【実施例】
【0042】
〔実施例1〕
本発明の実施例について説明する。
柿の果実は、富有柿の幼果を使用した。幼果は皮・蔕・種を取り除き細断したのち、100℃の熱水中で10秒間、煮沸による殺菌を行った(果実原料)。殺菌後、試料を滅菌済み300mLバッフルフラスコに40.0gずつ移した。
【0043】
麹菌は黒麹菌(NBRC4033)を使用した。黒麹菌は、ポテトデキストロース斜面培地にて35℃で2日間培養したものを種菌とした。適当量の種菌を滅菌水10mLで懸濁後、2.0mLを上記の果実原料に添加し、好気条件下、35℃で14日間発酵を行った(発酵工程)。発酵処理物は0、7、10、14日目にサンプリングを行い、抽出工程を行って柿発酵組成物を調製した。
【0044】
尚、コントロールとして乳酸菌(Lactococcus lactis、NBRC12007)を使用して果実原料に添加して発酵させた。乳酸菌は、MRS培地にて30℃で2日間前培養を行ったものを種菌とした。上記の果実原料に100mLの水を添加して浸漬状態とし、種菌の懸濁液を5.0mL添加した後、アネロパック・ケンキを用いた嫌気条件にて、30℃で14日間発酵を行った。発酵処理物は0、7、10、14日目にサンプリングを行い、抽出工程を行って柿発酵組成物を調製した。
【0045】
抽出工程は、以下のようにして行った。
・100%エタノール-水抽出
30mLのエタノールを用いて4日間抽出してエタノール抽出物を回収した後、30mLの水を用いて4日間抽出を行った。エタノール画分は減圧乾固後、水に可溶、エタノール不溶成分の析出が見られたため、エタノール可溶成分をエタノール画分とし、水に可溶、エタノール不溶成分は水画分と統合した。それぞれの成分を減圧乾固したのち、10%(w/v)になるようにそれぞれの溶媒に再溶解した。乳酸菌発酵物では、上記の方法に加えて、サンプリングした浸漬水10mLもまた水画分に統合した。
【0046】
・50%エタノール抽出
50%エタノールを用い、4日間の抽出を2度行った。この抽出法では、減圧乾固後の抽出物は50%エタノールで完全に溶解したため、10%(w/v)となるように50%エタノールで再度溶解し、試料溶液とした。乳酸菌発酵物では上記の方法に加えて、サンプリングした浸漬水10mLを統合し、減圧乾固した後に同様の処理を行った。
【0047】
〔実施例2〕
実施例1で調製した柿発酵組成物のエタノール画分および水画分について、α-グルコシダーゼ阻害活性(血糖値上昇抑制作用)を調べた。
【0048】
酵素液は以下のようにして調製した。即ち、1.0gラット腸管アセトンパウダーを0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)10mLに懸濁し、氷冷下にて30分間攪拌処理を行った。その後遠心分離を行い(12000rpm×10分、4℃)、上清を粗酵素液とした。調製した酵素液は−80℃にて保存した。
【0049】
蒸留水0.48mLに250mMマルトース水溶液0.4mLを基質として加えた。この反応液に各抽出液(エタノール画分および水画分、終濃度:1〜20mg/mL)0.1mLを阻害剤として添加し、攪拌後37℃で5分間プレインキュベートを行った。その後、0.02mLのα−グルコシダーゼ粗酵素液を添加し、37℃で40分反応を行った。反応終了後、1.0mLの0.2M炭酸ナトリウム水溶液を添加し、反応を停止させた。同反応にて生成したグルコースはグルコースCII−テストワコーを用いて測定した。残存活性を求めたのち50%阻害濃度(IC
50、μg/mL)を算出した。結果を表1〜3に示した(値が小さいほど高い活性であることを示す)。
【0050】
尚、表1は黒麹菌による柿発酵組成物の100%エタノール−水抽出物のα−グルコシダーゼ阻害活性を調べた結果、表2は黒麹菌および乳酸菌による柿発酵組成物の50%エタノール抽出物のα−グルコシダーゼ阻害活性を調べた結果をそれぞれ示した。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
黒麹菌による処理では、表1(100%エタノール−水抽出物)より、水画分にのみα−グルコシダーゼ阻害活性が確認された。また、7日目以降に活性が増強しており、10日目で最も高い活性(IC
50=8016.7μg/mL)を示すことが判明した。また、黒麹菌による処理は、表2(50%エタノール抽出物)より、7日目、14日目における活性が増強しており、14日目の乳酸菌100%エタノール−水抽出物の活性(IC
50=3800.0μg/mL)よりも高い活性(IC
50=1187.9μg/mL)を示すことが判明した。
【0054】
これより、黒麹菌および乳酸菌の処理によるいずれの柿発酵組成物も、発酵によりα-グルコシダーゼ阻害活性が増強するものと認められた。α-グルコシダーゼ阻害活性は抽出法によって異なり、黒麹菌による処理において、100%エタノール-水抽出では7〜10日の発酵処理で高い活性を示し、50%エタノール抽出では7〜14日の発酵処理で高い活性を示した。
即ち、黒麹菌による処理では、乳酸菌による処理より優れたα-グルコシダーゼ阻害活性増強効果を有するものと考えられ、特に、黒麹菌による処理では、14日発酵後の50%エタノール抽出により、最高の阻害活性を有するものと認められた。このときの黒麹菌処理の阻害活性および乳酸菌処理の阻害活性の比は約3.2倍(1187.9/3800.0)であった。
【0055】
〔実施例3〕
実施例1で調製した柿発酵組成物について、アンジオテンシン変換酵素阻害活性(血圧上昇抑制作用)を調べた。
本試験は、血圧上昇に関与するアンジオテンシン変換酵素(ACE)に対する阻害活性をエースキット−ダブルエスティー(アンジオテンシン変換酵素阻害活性測定キット)((株)同仁化学研究所)を用いて測定し、阻害率(IC
50)を求めた。本実施例では、100%エタノール−水抽出物(水画分)および50%エタノール抽出物の阻害活性を調べた。
【0056】
試験はキットの使用方法に沿って行った。つまり、超純水で調製したアンジオテンシン変換酵素とアミノアシラーゼ混合液20μL、基質溶液(3-Hydroxybutyryl-Gly-Gly-Gly (3HB-GGG))20μL、試料溶液20μLを混合し、37℃で1時間反応させた。これに、3−ヒドロキシブチル酸デヒドロゲナーゼと補酵素の混合液200μLを添加して10分間室温で反応させた。反応後450nmの吸光度測定を行い、得られたデータをもとに阻害率を算出した。結果を表3(100%エタノール−水抽出物),表4(50%エタノール抽出物)に示した(値が小さいほど高い活性であることを示す)。
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
表3(100%エタノール−水抽出物)より、黒麹菌による処理では、7日目以降に活性が増強しており、7日目で最も高い活性(IC
50=182.9μg/mL)を示すことが判明した。
【0060】
表4(50%エタノール抽出物)より、黒麹菌による処理では、7日目以降に活性が増強しており、7日目で最も高い活性(IC
50=13.5μg/mL)を示すことが判明した。また、乳酸菌による処理では、7日目以降に活性が増強しており、7日目で最も高い活性(IC
50=45.6μg/mL)を示すことが判明した。
【0061】
これより、黒麹菌および乳酸菌の処理によるいずれの柿発酵組成物も、発酵によりアンジオテンシン変換酵素阻害活性が増強するものと認められた。黒麹菌による処理において、100%エタノール-水抽出および50%エタノール抽出の何れにおいても、7〜14日の発酵処理で高い活性を示した。
即ち、黒麹菌による処理では、乳酸菌による処理より優れたアンジオテンシン変換酵素阻害活性増強効果を有するものと考えられ、特に、黒麹菌による処理では、7日発酵後の50%エタノール抽出により最高の阻害活性を有するものと認められた。このときの黒麹菌処理の阻害活性および乳酸菌処理の阻害活性の比は約3.3倍(13.5/45.6)であった。
【0062】
〔実施例4〕
実施例1で調製した柿発酵組成物のエタノール画分および水画分について、β-リパーゼ阻害活性(抗肥満作用)を調べた。
【0063】
50μLの蛍光性のメチルウンベリフェロンオレイン酸エステル溶液に25μLの試料溶液(終濃度:2.5〜2500mg/mL)を添加し、37℃で5分間プレインキュベートした。その後、25μLのβ−リパーゼを添加し、37℃で30分間酵素反応を行った。反応終了後、50μLの100mMクエン酸緩衝液(pH4.2)を添加して反応を停止させ、励起波長355nm、蛍光波長460nmにて、遊離した4−メチルウンベリフェロンの蛍光を測定した。残存活性を求めたのち50%阻害濃度(IC
50、μg/mL)を算出した。結果を表5〜7に示した(値が小さいほど高い活性であることを示す)。
【0064】
尚、表5は黒麹菌による柿発酵組成物の100%エタノール−水抽出物のβ-リパーゼ阻害活性を調べた結果、表6は乳酸菌による柿発酵組成物の100%エタノール−水抽出物のβ-リパーゼ阻害活性を調べた結果、表7は黒麹菌および乳酸菌による柿発酵組成物の50%エタノール抽出物のβ-リパーゼ阻害活性を調べた結果をそれぞれ示した。
【0065】
【表5】
【0066】
【表6】
【0067】
【表7】
【0068】
黒麹菌による処理では、表5(100%エタノール−水抽出物)より、エタノール画分および水画分の両方にβ−リパーゼ阻害活性が確認された。特に、水画分では7日目(IC
50=10.2μg/mL)および14日目に(IC
50=2.0μg/mL)高い活性を示すことが判明した。これらは、乳酸菌100%エタノール−水抽出物の活性(7日目:IC
50=110.7μg/mL、14日目:IC
50=21.6μg/mL)よりも高い活性を示すことが判明した。
また、表7(50%エタノール抽出物)より、7日目以降に活性が増強しており、14日目で最も高い活性を示すことが判明した(IC
50=1.43μg/mL)。このときの活性は、14日目の乳酸菌50%エタノール抽出物の活性(IC
50=1891.3μg/mL)よりも高い活性を示すことが判明した。
【0069】
一方、乳酸菌による処理では、表6(100%エタノール−水抽出物)より、エタノール画分および水画分の両方にβ−リパーゼ阻害活性が確認された。エタノール画分では、7日目(IC
50=12.0μg/mL)および10日目に(IC
50=15.3μg/mL)高い活性を示すことが判明した。水画分では、10日目(IC
50=63.7μg/mL)および14日目に(IC
50=21.6μg/mL)高い活性を示すことが判明した。
【0070】
これより、黒麹菌および乳酸菌の処理によるいずれの柿発酵組成物も、発酵によりβ−リパーゼ阻害活性が増強するものと認められた。
黒麹菌による処理において、100%エタノール-水抽出では7日および14日の発酵処理で高い活性を示し、50%エタノール抽出では7〜14日の発酵処理で高い活性を示した。
即ち、黒麹菌による処理では、乳酸菌による処理より優れたα-グルコシダーゼ阻害活性増強効果を有するものと考えられた。特に、黒麹菌による処理において、14日発酵後の100%エタノール-水抽出時の阻害活性は、乳酸菌処理時の阻害活性の10.8倍(2.0/21.6)であった。
また、黒麹菌による処理において、14日発酵後の50%エタノール抽出時の阻害活性は、乳酸菌処理時の阻害活性の約1323倍(1.43/1891.3)であった。
【0071】
〔実施例5〕
実施例1で調製した柿発酵組成物について、GC−MS分析を行った。
GC−MS分析には、HPLC装置としてAgilent Technologies 1260 infinity(アジレントテクノロジー製)を使用し、カラムとしてScherzo SS-C18(150mm×φ2mm)(インタクト株式会社製)、MS検出器としてAgilent Technologies 6430 Triple Quad LC/MS(アジレントテクノロジー製)を使用した。
移動相は、A:水(0.2%酢酸+0.2%ギ酸添加)、B:水−メタノール=1:1(100mM酢酸アンモニウム添加)とし、流速0.3mL/分、カラム温度40℃、イオンモード:ポジティブの条件とした。
【0072】
結果を
図1〜6に示した。
図1は黒麹菌処理(100%エタノール-水抽出(エタノール画分))の結果を示し、
図2は黒麹菌処理(100%エタノール-水抽出(水画分))の結果を示し、
図3は黒麹菌処理(50%エタノール抽出)の結果を示し、
図4は乳酸菌処理(50%エタノール抽出)の結果を示し、
図5は乳酸菌処理(100%エタノール-水抽出(エタノール画分))の結果を示し、
図6は乳酸菌処理(100%エタノール-水抽出(水画分))の結果を示した。
【0073】
この結果、黒麹菌処理の柿発酵組成物および乳酸菌処理の柿発酵組成物において、それぞれの組成物中の発酵生成物は相違するものと認められた。具体的には、黒麹菌処理の柿発酵組成物において、19〜25分の間に発酵生成物と考えられる特徴的なピークが認められた(
図1〜3)。これに対して、乳酸菌処理の柿発酵組成物においては、このようなピークは確認できなかった。また、
図2において、黒麹菌処理の14日目には、それまでに確認できなかった複数のピーク(矢印)が確認できた。
【0074】
即ち、黒麹菌処理の柿発酵組成物および乳酸菌処理の柿発酵組成物において、このような発酵生成物の相違がみられることから、柿の果実に対する黒麹菌および乳酸菌の発酵のメカニズムがそれぞれ異なるものと推測された。
また、黒麹菌による処理で、14日の発酵によって高いα-グルコシダーゼ阻害活性、アンジオテンシン変換酵素阻害活性およびβ-リパーゼ阻害活性がみられるのは、
図2に示すような特徴的なピークを示す発酵生成物が要因となっていると推測された。