【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国土交通省国土技術政策総合研究所、「河川縦横断測量を高度化、効率化するための航空機レーザ計測適用に関する研究」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ALB計測を実施するコストも比較的高額であるため、河川縦横断測量にALB測量を適用するに際しては欠測になる範囲を事前に推定し、その結果を用いて、計測を実施するタイミングや飛行経路を適切に選択し欠測範囲を少なくすることが求められることが判明した。
【0009】
ここで、当該推定に過去の縦横断測量結果を利用することが考えられるが、上述したように測線間については計測データが存在しない。よって、過去の縦横断測量結果を単に利用するだけでは、欠測領域を好適に把握することが難しいという問題があることもわかった。
【0010】
また、河川は海に比べて光を拡散・吸収する物質を水中に多く含み易く、またその量が河川ごとに異なり得る。これが欠測領域の推定精度に影響を与えるという問題が判明した。
【0011】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、河川におけるALB計測に際して、水底地形の計測可能領域、又は欠測領域の推定を好適に行うことができる装置、方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明に係る河川地形計測可能領域判定装置は、河川において航空レーザ測深機を用いた水底地形の計測可能領域を判定する装置であって、前記河川の複数の縦断位置における河床の横断面形状の計測結果及び河川の流れに関する観測結果に基づいて前記計測可能領域を推定する演算処理部を有し、前記演算処理部は、前記複数の縦断位置の1つである特定縦断位置について前記河川の流れに関する観測結果から得られる流量と前記特定縦断位置以外の他の前記縦断位置における前記河川の流れに関する観測結果とを利用して当該他の縦断位置における水位を推定する水位推定部と、前記各縦断位置における前記横断面形状及び前記水位に基づき前記縦断位置間にて補間処理により前記河川の各地点での水深を推定する水深推定部と、前記水深が前記航空レーザ測深機の最大測深深度以下である領域を前記計測可能領域と推定する計測可能領域推定部と、を有する。
【0013】
(2)上記(1)に記載する河川地形計測可能領域判定装置において、前記河川の流れに関する観測結果は、前記特定縦断位置については流量及び流速の測定結果を含み、前記他の縦断位置については流速の測定結果を含み、前記水位推定部は前記特定縦断位置における前記流量と、前記他の縦断位置における前記横断面形状及び前記流速とから当該他の縦断位置における水位を推定する構成とすることができる。
【0014】
(3)上記(1)に記載する河川地形計測可能領域判定装置において、前記河川の流れに関する観測結果は、前記特定縦断位置については水位と流量との関係を表す水位流量曲線及び水位の測定結果を含み、前記他の縦断位置については前記水位流量曲線を含み、前記水位推定部は前記特定縦断位置について前記水位の測定結果と前記水位流量曲線とから流量を求め、当該流量と前記他の縦断位置での前記水位流量曲線とから当該他の縦断位置における水位を推定する構成とすることができる。
【0015】
(4)上記(1)から(3)に記載する河川地形計測可能領域判定装置において、前記演算処理部は、さらに、前記河川の透視度に関係する水質の測定値を取り込み、前記計測可能領域推定部は、前記水質の測定値から得られる拡散消散係数に反比例させて前記最大測深深度を変化させる構成とすることができる。
【0016】
(5)上記(4)に記載する河川地形計測可能領域判定装置において、前記水質に関する測定値は前記河川の水に含まれる懸濁物質の濃度の測定値を含み、前記演算処理部は、前記懸濁物質の濃度を用いて前記拡散消散係数を算出する拡散消散係数算出部を有する構成とすることができる。
【0017】
(6)上記(4)又は(5)に記載する河川地形計測可能領域判定装置において、前記水質に関する測定値は前記河川の水に含まれる有色溶存有機物の濃度の測定値を含み、前記演算処理部は、前記有色溶存有機物の濃度を用いて前記拡散消散係数を算出する拡散消散係数算出部を有する構成とすることができる。
【0018】
(7)上記(6)に記載する河川地形計測可能領域判定装置において、前記河川ごとに前記有色溶存有機物の濃度の測定値を予め格納した河川水質記憶部を有し、前記演算処理部は、処理対象の前記河川の前記有色溶存有機物の濃度を前記河川水質記憶部から読み出し、前記拡散消散係数算出部にて利用する構成とすることができる。
【0019】
(8)本発明に係る河川地形計測可能領域判定方法は、河川において航空レーザ測深機を用いた水底地形の計測可能領域を推定する方法であって、前記河川の複数の縦断位置における河床の横断面形状の計測結果及び河川の流れに関する観測結果に基づいて前記計測可能領域を推定する演算処理ステップを有し、前記演算処理ステップは、前記複数の縦断位置の1つである特定縦断位置について前記河川の流れに関する観測結果から得られる流量と前記特定縦断位置以外の他の前記縦断位置における前記河川の流れに関する観測結果とを利用して当該他の縦断位置における水位を推定する水位推定ステップと、前記各縦断位置における前記横断面形状及び前記水位に基づき前記縦断位置間にて補間処理により前記河川の各地点での水深を推定する水深推定ステップと、前記水深が前記航空レーザ測深機の最大測深深度以下である領域を前記計測可能領域と推定する計測可能領域推定ステップと、を有する。
【0020】
(9)本発明に係る河川地形計測可能領域判定プログラムは、コンピュータを、河川において航空レーザ測深機を用いた水底地形の計測可能領域を判定する装置として機能させるためのプログラムであって、当該コンピュータに、前記河川の複数の縦断位置における河床の横断面形状の計測結果及び河川の流れに関する観測結果に基づいて前記計測可能領域を推定する演算処理機能を実現させ、前記演算処理機能は、前記複数の縦断位置の1つである特定縦断位置について前記河川の流れに関する観測結果から得られる流量と前記特定縦断位置以外の他の前記縦断位置における前記河川の流れに関する観測結果とを利用して当該他の縦断位置における水位を推定する水位推定機能と、前記各縦断位置における前記横断面形状及び前記水位に基づき前記縦断位置間にて補間処理により前記河川の各地点での水深を推定する水深推定機能と、前記水深が前記航空レーザ測深機の最大測深深度以下である領域を前記計測可能領域と推定する計測可能領域推定機能と、を有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、河川におけるALB計測に際して、水底地形の計測可能領域、又は欠測領域の推定を好適に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)について、図面に基づいて説明する。
【0024】
図1は、実施形態である河川地形計測可能領域判定装置2の概略の構成を示すブロック図である。本システムは、演算処理装置4、記憶装置6、入力装置8及び出力装置10を含んで構成される。演算処理装置4として、本システムの処理を行う専用のハードウェアを作ることも可能であるが、本実施形態では演算処理装置4は、コンピュータ及び、当該コンピュータ上で実行されるプログラムを用いて構築される。
【0025】
演算処理装置4はコンピュータのCPU(Central Processing Unit)からなり、後述する流量推定部20、水位推定部22、水深推定部24、拡散消散係数算出部26及び計測可能領域推定部28として機能する。
【0026】
記憶装置6はROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリ装置である。記憶装置6は演算処理装置4にて実行される各種のプログラムや、本システムの処理に必要な各種データなどを記憶し、演算処理装置4との間でこれらの情報を入出力する。例えば、記憶装置6には河川水質データベース40が予め格納される。
【0027】
河川水質データベース40(河川水質記憶部)は、河川ごとに河川水に含まれる有色溶存有機物(Colored Dissolved Organic Matter:CDOM)の濃度(吸光係数)の測定値を予め格納している。河川水質データベース40における河川の単位は、水系ごとであってもよいし、同一水系に属する本川、支川、派川ごとであってもよい。また、季節ごとなど、複数時期のCDOMを格納してもよい。
【0028】
入力装置8は、ユーザが本システムへの操作を行うために用いるキーボード、マウスなどのデバイスである。また入力装置8には、インターネットやLAN等を介して他のコンピュータシステムと通信し、河川地形計測可能領域判定装置2にて必要なデータを取得するインターフェース装置が含まれ得る。
【0029】
出力装置10は、ディスプレイ、プリンタなどであり、本システムにより生成された河川地形の計測可能領域を画面表示、印刷等によりユーザに示す等に用いられる。また、出力装置10にはインターネットやLAN等を介して計測可能領域等を他のコンピュータシステムへ出力するインターフェース装置が含まれ得る。
【0030】
演算処理装置4は、河川の複数の縦断位置における水底(河床)の横断面形状の計測結果及び流速の測定結果、並びに少なくとも1つの縦断位置(以下、特定縦断位置と称する。)における流量(又は、水位及び流速)の測定結果を、ユーザにより入力されたり、記憶装置6やその他の外部装置から取り込み、それらに基づいて河床地形の計測可能領域を推定する処理を行う。
【0031】
また、演算処理装置4は河川水の透視度を考慮して河床地形の計測可能領域の推定処理を行うことができ、その場合には、当該透視度に関係する水質の測定値も取り込む。例えば、透視度に関係する水質の測定値として、河川水に含まれる懸濁物質(Suspended Solids:SS)や有色溶存有機物の濃度が知られている。
【0032】
例えば、河床の横断面形状の計測結果として国土交通省により計測されたものなどを利用することができる。また流量、水位、水質に関しては例えば、国土交通省河川局の水文水質データベースにて提供されるデータを活用することができる。
【0033】
流量推定部20は、特定縦断位置にて流量の測定結果に代えて、水位及び流速の測定結果が得られている場合に、特定縦断位置における水位及び流速の測定結果と河床の横断面形状とから河川の流量を推定する。具体的には、河床の横断面形状と水位とから流積を求め、流積と流速とを乗算して流量を求める。
【0034】
水位推定部22は、外部から入力された特定縦断位置における流量の測定結果、又は流量推定部20により推定された流量と、他の縦断位置(注目縦断位置)における河床の横断面形状及び流速とから当該注目縦断位置における水位を推定する。具体的には注目縦断位置での流量を流速で除して流積を求め、注目縦断位置の横断面形状を用いて当該流積を与える水位を算出する。ここで、簡易には河川水の流れが等流であると仮定し、注目縦断位置での流量は特定縦断位置での流量に等しいとすることができる。より好適には不等流計算に基づいて注目縦断位置での流量を算出し、水位を推定することができる。なお、特定縦断位置にて水位が測定されていない場合には、当該位置についても水位を推定する。
【0035】
水深推定部24は、各縦断位置における河床の横断面形状及び水位に基づいて、縦断位置間にて補間処理により河川の各地点での水深を推定する。
【0036】
拡散消散係数算出部26は、懸濁物質や有色溶存有機物の濃度に基づいて河川水の拡散消散係数Kを算出する。当該係数Kは水中における光の拡散・消散度合を示す係数であり、Lambert-Beerの法則からALBで計測できる最大の測深深度D
maxと相関関係にあることが分かっている。
【0037】
計測可能領域推定部28は河川の水深がALBの最大測深深度D
max以下である領域を計測可能領域と推定する。当該推定に際して河川水の透視度を考慮する場合には、計測可能領域推定部28は、拡散消散係数算出部26で求めた拡散消散係数Kに反比例させて最大測深深度D
maxを変化させる。
【0038】
次に拡散消散係数Kの推定手法について述べる。Kは有色溶存有機物の濃度が高いほど、また懸濁物質の濃度が高いほど大きくなる。具体的には、Kは下に示す式(1)の形式で表すことができる。
K=α・A+β・(SS+SS
a)+γ ……(1)
【0039】
ここで、Aは有色溶存物質CDOM(m
−1)であり、SSは1μm以上の懸濁物質の濃度(mg/l)、SS
aは1μm未満の懸濁物質の濃度(mg/l)である。また、α,β,γは係数である。
【0040】
また、Kは照度計を用いた現地観測から式(2)によって算出することが可能である。
【0042】
ここで、Z
1,Z
2は水深、E(Z
n)は水深Z
nでの照度である。
【0043】
さて、式(1)は海域での計測事例から構築された相関式であり、海域と河川とでは係数α,β,γが異なり得る。そこで、国内河川を対象に照度、水質の現地観測を実施し、回帰分析により式(1)の係数を決定する。式(1)の係数を決定することにより、照度の実測を行わずに水質観測記録からKを推定できる。
【0044】
現地観測は、水質や地域的なばらつきを考慮し、夕張川(春は釧路川でも2地点実施)、最上川、利根川、揖保川、吉野川、筑後川で実施した。1河川当たり下流から上流までの間の5地点で四季別に観測を行った。現地観測項目は、照度、有色溶存有機物、懸濁物質、透視度である。照度は、緑色フィルタを装着した照度計を用いて、水中の緑色光照度を観測した。有色溶存有機物は緑色の補色となる茶色を示すフミン酸質を水質分析により観測した。懸濁物質は採水・水質分析により観測した。また、フィルタを用いて1μm未満と1μm以上の懸濁物質を分けて観測した。透視度は水質の概要を把握するため、透視度計により観測した。
【0045】
現地観測により得られた122サンプルを用いてKと水質の回帰分析を実施した。回帰分析を行った結果、式(3)が得られた。相関係数は0.59であり、低い相関となった。
K=0.5488A+0.0157(SS+SS
a)+0.6821 ……(3)
【0046】
式(3)を基に水質から求めたKの推定値と、照度から求めたKの観測値を比較した結果が
図2である。
図2は横軸を(SS+SS
a)、縦軸をKの観測値と式(3)による計算値との差とした散布図である。
図2に示すとおり懸濁物質(SS+SS
a)が40mg/l以上で誤差が大きいことが分かる。そのため、懸濁物質(SS+SS
a)が40mg/l以上のサンプルを除外し、再度回帰分析を行った。その結果、式(4)が得られ、相関係数は0.83という高い値となった。この式を用いることで、河川の水質からKを精度よく推定できる。
K=0.4680A+0.051(SS+SS
a)+0.3318 ……(4)
【0047】
ちなみに、懸濁物質(SS+SS
a)が40mg/l以上のサンプルで同様に回帰分析を行った結果、相関係数が0.2となり、相関が認められなかった。
図3は横軸を透視度、縦軸を(SS+SS
a)とした散布図である。
図3に示すとおり、懸濁物質(SS+SS
a)が40mg/l以上のサンプルは、概ね透視度20cm未満である。透視度20cm未満程度の水質では、緑レーザが水中を透過しにくく水質とKの相関が得られにくいことが示唆された。
【0048】
次に簡易的な拡散消散係数Kの推定手法について説明する。国土交通省では通常、CDOMやSS
aといった項目の水質分析を行っていない。そこで、簡易的な手法として、式(1)におけるCDOMやSS
aを定数化し、一般的な水質項目であるSS(1μm以上の懸濁物質)とKとの回帰分析を行い、水文水質データベース等を用いてKを推定する。
【0049】
上述した122サンプルで回帰分析を行った結果、得られた相関係数は0.35となり相関が認められなかった。そのため、透視度20cm以下のサンプルを除いた75サンプルで回帰分析を行い、式(5)を得た。相関係数は0.66となり、Kの簡易的な推定式として位置づけられる。
K=0.0641SS+0.5458 ……(5)
【0050】
なお、参考としてKと簡易的に現地観測できる透視度Tとの相関を分析した。透視度は100cm以上を観測できないことから、透視度100cm以上および20cm未満のサンプルを除外した42サンプルで回帰分析を行った。その結果、式(6)が得られた。相関係数は0.48であった。
K=-0.0136T+2.0593 ……(6)
【0051】
次に河川の拡散消散係数KとALB最大測深深度D
maxの分析結果について説明する。前述のとおりD
maxとKは相関があることが分かっており、式(7)で示される。
D
max=n/K ……(7)
【0052】
ここで、nは係数である。海域についてはn=3〜4程度とされているが、河川については検討されていなかった。今回、国内河川におけるALB計測成果を分析し、係数nを評価した。まず、ALB計測範囲で照度観測によるKの算出と水深の実測を行い、その観測位置でのALB計測成果から得られる測深深度との散布図を作成した。散布図には、ALBで河床が計測できた観測地点と欠測になった観測地点を分けてプロットし、その境界を最大測深深度の係数nとして判断した。
図4は吉野川中流域における観測に基づく当該散布図である。散布図を整理した結果、
図4に示すとおり、KD=3の曲線を境に欠測が生じているため、国内河川においてD
max=3/KとしてD
maxを推定できることが示唆された。
【0053】
図5は河川地形計測可能領域判定装置2を用いた計測可能領域の抽出処理の概略のフロー図である。例えば、ユーザは、ALB計測の実施に当たって、河川地形計測可能領域判定装置2を用いずに対象河川の水質等に基づいて簡易な事前判定を行うことができる(ステップS2)。この事前判定では例えば、懸濁物質が多く透視度が著しく低い場合は、ALB計測不可と判定し、以降の処理を行わない。例えば、水文水質データベース等からSSが40mg/l以上であることや、透視度が20cm未満であることが分かった場合にはユーザはALB計測不可と判定する。また、透視度が著しく低下することが考えられる要因、具体的には気象データから河川流域で大雨などが発生したこと、又は発生することが予想される場合や、河川の工事計画、ダムの放流計画がある場合にはALB計測を行わないことを判断する。
【0054】
また、ユーザはALB計測の実施に当たって、ALBを搭載する航空機の飛行条件を判定することができる(ステップS4)。ALBの緑レーザによる照射は、既往の近赤外レーザによる航空測量よりも低い対地高度(400〜1000m程度)での飛行を要し、地形により飛行に制限が生じ得る。そこで、ユーザは計測可能領域の抽出に先立って、この観点での検討を行うことができる。例えば、地形等の制約条件がある場合にはそれに合わせた飛行機材の選定や、当該制約条件を満たす飛行計画の可否を検討する。
【0055】
ステップS2,S4でALB計測可能と判断した場合にはユーザは河川地形計測可能領域判定装置2に必要なデータを入力する。
【0056】
例えば、ユーザは現地での水質観測を実施する場合には、当該観測で得られるデータを河川地形計測可能領域判定装置2に入力する(ステップS6)。具体的には、照度計での透視度の測定結果や、CDOMや懸濁物質(SSやSS
a)の測定結果が入力データとして取得される。
【0057】
一方、現地での水質観測を実施しない場合には、例えば、水文水質データベース等から得られるSSなどが入力データとして用いられる(ステップS8)。
【0058】
また、ユーザは河川の水位や水深を計算するためのデータを入力する(ステップS10)。例えば、処理対象とする河川において計測可能領域の抽出処理の対象とする区域の上流及び下流地点での河床の横断面形状や、上流又は下流での流量、流速、水位などが入力データとされる。ユーザは例えば、水文水質データベース等から当該データを得ることができる。
【0059】
水文水質データベース等に得られているデータは、ユーザが手に入れて河川地形計測可能領域判定装置2に入力してもよいし、河川地形計測可能領域判定装置2に、当該データベースを格納したコンピュータにネットワークを介してアクセスさせ読み出させてもよい。また、河川地形計測可能領域判定装置2の記憶装置6に河川水質データベース40に格納されているデータについては、ユーザが処理対象河川等を指定して演算処理装置4に記憶装置6から読み出させて利用することができる。
【0060】
演算処理装置4は、流量推定部20、水位推定部22及び水深推定部24として機能し、河川の水位や水深を計算するための入力データを用いて、計測可能領域の抽出処理の対象とする区域における水深を求める(ステップS12)。なお、河川水深は、既往の河川縦横断測量成果や水位観測記録から簡易的に推定可能であるが、不等流計算水位と最深河床高を用いて測線ごとに算出することが望ましい。
【0061】
また、演算処理装置4は拡散消散係数算出部26として機能し、河川の透視度に関係する水質の入力データを用いて、拡散消散係数Kを決定する(ステップS14)。ここで、照度計による現地観測に基づいてKを決定する手法が最も高い精度が得られると考えられる。また、SSだけでなくCDOMやSS
aも用いた方がKを精度よく推定できるといえる。そこで、例えば、入力データとして現地観測による透明度のデータが存在する場合には、これを用いてKを求め、照度計の観測データが得られていないがCDOM,SS,SS
aが得られている場合には式(4)を用いてKを推定し、SSのみが得られる場合には簡易な推定式である式(5)を用いてKを推定する。
【0062】
演算処理装置4は計測可能領域推定部28として機能し、Kの値及び式(7)に基づいて最大測深深度D
maxを算出する(ステップS16)。その際、式(7)の係数nとして、上述したように国内河川についての分析から得られた値を用いることができる。
【0063】
計測可能領域推定部28はさらに、ステップS12で推定された河川水深と、ステップS16で推定された最大測深深度D
maxとを比較し、河川水深<最大測深深度D
maxとなる地点はALB計測可能と判定し、ALB計測可能領域を求める(ステップS18)。
【0064】
なお、有色溶存有機物CDOMが多量に存在する河川では、水色が緑色の補色である茶色である場合があり、透視度が高いにも関わらず緑レーザが吸収され、河床が計測できない場合がある点に注意が必要である。例えば、河川地形計測可能領域判定装置2は、CDOMの値が予め定めた閾値より大きい場合には、照度計による観測データが得られていてもステップS14にて当該観測データを用いず、式(4)による推定を行う構成とすることができる。
【0065】
上述のように事前にALB計測可能領域を推定することで、ALB計測に掛かるコスト、欠測範囲の補完に掛かるコストを積算可能である。
【0066】
ここで、河川の或る縦断位置における横断面形状をS、また河川を流れる水流に関する計量値のうち流量をQ、平均流速をv、水流の断面積をA、水位をhと表すと、Q=vAである。また、AはhとSに応じて定まるので形式的にhとSの関数A(h,S)で表すことができる。上記実施形態では特定縦断位置を含む河川の複数の縦断位置における河床の横断面形状Sの計測結果及び流速vの測定結果、並びに特定縦断位置における流量Qの測定結果を用いて、他の縦断位置における水位hを推定し、計測可能領域を推定している。その基本的な手法は、特定縦断位置ではそこでの流量Q
0,流速v
0,横断面形状S
0から水位h
0を求めると共に、他の縦断位置では特定縦断位置での流量Q
0から当該縦断位置での流量Q
1を推定し、その流量Q
1と当該縦断位置での流速v
1、横断面形状S
1とを用いてQ=vA(h,S)の関係から当該縦断位置での水位h
1を求めるというものである。例えば、特定縦断位置と他の縦断位置との間に河川の分岐、合流などが無ければ、単純には流量Q
1をQ
0として水位h
1を推定することができ、また分岐、合流が存在する場合にはそれによる流量の変分ΔQを考慮して、流量Q
1をQ
0+ΔQといった形で得て水位h
1を推定することができる。そして、h
0,h
1など各縦断位置での水位hと、当該位置での横断面形状Sとから水深を求め、ALBの計測可能領域を推定している。
【0067】
また、本発明によるALBの計測可能範囲領域の推定の実施形態はこれに限られるものではない。例えば、河川の流れに関する観測結果として、水位hと流量Qとの関係を表す水位流量曲線(H−Q曲線)が得られている場合には、それを利用して水深を求めることができる。例えば、H−Q曲線が得られている縦断位置同士では、そのいずれか(特定縦断位置)について水位h
0を計測すれば、当該特定縦断位置での流量Q
0がH−Q曲線から求まる。そして、流量Q
0から他の縦断位置での流量Q
1を上述したようにQ
1=Q
0などの形で推定し、当該縦断位置でのH−Q曲線から当該位置での水位h
1を求めることができる。また、特定縦断位置では上述した実施形態の手法と同様にしてH−Q曲線を用いずに流量Q
0を求め、水位h
0を求める一方、H−Q曲線が得られている縦断位置については、当該位置での流量Q
1を特定縦断位置で観測された流量Q
0から求め、H−Q曲線を用いて水位h
1を求めることもできる。このようにして得た水位を用いて上述の実施形態と同様にして計測可能領域を推定することができる。