【実施例】
【0015】
先ず、本発明の実施例の概要を図面に基づいて説明する。
図1、
図2に示されるように、車両10は、スクータ型のバーハンドル車両であり、車体11に設けられる低床のステップフロア12と、このステップフロア12の車体前部側に立ち上げられたレッグシールド13と、ステップフロア12の車体後部側に連続して形成されたリアボディ14と、このリアボディ14の上面に配設されたシート15とを備える。
【0016】
レッグシールド13の内部でヘッドパイプ16にフロントフォーク17が回動可能に支持され、このフロントフォーク17の下端に前輪18が軸支されている。リアボディ14に覆われるメインフレーム19の後部下方に、リアサスペンション20を介してパワーユニット21が支持され、このパワーユニット21の後端に後輪22が軸支されている。
【0017】
パワーユニット21は、エンジン、減速機、後輪22へ動力を伝達する動力伝達機構が一体化されている。パワーユニット21の前端は、メインフレーム19に車体上下方向へ揺動可能に支持され、パワーユニット21の後部上側は、リアサスペンション20に連結されている。
【0018】
フロントフォーク17の上端には、前輪18を操舵するバーハンドル23が取り付けられている。このバーハンドル23の両端には、第1のブレーキ操作子24と、第2のブレーキ操作子25とが設けられている。
【0019】
前輪18のホイール18aには、機械式ブレーキ26としての第1ブレーキ26が収容されており、後輪22のホイール22aには、機械式ブレーキ27としての第2ブレーキ27が収容されている。バーハンドル車両用ブレーキ装置30は、バーハンドル23右端の第1のブレーキ操作子24を用いて、第1ブレーキ26の制動力が第2ブレーキ27の制動力より大きくなるように作動させ、バーハンドル23左端の第2のブレーキ操作子25を用いて、第2ブレーキ27の制動力が第1ブレーキ26の制動力より大きくなるように作動させる連動ブレーキである。なお、実施例では第1ブレーキ26及び第2ブレーキ27をドラム式ブレーキとしたが、他の形式のブレーキであっても差し支えない。
【0020】
第1ヘッドパイプ16には、第1ブレーキ26と第2ブレーキ27の両方を連動して牽引する連動機構40が設けられている。連動機構40には、第1のブレーキ操作子24の操作によって牽引される第1の操作側連繋部材31と、第2のブレーキ操作子25の操作によって牽引される第2の操作側連繋部材32とが繋がれている。
【0021】
また、連動機構40には、第1ブレーキ側連繋部材33の一端が繋がれ、第1ブレーキ側連繋部材33の他端は第1ブレーキ26に繋がれている。また、連動機構40には、第2ブレーキ側連繋部材34の一端が繋がれ、第2ブレーキ側連繋部材34の他端は第2ブレーキ27に繋がれている。
【0022】
以上に述べたように、バーハンドル車両用ブレーキ装置30は、2つのブレーキ操作子24、25と、第1ブレーキ26及び第2ブレーキ27との間に、2つの操作側連繋部材31、32と、第1ブレーキ側連繋部材33と、第2ブレーキ側連繋部材34と、動滑車41とを備えている。
【0023】
第1の操作側連繋部材31及び第2の操作側連繋部材32の大部分は、それぞれ第1のアウタチューブ31a及び第2のアウタチューブ32aに覆われており、これらの第1のアウタチューブ31a及び第2のアウタチューブ32aは、車体11に支持されている。
【0024】
第1ブレーキ側連繋部材33及び第2ブレーキ側連繋部材34の大部分は、それぞれ、第1のブレーキ側アウタチューブ33a及び第2のブレーキ側アウタチューブ34aに覆われており、これらの第1のブレーキ側アウタチューブ33a及び第2のブレーキ側アウタチューブ34aは車体11に支持されている。
【0025】
第1ブレーキ26には、第1ブレーキアーム35が揺動自在に設けられており、この第1ブレーキアーム35が第1ブレーキ側連繋部材33によって牽引されることで、第1ブレーキ26が作動する。第1ブレーキ26には、第1ブレーキアーム35に繋がれた第1ブレーキ側連繋部材33を保持する第1ワイヤブラケット26aが突出して設けられ、この第1ワイヤブラケット26aと第1ブレーキアーム35との間には第1レバーリターンスプリング36が縮設されている。第1ブレーキアーム35は、第1レバーリターンスプリング36によって常時非作動方向に付勢されている。
【0026】
第2ブレーキ27には、第2ブレーキアーム37が揺動自在に設けられており、この第2ブレーキアーム37が第2ブレーキ側連繋部材34によって牽引されることで、第2ブレーキ27が作動する。第2ブレーキ27には、第2ブレーキアーム37に繋がれた第2ブレーキ側連繋部材34を保持する第2ワイヤブラケット27aが突出して設けられ、この第2ワイヤブラケット27aと第2ブレーキアーム37との間には第2レバーリターンスプリング38が縮設されている。第2ブレーキアーム37は、第2レバーリターンスプリング38によって常時非作動方向に付勢されている。
【0027】
連動機構40は、動滑車41と、この動滑車41の回転を一定量に規制する回転規制手段51とが備えられている。第1のブレーキ操作子24の操作によって牽引される第1の操作側連繋部材31と、第2のブレーキ操作子25の操作によって牽引される第2の操作側連繋部材32とが、牽引時の動滑車41の回転方向が互いに異なるように動滑車41に巻き掛けられて、それぞれの先端が結合部材42、43よって結合されている。
【0028】
第1のブレーキ操作子24及び第2のブレーキ操作子25が操作されていない状態において、結合部材42、43は、動滑車41の中心よりも下方に位置している。また、動滑車41には、第1ブレーキ側連繋部材33の一端及び第2ブレーキ側連繋部材34の一端が接続されている。
【0029】
第1ブレーキ側連繋部材33の一端には、第1の接続部材33bが設けられており、この第1の接続部材33bは、動滑車41の表面41aの支持部33cにナット33dによって揺動可能に取り付けられている。同様に、第2ブレーキ側連繋部材34の一端には、第2の接続部材34bが設けられており、この第2の接続部材34bは、動滑車41の表面41aの支持部34cにナット34dによって揺動可能に取り付けられている。
【0030】
第1の接続部材33bの接続位置は、動滑車41の中心から半径方向に距離L1だけオフセットさせた位置であり、第2の接続部材34bの接続位置は、動滑車41の中心から半径方向に距離L2だけオフセットさせた位置である。距離L1と距離L2は等しく設定されており、第1の接続部材33b及び第2の接続部材34bの接続位置は、正面視にて、動滑車41の中心に対して線対称になるように配置している。動滑車41の移動によって、第1ブレーキ側連繋部材33及び第2ブレーキ側連繋部材34が牽引される。なお、実施例では、L1=L2としたが、これに限定されず、L1<L2や、L1>L2としてもよく、距離L1及び距離L2を変えることによって、第1ブレーキ26と第2ブレーキ27の制動力分配を調整することができる。さらに、第1ブレーキ側連繋部材33及び第2ブレーキ側連繋部材34の接続位置を変えることで、非操作側である他方のブレーキの作動開始のタイミングも調整することができる。
【0031】
第1の操作側連繋部材31または第2の操作側連繋部材32が牽引されることによって、動滑車41は、回転しつつ第1ブレーキ26及び第2ブレーキ27を作動させる方向に移動するとともに、一定量回転して回転規制手段51によって回転が規制されつつ、第1ブレーキ26及び第2ブレーキ27を作動させる方向に移動する。
【0032】
図3、
図4に示されるように、連動機構40は、ヘッドパイプ16に設けられる基部44と、この基部44に設けられるレール支持部45、45と、これらのレール支持部45、45に支持される丸棒状のレール部材46、46と、これらのレール部材46、46に移動可能に支持されるスライダ47と、スライダ47に設けられる軸48と、この軸48に軸受49を介して回転可能に設けられる動滑車41とを備える。
【0033】
スライダ47の裏面47aには、レール部材46、46が挿通される挿通部47b、47b、47b、47bが設けられる。レール部材46、46は、先端部分がねじ部のボルトであり、特別な加工を必要としないので、レール部材46、46の部品コストを低減することができる。
【0034】
レール支持部45、45には、レール部材46、46を挿通する孔45a、45a、45a、45aが形成されている。スライダ47の挿通部47b、47b、47b、47bを、2つのレール支持部45、45の間に配置し、レール部材46、46を、孔45a、45a、挿通部47b、47b、47b、47b及び孔45a、45aの順に挿通し、ナット52、52を締結することで、スライダ47がレール部材46、46に移動可能に支持される。
【0035】
レール部材46の長手方向において、2つのレール支持部45、45の内側間の距離よりも、スライダ47の2つの挿通部47b、47bの外側間の距離は小さいため、スライダ47及び動滑車41は、レール部材46の長手方向に沿って移動可能となる。
【0036】
また、連動機構40は、動滑車41の初期位置を規制するための初期位置規制手段61を備える。初期位置規制手段61は、下方側のレール支持部45と、下方側の挿通部47b、47bとから構成されている。下方側のレール支持部45の上面45bに、下方側の挿通部47b、47bの下面47c、47cが当接することで、スライダ47及び動滑車41の初期位置が規制される。
【0037】
回転規制手段51は、スライダ47の表面47dに設けられたピン53と、動滑車41に形成された円弧状溝54とからなる。円弧状溝54は、動滑車41を回転させた際のピン53の軌跡に沿って形成されている。第1の操作側連繋部材31または第2の操作側連繋部材32が牽引されることによって、動滑車41は、回転しつつ第1ブレーキ26及び第2ブレーキ27(
図2参照。)を作動させる方向に移動するとともに、一定量回転して回転規制手段51のピン53が円弧状溝54の端に当接することによって回転が規制されつつ、第1ブレーキ26及び第2ブレーキ27を作動させる方向に移動する。
【0038】
結合部材42、43は、それぞれ動滑車41のガイド溝55に結合されている。また、スライダ47に設けられた軸48のねじ部にナット57を締結することで、動滑車41がスライダ47に回転可能に支持される。
【0039】
図1〜
図4に示されるように、バーハンドル車両用ブレーキ装置30は、2つの操作側連繋部材31、32が、牽引時の動滑車41の回転方向が互いに異なるように動滑車41に巻き掛けるように接続されている。そして、一方のブレーキ操作子24、25の操作により一方の操作側連繋部材31、32が牽引されることによって、動滑車41は、第1ブレーキ側連繋部材33と第2ブレーキ側連繋部材34のいずれかを牽引するように回動しつつ、第1ブレーキ側連繋部材33及び第2ブレーキ側連繋部材34を牽引するようにスライドして、第1ブレーキ26及び第2ブレーキ27を作動させる。
【0040】
以上に述べたバーハンドル車両用ブレーキ装置30の通常時における作用について説明する。
図5(a)に示されるように、第1のブレーキ操作子24を矢印(1)のように操作すると、第1の操作側連繋部材31が矢印(2)の方向に牽引される。動滑車41は矢印(3)のように回転しつつ矢印(4)のように上方に移動する。
【0041】
図5(b)に示されるように、動滑車41の移動量はS1であり、回転角はαである。第1ブレーキ側連繋部材33の接続点である支持部33cは、動滑車41の中心である軸48よりも上方に相対移動する。第1ブレーキ側連繋部材33は、矢印(5)のように動滑車41の移動量S1に加え、軸48に対して上方に相対移動した分牽引される。
【0042】
第2ブレーキ側連繋部材34の接続点である支持部34cは、動滑車41の中心である軸48よりも下方に相対移動する。第2ブレーキ側連繋部材34は、矢印(6)のように動滑車41の移動量S1から、軸48に対する下方への相対移動量を差し引いた分牽引される。
【0043】
第1ブレーキ側連繋部材33が矢印(5)のように牽引されることで、第1ブレーキ26が作動し、第2ブレーキ側連繋部材34が矢印(6)のように牽引されることで、第2ブレーキ27が作動する。このとき、第2の操作側連繋部材32は、動滑車41に巻かれるので、第2の操作側連繋部材32が撓むことはなく、第2のブレーキ操作子25に、いわゆる遊びは生じない。なお、ピン53は、円弧状溝54内を相対移動する。
【0044】
同様に、第2のブレーキ操作子25を操作すると、第2ブレーキ側連繋部材34は、動滑車41の移動量S1に加え、軸48に対して上方に相対移動した分牽引される。第1ブレーキ側連繋部材33は、動滑車41の移動量S1から、軸48に対する下方への相対移動量を差し引いた分牽引される。
【0045】
このように、第1のブレーキ操作子24または第2のブレーキ操作子25の一方が操作されると、動滑車41が回動しながらスライドすることによって、第1ブレーキ26及び第2ブレーキ27が連動して作動するとともに、第1のブレーキ操作子24または第2のブレーキ操作子25の他方(非操作側)の操作側連繋部材31、32は、動滑車41が回動することで動滑車41に巻かれる。結果、操作側連繋部材31、32に、いわゆる遊び(撓み)が生じることを抑制し、操作フィーリングの向上を図ることができる。
【0046】
次に牽引部材が切断した場合のバーハンドル車両用ブレーキ装置30の作用について説明する。
図6(a)に示されるように、第1のブレーキ操作子24を矢印(7)のように操作すると、第1の操作側連繋部材31が牽引され、動滑車41が矢印(8)のように回転する。仮に第2の操作側連繋部材32が切断した場合であっても、動滑車41は
図6(b)に示されるように、初期位置規制手段61の挿通部47bがレール支持部45に当接することにより、上下方向の初期位置が規制されているため初期位置よりも下方には移動しない。
【0047】
このように、第1の操作側連繋部材31または第2の操作側連繋部材32のいずれか一方が切断した場合でも、動滑車41の移動が初期位置で規制されるので、第1ブレーキ側連繋部材33が撓むことを防止することができる。
【0048】
図6(c)に示されるように、動滑車41は一定量回転した後、回転規制手段51のピン53が円弧状溝54の端に当接することによって回転が規制される。第1のブレーキ操作子24をさらに矢印(9)のように操作すると、動滑車41は、回転が規制された状態で矢印(10)のように移動する。スライダ47は、
図6(d)に示されるようにレール部材46に沿って上方にスライドする。
【0049】
図6(e)に示されるように、動滑車41の移動に伴い、第1ブレーキ側連繋部材33が矢印(11)のように牽引され、第1ブレーキ26(
図2参照。)が作動し、第2ブレーキ側連繋部材34が矢印(12)のように牽引され、第2ブレーキ27が作動する。スライダ47は、
図6(f)に示されるようにレール部材46の上部にスライドする。
【0050】
このように、第1の操作側連繋部材31及び第2の操作側連繋部材32は、それぞれの先端が結合部材42、43によって動滑車41に結合されているので、仮に、第1の操作側連繋部材31または第2の操作側連繋部材32の一方が切断しても、他方は動滑車41に結合されている。このため、第1の操作側連繋部材31または第2の操作側連繋部材32の他方が牽引されると、動滑車41の一定量回転した後回転が規制され、機械式ブレーキである第1ブレーキ26及び第2ブレーキ27を作動させる方向にスライドさせることができる。結果、第1の操作側連繋部材31と第2の操作側連繋部材32とのいずれか一方が切断した場合でも、制動力を得ることができる。
【0051】
次に第1ブレーキ26と第2ブレーキ27の制動力分配の調整について説明する。
図7(a)に示されるように、連動機構40において、第1の接続部材33bの接続位置は、動滑車41の中心から半径方向に距離L3だけオフセットさせるとともに、水平方向を基準として周方向に角度θ1だけ移動させた位置である。第2の接続部材34bの接続位置は、動滑車41の中心から半径方向に距離L4だけオフセットさせるとともに、水平方向を基準として周方向に角度θ2だけ移動させた位置である。距離L3は距離L4よりも長く、角度θ1は角度θ2よりも大きく設定されている。なお、距離L3を距離L4よりも短く、角度θ1を角度θ2よりも小さく設定してもよく、距離L3、距離L4、角度θ1、角度θ2を変えることによって、第1ブレーキ26と第2ブレーキ27の制動力分配を調整することができる。
【0052】
また、
図7(b)に示されるように、第1の接続部材33b及び第2の接続部材34bの接続位置は、正面視にて、動滑車41の中心に対して線対称になるように配置し、動滑車41の中心から半径方向に距離L5だけオフセットさせるとともに、距離L5を距離L3及び距離L4よりも小さく設定してもよい。
【0053】
ブレーキ側連繋部材33、34の接続位置によって、ブレーキの制動力分配は調整される。このため、動滑車41への第1ブレーキ側連繋部材33の接続位置及び第2ブレーキ側連繋部材34の接続位置の間隔を調整することで、制動力の配分を容易に設定することができる。加えて、ブレーキ側連繋部材33、34の接続位置を変えることで、非操作側である他方のブレーキの作動開始のタイミングも調整することができる。
【0054】
尚、実施の形態では、第2の操作側連繋部材32が切断した場合を説明したが、第1の操作側連繋部材31が切断した場合であっても、同様に第1ブレーキ26及び第2ブレーキ27を作動する。また、前輪のブレーキを第1ブレーキ26とし、後輪のブレーキを第2ブレーキ27としたが、これに限定されず、前後輪を逆にしても差し支えない。