特許第6243452号(P6243452)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6243452アルブミン結合アルギニンデイミナーゼ融合たんぱく質を含有する医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243452
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】アルブミン結合アルギニンデイミナーゼ融合たんぱく質を含有する医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20171127BHJP
   C12N 9/78 20060101ALI20171127BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20171127BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20171127BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20171127BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20171127BHJP
【FI】
   C07K19/00ZNA
   C12N9/78
   A61K38/46
   A61P35/00
   A61P35/02
   !C12N15/00 A
【請求項の数】10
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-561630(P2015-561630)
(86)(22)【出願日】2014年3月6日
(65)【公表番号】特表2016-514111(P2016-514111A)
(43)【公表日】2016年5月19日
(86)【国際出願番号】US2014020943
(87)【国際公開番号】WO2014138319
(87)【国際公開日】20140912
【審査請求日】2017年1月26日
(31)【優先権主張番号】14/197,236
(32)【優先日】2014年3月5日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/773,214
(32)【優先日】2013年3月6日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515069439
【氏名又は名称】ビジョン グローバル ホールディングス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】VISION GLOBAL HOLDINGS LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(74)【代理人】
【識別番号】100138760
【弁理士】
【氏名又は名称】森 智香子
(72)【発明者】
【氏名】ビン ロウ ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ノーマン ファン マン ワイ
(72)【発明者】
【氏名】スイ イー クォック
(72)【発明者】
【氏名】ユイン チャン リアン
【審査官】 藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−523433(JP,A)
【文献】 特表2010−534486(JP,A)
【文献】 特表2002−527107(JP,A)
【文献】 Cancer Letters,2008年,Vol.261,pp.1-11
【文献】 J. Biol. Chem.,2011年,Vol.286, No.7,pp.5234-5241
【文献】 Protein Eng. Des. Sel.,2010年,Vol.23, No.11,pp.827-834
【文献】 J. Biol. Chem.,2009年,Vol.284, No.38,pp.25612-25619
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 − 15/90
C07K 1/00 − 19/00
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CAplus/WPIDS/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルブミン結合アルギニンデイミナーゼ融合たんぱく質を形成するために、アルギニンデイナミナーゼを含む第2の部分と融合する、アルブミン結合ドメイン、アルブミン結合ペプチドまたはアルブミン結合たんぱく質から選択される1つまたは2つの構成成分を含む第1の部分、及び、1つまたは1つ以上のリンカー分子を含むアルブミン結合アルギニンデイミナーゼ融合たんぱく質であって、
前記融合たんぱく質の一の部分の機能が前記融合たんぱく質の他の部分により妨げられずに、前記アルブミン結合アルギニンデイミナーゼ融合たんぱく質が前記アルギニンデイミナーゼの活性を保持して血清アルブミンと結合するように、前記リンカー分子によって前記第1の部分が前記第2の部分の活性部位から離れて位置し、
前記アルブミン結合アルギニンデイミナーゼ融合たんぱく質が配列番号40の配列を含むアルブミン結合アルギニンデイミナーゼ融合たんぱく質。
【請求項2】
ポリ−Nまたはヒスチジンタグの少なくとも1つをさらに含む、請求項1に記載のアルブミン結合アルギニンデイミナーゼ融合たんぱく質。
【請求項3】
前記アルギニンデイミナーゼが、マイコプラズマ属からなる請求項1に記載のアルブミン結合アルギニンデイミナーゼ融合たんぱく質。
【請求項4】
前記アルギニンデイミナーゼが、マイコプラズマ・アルギニニからなる請求項に記載のアルブミン結合アルギニンデイミナーゼ融合たんぱく質。
【請求項5】
前記アルギニンデイミナーゼと前記アルブミン結合ドメインが共有結合によって結合するように、前記アルブミン結合ドメインのC末端でN末端にシステイン残基を有する前記アルギニンデイミナーゼと反応性チオエステルとの反応によって前記融合たんぱく質が形成される、請求項1に記載のアルブミン結合アルギニンデイミナーゼ融合たんぱく質。
【請求項6】
前記アルギニンデイミナーゼと前記アルブミン結合ドメインが共有結合によって結合するように、配列番号42および43を使用し、前記アルブミン結合ドメインのC末端でN末端にシステイン残基を有する前記アルギニンデイミナーゼと反応性チオエステルとの反応によって前記融合たんぱく質が形成される、請求項1に記載のアルブミン結合アルギニンデイミナーゼ融合たんぱく質。
【請求項7】
薬学的に許容され得るキャリア中に、請求項1に記載のアルブミン結合アルギニンデイミナーゼ融合たんぱく質を含有する医薬組成物。
【請求項8】
前記組成物のpHが5.5から9.5の範囲内である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記組成物のpHが7.4である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記組成物のpHが6.5である、請求項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、その開示全体が本明細書に参照によって引用される2013年3月6日に出願された米国仮特許出願第61/773,214号及び2014年3月5日に出願された米国非仮特許出願第14/197,236号の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、高活性で長い生体内半減期を有するもつ物質を作るために遺伝子組み換えをしたアルブミン結合アルギニンデイミナーゼ(AAD)融合たんぱく質に関する。本発明は、さらに異種のAAD融合たんぱく質を作るためのDNAデザイン設計とプロテイン・エンジニアリングに関する。AAD融合たんぱく質は、粗たんぱく質の可溶性画分およびや不溶性画分(封入体)から単離し、精製することができる。本発明は、さらにヒトおよびやその他の動物のがんのターゲティング治療やアルギニン依存性疾患の治療のためのアルブミン結合アルギニンデイミナーゼを含有する含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
世界人口中で、膵臓がん、大腸がん、肝臓がん、黒色腫、子宮頸がんの発生は増加している。これらの病気の効果的な治療が緊急に必要とされる。白血病、黒色腫、膵臓がん、大腸がん、腎細胞がん、肺がん、前立腺がん、胸がん、脳がん、子宮頸がん、および肝臓がんなど多くの型のがんでは、がん細胞は、アルギニノコハク酸シンテターゼ(ASS)を発現しないためアルギニン栄養要求性であり、アルギニン枯渇療法の優れたターゲットとなっている。
【0004】
アルギニンは、ヒトおよび他のほ乳類にとって準必須アミノ酸である。アルギニンは、尿素回路酵素であるアルギニノコハク酸シンテターゼ(ASS)およびアルギニノコハク酸リアーゼ(ASL)が触媒する2つの段階を経て、シトルリンから合成できる。アルギニンは、酵素アルギナーゼによってオルニチンに代謝することができ、オルニチンはミトコンドリア中のオルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(OTC)によってシトルリンに転換することができる。シトルリンはアルギニンを再び合成するために利用できる。ASSとASLの触媒活性が活性なため、正常細胞は一般に成長のために外来性のアルギニンの供給を必要としない。対照的に、多くの型のがんでは、ASSを発現しないので、アルギニン栄養要求性である。がんの成長は、血液循環から得られるアルギニンにのみ依存する。したがって、アルギニン分解酵素を用いて循環するアルギニンをターゲットとすることは、ASS陰性腫瘍の成長を妨げるために実行可能な戦略である[Feun et al., Curr. Pharm. Des. 14:1049-1057 (2008); Kuo et al., Oncotarget. 1:246-251 (2010)]。
【0005】
アルギニンは、アルギナーゼ、アルギニンデカルボキシラーゼ、アルギニンデイミナーゼ(ADI)により分解することができる。これらの中で、アルギニンデイミナーゼ(ADI)は、アルギニンに親和性が最も高いようにみえる(低K値)。ADIは、アルギニンを尿素回路の前記代謝生成物であるシトルリンとアンモニアに転換する。残念なことにADIは、たとえばマイコプラズマ属などの原核生物にのみ見いだされる。原核生物からのADIの単離と精製に関しては、いくつかの問題がある。中性pHでは、その酵素活性が低いため、シュードモナス・プチダから単離されたADIは、生体内で効果を発揮することができない。大腸菌から産生されるADIは、酵素的に不活性であり、事後的に多様な変性と再生過程を要求し、事後的な生産費用が高くなる。
【0006】
天然の野生型ADIは、微生物に見いだされるので、抗原性であり、患者の循環系から急速に取り除かれる。天然形態のADIは、ヒトの循環系への注射により、短い半減期(〜4時間)で免疫原性となり、中和抗体を誘発する[Ensor et al., Cancer Res. 62:5443-5450(2002);Izzo et al., J. Clin. Oncol. 22:1815-1822(2004)]。これらの欠点はペグ化によって改善できる。さまざまな型のペグ化ADIのうち、スクシンイミジルスクシナートを介してPEG(分子量20,000)と結合したADI(ADI−PEG20)が有効な剤型であることが見いだされている。しかし、ペグ化後のADIの活性は、約50%ほど大きく減少する[Ensor et al., Cancer Res. 62:5443-5450(2002)]。ペグ化ADIを作る以前の試みは、均質ではなく(たんぱく質表面のリシン残基へのPEGのランダム付加による)、また特性を明らかにすることおよび製造プロセスの間で品質管理を実行することが困難な物質であるという結果になった。また、PEGもまた非常に高価であるので、製造コストが大きく上昇する。ペグ化ADIを生体内に静脈注射した後には、遊離のPEGの漏れや分離が見られ、(PEGを有さない)ADIは、免疫原性の問題を惹起し得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Feun et al., Curr. Pharm. Des. 14:1049-1057 (2008); Kuo et al., Oncotarget. 1:246-251 (2010)
【非特許文献2】Ensor et al., Cancer Res. 62:5443-5450(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、改良されたがん治療組成物、特に活性および生体内の半減期が向上した改良されたがん治療組成物が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては、がん細胞内のアルギニンを効果的に枯渇させるため、アルブミン結合アルギニンデイミナーゼ(AAD)融合たんぱく質は、その活性を高め、血漿半減期を増大する。天然のADIは、微生物に見いだされ、抗原性であり、患者の循環系から急速に取り除かれる。本発明では、より長い生体内半減期(一度の投与後、少なくとも5日間のアルギニンの枯渇)で高い活性を維持するために、1つまたは2つのアルブミン結合タンパク質を有する異種のAAD融合たんぱく質を構築する。本発明において、AAD融合たんぱく質産物中のアルブミン結合たんぱく質は、その特異的な酵素活性に影響せずに、むしろ循環系での半減期を延長するとみられる。野生型ADIおよび本発明のAAD融合たんぱく質の特異的な活性は、それぞれ8.4U/mgおよび9.2U/mg(生理的pH7.4)である。
【0010】
広義においては、本発明は、アルブミン結合アルギニンデイミナーゼ融合たんぱく質がアルギニンデイミナーゼの活性を保持し、血清アルブミンにも結合できるようなアルブミン結合アルギニンデイミナーゼ融合たんぱく質を形成するために、アルブミン結合ドメイン、アルブミン結合ペプチドまたはアルブミン結合たんぱく質から選択される一つまたは二つの構成成分を含む第1の部分を、アルギニンデイミナーゼを含む第2の部分と融合するアルブミン結合アルギニンデイミナーゼ融合たんぱく質を提供する。
【0011】
本発明は、さらに、ヒトおよび他の動物のがん治療をターゲットとするアルブミン結合アルギニンデイミナーゼ(AAD)融合たんぱく質を含有する医薬組成物に関する。本発明の1つ目の側面は、がん細胞に対し高い活性を有する組み換えのAAD融合たんぱく質を構築することである。本発明の2つ目の側面は、粗たんぱく質から、高純度なAAD融合たんぱく質を精製することである。本発明の3つ目の側面は、循環系においてアルブミンに十分に結合できるように、AAD融合たんぱく質の半減期を延ばすことである。本発明の4つ目の側面は、本発明のがん治療用のAADを含有する医薬組成物を、様々な腫瘍、がん、腫瘍あるいはがんに関連する疾患または他のアルギニン依存性疾患に患う必要とする被験者に投与することによる、がん治療のために本発明のがん治療用のAADを含有する医薬組成物を使用する方法を提供する。
【0012】
本発明のAAD融合たんぱく質は、さらにより安定化され、循環系でより長い半減期を有するように、アルブミン結合たんぱく質とADIが分離することを回避するために、組み換えられる。ADIは、AAD融合製品中のアルブミン結合ドメイン/ペプチド/たんぱく質と融合して、血漿半減期を延ばし、融合製品の免疫原性を減らす。アルブミン結合ドメイン(ABD)は、血液中のアルブミンと結合するペプチドである。ヒト血清アルブミン(HSA)の親和性が異なるまたは改善された、異種のABDの変異体が存在する。異種のABDの変異体は、ADIから構築することができ、ADIに融合することができる。天然に存在しているADIと異なり、AAD融合タンパク質のより長い半減期という特性ががん細胞、がん幹細胞および/またはがん前駆細胞中でアルギニンの効果的な枯渇を促進する。
【0013】
AAD融合たんぱく質を含有する医薬組成物は、静脈(i.v.)注射(速効性のある薬物の投与のために)および筋肉(i.m.)注射(かなりの速効性および持続性のある薬物の投与のために)に使用できる。本発明のAAD融合たんぱく質は、膵臓がん、白血病、頭頸部がん、大腸がん、肺がん、乳がん、前立腺がん、子宮頸がん、肝臓がん、上咽頭がん、食道がん、脳がんなど様々ながんの治療に適用できる。本発明は、AAD融合たんぱく質、がん治療法、がん組織の治療および/または転移防止法、およびアルギニン欠乏性疾患の治療法に関する。
【0014】
本発明の方法は、がん治療の相乗効果を与えるために、本発明のAAD融合たんぱく質と異なる化学療法剤および/またはもしくは放射線治療とを併用することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A図1A〜Dは、1つまたは2つのアルブミン結合ドメイン/ペプチド/たんぱく質を有する、3次元構造の異種のAAD融合タンパク質を構築するためのデザイン設計を示す。1つまたは2つのアルブミン結合ドメイン/ペプチド/たんぱく質は、AAD融合たんぱく質を形成するために、ADIに融合することができる。アルブミン結合ドメイン/ペプチド/たんぱく質の位置は、ADIの活性化部位から離れている。アルブミン結合ドメイン/ペプチド/たんぱく質は、ADIのN末端または/およびC末端に融合することができる。本図の構造は、マイコプラズマ・アルギニニのADIの構造(Protein Data Bank:1LXY)に基づく。図1Aは、天然のADIを示す。
図1B】2つのABDまたはABD1を有するAAD融合たんぱく質を示す。
図1C】N末端において1つのABDまたはABD1を有するAAD融合たんぱく質を示す。
図1D】C末端において1つのABDまたはABD1を有するAAD融合たんぱく質を示す。
図2】マイコプラズマ・アルギニニ(配列番号23)、ラクトコッカス・ラクティス(配列番号24)、バチルス・セレウス(配列番号25)、バチルス・リケニホルミス(配列番号26)を含むいくつかの細菌種におけるADIの配列アラインメントを示す。
図3A図3A〜Eは、マイコプラズマ・アルギニニ(AからE)由来のおよびバチルス・セレウス由来のAAD融合たんぱく質(F)の異種のAAD融合たんぱく質のデザイン設計とアミノ酸配列を示す。図3Aは、マイコプラズマ・アルギニニ由来のAAD融合たんぱく質(A)のデザイン設計とアミノ酸配列を示す。
図3B】マイコプラズマ・アルギニニ由来のAAD融合たんぱく質(B)のデザイン設計とアミノ酸配列を示す。
図3C】マイコプラズマ・アルギニニ由来のAAD融合たんぱく質(C)のデザイン設計とアミノ酸配列を示す。
図3D】マイコプラズマ・アルギニニ由来のAAD融合たんぱく質(D)のデザイン設計とアミノ酸配列を示す。
図3E】マイコプラズマ・アルギニニ由来のAAD融合たんぱく質(E)のデザイン設計とアミノ酸配列を示す。
図3F】バチルス・セレウス由来のAAD融合たんぱく質(F)のデザイン設計とアミノ酸配列を示す。
図4A図4A,4Bは、以下のスキームのもとで、インテイン融合たんぱく質と発現したたんぱく質ライゲーション(CBD、キチン結合ドメイン)を用いた2つの態様(A)と(B)によるAAD融合たんぱく質を示す。図4Aは、インテイン融合たんぱく質と発現したたんぱく質ライゲーション(CBD、キチン結合ドメイン)を用いる1つの態様を示す。
図4B】インテイン融合たんぱく質と発現したたんぱく質ライゲーション(CBD、キチン結合ドメイン)を用いる別の態様を示す。
図4C】C末端融合を示す。
図4D】N末端融合を示す。
図4E】インテイン介在たんぱく質ライゲーションを示す。
図5】AAD融合たんぱく質を作るために構築した発現ベクターのプラスミドマップを示す。
図6A】His−ABD−ポリN−ADIの遺伝子マップを示す。(ADI:マイコプラズマ・アルギニニのADI)
図6B】His−ABD−ポリN−ADIのヌクレオチド配列(配列番号44)を示す。
図6C】His−ABD−ポリN−ADIのアミノ酸配列(配列番号40)を示す。
図7A】His−ABD−ポリN−bcADIの遺伝子マップを示す。(bcADI:バチルス・セレウスのADI)
図7B】His−ABD−ポリN−bcADIのヌクレオチド配列(配列番号45)を示す。
図7C】His−ABD−ポリN−bcADIのアミノ酸配列(配列番号41)を示す。
図8A】AAD融合たんぱく質の発現と精製を示し、20℃で発現する場合、AADは〜90%溶解性であり(レーン2と3)、37℃で発現する場合、〜90%不溶性(封入体)である(レーン4と5)。
図8B】AAD融合たんぱく質の発現と精製を示し、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)のゲル中で精製したAAD融合たんぱく質:レーン1、精製したAAD融合たんぱく質(52.8kDa);レーン2、分子量マーカー。
図9】ヒト黒色腫(A375)、ヒト結腸がん(HCT116)、ヒト膵臓がん(PancI)を含む試験管内組織培養研究において、AAD融合たんぱく質がアルギニンを効果的に枯渇させ、種々のヒトのがん培養細胞株の成長を抑制することを示す。
図10A】AAD融合たんぱく質のアルブミン結合の結果を示し、AAD融合たんぱく質(アミノ酸配列は配列番号36、図3A)の量が増加するよう添加する場合に、HSA+AAD複合体の量の増加を示す、未変性のネイティブなポリアクリルアミドゲル(12%)を示す。ヒト血清アルブミン(HSA)とのモル比:レーン3−6のAADは、それぞれ1:1、1:2、1:5、1:15である。レーン1と2は、HSAとAADがそれぞれ6,30pmoleを示す。
図10B】AAD融合たんぱく質のアルブミン結合の結果を示し、AAD融合たんぱく質(配列番号40、図3E)に基づく別の実験で、アルブミン:AADの比が1:8は、存在するすべてのアルブミンと結合するために十分である。
図11】マウスの血漿アルギニンレベルに対するAAD融合たんぱく質の用量反応を示すグラフである。AAD100μgの投与は、少なくとも5日間は血漿アルギニンを枯渇させるのに十分である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
「がん幹細胞」という用語は、生体内で腫瘍の成長を引き起こし維持させることができる新生物クローン内で生物学的に区別できる細胞(すなわち発癌性細胞)をいう。
【0017】
アルギニンは、ヒトおよび他のほ乳類にとって準必須アミノ酸である。アルギニンは、尿素回路酵素であるアルギニノコハク酸シンテターゼ(ASS)およびアルギニノコハク酸リアーゼ(ASL)に触媒される2つの段階を経てシトルリンから合成できる。アルギニンは、酵素アルギナーゼによってオルニチンに代謝でき、オルニチンは、ミトコンドリア中のオルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(OTC)によってシトルリンに転換できる。シトルリンは、アルギニンを再び合成するために利用できる。正常細胞は、ASSとASLの触媒作用が活性なため、一般には成長のために外来性のアルギニンの供給を必要としない。対照的に、多くの型のがんは、ASSを発現しないため、アルギニン栄養要求性である。がんの成長は、循環系からの中のアルギニンにのみ依存する。したがって、アルギニン分解酵素を用いて循環系のアルギニンにターゲットをあてることは、ASS陰性腫瘍の成長を妨げるために実行可能な戦略である。
【0018】
アルギニンは、アルギニンデイミナーゼ(ADI)によって分解できる。ADIは、アルギニンを尿素回路の前記代謝産物であるシトルリンとアンモニア転換する。残念ながら、ADIは、たとえばマイコプラズマ属などの原核生物にのみ見いだされる。原核生物からのアルギニンデイミナーゼの単離と精製に関しては多くの問題が存在する。シュードモナス・プチダから単離されたADIは、中性pHでの酵素活性が低いため、生体内で効果を発揮しない。大腸菌から産生されるADIは、酵素的に不活性であり、事後的に多様な変性と再生過程を要求し、事後的な生産費用が高くなる。天然型ADIの血漿内半減期は、ヒトの血液循環系中に注入されると短い(〜4時間)[Ensor et al., Cancer Res. 62:5443−5450 (2002);Izzo et al., J. Clin. Oncol. 22:1815−1822 (2004)]。これらの欠点は、ペグ化によって一部改善できる。さまざまな型のペグ化ADIのうち、スクシンイミジルスクシナートを介してPEG(分子量20,000)と結合したADI(ADI−PEG20)が有効な剤型であることが見いだされている。しかし、ペグ化後のADIの活性は、大幅に減少する(〜50%)[Ensor et al., Cancer Res. 62:5443−5450(2002);Wang et al., Bioconjug. Chem. 17:1447−1459(2006)]。また、スクシンイミジルスクシナートPEGリンカーは、容易に加水分解し、たんぱく質から分離して、体内での短期間の利用の後に免疫原性の原因となる。したがって、改良されたがん治療組成物、特に活性を高めた改良されたがん治療組成物が必要である。
【0019】
シュードモナス・プチダから単離したADIは、中性pHでは酵素活性がほとんどなく、実験動物の血液循環系から速やかに除去されるため、生体内で効果を発揮することができない。マイコプラズマ・アルギニニ由来のADIについては、たとえばTakaku et al, Int. J. Cancer, 51:244−249(1992)およびU.S. Pat. No. 5,474,928に記述されている。しかし、このような異種たんぱく質を臨床に使用することに関する問題は、その抗原性にある。シアヌル酸塩化物連結基を介したポリエチレングリコール(PEG)とマイコプラズマ・アルギニニ由来からのADIとの化学修飾については、Takaku et al., Jpn. J. Cancer Res., 84:1195−1200(1993)に記述されている。しかし、修飾たんぱく質は、代謝されると、シアヌル酸塩化物連結基からシアン化合物が遊離するため有毒であった。対照的に、ADI−PEG20においてさえ、PEGリンカーは、容易に加水分解し、たんぱく質から分離して、体内での短期間の利用の後に免疫原性の原因となる。したがって、非必須アミノ酸を分解し、先行技術に関連する問題を有さない組成物が必要である。
【0020】
黒色腫、膵臓がん、大腸がん、白血病、乳がん、前立腺がん、腎細胞がんおよび肝臓がんを含む多くの型のがんでは、がん細胞は、アルギニノコハク酸シンテターゼ(ASS)が発現しないので、アルギニン栄養要求性であり、アルギニン枯渇療法の優れたターゲットとなっている。本発明において、アルブミン結合アルギニンデイミナーゼ(AAD)融合たんぱく質は、がん細胞中のアルギニンを効果的に枯渇させるために、長い半減期で高い活性を有する。
【0021】
ADI単量体の大きさは、約45kDaであり、二量体(約90kDa)で存在する[Das et al., Structure. 12:657−667(2004)]。AAD融合タンパク質の構造を図1に示す。配列番号46−49に示すリンカーを有するまたは有さない1つあるいは2つのアルブミン結合ドメイン/ペプチド/たんぱく質は、AAD融合タンパク質を形成するために、ADIと融合する。1つあるいは2つの特定のアルブミン結合ドメイン/ペプチド/たんぱく質の選択が、ターゲットとなるがん組織の型、融合たんぱく質の望ましい大きさと半減期、およびドメインあるいはたんぱく質全体を選択するかどうかに応じて行われることは特筆すべきである。さらに、選択されたアルブミン結合物質は同一であっても、異なっていてもよい。すなわち、結果として得られる分子がADIの活性を保持して、融合タンパク質の一の部分の機能が融合タンパク質の他の部分により妨げられずに血清アルブミンと結合できる限り、1つのたんぱく質と1つのペプチドは、融合でき、2つのたんぱく質、2つのドメイン、1つのドメインと1つのペプチドなどが融合できる。アルブミン結合ドメイン/ペプチド/たんぱく質の位置は、活性部位から離れている。アルブミン結合ドメイン/ペプチド/たんぱく質は、ADIのN末端または/およびC末端に融合できる。異なるあるいは改良されたヒト血清アルブミン(HSA)の親和力を示す異種のABDの変異体がある。異種のABDの変異体は、構築することができ、ADIに融合することができる。ADIを備えるいくつかの微生物(たとえばシュードモナス属細菌)は、その潜在的な病原性と発熱性のために使用することができない。ADIのソースは、限定されるものではないが、異なる微生物、たとえばマイコプラズマ属(たとえばマイコプラズマ・アルギニニ、マイコプラズマ・アルスリチジス、マイコプラズマ・ホミニス)、ラクトコッカス属(たとえばラクトコッカス・ラクティス)、シュードモナス属(たとえばシュードモナス病原因菌、シュードモナス・プチダ、緑膿菌)、連鎖球菌属(たとえば化膿性連鎖球菌、Streptococcus pneumonia、肺炎レンサ球菌)、大腸菌属、マイコバクテリウム属(たとえばマイコバクテリウム・ツベルクローシス)およびバチルス属(たとえばバチルス・リケニホルミス、バチルス・セレウス)などである。ADIは、マイコプラズマ・アルギニニ、ラクトコッカス・ラクティス、バチルス・リケニホルミス、バチルス・セレウス、またはこれらの組み合わせからクローン化されているのが好ましい。配列番号23−35のこれらのアミノ酸配列および図2のアミノ酸配列のうちいくつかの配列アライメントは、本発明および文献に記述されている[Das et al., Structure. 12:657-667(2004);Wang et al., Bioconjug. Chem. 17:1447-1459(2006);Ni et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 90:193-201 (2011)]。
【0022】
(A)天然のマイコプラズマ・アルギニニADIたんぱく質(配列番号23)、(B)マイコプラズマ・アルギニニADI(配列番号36−40)由来の異種のAAD融合たんぱく質、および(C)バチルス・セレウスADI(配列番号41)由来のAAD融合たんぱく質のデザインとアミノ酸配列を図3に示す。異種のAAD融合たんぱく質を上手く構築している。これらの実施形態において、リンカーをアルブミン結合たんぱく質とAAD融合タンパク質中のADIとの間に挿入する。
【0023】
一方、新規なAAD融合たんぱく質は、インテイン融合たんぱく質を利用して作り、たんぱく質ライゲーションを発現する(図4)。新規なAAD融合たんぱく質は、ADIとABDが共有結合によって結合するように、(1)ABDのC末端で、N末端にシステイン残基を有するADIを反応性チオエステルとの反応によって、または(2)ADIのC末端で、N末端にシステイン残基を有するABDを反応性チオエステルとの反応によって形成することができる。図4Eにおいて、N末端にシステイン残基を有するADIは、ABDのC末端で反応性チオエステルと反応する。ABDのC末端におけるチオエステルタグとADIのN末端におけるα−システインがたんぱく質ライゲーションを促進するために要求される。これらのフラグメントは、pTWIN1ベクター(New England Biolabs)を利用し、製造マニュアルにしたがって生産する。特に、ABD−インテイン−CBD融合たんぱく質をコードする遺伝子を合成し、大腸菌で発現させるためにT7プロモーターの制御下でベクターにクローン化する(図4C)。生産したABD−インテイン−CBD融合たんぱく質は、カラム中でキチンと結合する。ABD−インテイン−CBD(配列番号42)のアミノ酸配列を図4Aに示す。チオール誘導性開裂とカラムからの溶出の後、C末端に反応性チオエステルを有するABDを得る(図4C)。一方で、CBD−インテイン−ADI融合たんぱく質をコードする遺伝子を合成し、大腸菌で発現させるためにT7プロモーターの制御下でベクターにクローン化する(図4D)。生産されたCBD−インテイン−ADI融合たんぱく質は、カラム中でキチンと結合する。CBD−インテイン−ADI(配列番号43)のアミノ酸配列を図4Bに示す。pH7、25℃で開裂し、カラムから溶出した後、N末端にα−システインを有するADIを得る(図4D)。最終的に、AAD融合たんぱく質は、図4Eに示すように、たんぱく質ライゲーションにより生産する。
【0024】
重要なことは、AAD融合たんぱく質が簡便な方法で生産でき、精製できることである。たとえば、AAD融合たんぱく質は、大腸菌で上手く発現され、可溶性画分と不可溶性画分との双方から精製され、この結果を図8に示す。さらに、図8は、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって分析された精製AAD融合たんぱく質を示す。精製AAD融合たんぱく質の大きさは、52.8kDaとして測定される。
【0025】
本発明の医薬組成物は、がん治療においてがん細胞中のアルギニンを枯渇させるために高い活性をもつAAD融合たんぱく質を含有する。精製したAAD融合たんぱく質の特異的な活性は、野生型ADIの特異的な活性と似ていることがわかっている。IC50は、最大半減抑制濃度であり、これはすなわちがん細胞株を50%抑制するために必要なAAD融合たんぱく質の濃度を表す。前記IC50は、薬物の有効性の基準である。異なるがん細胞株(ヒト黒色腫A375 & SK-mel-28、ヒト結腸がんHCT116、ヒト膵臓がんPancI、ヒト肝臓がんSk-hep1、ヒト子宮頸がんC-33A)に対するAAD融合たんぱく質(アミノ酸配列を図3Eの配列番号40に示す)のIC50を表1に示す。異なるがん細胞株でのAAD融合たんぱく質の生体外の有効性を図9に示す。これは、AAD融合たんぱく質がヒト黒色腫、ヒト結腸がんおよび膵臓がんの細胞株を含む多くの型のがんを殺傷できることを示している。
【0026】
【表1】
【0027】
アルブミン結合の研究のために、我々は、操作されたAAD融合たんぱく質がヒト血清アルブミン(HSA)と結合できることを成功裡に示している。図10は、AAD融合たんぱく(アミノ酸配列を図3E、配列番号40に示す)がHSAと容易に結合することを示している。モル比1:5あるいは1:15で、HSA−AAD複合体の形成は、図1の構成に従い、リンカー分子デザインを利用して行う。血液中を循環するAAD融合たんぱく質の半減期は、非共有HSA−AAD複合体の形成によって増加することが期待される。したがって、長続きする半減期を有する型のAAD融合たんぱく質を成功裡に作り出す。
【0028】
本発明において調整されたAAD融合たんぱく質を含有する医薬組成物と比較して高い有効性を示す市販の製品は無い。がん治療に使用するために、本発明の医薬組成物を含有するAAD融合たんぱく質は、腫瘍細胞中のアルギニンを枯渇するための抗がん剤として提供される。AAD融合たんぱく質は、他の分子をターゲットとした薬剤または細胞毒性薬と併用するためのよい候補である。
【実施例】
【0029】
次の実施例は、如何なる意味でも本発明の範囲を限定することを意図せず、本発明の特定の実施態様を説明するものとして提供される。
【0030】
下記のいくつかの実施例は、アルブミン結合アルギニンデイミナーゼ融合たんぱく質の生産方法に関する。クローニングおよびインテイン媒介性たんぱく質連結を含む様々な技術を利用できる。ここで使用されるように、「クローニング」の語は、幅広く用いられ、アルブミン結合アルギニンデイミナーゼ融合たんぱく質コードする融合遺伝子を構築して、融合遺伝子をベクターに挿入し、ベクターを宿主に挿入し、アルブミン結合アルギニンデイミナーゼ融合たんぱく質を含有するたんぱく質を発現することを含む。この技術の数多くの変形を実行できるが、本発明によって検討されたクローニング内に含まれる。
【0031】
実施例1
アルブミン結合ドメイン/ペプチド/たんぱく質(ABD)の遺伝子コーディングの構築
【0032】
ABDの遺伝子コーディングはポリメラーゼ連鎖反応を二巡することにより構成される。一巡目ではポリメラーゼ連鎖反応混合物(総量25μl)は次の物質を含む。
1×iProof PCR緩衝液(Bio−Rad製)
50 µM dNTP 混合物
0.5単位のiProof DNAポリメラーゼ(Bio−Rad製)
各10nMの下記オリゴ
ABD−F1 フォワードプライマー(配列番号01):
5’-CATGATGCGAATTCCTTAGCTGAAGCTAAAGTCTTAGCTAACAGAGAACT-3’
ABD−R2 リバースプライマー(配列番号02):
5’-TAGTCACTTACTCCATATTTGTCAAGTTCTCTGTTAGCTAAGACTTTAGC-3’
ABD−F3 フォワードプライマー(配列番号03):
5’-GAACTTGACAAATATGGAGTAAGTGACTATTACAAGAACCTAATCAACAA-3’
ABD−R4 リバースプライマー(配列番号04):
5’-TACACCTTCAACAGTTTTGGCATTGTTGATTAGGTTCTTGTAATAGTCAC-3’
ABD−F5 フォワードプライマー (配列番号05):
5’-GCCAAAACTGTTGAAGGTGTAAAAGCACTGATAGATGAAATTTTAGCTGC-3’
ABD−R6 リバースプライマー (配列番号06):
5’-AGCTACGATAAGCTTAAGGTAATGCAGCTAAAATTTCATCTATCAGTG-3’

以下のPCRプログラムが用いられる:
98°C 30秒; 20サイクルの{98℃ 10秒、50℃ 20秒、72℃ 20秒}
【0033】
PCRポリメラーゼ連鎖反応の2ラウンド二巡目において、PCRポリメラーゼ連鎖反応混合物(総量50nμl)は次の材料物質を含む:
1×iProof PCR緩衝液(Bio−Rad製);
50μM dNTP混合物;
1μlのDNAテンプレートとしての1ラウンド目のPCR反応物;
1単位のiProof DNAポリメラーゼ(Bio−Rad製);
各200nMの下記オリゴ:
ABD−F7 フォワードプライマー(配列番号07):
5’-CATGATGCGAATTCCTTAGCTGAAGCTAAAGTCTTAGCTAACAGAGAACT-3’
ABD−R8 リバースプライマー(配列番号08):
5’-AGCTACGATAAGCTTAAGGTAATGCAGCTAAAATTTCATCTATCAGTG-3’

以下のPCRプログラムが用いられる:
98℃ 30秒;35サイクルの{98℃ 10秒、60℃ 20秒、72℃ 20秒}; 72℃ 5分
【0034】
ABDのDNA配列(169塩基対)を含むPCR産物を得て、クローニングの目的でQiagenのDNA Gel Extraction Kitによって精製する。
【0035】
実施例2A
AAD融合たんぱく質の融合遺伝子コーディングの構築
【0036】
1回目のPCRにおいて、PCR混合物(総量50μl)は、以下の材料を含む:
1×iProof PCR緩衝液(Bio−Rad製);
50μM dNTP混合物;
25ngのマイコプラズマ・アルギニニゲノムDNA;
1単位のiProof DNAポリメラーゼ(Bio−Rad製);
各200nMの下記オリゴ:
ADINde−F フォワードプライマー(配列番号09):
5’-ATCGATCGATGTCTGTATTTGACAGTAAATTTAAAGG-3’
ADIhis−R リバースプライマー(配列番号10):
5’-AGCTAAGGAATTCGCATCATGATGGTGATGGTGGTGGCTACCCCACTTAAC-3’

以下のPCRプログラムが用いられる:
98℃ 1分;35サイクルの{98℃ 10秒、50℃ 20秒、72℃ 40秒};72℃ 5分

1280塩基対の長さを持つPCR産物を得て、Qiagen製のDNA Gel Extraction Kitによって精製する。その後、2回目のPCRを行う。PCR混合物(総量50μl)は以下の物質を含む:
1×iProof PCR緩衝液(Bio−Rad製);
50μM dNTP混合物;
10ngの1280塩基対のPCR産物;
10ngの169塩基対のPCR産物;
1単位のiProof DNAポリメラーゼ(Bio−Rad製);
各200nMの下記オリゴ:
ADINde−F フォワードプライマー(配列番号11):
5’-ATCGATCGATGTCTGTATTTGACAGTAAATTTAAAGG-3’
ABD−R10 リバースプライマー(配列番号12):
5’-AGCTACGATAAGCTTAAGGTAATGCAGCTAAAATTTCATCTATCAGTG-3’

以下のPCRプログラムが用いられる:
98℃ 1分;35サイクルの{98℃ 10秒、50℃ 20秒、72℃ 45秒};72℃ 5分
【0037】
塩基対1428のPCR産物を得て、Qiagen製のDNA Gel Extraction Kitによって精製する。その後、制限酵素NdeIとHindIIIで分解し、同酵素であらかじめ分解したプラスミドpREST A(Invitrogen製)とライゲーションする。ライゲーション産物は、大腸菌BL21(DE3)細胞に形質転換する。構築した融合遺伝子の配列は、DNAシークエンシングによって確認する。
【0038】
実施例2B
His−ABD−ポリN−ADIのクローンニング
【0039】
His−ABD−ポリN−ADIの構築(図3E中、配列番号40)は、オーバーラップPCRの2つの段階を経て行われ、最終段階で得られるPCRフラグメントをベクターpET3aのNdeIとBamHIサイトの間に挿入する。His−ABD−ポリN−ADIの遺伝子マップ、ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を図6に示す。
His−ABD−ポリN−ADIの構築に含まれるプライマー:
hisABDNde−F フォワードプライマー(配列番号13):
5’-GGAGATATACATATGCATCATCACCATCACCATGATGAAGCCGTGGATG-3’

ABDnn−R1 リバースプライマー(配列番号14):
5’-TTGTTATTATTGTTGTTACTACCCGAAGGTAATGCAGCTAAAATTTCATC-3’

ABDn−R2 リバースプライマー(配列番号15):
5’-AGAACCGCCGCTACCATTGTTATTATTGTTGTTACTACCCGA-3’

ADln−F フォワードプライマー(配列番号16):
5’-AATAATAACAATGGTAGCGGCGGTTCTGTATTTGACAGTAAATTTAAAGG-3’

ADIBam−R リバースプライマー(配列番号17):
5’-TAGATCAATGGATCCTTACCACTTAACATCTTTACGTGATAAAG-3’
【0040】
PCRの第1ラウンドにおいて、50μlの既知濃度の構成成分物質を含む反応ボリュームを2つのPCRチューブ内に調整する。各チューブにおいて、dNTP、iProof 緩衝液(BIO−RAD製)、iProof DNAポリメラーゼ(BIO−RAD製))、プライマーおよびDNAテンプレートを混合し、50μlまでddHOを加える。反応で用いるDNAテンプレートは、ADI遺伝子のたんぱく質配列を変えずに、内部NdeIサイト変異を除去したマイコプラズマ・アルギニニ由来のADIの遺伝子を含むpET3aベクターである。
【0041】
2つの反応チューブは、(A)10pmolのhisABDNde−F(配列番号13)、0.5pmolのABDnn−R1(配列番号14)および10pmolのABDn−R2(配列番号15)、および(B)10pmolのADIn−F(配列番号16)および10 pmolのADIBam−R(配列番号17)のプライマー混合物をそれぞれ含む。
【0042】
PCRプログラムは、マニュアルにて推奨される段階にしたがって、50℃(20秒)と72℃(40秒)それぞれでアニーリングと伸展の温度(時間)でセットする。237bpと1278bpの大きさを有する2つの産物をPCRによって生成する。この産物を抽出し、次のラウンドのPCRのテンプレートとして用いる。
【0043】
2回目のオーバーラップ段階において、使用するテンプレートが1ラウンド目のPCRより得られた1pmolの237bpPCR産物と1pmolの1278bpPCR産物の混合物であるということ以外は、1ラウンド目と同様に反応混合物を調整する。使用するプライマーは、10pmolのhisABDNde−F(配列番号13)および10pmolのADIBam−R(配列番号17)に変更する。
【0044】
アニーリングと伸展の温度(時間)は、それぞれ50℃(20秒)と72℃(60秒)である。1484bpの大きさのPCR産物が反応により生じる。PCR産物を精製し、NdeIとBamHIによって分解し、あらかじめ分解されたpET3aプラスミドとライゲーションする。ライゲーション産物は、組換えたんぱく質の製造のために大腸菌BL21(DE3)に形質転換する。
【0045】
実施例2C
His−ABD−ポリN−bcADIのクローンニング
【0046】
His−ABD−ポリN−bcADIの構築(図3F中、に示す配列番号41)は、オーバーラップPCRの2つの段階を経て行い、最終段階で得られるPCRのフラグメントをベクターpET3aのNdeIとBamHIサイトの間に挿入する。His−ABD−ポリN−bcADIの遺伝子マップ、ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を図7に示す。
His−ABD−ポリN−bcADIの構築に含まれるプライマー:
hisABDNde−F2 フォワードプライマー(配列番号18):
5’-GGAGATATACATATGCATCATCACCATCACCATGATGAAGCCGTGGATG-3’

bcABDnn−R1 リバースプライマー(配列番号19):
5’-TTGTTATTATTGTTGTTACTACCCGAAGGTAATGCAGCTAAAATTTCATC-3’

bcABDn−R2 リバースプライマー(配列番号20):
5’-TTTACCGCCGCTACCATTGTTATTATTGTTGTTACTACCCGA-3’

bcADln−F フォワードプライマー(配列番号21):
5’-AATAATAACAATGGTAGCGGCGGTAAACATCCGATACATGTTACTTCAGA-3’

bcADIBam−R リバースプライマー(配列番号22):
5’-TAGATCAATGGATCCCTAAATATCTTTACGAACAATTGGCATAC-3’
【0047】
ポリメラーゼ連鎖反応の第1ラウンド目において、50μlの既知濃度の構成成分を含む反応ボリュームを2つのPCRチューブ内に調整する。各チューブにおいて、dNTP、iProof buffer(BIO−RAD製)、iProof DNA ポリメラーゼ(BIO−RAD製)、プライマーおよびDNAテンプレートを混合し、50μlまでddHOを加える。反応で用いるDNAテンプレートは、ADI遺伝子のたんぱく質配列を変えずに、内部NdeIサイト変異を除去したセレウス菌由来のADIの遺伝子を含むpET3aベクターである。
【0048】
2つの反応チューブは、(A)10pmolのhisABDNde−F2(配列番号18)、0.5pmolのbcABDnn−R1(配列番号19)および10pmolのbcABDn−R2(配列番号20);および(B)10pmolのbcADIn−F(配列番号21)および10pmolのbcADIBam−R(配列番号22)のプライマー混合物をそれぞれ含む。PCRプログラムは、マニュアルにて推奨される段階にしたがってアニーリングと伸展の温度(時間)をそれぞれ50℃(20秒)と72℃(40秒)でセットする。237bpと1250bpの大きさの2つの産物がPCRによって生成する。それらの産物を抽出し、次のラウンドのPCRのテンプレートとして適用する。
【0049】
2回目のオーバーラップ段階において、使用するテンプレートが一ラウンド目のPCRにより得た1pmolの237bpPCR産物と1pmolの1250bpPCR産物の混合物であるということ以外は、1ラウンド目と同様に反応混合物を調整する。使用するプライマーは、10pmolのhisABDNde−F2(配列番号18)および10pmolのbcADIBam−R(配列番号22)に変更する。
【0050】
アニーリングと伸展の温度(時間)は、それぞれ50℃(20秒)と72℃(60秒)である。1512bpの大きさのPCR産物が反応により生じる。PCR産物を精製し、NdeIとBamHIによって分解し、あらかじめ分解したpET3aプラスミドにライゲートする。ライゲート産物は、組換えたんぱく質の製造のために大腸菌BL21(DE3)に形質転換する。
【0051】
実施例3
AAD融合たんぱく質の発現と精製
【0052】
種培養の準備のために、AAD融合たんぱく質(図5)をコードするプラスミドのキャリアである大腸菌株BL21(DE3)を5mlの2×TY培地にて、30℃、250rpmで一晩培養する。一晩の種培養(2.5ml)に、37℃、250rpm、2.5時間(OD600≒0.6〜0.7まで)で250mlの2×TYを加える。OD600に到達した時点で、IPTGを培地に加える(最終濃度0.2mM)。20℃でさらに22時間成長を続け、その後遠心分離によって細胞を回収する。細胞ペレットをpH7.4の10mMリン酸ナトリウム緩衝液25mlに再懸濁する。細胞を超音波処理によって溶解する。遠心分離の後、可溶性部分を回収する。その後、融合たんぱく質(Hisタグを含む)をニッケルアフィニティクロマトグラフィーによって精製する。表2は、培養温度が、発現した宿主から得られるAAD融合たんぱく質(アミノ酸配列を図3Eの配列番号40に示す)の、溶解性に影響を与える重要な要因であることを示す。
【0053】
AAD融合たんぱく質の可溶性画分を単離するために、細胞ペレットをpH7.4、25mlのリン酸ナトリウム緩衝液10mMに再懸濁する。細胞を超音波処理によって溶解する。可溶性部分を遠心分離の後、回収する。その後、AAD融合たんぱく質(Hisタグを含む)を、ニッケルアフィニティクロマトグラフィーによって精製する。
【0054】
AAD融合たんぱく質の不溶性画分を単離するために、トリトン−X−100を1%含む、20mMトリス塩酸25ml、pH7.4に細胞ペレットを再懸濁する。細胞を超音波処理によって溶解する。不溶性部分(封入体)を遠心分離によって回収する。たんぱく質を、6Mのグアニジン塩酸塩を含む20mMトリス塩酸10ml、pH7.4によってアンフォールドし、溶解するまでボルテックスする。アンフォールドしたたんぱく質液を高速攪拌している20mMリン酸ナトリウム緩衝液100ml、pH7.4、に一滴ずつ加えることによって、たんぱく質を再びフォールドする。不溶性材料を遠心分離によって除去する。たんぱく質の塩析は、固体の硫酸アンモニウム粉末を70%の飽和状態となるまで上澄みに加えることによって行う。不溶性部分を遠心分離によって回収し、20mMリン酸ナトリウム緩衝液10mlに再懸濁する。その後、AAD融合たんぱく質(Hisタグを含む)をニッケルアフィニティクロマトグラフィーにより精製する。
【0055】
【表2】
【0056】
実施例4
AAD融合たんぱく質の酵素活性アッセイおよび酵素反応速度論
【0057】
野生型ADIおよび本発明のAAD融合たんぱく質の酵素活性を測定するために、シトルリン検出のためのジアセチルモノオキシム(DAM)−チオセミカルバジド(TSC)アッセイを用いる。反応を以下に示す。
【数1】
【0058】
このアッセイは、DAM−TSC液に酸性塩化鉄溶液を混合して作られた呈色試薬を検体に加えることにより行う。簡単にいえば、20mMアルギニンおよび10mMリン酸ナトリウムとともに、pH7.4、37℃で5分間、酵素を培養する。反応混合物を100℃で5分間加熱すると、発色し、540nm(光路=1cm)で読み取る。様々な濃度のシトルリンを用いて、標準曲線を作成する。ADI天然酵素の一単位は、アッセイの条件下で、37℃で1分間に1μmolのアルギニンを1μmolのシトルリンに転換する酵素活性量である。野生型ADIと本発明のAAD融合たんぱく質の特異的な活性は、それぞれ8.4U/mgおよび9.2U/mg(pH7.4、生理的pH)である。異なるpH範囲(pH5.5〜9.5)においても、野生型ADIと本発明のAAD融合たんぱく質の特異的な活性を測定し、最適なpHは6.5である。それゆえ、この結果は、アルブミン結合たんぱく質がADIの酵素活性に影響を与えないので、AAD融合たんぱく質がアルギニンを効果的に枯渇させることを示している。
【0059】
ミカエリス定数Kは、反応速度が最大速度の半分であるときの基質濃度であり、酵素に対する基質の親和性の逆の尺度である。Kの値が小さいことは、基質への親和性が高いことを示し、これは反応速度が最大反応速度により速く近づくことを意味する。酵素反応速度論またはKの値を測定するために、異なる基質濃度のアルギニン(2000μM、1000μM、500μM、250μM、125μM、62.5μM)、pH7.4のもとで、野生型ADIおよびAAD融合たんぱく質の活性を測定する。図3Eに示す(配列番号40、ADIたんぱく質はマイコプラズマ・アルギニニ由来である)AAD融合たんぱく質および図3Fに示す(配列番号41、ADIたんぱく質はバチルス・セレウス由来である)で測定したKの値は、それぞれ0.0041mMおよび0.132mMである。この結果は、ABDへの融合が異種のAAD融合たんぱく質のアルギニンに対する結合親和性に影響を与えないことを示唆する。
【0060】
実施例5
がん細胞株上におけるAAD融合たんぱく質の細胞増殖アッセイおよび生体外での有効性
【0061】
DMEM培地をヒト黒色腫A375およびSK−mel−28、ヒト膵臓がんPancIならびにヒト子宮頸がんC−33A株の成長に用いる。EMEM培地をヒト肝臓がんSK−hep1およびヒト子宮頸がんC−33A株の培養に使用する。培地100μl中の細胞株(2〜5×10)を96ウェルプレートのウェルに播種し、24時間培養する。その培地を異なる濃度のAAD融合たんぱく質を含有する培地と交換する。プレートをさらに3日間、37℃、95%空気、5%COの雰囲気で培養する。製造指示書にしたがって、培地中の生細胞の数を、MTTアッセイで測定する。細胞成長を、50%阻害を達成するのに必要な酵素の量をIC50と定義する。
【0062】
表1および図9に示すとおり、結果は、AAD融合たんぱく質は、アルギニンを効果的に枯渇させ、生体外の組織培養研究において様々な型のヒトがん細胞株の成長を阻害することを示す。たとえば、ヒト黒色腫、ヒト結腸がん、ヒト膵臓がん、ヒト肝臓がん、ヒト子宮頸がんすべてにおいて、これらのすべての型のがんは、AAD融合たんぱく質によってただちに阻害されているので、IC50の値が低い(表1参照)。予想どおり、AAD融合たんぱく質はアルギニン依存性であるすべての型のがん(たとえばASS陰性がん)を阻害する。
【0063】
実施例6
生体内におけるAAD融合たんぱく質の半減期の測定
【0064】
balb/cマウス(生後5〜7週)を本研究に用い、マウスを実験の一週前に環境に順応させる。マウス(n=3)を4つの群に分け、0、100、500、1000μgのAAD融合たんぱく質(配列番号40,図3E)を有する100μlのPBSを腹腔内に注射する。各マウスの血液を0時間および1〜7日に得る。遠心分離後に血清を得る。血清を除たんぱくし、アルギニン用のアミノ酸分析によって分析する。
【0065】
図11に示すように、AAD融合たんぱく質(配列番号40、図3E)は、最も低い投与量である100μgであっても、1日、3日および5日目に血漿アルギニンを効果的に枯渇させており、AADが生体内で少なくとも5日間は効果的にアルギニンを枯渇させることができることを示唆する。アルギニンのレベルは、6日および7日目にすべての処理群においてゆっくり正常に戻っている。
【0066】
実施例7
異種移植したがん細胞におけるAAD融合たんぱく質の生体内効果
【0067】
balb/cヌードマウス(生後5〜7週)を本研究に使用し、実験の一週前に環境に順応させる。2×10のがん細胞を有する新しい培地100μlをマウスに皮下接種する。10日後、マウスを無作為に対照群と処理群に分ける。対照群にはPBS100μlを毎週腹腔内に投与し、処理群にはAAD融合たんぱく質100μlを毎週腹腔内に投与する。腫瘍の大きさをキャリパにより測定し、腫瘍の容積を式:(長さ×幅)/2を用いて計算する。各処理後5日目にアルギニンの血漿測定のために採血する。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]