特許第6243238号(P6243238)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6243238幅広扁平梁を有するラーメン架構とこれを用いた建物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243238
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】幅広扁平梁を有するラーメン架構とこれを用いた建物
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/20 20060101AFI20171127BHJP
【FI】
   E04B1/20 E
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-15841(P2014-15841)
(22)【出願日】2014年1月30日
(65)【公開番号】特開2015-140635(P2015-140635A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2017年1月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(72)【発明者】
【氏名】入江 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】中岡 章郎
(72)【発明者】
【氏名】榊田 聡太郎
(72)【発明者】
【氏名】平田 延明
(72)【発明者】
【氏名】室 重行
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−061961(JP,A)
【文献】 米国特許第01508325(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
E04B 1/20 − 1/21
E04B 5/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造の柱と梁からなり、梁の梁幅が柱の柱幅より大きい幅広扁平梁を有するラーメン架構であって、
前記幅広扁平梁の降伏ヒンジが、隣接する柱の対向側面に設定されており、
前記幅広扁平梁の曲げ終局強度Mが、梁幅と柱幅との差Baに基づき低減されて算出される、ことを特徴とする幅広扁平梁を有するラーメン架構。
【請求項2】
前記幅広扁平梁の曲げ終局強度Mは、梁幅と柱幅との差Baと柱幅Bcとの比Ba/Bcに基づく低減係数γにより算出される、ことを特徴とする請求項1に記載の幅広扁平梁を有するラーメン架構。
【請求項3】
梁の梁幅が柱の柱幅より小さい通常扁平梁の曲げ終局強度Muが、
Mu=0.9・at・σy・dで求められ、ここでatは引張主筋断面積、σyは主筋降伏強度、dは梁の梁せいであり、
前記低減係数γは、γ=1.0−μ・Ba/Bcで求められ、ここでμは0.1以上、0.3以下の正定数であり、
前記幅広扁平梁の曲げ終局強度Mは、前記通常扁平梁の曲げ終局強度Muと前記低減係数γとの積で求められる、ことを特徴とする請求項2に記載の幅広扁平梁を有するラーメン架構。
【請求項4】
前記幅広扁平梁は、柱の片側のみに梁があるト字形であり、
前記柱内に位置する梁主筋の外側最端部に機械的に固定された機械式定着具と、
前記梁主筋の端部の定着性を高めるキャップ筋と、を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の幅広扁平梁を有するラーメン架構。
【請求項5】
前記幅広扁平梁は、柱の両側に梁がある十字形であり、
前記柱の前面又は後面に位置する前記幅広扁平梁のはみ出し部を上下に貫通する縦貫通孔と、
前記縦貫通孔を囲み前記柱内まで延びるU字形の貫通孔補強筋と、を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の幅広扁平梁を有するラーメン架構。
【請求項6】
建物の桁方向に少なくとも2構面以上の鉄筋コンクリートの柱と梁からなるラーメン架構を有する建物であって、
少なくとも1構面に請求項1乃至5のいずれか一項のラーメン架構を有する、ことを特徴とするラーメン架構を用いた建物。
【請求項7】
建物の妻側にバルコニーを設け、該バルコニーの前記幅広扁平梁のない位置に垂直避難口を設ける、ことを特徴とする請求項6に記載のラーメン架構を用いた建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幅広扁平梁を有するラーメン架構とこれを用いた建物に関する。
【背景技術】
【0002】
梁が柱に剛結合されている構造をラーメン架構(又はラーメン構造)という。ラーメン架構では、地震等で水平力が作用する場合、梁と柱の接合部分に最大曲げモーメントが作用し、この部分で破損する可能性がある。そこで、鉄筋コンクリート造(RC)のラーメン架構では、安全上、梁と柱の接合部分(梁の端面)の梁主筋が降伏した場合でも建物が崩壊しないように設計する必要がある。
以下、梁と柱の接合部分における梁の降伏面を「降伏ヒンジ」と呼び、降伏ヒンジにおいて安全上期待される最大曲げモーメントを「梁の曲げ終局強度」と呼ぶ。
【0003】
梁と柱とからなるラーメン架構を有するマンション等の集合住宅において、各階の梁の高さを維持したまま開口部の高さを大きくするために、扁平梁を用いることが提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【0004】
特許文献1の「バルコニー」は、梁幅が柱の柱幅より大きく、かつ梁せいが梁幅の1/2以下の扁平梁を用い、扁平梁の上面をバルコニーの床面とするものである。
特許文献2の「住戸ユニット」は、住戸の梁部のうち、戸外に面して立設された柱部間に架設される梁部の少なくとも1つを扁平梁とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4754506号公報
【特許文献2】特開2012−7406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の扁平梁は、梁の梁幅が柱の柱幅より大きい扁平梁である。以下、かかる扁平梁を「幅広扁平梁」と呼ぶ。幅広扁平梁を用いるラーメン架構は、所定の階高において通常のラーメン架構よりも梁下寸法を大きく取ることができ、開口部を広くできる利点がある。
【0007】
一方、ラーメン架構では、梁と柱の接合部に、地震時等に大きな曲げモーメントが発生する。そのため、幅広扁平梁であっても、梁と柱の接合部は十分な強度を有する必要がある。しかし、幅広扁平梁は、梁せいが通常の梁より小さいため、柱と幅広扁平梁の接合部の強度を確保することが難しい問題点がある。
【0008】
特許文献1では、柱と幅広扁平梁との接合部に柱と一体の跳ね出し部を設けている。この跳ね出し部は、幅広扁平梁の軸方向および軸方向と直角な方向に突出し、かつ柱から跳ね出し部にかけてその耐力が幅広扁平梁端部の耐力に比べて十分大きくなるように補強されている。
この構成により、幅広扁平梁の接合端部をその梁幅に亘ってほぼ均等に支持するとともに、補強された幅広扁平梁の軸方向の跳ね出し部により幅広扁平梁の支持スパンを実質的に短くすることができる。このように、支持スパンを実質的に短くすることを「ヒンジリロケーション」と呼ぶ。ヒンジリロケーションにより、梁下寸法を大きく取ることができ、かつ梁への応力負担を軽減できる利点がある。
【0009】
しかし、特許文献1の手段は、柱から跳ね出し部にかけてその耐力が幅広扁平梁端部の耐力に比べ十分大きくなるように補強するものであるから、跳ね出し部に大量の補強鉄筋が必要となり、場合によっては、跳ね出し部の配筋施工が困難になるという問題点があった。
【0010】
一方、ヒンジリロケーションを適用しない場合、支持スパンは隣接する柱の間隔であり、地震時等に梁と柱の接合部に発生する曲げモーメントは大きい。そのため梁と柱の接合部を補強して許容できる曲げモーメントを高くする必要がある。
しかし、幅広扁平梁の曲げ強度の計算は非常に複雑であり、かつ、曲げ強度の計算方法として確立された方法がなかった。
【0011】
また、幅広扁平梁を建物(例えばマンションのバルコニー等)に用いる場合、排水管等を通す縦貫通孔を幅広扁平梁に設けることが望まれる場合がある。
しかし、特許文献1のように、跳ね出し部を扁平梁の軸方向および軸方向と直角な方向に突出させた場合、跳ね出し部に縦貫通孔を設けることは、跳ね出し部の配筋施工により非常に困難であり、実質的に不可能であった。
【0012】
本発明は、これらの問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、幅広扁平梁の曲げ強度の計算が容易であり、梁と柱の接合部を補強して梁の曲げ終局強度を容易に高めることができる幅広扁平梁を有するラーメン架構とこれを用いた建物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、鉄筋コンクリート造の柱と梁からなり、梁の梁幅が柱の柱幅より大きい幅広扁平梁を有するラーメン架構であって、
前記幅広扁平梁の降伏ヒンジが、隣接する柱の対向側面に設定されており、
前記幅広扁平梁の曲げ終局強度Mが、梁幅と柱幅との差Baに基づき低減されて算出される、ことを特徴とする幅広扁平梁を有するラーメン架構が提供される。
【0014】
前記幅広扁平梁の曲げ終局強度Mは、梁幅と柱幅との差Baと柱幅Bcとの比Ba/Bcに基づく低減係数γにより算出される。
【0015】
梁の梁幅が柱の柱幅より小さい通常扁平梁の曲げ終局強度Muが、
Mu=0.9・at・σy・dで求められ、ここでatは引張主筋断面積、σyは主筋降伏強度、dは梁の梁せいであり、
前記低減係数γは、γ=1.0−μ・Ba/Bcで求められ、ここでμは0.1以上、0.3以下の正定数であり、
前記幅広扁平梁の曲げ終局強度Mは、前記通常扁平梁の曲げ終局強度Muと前記低減係数γとの積で求められる。
【0016】
前記幅広扁平梁は、柱の片側のみに梁があるト字形であり、
前記柱内に位置する梁主筋の外側最端部に機械的に固定された機械式定着具と、
前記梁主筋の端部の定着性を高めるキャップ筋と、を有する。
【0017】
前記幅広扁平梁は、柱の両側に梁がある十字形であり、
前記柱の前面又は後面に位置する前記幅広扁平梁のはみ出し部を上下に貫通する縦貫通孔と、
前記縦貫通孔を囲み前記柱内まで延びるU字形の貫通孔補強筋と、を有する。
【0018】
また本発明によれば、建物の桁方向に少なくとも2構面以上の鉄筋コンクリートの柱と梁からなるラーメン架構を有する建物であって、
少なくとも1構面に上述したラーメン架構を有する、ことを特徴とするラーメン架構を用いた建物が提供される。
【0019】
建物の妻側にバルコニーを設け、該バルコニーの前記幅広扁平梁のない位置に垂直避難口を設ける、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
上記本発明によれば、幅広扁平梁の降伏ヒンジが、隣接する柱の対向側面に設定されているので、大量の補強鉄筋が必要な跳ね出し部を設ける必要がなく、配筋施工が容易になる。
また、幅広扁平梁の曲げ終局強度Mが、梁幅と柱幅との差Baに基づき低減されて算出されるので、隣接する柱の対向側面に降伏ヒンジを設定したにも関わらず、幅広扁平梁と柱の接合部の強度計算が容易にできる。
【0021】
従って、幅広扁平梁と柱の接合部の強度計算が容易であり、幅広扁平梁と柱の接合部を補強して幅広扁平梁の曲げ終局強度Mを容易に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】通常の梁の断面図の模式図である。
図2】本発明が対象とする幅広扁平梁の説明図である。
図3】通常扁平梁と幅広扁平梁の模式的斜視図である。
図4】試験結果を示す図である。
図5】本発明による幅広扁平梁の第1実施形態図である。
図6】本発明による幅広扁平梁の第2実施形態図である。
図7】本発明のラーメン架構を用いた建物の断面側面図である。
図8】本発明による建物の平面図である。
図9図2の幅広扁平梁の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0024】
図1は、通常の梁2の断面図の模式図である。この図は、鉄筋コンクリート造(RC)の柱1と梁2からなるラーメン架構における柱1と梁2の接合部分(隣接する柱1の対向側面)の断面を示している。
この図において、3は梁主筋、4はコンクリートである。梁2に曲げモーメントが作用する場合、梁主筋3は、図に示すように、引張応力が作用する位置(上端付近と下端付近)に配筋される。
【0025】
図1に示した通常の梁2に対して、日本建築学会「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説2010」(165ページ)は、鉄筋コンクリート部材の「降伏曲げモーメントMy」の算定式を、式(1)で規定している。
My=0.9・at・σy・d・・・(1)
また同様に、「2007年版建築物の構造関係技術基準解説書」(623ページ)は、「はりの曲げ終局強度Mu」の算定式を、式(2)で規定している。
Mu=0.9・at・σy・d・・・(2)
ここで、atは引張主筋断面積、σyは主筋降伏強度、dは梁2の梁せいである。なお、引張主筋断面積atは、引張応力が作用する位置に配筋された梁主筋3の総断面積である。
式(1)(2)は、実質的に同一の式である。また、この式は、梁2の梁幅Bbが柱1の柱幅Bcより小さい通常の扁平梁(以下、「通常扁平梁」と呼ぶ)にも適用することができる。
【0026】
図2は、本発明が対象とする幅広扁平梁10の説明図である。
本発明において、「幅広扁平梁」とは、図に示すように、梁2の梁幅Bbが柱1の柱幅Bcより大きい扁平梁を意味する。
この図において、Baは梁幅Bbと柱幅Bcとの差、dは梁2の梁せいである。以下、梁幅Bbと柱幅Bcとの差Ba=Bb−Bcを「はみ出し幅」と呼ぶ。なお、柱の両側に張出部がある場合は、大きい方の出幅をはみ出し幅とする。
【0027】
上述した式(2)によって求められる梁2の曲げ終局強度Muは、梁幅Bbが柱幅Bcよりも小さい通常扁平梁を有するラーメン架構に適用されるものである。そのため、梁2の梁幅Bbを柱1の柱幅Bcよりも大きい幅広扁平梁10の場合には、梁主筋の一部が柱外に張り出すため、柱内の梁主筋よりも応力分担が低下するため、梁2(幅広扁平梁10)の曲げ終局強度Mを式(2)よりも低く見積もる必要がある。
【0028】
図9は、図2の幅広扁平梁10の側面断面図である。この図において、A部は上述した式(2)で評価できる部分、B部は式(2)よりも小さく見積もる必要がある部分を示している。
本発明が対象とするラーメン架構は、鉄筋コンクリート造の柱1と梁2からなり、梁2の梁幅Bbが柱1の柱幅Bcより大きい幅広扁平梁10を有する。
また、幅広扁平梁10の降伏ヒンジが、隣接する柱1の対向側面に設定されている。
さらに、幅広扁平梁10の曲げ終局強度Mが、梁幅Bbと柱幅Bcとの差Baに基づき低減されて算出される。
【0029】
すなわち、図9のとおり、柱1内に梁主筋3が納まるA部の梁2の曲げ終局強度は、従来の通りの式(2)で求めることができる。しかし、柱1から張出したB部の梁2の曲げ終局強度は、従来の式(2)で求める値よりも低く見積もる必要があり、そのための軽減が必要となる。
何故、柱1から張出したB部に梁主筋3がある梁2の曲げ終局強度は、従来の式(2)で求める値よりも低く見積もる必要があるかという根拠は、後述する実施例において、R=1/50程度の変形において、柱内部を通る梁主筋3は全て降伏し、柱1から張出る梁主筋3も一部は降伏することが確認されたことに基づく。
以下、詳細に説明する。
【0030】
梁2の曲げ終局強度の算出は建物の設計上、重要である。すなわち、梁2の曲げ終局強度よりも小さい力であれば、梁主筋3は降伏しないため、梁2の曲げ終局強度が高ければ高いほど、柱1と梁2の剛性が高く、建物は頑丈だといえる。
そこで、梁2の曲げ終局強度とは、梁主筋3が降伏する強度であるため、幅広扁平梁10において、まずどれくらいの力で梁主筋が降伏するかを実験で確かめる必要がある。
梁2にR=1/50程度の変形が生じるだけの力を加えると梁主筋3が降伏し、この力が梁2の曲げ終局強度である。梁2の曲げ終局強度は、式(2)で求められる力であり、梁2にR=1/50程度の変形が生じる。また後述する実験の結果、柱内部を通る梁主筋3は全て降伏し、柱1から張出る梁主筋3も一部は降伏することが確認された。
なお、式(2)で求められる力よりも小さい場合は、梁2にR=1/50の変形は生じず、梁主筋3も降伏しないといえる。
【0031】
問題は、何故、柱1から張出る梁主筋3の一部、具体的には、柱1から張出した梁2の先端部分の梁主筋3は降伏しなかったかであるが、この理由は、柱1から張出した部分(B部)は、もともと柱1との接合力が弱いためといえる。
すなわち、柱1から張出した部分(B部)は、柱1との結合力が弱く、梁2に曲げの力を加えても柱1から張出した部分の梁はねじれて曲がる角度が小さく、その部分の梁主筋3は降伏点に達しなかったからである。
図9から分かるとおり、柱1から張出した梁部分は、柱1との接合力が弱いと想像できる。それを実験的に確認したといえる。
そして、梁2の曲げ終局強度が高ければ高いほど、柱1と梁2の剛性が高く、建物は頑丈であり、そのためにはどんどん梁主筋3の量を増やしていけばいいわけだが、上述のとおり柱1から張出した部分の梁2については、柱1と梁2の接合力が弱く、ラーメン構造としては、梁主筋3が多い割に柱1と梁2の剛性が低いため、その分、梁2の曲げ終局強度は、その主筋の量に対して低く見積もる必要が生じる。
【0032】
具体的には、図9では、上下に梁主筋3がそれぞれ7本で計14本の梁主筋3がある。そのうち、柱1の中に納まる梁主筋3が8本あり、さらに張出した梁2に梁主筋3を6本増やしたので、その梁主筋3の断面積合計をatとした場合、式(2)で梁2の曲げ終局強度が求められるかというと、柱1から張出した部分は、上述のとおり強度を低く見積もる必要があるため、何らかの強度軽減が必要となる。
【0033】
そのため、後述の例では、曲げ終局強度Mを後述する式(3)、すなわち、γ・0.9・at・σy・dとしているが、0.9・(γ・at)・σy・d、あるいは0.9・(γ・at・σy)・d、と考えることもできる。
すなわち、後述する式(4)では、γ=1.0−μ・Ba/Bcとしているが、例えば、γ=1.0−β・Baとして、新たにβという係数でγを設定し算出してもよい。あるいは、0.9・at・σy・d−δとし、δ=λ・0.9・at・σy・d、λ=1.0−ε・Baでもよい。
いずれにしても、実験の結果から、上述のとおり梁2が柱1から張出したBa分だけ曲げ終局強度を低く見積もる必要があり、梁幅と柱幅との差Baに基づいて低減する必要がある。
【0034】
図3は、式(2)が適用できる通常の扁平梁(通常扁平梁9)と、本発明が対象とする幅広扁平梁10の模式的斜視図である。この図において、(A)は通常扁平梁9であり、柱1の両側に梁2がある十字形であって、柱芯と梁芯が一致している。
これに対し、(B)〜(E)は本発明が対象とする幅広扁平梁10である。このうち(B)は(A)と同様に十字形であって、柱芯と梁芯が一致している幅広扁平梁10である(以下、「十字振分け」と呼ぶ)。また、(C)は、(A)と同様に十字形であるが、柱芯と梁芯がずれている幅広扁平梁10である(以下、「十字片寄せ」と呼ぶ)。
さらに、(D)は、柱1の片側のみに梁2があるト字形で、柱芯と梁芯が一致している幅広扁平梁10である(以下「ト字振分け」と呼ぶ)。(E)は、ト字形で、柱芯と梁芯がずれている幅広扁平梁10である(以下「ト字片寄せ」と呼ぶ)。
【0035】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0036】
本発明の発明者らは、図3に示した各扁平梁(A)〜(E)に相当する試験体を製作し、実際の梁2の曲げ終局強度を計測した。
【0037】
試験体に地震で想定される荷重を加え、梁主筋3が降伏する(梁主筋3が引張りに対する抵抗力を失い、塑性変形領域に入る)までの強度が「梁の曲げ終局強度」である。
R=1/50rad程度の変形において、柱内部を通る梁主筋は全て降伏し、柱から張出る梁主筋も一部は降伏することが確認された。
【0038】
以下、この試験で得られた幅広扁平梁10の曲げ終局強度Mtを、「実験値Mt」と呼び、後述する計算による幅広扁平梁10の曲げ終局強度Mを、「計算値M」と呼ぶ。
【0039】
(試験結果)
図4は、本試験の試験結果を示す図である。この図において、横軸は梁幅Bbと柱幅Bcとの差Ba(はみ出し幅Ba)と柱幅Bcとの比Ba/Bcである。また、縦軸は本試験で得られた実験値Mtと計算値Mとの比Mt/Mである。
また、図中の各記号は図3に対応し、Aは通常扁平梁、Bは十字振分け、Cは十字片寄せ、Dはト字振分け、Eはト字片寄せである。さらに添字「1」は学会論文等で示されている試験結果であり、「2」は本試験による試験結果である。
【0040】
図4において、計算による幅広扁平梁10の曲げ終局強度M(計算値M)は、以下の式(3)(4)で計算している。
M=γ・0.9・at・σy・d=γ・Mu・・・(3)
γ=1.0−μ・Ba/Bc・・・(4)
ここでγは低減係数、μは定数である。定数μは、この例では0.2とした。
【0041】
図4から、定数μを0.2とすると、実験値Mtと計算値Mとの比Mt/Mは、Ba/Bcが0から1.1までの範囲で、1から1.5の範囲にすべて収まっており、実験値Mtが計算値Mよりすべて1〜1.5倍であることがわかる。
また、式(3)(4)から、定数μを0.2より大きくすると、低減係数γが小さくなり、計算値Mは実験値Mtよりもさらに小さくなる。従って、μを0.2以上として0.2よりも大きくすると、実際の強度(実験値Mt)は計算値Mよりもさらに大きくなることから、上述の計算値Mを用いた設計はより安全側の設計となることがわかる。
【0042】
また、図4において、実線で示す直線は、Ba/Bc=1.0、Mt/M=1.1の点を通っている。この直線は式(2)における梁の曲げ終局強度Muに相当する仮定することができ、この場合、Mu/M=1.1・・・(5)となる。
式(5)(3)から、低減係数γ=M/Mu=1/1.1=0.909であり、式(4)から定数μは約0.10となる。すなわち、定数μが0.10の場合にも、上述の計算値Mを用いた設計は式(2)による梁の曲げ終局強度Muより安全側の設計となることがわかる。
従って、定数μは、0.1以上、0.3以下であることが好ましく、特に0.2以上であるのが好ましい。
【0043】
本発明は上述した試験結果に基づく、新たな知見に基づくものである。
すなわち、本発明のラーメン架構は、鉄筋コンクリート造の柱1と梁2からなり、梁2の梁幅Bbが柱1の柱幅Bcより大きい幅広扁平梁10を有している。また、本発明では、梁2の降伏ヒンジが、隣接する柱1の対向側面に設定されている。また、幅広扁平梁10の曲げ終局強度Mが、はみ出し幅Baと柱幅Bcとの比Ba/Bcに基づく低減係数γにより算出される。
【0044】
また上述したように、本発明では、梁2の梁幅Bbが柱1の柱幅Bcより小さい通常扁平梁9の曲げ終局強度Muが、Mu=0.9・at・σy・dの式(2)で求められる。
また、低減係数γは、γ=1.0−μ・Ba/Bcの式(4)で求められる。ここでμは0.1以上、0.3以下の正定数である。
さらに、幅広扁平梁10の曲げ終局強度Mは、通常扁平梁9の曲げ終局強度Muと低減係数γとの積で求められる。
【0045】
上述したように、本発明では、梁2の降伏ヒンジを柱1の側面(隣接する柱1の対向側面)に設定することで、大量の補強鉄筋を必要とする柱1からの跳ね出し部をなくし、梁2(幅広扁平梁10)の配筋施工を簡易化した。また、この結果、補強鉄筋の減少による梁2の曲げ終局強度の低下を、1.0以下の正数である低減係数γを導入し、通常扁平梁9の曲げ終局強度Muに低減係数γをかけることにより計算することで、建物20の耐震性能を確保するものとした。
【0046】
すなわち通常扁平梁9の曲げ終局強度Muに対し、どの程度低く見積もるかは、従来は複雑な計算が必要になる。これに対し、本発明の発明者らは低減係数γを導入し、通常扁平梁9の曲げ終局強度Muと低減係数γの積として容易かつ単純に見積もることができることを見出した。
これにより、幅広扁平梁10であっても、梁2(幅広扁平梁10)の降伏ヒンジを柱1の側面に設定した場合の耐震性能を、より簡易にかつ正確に計算することができ、通常扁平梁9の配筋施工を簡易化できるものとなった。
【0047】
図5は、本発明による幅広扁平梁10の第1実施形態図である。
この図において、(A)は平面図、(B)は(A)のB−B断面図である。この例は、幅広扁平梁10が、柱1の片側のみに梁2があるト字形(図3参照)である場合を示している。
【0048】
図5(A)に示すように、本発明の幅広扁平梁10は、複数の機械式定着具12と複数のキャップ筋13を有する。
複数の機械式定着具12は、柱1内に位置する各梁主筋3の外側最端部(図で左端)に機械的に固定され、梁主筋3の引張抵抗を高める機能を有する。
複数のキャップ筋13は、幅広扁平梁10内の端部(図で左端部)に埋設されたコの字形の配筋であり、梁主筋端部の定着性を高める機能を有する。
【0049】
さらにこの例では、図5(B)に示すように、柱1の前面(図で左側、又は後面)に位置する幅広扁平梁10のはみ出し部11に埋設されたコ形補強筋14と、梁主筋3の位置を拘束する複数の拘束筋15と、を有する。
【0050】
上述した構成により、幅広扁平梁10が、柱1の片側のみに梁2があるト字形であっても、柱1の両側に梁2がある十字形(図3参照)と同等の曲げ終局強度を維持できることが、上述した試験により確認された。
【0051】
すなわち、幅広扁平梁10の降伏ヒンジを柱1の側面に設定したことで、柱1の近傍の補強鉄筋を軽減できるが、柱1からはみ出したはみ出し部11の梁主筋3の定着力は低下する。その傾向は、幅広扁平梁10の最端部で顕著である。そのため、本発明では、幅広扁平梁10における梁主筋3の外側最端部を機械式定着具12による機械式定着とするとともに、コの字形のキャップ筋13を幅広扁平梁10の最端部の横側から挿入している。これにより、幅広扁平梁10の端部の拘束力を高め、梁主筋端部の定着力を高めることができる。
【0052】
図6は、本発明による幅広扁平梁10の第2実施形態図である。
この図において、(A)は平面図、(B)は(A)のB−B断面図である。この例は、幅広扁平梁10が、柱1の両側に梁2がある十字形(図3参照)である場合を示している。
【0053】
図6(A)に示すように、本発明の幅広扁平梁10は、縦貫通孔16と貫通孔補強筋17を有する。
【0054】
縦貫通孔16は、柱1の前面又は後面に位置する幅広扁平梁10のはみ出し部11を上下に貫通する。縦貫通孔16の位置は、柱1の張出部の柱側面から、d/2以内、かつ柱1の前面からd/2以内であるのがよい。ここでdは梁の梁せいである。
また、縦貫通孔16の直径は、柱せいの0.15倍以下、かつ200mm以下であるのがよい。なお縦貫通孔16は、この例では1つであるが、中心間隔を十分隔てる限りで2以上であってもよい。
【0055】
貫通孔補強筋17は、U字形であり、縦貫通孔16を囲み、柱1内まで延びるように配筋する。
さらにこの例では、図6(B)に示すように、柱1の前面(図で左側、又は後面)に位置する幅広扁平梁10のはみ出し部11に埋設されたコ形補強筋18と、梁主筋3の位置を拘束する複数の拘束筋15とを有する。
【0056】
上述した構成により、柱1の両側に梁2がある十字形の幅広扁平梁10において、梁2の曲げ終局強度を維持したままで、幅広扁平梁10のはみ出し部11を上下に貫通する縦貫通孔16を設けることができることが、上述した試験により確認された。
【0057】
すなわち、特許文献1のように、柱1から跳ね出し部にかけてその耐力が扁平梁端部の耐力に比べ十分大きくなるように補強する場合、跳ね出し部に大量の補強鉄筋が必要となり、場合によっては、跳ね出し部の配筋施工が困難になるという問題がある。
また、この場合、一方で、柱1の側面に雨どいなどの設備配管の貫通が必要になった場合、配筋が邪魔で縦貫通孔を設けられないといった問題もあった。
本発明では、幅広扁平梁10の降伏ヒンジを柱1の側面に設定したことで、柱1の近傍の補強鉄筋を軽減でき、梁2の主筋およびスタラップの間に設備配管用の縦貫通孔16を形成できる。
また、縦貫通孔16を囲み柱1内まで延びるようにU字形の貫通孔補強筋17を配筋することで、縦貫通孔16による幅広扁平梁10の耐力低下を防止することができる。
【0058】
図7は、上述した本発明のラーメン架構を用いた建物20の断面側面図である。
本発明による建物20は、マンション等の集合住宅であり、建物20の桁方向(図で左右方向)に少なくとも2構面以上の鉄筋コンクリートの柱1と梁2からなるラーメン架構を有する。
また、この建物20は、少なくとも1構面に上述した本発明のラーメン架構を有する。
【0059】
この構成により、各階の梁2の高さを維持したまま開口高さを大きくすることができる。
【0060】
図8は、本発明による建物20の平面図である。
この例において、建物20の妻側(図で右側)にバルコニー22を設け、このバルコニー22の幅広扁平梁10(破線で示す)のない位置に垂直避難口24を設けている。垂直避難口24は、人が通れる大きさ、例えば650mm×650mm以上であるのがよい。
この構成により、幅広扁平梁10を有する建物20であっても、垂直避難口24を設けることができる。
【0061】
上述したように、本発明によれば、幅広扁平梁10の降伏ヒンジが、隣接する柱1の対向側面に設定されているので、大量の補強鉄筋が必要な跳ね出し部を設ける必要がなく、配筋施工が容易になる。
また、幅広扁平梁10の曲げ終局強度Mが、はみ出し幅Baに基づき低減されて算出される。従って、隣接する柱1の対向側面に降伏ヒンジを設定したにも関わらず、幅広扁平梁10と柱1の接合部の強度計算が容易にできる。
【0062】
従って、幅広扁平梁10と柱1の接合部の強度計算が容易であり、幅広扁平梁10と柱1の接合部を補強して幅広扁平梁10の曲げ終局強度Mを容易に高めることができる。
【0063】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない限りで種々に変更できることは勿論である。
【符号の説明】
【0064】
at 引張主筋断面積、σy 主筋降伏強度、d 梁せい、Ba はみ出し幅、
Bb 梁幅、Bc 柱幅、Mu 通常扁平梁の曲げ終局強度、
Mt 幅広扁平梁の曲げ終局強度(実験値)、M 幅広扁平梁の曲げ終局強度(計算値)、
γ 低減係数、μ 定数、1 柱、2 梁、3 梁主筋、4 コンクリート、
9 通常扁平梁、10 幅広扁平梁、11 はみ出し部、12 機械式定着具、
13 キャップ筋、14 コ形補強筋、15 拘束筋、16 縦貫通孔、
17 貫通孔補強筋、18 コ形補強筋、20 建物、22 バルコニー、
24 垂直避難口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9