(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243326
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】組織製品の酵素処理方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/38 20060101AFI20171127BHJP
A61L 27/60 20060101ALI20171127BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
A61L27/38 100
A61L27/60
A61L27/36 130
A61L27/36 400
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-508580(P2014-508580)
(86)(22)【出願日】2012年4月27日
(65)【公表番号】特表2014-514118(P2014-514118A)
(43)【公表日】2014年6月19日
(86)【国際出願番号】US2012035361
(87)【国際公開番号】WO2012149253
(87)【国際公開日】20121101
【審査請求日】2015年4月17日
(31)【優先権主張番号】61/479,937
(32)【優先日】2011年4月28日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504154148
【氏名又は名称】ライフセル コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】LifeCell Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】チェン,イ
【審査官】
小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2007−529278(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/020470(WO,A1)
【文献】
特開2004−107303(JP,A)
【文献】
特開昭52−030097(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0021753(US,A1)
【文献】
国際公開第2010/014021(WO,A1)
【文献】
特表2010−509965(JP,A)
【文献】
特表2002−507907(JP,A)
【文献】
Materials,2010年,Vol. 3,p. 1863-1887
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織マトリックスの処理方法において、
コラーゲン含有無細胞組織マトリックスを選択するステップであって、前記無細胞組織マトリックスが本質的に真皮組織マトリックスからなるステップと、
前記無細胞組織マトリックスの可撓性を増加させるのに十分な条件下で前記無細胞組織マトリックスをタンパク質分解酵素と接触させるステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記酵素がブロメラインであることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記酵素がブロメライン、パパイン、フィシン、アクチニジン、またはこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の方法において、引張強度、引裂強度、縫合強度、耐クリープ性、破裂強度、熱転移温度、またはこれらの組み合わせの少なくとも1つの望ましくない変化を生じさせない条件下で、前記無細胞組織マトリックスを前記タンパク質分解酵素と接触させることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか一項に記載の方法において、前記無細胞組織マトリックスの空隙率を増加させる条件下で、前記無細胞組織マトリックスを前記タンパク質分解酵素と接触させることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜3の何れか一項に記載の方法において、引張強度、引裂強度、縫合強度、耐クリープ性、熱転移温度、またはこれらの組み合わせの統計学的に有意な低下を引き起こさない条件下で、前記無細胞組織マトリックスを前記タンパク質分解酵素と接触させることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項2〜6の何れか一項に記載の方法において、前記無細胞組織マトリックスから前記細胞および細胞成分の少なくとも一部を除去するように前記組織マトリックスを処理するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
組織マトリックスの処理方法において、
コラーゲン含有無細胞組織マトリックスを選択するステップであって、前記無細胞組織マトリックスが本質的に真皮組織マトリックスからなるステップと、
前記無細胞組織マトリックスに所望のレベルの可撓性を生じさせ且つ前記無細胞組織マトリックスの空隙率を増加させるのに十分な条件下で、前記無細胞組織マトリックスをタンパク質分解酵素と接触させるステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記酵素がブロメラインであることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法において、前記酵素がブロメライン、パパイン、フィシン、アクチニジン、またはこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項8〜10の何れか一項に記載の方法において、引張強度、引裂強度、縫合強度、耐クリープ性、破裂強度、熱転移温度、またはこれらの組み合わせの少なくとも1つの望ましくない変化を生じさせない条件下で、前記無細胞組織マトリックスを前記タンパク質分解酵素と接触させることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項8〜10の何れか一項に記載の方法において、引張強度、引裂強度、縫合強度、耐クリープ性、熱転移温度、またはこれらの組み合わせの統計学的に有意な低下を引き起こさない条件下で、前記無細胞組織マトリックスを前記タンパク質分解酵素と接触させることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、米国特許法第119条の下に、2011年4月28日に出願された米国仮特許出願第61/479,937号明細書の優先権を主張する。
【0002】
本開示は、組織マトリックス、より詳細には、マトリックスをタンパク質分解酵素で処理することにより組織マトリックスの可撓性を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
患部または損傷組織および器官の再生、修復、またはその他の治療を行うために、様々な組織由来製品が使用される。このような製品としては、インタクトな組織移植片および/または無細胞組織または再構成された無細胞組織(例えば、細胞播種を行ったまたは行っていない、皮膚、腸または他の組織に由来する無細胞組織マトリックス)を挙げることができる。このような製品の機械的特性は、一般に、組織源(即ち、それが由来する組織の種類および動物)および組織製品の製造に使用される処理パラメータによって決定される。組織製品は、外科用途および/または組織の置換または増大に使用されることが多いため、組織製品の機械的特性は重要である。例えば、外科医は、一般に、より自然な感触を与えるおよび/または外科処置中の取り扱いが容易な組織を好む。しかし、組織製品の中には望ましくないほど剛性があり、不自然な感触を有するものがある。従って、より望ましい機械的特性を生じさせる組織製品の処理方法を提供する。
【発明の概要】
【0004】
特定の実施形態によれば、組織マトリックスの処理方法が提供される。本方法は、コラーゲン含有組織マトリックスを選択するステップと、組織マトリックスに所望のレベルの可撓性を生じさせるのに十分な条件下で組織マトリックスをタンパク質分解酵素と接触させるステップとを含むことができる。
【0005】
別の実施形態では、組織マトリックスの処理方法が提供される。本方法は、コラーゲン含有無細胞組織マトリックスを選択するステップと、組織マトリックスに所望のレベルの可撓性を生じさせ且つ組織マトリックスの空隙率を増加させるのに十分な条件下で組織マトリックスをタンパク質分解酵素と接触させるステップとを含むことができる。
【0006】
幾つかの実施形態では、無細胞組織マトリックスが提供される。マトリックスは、無細胞組織マトリックスを選択するステップと、組織マトリックスに所望のレベルの可撓性を生じさせるのに十分な条件下で組織マトリックスをタンパク質分解酵素と接触させるステップとを含む処理により製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】
図1Aは、本開示の方法を使用して酵素で処理した後の無細胞組織マトリックス、および無処理対照を示す図である。
【
図1B】
図1Bは、本開示の方法を使用して酵素で処理した後の無細胞組織マトリックス、および無処理対照を示す図である。
【
図1C】
図1Cは、本開示の方法を使用して酵素で処理した後の無細胞組織マトリックス、および無処理対照を示す図である。
【
図1D】
図1Dは、本開示の方法を使用して酵素で処理した後の無細胞組織マトリックス、および無処理対照を示す図である。
【
図2】
図2は、処理サンプルと対照サンプルの引張強度試験データの箱ひげ図である。
【
図3】
図3は、処理サンプルと対照サンプルの縫合強度試験データの箱ひげ図である。
【
図4】
図4は、処理サンプルと対照サンプルの引裂強度試験データの箱ひげ図である。
【
図5】
図5は、処理サンプルと対照サンプルのコラゲナーゼ消化試験データの箱ひげ図である。
【
図6】
図6は、処理サンプルと対照サンプルの耐クリープ性試験データの箱ひげ図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで、本開示による特定の例示的実施形態を詳細に参照し、その特定の実施例を添付の図面に示す。可能な場合は常に、同じまたは同様の部分を指すのに同じ参照番号を、図面全体を通して使用する。
【0009】
本願では、特記しない限り単数形の使用は複数形を含む。本願では、「または」の使用は、特記しない限り「および/または」を意味する。さらに、「含む(including)」という用語、ならびに「含む(includes)」および「含まれる(included)」などの他の形態の使用は、限定的ではない。本明細書に記載される任意の範囲は、端点および端点間の全ての値を含むものと理解されるであろう。
【0010】
本明細書で使用される節の見出しは構成を目的とするに過ぎず、記載する内容を限定するものと解釈されるべきではない。特許、特許出願、論説、書籍、および論文を含むがこれらに限定されるものではない、本願に引用される全ての文献または文献の一部は、参照によりその内容全体があらゆる目的で本明細書に明示的に援用される。
【0011】
本明細書で使用する場合、「組織製品」は、細胞外マトリックスタンパク質を含有する任意のヒトまたは動物の組織を指すものとする。「組織製品」としては、無細胞のまたは部分的に脱細胞化された組織マトリックス、外来細胞を再増殖させた(repopulated)脱細胞化組織マトリックス、および/または、組織の細胞外マトリックス中のコラーゲン線維の少なくとも一部の配向を変化させるように処理された細胞組織を挙げることができる。
【0012】
様々なヒトおよび動物の組織を使用して、患者を治療するための製品を製造することができる。例えば、様々な疾患および/または構造的損傷(例えば、外傷、手術、萎縮、および/または長期摩耗および変性)により損傷したまたは失われたヒトの組織を再生、修復、増大、補強、および/または治療するための様々な組織製品が製造されてきた。このような製品としては、例えば、無細胞組織マトリックス、組織同種移植片または異種移植片、および/または再構成された組織(即ち、少なくとも部分的に脱細胞化された組織に細胞を播種して生存可能な材料に製造したもの)を挙げることができる。
【0013】
外科用途では、特定の機械的特性を有する組織製品を製造することが望ましい場合が多い。例えば、シート状の材料を含み得る組織製品は、目的とする使用に耐え得る十分な強度を有していなければならない。例えば、特定の組織製品を使用して、欠損部(例えば、ヘルニア)を修復する、周囲組織またはインプラント(例えば、乳房増大および/または再建用)を支持する、または損傷したもしくは失われた組織(例えば、外傷もしくは外科的切除後)を置換することができる。特定の用途にかかわらず、組織製品は、組織再生および/または修復が行われるまで機能を果たすのに十分な強度、弾性、および/または他の機械的特性を有していなければならない。
【0014】
さらに、組織製品は望ましい感触を有していなければならない。例えば、外科医は、一般に、組織のような自然な感触を有する(例えば、十分な柔軟性、可撓性、および/または弾性がある)材料を好む。さらに、移植後、組織製品がより自然な感触を与えることが望ましい。例えば、乳房増大に使用される組織は、より自然な感触を与える乳房を作り出すように、過度の剛性を有していてはならない。
【0015】
しかし、組織製品の中には過度の剛性を有し得るものがある。例えば、STRATTICE(商標)などのブタ由来真皮材料は、ALLODERM(登録商標)などのヒト真皮製品より可撓性が低いことを指摘する外科医もいる。しかし、このような製品の感触を改善する方法は、製品の生物学的および/または機械的特性に悪影響を及ぼしてはならない。特に、製品の感触を改善するための製品の処理により、引張強度などの他の機械的特性の望ましくない低下が生じてはならず、材料が組織再生および/または修復を支持しなくなるようにタンパク質マトリックスが変化してはならない。
【0016】
本開示は、組織から製造される組織製品の感触を改善するための、組織の処理方法を提供する。本開示はまた、処理方法を使用して製造される組織製品も提供する。さらに、本開示は、組織から製造される組織製品の空隙率を制御するための、組織の処理方法を提供する。場合によっては、空隙率の制御により、細胞浸潤および組織再生および/または修復を改善することができる。
【0017】
従って、一実施形態では、組織マトリックスの処理方法が提供される。本方法は、コラーゲン含有組織マトリックスを選択するステップと、組織マトリックスに所望のレベルの可撓性を生じさせるのに十分な条件下で組織マトリックスをタンパク質分解酵素と接触させるステップとを含むことができる。別の実施形態では、組織マトリックスの処理方法が提供される。本方法は、コラーゲン含有無細胞組織マトリックスを選択するステップと、組織マトリックスに所望のレベルの可撓性を生じさせ且つ組織マトリックスの空隙率を増加させるのに十分な条件下で組織マトリックスをタンパク質分解酵素と接触させるステップとを含むことができる。
図1A〜
図1Dは、本開示の方法を使用して酵素で処理した後の無細胞組織マトリックス(STRATTICE(商標))、および無処理対照を示す。図示するように、処理したサンプルの方が、可撓性が著しく高い。
【0018】
様々な実施形態では、組織マトリックスをタンパク質分解酵素で処理することにより、一特性または生物学的特性の低下を引き起こすことなく、改善された機械的特性が得られる。例えば、組織マトリックスの処理により、炎症の増加または瘢痕形成を引き起こすことなく、および/または組織マトリックスの細胞侵入(ingrowth)および再生促進能力の低下を引き起こすことなく、所望の剛性、感触、触質性、および/または所望の空隙率を生じさせることができる。
【0019】
様々な異なる生物学的および機械的特性が得られるように、組織を選択することができる。例えば、マトリックスを移植する部位に通常見られる組織の再生を助けるため、組織の侵入および再構築を可能にするように無細胞組織マトリックスまたは他の組織製品を選択することができる。例えば、無細胞組織マトリックスは、筋膜上または筋膜中に移植されるとき、過度の線維化または瘢痕形成が起こることなく、筋膜の再生を可能にするように選択されてもよい。特定の実施形態では、組織製品は、それぞれヒトおよびブタ無細胞真皮マトリックスである、ALLODERM(登録商標)またはSTRATTICE(商標)から形成することができる。あるいは、以下に詳述するように、他の好適な無細胞組織マトリックスを使用することができる。組織は、皮膚(真皮または皮膚全層)、筋膜、心膜組織、硬膜、臍帯組織、胎盤組織、心臓弁組織、靭帯組織、腱組織、動脈組織、静脈組織、神経結合組織、膀胱組織、尿管組織、および腸組織を含む様々な組織源から選択することができる。本明細書に記載の方法を使用して、任意の種類のコラーゲン組織を処理し、任意の組織マトリックス製品を得ることができる。例えば、Badylakらにより多くの生物学的足場材料が記載されており、それらまたは他の当該技術分野で公知の組織製品を処理するために、本開示の方法を使用することができる。Badylak et al.,“Extracellular Matrix as a Biological Scaffold Material:Structure and Function,”Acta Biomaterialia(2008),doi:10.1016/j.actbio.2008.09.013.
【0020】
場合によっては、組織マトリックスを脱細胞化組織マトリックスとして提供することができる。好適な無細胞組織マトリックスについて以下に詳述する。他の場合、本方法は、細胞または他の材料を除去するようにインタクトな組織を処理するステップをさらに含むことができる。組織を完全にまたは部分的に脱細胞化して、患者に使用される無細胞組織マトリックスまたは細胞外組織材料を得ることができる。例えば、皮膚、腸、骨、軟骨、神経組織(例えば、神経線維または硬膜)、腱、靭帯、または他の組織などの様々な組織を完全にまたは部分的に脱細胞化して、患者に有用な組織製品を製造することができる。場合によっては、外来細胞材料(例えば、幹細胞)を添加することなく、これらの脱細胞化製品を使用することができる。特定の場合、治療を促進するために、これらの脱細胞化製品に自己供給源または他の供給源からの細胞を播種することができる。無細胞組織マトリックスを製造する好適な方法について後述する。
【0021】
多くの異なる酵素を使用して、組織マトリックスを処理することができる。例えば、好適な酵素は、ブロメラインなどのスルフヒドリルプロテアーゼを含むことができる。さらに、それらは、ブロメライン、パパイン、フィシン、アクチニジン、またはこれらの組み合わせを含むことができる。酵素は、市販品を購入することも、果実源から抽出することもできる。例えば、ブロメライン源の1つには、MCCORMICK MEAT TENDERIZER(登録商標)があるが、酵素はパイナップルから抽出することができる、および/または医療用製剤として購入することもできる。
【0022】
他の機械的および/または生物学的特性の望ましくない低下を引き起こすことなく組織の可撓性を増加させるように、酵素を組織と接触させることができる。例えば、本明細書で検討される酵素処理を行ってまたは行わずに材料のバッチを製造する場合、酵素処理により、引張強度、引裂強度、縫合強度、耐クリープ性、コラゲナーゼ感受性、グリコサミノグリカン含有量、レクチン含有量、破裂強度、熱転移温度、またはこれらの組み合わせの少なくとも1つの望ましくない変化は生じないであろう。場合によっては、望ましくない変化は、引張強度、引裂強度、縫合強度、耐クリープ性、グリコサミノグリカン含有量、レクチン含有量、破裂強度の何れか1つの統計学的に有意な低下;コラゲナーゼ感受性の増加;または熱転移温度(示差走査熱量測定法を使用する尺度として)の変化(上昇または低下)である。
【0023】
前述のように、幾つかの実施形態では、組織を酵素で処理して組織の空隙率を増加させる。様々な実施形態では、組織の空隙率の増加は、チャネルの数および/またはサイズを増加させ、それにより細胞浸潤および組織再生の速度を改善することができるように行われる。
【0024】
場合によっては、酵素は、それらが組織中のタンパク質の部位特異的切断を引き起こすように選択される。例えば、ブロメラインでブタ真皮材料を処理しても、ある一定量の処理を行った後、マトリックス構造の更なる変化は起こらないことが分かった。従って、ブロメラインで真皮を処理しても、長時間の暴露によりまたは長期間経過した後、マトリックスの更なる変化は起こらない。
【0025】
さらに、酵素を様々な好適な溶液として組織に適用することができる。例えば、ブロメラインは、通常生理食塩水として組織に適用されると有効であることが分かったが、他の好適な緩衝液(例えば、PBS)を使用することもできる。
【0026】
無細胞組織マトリックス
「無細胞組織マトリックス」という用語は、本明細書で使用する場合、一般に、細胞および/または細胞成分を実質的に含まない任意の組織マトリックスを指す。皮膚、皮膚の一部(例えば、真皮)、および他の組織、例えば、血管、心臓弁、筋膜、軟骨、骨、神経結合組織などを使用して、本開示の範囲に入る無細胞マトリックスを作製することができる。無細胞組織マトリックスが細胞および/または細胞成分を実質的に含まないかどうかを判定するために、多くの方法で無細胞組織マトリックスの試験または評価を行うことができる。例えば、処理された組織を光学顕微鏡検査で検査して、細胞(生細胞もしくは死細胞)および/または細胞成分が残存するかどうかを判定することができる。さらに、特定のアッセイを使用して細胞または細胞成分の有無を確認することができる。例えば、DNAまたは他の核酸のアッセイを使用して、組織マトリックス中に残存する核物質を定量することができる。一般に、残存するDNAまたは他の核酸がない場合、完全に脱細胞化されている(即ち、細胞および/または細胞成分が除去されている)ことが分かる。最後に、細胞特異的成分(例えば、表面抗原)を同定する他のアッセイを使用して、組織マトリックスが無細胞であるかどうかを判定することができる。皮膚、皮膚の一部(例えば、真皮)、および他の組織、例えば、血管、心臓弁、筋膜、軟骨、骨、および神経結合組織などを使用して、本開示の範囲に入る無細胞マトリックスを作製することができる。
【0027】
一般に、無細胞組織マトリックスの製造に必要なステップには、ドナー(例えば、ヒトの死体または動物源)から組織を採取するステップと、生物学的および構造的機能を維持する条件下で細胞を除去するステップとが含まれる。特定の実施形態では、本方法は、細胞除去と共にまたはその前に、組織を安定化させ、生化学的および構造的分解が起こらないようにするための化学処理を含む。様々な実施形態では、安定化溶液は、浸透圧性、低酸素性、自己分解性およびタンパク質分解性の分解を抑制および防止し、微生物汚染から保護し、例えば、平滑筋成分(例えば、血管)を含む組織で起こり得る機械的損傷を低減する。安定化溶液は、適切な緩衝液、1種類以上の酸化防止剤、1種類以上の膠質浸透圧剤(oncotic agents)、1種類以上の抗生物質、1種類以上のプロテアーゼ阻害剤、および/または1種類以上の平滑筋弛緩剤を含有してもよい。
【0028】
次いで、組織を脱細胞化溶液に入れて、コラーゲンマトリックスの生物学的および構造的完全性を損なわないように構造的マトリックスから生細胞(例えば、上皮細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、および線維芽細胞)を除去する。脱細胞化溶液は、適切な緩衝液、塩、抗生物質、1種類以上の界面活性剤(例えば、TRITON X−100(商標)、デオキシコール酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)、架橋を防止する1種類以上の薬剤、1種類以上のプロテアーゼ阻害剤、および/または1種類以上の酵素を含有してもよい。幾つかの実施形態では、脱細胞化溶液は、ゲンタマイシンを有するRPMI媒体中1%のTRITON X−100(商標)および25mMのEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を含む。幾つかの実施形態では、組織を脱細胞化溶液中、37℃で終夜、90rpmで穏やかに振盪しながらインキュベートする。特定の実施形態では、追加の界面活性剤を使用して、組織サンプルから脂肪を除去してもよい。例えば、幾つかの実施形態では、2%デオキシコール酸ナトリウムを脱細胞化溶液に添加する。
【0029】
脱細胞化プロセスの後、組織サンプルを生理食塩水で十分に洗浄する。幾つかの例示的実施形態では、例えば、異種間材料を使用する場合、脱細胞化された組織を終夜、室温でデオキシリボヌクレアーゼ(DNアーゼ)溶液で処理する。幾つかの実施形態では、組織サンプルをDNアーゼ緩衝液(20mM HEPES(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸)、20mM CaCl
2および20mM MgCl
2)中で調製されたDNアーゼ溶液で処理する。任意選択により、抗生物質溶液(例えば、ゲンタマイシン)をDNアーゼ溶液に添加してもよい。緩衝液が好適なDNアーゼ活性を付与する限り、任意の好適な緩衝液を使用してもよい。
【0030】
無細胞組織マトリックスは無細胞組織マトリックス移植片のレシピエントと同種の1つ以上の個体から製造されてもよいが、必ずしもこのように製造されるわけではない。従って、例えば、無細胞組織マトリックスはブタ組織から製造され、ヒトの患者に移植されてもよい。無細胞組織マトリックスのレシピエント、および無細胞組織マトリックスを製造するための組織または器官のドナーの役割を果たすことができる種としては、ヒト、ヒト以外の霊長類(例えば、サル、ヒヒ、またはチンパンジー)、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、アレチネズミ、ハムスター、ラット、またはマウスなどの哺乳動物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
コラーゲン含有材料からα−galエピトープを除去すると、コラーゲン含有材料に対する免疫反応を低下させることができる。α−galエピトープは、霊長類以外の哺乳動物および新世界ザル(南米のサル)に、ならびに細胞外成分であるプロテオグリカンなどの高分子に発現する。U.Galili et al.,J.Biol.Chem.263:17755(1988)。しかし、このエピトープは、旧世界霊長類(アジアやアフリカのサル、および類人猿)およびヒトには存在しない。Id.抗gal抗体は、ヒトおよび霊長類では、腸内細菌のα−galエピトープ糖鎖構造に対する免疫反応の結果として産生される。U.Galili et al.,Infect.Immun.56:1730(1988);R.M.Hamadeh et al.,J.Clin.Invest.89:1223(1992)。
【0032】
霊長類以外の哺乳動物(例えば、ブタ)はα−galエピトープを産生するため、コラーゲン含有材料をこれらの哺乳動物から霊長類に異種移植すると、コラーゲン含有材料上のこれらのエピトープに霊長類の抗Galが結合するため、拒絶が起こることが多い。結合の結果、補体結合により、および抗体依存性細胞障害によりコラーゲン含有材料が破壊される。U.Galili et al.,Immunology Today 14:480(1993);M.Sandrin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:11391(1993);H.Good et al.,Transplant.Proc.24:559(1992);B.H.Collins et al.,J.Immunol.154:5500(1995)。さらに、異種移植の結果、免疫系の顕著な活性化が起こり、多量の高親和性抗gal抗体が産生される。従って、幾つかの実施形態では、α−galエピトープを産生する動物を組織源として使用する場合、細胞から、およびコラーゲン含有材料の細胞外成分からα−galエピトープを実質的に除去することにより、ならびに細胞α−galエピトープの再発現を防止することにより、α−galエピトープへの抗gal抗体の結合に伴うコラーゲン含有材料に対する免疫反応を低下させることができる。
【0033】
α−galエピトープを除去するため、組織を生理食塩水で十分に洗浄してDNアーゼ溶液を除去した後、組織サンプル中に特定の免疫原性抗原が存在する場合、それを除去するために組織サンプルに1つ以上の酵素処理を施してもよい。幾つかの実施形態では、組織中にα−galエピトープが存在する場合、それを除去するために組織サンプルをα−ガラクトシダーゼ酵素で処理してもよい。幾つかの実施形態では、100mMリン酸緩衝液(pH6.0)中で調製された300U/Lの濃度のα−ガラクトシダーゼで組織サンプルを処理する。他の実施形態では、採取した組織からα−galエピトープを十分除去するために、α−ガラクトシダーゼの濃度を400U/Lに増加させる。抗原の十分な除去が達成される限り、任意の好適な酵素濃度および緩衝液を使用することができる。
【0034】
あるいは、組織を酵素で処理するのではなく、1つ以上の抗原性エピトープが欠損するように遺伝子操作された動物を組織源として選択してもよい。例えば、末端α−ガラクトース部分が欠損するように遺伝子操作された動物(例えば、ブタ)を組織源として選択することができる。適切な動物の説明については、同時係属中の米国特許出願第10/896,594号明細書および米国特許第6,166,288号明細書を参照されたい(これらの開示は、参照によりその内容全体が本明細書に援用される)。さらに、α−1,3−ガラクトース部分が減量または欠損しているまたはしていない、無細胞マトリックスを製造するための特定の例示的組織処理方法が、Xu,Hui.et al.,“A Porcine−Derived Acellular Dermal Scaffold that Supports Soft Tissue Regeneration:Removal of Terminal Galactose−α−(1,3)−Galactose and Retention of Matrix Structure,”Tissue Engineering,Vol.15,1−13(2009)に記載されており、この文献は参照によりその内容全体が援用される。
【0035】
無細胞組織マトリックスを形成した後、任意選択により組織適合性生細胞を無細胞組織マトリックス中に播種して移植片を製造してもよく、それはさらに宿主により再構築され得る。幾つかの実施形態では、移植前に標準的なin vitro細胞共培養法により、または移植後にin vivo再増殖により組織適合性生細胞をマトリックスに添加してもよい。in vivo再増殖は、無細胞組織マトリックス中に遊走するレシピエント自身の細胞で行われても、またはレシピエントから得られた細胞もしくは別のドナーから得られた組織適合性細胞を無細胞組織マトリックス中にin situで注入もしくは注射することにより行われてもよい。胚性幹細胞、成人幹細胞(例えば、間葉系幹細胞)、および/または神経細胞を含む様々な種類の細胞を使用することができる。様々な実施形態では、これらの細胞を移植直前または移植後に無細胞組織マトリックスの内部に直接付着させることができる。特定の実施形態では、移植前に、移植される無細胞組織マトリックスに細胞を入れ、培養することができる。
【実施例】
【0036】
次の実施例は、ブタ真皮無細胞組織マトリックスをブロメラインで処理し、材料の可撓性を増加させる方法を説明する。後述のように、処理により、様々な機械的特性の望ましくない変化は起こらなかった。さらに、処理により材料の空隙率が増加し、それにより細胞浸潤および組織再生の速度が改善し得る。
【0037】
この実験では、LIFECELL CORPORATION(Branchburg,NJ)から入手したSTRATTICE(商標)無細胞組織マトリックスを使用した。STRATTICE(商標)は、材料を入手した解剖学的部位に応じて、可撓性の形態と比較的硬質の形態で入手可能である。両方のタイプをこの実験に使用した。試験に使用するサンプルを四等分に切断し、4分の3を処理した。無処理のサンプル(4分の1)を対照として使用した;処理中、対照は冷蔵した。STRATTICE(商標)は溶液中に包装され、従って、再水和を必要としない。MCCORMICK MEAT TENDERIZER55gを含有する冷水道水0.5リットルに、処理サンプルを入れた。
【0038】
図1A〜
図1Dは、本開示の方法を使用して酵素で処理した後の無細胞組織マトリックス、および無処理対照を示す。
図2〜
図6は、各処理サンプルと対照サンプルの引張強度、縫合強度、引裂強度、エラスターゼ分解、および耐クリープ性の箱ひげ図である。処理サンプルは、対照と比較して可撓性が著しく増加したが、他の機械的特性の顕著な低下はなかった。さらに、熱転移温度またはコラゲナーゼ感受性の顕著な変化は認められなかった。全体的に、対応のあるT検定は対照群と処理群間の統計学的差を示さなかった。