特許第6243451号(P6243451)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243451
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】車両用変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/00 20060101AFI20171127BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20171127BHJP
   F16H 61/18 20060101ALI20171127BHJP
   F16H 37/02 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   F16H61/00
   F16H61/662
   F16H61/18
   F16H37/02 R
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-557723(P2015-557723)
(86)(22)【出願日】2014年11月21日
(86)【国際出願番号】JP2014080876
(87)【国際公開番号】WO2015107773
(87)【国際公開日】20150723
【審査請求日】2016年7月19日
(31)【優先権主張番号】特願2014-7093(P2014-7093)
(32)【優先日】2014年1月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071870
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 健
(74)【代理人】
【識別番号】100097618
【弁理士】
【氏名又は名称】仁木 一明
(74)【代理人】
【識別番号】100152227
【弁理士】
【氏名又は名称】▲ぬで▼島 愼二
(72)【発明者】
【氏名】市村 泰之
【審査官】 西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/175568(WO,A1)
【文献】 特開2008−208854(JP,A)
【文献】 特開2000−320630(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第04234629(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/00
F16H 61/662
F16H 61/18
F16H 59/04
F16H 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1プーリ(20)および第2プーリ(21)間のレシオを変更可能なベルト式無段変速機構(V)を備え、油圧で作動する増速用出力切換機構(25)および減速用出力切換機構(23)により、前記第プーリ(2)側から前記第プーリ(2)側に駆動力を増速して伝達する高速モードと、前記第プーリ(2)側から前記第プーリ(2)側に駆動力を減速して伝達する低速モードあるいは後進モードとを切り換え可能な車両用変速機であって、
前記増速用出力切換機構(25)は、第1ピストン(43)を挟んで配置された第1、第2油室(C1,C2)と、前記第1、第2油室(C1,C2)に選択的に油圧を供給する第1二方向弁(V1)とを備え
記減速用出力切換機構(23)は、第2ピストン(49A,49B,49C)を挟んで配置された第3、第4油室(C3,C4)と、前記第3油室(C3)に油圧を供給する第2二方向弁(V2)と、前記第4油室(C4)に油圧を供給する第3二方向弁(V3)とを備え、
前記第1油室(C1)、前記第3油室(C3)、前記第4油室(C4)に油圧を供給すると前記高速モードを確立し、
前記第1、第2、第3二方向弁(V1,V2,V3)は、前記高速モードの確立中に前記第2二方向弁(V2)を切り換えたときに、前記第3油室(C3)の油圧が保持されるように接続されることを特徴とする車両用変速機。
【請求項2】
前記第2油室(C2)、前記第3油室(C3)に油圧を供給すると前記低速モードを確立し、前記第2油室(C2)、前記第4油室(C4)に油圧を供給すると前記後進モードを確立することを特徴とする、請求項1に記載の車両用変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1プーリおよび第2プーリ間のレシオを変更可能なベルト式無段変速機構を備え、油圧で作動する増速用出力切換機構および減速用出力切換機構により、前記第1プーリ側から前記第2プーリ側に駆動力を増速して伝達する高速モードと、前記第2プーリ側から前記第1プーリ側に駆動力を減速して伝達する低速モードあるいは後進モードとを切り換え可能な車両用変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機に設けられた変速クラッチや変速ブレーキよりなる複数の締結要素が誤締結したとき、一つの回転部材に異なる伝達経路から異なる回転数でトルクが伝達されて機械的にロックする現象(インターロック現象)が発生するのを防止するために、締結要素を制御する油圧回路にインターロック防止弁を設けたものが、下記特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本特開平3−163265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のものは、インターロック防止弁を設けたことにより自動変速機の部品点数が増加する問題があった。
【0005】
ベルト式無段変速機構を備える変速機においても、高速モードでの走行中に誤って後進モードに切り換えられた場合に、車輪がロックして車両挙動が乱れたり、変速機に過大な負荷が作用したりする可能性があるため、後進モードが確立するのを阻止するインヒビット手段が必要となる。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、変速機が高速モードでの走行中に誤って後進モードに切り換えられるのを阻止するインヒビッド機能を、特別のバルブを追加することなく達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明によれば、第1プーリおよび第2プーリ間のレシオを変更可能なベルト式無段変速機構を備え、油圧で作動する増速用出力切換機構および減速用出力切換機構により、前記第プーリ側から前記第プーリ側に駆動力を増速して伝達する高速モードと、前記第プーリ側から前記第プーリ側に駆動力を減速して伝達する低速モードあるいは後進モードとを切り換え可能な車両用変速機であって、前記増速用出力切換機構は、第1ピストンを挟んで配置された第1、第2油室と、前記第1、第2油室に選択的に油圧を供給する第1二方向弁とを備え、前記減速用出力切換機構は、第2ピストンを挟んで配置された第3、第4油室と、前記第3油室に油圧を供給する第2二方向弁と、前記第4油室に油圧を供給する第3二方向弁とを備え、前記第1油室、前記第3油室、前記第4油室に油圧を供給すると前記高速モードを確立し、前記第1、第2、第3二方向弁は、前記高速モードの確立中に前記第2二方向弁を切り換えたときに、前記第3油室の油圧が保持されるように接続されることを第1の特徴とする車両用変速機が提案される。
【0008】
尚、減速用シンクロ機構23は本発明の減速用出力切換機構に対応し、実施の形態の増速用シンクロ機構25は本発明の増速用出力切換機構に対応する。
【0009】
また本発明によれば、前記第1の特徴に加えて、前記第2油室、前記第3油室に油圧を供給すると前記低速モードを確立し、前記第2油室、前記第4油室に油圧を供給すると前記後進モードを確立することを第2の特徴とする車両用変速機が提案される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1,第2の特徴によれば、車両用変速機は、第1プーリおよび第2プーリ間のレシオを変更可能なベルト式無段変速機構を備え、油圧で作動する増速用出力切換機構および減速用出力切換機構により、第プーリ側から第プーリ側に駆動力を増速して伝達する高速モードと、第プーリ側から第プーリ側に駆動力を減速して伝達する低速モードあるいは後進モードとを切り換え可能である。
【0011】
増速用出力切換機構は、第1ピストンを挟んで配置された第1、第2油室と、第1、第2油室に選択的に油圧を供給する第1二方向弁とを備え、減速用出力切換機構は、第2ピストンを挟んで配置された第3、第4油室と、第3油室に油圧を供給する第2二方向弁と、第4油室に油圧を供給する第3二方向弁とを備えるので、第1油室、第3油室、第4油室に油圧を供給すると高速モードを確立することができる
【0012】
また、第2油室、第3油室に油圧を供給すると低速モードを確立することができ、第2油室、第4油室に油圧を供給すると後進モードを確立することができる。
【0013】
高速モードの確立中に誤って後進モードを確立しようとして第2二方向弁を切り換えても、第1、第2、第3二方向弁は第3油室の油圧が保持されるように接続されるので、第3油室および第4油室の油圧が拮抗して減速用出力切換機構は後進モードを確立することができず、車輪のロックにより車両挙動が不安定になったり、変速機に過負荷が加わったりするのを未然に防止するインヒビット機能を達成することができる。しかも、上記インヒビット機能を達成するのに特別のバルブを追加する必要がないため、部品点数の増加を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は無段変速機のスケルトン図である。(第1の実施の形態)
図2図2はLOWモードのトルクフロー図である。(第1の実施の形態)
図3図3はHIモードのトルクフロー図である。(第1の実施の形態)
図4図4はRVSモードのトルクフロー図である。(第1の実施の形態)
図5図5は増速用シンクロ機構および減速用シンクロ機構の油圧回路図である。(第1の実施の形態)
図6図6はLOWモードにおける油圧回路図である。(第1の実施の形態)
図7図7はHIモードにおける油圧回路図である。(第1の実施の形態)
図8図8はRVSモードにおける油圧回路図である。(第1の実施の形態)
図9図9はHIモード(RVSインヒビット状態)における油圧回路図である。(第1の実施の形態)
図10図10は第1二方向弁および第2二方向弁の構造を示す図である。(第1の実施の形態)
【符号の説明】
【0015】
20 第1プーリ
21 第2プーリ
23 減速用シンクロ機構(減速用出力切換機構)
25 増速用シンクロ機構(増速用出力切換機構)
43 第1ピストン
49A 第2中径ピストン(第2ピストン)
49B 第2小径ピストン(第2ピストン)
49C 第2大径ピストン(第2ピストン)
V ベルト式無段変速機構
V1 第1二方向弁
V2 第2二方向弁
V3 第3二方向弁
C1 第1油室
C2 第2油室
C3 第3油室
C4 第4油室
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1図10に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【第1の実施の形態】
【0017】
図1に示すように、エンジンEのクランクシャフト11に接続された無段変速機Tは、ミッションケースの内部に相互に平行に配置された入力軸12と、第1出力軸13と、第2出力軸14と、副軸15と、アイドル軸16とを備える。エンジンEのクランクシャフト11の駆動力がトルクコンバータ17を介して伝達される入力軸12は両端に第1クラッチ18および第2クラッチ19を備える。第1クラッチ18を係合すると入力軸12の駆動力が第1リダクションギヤ31および第2リダクションギヤ32を介して第2出力軸14に伝達され、第2クラッチ19を係合すると入力軸12の駆動力が第1インダクションギヤ33および第2インダクションギヤ34を介して副軸15に伝達される。第2出力軸14に設けた第1プーリ20と副軸15に設けた第2プーリ21とが無端ベルト22で接続されており、第1、第2プーリ20,21の溝幅を変更することで、第2出力軸14および副軸15間の変速比を変更可能である。第1プーリ20、第2プーリ21および無端ベルト22はベルト式無段変速機構Vを構成する。
【0018】
第1出力軸13には第1ギヤ26および第2ギヤ27が相対回転自在に支持されており、第1ギヤ26は第1インダクションギヤ33に噛合し、第2ギヤ27はアイドル軸16に固設した第3ギヤ28に噛合し、アイドル軸16に固設した第4ギヤ29は第1インダクションギヤ33に噛合する。第1出力軸13に減速用シンクロ機構23が設けられており、減速用シンクロ機構23を右動すると第1ギヤ26が第1出力軸13に結合され、減速用シンクロ機構23を左動すると第2ギヤ27が第1出力軸13に結合される。そして第1出力軸13に固設した第1ファイナルドライブギヤ35がディファレンシャルギヤDに設けたファイナルドリブンギヤ36に噛合する。
【0019】
また第2出力軸14にはファイナルドリブンギヤ36に噛合する第2ファイナルドライブギヤ37が相対回転自在に支持されており、第2ファイナルドライブギヤ37は増速用シンクロ機構25を右動することで第2出力軸14に結合される。
【0020】
従って、第1クラッチ18を係合し、第2クラッチ19を係合解除し、減速用シンクロ機構23を右動し、増速用シンクロ機構25を左動したLOWモード(低速モード)では、図2に示すように、エンジンEのクランクシャフト11の駆動力がトルクコンバータ17→入力軸12→第1クラッチ18→第1リダクションギヤ31→第2リダクションギヤ32→第2出力軸14→第1プーリ20→無端ベルト22→第2プーリ21→副軸15→第2インダクションギヤ34→第1インダクションギヤ33→第1ギヤ26→減速用シンクロ機構23→第1出力軸13→第1ファイナルドライブギヤ35→ファイナルドリブンギヤ36→ディファレンシャルギヤDの経路で駆動輪に伝達される。このLOWモードで第1プーリ20および第2プーリ21の溝幅を変更することで、無段変速機Tの変速比をLOW側で無段階に変更することができる。
【0021】
第1クラッチ18を係合解除し、第2クラッチ19を係合し、減速用シンクロ機構23を中立にし、増速用シンクロ機構25を右動したHIモード(高速モード)では、図3に示すように、エンジンEのクランクシャフト11の駆動力がトルクコンバータ17→入力軸12→第2クラッチ19→第1インダクションギヤ33→第2インダクションギヤ34→副軸15→第2プーリ21→無端ベルト22→第1プーリ20→第2出力軸14→増速用シンクロ機構25→第2ファイナルドライブギヤ37→ファイナルドリブンギヤ36→ディファレンシャルギヤDの経路で駆動輪に伝達される。このHIモードで第1プーリ20および第2プーリ21の溝幅を変更することで、無段変速機Tの変速比をHI側で無段階に変更することができる。
【0022】
以上のように、LOWモードおよびHIモードで第1プーリ20および第2プーリ21間の動力伝達方向を反転することで、無段変速機Tのトータルの変速比を大幅に拡大することができる。
【0023】
第1クラッチ18を係合し、第2クラッチ19を係合解除し、減速用シンクロ機構23を左動し、増速用シンクロ機構25を左動したRVSモード(後進モード)では、図4に示すように、エンジンEのクランクシャフト11の駆動力がトルクコンバータ17→入力軸12→第1クラッチ18→第1リダクションギヤ31→第2リダクションギヤ32→第2出力軸14→第1プーリ20→無端ベルト22→第2プーリ21→副軸15→第2インダクションギヤ34→第1インダクションギヤ33→第4ギヤ29→アイドル軸16→第3ギヤ28→第2ギヤ27→減速用シンクロ機構23→第1出力軸13→第1ファイナルドライブギヤ35→ファイナルドリブンギヤ36→ディファレンシャルギヤDの経路で逆回転となって駆動輪に伝達され、車両は後進走行する。
【0024】
次に、図5に基づいて、増速用シンクロ機構25および減速用シンクロ機構23を制御する油圧回路を説明する。
【0025】
増速用シンクロ機構25の第1油圧アクチュエータ41は第1シリンダ42に摺動自在に嵌合する第1ピストン43を備えており、第1ピストン43を支持して摺動するシフトロッド44に設けたシフトフォーク45が増速用シンクロ機構25のスリーブ46に係合する。第1シリンダ42の両端には、第1ピストン43を挟むように第1油室C1および第2油室C2が区画される。
【0026】
減速用シンクロ機構23の第2油圧アクチュエータ47は第2シリンダ48に摺動自在に嵌合する第2中径ピストン49A、第2小径ピストン49Bおよび第2大径ピストン49Cを備える。第2シリンダ48の左側に摺動自在に嵌合して第3油室C3に臨む第2中径ピストン49Aはシフトロッド50を右向きに付勢可能であり、シフトロッド50はシフトフォーク51を介して減速用シンクロ機構23のスリーブ52に係合する。また第2シリンダ48の右側に摺動自在に嵌合して第4油室C4に臨む第2大径ピストン49Cの内部に第2小径ピストン49Bが摺動自在に嵌合しており、かつ第4油室C4が第2大径ピストン49Cの貫通孔49aを介して第2小径ピストン49Bの右端面に連通することで、第2小径ピストン49Bはシフトロッド50を左向きに付勢可能である。第2大径ピストン49Cの左側への移動端は第2シリンダ49の段部49bにより規制され、第2小径ピストン49Bの右側への移動端は第2大径ピストン49Cの段部49bにより規制される。
【0027】
従って、第3油室C3および第4油室C4に同時に油圧が作用すると、第2大径ピストン49Cを左側に押す油圧が第2小径ピストン49Bを右側に押す油圧を上回るため、第2中径ピストン49A、第2小径ピストン49Bおよび第2大径ピストン49Cは、第2大径ピストン49Cが第2シリンダ48の段部48aに当接する中立状態まで一体に左動する(図7および図9参照)。
【0028】
また第3油室C3だけに油圧が作用すると、段部49bを介して係合する第2小径ピストン49Bおよび第2大径ピストン49Cを第2中径ピストン49Aが押圧して一体に右動し、第2中径ピストン49A、第2小径ピストン49Bおよび第2大径ピストン49Cは右動状態となる(図6参照)。逆に、第4油室C4だけに油圧が作用すると、第2大径ピストン49Cが第2シリンダ48の段部48aに当接するまで左動し、更に第2小径ピストン49Bが第2中径ピストン49Aを押圧して一体に左動し、第2中径ピストン49A、第2小径ピストン49Bおよび第2大径ピストン49Cは左動状態となる(図8参照)。
【0029】
油圧回路は、油圧ポンプによりアキュムレータ53に蓄圧されてモジュレータバルブ54で調圧されたライン圧が伝達される高圧油路L1と、オイルタンク55に接続された低圧油路L2とを備えており、高圧油路L1および低圧油路L2に接続された第1二方向弁V1が、HI供給油路L3およびHI排出油路L4を介して第1油圧アクチュエータ41の第1油室C1および第2油室C2にそれぞれ接続される。
【0030】
HI供給油路L3から分岐するインヒビット油路L5および高圧油路L1に接続された第2二方向弁V2が、LOW供給油路L6を介して第2油圧アクチュエータ47の第3油室C3に接続されるとともに、高圧油路L1および低圧油路L2に接続された第3二方向弁V3が、RVS供給油路L7を介して第2油圧アクチュエータ47の第4油室C4に接続される。
【0031】
第1二方向弁V1は第1シフトソレノイド56により切り換えられ、第2二方向弁V2は第2シフトソレノイド57により切り換えられ、第3二方向弁V3は第3シフトソレノイド58により切り換えられる。
【0032】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0033】
図6に示すように、第1シフトソレノイド56をオフして第1二方向弁V1で高圧油路L1をHI排出油路L4に接続して低圧油路L2をHI供給油路L3に接続すると、第1油圧アクチュエータ41の第2油室C2に油圧が供給されて第1ピストン43が左動し、増速用シンクロ機構25により第2ファイナルドライブギヤ37が第2出力軸14から切り離される。
【0034】
また第2シフトソレノイド57をオフして第2二方向弁V2で高圧油路L1をLOW供給油路L6に接続するとともに、第3シフトソレノイド58をオンして第3二方向弁V3で低圧油路L2をRVS供給油路L7に接続すると、第2油圧アクチュエータ47の第3油室C3に油圧が供給されて第2中径ピストン49A、第2小径ピストン49Bおよび第2大径ピストン49Cが右動状態となり、減速用シンクロ機構23により第1ギヤ26が第1出力軸13に結合される。その結果、図2に示すLOWモードが確立する。
【0035】
図7に示すように、第1シフトソレノイド56をオンして第1二方向弁V1で高圧油路L1をHI供給油路L3に接続して低圧油路L2をHI排出油路L4に接続すると、第1油圧アクチュエータ41の第1油室C1に油圧が供給されて第1ピストン43が右動し、増速用シンクロ機構25により第2ファイナルドライブギヤ37が第2出力軸14に結合される。
【0036】
また第2シフトソレノイド57をオフして第2二方向弁V2で高圧油路L1をLOW供給油路L6に接続するとともに、第3シフトソレノイド58をオフして第3二方向弁V3で高圧油路L1をRVS供給油路L7に接続すると、第2油圧アクチュエータ47の第3油室C3および第4油室C4に油圧が供給されて第2中径ピストン49A、第2小径ピストン49Bおよび第2大径ピストン49Cが中立状態となり、減速用シンクロ機構23により第1ギヤ26および第2ギヤ27が第1出力軸13から切り離される。その結果、図3に示すHIモードが確立する。
【0037】
図8に示すように、第1シフトソレノイド56をオフして第1二方向弁V1で高圧油路L1をHI排出油路L4に接続して低圧油路L2をHI供給油路L3に接続すると、第1油圧アクチュエータ41の第2油室C2に油圧が供給されて第1ピストン43が左動し、増速用シンクロ機構25により第2ファイナルドライブギヤ37が第2出力軸14から切り離される。
【0038】
また第2シフトソレノイド57をオンして第2二方向弁V2で低圧油路L2をインヒビット油路L5を介してLOW供給油路L6に接続するとともに、第3シフトソレノイド58をオフして第3二方向弁V3で高圧油路L1をRVS供給油路L7に接続すると、第2油圧アクチュエータ47の第4油室C4に油圧が供給されて第2中径ピストン49A、第2小径ピストン49Bおよび第2大径ピストン49Cが左動状態となり、減速用シンクロ機構23により第2ギヤ26が第1出力軸13に結合される。その結果、図4に示すRVSモードが確立する。
【0039】
さて、車両がHIモードで高速走行している最中に運転者が誤ってシフトレバーをRVSポジジョンに操作したとき、RVSモードが確立すると車輪がロックして車両挙動が乱れたり、変速機に過大な負荷が作用したりする可能性があるため、RVSモードが確立するのを阻止するインヒビット手段が必要となる。
【0040】
本実施の形態では、図7に示すHIモードの確立中に、HI供給油路L3の高圧がインヒビット油路L5を介して第2二方向弁V2に伝達されているため、図9に示すように、運転者が誤ってシフトレバーをRVSポジションに操作し、第2シフトソレノイド57がオンして第2二方向弁V2が切り換わり、第3油室C3がLOW供給油路L6および第2二方向弁V2を介してインヒビット油路L5に連通しても、インヒビット油路L5は高圧状態にあるために第3油室C3の油圧が抜けずに保持され、第3油室C3および第4油室C4に油圧が供給されて第2中径ピストン49A、第2小径ピストン49Bおよび第2大径ピストン49Cが中立状態に固定され、RVSモードの確立が阻止される。
【0041】
HIモードの確立中にインヒビッド制御が行われていても、HIモードからLOWモードへの切り換えは支障なく行われる。即ち、図9に示すHIモードでのインヒビッド制御中に、図6に示すLOWモードに切り換える場合には、第1シフトソレノイド56がオフすることでインヒビット油路L5が低圧油路L2に接続されてしまうが、同時に第2シフトソレノイド57がオフして第3シフトソレノイド58がオンすることで、高圧油路L1がLOW供給油路L6に接続するとともに低圧油路L2がRVS供給油路L7に接続することで、第2中径ピストン49A、第2小径ピストン49Bおよび第2大径ピストン49Cを支障なく右動状態に駆動してLOWモードを確立することができ、インヒビッド制御がLOWモードの確立を阻害することがない。
【0042】
図10には第1二方向弁V1および第2二方向弁V2の具体的構造が示されており、図10(A)はHIモードに対応し、図10(B)はHIモードのRVSインヒビット状態に対応する。
【0043】
図10(A)に示すHIモードでは、第1二方向弁V1のスプール59が第1シフトソレノイド圧で左動し、高圧油路L1がHI供給油路L3およびインヒビット油路L5に連通し、低圧油路L2がHI排出油路L4に連通する。また第2二方向弁V2のスプール60がスプリング61の弾発力で右動し、LOW供給油路L6がインヒビッド油路L5から遮断されて高圧油路L1に連通する。第2二方向弁V2には第1、第2クラッチ18,19の制御機能があり、このときクラッチ圧は第2クラッチ19に供給される。
【0044】
図10(B)に示すHIモードのRVSインヒビット状態では、第1二方向弁V1の状態は変化しないが、第2二方向弁V2のスプール60が第2シフトソレノイド圧で左動し、LOW供給油路L6がインヒビッド油路L5に連通して高圧油路L1から遮断される。このときクラッチ圧は第1クラッチ18に供給される。
【0045】
以上のように、本実施の形態によれば、HIモードの確立中に誤ってRVSモードを確立しようとして第2二方向弁V2を切り換えても、減速用シンクロ機構23の第2油圧アクチュエータ47の第3油室C3の油圧がインヒビット油路L5の油圧により保持されるので、第3油室C3および第4油室C4の油圧が拮抗して減速用シンクロ機構23はRVSモードを確立することができず、車輪のロックにより車両挙動が不安定になったり、無段変速機Tに過負荷が加わったりするのを未然に防止するインヒビット機能を達成することができる。しかも、上記インヒビット機能を達成するのに特別のバルブを追加する必要がないため、部品点数の増加を回避することができる。
【0046】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0047】
例えば、無段変速機Tの構造は実施の形態に限定されず、適宜変更可能である。
【0048】
また第1二方向弁V1、第2二方向弁V2および第3二方向弁V3を含む油圧回路の構造は実施の形態に限定されず、適宜変更可能である。
図1
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図10