【実施例】
【0119】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0120】
<原料>
実施例では、下記の化合物を用いた。試薬名と製品名が同一の場合は製品名を省略した。
・EYPC(未水添卵黄ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME NC−50)
・HSPC(ソイビーン−ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME NC−21)
・DDPC(1,2−ジデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME MC−1010)
・DLPC(1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME MC−1212)
・DMPC(1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME MC−4040)
・DPPC(1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME MC−6060)
・DSPC(1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME MC−8080)
・DOPC(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME MC8181)
・POPC(1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME MC6081)
・DLPE(1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン:日油社製、COATSOME ME−2020)
・DMPE(1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン:日油社製、COATSOME ME4040)
・DSPE(1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン:日油社製、COATSOME ME8080)
・DOPE(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン:日油社製、COATSOME ME−8181)
・Chems(コレステリルヘミサクシネート:ナカライテスク社製)
・NBD−PE(1,2−Dioleoyl−sn−glycero−3−phosphoethanolamine−N(7−nitro−2−1,3−benzoxadiazol−4−yl)ammonium:Avanti polar lipids社製)
・Rh−PE(1,2−Dioleoyl−sn−glycero−3−phosphoehanolamine−N−(lissamine rhodamine B sulfonyl)ammonium:Avanti polar lipids社製)
・デオキシコール酸ナトリウム(ナカライテスク社製)
・コール酸ナトリウム(ナカライテスク社製)
・ウルソデオキシコール酸ナトリウム(東京化成工業社製)
・ケノデオキシコール酸(東京化成工業社製)
・ヒオデオキシコール酸(東京化成工業社製)
・コール酸メチル(東京化成工業社製)
・デヒドロコール酸ナトリウム(東京化成工業社製)
・リトコール酸(ナカライテスク社製)
・グリココール酸ナトリウム(東京化成工業社製)
・タウロコール酸ナトリウム(ナカライテスク社製)
・グリコデオキシコール酸ナトリウム(ナカライテスク社製)
・タウロデオキシコール酸ナトリウム(ナカライテスク社製)
・グリコウルソデオキシコール酸ナトリウム(ナカライテスク社製)
・タウロウルソデオキシコール酸ナトリウム(ナカライテスク社製)
・高級胆汁酸(3α,7α,12α−Trihydroxycholestanoic acid:Avanti polar lipids社製)
・5β−コラン酸(シグマ−アルドリッチ社製)
・グリチルリチン酸モノアンモニウム(東京化成工業社製)
・グリチルレチン酸(長良サイエンス社製)
・サッカリンナトリウム(和光純薬工業社製)
・メタノール(ナカライテスク社製)
・クロロホルム(和光純薬工業社製)
・酢酸(和光純薬工業社製)
・酢酸ナトリウム(関東化学社製)
・MES−Na(メルク社製)
・Hepes−Na(ナカライテスク社製)
・塩化ナトリウム(関東化学社製)
・Pyranine(東京化成工業社製)
・DPX(p−xylene−bis−pyridinium bromide:Molecular probes社製)
・PBS(Phosphate Buffered Salts:タカラバイオ社製、PBS Tablets)
・ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル(Tween20、40、60、80、65、85:東京化成工業社製)
・PEG20−stearyl ether(ポリオキシエチレン20−ステアリルエーテル:和光純薬工業社製)
・PEG23−Lauryl ether(ポリオキシエチレン23−ラウリルエーテル:和光純薬工業社製)
・ソルビタン脂肪酸エステル(SPAN20:ナカライテスク社製−ソルビタンモノラウレート、SPAN40、60:東京化成工業社製、SPAN80:ナカライテスク社製−ソルビタンモノオレエート、65:和光純薬工業社製、ソルビタントリステアレート、SPAN85:東京化成工業社製)
・モノカプリン酸グリセロール(東京化成工業社製、モノカプリン)
・モノカプリリン酸グリセロール(東京化成工業社製、モノカプリリン)
・モノラウリン酸グリセロール(東京化成工業社製、モノラウリン)
・モノミリスチン酸グリセロール(東京化成工業社製、モノミリスチン)
・モノパルミチン酸グリセロール(東京化成工業社製、モノパルミチン)
・モノステアリン酸グリセロール(東京化成工業社製、モノステアリン)
・モノオレイン酸グリセロール(東京化成工業社製、モノオレイン)
・ジラウリン酸グリセロール(東京化成工業社製、ααジラウリン)
・ジステアリン酸グリセロール(和光純薬工業社製)
・ジオレイン酸グリセロール(和光純薬工業社製)
・ポリオキシエチレンヒマシ油(和光純薬工業社製、ポリオキシエチレン10ヒマシ油)
・ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(10:和光純薬工業社製、ポリオキシエチレン10硬化ヒマシ油、40:日油社製、ユニオックスHC−40、60:日油社製、ユニオックスHC−60)
・1−ブタノール(ナカライテスク社製)
・1−オクタノール(ナカライテスク社製)
・1−ドデカノール(東京化成工業社製)
・1−ヘキサデカノール(ナカライテスク社製)
・1−エイコサノール(東京化成工業社製)
・ラウリン酸(ナカライテスク社製)
・オレイン酸ナトリウム(ナカライテスク社製)
・オクタン酸エチル(ナカライテスク社製)
・ラウリン酸エチル(東京化成工業社製)
・オレイン酸エチル(ナカライテスク社製)
・ラクトース(ナカライテスク社製)
・L−ロイシン(ナカライテスク社製)
・L−ヒスチジン(ナカライテスク社製)
・ダイズ油(ナカライテスク社製、大豆油)
・スクアラン(ナカライテスク社製)
・スクアレン(ナカライテスク社製)
・α−トコフェロール(ナカライテスク社製、DL−α−トコフェロール)
・酢酸トコフェロール(ナカライテスク社製、酢酸DL−α−トコフェロール)
・安息香酸ベンジル(ナカライテスク社製)
・パラオキシ安息香酸ベンジル(東京化成工業社製)
・パルミチン酸アスコルビル(LKT Laboratories社製)
・アラビアゴム(ナカライテスク社製、アラビアゴム粉末)
・ゼラチン(ナカライテスク社製、ゼラチン精製粉末)
・シクロデキストリン(ナカライテスク社製)
・メチルセルロース(ナカライテスク社製)
・ミネラルオイル(ナカライテスク社製)
・パラフィン(ナカライテスク社製)
・水酸化ナトリウム水溶液(0.1mol/L:ナカライテスク社製)
・塩酸(0.1mol/L、1mol/L:ナカライテスク社製)
・Triton−X100(和光純薬工業社製、トリトンX100)
・モデルペプチド:OVA257−264(SIINFEKL,ピーエイチジャパン委託合成)
・蛍光標識ペプチド:OVA257−264−Rh(ピーエイチジャパン委託合成)
・モデルタンパク質:OVA(シグマ−アルドリッチ社製)
・トリプシン(Life technologies社製)
・EDTA(エチレンジアミン四酢酸:ナカライテスク社製)
・β−gal(和光純薬工業社製、β−D−ガラクトシダーゼ)
・FBS(Fetal bovine serum:国産化学社製)
・MEM(Minimum Essential Medium:ナカライテスク社製、MEM培地アール塩,L‐グルタミン含有 液体)
・DMEM without Phenol Red(ナカライテスク社製、ダルベッコ変法イーグル培地4.5g/l グルコース L−グルタミンピルビン酸フェノールレッド不含 液体)
・DMEM(ナカライテスク社製、ダルベッコ変法イーグル培地)
・クロロキン二リン酸(ナカライテスク社製)
・IsoFlow(Beckman Coulter社製)
<試料の作製>
(pH感受性担体の調製)
メタノール(またはクロロホルム)に溶解した1000nmol両親媒性物質と、メタノール(またはクロロホルム)に溶解したpH感受性化合物または候補化合物と、を10mLナスフラスコで混合し、ロータリーエバポレーター(BuCHI)により薄膜とした。なお、両親媒性物質とpH感受性化合物または候補化合物との比率は、所望の比率(モル比100:10、100:20、100:640等)となるよう調整した。また、複数の両親媒性物質を使用する場合は、両親媒性物質の総量が、所望のモル数(1000nmol)となるように調整した。
【0121】
作製した薄膜にMES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM pH7.4)1mLを添加し、超音波照射装置(USC−J)を用いて常温で1分間超音波を照射して分散させ、目的とするpH感受性担体を含む水性溶液(担体の分散液)を得た。
【0122】
(比較例の担体の調製)
(EYPC単独およびDLPC単独)
クロロホルムに溶解した1000nmolのEYPCまたはDLPCを10mLナスフラスコに入れ、ロータリーエバポレーター(BuCHI)により薄膜とした。
【0123】
作製した薄膜にMES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM pH7.4)1mLを添加し、超音波照射装置(USC−J)を用いて常温で1分間超音波を照射して分散させ、EYPC単独またはDLPC単独の分散液を得た。
【0124】
(高分子材料を含む担体)
pH感受性担体の調製法と同様にして、pH感受性化合物と高分子材料の薄膜を調製し、担体を調製した。アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、ミネラルオイル、またはパラフィンの高分子材料は、1600nmolのpH感受性化合物の1/5倍、1倍、5倍の質量を用いた。
【0125】
(pH感受性リポソーム)
pH感受性担体の調製法と同様にして、DOPEとChemsまたはオレイン酸の薄膜を調製し、リポソームを調製した。なお、pH感受性リポソームであるDOPE−Chems(DOPE:Chems=3:2(モル比))、およびDOPE−オレイン酸(DOPE:オレイン酸=7:3(モル比))は、1000nmolのDOPEと、所望の量のChemsまたはオレイン酸と1mLのMES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM pH7.4)を用いて調製した。
【0126】
(ペプチド含有担体およびタンパク質含有担体の調製)
両親媒性物質1000nmolに対して、モデルペプチドのOVA257−264(SIINFEKL)、またはモデルタンパク質のOVAを、0〜1536μgとなるように量り取り、MES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM pH7.4)1mLに溶解させた。これらの溶液を用いて担体を調製することにより、ペプチドまたはタンパク質を含有した担体の分散液を得た。
【0127】
蛍光標識ペプチドのOVA257−264−Rhを用いる場合は、両親媒性物質1000nmolに対して、140μg/mLの蛍光標識ペプチドを用いて調製し、β−galを用いる場合は両親媒性物質1000nmolに対して1.4mgのβ−galを用いて調製した。
【0128】
<測定方法>
(透過度の測定)
MES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM pH7.4)250μLに担体の分散液250μLを加え、測定溶液とした。UV−2450を用いて、500nmにおける透過度を常温にて測定した。
【0129】
(ゼータポテンシャルおよび粒子径の測定)
ゼータポテンシャルの測定はpH7.4に調整した1.0mLのHepes buffer(Hepes:1.0mM)に、担体の分散液20〜50μLを加え、測定溶液とした。測定はNanoZS90を用いて複数回実施し、得られたゼータポテンシャルの値を平均し、担体粒子のゼータポテンシャルとした。
【0130】
(粒子径および多分散指数の測定)
粒子径および多分散指数(PDI:Polydispersity Index)の測定はMES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM pH7.4)に適当量の担体の分散液を加え、測定溶液とした。測定はNanoZS90を用いて複数回実施し、動的光散乱測定にて得られるZ−average(半径)の値を平均し、その2倍の値をDiameter(直径、粒子径)とした。PDIの値は複数の測定により得られたPDIの値を平均して求めた。
【0131】
(溶出性試験:Leakage(溶出率)の測定)
Leakage(溶出率)は、K.Kono et al.Bioconjugate Chem.2008 19 1040−1048に記載の方法に従い、蛍光物質であるPyranineと消光剤であるDPXとを内包したEYPCリポソームを用いて評価した。
【0132】
クロロホルムに溶解させた3000nmolのEYPCを10mLナスフラスコに測り入れ、ロータリーエバポレーター(BuCHI)を用いて薄膜とした。Pyranine溶液(Pyraine:35mM、DPX:50mM、MES:25mM、pH7.4)500μLを加え、超音波照射装置(USC−J)を用いて分散させた後、エクストルーダーを用いて孔径100nmのポリカーボネート膜を通し、粒子径を揃えた。MES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM pH7.4)とG100カラムを用いて外水層の置換を行い、蛍光物質を内包したEYPCリポソーム分散液を得た。リン脂質C−テストワコーを用いてリン脂質コリン基の濃度を求め、リン脂質が1.0mmol/LとなるようにMES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM pH7.4)を用いて濃度を調整した。
【0133】
濃度を調整したEYPCリポソーム分散液20μLと、担体、あるいはpH感受性化合物単独、両親媒性化合物単独などの評価サンプル分散液20μLを、種々のpHに調整したMES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM)2960μL中に投与し、37℃にて90あるいは30分間インキュベーションした後(実施例において、特別な記載のない限り、90分間の結果である)、分光光度計FP−6500を用いてEx416、Em512nmの蛍光を観察することにより、Leakageをモニターした。DOPE−Chems、およびDOPE−オレイン酸は、酢酸buffer(酢酸:25mM、NaCl:125mM)中にて測定した。また、その他のサンプルにおいても、pH4.0〜pH3.0の測定は酢酸bufferを用いて実施した。
【0134】
なお、EYPCリポソーム分散液のみの場合を0%とし、10倍希釈したTriton−X100を30μL加えた場合の値を100%として、溶出率を算出した。
【0135】
具体的には、溶出率は、下記式に従って計算した。なお、下記式中において、測定した蛍光強度をLとし、蛍光物質を内包したEYPCリポソーム分散液のみの蛍光強度をL
0、Triton−X100を加えた場合の蛍光強度をL
100と表す。
【0136】
【数4】
【0137】
(膜融合試験:Fusion(膜融合)の測定)
Fusion(膜融合)は、K.Kono et al.Biomaterials 2008 29 4029−4036に記載の方法に従い、FRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)を利用して評価した。蛍光標識は、NBD−PE、Rh−PEを用いた。
【0138】
EYPCに対して0.6mol%のNBD−PE、およびRh−PEを含むEYPC(EYPC1000nmol)の薄膜を作製し、1mLのMES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM pH7.4)を加え、超音波照射装置(USC−J)を用いて分散させた後、エクストルーダーを用いて孔径100nmのポリカーボネート膜を通し、二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液を得た。二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液20μLと、担体、あるいはpH感受性化合物単独、両親媒性化合物単独などの評価サンプル分散液20μLを、種々のpHに調製したMES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM)2960μL中に投与し、37℃にて60分間インキュベーションした後、分光光度計(FP−6500)を用いて450nmの励起光による500nm〜620nmの蛍光スペクトルを測定し、520nmと580nmとの蛍光強度比を求めた。
【0139】
融合率は、上記で得られた二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液と両親媒性物質とをインキュベーションした場合の蛍光強度比を0%とし、二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液と、pH感受性担体あるいは両親媒性物質の分散液と、をメタノール処理したものを100%として算出した。メタノール処理は二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液とpH感受性担体あるいはpH感受性化合物単独、両親媒性化合物単独などの評価サンプル分散液との両者をメタノールに溶解させた後、ロータリーエバポレーター(BuCHI)を用いて薄膜とし、3.0mLのMES buffer(25mM:MES、125mM:NaCl)と超音波照射装置(USC−J)を用いて分散させて実施した。
【0140】
具体的には、融合率は、下記式に従って計算した。なお、下記式中において、測定して得られた蛍光強度比をRとし、二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液と両親媒性物質とをインキュベーションした場合の蛍光強度比をR
0、二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液と担体あるいはpH感受性化合物単独、両親媒性化合物単独などの評価サンプル分散液をメタノール処理して得られた蛍光強度比をR
100と表す。
【0141】
【数5】
【0142】
(細胞膜に対する膜融合の確認)
pH感受担体が実際の細胞膜に対しても膜融合を誘起することを、HeLa細胞を用いて確認した。
【0143】
pH感受性担体を投与する前日にHeLa細胞を松浪ガラスボトムディッシュに播種し、10%FBS含有DMEMにて培養した。この際、培養は5%CO
2、37℃に設定したインキュベーター(MCO20AIC)を用いて実施した。インキュベート後、細胞を、10%FBS含有DMEMを用いて洗浄した。次いで、水酸化ナトリウム水溶液または塩酸を用いてpHを7.4に調整した25mMのHepesおよび50μMのクロロキン二リン酸含有DMEM2.0mLを細胞に添加し、1時間プレ−インキュベーションを行った。
【0144】
なお、pH5.3で実験する場合には、水酸化ナトリウム水溶液または塩酸を用いてpHを5.3に調整した25mMのMESおよび50μMのクロロキン二リン酸含有DMEM2.0mLを細胞に添加し、1時間プレ−インキュベーション行った。
【0145】
プレ−インキュベーション後、所定pHのメディウムに、両親媒性物質に対して0.6mol%のRh−PEで蛍光標識したpH感受性担体の分散液を100μL添加し、2時間インキュベーションを行った。細胞をフェノールレッド非添加DMEMで少なくとも3回洗浄した後、蛍光顕微鏡(Axiovert200M− ソフト:Axio vision 3.0− 光源:Fluo Arc)を用いて観察した。なお、細胞の蛍光強度は、洗浄した細胞を0.025wt%のトリプシンおよび0.01wt%のEDTA含有PBSを用いて細胞を剥離し、フローサイトメーター(Cytomics FC500,ソフト:CXP ver2)を用いて評価した。
【0146】
(蛍光標識ペプチドを用いた細胞質基質デリバリーの評価)
モデルペプチドとしてOVA257−264−Rhを選択した。0.22μmのフィルターを通したPBSを用いて140μg/mLの蛍光標識ペプチド溶液を調製し、担体の調製に用いた。細胞はRAW細胞を使用し、培養は5%CO
2、37℃に設定したインキュベーター(MCO20AIC)を用いて実施した。担体を投与する前日にRAW細胞を松浪ガラスボトムディッシュに播種し、10%FBS含有MEMメディウムにて培養した。細胞をPBSにて洗浄した後、新たな1900μLの10%FBS含有MEMメディウムに置換し、それぞれ100μLのサンプルを投与した。16〜20時間インキュベーションを行い、細胞をPBSにて少なくとも3回洗浄した。その後、新たな10%FBS含有MEMメディウム2mLを添加し、3時間ポスト−インキュベーションを行った。細胞をPBSで洗浄し、DMEM without Phenol Redメディウムに置換した後、蛍光顕微鏡(Axiovert200M− ソフト:Axio vision 3.0− 光源:Fluo Arc)を用いて細胞を観察した。
【0147】
(β−galの細胞質基質デリバリー)
0.22μmのフィルターを通したPBSを用いて、1.4mg/mLのβ−gal溶液を調製した。1000nmolのDLPCと1600nmolのデオキシコール酸またはウルソデオキシコール酸とからなる混合薄膜に、調製したβ−gal溶液を用いて分散させ、β−gal含有担体を調製した。投与前日にRAW細胞を松浪ガラスボトムディッシュに播種して培養し、投与直前に細胞をPBSで洗浄した。培養は5%CO
2、37℃に設定したインキュベーター(MCO20AIC)、および10%FBS含有MEMメディウムを用いて実施した。新たな1900μLの10%FBS含有MEMメディウムに置換し、それぞれ100μLのサンプルを投与し、16〜20hインキュベーションを行った。細胞をPBSにて少なくとも3回洗浄した後、新たな10%FBS含有MEMメディウム2mLを添加し、3時間ポスト−インキュベーションを行った。細胞をPBSで洗浄し、β−Galactosidase Staining Kit(タカラバイオより購入)を用いて細胞を染色し、顕微鏡(Axiovert200M− ソフト:Axio vision 3.0)を用いて細胞を観察した。染色はkitの推奨に従い実施した。
【0148】
(pH感受性担体および生理活性物質をそれぞれ独立に使用した場合の細胞質基質へのデリバリー評価)
RAW細胞を前日に松浪ガラスボトムディッシュに播種し、10%FBS含有MEMにて培養した。PBSにて洗浄後、MEMを添加し、1時間インキュベーションを行った。蛍光標識ペプチド−FITC、あるいは蛍光標識OVA−FITCを30μg/mLの濃度で含む1900μLのMEMを調製し、培養メディウムと置換した。さらに、100μLのpH感受性担体の調製溶液を添加し、培養メディウム中にて両者の混合した状態にて16〜20時間インキュベーションを行った。蛍光標識ペプチド−FITCおよび蛍光標識OVA−FITCは、pH感受性担体を含む溶液との混合状態において、pH感受性担体に担持されないことを確認している。PBSにて洗浄し、2mLの新たなMEMにて3時間のポスト−インキュベーションを行った後、細胞をPBSで洗浄し、フェノールレッド非添加DMEMに置換し、蛍光顕微鏡を用いて細胞を観察した。培養は5%CO
2、37℃に設定したインキュベーター(MCO20AIC)を用いて実施し、細胞の観察は蛍光顕微鏡(Axiovert200M− ソフト:Axio vision 3.0− 光源:Fluo Arc)を用いて実施した。
【0149】
(1)デオキシコール酸の複合化について
まず、デオキシコール酸と両親媒性物質との複合化を評価した。
【0150】
上記pH感受性担体の調製にしたがって、1000nmolのEYPCまたはDLPCと種々の量(0〜6400nmol)のデオキシコール酸との混合薄膜を作製し、1mLのpH7.4 MES bufferを加えて超音波を照射し、デオキシコール酸が複合化した分散液をそれぞれ調製した。種々の濃度でデオキシコール酸を含む、EYPCとデオキシコール酸とを含む分散液の写真を
図2Aに、種々の濃度でデオキシコール酸を含む、DLPCとデオキシコール酸とを含む分散液の写真を
図2Bに示す。なお、
図2A、
図2Bは、左から順に、0nmol、50nmol、100nmol、200nmol、400nmol、800nmol、1600nmol、3200nmol、6400nmolのデオキシコール酸を含む、脂質1000nmolの分散液である。EYPC、DLPCのいずれの脂質も、脂質のみの分散液は白濁しているのに対し、デオキシコール酸を複合化したものは複合化量に依存して澄んだ溶液となった。
【0151】
また、それぞれの分散液の500nmにおける透過度を測定したところ目視と同様の傾向が得られた。
図2Cは、EYPCとデオキシコール酸とを含む分散液の透過度を、
図2Dは、DLPCとデオキシコール酸とを含む分散液の透過度を測定した結果である。これらは、デオキシコール酸と脂質とが複合体(会合体)を形成していることを示唆している。以下、デオキシコール酸と脂質との複合体を「脂質−デオキシコール酸複合体」とも称する。
【0152】
次に、これら分散液のゼータポテンシャルを調べた。
図3は、デオキシコール酸量に対する、EYPCとデオキシコール酸とを含む分散液(図中、EYPC−デオキシコール酸複合体)、およびDLPCとデオキシコール酸とを含む分散液(図中、DLPC−デオキシコール酸複合体)のゼータポテンシャルの測定結果である。なお、
図3の結果は、異なる5回の測定の平均値であり、±はSDである。
【0153】
両分散液はデオキシコール酸の複合化に伴い、値を負に低下させた。これは負電荷を有するデオキシコール酸が脂質と複合化していることを意味するものであり、デオキシコール酸と脂質とが混在する複合体を形成していることを示している。いずれの脂質を用いた場合も、デオキシコール酸が1600nmolの複合化量において、ゼータポテンシャルは約−30mVの値を示し、それ以上の複合化量においてゼータポテンシャルの値は大きく低下しなかった。したがって、この複合化量において、デオキシコール酸が、形成する複合体の表面を十分に覆って複合化しているものと考えられる。
【0154】
(2)複合体の構造について
上記pH感受性担体の調製にしたがって、1000nmolのDLPCに対して1600nmolのデオキシコール酸で調製した複合体の蛍光物質保持実験(Pyranine溶液を用いて薄膜を分散させる実験)を行ったところ、該複合体には蛍光物質が保持されていなかった。複合体が蛍光物質を保持できなかったことから、当該複合体は、中空構造ではなく、ミセルの形状であることが示唆された(data not shown)。
【0155】
次に、上記pH感受性担体の調製にしたがって得られた種々の複合体の粒子径を測定した。動的光散乱測定による粒子径測定の結果、EYPC−デオキシコール酸複合体(EYPC:デオキシコール酸=1000nmol:1600nmol)の粒子径(Diameter)は約73nm、DLPC−デオキシコール酸複合体(DLPC:デオキシコール酸=1000nmol:1600nmol)の粒子径(Diameter)は約43nmの大きさの粒子であることがわかった(表1)。また、これらの多分散指数(PDI)は0.26と0.07と小さな値であり、デオキシコール酸と脂質の複合体は小さく、均一な粒子であることが判明した。
【0156】
【表1】
【0157】
(3)pH感受性について
(溶出性試験)
EYPC単独、DLPC単独、EYPC−デオキシコール酸複合体およびDLPC−デオキシコール酸複合体のpH感受性を調べた。なお、実験は、上記の担体の調製方法にしたがって、1000nmolの脂質(EYPCまたはDLPC)と1600nmolのデオキシコール酸とを用いて複合体を調製し、上記の溶出性試験の方法にしたがって、生体膜モデルのリポソーム(EYPCリポソーム)とインキュベーションすることにより調べた(以降、特別な記載のない限り、溶出性試験は90分間のインキュベーションを実施した結果である)。
図4は、pH7.4、pH6.5、pH6.0、pH5.5、pH5.0およびpH4.5におけるEYPC単独、DLPC単独、デオキシコール酸単独、EYPC−デオキシコール酸複合体およびDLPC−デオキシコール酸複合体の溶出性試験の結果である。また、
図4のプロットは異なる3回の測定の平均であり、±はSDである。
【0158】
EYPC単独、DLPC単独、およびEYPC−デオキシコール酸複合体は、pH7.4からpH4.5のいずれのpHにおいても蛍光物質の溶出を引き起こさず、pH感受性を示さなかったのに対し、DLPC−デオキシコール酸複合体はpH6.5以下においてデオキシコール酸単独よりも大きな溶出を引き起こした。DLPC−デオキシコール酸複合体は、pH感受性の膜破壊機能促進効果を発現することが明らかとなった。
【0159】
当該実験より、デオキシコール酸と適切な両親媒性物質の組み合わせにより、弱酸性環境に応答して機能を発現する複合体が得られると判明した。効果発現のpHは6.5以下であり、実用に適したpH帯であった。また、生理的環境のpHでは全く溶出を引き起こさなかったことから、機能のon−offが良く制御されたpH感受性であった。
【0160】
(膜融合試験)
生理活性物質を細胞質基質に送達するためには弱酸性環境における膜融合の機能を有していることが望ましい。そこで、上記の膜融合試験の方法にしたがって、二重蛍光標識したEYPCリポソームと、1000nmolの脂質(EYPCまたはDLPC)および1600nmolのデオキシコール酸を用いて調製した担体(複合体)とを、種々のpHにおいて、37℃にて60分間インキュベーションし、両者の融合を調べた。
図5(A)は、pH7.4、pH6.5、pH6.0、pH5.5、pH5.0およびpH4.5におけるEYPC単独、DLPC単独、デオキシコール酸単独、EYPC−デオキシコール酸複合体およびDLPC−デオキシコール酸複合体の蛍光強度比を示すグラフである。
図5(B)は、上記と同様のpHにおける、デオキシコール酸単独、EYPC−デオキシコール酸複合体、DLPC−デオキシコール酸複合体の融合率を示すグラフである。融合率の0%は二重蛍光標識リポソームに、DLPC単独、またはEYPC単独を添加した場合の蛍光強度比であり、100%はそれぞれのサンプルをメタノール処理した値である。デオキシコール酸単独の値は、二重蛍光標識リポソーム単独を0%に、EYPC−デオキシコール酸複合体のメタノール処理をした値を100%に用いて算出した。なお、
図5(A)および(B)のプロットは異なる3回の測定の平均であり、±はSDである。
【0161】
図5(A)の結果より、DLPC−デオキシコール酸複合体は、pHの低下に伴い蛍光強度比を増大させ、二重蛍光標識したEYPCリポソームとの融合を引き起こした。また、それらの融合率を評価したところ、DLPC−デオキシコール酸複合体は弱酸性環境において膜融合機能促進効果を発現することが明らかとなった(
図5(B))。DLPC−デオキシコール酸複合体は膜破壊機能促進効果と膜融合機能促進効果の両者を発現した。このことから両者の効果は同一の現象に由来しており、膜破壊機能促進効果を発現する担体は膜融合機能促進効果も併せて発現する可能性があると考えられる。
【0162】
なお、pH5.0の蛍光強度比は、メタノール処理のサンプルと比較して8割程の値であった(
図5(A))。メタノール処理をしたサンプルは、二重蛍光標識リポソームと担体が完全に融合した状態を意味するものであり、この結果は生体膜モデルのEYPCリポソームと作製した担体が高い効率で融合していること示している。生理活性物質の効率の良いデリバリーが期待される。
【0163】
(4)一般的なpH−sensitiveリポソームとの比較
pHに対する感受性、および溶出の強さを確認するため、pH−sensitiveリポソームとして良く知られているDOPE−Chemsリポソーム(DOPE:Chems=3:2(モル比))、およびDOPE−オレイン酸リポソーム(DOPE:オレイン酸=7:3(モル比))との比較を溶出性試験により実施した。測定は、20nmolのDOPEに相当するDOPE−ChemsリポソームまたはDOPE−オレイン酸リポソームを含む分散液を用いて、実施した。
図6は、種々のpHに対する、DOPE−Chemsリポソーム、DOPE−オレイン酸リポソーム、およびDLPC−デオキシコール酸複合体の溶出率を示すグラフである。
図6のプロットは異なる3回の測定の平均であり、±はSDである。
【0164】
DOPE−Chemsリポソーム、DOPE−オレイン酸リポソームは、pH6.0以下のpHにおいて溶出し始め、pH3.5において最大値である20〜30%の溶出を示した。一方、pH感受性担体(DLPC−デオキシコール酸複合体)はpH6.5から溶出を誘起し始め、最大で60%強の溶出となった。
【0165】
従来のpH−sensitiveリポソームと比較して、DLPC−デオキシコール酸複合体は高い溶出率であったことから、本発明のpH感受性担体(DLPC−デオキシコール酸複合体)は、膜を不安定化、破壊する強い効果を有していることが示された。また、効果の発現するpHは一般的なpH−sensitiveリポソームのそれよりも中性に近く、弱酸性環境に対して高い感受性であることも示された。
【0166】
(5)デオキシコール酸の複合化量の検討
効果の発現に必要なデオキシコール酸の複合化量を調べるために、種々の量のデオキシコール酸を用いてpH感受性担体を作製し、膜融合試験による膜融合機能促進効果の発現を評価した。測定は3回行い、平均値とSDを算出した。デオキシコール酸単独の値はEYPC−デオキシコール酸複合体のメタノール処理をした値を用いて算出した。
【0167】
図7(A)および(B)は、デオキシコール酸量に対する、デオキシコール酸単独、EYPC−デオキシコール酸複合体およびDLPC−デオキシコール酸複合体の融合率である。
【0168】
図7(A)および(B)より、作製した担体は100nmol以上の複合化量においてデオキシコール酸単独よりも大きな値となり、膜融合機能促進効果を発現することが示された。よって、1000nmolの脂質に対して100〜6400nmolのデオキシコール酸を複合化することにより、膜融合機能促進効果の発現を得られることが明らかとなった。
【0169】
なお、EYPC−デオキシコール酸複合体の融合率は、デオキシコール酸単独とほぼ一致した値であり、EYPC−デオキシコール酸複合体はpH感受性化合物の複合化による膜融合機能促進効果の獲得が、全くできていないことを示している。
【0170】
(6)脂質構造の影響
以上の検討から、デオキシコール酸と適切な脂質(両親媒性物質)との組み合わせにより、弱酸性環境に応答して膜破壊機能促進効果、および膜融合機能促進効果を発現する担体を得られることが明らかとなった。これらの性質を与える脂質の解明を目的に、種々の構造の脂質を用いて担体を作製し、溶出性試験または膜融合試験を実施した。
【0171】
脂質構造として、(A)ジアシルホスファチジルコリンのアシル基の長さの影響(炭素数10〜18)、(B)ジアシルホスファチジルコリンのアシル基の不飽和結合の影響を調べた。それぞれの担体は、脂質1000nmolとデオキシコール酸1600nmolを使用して調製した。測定は3回行い、平均値とSDを算出した。なお、「炭素数」とは疎水部を構成する脂肪酸成分(アシル基)の炭素数を意味する。
【0172】
図8(A)は、デオキシコール酸単独、DSPC−デオキシコール酸複合体、DPPC−デオキシコール酸複合体、DMPC−デオキシコール酸複合体、DLPC−デオキシコール酸複合体、およびDDPC−デオキシコール酸複合体の融合率である。
図8(B)は、デオキシコール酸単独、HSPC−デオキシコール酸複合体、DOPC−デオキシコール酸複合体、およびPOPC−デオキシコール酸複合体の融合率である。
【0173】
図8(A)より、DSPC、DPPC、DMPCを用いた担体は、デオキシコール酸単独と同等の値であり、効果を示さなかったのに対し、DLPC、DDPCは効果を示した。使用する脂質の炭素長が影響しており、短い炭素鎖の脂質によって、効果の発現を得られると考えられる。炭素鎖の短い脂質は膜中における分子の反転運動であるflip flopを発生しやすく、その性質が影響していると考えられる。
【0174】
また、不飽和結合の影響に関して、炭素数18に不飽和を1つもつPOPCや不飽和を2つもつDOPCの担体は効果を発現しなかった(
図8(B))。不飽和結合は効果の発現に大きな影響を与えないことを示している。
【0175】
次に、効果の発現に及ぼす脂質のヘッド構造の影響を調べた。それぞれ、脂質1000nmolとデオキシコール酸1600nmolを使用して担体を調製した。測定は3回行い、平均値とSDを算出した。
【0176】
図9(A)は、デオキシコール酸単独、DLPE単独、DMPE単独、DSPE単独およびDOPE単独の溶出率を示すグラフであり、
図9(B)は、デオキシコール酸単独、DLPE−デオキシコール酸複合体、DMPE−デオキシコール酸複合体、DSPE−デオキシコール酸複合体およびDOPE−デオキシコール酸複合体の溶出率を示すグラフである。
【0177】
PEを有する脂質はいずれも効果発現に至らず、ヘッド構造はコリン基が望ましいことが示された(
図9(A)および(B))。
【0178】
以上の結果より、効果の発現を与える両親媒性物質としては、コリン基をヘッド構造にもち、炭素鎖10〜12の不飽和脂質および飽和脂質が望ましいと判明した。
【0179】
(7)その他の両親媒性物質の検討
脂質以外の材料も生理活性物質のデリバリーに利用されている。さらに、デオキシコール酸は脂質以外の疎水性材料とも複合体を形成することが知られており、様々な物質において機能を有する担体を得られる可能性がある。そこで、種々の物質とデオキシコール酸とを複合化させて担体を作製し、溶出性試験にて評価を行った。デオキシコール酸単独でも、界面活性作用により溶出率の増大を招くため、(1)溶出性試験において、生理的pHにおける溶出率よりも生理的pH未満の所定のpHにおける溶出率が上昇し、なおかつその上昇幅がpH感受性化合物単独で実験した場合の上昇幅よりも大きいこと、および、(2)当該生理的pH未満の所定のpHでの溶出性試験において、pH感受性化合物と両親媒性物質が複合体(pH感受性担体)を形成したときの溶出率が、pH感受性化合物単独の溶出率と両親媒性物質単独の溶出率の和より大きいこと、の両者を満たす場合を、効果の発現を与える物質であると規定し、スクリーニングを行った。
【0180】
なお、上記(1)および(2)とは、溶出性試験において、pH感受性担体(pH感受性化合物と両親媒性物質との複合体)の溶出率Lcが、pH感受性化合物単体の溶出率Laと両親媒性物質単体の溶出率Lbと、下記の関係を双方満たすものをいう。すなわち、上記(1)が、下記式(1)で表され、上記(2)が下記式(2)で表される。なお、下記式中、pH7.4の溶出率を、それぞれ、Lc
7.4、La
7.4、Lb
7.4と表し、pH5.0または4.5の溶出率を、それぞれ、Lc
x、La
x、Lb
xと表す。
【0181】
【数6】
【0182】
結果を表2〜7に示す。なお、表2〜7のそれぞれの値は異なる3回の測定の平均値であり、±はSDである。
【0183】
また、デオキシコール酸1600nmol(663μg)に対して種々の質量の高分子材料を用いて粒子を調整し、pH5.0における溶出の発生を評価した。
図10に、pH5.0におけるデオキシコール酸と高分子材料との複合体の溶出性の結果を示す。なお、
図10の値は、1回の測定の値である。
【0184】
【表2】
【0185】
【表3】
【0186】
【表4】
【0187】
検討の結果、炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルであるTween20、Tween40、Tween60およびTween80;炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステルであるSPAN40、SPAN60、SPAN80、SPAN65およびSPAN85;グリセロール誘導体であるモノオレイン酸グリコール(表中、モノオレイン)、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロールおよびジラウリン酸グリセロール(ααジラウリン);ポリオキシエチレンヒマシ油であるPEG10−ヒマシ油;α−トコフェロール;が、適切な物質であることが示された。なお、両親媒性物質における「炭素数」とは、両親媒性物質の疎水部を構成する脂肪酸成分(アシル基)の炭素数を意味する。
【0188】
(8)両親媒性物質の割合検討
上記(7)の検討により、効果発現をもたらす両親媒性物質と、そうではない物質とが明らかとなった。そこで、効果発現をもたらす物質がどの程度の割合で含まれれば、効果発現に至るのかを調べた。効果発現をもたらさない物質としてEYPCを選択し、EYPCに種々の割合でDLPC、あるいはSPAN85を、合計して1000nmolとなるように混合し、複数の両親媒性物質からなる担体を調製した。
【0189】
EYPCに、DLPCあるいはSPAN85を合計して1000nmolとなるように種々の割合で混合し、さらに1600nmolのデオキシコール酸を複合化させ担体を調製した。それぞれの担体のpH7.4、pH5.0における溶出性試験を行い、効果発現について調べた。
【0190】
図11は、EYPCとデオキシコール酸とDLPCまたはSPAN85との複合体の(A)pH7.4、(B)pH5.0における溶出率である。
図11(A)および(B)のそれぞれの値は異なる3回の測定の平均値であり、±はSDである。
【0191】
DLPCあるいはSPAN85:EYPC(mol:mol)の割合が100:150〜100:0の範囲においてpH感受性の溶出を確認した(
図11(A)および(B))。デオキシコール酸との複合化による、弱酸性環境に応答して、効果を発現するpH感受性担体を得るためには、適切な両親媒性物質の割合が、前記の範囲で必要であることが明らかとなった。
【0192】
(9)デオキシコール酸以外のpH感受性化合物の探索
以上の結果より、デオキシコール酸が弱酸性環境において疎水的な会合の状態に影響を及ぼしうることがわかった。デオキシコール酸と類似の構造をもつ分子は同様にpH感受性担体を与えることが期待される。そこで、デオキシコール酸の類似分子として、種々の胆汁酸、グリチルリチン酸、およびグリチルレチン酸を選定し、該酸とDLPCとの複合体の溶出性試験および膜融合試験を行い、pH感受性化合物として利用可能かを調べた。
【0193】
1000nmolのDLPCと1600nmolの種々の酸(以下、候補化合物)とを用いて担体を調製した。
【0194】
図12は、DLPCと種々の候補化合物との複合体の(A)pH7.4、(B)pH5.0における溶出率である。
図12のそれぞれの値は異なる3回の測定の平均値であり、±はSDである。
【0195】
また、
図13には、種々のpHにおけるDLPCと種々の候補化合物との複合体の溶出率のグラフを示す。
図13のそれぞれの値は異なる3回の測定の平均値であり、±はSDである。
【0196】
図14は、(A)種々のpH感受性化合物単独、(B)DLPCと種々のpH感受性化合物との複合体のpH7.4およびpH5.0における融合率である。それぞれの値は異なる3回の測定の平均値であり、±はSDである。
【0197】
pH7.4ではいずれの候補化合物を用いて調製した担体も溶出を引き起こさなかったのに対し、pH5.0ではデオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸(トリハイドロコレスタノニック・アシッド)、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸を用いて調製した担体は、候補化合物単独を添加した場合に比べて有意に大きな溶出を引き起こし、膜破壊機能促進効果を示した(
図12(A)および(B))。これらの担体はpH感受性の膜融合機能促進効果を有していることも併せて確認した(
図14(A)および(B))。
図5(A)および(B)における結果に引き続き、本実施例に係るpH感受性担体は、膜破壊機能促進効果とともに膜融合機能促進効果も併せて発現した。
【0198】
また、これら担体のpH−profileを調べたところ、溶出を引き起こし始めるpHは用いる分子によって異なった(
図13)。これは分子によってpKaが異なること、および両親媒性物質との会合形成の様式が異なることに由来するものと考えられる。この結果は効果を発現するpHを詳細に選択することが可能であることを示しており、生体内のデリバリー、および細胞内のデリバリーを詳細に設定することが可能であると期待される。本実験により、これらのpH感受性担体はpH7〜3において効果を有することが明らかとなった。
【0199】
(10)pH感受性化合物と両親媒性物質の組み合わせの検討
図12(A)および(B)、
図13、
図14(A)および(B)において、デオキシコール酸と類似の構造をもち効果の発現を与えることが判明した化合物(pH感受性化合物)と、表2〜7および
図10のスクリーニングにおいて効果の発現をもたらすと判明した両親媒性物質との種々の組み合わせについて、効果発現の有無を確認検討した。
【0200】
1000nmolの両親媒性物質と、100nmolのpH感受性化合物、あるいは1000nmolの両親媒性物質と、6400nmolのpH感受性化合物とを用いて担体を調製した。表8および9に、種々のpH感受性化合物と両親媒性物質との複合体の溶出試験の結果を示す。
【0201】
【表5】
【0202】
【表6】
【0203】
表8および表9より、いずれの組み合わせにおいても、効果を有すると判断する指標であるΔとΔ’はプラスの値を示しており、表8および表9の組み合わせによって得られた担体はpH感受性の機能を有することが判明した。
【0204】
(11)細胞膜に対する膜融合の確認
pH感受性担体は、上記(3)、(5)、(6)、(9)等の結果から、弱酸性環境に応答して膜破壊機能促進効果、および膜融合機能促進効果を発現することが示された。そこで、実際にpH感受性担体と細胞膜との膜融合を確認した。より詳細には、pH7.4とpH5.3に調整したメディウム中において、蛍光標識したpH感受性担体とHeLa細胞を短時間インキュベートし、細胞表面の膜に対する染色を調べ、pH感受性担体と細胞膜との膜融合を確認した。
【0205】
その結果、pH7.4において蛍光は起点状であるか、核近くの領域に観察された(
図15(A))。これは、pH感受性担体が、細胞に取り込まれ、エンドソームやリソソームに存在していることを示している。なお、同様の画像は、蛍光標識した両親媒性物質単独においても観察された(Data not shown)。
【0206】
一方、pH5.3においては、視野内全てにおいて蛍光の形状と細胞の形状が一致した像が観察された(
図15(B))。蛍光標識されたpH感受性担体が、細胞の表面において細胞膜と膜融合したために、細胞の形状に蛍光が広がったと考えられる。
【0207】
以上の結果から、pH感受性担体は、メディウム中の弱酸性環境に応答して膜融合機能促進効果を発現し、細胞表面の細胞膜と膜融合したことが明らかとなった。
【0208】
また、フローサイトメーターを用いて細胞の蛍光強度を評価したところ、pH5.3でインキュベートした細胞は大きな蛍光強度を示した(
図15(C))。この結果は、蛍光標識したpH感受性担体が多量に膜融合したことによるものであると考えられる。よって、pH感受性担体は、実際の細胞膜とも効率良く膜融合が可能であることが示された。
【0209】
(12)ペプチドおよびタンパク質の組み込みが効果発現に与える影響
生理活性を有するペプチドまたはタンパク質を疎水的な会合に組み込み、DDSに使用することは良く検討されている。これは、本担体の有望な利用方法である。そこで、モデルペプチドとしてOVA257−264(SIINFEKL、ピーエイチジャパンより購入)、モデルタンパク質としてOVA(シグマ−アルドリッチより購入)を用いて、生理活性物質の組み込みが担体の効果発現に及ぼす影響について調べた。
【0210】
まず、生理活性物質の組み込みを評価するために、DLPC−デオキシコール酸複合体(1000nmol:1600nmol)に、ペプチドまたはタンパク質(192μg)を組み込んだ担体の粒子径および多分散指数(PDI)を測定した(表10)。
【0211】
次に、DLPC1000nmolおよびデオキシコール酸1600nmolに対して、種々の量のペプチド(A)またはタンパク質(B)を組込んだ担体の溶出性を調べた。
図16に、pH7.4およびpH5.0における(A)ペプチド、(B)タンパク質含有担体の溶出率の結果を示す。
図16の値は異なる3回の測定の平均であり±はSDである。
【0212】
さらに、DLPC1000nmolおよびデオキシコール酸(A)またはウルソデオキシコール酸(B)1600nmolに対して、768μgのペプチドまたはタンパク質を組込んだ担体の融合率を調べた。
図17に、pH7.4およびpH5.0における(A)デオキシコール酸、(B)ウルソデオキシコール酸含有担体の融合率の結果を示す。
図17(A)および(B)の値は異なる3回の測定の平均であり±はSDである。
【0213】
【表7】
【0214】
担体がペプチドまたはタンパク質を組み込むことにより、担体の粒子径はやや大きくなる傾向となった(表10)。これらの物質が担体に組込まれたことを示唆している。一方、引き起こされる溶出は、ペプチドまたはタンパク質のいずれの量においても組込まなかった場合と同一の値となった(
図16(A)および(B))。ペプチドまたはタンパク質の担体への組み込みは効果の低下を引き起こさないことが示された。
【0215】
また、融合性試験の結果においても同様の結果が得られた(
図17(A)および(B))。これらの結果より、生理活性物質を組込むことは担体の効果発現に大きな影響を及ぼさないことが明らかとなった。
【0216】
(13)細胞質基質へのデリバリー1
弱酸性環境において膜融合および膜破壊を促進する性質を有した担体はエンドソームを経由し、内包あるいは組込んだ物質を細胞質基質までデリバリーすることが多数報告されている。構築したpH感受性担体を用いて生理活性物質の細胞質基質へのデリバリーを試みた。
【0217】
DLPC1000nmolとデオキシコール酸またはウルソデオキシコール酸1600nmolとに対して、140μg/mLの蛍光標識ペプチド溶液を用いて担体を調製した。また、コントロールとして、DLPC1000nmolに対して、140μg/mLの蛍光標識ペプチドを用いて担体を調製した。
【0218】
図18に、(A)蛍光標識ペプチド単独の溶液、(B)蛍光標識ペプチド含有DLPC単独の溶液、(C)蛍光標識ペプチド含有DLPC−デオキシコール酸複合体の溶液、および(D)蛍光標識ペプチド含有DLPC−ウルソデオキシコール酸複合体の溶液の写真を示す。
【0219】
蛍光標識ペプチド単独の溶液(A)に比べて、蛍光標識ペプチド含有DLPC単独の溶液(B)、蛍光標識ペプチド含有DLPC−デオキシコール酸複合体の溶液(C)、および蛍光標識ペプチド含有DLPC−ウルソデオキシコール酸複合体の溶液(D)は弱い蛍光となった。これは蛍光標識ペプチドが担体の疎水的なドメインに固定されたためと考えられ、蛍光標識ペプチドが担体に組込まれていることを示唆している。
【0220】
次に、蛍光標識ペプチドの細胞質基質へのデリバリーを試みた。具体的には、1900μLの10%FBS含有MEMメディウムにて培養しているRAW細胞に、上記(A)〜(D)の蛍光標識ペプチド含有サンプルを100μL(14μg蛍光標識ペプチド/well)投与し、1晩取り込ませた。細胞を洗浄し、ポストインキュベーションを3時間行い、蛍光顕微鏡にて細胞を観察した。
【0221】
図19に、(A)蛍光標識ペプチド単独、(B)蛍光標識ペプチド含有DLPC単独、および(C)蛍光標識ペプチド含有DLPC−デオキシコール酸複合体の蛍光顕微鏡写真を示す。また、
図20に、蛍光標識ペプチド含有DLPC−デオキシコール酸複合体の(A)顕微鏡写真および(B)蛍光顕微鏡写真、ならびに蛍光標識ペプチド含有DLPC−ウルソデオキシコール酸複合体の(C)顕微鏡写真および(D)蛍光顕微鏡写真を示す。
【0222】
蛍光標識ペプチド単独(A)、あるいは蛍光標識ペプチド含有DLPC単独(B)の場合、蛍光の多くは起点状に見え、蛍光標識ペプチドはエンドソーム内に留まっていることを示している(
図19(A)および(B))。
【0223】
一方、蛍光標識ペプチドを組込んだDLPC−デオキシコール酸複合体(C)は、ほぼ全ての細胞において細胞質基質全体に蛍光が確認され、蛍光標識ペプチドはエンドソームから脱出し、細胞質基質に移行していることが示された(
図19(C))。担体が負に帯電していること、およびポスト−インキュベーションを3時間実施していることから、この蛍光は担体が細胞表面全体に吸着することによって得られた像であるとは考え難く、蛍光標識ペプチドがエンドソームを経由して、細胞質基質にデリバリーされたと考えられる。
【0224】
また、ウルソデオキシコール酸を用いて調製した担体においてもデオキシコール酸の場合と同様に、細胞質基質全体に蛍光が観察され、効率の良い細胞質基質デリバリーが確認された(
図20(C)および(D))。
【0225】
以上より、本発明のpH感受性担体によって、生理活性物質の効率の良い細胞質基質デリバリーが可能であることが示された。
【0226】
(14)細胞質基質へのデリバリー2
続いて、タンパク質の細胞質基質へのデリバリーを試みた。モデルタンパク質としてβ−galを選択し、pH感受性担体に組込んだ。細胞質基質へのデリバリーは、RAW細胞にアプライした後の酵素活性を可視化し、その様子を比較することにより評価した。
【0227】
DLPC1000nmolとデオキシコール酸またはウルソデオキシコール酸1600nmolとに対して、1.4mg/mLのβ−gal溶液を用いて担体を調製した。
【0228】
図21に、(A)β−gal単独、(B)β−gal含有DLPC−デオキシコール酸複合体、および(C)β−gal含有DLPC−ウルソデオキシコール酸複合体の顕微鏡写真を示す。
【0229】
β−gal単独を添加した細胞は染色されなかった(
図21(A))。これはβ−galがエンドソームにおいて分解されているためであり、細胞質基質に移行していないことを示している。一方、pH感受性担体に組込んだ場合はβ−galによる青色の染色が確認された(
図21(B)および(C))。β−galがエンドソームから脱出し、酵素活性を維持した状態で細胞質基質に移行したことを示している。Vincent M.Rotello et al.J.Am.Chem.Soc.2010 132(8)2642−2645において、β−galの細胞質基質へのデリバリーを目的とした同様の実験が実施されており、その文献と同様の結果を得られていることから、前記の考察を支持している。
【0230】
(15)細胞質基質へのデリバリー3
上記(13)および(14)においては、生理活性物質をpH感受性担体に担持させて細胞質基質へのデリバリーを確認した。そこで、次に、pH感受性担体および生理活性物質をそれぞれ独立に使用した場合の細胞質基質へのデリバリーを試みた。pH感受性担体および生理活性物質が同一のエンドソーム内に取り込まれる場合、pH感受性担体の膜破壊機能促進効果によりエンドソームの膜破壊が生じ、この際、エンドソーム内に混在する生理活性物質がエンドソームから溶出することで、細胞質基質に生理活性物質をデリバリーすることができると考えられる。
【0231】
まず、蛍光標識ペプチド−FITCをRAW細胞に添加した場合、および蛍光標識OVA−FITCをRAW細胞に添加した場合、ともに細胞内における蛍光は起点状に確認され、蛍光標識ペプチド−FITCおよび蛍光標識OVA−FITCはエンドソーム内に留まっていることが示された(
図22A(A)および(B))。
【0232】
次に、上記(3)および(5)により膜破壊促進機能および膜融合促進機能が観察されなかったEYPC−デオキシコール酸複合体を蛍光標識ペプチド−FITCまたは蛍光標識OVA−FITCとともに併用した。具体的には、蛍光標識ペプチド−FITCを含むRAW細胞の培養溶液にEYPC−デオキシコール酸複合体をさらに添加した。また、蛍光標識OVA−FITCを含むRAW細胞の培養溶液にEYPC−デオキシコール酸複合体をさらに添加した。これらの場合においても上記と同様、細胞内における蛍光は起点状に確認され、蛍光標識ペプチド−FITCおよび蛍光標識OVA−FITCはエンドソーム内に留まっていることが示された(
図22A(C)および(D))。
【0233】
そして、pH感受性担体を、蛍光標識ペプチド−FITCまたは蛍光標識OVA−FITCとともに併用した。具体的には、蛍光標識ペプチド−FITCを含むRAW細胞の培養溶液に膜破壊機能促進効果を有するpH感受性担体の調製溶液をさらに添加した。また、蛍光標識OVA−FITCを含むRAW細胞の培養溶液に膜破壊機能促進効果を有するpH感受性担体の調製溶液をさらに添加した。なお、前記pH感受性担体としては、DLPC−デオキシコール酸複合体、SPAN80−デオキシコール酸複合体、DDPC−デオキシコール酸複合体、ポリオキシエチレンヒマシ油(PEG10ヒマシ油)−デオキシコール酸複合体、Tween20−デオキシコール酸複合体、Tween80−デオキシコール酸複合体、α−トコフェロール−デオキシコール酸複合体、DLPC−ウルソデオキシコール酸複合体、DLPC−グリチルリチン酸複合体、DLPC−ケノデオキシコール酸複合体、DLPC−ヒオデオキシコール酸複合体、およびDLPC−グリコデオキシコール酸複合体を用いた。この際、pH感受性担体は、160nmolのpH感受性化合物と100nmol両親媒性物質とを用いて調製した。これらの場合においては、細胞質基質全体に蛍光が確認された(
図22A(E)〜(J)、
図22B(K)〜(T)、
図22C(U)〜(AB))。したがって、生理活性物質は、膜破壊機能促進効果を有するpH感受性担体と独立に使用された場合(担持されていない場合)であっても、細胞質基質にデリバリーをすることができることが示された。