【実施例】
【0044】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
【0045】
〔インキ組成物の製造方法〕
表1、表2の組成に従って、実施例1〜6および比較例1〜10のインキを三本ロールミルにて練肉することによって、各種の紫外線硬化型インキ組成物を得た。
尚、色材としてはカーボンブラックとしてラーベン1060Ultraをインキ組成物全量の16重量%、補色成分としてフタロシアニンブルー3重量%及びジオキサジンバイオレット2重量%(色材合計21重量%)、粘度及び流動性調整剤としてタルク2重量%及び炭酸マグネシウム2重量%(合計4重量%)、その他助剤としてワックス2重量%及び安定剤溶液(p−メトキシフェノール10重量%とエチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート90重量%の混合物)1重量%(助剤合計3重量%)を、全ての実施例に共通に添加した。 尚、補色成分であるフタロシアニンブルー及びジオキサジンバイオレットはカーボンブラック自体が呈する黄味を打ち消し、インキの漆黒性を更に高める目的で少量配合している。このようなインキの色相調整は「補色」と呼ばれ、一般に広く知られる手法である。
【0046】
〔印刷物の製造方法〕
かくして得た紫外線硬化型インキ組成物を、簡易展色機(RIテスター、豊栄精工社製)を用い、インキ0.10mlを使用して、RIテスターのゴムロール及び金属ロール上に均一に引き伸ばし、ミルクカートン紙(ポリエチレンラミネート紙、テトラ・レックス、テトラパック社製)の表面に墨濃度1.6〜1.8(X−Rite社製SpectroEye濃度計で計測)の範囲に均一に塗布されるように展色し、印刷物を作製した。なおRIテスターとは、紙やフィルムにインキを展色する試験機であり、インキの転移量や印圧を調整することが可能である。
【0047】
〔UVランプ光源による乾燥方法〕
インキ塗布後の印刷物にUV照射を行い、インキ皮膜を硬化乾燥させた。水冷メタルハライドランプ(出力100W/cm1灯)およびベルトコンベアを搭載したUV照射装置(アイグラフィックス社製、コールドミラー付属)を使用し、印刷物をコンベア上に載せ、ランプ直下(照射距離11cm)を以下に述べる所定条件で通過させた。各条件における紫外線照射量は紫外線積算光量系(ウシオ電機社製UNIMETER UIT−150−A/受光機UVD−C365)を用いて測定した。
【0048】
〔インキ組成物の評価方法1:乾燥性〕
硬化性は、照射直後に爪スクラッチ法にて印刷物表面の傷付きの有無を確認した。前記UV照射装置のコンベア速度(m/分)を変化させながら印刷物に紫外線を照射し、傷付きが無い最速のコンベア速度を記載した。従ってコンベア速度が速いほどインキの乾燥性が良好である。
【0049】
〔インキ組成物の評価方法2:開始剤溶解性〕
作成したインキを冷蔵庫内(4℃)にて1週間保管し、その後インキ約1グラムを金属グラインドゲージ(溝深さ0〜25ミクロン)上に載せ、金属スクレーパーでゲージ上のインキをかき取り、インキ中の光重合開始剤の溶解性低下に伴う析出の状態を目視で確認し、次の3段階で評価した。光重合開始剤が析出し結晶化した場合、グラインドゲージ上に開始剤結晶由来のスジが新たに発生する。本評価項目において析出の発生する組成では、冬場等、低温環境下においては十分な製品性能を発揮することが出来ない。
○:析出は見られない。
△:ごく僅かに析出が確認できる。
×:析出が確認できる。
【0050】
〔インキ組成物の評価方法3:流動性〕
インキ流動性はスプレッドメーター法(平行板粘度計)によりJIS K5101,5701に則った方法で測定を実施し、水平に置いた2枚の平行板の間に挟まれたインキが、荷重板の自重(115グラム)によって、同心円状に広がる特性を経時的に観察し、60秒後のインキの広がり直径をダイアメーター値(DM[mm])とし、インキ印刷適性が良好となる次の3段階で評価した。本評価項目においてDMが27mm未満となる組成では、印刷機上で壺切れ、インキローラ間の転移不良といった印刷適性面での不良が発現し易くなる。
○:DM30mm以上
△:DM27以上〜30nm未満
×:DM27mm未満
【0051】
〔印刷物の評価方法4:低マイグレーション性〕
低マイグレーション性の評価に関しては、基本的な評価手順は欧州印刷インキ評議会であるEuPIA(European Printing Ink Association)のガイドライン(EuPIA Guideline on Printing Inks、applied to the non−food contact surface of food packaging materials and articles、November 2011(Replaces the September 2009 version))に準拠した。
先ず上述の印刷物はコンベア速度40m/min.で2回UV照射することによりインキ層を乾燥させた。本条件における紫外線積算光量は約120mJ/cm
2であった。続いて印刷物上面の硬化インキ層にミルクカートン白紙(以後、インキが展色されていない非印刷状態のミルクカートン紙をミルクカートン白紙と呼ぶ)の裏面が接するよう重ね合わせ、油圧プレス機を用いてプレス圧力40kg/cm
2、室温25℃雰囲気下で48時間加圧することで、硬化インキ層中の未反応成分をミルクカートン白紙の裏面に移行(マイグレーション)させた(
図1及び2参照)。プレス後にミルクカートン白紙を取り外して成形し、1000ml容積の液体容器を作製した。この液体容器においてインキ成分の移行した裏面は内側に面している。次に擬似液体食品として用意したエタノール水溶液(エタノール95重量%と純水5重量%の混合溶液)1000mlを液体容器に注ぎ密閉した。なお、本条件においてエタノール水溶液1000mlと接触する液体容器内面の総面積はおよそ600cm
2であった。密閉した液体容器を室温25℃雰囲気下で24時間静置し、ミルクカートン白紙裏面に移行したインキ成分をエタノール水溶液中に抽出した。この後液体容器からエタノール水溶液を取り出し、液体クロマトグラフ質量分析にて使用した開始剤の同定及び各々の溶出濃度(マイグレーション濃度)を定量し、各開始剤成分のマイグレーション濃度の合計値から、3段階でマイグレーション性能を評価した。例として、開始剤A、B、C3種を使用した紫外線硬化型インキを用いた印刷物においては、開始剤Aのマイグレーション濃度が10ppb、開始剤Bのマイグレーション濃度が5ppb、開始剤Cのマイグレーション濃度が15ppbであった場合、開始剤成分のマイグレーション濃度の合計値は、A+B+C=10+5+15=30ppbと評価される。なお液体クロマトグラフ質量分析の定量に際しては、使用する全開始剤について各々上記エタノール水溶液を用いた検量線を予め作成し、これを用いることで算出した。
○:30ppb未満
△:30ppb以上〜60ppb未満
×:60ppb以上
【0052】
〔インキ組成物の評価方法5:内部硬化性〕
内部硬化性は、コロナ処理を施したPETフィルム原反にRIテスターを使用して墨濃度2.2でインキを展色し、その展色物をメタルハライドランプ約120mJ/cm
2の紫外線を照射することでインキを乾燥させた。乾燥後カッターナイフを用いて、インキ面に2mmピッチで碁盤の目状に傷を付け、セロファンテープ(ニチバン社製)を添付した。セロファンテープを一定の速度でインキ面から法線方向に引きはがし、セロファンテープ面に取られたインキの量及びインキ面の傷つきの量を測定した。したがってセロファンテープ面へのインキの取られ、インキ面の傷つきが少ないほど、インキの内部乾燥性が良好である。
セロファンテープ面へのインキの取られ、インキ面の傷つきが生じる面積率が
○:5%未満
△:5%以上〜20%未満
×:20%以上
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
表1及び表2中の数値は重量%である。
表1、2に示す諸原料及び略を以下に示す。
・ラーベン1060Ultra:カーボンブラック、平均一次粒子径30nm、比表面積(NSA)66m
2/g、コロンビアンケミカル社製
・フタロシアニンブルー:銅フタロシアニン、FASTOGEN BLUE TGR−1、DIC社製
・ジオキサジンバイオレット:ジオキサジンバイオレット、ホスターパームバイオレット RL 02、クラリアント社製
・タルク:含水ケイ酸マグネシウム、ハイフィラー #5000PJ、松村産業社製
・炭酸マグネシウム:塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウムTT、ナイカイ塩業社製
・ワックス:ポリオレフィンワックス、S−381−N1、シャムロック社製
・安定剤溶液:p−メトキシフェノール(メトキノン、精工化学社製)10重量%とエチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(SR494NS、サートマー社製)90重量%の混合溶液
・Irgacure369:2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、数平均分子量366.5、 BASF社製
・Irgacure127:2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2-ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、数平均分子量340.4、 BASF社製
・Omnipol TX:ポリブチレングリコール−ビス(9−オキソ−9H−チオキサンテニロキシ)アセテート
、数平均分子量660、IGM社製
・Genopol TX−1:チオキサントン誘導体ポリマー
ポリブチレングリコールビス(9−オキソ−9H−チオキサンテニロキシ)アセテート、数平均分子量820、RAHN AG社製
・SPEEDCURE DETX:2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オン
、数平均分子量268.3、LAMBSON社製
・SPEEDCURE ITX:
2−イソプロピルチオキサントンと4−イソプロピルチオキサントンの混合物、数平均分子量254.3、LAMBSON社製
・Irgacure819:ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、BASF社製
・Esacure1001:1−[4−[(4−ベンゾイル-フェニル)−チオ]−フェニル]−2−メチル−2−[(4−メチル−フェニル)−スルホニル]−プロパン−1−オン、数平均分子量、Lamberti社製
・アロニックスM−400:ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(製品中のペンタアクリレートの割合:40〜50重量%)、東亞合成社製
・SR494NS:エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート、サートマー社製
・DICLITE UE−8200T:ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート
・Esacure A198:(メチルイミノ)ジエタン−2,1−ジイル−ビス(4−ジメチルアミノベンゾエート)
、数平均分子量413、Lamberti社製
・Omnipol ASA:ポリ(エチレングリコール)−ビス−ジメチルアミノベンゾエート
ポリ(エチレングリコール)ビスジ−メチルアミノベンゾエート、数平均分子量488〜532、IGM社製
・Genopol AB−1:アミノベンゾエート誘導体ポリマー
ポリ(エチレングリコール)ビスジメチルアミノベンゾエート、数平均分子量860、RAHN AG社製
【0056】
(数平均分子量の測定)
尚、本発明におけるGPCによる数平均分子量(ポリスチレン換算)の測定は東ソー(株)社製HLC8220システムを用い以下の条件で行った。
分離カラム:東ソー(株)製TSKgelGMH
HR−Nを4本使用。カラム温度:40℃。移動層:和光純薬工業(株)製テトラヒドロフラン。流速:1.0ml/分。試料濃度:1.0重量%。試料注入量:100マイクロリットル。検出器:示差屈折計。
【0057】
実施例に述べる活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物では、紫外線光源により良好な乾燥性が得られた。また各原材料を前記の重量%の範囲で配合することにより、本願発明の必要特性である開始剤析出による保存安定性、印刷適性に影響を与える流動性、内包物へのマイグレーションの低減、及び内部硬化性といった評価項目において良好な結果となった。
【0058】
比較例の結果においては、開始剤析出は見られないものの、光重合開始剤組成物(A)、光重合開始剤組成物(B)、光重合開始剤組成物(C)、4官能以上の重合性アクリレートモノマー、重合基を有する樹脂オリゴマーいずれかが欠如しても、十分な乾燥性、内包物へのマイグレーションの低減が得られないことを確認した。