特許第6243331号(P6243331)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6243331pH感受性担体およびその製造方法、並びに該担体を含むpH感受性医薬、pH感受性医薬組成物およびこれを用いた培養方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243331
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】pH感受性担体およびその製造方法、並びに該担体を含むpH感受性医薬、pH感受性医薬組成物およびこれを用いた培養方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/28 20060101AFI20171127BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20171127BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20171127BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20171127BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20171127BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20171127BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20171127BHJP
   C07K 17/02 20060101ALI20171127BHJP
   C12N 5/0786 20100101ALI20171127BHJP
【FI】
   A61K47/28
   A61K47/24
   A61K47/26
   A61K47/14
   A61K47/44
   A61K9/107
   A61K38/00
   C07K17/02
   C12N5/0786
【請求項の数】11
【全頁数】49
(21)【出願番号】特願2014-518746(P2014-518746)
(86)(22)【出願日】2013年5月24日
(86)【国際出願番号】JP2013065126
(87)【国際公開番号】WO2013180253
(87)【国際公開日】20131205
【審査請求日】2016年2月24日
(31)【優先権主張番号】特願2012-124796(P2012-124796)
(32)【優先日】2012年5月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】坂口 奈央樹
【審査官】 今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特表平11−507031(JP,A)
【文献】 特表2001−515455(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102068410(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102106821(CN,A)
【文献】 特表2000−515130(JP,A)
【文献】 特表2005−523295(JP,A)
【文献】 特開昭52−057313(JP,A)
【文献】 特開平04−360832(JP,A)
【文献】 特開昭63−201133(JP,A)
【文献】 特表2007−515451(JP,A)
【文献】 特表2007−509085(JP,A)
【文献】 特開平06−321772(JP,A)
【文献】 特開平04−046129(JP,A)
【文献】 特表2003−528808(JP,A)
【文献】 特開昭53−009314(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/040799(WO,A1)
【文献】 Sergio Simoes et al,On the formation of pH-sensitive liposomes with long circulation times,Advanced Drug Delivery Reviews,2004年,Vol.56,p.947-965
【文献】 Oleg A. Andreev et al,Mechanism and uses of a membrane peptide that targets tumors and other acidic tissues in vivo,PNAS,2007年 5月 8日,104(19),p.7893-7898
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 31/00−31/80
A61K 33/00−33/44
A61K 47/00−47/69
A61P 1/00−43/00
C07K 17/08
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のpH感受性化合物と、
炭素数10〜12のホスファチジルコリン、炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステル、ジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、およびポリオキシエチレンヒマシ油からなる群より選択される少なくとも1種の両親媒性物質と、
を含む、膜破壊機能促進効果を発現し、
前記pH感受性化合物と前記両親媒性物質とが、ミセル状の粒子を形成する、pH感受性担体。
【請求項2】
粒子径が10〜200nmである、請求項に記載のpH感受性担体。
【請求項3】
前記pH感受性化合物が、前記両親媒性物質100モルに対して10モル以上の割合で含有される、請求項1または2に記載のpH感受性担体。
【請求項4】
前記pH感受性化合物および前記両親媒性物質以外の他の成分の含有量が両親媒性物質100モルに対して150モル以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のpH感受性担体
【請求項5】
溶出性試験におけるpH感受性化合物単独の溶出率をLa、両親媒性物質単独の溶出率をLb、pH感受性担体の溶出率をLcとし、
pH7.4の溶出率を、それぞれ、Lc7.4、La7.4、Lb7.4と表し、pH5.0または4.5の溶出率を、それぞれ、Lc、La、Lbと表した場合に、下記式(1)で表されるΔが5以上であり、下記式(2)で表されるΔ’が5以上である、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のpH感受性担体。
【数1】
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のpH感受性担体が生理活性物質を担持してなる、pH感受性医薬。
【請求項7】
前記生理活性物質がタンパク質またはペプチドである請求項6に記載のpH感受性医薬。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のpH感受性担体および生理活性物質を含む、pH感受性医薬組成物。
【請求項9】
前記生理活性物質がタンパク質またはペプチドである請求項8に記載のpH感受性医薬組成物。
【請求項10】
デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のpH感受性化合物と、
炭素数10〜12のホスファチジルコリン、炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステル、ジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、およびポリオキシエチレンヒマシ油からなる群より選択される少なくとも1種の両親媒性物質と、
を会合させてミセル状の粒子を形成する工程を含む、膜破壊機能促進効果を発現する、pH感受性担体の製造方法。
【請求項11】
細胞を、請求項6または7に記載のpH感受性医薬および/または請求項8または9に記載のpH感受性医薬組成物を含む培地で培養する工程を含む、培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH感受性担体およびその製造方法、並びに該担体を含むpH感受性医薬、pH感受性医薬組成物およびこれを用いた培養方法に関する。より詳しくは、本発明はDDS(Drug Delivery System)として有用な、弱酸性環境に応答して膜破壊機能促進効果を発現するpH感受性担体およびその製造方法、並びに該担体を含むpH感受性医薬、pH感受性医薬組成物およびこれを用いた培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生理活性物質を必要な部位に必要な量を送達するためのDDSキャリア(担体)の研究が盛んに行われている。刺激応答性のキャリアは集積性の向上や送達部位の選択の観点から注目されており、熱や磁気などの外部刺激や、分子認識、pH変化、酵素反応などの生体内の刺激を利用する検討など、数多くの報告がある。なかでも、弱酸性のpHに感受性をもつキャリアは古くから注目されている。
【0003】
例えば、弱酸性環境に応答するpH感受性担体として、PE(Phosphatidylethanolamine)を含むリポソームに、PHC(Palmitoyl Homocyseine)やオレイン酸、CHEMS(Cholesteryl Hemisuccinate)など、種々のpH感受性素子を加えたpH感受性リポソームがよく知られている(S.Simoes et al.Adv.Drug Deli.Rev.2004 56 947−965など)。最近では、機能を高めることを目的にPEAA(Poly(2−ethylacrylic Acid))やSucPG(Succinylated Poly(glycidol))など新規の合成材料や、GALAやpHLIP(pH Low Insertion Peptide)などの合成ペプチド、PLGA(Poly(Lactic−co−glycolic Acid))など生分解性の材料、pH感受性のウイルスの成分を用いたVLP(Virus Like Particle)やVirosomeなどの検討が報告されている。
【0004】
また、pH感受性のキャリアは、腫瘍や炎症など生体内においてpHが低下している部位への効率の良い生理活性物質の送達(Reshetnyak et al.PNAC 2007 vol,104,19,7893−7898)や、細胞に取り込まれた後の小胞の酸性化を利用した細胞質基質への送達などについても期待されている。
【0005】
小胞の酸性化を利用した細胞質基質への送達としては、エンドソームに送達された際にキャリアの膜融合を促進させることで、薬物の細胞質基質への移行が促進されることを見出し、pHに応答して構造を変化させるpH感受性部位と、膜融合する部位と、膜貫通部位と、を有するペプチド誘導体のDDSキャリアが報告されている(特開2006−34211号公報)。
【0006】
このような細胞質基質への生理活性物質の送達は、種々の分野に活用可能であることから、実現の要望が極めて高い技術である。例えば、RNAやDNAの細胞質基質への送達は遺伝子治療を可能にし、抗原を細胞質基質に送達することでCTL(Cytotoxic T Lymphocyte)を誘導するものと期待されている。また、低分子抗癌剤の細胞質基質送達は活性を向上させる効果があると報告されており、細胞内をドラッグターゲットとした新規薬剤への適用も検討されている。生理活性物質の細胞質基質への送達はこれらの分野の主要な課題であり、実現に向けた鍵となる技術である。
【0007】
そして、pH6以下に感受性を有するpHLIPによるacidosis部位への送達の成功事例(Reshetnyak et al.PNAC 2007 vol,104,19,7893−7898)や、エンドソーム内の到達pHが4付近である(S.Simoes et al.Adv.Drug Deli.Rev.2004 56 947−965)ことから、pH感受性の担体は中性からpH4までの間に高い感受性をもつことが求められている。このことは多くの文献において指摘されているとおりである。また、安全な材料からなることも実用を考慮した場合、重要である。
【発明の概要】
【0008】
多くのpH感受性リポソームや一部の生分解性材料などは、比較的低いpHにおいて感受性を有することや、不十分な機能しかもたないことが問題となっている。また、pH感受性物質を直接修飾する方法は、生理活性物質の活性の低下が懸念される。また、新規の合成材料や、ウイルスの成分を用いることは安全性の観点から懸念が存在している。
【0009】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、生理活性物質のキャリアになりうる、弱酸性環境に応答して膜破壊機能促進効果を発現するpH感受性担体およびその製造方法、並びに該担体を含むpH感受性医薬、pH感受性医薬組成物およびこれを用いた培養方法を提供することを目的とする。
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、(1)デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のpH感受性化合物と、炭素数10〜12のホスファチジルコリン、炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα−トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種の両親媒性物質と、を含む、膜破壊機能促進効果を発現する、pH感受性担体である。
【0011】
また、上記目的を達成するための本発明は、(2)前記pH感受性化合物と前記両親媒性物質とが、ミセル状の粒子を形成する、上記(1)に記載のpH感受性担体である。
【0012】
さらに、上記目的を達成するための本発明は、(3)粒子径が10〜200nmである、上記(2)に記載のpH感受性担体である。
【0013】
また、上記目的を達成するための本発明は、(4)前記pH感受性化合物が、前記両親媒性化合物100モルに対して10モル以上の割合で含有される、上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載のpH感受性担体である。
【0014】
さらに、上記目的を達成するための本発明は、(5)溶出性試験におけるpH感受性化合物単独の溶出率をLa、両親媒性物質単独の溶出率をLb、pH感受性担体の溶出率をLcとし、pH7.4の溶出率を、それぞれ、Lc7.4、La7.4、Lb7.4と表し、pH5.0または4.5の溶出率を、それぞれ、Lc、La、Lbと表した場合に、下記式(1)で表されるΔが5以上であり、下記式(2)で表されるΔ’が5以上である、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載のpH感受性担体である。
【0015】
【数1】
【0016】
また、上記目的を達成するための本発明は、(6)上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載のpH感受性担体が生理活性物質を担持してなる、pH感受性医薬である。
【0017】
さらに、上記目的を達成するための本発明は、(7)前記生理活性物質がタンパク質またはペプチドである上記(6)に記載のpH感受性医薬である。
【0018】
また、上記目的を達成するための本発明は、(8)上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載のpH感受性担体および生理活性物質を含む、pH感受性医薬組成物である。
【0019】
さらに、上記目的を達成するための本発明は、(9)前記生理活性物質がタンパク質またはペプチドである上記(8)に記載のpH感受性医薬組成物である。
【0020】
また、上記目的を達成するための本発明は、(10)デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のpH感受性化合物と、炭素数10〜12のホスファチジルコリン、炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα−トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種の両親媒性物質と、を会合させる工程を含む、膜破壊機能促進効果を発現する、pH感受性担体の製造方法である。
【0021】
さらに、上記目的を達成するための本発明は、(11)細胞を、上記(6)または(7)に記載のpH感受性医薬および/または上記(8)または(9)に記載のpH感受性医薬組成物を含む培地で培養する工程を含む、培養方法である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1A図1Aは、本発明のpH感受性担体および該担体に生理活性物質が担持されてなる医薬の模式図である。
図1B図1Bは、pH感受性医薬を用いた場合において、pH感受性担体が膜破壊機能促進作用を発現することにより、pH感受性担体に担持された生理活性物質を細胞質基質にデリバリーする模式図である。
図1C図1Cは、pH感受性医薬組成物を用いた場合において、pH感受性担体が膜破壊機能促進作用を発現することにより、pH感受性担体と混合された生理活性物質を細胞質基質にデリバリーする模式図である。
図2A図2Aは、種々の濃度でデオキシコール酸を含む、EYPC(Egg Yolk Phosphatidylcholine)とデオキシコール酸とを含む分散液の写真である。
図2B図2Bは、種々の濃度でデオキシコール酸を含む、DLPC(Dilauroyl Phosphatidylcholine)とデオキシコール酸とを含む分散液の写真である。
図2C図2Cは、EYPCとデオキシコール酸とを含む分散液の透過度を示すグラフである。
図2D図2Dは、DLPCとデオキシコール酸とを含む分散液の透過度を示すグラフである。
図3図3は、デオキシコール酸量に対する、EYPCとデオキシコール酸とを含む分散液のゼータポテンシャルを示すグラフである。
図4図4は、種々のpHにおけるEYPC単独、DLPC単独、デオキシコール酸単独、EYPC−デオキシコール酸複合体およびDLPC−デオキシコール酸複合体の溶出率を示すグラフである。
図5図5(A)は、二重蛍光標識したリポソームとインキュベーションした場合における、種々のpHでのEYPC単独、DLPC単独、デオキシコール酸単独、EYPC−デオキシコール酸複合体およびDLPC−デオキシコール酸複合体の蛍光強度比を示すグラフであり、図5(B)はデオキシコール酸単独、EYPC−デオキシコール酸複合体およびDLPC−デオキシコール酸複合体の融合率を示すグラフである。
図6図6は、種々のpHに対する、DOPE(Dioleoyl Phosphatidyletanolamine)−Chemsリポソーム、DOPE−オレイン酸リポソーム、およびDLPC−デオキシコール酸複合体の溶出率を示すグラフである。
図7図7(A)および(B)は、デオキシコール酸量に対する、デオキシコール酸単独、EYPC−デオキシコール酸複合体およびDLPC−デオキシコール酸複合体の融合率を示すグラフである。
図8図8(A)は、デオキシコール酸単独、DSPC(Distearoyl Phosphatidylcholine)−デオキシコール酸複合体、DPPC(Dipalmitoyl Phosphatidylcholine)−デオキシコール酸複合体、DMPC(Dimyristoyl Phosphatidylcholine)−デオキシコール酸複合体、DLPC−デオキシコール酸複合体、およびDDPC(Didecanoyl Phosphatidylcholine)−デオキシコール酸複合体の融合率を示す図である。図8(B)は、デオキシコール酸単独、HSPC(Hydrogeneted Soybean Phosphatidylcholine)−デオキシコール酸複合体、DOPC(Dioleoyl Phosphatidylcholine)−デオキシコール酸複合体およびPOPC(1−Palmitoyl 2−Oleoyl Phosphatidylcholine)−デオキシコール酸複合体の融合率を示すグラフである。
図9図9(A)は、デオキシコール酸単独、DLPE(Dilauroyl Phosphatidyletanolamine)単独、DMPE(Dimyristoyl Phosphatidyletanolamine)単独、DSPE(Distearoyl Phosphatidyletanolamine)単独、およびDOPE単独の溶出率を示すグラフである。図9(B)は、デオキシコール酸単独、DLPE−デオキシコール酸複合体、DMPE−デオキシコール酸複合体、DSPE−デオキシコール酸複合体、およびDOPE−デオキシコール酸複合体の溶出率を示すグラフである。
図10図10は、pH5.0におけるデオキシコール酸と高分子材料との複合体の溶出率を示すグラフである。
図11図11は、EYPCとデオキシコール酸とDLPCまたはSPAN85との複合体の(A)pH7.4、(B)pH5.0における溶出率を示すグラフである。
図12図12は、DLPCと種々の候補化合物との複合体の(A)pH7.4、(B)pH5.0における溶出率を示すグラフである。
図13図13は、種々のpHにおけるDLPCと種々の候補化合物との複合体の溶出率を示すグラフである。
図14図14は、(A)種々のpH感受性化合物単独、(B)DLPCと種々のpH感受性化合物との複合体の融合率を示すグラフである。
図15図15は、蛍光標識したDLPC−デオキシコール酸複合体とHeLa細胞とを、(A)pH7.4、(B)pH5.3のメディウム中にてインキュベーションした場合の顕微鏡写真である。また、(C)はフローサイトメーターを用いて評価した細胞の蛍光強度である。
図16図16は、pH7.4およびpH5.0における(A)ペプチド、(B)タンパク質を組み込んだ担体の溶出率を示すグラフである。
図17図17は、pH7.4およびpH5.0におけるペプチドおよびタンパク質を組み込んだ(A)DLPC−デオキシコール酸複合体、(B)DLPC−ウルソデオキシコール酸複合体の融合率を示すグラフである。
図18図18は、(A)蛍光標識ペプチド単独の溶液、(B)蛍光標識ペプチド含有DLPC単独の溶液、(C)蛍光標識ペプチド含有DLPC−デオキシコール酸複合体の溶液、および(D)蛍光標識ペプチド含有DLPC−ウルソデオキシコール酸複合体の溶液の写真である。
図19図19は、(A)蛍光標識ペプチド単独、(B)蛍光標識ペプチド含有DLPC単独、(C)蛍光標識ペプチド含有DLPC−デオキシコール酸複合体を取り込ませた細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図20図20は、蛍光標識ペプチド含有DLPC−デオキシコール酸複合体を取り込ませた細胞の(A)顕微鏡写真および(B)蛍光顕微鏡写真、ならびに蛍光標識ペプチド含有DLPC−ウルソデオキシコール酸複合体を取り込ませた細胞の(C)顕微鏡写真および(D)蛍光顕微鏡写真である。
図21図21は、β−galの細胞質基質へのデリバリーを評価した結果であり、(A)β−gal単独、(B)β−gal含有DLPC−デオキシコール酸複合体、および(C)β−gal含有DLPC−ウルソデオキシコール酸複合体の評価結果である。
図22A図22Aは、pH感受性担体および生理活性物質をそれぞれ独立に使用した場合の細胞質基質へのデリバリーを検討した結果であり、(A)蛍光標識ペプチド−FITC単独、(B)蛍光標識OVA−FITC単独、(C)蛍光標識ペプチド−FITCおよびEYPC−デオキシコール酸複合体の併用、(D)蛍光標識OVA−FITCおよびEYPC−デオキシコール酸複合体の併用、(E)蛍光標識ペプチド−FITCおよびDLPC−デオキシコール酸複合体の併用、(F)蛍光標識OVA−FITCおよびDLPC−デオキシコール酸複合体の併用、(G)蛍光標識ペプチド−FITCおよびSPAN80−デオキシコール酸複合体の併用、(H)蛍光標識OVA−FITCおよびSPAN80−デオキシコール酸複合体の併用、(I)蛍光標識ペプチド−FITCおよびDDPC−デオキシコール酸複合体の併用、(J)蛍光標識OVA−FITCおよびDDPC−デオキシコール酸複合体の併用の細胞培養環境にて得られた、顕微鏡写真と、蛍光顕微鏡写真とを重ね合わせた画像である。
図22B図22Bは、pH感受性担体および生理活性物質をそれぞれ独立に使用した場合の細胞質基質へのデリバリーを検討した結果であり、(K)蛍光標識ペプチド−FITCおよびPEG10ヒマシ油−デオキシコール酸複合体の併用、(L)蛍光標識OVA−FITCおよびPEG10ヒマシ油−デオキシコール酸複合体の併用、(M)蛍光標識ペプチド−FITCおよびTween20−デオキシコール酸複合体の併用、(N)蛍光標識OVA−FITCおよびTween20−デオキシコール酸複合体の併用、(O)蛍光標識ペプチド−FITCおよびTween80−デオキシコール酸複合体の併用、(P)蛍光標識OVA−FITCおよびTween80−デオキシコール酸複合体の併用、(Q)蛍光標識ペプチド−FITCおよびα−トコフェロール−デオキシコール酸複合体の併用、(R)蛍光標識OVA−FITCおよびα−トコフェロール−デオキシコール酸複合体の併用、(S)蛍光標識ペプチド−FITCおよびDLPC−ウルソデオキシコール酸複合体の併用、(T)蛍光標識OVA−FITCおよびDLPC−ウルソデオキシコール酸複合体の併用の細胞培養環境にて得られた、顕微鏡写真と、蛍光顕微鏡写真とを重ね合わせた画像である。
図22C図22Cは、pH感受性担体および生理活性物質をそれぞれ独立に使用した場合の細胞質基質へのデリバリーを検討した結果であり、(U)蛍光標識ペプチド−FITCおよびDLPC−グリチルリチン酸複合体の併用、(V)蛍光標識OVA−FITCおよびDLPC−グリチルリチン酸複合体の併用、(W)蛍光標識ペプチド−FITCおよびDLPC−ケノデオキシコール酸複合体の併用、(X)蛍光標識OVA−FITCおよびDLPC−ケノデオキシコール酸複合体の併用、(Y)蛍光標識ペプチド−FITCおよびDLPC−ヒオデオキシコール酸複合体の併用、(Z)蛍光標識OVA−FITCおよびDLPC−ヒオデオキシコール酸複合体の併用、(AA)蛍光標識ペプチド−FITCおよびDLPC−グリコデオキシコール酸複合体の併用、並びに(AB)蛍光標識OVA−FITCおよびDLPC−グリコデオキシコール酸複合体の併用の細胞培養環境にて得られた、顕微鏡写真と、蛍光顕微鏡写真とを重ね合わせた画像である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のpH感受性化合物と、炭素数10〜12のホスファチジルコリン、炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα−トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種の両親媒性物質と、を含む、膜破壊機能促進効果を発現する、pH感受性担体に関する。以下、pH感受性担体を、単に「担体」、「会合体」、または「複合体」とも称する。なお、本明細書において、両親媒性物質における「炭素数」とは、両親媒性物質の疎水部を構成する脂肪酸成分(アシル基)の炭素数を意味する。
【0024】
本発明によれば、安全性の高い、pHに対する高い感受性を有するpH感受性担体が提供される。
【0025】
なお、本発明において、「膜破壊機能」とは、溶出性試験において溶出を起こす機能を意味する。ここで、本明細書における溶出性試験とは、消光物質と蛍光物質とを含む水溶液を内包したリポソーム(分散液)と、pH感受性担体、あるいはpH感受性化合物単独、両親媒性化合物単独などの評価サンプル分散液とを、所定のpHに調製した水溶液に添加し、当該水溶液を37℃で90分間あるいは30分間インキュベーションした後、当該水溶液の蛍光を測定する試験である。当該方法により、リポソームから溶出した蛍光物質量が測定することができ、pH感受性担体のリポソームの膜破壊機能を確認することができる。なお、溶出性試験については、後述する実施例で詳細に説明する。
【0026】
また、「膜破壊機能促進効果を発現する」とは、(1)溶出性試験において、生理的pHにおける溶出率よりも生理的pH未満の所定のpHにおける溶出率が上昇し、なおかつその上昇幅がpH感受性化合物単独で実験した場合の上昇幅よりも大きいこと、および、(2)当該生理的pH未満の所定のpHでの溶出性試験において、pH感受性化合物と両親媒性物質が複合体(pH感受性担体)を形成したときの溶出率が、pH感受性化合物単独の溶出率と両親媒性物質単独の溶出率の和より大きいこと、の両者を満たすことを意味する。より具体的には、膜破壊機能促進効果を発現するとは、pH7.4とpH5.0またはpH4.5との溶出性試験において、pH感受性担体(pH感受性化合物と両親媒性物質との複合体)の溶出率Lcが、pH感受性化合物単独の溶出率Laと両親媒性物質単独の溶出率Lbと、下記の関係を双方満たすものをいう。すなわち、上記(1)が、下記式(1)で表され、上記(2)が下記式(2)で表される。なお、下記式中、pH7.4の溶出率を、それぞれ、Lc7.4、La7.4、Lb7.4と表し、pH5.0または4.5の溶出率を、それぞれ、Lc、La、Lbと表す。
【0027】
【数2】
【0028】
上記式(1)において、Δは、0を超えていればよいが、5以上であるのが好ましく、10以上であるのがより好ましく、30以上であるのがさらに好ましい。また、上記式(2)において、Δ’は、0を超えていればよいが、5以上であるのが好ましく、10以上であるのがより好ましく、15以上であるのがさらに好ましい。
【0029】
上記式(1)及び上記式(2)においてΔ及びΔ’はそれぞれ5以上であるpH感受性担体であって、該担体は胆汁酸と脂質を含むものが好ましい。また、上記式(1)及び上記式(2)においてΔ及びΔ’はそれぞれ5以上であるpH感受性担体であって、グリチルリチン酸又はグリチルレチン酸と脂質とを含むpH感受性担体であるのが好ましい。
【0030】
本明細書中、「生理的pH」とは、正常組織や正常体液におけるpHを意味する。生理的pHは、通常、7.4であるが、正常組織や正常体液によって若干(±0.1)異なる。また、「生理的pH未満の所定のpH」とは、pH7.4未満であればよく、好ましくはpH3.0以上、pH7.4未満、より好ましくはpH4.0以上、pH7.3未満、さらに好ましくはpH4.5以上、pH7.0未満である。
【0031】
本発明のpH感受性担体が膜破壊機能促進効果を発現するメカニズムは明らかではないが、下記のように推測される。なお、本発明は、下記推測によって限定されるものではない。
【0032】
本発明のpH感受性担体は、水性溶液中で、生理的pH以上において、pH感受性化合物と両親媒性物質とが会合して形成されているものと考えられる。
【0033】
図1Aに、本発明のpH感受性担体および該pH感受性担体が、生理活性物質を担持してなるpH感受性医薬の模式図を示す。図1Aに示されるように、本発明のpH感受性担体は、pH感受性化合物が、両親媒性物質の構成する疎水性部分に会合して形成されているものと考えられる。また、本発明のpH感受性担体は、担体の内部に生理活性物質を内包することができる。なお、pH感受性担体の当該会合形式は推測であり、本発明のpH感受性担体は、当該会合形式には限定されない。また、pH感受性担体の当該担持形式も推測であり、本発明のpH感受性担体は、当該担持形式には限定されない。
【0034】
pH感受性担体は、周辺環境が生理的pH未満となった場合には、pH感受性化合物と両親媒性物質との会合形態が変化し、その結果、膜破壊機能促進効果を有するものと考える。例えば、pH感受性担体と、生体膜(例えば、細胞膜、小胞膜など)とが存在している系で、pHが生理的pH未満となった場合、pH感受性担体の会合形態が変化し、生体膜と接触した後、当該変化に誘起されて、生体膜の膜構造変化も生じるものと推測される。すなわち、pH感受性担体が生体膜の膜構造変化を誘起する。これは、pHが弱酸性に変化することで、pH感受性担体中のpH感受性化合物が該担体の構造中で不安定化し、その結果、pH感受性担体が、系内に存在する生体膜と再配列し、膜破壊機能促進効果が発現すると考えられる。また、換言すれば、pH感受性化合物は、pHが弱酸性に変化すると、プロトン化により疎水的な会合への溶解性を変化させる分子であると考えられる。つまり、pH感受性化合物を含む疎水的な会合は、弱酸性環境に応答し、機能を発現することが可能であるといえる。なお、「膜破壊」とは、このような膜構造の変化を称するものであり、膜構成成分が全て分離または分解しなくてもよい。このような「膜破壊」が生じることにより、生体膜(例えば、エンドソーム)の膜内部に含有されうる成分が生体膜の外部(例えば、細胞質基質)に溶出等する。
【0035】
本発明のpH感受性担体は、溶出性試験における溶出率がpH7.4で20%未満であり、かつpH4.0で20%より大きいものであるのが好ましい。また、溶出性試験における溶出率がpH6.5で20%未満であり、かつpH4.0で20%より大きいものであるのがより好ましい。また、上記においてpH7.4またはpH6.5での溶出率が、15%以下であるのがより好ましく、10%以下であるのがさらに好ましい。また、pH4.0での溶出率が、40%以上であるのがより好ましく、50%以上であるのがさらに好ましい。pH感受性担体の溶出率が、上記のようになることで、弱酸性pHにおける膜破壊機能促進効果の発現がより発揮される。
【0036】
また、本発明のpH感受性担体は、膜破壊機能促進効果とともに、膜融合機能促進効果を発現しうる。
【0037】
本発明において、「膜融合機能」とは、膜融合試験において膜融合を起こす機能を意味する。ここで、本明細書における膜融合試験とは、2種類の蛍光物質を二分子膜に組み込んだリポソーム(分散液)と、pH感受性担体、あるいはpH感受性化合物単独、両親媒性化合物単独などの評価サンプル分散液とを、所定のpHに調製した水溶液に添加し、当該水溶液を37℃で60分間インキュベーションした後、当該水溶液の蛍光を測定する試験である。当該方法により、リポソーム中に組み込まれた2種類の蛍光物質のエネルギー共鳴移動の変化を測定することができ、pH感受性担体の膜融合機能を確認することができる。なお、膜融合試験については、後述する実施例で詳細に説明する。
【0038】
また、「膜融合機能促進効果を発現する」とは、膜融合試験において、生理的pHにおける融合率よりも生理的pH未満の所定のpHにおける融合率が上昇し、なおかつその上昇幅がpH感受性化合物単独で実験した場合の上昇幅よりも大きいこと、を満たすことを意味する。より具体的には、膜融合機能促進効果を発現するとは、pH7.4とpH5.0との膜融合試験において、pH感受性担体(pH感受性化合物と両親媒性物質との複合体)の融合率Rc(%)が、pH感受性化合物単独の融合率Ra(%)と、下記式(3)の関係を満たすものをいう。なお、下記式中、pH7.4の融合率を、それぞれ、Rc7.4、Ra7.4、と表し、pH5.0の融合率を、それぞれ、Rc、Ra、と表す。
【0039】
【数3】
【0040】
上記式(3)においてΔRは、0を超えていればよいが、2以上であるのが好ましく、5以上であるのがより好ましく、10以上であるのがさらに好ましい。
【0041】
上記式(3)においてΔRが2以上であるpH感受性担体であって、該担体は胆汁酸と脂質を含むものが好ましい。
【0042】
本発明のpH感受性担体は、弱酸性pH(生理的pH未満の所定のpH)において、膜融合機能促進効果を発現するが、これらのメカニズムは明らかではないが、上記の膜破壊機能促進効果と同様のメカニズムであると考えられる。なお、本発明は、当該推測によって限定されるものではない。
【0043】
すなわち、本発明のpH感受性担体は、周辺環境が生理的pH未満となった場合、pH感受性化合物と両親媒性物質との会合形態が変化し、系内に存在する生体膜と再配列することで、膜融合するものと推測される。この際、膜融合は互いに親和性のある成分どうしで再配列するため、生体膜と親和性がない、または低い成分(例えば、生理活性物質)は、再配列される膜から排除、放出される。
【0044】
通常、細胞外分子は生体膜の一種であるエンドソーム(endosome)に取り囲まれ、細胞に取り込まれる。その後、プロトンポンプの作用によってエンドソーム内部のpHが低下する。さらに、エンドソームは、加水分解酵素を含むリソソームと融合して、細胞外分子は分解される。このため、ほとんどの細胞外分子は細胞質基質内にデリバリーされない。
【0045】
これに対して、本発明では、図1B図1Cに示されるように、pH感受性担体(pH感受性医薬またはpH感受性医薬組成物)がエンドソームに取り囲まれ、細胞に取り込まれると、同様にして、pHの低下した環境に導かれる。そして、pHの低下(酸性化)に伴い、pH感受性化合物がpH感受性担体を不安定化させ、エンドソームとpH感受性担体との間で膜の再配列が起こる。その結果、pH感受性担体による膜破壊機能(場合によっては膜融合機能とともに発現する膜破壊機能)が生じる。
【0046】
図1B図1Cにおいて例示したように、本発明に係るpH感受性担体を利用することにより生理活性物質等を細胞質基質内にデリバリーすることができる。具体的には、pH感受性医薬を用いた場合において、pH感受性担体内部に内包される生理活性物質(図1B)またはpH感受性医薬組成物を用いた場合において、pH感受性担体とともに使用される生理活性物質(図1C)は、pH感受性担体と共にエンドソームに取り囲まれ、細胞に取り込まれる。エンドソーム内部のpHが低下すると、pH感受性化合物がpH感受性担体を不安定化させ、エンドソームとpH感受性担体との間で膜の再配列が起こる。その結果、pH感受性担体によるエンドソームの膜破壊が生じる。これにより、生理活性物質が細胞質基質に放出される。すなわち、生理活性物質を分解させることなく、細胞質基質内にデリバリーすることができる。
【0047】
また、本発明のpH感受性担体は、好ましくは、水性媒体中で、pH感受性化合物と両親媒性物質とを含む複合体を形成する。これらの複合体の形態は特に制限されず、pH感受性化合物と両親媒性物質とが膜を形成してもよいし、両親媒性物質が形成する構造にpH感受性化合物の一部分もしくは全体が会合などにより埋め込まれていてもよい。また、本発明のpH感受性担体においては、pH感受性化合物と両親媒性物質とがミセル状の粒子を形成するのが好ましいがリポソームなどの粒子状の担体を形成していても良い。また、EPR効果(Enhanced Permeation and Retention Effect)やエンドサイトーシスによる細胞の取り込みを考慮した場合、ミセル状の粒子は、粒子径が10〜200nmであるのが好ましい。より好ましくは10〜100nmである。なお、本明細書中、ミセル状の粒子とは、pH感受性化合物と両親媒性物質とが疎水性相互作用により粒状に会合した粒子を言い、典型的には単分子膜構造の粒子であって、脂質二分子膜構造(例えば、リポソーム)を形成するものは含まない。また、本明細書中、pH感受性担体の粒子径は、動的光散乱法(MALVERN Instruments社製、NanoZS90)により測定することができる。
【0048】
なお、本発明のpH感受体担体を含む水性溶液中、pH感受性化合物または両親媒性物質が、会合体を形成せず、遊離の状態で存在していても、pH感受性担体が存在していればよい。
【0049】
以下、本発明のpH感受性担体を構成する各成分について述べる。
【0050】
<pH感受性担体の構成成分>
(pH感受性化合物)
本発明で用いられるpH感受性化合物としては、デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である。pH感受性化合物の塩としては、特に制限されないが、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、などが挙げられる。これらのpH感受性化合物は、単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0051】
pH感受性化合物としては、デオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、グリコデオキシコール酸、グリチルレチン酸またはそれらの塩が好ましく、デオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、グリチルレチン酸またはそれらの塩がより好ましい。
【0052】
本発明で好ましく用いられるデオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸およびグリコデオキシコール酸は、胆汁酸と総称される。胆汁酸は、代表的なステロイド誘導体として1920年代以前から知られており、細菌学の分野において利用されている。胆汁酸はヒトの生体内においてコレステロールや脂質、脂溶性ビタミンと複合体を形成し、その吸収を補助する働きを有している。また、物理化学的な性質から脂質やタンパク質、疎水的な材料との複合体を形成することができるため、タンパク質の分離精製や可溶化剤、乳化剤として古くから利用されている。最近ではワクチンの製造工程の用途、胆汁酸トランスポーターを介在させることによる薬剤の吸収促進剤としても注目されている。特に、デオキシコール酸ナトリウム(別名デスオキシコール酸ナトリウム)とウルソデオキシコール酸(別名ウルソデスオキシコール酸)はヒトへの注射が可能な医薬品添加物として実績を有しており、優れた安全性が認められている。そのため、本発明のpH感受性化合物として、デオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を用いることがさらに好ましい。
【0053】
pH感受性化合物は、両親媒性物質100モルに対して10モル以上の割合で含有されるのが好ましい。より好ましくは、両親媒性物質100モルに対して10〜640モル、さらに好ましくは20〜320モル、特に好ましくは20〜160モルである。
【0054】
(両親媒性物質)
本発明で用いられる両親媒性物質としては、炭素数10〜12のホスファチジルコリン、炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα−トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種である。これらの両親媒性物質は、単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。なお、本明細書において、両親媒性物質における「炭素数」とは、両親媒性物質の疎水部を構成する脂肪酸成分(アシル基)の炭素数を意味する。
【0055】
炭素数10〜12のホスファチジルコリンとしては、飽和のアシル基を有するジアシルホスファチジルコリンが好ましく、例えば、ジデカノイルホスファチジルコリン(DDPC;1,2−ジデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン)、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC;1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン)が挙げられる。ホスファチジルコリンとしては、天然由来または公知の方法で合成したものでもよく、また市販のものを用いることができる。
【0056】
炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルとしては、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート)、ポリオキシエチレンソルビタンミリスチン酸エステル(ポリオキシエチレンソルビタンモノミリステート)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミチン酸エステル(ポリオキシエチレンソルビタンパルミテート)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアリン酸エステル(ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート)等が挙げられる。ポリオキシエチレンの重合度としては、特に制限されないが、ソルビタンに付加したポリオキシエチレン鎖の合計した重合度が、10〜200が好ましく、15〜100がより好ましく、20〜50がさらに好ましい。ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルは、合成品を用いてもよいし市販品を用いてもよい。ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、Tween20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル)、Tween40(ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミチン酸エステル)、Tween60(ポリオキシエチレンソルビタンモノステアリン酸エステル)、Tween80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル)として販売されているものを好ましく用いることができる。これらのなかでも、炭素数16〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル(Tween40、Tween60、Tween80)が好ましい。
【0057】
炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステルとしては、ソルビタンモノパルミチン酸エステル(ソルビタンモノパルミテート)、ソルビタンモノステアリン酸エステル(ソルビタンモノステアレート)、ソルビタンモノオレイン酸エステル(ソルビタンモノオレート)等のソルビタンモノ脂肪酸エステル、ソルビタントリパルミチン酸エステル(ソルビタントリパルミテート)、ソルビタントリステアリン酸エステル(ソルビタントリステアレート)、ソルビタントリオレイン酸エステル(ソルビタントリオレート)等のソルビタントリ脂肪酸エステル等が挙げられる。ソルビタン脂肪酸エステルは、合成品を用いてもよいし市販品を用いてもよい。ソルビタン脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、SPAN40(ソルビタンパルミチン酸エステル)、SPAN60(ソルビタンステアリン酸エステル)、SPAN80(ソルビタンオレイン酸エステル)、SPAN65(ソルビタントリステアリン酸エステル)、SPAN85(ソルビタントリオレイン酸エステル)として販売されているものを好ましく用いることができる。これらのなかでも、SPAN80,SPAN65、SPAN85が好ましい。
【0058】
本発明で用いられるモノオレイン酸グリセロール(モノオレイン酸グリセリル)、ジラウリン酸グリセロール(ジラウリン酸グリセリル)、ジステアリン酸グリセロール(ジステアリン酸グリセリル)、ジオレイン酸グリセロール(ジオレイン酸グリセリル)としては、グリセリンに1または2分子の脂肪酸がエステル結合したアシルグリセロールであり、脂肪酸が結合する部位は特に制限されない。例えば、モノアシルグリセロールであるモノオレイン酸グリセロールであれば、グリセリンのC1位またはC2位に脂肪酸がエステル結合していてよい。また、ジアシルグリセロールであるジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロールであれば、グリセリンのC1位およびC2位、またはC1位およびC3位に脂肪酸がエステル結合していればよい。例えば、ジラウリン酸グリセロールとしては、C1位およびC3位が置換された、α、α’−ジラウリンが好ましい。ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロールとしては、C1位およびC2位が置換されたジアシルグリセロールが好ましい。これらのグリセロール誘導体としては、合成品を用いてもよいし市販品を用いてもよい。
【0059】
ポリオキシエチレンヒマシ油としては、ヒマシ油にポリオキシエチレンが付加したものである。ポリオキシエチレンの重合度としては、特に制限されないが、3〜200が好ましく、5〜100がより好ましく、10〜50がさらに好ましい。ポリオキシエチレンヒマシ油は、合成品を用いてもよいし市販品を用いてもよい。
【0060】
α−トコフェロールとしては、天然由来または公知の方法で合成したものでもよく、また市販のものを用いることができる。
【0061】
これら両親媒性物質としては、炭素数10〜12のホスファチジルコリンが好ましい。なかでも、炭素数12のジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)が特に好ましい。
【0062】
(pH感受性化合物および両親媒性物質の組み合わせ)
本発明のpH感受性担体は、pH感受性化合物と両親媒性物質との組み合わせにより、所望のpHにおいて、膜破壊機能促進効果を発現させることができる。この際、pH感受性化合物と両親媒性物質との組み合わせにより、pH感受性担体の膜破壊機能促進効果を発現し始めるpHは異なる。これはpH感受性化合物によってpKaが異なること、さらには両親媒性物質との会合形成の様式が、pH感受性化合物と両親媒性物質との組み合わせにより異なることに由来するものと考えられる。したがって、pH感受性化合物と両親媒性物質との組み合わせを適宜変更することによって、機能を発現するpHを選択することが可能であり、生体内のデリバリー、および細胞内のデリバリーを詳細に設定することが可能であるといえる。
【0063】
本発明のpH感受性担体において、pH感受性化合物と両親媒性物質との組み合わせとしては、デオキシコール酸およびDDPC、デオキシコール酸およびDLPC、デオキシコール酸およびTween20、デオキシコール酸およびTween40、デオキシコール酸およびTween60、デオキシコール酸およびTween80、デオキシコール酸およびSPAN40、デオキシコール酸およびSPAN60、デオキシコール酸およびSPAN80、デオキシコール酸およびSPAN65、デオキシコール酸およびSPAN85、デオキシコール酸およびα−トコフェロール、デオキシコール酸およびモノオレイン酸グリセロール、デオキシコール酸およびジステアリン酸グリセロール、デオキシコール酸およびジオレイン酸グリセロール、デオキシコール酸およびジラウリン酸グリセロール(α、α’−ジラウリン)、デオキシコール酸およびポリオキシエチレンヒマシ油、ウルソデオキシコール酸およびDDPC、ウルソデオキシコール酸およびDLPC、ウルソデオキシコール酸およびTween20、ウルソデオキシコール酸およびTween40、ウルソデオキシコール酸およびTween60、ウルソデオキシコール酸およびTween80、ウルソデオキシコール酸およびSPAN40、ウルソデオキシコール酸およびSPAN60、ウルソデオキシコール酸およびSPAN80、ウルソデオキシコール酸およびSPAN65、ウルソデオキシコール酸およびSPAN85、ウルソデオキシコール酸およびα−トコフェロール、ウルソデオキシコール酸およびモノオレイン酸グリセロール、ウルソデオキシコール酸およびジステアリン酸グリセロール、ウルソデオキシコール酸およびジオレイン酸グリセロール、ウルソデオキシコール酸およびジラウリン酸グリセロール(α、α’−ジラウリン)、ウルソデオキシコール酸およびポリオキシエチレンヒマシ油、グリチルリチン酸およびDDPC、グリチルリチン酸およびDLPC、グリチルリチン酸およびTween20、グリチルリチン酸およびTween40、グリチルリチン酸およびTween60、グリチルリチン酸およびTween80、グリチルリチン酸およびSPAN40、グリチルリチン酸およびSPAN60、グリチルリチン酸およびSPAN80、グリチルリチン酸およびSPAN65、グリチルリチン酸およびSPAN85、グリチルリチン酸およびα−トコフェロール、グリチルリチン酸およびモノオレイン酸グリセロール、グリチルリチン酸およびジステアリン酸グリセロール、グリチルリチン酸およびジオレイン酸グリセロール、グリチルリチン酸およびジラウリン酸グリセロール(α、α’−ジラウリン)、グリチルリチン酸およびポリオキシエチレンヒマシ油が好ましい。
【0064】
より好ましくは、デオキシコール酸およびDDPC、デオキシコール酸およびDLPC、デオキシコール酸およびTween40、デオキシコール酸およびTween60、デオキシコール酸およびTween80、デオキシコール酸およびSPAN40、デオキシコール酸およびSPAN65、デオキシコール酸およびSPAN85、デオキシコール酸およびα‐トコフェロール、デオキシコール酸およびモノオレイン、デオキシコール酸およびポリオキシエチレンヒマシ油、ウルソデオキシコール酸およびDDPC、ウルソデオキシコール酸およびDLPC、ウルソデオキシコール酸およびTween40、ウルソデオキシコール酸およびTween60、ウルソデオキシコール酸およびTween80、ウルソデオキシコール酸およびSPAN40、ウルソデオキシコール酸およびSPAN65、ウルソデオキシコール酸およびSPAN85、ウルソデオキシコール酸およびα‐トコフェロール、ウルソデオキシコール酸およびモノオレイン、ウルソデオキシコール酸およびポリオキシエチレンヒマシ油、グリチルリチン酸およびDDPC、グリチルリチン酸およびDLPC、グリチルリチン酸およびTween40、グリチルリチン酸およびTween60、グリチルリチン酸およびTween80、グリチルリチン酸およびSPAN40、グリチルリチン酸およびSPAN65、グリチルリチン酸およびSPAN85、グリチルリチン酸およびα−トコフェロール、グリチルリチン酸およびモノオレイン、グリチルリチン酸およびポリオキシエチレンヒマシ油である。
【0065】
(水性溶媒)
本発明のpH感受性担体は、水性溶液中に含有されていてもよい。なお、pH感受性担体を含む水溶液を、以下、「担体分散液」とも称する。
【0066】
本発明のpH感受性担体を含む水性溶液の溶媒としては、緩衝剤、NaCl、グルコース、ショ糖などの糖類を含む水溶液であるのが好ましい。
【0067】
緩衝剤としては、pH感受性担体を含む水性溶液のpHを生理的pH以上に維持するものであれば公知の緩衝剤が適宜使用でき、特に限定されるものではない。緩衝剤としては、例えば、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、クエン酸−リン酸緩衝剤、トリスヒドロキシメチルアミノメタン−HCl緩衝剤(トリス塩酸緩衝剤)、MES緩衝剤(2−モルホリノエタンスルホン酸緩衝剤)、TES緩衝剤(N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸緩衝剤)、酢酸緩衝剤、MOPS緩衝剤(3−モルホリノプロパンスルホン酸緩衝剤)、MOPS−NaOH緩衝剤、HEPES緩衝剤(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸緩衝剤)、HEPES−NaOH緩衝剤などのGOOD緩衝剤、グリシン−塩酸緩衝剤、グリシン−NaOH緩衝剤、グリシルグリシン−NaOH緩衝剤、グリシルグリシン−KOH緩衝剤などのアミノ酸系緩衝剤、トリス−ホウ酸緩衝剤、ホウ酸−NaOH緩衝剤、ホウ酸緩衝剤などのホウ酸系緩衝剤、またはイミダゾール緩衝剤などが用いられる。これらのうち、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、クエン酸−リン酸緩衝剤、トリス塩酸緩衝剤、MES緩衝剤、酢酸緩衝剤、HEPES−NaOH緩衝剤が好ましい。緩衝剤の濃度としては、特に制限されず、0.1〜200mMであるのが好ましく、1〜100mMであるのがより好ましい。なお、本発明において緩衝剤の濃度とは、水性溶液中に含まれる緩衝剤の濃度(mM)をいう。
【0068】
NaCl、グルコース、ショ糖などの糖類の濃度としては、特に制限されず、0.1〜200mMであるのが好ましく、1〜150mMであるのがより好ましい。
【0069】
水性溶液中のpH感受性担体の濃度としては、特に制限されないが、pH感受性化合物と両親媒性物質との合計モル濃度が、好ましくは0.73μmol/L〜7.4mmol/L、より好ましくは7.3μmol/L〜6.5mmol/L、さらに好ましくは8.0μmol/L〜4.2mmol/Lである。
【0070】
(他の成分)
本発明のpH感受性担体は、pH感受性担体中またはpH感受性担体を含む水性溶液中に、安定化剤等の他の成分を含んでいてもよい。これらの成分の含有量としては、pH感受性担体を破壊しなければ特に制限されないが、両親媒性物質100モルに対して、150モル以下であるのが好ましく、66.4モル以下であるのがより好ましい。
【0071】
安定化剤としては、pH感受性担体を破壊しなければ特に制限されず、例えば、1−オクタノール、1−ドデカノール、1−ヘキサドデカノール、1−エイコサノール等の飽和および不飽和の炭素数4〜20のアルコール;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の飽和および不飽和の炭素数12〜18の脂肪酸;カプリル酸メチル(オクタン酸メチル)、カプリル酸メチル(オクタン酸エチル)、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ミリスチン酸エチル、パルミチン酸エチル、ステアリン酸エチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル等の飽和および不飽和の炭素数8〜18の脂肪酸アルキルエステル(炭素数1〜3のアルキル);D(L)−アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、ロイシン、イソロイシン、リシン、メチオニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、フェニルアラニン等のD(L)−アミノ酸;トリカプロイン、トリカプリリン等のアミノ酸トリグリセライド;ポリオキシエチレンソルビタントリパルミチン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等の炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタントリ脂肪酸エステル(例えば、Tween65、Tween85);ポリオキシエチレンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンミリスチン酸エステル、ポリオキシエチレンパルミチン酸エステル、ポリオキシエチレンステアリン酸エステル等の炭素数12〜18のポリオキシエチレンアルキルエステル(例えば、PEG20ステアリルエーテル、PEG23ラウリルエーテル);ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油(例えば、PEG10硬化ヒマシ油、PEG40硬化ヒマシ油、PEG60硬化ヒマシ油);カプリリン(オクタン酸グリセロール)、モノカプリン酸グリセロール、モノラウリン酸グリセロール、モノミリスチン酸グリセロール、モノパルミチン酸グリセロール、モノステアリン酸グリセロール、モノオレイン酸グリセロール等の飽和および不飽和の炭素数8〜18のモノ脂肪酸グリセロールエステル;ジオクタン酸グリセロール、ジカプリン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジミリスチン酸グリセロールエステル、ジパルミチン酸グリセロール等の炭素数8〜16のジ脂肪酸グリセロール;α−トコフェロール酢酸エステル、ヒマシ油、大豆油、コレステロール、スクアレン、スクアラン、ラクトース、パルミチン酸アスコルビル、安息香酸ベンジル、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、等の公知の安定化剤が用いられうる。なお、「炭素数」とは疎水部を構成する脂肪酸成分(アシル基)の炭素数を意味する。
【0072】
<pH感受性担体の製造方法>
本発明によれば、デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のpH感受性化合物と、炭素数10〜12のホスファチジルコリン、炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα−トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種の両親媒性物質と、を会合させる工程を含む、膜破壊機能促進効果を発現する、pH感受性担体の製造方法も提供される。
【0073】
pH感受性化合物と両親媒性物質とを会合させる方法としては、pH感受性化合物と、両親媒性物質とが、水性溶液中で接触すればよい。よって、本発明のpH感受性担体は、pH感受性化合物と、両親媒性物質とを、水性溶液中で接触させることにより製造することができる。具体的には、pH感受性化合物と両親媒性物質とを含む水性溶液を作製し、当該溶液を、乳化機、ボルテックスミキサー、超音波などを用いて強く攪拌し分散することで、pH感受性化合物と両親媒性物質とが会合したpH感受性担体を得ることができる。
【0074】
pH感受性化合物と両親媒性物質とを含む水性溶液を調製する方法としては、pH感受性化合物と両親媒性物質とが会合体を形成すれば特に制限されない。例えば、(1)pH感受性化合物を含む水性溶液と、両親媒性物質を含む水性溶液とを別々に調製し、それら水性溶液を混合し、当該溶液を、乳化機、ボルテックスミキサー、超音波などを用いて強く攪拌し分散させてpH感受性担体を得る方法;(2)リポソームの製造法として公知であるバンガム法にて調製する方法;が挙げられる。バンガム法としては、具体的には、ガラス容器中で、pH感受性化合物および両親媒性物質等のpH感受性担体の構成成分を有機溶媒(例えば、メタノール、クロロホルム)に溶解し、ロータリーエバポレーターなどによって有機溶媒を除去して、ガラス容器の壁に薄膜を形成させる。次いで、水性溶液を、薄膜を形成したガラス容器に加えて、常温(5〜35℃)で薄膜を膨潤させた後、常温(5〜35℃)でガラス容器を振盪する。この際、乳化機、ボルテックスミキサー、超音波を用いて強く攪拌し、薄膜を十分に水性溶液中に分散させることができる。また、上記の(1)製造方法において、両親媒性物質を含む水性溶液に、pH感受性化合物を混合させてもよい。なお、水性溶液の溶媒としては、上述した水性溶液の溶媒を使用することができる。
【0075】
なお、バンガム法の方法の詳細は、公知のリポソームの製造方法を参考にすることができ、「リポソーム」(野島庄七、砂本順三、井上圭三編、南江堂)および「ライフサイエンスにおけるリポソーム」(寺田弘、吉村哲郎編、シュプリンガー・フェアラーク東京)に記載されている。
【0076】
また、pH感受性担体中またはpH感受性担体を含む水性溶液中に含有してもよい、安定化剤等の他の成分の添加方法としては、特に制限されない。例えば、pH感受性化合物を含む水性溶液、または両親媒性物質を含む水性溶液に添加していてもよいし、薄膜を調製する際に、pH感受性担体の構成成分と一緒に溶解させて、これらの成分を含む薄膜を用いて、pH感受性担体を含む水性溶液を得てもよい。
【0077】
以上のようにして得られたpH感受性担体は、上述のような膜破壊機能促進効果を発現することができ、DDSに好適に使用できる。
【0078】
<pH感受性医薬およびpH感受性医薬組成物>
本発明の一実施形態によれば、pH感受性担体が少なくとも1種の生理活性物質を担持してなる、pH感受性医薬も提供される。
【0079】
なお、本発明において、担持とは、生理活性物質が、担体に内包される形態、担体の膜内に挿入される形態、または担体の表面に直接または媒体を介して結合する形態をいう。ここで、結合とは、共有結合やイオン結合等の化学的結合、ファンデルワールス結合や疎水結合等の物理的結合のどちらであってもよい。生理活性物質は、親水性物質および疎水性物質のいずれであってもよい。生理活性物質が疎水性物質である場合は、pH感受性担体に内包またはpH感受性担体の膜内に挿入される形態で担持されることが好ましく、生理活性物質が親水性物質である場合は、担体の表面に直接または媒体を介して結合する形態で担持されることが好ましい。
【0080】
本発明のpH感受性担体は、生理活性物質を担持することができ、生理的pH未満の環境下において、pH感受性担体の膜破壊機能促進効果が発現することで、担持した生理活性物質を所望の部位に送達することができる。これらのメカニズムは明らかではないが、下記のように推測される(図1Bを参照)。なお、本発明は、下記推測によって限定されるものではない。
【0081】
本発明のpH感受性担体が生理活性物質を担持したpH感受性医薬は、細胞がエンドサイトーシスすることにより、細胞内に取り込まれ、pH感受性医薬を含むエンドソームを形成する。その後、エンドソーム内は酸性環境へ導かれる。この際、本発明のpH感受性医薬は、周囲環境が生理的pH未満(例えば、pH6.5)に達した際に、pH感受性担体の膜破壊機能促進効果を発現する。すなわち、pH感受性担体の構成成分と、エンドソームを構成する膜構成成分とが、再配列を引き起こし、エンドソーム内部に存在する、pH感受性担体が担持している生理活性物質が、細胞質基質内へと移行する。これにより、生理活性物質を所望の細胞質基質へと直接送達することができるため、薬理作用の高い効果が発揮されると考えられる。
【0082】
本発明の別の一実施形態によれば、pH感受性担体および少なくとも1種の生理活性物質を含む、pH感受性医薬組成物が提供される。この際、前記生理活性物質は、上記実施形態に係るpH感受性医薬とは異なり、pH感受性担体の外部に(別に)存在しており、かつ、生理活性物質とpH感受性担体とは直接または媒介を介して結合していない。すなわち、本実施形態に係るpH感受性医薬組成物は、pH感受性担体および生理活性物質がそれぞれ独立に混合されてなる。
【0083】
本発明のpH感受性担体および生理活性物質がそれぞれ独立に混合されたpH感受性医薬組成物もまた、生理的pH未満の環境下において、pH感受性担体の膜破壊機能促進効果が発現することで、生理活性物質を所望の部位に送達することができる。これらのメカニズムは明らかではないが、上述のpH感受性担体が生理活性物質を担持したpH感受性医薬と同様のメカニズムによると推測される(図1Cを参照)。なお、本発明は、下記推測によって限定されるものではない。
【0084】
すなわち、本実施形態に係るpH感受性医薬組成物は、細胞がpH感受性担体をエンドサイトーシスすることにより、細胞内に取り込まれる。この際、pH感受性担体とともに、生理活性物質についてもエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれる。その結果、同一のエンドソーム内にpH感受性担体および生理活性物質をそれぞれ独立に含むエンドソームが形成される。その後、エンドソーム内は酸性環境へ導かれ、周囲環境が生理的pH未満(例えば、pH6.5)に達した際に、pH感受性担体の膜破壊機能促進効果を発現する。そうすると、エンドソーム内部に存在する生理活性物質が細胞質基質内へと移行する。これにより、生理活性物質を所望の細胞質基質へと直接送達することができる。
【0085】
また、本発明のpH感受性医薬およびpH感受性医薬組成物は、腫瘍や炎症など生体内においてpHが低下している部位への効率の良い生理活性物質の送達も可能である。すなわち、本発明のpH感受性医薬およびpH感受性医薬組成物は、pHの低下した部位で、膜破壊機能促進効果を発現するため、炎症等の治療部位に、生理活性物質を選択的に送達することができる。
【0086】
pH感受性医薬およびpH感受性医薬組成物に用いられる生理活性物質の種類は特に限定されない。たとえば、生理活性物質としては、核酸、低分子化合物、タンパク質、ペプチドが挙げられる。
【0087】
前記核酸としては、siRNA、ODN(オリゴデオキシヌクレオチド)、DNA等の治療効果を有する核酸が挙げられる。
【0088】
前記低分子化合物としては、マイトマイシン、ドセタキセル、メトトレキサート等の細胞毒性剤;5−アミノレブリン酸、プロトポルフィリンIX等のプロドラッグ;ガンシクロビル、デキサメタゾン、リバビリン、ビダラビン等の抗炎剤;DOTA(1,4,7,10−tetraazacyclotetradecane−N,N’,N’’,N’’’−tetraacetic acid)、DTPA(1,4,7,10−tetraazacyclodecane−N,N’,N’’,N’’’−tetraacetic acid)等の造影剤;エダラボン等の神経保護剤が挙げられる。
【0089】
前記タンパク質としては、SOD(Superoxide dismutase)、インドフェノールオキシダーゼ等の酸化還元酵素;IL−10等のサイトカイン、b−FGF等の増殖因子、t−PA等の血栓溶解薬、エリスロポエチン等のホルモン、PSD(Postsynaptic density protein)やFNK(Anti cell death Factor)等の細胞死抑制タンパク質;Fab(Fragment)、IgG、IgE等の抗体が挙げられる。
【0090】
前記ペプチドとしては、シクロスポリンA、JIP−1(JNK−interracting protein 1)等のペプチド医薬が挙げられる。
【0091】
このような知見は出願時の技術常識を適宜参照することができる。
【0092】
また、生理活性物質の量は特に限定されず、生理活性物質の種類などにより適宜選択することができる。
【0093】
pH感受性担体に生理活性物質を担持させる方法としては、生理活性物質の種類に応じて公知の方法を用いることができる。該方法としては限定されないが、例えば、担体に内包される形態および担体内に挿入される形態を得る方法としては、上記のpH感受性担体の製造方法に従ってpH感受性担体を形成させた後に、生理活性物質を含む溶液に該pH感受性担体を浸漬させて生理活性物質をpH感受性担体の内部に取り込ませる方法、上記のpH感受性担体の製造方法において薄膜が形成された容器内に、生理活性物質を含む溶液を投入した後に会合体を形成させて生理活性物質を内部に封入する方法などが挙げられる。また、担体の表面に直接または媒体を介して結合する形態を得る方法としては、担体の構成成分であるpH感受性化合物または両親媒性物質に、所望の生理活性物質と反応しうる官能基を導入し、その後、生理活性物質と反応させることで、生理活性物質が結合したpH感受性担体を得る方法等が挙げられる。なお、これらの生理活性物質との結合は、pH感受性担体を調製する前であっても、調製した後であってもよい。
【0094】
また、pH感受性担体および生理活性物質を混合する方法としては、生理活性物質の種類に応じて公知の方法を用いることができる。該方法としては特に制限されないが、例えば、担体および生理活性物質を、水性溶媒、賦形剤等の媒体に混合する方法等が挙げられる。
【0095】
本発明のpH感受性医薬およびpH感受性医薬組成物は、他の医薬添加剤を含んでいてもよい。pH感受性医薬およびpH感受性医薬組成物は、錠剤、粉末、カプセルなどの固形製剤の形態であってもよいが、注射製剤のような液体製剤の形態が好ましい。該液体製剤は、用時に水または他の適切な賦形剤で再生する乾燥製品として提供してもよい。
【0096】
上記の錠剤およびカプセルは、通常の方法により腸溶コーティングを施すことが望ましい。腸溶コーティングとしては、当該分野において通常用いられるものを利用できる。また、カプセルは粉末又は液体のいずれを含有することもできる。
【0097】
上記のpH感受性医薬およびpH感受性医薬組成物が液体製剤である場合、医薬添加剤は、溶媒(例えば生理食塩水、滅菌水、緩衝液など)、膜安定剤(例えばコレステロールなど)、等張化剤(例えば塩化ナトリウム、グルコース、グリセリンなど)、抗酸化剤(例えばトコフェロール、アスコルビン酸、グルタチオンなど)、防腐剤(例えばクロルブタノール、パラベンなど)などを含み得る。上記の溶媒は、pH感受性医薬およびpH感受性医薬組成物を製造する際に用いる溶媒であってもよい。
【0098】
pH感受性医薬およびpH感受性医薬組成物が固形製剤である場合、医薬添加剤は、賦形剤(例えば乳糖、ショ糖のような糖類、トウモロコシデンプンのようなデンプン類、結晶セルロースのようなセルロース類、アラビアゴム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸カルシウムなど)、滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコールなど)、結合剤(例えばマンニトール、ショ糖のような糖類、結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、崩壊剤(例えば馬鈴薯澱粉のようなデンプン類、カルボキシメチルセルロースのようなセルロース類、架橋ポリビニルピロリドンなど)、着色剤、矯味矯臭剤などを含み得る。
【0099】
pH感受性医薬およびpH感受性医薬組成物は、そのまま、または凍結乾燥させて、上記の医薬添加剤と混合することにより製造することができる。pH感受性医薬およびpH感受性医薬組成物を凍結乾燥する場合、凍結乾燥する前に適当な賦形剤を添加しておくのがよい。
【0100】
本発明のpH感受性医薬およびpH感受性医薬組成物を対象者の治療に用いる場合の投与形態は特に制限されず、例えば、経口投与、および静脈内注射、動脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射、髄腔内注射、経皮投与または経皮的吸収等の非経口的投与等が挙げられる。例えば、生理活性物質としてペプチドおよびタンパク質を用いる場合は、非経口経路、特に皮下注射、皮内注射、筋肉内注射、静脈注射による投与が好ましい。なお、pH感受性担体および生理活性物質がそれぞれ独立に混合されてなるpH感受性医薬組成物については、局所投与、具体的には、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与の形態で投与することが好ましい。
【0101】
本発明のpH感受性医薬およびpH感受性医薬組成物は、対象者に投与して、pH感受性医薬およびpH感受性医薬組成物の外部環境が生理的pH未満(例えば、pH6.5)となったときに、膜破壊機能促進効果、または膜破壊機能促進効果および膜融合機能促進効果を発現し、生理活性物質を特異的に効率よく放出させることが可能になる。
【0102】
よって、本発明により、治療または予防を必要とする対象者に、上記のpH感受性医薬およびpH感受性医薬組成物の有効量を経口または非経口的に投与することを含む、疾患の治療または予防方法が提供される。
【0103】
上記の対象者は、哺乳動物が好ましく、特に好ましくはヒトである。
【0104】
上記疾患としては、例えば、前立腺癌、肺癌、大腸癌、腎臓癌、胃癌、脳腫瘍、乳癌等の癌;HIV(Human Immunodeficiency Virus)、C型肝炎、B型肝炎等の感染症疾患;アルツハイマー病、パーキンソン病等の中枢神経疾患が挙げられる。
【0105】
すなわち、本発明の好ましい一実施形態によれば、疾患の治療または予防方法が提供される。このような知見は出願時の技術常識を適宜参照することができる。
【0106】
また、本発明の一実施形態において、pH感受性医薬およびpH感受性医薬組成物は、培養により、細胞に直接生理活性物質を輸送することもできる。すなわち、本発明の一形態によれば、細胞に生理活性物質に輸送するための培養方法が提供される。
【0107】
前記培養方法は、細胞を、pH感受性医薬および/またはpH感受性医薬組成物を含む培地で培養する工程を含む。
【0108】
前記pH感受性医薬およびpH感受性医薬組成物としては、上述したもの、すなわち、pH感受性担体が少なくとも1種の生理活性物質を担持してなるpH感受性医薬、pH感受性担体および少なくとも1種の生理活性物質をそれぞれ独立に含むpH感受性医薬組成物が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0109】
前記培地としては、特に制限されず、公知のものを使用することができる。具体的には、MEM、DMEM、RPMI等が挙げられる。
【0110】
前記培地へのpH感受性医薬、pH感受性医薬組成物の添加量としては、特に制限されないが、pH感受性化合物と両親媒性物質との合計モル濃度が、0.73μmol/L〜7.4mmol/Lであることが好ましく、7.3μmol/L〜6.5mmol/Lであることがより好ましく、8.0μmol/L〜4.2mmol/Lであることがさらに好ましい。
【0111】
また、前記培地のpHは、7.0以上であることが好ましく、7.2〜7.8であることがより好ましい。培地のpHが7.0以上であると、培地中でのpH感受性担体を構成するpH感受性化合物の不安定化を防止できることから好ましい。
【0112】
前記細胞としては、特に制限されないが、対象者から採取された細胞、株化された培養細胞等が挙げられる。
【0113】
この際、前記対象者から採取された細胞または株化された培養細胞の具体例としては、樹状細胞、NK(Natural Killer)細胞、Tリンパ細胞、Bリンパ球細胞、リンパ球細胞等が挙げられる。
【0114】
上記細胞のうち、対象者から採取された細胞を用いることが好ましく、対象者から採取された樹状細胞、NK細胞、T細胞、リンパ細胞等を用いることがより好ましい。
【0115】
対象者から採取された細胞を用いる場合には、対象者を採血、生検等により当該細胞を採取することができる。すなわち、一実施形態において、前記培養方法は、対象者から細胞を採取する工程を含みうる。
【0116】
なお、培養した細胞は、対象者に投与してもよい。これにより、対象者の疾患の治療または予防をすることができる。すなわち、本発明の一実施形態において、疾患の治療または予防方法が提供される。
【0117】
好ましい一実施形態において、前記治療または予防方法は、対象者から細胞を採取する工程と、pH感受性医薬および/またはpH感受性医薬組成物を含む培地で前記採取した細胞を培養する工程と、前記培養した細胞を前記対象者に投与する工程と、を含む。
【0118】
これにより、疾患の治療または予防をすることができる。なお、前記疾患は上述のとおりである。
【実施例】
【0119】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0120】
<原料>
実施例では、下記の化合物を用いた。試薬名と製品名が同一の場合は製品名を省略した。
・EYPC(未水添卵黄ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME NC−50)
・HSPC(ソイビーン−ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME NC−21)
・DDPC(1,2−ジデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME MC−1010)
・DLPC(1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME MC−1212)
・DMPC(1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME MC−4040)
・DPPC(1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME MC−6060)
・DSPC(1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME MC−8080)
・DOPC(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME MC8181)
・POPC(1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME MC6081)
・DLPE(1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン:日油社製、COATSOME ME−2020)
・DMPE(1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン:日油社製、COATSOME ME4040)
・DSPE(1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン:日油社製、COATSOME ME8080)
・DOPE(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン:日油社製、COATSOME ME−8181)
・Chems(コレステリルヘミサクシネート:ナカライテスク社製)
・NBD−PE(1,2−Dioleoyl−sn−glycero−3−phosphoethanolamine−N(7−nitro−2−1,3−benzoxadiazol−4−yl)ammonium:Avanti polar lipids社製)
・Rh−PE(1,2−Dioleoyl−sn−glycero−3−phosphoehanolamine−N−(lissamine rhodamine B sulfonyl)ammonium:Avanti polar lipids社製)
・デオキシコール酸ナトリウム(ナカライテスク社製)
・コール酸ナトリウム(ナカライテスク社製)
・ウルソデオキシコール酸ナトリウム(東京化成工業社製)
・ケノデオキシコール酸(東京化成工業社製)
・ヒオデオキシコール酸(東京化成工業社製)
・コール酸メチル(東京化成工業社製)
・デヒドロコール酸ナトリウム(東京化成工業社製)
・リトコール酸(ナカライテスク社製)
・グリココール酸ナトリウム(東京化成工業社製)
・タウロコール酸ナトリウム(ナカライテスク社製)
・グリコデオキシコール酸ナトリウム(ナカライテスク社製)
・タウロデオキシコール酸ナトリウム(ナカライテスク社製)
・グリコウルソデオキシコール酸ナトリウム(ナカライテスク社製)
・タウロウルソデオキシコール酸ナトリウム(ナカライテスク社製)
・高級胆汁酸(3α,7α,12α−Trihydroxycholestanoic acid:Avanti polar lipids社製)
・5β−コラン酸(シグマ−アルドリッチ社製)
・グリチルリチン酸モノアンモニウム(東京化成工業社製)
・グリチルレチン酸(長良サイエンス社製)
・サッカリンナトリウム(和光純薬工業社製)
・メタノール(ナカライテスク社製)
・クロロホルム(和光純薬工業社製)
・酢酸(和光純薬工業社製)
・酢酸ナトリウム(関東化学社製)
・MES−Na(メルク社製)
・Hepes−Na(ナカライテスク社製)
・塩化ナトリウム(関東化学社製)
・Pyranine(東京化成工業社製)
・DPX(p−xylene−bis−pyridinium bromide:Molecular probes社製)
・PBS(Phosphate Buffered Salts:タカラバイオ社製、PBS Tablets)
・ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル(Tween20、40、60、80、65、85:東京化成工業社製)
・PEG20−stearyl ether(ポリオキシエチレン20−ステアリルエーテル:和光純薬工業社製)
・PEG23−Lauryl ether(ポリオキシエチレン23−ラウリルエーテル:和光純薬工業社製)
・ソルビタン脂肪酸エステル(SPAN20:ナカライテスク社製−ソルビタンモノラウレート、SPAN40、60:東京化成工業社製、SPAN80:ナカライテスク社製−ソルビタンモノオレエート、65:和光純薬工業社製、ソルビタントリステアレート、SPAN85:東京化成工業社製)
・モノカプリン酸グリセロール(東京化成工業社製、モノカプリン)
・モノカプリリン酸グリセロール(東京化成工業社製、モノカプリリン)
・モノラウリン酸グリセロール(東京化成工業社製、モノラウリン)
・モノミリスチン酸グリセロール(東京化成工業社製、モノミリスチン)
・モノパルミチン酸グリセロール(東京化成工業社製、モノパルミチン)
・モノステアリン酸グリセロール(東京化成工業社製、モノステアリン)
・モノオレイン酸グリセロール(東京化成工業社製、モノオレイン)
・ジラウリン酸グリセロール(東京化成工業社製、ααジラウリン)
・ジステアリン酸グリセロール(和光純薬工業社製)
・ジオレイン酸グリセロール(和光純薬工業社製)
・ポリオキシエチレンヒマシ油(和光純薬工業社製、ポリオキシエチレン10ヒマシ油)
・ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(10:和光純薬工業社製、ポリオキシエチレン10硬化ヒマシ油、40:日油社製、ユニオックスHC−40、60:日油社製、ユニオックスHC−60)
・1−ブタノール(ナカライテスク社製)
・1−オクタノール(ナカライテスク社製)
・1−ドデカノール(東京化成工業社製)
・1−ヘキサデカノール(ナカライテスク社製)
・1−エイコサノール(東京化成工業社製)
・ラウリン酸(ナカライテスク社製)
・オレイン酸ナトリウム(ナカライテスク社製)
・オクタン酸エチル(ナカライテスク社製)
・ラウリン酸エチル(東京化成工業社製)
・オレイン酸エチル(ナカライテスク社製)
・ラクトース(ナカライテスク社製)
・L−ロイシン(ナカライテスク社製)
・L−ヒスチジン(ナカライテスク社製)
・ダイズ油(ナカライテスク社製、大豆油)
・スクアラン(ナカライテスク社製)
・スクアレン(ナカライテスク社製)
・α−トコフェロール(ナカライテスク社製、DL−α−トコフェロール)
・酢酸トコフェロール(ナカライテスク社製、酢酸DL−α−トコフェロール)
・安息香酸ベンジル(ナカライテスク社製)
・パラオキシ安息香酸ベンジル(東京化成工業社製)
・パルミチン酸アスコルビル(LKT Laboratories社製)
・アラビアゴム(ナカライテスク社製、アラビアゴム粉末)
・ゼラチン(ナカライテスク社製、ゼラチン精製粉末)
・シクロデキストリン(ナカライテスク社製)
・メチルセルロース(ナカライテスク社製)
・ミネラルオイル(ナカライテスク社製)
・パラフィン(ナカライテスク社製)
・水酸化ナトリウム水溶液(0.1mol/L:ナカライテスク社製)
・塩酸(0.1mol/L、1mol/L:ナカライテスク社製)
・Triton−X100(和光純薬工業社製、トリトンX100)
・モデルペプチド:OVA257−264(SIINFEKL,ピーエイチジャパン委託合成)
・蛍光標識ペプチド:OVA257−264−Rh(ピーエイチジャパン委託合成)
・モデルタンパク質:OVA(シグマ−アルドリッチ社製)
・トリプシン(Life technologies社製)
・EDTA(エチレンジアミン四酢酸:ナカライテスク社製)
・β−gal(和光純薬工業社製、β−D−ガラクトシダーゼ)
・FBS(Fetal bovine serum:国産化学社製)
・MEM(Minimum Essential Medium:ナカライテスク社製、MEM培地アール塩,L‐グルタミン含有 液体)
・DMEM without Phenol Red(ナカライテスク社製、ダルベッコ変法イーグル培地4.5g/l グルコース L−グルタミンピルビン酸フェノールレッド不含 液体)
・DMEM(ナカライテスク社製、ダルベッコ変法イーグル培地)
・クロロキン二リン酸(ナカライテスク社製)
・IsoFlow(Beckman Coulter社製)
<試料の作製>
(pH感受性担体の調製)
メタノール(またはクロロホルム)に溶解した1000nmol両親媒性物質と、メタノール(またはクロロホルム)に溶解したpH感受性化合物または候補化合物と、を10mLナスフラスコで混合し、ロータリーエバポレーター(BuCHI)により薄膜とした。なお、両親媒性物質とpH感受性化合物または候補化合物との比率は、所望の比率(モル比100:10、100:20、100:640等)となるよう調整した。また、複数の両親媒性物質を使用する場合は、両親媒性物質の総量が、所望のモル数(1000nmol)となるように調整した。
【0121】
作製した薄膜にMES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM pH7.4)1mLを添加し、超音波照射装置(USC−J)を用いて常温で1分間超音波を照射して分散させ、目的とするpH感受性担体を含む水性溶液(担体の分散液)を得た。
【0122】
(比較例の担体の調製)
(EYPC単独およびDLPC単独)
クロロホルムに溶解した1000nmolのEYPCまたはDLPCを10mLナスフラスコに入れ、ロータリーエバポレーター(BuCHI)により薄膜とした。
【0123】
作製した薄膜にMES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM pH7.4)1mLを添加し、超音波照射装置(USC−J)を用いて常温で1分間超音波を照射して分散させ、EYPC単独またはDLPC単独の分散液を得た。
【0124】
(高分子材料を含む担体)
pH感受性担体の調製法と同様にして、pH感受性化合物と高分子材料の薄膜を調製し、担体を調製した。アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、ミネラルオイル、またはパラフィンの高分子材料は、1600nmolのpH感受性化合物の1/5倍、1倍、5倍の質量を用いた。
【0125】
(pH感受性リポソーム)
pH感受性担体の調製法と同様にして、DOPEとChemsまたはオレイン酸の薄膜を調製し、リポソームを調製した。なお、pH感受性リポソームであるDOPE−Chems(DOPE:Chems=3:2(モル比))、およびDOPE−オレイン酸(DOPE:オレイン酸=7:3(モル比))は、1000nmolのDOPEと、所望の量のChemsまたはオレイン酸と1mLのMES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM pH7.4)を用いて調製した。
【0126】
(ペプチド含有担体およびタンパク質含有担体の調製)
両親媒性物質1000nmolに対して、モデルペプチドのOVA257−264(SIINFEKL)、またはモデルタンパク質のOVAを、0〜1536μgとなるように量り取り、MES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM pH7.4)1mLに溶解させた。これらの溶液を用いて担体を調製することにより、ペプチドまたはタンパク質を含有した担体の分散液を得た。
【0127】
蛍光標識ペプチドのOVA257−264−Rhを用いる場合は、両親媒性物質1000nmolに対して、140μg/mLの蛍光標識ペプチドを用いて調製し、β−galを用いる場合は両親媒性物質1000nmolに対して1.4mgのβ−galを用いて調製した。
【0128】
<測定方法>
(透過度の測定)
MES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM pH7.4)250μLに担体の分散液250μLを加え、測定溶液とした。UV−2450を用いて、500nmにおける透過度を常温にて測定した。
【0129】
(ゼータポテンシャルおよび粒子径の測定)
ゼータポテンシャルの測定はpH7.4に調整した1.0mLのHepes buffer(Hepes:1.0mM)に、担体の分散液20〜50μLを加え、測定溶液とした。測定はNanoZS90を用いて複数回実施し、得られたゼータポテンシャルの値を平均し、担体粒子のゼータポテンシャルとした。
【0130】
(粒子径および多分散指数の測定)
粒子径および多分散指数(PDI:Polydispersity Index)の測定はMES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM pH7.4)に適当量の担体の分散液を加え、測定溶液とした。測定はNanoZS90を用いて複数回実施し、動的光散乱測定にて得られるZ−average(半径)の値を平均し、その2倍の値をDiameter(直径、粒子径)とした。PDIの値は複数の測定により得られたPDIの値を平均して求めた。
【0131】
(溶出性試験:Leakage(溶出率)の測定)
Leakage(溶出率)は、K.Kono et al.Bioconjugate Chem.2008 19 1040−1048に記載の方法に従い、蛍光物質であるPyranineと消光剤であるDPXとを内包したEYPCリポソームを用いて評価した。
【0132】
クロロホルムに溶解させた3000nmolのEYPCを10mLナスフラスコに測り入れ、ロータリーエバポレーター(BuCHI)を用いて薄膜とした。Pyranine溶液(Pyraine:35mM、DPX:50mM、MES:25mM、pH7.4)500μLを加え、超音波照射装置(USC−J)を用いて分散させた後、エクストルーダーを用いて孔径100nmのポリカーボネート膜を通し、粒子径を揃えた。MES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM pH7.4)とG100カラムを用いて外水層の置換を行い、蛍光物質を内包したEYPCリポソーム分散液を得た。リン脂質C−テストワコーを用いてリン脂質コリン基の濃度を求め、リン脂質が1.0mmol/LとなるようにMES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM pH7.4)を用いて濃度を調整した。
【0133】
濃度を調整したEYPCリポソーム分散液20μLと、担体、あるいはpH感受性化合物単独、両親媒性化合物単独などの評価サンプル分散液20μLを、種々のpHに調整したMES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM)2960μL中に投与し、37℃にて90あるいは30分間インキュベーションした後(実施例において、特別な記載のない限り、90分間の結果である)、分光光度計FP−6500を用いてEx416、Em512nmの蛍光を観察することにより、Leakageをモニターした。DOPE−Chems、およびDOPE−オレイン酸は、酢酸buffer(酢酸:25mM、NaCl:125mM)中にて測定した。また、その他のサンプルにおいても、pH4.0〜pH3.0の測定は酢酸bufferを用いて実施した。
【0134】
なお、EYPCリポソーム分散液のみの場合を0%とし、10倍希釈したTriton−X100を30μL加えた場合の値を100%として、溶出率を算出した。
【0135】
具体的には、溶出率は、下記式に従って計算した。なお、下記式中において、測定した蛍光強度をLとし、蛍光物質を内包したEYPCリポソーム分散液のみの蛍光強度をL、Triton−X100を加えた場合の蛍光強度をL100と表す。
【0136】
【数4】
【0137】
(膜融合試験:Fusion(膜融合)の測定)
Fusion(膜融合)は、K.Kono et al.Biomaterials 2008 29 4029−4036に記載の方法に従い、FRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)を利用して評価した。蛍光標識は、NBD−PE、Rh−PEを用いた。
【0138】
EYPCに対して0.6mol%のNBD−PE、およびRh−PEを含むEYPC(EYPC1000nmol)の薄膜を作製し、1mLのMES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM pH7.4)を加え、超音波照射装置(USC−J)を用いて分散させた後、エクストルーダーを用いて孔径100nmのポリカーボネート膜を通し、二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液を得た。二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液20μLと、担体、あるいはpH感受性化合物単独、両親媒性化合物単独などの評価サンプル分散液20μLを、種々のpHに調製したMES buffer(MES:25mM、NaCl:125mM)2960μL中に投与し、37℃にて60分間インキュベーションした後、分光光度計(FP−6500)を用いて450nmの励起光による500nm〜620nmの蛍光スペクトルを測定し、520nmと580nmとの蛍光強度比を求めた。
【0139】
融合率は、上記で得られた二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液と両親媒性物質とをインキュベーションした場合の蛍光強度比を0%とし、二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液と、pH感受性担体あるいは両親媒性物質の分散液と、をメタノール処理したものを100%として算出した。メタノール処理は二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液とpH感受性担体あるいはpH感受性化合物単独、両親媒性化合物単独などの評価サンプル分散液との両者をメタノールに溶解させた後、ロータリーエバポレーター(BuCHI)を用いて薄膜とし、3.0mLのMES buffer(25mM:MES、125mM:NaCl)と超音波照射装置(USC−J)を用いて分散させて実施した。
【0140】
具体的には、融合率は、下記式に従って計算した。なお、下記式中において、測定して得られた蛍光強度比をRとし、二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液と両親媒性物質とをインキュベーションした場合の蛍光強度比をR、二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液と担体あるいはpH感受性化合物単独、両親媒性化合物単独などの評価サンプル分散液をメタノール処理して得られた蛍光強度比をR100と表す。
【0141】
【数5】
【0142】
(細胞膜に対する膜融合の確認)
pH感受担体が実際の細胞膜に対しても膜融合を誘起することを、HeLa細胞を用いて確認した。
【0143】
pH感受性担体を投与する前日にHeLa細胞を松浪ガラスボトムディッシュに播種し、10%FBS含有DMEMにて培養した。この際、培養は5%CO、37℃に設定したインキュベーター(MCO20AIC)を用いて実施した。インキュベート後、細胞を、10%FBS含有DMEMを用いて洗浄した。次いで、水酸化ナトリウム水溶液または塩酸を用いてpHを7.4に調整した25mMのHepesおよび50μMのクロロキン二リン酸含有DMEM2.0mLを細胞に添加し、1時間プレ−インキュベーションを行った。
【0144】
なお、pH5.3で実験する場合には、水酸化ナトリウム水溶液または塩酸を用いてpHを5.3に調整した25mMのMESおよび50μMのクロロキン二リン酸含有DMEM2.0mLを細胞に添加し、1時間プレ−インキュベーション行った。
【0145】
プレ−インキュベーション後、所定pHのメディウムに、両親媒性物質に対して0.6mol%のRh−PEで蛍光標識したpH感受性担体の分散液を100μL添加し、2時間インキュベーションを行った。細胞をフェノールレッド非添加DMEMで少なくとも3回洗浄した後、蛍光顕微鏡(Axiovert200M− ソフト:Axio vision 3.0− 光源:Fluo Arc)を用いて観察した。なお、細胞の蛍光強度は、洗浄した細胞を0.025wt%のトリプシンおよび0.01wt%のEDTA含有PBSを用いて細胞を剥離し、フローサイトメーター(Cytomics FC500,ソフト:CXP ver2)を用いて評価した。
【0146】
(蛍光標識ペプチドを用いた細胞質基質デリバリーの評価)
モデルペプチドとしてOVA257−264−Rhを選択した。0.22μmのフィルターを通したPBSを用いて140μg/mLの蛍光標識ペプチド溶液を調製し、担体の調製に用いた。細胞はRAW細胞を使用し、培養は5%CO、37℃に設定したインキュベーター(MCO20AIC)を用いて実施した。担体を投与する前日にRAW細胞を松浪ガラスボトムディッシュに播種し、10%FBS含有MEMメディウムにて培養した。細胞をPBSにて洗浄した後、新たな1900μLの10%FBS含有MEMメディウムに置換し、それぞれ100μLのサンプルを投与した。16〜20時間インキュベーションを行い、細胞をPBSにて少なくとも3回洗浄した。その後、新たな10%FBS含有MEMメディウム2mLを添加し、3時間ポスト−インキュベーションを行った。細胞をPBSで洗浄し、DMEM without Phenol Redメディウムに置換した後、蛍光顕微鏡(Axiovert200M− ソフト:Axio vision 3.0− 光源:Fluo Arc)を用いて細胞を観察した。
【0147】
(β−galの細胞質基質デリバリー)
0.22μmのフィルターを通したPBSを用いて、1.4mg/mLのβ−gal溶液を調製した。1000nmolのDLPCと1600nmolのデオキシコール酸またはウルソデオキシコール酸とからなる混合薄膜に、調製したβ−gal溶液を用いて分散させ、β−gal含有担体を調製した。投与前日にRAW細胞を松浪ガラスボトムディッシュに播種して培養し、投与直前に細胞をPBSで洗浄した。培養は5%CO、37℃に設定したインキュベーター(MCO20AIC)、および10%FBS含有MEMメディウムを用いて実施した。新たな1900μLの10%FBS含有MEMメディウムに置換し、それぞれ100μLのサンプルを投与し、16〜20hインキュベーションを行った。細胞をPBSにて少なくとも3回洗浄した後、新たな10%FBS含有MEMメディウム2mLを添加し、3時間ポスト−インキュベーションを行った。細胞をPBSで洗浄し、β−Galactosidase Staining Kit(タカラバイオより購入)を用いて細胞を染色し、顕微鏡(Axiovert200M− ソフト:Axio vision 3.0)を用いて細胞を観察した。染色はkitの推奨に従い実施した。
【0148】
(pH感受性担体および生理活性物質をそれぞれ独立に使用した場合の細胞質基質へのデリバリー評価)
RAW細胞を前日に松浪ガラスボトムディッシュに播種し、10%FBS含有MEMにて培養した。PBSにて洗浄後、MEMを添加し、1時間インキュベーションを行った。蛍光標識ペプチド−FITC、あるいは蛍光標識OVA−FITCを30μg/mLの濃度で含む1900μLのMEMを調製し、培養メディウムと置換した。さらに、100μLのpH感受性担体の調製溶液を添加し、培養メディウム中にて両者の混合した状態にて16〜20時間インキュベーションを行った。蛍光標識ペプチド−FITCおよび蛍光標識OVA−FITCは、pH感受性担体を含む溶液との混合状態において、pH感受性担体に担持されないことを確認している。PBSにて洗浄し、2mLの新たなMEMにて3時間のポスト−インキュベーションを行った後、細胞をPBSで洗浄し、フェノールレッド非添加DMEMに置換し、蛍光顕微鏡を用いて細胞を観察した。培養は5%CO、37℃に設定したインキュベーター(MCO20AIC)を用いて実施し、細胞の観察は蛍光顕微鏡(Axiovert200M− ソフト:Axio vision 3.0− 光源:Fluo Arc)を用いて実施した。
【0149】
(1)デオキシコール酸の複合化について
まず、デオキシコール酸と両親媒性物質との複合化を評価した。
【0150】
上記pH感受性担体の調製にしたがって、1000nmolのEYPCまたはDLPCと種々の量(0〜6400nmol)のデオキシコール酸との混合薄膜を作製し、1mLのpH7.4 MES bufferを加えて超音波を照射し、デオキシコール酸が複合化した分散液をそれぞれ調製した。種々の濃度でデオキシコール酸を含む、EYPCとデオキシコール酸とを含む分散液の写真を図2Aに、種々の濃度でデオキシコール酸を含む、DLPCとデオキシコール酸とを含む分散液の写真を図2Bに示す。なお、図2A図2Bは、左から順に、0nmol、50nmol、100nmol、200nmol、400nmol、800nmol、1600nmol、3200nmol、6400nmolのデオキシコール酸を含む、脂質1000nmolの分散液である。EYPC、DLPCのいずれの脂質も、脂質のみの分散液は白濁しているのに対し、デオキシコール酸を複合化したものは複合化量に依存して澄んだ溶液となった。
【0151】
また、それぞれの分散液の500nmにおける透過度を測定したところ目視と同様の傾向が得られた。図2Cは、EYPCとデオキシコール酸とを含む分散液の透過度を、図2Dは、DLPCとデオキシコール酸とを含む分散液の透過度を測定した結果である。これらは、デオキシコール酸と脂質とが複合体(会合体)を形成していることを示唆している。以下、デオキシコール酸と脂質との複合体を「脂質−デオキシコール酸複合体」とも称する。
【0152】
次に、これら分散液のゼータポテンシャルを調べた。図3は、デオキシコール酸量に対する、EYPCとデオキシコール酸とを含む分散液(図中、EYPC−デオキシコール酸複合体)、およびDLPCとデオキシコール酸とを含む分散液(図中、DLPC−デオキシコール酸複合体)のゼータポテンシャルの測定結果である。なお、図3の結果は、異なる5回の測定の平均値であり、±はSDである。
【0153】
両分散液はデオキシコール酸の複合化に伴い、値を負に低下させた。これは負電荷を有するデオキシコール酸が脂質と複合化していることを意味するものであり、デオキシコール酸と脂質とが混在する複合体を形成していることを示している。いずれの脂質を用いた場合も、デオキシコール酸が1600nmolの複合化量において、ゼータポテンシャルは約−30mVの値を示し、それ以上の複合化量においてゼータポテンシャルの値は大きく低下しなかった。したがって、この複合化量において、デオキシコール酸が、形成する複合体の表面を十分に覆って複合化しているものと考えられる。
【0154】
(2)複合体の構造について
上記pH感受性担体の調製にしたがって、1000nmolのDLPCに対して1600nmolのデオキシコール酸で調製した複合体の蛍光物質保持実験(Pyranine溶液を用いて薄膜を分散させる実験)を行ったところ、該複合体には蛍光物質が保持されていなかった。複合体が蛍光物質を保持できなかったことから、当該複合体は、中空構造ではなく、ミセルの形状であることが示唆された(data not shown)。
【0155】
次に、上記pH感受性担体の調製にしたがって得られた種々の複合体の粒子径を測定した。動的光散乱測定による粒子径測定の結果、EYPC−デオキシコール酸複合体(EYPC:デオキシコール酸=1000nmol:1600nmol)の粒子径(Diameter)は約73nm、DLPC−デオキシコール酸複合体(DLPC:デオキシコール酸=1000nmol:1600nmol)の粒子径(Diameter)は約43nmの大きさの粒子であることがわかった(表1)。また、これらの多分散指数(PDI)は0.26と0.07と小さな値であり、デオキシコール酸と脂質の複合体は小さく、均一な粒子であることが判明した。
【0156】
【表1】
【0157】
(3)pH感受性について
(溶出性試験)
EYPC単独、DLPC単独、EYPC−デオキシコール酸複合体およびDLPC−デオキシコール酸複合体のpH感受性を調べた。なお、実験は、上記の担体の調製方法にしたがって、1000nmolの脂質(EYPCまたはDLPC)と1600nmolのデオキシコール酸とを用いて複合体を調製し、上記の溶出性試験の方法にしたがって、生体膜モデルのリポソーム(EYPCリポソーム)とインキュベーションすることにより調べた(以降、特別な記載のない限り、溶出性試験は90分間のインキュベーションを実施した結果である)。図4は、pH7.4、pH6.5、pH6.0、pH5.5、pH5.0およびpH4.5におけるEYPC単独、DLPC単独、デオキシコール酸単独、EYPC−デオキシコール酸複合体およびDLPC−デオキシコール酸複合体の溶出性試験の結果である。また、図4のプロットは異なる3回の測定の平均であり、±はSDである。
【0158】
EYPC単独、DLPC単独、およびEYPC−デオキシコール酸複合体は、pH7.4からpH4.5のいずれのpHにおいても蛍光物質の溶出を引き起こさず、pH感受性を示さなかったのに対し、DLPC−デオキシコール酸複合体はpH6.5以下においてデオキシコール酸単独よりも大きな溶出を引き起こした。DLPC−デオキシコール酸複合体は、pH感受性の膜破壊機能促進効果を発現することが明らかとなった。
【0159】
当該実験より、デオキシコール酸と適切な両親媒性物質の組み合わせにより、弱酸性環境に応答して機能を発現する複合体が得られると判明した。効果発現のpHは6.5以下であり、実用に適したpH帯であった。また、生理的環境のpHでは全く溶出を引き起こさなかったことから、機能のon−offが良く制御されたpH感受性であった。
【0160】
(膜融合試験)
生理活性物質を細胞質基質に送達するためには弱酸性環境における膜融合の機能を有していることが望ましい。そこで、上記の膜融合試験の方法にしたがって、二重蛍光標識したEYPCリポソームと、1000nmolの脂質(EYPCまたはDLPC)および1600nmolのデオキシコール酸を用いて調製した担体(複合体)とを、種々のpHにおいて、37℃にて60分間インキュベーションし、両者の融合を調べた。図5(A)は、pH7.4、pH6.5、pH6.0、pH5.5、pH5.0およびpH4.5におけるEYPC単独、DLPC単独、デオキシコール酸単独、EYPC−デオキシコール酸複合体およびDLPC−デオキシコール酸複合体の蛍光強度比を示すグラフである。図5(B)は、上記と同様のpHにおける、デオキシコール酸単独、EYPC−デオキシコール酸複合体、DLPC−デオキシコール酸複合体の融合率を示すグラフである。融合率の0%は二重蛍光標識リポソームに、DLPC単独、またはEYPC単独を添加した場合の蛍光強度比であり、100%はそれぞれのサンプルをメタノール処理した値である。デオキシコール酸単独の値は、二重蛍光標識リポソーム単独を0%に、EYPC−デオキシコール酸複合体のメタノール処理をした値を100%に用いて算出した。なお、図5(A)および(B)のプロットは異なる3回の測定の平均であり、±はSDである。
【0161】
図5(A)の結果より、DLPC−デオキシコール酸複合体は、pHの低下に伴い蛍光強度比を増大させ、二重蛍光標識したEYPCリポソームとの融合を引き起こした。また、それらの融合率を評価したところ、DLPC−デオキシコール酸複合体は弱酸性環境において膜融合機能促進効果を発現することが明らかとなった(図5(B))。DLPC−デオキシコール酸複合体は膜破壊機能促進効果と膜融合機能促進効果の両者を発現した。このことから両者の効果は同一の現象に由来しており、膜破壊機能促進効果を発現する担体は膜融合機能促進効果も併せて発現する可能性があると考えられる。
【0162】
なお、pH5.0の蛍光強度比は、メタノール処理のサンプルと比較して8割程の値であった(図5(A))。メタノール処理をしたサンプルは、二重蛍光標識リポソームと担体が完全に融合した状態を意味するものであり、この結果は生体膜モデルのEYPCリポソームと作製した担体が高い効率で融合していること示している。生理活性物質の効率の良いデリバリーが期待される。
【0163】
(4)一般的なpH−sensitiveリポソームとの比較
pHに対する感受性、および溶出の強さを確認するため、pH−sensitiveリポソームとして良く知られているDOPE−Chemsリポソーム(DOPE:Chems=3:2(モル比))、およびDOPE−オレイン酸リポソーム(DOPE:オレイン酸=7:3(モル比))との比較を溶出性試験により実施した。測定は、20nmolのDOPEに相当するDOPE−ChemsリポソームまたはDOPE−オレイン酸リポソームを含む分散液を用いて、実施した。図6は、種々のpHに対する、DOPE−Chemsリポソーム、DOPE−オレイン酸リポソーム、およびDLPC−デオキシコール酸複合体の溶出率を示すグラフである。図6のプロットは異なる3回の測定の平均であり、±はSDである。
【0164】
DOPE−Chemsリポソーム、DOPE−オレイン酸リポソームは、pH6.0以下のpHにおいて溶出し始め、pH3.5において最大値である20〜30%の溶出を示した。一方、pH感受性担体(DLPC−デオキシコール酸複合体)はpH6.5から溶出を誘起し始め、最大で60%強の溶出となった。
【0165】
従来のpH−sensitiveリポソームと比較して、DLPC−デオキシコール酸複合体は高い溶出率であったことから、本発明のpH感受性担体(DLPC−デオキシコール酸複合体)は、膜を不安定化、破壊する強い効果を有していることが示された。また、効果の発現するpHは一般的なpH−sensitiveリポソームのそれよりも中性に近く、弱酸性環境に対して高い感受性であることも示された。
【0166】
(5)デオキシコール酸の複合化量の検討
効果の発現に必要なデオキシコール酸の複合化量を調べるために、種々の量のデオキシコール酸を用いてpH感受性担体を作製し、膜融合試験による膜融合機能促進効果の発現を評価した。測定は3回行い、平均値とSDを算出した。デオキシコール酸単独の値はEYPC−デオキシコール酸複合体のメタノール処理をした値を用いて算出した。
【0167】
図7(A)および(B)は、デオキシコール酸量に対する、デオキシコール酸単独、EYPC−デオキシコール酸複合体およびDLPC−デオキシコール酸複合体の融合率である。
【0168】
図7(A)および(B)より、作製した担体は100nmol以上の複合化量においてデオキシコール酸単独よりも大きな値となり、膜融合機能促進効果を発現することが示された。よって、1000nmolの脂質に対して100〜6400nmolのデオキシコール酸を複合化することにより、膜融合機能促進効果の発現を得られることが明らかとなった。
【0169】
なお、EYPC−デオキシコール酸複合体の融合率は、デオキシコール酸単独とほぼ一致した値であり、EYPC−デオキシコール酸複合体はpH感受性化合物の複合化による膜融合機能促進効果の獲得が、全くできていないことを示している。
【0170】
(6)脂質構造の影響
以上の検討から、デオキシコール酸と適切な脂質(両親媒性物質)との組み合わせにより、弱酸性環境に応答して膜破壊機能促進効果、および膜融合機能促進効果を発現する担体を得られることが明らかとなった。これらの性質を与える脂質の解明を目的に、種々の構造の脂質を用いて担体を作製し、溶出性試験または膜融合試験を実施した。
【0171】
脂質構造として、(A)ジアシルホスファチジルコリンのアシル基の長さの影響(炭素数10〜18)、(B)ジアシルホスファチジルコリンのアシル基の不飽和結合の影響を調べた。それぞれの担体は、脂質1000nmolとデオキシコール酸1600nmolを使用して調製した。測定は3回行い、平均値とSDを算出した。なお、「炭素数」とは疎水部を構成する脂肪酸成分(アシル基)の炭素数を意味する。
【0172】
図8(A)は、デオキシコール酸単独、DSPC−デオキシコール酸複合体、DPPC−デオキシコール酸複合体、DMPC−デオキシコール酸複合体、DLPC−デオキシコール酸複合体、およびDDPC−デオキシコール酸複合体の融合率である。図8(B)は、デオキシコール酸単独、HSPC−デオキシコール酸複合体、DOPC−デオキシコール酸複合体、およびPOPC−デオキシコール酸複合体の融合率である。
【0173】
図8(A)より、DSPC、DPPC、DMPCを用いた担体は、デオキシコール酸単独と同等の値であり、効果を示さなかったのに対し、DLPC、DDPCは効果を示した。使用する脂質の炭素長が影響しており、短い炭素鎖の脂質によって、効果の発現を得られると考えられる。炭素鎖の短い脂質は膜中における分子の反転運動であるflip flopを発生しやすく、その性質が影響していると考えられる。
【0174】
また、不飽和結合の影響に関して、炭素数18に不飽和を1つもつPOPCや不飽和を2つもつDOPCの担体は効果を発現しなかった(図8(B))。不飽和結合は効果の発現に大きな影響を与えないことを示している。
【0175】
次に、効果の発現に及ぼす脂質のヘッド構造の影響を調べた。それぞれ、脂質1000nmolとデオキシコール酸1600nmolを使用して担体を調製した。測定は3回行い、平均値とSDを算出した。
【0176】
図9(A)は、デオキシコール酸単独、DLPE単独、DMPE単独、DSPE単独およびDOPE単独の溶出率を示すグラフであり、図9(B)は、デオキシコール酸単独、DLPE−デオキシコール酸複合体、DMPE−デオキシコール酸複合体、DSPE−デオキシコール酸複合体およびDOPE−デオキシコール酸複合体の溶出率を示すグラフである。
【0177】
PEを有する脂質はいずれも効果発現に至らず、ヘッド構造はコリン基が望ましいことが示された(図9(A)および(B))。
【0178】
以上の結果より、効果の発現を与える両親媒性物質としては、コリン基をヘッド構造にもち、炭素鎖10〜12の不飽和脂質および飽和脂質が望ましいと判明した。
【0179】
(7)その他の両親媒性物質の検討
脂質以外の材料も生理活性物質のデリバリーに利用されている。さらに、デオキシコール酸は脂質以外の疎水性材料とも複合体を形成することが知られており、様々な物質において機能を有する担体を得られる可能性がある。そこで、種々の物質とデオキシコール酸とを複合化させて担体を作製し、溶出性試験にて評価を行った。デオキシコール酸単独でも、界面活性作用により溶出率の増大を招くため、(1)溶出性試験において、生理的pHにおける溶出率よりも生理的pH未満の所定のpHにおける溶出率が上昇し、なおかつその上昇幅がpH感受性化合物単独で実験した場合の上昇幅よりも大きいこと、および、(2)当該生理的pH未満の所定のpHでの溶出性試験において、pH感受性化合物と両親媒性物質が複合体(pH感受性担体)を形成したときの溶出率が、pH感受性化合物単独の溶出率と両親媒性物質単独の溶出率の和より大きいこと、の両者を満たす場合を、効果の発現を与える物質であると規定し、スクリーニングを行った。
【0180】
なお、上記(1)および(2)とは、溶出性試験において、pH感受性担体(pH感受性化合物と両親媒性物質との複合体)の溶出率Lcが、pH感受性化合物単体の溶出率Laと両親媒性物質単体の溶出率Lbと、下記の関係を双方満たすものをいう。すなわち、上記(1)が、下記式(1)で表され、上記(2)が下記式(2)で表される。なお、下記式中、pH7.4の溶出率を、それぞれ、Lc7.4、La7.4、Lb7.4と表し、pH5.0または4.5の溶出率を、それぞれ、Lc、La、Lbと表す。
【0181】
【数6】
【0182】
結果を表2〜7に示す。なお、表2〜7のそれぞれの値は異なる3回の測定の平均値であり、±はSDである。
【0183】
また、デオキシコール酸1600nmol(663μg)に対して種々の質量の高分子材料を用いて粒子を調整し、pH5.0における溶出の発生を評価した。図10に、pH5.0におけるデオキシコール酸と高分子材料との複合体の溶出性の結果を示す。なお、図10の値は、1回の測定の値である。
【0184】
【表2】
【0185】
【表3】
【0186】
【表4】
【0187】
検討の結果、炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルであるTween20、Tween40、Tween60およびTween80;炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステルであるSPAN40、SPAN60、SPAN80、SPAN65およびSPAN85;グリセロール誘導体であるモノオレイン酸グリコール(表中、モノオレイン)、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロールおよびジラウリン酸グリセロール(ααジラウリン);ポリオキシエチレンヒマシ油であるPEG10−ヒマシ油;α−トコフェロール;が、適切な物質であることが示された。なお、両親媒性物質における「炭素数」とは、両親媒性物質の疎水部を構成する脂肪酸成分(アシル基)の炭素数を意味する。
【0188】
(8)両親媒性物質の割合検討
上記(7)の検討により、効果発現をもたらす両親媒性物質と、そうではない物質とが明らかとなった。そこで、効果発現をもたらす物質がどの程度の割合で含まれれば、効果発現に至るのかを調べた。効果発現をもたらさない物質としてEYPCを選択し、EYPCに種々の割合でDLPC、あるいはSPAN85を、合計して1000nmolとなるように混合し、複数の両親媒性物質からなる担体を調製した。
【0189】
EYPCに、DLPCあるいはSPAN85を合計して1000nmolとなるように種々の割合で混合し、さらに1600nmolのデオキシコール酸を複合化させ担体を調製した。それぞれの担体のpH7.4、pH5.0における溶出性試験を行い、効果発現について調べた。
【0190】
図11は、EYPCとデオキシコール酸とDLPCまたはSPAN85との複合体の(A)pH7.4、(B)pH5.0における溶出率である。図11(A)および(B)のそれぞれの値は異なる3回の測定の平均値であり、±はSDである。
【0191】
DLPCあるいはSPAN85:EYPC(mol:mol)の割合が100:150〜100:0の範囲においてpH感受性の溶出を確認した(図11(A)および(B))。デオキシコール酸との複合化による、弱酸性環境に応答して、効果を発現するpH感受性担体を得るためには、適切な両親媒性物質の割合が、前記の範囲で必要であることが明らかとなった。
【0192】
(9)デオキシコール酸以外のpH感受性化合物の探索
以上の結果より、デオキシコール酸が弱酸性環境において疎水的な会合の状態に影響を及ぼしうることがわかった。デオキシコール酸と類似の構造をもつ分子は同様にpH感受性担体を与えることが期待される。そこで、デオキシコール酸の類似分子として、種々の胆汁酸、グリチルリチン酸、およびグリチルレチン酸を選定し、該酸とDLPCとの複合体の溶出性試験および膜融合試験を行い、pH感受性化合物として利用可能かを調べた。
【0193】
1000nmolのDLPCと1600nmolの種々の酸(以下、候補化合物)とを用いて担体を調製した。
【0194】
図12は、DLPCと種々の候補化合物との複合体の(A)pH7.4、(B)pH5.0における溶出率である。図12のそれぞれの値は異なる3回の測定の平均値であり、±はSDである。
【0195】
また、図13には、種々のpHにおけるDLPCと種々の候補化合物との複合体の溶出率のグラフを示す。図13のそれぞれの値は異なる3回の測定の平均値であり、±はSDである。
【0196】
図14は、(A)種々のpH感受性化合物単独、(B)DLPCと種々のpH感受性化合物との複合体のpH7.4およびpH5.0における融合率である。それぞれの値は異なる3回の測定の平均値であり、±はSDである。
【0197】
pH7.4ではいずれの候補化合物を用いて調製した担体も溶出を引き起こさなかったのに対し、pH5.0ではデオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸(トリハイドロコレスタノニック・アシッド)、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸を用いて調製した担体は、候補化合物単独を添加した場合に比べて有意に大きな溶出を引き起こし、膜破壊機能促進効果を示した(図12(A)および(B))。これらの担体はpH感受性の膜融合機能促進効果を有していることも併せて確認した(図14(A)および(B))。図5(A)および(B)における結果に引き続き、本実施例に係るpH感受性担体は、膜破壊機能促進効果とともに膜融合機能促進効果も併せて発現した。
【0198】
また、これら担体のpH−profileを調べたところ、溶出を引き起こし始めるpHは用いる分子によって異なった(図13)。これは分子によってpKaが異なること、および両親媒性物質との会合形成の様式が異なることに由来するものと考えられる。この結果は効果を発現するpHを詳細に選択することが可能であることを示しており、生体内のデリバリー、および細胞内のデリバリーを詳細に設定することが可能であると期待される。本実験により、これらのpH感受性担体はpH7〜3において効果を有することが明らかとなった。
【0199】
(10)pH感受性化合物と両親媒性物質の組み合わせの検討
図12(A)および(B)、図13図14(A)および(B)において、デオキシコール酸と類似の構造をもち効果の発現を与えることが判明した化合物(pH感受性化合物)と、表2〜7および図10のスクリーニングにおいて効果の発現をもたらすと判明した両親媒性物質との種々の組み合わせについて、効果発現の有無を確認検討した。
【0200】
1000nmolの両親媒性物質と、100nmolのpH感受性化合物、あるいは1000nmolの両親媒性物質と、6400nmolのpH感受性化合物とを用いて担体を調製した。表8および9に、種々のpH感受性化合物と両親媒性物質との複合体の溶出試験の結果を示す。
【0201】
【表5】
【0202】
【表6】
【0203】
表8および表9より、いずれの組み合わせにおいても、効果を有すると判断する指標であるΔとΔ’はプラスの値を示しており、表8および表9の組み合わせによって得られた担体はpH感受性の機能を有することが判明した。
【0204】
(11)細胞膜に対する膜融合の確認
pH感受性担体は、上記(3)、(5)、(6)、(9)等の結果から、弱酸性環境に応答して膜破壊機能促進効果、および膜融合機能促進効果を発現することが示された。そこで、実際にpH感受性担体と細胞膜との膜融合を確認した。より詳細には、pH7.4とpH5.3に調整したメディウム中において、蛍光標識したpH感受性担体とHeLa細胞を短時間インキュベートし、細胞表面の膜に対する染色を調べ、pH感受性担体と細胞膜との膜融合を確認した。
【0205】
その結果、pH7.4において蛍光は起点状であるか、核近くの領域に観察された(図15(A))。これは、pH感受性担体が、細胞に取り込まれ、エンドソームやリソソームに存在していることを示している。なお、同様の画像は、蛍光標識した両親媒性物質単独においても観察された(Data not shown)。
【0206】
一方、pH5.3においては、視野内全てにおいて蛍光の形状と細胞の形状が一致した像が観察された(図15(B))。蛍光標識されたpH感受性担体が、細胞の表面において細胞膜と膜融合したために、細胞の形状に蛍光が広がったと考えられる。
【0207】
以上の結果から、pH感受性担体は、メディウム中の弱酸性環境に応答して膜融合機能促進効果を発現し、細胞表面の細胞膜と膜融合したことが明らかとなった。
【0208】
また、フローサイトメーターを用いて細胞の蛍光強度を評価したところ、pH5.3でインキュベートした細胞は大きな蛍光強度を示した(図15(C))。この結果は、蛍光標識したpH感受性担体が多量に膜融合したことによるものであると考えられる。よって、pH感受性担体は、実際の細胞膜とも効率良く膜融合が可能であることが示された。
【0209】
(12)ペプチドおよびタンパク質の組み込みが効果発現に与える影響
生理活性を有するペプチドまたはタンパク質を疎水的な会合に組み込み、DDSに使用することは良く検討されている。これは、本担体の有望な利用方法である。そこで、モデルペプチドとしてOVA257−264(SIINFEKL、ピーエイチジャパンより購入)、モデルタンパク質としてOVA(シグマ−アルドリッチより購入)を用いて、生理活性物質の組み込みが担体の効果発現に及ぼす影響について調べた。
【0210】
まず、生理活性物質の組み込みを評価するために、DLPC−デオキシコール酸複合体(1000nmol:1600nmol)に、ペプチドまたはタンパク質(192μg)を組み込んだ担体の粒子径および多分散指数(PDI)を測定した(表10)。
【0211】
次に、DLPC1000nmolおよびデオキシコール酸1600nmolに対して、種々の量のペプチド(A)またはタンパク質(B)を組込んだ担体の溶出性を調べた。図16に、pH7.4およびpH5.0における(A)ペプチド、(B)タンパク質含有担体の溶出率の結果を示す。図16の値は異なる3回の測定の平均であり±はSDである。
【0212】
さらに、DLPC1000nmolおよびデオキシコール酸(A)またはウルソデオキシコール酸(B)1600nmolに対して、768μgのペプチドまたはタンパク質を組込んだ担体の融合率を調べた。図17に、pH7.4およびpH5.0における(A)デオキシコール酸、(B)ウルソデオキシコール酸含有担体の融合率の結果を示す。図17(A)および(B)の値は異なる3回の測定の平均であり±はSDである。
【0213】
【表7】
【0214】
担体がペプチドまたはタンパク質を組み込むことにより、担体の粒子径はやや大きくなる傾向となった(表10)。これらの物質が担体に組込まれたことを示唆している。一方、引き起こされる溶出は、ペプチドまたはタンパク質のいずれの量においても組込まなかった場合と同一の値となった(図16(A)および(B))。ペプチドまたはタンパク質の担体への組み込みは効果の低下を引き起こさないことが示された。
【0215】
また、融合性試験の結果においても同様の結果が得られた(図17(A)および(B))。これらの結果より、生理活性物質を組込むことは担体の効果発現に大きな影響を及ぼさないことが明らかとなった。
【0216】
(13)細胞質基質へのデリバリー1
弱酸性環境において膜融合および膜破壊を促進する性質を有した担体はエンドソームを経由し、内包あるいは組込んだ物質を細胞質基質までデリバリーすることが多数報告されている。構築したpH感受性担体を用いて生理活性物質の細胞質基質へのデリバリーを試みた。
【0217】
DLPC1000nmolとデオキシコール酸またはウルソデオキシコール酸1600nmolとに対して、140μg/mLの蛍光標識ペプチド溶液を用いて担体を調製した。また、コントロールとして、DLPC1000nmolに対して、140μg/mLの蛍光標識ペプチドを用いて担体を調製した。
【0218】
図18に、(A)蛍光標識ペプチド単独の溶液、(B)蛍光標識ペプチド含有DLPC単独の溶液、(C)蛍光標識ペプチド含有DLPC−デオキシコール酸複合体の溶液、および(D)蛍光標識ペプチド含有DLPC−ウルソデオキシコール酸複合体の溶液の写真を示す。
【0219】
蛍光標識ペプチド単独の溶液(A)に比べて、蛍光標識ペプチド含有DLPC単独の溶液(B)、蛍光標識ペプチド含有DLPC−デオキシコール酸複合体の溶液(C)、および蛍光標識ペプチド含有DLPC−ウルソデオキシコール酸複合体の溶液(D)は弱い蛍光となった。これは蛍光標識ペプチドが担体の疎水的なドメインに固定されたためと考えられ、蛍光標識ペプチドが担体に組込まれていることを示唆している。
【0220】
次に、蛍光標識ペプチドの細胞質基質へのデリバリーを試みた。具体的には、1900μLの10%FBS含有MEMメディウムにて培養しているRAW細胞に、上記(A)〜(D)の蛍光標識ペプチド含有サンプルを100μL(14μg蛍光標識ペプチド/well)投与し、1晩取り込ませた。細胞を洗浄し、ポストインキュベーションを3時間行い、蛍光顕微鏡にて細胞を観察した。
【0221】
図19に、(A)蛍光標識ペプチド単独、(B)蛍光標識ペプチド含有DLPC単独、および(C)蛍光標識ペプチド含有DLPC−デオキシコール酸複合体の蛍光顕微鏡写真を示す。また、図20に、蛍光標識ペプチド含有DLPC−デオキシコール酸複合体の(A)顕微鏡写真および(B)蛍光顕微鏡写真、ならびに蛍光標識ペプチド含有DLPC−ウルソデオキシコール酸複合体の(C)顕微鏡写真および(D)蛍光顕微鏡写真を示す。
【0222】
蛍光標識ペプチド単独(A)、あるいは蛍光標識ペプチド含有DLPC単独(B)の場合、蛍光の多くは起点状に見え、蛍光標識ペプチドはエンドソーム内に留まっていることを示している(図19(A)および(B))。
【0223】
一方、蛍光標識ペプチドを組込んだDLPC−デオキシコール酸複合体(C)は、ほぼ全ての細胞において細胞質基質全体に蛍光が確認され、蛍光標識ペプチドはエンドソームから脱出し、細胞質基質に移行していることが示された(図19(C))。担体が負に帯電していること、およびポスト−インキュベーションを3時間実施していることから、この蛍光は担体が細胞表面全体に吸着することによって得られた像であるとは考え難く、蛍光標識ペプチドがエンドソームを経由して、細胞質基質にデリバリーされたと考えられる。
【0224】
また、ウルソデオキシコール酸を用いて調製した担体においてもデオキシコール酸の場合と同様に、細胞質基質全体に蛍光が観察され、効率の良い細胞質基質デリバリーが確認された(図20(C)および(D))。
【0225】
以上より、本発明のpH感受性担体によって、生理活性物質の効率の良い細胞質基質デリバリーが可能であることが示された。
【0226】
(14)細胞質基質へのデリバリー2
続いて、タンパク質の細胞質基質へのデリバリーを試みた。モデルタンパク質としてβ−galを選択し、pH感受性担体に組込んだ。細胞質基質へのデリバリーは、RAW細胞にアプライした後の酵素活性を可視化し、その様子を比較することにより評価した。
【0227】
DLPC1000nmolとデオキシコール酸またはウルソデオキシコール酸1600nmolとに対して、1.4mg/mLのβ−gal溶液を用いて担体を調製した。
【0228】
図21に、(A)β−gal単独、(B)β−gal含有DLPC−デオキシコール酸複合体、および(C)β−gal含有DLPC−ウルソデオキシコール酸複合体の顕微鏡写真を示す。
【0229】
β−gal単独を添加した細胞は染色されなかった(図21(A))。これはβ−galがエンドソームにおいて分解されているためであり、細胞質基質に移行していないことを示している。一方、pH感受性担体に組込んだ場合はβ−galによる青色の染色が確認された(図21(B)および(C))。β−galがエンドソームから脱出し、酵素活性を維持した状態で細胞質基質に移行したことを示している。Vincent M.Rotello et al.J.Am.Chem.Soc.2010 132(8)2642−2645において、β−galの細胞質基質へのデリバリーを目的とした同様の実験が実施されており、その文献と同様の結果を得られていることから、前記の考察を支持している。
【0230】
(15)細胞質基質へのデリバリー3
上記(13)および(14)においては、生理活性物質をpH感受性担体に担持させて細胞質基質へのデリバリーを確認した。そこで、次に、pH感受性担体および生理活性物質をそれぞれ独立に使用した場合の細胞質基質へのデリバリーを試みた。pH感受性担体および生理活性物質が同一のエンドソーム内に取り込まれる場合、pH感受性担体の膜破壊機能促進効果によりエンドソームの膜破壊が生じ、この際、エンドソーム内に混在する生理活性物質がエンドソームから溶出することで、細胞質基質に生理活性物質をデリバリーすることができると考えられる。
【0231】
まず、蛍光標識ペプチド−FITCをRAW細胞に添加した場合、および蛍光標識OVA−FITCをRAW細胞に添加した場合、ともに細胞内における蛍光は起点状に確認され、蛍光標識ペプチド−FITCおよび蛍光標識OVA−FITCはエンドソーム内に留まっていることが示された(図22A(A)および(B))。
【0232】
次に、上記(3)および(5)により膜破壊促進機能および膜融合促進機能が観察されなかったEYPC−デオキシコール酸複合体を蛍光標識ペプチド−FITCまたは蛍光標識OVA−FITCとともに併用した。具体的には、蛍光標識ペプチド−FITCを含むRAW細胞の培養溶液にEYPC−デオキシコール酸複合体をさらに添加した。また、蛍光標識OVA−FITCを含むRAW細胞の培養溶液にEYPC−デオキシコール酸複合体をさらに添加した。これらの場合においても上記と同様、細胞内における蛍光は起点状に確認され、蛍光標識ペプチド−FITCおよび蛍光標識OVA−FITCはエンドソーム内に留まっていることが示された(図22A(C)および(D))。
【0233】
そして、pH感受性担体を、蛍光標識ペプチド−FITCまたは蛍光標識OVA−FITCとともに併用した。具体的には、蛍光標識ペプチド−FITCを含むRAW細胞の培養溶液に膜破壊機能促進効果を有するpH感受性担体の調製溶液をさらに添加した。また、蛍光標識OVA−FITCを含むRAW細胞の培養溶液に膜破壊機能促進効果を有するpH感受性担体の調製溶液をさらに添加した。なお、前記pH感受性担体としては、DLPC−デオキシコール酸複合体、SPAN80−デオキシコール酸複合体、DDPC−デオキシコール酸複合体、ポリオキシエチレンヒマシ油(PEG10ヒマシ油)−デオキシコール酸複合体、Tween20−デオキシコール酸複合体、Tween80−デオキシコール酸複合体、α−トコフェロール−デオキシコール酸複合体、DLPC−ウルソデオキシコール酸複合体、DLPC−グリチルリチン酸複合体、DLPC−ケノデオキシコール酸複合体、DLPC−ヒオデオキシコール酸複合体、およびDLPC−グリコデオキシコール酸複合体を用いた。この際、pH感受性担体は、160nmolのpH感受性化合物と100nmol両親媒性物質とを用いて調製した。これらの場合においては、細胞質基質全体に蛍光が確認された(図22A(E)〜(J)、図22B(K)〜(T)、図22C(U)〜(AB))。したがって、生理活性物質は、膜破壊機能促進効果を有するpH感受性担体と独立に使用された場合(担持されていない場合)であっても、細胞質基質にデリバリーをすることができることが示された。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22A
図22B
図22C