(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243411
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】PC−O44:6−内臓脂肪過多のバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/92 20060101AFI20171127BHJP
G01N 27/62 20060101ALI20171127BHJP
G01N 24/08 20060101ALI20171127BHJP
G01R 33/32 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
G01N33/92 Z
G01N27/62 V
G01N24/08 510Q
G01N24/08 510D
G01N24/02 530K
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-516569(P2015-516569)
(86)(22)【出願日】2013年6月10日
(65)【公表番号】特表2015-523562(P2015-523562A)
(43)【公表日】2015年8月13日
(86)【国際出願番号】EP2013061874
(87)【国際公開番号】WO2013186149
(87)【国際公開日】20131219
【審査請求日】2016年4月8日
(31)【優先権主張番号】12171569.2
(32)【優先日】2012年6月12日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599132904
【氏名又は名称】ネステク ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】マーティン, フランソワ−ピエール
(72)【発明者】
【氏名】モントリウ ロウラ, アイヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ガイ, フィリップ アレクサンドル
(72)【発明者】
【氏名】レッジ, セルジュ アンドレ ドミニック
【審査官】
大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】
欧州特許出願公開第02249161(EP,A1)
【文献】
特開2011−257148(JP,A)
【文献】
特表2007−535951(JP,A)
【文献】
Werner Romisch-Margl et al.,Procedure for Tissue Sample Preparation and Metabolite Extraction for High-Throughput Targeted Metabolomics,Metabolomics,2012年,Vol.8,pp.133-142
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 − 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内臓脂肪過多及び/又は内臓脂肪過多の変化を検出及び/又は定量するためのバイオマーカーとしての、1−O−アルキル−2−アシルグリセロホスホコリン(PC−O)44:6の使用。
【請求項2】
対象の内臓脂肪過多を診断するための方法であって、
試験される対象から前もって得た体液試料中の1−O−アルキル−2−アシルグリセロホスホコリン(PC−O)44:6のレベルを決定するステップと、
前記対象のPC−O 44:6レベルを事前に決定された参照値と比較するステップとを含み、
前記事前に決定された参照値が、対照集団の同じ体液中の平均PC−O 44:6レベルに基づいており、
前記事前に決定された参照値と比較して前記試料中のPC−O 44:6レベルが低下している場合、内臓脂肪過多の増大が示唆される、方法。
【請求項3】
対象の内臓脂肪過多の変化を診断するための方法であって、
試験される対象から前もって得た体液試料中の1−O−アルキル−2−アシルグリセロホスホコリン(PC−O)44:6のレベルを決定するステップと、
前記対象のPC−O 44:6レベルを事前に決定された参照値と比較するステップとを含み、
前記事前に決定された参照値が、同じ対象から前もって得た同じ体液中のPC−O 44:6レベルに基づいており、
前記事前に決定された参照値と比較して前記試料中のPC−O 44:6レベルが低下している場合、内臓脂肪過多の増大が示唆される、方法。
【請求項4】
対象の内臓脂肪過多に対する生活様式の変化の効果を診断するための方法であって、
試験される対象から前もって得た体液試料中の1−O−アルキル−2−アシルグリセロホスホコリン(PC−O)44:6のレベルを決定するステップと、
前記対象のPC−O 44:6レベルを事前に決定された参照値と比較するステップとを含み、
前記事前に決定された参照値が、同じ対象から前もって得た同じ体液中のPC−O 44:6レベルに基づいており、
前記事前に決定された参照値と比較して前記試料中のPC−O 44:6レベルが上昇している場合、生活様式の変化が内臓脂肪過多に対して良い効果を与えたことが示唆される、方法。
【請求項5】
生活様式の変化が食事の変化である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
食事の変化が、以前に摂取されていないか、又は異なる量が摂取されていた少なくとも1つの栄養製品の使用である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
新しい栄養学的レジメンの有効性を試験するための、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
体液試料中のグルタミン、チロシン、PC−O 44:4、PC−O 42:4、PC−O 40:4、及びPC−O 40:3からなる群から選択される少なくとも1つの別のバイオマーカーのレベルを決定するステップと、
対象のグルタミン、チロシン、PC−O 44:4、PC−O 42:4、PC−O 40:4、及びPC−O 40:3の内の少なくとも1つのレベルを事前に決定された参照値と比較するステップとをさらに含み、
前記事前に決定された参照値が、正常な健康対照集団の体液試料中のグルタミン、チロシン、PC−O 44:4、PC−O 42:4、PC−O 40:4、及び/若しくはPC−O 40:3の平均レベル、又は同じ対象から前もって得た同じ体液中のグルタミン、チロシン、PC−O 44:4、PC−O 42:4、PC−O 40:4、及び/若しくはPC−O 40:3のレベルに基づいており、
前記事前に決定された参照値と比較して前記体液試料中のグルタミン及び/若しくはチロシンのレベルが上昇している場合、並びに/又はPC−O 44:6、PC−O 44:4、PC−O 42:4、PC−O 40:4、及び/若しくはPC−O 40:3のレベルが低下している場合、内臓脂肪過多の増大が示唆される、
請求項2〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
試料中及び参照中のバイオマーカーのレベルが、1H−NMR及び/又は質量分析によって決定される、請求項2〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
体液が血漿又は血清である、請求項2〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
内臓脂肪過多の程度が、過剰な内臓脂肪に関連する障害を発症する可能性を示す、請求項2〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
過剰な内臓脂肪に関連する障害が、心代謝疾患及び/又は代謝調節不全である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
正常な対象、過体重対象又は肥満対象において実施される、請求項2〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
対象がヒト又は伴侶動物である、請求項2〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
伴侶動物がネコ又はイヌである、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、一般には、バイオマーカーの分野に関する。特に、本発明は、例えば、内臓脂肪過多及び/又は内臓脂肪過多の変化を検出及び/又は定量するために使用され得る1−O−アルキル−2−アシルグリセロホスホコリン(PC−O)44:6などのバイオマーカーに関する。また、このバイオマーカーは、生活様式の変化が対象の内臓脂肪過多に与える効果を診断するのに使用されてもよい。
【0002】
特に子供の間で、過体重及び肥満の流行が継続的に拡大しているため、過体重及び肥満に関連するゲノム及びメタボロームの表現型の解読が、公衆衛生に関する最大級の課題となっている。栄養失調及び肥満は、ボディマス指数(BMI)に基づいて定義され、平均余命にかなりの悪影響を与えるが、BMIは、体組成を評価するにあたって相当な制限があり、疾患リスクを評価するための感度を欠いていることが明白である(Dulloo,A.G.ら(2010)Int.J.Obes.(Lond)34 補遺2、S4〜17)。Dulloらは、(i)体脂肪量(FM)指数(FM/H2)及び除脂肪量(FFM)指数(FFM/H2)へのBMIの分割、(ii)器官量及び骨格筋量へのFFMの分割、(iii)有害脂肪及び保護的脂肪へのFMの分割、並びに(iv)除脂肪体重を構成する器官/組織の内部又は周囲の脂肪組織の拡大能力と異所性脂肪沈着との相互作用を含めて、体組成表現型に関係する健康リスクに関する概念の最近の進歩を、最近、再調査した(Dulloo,A.G.ら(2010)Int.J.Obes.(Lond)34 補遺2、S4〜17)。
【0003】
ここ数十年の間に、最新技術を用いた多数の調査により、脂肪貯蔵及び肥満に関連する遺伝子及び転写因子(Viguerie,Nら(2005)Diabetologia 48、123〜131;Viguerie,Nら(2005)Biochimie 87、117〜123;Sorensen,T.I.ら(2006)PLoS.Clin.Trials 1、e12;Klannemark,M.ら、(1998)Diabetologia 41、1516〜1522;Clement,K.ら(2007)J.Intern.Med.262、422〜430)、遺伝的に受け継がれる性質(genetic inheritability)(Teran−Garcia,M.ら(2007)Appl.Physiol Nutr.Metab 32、89〜114)が特定されており、ヒト腸内微生物叢の肥満発生への影響を提唱している(Backhed,F.ら(2007)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 104、979〜984;Ley,R.ら(2006)Nature 444、1022〜1023;Turnbaugh,P.ら(2006)Nature 444、1027〜1031)。
【0004】
しかし、類似した肥満誘発性環境下及び糖尿病誘発性環境下で、多くの個体が依然として、代謝的に健康であり、肥満に関連した心血管疾患(CVD)リスクに耐性があるままである。肥満に関連付けられている疾患リスクはいつも一定ではないことがあるという認識に加えて(Wildman,R.P.ら(2008)Arch.Intern.Med.168、1617〜1624)、過体重状態及び肥満状態に固有であると以前は考えられていた心代謝異常を示す正常体重(ボディマス指数、BMI<25)の個体の数が増えている。より最近の証拠から、位置特異的な体組成が代謝疾患に対する個人的素因をどのように決定することができるかが示されており、体脂肪、特に内臓脂肪の分布と、心代謝障害、糖尿病、高血圧、非アルコール性脂肪性肝疾患、及び死亡のリスクの上昇との相互関係が示されている。
【0005】
内臓脂肪過多は、ウエスト測定値及びヒップ測定値を用いて臨床的に観察されており(例えば、男性の場合0.9より大きく、女性の場合0.85より大きく)、他方で、特に肥満集団において同様の制限を受けている。磁気共鳴画像法(MRI)及びコンピューター断層撮影(CT)スキャンを含めて、至適基準(gold standard)の画像化技術により、内臓脂肪蓄積物の位置特異的且つ高精度の定量が現在は作り出されている。しかし、内臓脂肪に関連する代謝の評価は、疫学的研究において使用できる非侵襲性で、迅速で、且つ信頼性が高いバイオマーカーがないこと、及び代謝の全体論的分析に適していない従来の分析手法の制限が原因で、特に困難なままである。
【0006】
体幹領域又はアンドロイド(android)領域に貯蔵される過剰脂肪は、ガイノイド(gynoid)部分に貯蔵される脂肪よりも代謝的に不健康である場合があり、インスリン抵抗性が、重要な原因となる機序である。したがって、個別化された栄養及び治療管理のために患者層別化が必要であるが、対象のウエスト・ヒップ比が同様であり、画像化施設の利用機会が限られている場合、患者層別化の適用は困難である。したがって、内臓脂肪の存在、内臓脂肪に関連する代謝、及び/又は内臓脂肪の変化を単純且つ信頼性が高い方法で評価することを可能にするバイオマーカーが切実に必要とされている。
【0007】
本発明者らは、このニーズに取り組んだ。
【0008】
したがって、最新技術を改善すること、並びに本発明の目的をかなえる、及び/又は本発明の最新技術の不都合な点の内の少なくとも1つを克服することを可能にするバイオマーカーを提供することが、本発明の目的であった。
【0009】
適切なバイオマーカーを同定するために、本発明者らは、メタボノミクス手法を用いた。
【0010】
メタボノミクスは、代謝表現型を特徴づけるための十分に確立されたシステム手法と現在考えられており、環境、薬物、食事、生活様式、遺伝的性質、及びミクロビオーム因子などの様々な因子の影響を含む。生理学的変化の潜在的可能性を示唆する遺伝子発現データ及びプロテオミクスデータとは違って、代謝産物並びに細胞、組織、及び器官内での代謝産物の動的濃度変化は、生理学的調節プロセスの本当の終点を表す。
【0011】
最近、メタボロミクス及びリピドミクスに基づく発見によって、疾患プロセスの理解が加速しており、代謝症候群に関連した無症状障害の予防及び栄養学的管理のための新規な手段が提供されるであろう。
【0012】
本発明者らは、位置特異的な体組成:内臓脂肪過多の包括的代謝表現型を提供することを目指した。これにより、内臓脂肪過多に特異的な生物学的マーカーを同定することが可能になった。
【0013】
本発明の研究において、内臓脂肪過多に関連する代謝は、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)を用いた体組成及びコンピューター断層撮影(CT)スキャンを用いた腹部脂肪分布のin vivo定量と組み合わせて様々な代謝終点の測定を用いて、健康な肥満女性40名のコホートにおいて調査された。
【0014】
プロトン核磁気共鳴(
1H NMR)分光法並びに血漿及び経時的に採取された24時間の尿試料のターゲット(targeted)LC−MS/MSプロファイルの組み合わせを用いて、本発明者らは、内臓脂肪沈着パターンが異なるこの明確に定義された肥満コホートにおいて、内臓脂肪分布の新規な代謝バイオマーカーを同定した。
【0015】
したがって、本発明者らは、新規なバイオマーカーであるPC−O 44:6を同定した。
【0016】
PC−Oは、1−O−アルキル−2−アシルグリセロホスホコリンである。
【0017】
個々の脂質種に次のようにコメントを付けた:[脂質クラス][炭素原子の総数]:[二重結合の総数]。例えば、PC 34:1とは、炭素原子34個及び二重結合1個を含むホスファチジルコリン種を示す。
【0018】
したがって、PC−O 44:6は、1−O−アルキル−2−アシルグリセロホスホコリン44:6である。
【0019】
本発明者らは、PC−O 44:6が内臓脂肪過多及び/又は内臓脂肪過多の変化を検出及び/又は定量するためのバイオマーカーとして使用されてもよいことをさらに発見した。この診断法は、ヒト又は動物の体外で実践される。
【0020】
バイオマーカーのこの検出及び/又は定量は、生体液中で実施されてもよい。生体液は、例えば、血液、血漿、血清、又は尿であることができる。
【0021】
典型的には、バイオマーカーの検出及び/又は定量のステップは、試験される対象から前もって得た体液試料中で実施される。
【0022】
内臓脂肪は、腹部脂肪、器官脂肪、又は腹腔内脂肪としても公知であり、器官の中間の腹腔内部に位置している。
【0023】
内臓脂肪は、心外膜脂肪組織並びに肝臓及び胃の周辺の脂肪だけでなく、腸間膜、精巣上体白色脂肪組織(EWAT)、及び腎周囲の蓄積物を含むいくつかの脂肪性蓄積物から構成されることができる。典型的には、腹部の脂肪は主に内臓のものであり、有名な「ビール腹」が結果として起こることが多い。
【0024】
内臓脂肪が多すぎると中心性肥満になり、中心性肥満はさらには、例えば、心血管障害、2型糖尿病、インスリン抵抗性、又は炎症性疾患に関係があるとされている。これらは、過剰な内臓脂肪に関連付けられている障害の例である。
【0025】
また、本発明は、対象の内臓脂肪過多を診断する方法であって、試験される対象から前もって得た体液試料中の1−O−アルキル−2−アシルグリセロホスホコリン(PC−O)44:6のレベルを決定するステップと、対象のPC−O 44:6レベルを事前に決定された参照値と比較するステップとを含み、事前に決定された参照値が、対照集団の同じ体液中の平均PC−O 44:6レベルに基づいており、事前に決定された参照値と比較して試料中のPC−O 44:6レベルが低下している場合、内臓脂肪過多の増大が示唆される、方法にも関する。
【0026】
内臓脂肪過多は、心外膜脂肪組織並びに肝臓及び胃の周辺の脂肪だけでなく、腸間膜、精巣上体白色脂肪組織及び/又は腎周囲の脂肪を含むことがある。
【0027】
体液は、例えば、血液、血清、血漿、又は尿であることができる。
【0028】
血清及び/又は血漿は、試験されるバイオマーカーに関する信号対雑音比が特に高いという利点を有している。
【0029】
尿は、非侵襲的に体液試料を得ることができるという利点を有している。
【0030】
選択された体液にかかわらず、本発明の方法は、対象に由来するそのような体液を得ることが十分に確立された手順であるという利点を有している。
【0031】
次いで、実際の診断方法が、体外の体液試料中で実施される。
【0032】
試料中のPC−O 44:6のレベルは、当技術分野において公知である任意の手段によって検出及び定量することができる。例えば、質量分析法、例えばUPLC−ESI−MS/MSが使用されてもよい。他の分光学的方法、クロマトグラフィー法、標識技術、又は定量的化学的方法などの他の方法も同様に使用することができる。
【0033】
理想的には、試料中のPC−O 44:6レベル及び参照値は、同じ方法によって決定される。
【0034】
事前に決定された参照値は、対照集団の試験された体液中の平均PC−O 44:6レベルに基づいていてもよい。対照集団は、遺伝的背景、年齢、及び平均的健康状態が類似している少なくとも3名、好ましくは少なくとも10名、より好ましくは少なくとも50名の人からなる群であり得る。
【0035】
また、対照集団は同じ人であることもでき、したがって、事前に決定された参照値は、同じ対象から前もって得られる。このようにすることにより、例えば、内臓脂肪過多に対する影響について現在の生活様式と以前の生活様式を直接的に比較することが可能になり、改善を直接的に評価することができる。
【0036】
内臓脂肪肥満の決定により、内臓脂肪肥満の存在及び関連障害を生じるリスクについて推断することが可能になる。
【0037】
また、本発明の主題は、対象の内臓脂肪過多の変化を診断する方法であって、試験される対象から前もって得た体液試料中のPC−O 44:6のレベルを決定するステップと、対象のPC−O 44:6レベルを事前に決定された参照値と比較するステップとを含み、事前に決定された参照値が、同じ対象から前もって得た同じ体液中のPC−O 44:6レベルに基づいており、事前に決定された参照値と比較して試料中のPC−O 44:6レベルが低下している場合、内臓脂肪過多の増大が示唆される、方法にも関する。
【0038】
この方法により、経時的に内臓脂肪の蓄積又は減少を追跡することが可能になり、その結果として、内臓脂肪過多に関連する障害を発症するリスクの上昇又は低下に関する推断が可能になる。
【0039】
リスクの推断が可能になることには、例えば、内臓脂肪の実際の増加又は減少を決定できるようになるずっと前に、即時の結果が入手可能であるという利点がある。この利点は、内臓脂肪を減少させることを目指している人々の動機付けのために特に好適である。とりわけ、内臓脂肪の減少は、激しい運動をしばしば必要とする難しい作業である。Ohkawaraらは、有効な内臓脂肪減少のためには、少なくとも10代謝当量(MET)時間/週の有酸素運動が必要とされると提唱している(Ohkawara,K.ら、(2007)、International journal of obesity(2005)31(12):1786〜1797)。
【0040】
また、本発明は、対象の内臓脂肪過多に対する生活様式の変化の効果を診断する方法であって、試験される対象から前もって得た体液試料中のPC−O 44:6のレベルを決定するステップと、対象のPC−O 44:6レベルを事前に決定された参照値と比較するステップとを含み、事前に決定された参照値が、同じ対象から前もって得た同じ体液中のPC−O 44:6レベルに基づいており、事前に決定された参照値と比較して試料中のPC−O 44:6レベルが低下している場合、生活様式の変化が内臓脂肪過多に対して良い効果を与えたことが示唆される、方法にも関する。
【0041】
この方法には、内臓脂肪量及び関連障害のリスクに対する生活様式変化の効果を観察することを可能にするという効果がある。
【0042】
生活様式の変化は、新しい仕事、異なるストレスレベル、新しい関係、身体活動の増加若しくは減少、及び/又は全体的な幸福感(wellbeing)の変化など任意の変化であることができる。
【0043】
例えば、生活様式の変化は、食事の変化であってもよい。
【0044】
食事の変化は、炭水化物、脂質、及び/又はタンパク質の含有量の増加又は減少であってもよい。例えば、食事の変化は、地中海沿岸特有の食事など異なる地域の食事への切り換えであってもよい。また、食事の変化は、カロリーの総摂取量の変化であってもよい。
【0045】
したがって、本発明の方法は、新しい栄養学的レジメン、栄養製品、及び/又は医薬の有効性を試験するのに使用されることができる。
【0046】
栄養製品は、例えば、体脂肪、体重管理、及び/又は内臓脂肪に対して効果を有していると主張する製品であってもよい。
【0047】
典型的には、栄養製品は、食料製品、飲料、ペット用食料製品、栄養補助食品、機能性食品、食品添加物、又は栄養学的配合物(formula)であることができる。
【0048】
例えば、食事の変化は、以前は摂取されなかったか、又は異なる量が摂取されていた少なくとも1つの栄養製品の使用であってもよい。
【0049】
したがって、本発明の方法は、新しい栄養学的レジメン及び/又は栄養製品の有効性を試験するのに使用されることができる。
【0050】
PC−O 44:6は、本発明の目的のためのただ1つのマーカーとして使用されることができる。
【0051】
唯一のマーカーとしてのPC−O 44:6は、本発明の診断方法のための道具として有効であるが、ただ1つではない複数のマーカーに診断が依拠する場合、前記診断の質及び/又は予知力は改善されると考えられる。
【0052】
したがって、対象の内臓脂肪過多及び/又は関連障害に対するリスクを診断するための1つ又は複数の他のマーカーが、PC−O 44:6と組み合わせて使用されてもよい。
【0053】
本発明者らは、他のバイオマーカーもまた、内臓脂肪過多及び/又は関連障害に対するリスクの診断を検出するのに使用できることがわかり驚いた。
【0054】
したがって、本発明者らは、PC−O 44:6、PC−O 44:4、PC−O 42:4、PC−O 40:4、及び/若しくはPC−O 40:3の体液中濃度の低下;並びに/又はチロシン及び/若しくはグルタミンの体液中濃度の上昇から、内臓脂肪量の増加及び/又は過剰な内臓脂肪に関連する障害を発症するリスクの上昇を診断できることを特定した。
【0055】
逆に、PC−O 44:6、PC−O 44:4、PC−O 42:4、PC−O 40:4、及び/若しくはPC−O 40:3の体液中濃度の上昇;並びに/又はチロシン及び/若しくはグルタミンの体液中濃度の低下から、内臓脂肪量の減少及び/又は過剰な内臓脂肪に関連する障害を発症するリスクの低下を診断することができる。
【0056】
したがって、本発明の方法は、体液試料中のグルタミン、及び/又はチロシン、PC−O 44:4、PC−O 42:4、PC−O 40:4、及び/又はPC−O 40:3からなる群から選択される少なくとも1つの別のバイオマーカーのレベルを決定するステップと、対象のグルタミン、及び/又はチロシン、PC−O 44:4、PC−O 42:4、PC−O 40:4、及び/又はPC−O 40:3の内の少なくとも1つのレベルを事前に決定された参照値と比較するステップとをさらに含んでもよく、事前に決定された参照値が、正常な健康対照集団の体液試料中のグルタミン、チロシン、PC−O 44:4、PC−O 42:4、PC−O 40:4、及び/若しくはPC−O 40:3の平均レベル、又は同じ対象から前もって得た同じ体液中のグルタミン、チロシン、PC−O 44:4、PC−O 42:4、PC−O 40:4、及び/若しくはPC−O 40:3のレベルに基づいており、事前に決定された参照値と比較して体液試料中のグルタミン及び/若しくはチロシンのレベルが上昇している場合、並びに/又はPC−O 44:6、PC−O 44:4、PC−O 42:4、PC−O 40:4、及び/若しくはPC−O 40:3のレベルが低下している場合、内臓脂肪過多の増大が示唆される。
【0057】
本発明の方法は、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、又は少なくとも7個のバイオマーカーの評価を含んでもよい。
【0058】
例えば、PC−O 44:6は、PC−O 44:4と一緒に評価されてもよい。
【0059】
また、PC−O 44:6は、PC−O 42:4と一緒に評価されてもよい。
【0060】
また、PC−O 44:6は、PC−O 40:4と一緒に評価されてもよい。
【0061】
また、PC−O 44:6は、PC−O 40:3と一緒に評価されてもよい。
【0062】
また、PC−O 44:6は、PC−O 44:4及びPC−O 42:4と一緒に評価されてもよい。
【0063】
また、PC−O 44:6は、PC−O 44:4、PC−O 42:4、及びPC−O 40:4と一緒に評価されてもよい。
【0064】
また、PC−O 44:6は、PC−O 44:4、PC−O 42:4、及びPC−O 40:3と一緒に評価されてもよい。
【0065】
また、PC−O 44:6は、PC−O 44:4、PC−O 42:4、PC−O 40:3、及びPC−O 40:4と一緒に評価されてもよい。
【0066】
また、PC−O 44:6は、PC−O 44:4、PC−O 42:4、PC−O 40:3、PC−O 40:4、及びグルタミンと一緒に評価されてもよい。
【0067】
また、PC−O 44:6は、PC−O 44:4、PC−O 42:4、PC−O 40:3、PC−O 40:4、グルタミン、及びチロシンと一緒に評価されてもよい。
【0068】
複数のバイオマーカーを評価する利点は、判断されるバイオマーカーの数が多いほど、診断の信頼性が高くなることである。例えば、1、2、3、4、5、6、又は7個より多いバイオマーカーが前述した濃度の上昇又は低下を呈する場合、内臓肥満の有無及び程度、並びに関連障害に対するリスクの予知力は、より強い。
【0069】
このことに基づき、本発明者らは、内臓脂肪過多及び関連障害を発症するリスクを予測するのに使用され得るさらに別のバイオマーカーを同定した。
【0070】
例えば、前もって得た対応する参照値と比較して、体液中のフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、パルミトイルカルニチン(C16)、カプロイルカルニチン(C10) オクテノイルカルニチン(C8:1) リゾホスファチジルコリン(LPC)24:0、ホスファチジルコリン(PC)PC 30:0、及び/若しくはPC 34:4の濃度が上昇している場合、又は体液中のPC−O 34:1、PC−O 34:2、PC−O 36:2、PC−O 36:3、PC−O 40:6、PC−O 42:2、PC−O 42:3、PC−O 44:3、PC−O 44:5、PC 42:0、及び/若しくはPC 42:2の濃度が低下している場合、内臓脂肪過多の増大及び関連障害に対するリスクの上昇が示唆されることが判明した。
【0071】
PCは、ホスファチジルコリンである。LPCは、リゾホスファチジルコリンである。Cは、アシルカルニチンである。
【0072】
逆に、前もって得た対応する参照値と比較して、体液中のフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、C10(デカノイルカルニチン)、C16(パルミトイルカルニチン)、C8:1(オクテノイル−カルニチン) LPC 24:0、PC 30:0、及び/若しくはPC 34:4の濃度が低下している場合、又は体液中のPC−O 34:1、PC−O 34:2、PC−O 36:2、PC−O 36:3、PC−O 40:6、PC−O 42:2、PC−O 42:3、PC−O 44:3、PC−O 44:5、PC 42:0、及び/若しくはPC 42:2の濃度が上昇している場合、内臓脂肪過多の低減及び関連障害に対するリスクの低下が示唆される。
【0073】
したがって、本発明の方法は、体液試料中のフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、C10(デカノイルカルニチン)、C16(パルミトイルカルニチン)、C8:1(オクテノイル−カルニチン)、LPC 24:0、PC 30:0、PC 34:4、PC−O 34:1、PC−O 34:2、PC−O 36:2、PC−O 36:3、PC−O 40:6、PC−O 42:2、PC−O 42:3、PC−O 44:3、PC−O 44:5、PC 42:0、及び/又はPC 42:2からなる群から選択される少なくとも1つの別のバイオマーカーのレベルを決定するステップと、対象のフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、C10、C16、C8:1、カルニチン、LPC 24:0、PC 30:0、PC 34:4、PC−O 34:1、PC−O 34:2、PC−O 36:2、PC−O 36:3、PC−O 40:6、PC−O 42:2、PC−O 42:3、PC−O 44:3、PC−O 44:5、PC 42:0、及び/又はPC 42:2の内の少なくとも1つのレベルを事前に決定された参照値と比較するステップとをさらに含んでもよく、事前に決定された参照値が、正常な健康対照集団の体液試料中のフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、C10、C16、C8:1、カルニチン、LPC 24:0、PC 30:0、PC 34:4、PC−O 34:1、PC−O 34:2、PC−O 36:2、PC−O 36:3、PC−O 40:6、PC−O 42:2、PC−O 42:3、PC−O 44:3、PC−O 44:5、PC 42:0、及び/若しくはPC 42:2の平均レベル、又は同じ対象から前もって得た同じ体液中のフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、C10(デカノイルカルニチン)、C16(パルミトイルカルニチン)、C8:1(オクテノイル−カルニチン)、LPC 24:0、PC 30:0、PC 34:4、PC−O 34:1、PC−O 34:2、PC−O 36:2、PC−O 36:3、PC−O 40:6、PC−O 42:2、PC−O 42:3、PC−O 44:3、PC−O 44:5、PC 42:0、及び/若しくはPC 42:2のレベルに基づいており、事前に決定された参照値と比較して体液中のフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、C10、C16、C8:1、カルニチン、LPC 24:0、PC 30:0、及び/若しくはPC 34:4のレベルが上昇している場合、並びに/又は体液試料中のPC−O 34:1、PC−O 34:2、PC−O 36:2、PC−O 36:3、PC−O 40:6、PC−O 42:2、PC−O 42:3、PC−O 44:3、PC−O 44:5、PC 42:0、及び/又はPC 42:2のレベルが低下している場合、内臓脂肪過多の増大が示唆される。
【0074】
内臓脂肪過多が増大すると、過剰な内臓脂肪に関連する障害を発症するリスクが上昇する。
【0075】
その結果として、本発明の方法において、内臓脂肪過多の程度が、過剰な内臓脂肪に関連する障害を発症する可能性の指標として使用されることができる。
【0076】
また、内臓脂肪過多の変化は、過剰な内臓脂肪に関連する障害を発症する可能性の上昇又は低下の指標として使用されることもできる。
【0077】
内臓脂肪過多に関連する障害は、例えば、心代謝障害である。
【0078】
したがって、本発明の方法は、心代謝障害を発症するリスクを決定するのに使用されることができる。
【0079】
内臓脂肪過多に関連するその他の障害は、例えば、代謝調節不全(deregulation)である。典型的な代謝調節不全は、下記の肥満、インスリン抵抗性、2型糖尿病、代謝症候群、血管疾患(高血圧、冠動脈心疾患)、代謝性肝疾患における脂肪性肝炎、リポジストロフィー、肺機能、炎症性障害、及び肥満に関係した他の障害である。
【0080】
本発明の方法は、任意の対象を用いて実施することができる。
【0081】
本発明の方法は、内臓脂肪過多及び/又は内臓脂肪過多に関連する障害を発症するリスクがある対象において実施できることが有利である。
【0082】
例えば、本発明の方法は、正常な対象、過体重対象又は肥満対象を用いて実施されることができる。
【0083】
成人のヒトの場合、BMIが25〜30の間である場合に「過体重」と定義される。「ボディマス指数」又は「BMI」とは、体重(単位:kg)を身長(単位:m)の2乗で割った比率を意味する。「肥満」とは、動物、特にヒト及び他の哺乳動物の脂肪組織中に貯蔵される、天然のエネルギーの蓄えが、特定の健康状態又は死亡率上昇に関連する点まで増加している状態である。成人のヒトの場合、30より大きいBMIを有する場合に「肥満」と定義される。
【0084】
PC−O 44:6及び場合によっては他のバイオマーカーの参照値は、試験対象から得られるPC−O 44:6及び場合によっては他のバイオマーカーのレベルを特徴づけるのに使用されるのと同じ単位を用いて測定されることが好ましい。しがって、PC−O 44:6及び場合によっては他のバイオマーカーのレベルが、μmol/l(μM)で表されるPC−O 44:6単位のような絶対値(absolute value)である場合、参照値も、一般集団又は対象の選択された対照集団の個体においてμmol/l(μM)で表されるPC−O 44:6単位に基づいている。
【0085】
さらに、参照値は、中央値又は平均値などの単一のカットオフ値であってもよい。平均レベル、中央値レベル、又は「カットオフ」レベルなど、得られた体液試料中のPC−O 44:6及び場合によっては他のバイオマーカーの参照値は、参照により本明細書に組み入れられるKnapp,R.G.及びMiller,M.C.(1992).Clinical Epidemiology and Biostatistics.William及びWilkins、Harual Publishing Co. Malvern、Pa.において説明されているようにして、一般集団又は選択された集団の個体の大量試料を分析し、陽性判定基準を選択するための予測値による方法又は最適な特異性(真陰性率が最大)及び最適な感度(真陽性率が最大)を定める受信者動作特性曲線などの統計学的モデルを用いることによって、確立することができる。
【0086】
参照値は、例えば、性別、人種、遺伝形質、健康状態、又は年齢によって変動するが、当業者(skilled artesians)なら、正確な参照値を割り付ける方法を知っていると考えられる。
【0087】
例として、本発明者らは、例えば血漿(bood plasma)などの体液において、肥満ヒト成人対象及び正常ヒト成人対象の典型的な参照値を決定した。
【0088】
その結果として、肥満対象の事前に決定された平均参照値は、以下であり得る:
チロシンについては、体液中約68.71μM、
グルタミンについては、体液中約662.67μM、
PC−O 44:6については、体液中約1.47μM、
PC−O 44:4については、体液中約0.84μM、
PC−O 42:4については、体液中約1.27μM、
PC−O 40:4については、体液中約2.65μM、
PC−O 40:3については、体液中約1.37μM、
フェニルアラニンについては、体液中約52.97μM、
ロイシン+イソロイシンについては、体液中193.56μM、
C10については、体液中約0.19μM、
C16については、体液中約0.06μM、
C8:1については、体液中約0.03μM、
LPC 24:0については、体液中約0.25μM、
PC 30:0については、体液中約4.18μM、
PC 34:4については、体液中約1.11μM、
PC−O 34:1については、体液中約9.84μM、
PC−O 34:2については、体液中約11.49μM、
PC−O 36:2については、体液中約11.79μM、
PC−O 36:3については、体液中約7.20μM、
PC−O 40:6については、体液中約3.68μM、
PC−O 42:2については、体液中約0.56μM、
PC−O 42:3については、体液中約0.89μM、
PC−O 44:3については、体液中約0.21μM、
PC−O 44:5については、体液中約2.17μM、
PC 42:0については、体液中約0.56μM、
PC 42:2については、体液中約0.22μM。
【0089】
正常対象において、事前に決定された平均参照値は、以下であり得る:
チロシンについては、体液中約75.00μM、
グルタミンについては、体液中約748.27μM、
PC−O 44:6については、体液中約1.21μM、
PC−O 44:4については、体液中約0.50μM、
PC−O 42:4については、体液中約1.12μM、
PC−O 40:4については、体液中約3.24μM、
PC−O 40:3については、体液中約2.10μM、
フェニルアラニンについては、体液中約49.17μM、
ロイシン+イソロイシンについては、体液中197.52μM、
C10については、体液中約0.29μM、
C16については、体液中約0.09μM、
C8:1については、体液中約0.04μM、
LPC 24:0については、体液中約0.77μM、
PC 30:0については、体液中約4.10μM、
PC 34:4については、体液中約1.42μM、
PC−O 34:1については、体液中約8.20μM、
PC−O 34:2については、体液中約9.26μM、
PC−O 36:2については、体液中約12.67μM、
PC−O 36:3については、体液中約5.83μM、
PC−O 40:6については、体液中約4.45μM、
PC−O 42:2については、体液中約0.82μM、
PC−O 42:3については、体液中約1.08μM、
PC−O 44:3については、体液中約0.22μM、
PC−O 44:5については、体液中約1.82μM、
PC 42:0については、体液中約0.65μM、
PC 42:2については、体液中約0.35μM。
【0090】
本発明の方法を用いて試験される対象は、例えば、ヒト又は動物、特に哺乳動物であることができる。典型的な動物は、例えば、愛玩動物のネコ又はイヌなどの伴侶動物であることができる。
【0091】
当業者は、開示される本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書において説明する本発明のすべての特性を自由に組み合わせることができることを理解するであろう。特に、本発明の方法に関して説明される特性は、本発明の他の方法及び使用に適用されることができ、逆もまた同様である。
【0092】
本発明の他の利点及び特性は、以下の実施例及び図面から明らかである。
【0093】
表1は、コンピューター断層撮影によって測定された腹腔内脂肪/腹部脂肪比の常用対数(log
10)値に基づいて評価される内臓脂肪含有量に基づいて4つの四分位数に層別化された募集コホートの臨床的特徴を示す。値は、平均値(±SD)として提示されている。ALAT=アラニンアミノトランスフェラーゼ、ASAT=アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、BMI=ボディマス指数、GGT=γ−グルタミルトランスペプチダーゼ、HDL−C=高比重リポタンパク質コレステロール、HOMA−IR=インスリン抵抗性のホメオスタシスモデル評価、LDL−C=低密度リポタンパク質コレステロール、MAP=平均動脈圧、NEFA=非エステル型脂肪酸、TG=トリグリセリド。
【0094】
表2は、コンピューター断層撮影によって測定された腹腔内脂肪/腹部脂肪比の常用対数(log
10)値に基づいて評価された内臓脂肪含有量に基づく4つの四分位数のそれぞれについて平均値(±SD)として提示された代謝産物濃度を示す。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【
図1】(四角印を用いて特定したように)内臓脂肪過多に関連する代謝パターンを特定するためにランダムフォレスト解析を用いた、
1H NMR血漿プロファイルの統計学的再構成(statistical reconstruction)を示す図である。GPC=グリセロリン脂質、PUFA=多価不飽和脂肪酸、UFA=不飽和脂肪酸。
【
図2】ランダムフォレスト解析によって評価された、内臓脂肪肥満を予測するにあたっての代謝産物の重要性及び頑健性を示す図である。n=10000のランダムフォレスト生成の後の、統合平均(pooled mean)精度の低下。変数の重要度が高いほど、対応する統合平均精度の低下の値は大きい。
【
図3-1】選択された各代謝産物について、内臓脂肪が多い対象と内臓脂肪が少ない対象とでの代謝産物の差を示す図である。データは、コンピューター断層撮影によって測定された腹腔内脂肪体積の常用対数(log
10)値によって評価された内臓脂肪含有量に基づく各四分位数についてプロットされている。1=四分位数1、2=四分位数2、3=四分位数3、4=四分位数4。
【
図3-2】選択された各代謝産物について、内臓脂肪が多い対象と内臓脂肪が少ない対象とでの代謝産物の差を示す図である。データは、コンピューター断層撮影によって測定された腹腔内脂肪体積の常用対数(log
10)値によって評価された内臓脂肪含有量に基づく各四分位数についてプロットされている。1=四分位数1、2=四分位数2、3=四分位数3、4=四分位数4。
【
図3-3】選択された各代謝産物について、内臓脂肪が多い対象と内臓脂肪が少ない対象とでの代謝産物の差を示す図である。データは、コンピューター断層撮影によって測定された腹腔内脂肪体積の常用対数(log
10)値によって評価された内臓脂肪含有量に基づく各四分位数についてプロットされている。1=四分位数1、2=四分位数2、3=四分位数3、4=四分位数4。
【実施例】
【0096】
対象及び実験計画
臨床試験は、Centre Hospitalier Universitaire Vaudois(CHUV、Lausanne、Switzerland)において健康な肥満白人女性40名に対して実行した観察研究であった。研究プロトコールは、CHUVに設置された独立の倫理委員会によって承認された。参加者は、BMIが28〜40の間であり、年齢が25〜45歳の間であり、代謝疾患の特徴(2型糖尿病、心血管疾患、又は代謝症候群)を示していなかった。結果として生じる生物試料(血漿及び24時間の尿試料)を、メタボローム解析を行うまで−80℃で貯蔵した。
【0097】
体組成評価
全身スキャンを行って、腹部脂肪分布及び全身組成の両方を測定した。全身スキャンは、装置によって自動的に決定されるスキャンモードを用いてGE Lunar iDXAシステム(ソフトウェアのバージョン:enCOREバージョン12.10.113)において行った。DXA測定のために、対象は全員、病衣を着用し、金属加工品はすべて取り外していた。iDXAユニットは、GE Lunar較正用ファントムを用いて毎日較正した。訓練された操作者が、患者位置決め及びデータ取得のための操作者用マニュアルに従って、すべてのスキャンを行った。1時間の予約時間の間に、各対象の全身スキャンを2回、各スキャンの間に再度位置決めして行った。enCOREソフトウェア(バージョン14.00.207)を用いて、スキャン画像を解析した。全身、腕、脚、胴、アンドロイド領域、及びガイノイド領域のROIは、enCOREソフトウェアによって自動的に決定された(自動ROI)。また、経験を積んだDXA操作者は、ROI配置を検証し、必要である場合には、再度位置決めした(熟練者ROI)。iDXAスキャンに加えて、ウエスト及びヒップの測定も行った。
【0098】
CT測定は、64列多検出器CTスキャナー(VCT Lightspeed、GE Medical Systems、Milwaukee、USA)を用いて行った。対象は、腕を頭上に伸ばし脚をクッションで持ち上げて、仰臥位で横になった。L4−L5椎骨のレベルで腹部の1つのスキャン画像(10mm)を取得し、平方センチメートルで示される脂肪組織断面積を解析した。次の取得パラメーターを用いた:120Kv、100〜200mA、z軸線量調節、及び視野500mm。標準カーネルを用いて、スライス厚5mmの体軸横断画像を再構成する。定量プロセスは、Advantage Windowワークステーション(GE Medical Systems)上で、皮下脂肪及び腹腔内脂肪を区分するための市販の半双方向アルゴリズムを使用する。
【0099】
臨床化学。
通常の実験室的方法を用いて、血漿全体、HDLコレステロール及びLDLコレステロール、トリグリセリド、尿酸塩、クレアチニン、ナトリウム濃度及びカリウム濃度、ALAT、ASAT、GGT、グルコース、非エステル型脂肪酸、インスリン、並びに平均動脈血圧(MAP)を決定した。以前に説明されている式(Mathewsら、1985)、すなわち、インスリン(μU/mL)×グルコース(mmol/L)/22.5に従って、インスリン抵抗性のホメオスタシスモデル評価(HOMA−IR)としてインスリン抵抗性状態を評価した。
【0100】
試料調製及び
1H−NMR分光学的解析
重水素化リン酸緩衝液(最終濃度0.2MのKH2PO4)200μLを入れた5mm NMRチューブにヘパリン血漿試料(400μL)を導入した。重水素は、ロック物質として使用した。代謝プロファイルは、300Kで、5mm極低温インバースプローブを装備されたBruker Avance III 600MHz分光計(Bruker Biospin、Rheinstetten、Germany)を用いて測定した。水抑制を用いた標準的な
1H−NMR一次元パルスシーケンス(RD=4秒)、水抑制を用いたカー・パーセル・マイボーム・ギル(CPMG)スピンエコーシーケンス(RD=4秒)、及び拡散修正(diffusion−edited)シーケンス(RD=4秒)を、各血漿試料について取得した。各一次元実験について、98Kのデータポイントを用いてスキャン画像32枚を集めた。フーリエ変換の前に、TOPSPIN(バージョン2.1、Bruker、Germany)ソフトウェアパッケージを用いて、
1H−NMRスペクトルを処理した。取得したNMRスペクトルを手動で位相補正(phased)及びベースライン補正し、血漿スペクトルの場合、δ5.2396でのα−グルコースのアノマープロトンの化学シフトを基準とした。特定の代謝産物への
1H−NMR共鳴の割付は、施設内で作成した本発明者らの純粋化合物NMRデータベースと照合し、文献データ(Fan,T.W.(1996)Progress in Nuclear Magnetic Resonance Spectroscopy 28、161〜219;Nicholson,J.K.ら(1995)Anal.Chem.67、793〜811)を用いることによって達成した。代謝産物同定は、2D
1H−
1H相関分光法(COrrelation SpectroscopY)(COSY)(Hurd,R.E.(1990)J.Magn.Reson.87、422〜428)、
1H−
1H全相関分光法(TOtal Correlation SpectroscopY)(TOCSY)(Bax,A.及びDavis(1985)J.Magn.Reson.65、355〜360)、及び
1H−
13C異核種単一量子相関(Heteronuclear Single Quantum Correlation)(HSQC)(Bodenhausen,G.及びRuben(1980)Chemical Physics Letters 69、185〜189)NMR技術によって確認した。
【0101】
Biocrates Life Sciences製Absolute IDQ(商標)キットによる解析のための試料調製
以前に公開されているようにして(Romisch−Margl,W.、C.Prehn、R.Bogumil、C.Rohring、K.Suhre、J.Adamski、Procedure for tissue sample preparation and metabolite extraction for high−throughput targeted metabonomics. Metabonomics、2011。最初にオンライン出版)、Biocrates Life Sciences製Absolute IDQ(商標)キットをEDTA血漿試料のために使用した。ウェルプレートの準備並びに試料の適用及び抽出は、製造業者の取扱い説明書に従って実施した。最終体積10μlの血漿を、同位体で標識した内部標準を含有する用意された96ウェルプレートに載せた。エレクトロスプレーイオン化法(ESI)モードで作働するTurboVイオンソースを取り付けられた3200 Q TRAP質量分析計(AB Sciex;Foster City、CA、USA)に連結されたDionex Ultimate 3000超高圧液体クロマトグラフィー(UHPLC)システム(Dionex AG、Olten、Switzerland)を用いて、液体クロマトグラフィーを実現した。0〜2.4分:30μl/分、2.4〜2.8分:200μl/分、2.9〜3分:30μl/分という流速勾配を用いて直接的に注入することによって、試料抽出物(20μl)を2回(正のESIモード及び負のESIモードで)注入した。MSソースパラメーターは次のように設定した:脱溶媒和温度(TEM):200℃、高電圧:−4500V(ESI−)、5500V(ESI+)、カーテン(CUR)ガス及びネブライザーガス(GS1及びGS2):窒素;それぞれ20、40、及び50psi、窒素衝突ガス圧:5mTorr。MS/MS取得は、アッセイでスクリーニングした163種の代謝産物に対して最適化されたデクラスタリング電位の値を用いて、スケジュール化された反応モニタリング(SRM)モードで実現した。生データファイル(Analystソフトウェア、バージョン1.5.1;AB Sciex、Foster City、CA、USA)を、提供される解析ソフトウェアMetIQに取り込ませて、代謝産物濃度を算出した。検出可能な代謝産物すべてのリストは、Biocrates Life Sciences、Austria(http://biocrates.com)から入手可能である。
【0102】
多変量データ解析
血漿NMRスペクトルを、施設内で開発したMATLABルーチンを用いて、δ4.68〜5.10の間の水残基シグナルを除いてδ0.2〜10.0の範囲に渡る22Kのデータポイントに変換した。計量化学解析の前に、化学シフト強度を指定範囲内の全強度の合計に対して標準化した。ソフトウェアパッケージSIMCA−P+(バージョン12.0.1、Umetrics AB、Umea、Sweden)及び施設内で開発したMATLAB(The MathWorks Inc.、Natick、MA、USA)ルーチンを用いて、計量化学解析を行った。代謝プロファイル間の類似性の存在を検出するために、主成分分析(PCA)(Wold,S.ら(1987)Chemom.Intell.Lab.Syst.2、37〜52)、潜在的構造投影方法(Projection to Latent Structures)(PLS)(Wold,S.ら(1987)PLS Meeting、Frankfurt)、及び潜在的構造垂直投影方法(Orthogonal Projection to Latent Structures)(O−PLS)(Trygg,J.及びWold(2003)J.Chemom.17、53〜64)を使用した。七重交差検証を用いて、モデルの妥当性を評価した(Cloarec,O.ら(2005)Anal.Chem.77、517〜526)。七重交差検証サイクルにおいて、予測される試料からO−PLS−DAモデルの分類精度を確立した。
【0103】
ターゲットMSのデータは、R環境(R Development Core Team(2011).R: A language and environment for statistical computing. R Foundation for Statistical Computing、Vienna、Austria. ISBN 3−900051−07−0、URL http://www.R−project.org/.)で動くパッケージ「ランダムフォレスト(randomForest)」(A.Liaw及びM.Wiener(2002).Classification and Regression by randomForest. R News2(3)、18〜22.)を用いることにより、ランダムフォレストによって解析した。確認のための単変量有意性検定も、Rにおいて行った。
【0104】
内臓脂肪過多の分布が正常ではないため、後続のメタボロミクス解析には次のパラメーターを使用した:内臓脂肪含有量、腹腔内脂肪/皮下脂肪比(比1)、又は腹腔内脂肪/腹部脂肪比(比2)の対数変換値。
【0105】
コホートの人体計測的特徴及び生化学的特徴は、CTを用いて測定された腹腔内脂肪/腹部脂肪比(比2)の常用対数(log
10)値に基づく4つの四分位数(Q1〜4、n=10)への層別化に従って、表1に示している。(Q1)と比較して、内臓脂肪過多の程度が元も高い(Q4)対象の方が、空腹時血糖(p<0.10)及びインスリン(p<0.05)、並びにHOMA−IR(p<0.05)が高かった。内臓脂肪過多に基づいて対象を層別化するには、腹腔内脂肪/皮下脂肪比又は腹腔内脂肪/腹部脂肪比の対数変換値を使用することが好ましかった。その理由は、これらのパラメーターがBMI、ヒップ、ウエスト、ALAT、MAP、及び熱量測定指数から独立していることが示されていたが、腹腔内脂肪体積の対数変換値は独立していなかったためであった。このコホートにおいて、HDL、LDL、及び総コレステロールは、群間で統計学的に異なっていなかったことが興味深い。
【0106】
内臓脂肪沈着の表現型的徴候を特定するために、
1H−NMR及びターゲットLC−MS/MSによるメタボローム手法を用いて、血漿試料を解析した。解析は、空腹時血漿試料を用いて実行した。採取した試料のOPLS解析により、血漿脂質と内臓脂肪沈着との間にかすかではあるが有意ないくつかの関連が示された(R
2X:0.68;R
2Y:0.506;Q
2Y:0.167)。ランダムフォレスト解析も使用して、特定の血漿脂質と内臓脂肪状態との統計学的関連を確認した(
図1)。
図1により、グリセロリン脂質及び脂肪酸飽和パターンの変化が顕著な特定の血漿脂質リモデリングが提唱された。
【0107】
したがって、ターゲットLC−MS/MSメタボノミクスを使用して、アミノ酸、糖、アシルカルニチン、スフィンゴ脂質、及びグリセロリン脂質を含む163種の代謝産物の構造情報及び定量的測定を提供した。OPLS解析を用いることによって、内臓脂肪肥満の代謝徴候を決定することが可能であった(R2X:0.29;R2Y:0.68;Q2Y:0.32)。
【0108】
頑健性のより高いマーカーを選択するために、変数重要度の特性として「アウトオブバッグ」データの平均精度低下率(% Mean decrease accuracy)を使用した。このようにして、内臓脂肪状態(Q1対Q4)に基づいて対象をよりうまく区別する変数を決定することができた。Q1、Q4の両方とも、腹腔内脂肪体積、比1、及び比2のいずれかの対数変換値を用いて評価した。また、各来診を別々に考えることによって、代謝の日間変動を評価するためにモデリングを試験した(データ不掲載)。最終的に、26種類の代謝産物を、内臓脂肪肥満によって対象を分類するための重要なものとして確保した(
図2、3−1、3−2、3−3)。内臓脂肪過多は、グルタミン、ロイシン/イソロイシン、フェニルアラニン、及びチロシンを含めて、循環血中のアミノ酸の濃度上昇と関連していた。これらのパターンは、パルミトイルカルニチン(C16)、カプロイルカルニチン(C10) オクテノイルカルニチン(C8:1)を含むアシルカルニチン、並びにリゾホスパチジルコリンLPC 24:0、及びPC 30:0、PC 34:4を含むジアシルリン脂質の高濃度に関連していた。さらに、内臓脂肪過多は、アシルエーテルPC−O 36:3、PC−O 40:3、PC−O 40:4、PC−O 40:6、PC−O 42:2、PC−O 42:3、PC−O 42:4、PC−O 44:3、PC−O 44:4、PC−O 44:6、並びに2種のジアシルホスホコリン(PC 42:0及びPC 42:2)の喪失が顕著であった。上記の特徴を有する(of the signature)各成分の個々の判別能力を評価するために、内臓脂肪肥満群間でウィルコクソン順位和検定を行った(代謝産物はすべて、試験された記述子(descriptor)、すなわち比2の常用対数(log10)値に基づいて、表2に挙げている)。
【0109】
図2は、内臓脂肪含有量の常用対数(log10)値、比1の常用対数(log10)値、又は比2の常用対数(log10)値を用いて、内臓脂肪過多の分類において選択されたバイオマーカーをそれらの重みと共に要約したものである。これらのマーカーは、交差検証モードで内臓脂肪に対して0.90の感度及び特異性(Sencv、Specv)を示した。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】