【実施例1】
【0036】
本発明の発明者らは、
図3に示した各扁平梁(A)〜(E)に相当する試験体を製作し、実際の梁2の曲げ終局強度を計測した。
【0037】
試験体に地震で想定される荷重を加え、梁主筋3が降伏する(梁主筋3が引張りに対する抵抗力を失い、塑性変形領域に入る)までの強度が「梁の曲げ終局強度」である。
R=1/50rad程度の変形において、柱内部を通る梁主筋は全て降伏し、柱から張出る梁主筋も一部は降伏することが確認された。
【0038】
以下、この試験で得られた幅広扁平梁10の曲げ終局強度Mtを、「実験値Mt」と呼び、後述する計算による幅広扁平梁10の曲げ終局強度Mを、「計算値M」と呼ぶ。
【0039】
(試験結果)
図4は、本試験の試験結果を示す図である。この図において、横軸は梁幅Bbと柱幅Bcとの差Ba(はみ出し幅Ba)と柱幅Bcとの比Ba/Bcである。また、縦軸は本試験で得られた実験値Mtと計算値Mとの比Mt/Mである。
また、図中の各記号は
図3に対応し、Aは通常扁平梁、Bは十字振分け、Cは十字片寄せ、Dはト字振分け、Eはト字片寄せである。さらに添字「1」は学会論文等で示されている試験結果であり、「2」は本試験による試験結果である。
【0040】
図4において、計算による幅広扁平梁10の曲げ終局強度M(計算値M)は、以下の式(3)(4)で計算している。
M=γ・0.9・at・σy・d=γ・Mu・・・(3)
γ=1.0−μ・Ba/Bc・・・(4)
ここでγは低減係数、μは定数である。定数μは、この例では0.2とした。
【0041】
図4から、定数μを0.2とすると、実験値Mtと計算値Mとの比Mt/Mは、Ba/Bcが0から1.1までの範囲で、1から1.5の範囲にすべて収まっており、実験値Mtが計算値Mよりすべて1〜1.5倍であることがわかる。
また、式(3)(4)から、定数μを0.2より大きくすると、低減係数γが小さくなり、計算値Mは実験値Mtよりもさらに小さくなる。従って、μを0.2以上として0.2よりも大きくすると、実際の強度(実験値Mt)は計算値Mよりもさらに大きくなることから、上述の計算値Mを用いた設計はより安全側の設計となることがわかる。
【0042】
また、
図4において、実線で示す直線は、Ba/Bc=1.0、Mt/M=1.1の点を通っている。この直線は式(2)における梁の曲げ終局強度Muに相当する仮定することができ、この場合、Mu/M=1.1・・・(5)となる。
式(5)(3)から、低減係数γ=M/Mu=1/1.1=0.909であり、式(4)から定数μは約0.10となる。すなわち、定数μが0.10の場合にも、上述の計算値Mを用いた設計は式(2)による梁の曲げ終局強度Muより安全側の設計となることがわかる。
従って、定数μは、0.1以上、0.3以下であることが好ましく、特に0.2以上であるのが好ましい。
【0043】
本発明は上述した試験結果に基づく、新たな知見に基づくものである。
すなわち、本発明のラーメン架構は、鉄筋コンクリート造の柱1と梁2からなり、梁2の梁幅Bbが柱1の柱幅Bcより大きい幅広扁平梁10を有している。また、本発明では、梁2の降伏ヒンジが、隣接する柱1の対向側面に設定されている。また、幅広扁平梁10の曲げ終局強度Mが、はみ出し幅Baと柱幅Bcとの比Ba/Bcに基づく低減係数γにより算出される。
【0044】
また上述したように、本発明では、梁2の梁幅Bbが柱1の柱幅Bcより小さい通常扁平梁9の曲げ終局強度Muが、Mu=0.9・at・σy・dの式(2)で求められる。
また、低減係数γは、γ=1.0−μ・Ba/Bcの式(4)で求められる。ここでμは0.1以上、0.3以下の正定数である。
さらに、幅広扁平梁10の曲げ終局強度Mは、通常扁平梁9の曲げ終局強度Muと低減係数γとの積で求められる。
【0045】
上述したように、本発明では、梁2の降伏ヒンジを柱1の側面(隣接する柱1の対向側面)に設定することで、大量の補強鉄筋を必要とする柱1からの跳ね出し部をなくし、梁2(幅広扁平梁10)の配筋施工を簡易化した。また、この結果、補強鉄筋の減少による梁2の曲げ終局強度の低下を、1.0以下の正数である低減係数γを導入し、通常扁平梁9の曲げ終局強度Muに低減係数γをかけることにより計算することで、建物20の耐震性能を確保するものとした。
【0046】
すなわち通常扁平梁9の曲げ終局強度Muに対し、どの程度低く見積もるかは、従来は複雑な計算が必要になる。これに対し、本発明の発明者らは低減係数γを導入し、通常扁平梁9の曲げ終局強度Muと低減係数γの積として容易かつ単純に見積もることができることを見出した。
これにより、幅広扁平梁10であっても、梁2(幅広扁平梁10)の降伏ヒンジを柱1の側面に設定した場合の耐震性能を、より簡易にかつ正確に計算することができ、通常扁平梁9の配筋施工を簡易化できるものとなった。
【0047】
図5は、本発明による幅広扁平梁10の第1実施形態図である。
この図において、(A)は平面図、(B)は(A)のB−B断面図である。この例は、幅広扁平梁10が、柱1の片側のみに梁2があるト字形(
図3参照)である場合を示している。
【0048】
図5(A)に示すように、本発明の幅広扁平梁10は、複数の機械式定着具12と複数のキャップ筋13を有する。
複数の機械式定着具12は、柱1内に位置する各梁主筋3の外側最端部(図で左端)に機械的に固定され、梁主筋3の引張抵抗を高める機能を有する。
複数のキャップ筋13は、幅広扁平梁10内の端部(図で左端部)に埋設されたコの字形の配筋であり、梁主筋端部の定着性を高める機能を有する。
【0049】
さらにこの例では、
図5(B)に示すように、柱1の前面(図で左側、又は後面)に位置する幅広扁平梁10のはみ出し部11に埋設されたコ形補強筋14と、梁主筋3の位置を拘束する複数の拘束筋15と、を有する。
【0050】
上述した構成により、幅広扁平梁10が、柱1の片側のみに梁2があるト字形であっても、柱1の両側に梁2がある十字形(
図3参照)と同等の曲げ終局強度を維持できることが、上述した試験により確認された。
【0051】
すなわち、幅広扁平梁10の降伏ヒンジを柱1の側面に設定したことで、柱1の近傍の補強鉄筋を軽減できるが、柱1からはみ出したはみ出し部11の梁主筋3の定着力は低下する。その傾向は、幅広扁平梁10の最端部で顕著である。そのため、本発明では、幅広扁平梁10における梁主筋3の外側最端部を機械式定着具12による機械式定着とするとともに、コの字形のキャップ筋13を幅広扁平梁10の最端部の横側から挿入している。これにより、幅広扁平梁10の端部の拘束力を高め、梁主筋端部の定着力を高めることができる。
【0052】
図6は、本発明による幅広扁平梁10の第2実施形態図である。
この図において、(A)は平面図、(B)は(A)のB−B断面図である。この例は、幅広扁平梁10が、柱1の両側に梁2がある十字形(
図3参照)である場合を示している。
【0053】
図6(A)に示すように、本発明の幅広扁平梁10は、縦貫通孔16と貫通孔補強筋17を有する。
【0054】
縦貫通孔16は、柱1の前面又は後面に位置する幅広扁平梁10のはみ出し部11を上下に貫通する。縦貫通孔16の位置は、柱1の張出部の柱側面から、d/2以内、かつ柱1の前面からd/2以内であるのがよい。ここでdは梁の梁せいである。
また、縦貫通孔16の直径は、柱せいの0.15倍以下、かつ200mm以下であるのがよい。なお縦貫通孔16は、この例では1つであるが、中心間隔を十分隔てる限りで2以上であってもよい。
【0055】
貫通孔補強筋17は、U字形であり、縦貫通孔16を囲み、柱1内まで延びるように配筋する。
さらにこの例では、
図6(B)に示すように、柱1の前面(図で左側、又は後面)に位置する幅広扁平梁10のはみ出し部11に埋設されたコ形補強筋18と、梁主筋3の位置を拘束する複数の拘束筋15とを有する。
【0056】
上述した構成により、柱1の両側に梁2がある十字形の幅広扁平梁10において、梁2の曲げ終局強度を維持したままで、幅広扁平梁10のはみ出し部11を上下に貫通する縦貫通孔16を設けることができることが、上述した試験により確認された。
【0057】
すなわち、特許文献1のように、柱1から跳ね出し部にかけてその耐力が扁平梁端部の耐力に比べ十分大きくなるように補強する場合、跳ね出し部に大量の補強鉄筋が必要となり、場合によっては、跳ね出し部の配筋施工が困難になるという問題がある。
また、この場合、一方で、柱1の側面に雨どいなどの設備配管の貫通が必要になった場合、配筋が邪魔で縦貫通孔を設けられないといった問題もあった。
本発明では、幅広扁平梁10の降伏ヒンジを柱1の側面に設定したことで、柱1の近傍の補強鉄筋を軽減でき、梁2の主筋およびスタラップの間に設備配管用の縦貫通孔16を形成できる。
また、縦貫通孔16を囲み柱1内まで延びるようにU字形の貫通孔補強筋17を配筋することで、縦貫通孔16による幅広扁平梁10の耐力低下を防止することができる。
【0058】
図7は、上述した本発明のラーメン架構を用いた建物20の断面側面図である。
本発明による建物20は、マンション等の集合住宅であり、建物20の桁方向(図で左右方向)に少なくとも2構面以上の鉄筋コンクリートの柱1と梁2からなるラーメン架構を有する。
また、この建物20は、少なくとも1構面に上述した本発明のラーメン架構を有する。
【0059】
この構成により、各階の梁2の高さを維持したまま開口高さを大きくすることができる。
【0060】
図8は、本発明による建物20の平面図である。
この例において、建物20の妻側(図で右側)にバルコニー22を設け、このバルコニー22の幅広扁平梁10(破線で示す)のない位置に垂直避難口24を設けている。垂直避難口24は、人が通れる大きさ、例えば650mm×650mm以上であるのがよい。
この構成により、幅広扁平梁10を有する建物20であっても、垂直避難口24を設けることができる。
【0061】
上述したように、本発明によれば、幅広扁平梁10の降伏ヒンジが、隣接する柱1の対向側面に設定されているので、大量の補強鉄筋が必要な跳ね出し部を設ける必要がなく、配筋施工が容易になる。
また、幅広扁平梁10の曲げ終局強度Mが、はみ出し幅Baに基づき低減されて算出される。従って、隣接する柱1の対向側面に降伏ヒンジを設定したにも関わらず、幅広扁平梁10と柱1の接合部の強度計算が容易にできる。
【0062】
従って、幅広扁平梁10と柱1の接合部の強度計算が容易であり、幅広扁平梁10と柱1の接合部を補強して幅広扁平梁10の曲げ終局強度Mを容易に高めることができる。
【0063】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない限りで種々に変更できることは勿論である。