特許第6243307号(P6243307)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6243307サスペンション用制御装置及びサスペンション装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243307
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】サスペンション用制御装置及びサスペンション装置
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/018 20060101AFI20171127BHJP
【FI】
   B60G17/018
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-174111(P2014-174111)
(22)【出願日】2014年8月28日
(65)【公開番号】特開2016-49782(P2016-49782A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2016年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100149261
【弁理士】
【氏名又は名称】大内 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(72)【発明者】
【氏名】栗城 信晴
【審査官】 菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−253989(JP,A)
【文献】 特開平03−096411(JP,A)
【文献】 特開2012−046037(JP,A)
【文献】 特開平07−186658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サスペンション装置におけるアクティブ制御を行うサスペンション用制御装置であって、
前記制御装置は、
ばね下加速度センサから取得したばね下加速度に基づいてばね下速度を算出すると共に、ばね上加速度センサから取得したばね上加速度に基づいてばね上速度を算出し、
前記ばね上加速度及び前記ばね上速度のフィードバック項を用いるばね上フィードバック制御と、前記ばね下加速度及び前記ばね下速度のフィードバック項を用いるばね下フィードバック制御とを組み合わせて実行し、
さらに、前記制御装置は、
前記ばね下加速度に対して1次フィルタ処理を実行して前記ばね下速度を算出するばね下1次フィルタと、
前記ばね上加速度に対して1次フィルタ処理を実行して前記ばね上速度を算出するばね上1次フィルタと
の少なくとも一方を有し、
さらに、前記制御装置は、
前記ばね下加速度に第1フィードバック係数を乗算した第1フィードバック項と、
前記ばね下速度に第2フィードバック係数を乗算した第2フィードバック項と、
前記ばね上加速度に第3フィードバック係数を乗算した第3フィードバック項と、
前記ばね上速度に第4フィードバック係数を乗算した第4フィードバック項と
の合計値に基づいて前記サスペンション装置の制御量を算出し、
さらに、前記制御装置は、前記第1フィードバック係数を負の値に設定する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
請求項に記載の制御装置において、
前記ばね下1次フィルタは、前記ばね下加速度の位相を−90°変化させて前記ばね下速度を算出する、又は
前記ばね上1次フィルタは、前記ばね上加速度の位相を−90°変化させて前記ばね上速度を算出する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の制御装置を備えるサスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクティブ制御を行うサスペンション用制御装置及び当該サスペンション用制御装置を備えるサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、車体の各車輪位置に対応して上下加速度検出手段及び上下速度検出手段を配置することにより、実車に適した上下加速度及び上下速度を検出することにより、各振動モードの制振を確実に行うと共に、指令値にのみ応動する圧力制御弁を使用することにより、ばね下からの振動入力に対して減衰力を生じることがなく、共振周波数付近を含めて振動伝達率を大幅に低減することが可能な能動型サスペンションを提供することを目的としている(第2頁左下欄第8行〜第18行)。
【0003】
加えて、特許文献1では、他の目的として、各車輪位置に対応する上下速度を検出する際に上下加速度を積分して行う場合に、ノイズの混入や坂道走行時等で上下加速度検出値が略ゼロであるにもかかわらず加速度検出値が検出されたときには、上下速度が変動しているものとして誤検出されることになるが、積分器の蓄積データを車体の振動が少ないときにリセットすることにより、上下速度の誤検出を防止することが可能な能動型サスペンションを提供することが挙げられている(第2頁左下欄第19行〜同右下欄第8行)。
【0004】
上記目的を達成するため、特許文献1の請求項3に係る能動型サスペンションは、各車輪側部材と車体側部材との間に介装した流体圧シリンダと、該流体圧シリンダの作動圧を指令値にのみ応じて変化させることが可能な圧力制御弁と、該圧力制御弁に指令値を出力する制御装置とを備える。さらに、前記能動型サスペンションは、車体の各車輪の略直上部における上下加速度をそれぞれ検出する上下加速度検出手段と、該上下加速度検出手段の上下加速度検出値を積分器で積分して上記各位置における上下速度を検出する上下速度検出手段とを有する。前記制御装置は、前記上下加速度検出手段の上下加速度検出値及び前記上下速度検出手段の上下速度検出値に基づき指令値を演算する。前記上下速度検出手段は、前記上下加速度検出値が予め設定した設定値よりも小さい期間が予め設定した期間以上であるときに前記積分器の蓄積データを予め設定された期間内にリセットする。すなわち、特許文献1では、ばね上加速度のフィードバック制御と、ばね上加速度を積分したばね上速度のフィードバック制御(スカイフック制御)とを組み合わせて用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−289420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、特許文献1では、ばね上加速度のフィードバック制御と、ばね上加速度を積分したばね上速度のフィードバック制御(スカイフック制御)とを組み合わせて用いる(請求項3)。特許文献1の技術では、ばね下加速度又はばね下速度が考慮されておらず、仮にばね下加速度又はばね下速度が増大した場合におけるばね下の構成要素に対する影響が検討されていない。ばね下の構成要素の振動が大きくなると、例えば、車両の操縦安定性を低下させる可能性がある。
【0007】
加えて、特許文献1では、ノイズの混入や坂道走行時等でばね上加速度検出値が略ゼロであるにもかかわらずばね上加速度検出値が検出された場合に所定条件を満たせば積分器の蓄積データをリセットする(請求項3)。しかしながら、ばね上加速度を検出する加速度センサからの出力信号には、直流(DC)成分が含まれることがある。その場合、加速度センサからの出力信号を積分するだけでは、DC成分の変動による誤差(ドリフト誤差)を含んでしまい、アクティブサスペンション装置を精度良く作動させることが困難になる可能性がある。
【0008】
本発明は上記のような課題を考慮してなされたものであり、ばね上に加えてばね下も制振を行いつつ、アクティブ制御を高精度に実行することが可能なサスペンション用制御装置及びサスペンション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るサスペンション用制御装置は、サスペンション装置におけるアクティブ制御を行うものであって、前記制御装置は、ばね下加速度センサから取得したばね下加速度に基づいてばね下速度を算出すると共に、ばね上加速度センサから取得したばね上加速度に基づいてばね上速度を算出し、前記ばね上加速度及び前記ばね上速度のフィードバック項を用いるばね上フィードバック制御と、前記ばね下加速度及び前記ばね下速度のフィードバック項を用いるばね下フィードバック制御とを組み合わせて実行し、さらに、前記制御装置は、前記ばね下加速度に対して1次フィルタ処理を実行して前記ばね下速度を算出するばね下1次フィルタと、前記ばね上加速度に対して1次フィルタ処理を実行して前記ばね上速度を算出するばね上1次フィルタとの少なくとも一方を有することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、ばね上加速度及びばね上速度のフィードバック項を用いるばね上フィードバック制御と、ばね下加速度及びばね下速度のフィードバック項を用いるばね下フィードバック制御とを組み合わせて実行する。これにより、ばね上に加え、ばね下の制振効果を得ることが可能となる。
【0011】
さらに、本発明によれば、ばね下加速度に対して1次フィルタ処理を実行して算出したばね下速度と、ばね上加速度に対して1次フィルタ処理を実行して算出したばね上速度との少なくとも一方を用いる。これにより、ばね下又はばね上の制振効果を向上することが可能となる。
【0012】
すなわち、一般に、ばね下加速度センサの出力信号には、真値とは関係がない変動成分(ドリフト成分)が含まれている。このため、仮に、ばね下加速度センサの検出値を単に積算する積分器を用いてばね下速度を求める場合、当該ドリフト成分の変動による誤差(ドリフト誤差)が累積する。従って、前記積分器から出力されるばね下速度にはドリフト誤差が含まれる分、精度が落ちる可能性がある。
【0013】
本発明において、ばね下加速度に対して1次フィルタによる1次フィルタ処理を行ってばね下速度を算出する場合、ドリフト誤差を回避し、ばね下速度を高精度に求め、ばね下の制振性能を向上することが可能となる。ばね上加速度の場合も同様にばね上速度を高精度に求めることが可能となり、ばね上の制振性能を向上することが可能となる。
【0014】
前記制御装置は、前記ばね下加速度に第1フィードバック係数を乗算した第1フィードバック項と、前記ばね下速度に第2フィードバック係数を乗算した第2フィードバック項と、前記ばね上加速度に第3フィードバック係数を乗算した第3フィードバック項と、前記ばね上速度に第4フィードバック係数を乗算した第4フィードバック項との合計値に基づいて前記サスペンション装置の制御量を算出てもよい。また、前記制御装置は、前記ばね下加速度に乗算する第1フィードバック係数を負の値に設定してもよい。これにより、見かけ上のばね下の構成要素(ばね下部材)の質量を減少させ、ばね下固有振動数を増加させることで、振動ゲインを低減することが可能となる。
【0015】
前記ばね下1次フィルタは、前記ばね下加速度の位相を−90°変化させて前記ばね下速度を算出してもよい。或いは、前記ばね上1次フィルタは、前記ばね上加速度の位相を−90°変化させて前記ばね上速度を算出してもよい。これにより、ばね下速度又はばね上速度を高精度に算出することが可能となる。
【0016】
本発明に係るサスペンション装置は、上記制御装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ばね上に加えて、ばね下も制振を行いつつ、アクティブ制御を高精度に実行することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るサスペンション装置を搭載した車両の一部を簡略的に示す概略構成図である。
図2】前記実施形態の前記サスペンション装置の動作を説明するための等価モデルを示す図である。
図3】前記実施形態における電子制御装置による電磁モータの制御を示すフローチャートである。
図4】前記電磁モータの目標電流の設定を説明するためのブロック図である。
図5図5Aは、1次フィルタを通過する信号(以下「通過信号」という。)の周波数と、前記通過信号の振幅との関係を示し、図5Bは、前記通過信号の前記周波数と、前記通過信号の位相との関係を示す図である。
図6】前記実施形態に係る前記サスペンション装置を用いた場合におけるばね下の振動伝達特性の例と、第1・第2比較例に係るサスペンション装置を用いた場合におけるばね下の振動伝達特性の例とを示す図である。
図7】前記実施形態に係る前記サスペンション装置を用いた場合におけるばね上の振動伝達特性の例と、前記第1・第2比較例に係る前記サスペンション装置を用いた場合におけるばね上の振動伝達特性の例とを示す図である。
図8】第1〜第4変形例に係るサスペンション装置を用いた場合におけるばね下の振動伝達特性の例と、前記第1・第2比較例に係る前記サスペンション装置を用いた場合におけるばね下の振動伝達特性の例とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
A.一実施形態
[A1.車両10の構成]
(A1−1.車両10の全体構成)
図1は、本発明の一実施形態に係るサスペンション装置12を搭載した車両10の一部を簡略的に示す概略構成図である。サスペンション装置12は、各車輪24に対応するコイルばね20及びダンパ22を有する。
【0020】
(A1−2.コイルばね20)
コイルばね20は、車体26とスプリングシート48との間に配置され、路面300から車輪24に入力される振動(路面振動)を吸収する。
【0021】
(A1−3.ダンパ22)
(A1−3−1.ダンパ22の全体構成)
ダンパ22は、コイルばね20(又は車体26)の変位を減衰させる。図1に示すように、ダンパ22は、ダンパ本体30と、油圧機構32と、第1加速度センサ34と、第2加速度センサ36と、電子制御装置38(以下「ECU38」という。)とを備える。
【0022】
(A1−3−2.ダンパ本体30)
ダンパ本体30は、スプリングシート48に加え、油圧シリンダ40、ピストンヘッド42、ピストンロッド44及びピストンバルブ46を備える。油圧シリンダ40は、円筒状の部材であり、ピストンヘッド42により、その内部が第1油圧室50及び第2油圧室52に区画される。第1油圧室50及び第2油圧室52には油が充填されている。ピストンロッド44は、油圧シリンダ40の内周面と略等しい直径のピストンヘッド42をその一端に固定すると共に、他端が車体26に固定されている。ピストンバルブ46は、ピストンヘッド42内に形成され、第1油圧室50と第2油圧室52とを連通させる。スプリングシート48は、油圧シリンダ40の外周に形成されてコイルばね20の一端を支持する。
【0023】
(A1−3−3.油圧機構32)
油圧機構32は、ダンパ22における油の流通を制御するものであり、油圧ポンプ60と、油流路62と、アキュムレータ64と、電磁モータ66(以下「モータ66」ともいう。)とを備える。油流路62内の油は、油圧ポンプ60によりその流れの向き及び圧力が制御される。モータ66は、ECU38からの指令に基づき油圧ポンプ60を動作させる。本実施形態の電磁モータ66は、直流(DC)式であるが、交流(AC)式としてもよい。また、モータ66を動作させるための図示しないバッテリ(蓄電装置)が設けられる。前記バッテリには、モータ66の回生電力を充電してもよい。
【0024】
(A1−3−4.第1加速度センサ34及び第2加速度センサ36)
第1加速度センサ34(以下「ばね下センサ34」又は「加速度センサ34」ともいう。)は、コイルばね20よりも車輪24側(すなわち、ばね下)に配置されて、ばね下の上下方向Z1、Z2の加速度x1’’(以下「ばね下加速度x1’’」ともいう。)[m/s/s]を検出して、ECU38に出力する。
【0025】
第2加速度センサ36(以下「ばね上センサ36」又は「加速度センサ36」ともいう。)は、コイルばね20よりも車体26側(すなわち、ばね上)に配置されて、ばね上の上下方向Z1、Z2の加速度X2’’ (以下「ばね上加速度x2’’」ともいう。)[m/s/s]を検出して、ECU38に出力する。
【0026】
(A1−3−5.ECU38)
図1に示すように、ECU38は、入出力部70、演算部72及び記憶部74を有する。入出力部70は、加速度センサ34、36、モータ66等との信号の入出力を行う。
【0027】
演算部72は、ダンパ22の各部を制御するものであり、制御量算出部80及びモータ制御部82を備える。制御量算出部80及びモータ制御部82は、記憶部74に記憶された制御プログラムを起動することにより実現される。
【0028】
制御量算出部80は、モータ66の制御量u(本実施形態では、入力電流Imot[A]の目標値(以下「目標モータ電流Imottar」又は「目標電流Imottar」という。))を算出する。制御量算出部80は、ばね下制御部90と、ばね上制御部92とを有する。モータ制御部82は、制御量算出部80が算出したモータ66の制御量uに基づいてモータ66を制御する。
【0029】
記憶部74は、演算部72で用いる制御プログラム等の各種のプログラムやデータを記憶する。
【0030】
[A2.本実施形態における制御]
(A2−1.前提)
図2は、本実施形態のサスペンション装置12の動作を説明するための等価モデルを示す図である。図2における各種の値の内容は、下記の通りである。
0:路面300の上下方向変位量[m]
1:ばね下部材100の上下方向変位量[m]
2:ばね上部材102の上下方向変位量[m]
1:ばね下部材100の質量[kg]
2:ばね上部材102の質量[kg]
1:ばね下部材100のばね定数[N/m]
2:コイルばね20のばね定数[N/m]
2:ダンパ本体30の減衰係数[N/m/s]
u:電磁モータ66に入力される制御量[A]
【0031】
ばね下部材100としては、例えば、車輪24、第1加速度センサ34及び油圧シリンダ40が含まれる。ばね上部材102としては、例えば、車体26及び第2加速度センサ36が含まれる。ばね下部材100の変位量x1は、ばね下センサ34の検出値であるばね下加速度x1’’に基づいて算出することが可能である。ばね上部材102の変位量x2は、ばね上センサ36の検出値であるばね上加速度x2’’に基づいて算出することが可能である。
【0032】
本実施形態では、ばね下加速度x1’’、ばね上加速度x2’’を積分したばね下速度x1’、ばね上速度x2’を用いる。これにより、ばね上のみならず、ばね下の影響を考慮して路面入力を低減することが可能となる。
【0033】
(A2−2.具体的な処理)
(A2−2−1.全体的な流れ)
図3は、本実施形態におけるECU38によるモータ66の制御を示すフローチャートである。図3のステップS1、S2は、ECU38の制御量算出部80が実行する。ステップS3、S4は、ECU38のモータ制御部82が実行する。
【0034】
図3のステップS1において、ECU38は、第1加速度センサ34からばね下加速度x1’’を、第2加速度センサ36からばね上加速度x2’’を取得する。ステップS2において、ECU38は、ばね下加速度x1’’及びばね上加速度x2’’それぞれに対して1次フィルタ処理を行ってばね下速度x1’及びばね上速度x2’を算出する(詳細は、図4等を参照して後述する。)。
【0035】
ステップS3において、ECU38は、ばね下加速度x1’’、ばね上加速度x2’’、ばね下速度x1’及びばね上速度x2’に基づいてモータ66の制御量u(目標モータ電流Imottar)を設定する。続くステップS4において、ECU38は、目標モータ電流Imottarに基づいてモータ66を制御する。
【0036】
(A2−2−2.目標モータ電流Imottarの設定(図3のS2、S3))
図4は、モータ66の目標電流Imottarの設定を説明するためのブロック図である。図4に示すように、ECU38は、第1〜第4ゲイン110a〜110dと、1次フィルタ112a、112bと、第1〜第3加算器114a〜114cと、目標トルク算出部116と、目標電流算出部118と、PID演算部120とを有する。
【0037】
第1ゲイン110aは、第1加速度センサ34からのばね下加速度x1’’に対し、正の係数G1を乗算して第1加算器114aに出力する。1次フィルタ112a(以下「ばね下1次フィルタ112a」ともいう。)は、第1加速度センサ34からのばね下加速度x1’’に対し、1次フィルタ処理を実行する。1次フィルタ処理について、図5A及び図5Bを参照して後述する。
【0038】
第2ゲイン110bは、1次フィルタ112aから出力されたばね下加速度x1’’に対して正の係数G2を乗算して第1加算器114aに出力する。第1加算器114aは、第1ゲイン110aからのG1・x1’’と、第2ゲイン110bからのG2・x1’との和G1・x1’’+G2・x1’を第3加算器114cに出力する。
【0039】
第3ゲイン110cは、第2加速度センサ36からのばね上加速度x2’’に対し、係数G3を乗算して第2加算器114bに出力する。1次フィルタ112b(以下「ばね上1次フィルタ112b」ともいう。)は、第2加速度センサ36からのばね上加速度x2’’に対し、1次フィルタ処理を実行する。ここでの1次フィルタ処理は、ばね下1次フィルタ112aでの処理と同様である。
【0040】
第4ゲイン110dは、ばね上1次フィルタ112bから出力されたばね上加速度x2’’に対して正の係数G4を乗算して第2加算器114bに出力する。第2加算器114bは、第3ゲイン110cからのG3・x2’’と、第4ゲイン110dからのG4・x2’との和G3・x2’’+G4・x2’を第3加算器114cに出力する。
【0041】
第3加算器114cは、第1加算器114aからの和G1・x1’’+G2・x1’と、第2加算器114bからの和G3・x2’’+G4・x2’とを加算した和G1・x1’’+G2・x1’+G3・x2’’+G4・x2’を目標トルク算出部116に出力する。
【0042】
目標トルク算出部116は、和G1・x1’’+G2・x1’+G3・x2’’+G4・x2’に基づいてモータ66のトルクの目標値(以下「目標モータトルクTmottar」又は「目標トルクTmottar」という。)を算出して目標電流算出部118に出力する。目標電流算出部118は、目標モータトルクTmottarに対応する目標モータ電流Imottarを算出する。なお、目標モータトルクTmottarの算出を行わずに、和G1・x1’’+G2・x1’+G3・x2’’+G4・x2’から直接目標モータ電流Imottarを算出してもよい。
【0043】
PID演算部120は、目標電流算出部118からの目標モータ電流Imottarと図示しない電流センサからのモータ電流Imotとに基づくPID演算(PID:Proportional-Integral-Derivative)を行う。ECU38(モータ制御部82)は、PID演算部120の演算結果に基づいてモータ66を制御する。
【0044】
(A2−2−3.1次フィルタ112a、112b)
図5Aは、1次フィルタ112a、112bを通過する信号Sp(以下「通過信号Sp」ともいう。)の周波数fpと、通過信号Spの振幅Mpとの関係を示す。図5Bは、通過信号Spの周波数fpと、通過信号Spの位相Ppとの関係を示す。図5A及び図5Bを合わせて、本実施形態における1次フィルタ112a、112bのフィルタ特性を示すボード線図を構成する。
【0045】
図5A及び図5Bにおいて、線200、210は、1/sの特性である。ここでのsは、ラプラス演算子を示す。図5Aにおいて、線202、204、206、208は、1/(1+T・s)の特性である。図5Bにおいて、線212、214、216、218は、1/(1+T・s)の特性である。ここでのTは、時定数を示す。線202、212は、1/(1+s)の特性(T=1)である。線204、214は、1/(1+2s)の特性(T=2)である。線206、216は、1/(1+4s)の特性(T=4)である。線208、218は、1/(1+10s)の特性(T=10)である。
【0046】
図5Bにおける矢印220は、本実施形態において使用する周波数fpの範囲(以下「使用範囲220」ともいう。)を示す。すなわち、本実施形態では、位相Ppが略−90°となる領域を用いる。
【0047】
上記のように、本実施形態では、ばね下加速度x1’’の積分値としてのばね下速度x1’を算出するために1次フィルタ112aを用いる。ばね下センサ34の出力信号(DC信号)には、真値とは関係がない変動成分(ドリフト成分)が含まれている。このため、仮に、ばね下センサ34の検出値(ばね下加速度x1’’)を単に積算する積分器を用いてばね下速度x1’を求める場合、当該ドリフト成分の変動による誤差(ドリフト誤差)が累積する。従って、前記積分器から出力されるばね下速度x1’にはドリフト誤差が含まれる分、精度が落ちる可能性がある。
【0048】
本実施形態では、ばね下加速度x1’’に対して1次フィルタ112aによる1次フィルタ処理を行ってばね下速度x1’を算出する。このため、ばね下センサ34の出力信号(DC信号)のうち例えば高周波成分を除去することによりドリフト誤差を回避し、ばね下速度x1’を高精度に求めることが可能となる。
【0049】
ばね上速度x2’についても同様のことが言える。
【0050】
[A3.本実施形態及び第1・第2比較例における振動伝達特性の例]
図6は、本実施形態に係るサスペンション装置12を用いた場合におけるばね下の振動伝達特性の例(以下「振動伝達特性230」という。)と、第1・第2比較例に係るサスペンション装置を用いた場合におけるばね下の振動伝達特性の例(以下「振動伝達特性232、234」という。)とを示す図である。図6において、横軸は、ばね下加速度x1’’の周波数fx1であり、縦軸は、ばね下加速度x1’’の振幅Mx1である。
【0051】
図7は、本実施形態に係るサスペンション装置12を用いた場合におけるばね上の振動伝達特性の例(以下「振動伝達特性240」という。)と、第1・第2比較例に係るサスペンション装置を用いた場合におけるばね上の振動伝達特性の例(以下「振動伝達特性242、244」という。)とを示す図である。図7において、横軸は、ばね上加速度x2’’の周波数fx2であり、縦軸は、ばね上加速度x2’’の振幅Mx2である。
【0052】
図6及び図7において、第1比較例は、アクティブ制御を実行しない例であり、第2比較例は、ばね上のみフィードバック(FB)制御を行う例である。すなわち、第2比較例では、特許文献1と同様、ばね上加速度x2’’及びばね上速度x2’のFB制御を行う(特許文献1の第4図参照)。
【0053】
図6及び図7に示されるように、第1比較例(振動伝達特性232、242)では、ばね下の制振効果は優れるものの、ばね上の制振効果は、本実施形態及び第2比較例よりも劣る。また、第2比較例(振動伝達特性234、244)では、ばね上の制振効果は優れるものの、ばね下の周波数fx1の一部において、振幅Mx1が著しく高くなる(矢印236参照)。このため、ばね下部材100が過度に振動してしまう。
【0054】
一方、本実施形態(振動伝達特性230、240)では、ばね上の制振効果を高く保ちつつ、ばね下の振幅Mx1を第2比較例よりも低減可能となる。特に、ヒトが感じ易い5Hz周囲のばね上の振幅Mx2を効果的に抑制しつつ(矢印246参照)、第2比較例に対してばね下の振幅Mx1の最大値を大幅に低減可能となる。
【0055】
[A4.本実施形態における効果]
以上のような本実施形態によれば、ばね上加速度x2’’及びばね上速度x2’のフィードバック項G3・x2’’、G4・x2’を用いるばね上フィードバック(FB)制御と、ばね下加速度x1’’及びばね下速度x1’のフィードバック項G1・x1’’、G2・x1’を用いるばね下フィードバック(FB)制御とを組み合わせて実行する(図3及び図4参照)。これにより、ばね上に加え、ばね下の制振効果を得ることが可能となる。
【0056】
さらに、本実施形態によれば、ばね下加速度x1’’に対して1次フィルタ処理を実行して算出したばね下速度x1’と、ばね上加速度x2’’に対して1次フィルタ処理を実行して算出したばね上速度x2’の両方を用いる(図3及び図4参照)。これにより、ばね下及びばね上の制振効果を向上することが可能となる。
【0057】
すなわち、一般に、ばね下センサ34の出力信号には、真値とは関係がない変動成分(ドリフト成分)が含まれている。このため、仮に、ばね下センサ34の検出値(ばね下加速度x1’’)を単に積算する積分器を用いてばね下速度x1’を求める場合、当該ドリフト成分の変動による誤差(ドリフト誤差)が累積する。従って、前記積分器から出力されるばね下速度x1’にはドリフト誤差が含まれる分、精度が落ちる可能性がある。
【0058】
本実施形態によれば、ばね下加速度x1’’に対して1次フィルタ112aによる1次フィルタ処理を行ってばね下速度x1’を算出する(図3及び図4参照)。このため、ドリフト誤差を回避し、ばね下速度x1’を高精度に求め、ばね下の制振性能を向上することが可能となる。ばね上加速度x2’’の場合も同様にばね上速度x2’を高精度に求めることが可能となり、ばね上の制振性能を向上することが可能となる。
【0059】
本実施形態において、ばね下1次フィルタ112a(図4)は、ばね下加速度x1’’の位相を−90°変化させてばね下速度x1’を算出する(図5B)。加えて、ばね上1次フィルタ112b(図4)は、ばね上加速度x2’’の位相を−90°変化させてばね上速度x2’を算出する(図5B)。これにより、ばね下速度x1’及びばね上速度x2’を高精度に算出することが可能となる。
【0060】
B.変形例
なお、本発明は、上記実施形態に限らず、本明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。例えば、以下の構成を採用することができる。
【0061】
[B1.適用対象]
上記実施形態では、サスペンション装置12を車両10に適用した例を説明した(図1)。しかしながら、例えば、ばね下のFB制御に着目すれば、これに限らない。例えば、振動減衰性能を要するその他の装置(例えば、船舶、飛行機又は製造装置)にサスペンション装置12を適用することも可能である。
【0062】
[B2.サスペンション装置12]
(B2−1.コイルばね20)
上記実施形態では、路面振動(入力振動)を吸収するためのばねとしてコイルばね20を用いた(図1)。しかしながら、例えば、路面振動(入力振動)を吸収する観点からすれば、その他の種類のばね(例えば、板ばね)を用いることも可能である。
【0063】
(B2−2.ダンパ22)
上記実施形態では、油圧機構32を備えるダンパ22を用いた(図1)。しかしながら、例えば、ばね下のFB制御に着目すれば、これに限らない。例えば、ボールねじ式、ラック&ピニオン式、ダイレクト式(リニアモータ)等の構成を適用可能である。
【0064】
(B2−3.油圧機構32)
上記実施形態では、モータ66による減衰力を、油を介して伝達した(図1)。しかしながら、例えば、モータ66による減衰力を伝達する観点からすれば、油以外の流体(例えば、エア)を用いることも可能である。
【0065】
(B2−4.ECU38)
上記実施形態では、ばね下加速度x1’’及びばね上加速度x2’’からばね下速度x1’及びばね上速度x2’を求めるために1次フィルタ112a、112bを用いた(図4)。しかしながら、例えば、ばね下又はばね上のFB制御に着目すれば、これに限らない。例えば、1次フィルタ112a、112bの少なくとも一方の代わりに、入力値を単純に累積加算する積分器としてもよい。
【0066】
上記実施形態では、1次フィルタ112a、112bによる1次フィルタ処理をECU38内で行った(図1参照)。換言すると、1次フィルタ処理はデジタル信号に対して行うことを前提としていた。しかしながら、例えば、1次フィルタ処理を行う観点からすれば、これに限らない。例えば、加速度センサ34、36からのアナログ信号に1次フィルタ処理を行い、1次フィルタ処理後の信号をECU38に入力してもよい。この場合、加速度センサ34、36とECU38の間にアナログ回路としての1次フィルタ112a、112bを配置することとなる。
【0067】
[B3.制御]
上記実施形態では、ばね下加速度x1’’のFB項G1・x1’’、ばね下速度x1’のFB項G2・x1’、ばね上加速度x2’’のFB項G3・x2’’及びばね上速度x2’のFB項G4・x2’を用いて目標モータトルクTmottar(目標モータ電流Imottar)を算出した(図3及び図4)。
【0068】
しかしながら、例えば、ばね下加速度x1’’のFB項G1・x1’’及びばね下速度x1’のFB項G2・x1’の少なくとも一方と、ばね上加速度x2’’のFB項G3・x2’’及びばね上速度x2’のFB項G4・x2’の少なくとも一方を組み合わせる観点からすれば、これに限らない。例えば、ばね下加速度x1’’のFB項G1・x1’’と、ばね上加速度x2’’のFB項G3・x2’’とを組み合わせて用いることも可能である。
【0069】
或いは、ばね下のFB制御に着目すれば、ばね下加速度x1’’のFB項G1・x1’’及びばね下速度x1’のFB項G2・x1’の少なくとも一方のみを用いることも可能である。
【0070】
上記実施形態では、係数G1〜G4をいずれも正の値とした。しかしながら、例えば、ばね上の制振効果又はばね下の振幅Mx1の抑制の観点からすれば、これに限らない。例えば、ばね下加速度x1’’に用いる係数G1又はばね下速度x1’に用いる係数G2を負の値とすることも可能である。
【0071】
図8は、第1〜第4変形例に係るサスペンション装置12を用いた場合におけるばね下の振動伝達特性の例(以下「振動伝達特性250、252、254、256」という。)と、第1・第2比較例に係るサスペンション装置を用いた場合におけるばね下の振動伝達特性の例(以下「振動伝達特性258、260」という。)とを示す図である。図8において、横軸は、ばね下加速度x1’’の周波数fx1であり、縦軸は、ばね下加速度x1’’の振幅Mx1である。第1・第2比較例は、図6におけるものと同様である。すなわち、図8の第1比較例は、アクティブ制御を実行しない例であり、図8の第2比較例は、ばね上のみFB制御を行う例である。
【0072】
第1変形例は、ばね下加速度x1’’、ばね下速度x1’、ばね上加速度x2’’及びばね上速度x2’全てのFB制御を組み合わせた例(上記実施形態と同等の例)である。第2変形例は、ばね下加速度x1’’、ばね下速度x1’、ばね上加速度x2’’及びばね上速度x2’全てのFB制御を組み合わせ、ばね下加速度x1’’のFB係数G1を増大させた例である。第3変形例は、ばね下加速度x1’’、ばね下速度x1’、ばね上加速度x2’’及びばね上速度x2’全てのFB制御を組み合わせ、ばね下加速度x1’’のFB係数G1を減少させて負の値とした例である。第4変形例は、ばね下加速度x1’’及びばね下速度x1’のみのFB制御を用いる例である。
【0073】
ばね下加速度x1’’のFB係数G1を変化させると、見かけ上のばね下質量M1が変化する。すなわち、FB係数G1を増加させると、見かけ上のばね下質量M1が増加し、ばね下固有振動数が減少する。また、FB係数G1を減少させると、見かけ上のばね下質量M1が減少し、ばね下固有振動数が増加する。
【0074】
図8からわかるように、ばね下加速度x1’’の振幅Mx1の観点からすれば、第1〜第4変形例のいずれについても、第2比較例よりも優れる。特に第3変形例は、ばね下加速度x1’’及びばね下速度x1’のFB制御を行いつつ、ばね下加速度x1’’の振幅Mx1を第1・第2変形例よりも低減することが可能となっている。
【符号の説明】
【0075】
10…車両 12…サスペンション装置
34…ばね下センサ(ばね下加速度センサ)
36…ばね上センサ(ばね上加速度センサ)
38…ECU(サスペンション用制御装置)
112a…ばね下1次フィルタ 112b…ばね上1次フィルタ
1〜G4…フィードバック係数
1’…ばね下速度 x1’’…ばね下加速度
2’…ばね上速度 x2’’…ばね上加速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8