方向中央よりも上流側部分で吸引する場合は第1室4aに接する領域、移動方向中央よりも下流側部分で吸引する場合は第4室4dに接する領域)への分散液の供給速度VL 、及び、吸引領域のうち最も上流側部分への分散液の供給速度VL とメッシュベルト3の移動速度VW との比VL /VW は表1に示す通りである。
【0031】
さらに、ヘッドボックス2内の分散液の液深さh(図2を参照)、抄造面3aの分散液との接液部分の長さL(図2を参照)は表1に示す通りである。さらに、第1室4a〜第6室4fの各サクションバルブ7のバルブ開度は表1に示す通りである。
【0032】
【表1】
【0033】
このような条件で抄紙を行い、表1に示す目付量のウエブ8を抄造した。得られたウエブ8を乾燥後、温度190℃、圧力0.3MPaの条件で加熱及び加圧し、次いで温度20℃、圧力0.3MPaの条件で冷却固化させて、緻密な繊維強化熱可塑性樹脂シート9(スタンパブルシート)を得た。得られたシートから引張試験片を作製し、抄紙の流れ方向(MD)及び幅方向(CD)の引張強度をそれぞれ測定した。そして、両引張強度の比(MD/CD)から繊維状補強材の配向比を算出した(表1を参照)。
【0034】
表1から分かるように、実施例1〜10の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、引張強度の配向比が1前後で、機械的特性に等方性が付与されていた。それに対して比較例1〜5の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、引張強度の配向比が2前後で、機械的特性に異方性があった。これらの結果から、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法によれば、繊維状補強材がランダム配向した繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造が可能であることが分かる。
【符号の説明】
【0035】
1 分散槽
2 ヘッドボックス
3 メッシュベルト(多孔性支持体)
3a 抄造面
4 サクションボックス
7 サクションバルブ
8 ウエブ
9 繊維強化熱可塑性樹脂シート
図1
図2