特許第6243372号(P6243372)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243372
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20171127BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20171127BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20171127BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   B01J23/63 AZAB
   B01J35/10 301F
   B01D53/94 222
   F01N3/28 301P
【請求項の数】4
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2015-65767(P2015-65767)
(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-185497(P2016-185497A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2016年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏昌
(72)【発明者】
【氏名】三浦 真秀
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 良典
(72)【発明者】
【氏名】加藤 悟
(72)【発明者】
【氏名】田辺 稔貴
(72)【発明者】
【氏名】平尾 哲大
(72)【発明者】
【氏名】大橋 達也
(72)【発明者】
【氏名】内藤 裕章
(72)【発明者】
【氏名】小里 浩隆
(72)【発明者】
【氏名】竹内 道彦
(72)【発明者】
【氏名】成田 慶一
【審査官】 磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−240027(JP,A)
【文献】 特開2013−180235(JP,A)
【文献】 特開2009−000663(JP,A)
【文献】 特開2002−079087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 23/63
B01D 53/94
B01J 35/10
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタートアップ触媒(S/C)と、排ガスの流れ方向に対して前記S/Cよりも後方に設置されたアンダーフロア触媒(UF/C)とを組み合わせた二触媒からなる排ガス浄化用触媒であって、
前記S/Cの触媒コートは一層または二層以上の層からなり、
前記S/Cの触媒コートのうち少なくとも一層は、
コート層の平均厚さが25〜160μmの範囲内であり、
水中重量法により測定した空隙率が50〜80容量%の範囲内であり、かつ
空隙全体の0.5〜50容量%が、5以上のアスペクト比を有する高アスペクト比細孔からなり、
前記高アスペクト比細孔は、排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の断面画像における細孔の円相当径が2〜50μmの範囲内であり、かつ平均アスペクト比が10〜50の範囲内である、前記排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記S/Cの触媒コートにおいて、前記高アスペクト比細孔が、高アスペクト比細孔の長径方向ベクトルと前記S/Cの基材の排ガスの流れ方向ベクトルとがなす角(円錐角)の角度基準の累積角度分布における累積80%角度の値で0〜45度の範囲内に配向している、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記S/Cの触媒コートにおいて、含有される触媒粒子の断面積基準の累積粒度分布における累積15%径が3〜10μmの範囲内である、請求項1または2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記S/Cの触媒コートにおいて、被覆量が、前記S/Cの基材の単位体積当たり50〜300g/Lの範囲内である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排ガス浄化用触媒に関する。より詳しくは、スタートアップ触媒とアンダーフロア触媒を組み合わせた二触媒からなる排ガス浄化用触媒において、スタートアップ触媒が高アスペクト比である細孔を一定割合で含む触媒コート層を含むことを特徴とする排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの内燃機関から排出される排ガスには、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)、未燃の炭化水素(HC)などの有害ガスが含まれている。そのような有害ガスを分解する排ガス浄化用触媒は三元触媒とも称され、コージェライトなどからなるハニカム状のモノリス基材に、触媒活性を有する貴金属粒子と酸素貯蔵能(OSC:Oxygen Storage Capacity)を有する助触媒とを含むスラリーをウォッシュコートして触媒コート層を設けたものが一般的である。
【0003】
排ガス浄化用触媒における浄化効率を向上させるべく、様々な試みが行われている。その一例として、触媒コート層内における排ガスの拡散性を向上させるため、触媒コート層の内部に空隙を形成する手法が知られている。触媒コート層の内部に空隙を形成する方法としては、触媒粒子の粒径を大きくする方法、あるいは製造の最終段階で触媒を焼成した際に消失する造孔材を用いて空隙を設ける方法などが知られている。例えば、特許文献1には、粒径が0.1〜3.0μmのマグネシアを添加して触媒層を形成することにより空隙を設ける方法が記載されている。
【0004】
しかし、触媒層の内部に空隙を設けると、その分、触媒層の厚さが増すため、触媒の圧力損失が上昇し、エンジン出力の低下や燃費の悪化を招くおそれがある。また、上述のような方法で空隙を設けた場合、触媒層の強度が低下する、あるいは設けた空隙間の繋がりが乏しく十分な効果が得られないなどの問題もあった。そのような問題に鑑み、例えば特許文献2では、所定形状の炭素化合物材を混合し、それを触媒焼成時に消失させることにより、断面の縦横比(D/L)に関する頻度分布の最頻値が2以上である空隙を触媒層内に設ける方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−104897号
【特許文献2】特開2012−240027号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、スタートアップ触媒(S/C、スタートアップコンバータなどとも称される)とアンダーフロア触媒(UF/C、アンダーフロアコンバータ、床下触媒などとも称される)を組み合わせた二触媒からなる排ガス浄化用触媒が多く採用されている。そのような二触媒システムにおいて、内燃機関の直下に取り付けられるS/Cは高温かつ高濃度のガスという高ストレスに曝されるため、十分な耐熱性を有するためには相応の触媒コート量が必要となる。しかし、コート量を増加させると、触媒におけるガス拡散性が低下するとともに触媒活性点の利用効率が低下し、浄化性能が低下するという問題がある。特に、加速時などの吸入空気量が多い条件(高吸入空気量または高Ga条件:高空間速度または高SV条件と同義)のもとでは、触媒の浄化性能はガス拡散律速となるため、特に問題となる。
【0007】
図18にS/Cの触媒コーティング層のコーティング量(g/L)に対する耐久後のNOxの50%浄化温度(T50−NOx)(℃)の関係を示し、図19に高Ga条件下における、S/Cの触媒コーティング層のコーティング量(g/L)に対するNOx浄化率(%)を示す。
【0008】
図18および図19の測定において使用された、触媒(図20)の仕様:
基材:600H/3−9R−08
Fr部(50%):Pd(1.0g/L)/CZ固溶体(120g/L)+Al(30g/L)+硫酸Ba(10g/L)
Rr部(50%):Rh(0.1g/L)/ZrO(60g/L)+Al(40g/L)
(ここで、CZはZrO−CeO固溶体、AlはLaを1%添加したものである。図18および図19のコーティング量は、ZrO/Al比を固定し調製した。)}
【0009】
図18および図19からわかるように、S/Cの触媒コーティング層のコーティング量を大きくすることによって、耐久後のNOxの50%浄化温度(T50−NOx)は下がるが、高Ga条件下でのNOx浄化率も下がり、S/Cの耐熱性と暖機性はトレードオフの関係にあることがわかる。
【0010】
このような問題に対し、高Ga条件下であっても十分なガス拡散性が達成されるS/Cの触媒コートが求められるが、これまで見出されていない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上述したような問題を検討した結果、所定の形状を有する有機繊維を造孔材として用いることで、ガス連通性に優れた高アスペクト比細孔を有する、ガス拡散性に優れた触媒コートを形成できることを見出した。さらに、その触媒コートを、S/CとUF/Cを組み合わせた二触媒からなる排ガス浄化用触媒のS/Cに用いることで、耐熱性を維持しつつ、高Ga条件下であっても浄化性能を高められることを見出した。本発明の要旨は以下のとおりである。
【0012】
(1)スタートアップ触媒(S/C)と、排ガスの流れ方向に対して前記S/Cよりも後方に設置されたアンダーフロア触媒(UF/C)とを組み合わせた二触媒からなる排ガス浄化用触媒であって、
前記S/Cの触媒コートは一層または二層以上の層からなり、
前記S/Cの触媒コートのうち少なくとも一層は、
コート層の平均厚さが25〜160μmの範囲内であり、
水中重量法により測定した空隙率が50〜80容量%の範囲内であり、かつ
空隙全体の0.5〜50容量%が、5以上のアスペクト比を有する高アスペクト比細孔からなり、
前記高アスペクト比細孔は、排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の断面画像における細孔の円相当径が2〜50μmの範囲内であり、かつ平均アスペクト比が10〜50の範囲内である、前記排ガス浄化用触媒。
(2)前記S/Cの触媒コートにおいて、前記高アスペクト比細孔が、高アスペクト比細孔の長径方向ベクトルと前記S/Cの基材の排ガスの流れ方向ベクトルとがなす角(円錐角)の角度基準の累積角度分布における累積80%角度の値で0〜45度の範囲内に配向している、(1)に記載の排ガス浄化用触媒。
(3)前記S/Cの触媒コートにおいて、含有される触媒粒子の断面積基準の累積粒度分布における累積15%径が3〜10μmの範囲内である、(1)または(2)に記載の排ガス浄化用触媒。
(4)前記S/Cの触媒コートにおいて、被覆量が、前記S/Cの基材の単位体積当たり50〜300g/Lの範囲内である、(1)〜(3)のいずれかに記載の排ガス浄化用触媒。
【発明の効果】
【0013】
本発明のS/CとUF/Cを組み合わせた二触媒からなる排ガス浄化用触媒は、S/Cの触媒コートが所定の条件を満たす高アスペクト比細孔を有することにより、そのS/Cにおけるガス拡散性が格段に向上しているため、耐熱性を獲得するのに十分な触媒コート量を有しながら、高Ga条件の下であっても、十分な浄化性能を発揮することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】FIB−SEMの測定方法の一例を示す概略図で、(A)は本発明の排ガス浄化用触媒の基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の一部を示す概略図、(B)は排ガス浄化用触媒を(A)に示す点線の位置で軸方向に切断した試験片を示す概略図、(C)はFIB−SEM測定方法により得られたSEM像の概略図である。
図2】試験1の実施例5で得られた排ガス浄化用触媒の基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
図3図2のSEM写真を二値化処理した図である。
図4】本発明の排ガス浄化用触媒の基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の連続断面画像を解析して得た細孔の三次元情報を例示する二次元投影図である。
図5図4のA〜Eにおける触媒コート層断面の細孔を示す概略図である。
図6図4の二次元投影図において高アスペクト比細孔の円錐角を示す概略図である。
図7】試験1の実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフで、触媒コート層の被覆量とNOx浄化率との関係を示すグラフである。
図8】試験1の実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフで、触媒コート層の平均厚さとNOx浄化率との関係を示すグラフである。
図9】試験1の実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフで、触媒粒子の粒径とNOx浄化率との関係を示すグラフである。
図10】試験1の実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフで、触媒コート層の空隙率とNOx浄化率との関係を示すグラフである。
図11】試験1の実施例5により得られた触媒の高アスペクト比細孔のアスペクト比と頻度との関係及び比較例4により得られた触媒の細孔におけるアスペクト比と頻度との関係を示すグラフである。
図12】試験1の実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフで、高アスペクト比細孔の平均アスペクト比とNOx浄化率との関係を示すグラフである。
図13】試験1の実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフで、高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合とNOx浄化率との関係を示すグラフである。
図14】試験1の実施例16により得られた触媒の高アスペクト比細孔の円錐角と累積割合との関係を示すグラフである。
図15】試験1の実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフで、高アスペクト比細孔の累積80%角度の値とNOx浄化率との関係を示すグラフである。
図16】試験2で調製したS/CとUF/Cを組み合わせた二触媒からなる排ガス浄化用触媒の、高Ga条件下でのNOx浄化率(%)を示す。
図17】試験2で調製したS/CとUF/Cを組み合わせた二触媒からなる排ガス浄化用触媒の、耐久後のT50−NOx(℃)を示す。
図18】S/Cの触媒コーティング層のコーティング量(g/L)に対する耐久後のT50−NOx(℃)の関係を示す。
図19】高Ga条件下における、S/Cの触媒コーティング層のコーティング量(g/L)に対するNOx浄化率(%)を示す。
図20図18および図19の測定において使用された、触媒コーティング層の構造の一態様を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[排ガス浄化用触媒]
本発明の排ガス浄化用触媒は、スタートアップ触媒(S/C)と、排ガスの流れ方向に対して前記S/Cよりも後方に設置されたアンダーフロア触媒(UF/C)とを組み合わせた二触媒からなる排ガス浄化用触媒であって、前記S/Cの触媒コートは以下に説明する特徴を有する。
【0016】
(S/Cの構成)
S/Cの触媒コートは一層または二層以上の層からなり、S/Cの触媒コートのうち少なくとも一層について、コート層の平均厚さが25〜160μmの範囲内であり、水中重量法により測定した空隙率が50〜80容量%の範囲内であり、かつ空隙全体の0.5〜50容量%が、5以上のアスペクト比を有する高アスペクト比細孔からなり、該高アスペクト比細孔は、排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の断面画像における細孔の円相当径が2〜50μmの範囲内であり、かつ平均アスペクト比が10〜50の範囲内であることを特徴とする。
【0017】
(基材)
本発明の排ガス浄化用触媒において、S/Cにおける基材としては、公知のハニカム形状を有する基材を使用することができ、具体的には、ハニカム形状のモノリス基材(ハニカムフィルタ、高密度ハニカム等)等が好適に採用される。また、このような基材の材質も特に制限されず、コージェライト、炭化ケイ素、シリカ、アルミナ、ムライト等のセラミックスからなる基材や、クロム及びアルミニウムを含むステンレススチール等の金属からなる基材が好適に採用される。これらの中でも、コストの観点から、コージェライトであることが好ましい。
【0018】
(触媒コート層)
本発明の排ガス浄化用触媒において、S/Cの触媒コート層は、前記基材の表面に形成されており、一層または二層以上、すなわち一層、二層、三層、または四層以上の層からなる。また、S/Cの触媒コート層は、必ずしも排ガス浄化用触媒の基材全体に渡って均一でなくてもよく、基材の部分ごと、例えば排ガス流れ方向に対して上流側と下流側で、ゾーンごとに異なる組成を有していてもよい。なお、異なる組成とは、例えば後述する触媒粒子を構成する成分が異なることをいう。
【0019】
本発明の排ガス浄化用触媒において、S/Cの触媒コート層は二層構造を有することが好ましい。S/Cの触媒コート層が二層以上からなる場合、S/Cの各触媒コート層は、隣接する触媒コート層とは同一の組成であっても、異なる組成であってもよい。S/Cの触媒コート層が二層以上からなる場合、二層以上の層からなる触媒コート層は、最上層の触媒コートと、それに対して下層に存在する下層触媒コートに分類することができる。
【0020】
本発明の排ガス浄化用触媒において、S/Cの触媒コート層は後述するように空隙を多く含む構造を有する。S/Cの触媒コート層が二層以上からなる場合、S/Cの触媒コートのうち少なくとも一層は、後述するように空隙を多く含む構造を有する。例えば、S/Cの触媒コート層が三層からなる場合、最上部の一層のみ、中央の一層のみ、もしくは最下部の一層のみが空隙を多く含む構造を有していてもよく、あるいはそれらの二層もしくは三層のいずれもが空隙を多く含む構造を有していてもよい。なお、便宜上、本明細書で以降に言及する「S/Cの触媒コート」とは、特に断りがなければ、後述するような空隙を多く含む構造を有する層を一層または二層以上含む触媒コートを意味するものとする。
【0021】
S/Cの触媒コート層は、主触媒として機能する貴金属および金属酸化物等から構成される触媒粒子を含む。触媒粒子を構成する金属酸化物としては、具体的には、酸化アルミニウム(Al、アルミナ)、酸化セリウム(CeO、セリア)、酸化ジルコニウム(ZrO、ジルコニア)、酸化珪素(SiO、シリカ)、酸化イットリウム(Y、イットリア)および酸化ネオジム(Nd)、ならびにこれらからなる複合酸化物が挙げられる。金属酸化物は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
触媒粒子を構成する貴金属としては、具体的には、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)およびルテニウム(Ru)が挙げられる。これらの中でも、触媒性能の観点から、Pt、Rh、Pd、Ir及びRuからなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、Pt、Rh及びPdからなる群から選択される少なくとも一種が特に好ましい。S/Cの触媒コート層が二層以上からなる場合、貴金属は、触媒コート層一層あたり一種用いることが好ましい。
【0023】
貴金属は、上述したような金属酸化物に担持されていることが好ましい。貴金属の担持量は、特に制限されず、目的とする設計等に応じて適宜必要量を担持させればよい。貴金属の含有量としては、金属換算で、触媒粒子100質量部に対して0.01〜10質量部であることが好ましく、0.01〜5質量部であることがより好ましい。貴金属の担持量は、少なすぎると触媒活性が不十分となる傾向にあり、他方、多すぎても触媒活性が飽和するとともにコストが上昇する傾向にあるが、上記範囲ではそのような問題は生じない。
【0024】
S/Cの触媒コート層が二層以上からなる場合、基材上に形成される二層以上の触媒コート層において、最上層の触媒コート層は、下層の触媒コート層と比べて、高温かつ高濃度のガスという高ストレス、および硫黄(S)や炭化水素(HC)などの被毒物質に多く曝される。そのため、それらに対する耐久性を有する触媒とするためには、最上層の触媒コート層にストレスや被毒によって触媒活性が害されにくい貴金属を用いることが好ましい。そのような貴金属としては、例えばRhが挙げられる。また、ストレスや被毒に比較的弱く、最上層の触媒コート以外で用いることが好ましい貴金属としては、例えばPd、Ptが挙げられる。
【0025】
S/Cの触媒コート層の一層あたりの被覆量は、基材の単位体積当たり50〜300g/Lの範囲内であることが好ましい。被覆量が少なすぎると、触媒粒子の触媒活性性能が十分に得られないためNOx浄化性能等の十分な触媒性能が得られない一方、多すぎても、圧力損失が増大し燃費が悪化する原因となるが、上記範囲ではそのような問題は生じない。なお、圧力損失と触媒性能と耐久性のバランスの観点から、触媒コート層の被覆量は、基材の単位体積当たり50〜250g/L、特に50〜200g/Lの範囲内であることがより好ましい。
【0026】
また、S/Cの触媒コート層の一層あたりの厚さは、平均厚さが25〜160μmの範囲内であることが好ましい。触媒コート層が薄すぎると、十分な触媒性能が得られなくなる一方、厚すぎても、排ガス等が通過する際の圧力損失が大きくなりNOx浄化性能等の十分な触媒性能が得られないが、上記範囲ではそのような問題は生じない。なお、圧力損失と触媒性能と耐久性のバランスの観点から、30〜96μm、特に32〜92μmの範囲内であることがより好ましい。ここで、触媒コート層の「厚さ」とは、触媒コート層の基材の平坦部の中心に対して垂直な方向の長さ、すなわち触媒コート層の表面と基材表面(下層触媒コートが存在する場合は、その下層触媒コートとの間の界面)の間の最短距離を意味する。触媒コート層の平均厚さは、例えば、触媒コート層を、走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡を用いて観察して、任意の10個以上の部分について厚さを測定し、その厚さの平均値を算出することにより算出することができる。
【0027】
触媒コート層に含まれる触媒粒子の断面積基準の累積粒度分布における累積15%径(D15)は、少なくともS/Cの触媒コートにおいて、3〜10μmであることが好ましい。触媒粒子の粒径が小さすぎると、空隙率が小さくなりガス拡散性が悪くなるためNOx浄化性能等の十分な触媒性能が得られない一方、大きすぎると、触媒コート層におけるガス拡散抵抗が大きくなるためNOx浄化性能等の十分な触媒性能が得られなくなるが、上記範囲ではそのような問題は生じない。なお、触媒コート層におけるガス拡散抵抗のバランスやスラリーのコート性確保の観点から、断面積基準の累積粒度分布における累積15%径は3〜9μm、特に3〜7μmの範囲内であるとより好ましい。
【0028】
触媒粒子の累積15%径(D15)は、例えば触媒コート層の断面をSEM観察することにより測定することができる。具体的には、例えば、排ガス浄化用触媒をエポキシ樹脂等で包埋し、基材の径方向に切断した断面のSEM観察(倍率:700〜1500倍、画素分解能:0.2μm/pixel(画素)以上)を行い、触媒粒子の断面積基準の累積粒度分布における累積15%径の値を算出する。なお、触媒粒子の累積15%径とは、触媒粒子サイズ(断面積)の大きいものから触媒粒子の断面積をカウントしたときに、ノイズと区別するために触媒粒子の断面積の和が断面積0.3μm未満の細孔を除いた、触媒コート層の断面積全体の15%(面積基準積算頻度が15%)に相当するときの触媒粒子の粒径(以下「D15」と記載することがある)を意味する。このような観察は、触媒コート層の基材平坦部に対して水平方向に200μm以上、かつ、基材平坦部に対して垂直方向に25μm以上からなる四角形の領域について行い求めることが好ましい。なお、粒径とは、断面が円形でない場合には最小外接円の直径をいう。
【0029】
触媒コート層は、主として触媒粒子から構成されるが、さらに本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、この種の用途の触媒コート層に用いられる他の金属酸化物や添加剤等、具体的にはカリウム(K)、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)、セシウム(Cs)等のアルカリ金属、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)等のアルカリ土類金属、ランタン(La)、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)等の希土類元素、鉄(Fe)等の遷移金属等の一種以上が挙げられる。
【0030】
S/Cの触媒コートは一層または二層以上の層からなり、そのうち少なくとも一層は、空隙を多く有し、その空隙率は、水中重量法により測定した空隙率で50〜80容量%の範囲内であることが好ましい。S/Cの触媒コートの空隙率が低すぎると、ガス拡散性が悪くなるため十分な触媒性能が得られない一方、高すぎると、拡散性が高すぎることにより触媒活性点と接触せずにコート層を素通りするガスの割合が増え十分な触媒性能が得られないが、上記範囲ではそのような問題は生じない。S/Cの触媒コートの空隙を多く有する層の空隙率は、ガス拡散性と触媒性能のバランスの観点から、50.9〜78.8容量%、特に54〜78.0容量%の範囲内であることがより好ましい。
【0031】
S/Cの触媒コートの「空隙」とは、触媒コート層が内部に有する空間を意味する。「空隙」の形状は特に限定されず、例えば、球状、楕円状、円筒形状、直方体状(角柱)、円盤状、貫通路形状及びこれらに類似する形状等のいずれのものであってよい。このような空隙には、断面の円相当径が2μm未満の微小細孔、断面の円相当径が2μm以上でかつ5以上のアスペクト比を有する高アスペクト比細孔、断面の円相当径が2μm以上でかつ5以上のアスペクト比を有さない細孔等の細孔が含まれる。このようなS/Cの触媒コートの空隙率は、例えば、触媒コートを形成したS/Cを水中重量法により測定することにより求めることができる。具体的には、空隙率は、例えばJIS R 2205に規定される方法に準じた方法により測定することができる。
【0032】
本発明の排ガス浄化用触媒は、S/Cの触媒コートの空隙を多く有する層が有する空隙のうち、全体の0.5〜50容量%が、5以上のアスペクト比を有する高アスペクト比細孔からなる。高アスペクト比細孔は、排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の断面画像における細孔の円相当径が2〜50μmの範囲内であり、かつ平均アスペクト比が10〜50の範囲内であることを特徴とする。従って、円相当径が2μm未満である細孔は、たとえアスペクト比が5以上であっても高アスペクト比細孔とはみなさない。
【0033】
高アスペクト比細孔の平均アスペクト比は、低すぎると細孔の連通性が十分得られない一方、高すぎるとガス拡散性が高すぎることにより、触媒活性点と接触せずにコート層を素通りするガスの割合が増えて十分な触媒性能が得られないが、平均アスペクト比が10〜50の範囲内であればそのような問題は生じない。ガス拡散性と触媒性能の両立という観点から、高アスペクト比細孔の平均アスペクト比は、10〜35、特に10〜30の範囲内であることがより好ましい。
【0034】
S/Cの触媒コートにおける高アスペクト比細孔の平均アスペクト比は、FIB−SEM(Focused Ion Beam−Scanning Electron Microscope)またはX線CT等で得られる触媒コート層の細孔の三次元情報から、基材の排ガスの流れ方向(ハニカム状の基材の軸方向)に垂直な触媒コート層断面の断面画像を解析することにより測定することができる。
【0035】
具体的には、例えば、FIB−SEM分析により行う場合、先ず、前記基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の連続断面画像(SEM像)をFIB−SEM分析により取得する。次に、得られた連続断面画像を解析し、断面の円相当径が2μm以上の細孔の三次元情報を抽出する。図4に、細孔の三次元情報の解析結果の一例として、排ガス浄化用触媒の基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の連続断面画像を解析して得た細孔の三次元情報の解析結果を例示する二次元投影図の例を示す。図4に例示する細孔の三次元情報の解析結果にも表れているように、細孔の形は不定形であり、細孔の連続断面画像(SEM像)における始点と終点を結んだ距離を「長径」と定義する。なお、始点と終点はそれぞれのSEM像における重心とする。次に、細孔の連続断面画像(SEM像)における始点と終点を最短距離で接続する経路におけるくびれのうち断面SEM像における円相当径が2μm以上であって最小のものを「喉」と定義し、この断面SEM像における円相当径を「喉径」と定義する。(細孔においてくびれが複数存在する場合があるが、アスペクト比を算出するための喉径として、始点と終点を最短距離で接続する経路における最小のくびれを選択し、この最小のくびれ(喉)の断面SEM像における細孔の円相当径を「喉径」と定義する。)更に、前記細孔のアスペクト比は「長径/喉径」と定義する。
【0036】
次に、図4の(A)(細孔の始点)、(B)(細孔の喉部)、(C)(細孔の長径の中位点)、(D)(細孔の最大円相当径である最大径部)、(E)(細孔の終点)のそれぞれの断面画像(SEM像)の例を図5に示す。図5は、図4の(A)〜(E)における触媒コート層断面の細孔を示す断面画像(SEM像)の概略図である。図5の(A)は、図4に例示した細孔の二次元投影図の始点(細孔の円相当径が2μm以上となっている一方の端部)における細孔の断面画像の概略図であり、G1は断面画像における細孔の重心を示す。図5の(B)は、図4に例示した細孔の二次元投影図の喉(細孔の円相当径が2μm以上細孔であって、始点と終点を最短距離で接続する経路における最小のくびれ)における細孔の断面画像の概略図である。図5の(C)は、図4に例示した細孔の二次元投影図の長径の始点と終点を最短距離で接続する経路の中位点における細孔の断面画像の概略図である。図5の(D)は、図4に例示した細孔の二次元投影図の長径の始点と終点を最短距離で接続する経路における細孔の円相当径が最大となる部分における細孔の断面画像である。図5の(E)は、図4に例示した細孔の二次元投影図の終点(細孔の円相当径が2μm以上となっている他方の端部)における細孔の断面画像の概略図であり、G2は断面画像における細孔の重心を示す。ここで、図5において、細孔の始点(図5の(A)に示すG1)と細孔の終点(図5の(E)に示すG2)を結ぶ直線の距離を「長径」と定義する。また、細孔の始点と終点を最短距離で接続する経路におけるくびれのうち断面SEM像における円相当径が2μm以上であって最小のものを「喉」と定義し、この断面SEM像における円相当径を「喉径」と定義する。前記細孔のアスペクト比は「長径/喉径」と定義する。更に、触媒コート層の基材平坦部に対して水平方向に500μm以上、かつ、基材平坦部に対して垂直方向に25μm以上、軸方向に1000μm以上の範囲、又はこれに相当する範囲を測定し、前記細孔のうち5以上のアスペクト比を有する高アスペクト比細孔の平均アスペクト比を計算することにより、「触媒コート層における高アスペクト比細孔の平均アスペクト比」を求めることができる。
【0037】
前述のとおり、S/Cの触媒コートにおける高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合は0.5〜50容量%の範囲内である。この割合が低すぎると、細孔の連通性が不足し、他方、高すぎると、排ガスの流れ方向に対して垂直な方向のガス拡散性が不十分になり十分な触媒性能が得られず、触媒コート層の強度低下による剥離等も生じるが、上記範囲であればそのような問題は発生しない。なお、高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合は、ガス拡散性と触媒性能と触媒コート層の強度のバランスの観点から、0.6〜40.9容量%、特に1〜31容量%の範囲内であることが好ましい。
【0038】
S/Cの触媒コートにおける高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合は、触媒コート層の基材平坦部に対して水平方向に500μm以上、かつ、基材平坦部に対して垂直方向に25μm以上、軸方向に1000μm以上の範囲、又はこれに相当する範囲における高アスペクト比細孔の空隙率を、水中重量法により測定して得られる触媒コート層の空隙率で割って求めることができる。
【0039】
更に、S/Cの触媒コートにおいては、前記高アスペクト比細孔が、高アスペクト比細孔の長径方向ベクトルと前記基材の排ガスの流れ方向ベクトルとがなす角(円錐角)の角度基準の累積角度分布における累積80%角度の値で0〜45度の範囲内に配向していることが好ましい。このようにすることにより、排ガスの流れ方向(ハニカム形状の基材の軸方向)におけるガス拡散性が特に向上し、活性点の利用効率を向上させることができる。累積80%角度の値が大きすぎると、ガス拡散性の軸方向の成分が不十分となり活性点の利用効率が低下する傾向にあるが、上記範囲ではそのような問題は生じない。なお。前記累積80%角度の値は、触媒性能の観点から、15〜45度、特に30〜45度の範囲内であることが好ましい。
【0040】
S/Cの触媒コートにおける高アスペクト比細孔の円錐角(配向角)は、触媒コート層の細孔の三次元情報から、基材の排ガスの流れ方向(ハニカム状の基材の軸方向)に垂直な触媒コート層断面の断面画像を解析することにより測定することができる。具体的には、例えば、FIB−SEM分析により行う場合、前記により得られる高アスペクト比細孔の「長径」により得られる長径方向ベクトルと前記基材の排ガスの流れ方向ベクトルとがなす角から「円錐角」を求めることができる。図6は高アスペクト比細孔の円錐角(配向角)を示す概略図であり、「円錐角」の求め方の一例を示すものである。図6は、図4の二次元投影図において、高アスペクト比細孔の長径方向ベクトル(Y)及び前記基材の排ガスの流れ方向ベクトル(X)を示しており、前記長径方向ベクトル(Y)と前記基材の排ガスの流れ方向ベクトル(X)のがなす角を「円錐角」と定義する。上記細孔の三次元情報(三次元画像)の画像解析により、前記円錐角の角度基準の累積角度分布における累積80%角度の値を算出することができる。なお、高アスペクト比細孔の円錐角の角度基準の累積角度分布における累積80%角度とは、前記高アスペクト比細孔の円錐角(角度)の小さいものから、高アスペクト比細孔の数をカウントしたときに、高アスペクト比細孔の数が全体の80%(円錐角の角度基準積算頻度が80%)に相当するときのアスペクト比細孔の円錐角を意味する。なお、高アスペクト比細孔の円錐角の角度基準の累積角度分布における累積80%角度の値は、無作為に20個以上の高アスペクト比細孔を抽出し、これら高アスペクト比細孔の円錐角の角度基準の累積角度分布における累積80%角度の値を測定して平均することによって求めることができる。
【0041】
(S/Cの製造方法)
本発明のS/CとUF/Cを組み合わせた二触媒からなる排ガス浄化用触媒において、S/Cの製造方法は、触媒活性を有する貴金属粒子と、体積基準の累積粒度分布における累積50%径の値で3〜10μmの範囲内にある金属酸化物粒子と、前記金属酸化物粒子100質量部に対して0.5〜9.0質量部の繊維状有機物を含む触媒スラリーを用いて、空隙を多く含むS/Cの触媒コートを形成することを含むことを特徴とする。繊維状有機物は、平均繊維径が1.7〜8.0μmの範囲内、かつ平均アスペクト比が9〜40の範囲内であるという特徴を有する。繊維状有機物は、触媒スラリーを基材に塗布した後に加熱することで、その少なくとも一部を除去され、触媒コート層に空隙が形成されるものであることが好ましい。なお、S/Cの触媒コート層が二層以上からなる場合、S/Cの触媒コート層のうち、空隙を多く含む構造の触媒コート以外の触媒コートについては、例えば繊維状有機物を含まない以外は上記と同様の触媒スラリーを用いるなど、従来公知の方法に従って形成することができる。
【0042】
(金属酸化物粒子)
本発明の触媒の製造方法で用いる金属酸化物粒子は、体積基準の累積粒度分布における累積50%径(D50)が3〜10μmの範囲内にある。この累積50%径は、好ましくはレーザ回折法により測定される体積基準の累積粒度分布における累積50%径である。金属酸化物は、本発明の排ガス浄化用触媒の触媒コート層に含まれる触媒粒子に関して既に説明したものと同様である。金属酸化物粒子の調製方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。また、このような金属酸化物粒子としては、市販のものを用いてもよい。本発明の方法で用いる金属酸化物粒子の形態としては、公知の方法で調製した金属酸化物粒子(複合酸化物粒子を含む)、市販の金属酸化物粒子(複合酸化物粒子を含む)又はこれらの混合物、或いは、これらをイオン交換水等の溶媒等に分散させた分散液等が挙げられる。
【0043】
金属酸化物粒子の粒径は、小さすぎると、得られる排ガス浄化用触媒における触媒コート層の触媒粒子の粒径(断面積基準の累積15%径の値)が小さくなり過ぎて触媒コート層の空隙率が小さくなり、ガス拡散性が悪くなるためNOx浄化性能等の十分な触媒性能が得られず、他方、大きすぎると、得られる排ガス浄化用触媒における触媒コート層の触媒粒子の粒径(断面積基準の累積15%径の値)が大きくなり過ぎて触媒粒子内部におけるガス拡散抵抗が大きくなるため、NOx浄化性能等の十分な触媒性能が得られない。しかし、金属酸化物粒子の、体積基準の累積粒度分布における累積50%径が3〜10μmの範囲内であれば、そのような問題は発生しない。なお、金属酸化物粒子の粒径は、コート性と触媒粒子内の拡散抵抗と触媒性能のバランスの観点から、前記体積基準の累積50%径の値で3〜9μm、特に3〜7μmの範囲内であることが好ましい。
【0044】
金属酸化物粒子の粒径(体積基準の累積50%径の値)は、前述のとおり、レーザ回折法により測定することができる。具体的には、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置等のレーザ回折装置を用いたレーザ回折法により、無作為に抽出した(任意の)1000個以上の金属酸化物粒子について測定し、金属酸化物粒子の体積基準の累積粒度分布における累積50%径の値を算出する。なお、金属酸化物粒子の体積基準の累積50%径とは、金属酸化物粒子サイズ(面積)の小さいものから、金属酸化物粒子の数をカウントしたときに、金属酸化物粒子の数が全体の50%(体積基準積算頻度が50%)に相当するときの金属酸化物粒子の粒径を意味する。なお、粒径とは、断面が円形でない場合には最小外接円の直径をいう。
【0045】
このような粒径を有する金属酸化物粒子の調製方法としては、特に制限されず、例えば、先ず、金属酸化物粒子粉末等の金属酸化物粒子の原料を準備し、次に、金属酸化物粒子粉末等をイオン交換水等の溶媒等と混合した後、得られた溶液に対してビーズミル等の媒体ミルやその他撹拌型粉砕装置等を用いて金属酸化物粒子粉末等を水等の溶媒に撹拌分散せしめて金属酸化物粒子の粒径を調整する方法が挙げられる。なお、ビーズミル等の媒体ミルを用いた場合の撹拌条件としては、特に制限されず、ビーズ径としては100〜5000μmの範囲内、処理時間としては3分〜1時間の範囲内、撹拌速度としては50〜500rpmの範囲内であることが好ましい。
【0046】
(触媒スラリーの調製および塗布)
本発明の排ガス浄化用触媒におけるS/Cの製造方法では、触媒活性を有する貴金属粒子、体積基準の累積粒度分布における累積50%径が3〜10μmの範囲内である金属酸化物粒子、および前記金属酸化物粒子100質量部に対して0.5〜9.0質量部の繊維状有機物を含む触媒スラリーを用いる。
【0047】
貴金属粒子を調製するための貴金属原料としては、特に制限されないが、例えば、貴金属(例えば、Pt、Rh、Pd、Ru等、又はその化合物)の塩(例えば、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、クエン酸塩、ジニトロジアンミン塩、等)又はそれらの錯体(例えば、テトラアンミン錯体)を水、アルコール等の溶媒に溶解した溶液が挙げられる。また、貴金属の量は特に制限されず、目的とする設計等に応じて適宜必要量担持させればよく、0.01質量%以上とすることが好ましい。なお、貴金属として白金を用いる場合、白金塩としては、特に制限されないが、例えば、白金(Pt)の酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、クエン酸塩、ジニトロジアンミン塩等又はそれらの錯体が挙げられ、中でも、担持されやすさと高分散性の観点から、ジニトロジアンミン塩が好ましい。また、貴金属としてパラジウムを用いる場合、パラジウム塩としては、特に制限されないが、例えば、パラジウム(Pd)の酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、クエン酸塩、ジニトロジアンミン塩等又はそれらの錯体の溶液が挙げられ、中でも、担持されやすさと高分散性の観点から、硝酸塩やジニトロジアンミン塩が好ましい。更に、溶媒としては、特に制限されないが、例えば、水(好ましくはイオン交換水及び蒸留水等の純水)等のイオン状に溶解せしめることが可能な溶媒が挙げられる。
【0048】
繊維状有機物としては、後述する加熱工程により除去可能な物質であれば特に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、セルロース繊維が挙げられる。その中でも、加工性と焼成温度のバランスの観点から、PET繊維及びナイロン繊維からなる群から選択される少なくとも1種のものを用いることが好ましい。触媒スラリーにこのような繊維状有機物を含有させ、その後の工程において繊維状有機物の少なくとも一部を除去せしめることにより、繊維状有機物の形状と同等形状の空隙を触媒コート層内に形成せしめることが可能となる。このようにして調製した空隙は排ガスの拡散流路となり、高ガス流量の高負荷領域においても優れた触媒性能を発揮することができる。
【0049】
本発明の触媒の製造方法で用いる繊維状有機物は、平均繊維径が1.7〜8.0μmの範囲内である。平均繊維径が小さすぎると、有効な高アスペクト比細孔が得られないため触媒性能が不十分となり、他方、大きすぎると、触媒コート層の厚さが増大することで圧力損失が増大し燃費悪化の原因となるが、上記範囲ではそのような問題は生じない。触媒性能とコート厚さのバランスの観点から、繊維状有機物の平均繊維径は、2.0〜6.0μm、特に2.0〜5.0μmの範囲内であることが好ましい。
【0050】
また、本発明の触媒の製造方法で用いる繊維状有機物は、平均アスペクト比が9〜40の範囲内である。平均アスペクト比が小さすぎると、細孔の連通性が不十分なためガス拡散性が不足し、他方、大きすぎると、拡散性が大きすぎることにより触媒活性点と接触せずにコート層を素通りするガスの割合が増え十分な触媒性能が得られないが、上記範囲ではそのような問題は生じない。繊維状有機物の平均アスペクト比は、ガス拡散性と触媒性能のバランスの観点から、9〜30、特に9〜28の範囲内であることが好ましい。なお、繊維状有機物の平均アスペクト比は「平均繊維長/平均繊維径」と定義する。ここで、繊維長とは繊維の始点と終点を結ぶ直線距離とする。平均繊維長は、無作為に50以上の繊維状有機物を抽出し、これら繊維状有機物の繊維長を測定して平均することによって求めることができる。また、平均繊維径は、無作為に50以上の繊維状有機物を抽出し、これら繊維状有機物の繊維径を測定して平均することによって求めることができる。
【0051】
本発明の触媒の製造方法では、金属酸化物粒子100質量部に対して0.5〜9.0質量部の範囲内の量で繊維状有機物を、下層触媒コート形成用の触媒スラリーに用いる。繊維状有機物の混合量が少なすぎると、十分な細孔連通性が得られないため触媒性能が不十分となり、他方、多すぎると、触媒コート層の厚さが増大することで圧力損失が増大し燃費悪化の原因となるが、上記範囲ではそのような問題は生じない。なお、触媒性能と圧力損失のバランスの観点から、繊維状有機物は、前記金属酸化物粒子100質量部に対して0.5〜8.0質量部、特に1.0〜5.0質量部の範囲内の量で触媒スラリーに用いることが好ましい。なお、繊維状有機物は、平均繊維径が2.0〜6.0μmの範囲内でかつ平均アスペクト比が9〜30の範囲内であると、より好ましい。
【0052】
触媒スラリーの調製方法は、特に制限されず、前記金属酸化物粒子と前記貴金属原料と前記繊維状有機物とを、必要に応じて公知のバインダー等と共に混合すればよく、公知の方法を適宜採用することができる。なお、このような混合の条件としては、特に制限されず、例えば、撹拌速度としては100〜400rpmの範囲内、処理時間としては30分以上であることが好ましく、繊維状有機物が触媒スラリー中で均一に分散混合できればよい。また、混合する順序は、特に制限されず、金属酸化物粒子を含む分散液に貴金属原料を混合して貴金属を担持させた後に繊維状有機物を混合する方法、金属酸化物粒子を含む分散液に繊維状有機物を混合した後に貴金属原料を混合する方法、金属酸化物粒子を含む分散液に貴金属原料及び繊維状有機物を同時混合する方法、貴金属原料を含む溶液に金属酸化物粒子及び繊維状有機物を混合する方法、等のいずれでもよい。処理条件については特に制限されず、目的とする排ガス浄化用触媒の設計等に応じて適宜選択される。
【0053】
触媒スラリーは、基材の表面に、焼成後の触媒コート層の一層あたりの被覆量及び平均厚さがそれぞれ前記基材の単位体積当たり50〜300g/Lの範囲内及び25〜160μmの範囲内となるように塗布して触媒スラリー層を形成することが好ましい。塗布方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。具体的には、ハニカム形状の基材を触媒スラリーに浸漬させて塗布する方法(浸漬法)、ウォッシュコート法、触媒スラリーを圧入手段により圧入する方法、等が挙げられる。なお、塗布条件としては、前記触媒スラリーをハニカム形状の基材の表面に、焼成後の触媒コート層の一層あたりの被覆量が前記基材の単位体積当たり50〜300g/Lの範囲内でかつ触媒コート層の一層あたりの平均厚さが25〜160μmの範囲内となるように塗布することが必要である。
【0054】
本発明のS/Cの製造方法では、基材に触媒スラリーを塗布した後、加熱することにより、スラリーに含まれる溶媒などを蒸発させると共に、繊維状有機物を除去する。加熱は、典型的には触媒スラリーを塗布した基材を焼成することにより行われる。焼成は、300〜800℃、特に400〜700℃の範囲内の温度で行うことが好ましい。焼成温度が低すぎると、繊維状有機物が残存する傾向にあり、他方、高すぎると、貴金属粒子が焼結する傾向にあるが、上記範囲ではそのような問題は生じない。焼成時間は、焼成温度により異なるものであるため一概には言えないが、20分以上であることが好ましく、30分〜2時間であることがより好ましい。更に、焼成時の雰囲気としては、特に制限されないが、大気中或いは窒素(N)等の不活性ガス中であることが好ましい。
【0055】
本発明の排ガス浄化用触媒において、異なる組成の二層以上の触媒コート層を有するS/Cを製造する場合は、触媒スラリーを塗布し加熱することにより基材上に形成された触媒コートの上に、組成、すなわち金属酸化物や貴金属などの量や種類が異なる触媒スラリーを再度塗布し加熱することを繰り返すことにより調製することができる。
【0056】
本発明の排ガス浄化用触媒の一態様として、S/Cの触媒コート層は二層であり、貴金属粒子としてのパラジウムならびに金属酸化物粒子としてのセリアジルコニア固溶体およびアルミナに加えて上述のような繊維状有機物を含む触媒スラリーを用いて下層触媒コートを形成した後、その上に、貴金属粒子としてのロジウムならびに金属酸化物粒子としてのジルコニアおよびアルミナに加えて上述のような繊維状有機物を含む触媒スラリーを用いて最上層の触媒コートを形成することにより調製することができる。
【0057】
(UF/Cの構成)
本発明の排ガス浄化用触媒におけるUF/Cは、従来公知の方法により基材に触媒コートを形成することにより調製することができる。すなわち、上述した本発明の排ガス浄化用触媒におけるS/Cの触媒コートの形成において、触媒コートの調製時に造孔材を用いない以外は、S/Cの触媒コートと同様にして調製することができる。
【0058】
UF/Cの触媒コート層の一層あたりの被覆量は、基材の単位体積当たり50〜200g/Lの範囲内であることが好ましい。UF/Cは排ガス流れ方向に対してS/Cよりも下流側に設置されるため、S/Cの触媒コート層の被覆量よりも少なくすることができる。被覆量が少なすぎると、触媒粒子の触媒活性性能が十分に得られないためNOx浄化性能等の十分な触媒性能が得られない一方、多すぎても、圧力損失が増大し燃費が悪化する原因となるが、上記範囲ではそのような問題は生じない。なお、圧力損失と触媒性能と耐久性のバランスの観点から、触媒コート層の被覆量は、基材の単位体積当たり50〜180g/L、特に50〜150g/Lの範囲内であることがより好ましい。
【0059】
本発明の排ガス浄化用触媒の一態様として、UF/Cの触媒コート層は二層であり、触媒活性を有する金属として上層がRhを含有し、下層がPtを含有するものが挙げられる。
【0060】
(本発明の排ガス浄化用触媒の使用態様)
本発明の排ガス浄化用触媒は、S/Cと、排ガスの流れ方向に対して前記S/Cよりも後方に設置されたUF/Cを組み合わせた二触媒からなる排ガス浄化用触媒であって、前記S/Cの触媒コートは上述した特徴を有する。
【0061】
本発明の排ガス浄化用触媒は、高吸入空気量条件下であっても使用することができ、ここで、高吸入空気量条件下は、吸入空気量Gaが吸入空気量Gaが40g/s以上であることが好ましい。
【0062】
また、空燃比(A/F)は、14.2〜14.6の範囲が好ましい。
【0063】
なお、本発明の排ガス浄化用触媒の構成は、S/CとUF/Cを組み合わせた二触媒以外であっても、例えばタンデム型排ガス浄化用触媒に適用することができる。
【0064】
本発明の排ガス浄化用触媒の一態様として、タンデム型排ガス浄化用触媒において、排ガスの流れ方向に対して前段の触媒の触媒コートに、上述したS/Cの触媒コートと同様の触媒コートを適用することができる。
【0065】
前段の触媒の触媒コートが所定の条件を満たす高アスペクト比細孔を有することにより、その前段の触媒の触媒コートにおけるガス拡散性が格段に向上するため、S/CとUF/Cを組み合わせた二触媒同様、耐熱性を獲得するのに十分な触媒コート量を有しながら、高Ga条件の下、十分な浄化性能を発揮することが可能である。
【0066】
本発明の排ガス浄化用触媒は、内燃機関から排出された排ガスを接触させて排ガスを浄化する方法に用いられる。排ガス浄化用触媒に排ガスを接触させる方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、内燃機関から排出されるガスが流通する排ガス管内に上記本発明にかかる排ガス浄化用触媒を配置することにより、排ガス浄化用触媒に対して内燃機関からの排ガスを接触させる方法を採用してもよい。
【0067】
本発明の排ガス浄化用触媒は、高ガス流量の高負荷領域においても優れた触媒性能を発揮するものであるため、このような前記本発明の排ガス浄化用触媒に、例えば、自動車等の内燃機関から排出される排ガスを接触させることで、高ガス流量の高負荷領域においても排ガスを浄化することが可能となる。本発明の排ガス浄化用触媒は、自動車等の内燃機関から排出されるような排ガス中の有害ガス(炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx))等の有害成分を浄化するために用いることができる。
【0068】
(本発明の排ガス浄化用触媒の利用態様)
本発明の排ガス浄化用触媒は、単独で用いても、あるいは他の触媒と組み合わせて利用してもよい。このような他の触媒としては、特に制限されず、公知の触媒(例えば、自動車の排ガス浄化用触媒の場合は、酸化触媒、NOx還元触媒、NOx吸蔵還元型触媒(NSR触媒)、希薄NOxトラップ触媒(LNT触媒)、NOx選択還元触媒(SCR触媒)等)を適宜用いてもよい。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0070】
[試験1:空隙を有する触媒コート層を一層有する触媒の調製および評価]
1.触媒の調製
(1)実施例1
先ず、イオン交換水500gに、Al粉末(サソール社製:比表面積100m/g、平均粒子径30μm)150gとCeO−ZrO固溶体の粉末(第一稀元素化学工業社製:CeO含有量20質量%、ZrO含有量25質量%、比表面積100m/g、平均粒子径10nm)300gとを添加し混合して得られた溶液に対し、ビーズミル(アズワン社製、商品名「アルミナボール」、使用ビーズ:直径5000μmアルミナ製マイクロビーズ)を用い、処理時間:25分間、攪拌速度400rpmの条件で撹拌処理を施し、CeO−ZrO固溶体とAl粉末との混合物(複合金属酸化物)からなる金属酸化物粒子を含む分散液を準備した。なお、レーザ回折式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、商品名「LA−920」)を用いてレーザ回折法により金属酸化物粒子の粒径を測定したところ、面積基準の累積粒度分布における累積50%径の値が3.2μmであった。
【0071】
次に、得られた分散液に、貴金属原料として白金(Pt)を金属換算で4g含むジニトロジアンミン白金溶液0.05L及び繊維状有機物として有機繊維(PET繊維、平均直径:3μm×長さ:42μm、平均アスペクト比:14)を金属酸化物粒子100質量部に対して1.0質量部をそれぞれ添加して撹拌速度400rpmの条件で30分間混合し、触媒スラリーを調製した。
【0072】
次いで、得られた触媒スラリーを、基材としての六角セルコージェライトモノリスハニカム基材(デンソー社製、商品名「D60H/3−9R−08EK」、直径:103mm、長さ:105mm、容積:875ml、セル密度:600cell/inch)にウォッシュコート(塗布)し、大気中、100℃の温度条件で0.5時間乾燥した後、更に、このような触媒スラリーのウォッシュコート、乾燥及び仮焼を基材に対する被覆量が基材1Lあたり100g(100g/L)となるまで繰り返し行うことにより、前記基材に触媒スラリー層を形成せしめた。
【0073】
その後、大気中、500℃の温度条件で2時間焼成せしめて、ハニカム形状のコージェライトモノリス基材からなる基材表面に触媒粒子からなる触媒コート層が形成された排ガス浄化用触媒(触媒試料)を得た。
【0074】
酸化物粒子準備工程における撹拌処理の処理時間[分]及び得られた金属酸化物粒子の粒径(体積基準の累積50%径の値)[μm]、触媒スラリー調製工程で用いた繊維状有機物の原料種、平均繊維径[μm]、平均アスペクト比及び混合量[質量部]、触媒コート層の被覆量[g/L]を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
(2)実施例2〜42
ビーズミルによる処理時間を表1〜表2に示した時間とし金属酸化物粒子の粒径が体積基準の累積粒度分布における累積50%径の値で表1〜表2の値となるようにビーズミルにて撹拌処理を行い、繊維状有機物として表1〜表2に示した原料種、平均繊維径、平均アスペクト比及び混合量の繊維状有機物を用いた以外は、実施例1と同様にして触媒スラリーを得た。次に、得られた触媒スラリーを、実施例1と同様にしてコージェライトモノリスハニカム基材に塗布(コート)し、焼成せしめて、排ガス浄化用触媒(触媒試料)を得た。
【0077】
なお、実施例31〜39で用いた繊維状有機物は、イソプロパノールにチタンイソプロポキシド(Ti(OPri))とポリエチレングリコール(PEG)とポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)粒子(平均直径3μm)とを添加し、蒸留水中に放射することにより、所定形状の有機繊維を調製したものを用いた。
【0078】
酸化物粒子準備工程における撹拌処理の処理時間[分]及び得られた金属酸化物粒子の粒径(体積基準の累積50%径の値)[μm]、触媒スラリー調製工程で用いた繊維状有機物の原料種、平均繊維径[μm]、平均アスペクト比及び混合量[質量部]、触媒コート層の被覆量[g/L]を表1〜表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
(3)比較例1〜7
ビーズミルによる処理時間を表3に示した時間とし金属酸化物粒子の粒径が体積基準の累積粒度分布における累積50%径の値で表3の値となるようにビーズミルにて撹拌処理を行い、有機物(繊維状有機物)を用いなかった以外は、実施例1と同様にして比較用触媒スラリーを得た。次に、得られた比較用触媒スラリーを、実施例1と同様にしてコージェライトモノリスハニカム基材に塗布(コート)し、焼成せしめて、比較用排ガス浄化用触媒(比較用触媒試料)を得た。
【0081】
酸化物粒子準備工程における撹拌処理の処理時間[分]及び得られた金属酸化物粒子の粒径(体積基準の累積50%径の値)[μm]、触媒コート層の被覆量[g/L]を表3に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
(4)比較例8〜133
ビーズミルによる処理時間を表3〜表8に示した時間とし金属酸化物粒子の粒径が体積基準の累積粒度分布における累積50%径の値で表3〜表8の値となるようにビーズミルにて撹拌処理を行い、繊維状有機物又は有機物として表3〜表8に示した原料種、平均繊維径又は平均直径、平均アスペクト比及び混合量の繊維状有機物又は有機物を用いた以外は、実施例1と同様にして比較用触媒スラリーを得た。次に、得られた比較用触媒スラリーを、実施例1と同様にしてコージェライトモノリスハニカム基材に塗布(コート)し、焼成せしめて、比較用排ガス浄化用触媒(比較用触媒試料)を得た。
【0084】
なお、比較例127〜131で用いた有機物(繊維状有機物)は、イソプロパノールにチタンイソプロポキシド(Ti(OPri))とポリエチレングリコール(PEG)とポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)粒子(平均直径3μm)とを添加し、蒸留水中に放射することにより、所定形状の有機繊維を調製したものを用いた。
【0085】
酸化物粒子準備工程における撹拌処理の処理時間[分]及び得られた金属酸化物粒子の粒径(体積基準の累積50%径の値)[μm]、触媒スラリー調製工程で用いた繊維状有機物又は有機物の原料種、平均繊維径又は平均直径[μm]、平均アスペクト比及び混合量[質量部]、触媒コート層の被覆量[g/L]を表3〜表8に示す。
【0086】
【表4】
【0087】
【表5】
【0088】
【表6】
【0089】
【表7】
【0090】
【表8】
【0091】
2.評価
実施例1〜42で得られた排ガス浄化用触媒(触媒試料)及び比較例1〜133で得られた比較用排ガス浄化用触媒(比較用触媒試料)について、触媒コート層の平均厚さ[μm]、触媒粒子の粒径(断面積基準の累積15%径の値)[μm]、触媒コート層の空隙率[容量%]、高アスペクト比細孔の平均アスペクト比、高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合[%]及び高アスペクト比細孔の配向角[度(°)](累積80%角度の値)を測定した。
【0092】
(1)触媒コート層の平均厚さの測定試験
触媒試料及び比較用触媒試料をエポキシ樹脂で包埋し、基材(ハニカム形状の基材)の径方向に切断し、断面を研磨したものを用い、走査型電子顕微鏡(SEM)観察(倍率:700倍)により触媒コート層の平均厚さを測定した。なお、平均厚さは、無作為に10箇所の触媒コート層を抽出し、これら触媒コート層の層厚さを測定して平均することによって求めた。得られた結果を表1〜表8に示す。
【0093】
(2)触媒粒子の粒径の測定試験
触媒試料及び比較用触媒試料をエポキシ樹脂で包埋し、基材(ハニカム形状の基材)の径方向に切断し、断面を研磨したものを測定し、走査型電子顕微鏡(SEM)観察(倍率:700倍)を行い、触媒粒子の断面積基準の累積粒度分布における累積15%径の値を算出した。なお、触媒粒子の粒径の断面積基準の累積15%径の値は、触媒コート層の基材平坦部に対して水平方向に200μm以上、かつ、基材平坦部に対して垂直方向に25μm以上からなる四角形の領域の触媒粒子を抽出し、これら触媒粒子の触媒粒子サイズ(断面積)の大きいものから触媒粒子の断面積をカウントしたときに、触媒粒子の断面積の和が断面積0.3mm未満の細孔を除いた触媒コート層の断面積全体の15%に相当するときの触媒粒子の粒径の値を測定することによって求めた。得られた結果を表1〜表8に示す。
【0094】
(3)触媒コート層の空隙率の測定試験
触媒試料の空隙率を、JIS R 2205に従い、水中重量法により下記の式により測定した。なお、脱気は真空脱気とした。
空隙率(気孔率)(容量%)=(W3−W1)/(W3−W2)×100
W1:乾燥質量(120℃×60分)
W2:水中質量
W3:飽水質量
得られた結果を表1〜表8に示す。
【0095】
(4)触媒コート層中の細孔の測定試験1:細孔の円相当径
触媒試料及び比較用触媒試料の触媒コート層中の細孔について、FIB−SEM分析を行った。
【0096】
先ず、触媒試料及び比較用触媒試料を、図1の(A)に示す点線の位置で軸方向に切断し、図(B)に示す形状の試験片を得た。次に、図1の(B)の四角枠点線で示した範囲をFIB(収束イオンビーム加工装置、日立ハイテクノロジーズ社製、商品名「NB5000」)で削りながら、図1の(C)に示すように奥行き0.28μmピッチでSEM(走査型電子顕微鏡、日立ハイテクノロジーズ社製、商品名「NB5000」)像を撮影した。なお、FIB−SEM分析の条件は、SEM像は縦25μm以上、横500μm以上、測定奥行きは500μm以上、撮影視野数は3以上、撮影倍率は2000倍とした。図1は、FIB−SEMの測定方法の一例を示す概略図で、(A)は本発明の排ガス浄化用触媒の基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の一部を示す概略図、(B)は排ガス浄化用触媒を(A)に示す点線の位置で軸方向に切断した試験片を示す概略図、(C)はFIB−SEM測定方法により得られたSEM像の概略図を示す。FIB−SEM分析による観察結果の一例として、実施例5の触媒試料について測定した連続断面SEM像のうち一枚を図2に示す。図2の黒い部分が細孔である。図2は、実施例5で得られた排ガス浄化用触媒の基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)である。なお、図1の(c)に示すような連続画像はX線CT等でも撮影することが可能である。
【0097】
次に、FIB−SEM分析により得られた連続断面画像(SEM像)を、細孔と触媒の輝度の差を利用して市販の画像解析ソフトウェア(三谷商事社製、「二次元画像解析ソフトWinROOF」)を用いて画像解析を行い、二値化処理して細孔を抽出した。得られた結果の一例として、図2のSEM写真を二値化処理したものを図3に示す。図3中、黒色部分が触媒、白色部分が細孔をそれぞれ示す。なお、前記細孔の解析においては、前記基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の断面画像における細孔の円相当径が2μm以上である細孔を解析対象とした。また、このように輝度の差を利用して対象を抽出する機能はWinROOFに限定されるものではなく、一般的な解析ソフトに標準的に搭載されているもの(例えば、株式会社プラネトロン社製のimage−Pro Plus)を利用することができる。
【0098】
このような画像解析により、細孔の輪郭内の面積を求め、細孔の円相当径を計算し、前記細孔の粒径としての円相当径を得た。
【0099】
(5)触媒コート層中の細孔の測定試験2:高アスペクト比細孔の平均アスペクト比
次に、上記方法で得られた連続断面画像を解析し、細孔の三次元情報を抽出した。ここで、高アスペクト比細孔の平均アスペクト比の測定方法は、前述の図4及び図5を用いて説明した方法と同様であり、前記高アスペクト比細孔の平均アスペクト比は、前述の図4及び図5に相当する細孔の三次元情報を例示する二次元投影図及び細孔の断面画像を作成し、SEM像:縦25μm以上、横500μm以上、測定奥行きは500μm以上の範囲内の高アスペクト比細孔(撮影視野数は3以上、撮影倍率は2000倍とした)を解析することにより求めた。なお、実施例5で得られる排ガス浄化用触媒の基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の連続断面画像を解析して得た細孔の三次元情報を例示する二次元投影図は、図4に示される前記細孔の三次元情報を例示する二次元投影図と同様のものである。その結果、実施例5の高アスペクト比細孔の平均アスペクト比は18.9であった。また、実施例5以外の実施例及び比較例の測定結果(高アスペクト比細孔の平均アスペクト比)を表1〜表8にそれぞれ示す。
【0100】
(6)触媒コート層中の細孔の測定試験3:高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合
次に、前記高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合は、高アスペクト比細孔の空隙率を触媒コート層の空隙率で除することにより求めた。
【0101】
なお、高アスペクト比細孔の空隙率(容量%)は、先ず、SEM像:縦25μm以上、横500μm以上、測定奥行きは500μm以上の範囲内の高アスペクト比細孔(撮影視野数は3以上、撮影倍率は2000倍とした)を抽出し、それぞれの容積を次に示す方法で算出した。すなわち、FIB−SEMで得られた断面画像における高アスペクト比細孔の断面の面積に連続断面画像のピッチ0.28μmを乗じ、それらの値を積算することにより高アスペクト比細孔の容積を算出した。次に、得られた「高アスペクト比細孔の容積」の値を、FIB−SEMを撮影した範囲(前記SEM像の範囲)の体積で除することにより、高アスペクト比細孔の空隙率(容量%)を得た。
【0102】
次に、得られた高アスペクト比細孔の空隙率(容量%)を、前記「触媒コート層の空隙率の測定試験」で得られた触媒コート層の空隙率(容量%)で除することにより、高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合(容量%)を求めた(「高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合(%)」=「高アスペクト比細孔の空隙率(容量%)」/「触媒コート層の空隙率(容量%)」×100)。
【0103】
その結果、実施例5の高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合は11.1容量%であった。また、実施例5以外の実施例及び比較例の測定結果(高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合)を表1〜表8にそれぞれ示す。
【0104】
(7)触媒コート層中の細孔の測定試験4:高アスペクト比細孔の配向角
次に、前記高アスペクト比細孔の配向角として、前記高アスペクト比細孔の長径方向ベクトルと前記基材の排ガスの流れ方向ベクトルとがなす角(円錐角)の角度基準の累積角度分布における累積80%角度の値を求めた。ここで、高アスペクト比細孔の配向角(累積80%角度の値)の測定方法は、前述の図4図6を用いて説明した方法と同様である。なお、実施例5で得られる二次元投影図は図4に例示される二次元投影図と同様のものであり、図6は実施例5で得られる二次元投影図において高アスペクト比細孔の円錐角を示す概略図と同様である。図6の概略図に示すように、前記高アスペクト比細孔の長径方向ベクトル(Y)と前記基材の排ガスの流れ方向(ハニカムの軸方向)ベクトル(X)とがなす角(円錐角)を求め、上記三次元画像の画像解析により、前記円錐角の角度基準の累積角度分布における累積80%角度の値を算出した。なお、高アスペクト比細孔の配向角(累積80%角度の値)は、無作為に20個の高アスペクト比細孔を抽出し、これら高アスペクト比細孔の円錐角の角度基準の累積角度分布における累積80%角度の値を測定して平均することによって求めた。得られた結果(累積80%角度の値)を表1〜表8にそれぞれ示す。
【0105】
(8)触媒性能評価試験
実施例1〜42及び比較例1〜133で得られた触媒試料について、以下のようにして、それぞれNOx浄化率測定試験を行い、各触媒の触媒性能を評価した。
【0106】
(NOx浄化率測定試験)
実施例1〜42及び比較例1〜133で得られた触媒試料について、以下のようにしてそれぞれ過渡時の過渡変動雰囲気におけるNOx浄化率を測定した。
【0107】
すなわち、先ず、直列4気筒2.4Lエンジンを用いて、14.1、15.1を目標にA/Fフィードバック制御を行い、A/F切り替え時の平均NOx排出量からNOx浄化率を算出した。その際の吸入空気量を40(g/sec)、触媒への流入ガス温度を750℃となるようにエンジン運転条件、配管のセットアップを調整した。
【0108】
3.結果
(1)触媒コート層の被覆量と触媒性能の関係
実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフとして、触媒コート層の被覆量とNOx浄化率との関係を示すグラフを図7に示す。図7及び表1〜表8に示した実施例1〜42の結果と比較例1〜133の結果との比較から明らかなように、実施例1〜42の排ガス浄化用触媒は、触媒コート層の被覆量が50〜300g/Lの範囲内において、高ガス流量の高負荷領域においても優れた触媒性能を発揮することが確認された。
【0109】
(2)触媒コート層の平均厚さと触媒性能の関係
実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフとして、触媒コート層の平均厚さとNOx浄化率との関係を示すグラフを図8に示す。図8及び表1〜表8に示した実施例1〜42の結果と比較例1〜133の結果との比較から明らかなように、実施例1〜42の排ガス浄化用触媒は、触媒コート層の平均厚さが25〜160μmの範囲内において、高ガス流量の高負荷領域においても優れた触媒性能を発揮することが確認された。
【0110】
(3)触媒粒子の粒径と触媒性能の関係
実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフとして、触媒粒子の粒径(触媒粒子の断面積基準の累積粒度分布における累積15%径の値)とNOx浄化率との関係を示すグラフを図9に示す。図9及び表1〜表8に示した実施例1〜42の結果と比較例1〜133の結果との比較から明らかなように、実施例1〜42の排ガス浄化用触媒は、触媒粒子の粒径(断面積基準の累積15%径の値)が3〜10μmの範囲内において、高ガス流量の高負荷領域においても優れた触媒性能を発揮することが確認された。
【0111】
(4)触媒コート層の空隙率と触媒性能の関係
実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフとして、触媒コート層の空隙率(水中重量法により測定した空隙率)とNOx浄化率との関係を示すグラフを図10に示す。図10及び表1〜表8に示した実施例1〜42の結果と比較例1〜133の結果との比較から明らかなように、実施例1〜42の排ガス浄化用触媒は、触媒コート層の空隙率が50〜80容量%の範囲内において、高ガス流量の高負荷領域においても優れた触媒性能を発揮することが確認された。
【0112】
(5)高アスペクト比細孔の平均アスペクト比と触媒性能の関係
先ず、実施例5により得られた触媒の高アスペクト比細孔のアスペクト比(前記基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の断面画像における細孔の円相当径が2μm以上である細孔を解析して求められる、前記細孔のうち5以上のアスペクト比を有する高アスペクト比細孔のアスペクト比)と頻度(%)との関係を示すグラフを図11に示す。なお、比較例4により得られた触媒の細孔におけるアスペクト比と頻度(%)との関係を、図11に併せて示す。図11に示した実施例5の結果と比較例4の結果との比較から、比較例4の比較用排ガス浄化用触媒は高アスペクト比細孔が非常に少ないことが確認された。
【0113】
次に、実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフとして、高アスペクト比細孔の平均アスペクト比(前記基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の断面画像における細孔の円相当径が2μm以上である細孔を解析して求められる、前記細孔のうち5以上のアスペクト比を有する高アスペクト比細孔の平均アスペクト比)とNOx浄化率との関係を示すグラフを図12に示す。図12及び表1〜表8に示した実施例1〜42の結果と比較例1〜133の結果との比較から明らかなように、実施例1〜42の排ガス浄化用触媒は、高アスペクト比細孔の平均アスペクト比が10〜50の範囲内において、高ガス流量の高負荷領域においても優れた触媒性能を発揮することが確認された。
【0114】
(6)高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合と触媒性能の関係
実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフとして、高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合(高アスペクト比細孔の占める割合)とNOx浄化率との関係を示すグラフを図13に示す。図13及び表1〜表8に示した実施例1〜42の結果と比較例1〜133の結果との比較から明らかなように、実施例1〜42の排ガス浄化用触媒は、高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合が0.5〜50%の範囲内において、高ガス流量の高負荷領域においても優れた触媒性能を発揮することが確認された。
【0115】
(7)高アスペクト比細孔の累積80%角度の値と触媒性能の関係
先ず、実施例16により得られた触媒の高アスペクト比細孔の円錐角(度(°)、前記高アスペクト比細孔の長径方向ベクトルYと前記基材の排ガスの流れ方向ベクトルXとのがなす角)と累積割合(%)との関係を示すグラフを図14に示す。図14から、円錐角が分布を持つことが確認された。
【0116】
次に、実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフとして、高アスペクト比細孔の累積80%角度の値(高アスペクト比細孔の長径方向ベクトルYと前記基材の排ガスの流れ方向ベクトルXとのがなす角(円錐角)の角度基準の累積角度分布における累積80%角度の値)とNOx浄化率との関係を示すグラフを図15に示す。図15及び表1〜表8に示した実施例1〜42の結果と比較例1〜133の結果との比較から明らかなように、実施例1〜42の排ガス浄化用触媒は、高アスペクト比細孔の配向角(角度基準の累積80%角度の値)が0〜45度(°)の範囲内において、高ガス流量の高負荷領域においても優れた触媒性能を発揮することが確認された。
【0117】
以上の結果より、本発明の排ガス浄化用触媒は、高ガス流量の高負荷領域においても優れた触媒性能を発揮することが可能な排ガス浄化用触媒であることが確認された。
【0118】
[試験2:S/CとUF/Cを組み合わせた二触媒からなる排ガス浄化用触媒の調製および評価]
1.触媒の調製
(1)比較例1:造孔材を使用せず調製したS/Cと造孔材を使用せず調製したUF/Cを組み合わせた二触媒からなる排ガス浄化用触媒
(a)造孔材を使用せず調製したS/C
(a1)下層Pd層(Pd(1.0)/CZ(50)+Al(75))
貴金属含有量8.8重量%の硝酸パラジウム水溶液(キャタラー社製)を用い、含浸法により、Pdをセリアジルコニア複合酸化物材(30重量%のCeO、60重量%のZrO、5重量%のYおよび5重量%のLaからなる複合酸化物:以下CZ材と称する)に担持させたPd/CZ材を調製した。次に、そのPd/CZ材と、1重量%のLaを含有する複合化Al担体、およびAl系バインダーを蒸留水に撹拌しながら加えて懸濁し、スラリー1を調製した。スラリーに含まれる粒子の、断面積基準の累積粒度分布における累積15%径は3.3μmであった。
【0119】
容量875ccのコージェライト製のハニカム構造基材(600H/3−9R−08、デンソー社製)にスラリー1を流し込み、次いでブロアーで不要分を吹き払い、基材壁面をコーティングした。コーティングには、基材容量に対してPdが1.0g/L、複合化Al担体が75g/L、およびPd/CZ材が50g/L含まれるようにした。コーティング後、120℃の乾燥機で2時間水分を除去した後、500℃の電気炉で2時間の焼成を行った。SEM観察に基づくコーティングの厚さは35μmであり、水中重量法に基づくに基づくコーティングの空隙率は73%であった。
【0120】
(a2)上層Rh層(Rh(0.2)/CZ(60)+Al(40))
貴金属含有量2.8重量%の塩酸ロジウム水溶液(キャタラー社製)を用い、含浸法により、RhをCZ材に担持させたRh/CZ材を調製した。次に、そのRh/CZ材と、1重量%のLaを含有する複合化Al担体、およびAl系バインダーを蒸留水に撹拌しながら加えて懸濁し、スラリー2を調製した。スラリーに含まれる粒子の、断面積基準の累積粒度分布における累積15%径は3.2μmであった。
【0121】
上記(a1)によりコーティングを施した基材にスラリー2を流し込み、次いでブロアーで不要分を吹き払い、基材壁面をコーティングした。コーティングには、基材容量に対してRhが0.2g/L、複合化Al担体が40g/L、およびRh/CZ材が60g/L含まれるようにした。コーティング後、120℃の乾燥機で2時間水分を除去した後、500℃の電気炉で2時間の焼成を行った。SEM観察に基づくコーティングの厚さは27μmであり、水中重量法に基づくコーティングの空隙率は72%であった。
【0122】
(b)造孔材を使用せず調製したUF/C
(b1)下層Pt層(Pt(1.0)/CZ(30)+Al(50))
貴金属含有量2.8重量%の硝酸白金水溶液(キャタラー社製)を用い、含浸法により、PtをCZ材に担持させたPt/CZ材を調製した。次に、そのPt/CZ材と、1重量%のLaを含有する複合化Al担体、およびAl系バインダーを蒸留水に撹拌しながら加えて懸濁し、スラリー3を調製した。スラリーに含まれる粒子の、断面積基準の累積粒度分布における累積15%径は3.0μmであった。
【0123】
容量875ccのコージェライト製のハニカム構造基材(600H/3−9R−08、デンソー社製)にスラリー3を流し込み、次いでブロアーで不要分を吹き払い、基材壁面をコーティングした。コーティングには、基材容量に対してPtが1.0g/L、複合化Al担体が50g/L、およびPt/CZ材が30g/L含まれるようにした。コーティング後、120℃の乾燥機で2時間水分を除去した後、500℃の電気炉で2時間の焼成を行った。SEM観察に基づくコーティングの厚さは21μmであり、水中重量法に基づくコーティングの空隙率は71%であった。
【0124】
(b2)上層Rh層(Rh(0.2)/CZ(20)+Al(40))
貴金属含有量2.8重量%の塩酸ロジウム水溶液(キャタラー社製)を用い、含浸法により、RhをCZ材に担持させたRh/CZ材を調製した。次に、そのRh/CZ材と、1重量%のLaを含有する複合化Al担体、およびAl系バインダーを蒸留水に撹拌しながら加えて懸濁し、スラリー4を調製した。スラリーに含まれる粒子の、断面積基準の累積粒度分布における累積15%径は3.1μmであった。
【0125】
上記(b1)によりコーティングを施した基材にスラリー4を流し込み、次いでブロアーで不要分を吹き払い、基材壁面をコーティングした。コーティングには、基材容量に対してRhが0.2g/L、複合化Al担体が40g/L、およびRh/CZ材が20g/L含まれるようにした。コーティング後、120℃の乾燥機で2時間水分を除去した後、500℃の電気炉で2時間の焼成を行った。SEM観察に基づくコーティングの厚さは19μmであり、水中重量法に基づくコーティングの空隙率は69%であった。
【0126】
(a)および(b)で調製したS/CとUF/Cを組み合わせることで、二触媒からなる排ガス浄化用触媒を調製した。
【0127】
(2)比較例2:造孔材を使用せず調製したS/Cと造孔材を使用して調製したUF/Cを組み合わせた二触媒からなる排ガス浄化用触媒
スラリー3およびスラリー4の調製時に造孔材として直径(φ)2μm、長さ(L)80μmのPET繊維を、金属酸化物粒子の重量に対して3重量%さらに加えた以外は、比較例1と同様にして触媒を調製した。
【0128】
造孔材を加えたスラリー3に含まれる粒子の、断面積基準の累積粒度分布における累積15%径は3.0μmであった。また、造孔材を加えたスラリー3を用いて形成した下層コーティングは、SEM観察に基づくコーティングの厚さが22μmであり、水中重量法に基づくコーティングの空隙率は73%であった。コーティング中の全空隙に対するアスペクト比が5以上の高アスペクト比細孔の体積比率は9%であり、該高アスペクト比細孔の平均アスペクト比は41であった(いずれもFIB−SEMによる3D測定に基づく)。
【0129】
造孔材を加えたスラリー4に含まれる粒子の、断面積基準の累積粒度分布における累積15%径は3.0μmであった。また、造孔材を加えたスラリー4を用いて形成した上層コーティングは、SEM観察に基づくコーティングの厚さが22μmであり、水中重量法に基づくコーティングの空隙率は72%であった。コーティング中の全空隙に対するアスペクト比が5以上の高アスペクト比細孔の体積比率は8%であり、該高アスペクト比細孔の平均アスペクト比は40であった(いずれもFIB−SEMによる3D測定に基づく)。
【0130】
(3)比較例3:造孔材を使用して調製したS/Cと造孔材を使用して調製したUF/Cを組み合わせた二触媒からなる排ガス浄化用触媒
スラリー1、スラリー2、スラリー3およびスラリー4の調製時に造孔材として直径(φ)2μm、長さ(L)80μmのPET繊維を、金属酸化物粒子の重量に対して3重量%さらに加えた以外は、比較例1と同様にして触媒を調製した。
【0131】
造孔材を加えたスラリー1に含まれる粒子の、断面積基準の累積粒度分布における累積15%径は3.3μmであった。また、造孔材を加えたスラリー1を用いて形成した下層コーティングは、SEM観察に基づくコーティングの厚さが37μmであり、水中重量法に基づくコーティングの空隙率は75%であった。コーティング中の全空隙に対するアスペクト比が5以上の高アスペクト比細孔の体積比率は9%であり、該高アスペクト比細孔の平均アスペクト比は42であった(いずれもFIB−SEMによる3D測定に基づく)。
【0132】
造孔材を加えたスラリー2に含まれる粒子の、断面積基準の累積粒度分布における累積15%径は3.0μmであった。また、造孔材を加えたスラリー2を用いて形成した上層コーティングは、SEM観察に基づくコーティングの厚さが37μmであり、水中重量法に基づくコーティングの空隙率は76%であった。コーティング中の全空隙に対するアスペクト比が5以上の高アスペクト比細孔の体積比率は9%であり、該高アスペクト比細孔の平均アスペクト比は40であった(いずれもFIB−SEMによる3D測定に基づく)。
【0133】
(4)実施例1:造孔材を使用して調製したS/Cと造孔材を使用せず調製したUF/Cを組み合わせた二触媒からなる排ガス浄化用触媒
スラリー1およびスラリー2の調製時に造孔材として直径(φ)2μm、長さ(L)80μmのPET繊維を、金属酸化物粒子の重量に対して3重量%さらに加えた以外は、比較例1と同様にして触媒を調製した。
【0134】
2.評価
(1)高Ga条件下でのNOx浄化性能評価
2AR−FEエンジン(トヨタ社製)に触媒を装着し、A/Fをストイキフィードバック制御し、吸入空気量を40g/s、S/C触媒へのガス流入温度を750℃、UF/C触媒へのガス流入温度を450℃となるよう調整して、NOx浄化性能を評価した。
【0135】
(2)耐久試験
1UR−FEエンジン(トヨタ社製)に触媒を装着し、1000℃(触媒床温)で25時間の劣化促進試験を実施した。その際の排ガス組成については、スロットル開度とエンジン負荷を調整し、リッチ域〜ストイキ〜リーン域を一定サイクルで繰り返すことにより、劣化を促進させた。耐久試験後の触媒に、ストイキ雰囲気(空燃比A/F=14.6)の排ガスを供給し、500℃まで昇温させた際に、NOx浄化率が50%となる温度(T50−NOx)を計測した。
【0136】
3.結果
図16は高Ga条件下におけるNOx浄化率の測定結果を示すグラフである。S/Cにのみ造孔材を使用して調製した実施例1の触媒は、NOx浄化性能において、高Ga条件下において、比較例1〜3の触媒よりも優れていた。このことから、ガス拡散の拡散性に大きな影響を与えるS/Cのガス拡散性を向上させることにより、S/Cの活性点の利用効率が向上したものと推察された。
【0137】
図17は耐久試験後の触媒において、NOx浄化率が50%となる温度(T50−NOx)を測定した結果を示すグラフである。触媒調製時の造孔材の使用により、触媒の耐熱性に差は出ないと判断された。
図1
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