(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243443
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】全身健康状態の尺度としてのパターン認識受容体の発現
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20060101AFI20171127BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
C12Q1/68 AZNA
C12N15/00 A
【請求項の数】15
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-547915(P2015-547915)
(86)(22)【出願日】2012年12月20日
(65)【公表番号】特表2016-501029(P2016-501029A)
(43)【公表日】2016年1月18日
(86)【国際出願番号】US2012070936
(87)【国際公開番号】WO2014098865
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2015年6月16日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502329223
【氏名又は名称】ヒルズ・ペット・ニュートリシャン・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100117422
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 かおり
(72)【発明者】
【氏名】サメル・アル−ムラニ
(72)【発明者】
【氏名】デイル・エス・シャール
【審査官】
西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】
ROJO-BOTELLO, N. R. et al.,"Expression of toll-like receptors 2, 4 and 9 is increased in gingival tissue from patients with type 2 diabetes and chronic periodontitis",J. Periodontal. Res. ,2012年,Vol. 47,pp. 62-73,Published online 2011 Aug 17
【文献】
SCHERES, N. et al.,"Periodontal ligament and gingival fibroblasts from periodontitis patients are more active in interaction with Porphyromonas gingivalis",J. Periodontal. Res. ,2011年,Vol. 46,pp. 407-416
【文献】
BELL, K. P. et al.,"Dental hygienists' knowledge and opinions of oral-systemic connections: implications for education",J. Dent. Educ. ,2012年 6月,Vol. 76,pp. 682-694
【文献】
CAVE, N. J. et al.,"Systemic effects of periodontal disease in cats",Vet. Q.,2012年,Vol. 32,pp. 131-144,Published online 2012 Nov 29
【文献】
RAMAMOORTHY, R. D. et al.,"A review of C-reactive protein: A diagnostic indicator in periodontal medicine",J. Pharm. Bioallied. Sci.,2012年 8月,Vol. 4 Supplement 2,pp. S422-S426
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
C12N 15/00−15/90
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その必要のあるコンパニオンアニマルにおいて口腔衛生の全身マーカーを測定する方法であって、該方法は、
前記コンパニオンアニマルの血液サンプルにおける第一のパターン認識受容体の第一発現レベルを測定することおよび
該第一発現レベルを、第一のパターン認識受容体の対照第一発現レベルと比較することを含み、
前記コンパニオンアニマルは口腔衛生症状に苦しんでおり、
前記第一のパターン認識受容体の前記対照第一発現レベルは、前記口腔衛生症状に苦しんでいない健康な対照動物において測定され、
良好な口腔衛生は、前記第一発現レベルが前記対照第一発現レベルと等しいか、またはそれ未満であることによって示され、不健康な口腔衛生は、前記第一発現レベルが前記対照第一発現レベルよりも大きいことによって示され、および
前記第一のパターン認識受容体が、Toll様受容体1(TLR1)、Toll様受容体3(TLR3)、Toll様受容体7(TLR7)、Toll様受容体9(TLR9)、Toll様受容体10(TLR10)、ミエロイド分化一次応答遺伝子88(MyD88)、ヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン含有タンパク質1(NOD1)からなる群より選択される方法。
【請求項2】
さらに、前記コンパニオンアニマルの血液サンプルにおける少なくとも1つの第二のパターン認識受容体の発現レベルを測定すること、および
その第二発現レベルを、該第二のパターン認識受容体の対照第二発現レベルと比較することを含み、
該第二対照発現レベルは、口腔衛生症状に苦しんでいない健康な対照動物において測定され、
良好な口腔衛生は、該第二発現レベルが該対照第二発現レベルと等しいか、またはそれ未満であることによって示され、不健康な口腔衛生は、該第二発現レベルが該対照第二発現レベルよりも大きいことによって示され、および
該少なくとも1つの第二のパターン認識受容体が、Toll様受容体1(TLR1)、Toll様受容体3(TLR3)、Toll様受容体7(TLR7)、Toll様受容体9(TLR9)、Toll様受容体10(TLR10)、ミエロイド分化一次応答遺伝子88(MyD88)、ヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン含有タンパク質1(NOD1)からなる群より選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第二発現レベルおよび前記対照第二発現レベルが、mRNAの定量的リアルタイムポリメラーゼ鎖反応分析(qRT−PCR)を用いて測定され、
前記第二発現レベルおよび前記対照第二発現レベルの計算が、キャリブレーターmRNAの発現レベルに対するデータの正規化を含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記コンパニオンアニマルがネコ科動物又はイヌ科動物である請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記第一発現レベルおよび前記対照第一発現レベルが、mRNAの定量的リアルタイムポリメラーゼ鎖反応分析(qRT−PCR)を用いて測定され、
前記第一発現レベルおよび前記対照第一発現レベルの計算が、キャリブレーターmRNAの発現レベルに対するデータの正規化を含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記口腔衛生症状が、歯肉炎、歯周炎、歯牙プラーク、歯石、吸収性の歯の病変、動揺歯、アタッチメントロスおよび歯肉後退のうちの少なくとも1つを含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
その必要のあるコンパニオンアニマルの口腔衛生症状に対する処置の効能をモニターする方法であって、該方法は、
第一の時点において該コンパニオンアニマルの血液サンプルにおける第一のパターン認識受容体の第一の発現レベルを測定すること、ここで、該第一の時点は処置に先立つものであり、
該第一の時点に引き続いての第二の時点において、該動物の血液サンプルにおける該第一のパターン認識受容体の第二の発現レベルを測定すること、および、
該第一の発現レベルを該第二の発現レベルと比較することを含み、
該処置の効能は、該第一の発現レベルが該第二の発現レベルよりも大きいことによって示され、
該コンパニオンアニマルは口腔衛生症状に苦しんでおり、ここで、該処置は該口腔衛生症状の療法を含み、
該第一のパターン認識受容体が、Toll様受容体1(TLR1)、Toll様受容体3(TLR3)、Toll様受容体7(TLR7)、Toll様受容体9(TLR9)、Toll様受容体10(TLR10)、ミエロイド分化一次応答遺伝子88(MyD88)、およびヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン含有タンパク質1(NOD1)からなる群より選択される方法。
【請求項8】
前記コンパニオンアニマルがネコ科動物又はイヌ科動物である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第一の発現レベルおよび前記第二の発現レベルが、mRNAの定量的リアルタイムポリメラーゼ鎖反応分析(qRT−PCR)を用いて測定され、
前記第一の発現レベルおよび前記第二の発現レベルの計算が、キャリブレーターmRNAの発現レベルに対するデータの正規化を含むか又は
前記口腔衛生症状が、歯肉炎、歯周炎、歯牙プラーク、歯石、吸収性の歯の病変、動揺歯、アタッチメントロス、および歯肉後退のうちの少なくとも1つを含む請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
その必要のあるコンパニオンアニマルにおける口腔衛生症状の処置の効能を決定する方法であって、該方法は、
第一の時点において、該コンパニオンアニマルの血液サンプルにおける第一のパターン認識受容体の第一の発現レベルを測定すること、ここで、該第一の時点は該処置に先立っており、
該第一の時点に続いての第二の時点において、該コンパニオンアニマルの血液サンプルにおける該第一のパターン認識受容体の第二の発現レベルを測定すること、および、
該第一の発現レベルを該第二の発現レベルと比較することを含み、
該処置の効能は、該第一の発現レベルが該第二の発現レベルよりも大きいことによって示され、
該第一のパターン認識受容体が、Toll様受容体1(TLR1)、Toll様受容体3(TLR3)、Toll様受容体7(TLR7)、Toll様受容体9(TLR9)、Toll様受容体10(TLR10)、ミエロイド分化一次応答遺伝子88(MyD88)、およびヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン含有タンパク質1(NOD1)からなる群より選択される方法。
【請求項11】
前記コンパニオンアニマルがネコ科動物又はイヌ科動物である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第一の発現レベルおよび前記第二の発現レベルが、mRNAの定量的リアルタイムポリメラーゼ鎖反応分析(qRT−PCR)を用いて測定され、
前記口腔衛生症状が、歯肉炎、歯周炎、歯牙プラーク、歯石、吸収性の歯の病変、動揺歯、アタッチメントロス、および歯肉後退のうちの少なくとも1つを含む請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
その必要のあるコンパニオンアニマルの血液サンプルにおいて口腔衛生症状を診断する方法であって、該方法は、
該コンパニオンアニマルにおける第一のパターン認識受容体の対象第一発現レベルを測定すること、および、
該対象第一発現レベルを、該第一のパターン認識受容体の対照第一発現レベルと比較することを含み、
該コンパニオンアニマルは口腔衛生症状に苦しんでおり、
該第一のパターン認識受容体の該対照第一発現レベルは、該口腔衛生症状に苦しんでいない健康な対照動物において測定され、
良好な口腔衛生は該第一発現レベルが該対照第一発現レベルよりも大きいことによって示され、不健康な口腔衛生は、該第一発現レベルが該対照第一発現レベル未満であるか、それと等しいことによって示され、
該第一のパターン認識受容体が、Toll様受容体1(TLR1)、Toll様受容体3(TLR3)、Toll様受容体7(TLR7)、Toll様受容体9(TLR9)、Toll様受容体10(TLR10)、ミエロイド分化一次応答遺伝子88(MyD88)、およびヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン含有タンパク質1(NOD1)からなる群より選択され、
前記口腔衛生症状の重症度が、前記対照第一発現レベルに対する前記第一発現レベルの比率の絶対値によって示される方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法における、コンパニオンアニマルの血液サンプルにおけるパターン認識受容体の発現レベルを測定するためのキットの使用であって、該キットは、少なくとも1つのパターン認識受容体に対応するcDNAのポリメラーゼ鎖反応増幅に適したフォワードプライマーおよびリバースプライマーを含み、
該パターン認識受容体が、Toll様受容体1(TLR1)、Toll様受容体3(TLR3)、Toll様受容体7(TLR7)、Toll様受容体9(TLR9)、Toll様受容体10(TLR10)、ミエロイド分化一次応答遺伝子88(MyD88)、ヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン含有タンパク質1(NOD1)、およびそれらの組合せからなる群より選択される使用。
【請求項15】
前記コンパニオンアニマルがイヌ科動物またはネコ科動物であり、
前記パターン認識受容体がネコ科動物受容体又はイヌ科動物受容体である請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(配列表)
[0001]
本出願は、EFSウェブを介して提出された配列表を含み、本願明細書中に、引用によりその全体が組み込まれる。2012年12月19日に作成された該ASCIIコピーは、9897−00−WO−HL_Sequence_Listing_ST25US.txtと命名され、サイズは49000バイトである。
【背景技術】
【0002】
[0002]
コンパニオンアニマルを含めたヒトおよび非ヒト哺乳動物は、歯周病ならびに口腔の他の苦痛および状態に対して感受性が強い。歯周病は、部分的には、歯牙プラーク、口腔細菌および唾液成分の混合物の歯の表面への付着の結果として発生する。この付着性の歯牙プラークは固くなって歯石(結石)を形成し、それは歯肉の炎症、腫れ、および感染に導き得る。いくつかの例においては、歯および歯肉に関する当該疾患と他の全身病、例えば心臓疾患との間に相関があるであろうという提言が当該分野にはあった。同様な傾向において、動物の歯および歯肉の維持は、その動物の死亡率を減少させ、その動物の寿命を延長するであろうという推測もあった。
【0003】
[0003]
しかしながら、(a)口腔の健康、(b)パターン認識受容体の発現レベル、および(c)全身病の結果に対する口腔の健康状態の療法の有益な効果の関係を現実に証明する何らかの研究が当該分野にあるようには見えない。
【0004】
[0004]
従って、動物の口腔の健康状態と全体的な全身健康状態との間には因果関係があるか否かを確立し得る研究に対する要望が存在する。加えて、その因果関係がもし確立されたならば、対象、特に、口腔の健康状態に苦しんでいるコンパニオンアニマルにおいて全身健康状態を評価するための迅速で、容易で、正確で、かつ感度が良好な方法に対する要望が生じるであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の概要)
[0005]
本発明は、その必要のある対象が口腔の健康状態に苦しんでいる場合に、該対象において全身健康状態を測定する方法に関する。該方法は、該対象において少なくとも1つのパターン認識受容体の発現レベルを測定し、次いで、発現のそのレベルを対照と比較することを含む。本発明の1つの実施形態において、該対照は、苦しんでいる該動物において、療法前に、その同一のパターン認識受容体(または複数のそれらの同一のパターン認識受容体)の測定された発現のベースラインレベルに対応するベースライン対照である。健康な対照レベルは、口腔が、治療介入(完全な歯科予防)または良好な口腔衛生を通じて良好な口腔衛生の状態に至った場合の、同一の動物における発現のレベルであろう。他の実施形態において、健康な対照は、口腔衛生状態に苦しんでいない健康な対照動物における、その同一のパターン認識受容体(または複数のそれらの同一パターン認識受容体)の測定された発現レベルであってよい。該方法によると、オーラルケア状態を有する動物における不健康な全身健康状態は、それが全身健康状態に対する口腔の健康の効果に関係するため、試験された対象で測定されたパターン認識受容体の発現レベルが健康な対照のそれよりも大きい場合に示される。
【0006】
[0006]
この方法の特定の実施形態において、該パターン認識受容体は、Toll様受容体1(TLR1)、Toll様受容体3(TLR3)、Toll様受容体4(TLR4)、Toll様受容体7(TLR7)、Toll様受容体9(TLR9)、Toll様受容体10(TLR10)、ミエロイド分化一次応答遺伝子88(MyD88)、およびヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン含有タンパク質1(NOD1)からなる群より選択される。
【0007】
[0007]
他の実施形態において、本発明の方法は、口腔衛生状態に苦しんでいる対象において少なくとも1つの第二のパターン認識受容体の発現レベルを測定し、その発現レベルを対照と比較することを含む。また、発現のベースライン対照レベルは、同一の苦しんでいる動物の発現レベル(口腔衛生状態の処置前の発現レベル)であってよいが、一方で、健康な対照は、口腔衛生状態に苦しんでいない健康な対照動物における同一の第二のパターン認識受容体について測定された発現レベルであってよい。良好な全身健康状態は、すなわち、それが全身健康状態に対する口腔の健康の効果に関係するので、試験された対象で測定されたパターン認識受容体の発現レベルが健康な対照の発現レベルと等しいか、またはそれ未満である場合に示され、不健康な全身健康状態は(それが口腔の健康の効果に関係するので)、試験された対象で測定された第二のパターン認識受容体の発現レベルが健康な対照の発現レベルよりも大きい場合に示される。本態様の特定の実施形態において、該少なくとも1つの第二のパターン認識受容体は、Toll様受容体1(TLR1)、Toll様受容体3(TLR3)、Toll様受容体4(TLR4)、Toll様受容体7(TLR7)、Toll様受容体9(TLR9)、Toll様受容体10(TLR10)、ミエロイド分化一次応答遺伝子88(MyD88)、およびヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン含有タンパク質1(NOD1)からなる群より選択される。
【0008】
[0008]
対象がコンパニオンアニマルである、特定の実施形態、特に、本態様の実施形態において、コンパニオンアニマルはネコ科動物であるか、またはコンパニオンアニマルはイヌ科動物である。
【0009】
[0009]
本発明の方法の特定の実施形態において、処置すべき対象のオーラルケア状態は歯周病を含む。これらの態様の特定の実施形態において、歯周病は歯肉炎、歯周炎、歯牙プラーク、歯石、吸収性の歯の病変(resorptive tooth lesion)、動揺歯(mobile tooth)、アタッチメントロス、および歯肉後退のうちの1つまたはそれ以上を含んでよい。
【0010】
[0010]
本発明は、さらに、その必要のある動物における口腔の健康状態の処置の効能を決定するための、および/またはその必要のある動物の全身健康状態に対する処置の効能をモニターするための方法に関し、ここで、該動物は口腔衛生状態に苦しんでおり、およびここで、該処置は該口腔衛生状態の治療または療法を含む。この方法は、(a)処置に先立っての、または処置後まもなくの第一の時点において該動物における第一のパターン認識受容体の発現レベルを測定し、(b)該第一の時点に引き続いての第二の時点において該動物における同一パターン認識受容体の発現レベルを測定し、次いで、(c)2つの時点に測定された発現レベルを比較することを含む。この方法によると、より遅い時点における発現レベルが第一の時点で測定された発現レベルよりも低い場合に処置の効能が示される。この方法の他の実施形態において、2つまたはそれ以上のパターン認識受容体の発現のレベルは各時点において測定し、比較してもよい。これらの態様のある実施形態において、第一の時点は処置に先立って1カ月、3週間、2週間、1週間またはそれ未満であってよい。これらの態様の他の実施形態において、第一の時点は処置前1日未満にて採用される。さらに別の実施形態において、第一の時点は処置後1日未満にて採用される。
【0011】
[0011]
本発明は、その必要のある対象において全身健康状態を診断する方法にも関し、ここで、該対象はオーラルケア状態に苦しんでいる動物である。この方法は、該対象において第一のパターン認識受容体の発現レベルを測定し、それを対照値と比較することを含む。本発明の1つの実施形態において、該対照は、療法前の苦しんでいる動物におけるその同一のパターン認識受容体(または複数のそれらの同一パターン認識受容体)の測定された発現のベースラインレベルに対応するベースライン対照である。他の実施形態において、該対照値は、口腔が治療介入(完全な歯科予防)を介して良好な口腔の健康、または良好な口腔の衛生の状態に至った後の、同一動物における発現のレベルに対応する健康な対照レベルである。他の実施形態において、健康な対照は、口腔衛生状態に苦しんでいない健康な対照動物におけるその同一のパターン認識受容体(または複数のそれらの同一パターン認識受容体)の発現のレベルとして測定することができる。該方法によると、オーラルケア状態を有する動物における不健康な全身健康状態は、それが全身健康状態に対する口腔の健康の効果に関するので、試験された対象で測定されたパターン認識受容体の発現レベルが健康な対照のそれらよりも大きい場合に示される。
【0012】
[0012]
本発明は、それを必要とし、かつ口腔衛生状態に苦しんでいる動物において慢性の全身性炎症を処置する方法にも関する。該方法は、該動物を、その必要のある対象動物において歯周病を緩和するように設計された歯科予防処置に付すことを含む。
【0013】
[0013]
本発明の特定の実施形態において、その発現レベルが本発明の前記方法で測定されるパターン認識受容体または複数のパターン認識受容体は、Toll様受容体1(TLR1)、Toll様受容体3(TLR3)、Toll様受容体4(TLR4)、Toll様受容体7(TLR7)、Toll様受容体9(TLR9)、Toll様受容体10(TLR10)、ミエロイド分化一次応答遺伝子88(MyD88)、およびヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン含有タンパク質1(NOD1)からなる群より選択され、示された対象および動物の口腔衛生状態は、歯周病の存在を示す。
【0014】
[0014]
加えて、これらの態様の特定の実施形態において、口腔衛生状態に苦しんでいる対象または動物はコンパニオンアニマル、例えば、イヌまたはネコのようなイヌ科またはネコ科コンパニオンアニマルである。
【0015】
[0015]
本発明は、本文中に記載された方法の実施で有用なキットも含む。1つの実施形態において、本発明は、ネコ科動物パターン認識受容体の発現レベルを測定するためのキットを含み、ここで、そのキットは、ネコ科動物Toll様受容体1(TLR1)、ネコ科動物Toll様受容体3(TLR3)、ネコ科動物Toll様受容体4(TLR4)、ネコ科動物Toll様受容体7(TLR7)、ネコ科動物Toll様受容体9(TLR9)、ネコ科動物Toll様受容体10(TLR10)、ネコ科動物ミエロイド分化一次応答遺伝子88(MyD88)、およびネコ科動物ヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン含有タンパク質1(NOD1)からなる群より選択される少なくとも1つのパターン認識受容体に対応するcDNAのポリメラーゼ鎖反応増幅に適したフォワードプライマーおよびリバースプライマーを含む。
【0016】
[0016]
他の実施形態において、本発明は、イヌ科動物パターン認識受容体の発現レベルを測定するためのキットを含み、ここで、そのキットは、イヌ科動物Toll様受容体1(TLR1)、イヌ科動物Toll様受容体3(TLR3)、イヌ科動物Toll様受容体4(TLR4)、イヌ科動物Toll様受容体7(TLR7)、イヌ科動物Toll様受容体9(TLR9)、イヌ科動物Toll様受容体10(TLR10)、イヌ科動物ミエロイド分化一次応答遺伝子88(MyD88)、およびイヌ科動物ヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン含有タンパク質1(NOD1)からなる群より選択される少なくとも1つのパターン認識受容体に対応するcDNAのポリメラーゼ鎖反応増幅に適したフォワードプライマーおよびリバースプライマーを含む。
【0017】
[0017]
本発明の応用性のさらなる領域は、以下に提供される詳しい説明から明らかとなるであろう。詳しい説明および具体的な実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すものであるが、例示を目的とするだけのものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではないことは理解されるべきである。
【0018】
(発明の詳しい説明)
[0018]
以下の好ましい実施形態(複数の実施形態)に関する説明は、性質上単なる例示であり、いかようにも本発明、その応用もしくは使用を限定することを意図するものではない。
【0019】
[0019]
本文中で実際に示されるように、本発明者らは、不健康な口腔健康に対する全身性反応が存在し、および口腔の健康と全身健康状態との間に因果関係があることを見出した。部分的には、この発見に基づくここに記載する発明は、その必要のある対象における全身健康状態を測定することを含み、ここで、該対象は口腔衛生状態に苦しんでいるものである。本文中に記載される方法は、対象における少なくとも1つのパターン認識受容体の発現レベルを測定し、次いで、その発現レベルを対照と比較することを含み、ここで、パターン認識受容体の発現レベルの増加は、口腔衛生状態に苦しんでいる対象における不健康なまたは衰えている全身健康状態を示す。
【0020】
(定義)
[0020]
そうでないと定義されない限り、本文中で使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって通常理解されるのと同一の意味を有する。本文中で記載されるのと同様な又は同等ないずれの方法および材料も本発明の実施または試験で用いることができるが、好ましい方法、デバイスおよび材料が今や記載される。本文中で言及される全ての刊行物は、本発明に関連して使用されるであろう該刊行物に報告された材料および方法を記載し、開示する目的で引用により組み込まれる。
【0021】
[0021]
本文中、および添付の特許請求の範囲で用いられるように、単数形「ある」(「a」、「an」)および「該」(「the」)は、文脈上明らかに異なることが示されない限り、複数形の言及を含む。
【0022】
[0022]
本文中で用いるように、用語「動物」はヒト、非ヒト動物、または非ヒト哺乳動物であり、ここで、用語非ヒト動物は非ヒト霊長類(例えば、サル、チンパンジー、類人猿等)、コンパニオンアニマルおよびハウスペット(例えば、イヌ、ネコ、ウサギ等)、実験動物、飼い慣らされた動物、家畜および農場動物(例えば、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、リャマ、アルパカ、ウシ科動物等)を含む。1つの実施形態において、動物は非霊長類哺乳動物である。他の実施形態において、動物はヒト以外の霊長類である。具体的な実施形態において、動物は、イヌ科動物またはネコ科動物のような飼い慣らされたコンパニオンアニマル、または「ハウス」ペットである。1つの実施形態において、動物はイヌである。他の実施形態において、動物はネコである。
【0023】
[0023]
本文中で用いるように、「オーラルケア状態」は、歯、口腔粘膜、歯肉および舌の障害または疾患を含めた、口腔のいずれかの障害または疾患である。そのような状態は、限定されるものではないが、歯肉炎、歯周炎、歯牙プラーク、歯石、吸収性の歯の病変、歯肉後退、歯肉アタッチメントロス、動揺歯、およびそれらの組合せのうちの1つまたはそれ以上を含んでよい歯周病を含む。
【0024】
[0024]
本発明によると、成句「その必要のある動物」とは、それに対して、限定されるものではないが、歯肉炎、歯周炎、歯牙プラーク、歯石、吸収性の歯の病変、歯肉後退、歯肉アタッチメントロス、動揺歯、およびそれらの組合せを含んでよい、限定されるものではないが、歯周病を含めたオーラルケア状態に処置が必要なヒトまたは非ヒト動物をいう。
【0025】
[0025]
本文中で用いるように、用語「処置する」は、その状態に対する処置を必要とする動物において、オーラルケア状態の発生を治癒し、阻害し、緩和し、または阻止し、その兆候または効果を軽減し、またはその兆候または効果を緩和し、またはその低下を引き起こすことを意味する。従って、用語「緩和する」、「処置する」、および「制御する」は、本発明の範囲を限定する意図ではなく、相互に識別可能であるが、これらの用語内では重複があり得ることが認識されるべきである。
【0026】
[0026]
本発明で用いられる用語「コンパニオンアニマル」は、ヒトがペットとして飼育するのに適したいずれかのヒト以外の動物、例えばイヌ、ネコ、及びげっ歯動物を含む。本発明の全ての態様はイヌおよび/またはネコの治療用である。
【0027】
[0027]
用語「イヌ」は、犬(カニスファミリアリス)、使役犬などのコンパニオンアニマルであるイヌを含む。用語「イヌ」は用語「イヌ科の動物」と同意語である。
【0028】
[0028]
用語「ネコ」は、飼いネコまたは家ネコ、または飼い慣らされたネコ(Felis domesticus)として知られるコンパニオンアニマルであるネコを含む。用語「ネコ」は用語「ネコ科の動物」と同意語である。
【0029】
[0029]
本文中で用いるように、成句「パターン認識受容体」は、Toll様受容体および他の受容体、ならびにパターン認識受容体として分類される受容体クラスのみならず、限定されるものではないが、例えば、その双方がここに引用してその全体が組み込まれる、Kawai et al.,“The Roles of TLRs,RLRs and NLRs in Pathogen Recognition”International Immunology(2009)
21(4):317−337、およびMahanonda et al.,“Toll−Like Receptors and Their Role in Periodontal Health and Disease,”Periodontol 2000(2007)
43:41−55に記載された、MYD88、NOD−1、NOD−2、TIRAP、TIR、TRIF、TRAM、TAK1、TRAF3、TBK1、NEMO、IRAK、IKKi、およびTRAF6等を含めた、パターン認識受容体と共に機能し、およびそれと協調的に発現される関連シグナリング経路の蛋白質も含むことが意図される。
【0030】
[0030]
本発明の方法
1つの実施形態において、本発明は、その必要のある対象における全身健康状態を測定する方法に関し、ここで、該対象は口腔衛生状態に苦しんでいるものである。この方法は、該対象における第一のパターン認識受容体の対象第一発現レベルを測定し、その対象第一発現レベルを、該第一のパターン認識受容体の対照第一発現レベルと比較することを含む。本発明の1つの実施形態において、第一のパターン認識受容体の健康な対照の発現レベルは、すなわち、実施例において後に示されるように、口腔衛生状態に苦しんでいない健康な動物において測定される。他の実施形態において、健康な対照レベルは、口腔が治療介入(完全な歯科予防)を通じて良好な口腔の健康、または良好な口腔衛生の状態に至った場合の、同一の動物における発現のレベルであろう。この分析に基づいて、口腔衛生状態に苦しんでいる動物における良好な全身健康状態は、第一の発現レベルの値が対照のそれと等しいか、またはそれ未満である場合に示されると結論することができる。同様に、対象の第一の発現レベルが健康な対照のそれよりも大きければ、試験された動物は、それが口腔衛生状態に関連するので、不健康な全身健康状態を呈すると結論することができる。
【0031】
[0031]
本発明のこれらの態様の他の実施形態において、パターン認識受容体の発現の対照レベルは、口腔衛生状態の処置に先立って、または該処置後にまもなく苦しんでいる動物において測定されたベースライン対照である。この場合において、パターン認識受容体の発現の増大したレベル(すなわち、ベースライン対照値よりも大)は、全身健康状態の存在または発生の診断に役立ち、他方、パターン認識受容体の発現の減少したレベル(すなわち、ベースライン対照値よりも小)は、口腔衛生状態に苦しんでいる動物における全身健康状態の緩和の診断に役立つ。
【0032】
[0032]
これらの態様のある実施形態において、パターン認識受容体の発現レベルは、Toll様受容体1(TLR1)、Toll様受容体3(TLR3)、Toll様受容体4(TLR4)、Toll様受容体7(TLR7)、Toll様受容体9(TLR9)、Toll様受容体10(TLR10)、ミエロイド分化一次応答遺伝子88(MYD88)、およびヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン含有タンパク質1(NOD1)からなる群より選択されるパターン認識受容体について測定することができる。
【0033】
[0033]
本態様の他の実施形態は、対象における少なくとも1つの第二のパターン認識受容体の発現レベルを測定し、該対象第二発現レベルを該第二のパターン認識受容体の対照第二発現レベルと比較することを含む。また、1つの実施形態において、対照の発現レベルは、口腔衛生状態に苦しんでいない健康な動物において測定することができる。ここに、口腔衛生状態に苦しんでいる動物における良好な全身健康状態は、第二の発現レベルの値が対照のそれと等しいか、またはそれ未満である場合に示され、他方、不健康な全身健康は、第二の発現レベルの値が対照のそれよりも大きい場合に、口腔衛生状態に苦しんでいる動物において示される。パターン認識受容体の第二の発現レベルは、限定されるものではないが、TLR1、TLR3、TLR4、TLR7、TLR9、TLR10、MYD88、およびNOD1からなる群より選択されるパターン認識受容体について測定することができる。さらに他の実施形態において、第二のパターン認識受容体の発現の対照レベルは、口腔衛生状態の処置に先立って、またはその後まもなく苦しんでいる動物で測定されたベースライン対照である。この例においては、パターン認識受容体の発現の増大したレベル(すなわち、ベースライン対照値よりも大)は、全身健康状態の存在、発生、および/または進行を診断するのに役立ち、他方、第二のパターン認識受容体の発現の減少したレベル(すなわち、ベースライン対照値よりも低)は、口腔衛生状態に苦しんでいる動物における全身健康状態の緩和の診断に役立つ。
【0034】
[0034]
本文中に記載された方法において、試験される対象または動物はコンパニオンアニマルであってよい。これらの態様の特定の実施形態において、コンパニオンアニマルはネコ科動物であり、他方、他の態様において、コンパニオンアニマルはイヌ科動物である。
【0035】
[0035]
本文中に記載された方法の特定の実施形態において、パターン認識受容体の発現レベルは、注目するパターン認識受容体をコードするmRNAのレベルを測定することによって測定される。本態様の1つの実施形態において、mRNAがまずcDNAに変換され、次いで、実施例においてより詳細に記載されるように、定量的リアルタイムポリメラーゼ鎖反応(qRT−PCR)によって測定される。本発明のある実施形態において、qRT−PCRデータは「キャリブレーターmRNA」に対して「正規化」される。
【0036】
[0036]
1つの実施形態において、処置すべき動物は、限定されるものではないが、歯肉炎、歯周炎、歯牙プラーク、歯石、吸収性の歯の病変、動揺歯、アタッチメントロス、および歯肉後退のうちの1つまたはそれ以上を含んでよい、歯周病を含むオーラルケア状態に苦しんでいる。
【0037】
[0037]
他の実施形態において、本発明は、その必要のある動物の全身健康状態に対する処置の効能をモニターする方法に関し、ここで、該動物は口腔衛生状態に苦しんでおり、ここで、該処置は口腔衛生状態の療法を含む。この方法は、第一の時点において、該動物における第一のパターン認識受容体の第一の発現レベルを測定し、ここで、該第一の時点は該処置に先立つか、または該処置の後まもなくであり、続いて、該第一の時点に続いての第二の時点において、該動物における該第一のパターン認識受容体の第二の発現レベルを測定することを含む。パターン認識受容体の発現レベルについて測定された値を比較し、処置の効能は、第一の発現レベルが第二の発現レベルよりも大きい場合に示される。また、これらの発現レベルは、限定されるものではないが、TLR1、TLR3、TLR4、TLR7、TLR9、TLR10、MYD88、およびNOD1からなる群より選択される1つまたはそれ以上のパターン認識受容体について測定することができる。
【0038】
[0038]
特定の実施形態においては、処置の効能をモニターするためのこの方法は、試験される対象または動物がコンパニオンアニマルである場合に用いてよい。これらの態様の特定の実施形態において、コンパニオンアニマルはネコ科動物であり、他方、他の実施形態においては、コンパニオンアニマルはイヌ科動物である。本態様の他の実施形態において、パターン認識受容体の発現レベルは、mRNAの定量的リアルタイムポリメラーゼ鎖反応分析(qRT−PCR)を用いて測定される。
【0039】
[0039]
本発明は、さらなる態様において、その必要のある動物における口腔衛生状態の処置の効能を決定する方法にも関する。この方法は、第一の時点において、該動物における第一のパターン認識受容体の第一の発現レベルを測定することを含む。この工程に続いて、該第一の時点に続いての第二の時点において、該動物における該第一のパターン認識受容体の第二の発現レベルを測定する。2つの時点において測定されたパターン認識受容体の発現レベルを比較し、第一の発現レベルが第二の発現レベルよりも大きいことによって、処置の効能が示される。
【0040】
[0040]
なおさらなる態様において、本発明は、その必要のある対象における全身健康状態を診断する方法に関し、ここで、該対象は口腔衛生状態に苦しんでいるものである。この方法は、該対象における第一のパターン認識受容体の対象第一発現レベルを測定し、次いで、その発現レベルを、該第一のパターン認識受容体の対照第一発現レベルと比較することを含む。また、対照値は、口腔衛生状態に苦しんでいない健康な対照動物において測定される。全身健康状態の存在は、対象第一発現レベルが対照第一発現レベルよりも大きいことによって示され、全身健康状態の不存在は、対象第一発現レベルが対照第一発現レベル未満であるか、またはそれと等しいことによって示される。さらに、本態様の1つの実施形態において、健康状態の重症度は、対照第一発現レベルに対する対象第一発現レベルの比率の絶対値によって示される。本態様の他の実施形態において、対照の値は、動物が健康であって、口腔衛生状態または全身健康状態のいずれにも苦しんでいなかった時点において、対象動物について決定されたそれ自体であり得る。
【0041】
[0041]
これらの態様のある実施形態において、発現レベルは、限定されるものではないが、TLR1、TLR3、TLR4、TLR7、TLR9、TLR10、MYD88、およびNOD1からなる群より選択される1つまたはそれ以上のパターン認識受容体について測定することができる。
【0042】
[0042]
本態様の他の実施形態において、対象はコンパニオンアニマル、例えば、ネコ科動物またはイヌ科動物である。
【0043】
[0043]
それについて記載された方法が実施される対象および動物を苦しめる口腔衛生状態は、例えば、歯肉炎および歯周炎、歯牙プラーク、歯石、歯肉後退、歯肉アタッチメントロス、および動揺歯のうちの1つまたはそれ以上を含めた歯周病の少なくとも1つを含む。
【0044】
[0044]
本発明は、それを必要とし、かつ口腔衛生状態に苦しんでいる動物における慢性の全身性炎症を処置する方法にも関する。該方法は、該動物を、歯肉炎および歯周炎、歯牙プラーク、歯石、歯肉後退、歯肉アタッチメントロス、動揺歯、およびそれらの2つまたはそれ以上の組合せを含んでよい、歯周病を含んでよい、1つまたはそれ以上の口腔衛生状態を緩和するように設計された歯科予防処置に付すことを含む。
【0045】
[0045]
特定の実施形態において、本文中に記載された方法に従って試験または処置される動物は、オーラルケア状態に苦しんでおり、かつそのような試験を必要とする動物である。特定の実施形態において、その動物は非ヒト動物、または非ヒト哺乳動物、例えば、非ヒト霊長類(例えば、サル、チンパンジー、類人猿等)、コンパニオンアニマル、またはハウスペット(例えば、イヌ、ネコ、ウサギ等)、実験動物、(限定されるものではないが、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、リャマ、アルパカ、ウシ科動物等のような家畜および農場動物を含めた)飼い慣らされた動物である。1つの実施形態において、該動物は、イヌ科動物またはネコ科動物のような、飼い慣らされたコンパニオンアニマルまたは「ハウス」ペットである。1つの実施形態において、該動物はイヌである。他の実施形態において、該動物はネコである。
【0046】
[0046]
本発明のキット
本発明は、さらに、本文中に記載された方法の実施に有用な、すなわち、1つまたはそれ以上のネコ科動物パターン認識受容体の発現レベルを測定するのに有用なキットに関する。1つの実施形態において、該キットは、限定されるものではないが、ネコ科動物Toll様受容体1(TLR1)、ネコ科動物Toll様受容体3(TLR3)、ネコ科動物Toll様受容体4(TLR4)、ネコ科動物Toll様受容体7(TLR7)、ネコ科動物Toll様受容体9(TLR9)、ネコ科動物Toll様受容体10(TLR10)、ネコ科動物ミエロイド分化一次応答遺伝子88(MyD88)、およびネコ科動物ヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン含有タンパク質1(NOD1)からなる群より選択される少なくとも1つのパターン認識受容体に対応するcDNAのポリメラーゼ鎖反応増幅に適したフォワードプライマーおよびリバースプライマーを含む。
【0047】
他の実施形態において、本発明のキットは、1つまたはそれ以上のイヌ科動物パターン認識受容体の発現レベルの測定に有用である。本態様の1つの実施形態において、該キットは、限定されるものではないが、イヌ科動物Toll様受容体1(TLR1)、イヌ科動物Toll様受容体3(TLR3)、イヌ科動物Toll様受容体4(TLR4)、イヌ科動物Toll様受容体7(TLR7)、イヌ科動物Toll様受容体9(TLR9)、イヌ科動物Toll様受容体10(TLR10)、イヌ科動物ミエロイド分化一次応答遺伝子88(MyD88)、およびイヌ科動物ヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン含有タンパク質1(NOD1)からなる群より選択される少なくとも1つのパターン認識受容体に対応するcDNAのポリメラーゼ鎖反応増幅に適したフォワードプライマーおよびリバースプライマーを含む。
【0048】
[0048]
これらの態様の特定の実施形態において、該キットは、以下の実施例に記載されたPCR分析で有用な1つまたはそれ以上のプライマーまたはプライマーの対(例えば、配列番号1〜配列番号16)、または分析すべき遺伝子発現レベルに対応する配列に基づいた商業的に入手可能なソフトウェアを用いて容易に設計されたもの(例えば、配列番号17〜配列番号31)を含有することができる。
【実施例】
【0049】
(実施例)
[0049]
本明細書に記載された実験はネコで行い、全身のパターン認識受容体の発現に対する歯周病の効果を記載し、これは、口腔および全身健康状態の間の因果関係を示す。以下に記載される予備的研究では、パターン認識受容体(TLR1、TLR3、TLR4、TLR7、TLR9、TLR10、MYD88、およびNOD1)は、口腔衛生が不健康なネコと比較して口腔衛生が良好なネコにおいて異なって発現されることが示された。第一の治療介入実験においては、口腔衛生が不健康なネコは、口が健康な同一のネコと比較してアップレギュレートされた全身のパターン認識受容体の発現レベルを有し、完全な歯科予防が宿主免疫応答のこれらのメディエーターの全身発現を減衰させることが示された。これらの結果は、歯周病が重症のネコが、3つのパターン認識受容体の全身発現レベルの同時の統計学的に有意な低下を有する良好な口腔衛生の状態に至った第二の治療介入実験で再現された。加えて、対照動物において唯一のパターン認識受容体(TLR10)について見られた、口腔衛生治療介入の関数としての全てのパターン認識受容体のレベルの発現レベルの明瞭な数値的な減少があったことが認められた。一緒にすると、本文中に提示されたデータは、不健康な口腔衛生に対する全身の応答を裏付ける強い証拠を提供し、それにより、口腔および全身健康状態の間の因果関係を確立する。
【0050】
[0050]
パターン認識受容体、関連するシグナリング経路およびそのタンパク質、およびパターン受容体認識リガンドの結合の生化学的結果によって演じられる役割を記載する公表されたレビューは、とりわけ、Kawai et al.,“The Roles of TLRs,RLRs and NLRs in Pathogen Recognition”International Immunology(2009)
21(4):317−337およびMahanonda et al.,“Toll−Like Receptors and Their Role in Periodontal Health and Disease,”Periodontol 2000(2007)
43:41−55にて提供され、その両方は出典明示により完全に本明細書中に組み込まれる。
【0051】
[0051]
材料および方法
試料の収集:ネコ科動物全血の試料をPAXgene血液RNAチューブ(Qiagen,Valencia,CA)に収集し、分析まで凍結させた。これらの血液試料を用いて、パターン認識受容体(TLR1、TLR3、TLR4、TLR7、TLR9、TLR10、MYD88、およびNOD1)の発現レベルを評価した。
【0052】
[0052]
cDNA合成:cDNAは、製造業者の指示に従って、Ovation
TM System(NuGen Technologies,San Carlos,CAP)を用いて収集されたmRNAから調製した。
【0053】
[0053]
プライマー、アニーリング温度、およびサーマル・サイクラー・プログラミング:プライマーのアニーリングおよび第一鎖合成では、以下のプログラムを用いた:試料を65℃にて5分間維持し、続いて、4℃まで戻し、引き続いての工程を行うまでその温度に保持した。用いた増幅プライマーは、配列番号1(ネコ科動物TLR9の分析用のフォワードプライマー);配列番号2(ネコ科動物TLR9の分析用のリバースプライマー);配列番号3(ネコ科動物TLR10の分析用のフォワードプライマー);配列番号4(ネコ科動物TLR10の分析用のリバースプライマー);配列番号5(ネコ科動物NOD1の分析用のフォワードプライマー);配列番号6(ネコ科動物NOD1の分析用のリバースプライマー);配列番号7(ネコ科動物MYD88の分析用のフォワードプライマー);配列番号8(ネコ科動物MYD88の分析用のリバースプライマー);配列番号9(ネコ科動物TLR1の分析用のフォワードプライマー);配列番号10(ネコ科動物TLR1の分析用のリバースプライマー);配列番号11(ネコ科動物TLR3の分析用のフォワードプライマー);配列番号12(ネコ科動物TLR3の分析用のリバースプライマー);配列番号13(ネコ科動物TLR4の分析用のフォワードプライマー);配列番号14(ネコ科動物TLR4の分析用のリバースプライマー);配列番号15(ネコ科動物TLR7の分析用のフォワードプライマー);および配列番号16(ネコ科動物TLR7の分析用のリバースプライマー)のものを含んだ。
【0054】
[0054]
ネコ科動物TLR9、TLR10、NOD1、MYD88、TLR1、TLR3、TLR4およびTLR7についての関連ヌクレオチド配列は、各々、配列番号17〜配列番号24に提供されている。イヌ科動物TLR9、TLR2、TLR4、TLR7、CAM1、TLR1、およびMYD88についての関連ヌクレオチド配列は、各々、配列番号25〜配列番号31に提供されている。
【0055】
[0055]
アニーリングの後、第一鎖合成は、48℃での60分間のインキュベーション、70℃での15分間のインキュベーション、続いての4℃への戻し、および引き続いての工程をなすべきまでのその温度での保持によって行った。
【0056】
[0056]
第二鎖合成は、試料を37℃で30分間、次いで、75℃で15分間インキュベートし、続いて、4℃に戻し、引き続いての工程をするまでその温度に保持して行った。
【0057】
[0057]
SPIA(登録商標)増幅(NuGEN Technologies,San Carlos,CA):増幅は、48℃における30分間、続いての、4℃での、次いで、48℃での30分間、および95℃での5分間の保持、続いての、4℃での保持によって行った。
【0058】
[0058]
定量的リアルタイムポリメラーゼ鎖反応(qRT−PCR)は、Applied Biosystems(Torrance CA)7500 Fast Real−Time PCR Systemおよび7500 Software2.0.1を用いて行った。
【0059】
[0059]
遺伝子発現の計算:比較Ct方法(ΔΔCt−方法):比較Ct方法は、キャリブレーターの遺伝子発現に対する、歯科的処置後における注目する遺伝子発現の変化を計算する数学的なモデルである。実験試料の分析に先立ち、妥当性確認実験を行って、注目する遺伝子および参照遺伝子または「ハウスキーピング」遺伝子の増幅効率が等しいことを確認した。該妥当性確認実験は、注目する遺伝子(パターン認識受容体)および参照遺伝子(18S)を含有するcDNAの希釈系列よりなるものであった。希釈系列の半対数回帰分析の勾配(ΔCt−対−対数入力量)は、有効なΔΔCT計算についてほぼ等しいはずである(±0.1)。注目する増幅および参照内因性対照増幅の標的遺伝子の相対的効率柄の評価は、1つのプールされた試料を用いる系列希釈を実行することによって達成された。各希釈点から生じたCT値(標的−対−参照)をΔCT計算で用いた(ΔCT=CT標的−CT参照)。注目する遺伝子の全てはこの妥当性確認試験に合格した。
【0060】
[0060]
統計学的解析および方法:倍数変化(fold change)。Data Assist
TM v. 3.0 Software(Applied Biosystems)を、遺伝子発現の相対的定量化を計算するための比較CT方法を用いるデータ解析のために用いた。それは、異常値の除去のための濾過手法、単一または多数遺伝子に基づく種々の正規化方法を含み、統計学的解析および対話型可視化の組合せを介する遺伝子発現の相対的定量化分析を提供する。0.05のp−値カットオフを用いて、DataAssistソフトウェアから得られた結果からの有意な遺伝子発現の差を選択した。
【0061】
[0061]
実施例1:予備的研究
この実験は、パターン認識受容体(TLR1、TLR3、TLR4、TLR7、TLR9、TLR10、MYD88、およびNOD1)が、口腔衛生が不健康なネコと比較して口腔衛生が良好なネコで異なって発現されるか否かを決定することを意図するものであった。
【0062】
[0062]
この実験においては、年齢がマッチしたネコを、それらの毎年の歯科予防を受けているものの中から選択し、それは、この手法の時点において口腔の健康が良好または貧弱いずれかであると見なされた。選択は、それらの歯牙清掃に丁度先立って記録されたそれらの口腔衛生状態の調査によってなされた。特別な注意が歯肉炎の状態に対して払われた。何故ならば、不健康な口腔衛生に対する全身の応答は、この計量によって影響されると仮定されたからである。ネコの2つのグループを確立し、各々は17匹のメンバーであり;1つのグループは口腔衛生が「貧弱」で、他方のグループは口腔衛生が比較的良好であった。
【0063】
[0063]
口腔衛生が「不健康な」グループに関しては、(1)全ての17匹のメンバーは、「重症の」歯肉炎を有すると見なされ;(2)歯石は16匹のメンバーにおいて「中程度」と特徴付けられ、1匹のメンバーでは「深刻」と特徴付けられ、および(3)歯石は、2匹のメンバーにおいて「軽微」、10匹のメンバーでは「中程度」、および5匹のメンバーでは「深刻」と特徴付けられた。
【0064】
[0064]
口腔衛生が「良好な」グループに関しては、(1)全ての17匹のメンバーは「軽度な」歯肉炎を有すると見なされ;(2)歯牙プラークは全ての17匹のメンバーでは「軽度」と特徴付けられ、および(3)結石は14匹のメンバーでは「軽微」、および3匹のメンバーでは「中程度」と特徴付けられた。
【0065】
[0065]
これらのネコからの血液試料をPAXgene血液RNAチューブに収集し、分析まで凍結して貯蔵した。mRNAをこれらの試料から単離し、TLR1、TLR3、TLR4、TLR7、TLR9、TLR10、MYD88、およびNOD1についてのパターン認識受容体(PRR)mRNAをコードするRNAを二本鎖DNAに変換し、前記した方法に従って、qRT−PCRによって増幅した。
【0066】
[0066]
これらの血液試料の定量的な分析は、数値的には、TLR10の発現の差のみが統計学的に異なったが、パターン認識受容体の全ては歯周病に罹ったネコにおいてアップレギュレートされたことを示した。NOD1およびTLR7は、以下の表1において証明されるように、口腔衛生が「良好な」ネコの組に対して歯周病に罹ったネコにおける上昇した発現レベルを示し、これらの差は統計学に有意な傾向である(0.05<p<0.10)。
【表1】
【0067】
[0067]
表1のデータは、口腔衛生が「不健康な」グループのネコの間の予備的研究のパターン認識受容体の発現の差異、およびネコの口腔衛生が「良好な」グループのそれを明らかにする。倍数変化は、口腔衛生が「不健康な」グループのネコの間の差、およびネコの口腔衛生が「良好な」グループのそれである。統計学的有意差は、0.05未満のP−値を持つものと定義され、有意性の傾向を示すデータは、0.05よりも大きいが、0.1未満であるP−値を持つものである。
【0068】
[0068]
前記データによって証明されるように、この実験は、パターン認識受容体(TLR1、TLR3、TLR4、TLR7、TLR9、TLR10、MYD88、およびNOD1)が、口腔衛生が不健康なネコと比較して口腔衛生が良好なネコにおいて異なって発現されることを証明した。
【0069】
[0069]
実施例2:第一の治療介入実験
この第一の治療介入実験は、パターン認識受容体(TLR1、TLR3、TLR4、TLR7、TLR9、TLR10、MYD88、およびNOD1)の発現レベルが、口腔診療療法、例えば、歯周病治療介入に応答するか否かを決定するために設計され、それにより、口腔の健康および全身健康状態の間の因果関係を確立する。
【0070】
[0070]
最初の目視検査に際して「重症」と分類される歯肉炎スコアによって決定して、「不健康な」口腔衛生を有すると分類できるであろう実験室ネコ科動物集団から13匹のネコを選択した。実験の開始に先立って、口腔衛生の多数の尺度を各ネコについて記載した。これらの尺度は、歯牙プラーク、歯石、歯の汚れ、およびLogan/Boycc歯科基質定量方法(Logan et al.(1994)“Oral health assessment in dogs:parameters and methods”J.Vet.Dent.
11(2):58−63)、ならびに失った歯の数、動揺歯の数、歯肉炎退縮がある歯の数、退縮スコアの合計、平均退縮スコア、1mmよりも大きなポケットがある歯の数、1mmよりも大きな平均ポケット深さ、根分岐がある歯の数、平均根分岐グレード(furcation grade)、吸収性病変がある歯の数、および割れ目がある歯の数を含むものであった。
【0071】
[0071]
グループについての平均歯肉炎スコアは、1.0±0.2であり、該値は0.6〜1.3の範囲であった。用いる方法に従った歯肉炎についての可能なスコアの範囲は0.3および3の間であるので、1.0の平均は中程度の炎症であると考えられるであろう。対照的に、歯牙プラークおよび結石のスコアは高く、各々、12.6および5.0の平均であった。可能な歯牙プラークスコアは0〜24の範囲であって、可能な結石のスコアは0〜12の範囲であり、従って、述べた値を持つネコは実質的に基質蓄積を有すると考えられた。歯肉炎、歯牙プラーク、および結石をグレード付けするためのスコアリング標準は、各々、表2、3、および4に提供されている。
【0072】
[0072]
表2は、歯肉炎をグレード付けするための基準を提供する。スコア付けされた歯肉は、垂直方向に、近心、頬側、遠位の1/3部に分けられ、各1/3部が、以下のスケールを用いて歯肉炎症の程度に基づいた別々の数字のスコアを受ける。各歯については、各1/3部についてのスコアを平均して、全歯スコアが得られ、全歯スコアの総和をスコア取りされた歯の数で割ったものが、最終の全口歯肉スコアである。
【表2】
【0073】
[0073]
表3は、歯牙プラークについてのグレード付けの基準を提供する。歯牙プラークは、2%浸食溶液で露出される。各評価された歯の外表面は水平方向に分割され、各半分には、以下の表3に見られるパーセント歯牙プラーク被覆率および色素強度に基づいた別々の数値のスコアが割り当てられる。各半分については、被覆率に強度を掛け合わせ、結果を合計して、全歯歯牙プラークスコアを得る。全歯歯牙プラークスコアの総和を、スコア取りした歯の数で割って、全口歯牙プラークスコアを得る。
【表3】
【0074】
[0074]
表4は、結石をグレード付けするための標準を提供する。各評価された歯の外表面は垂直方向1/3部に分割し、各1/3部に、以下の表4に記載されたスケールを用いてパーセント被覆率に基づいた別々の数値のスコアが割り当てられる。各歯についての被覆率スコアを加えて、全歯結石スコアが得られ、全歯結石スコアの総和をスコア取りされた歯の数で割ったのが、最終の全口結石スコアである。
【表4】
【0075】
[0075]
絶食血液試料を、第一日に、標準的な手法に従って行われた完全な歯科予防に丁度先立って、および丁度後に採血した。追加の血液試料を、完全な歯科予防後3、8および15日に採取した。全ての血液試料は、標準的な手法を用いてPAXgene血液RNAチューブに収集し、試料は分析まで凍結させた。前記した方法に従い、これらの血液試料を用いて、qRT−PCRによって、PRRs(TLR1、TLR3、TLR4、TLR7、TLR9、TLR10、MYD88、およびNOD1)の発現レベルを評価した。
【0076】
[0076]
本実験において標的としたパターン認識受容体の発現の相対的レベルの定量化を表5に示す。
【表5】
【0077】
[0077]
表5のP−値はメジアンであり、各時点における値を「プレ−予防処置」試料と比較する。同様に、倍数変化は、メジアンΔCtとして、または平均ΔCtとして導かれる。「プレ」および「ポスト」エントリーは、各々、歯科予防の前および後に採取された第一日血液試料をいう。
【0078】
[0078]
歯科介入に先立ち、これらの発現レベルは、それらが改良されたネコの口腔衛生後のものであるよりも高かった。データは、予防に対する直後の応答が無い;すなわち、プレ−からポスト−予防時点への変化はほとんど無いが、パターン認識受容体の各々の発現レベルは、実験の最後までにはベースライン(プレ−予防)レベル未満まで降下したことを示唆する。MYD88のみが、処置後14日に、有意な、または有意近くの低下を示さなかった。
【0079】
[0079]
本実験においては、TLR1、TLR4、TLR7、TLR9、TLR10、およびNOD1の発現が、第15日に、すなわち、歯科予防後14日に、歯周病治療介入に対する有意な応答を示した。MYD88は、他に平行した数値の応答を示したが、統計学的には有意でなかった。3日後に、パターン認識受容体の全ての発現レベルは、結局は、それらがベースラインにある時よりも低いレベルまで降下した。これらのデータは、さらに、パターン認識受容体が、歯周病、状態、例えば、限定されるものではないが、歯周病に関連する、または、例えば、専門家の歯牙清掃の間における口腔病原体の身体中への「漏出」から生じる菌血症の全身マーカーとして有用であることを示す。
【0080】
[0080]
パターン認識受容体(TLR1、TLR3、TLR4、TLR7、TLR9、TLR10、MYD88、およびNOD1)の発現レベルが口腔診療療法、例えば、歯周病治療介入に応答したことを示す先に提供されたデータは、口腔の健康および全身健康状態の間に、事実、因果関係があることを確立する。
【0081】
[0081]
実施例2:第二の治療介入実験
この第二の治療介入実験もまた、パターン認識受容体(TLR1、TLR3、TLR4、TLR7、TLR9、TLR10、MYD88、およびNOD1)の発現レベルが口腔診療療法、例えば、歯周病治療介入に応答するか否かを決定するために設計され、それにより、口腔の健康および全身健康状態の間の因果関係を確立する。
【0082】
[0082]
30匹のネコを含むグループIおよび18匹のネコを含むグループIIの2つのグループにランダム化される場合の、歯周病が重症である合計48匹のネコ。0〜4のスケールにてグレード分けされた半定量的目視スコアリングシステムを用い、予め存在する歯牙の病気を評価した。処置に先立って2つのグループを比較して、見掛けの重症度に有意差はないことを確認した。ネコを、制御された条件での実験期間を通じてその主要缶詰ダイエットで維持した。
【0083】
[0083]
最初に、血液試料を全てのネコから採取して、治療介入に先立って、すなわち、−16日にパターン認識受容体の発現を評価した。この最初の血液収集から16日後に、歯周病処置を試験グループ(グループI)の30匹のネコで行った。対照ネコの歯周病の処置は、実験において後に行い、それらのパターン認識受容体の発現レベルは参照(「未処置」)値を提供した。全てのネコは、(実験に戻す前に、ブプレノルフィンおよびアモキシシリン/クラブラネートでの追加の処置を必要とした1匹のネコを除いて)、プレ−opから直ちにアモキシシリン/クラブラネートを受けたが、ポスト−opには何も受けなかった。
【0084】
[0084]
全てのネコは、標準条件下で行ったプレ−opから直ちにブプレノルフィン(40 μg/kg s/c)を受けた。ネコのいずれも、本実験の間のいずれの時点においても、非ステロイド系抗炎症薬物を投与されなかった。
【0085】
[0085]
試験グループ(グループI)においては、処置から16、45、90、および180日後に、対照グループ(グループII)においては処置から16、45、90日後に血液試料を採取した。全て血液試料は、標準条件下でPAXgene血液RNAチューブに収集し、分析まで凍結して貯蔵した。これらの血液試料を用いて、前記した方法に従い、qRT−PCRによって、TLR1、TLR4、TLR7、TLR9、TLR10、MYD88、およびNOD1の発現レベルを評価した。
【0086】
[0086]
PCR分析は2回行った。最初の分析において、試験および対照グループの双方についての入手可能なRNA試料の全てでのパターン認識受容体の発現レベルを評価し、結果をベースラインにおいて合わせた。しかしながら、この最初の実験においては、入手可能な試験グループRNA試料のみを追加の時点において評価した。第二の分析を行い、具体的には、−16日および+16日の時点に焦点を当てた。また、試験および対照グループの双方からの入手可能なRNA試料についてのパターン認識受容体の発現レベルを評価し、結果をベースラインにおいて合わせた。しかしながら、+16日の試験および対照グループのパターン認識受容体の発現レベルは、分析のこの方法は処置の関数として変化したパターン認識受容体の発現レベルを区別し(すなわち、試験グループのネコ)、処置よりはむしろ時間の関数として起こるであろういずれの変化も同定する(すなわち、対照グループネコ)ことを例外として、別々に保った。加えて、第二の分析は、アッセイの変動を低下させるために、第一の分析におけるよりも異なる「ハウスキーピング」遺伝子を用いた。
【0087】
[0087]
ネコの2つのグループ(試験および対照)についての歯肉炎のスコアは、有意な歯肉炎を示す可能な4の平均2.2であった。ネコのポスト−予防の試験グループのみを除いて、ベースラインとしてのネコの全てからのパターン認識受容体の発現レベルの最初の分析は、TLR7を除く全てにおいて、処置の関数としての有意な減少を示した。全ての場合において、第一のデータ点ポスト−予防(+16日)において、パターン認識受容体の発現レベルの数値的な減少があった。しかしながら、45日の時点の後には、全てのパターン認識受容体の発現レベルはより低いレベルに戻り、以下の表6に示されるように、180日においてベースライン値を有意に下回るレベルで終わる。
【表6】
【0088】
[0088]
早い時点に焦点を当てると、口腔衛生治療介入の関数としてのほとんどの全身のパターン認識受容体の発現のレベルにおいて明瞭かつ有意な減少があったのは明らかである。この結果は、前記した第一の治療介入実験で得られた結果に匹敵する。
【0089】
[0089]
異なる遺伝子を参照として用いる本実験の再分析における、ネコの試験および対照グループ双方についての、プレ−およびポスト−予防の時点、すなわち、−16日および+16日のみの比較は、前記した最初の分析のそれと同様な結果を提供した。パターン認識受容体の全ての発現レベルは、試験グループのネコについてのベースラインから数値的に低下したが、(TLR10を例外として)対照グループネコについては変化がなかった。試験グループのネコについての変化は、TLR1およびTLR7について統計学的に有意であった。TLR10発現レベルは、試験グループのネコおよび対照グループのネコの双方についてダウンレギュレートされ、これは、時間の効果を示すが、このパターン認識受容体の発現について処置の効果を示すのではない。
【0090】
[0090]
実施例3において先に提供されたデータは、また、パターン認識受容体(TLR1、TLR3、TLR4、TLR7、TLR9、TLR10、MYD88、およびNOD1)の発現レベルは口腔診療療法、例えば、歯周病治療介入に応答し、さらに、口腔の健康および全身健康状態の間の因果関係の存在を補強することを示す。
【0091】
[0091]
得られた、先に記載された収集データは、(a)歯周病に罹ったネコにおけるいくつかのパターン認識受容体発現レベルが、口腔衛生が良好な同一のネコにおけるよりも有意に高く、(b)歯周病に罹ったネコにおけるパターン認識受容体の発現のアップレギュレーションによって証明されるように、口腔および身体の残りの間にコミュニケーションが存在し、および(c)完全な歯科予防の形態である口腔衛生治療介入は口腔の病気の全身的結果を減衰させることを示す。口腔から身体の残りへの細菌の漏出は、病気の動物において規則的であるか、または継続的であるゆえに、パターン調節受容体の発現の規則的または連続的なアップレギュレーションがもたらされるようである。これは、今度は、より包括的な免疫応答を開始させ、慢性の全身性炎症の負担に寄与することができる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]